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菅原 民枝

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Academic year: 2021

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(1)

新型インフルエンザ流行時における一般住民の外出自粛に 関する意識の検討

1)国立感染症研究所感染症情報センター,2)早稲田大学大学院商学研究科

菅原 民枝

1)

杉浦 正和

2)

大日 康史

1)

谷口 清州

1)

岡部 信彦

1)

(平成 19 年 12 月 13 日受付)

(平成 20 年 6 月 6 日受理)

Key words : Pandemic influenza, community mitigation

【目的】新型インフルエンザの対策計画が各国で策定されているが,未知の感染症であるため,感染の拡 大については数理モデルを用いて検討されている.しかしながら,数理モデルで検証するためのパラメーター がわからない.そこで本研究は第一に新型インフルエンザを想定して,個人がどの程度の割合で外出を控え る行動をするのかを明らかにし,第二に外出を控えない行動をする要因を明らかにして,新型インフルエン ザ対策に役立てることを目的とした.

【方法】調査はアンケート調査とし,2007 年 4 月に,調査会社の保有する全国 25 万世帯が無作為抽出さ れているパネルから地域,年齢群で層別抽出した 2,615 世帯とした.調査内容は,新型インフルエンザ国内 発生の場合の外出自粛の選択,在宅勤務体制,食料備蓄等とした.解析は,外出選択を目的変数とし,多変 量解析を行った.

【結果】回答は 1,727 世帯,有効回答者数は 5,381 人であった.新型インフルエンザ国内発生の場合の外出 自粛の選択は,勧告に従わず外出すると思う人が 6.7%,様子を見て外出すると思う人が 47.1%,勧告が解 除されるまで自宅にとどまると思う人が 46.1% であった.現在災害用に食料備蓄をしている世帯は,3 日分 程度が 29.9%,1 週間程度が 5.8%,2 週間程度が 1.5%,していないが 62.8% であった.また,今後 2 週間 程度の食料備蓄をする予定の世帯は,29.6% であった.多変量解析では,30 歳代,40 歳代,男性,高齢者 の就業者,インフルエンザワクチン接種歴の無い者は,有意に外出する選択をしていることが明らかになっ た.

【考察】本研究により,新型インフルエンザを想定した一般市民の外出の選択によって,数理モデルによ る外出自粛の効果が検討できるようになった.30 歳代,40 歳代の「外出する」選択確率が高く,この年齢 層に大きな影響を与える要因のひとつとして,職場の対応があると考えられた.就業者が外出自粛を選択す るような対策として,企業の経営戦略,人事管理面での対策が必要であると示唆された.

〔感染症誌 82:427〜433,2008〕

近年の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のヒト への感染は,世界保健機関の公表によれば,2008 年 3 月 17 日現在,発生国 14 カ国,患者数 381 人(死亡者 240 人)となっている

1)

.この鳥インフルエンザウイ ルスが変異し,新型インフルエンザの出現が危惧され

ている.

新型インフルエンザの対策計画は各国で策定されて いるが,未知の感染症であるため,感染の拡大につい ては数理モデルを用いて検討されている.WHO の世 界インフルエンザ事前対策計画(日本語訳監修:国立 感染症研究所)

2)

では,「パンデミック株があらゆる年 齢層に対して著しい疾病と死亡を引き起こし,ワクチ ンも無いことは既知のことであり,罹患数と死亡数を 軽減するために,当局は真剣に全国民レベルの対策を

別刷請求先:(〒162―8640)東京都新宿区戸山 1―23―1 国立感染症研究所感染症情報センター第一室研

究員 菅原 民枝

(2)

導入することを考慮すべきである.数学的および経済 学的モデルを参考に決断することができる.」と記載 されており,アメリカの HHS Pandemic Influenza Plan

3)

,イギリスの UK Health Departmentsʼ Influenza pandemic contingency plan

4)

,カナダの The Canadian Pandemic Influenza Plan for the Health Sector

5)

には数 理モデルを用いた検討について明記されている.

日本においても,数理モデルを用いた新型インフル エンザの感染拡大シミュレーションが発表されてい る

6)

.この日本のモデルは,これまで諸外国で行われ ていた感染症拡大のシンプルなモデルではなく,個人 の行動をモデルに組み込んだ近年の感染症モデルとし て最も精密なモデル individual based model を用いて おり,実際の個人の所在,移動のデータであるパーソ ントリップデータを用いたシミュレーションを実現さ せている.

感染拡大のシミュレーションの結果は,首都圏のモ デルで,海外からの 1 例の輸入例の国内侵入があった 場合のシナリオで,感染して 10 日目には 12 万人の感 染者であった.人口の 0.3% 程度の人がわずか 10 日 で,首都圏全域の地理的範囲で感染拡大することが明 らかになった.首都圏は,公共交通機関の範囲の便利 さに加えて,通勤時間帯の満員電車の要因が重なり,

東京都で初発例の感染者が出た場合,数時間後には,

数十キロメートル離れたところでも感染者が発生する ことが明らかになっている.したがって,このシミュ レーションでは,新型インフルエンザ対策の 1 つとさ れている数キロメートル範囲での地域封鎖の戦略は,

首都圏全域に感染拡大するためおよそ不可能であると 考えられている.このように,この日本の数理モデル を用いて,日本の新型インフルエンザ対策をした場合 に,どの程度感染拡大が抑制できるかを検討すること ができるようになった.

厚生労働省は,平成 19 年 3 月 26 日に新型インフル エンザ専門家会議を開催し,「新型インフルエンザガ イドライン(フェーズ 4 以降)」

7)

を出した.対策では,

公衆衛生対応,医療対応,社会対応などを総合的に講 じることで,可能な限り流行のスピードを緩め,感染 者数のピークを抑えることを目標としている.この対 策によって,医療サービスや社会機能を破綻させずに,

維持させ,被害を最小化することが可能となるものと 考えられている.中でも,個人および一般家庭・コミュ ニティ・市町村 における感染対策に関するガイドラ インでは不要不急の外出の差し控えを打ち出してい る.新型インフルエンザ流行時には感染拡大を回避す るために,外出自粛を勧める対策である.

しかしながら,不要不急の外出の差し控え(以下「外 出自粛」とする)の勧告が出された場合,どの程度の

割合で,人々が外出を控える行動をするのかどうか現 在明らかになっていない.また同時に,外出自粛の場 合に必要となる食料備蓄や在宅勤務の体制について,

さらに初期対応戦略としての予防投薬についても,ど の程度の人が食料を備蓄しており,在宅勤務できるの か,予防投薬を服用するのかどうかは明らかになって いない.

そこで,本研究では「外出自粛」という対策がどの 程度の感染拡大を抑えることができるのかどうか,を 検討するため,外出自粛の勧告にどの程度に人々が外 出をしないで自宅にとどまるという選択をするのかを 明らかにする.また外出を控えない要因を明らかにし て,新型インフルエンザ対策に役立てることを目的と する.同時に,食料備蓄や在宅勤務の体制,予防投薬 の服用の選択についても明らかにする.このことに よって,新型インフルエンザ対策の医療経済学的分析 も視野に入れることが可能となる.

対象と方法

調査は 2007 年 4 月に,郵送法で世帯を対象とした アンケート調査を行った.調査会社の保有する全国 25 万世帯が無作為抽出されているパネルから地域,年齢 で層別抽出した 2,615 世帯とした.調査内容は,①新 型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選択,

②オセルタミビル服用の選択,③在宅勤務体制,④食 料備蓄体制,⑤回答者属性とした.

新型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選 択は,「新型インフルエンザが国内で発生し,外出を 控える勧告がなされました.いつ勧告が解除されるか 現在の段階ではわからないものとします.」と尋ねた.

またオセルタミビルは予防投薬として用いることがで きるといわれているが,新型インフルエンザが流行し,

予防投薬を勧められた場合の服用の選択については,

死亡者数が例年のインフルエンザ並み(1 万人程度)

である場合,死亡者数が多い(64 万人,太平洋戦争 での民間人の犠牲者よりも多い)場合の状況を分けて 尋ねた.

回答者属性は,性別,年齢,職業,現在の主な交通 手段,2005 ! 2006,2006 ! 2007 シーズンのそれぞれイ ンフルエンザ罹患の受診歴,インフルエンザ予防接種 歴とした.職業は,会社員・団体職員,公務員,自営・

自営手伝い,パート・アルバイトを勤務先のある就業 者とし,保育園児,幼稚園児,小学生,中学生,高校 生,大学生・大学院生らを通園・通学とした.

新型インフルエンザを想定した場合の外出自粛の選

択の推定は,目的変数を外出自粛の選択とし,選択す

る場合(勧告に従わずに外出する人)を 1 とし,選択

しない場合(勧告従って解除されるまで自宅待機する

人)を 0 とした二値変数として定義した.説明変数は

(3)

Table 1 Summary Statistics

%

%

20.3 1,092 Elderly

29.9 1,611 0-14

Age

49.8 2,678 15-64

51.1 2,732 Female

48.9 2,616 Male

Gender

1.0 53 Elderly worker

36.3 1,953 Worker

Job

9.5 511 Elderly housekeeper 41.4

2,228 Student

1.1 58 No Worker

10.7 578 Housekeeping

34.1 1,790 Bicycle

19.1 1,005 Train

Mode to Commute (MA)

50.7 2,663 Walking

13.8 726 Bus

1.6 83 Others

46.7 2,456 Carormotorbikes

9.1 459 Consultation (05/06) 12.7

663 Consultation (06/07)

Influenza infection

1.1 55 No-consultation (05/06) 2.8

146 No-consultation (06/07)

89.8 4,510 No-Infected (05/06)

84.5 4,394 No-Infected (06/07)

41.1 1,794 Vaccination (05/06)

41.6 1,958 Vaccination (06/07)

Influenza vaccination

58.9 2,568 No vaccination (05/06) 58.4

2,750 No vaccination (06/07) Note :Elderly isover65

Table 2 Decisionson travel

%

6.7 355 Going out

Staying home Going outifnecessary 2,485 47.1 46.2 2,434 Staying home definitely

年齢,性別,職業,主な交通手段,インフルエンザ罹 患歴,インフルエンザワクチン接種歴,オセルタミビ ル投薬の服用選択,現在の在宅勤務体制,現在の食料 備蓄体制,食料備蓄予定とした.選択しない場合に比 べて選択する場合の単変量回帰分析で有意な変数から 多変量回帰分析を行った.

回答は 1,727 世帯,有効回答者数は 5,381 人であっ た.Table 1に回答者属性を示した.平均年齢は 36.9 歳,男性 48.9% であった.勤務先のある就業者(65 歳以上の高齢者を含む)が 37.3% であった.

現在の主な交通手段は,複数回答で電車 19.1%,バ ス 13.8%,車・バ イ ク 46.7%,自 転 車 34.1%,徒 歩 50.7%,あった.

2005! 2006,2006! 2007 シーズンにインフルエンザ 罹患歴は,罹患有で医療機関へ受診した人はそれぞれ 9.1%,12.7% で あ っ た.2005! 2006,2006! 2007 シ ー ズンにインフルエンザワクチン予防接種は,受けた人 がそれぞれ 41.4%,41.1% であった.

Table 2に新型インフルエンザ国内発生の場合の外 出自粛の選択を示した.勧告に従わず外出すると思う 人が 6.7%,様子を見て外出すると思う人が 47.1% で,

勧告に従わず外出をすると,様子をみて外出をする人

(以下両者をあわせて「外出する人」とする)は 53.8%

であった.勧告が解除されるまで自宅にとどまると思 う人(以下「外出しない人」)が 46.2% であった.

Table 3に現在の在宅勤務体制,食料備蓄体制を示 した.現在の在宅勤務体制は 65 歳以上のデータを除 いた就業者の回答で,現在在宅勤務が可能で,週に 1 度在宅勤務している人が 7.6%,在宅勤務はしていな い人が 4.7%,現在在宅勤務が不可能で 1 年後には,在 宅勤務ができるようになると思う人が 0.7%,1 年後 には,在宅勤務ができるようになると思わない人が 60.2%,わからないが 26.7% であった.

現 在 の 食 料 備 蓄 は,3 日 程 度 分 し て い る 世 帯 が 29.9%,1 週間程度している世帯が 5.8%,2 週間程度 している世帯が 1.5%,して い な い 世 帯 が 62.8% で あった.今後,2 週間程度の備蓄をする予定がある世 帯が 29.6% であった.

Table 4に予防投薬の服用の選択について示した.オ セルタミビル処方の服用の選択は,インフルエンザの 毎年並みの死亡者数の場合でのオセルタミビル服用 は,服用すると思う(服用させると思う)人が 33.8%,

死亡者数が多い場合でのオセルタミビル服用は,服用 すると思う(服用させると思う)人が 67.7% であっ た.

次に,新型インフルエンザを想定した場合の外出自 粛の選択の単回帰分析を行った.有意水準は 5% とし た.目的変数を外出自粛の選択(外出する=1,外出 しない=0)として,説明変数を年齢,性別,職業,主 な交通手段,インフルエンザ罹患歴,インフルエンザ ワクチン接種歴,現在の在宅勤務体制,現在の食料備 蓄の体制とした.主な交通手段は,電車またはバス,

車またはバイク,徒歩または自転車と 3 分類とした.

現在の在宅勤務体制は,現在可能である場合を体制の

(4)

Table 3 Working athome and food inventory

%

7.6 154 Yes,once a week

Can you work atHome ?

4.7 95 Yes,butnot

0.7 15 No butpossible in one year

60.2 1,213 No and impossibility even in one year

26.7 539 Unknown

30.0 1,598 Forabout3 days

CurrentFood inventory Forabout1 weeks 308 5.8 1.5 80 Forabout2 weeks

62.7 3,350 No

29.6 1,263 Plan for food inventory Yes

for2 weeks No 874 20.5

49.9 2,125 Unknown

Table 4 Decisionsto use Oseltamivir

%

33.8 1,752 Low mortality asseasonalflu Yes

66.2 3,426 No

67.7 3,474 High mortality Yes

32.3 1,655 No

ある者とした.現在の食料備蓄の体制は,3 日以上し ている場合を体制のある者とした.これらの単変量回 帰分析で有意な変数であった,年齢,性別,職業,主 な交通手段,インフルエンザ予防接種歴,インフルエ ンザ罹患歴,現在の食料備蓄の体制を用いて多変量回 帰分析を行った.

Table 5に,多変量回帰分析の結果を示した.多変 量回帰分析でオッズ比が有意に 1 を超えた変数は,

30〜39 歳,40〜49 歳,男性,高齢者(65 歳以上)の 就業者,インフルエンザワクチン接種歴無い者であり,

1 を下回った変数は,通園・通学者,専業主婦,車・

バイクの利用の無い者であった.すなわち,30 歳代,

40 歳代,男性,高齢者の就業者,インフルエンザワ クチン接種歴の無い者は有意に外出する選択をしてい ることが明らかになった.

1.外出自粛の効果,予防投薬の服用,食糧備蓄 新型インフルエンザ対策として諸外国でも行われて いる数理モデルのシミュレーションや対策の費用対効 果を行うためには,個人の行動に関するパラメーター が必要である.しかし,食料備蓄や予防投薬としての オセルタミビルの服用についても,個人の行動にゆだ ねられていることが多く,パラメーターが明らかに なっていなかった.

先行で行われた,外出自粛のシミュレーションの検 討では外出自粛の割合を 4 割と想定して,シナリオは

前述のとおり首都圏モデル,輸入例の国内侵入,最短 のタイミングで対策が講じられた場合としている.最 短のタイミングとは,初発例患者の確定診断が感染し て 5 日目に行われて,6 日目には外出自粛の対策が講 じられた場合である.対策が講じられなかった場合の 推定感染者は 10 日目で 126,951 人であり,外出自粛 の対策が講じられた場合の推定感染者は,10 日目で 8,154 人とおよそ 13 分の 1 程度に感染者を抑えること ができるとされた.しかしながら,この研究では年齢 層や就業の有無に関わりなく外出自粛が設定された が,本研究のパラメーターを用いれば,もっと精密な 効果を検討することができる.

現在このようなシミュレーションは,全国単位での 試みが行われている.これからのシミュレーションで は,年齢層や就業の有無によって検討することで,新 型インフルエンザの社会的影響,経済的影響について も追加的に検討することが可能と示唆された.

新型インフルエンザ対策の中には予防投薬の服用が あるが,2007 年 3 月に厚生労働省からオセルタミビ ル処方の控えの通知が出てから,服用する患者の側に もオセルタミビル服用についても控える傾向がみられ ている.このことが,新型インフルエンザ対策におい ても,影響があるかどうかが懸念されるところである が,本調査では,インフルエンザの毎年並みの死亡者 数の場合であると,服用する人が 3 分の 1 程度である が,死亡者数が多い場合は,3 分の 2 程度であった.

さらに,現在の食料備蓄は,地震,台風時を考慮し た 3 日程度は 3 割の世帯がしているが,2 週間程度と なると 2% 弱であり,まったくしていない世帯が 6 割,

今後,2 週間程度の備蓄をする予定がある世帯が約 3 割であった.これらのことも,対策の検討において,

必要なパラメーターが得られたと評価できた.

2.職場の対応

外出自粛するかどうかの選択では,30 歳代,40 歳

(5)

Table 5 Multivariable regression model of decisions whetherstay home flu

95%CI odds

1.58 1.15 1.35 Gender[male]

0.35 0.12 0.21 Age [0 9]

1.12 0.39 0.66 Age [10 19]

4.30 0.72 1.72 Age [20 29]

5.16 1.91 3.14 Age [30 39]

4.34 1.74 2.75 Age [40 49]

3.43 0.78 1.61 Age [50 59]

2.06 0.64 1.14 Age [60 69]

2.26 0.71 1.29 Job [worker]

0.27 0.08 0.15 Job [student]

0.41 0.12 0.23 Job [housekeeper]

82.51 3.21 13.93 Job [elderly worker]

1.04 0.69 0.85 Transportation by train orbus

0.90 0.62 0.75 Transportationby carormotorbikes

1.30 0.93 1.10 Transportationby walking orbicycle

2.29 0.87 1.40 Vaccination forinfluenza

1.52 1.08 1.28 Infection ofinfluenza

1.02 0.71 0.85 Food inventory

Note :Reference ofage classisthe those who are over70 years old and,reference ofjob isthe elderly housekeepers.

代が他の年代に比べて有意に「外出する」年齢層であっ た.この年代は平成 17 年国勢調査

8)

によると,他の年 代に比べて就業者割合が高いことと関連していると思 われる.そこで,この「外出する」選択に大きく影響 を与える要因の一つとして,職場の対応があると考え られる.仕事が忙しく,インフルエンザが流行してい ても職場には出勤するという考えがある一方で,業務 命令として職場から出勤を止められれば外出はしない という考えがあると思われる.すなわち,仕事をもつ 社会人にとっては,行動を規定する要因は職場側の指 示であり,そのうえでも職場の対応策が必要である.

職場の対応策の 1 つとして在宅勤務が考えられる.

本調査では,現在,在宅勤務の体制にある就業者は 1 年後にできる可能性がある就業者をあわせても 1 割弱 と非常に低かった.しかしながら,在宅勤務体制は今 回の調査では外出するかどうかの選択に有意な関係は なかった.今後の職場の対応策が進むにつれ,このと ころは変化がみられる可能性があるとおもわれた.

2 つ目の職場の対応策として,通勤時間帯の変動に よる感染リスクを減らすことが考えられる.現在,出 勤時間帯が一律であることから,朝の通勤時間帯の電 車は満員状態となっているので,シミュレーションで は効率よく感染が拡大する結果になっている.そこで,

始業時刻を変動させることによって,例えば 8 時,9 時,10 時,11 時など 1 時間おきに始業時刻を設定す るなど,満員電車のような混雑状況を緩和させること ができれば,感染効率を低め,感染者を低減させるこ

とになると思われる.

このように,職場の対応策は,就業者にとって,外 出自粛を選択しやすい状況をつくりだすことができ る.これらの策は,企業の経営戦略に直結しており,

人事管理としても検討が可能である.人事管理は,採 用や異動についてだけではなく,従来から組織として の生産性向上に関わる主要業務のとして健康管理が位 置づけられている.また,通常業務のなかに,休暇管 理がある.職場が感染症対策として,在宅勤務をする ようにとの指示,始業時刻を変動するようにとの指示,

自宅からの外出を控えるようにとの指示をする場合に は,出勤や休暇等の取り扱いなどの社内ルールを定め る対策をすることになる.さらに従業員全員に対する 周知徹底を行う情報のルートを持っており,トップマ ネジメントと頻繁に情報交換し,意思決定をタイム リーに行うことができる.このような情報管理の機能 ももっている.

一部の企業では,事業存続のために危機管理の専門 部署を組織の内部に設置しているところもある.しか しながら,専門部署を持たない企業では,「コンティ ンジェンシー・プラン」が人事管理の業務となってい る例が多い.コンティンジェンシー・プランとは,各 従業員の行動指針や行動計画,顧客企業・取引先およ びマスコミへの対応の方針と具体的方法,業務の継続 および復旧に関する事項などを前もって平時のうちに 決めておく危機管理のことである.

厚生労働省のガイドラインにおいても,事業所のガ

(6)

イドラインが出されているが,事業所が実際に対策を しているかどうかは現在のところ明らかになっていな い.このように,健康・休暇・情報・危機のそれぞれ の人事管理に,新型インフルエンザ対策を組み込む方 策が考えられ,今後の大きな検討課題であると示唆さ れた.

3.個人の対応

在宅勤務の体制にある就業者は,1 年後にできる可 能性がある就業者をあわせても 1 割弱と非常に低い が,在宅勤務体制は今回の調査では外出するかどうか の選択に有意な関係はなかった.むしろ,現在の在宅 勤務体制を含めての職場での対応がほとんどない体制 では,予防接種などの個人の感染症リスクや感染症流 行の捉え方が,行動の選択に影響を与えていると思わ れた.インフルエンザワクチン接種歴がないことは,

通年のインフルエンザの罹患に関して,自分は罹患し ないと感染のリスクを低く見積もっていると思われ,

個人の危機管理についての情報提供の必要性もあると 考えられた.

4.研究限界

本研究の限界は 3 つある.1 つは,現在新型インフ ルエンザは国内で発生していないため,一般住民に とっての危機感を過小評価している可能性があること である.また,新型インフルエンザの死亡者数の情報 によって,選択の行動が変わる可能性がある.例えば 死亡者数が例年のインフルエンザ並みである場合と,

死亡者数が多い場合では,外出するかどうかの選択が 変わる可能性があるが,このところは分析できていな い.新型インフルエンザについての情報が集約され,

自然史の解明が進むにつれて医療従事者のみならず一 般住民にも適切な情報が提供されていけば,評価がか わる可能性がある.このような調査を定期的にモニタ リングする必要があると思われた.

2 つ 目 は,12 カ 国 で 高 病 原 性 鳥 イ ン フ ル エ ン ザ

(H5N1)の発生が確認されており,そこの地域に渡 航する者についての行動の選択が明らかになっていな い.これは,当地への渡航経験のある者,渡航予定の ある者の情報を得たうえで,分析をする視点も必要で あると思われた.

3 つ目は,本研究では因果関係までは明らかになっ ていない.仮想的な質問を用いての現時点での個人の 選択であるが,個人の選択の変化を明らかにすること

はできていない.同じ個人において追跡調査が可能で あれば,刻々とかわる新型インフルエンザの世界情勢 やワクチンの生産についての情報を加えていくことに よって,選択の変化を観察することは,今後は必要で あると思われた.

新型インフルエンザ流行を想定した場合の,外出自 粛の選択をする人が 4 割以上であることが明らかにな り,新型インフルエンザ対策として,数理モデルを用 いての外出自粛の効果について検討できるようになっ た.また,今後は外出自粛を選択するための検討,特 に職場の対策の必要性が示唆された.

謝辞:本研究は,平成 19 年度厚生労働科学研究費補助 金(健康危機管理・テロリズム対策システム研究事業)「バ イオテロによる曝露状況の推定,被害予測・公衆衛生的対 応の効果評価のための数理モデルを利用した天然痘ワクチ ンの備蓄及び使用計画に関する検討」(主任研究者:国立 感染症研究所感染症情報センターセンター長岡部信彦)及 び,医療科学研究所の第 8 回助成金を受けた研究の一部で ある.

文 献

1)World Health Organization:Confirmed Human Cases of Avian Influenza A (H5N1),2008!3!17.

2)World Health Organization:Department of Communicable Disease Surveillance and Re- sponse Global Influenza Programmed, 2005.

3)U.S. Department of Health and Human Serv- ices:HHS Pandemic Influenza Plan, Novenber 2005.

4)UK Health Departments:UK Influenza pan- demic contingency plan, October 2005.

5)Public Health Agency of Canada:The Cana- dian Pandemic Influenza Plan for the Health Sector. 2006.

6)Ohkusa Y, Sugawara T:Application of an individual-based model with real data of trans- portation mode and location to pandemic influ- enza. Journal of Infection and Chemotherapy 2007;13:380―9.

7)新型インフルエンザ専門家会議:新型インフル エンザ対策ガイドライン(フェーズ 4 以降),厚 生労働省,平成 19 年 3 月 26 日

8)平成 17 年国勢調査第 1 表労働力状態(8 区分),

年齢(各歳),男女別 15 歳以上人口,総務省統 計局,2005.

(7)

Survey of Pandemic Behavior : to Stay at Home or Not Tamie SUGAWARA

1)

, Masakazu SUGIURA

2)

, Yasushi OHKUSA

1)

,

Kiyosu TANIGUCHI

1)

& Nobuhiko OKABE

1)

1)Infectious Disease Surveillance Center, National Institute of Infectious Diseases,

2)Waseda University, Graduate School of Commerce

[Objectives] Preparedness plans for pandemic flu are published in many countries. Since the details of pandemic flu are still not clear, mathematical models are widely used for the development of pandemic flu preparedness plans. Obtaining actual numbers for parameters in a mathematic model is very difficult. Our objectives were (1) to obtain realistic estimations of what proportion of people will decide to stay at home during pandemic flu and (2) to investigate reasons for their decisions. If the number of parameters is ob- tained, we can apply these parameters to the mathematical pandemic model.

[Methods] In April 2007, we a surveyed 2,614 households, selected randomly from 250,000 in Japan.

“Reason to stay at home during a pandemic flu,” “Working at Home”, and “food inventory” were asked. We analyzed the “decision of whether to stay home” by multivariate analysis.

[Results] We collected responses from 1,727 households (5,381 individuals). Of these, 46.1% would defi- nitely stay at home, 47.1% would leave if necessary, and 6.7% would leave anyway. We found that “30-40 years old,” “vaccination of influenza,” and “cars and motorbikes as normal transportation” significantly affect the decision to “stay at home.”

[Conclusions] We identified major factors for the decision of general Japanese people to stay home dur-

ing pandemic flu. The fact that people most likely to go out were 30-40 years old suggests a close relation-

ship to workplaces policy. To encourage people to stay at home during pandemic flu, management and hu-

man resource management policies in the workplace are thus important.

Tabl e  1 Summar y  St at i s t i c s %n%n 20. 31,092Elderly29.91,6110-14Age 49. 82,67815-64 51
Tabl e  3 Wor ki ng  at home  and  f ood  i nvent or y
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