第7章 佐藤理論入門
∗福岡工業大学 工学部及 川 正 行
† 本章ではソリトンに関する佐藤理論について述べる.KdV方程式あるいはKP方程式のLax pair L, Bにおける 微分作用素Lの代わりに擬微分作用素Lを導入する.擬微分作用素の導入は必然的に無限個の従属変数の導入 を意味する.それと同時にL1/2やW−1LW = ∂ (∂は∂/∂xを意味する)を満たすWが擬微分作用素として 存在するので非常に都合がよい.さらに,無限個の時間変数t1, t2, t3,· · · を導入して固有関数ψのtn方向の発 展を∂ψ/∂tn= Bnψ (KdVの場合はBn= Ln/2の微分作用素部分,KPの場合はBn= Lnの微分作用素部分) ととることによってKdV階層やKP階層がえられる.Lax表示から,Wを用いた表示に移るとLax方程式の かわりに佐藤方程式がえられる.佐藤方程式の解の分母をτ関数と呼べば,佐藤方程式の解,KP方程式の解, Lに対する固有値関数ψなどがすべてτ関数で表せ,しかもτ関数は広田の双線形微分方程式を満たすことな どを述べる.Chapter 7 An Introduction to the Sato Theory
Masayuki OIKAWA
,Faculty of Engneering, Fukuoka Institute of Technology1 はじめに ソリトン方程式は Lax 表示ができて逆散乱法によっ て N -ソリトン解が求められる.また,広田の方法1)で はソリトン方程式は従属変数の変換によって双線形微分 方程式に帰着され,摂動論的方法で N -ソリトン解が求 められた.広田の方法における従属変数は τ 関数(数学 者はたいてい “函数”を用いているがすでに “関数”とい う語を使ってしまったので今後も “関数”を用いる)と 呼ばれることが多いので,ここでも τ 関数と呼ぶこと にする.ソリトン解における τ 関数は指数関数の多項 式という形である.広田の方法はソリトン方程式の解 析に非常に強力であるが,なんだかよくわからないと いう疑問はそれが登場した頃からあった.それが次第に 整備された.広田微分が現れ,ソリトン解に対しては 摂動論的展開法が現れ,非常にすっきりしてきたのであ る.形の上ではすっきりしてきたが,本当のところはや はりよくわかっていなかった.佐藤幹夫氏がそれを数学 的に解明したのである2, 3).佐藤理論では,Lax 表示の 微分作用素 L を擬微分作用素で置き換える.さらに無 限個の時間変数を導入して,無限個の方程式(KdV 階 層,KP 階層など)を同時に扱う.無限個の時間変数の ∗〒811–0295福岡市東区和白東3丁目30–1 †E-mail: [email protected] 導入は無限個の対称性の存在に関係している.KP 階層 の解の全体は Grassmann 多様体をなし,KP 階層の方程 式はすべて τ 関数の双線形微分方程式であり,しかも それらの微分方程式はこの Grassmann 多様体と同等な 射影空間の定義方程式を与える Pl¨ucker 関係式からえら れる.KP 方程式に対する双線形微分方程式はこれらの Pl¨ucker 関係式の 1 つである.さらに,KP 方程式の解 などがすべて τ 関数によって表され,τ 関数が中心的な 役割を果たすことが示された. 佐藤理論を解説したものもいろいろある.まず,村瀬 による解説がある4).また,Ohta らによる解説論文5) もある.さらに上野による記事6)を引用しておきたい. 最近のものでは津田の解説7)がある.また三輪らによ る本8)も挙げておきたい.この本は佐藤理論の他に彼 ら自身の結果を含む入門書である.他に佐藤氏の(出版 されていない)講義録(村瀬元彦氏が筆記したノート) がある.時々信念を織り交ぜて,数学理論の建設の現場 を垣間見せてくれるすばらしい講義録であるが,引用で きないのは残念である. この章では佐藤理論の初歩を私のわかる範囲で述べ る.その際,上記の文献を多少とも参考にしたが,とく に Ohta らの解説論文5)は具体的な計算を主体としてい て私には分かり易ったのでとくに第 5 節以後はこの解 説論文に従って議論を進めた.ここで,著者の方々に謝 ʤ࿈ࡌʥඇઢܗಈ ʕ ιϦτϯΛத৺ͱͯ͠ ʕ
意を表しておきたい. 2 KdV 階層 ここでは KdV 方程式を 4ut= 12uux+ uxxx (7.1) の形で考える.Lax9)によれば,これに対して線形作用素 L = ∂2+ 2u(x, t) B = ∂3+ 3u∂ +3 2ux (7.2) (∂ は ∂/∂x を表す) を用いて L の固有値問題と固有関 数 ψ の時間発展を Lψ = λ2ψ ∂ψ ∂t = Bψ (7.3) とするとき,固有値 λ2が時間不変となるための条件 ∂L ∂t = [B, L] = BL− LB (7.4) がちょうど KdV 方程式 (7.1) に一致するのであった.こ れは Lax 方程式と呼ばれたり,KdV 方程式の Lax 表示 と呼ばれたりする.さらに Lax は作用素 B をうまく選 べば,高次 KdV 方程式がえられることを見出した.つ まり, B1= ∂, B3= ∂3+ 3u∂ +32ux, B5= ∂5+ 5u∂3+152ux∂2 + (254uxx+152u2)∂ +158uxxx+152uux · · · (7.5) と選べば,(7.4) は (B を Biで置き換えて) ut= ux ut= (14uxx+32u2)x ut= (161uxxxx+45uuxx+58u2x+ 5 2u 3) x · · · (7.6) となる. このような Bi は決定できるけれどもその計算は非 常に面倒だ.なにかうまい方法はないだろうか.つま り,この B を系統的に決定できないだろうか.B2 = L, B4= L2,· · · とすれば,[B2, L] = 0, [B4, L] = 0 と なって,自明ではあるが 0 階の微分作用素になるから, B1= L1/2, B3= L3/2, B5= L5/2なのだろうか. ここで次のような擬微分作用素を導入しよう. P = ∞ ∑ j=0 aj(x)∂n−j, a0(x)6= 0 (7.7) を n 階の擬微分作用素 (microdifferenial operator) という. さて,[B, L] を計算するとき,われわれはライプニッ ツの定理 (af )(n)= n ∑ r=0 ( n r ) a(r)f(n−r), (n : 自然数) ( n r ) =n(n− 1) · · · (n − r + 1) r! (7.8) (ただし,a(r)等は a(x) の x に関する r 階の導関数を 表す.また,x に関する導関数を表すために a0, a00等の 記号も用いる.)を利用して,関数 a(x) を左から掛ける 演算と,∂ のベキ演算の順序を ∂na = ∞ ∑ r=0 ( n r ) a(r)∂n−r (7.9) によって交換する.n が自然数のときにはこの和は r = n までの有限和である.擬微分作用素 (7.7) には ∂ の負ベ キが現れるけれども,n が負の整数のときにも (7.9) が 成り立つと考える.ただし,その場合には級数は有限で は切れない.(7.8) の第 2 式を n が負の場合にも ( n r ) の定義式と考えるのである.例えば ∂−1a = a∂−1− a0∂−2+ a00∂−3+· · · ∂−2a = a∂−2− 2a0∂−3+ 3a00∂−4+· · · (7.10) である.そのとき,2 つの擬微分作用素 P = ∞ ∑ j=0 aj(x)∂n−j, Q = ∞ ∑ k=0 bk(x)∂m−k (7.11) の積は P Q = ∞ ∑ j=0 aj(x)∂n−j ∞ ∑ k=0 bk(x)∂m−k = ∞ ∑ j=0 ∞ ∑ k=0 aj(x)∂n−j(bk(x)∂m−k) = ∞ ∑ j=0 ∞ ∑ k=0 ∞ ∑ r=0 aj ( n− j r ) b(r)k ∂m+n−j−k−r = ∞ ∑ i=0 ci∂m+n−i (7.12) ただし ci= ∑ j+k+r=i ( n− j r ) ajb (r) k (7.13) となり,やはり擬微分作用素である(擬微分作用素に関 する数学的枠組みについては3)を参照).とくに,c iの はじめのいくつかは c0= a0b0, c1= a0b1+ a1b0+ na0b00, c2= a0b2+ a1b1+ a2b0+ na0b01 +(n− 1)a1b00+ n(n− 1) 2 a0b 00 0 (7.14)
である. さて,微分作用素の中で L1/2を求めるのは困難であ ろうが,擬微分作用素ならできるのである.それを X = ∂ + ∞ ∑ n=1 fn∂−n (7.15) としよう.すると X2= ( ∂ + ∞ ∑ n=1 fn∂−n )( ∂ + ∞ ∑ m=1 fm∂−m ) = ∂2+ 2 ∞ ∑ n=1 fn∂1−n+ ∞ ∑ n=1 fn0∂−n + ∑ m,n=1,`=0 ( −n ` ) fn(∂`fm)∂−m−n−` (7.16) となるから,これを ∂2+ 2u とおくと,f1, f 2,· · · が順 次決まって L1/2= ∂ + u∂−1−1 2ux∂ −2+(uxx 4 − u2 2 ) ∂−3 + ( −uxxx 8 + 3 2uux ) ∂−4+· · · (7.17) となる. Bn として Ln/2 をとると [Ln/2, L] = 0 となってし まって,おもしろくないので, Bn := (Ln/2)+= Ln/2の微分作用素部分 (7.18) と定義する. Ln/2− (Ln/2)+ =−Bcnと書こう.Bn = Ln/2+ Bnc であるから, [Bn, L] = [Ln/2, L] + [Bnc, L] = [Bnc, L] = [−αn∂−1+βn∂−2+· · · , ∂2+2u] (7.19) の形である.ここで,αn, βn,· · · は u の微分多項式であ る.αnは Ln/2における ∂−1の係数であることに注意 しよう.(7.12) と (7.14) からわかるように,[Bn, L] の 最高階は−1 + 2 − 1 = 0 である.しかも Bn, L はとも に微分作用素だから,[Bn, L] も微分作用素である.し たがって,[Bn, L] は 0 階の微分作用素である. (7.19) の 0 階項を具体的に計算すれば,[Bn, L] = 2(αn)xである.したがって,Lax 方程式 Lt= [Bn, L] は ut= (αn)xとなる.実際に,(7.18) の Bn を計算す ると,(7.5) がえられる. u が x の他に t1, t3, t5,· · · の関数でもあるとする. Lψ = λ2ψ ∂ψ ∂tn = Bnψ, (n = 1, 3, 5,· · · ) (7.20) の両立条件(λ2は変数には依らないとして)として ∂L ∂tn = [Bn, L], (n = 1, 3, 5,· · · ) (7.21) がえられる.これは KdV 階層 (KdV hierarchy) ut1= ux ut3= ( 1 4uxx+ 3 2u 2) x ut5= ( 1 16uxxxx+ 5 4uuxx+ 5 8u 2 x+ 5 2u 3) x · · · (7.22) を表す. ところで,∂ψ ∂tn = Bnψ と ∂ψ ∂tm = Bmψ が両立する ということは発展の方向の順序によらず同じ結果を与 えることを意味する.つまり ∂ ∂tm (Bnψ) = ∂ ∂tn (Bmψ) を意味する.これを実際に計算すると ∂ ∂tm (Bnψ)− ∂ ∂tn (Bmψ) = ∂Bn ∂tm ψ−∂Bm ∂tn ψ + Bn ∂ψ ∂tm − B m ∂ψ ∂tn = (∂B n ∂tm − ∂Bm ∂tn + [Bn, Bm] ) ψ = 0 であるが,ψ は固有関数なので,任意の関数の基底にな ると考えられて ∂Bn ∂tm −∂Bm ∂tn + [Bn, Bm] = 0 (7.23) が成り立つ.これを Zakharov-Shabat 方程式10)と呼ぼ う.これは Lax 方程式と同値であることを証明できる が,それには次節の最後で触れる. 3 KP 階層 擬微分作用素 L = ∞ ∑ n=0 un∂1−n (7.24) を考える.ただし,u0 = 1, u1= 0 と規格化しておく. このような規格化はいつでも可能である.すなわち L = ∂ + u2∂−1+ u3∂−2+· · · (7.25) とする.L の固有値問題と固有値 λ を不変に保つよう な固有関数の時間発展 Lψ = λψ ∂ψ ∂tn = Bnψ, Bn:= (Ln)+ (7.26)
を考える.ただし,u2, u3,· · · は x 以外に無限個の変数 t1, t2, t3,· · · にも依存するものとする.このとき,これ らの両立条件として Lax 方程式 ∂L ∂tn = [Bn, L], (n = 1, 2, 3,· · · ) (7.27) をえる. Bnのはじめのいくつかを計算すると B1= ∂ B2= ∂2+ 2u2 B3= ∂3+ 3u2∂ + 3u3+ 3u2x
B4= ∂4+ 4u2∂2+ (4u3+ 6u2x)∂ + 4u4+ 6u3x+ 4u2xx+ 6u22
· · · である. Lax 方程式 (7.27) から無限個の方程式がえられる.ま ず,n = 1 に対しては (7.27) は ∂L ∂t1 = [∂, L] = ∂L ∂x (7.28) となるから,uit1 = uix, (i = 2, 3,· · · ) が成り立 つ.つまり,すべての i = 2, 3,· · · に対して ui が (x + t1, t2, t3,· · · ) の関数になっていることを意味する. また,n = 2 に対して (7.27) は ∂u2 ∂t2 ∂−1+∂u3 ∂t2 ∂−2+∂u4 ∂t2 ∂−3+· · · = (∂2+ 2u 2)(∂ + u2∂−1+ u3∂−2+· · · ) −(∂ + u2∂−1+ u3∂−2+· · · )(∂2+ 2u2) = (u2xx+ 2u3x)∂−1+ (u3xx+ 2u4x+ 2u2u2x)∂−2
+(u4xx+ 2u5x− 2u2u2xx+ 4u2xu3)∂−3+· · · となるから,両辺の ∂−j (j = 1, 2,· · · ) の係数を比較 して ∂u2 ∂t2 = u2xx+ 2u3x ∂u3 ∂t2 = u3xx+ 2u4x+ 2u2u2x ∂u4 ∂t2
= u4xx+ 2u5x− 2u2u2xx+ 4u2xu3
· · · (7.29) をえる.同様にして n = 3 に対する (7.27) から ∂u2 ∂t3 = u2xxx+3u3xx+3u4x+6u2u2x ∂u3 ∂t3
= u3xxx+3u4xx+3u5x+6u2u3x+6u2xu3
∂u4
∂t3
= u4xxx+3u5xx+3u6x−3u2u3xx
−3u2xxu3+3u2u4x+9u2xu4+6u3u3x
· · · (7.30) をえる.さらにこれを続ければ,u2, u3, u4,· · · に対す る無限個の方程式系をえる.(7.29) のはじめの 2 式と (7.30) の最初の式から u3, u4を消去すれば,u2に対す る方程式 ∂ ∂x ( − 4∂u2 ∂t3 + 12u2 ∂u2 ∂x + ∂3u 2 ∂x3 ) + 3∂ 2u 2 ∂t22 = 0 (7.31) をえる.これは t2 = y, t3 = t と書けば,Kadomtsev-Petviashvili (KP) 方程式11)である.これがこの無限個の 方程式系からえられる最も簡単な方程式なので,この無 限個の方程式系は KP 階層 (KP hierarchy) と呼ばれる. ここで,Zakharov-Shabat 方程式 (7.23) が Lax 方程式 (7.27) から導けることを示そう. ∂L2 ∂tn = ∂L ∂tn L + L∂L ∂tn = [Bn, L]L + L[Bn, L] = (BnL− LBn)L + L(BnL− LBn) = BnL2− L2Bn = [Bn, L2] 同様に ∂L3 ∂tn = ∂L ∂tn L2+ L∂L ∂tn L + L2∂L ∂tn = [Bn, L]L2+ L[Bn, L]L + L2[Bn, L] = (BnL−LBn)L2+L((BnL−LBn)L+L2(BnL−LBn) = BnL3− L3Bn = [Bn, L3]. こうして,一般に ∂Lm ∂tn = [Bn, Lm] (7.32) が成り立つことがわかる.したがって ∂Lm ∂tn − ∂Ln ∂tm = [Bn, Lm]− [Bm, Ln] (7.33) である.Ln = B n− Bnc と書けば,Bnc は高々 (−1) 階 の擬微分作用素であって ∂Lm ∂tn − ∂Ln ∂tm = [Ln+Bnc, Lm]−[Bm, Bn−Bnc] = [Bnc, Bm− Bmc ]− [Bm, Bn− Bcn] = [Bn, Bm]− [Bcn, Bmc] (m, n= 1) (7.34) である.両辺の微分作用素部分をとれば,Zakharov-Shabat 方程式 ∂Bm ∂tn − ∂Bn ∂tm = [Bn, Bm] (m, n= 1) (7.35) がえられる.この式で m = 2, n = 3 とすれば,KP 方 程式 (7.31) が再びえられる. ところで,(7.34) の負ベキ部分をとれば ∂Bc m ∂tn − ∂Bc n ∂tm + [Bmc, Bnc] = 0 (m, n= 1) (7.36) となり,同じ形の式がえられることに注意しよう.
(7.27) は KP 階層を表すから,(7.27) を KP 階層の Lax 表示と呼んでよいであろう.また,上で Lax 方程 式から Zakharov-Shabat 方程式を導いたが,これらは同 等であることがわかっているので,(7.35) を KP 階層の Zakharov-Shabat 表示 と呼んでよい. 4 KP 階層の W による表示 前節で用いた擬微分作用素 L を W−1LW = ∂ (7.37) の形にできれば都合がよい.実際これが 0 階の擬微分 作用素 W = 1 + w1∂−1+ w2∂−2+ w3∂−3+· · · (7.38) によって可能なのである.これを見るために LW = W ∂ を計算しよう. W ∂ = ∂ + w1+ w2∂−1+ w3∂−2+ w4∂−3+· · · LW = ∂ + w1+ (w2+ w1x+ u2)∂−1 +(w3+ w2x+ u2w1+ u3)∂−2+ (w4+ w3x +u2w2− u2w1x+ u3w1+ u4)∂−3+· · · であるから,∂−j (j = 1, 2,· · · ) の係数を比較して w1x+ u2= 0 w2x+ u2w1+ u3= 0 w3x+ u2w2− u2w1x+ u3w1+ u4= 0 · · · (7.39) をえる.u2, u3,· · · が与えられると w1, w2,· · · は積分 定数を除いて決まる.それはちょうど 0 階の(x に関し て)定数係数の擬微分作用素 C = 1 + c1∂−1+ c2∂−2+· · · (7.40) によって W を W C に変える自由度に対応している.こ れは C と ∂ が可換であるので (W C)∂(W C)−1= W C∂C−1W−1= W ∂W−1= L が成り立つからである. Lax 表示 (7.27) を W を使って書き換えることを考え よう.L = W ∂W−1だから ∂L ∂tn = ∂W ∂tn ∂W−1− W ∂W−1∂W ∂tn W−1 = [∂W ∂tn W−1, L ] (7.41) である.したがって [∂W ∂tn W−1− Bn, L ] = 0 (n= 1) (7.42) をえる.Bn= Ln+ Bcnであったから,これは [∂W ∂tn W−1− Bnc, L ] = 0 (n= 1) (7.43) とも書ける.上で述べたように W の取り方には自由度 があるので,それをうまく選べば,(7.42) よりももっと 強い形で ∂W ∂tn W−1= Bnc, Bnc=−(W ∂nW−1)− (n= 1) (7.44) を満たすようにできることを示そう.この式の最後の (· · · )−は擬微分作用素 (· · · ) の負ベキ部分である.Bc n= Bn− Ln, Ln = W ∂nW−1だから,(7.42) は ∂W ∂tn = BnW− W ∂n, Bn= (W ∂nW−1)+ (n= 1) (7.45) と書ける. いま L = W ∂W−1となる 0 階の擬微分作用素 W を 任意に 1 つ選ぶ.0 階の x に関して定数係数の擬微分作 用素 C をうまく選べば,W0 = W C で与えられる W0 が ∂W0 ∂tn = BncW0, (n= 1) (7.46) を満たすようにできることを示そう.もちろん L, Bn, Bnc は不変であることに注意しよう.W0 = W C を (7.46) に代入すれば, ∂W ∂tn C + W∂C ∂tn = BncW C, (n= 1) (7.47) したがって,C の満たすべき条件は ∂C ∂tn = ( W−1BncW− W−1∂W ∂tn ) C, (n= 1) (7.48) である.C に対するこの方程式が積分可能であること を示せば目的は達成される.そこで Fn= W−1BncW− W−1 ∂W ∂tn , (n= 1) (7.49) とおくと,Fnは高々 (−1) 階の擬微分作用素である.ま た (7.43) から W [ W−1∂W ∂tn − W−1Bc nW, ∂ ] W−1= 0 がえられるが,これは [∂, Fn] = 0 すなわち ∂Fn/∂x = 0, (n= 1) を意味する.したがって,Fnは x に関して は定数係数の高々 (−1) 階の擬微分作用素である. ところで,(7.48) は ∂C ∂tn = FnC (n= 1) (7.50)
と書けるが,Fn, C は t1, t2, t3,· · · の関数であるから, これが積分可能であるための条件は ∂2C/∂t n∂tm = ∂2C/∂t m∂tn であって,この条件を (7.50) を用いて書 き換えると ∂Fm ∂tn − ∂Fn ∂tm + [Fm, Fn] = 0 (m, n= 1) (7.51) となる.この条件の下では,初期条件から (7.50) の解が 一意に決まるのである.それゆえ,(7.51) が成り立つこ とを示せばよいが,これは Bc nに対する Zakharov-Shabat 方程式 (7.36) からわかる.実際 W−1 ( ∂ ∂tn − B c n ) W = W−1 ∂ ∂tn W− W−1BncW = ∂ ∂tn + W−1∂W ∂tn − W−1Bc nW = ∂ ∂tn − Fn に注意すれば [ ∂ ∂tn − Fn, ∂ ∂tm − Fm ] = W−1 [ ∂ ∂tn − Bc n, ∂ ∂tm − Bc m ] W (7.52) がえられるが,(7.36) によってこれは 0 である.よって, (7.51) が成り立つ. (7.45) は Lax 方程式 (7.27) を W で表したものである. これはときどき佐藤方程式と呼ばれる.また,(7.45) は KP 階層の W 表示と呼んでもよいであろう. 5 佐藤方程式の解 佐 藤 方 程 式 は (7.38) を通じて無限個の未知関数 w1, w2,· · · を含むが,(7.38) が有限項で切れて Wm= 1 + w1∂−1+ w2∂−2+· · · + wm∂−m (7.53) であると仮定しても本質は損なわれない4)のでここで もその場合を考える. 常微分方程式 Wm∂mf (x) = (∂m+w1∂m−1+· · ·+wm)f (x) = 0 (7.54) を考えよう.これが m 個の 1 次独立な解 f(1)(x), f(2)(x), · · · , f(m)(x) をもつとする.さらにこれらが解析的であ るとすれば, j = 1, 2,· · · , m に対して f(j)(x) = ξ0(j)+1 1!ξ (j) 1 x+ 1 2!ξ (j) 2 x 2+· · · (7.55) と書ける.このとき rank が m の∞ × m 行列 Ξ = ξ0(1) ξ0(2) · · · ξ0(m) ξ1(1) ξ1(2) · · · ξ1(m) .. . ... · · · ... (7.56) は次の式を満たす. Wm∂m ( 1 x 1! x2 2! · · · ) Ξ = 0. (7.57) ここで,R を m 次の正則な定数行列とすれば,Ξ を ΞR で置き換えても,(7.57) が成り立つことに注意しよう. したがって,Ξ は集合 {rank m の ∞ × m 行列の全体 }/GL(m, C) (7.58) の元である.GL(m, C) は m 次の正則な定数行列の全 体である.この集合は Grassmann 多様体 GM(m,∞) と呼ばれる. さて,シフト作用素 Λ = 0 1 0 0 · · · 0 0 1 0 · · · 0 0 0 1 · · · .. . ... ... . .. . .. (7.59) を導入すると, exp(xΛ) = I + xΛ +x 2 2!Λ 2+· · · = 1 x x2/2! x3/3! · · · 0 1 x x2/2! · · · 0 0 1 x · · · 0 0 0 1 · · · .. . ... ... · · · . .. (7.60) であるから, H(x) := exp(xΛ)Ξ = f(1) f(2) · · · f(m) ∂f(1) ∂f(2) · · · ∂f(m) ∂2f(1) ∂2f(2) · · · ∂2f(m) .. . ... · · · ... (7.61) をえる. ところで (7.54) を w1, w2,· · · wmを未知数として書き 換えると (∂m−1f(1))w 1+(∂m−2f(1))w2+· · ·+f(1)wm=−∂mf(1) · · · (∂m−1f(m))w 1+(∂m−2f(m))w2+· · ·+f(m)wm=−∂mf(m) であるから,wj (j = 1,· · · , m) は f(1),· · · , f(m)を用
いて wj= ∂m−1f(1) · · · −∂mf(1) · · · f(1) .. . · · · ... · · · ... ∂m−1f(m) · · · −∂mf(m) · · · f(m) ∂m−1f(1) · · · ∂m−jf(1) · · · f(1) .. . · · · ... · · · ... ∂m−1f(m) · · · ∂m−jf(m) · · · f(m) (7.62) と書かれる.また,これを用いて Wmは Wm= f(1) · · · f(m) ∂−m .. . · · · ... ... ∂m−1f(1) · · · ∂m−1f(m) ∂−1 ∂mf(1) · · · ∂mf(m) 1 f(1) · · · f(m) .. . · · · ... ∂m−1f(1) · · · ∂m−1f(m) (7.63) となる.ただし,(7.63) において,分子の行列式を計算 するときには作用素 ∂−jが右端に来るようにしなけれ ばならない.(7.62), (7.63) の分母は H(x) のはじめの m 行からなる行列式であって,Wronskian であることに注 意しよう. wj (j = 1, 2,· · · ) は無限個の時間変数 t = (t1, t2,· · · ) の関数であったから,(7.54) の解 fjはパラメーターと して t1, t2,· · · を含む: f(j)= f(j)(x; t) = f(j)(x; t1, t2,· · · ). また,このときの (7.61) の H を H(x; t) と書いておく. H(x; t) の時間発展を H(x; t) = exp(xΛ) exp η(t, Λ) Ξ (7.64) としよう.ただし η(t, Λ) = ∞ ∑ n=1 tnΛn (7.65) である.次に,左辺の作用素を形式的に Λ のベキで exp{(x+t1)Λ + t2Λ2+ t3Λ3+· · · } = ∞ ∑ n=1 pnΛn (7.66) と展開すると pn(x+t1, t2, t3,· · · ) = ∑ ν0+ν1+2ν2+3ν3+···=n ν0,ν1,ν2,ν3,···≥0 xν0tν1 1 t ν2 2 · · · ν0!ν1!ν2!· · · (7.67) である.pnの最初のいくつかは p0= 1 p1= x + t1 p2= 1 2(x + t1) 2+ t2 p3= 1 6(x + t1) 3+ (x + t1)t2+ t3 · · · (7.68) これらの多項式は ∂pn ∂tm = pn−m, (m < 0 のとき pn= 0) (7.69) を満たす.とくに ∂pn ∂x = pn−1 (7.70) である.pnは群の表現論で重要な役割を演じることに 注意しよう5).これらの多項式を用いると H(x; t) は H(x; t) = 1 p1 p2 p3 · · · 0 1 p1 p2 · · · 0 0 1 p1 · · · 0 0 0 1 · · · .. . ... ... ... . .. ξ0(1) ξ0(2) · · · ξ0(m) ξ1(1) ξ1(2) · · · ξ1(m) ξ2(1) ξ2(2) · · · ξ2(m) .. . ... · · · ... = h(1)0 (x; t) h(2)0 (x; t) · · · h(m)0 (x; t) h(1)1 (x; t) h(2)1 (x; t) · · · h(m)1 (x; t) .. . ... · · · ... (7.71) と表される.この行列の要素 h(j) n (x; t) は h(j)0 (x; 0) = f(j)(x) (7.72) および h(j)n (x; t) = ∂h (j) 0 (x; t) ∂tn = ∂ nh(j) 0 (x; t) ∂xn (7.73) を満たす.すなわち,h(j)0 (x; t) は初期条件 h(x; 0) = f(j)(x) (7.74) の下での線形偏微分方程式 ( ∂ ∂tn − ∂n ∂xn ) h(x; t) = 0, n = 1, 2,· · · (7.75) の解である. したがって,(7.54) において時間依存性を考慮しても Wm(x; t)∂mh (j) 0 (x; t) = (∂m+ w1(x; t)∂m−1+· · · + wm(x; t))h (j) 0 (x; t) = 0, j = 1, 2,· · · , m (7.76)
が成り立つ.このとき wj(x; t) と Wm(x; t) は wj(x; t) = h(1)m−1 · · · −h(1)m · · · h (1) 0 .. . · · · ... · · · ... h(m)m−1 · · · −h(m)m · · · h(m)0 h(1)m−1 · · · h(1)m−j · · · h(1)0 .. . · · · ... · · · ... h(m)m−1 · · · h(m)m−j · · · h(m)0 (7.77) および Wm(x; t) = h(1)0 · · · h(m)0 ∂−m .. . · · · ... ... h(1)m−1 · · · h(m)m−1 ∂−1 h(1)m · · · h(m)m 1 h(1)0 · · · h(m)0 .. . · · · ... h(1)m−1 · · · h(m)m−1 (7.78) となる. これが実際に佐藤方程式を満たすことは Ohta ら5)に よって示されている.(7.77), (7.78) の分母が τ 関数であ り,wjの分子も τ 関数の導関数で表されることが後で わかる. また,t1は x と同じ役割をするから,以後 t1と x は 区別しない. 6 Lax 方程式に付随する線形系 Lax 方程式に付随する線形系は Lψ = λψ ∂ψ ∂tn = Bnψ, Bn= (Ln)+ ∂λ ∂tn = 0 (7.79) であって,これらの両立条件として (7.27) がえられる のであった. ここではまず固有関数 ψ の構造を調べる.L = W ∂W−1を用いると (7.79) の第 1 式は ∂ψ0= λψ0 (7.80) となる.ただし ψ0= W−1ψ. (7.81) (7.80) を積分すると ψ0= g(t2, t3,· · · )eλx (7.82) あるいは ψ = ( 1 + w1 λ + w2 λ2 +· · · ) g(t2, t3,· · · )eλx (7.83) と書ける.ただし,g は任意関数である.g は λ につい て解析的であると仮定する. Bn= Ln+ Bnc であったから (7.79) の第 2 式は ∂ψ ∂tn = (Ln+ Bcn)ψ (7.84) となる.Bc n は ∂ の負ベキのみからなる.また,j = 1, 2,· · · に対して L−j = ∂−j− ju2∂−j−2+· · · (7.85) であるから ∂−j = ∞ ∑ `=j ˜ vj`L−` (7.86) と書ける.ただし,˜vj`は t1, t2,· · · の適当な関数であ る.したがって,(7.84) は ∂ψ ∂tn = (Ln+ vn1L−1+ vn2L−2+· · · )ψ (7.87) と書かれる.ただし,vnjはやはり t1, t2,· · · の適当な 関数である. (7.79) の第 1 式から Ljψ = λjψ であるから,これを (7.87) に代入して ∂ψ ∂tn = ( λn+vn1 λ + vn2 λ2 +· · · ) ψ (7.88) あるいは ∂ ∂tn log ψ = λn+vn1 λ + vn2 λ2 +· · · (7.89) である.したがって log ψ = ∞ ∑ j=1 λjtj+ t0+ ∞ ∑ j=1 vjλ−j, (t0: 定数) (7.90) である.これは log ψ の λ =∞ におけるローラン展開 と考えられ,右辺第 1 項はその主要部である.(7.90) に おいて vjは再び t1, t2,· · · の適当な関数である.(7.90) から ψ = exp( ∞ ∑ j=1 vjλ−j) exp(t0+ λt1+ λ2t2+· · · ) (7.91) である.exp(∑∞j=1vjλ−j) を 1/λ のベキで展開し,t2= t3 =· · · = 0 において (7.83) の結果と一致すべきこと から ψ = ( 1+w1 λ + w2 λ2+· · · ) exp(t0+λt1+λ2t2+· · · ) (7.92)
をえる.当然ながら,(7.79) の固有関数は直接佐藤方程 式の解 wjに関係している. さて,適当な制限をつけることによって KP 階層から KdV 方程式や Boussinesq 方程式の Lax 方程式がえられ ることを示そう.ある ` に対して L`がちょうど微分作 用素になっているとしよう.すなわち L`= B`(微分作用素) (7.93) としよう.この条件は Lk`= Bk` (k = 1, 2,· · · ) (7.94) を意味する.そのとき (7.79) の第 1 式は Bk`ψ = λk`ψ (k = 1, 2,· · · ) (7.95) となる.さらに (7.79) の第 2 式から ∂ψ ∂tk` = λk`ψ (k = 1, 2,· · · ) (7.96) をえる.これを (7.92) と比較して ∂wj ∂tk` = 0 (j, k = 1, 2,· · · ) (7.97) をえる.これは wj が t`, t2`, t3`,· · · に無関係であるこ とを意味する.このような状況は `-リダクションと呼 ばれる. 2-リダクションの場合,k = 1 のときの (7.95) は Schr¨odinger 型の固有値問題 (∂2+ 2u2)ψ = λ2ψ (7.98) となる.この場合 (7.93) は L2= B2であるから,L2に おける ∂ の負ベキの係数はすべて 0 でなければならな い.したがって u3=− 1 2u2x u4= 1 4u2xx− 1 2u 2 2 u5=− 1 8u2xxx+ 3 2u2u2x · · · (7.99) u = u2とおくことにより,第 2 節における L1/2がここ での L に一致することに注意しよう. また,(7.79) の n = 3 のときの第 2 式は ∂ψ ∂t3 = ( ∂3+ 3u2∂ + 3 2u2x ) ψ (7.100) となり,n = 5 とすれば ∂ψ ∂t5 = B5ψ (7.101) となって,これらは KdV 階層を与えることがわかる. 次に,3-リダクションの場合には,3 階の固有値問題 B3ψ = (∂3+ 3u2∂ + 3u3+ 3u2x)ψ = λ3ψ (7.102) をえる.さらに ψ の時間発展として ∂ψ ∂t2 = B2ψ = (∂2+ 2u2)ψ (7.103) を考えると,これらの両立条件として Boussinesq 型の 方程式 ∂2u 2 ∂t2 2 =−1 3 ∂4u 2 ∂x4 − 2 ∂2u2 2 ∂x2 (7.104) をえる.このようにリダクションによって既知のソリト ン方程式が沢山えられる.また,多成分系を考えるこ とによってさらに多様なソリトン系がえられるようで ある. 7 τ 関数 第 5 節の最後で τ (x; t) = h(1)0 · · · h(m)0 h(1)1 · · · h(m)1 .. . · · · ... h(1)m−1 · · · h(m)m−1 (7.105) を τ 関数と定義すると,これによって wjが表されると 述べた.ここではこの τ 関数について調べよう. τ 関数は H(x; t) のはじめの m 行からなる行列の行 列式であるから τ (t) = det 1 p1 p2 p3 · · · 0 1 p1 p2 · · · · · · · . .. . .. · · · 0 · · · · 1 · · · × ξ(1)0 ξ0(2) · · · ξ(m)0 ξ(1)1 ξ1(2) · · · ξ(m)1 ξ(1)2 ξ2(2) · · · ξ(m)2 .. . ... · · · ... = det(Ξt0exp η(t, Λ)Ξ) (7.106) と書ける.ただし,Ξt 0は m× ∞ 行列で Ξt0= 1 0 · · · 0 0 · · · 0 1 · · · 0 0 · · · .. . · · · . .. ... ... · · · 0 0 · · · 1 0 · · · (7.107)
で定義される.ここで t1が x と同じ役割を演じるので, x 依存性を省略した.その結果,(7.106) における pnは pn(t) = ∑ ν1+2ν2+3ν3+···=n ν1,ν2,ν3,···≥0 tν1 1 t ν2 2 t ν3 3 · · · ν1!ν2!ν3!· · · (7.108) で定義される.行列の積の行列式に対する展開定理(有 限行列の積の行列式の場合,Binet-Cauchy の定理と言 われる12))を用いれば τ (t) = ∑ 0≤`1<`2<···<`m p`1 p`2 · · · p`m p`1−1 p`2−1 · · · p`m−1 .. . ... · · · ... p`1−m+1 p`2−m+1 · · · p`m−m+1 × ξ`(1) 1 ξ (2) `1 · · · ξ (m) `1 ξ`(1) 2 ξ (2) `2 · · · ξ (m) `2 .. . ... · · · ... ξ`(1) m ξ (2) `m · · · ξ (m) `m (7.109) が成り立つ.ここで和は m 個の非負の数のすべての可 能な組み合わせにわたる.ただし,n < 0 に対しては pn = 0 とする. さて,数の組 (`1, `2,· · · , `m) の各々に図形を対応さ せることができる.図 1 のように,番号の付いた箱の列 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 -6 7 図2 数の組(1, 3, 5, 6)に対応するマヤ図形 図 2 では m = 4 であることに注意しよう.数が割り当 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 -6 7 図3 真空状態に対応するマヤ図形 てられていない (m = 0) ときには,フェルミ粒子は図 3 のように 0 以下の番号の箱すべてを占める.これは真 空状態に対応すると考えてもよい.このような図形はマ ヤ図形と呼ばれる3).m を決めると数の組とマヤ図形 の対応は 1 対 1 である. マヤ図形は次のようにヤング図形と 1 対 1 に対応す る.マヤ図形の粒子の入っている箱には縦線↑ を,空 き箱には横線→ を割り当てる.このとき,マヤ図形が 与えられると 1 つの連結した折れ線がえられる.真空 =⇒ 0 -1 -2 -3 -4 -5 -3 -2 -1 0 1 1 2 3 4 2 3 図4 マ ヤ 図 形 か ら ヤ ン グ 図 形 を 構 成 す る 手 順 .数 の 組 (1, 3, 5, 6)に対する例 状態はまっすぐ上に行き,0 を過ぎたところで右に行く 1 つのコーナーに対応する.数の組 (1, 3, 5, 6) は図 4 の 折れ線のようになり,コーナーと折れ線で囲まれた図形 がヤング図形に対応する.右側に描かれているのがヤン グ図形である.真空状態はヤング図形 φ に対応する. m を固定するとき,この数の組とヤング図形との対 応は 1 対 1 である.ヤング図形は対称群の既約表現を 分類するために導入されたものであり,(7.109) の pjか ら成る行列式は対称群の理論で現れる Schur 関数その ものである. この対応が 1 対 1 であるから SY(t) = p`1 p`2 · · · p`m p`1−1 p`2−1 · · · p`m−1 .. . ... · · · ... p`1−m+1 p`2−m+1 · · · p`m−m+1 , (7.110) ξY = ξ`(1) 1 ξ (2) `1 · · · ξ (m) `1 ξ`(1) 2 ξ (2) `2 · · · ξ (m) `2 .. . ... · · · ... ξ`(1) m ξ (2) `m · · · ξ (m) `m (7.111) と書こう.ただし,添え字 Y は数の組 (`1, `2,· · · , `m) に 対応するヤング図形を表す.この記号を用いれば (7.109) は τ (t) = ∑ row(Y )≤m SY(t)ξY (7.112) -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 -6 7 ਤ1 ϚϠਤܗΛߏ͢Δ൪߸ͷ͍ͨശͷྻ Λ༻ҙ͢Δɽ͜Εʹ (i)−m ҎԼͷ൪߸ͷͯ͢ͷശʹϑΣϧϛཻࢠʢ1 ͭͷ ശʹ 1 ݸ͔͠ೖΕͳ͍ͱ͍͏ҙຯʣΛೖΕΔɽ (ii)1− m + 1, 2− m + 1, · · · , m− m + 1 ͱ͍͏൪߸ ͷശʹϑΣϧϛཻࢠΛೖΕΔɽ ͱ͍͏نଇΛ༩͑Δɽྫ͑ɼ(1, 3, 5, 6) ͱ͍͏ͷ ͕༩͑ΒΕͨͱ͖ɼਤ 2 ͷΑ͏ʹϑΣϧϛཻࢠ͕ೖΔɽ
と書ける.ただし,和は m 行以下のすべてのヤング図 形にわたる.m = 2 の場合はこの展開の簡単な例を与 える: τ (t) = det ( p0 p1 p2 · · · 0 p0 p1 · · · ) ξ(1)0 ξ0(2) ξ(1)1 ξ1(2) .. . ... = p0 p1 0 p0 ξ0(1) ξ0(2) ξ1(1) ξ1(2) + p0 p2 0 p1 ξ0(1) ξ0(2) ξ2(1) ξ2(2) + p0 p3 0 p2 ξ0(1) ξ(2)0 ξ3(1) ξ(2)3 +· · · = Sφξφ+S ξ +S ξ +· · · . (7.113) 任意の解析関数 f (t) は SY(t) で f (t) =∑ Y SY(t)cY (7.114) と展開できる.係数 cY は直交条件から cY = SY( ˜∂t)f (t)|t=0 (7.115) のように一意的に定まる.ただし,SY( ˜∂t) は SY(t) の 各 tk を 1 k ∂ ∂tk で置き換えたものを表す(Ohta ら5)の 付録を参照).(7.112) も τ (t) の SY(t) による展開と考 えられる.展開 (7.114) は一意だから (7.112) も一意で ある. τ 関数の係数 ξY は Pl¨ucker 関係式と呼ばれる拘束を満 たさなければならないという重要な性質をもつ.これら の関係式を導こう.まず,最も簡単な m = 2 の場合を考 える.τ 関数 (7.113) に対して 4 個の数 k, `1< `2< `3 を選ぶとき,次の恒等式は明らかである. ξ(1)k ξ`(1) 1 ξ (1) `2 ξ (1) `3 ξ(2)k ξ`(2) 1 ξ (2) `2 ξ (2) `3 0 ξ`(1) 1 ξ (1) `2 ξ (1) `3 0 ξ`(2) 1 ξ (2) `2 ξ (2) `3 = ξk(1) 0 0 0 ξk(2) 0 0 0 0 ξ(1)` 1 ξ (1) `2 ξ (1) `3 0 ξ(2)` 1 ξ (2) `2 ξ (2) `3 = 0. (7.116) はじめの行列式にラプラスの展開定理13)を適用すれば ξk(1) ξ`(1) 1 ξk(2) ξ`(2) 1 ξ`(1) 2 ξ (1) `3 ξ`(2) 2 ξ (2) `3 − ξ(1)k ξ`(1) 2 ξ(2)k ξ`(2) 2 ξ(1)` 1 ξ (1) `3 ξ(2)` 1 ξ (2) `3 + ξ(1)k ξ`(1) 3 ξ(2)k ξ`(2) 3 ξ(1)` 1 ξ (1) `2 ξ(2)` 1 ξ (2) `2 = 0 (7.117) となるが,これは ξY に対する拘束を与える.例えば (k, `1, `2, `3) = (0, 1, 2, 3) と選べば,(7.117) は ξφξ − ξ ξ + ξ ξ = 0 (7.118) となる.同様にして,(k, `1, `2, `3) = (0, 1, 2, 4) に対し ては ξφξ − ξ ξ + ξ ξ = 0, (7.119) (k, `1, `2, `3) = (0, 1, 3, 4) に対しては ξφξ − ξ ξ + ξ ξ = 0, (7.120) (k, `1, `2, `3) = (0, 2, 3, 4) に対しては ξ ξ − ξ ξ + ξ ξ = 0, (7.121) (k, `1, `2, `3) = (1, 2, 3, 4) に対しては ξ ξ − ξ ξ + ξ ξ = 0, (7.122) をえる. 一般に任意の m に対して,k1< k2<· · · < km−1お よび `1< `2<· · · < `m+1と選び ξk(1) 1 ξ (1) k2 · · · ξ (1) km−1 ξ (1) `1 ξ (1) `2 · · · ξ (1) `m+1 .. . ... · · · ... ... ... · · · ... ξ(m)k 1 ξ (m) k2 · · · ξ (m) km−1 ξ (m) `1 ξ (m) `2 · · · ξ (m) `m+1 0 0 · · · 0 ξ`(1) 1 ξ (1) `2 · · · ξ (1) `m+1 .. . ... · · · ... ... ... · · · ... 0 0 · · · 0 ξ(m)` 1 ξ (m) `2 · · · ξ (m) `m+1 = 0 (7.123) にラプラス展開を適用すれば m+1∑ i=1 (−1)δξY1ξY2 = 0 (7.124) をえる.ただし δ = m + i− j (7.125) であり,Y1は (k1,· · · , kj, `i, kj+1,· · · , km−1) に対応す るヤング図形,Y2 は (`1,· · · , `i−1, `i+1,· · · , `m+1) に 対応するヤング図形である.ただし,kj < `i< kj+1が 成り立っているものとする.kνと `νのすべての組み合 わせに対して,(7.124) は ξY に対する無限個の拘束を 与える.これらの関係が Pl¨ucker 関係式である. 一方,関数 f (t) が f (t) =∑Y SYξY で与えられ,ξY がすべての Pl¨ucker 関係式を満たすと,f (t) は τ 関数に なる14).すなわち,f (t) は (7.106) の形に書ける. 上で (7.112) における ξY が無限個の双線形関係式を 満たすことを示したが,τ 関数自身が Pl¨ucker 関係式と 同じ形の偏微分方程式を満たすことを示そう. τ (t) の定義式 (7.106) から, τ (t + s) = det(Ξt0eη(t,Λ)eη(s,Λ)Ξ) (7.126)
と書ける.Ξ(s) := eη(s,Λ)Ξ と書くと,(7.127) は τ (t + s) =∑ Y SY(t)ξY(s) (7.127) と書ける.ここで,ξY(s) は (7.111) と同じ形であって, パラメーター s = (s1, s2, s3,· · · ) の場合の Pl¨ucker 関係 式をすべて満たす.(7.127) に SY( ˜∂t) を適用して SY の 直交条件(Ohta ら5)の付録参照) SY( ˜∂t)SY0(t)|t=0= δY Y0 を用いると ξY(s) = SY( ˜∂t)τ (t + s)|t=0 = SY( ˜∂s)τ (t + s)|t=0 = SY( ˜∂s)τ (s) (7.128) である.これを (7.124) に代入すれば, ∑ (−1)δ{SY1( ˜∂t)τ (t)}{SY2( ˜∂t)τ (t)} = 0 (7.129) となる.ただし δ は (7.125) で与えられる.(7.129) は τ 関数に対する双線形方程式である.たとえば,(7.118) は Sφ( ˜∂t)τ (t)S ( ˜∂t)τ (t)− S (˜∂t)τ (t)S ( ˜∂t)τ (t) + S ( ˜∂t)τ (t)S ( ˜∂t)τ (t) = 0 (7.130) となるが,Sφ = 1, S = t1, S = t21/2 + t2, S = t2 1/2− t2, S = t31− t3, S = t41/12− t1t3+ t22に 注意すれば(たとえば,最後の場合については,その ヤング図形は番号· · · , −3, −2, 1, 2 の箱に粒子が入り, 番号−1, 0, 3, · · · の箱が空であるマヤ図形に対応するか ら,m = 2 に注意すれば,`1= 2, `2= 3 であることが わかる.したがって,S = p2 p3 p1 p2 = p22−p1p3= t41/12− t1t3+ t22である) τ 1 12 (∂4 ∂t4 1 −4 ∂2 ∂t1∂t3 + 3∂ 2 ∂t2 2 ) τ −( ∂ ∂t1 τ )1 3 (∂3 ∂t3 1 − ∂ ∂t3 ) τ + {1 2 (∂2 ∂t2 1 + ∂ ∂t2 ) τ }{1 2 (∂2 ∂t2 1 − ∂ ∂t2 ) τ } = 0 (7.131) をえる.これは第 6 章で述べた広田微分を用いれば (−4Dt3Dt1+3D 2 t2+D 4 t1)τ (t)· τ(t)=0 (7.132) と書ける.t1を x と見なすと,これは KP 方程式 (7.31) の双線形版である.同様に (7.119) ∼ (7.122) も τ 関数 に関する双線形形式で書けるが,それらは KP 階層の一 部なわけである. さらに,佐藤方程式の解 wjは τ 関数を用いて wj= 1 τpj(−˜∂t)τ (7.133) と書けることが示される5). ただし,pj(−˜∂ t) は pj(t) の 各 tkを− 1 k ∂ ∂tk で置き換えたものを表す.例えば w1=− 1 τ ∂τ ∂x w2= 1 2τ (∂2τ ∂x2− ∂τ ∂t2 ) w3=− 1 6τ (∂3τ ∂x3−3 ∂2τ ∂x∂t2 +2∂τ ∂t3 ) · · · (7.134) である. このとき Lax 方程式の解が変換 (7.39) を通じて τ 関 数で表される.例えば u2= ∂2 ∂x2log τ u3= 1 2 ( − ∂3 ∂x3+ ∂2 ∂x∂t2 ) log τ u4= 1 6 ( ∂4 ∂x4−3 ∂3 ∂x2∂t 2 +2 ∂ 2 ∂x∂t3 ) log τ −( ∂2 ∂x2log τ )2 · · · (7.135) である.とくに (7.135) の第 1 式は KP 方程式 (7.31) を 双線形方程式 (7.132) に帰着させるときの従属変数変換 である. さらに,固有関数 (7.92) を τ 関数で表すこともでき る.(7.133) を (7.92) に代入して ψ =1 τ { τ +p1(−˜∂t)τ λ + p2(−˜∂t)τ λ2 +· · · } et0+λt1+λ2t2+··· =1 τ {(∑∞ ν1=0 1 ν1! (−∂t1 λ )ν1 ∑∞ ν2=0 1 ν2! (−∂t2 2λ2 )ν2 · · ·)τ } × et0+λt1+λ2t2+··· =1 τ { exp ( −1 λ∂t1− 1 2λ2∂t2−· · · ) τ } et0+λt1+λ2t2+···. (7.136) こうして ψ = τ ( t1−λ1, t2−2λ12,· · · ) τ (t1, t2,· · · ) et0+λt1+λ2t2+··· (7.137) をえる. このように,すべて τ 関数を用いて表される.計算 ばかりで数学的に何が言えているのかよくわからない という意見もあるかもしれない.それに対しては以下の ことを注意しておこう.
無限変数の関数 f (t) を (7.114) のように Schur 関数 で展開したとき,f (t) が KP 階層の τ 関数になるため の必要十分条件は係数が Pl¨ucker の関係式をすべて満た すことである14)が,これは結局は KP 階層の解の全体 は無限次元 Grassmann 多様体であることを主張してい る6)と考えてよい.また, Ξ(t) = eη(t,Λ)Ξ (7.138) は KP 階層の解の時間発展が Grassmann 多様体への eη(t,Λ)の作用によって記述されることを述べている.こ のことは KP 階層は可換群{exp(η(t, Λ)} の Grassmann 多様体への作用によって定まる力学系を記述する方程式 に他ならない4). 佐藤理論以後その延長としてあるいはその刺激によっ て多くの発展があったが,それらについてはまず三輪等 の本8)や高崎の本15)を読むことからはじめてはいかが であろう. 謝辞 査読者からミスプリについてご指摘頂いた.査読者に 感謝したい. 引 用 文 献 1) 広田良吾: 直説法によるソリトンの数理(岩波書店, 1992)
2) Sato, M: Soliton equation as dynamical systems on a infinite dimensional Grassmann manifolds, RIMS Kokyuroku (Kyoto University) 439 (1981) 30–46. 3) 佐藤幹夫(述)(野海正俊(記)): ソリトン方程式と
普遍グラスマン多様体,上智大学数学講究録 No.18 (1984, 上智大学数学教室)
4) 村瀬元彦: ソリトン型非線型方程式の一般解, 数理 科学 No.228 (1982) 16–23.
5) Ohta, Y., Satsuma, J., Takahashi, D. & Tokihiro, T.: An elementary introduction to Sato theory, Progr. Theor. Phys. Suppl. No.94 (1988) 210–241.
6) 上野喜三雄: ソリトンがはこぶ無限の世界,数理科 学 No.387 (1995) 42–47. 7) 津田照久: 非線形波動から無限の対称性へ KP 階層 と UC 階層,数理科学 No.559 (2010) 36–42. 8) 三輪哲二, 神保道夫, 伊達悦朗: ソリトンの数理(岩 波講座 応用数学)(岩波書店, 1993). これは単行本 化もされている (岩波書店, 2007).
9) Lax, P. D.: Integrals of nonlinear equations of evolu-tion and solitary waves, Comm. Pure Appl. Math. 21 (1968) 467–490.
10) Zakharov, V. E. & Shabat, A. B.: A scheme for integrating the nonlinear equations of mathematical physics by the method of the inverse scattering prob-lem.I, Funct. Anal. Appl. 8 (1974) 226–235.
11) Kadomtsev, B. B. & Petviashvili, V. I.: On the sta-bility of solitary waves in weakly dispersing media, Sov. Phys. Doklady 15 (1970) 539–541.
12) 伊里正夫: 線形代数 I(岩波講座 応用数学)(岩波 書店,1993). 1997 年発行の第 2 刷がミスプリも修 正されていてよい;高木貞治: 代数学講義 改訂新版 (共立出版,1965) にもある. 13) 例えば,藤原松三郎: 行列及び行列式 改訂版 (岩波 書店,1961).
14) Sato, M. & Sato, Y.: Soliton equations as dynamical systems on infinite dimensional Grassmann manifold, Nonlinear Partial Differential Equations in Applied Science: proceedings of the U.S.-Japan seminar, ed. Fujita, H., Lax, P. D. & Strang, G. (Kinokuniya/North-Holland, Tokyo, 1983) 259–271.
15) 高崎金久: 可積分系の世界 ― 戸田格子とその仲間 (共立出版, 2001)