重大事由解除の効力と保険者の免責 について
⎜⎜ 保険事故についての虚偽申告を中心に ⎜⎜
遠 山 優 治
■アブストラクト
平成20年6月に公布された保険法は,重大事由解除を規定しているが,そ の解除の効力については将来効としつつ,重大事由が生じた時から解除がさ れた時までに発生した保険事故等について免責としている。この解除の効力 に関する規定は片面的強行規定とされるが,他の保険法の規律や約款規定,
たとえば,通知義務や 保険者の免責 との関係は必ずしも明らかではなく,
特に,虚偽申告等による場合が問題となる。このような観点から,本稿では,
従来,重大事由解除の 遡及効 や通知義務違反による保険者の免責などと して議論されてきた問題について,保険法の下でどのように考えるべきかに ついて検討する。
■キーワード
重大事由解除,通知義務,免責
1.はじめに
保険法では,損害保険契約,生命保険契約,傷害疾病定額保険契約に共通
*平成21年6月19日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成21年6月24日原稿受領。
1) 本稿では,保険事故(による損害)や給付事由について保険金受取人などが 虚偽の申告(事故の偽装を含む)を行うケース(以下,虚偽申告等という)を 対象とするものとする。虚偽申告等には,保険事故(による損害)や給付事由
して,告知義務違反による解除(28条,55条,84条),危険増加による解除
(29条,56条,85条),重大事由による解除(30条,57条,86条)が規定され,
これらは,解除権の除斥期間に関する規定を除き,片面的強行規定とされて いる(33条,65条,94条)。
保険契約の解除は将来に向かってのみその効力を生じるが(31条,59条,
88条各1項),重大事由解除をした場合には,保険者は,重大事由が生じた 時から解除がされた時までに発生した,保険事故による損害をてん補する責 任,保険事故に関し保険給付を行う責任,または給付事由に基づき保険給付 を行う責任を負わないとされており(31条,59条,88条各2項3号) ,こ れらの規定も片面的強行規定とされている(33条1項,65条2号,94条2 号)。
したがって,これらの規定に反する特約で保険契約者側に不利なものは無 効とされるが,保険法では,別途,損害発生,被保険者の死亡または給付事 由発生の通知義務(14条,50条,79条)や 保険者の免責 (17条,51条,
が発生していないにもかかわらずそれが発生したとして虚偽の申告を行うもの
(たとえば,疾病死亡を傷害死亡と偽って傷害保険(特約)を請求すること,
不必要な入院により給付金を請求することなど。障害等級を偽って申告するこ とも給付事由についての虚偽申告にあたりうると考えられる。)と,保険事故
(による損害)や給付事由は発生しているが,損害額などにつき虚偽の申告を 行うこと(たとえば,損害額を過剰に請求することなど)が考えられる。ここ では,事故状況についての虚偽の申告など,保険事故(による損害)や給付事 由に直接関係のない事項についての虚偽申告は含まないものとする。
2) 以下, 保険事故による損害 , 保険事故 , 給付事由 をあわせて 保険 事故等 という。
3) 現行商法においても,告知義務違反による解除の効果について,同じ構成で 規定されているが(645条),学説では,告知義務違反による解除は遡及効のあ る解除であると説明されてきた(たとえば,大森忠夫 保険法 補訂版,1985 年,p.128,山下友信 保険法 ,2005年,p.305)。一方,解除の効力を将来 効としつつ保険者の免責について実質的に遡及効的な扱いをする保険法の解決 法を正当であったと評価する見解も見られる(洲崎博史 保険契約の解除に関 する一考察 法学論叢 第164巻第1〜6号,2009年,p.230参照)。
80条)に関する規定(これらはいずれも任意規定とされている。)を置いて おり,たとえば,これらに関する約款規定として,虚偽申告等があった場合 には保険者を免責とする規定を置くことが認められるか否かが問題となる。
2.問題の所在
保険法の見直しに関する中間試案 では,重大事由解除と 保険者の免 責 との関係について,故意の事故招致の場合には,保険者が免責される理 由は故意免責である一方,契約関係の解消は重大事由解除によるものとされ ていた 。しかし,保険法では, 重大事由が生じた時から 発生した保険 事故について免責とするとされており,故意の事故招致の場合に 保険者の 免責 の規定(17条,51条,80条)により保険給付を免れるのか,重大事由 解除の効力に関する規定(31条,59条,88条各2項3号)により保険給付を 免れるのか,明らかでない 。この点,死亡保険契約の場合には,死亡によ り保険契約が消滅するため,当該保険契約を解除する必要はなく,免責によ るものとも考えられるが ,傷害疾病定額保険契約の場合,給付事由が発生 しても必ずしも保険契約は消滅しないため,故意受傷により重大事由解除を した場合に保険給付を免れる根拠として, 保険者の免責 による,重大事 由解除の効力による,のいずれも採りうるように思われる。
4) 法務省民事局参事官室 保険法の見直しに関する中間試案の補足説明 , 2007年,p.53,p.91参照。なお,中間試案の段階では,重大事由解除の規定 の性質について, 片面的強行規定とする方向で,なお検討する。 とされてい た(中間試案,p.14)。
5) 中間試案では ①に掲げる事由があった後に発生した保険事故 (p.14)と される一方,保険法では 同条各号に掲げる事由が生じた時から解除がされた 時までに発生した保険事故 とされており,少なくとも後者は重大事由が生じ た時を含むものと考えられる。
6) 法務省民事局参事官室・前掲注4),pp.91‑92参照。ただし,自殺に関する 特殊なケースでは,保険契約が消滅していても,重大事由解除を認める必要が ありうる(大阪地裁 昭 和60年 8 月30日 判 決 判 例 時 報 第1183号,p.153参 照)。
このように,ある事案に対し,重大事由解除と 保険者の免責 など,複 数の規律が適用されうる場合に,いずれも適用されると考えるか,いずれか 一方のみが適用されると考えるか,また,後者の場合,いずれが適用される と考えるかは,各規律の趣旨やその相互関係をいかなるものと考えるかによ って変わってくるものと思われる。そして,このことは,保険法の各規律の 関係だけでなく,保険法の規定とは異なる,あるいは保険法に定めのない事 項についての約定が許されるか否か,許される場合,その内容はいかなるも のであるべきかという,保険法の規定と約定との関係においてもいえるもの と考えられる 。
前述の重大事由解除と 保険者の免責 との関係では,故意の事故招致の 場合には,上記のいずれの考え方を採っても,その効果に大きな差は生じな い。これに対し,虚偽申告等の場合,そもそも保険事故等が全く発生してい ない場合には免責が問題となることはないが,たとえば,疾病死亡を傷害死 亡と偽って死亡保険金とともに傷害死亡保険金を請求した場合や損害額を偽 って過剰請求した場合など,発生した保険事故等の内容を偽って保険給付を 請求した場合については,虚偽申告等の契機となった(正常に発生した)保 険事故等について免責とすることの可否について,重大事由解除の効力に関 する規定の片面的強行規定性とも関連して,問題となる 。この点に関し,
重大事由が生じるより前に発生した保険事故等について,重大事由解除の効 力として免責とする約定が,重大事由解除の片面的強行規定性に反すること に異論はないと思われるが,別途,通知義務違反あるいは 保険者の免責 の効果として保険者を免責とすることが許されるか否かについては,各規律 の趣旨やその相互関係についての考え方によって結論が異なりうると考えら
7) 保険法の規定と約定との関係については,規定の法的性質(強行規定,片面 的強行規定,任意規定)により,保険契約者側に不利な特約が許されるか否か という観点から一定の関係が定められている。
8) 萩本修編著 一問一答保険法 ,2009年,pp.102‑103,山下友信 保険法と 判例法理への影響 自由と正義 第60巻第1号,2009年,pp.29‑30,榊素寛 保険法における重大事由解除 保険法改正の論点 ,2009年,p.371参照。
れる。
従来,このような問題は,重大事由解除の 遡及効 や通知義務違反によ る保険者の免責の問題として議論されてきた。以下では,まず,保険法にお ける上記各規律の趣旨等を概観し,続いて,重大事由解除の 遡及効 や通 知義務違反による保険者の免責に関するこれまでの議論について概観する。
3.各規律の趣旨等
⑴ 重大事由解除の趣旨および要件
保険法において重大事由解除の規律を設けた理由として,保険契約は長期 にわたり得る契約であり,また,潜在的にモラル・リスクの問題をはらんで いることもあって,当事者間の信頼関係を基礎として成立・継続することが 前提となっているが,保険契約者,被保険者または保険金受取人の側でこう した信頼関係を破壊するような行為が行われた場合には,保険者に,解除に よる保険契約関係からの解放を認めるのが適当であることがあげられている。
そして,ここで信頼関係を破壊するような行為とは,主としていわゆるモラ ル・リスク事案が念頭に置かれているとされている 。
従来,保険契約に重大事由解除(特別解約権)が認められる根拠として,
継続的契約における信頼関係破壊という一般法理の一環と位置づける見解 ,
9) 萩本修編著 新しい保険法 ,2008年,p.67。
10) 中村敏夫 生命保険・疾病保険における保険者の特別解約権 生命保険契 約法の理論と実務 ,1997年,pp.369‑402,同 西ドイツにおける保険者特別 解約権の判例 同書,pp.403‑423,中西正明 故意の事故招致と保険者の解 約権 傷害保険契約の法理 ,1992年,pp.261‑325,同 保険者の特別解約 権再論 同書,pp.359‑375,同 保険者の特別解約権とドイツ判例 同書,
pp.376‑399,同 故 意 受 傷 と 保 険 者 の 特 別 解 約 権 同 書,pp.400‑414,同 保険者の特別解約権に関する最近の判例 大阪学院大学法学研究 第29巻第 1号,2002年,pp.1‑44,同 生命保険契約の重大事由解除 大阪学院大学 法学研究 第34巻第1号,2007年,pp.79‑127,石田満 危険の増加と特別解 約権 保険契約法の論理と現実 ,1995年,pp.164‑174参照。
道徳的危険が増加したことに基づく保険法特有の解除権と位置づける見解 , 経済制度としての保険の構造から認められる保険法特有の解除権と位置づけ る見解 が見られたが,保険法における重大事由解除については,継続的契 約における信頼関係破壊を基礎とするものであることが条文上明らかにされ ている。
重大事由解除の要件は,故意の事故招致(30条,57条,86条各1号),請 求についての詐欺(同各2号)のほか,保険者の保険契約者等に対する信頼 を損ない,当該保険契約の存続を困難とする重大な事由があること(同各3 号)とされている 。このうち,請求についての詐欺における 詐欺を行っ た については,保険者を錯誤に陥らせ,保険金を支払わせる意思で保険者 に対して欺もう行為を行ったという意味であり,現に保険金の支払を受ける ことまで要件とする趣旨ではないとされている 。
⑵ 通知義務の趣旨
現行商法(658条,681条)では,保険事故等の発生は保険契約者側の把握 している情報であり,保険者が自らその情報を入手することは一般的には容 易でないこと,免責事由に該当しないかなど保険給付義務があるかどうかを 判断する必要があることなどから,保険契約者側に通知義務を課している 。
11) 山下・前掲注3),pp.645‑646。
12) 岡田豊基 重大事由解除と遡及効 保険事例研究会レポート 第213号,
2007年,p.21。
13) 各条1号,2号は保険契約の存続を困難とする信頼関係破壊行為の典型例と して規定されたものとされている(萩本編著・前掲注8),p.99)。
14) 法務省民事局参事官室・前掲注4),pp.53‑54参照。なお,萩本編著・前掲 注8),p.100(注3)は,2号の例として,例えば,盗難保険契約において被保 険者が自己の自動車を隠匿した上で,盗難にあったとして保険給付を請求した ような場合がこれにあたるとしている。
15) 一方,榊・前掲注8),p.370は,刑法上の詐欺の既遂に至る程度である必要 はないとしても,何が問題とされるべき行為なのかは,引き続き解釈論上の問 題となるとしており,より制限的に考えるべきであるとするものと思われる。
16) 大森・前掲注3),p.168,p.303,山下・前掲注3),p.415,pp.485‑486参照。
通知事項は,保険事故の発生により損害が生じた事実や死亡の事実であると されている 。通知義務に関する規律は,保険法(14条,50条,79条)にお いても維持されている 。
なお,通知義務を認めるのと同様の趣旨から,商法には規定がないものの,
損害についての説明義務や死亡等についての調査協力義務が認められてい る 。説明すべき事項は保険者のてん補義務の有無・範囲などの決定に必要 な諸事情とされている 。保険法においても,保険契約者等の説明義務に関 する規定は置かれなかったが ,一方,保険契約者側が正当な理由なく調査 を妨げた場合などには,保険者は遅滞の責任を負わないこととされている
(21条,52条,81条各3項) 。
⑶ 保険者の免責 の趣旨
現行商法(640条,641条,680条)および保険法(17条,51条,80条)は いずれも,故意の保険事故招致および戦争その他の変乱について免責として いる。現行商法では,故意の保険事故招致の場合に保険者を免責とするのは,
契約当事者間では保険契約者の信義則に反する行為としてであり,同時に保 険者を免責とすることは公益に基づく規制であるとされている 。これに対 し,保険法では,犯罪行為により保険事故を惹起した者にも保険金を支払う 保険契約は,免責事由の適用を待つまでもなく保険契約自体が公序良俗に反 して無効と考えられることなどを理由に, 保険者の免責 の規律は信義誠
17) 大森・前掲注3),p.168,p.303参照。
18) 萩本編著・前掲注9),pp.55‑56参照。
19) 大森・前掲注3),p.169,山下・前掲注3),pp.417‑419,pp.486‑487参照。
20) 大森・前掲注3),p.169,山下・前掲注3),p.417参照。
21) 萩本編著・前掲注8),p.112参照。ただし,約款で説明義務を定めることも 可能とされている(同,p.112(注2))。
22) 萩本編著・前掲注9),pp.58‑59参照。
23) 大 森・前 掲 注3),pp.147‑148,pp.291‑294,山 下・前 掲 注3),pp.66‑67参 照。
実の原則に基づくものであるとされている 。
4.重大事由解除(特別解約権)の 遡及効 に関する従前の議論
重大事由解除(特別解約権)の 遡及効 に関する従前の議論は, 遡及 効 を認めるべきか否か,およびその理論的根拠をどこに求めるかが問題と され,特に,重大事由解除(特別解約権)が認められる根拠を継続的契約に おける信頼関係破壊に求める見解において,遡及効がいかなる理由で認めら れうるかという点が問題とされていた。
重大事由解除(特別解約権)が認められる根拠を継続的契約における信頼 関係破壊に求めつつ 遡及効 を認める見解は,特別解約権による解約が常 に将来効のみであるとすると,信頼関係破壊の時から解約の意思表示が行わ れる時までの期間は信頼関係が破壊されているにもかかわらず保険者が引続 き契約関係に拘束される結果を認めることとなり適当ではないこと や,保 険契約者の一連の行為からみて保険者との信頼関係を決定的に破壊するよう な悪質性が認められる場合には,保険金請求という一時点のみに着目すべき ではなく,一連の行為の出発点まで遡及する場合もありえると解すべきこ と を理由として,目的論的に 遡及効 を認めていたが,これに対し,こ のような考え方は一般法の理解からは困難であるとの指摘がなされていた 。
なお,この点に関し,信頼関係破壊に基づく生命保険契約の解除を認めて も,保険金支払義務を遡って消滅させなければ,解除事由の性質から著しく
24) 法制審議会保険法部会第3回会議議事録,p.22,同第5回会議議事録,
p.22参照。
25) 中西・前掲注10),2002年,pp.37‑38。
26) 長谷川仁彦 重大事由による解除とその課題(遡及効を中心として) 保険 学雑誌 第571号,2000年,p.54。
27) 竹濵修 被保険者の道徳的危険と危険の増加 近大法学 第35巻第1・2 号,1987年,p.99注(27),山下友信 モラル・リスクに関する判例の展開と 保険法理論の課題 現代の生命・傷害保険法 ,1999年,p.258,同・前掲注 3),pp.644‑645,榊素寛 特別解約権の基礎 商事法への提言 ,2004年,
p.741,p.773。
正義に反し,法理としてそれ自体が信義則に反する背理であるとするもの や ,また,一方,目的論的に遡及効を認めることに批判的な見解において も,公序良俗違反と信頼関係破壊とはその目的・保護法益を異にしており,
どちらか一方で統一的に理解すべき必要性はなく,公序良俗違反と評価可能 な程度の悪質性の立証に成功した事案については遡及効を認めてもよいとす るものがあった 。
このような中,約款における重大事由解除の 遡及効 に関する裁判例と して,虚偽の事故状況報告書を提出して災害死亡保険金を請求したことにつ いて重大事由解除を認め,その効力として当該虚偽申告等にかかる死亡に対 する(非災害)死亡保険金をも免責とした福岡高裁平成15年3月27日判決
(原審長崎地裁平成14年10月31日判決) があらわれた。判決では 遡及効 の根拠について言及しておらず,賛否は分かれるが,判旨に賛成するものの 中には,保険金請求に関し詐欺的行為が行われても死亡保険金の支払義務を 負うと考えることは保険金請求段階での詐欺的行為を奨励する結果となり実 質的に問題が多いとして,信義則を根拠に解除の効力を重大事由発生の前に 遡及させることを認める見解がある 。
28) 後 藤 徳 司 継 続 的 契 約(債 権 関 係)の 解 除 と 遡 及 効 判 例 タ イ ム ズ No.779,1992年,p.41。
29) 榊・前掲注27),pp.774‑775,p.777。
30) 判例集等未登載。甘利公人 生命保険約款の重大事由による解除権 生命 保険契約法の基礎理論 ,2007年,p.199‑202,福田弥夫 虚偽の事故状況報 告書提出と重大事由解除 保険事例研究会レポート 第189号,2004年,p.1‑
2,同 詐欺行為による保険金請求と保険者の重大事由解除 保険学雑誌 第 591号,2005年,pp.92‑93,岩崎良平 虚偽の事故状況報告書提出等と重大事 由解除 保険事例研究会レポート 第194号,2004年,pp.9‑10,中西・前掲 注10),2007年,pp.98‑103参照。
31) 中西正明 保険事例研究会レポート 第194号,2004年,p.17〔追加説明〕
(ただし,理論構成については,後に同・前掲注10),2007年,pp.104‑105,
pp.126‑127で改められている)。他に,本件判旨に賛成するものとして,甘 利・前掲注30),p.226,岩崎・前掲注30),p.15。
32) 解除の効力を重大事由発生の前に遡及させることを認める本件判旨に反対す
5.通知義務違反による保険者の免責に関する従前の議論
現行商法(658条・681条)は通知義務違反の効果について定めていないが,
この場合,違反者は損害賠償義務を負うものとされている 。通知義務違反 の効果について,生命保険約款は特段の規定を置いていないが,現行の損害 保険約款においては,正当な理由がある場合を除いて,事故発生の通知義務 に違反した場合に保険者の損害てん補義務を全部免責とし,また,事故内容 の通知義務(説明義務)に違反した場合にも免責とするのが通例とされてい る。
損害保険契約において,やむを得ない事由などによる場合を除き,事故通 知を受けることなく事故発生後60日を経過したときは保険者を免責とする約 款規定について,最高裁昭和62年2月20日判決 は,保険金の詐取等保険契 約における信義誠実の原則上許されない目的のもとに通知を懈怠したときを 除き,保険者において損害のてん補責任を免れうるのは通知を受けなかった ことによる損害賠償請求権の限度においてであることを定めたものと解する
る見解においても,虚偽申告等の場合には保険者は保険金支払義務を免責され うるという考え自体を否定するものではないようである(山下友信 保険事例 研究会レポート 第189号,2004年,p.9〔コメント〕,福田・前掲注30),2005 年,p.110参照)。
33) 大森・前掲注3),p.169,p.303,山下・前掲注3),p.416,p.486参照。
34) 民集第41巻第1号,p.159。
のが相当であるとしている 。なお,このことは,保険契約者等の 説明義務にも等しく妥当するとされている 。
6.保険法における重大事由解除の効力と通知義務違反などの効果と の関係
虚偽申告等に対する保険法における重大事由解除の効力と通知義務違反な どの効果との関係については,虚偽申告等について通知義務違反などにより 保険者を免責とすることが重大事由解除の効力の片面的強行規定性に反し許 されないとする見解 と,虚偽申告等について通知義務違反などにより保険
35) なお,英国における詐欺的請求について,中西正明 英国保険約款における 詐欺的請求条項 傷害保険契約の法理 ,1992年,pp.327‑358,榊・前掲注 27),pp.746‑772参照。
36) 米国における詐欺的請求について,福田・前掲注30),2005年,pp.100‑109 参照。
37) ドイツでは,保険契約者が故意または重過失により契約上の責務に違反した 場合の保険者の解約権を認め,また,保険契約者の故意の責務違反による全部 免責および重過失の責務違反による割合的免責を認めているが,この場合,詐 欺的意図をもって責務違反をしたときを除き,責務違反と保険事故の発生等と の間に因果関係があることが求められる(保険契約法28条)(新井修司=金岡 京子共訳 ドイツ保険契約法(2008年1月1日施行) ,2008年,pp.180‑184 参照)。なお,旧法下のものであるが,ヴァイヤース=ヴァント(藤岡康宏監 訳) 保険契約法 ,2007年,pp.152‑154参照(ここでは,保険事故発生後の 責務の例として,保険事故に関する正確な情報を提供する義務があげられてい る。)。
38) フランスにおける事故発生通知義務について,山野嘉朗 保険契約と消費者 保護の法理 ,2007年,pp.147‑158参照。
39) 山下・前掲注3),pp.417‑418。
40) 萩本修 保険法現代化の概 要 新 し い 保 険 法 の 理 論 と 実 務 ,2008年,
pp.24‑25,同 新保険法−立案者の立場から− 生命保険論集 第165号,
2008年,pp.11‑14,村田敏一 生命保険契約における保険者の免責事由 保 険法改正の論点 ,2009年,p.356注(17),榊・前掲注8),p.371。
者を免責とすることも許されうるとする見解 とに分かれている 。前 述のとおり,各規律の趣旨やその相互関係についての考え方によりこのよう な見解の相違が生じるものと思われるが,それぞれの見解がその点につきど のように考えているかは必ずしも明らかではない 。
一方,前述のとおり,商法における上記各規律の趣旨および学説や裁判例 において重大事由解除の 遡及効 や通知義務違反あるいは 保険者の免 責 により保険者の免責が認められる根拠として公序良俗違反や信義則があ げられており,また,保険法における上記各規律の趣旨も信義則とされてい る。したがって,保険契約における信義則の内容およびそれがどのように保 険法の各規律に反映されているかを検討することにより,上記各規律の相互 の関係を明らかにすることができると考えられる。
⑴ 保険契約における信義則
保険契約における信義則については,古くから,保険契約において一般の
41) 山下・前掲注8),pp.29‑30,洲崎・前掲注3),pp.240‑242。
42) 他に,この点につき問題点の指摘を行うものとして,甘利公人 自動車保険 に お け る 不 実 申 告 と 保 険 者 の 免 責 石 田 満 編 保 険 判 例2009 ,2009年,
pp.230‑231。
43) なお,このような問題意識は明らかにされていないが,昭和62年2月20日の 最高裁判決が保険法下でも維持されると考えていると思われるものとして,梅 津昭彦 保険事故の通知義務・損害防止義務 新しい保険法の理論と実務 , 2008年,pp.169‑171,落合誠一監修 保険法コンメンタール(損害保険・傷 害疾病保険) ,2009年,pp.45‑47〔岡田豊基〕,竹濵修 保険法入門 ,2009 年,pp.99‑100。
44) 山下・前掲注8),p.30は,重大事由解除の法理は保険契約当事者間における 信頼関係を著しく破壊する保険契約者側の行為がある場合に保険者を保険契約 から解放することに主眼のある法理であり,これと保険給付過程における不正 請求に対する制裁のための法理とは相互に背反的ではなく併存しうるものと考 えるとしている。ただし,重大事由解除においてもその効力として重大事由発 生時から解除時までの保険事故等の免責を規定しており,その点をどのように 考えるかも問題となるように思われる。なお, 座談会 保険法の重要論点と 保険会社実務 ほうむ 第55号,2009年,pp.24‑25〔山下友信〕参照。
契約以上に信義則が強く要請されるか否かが議論されており,そのことを認 める見解では,保険契約の団体性 や 射 倖 契 約 性 が そ の 根 拠 と さ れ て い た 。このうち,保険契約の射倖契約性から保険契約に特有の信義則 を認める見解においては,保険者の免責(商法641条),遡及保険(商法642 条),告知義務違反による解除(商法644条,678条),危険の増加(商法656 条,657条),損害発生の通知義務(商法658条),損害防止義務(商法660条)
などを保険契約の本質的構造にもとづき要請される信義則の具体的なあらわ れであるとしている 。
そして,保険法においても通知義務や 保険者の免責 の規律が基本的に 維持されていることは,前述のとおりである。
⑵ 重大事由解除の根拠としての信義則
一方,前述のとおり,保険法における重大事由解除は継続的契約における 信頼関係破壊を基礎とするものであるが,信頼関係破壊による契約の解除は,
即時解約を認める雇用(民法628条),組合(民法678条),代理商(商法30条
45) 前者につき,野津務 保険法に於ける信義誠実の原則 ,1965年,pp.77‑78 参照。
46) 後者につき,大森忠夫 保険制度と信義則 保険契約法の研究 ,1969年,
pp.9‑10,同・前掲注3),p.84参照。ここでは,保険契約は射倖契約であり,
射倖契約としての本質的構造そのものの故に当事者の相手方に対する信義誠実 ないし 善意 を確保するための具体的な特殊法則が要請されるとしている。
47) これに対し,山下・前掲注3),pp.71‑72は,保険契約特有の法規整が射倖 契約性から導かれるものであるとすれば,同じような法規整は他の射倖契約一 般にも妥当しなければならないはずであるが,そのようなことはなく,このこ とは射倖契約性による保険契約特有の法規整の説明には無理があることを明ら かにするものであるとする。ただし,これも保険契約の特質から保険契約特有 の法規整が必要とされることを否定するものではなく,この点については,保 険技術,情報の非対象性,モラル・ハザードなどの具体的な特質から説明され るべきであるとしている。
48) 大森・前掲注46),pp.9‑10,坂口光男 保険契約法の立法論と信義則 保 険契約法の基本問題 ,1996年,p.8。
2項)などにおける やむをえない事由 による解約に含まれるものであり,
また,これ以外の継続的契約(保証,賃貸借,使用貸借等)についても判例 で認められてきたものであるとされている 。
また,保険法においては,保険契約者等が重大事由を生じさせることによ り保険者が過大な危険の引受けをしていることになるため,重大事由が生じ た後における保険者の免責を認めてこの過大な危険から解放する必要がある ことから,重大事由解除の効力として,重大事由が生じた時から解除がされ た時までに発生した保険事故等について免責としているとされている 。そ して,重大事由解除の要件として,保険者の保険契約者等に対する信頼を損 なうこと,および保険契約の存続を困難とすることの2つがあげられてい る が,これらは,このような免責という効力を得るための要件ともなって いる 。
49) 中西・前掲注10),1992年,pp.309‑317,pp.361‑362参照。
50) なお,継続的契約の解消について,中田裕康 継続的契約関係の解消 民 法の争点 ,2007年,pp.230‑231参照。また,民法(債権法)改正検討委員会 による 債権法改正の基本方針 では,新たに継続的契約を定義し,継続的契 約の解消に関する規律を設けることが提案されているが,その中で, 重大な 事由 に基づく解除について, 契約期間の定めの有無にかかわらず, 重大な 事由 に基づく解除もなしうるかどうかが検討課題となるが,本試案では,特 に規定を置かないことした としている(民法(債権法)改正検討委員会編
債権法改正の基本方針 別冊NBL第126号,2009年,pp.415‑417)。
51) なお,信義則の適用事例に関する機能的分類として,職務的機能(法具体化 機能),衡平的機能(正義衡平的機能),社会的機能(法修正的機能),権能授 与機能(法創造的機能)があるとされている(石川博康 信義誠実の原則
民法の争点 ,2007年,pp.54‑55参照)。
52) 萩本編著・前掲注8),p.102。
53) 萩本編著・前掲注8),p.99。
54) 洲崎・前掲注3),pp.230‑231は,保険法では保険契約の効力の問題と保険 者の免責の問題がはっきりと書き分けられたことから,保険者による解除権行 使は,将来に向かって契約を消滅させる要件であると同時に,既発生事故につ いて保険者が免責を主張する要件でもあるという趣旨がより明確になったとし ている。
したがって,重大事由解除の効力として重大事由が生じた時から解除がさ れた時までに発生した保険事故等について免責が認められる根拠も,継続的 契約における信頼関係破壊に求めることができると考えられる 。すな わち,重大事由解除に関する規律は,免責に関する部分も含めて,継続的契 約において契約当事者における信頼関係が破壊された場合に相手方当事者を 契約の拘束力から離脱させるための制度ということができる。
⑶ 重大事由解除の効力と通知義務違反などの効果
以上によれば,重大事由解除の効力としての保険者の免責は継続的契約に おける信頼関係破壊に基づくものである一方,通知義務違反や 保険者の免 責 などによる保険者の免責は,射倖契約性を根拠とするか保険契約の具体 的特性を根拠とするかはともかく,保険契約の特性に基づき保険契約に特に 認められる信義則に基づくものということができると考えられる。そして,
虚偽申告等が行われた場合には,(保険契約特有の)信義則を根拠として,
55) 中田・前掲注50),p.231も,継続的契約の解消の効果として遡及効を認め るべき場合があることを肯定している。また,民法(債権法)改正検討委員 会・前掲注50),p.417は,継続的契約の解除の効果について,次の試案を提 案している。
【3.2.16.15】(解除の効果)
継続的契約の解除は,[契約の性質および解除の原因に応じて,解除の時 または解除の原因の発生した時から,]将来に向かってのみその効力を生ず る。ただし,当事者の一方または双方の給付が不可分のものとして合意され ていた場合は,この限りではない。
56) なお,中西・前掲注10),1992年,p.317,p.362は,保険契約が継続的契約 であることから信頼関係破壊を理由とする特別解約権が認められるとしつつ,
保険契約の射倖契約性,善意契約性からとくにそうであるとしているが,この 点につき,榊・前掲注27),p.772は,保険契約の善意契約性に言及されるこ とはあるものの,そのことを強調して特別解約権の議論が展開されているわけ ではなく,あくまでも継続的契約一般とパラレルな考え方がその根拠にあり,
その上で 信頼関係破壊 の解釈として,補助的に保険契約の特性が考慮され ているに過ぎないとしている。
通知義務違反や 保険者の免責 などの効果として,保険者を免責とするこ とが許される場合もあるものと考えられる。その根拠は,具体的には,全額 免責という対抗手段が保険者に許されないとすると,不正請求に対する歯止 めが緩み,ダメもとで請求してみようという風潮が広がるおそれが否定でき ない ことに求められると考えられる 。そして,それぞれの規律の趣 旨が異なることから,通知義務や 保険者の免責 などの趣旨から保険者の 免責が認められるのであれば,ある事案について複数の規律が適用される結 果,片面的強行規定である重大事由解除の効力としては免責とできないもの であっても,通知義務違反あるいは 保険者の免責 などにより保険者を免
57) 洲崎・前掲注3),p.244注 参照。また,注44)にあるとおり,山下・前掲注 8),p.30は,損害の不実申告による保険者免責の法理を,保険給付過程にお ける不正請求に対する制裁のための法理としている。なお,坂口・前掲注48),
p.19は,損害保険契約法改正試案658条の3が詐欺的意図による通知義務・説 明義務違反の場合に例外的に全額免責としたことについて,保険者が保険金支 払責任を負わないとされる根拠は,義務違反によって保険者は損害を被ってい るという点に求められるのか,それとも,故意に義務に違反した保険契約者に 対する制裁という点に求められるのかということが問われているとしていた。
58) 勝野義孝 生命保険契約における信義誠実の原則 ,2002年,pp.457‑458は,
特別解約権に遡及効を認めるにあたり, 特別解除権を理論づける信義誠実の 原則と,個別請求権の否認を理論づける信義誠実の原則の両機能が見てとれ る 保険金等の不正取得目的により保険事故を作出させたり,或いは,不当 な請求額の請求を行なったりすること自体が信義則に反して否認されるものと 考え,個別的請求毎にこれについての法的判断がなされると解することは,か つての信義則の機能からして別段奇異ではなく行なわれてきている としてい る。
59) なお,法制審議会保険法部会では,保険契約の関係当事者が信義則に従って 行動することなどを定める総則的な規定を設けることについても議論されたが,
結局,保険法にそのような規定は設けられなかった(萩本編著・前掲注8),
p.37参照)。しかし,射倖契約としての保険契約の性質や,保険の仕組みに関 する情報が保険者側に偏在しているという構造的な事情があることなどから,
民法の信義誠実の原則に基づき,保険契約の関係当事者には相互に必要な情報 を提供する義務が認められる場面もあるとされている(同,p.38(注))。
責とすることが許される場合もあると考えられる 。一方,説明義 務については保険法に規定がないため,当該説明義務の趣旨などと請求につ いての詐欺に関する重大事由解除の趣旨などとの関係が個別に検討される必
60) ただし,具体的な虚偽申告等の内容によってその可否は異なるものと考えら れる(たとえば,心筋梗塞で亡くなった方を車に乗せて事故を起こし,事故死 にみせかけたようなケースと,事故状況報告書において虚偽記載をしたにすぎ ないようなケースとでは,その評価は異なるものと思われる)。
61) 重大事由解除の片面的強行規定性を,重大事由が生じた場合には他のいかな る規律によっても保険事故等について免責とすることを認めない趣旨であると すると,保険法30条,57条,86条各1号との関係で, 保険者の免責 におい て故意の事故招致を免責としていることの説明が難しくなるように思われる
(このことは,重大事由解除の効力としての免責が重大事由が発生した時を含 むとする場合には,解除という手段をとらずただちに免責とする点において,
重大事由が発生した時を含まないとする場合には,免責とすること自体におい て問題となりうる。)。片面的強行規定とされる規定の趣旨を潜脱することは許 されるべきではないが,片面的強行規定とされる規定の片面的強行規定性が及 ぶ範囲については,その規定の趣旨などとの関係で判断されるものと考えられ る(萩本編著・前掲注8),p.22(注5)参照)。
62) なお,保険法の通知義務に関する規定において,義務違反の効果は定められ ておらず,違反者は損害賠償義務を負うとされている。この規定は任意規定と されるものの,約款において虚偽申告等を通知義務違反として免責と規定する ことは,消費者契約法10条の不当条項規制との関係でその合理性が問題となり うる。
63) 一方,保険法の 保険者の免責 に関する規定について,その趣旨を,保険 事故等が発生した場合において,その発生原因に関して信義則に反する事情が ある場合に免責とするものととらえるならば,保険事故等の発生原因とは無関 係の虚偽申告等を 保険者の免責 として免責とすることは,そもそも許され ないということになると思われる。また, 保険者の免責 として虚偽申告等 を免責とすることが許されうるとしても,消費者契約法10条との関係が問題と なることは,通知義務違反による免責の場合と同様と思われる。
要があると思われる 。
⑷ 手続過程を踏まえた検討
次に,手続過程と各規律との関係を考慮しつつ,虚偽申告等について,ど のような場合に発生した保険事故等を免責とすることが許されうるかについ て,さらに検討することとする。
請求についての詐欺に関する重大事由解除の要件は, 保険給付の請求に ついて詐欺を行い,又は行おうとしたこと であるが,一方,通知義務違反 の要件は 保険事故等が発生した旨の通知を発すること に違反することで ある。
保険給付の履行に際しては,一般に,①保険事故等の発生,②保険給付の 請求,③保険事故等の確認,④支払という時間経過および手続過程をたどっ ている。これを各規律の趣旨及びその要件に照らして考えると,通知義務は
①に関する規律,説明義務や請求についての詐欺に関する重大事由解除は②
64) 萩本編著・前掲注8),p.103(注1)は,過大請求の事例について,重大事由 解除により免責の対象となるのは重大事由が生じた時以降に生じた保険事故の みであり,保険者は,特段の事情がない限り,発生した保険事故に基づく損害 についてはてん補責任を負うとしているが,この 特段の事情がない限り は,
発生した保険事故に基づく損害についても信義則上てん補責任を負わないこと が許される場合がありうることを示すようにも思われる。
65) なお,萩本編著・前掲注8),p.112(注2)は,約款で保険事故に関する説明 義務を定めることも可能だが,その違反があった場合にただちに保険者を免責 とする定めは,保険給付の履行期に関する規定(21条3項,52条3項,81条3 項)の片面的強行規定性に反するとしている。ただし,説明義務を定めること が可能であることの根拠が信義則に求められるならば,履行期に関する規定の 片面的強行規定性を考慮してもなお信義則上認められる説明義務に対する違反 の効果が,(少なくとも一般的には損害賠償義務は認められると考えられると ころ,)履行期に関する規定の片面的強行規定性によりさらに制限されること となる理由は,必ずしも明らかではない。
(および③)に関する規律と考えることができる 。
これを前提とすると,虚偽申告等のうち,保険事故等を偽装し,または発 生していない保険事故等を虚偽申告したケースについては,通知義務に違反 し,その効果により免責とすることも認められうると考えられる 。この場 合,他の保険事故等が(正常に)発生していた場合でも,その保険事故等を 不正に利用して保険給付を受けようとした場合には,制裁的観点から,その 保険事故等についても免責とすることが許されるケースもありうるものと考 えられる。
これに対し,損害額の虚偽申告など,保険事故等の内容に関する事実につ いて虚偽申告したケースについては,それが①保険事故等の発生の通知義務 に対する違反と評価される場合を除き,②保険給付の請求に関する不正行為 であり,説明義務に関する事項と考えられることから ,これを免責とする ことについては,約定された説明義務の趣旨や内容などに応じて,個別にそ の可否が決まるものと考えられる。
⑸ 約款における定めについて
以上のとおり,重大事由解除の効力に関する保険法の規定が片面的強行規 定であるとしても,別途,通知義務違反(あるいは 保険者の免責 )など
66) このことからは,通知義務違反と請求についての詐欺による重大事由解除と は,趣旨だけでなく適用場面(要件)も異なるといえると考えられる。
67) なお,保険給付の履行期における調査妨害等に関する規律は,③④に関する 規律と考えることができる。
68) なお,萩本編著・前掲注8),p.79(注2)は,保険契約者による調査妨害等が あった場合に保険者がただちに免責される旨の約款の定めは,保険給付の履行 期に関する規定の片面的強行規定性に反して無効であるとしている。一方,保 険事故等を偽装しまたは発生していない保険事故等を虚偽申告することは保険 事故等の通知に関する不正行為であり,基本的に,保険給付の履行期における 調査妨害等に関する規律の対象外となるものと考えられる。
69) たとえば,損害発生の通知義務(14条)の通知事項に損害額が含まれるとす れば前者,そうでなければ後者と考えることになると思われる。
の効果として,発生した保険事故等について免責とすることも,場合によっ て認められうるものと考えられる。
しかし,これを約款において規定する場合には,通知義務違反(あるいは 保険者の免責 )などの効果として保険者を免責とすることが信義則上認め られる範囲内でその要件を約款上規定することが求められ,信義則が一般原 則であり,その適用は具体的な事案の解決において行われることが多いこと に鑑みれば,約款における要件の設定については,その適用事例の外延を超 えることのないよう,慎重に検討する必要があるものと思われる。
7.おわりに
保険契約はその性質上,モラル・リスクから完全に逃れることはできず,
その不正利用の懸念は常に存在することから,正常に発生した保険事故であ っても,それを保険給付の不正な取得に利用した場合には,制裁的効果とし て免責とすることを認めることも必要であると考えられる。
一方,保険給付の不正な取得およびそれに対する制裁としての保険者の免 責が頻繁に生じることが保険契約をとりまく状況としてあるべきものではな いことは明らかであり,このような制裁も含めて,モラル・リスクに対する 制度がその予防的効果のみを発揮して,抜かずの宝刀となることが期待され るし,そのための努力が保険会社側にも求められるであろう。
(筆者は日本生命保険相互会社勤務)