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二者関係と経済取引 : 中部ジャワ村落経済生活の 研究

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二者関係と経済取引 : 中部ジャワ村落経済生活の 研究

著者 関本 照夫

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 5

号 2

ページ 376‑408

発行年 1980‑10‑20

URL http://doi.org/10.15021/00004523

(2)

国立民族学博物館研究報告  5巻2号

二 者 関 係 と 経 済 取 引

中 部 ジ ャワ村 落 経 済 生 活 の 研 究

関 本 照 夫*

Paddy Fields and Complementary Occupations : Economic Life in a Central Javanese Village

Teruo SEKIMOTO

This case study of economic life in a rice-growing village in Surakarta region of Central Java, is based on field data obtained in 1975 and in 1978-79. The object of this article is to present a brief general view of village economic life, preliminary to further study of the meaning of labor and wealth in rural Javanese daily life. For this purpose, simple statistical approach is used here, but, unlike that of an agro-economic survey, the method used here focuses on an analysis of family life and inheritance customs to elucidate the social implications of quantitative data. Based on a study of each household's economic standing, following current characteristics of a Javanese village emerge :

1. The right to cultivate paddy fields is commercialized through the prevailing cash rent system, thus enabling a limited number of rich farmers to increase their cultivated area and profits;

2. Though nearly half the paddy field owners are non- cultivating landlords, most are retired farmers who make a living by renting out their small paddy field, sometimes even to their own children. Some tenant farmers, on the other hand, are waiting to inherit a paddy field at some time in the future;

3. Though the present modal size of paddy per household is 0.5 ha, it is tending to decrease to 0.1-0.2 ha under the current practice of equal inheritance. Besides general population pressure several other conditions ensure a strong claim to the equal inherit- ance of paddy fields, e.g. ; rising incomes from paddy agriculture as a consequence of the Green Revolution;

*国 立民族学博物館第2研 究部

376

(3)

関本  二者関係 と経済取 引

4. Non-agricultural sideline jobs are pursued by almost all households, ranging from those large scale farmers to share-cropping tenants. Nineteen of the total of seventy-seven households earn their living by non-agricultural jobs alone. Such households are often wealthier than small-scale paddy field owners. Village youth clearly dislike agricultural labor and seek non-agricultural jobs, especially in the cities. A socio-economic study of Javanese rural society must deal with more than just agriculture, but must include other phenomena, such as, inter alia, the effect of pre-modern, rural, non-agricultural jobs in the tertiary sector (trade and service) ; rural-urban economic interaction; and psychological attraction of city for village youth.

は じ め に

1.transactionとincorporation n.水 田 の 所 有 と 貸 借 皿.水 田 貸 借 と家 族 関 係

IV.家 族 関係 と相 続 慣行 V.兼 業 の構 造 お わ りに

は じ め に

.奉 謝 ホ 中 部 ジ ャ ワ・ ス・ ラカノ レタ 地方 ゴ 村 落 の経 済 生 活 につ い て概 観 壷 あ た舜 ・ そ の背 景 とな って い る社会 関係 の特 徴 を 考 察 す る もの、 で あ る。

ジ ヤ ワ 全 図

377

(4)

国立民族学博物館研究報告  5拳2号   筆 者 は,こ こに と りあげ るD村 に お いて 過 去2回 の 調 査 を お こな い1),農 業 を 中

心 と した経 済 生 活 につ いて は,す で に 「農業 を め ぐる人 の カ テ ゴ リー と 相 互 関 係 」 [1978]と して 発 表 して い る。 そ の な かで は,地 域 の地 理 的,経 済 的,歴 史 的 特 徴 が 広 く記 述 さ れ,ま た 水 田 と農 耕 を め ぐる社 会 関 係 を,限 定 的 ・非 持 続 的 ・選 択 的 な 二 者 間 契 約 の累 積 と して と らえ る視 点 が,提 示 さ れて い る。 本 論 は,そ の続 編 をな す も ので あ り,D村 を 構 成 す る10個 の集 落 の ひ とつ で あ るD集 落 に対 象 を限 定 し,第 二 回 目の 調 査 の 最初 の2カ 月 間,質 問 表 を 中 心 と して お こな った イ ン タ ビ ・ ・   一 一2)の結 果 を もと に,基 礎 的 事 実 を 定 量 的 に整 理 しつ つ 考 察 を す す め る。

  本 論 で 初 歩 的 な 統 計 的方 法 を多 用 す るの は,ジ ャ ワ人 社会 の,し ば しば原 子 的 ・非 組 織 的 と特 徴 づ け られ る性質3)の 故で あ る。 つ ま り この社 会 で は,個 々の 事例 ご との 多様 性 が い ち じる し く,東 ア ジァ や イ ン ド社 会 につ い て お こな われ る よ うな,代 表 的 な 事 例 の分 析 に よ り全 体 的 構 造 を 浮 か び上 が らせ る方 法 は適 用 が むず か しい。 した が って 規 範 的制 度 で は な く統 計 的傾 向性 輝,よ り明 瞭 に基 礎 的事 実 を示 す の で あ るρ こ う した 方法 を前 提 と しなが ら,経 済生 活 に お け る個 人 的 二者 間取 引 の構 造 を簡 明 に し めす の が 本論 の 目 的 で あ る。

1.transactlonと1ncorporatlon

  Barthは,  Radcliffe‑Brown流 の 構 造 機 能 主 義 に た い して 社 会 的 プ ロ セ ス の 生 成 モ デ ル を 提 起 した 挑 戦 的 な 小 著Models  of  Social Organizationに お い て, incorporation とtranSaCtiOnの 対 立 的 概 念 に よ る 相 互 行 為 の 分 析 を 提 示 して い る 。   tranSaCt10nは

「互 酬 性(reciprocity)に よ っ て 一 貫 して 支 配 さ れ た 相 互 行 為 の 連 鎖 」 と規 定 さ れ る 。 一 方incorporationの 関 係 内 部 に お い て は ,関 与 者 が 総 体 と して な に を う る か が 問 題

1)D村 で の第 一 回 調 査 は1975年6月 〜12月 の7カ 月 間,ハ ーヴ ァー ド大学 イ ェ ンチ ン研 究所 の   財 政 的 援助 をえ て 単 独で お こな った。 第二 回 調 査 は1978年8月 〜1979年4月 の9カ 月 間,ト ヨ   タ財 団 助成 研 究 「稲 作村 落 の 国 際比 較(代 表 口羽 益生 教 授)」 お よ び ユ ネ ス コ東 ア ジ ア文 化研   究 セ ンター研 究 プ ロ ジ ェク ト 「年 中行 事 と ライ フ ・サ イ クル(代 表 中根千 枝 教 授)」 の一 環 と し   て,や は り単独 で お こな った 。 上記 の共 同研 究 「稲作 村 落 の 国 際比 較 」 の成 果 はす で に公刊 さ   れ て お り[KuGHIBA  and BAuzoN  l  979]・ 本 論 は 筆 者 が そ の なか に 発 表 した 報 告[SEKIMoTo.

  1979]を 発展 させ た もので あ る。

2)質 問表 は,注1)に ふ れ た共 同 研究 「稲 作村 落 の 国 際比 較 」 め一 環 と して 口羽 教授 を 中 心 に   英 文 で作 成 され,筆 者 は これ に手 を加 えて もち いた 。 この イ ンタ ビュ ーは ジ ャワ語 でお こな い、

  当初 はGajah  Mada大 学 学 生Yulihartono氏 が 筆 者 の イ ン ドネ シア語 と村 人 の ジ ャワ語 との

・ 間 の 通訳 とな り,の ち には筆 者 の ジ ャワ語 を 傍 か ら助 け た。 な お第 二 回 調 査 の際 に は,こ の ほ   か に もIndonesia大 学 文 学 部 人 類学 科 学 生Sudhana  Astika,  Surakarta Sebelas  Maret大 学学L   生Sudarto,同Djarot  Srljantoの 各 氏 が それ ぞ れ 短期 間D村 に滞在 し調 査 を助 けて くれ た 。  3)た とえ ばGeertz[1963a:28ff・],  Siegcl【1969:200n・]な ど。

378

(5)

関本  二者関係 と経済取引

で あ り,内 部 の相 互 関 係 は互 酬 性 の原 理 に支 配 され る もの で はな い。 関与 者 総 体 は一 個 の 単 位 を 成 して,他 の 個 人 な い し集 団 とtransactionを お こな う[BARTH  1966:4]。

  この よ うにinCOrpOratiOnとtranSaCtiOnは 相 互 行為 を お こな う単 位 の 内部 関 係 と 対 外 関 係 にそ れ ぞ れ対 応 す る もの で,論 理 的 に は,他 の 条 件 を 一 定 と して,諸 単 位 が 小 さ く細 分 化 され るほ どtranSaCtiOnの 総 量 が増 加 し,ま たtranSaCtiOn分 析 が包 み こむ 領域 は拡 が りを 増 す とい うこ とが で き る。 本 論 で考 察 され る テ ーマ は,多 数 の微 細 な経 済 的transactionで あ る。 ジ ャ ワ にお い て そ れ が多 数 で 微 細 な の は,経 済行 為 の単 位 が きわ め て小 さ く細 分 化 され て い るか らで あ る。 さ き にの べ た ジ ャ ワ人 社会 の 原 子 性,非 組 織 性 な る事 態 は,incorporateな 関 係 で 内部 が秩 序 づ け られ る 経 済 行 為 の大 きな単 位 が 存 在 せ ず,微 細 な,多 くの 場 合 個 人 に まで 還 元 され る 小 単 位 間 の transactionが 卓 越 して い る こと と,よ り体 系 的 に把 握 す る ことが で き る。

  以 上 に一 一 般 的 に のべ た こ との 理 解 の た め好 適 な モ デ ル は,ス ラカ ル タ地 方 に多 数 存 在 す る 中小 のバ ス運 送 業 の 例 に求 め られ る。D村 の 経 済 生 活 に ふ れ る前 に,本 章 で は まず,こ の モ デ ルを 提 示 し,予備 的 な 考 察 を お こな う。 な お,Barthの い うtransaction 概 念 は経 済 的 取 引 に 限 られ る もの で はな い が,本 論 の テ ー マ はそ の 点 に 限定 さ れて い

る の で,以 下 で は便宜 上transactionの 訳 語 と して 「取 引 」 を もち い る。

  人 口密 度 が 極 度 に高 い ジ ャ ワで は,バ ス 運送 業 が良 く発 達 して い る。 ス ラカ ル タ地 方 に も多 数 の 小 さなバ ス会 社 が あ り,数 十人 乗 りの大 型 バ スや,バ ン型 の小 型 トラ ッ

クに座 席 を並 べ た もの が,さ ま ざ まな ル ー トを走 って旅 客 を運 ん で い る。 これ らのバ ス会 社 の経 営 の実 態 は,わ れ わ れが 会 社 とい う こ とば で理 解 す る もの と大 き く異 な っ て い る。 会 社 の社 長 にあ た るバ スの 所 有 者 は、 運 転手,車 掌 を雇 用 して バ ス運行 の全 過 程 を 掌 握 ・管 理 す る こ と は しな い。 そ のか わ り にか れ は,個 々 の運 転 手 と 日 ご との 車 両 賃 貸 契 約 を結 ぶ。 した が って収 支 をふ くむ 実 際 のバ ス運 行 の責 任 は運 転手 が 担 う こ と にな る。 か れ は 自分 で パ ー トナ ー た る車 掌 を さが し収入 の分 配 に つ いて 契 約 を 結 ぶ。 さ らに 運 転手,車 掌 それ ぞ れ は知 り合 いの 少 年 を 助手 と して バ ス に乗 り こま せ ・ 約 束 に した が って労 賃 を あた え る。 バ ス所 有 者 と運 転 手 の 関係 は基 本 的 に 日 ご と に車 両 を 貸 借 す る契 約 関係 で あ り,数 日で解 消 す るか 長 期 化 す る か は,こ の両 者 間 の パ ー ソナ ルな 事 情 に規 定 さ れ る。 運 転手 と車 掌 以 下 の パ ー トナー との 関係 に つ いて も・ こ の点 は同 様 で あ る。

  保 有 車 両 が 少 な け れ ば,バ ス所 有者 はた った一 人 で 車 両 賃 貸業 務 を お こな う。 車 両 が多 くな る と,運 転手 へ の 日 々の 配 車,賃 貸 料 の 徴 集 な どの た め数 名 の事 務 員 を 雇 う

こ とに な る が,そ れ 以 上 に会 社組 織 が 発 達 す る こ とは な い。

379

(6)

国立民族学 博物館研究報告   5巻2号   現 在 の 日本 で あ れ ば単 一 のincorporationに よ って 担 わ れ るバ ス運 送 業 が,上 記 の 例 で は,そ れぞ れ 独 立 した経 済 行 為 の 単 位 で あ る諸 個 人 間 に結 ば れ た二 者 聞 経 済 取 引 の連 鎖 に よ って 実 現 され る こ とに な る。 企 業 とい う集 団 の 内部 構 造 の分 析 が・ 独 立 し た単 位 間 の 取 引の分 析 に置 き換 え られ るの で あ る。

  以 上 の よ うなバ ス運 送 業 の 運 営方 式 は,関 与 す る各個 人 に高 い 自 由を あ た え,同 時 に不 安定 性 を帰 結 す る。 バ ス所 有者 は,人 事 ・収 支 ・運行 の全 過 程 に責任 を負 う もの で な い か ら,他 の しご と に時 間 を さ く余 裕 を もつ。 運 転手 以 下 の人 び と は,容 易 に二 者 間 契 約 の 相手 を か え た り,職 種 を変 え る こ とが で き る。 反対 にバ ス所 有 者 は,保 有 車 両 数 に応 じた 賃貸 料 を手 にす るの み で,企 業 努 力 に よ り利潤 を増 し事 業 を 拡大 再 生 産 して い くに は困難 が多 い。 賃 貸 料 を歩 合 制 にす れ ば,運 転手 に売 り上 げ を 過小 に報 告 され 過 小 な 収 入 しか え られ な い こ とが多 い の で,日 決 め 定 額制 を と らざ るを え な い。

す る と運 転 手 が 走 行 距 離 を 高 め乗 客 を 増 して収 入 を増 した 分 だ け,バ ス所 有 者 に は車 両 の よ り速 い消 耗 と い う損 失 が帰 って くる こ と にな る。 両 者 の 利 害 が単 一 の企 業 内の 共 同行 為 と して 一 致 す る こ と は難 しい。 また 運 転手 以 下 の 人 び と に と って,ひ とつ の 職 場,ひ とつ の職 種 に しば られ な い 自 由 さが,同 時 に大 きな不 安 定 性 を 意味 す る こと

はい うま で もな い。

  こ う して経 済 行 為 の 当事 者 す べ て に とっ て,資 本 投 下先 や労 働 の 場 を 同 時 に複 数 も った り,た え ず変 更 ず る ことが 必 須 にな る。 小 さ な単 位 間 の多 数 の微 細 な取 引 に よ っ て 維 持 され る経 済 シス テ ムは,関 与 す る各 個 人 が広 い社 会 的 ネ ッ トワー ク を も ち,構 造 的 不 安 定 性 が もた らす 予期 しえぬ 危 険 に対 処 す る複 数 の可 能 性 を用 意 す る こ とに よ って,維 持 さ れ る。 資 本 家 に と って も また 労 働者 に とって も,一 所一 業 に専 念 し,そ の な か のincorporateな 関係 に身 を ゆだ ね るの は,あ り えな い危 険 な こ となの で あ る。

  以 上 に類 似 した例 は 日本 で も中小 の トラ ック運送 業 な ど に あ る程 度 見 い だ され る。

ま た こ う した こと は,企 業 経 営 の あ り方 とい う限 りで,経 済 発 展 の遅 れ た 地域 に お け

る経 済 の 全体 的不 安 定 性 の帰 結 と して説 明で き る もの で もあ ろ う。 バ ス運 送業 の例 を

こ こ にひ い た の は,そ れ が,本 論 の主 題 で あ る村 落 経 済 生活 の分 析 に,簡 明 で適 切 な

モ デ ル を 与 え るか らで あ り,そ の こ と 自体 の実 態 的 分 析 の た めで は な い。 一個 の経 済

活 動 の 全 体 が,incorporateな 内部 秩序 を もつ 単 一 の 大 きな単 位 に担 われ るの で はな

く,細 分 され た 単 位 相 互 の二 者 間 経 済 取 引 の連 鎖 に よ って 実 現 され る こと,経 済 活 動

を お こな う個 々人 がincorporateな 関 係 の な か にみ ず か らを固 定 す るの で な く,社 会

的 ネ ッ トワー クの 機 能 に依 拠 して,兼 業 と職種 移 動 の可 能 性 を た え ず 用意 して い る こ

と,こ の二 点 が以 下 に考 察 す る村落 経 済 生 活 の 多様 な諸 現 象 の な か に体 系 的 に一 貫 し

380

(7)

関本   二者関 係 と経済取 引 て い る特 徴 で あ る。

ll.水 田 の所 有 と貸 借

  本 章 で は,D集 落4)に お け る水 田 の所 有 と利 用 の 形 態 を分 析 す るの だ が,そ こで特 徴 的 な の は,水 田所 有 経 営 者 相 互 間 の水 田 貸借 が さか ん にお こな わ れて い る こ と,零 細 な水 田所 有 者 の な か に,水 田の 総 て を 貸 出 して い る もの が多 い こ とで あ る。 こ う し

た こ とは,家 族 労 働 力 を主 体 と した 自作 農 家,あ る い は地 主    小 作 制 とい った 日本 の伝 統 的 農 業 経 営形 態 に つ いて の常 識 の 延 長 で は,お よ そ理 解 で きな い。 上記 の水 田 を め ぐる経 済 的 取 引 の性 質 を知 る こ とが,本 章 お よ び次 章 の課 題 とな る。

  表1に 見 る よ うに,水 田 を所 有 す る世 帯,お よび水 田 を所 有 しな いが,い くつ か の 異 な る形 態 で水 田を 借 入 れ て水 稲 耕 作 を 営 む 世 帯(以 下 で は これ を非 所 有 経 営世 帯 と よぶ)の 合 計 は,41世 帯,53.3%で あ る。 そ して その う ち25世 帯 が村 の 内外 に水 田 を 所 有 して い る5)。合 計 所有 面 積 は15haI610m2で あ り,世 帯 あ た り平 均 所 有 面 積 は 0.61haと な る。 また表2に 世 帯 別水 田所 有 規 模 の分 布 を み る と,水 田所 有 世 帯 の 半 数以 上 に あた る14世 帯 が,ち ょ うど0.5ha(水 田2枚)を 所 有 して い る6》 。 単 純 平 均

衷l  D集 落 におけるタイプ別世帯数

      (筆者の戸別調査 による) タ   イ   プ  別

水 田 所 有 経 営 世 帯

〃 非 経 営 世 帯

水 田 非 所 有 経 営 世 帯

そ の 他 の 世 帯

農 業 労 働 を 主 と す る も の 農 業 労 働 を 副 と す る もの

非 農 業

世 帯 数

1弾 帯(t6.9)%

12(15.6) 16†》(20.8)

5(6.5) 12(15.6) 19(24。7)

25

小 計

世帯

16† 》

36

(32.5) (20.8)

(46.8)

1

77 77

t)こ のな か には,水 田0.12haを き ょうだ い よ り無 償で 借 入,他 人 に賃 貸 し   て い る1世 帯 を ふ くむ もので,実 際 農 業経 営 にあ た って い るの は15世 帯 で   あ る。

4)村(kelurahan)と そ れ を 構 成 す る集 落(dukuh)と の 関 係 に つ い て は,筆 者 の 別 稿[1976:462‑

465]参 照 。

5)内2世 帯 は 村 役 人 と して 職 田(saωah  tungguh)を そ れ ぞ れ1.8  haと0.75  ha保 有 して お り・

私 有 水 田 は も た な い 。 職 田 に つ い て は 筆 者 の 別 稿[1978:369‑370]に 詳 し い 。 本 論 で は 職 田 保 有 も 水 田 所 有 の 一 形 態 と み な し議 論 を 進 め る 。

6)こ の こ と に は 歴 史 的 背 景 が あ る 。 こ の 点 も ふ く めD村 の 過 去70年 ほ ど の 歴 史 は 筆 老 の 別 稿 [1978:363‑370]に 論 じ られ て い る 。

381

(8)

国立民族学博物館研究報 告5巻2号 表2世 帯別水 田所有規模 の分布

(筆 者 の戸 別 調査 によ る)

所 有 規 模 所有経営世帯 所有非経営世借 小 計

        ha1 .75〜1。80 1.5 1.0 0.75 0.5 0.25 0. 12

2 1 1 1 6 1 1

帯 世

0 0 0 0 8 4 0

帯 世

 2  1  1  1 14  5  1

世帯

13 12 25

0.61  ha,モ ー ド,中 間 値 で0.5 haと い う数 値 は,国 際 的標 準 で は お そ ら く零細 ・狭 小 とみ られ る もの だ が,こ の地 域 の 農 業 生産 性 の高 さ[関 本   1978 :  359‑360]を 考 慮 す れ ば,世 帯 の生 計 の維 持 に と って け っ して過 小 と はい え ず,ま た,調 査 報 告 の え

られ る ジ ャ ワの他 地 域 と比 較 す れ ば,規 模 は か な らず しも小 さ くな い7》 。

  しか し,水 田 所 有25世 帯 の農 業 経 営 へ の 関 り方 を検 討 す る と,た だ ち に 冒頭 に掲 げ た二 つ の注 目す べ き事 実 が浮 かん で くる。 第 一 は,水 田を 総 て 貸 出 して しま い農 業 経 営 に あ た らな い世 帯(以 下 これ を 「 所 有 非 経 営 世帯 」 とよ ぶ)が 約 半数 に の ぼ る こ と, 第二 は,み ず か ら農 業 経 営 を お こな う世 帯(以 下 これ を 「所 有 経 営 世 帯 」 とよ ぶ)の な か に も,所 有 水 田の 一 部 を 貸 出 す もの が多 く,世 帯 別 の モ ーダ ル な 経 営 規模 は さ き

に見 た 所有 規 模 の モ ー ド0.5haよ り小 さい こ とで あ る。

  第 一 の 事 実,多 数 の所 有 非 経 営 世 帯 の存 在 は,ジ ャワ人 社 会 の家 族 シ ス テ ム ・相 続 慣 行 に関 って お り次 章 に お いて 論 ず る こ と とな る。 本 章 で は第二 の点,す な わ ち所 有 経 営世 帯 に よ る水 田 貸 出 しに つ いて 検 討 す る。 表3に 所 有 経 営13世 帯 の 水 田所 有 ・利 用 規 模平 均 値 を 見 る と 奇 妙 な事 実 が 見 い だ され る。 す な わ ち か れ らは 平 均 値 で は・

0.78haを 所 有 し,0.48 haを 借 入,0.73  haを みず か ら経 営 し,0.53 haを 貸 出 して い る。 なぜ 所 有 面 積 と経 営 面 積 が ほぼ一 致 し,借 入面 積 と 貸 出面 積 もほ ぽ一 致 す るの だ ろ うか。

  平 均 値 を 見 る の みで は,か れ ら所有 経 営 世 帯 の 内 部 で ほ ぼ 出入 の 等 しい水 田 の貸 借

7)Yogyakarta地 方 の あ る 水 稲 耕 作 村 落 につ い て のStoler[1975:54]の 報 告 で は,水 田 所 有 世 帯 の82%がO.75  ha以 下 と い う 層 に 属 し,そ の 平 均 所 有 規 模 は0・17haで あ る 。 ま た 同 じ地 方 の 別 の 水 稲 耕 作 村 落 に つ い て のMasriら の 報 告 で は,水 田 駈 有 世 帯 中0.05  ha以 下 の も の が20%,

0.05‑0。20haの も の が54%を しめ る[M)ssRr  and PENNy  1976= 36]。 さ ら に 東 部 ジ ャ ワ, Malang 県 一 村 落 に つ い て の 加 納[1979:45]の 報 告 で は,サ ンプ ル70世 帯 の う ち45世 帯 が 耕 地 を 所 有 す る が,う ち10世 帯 が0.2ha未 満,11世 帯 がO・2‑O・4・haの 層 に 入 る 。

382

(9)

所 有 経 営 世 帯 所 有 非 経 営 世 帯 非 所 有 経 営 世 帯

所 有

0.78 0.40 0

現 金 賃 借

表3  D集 落 に お け る世 帯 タイ プ別 水 田所 有 ・利 用 規 模 3‑a  世 帯 あた り平 均

借 入

se rama

小 作

mertetu

禦望 近親 よ り無償

0 0 0.10

0.05 0 0.03

借入計

0.48 0 0.35

経 営

0.73 0 0.35

現 金 賃 貸

0.25 0.25 0

(筆者 の戸 別 調 査 によ る)

0.40 0

0.15 0.03 0 0.08

0 0 0.03

単 位   ha

貸 出

serama

小 作

0.05 0.08 0

merapat̀

小 作

0.15 0 0

近親へ 無 償

0.08 0.08 0

貸 出計

0.53 0.40 0

所 有 経 営 世 帯 所 有 非 経 営 世 帯 非 所 有 経 営 世 帯

所 有

10.13 5.0 0

15.13

現 金 賃 借

5.25 0 2.25

7.5

3‑b水 田 総 面 積

借 入

serama

小 作

0.25 0 1.0

1.25

mertetu

0 0 0.25

0.25

加〃ψ α'

小 作

0 0 1.5

1.5

近親 よ り無償

0.5 0 0.28

0.78

借入計

6.0 0 5.38

11.38

経 営

9.5 0 5.38

14.88

現 金 賃 借

3.13 3.0 0

6.13

単 位ha

貸 出

s erama

小 作

0.5 1.0 0

1.5

merapat

2.0 0 0

2.0

近親へ 無 償

1.0 1.0 0

2.0

貸出計

6.63 5.0 0

11.63

(10)

表4  D集 落水 田所有経営世帯一覧

i一 水 田 借 入 一1 水   田  貸   出

(筆者 の戸 別 調 査 に よ る)

1 1

No.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

世 帯 主 性 別*1)

M M M M M M M M M M M M M

世帯主 年 令

47 53 35 50代

62 39 66 55 52 60代 60代 62 57

配 偶者 の有 無     *2》

M M M M M M M M M M M M M

世 帯 員 数

7 9 6 5

6 8 4 9 8 3 5 7 4

水 田所 有規模

1.8 ha

1.75 1.5 1.0 0.75 0.5

0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.25

0。12

現 金 賃 借

5.0

0.25

a   グ  び

小 作

ha

(0.25)

近親よ り 無償借 入

(0.5)

a

経 営 規 模

0.9

1。5

ha

3.75 0.25 0.25 0.5 0.25 0.25 0.25

0。5

0.5 0.25 0.37

現 金 賃 貸

0.9 ha

0.5†)

59[0

00 5

0

0.25†)

0.25 0.25

  アゆ の

小 作

ha

0.25

0.25

meraPat

ha

0。75

1.25

近 親 へ 無償貸 出

(1.0)

ha

農業外の職業 村役場書記

雑貨店経営,肥 料 ・ 種苗販売

建築請負 建築労働

村役場宗務役,学 校 教師(息子) 布 ・ 衣料行商

牛車ひき 収穫請負米商人 牛車 ひき

収穫請負米商人 大工,占 者

*1)Mは 男

*2)Mは 配偶 老 有 り

水 田貸 借 の数 字 にカ ッ コを付 した もの は,親 子 間 の 貸借 現 金賃 貸 中 †)を付 した も の は国 営 タバ コ農 場 へ の賃 貸

圖 旨 加 嚇 様 璃 S 露 単 謡 建 略

b︒,

(11)

関本   二者関係 と経済取 引

が お こな わ れ て い る理 由 はわ か らな い。 そ こで 表4の 世 帯 別 水 田所 有 ・借 入 ・経 営 ・ 貸 出を しめ す一 一ee表を 検 討 して み よ う。13世 帯 中,水 田 を なん らか の形 で借 入 して い る の は4世 帯 だ が,そ の うちの1世 帯(No.3)が,4世 帯 合 計総 借 入 面 積6ha中5 haを 現金 前 払 いで 借 入(n2eωa)し て い る。 他 の3世 帯 の う ち2例 は,将 来 相 続 予定 の水 田 を親 か ら,1例 は無 償 で,他 の1例 は 収穫 折 半 の小 作 契 約(serama)で 借 入 し, 残 る1例 は水 田所 有 規 模 最 小 の 世 帯 が現 金 前 払 賃 借 して い る もので あ る。

  ・ 一 ・ 一 一 方,13世 帯 中9世 帯 が なん らか の形 で水 田 を貸 出 して い る。 水 田の所 有 や 貸借 契 約 は村 境 内で の み お こな わ れ る もの で は な く,多 くの 村 に また が って 錯綜 して お り, 現 にD集 落 の水 田所 有 者 の な かで 上 記 の 大 規模 水 田賃 借者 に 自己 の水 田を 貸 出 して い

る もの は い な いが,事 態 を モ デル 化 す る な ら,た だ1世 帯 の み が,他 の 多 くの水 田所 有 者 か ら大 量 に水 田を 貸借 し,大 規 模 な 農 業 経 営 を お こな って い る わ けで あ る。

  表4に み られ る よ う に,こ の世 帯 は所 有 ・賃 借 を あ わせ6.5haを 管 理 下 に お き, う ち3.75haを み ず か ら経 営,他 は小作,賃 貸8)等 に あ て て い る。 この例 は,水 田管 理 面 積,経 営 面 積 と もぬ きん で て大 きな もの で あ る。 最 大 規 模 の 農業 経 営 者 が 同時 に 最 大 規 模 の水 田賃 借 者 で あ る とい う例 は,こ の 地域 に頻 繁 に見 いだ され る。 この 地 域 の 主 要 な 水 田 貸借 形 態 で あ る現金 前払 賃 貸 制 にお い て は,水 田借 入 者 の経 済 的 地 位 が 水 田貸 出 者=地 主 と 同等 か,よ り豊 か で あ るの が,一 般 的傾 向 だか らで あ る。 ・   Klaten‑一一Solo地 域 は1965年 まで 共 産 党 系 農 民 組織 「イ ン ドネ シ ア農 民 団」 が もっ 全 国最 強 の 根 拠 地 で あ っ た。60年 代 前半 に は,こ の地 域 で 「 一方 的行 動(aksi seP21hak>」

とよ ばれ る共 産 党 系 農民 の実 力 耕 地 占拠 が激 発 した 。 日本 で は しば しば この行 動 が, 土 地 を もた な い 小作 農 に よ る 地 主 所 有 地 の 占拠 と理 解 され て い る。 だ が,筆 者 がD 村 の人 び とか ら聞 くか ぎ りで は,所 有 す る水 田 を前 払 い 賃 貸 した 「地 主 」 が,契 約期

限以 前 に,賃 借 者 か ら実 力 で と り返 す の が主 要 な形 態 で あ った。 つ ま り貧 しい 「 地 主」

の ラデ ィカ ルな 闘 争 だ った の で あ る9)。 一 般 に経 済 的 上 位 に立 ち搾 取 す る もの と い う 通 念 で理 解 され が ちな 「地 主 」 とい う語彙 を,ジ ャワ につ いて 用 い る に は十分 な 注 意 が 必要 とされ る。 収 穫 か らえ られ る粗 収入 の35〜40%に 達 す る賃 借 料 を前 払 い す る賃 借 契 約 は,資 金 を もつ もの の み に可 能 で あ り,余 剰 資 金 の 投 資形 態 と して は,利 潤 率 が 高 く安全 な もので あ る。

8)こ れ は 国営 タバ コ農 場 会 社 へ の水 田 の賃 貸 で あ る。 会社 へ の賃 貸 は,村 役場 が 一 括 して 契 約 を結 び,毎 年 水 田所 有者 に交 替で 割 りあ て る もので,事 実上 強制 に近 い。 したが って,一 方 で 水 田 を賃 借 しつ つ,同 時 に所 有す る水 田 の一 部 を賃 貸 す る ことが あ りう る。

9)1970年 代 に入 って,グ リー ン ・レボ リュー シ ョン下 の 農 業生 産 性 の 向上 の結 果,水 田賃 貸 料 も高 騰 して い る。 したが って 現在 の 状 況 で は生 活 に窮 迫 して水 田 の長 期 間 賃貸 を 余 儀 な くされ るよ うな事 態 は あま り一 般 的 とはい え な い。

385

(12)

国立民族学 博物 館研究報告5巻2号 表5  D集 落 における世帯別水 田経営規模分布

      (筆者の戸別調査による) 経 営 規 模 所 有 経 営 世 帯 非所有経営世帯 計

        a   3.75

  1.5 0.7〜1.0   0.5 0.2〜0.4 0.1〜0.2 0.1未

1 1 1 3 7 0 0

0 0 3 1 7 2 2

 1  1  4  4 14  2  2

13 15 28

  つ ぎ に,以 上 で ふ れ た 大 規模 借 入 ・経 営 を お こな う1世 帯 を除 き,他 の12世 帯 の所 有 経 営 者 に か ぎ って,水 田利 用形 態 の平 均 値 を と る と,所 有0・72ha,借 入0・08  ha, 経 営0.48 ha,貸 出0.32 haと な る。 ほ ぼ伝 統 的 世 帯 あ た り耕 作 面 積 で あ る0・5haを 経 営 し,他 は貸 出 して い る こ と にな る。

  しか しこの 数字 は な お単 純 平 均 値 に す ぎ な い。 表5に 所有 経 営世 帯 の 水 田経 営規 模 の分 布 を見 る と,所 有 規模 の分 布 よ り は るか に偏 りが はげ し く,中 間値 で0・37ha, モ ー ドで0.25haと,上 述 の単 純 平 均0.48 haと い う数 値 以 上 に 経 営規 模 が一 般 に零 細 で あ る こ とが わ か る。 こ こで 先 の表4に お い て,各 世 帯 の 水 田 所 有規 模 と経 営 規 模 の 関係 を み る と,所 有 規 模 で 上位3位 まで の1・5ha以 上 を 所 有 す る世 帯 で は,あ き らか に よ り小 規 模 の 水 田所 有世 帯 よ り経 営 規 模 が大 きい。 しか し残 る10世 帯 の あ い だ で は,所 有 規 模 との 傾 向 的連 関 な しに,経 営 規 模 が0・25〜0・5haの あ い だ に分 散 し て い る。 した が って所 有lha以 下 の 大 多 数 の世 帯 で は,自 己経 営 規模 はほ ぼ0・5ha な い しそれ 以 下 で あ り,そ れ以 上 水 田を 所 有 して い れ ば,ま た 所 有 規 模0.5ha以 下 で も現 金 調 達 そ の他 の必 要 のた め事 情 に応 じ,随 時 水 田を 貸 出す とい う傾 向 を 指摘 で き る。

  水 田貸借 の背 後 に あ る社会 的関 係 の 性 格 に 関 して も,上 記 の 上 位3世 帯 と他 の10世 帯 に は相 違 が 見 い だ さ れ る。 前 者 の う ち2世 帯 は,そ れ ぞ れ 村 内最 大 の 雑 貨 店 と建 築 請 負 業 とを 営 み,現 金 調達 の た め に 水 田を 賃 貸 に 出 す 必 要 が な く,水 田 貸 出 しは 駕 吻 α彦とい う一 種 の小 作 契 約 に よ って い る。 これ は種 苗,肥 料,農 薬 代 の全 額 お よ び 田植 え時 の 労 賃 の1/2を 地 主 が 負 担 し,収 穫 は現 物 な い し現金 で地 主3/4,小 作 人 1/4の 比 で 分 け る もの で,小 作 と常雇 農業 労 働 者 の 中 間形 態 とみ る ことが で き る。 こ の形 態 の地 主 ・小 作 関 係 は,か な り持 続 的 で あ り,ま た 弱 い保 護 ・従 属 関 係 が み られ

386

(13)

関本   二者関係と経済取引

る。 つ ま り,経 済 外 の 政治 的関 係 を 内包 す る10)。

  一 方,所 有 規 模 下 位10世 帯 の水 田貸 出形 態 は,現 金 賃 貸56%,serama小 作22%,事 実 上 の 強制 で あ る 国営 タバ コ ・エ ス テ ー トへ の 賃 貸22%で,meraPat小 作 は見 られ な

い。serαma小 作 は,小 作 人 が現 金 を前払 い した上 で(現 金 賃 借 の 場 合 の 賃 借 料 の20〜

25%ほ どの 額),収 穫 を 折 半 す る もの で,地 主 ・小作 は親 しい関 係 に あ るが,保 護 ・ 従 属 関 係 を ふ くむ もの で は な く,し ば しば非 持 続 的で あ る。 した が って,こ の10世 帯

の水 田貸 出 は,村 び と同士 の個 人 的 政 治 的 関係 を 内包 しな い,よ り経 済 的性 格 の 強 い 行 為 で あ る。

  本 論 で は便 宜 上 「小 作 」 とい う日本 語 を も ちい て い る が,こ れ は 日本 農業 にかつ て 広 汎 に存 在 した小 作 の ご と く,社 会 的 ・経 済 的 な 単一 の カ テ ゴ リーを な す もの で は な い。 水 田 の経 営 ・耕 作 を め ぐる取 引 の柱 は,水 田現金 賃 貸制 と日雇 農 業 労 働 者 の雇 用 にあ り,seramaとmeraPatは この 両 極 の 中 間 に位 置づ け られ る。  seramaは 賃借 料 の 前 払 いを伴 う(次 章 にふ れ る親 子 間 のserama契 約 の場 合,こ の支 払 い は しば しば 免 除 さ れ る)。 現 金 賃借 を お こな って い た もの が,あ る シ ーズ ンに はた ま た ま資 金 が 足 りな いの で,seramaに して も ら うと い った 例 もあ るよ うに,純 粋 な 現金 賃 借 とserama 契 約 の 区別 は相 対 的 な もの で あ る。 またmeraPatも つね に現 物 に よ る分 益小 作 の形 態 を とる ので は な く,小 作 人 の要 望 に よ って は,地 主 が収 穫 と処 理 ・販 売 を お こな い, 粗 収 入 の1/4を 小 作 人 に現 金 で わた す こ とが あ る。 さ きにの べ た よ う に農 業 労 働者 と の 区別 は相 対 的 で あ る。

  以 上 の分 析 が ら,こ の地 域 め水 田所 有者 に よる 農業 経 営 に二 つ の 特 徴 を 指 摘 す る こ とが で きる。 ま ず第 一 に,経 営 規模 の大 小 に関 りな く,多 くの農 業 労 働 者 を も ちい る こと(こ の 点 は前 稿 で詳 し く論 じた の で[関 本   1978:373以 下],  こ こで は くり返 さな い)。 第 二 に,し た が って 農業 経 営 の手 間 は い ち じる し く軽 減 さ れ る に もか か わ らず,多 くの 所 有 経 営者 は,規 模 の 零細 な水 田 の一 部 を,さ らに現 金 賃 貸 制 に よ って 貸 出 して しま う。

  水 田の 現 金 賃 貸 制 は過去 に ジ ャワで お こな わ れ て いた 水 田 の 質入 れ,あ る い は水 田 の 「 期 限 つ き売 買 」 とい わ れ る もの11)と 相 似 して お り,貸 手 の 側 の現 金 需 要,借 手 の側 の投 資 先 を求 め る余剰 資金 の存 在 に よ って成 立 す る村 落 部 金 融 制 度 で もあ る。 し か も これ は抵 当流 れ や,期 限 が き て も買 い 戻 す こ とが で きず に水 田 を 失 って しま う危 険 を伴 わ な い巧 妙 な 金 融制 度 で あ る。 水 田の 貸 出者 は,個 々の 事 例 ご との 差 は あ っ 10)た だ し一 人 のmeraPat小 作 人 は 同 時 に二 人 以上 の地 主 と契 約 関係 にあ る ことが 多 く,一 人 の   パ トロ ン と複 数 の ク ライ ア ン トに よ る閉 ざ され た 集 団 は形 成 され な い。

11)水 田質 入 れ制,期 限つ き売 買 につ いて はPelzer[1945:169・‑172],森[1969]参 照 。

387

(14)

国立民族学博物館研 究報告   5巻2号 て も,基 本 的 に は貨 幣経 済 下 の 貧 困 に よ って 水 田 の 貸 出 をつ ね に余儀 な く されて い る 存 在 で はな い。 水 田所 有 者 は,シ ーズ ン ご との 収 穫 予 想,米 の時 価,水 田賃 貸料 の相 場 等 を 勘 案 しな が ら,現 金 の 必要 に応 じて 水 田を み ず か ら経 営 す るか 貸 出す る か を き め る。 興 味 深 い の は,水 田の 貸手 ・借 手 が固 定 せ ず,日 常 的 対 面 関 係 にあ る同 じ村 の 隣 人 た ちに 限定 さ れ な い こ とで あ る。 人 び と は広 い社 会 的 ネ ッ トワ ー クを もち,そ の な か に必 要 な 時 に水 田 を貸 借 で き る潜 在 的 取 引 相 手 を多 数 用 意 して い る。 ま た水 田所 有 者 が 容 易 に水 田 を貸 出 して しま う こ とが 可 能 な の は,表4右 欄 「農業 外 の職 業 」 に 見 る よ うに,か れ らの多 くが 農業 外 に別 の 生 計手 段 を もつ か らで あ る(こ の点 はV章 に詳 述 す る)。 農 業 の み にた よ らず 他 の手 段 で,日 々 の生 計 費 をえ る可能 性 も用 意 し て い るが ゆ え に,娘 の結 婚,亡 くな った親 の 千 日 目の法 要,耐 久 消 費 財 の購 入 な ど不 時 の 出費 に 際 し,水 田 を貸 出 して現 金 に換 え て も,た だ ち に毎 日の 暮 ら しに窮 す る こ と に はな らな い。

  こ う した経 済 生 活 の 様 式 は,1章 に しめ したバ ス運 送 業 モ デ ル に見 るバ ス所 有 者 と 類 比 しう る。 と くに小 規 模 なバ ス所 有 者 の 場 合,も し他 に有 利 な しご とが な け れ ば 自 らバ ス を 運 転す る こ と も あ る。 しか しかれ らの常 道 は一 台 の車 両 を所 有 して みず か ら 運 転 す る こ とか ら始 めて,バ ス事 業 に専 念 しつ つ 拡大 を図 る こ と に はな い。 個 々に契 約 した 運転 者 にバ ス を まか せ て,自 らは別 の 業 種 に も手 を拡 げ て い く。 バ ス事 業 が うま く行 か な けれ ば,車 両 を売 却 して資 本 投 下先 を他 に転 ず る。 経 済 学 的観 点 か ら資 本 力 の大 小 を論 ず る な ら,も ちろん バ ス事 業 者 と小 規 模 な水 田所 有 者 との間 に は大 き

な 隔 りが あ る。 だが,所 有 す る水 田 に もっ ぱ ら依 存 し,incorporateな 家 族 関 係 に依 拠 して 家族 労 働 力 を 中心 に経 営 に専 念 す る 自作 農 家 の モ デ ルが,わ れ わ れ が理 解 す る バ ス 会 社 の あ り方 に類 比 され る の に た い し,広 い ネ ッ トワ ー ク に依 拠 した二 者 間 取 引 の 連 鎖 の な か に農 業 を もそ の部 分 と して 組 み 入 れ て しま うD村 の 農 業 経 営 の特 質 は, ス ラカ ル タ地 方 にお け るバ ス事 業 の モデ ル と類 比 し うるの で あ る。D村 の経 済 生 活 の な か で 家族 関 係 自体 も二者 間取 引の 連 鎖 とみ な し うる こ と は,以 下 のIII,  IV章 で論 ず る。

皿.水 田貸 借 と家族 関 係

  本 章 で は,水 田所 有 非経 営世 帯 と,非 所 有 経 営世 帯 の水 田貸 出,借 入 形 態 を検 討 し, 家 族 関 係 内部 の経 済 取 引 の 問 題 を論 ず る。

  さ きに 掲 げた 表1に 見 るよ うに,水 田所 有25世 帯 の う ち,農 業 経 営 を お こなわ な い

388

(15)

関本  二者関係 と経済取 引

もの は12世 帯 にた っす る。 表3に 見 るよ うに,所 有 経 営 世 帯 が平 均0.78haの 水 田を 所 有 す る の にた い し,所 有非 経 営 世 帯 の 平 均 は0.40haに す ぎな い。 後者 の大 多 数 は 水 田を 有 償 で貸 出 して 現 金 な い し現 物 の賃 借 料 を え て い る ので,そ の 限 りで 「地 主 」 と よぶ こ と もで き る。 しか しか れ ら所 有 非 経 営 者 は,日 本 農 村 の例 にた とえ る な ら, 農 地 解 放 前 に あ った小 作 人 の 上 に君 臨す る豊 かな 「地主 」 で は な く,1970年 代 に 増加

した,他 に主 た る職 業 を もち大 規 模 経 営 農家 に水 田 を貸 出す(請 負 耕 作)零 細 水 田所 有 者 の よ うな もの で あ る。

  な ぜ この よ うに零 細 な 「 地 主 」 が 多 いの か。 そ の ひ と つ の原 因 は,家 族 ・相 続 慣 行 の う ち に求 め る ことが で き る。 表6に 見 る よ うに,所 有 経 営世 帯 の 世 帯主 年 令 が50〜

60歳 台 に集 中 して い るの にた い し,所 有 非 経 営 世 帯 の そ れ は70歳 台 に顕 著 な ピ ー クを しめ し,他 方,非 所 有 経 営 世 帯 の そ れ は40歳 台 に ピー クを も って い る12)。

  表6の 各 カ テゴ リー ごとの 世代 指 数 を みて もわ か る よ う に,入 び と は子 ど もが 結婚 す る ほ どの 年 令 に な って は じめて水 田 の所 有 経 営 者 とな り,さ らに高 令 にな る と経 営 を や め て水 田 を貸 出す とい う,ラ イ フ ・サ イ クル のパ タ ー ンが 浮 か び上 って くる。

  この こ とは,ジ ャ ワ人 社会 の家 族 ・相 続 慣行 か ら容 易 に理 解 しうる。D村 周 辺 の村 落 地 域 の家 族 で は,中 根 千枝 の分 類 に い う無 子残 留 型[1977:27]が 統 計的 に優 越 し, 観 念 上 も望 ま しい もの と考 え られ て い る。 す な わ ち結 婚 した子 は,多 くの 場合 さ しあ た りいず れ か の親 と同居 す るが,や が てふ つ うは数 年 後 に住 居 を えて 独 立 す る。 した が って 各 世 帯 の 家族 構 成 は核 家族 型 が多 く,D集 落77世 帯 の うち,核 家 族 型 とそ の欠

表6  D集 落における世帯 タイプ別家族構成

(筆者 の戸 別 調 査 に よ る)

所 有 経 営 世 帯 所 有 非 経 営 世 帯 非 所 有 経 営 世 帯 農業労働を主 とす る世帯 農業労働を副 とす る世 帯 非  農   業   世   帯

世 帯 数

13 12 16  5 12 19

世 帯 主 性 別*1) 100%

67 87 80 67 95

世 帯 主 平均年齢

53.7 62.3 40.3 54。0 49.6 45.0

世 帯 主 配 偶者 の 有 無*2)

100 58 100 100 67 95

平 均 世 帯

員 数

6.2 4.1 5.5 4.0 5.6 4.7

世 帯 主世 代 指 数 平 均*3)

2.7 3.4 2.2 2.6 2.7 2.4

*1)世 帯 主 が 男子 で あ る例 の百分 比 を しめす 。

*2)世 帯主 が 配 偶者 を も ち同居 して い る例 の百 分 比 を しめす 。

*3)世 帯主 の 子 がす べ て 未 婚… … 指数2   世 帯主 の子 に既 婚 者 が い る… … 指数3    世 帯主 の孫 に既 婚 者 が い る… … 指数4

12)年 令 の観 念 は,独 立後 行 政 に よ って も ち こま れた もので,村 び との誰 もが 聞か れ れ ば 自分 の   年 令を 答 え るが,老 人 や貧 し く学 校 に行 かな か った もの の 場合,ご く大 まか な もので あ る。

389

(16)

国立民族学博物館研究報告  5巻2号 損 型 を あ わ せ る と55世 帯 に達 す る。 よ り複 雑 な構 成 を しめす 世帯 は,上 記 の 若 夫 婦 の 一 時 的 同 居 を 除 け ば,世 帯主夫婦のいずれかの老母,夫 に死別 ・離別 した姉妹な ど経 済 力 の 弱 い もの を抱 え こん で い る例 が 多 く,経 済 的 に可 能 な か ぎ りは核 家 族 形 態 を と

る。

  全 子 独 立後,老 人 夫 婦 世 帯 は生 計 を い ず れ か の子 と合 一 化 せ ず,単 独 の 家 計 を い と な む。 宅 地 ・家屋 ・水 田 な ど主 た る財 産 の 相 続 は,名 義 人 の死 後 は じめ て お こなわ れ るの が ふ つ うで あ り,相 続 方 式 は男 女 を とわ ぬ全 子 へ の 均 分 が原 則 で あ る。 した が っ て,相 続人 た る子 ど もた ち は,結 婚 後 長 い年 月 を経 て,親 の死 後 よ うや く水 田を 所 有 す る こ とに な る。 もち ろん ジ ャ ワ島 内 部 に新 た な耕 地 開墾 の余 地 は な いの で,親 が た また ま早 死 す る か,あ る い は,子 に水 田 を分 与 した り買 い与 え う るほ ど豊 か で あ る比 較 的 稀 な 例 を 除 き,30〜40歳 台 の うち に水 田 を所 有 す るの は難 しい。

  以 上 一 般 的 に の べ た水 田の 所 有 ・利 用形 態 と ライ フ ・サ イ クル,家 族 サ イ クル の 関 りが,D集 落 に お け る水 田貸 借 を ど こま で 規 定 して い るの か,以 下 で は さ らに個 別 事 例 に即 して よ り具体 的 に検 討 す る。

  まず 所 有 非 経 営世 帯 の諸 事 例 をみ よ う。 表7の 所 有 非 経 営12世 帯 の一 覧 をみ る と, 世 帯 主 が20〜30代 で 子 はす べ て 未婚 とい う世 帯 が2例(No.11,12)あ る。 この場 合

表7  D集 落水 田所有 非経営世帯一覧 (筆者 の 戸別 調 査 によ る 〕 水 田 貸 出

No.

1 2 3 4 5 6 7 8

 9 10 11

12

世 帯 主 性 別 *1)

F M M M M M F M

F M M F

世帯主 年 令

70 52 70 85 70 78 75 70 50 65 37 25

配 偶 者   の有無 *2)

W M M W W M W M W M M M

貰 藪

1 5 2 2 1 6 1 7 2 8 8 6

水 田所 有規模

  lO . 5 0.25 0.5 0.5 0.5 0.25 0.5

0.25

0.5 0.25 0.5

0.5

現 金

賃 貸

serama

小 作

(O.・25)

0.25 0. 25 0.25 0.25

0.25↑

  0.5   0.25   0.25   0。5 内0.25†)

(0.5)

ha

(0.25)

0.25

近親へ 無 償 貸 出

    ha(0 .5)

(0.25)

0.25

農業外 の職業 雑貨店 薬商人

占師 農業労働食物 売 り

建築労働 牛車 ひき(夫)

*1)Mは 男 ,Fは 女

*2)Mは 配 偶者 有 り,Wは 配 偶者 無 し

    水 田 貸 出の 数 字 に カ ッコを付 した もの は,子 へ の貸 出

    現 金賃 貸 中 †)を付 した もの は 国営 タバ コ農 場 へ の賃 貸

390

(17)

関本    二者関係 と経済取 引

は 前章 に み た所 有 経 営 世帯 との 区別 は相 対 的 な もの に す ぎ な い。 現 在 は水 田 を す べ て 貸 出 して い て も,数 シ ーズ ン後 に はみず か ら経 営 す るか も しれ な い か らで あ る。 他 の 10世 帯 は,上 述 した ライ フ ・サ イ クル上 の所 有 非 経 営 世 帯 とみ なす こと がで き る。 こ の10世 帯 の うち3世 帯(No.1〜3)が,所 有 す る水 田 の全 量 を将 来 の相 続 予 定 者 に貸 出 して い る。 貸 出形 態 は無 償 が1例,現 金 賃 貸 が1例,serama小 作 が1例 で あ る。 ま た 水 田 の1/2を 相 続 予定 者 に貸 出 し,他 の1/2を 他 人 に賃 貸 して い る例 が2世 帯 あ り, 相 続 予 定 者 へ の 貸 出形 態 は1例 が無 償(No.4),1例 がserama小 作(No・5)で あ る。

以 上 を 除 い た5世 帯 は水 田の 全 部 を他 人 に賃 貸 して い る。

  結 局 水 田の 全 部 ま た は一 部 を相 続 予定 の子 へ貸 出 して い る5例 で は,現 金 賃 貸1例 serama小 作2例,無 償2例 と な る。 子 が老 い た親 と同居 して 扶 養iする制 度 的慣 行 の な

い この 社 会 で は,経 営 か ら退 いた 老 人 とそ の相 続 予定 者 た る子 との 間 で も,水 田 の賃 貸 や小 作 と い う経 済 的 契約 が結 ばれ るの で あ る。

  で は,他 の5世 帯 の 場合 な ぜ水 田 を相 続 予定 者 に貸 出 して い ない の だ ろ うか。2例 で はす べ て の 子 が都 市 に生 活 して お り,1例 で は子 が未 婚 の 女 子(同 居)の み で あ る。

これ らの場 合,子 が水 田 を借 りて 経 営 しな い理 由 はあ き らか で あ る。 他 の1例 は,ま だ3人 の未 婚 の子(男1,女2)と,夫 と離 別 し2人 の 子 を もつ 娘 とが 同 居 して お り・

0.25haに す ぎな い水 田 は生 計 のた め 賃 貸 に 出す 必 要 が あ る。 既 婚 の 娘2人 の夫 は, トラ ック助手,精 米 所 労 働 者 で あ り,義 父 か ら水 田を 賃 借 す る資 金 はな い し,serama 小 作 を す る意志 も な い。 最 後 の1例 で は,水 田0.25haが す で に二 男 に 譲 られ て お り・

残 る0.25 ha一を他 の相 続 予定 者3人(男1,女2)に 貸 出 さ な いで 他 人 に 賃 貸 す る明 白 な理 由 は見 い だ され な い。

  以 上 の こ とか ら,相 続 予 定 の 子 が親 の住 居 か ら遠 くな い と ころ に住 み,農 業 経 営 の 意 志 が あ る場 合,親 の水 田の 全 部 ま た は一 部 を借 り る可 能性 はか な り大 き い とい え よ う。 た だ これ が実 現 す るた め に は,さ ま ざ ま の個 別 世 帯 ご との事 情 が関 って い る。 親 に 同居 す る子(未 婚 な い し夫 と死 別 ・離別 した もの)が な く,世 帯 生 計 費 が 小 さ けれ ば,相 続 者 へ の 貸 出 の可 能 性 はつ よま る し,子 の側 に親 の水 田 を賃 借 す る資 金 が あ れ ば,や は り貸 出の可 能 性 はつ よ ま る。親 子 間 水 田貸 借 を規 定 す る絶 対 的 な 条 件 は,親 の 側 が 自 己 の生 計 を 独立 して 維 持 しう るか ど うか に あ り,子 の 生 計 や農 業 経 営 の 意 志 へ の配 慮 は,そ の つ ぎの副 次 的 条 件 にす ぎ な い。 こ う した 親 子 関係 の様 式 は,の ち に 第V章 で ふ れ る未 婚 同居 子 の親 の 農 業 経 営 へ の 構造 的無 関 心 を も帰 結 す る。 農 業 を 営 む もの の 場合 まで,生 産 活 動 に お け る親 子 関 係 の非 連 続 性 が きわ 立 って い る事 実 は,

ジ ャワ入 の 家族 と経 済 生 活 の理 解 の上 で 重 要 な こ とで あ る。

391

(18)

表8  D集 落 水 田 非 所 有 経 営 世 帯 一 覧 (筆者 の戸 別 調 査 に よ る) 水 田 借 入

No. 世 帯 主 性 別*1)

世帯主 年 令 蟹 鷺

*2)

世 帯

員 数 水 田経

営規模 現 金 賃 借

562rα7ηα

小 作

1η6吻1π

小 作

η〃ψ α'

小 作 蕪醐 その瑠

1 M 28 M 3 1.0

2 M 49 M 6 0.75

3 M 40 M 4 0.25

4 M 28 M 5 0.5

5 M 30 M 9 0.25

6 M 35 M 5 0.25

7 M 40 M 3 0.25

8 M 35 M 8 0.25

9 F 35 M 5 0.12

10 M 40 M 8 1.0

11 M 55 M 3 0.25

12 M 55 M 4 0.25

13 F 50 M 5 0.12

14 M 40 M 7 0.05

15 M 45 M 8 0.08

1.0 0.75 0.25

(0.25) 0.25 (0.25) (0.25) (0.25) (0.25)

(0.12)

1.0 0.25 0.25

0.12 0.05

0.08

i

他 の 職 業 衣 類 ・食 料 行 商(妻) 建築労働

牛 車 ひ き,農 業 労 働(妻) 農 業 労 働,薬 商(妻) 農業労働

食物売 り 食物売 り

農 業労 働,飲 物 売 り(妻) 食 物 売 り,農 業 労 働 輪 タ ク運 転,農 業労 働 農業 労働

食 物 売 り,農 業 労働

米 ・食 物 売 り,自 動 車 運 転(夫) 建 築 労 働,農 業 労働(妻)

村 役 場 小 使,農 業 労働,食 料 商(妻) 保 険 セ ール ス(息 子)

*1)Mは 男 ,Fは 女 。

*2)Mは 配 偶 者 有 り 。

*3)そ の他 とは,村 役 場 小 使 の 報 酬 と して 村 長保 有 職 田の 一 部 を 無 償 で借 りて い る もの 。

水 田借 入 の数 字 に カ ッ コを 付 した もの は,親 か らの借 入 。

(19)

関本   二者関係 と経済取 引

  D集 落 に水 田所 有非 経 営 世 帯 が多 い理 由 は,こ れ まで の 家 族 ・相 続 シス テ ム と結 び つ け た分 析 で,ほ ぼ 理 解 で きる で あ ろ う。 直 系 家族 や単 系 大 家 族 を 規 範 的制 度 とす る 社会 で あ れ ば,上 述 の 所有 非 経 営世 帯 の か な りの 部分 が,所 有 経 営 世 帯 の カ テ ゴ リー に吸収 されて しま うの で あ る。

  つ ぎに非 所 有 経 営15世 帯 の例 を検 討 しよ う。 か れ らの な か に は将 来 水 田相 続 を予 定 して い る もの が8世 帯 あ り,う ち6世 帯 は現 に親 の水 田 を借 入 して 経 営 して い る。 た だ しか れ ら非 所 有 経 営 世 帯 の す べ て が将来 水 田を相 続 して所 有 経 営 者 とな る ライ フ ・ サ イ クル上 の一 過 程 にあ る もの で は な く,ま た 将 来 相 続 予定 の水 田規 模 は,い ず れ の 例 も非 常 に小 さい。

  15世 帯 の世 帯 別 借 入 形 態 を み る と表8の よ う に,4種 が ほ ぼ 同数 で あ る。 そ して現 金 賃 借,meraPat小 作 の2形 態 が お も に他 人 か らの借 入 形 態 で あ るに た い し, serama 小 作 はす べ て親 子 の間 で お こな わ れ て い る。 表3‑bに もど って 借 入 形 態 別 の 水 田 借 入 合 計 面 積 を み る と,こ こで も現 金 賃借 が優 位 を しめて い る こ とが わ か る。

  表8の 各 世 帯例 か らは,非 所 有 経 営世 帯 の三 つ の主 要 な タ イ プ を指 摘 す る こ とが で きる。 第 一 は0.75〜1haと や や 大規 模 な水 田賃 借 を お こな って い る2例(No.1,2) で,こ れ は それ だ け の賃 借 資 金 を用 意 で き る相 対 的 に経 済 力 が上 位 の世 帯 で あ る。 第 二 は親 の水 田 をserama小 へ 作 ない し無 償 で借 入 して い る5例(No.5〜9)で,経 営 規 模 は小 さい。 第 三 は,他 人 の水 田 をmeraPat小 作 して い る3例(No.10〜12)で,さ

きにII章 で のべ た よ うに,や や 従 属 的 で,農 業 労 働者 に よ り近 い存 在 で あ る。 以 上 の うち第 二 の タ イ プ5世 帯 に,一親 かち の賃 借 と他 人 の 水 田 の 擁7彦 θ 虹 小 作 を 兼 ね て い る 1例(No。4)を くわ えた6世 帯 が,親 子 間 で 水 田貸 借 を お こな って い る事 例 で あ る。

  所 有 非 経 営 の老 人 世 帯 の 場合 と異 な り,水 田を 所有 せ ず に借 入 して い る非 所 有 経 営 世 帯 の場 合,そ の こ とを家 族 ・相 続 慣 行 が うみ だ す ライ フ ・サ イ クル の パ タ ー ンか ら 説 明 で き る例 は,以 上 の ご と く一 部 分 にす ぎな い。 親 が ま だ所 有 す る水 田 を経 営 して い る 場合,子 が水 田の 経 営 を お こな うた め に は他 人 か ら借 入 しな けれ ば な らな い。 現 に13世 帯 の所 有 経 営 世 帯 中 に は,水 田の 一 部 を 子 に貸 出 して い る例 はひ とつ もな い。

ま た,親 が所 有 す る水 田の経 営 か ら退 いて いて も,同 居 家 族 が ま だ多 い た め水 田 を他 人 に 賃 貸 した い場 合,他 の き ょ うだ いが す で に親 の水 田 を借 入 して い る場合 な ど,み ず か らは 貸 出 を うけ られ な い こ とが あ る。 また 夫婦 と も親 が水 田を ま った く所 有 しな い 例 も,非 所 有 経 営15世 帯 中7世 帯 にの ぼ る。 した が って,非 所 有 経 営 世 帯 の あ いだ で,水 田 を家 族 関 係 の 外部 の他 人 か ら借 入 して い る例 は,水 田面 積 で 計 るな ら,か れ らの 総 借入 面 積 の71%に の ぼ り,家 族 関 係 内部 の 貸 借 を 量 的 に圧 倒 して い る(表9)。

                                                       393

(20)

国立民族学博物 館研究報告  5巻2号 表9  D集 落水 田非所有経営世帯の水 田借入先別

    面積      (筆者の戸別調査 によ る) 借     入    先 水 田 面  積 親  か ら  の 借 入

相 続関係 にない近親か ら の借入

他 人 か ら の 借 入

  ha      % 1.38      (25.7) 0.18    (3.3) 3.82      (71.0)

5.38 (100)

農 村 の研 究[1965:22‑34]に も 見 い だ され る この現 象 は,

同族)や 中 国 の単 系 大 家 族(宗 族)の ご と く,通 世代 的 家族 集団 の 持 続 的 共 同行為 と して 農 業 が お こな わ れ る場 合 に は,お こ りえ な い もの で あ る。 第 二 は,上 記 の 家族 関 係 内部 の 貸 借 に お い て も時 にお こ り う る もの だ が,現 金 に よ る賃 貸 借 が 広 くお こな わ れ る ことで あ る。 これ は,農 業 生 産 上 の制 度 で あ る と と も に,村 落 部 に お け る主 要 な 金 融 制 度 と して も機 能 して い る。

  以 上 の二 つ の 特 徴 を通 じ,水 田の 貸 借 は随意 に形 成 され る二 者 間 の経 済 的 取 引 と し て お こなわ れ,地 主 ・小 作 制 に典 型 的 に見 られ るよ うな 経 済 外 の保 護 ・従 属 関 係 を 伴 わ な い。 また この水 田 貸借 関 係 にお いて は,近 親 と他 人 との 区 別 が きわ め て相 対 化 さ れ る。 ジ ャワの 農 業 は しば しば そ の零 細 性 を もって 特徴 づ け られ るが,面 積 規 模 に お い て零 細 で あ る こ と と同 時 に,社 会 学 的 に は農 業 を お こな う単 位 が 零細 で あ る。 親 と既 婚 の子 の 間,あ るい は既 婚 の き ょ うだ い 間 に は,水 田の 所 有 や 農業 生 産 の た めの lncorporatqな 関 係 が 組 織 され ず,そ れ ぞ れ が 独 立 の 経 済 行為 の 単 位 と して 分 立 し

て い る。 この点 につ い て は次章 で ふた た び 相 続 慣 行 の面 か ら分 析 をお こな う。 また, 親 と同居 す る未 婚 の 子 の 間 で さえ も,生 業 の 種 類 が そ れぞ れ 異 な り,生 産上 の協 同 が

お こな わ れ な い こ とが 多 い。 この点 に つ いて は,V章 で農 業 外 諸 生 業手 段 を 論 ず る さ い に,ふ た た び ふ れ る こ と にな る。

  前章 と本 章 を つ う じた分 析 の と お り, この地 域 に見 られ る錯綜 した水 田 の貸 借 関係 は,二 つ の 軸 に 沿 って整 理 しう る。 第 一 は,親 子 の 生 計 が独 立 し生 産 上 の共 同単 位 も構 成 しな い とい う家 族 様 式 が家 族 関 係 の 内 部 に経 済 的 契約 と

して の水 田貸 借 を もた らす こ とで あ る。

類似 の例 が,水 野 浩 一 に よ る東 北 タ イ       日本 の 直 系 家 族(イ エ,

  IV.家 族 関 係 と 相 続 慣 行

  前 章 で は親 子 間 の水 田貸 借 の 事 例 を検 討 し,子 が 老 い た親 の近 隣 に住 み 農 業 経 営 の 意 志 を もつ 場 合,親 の水 田 を借 り る可 能性 はか な り大 きい との べ た。 だ が,こ れ は将 来 の相 続 権 の 事 実上 の事 前 行 使 で あ る と は限 らな い。 ジ ャ ワ人 社 会 の相 続 慣 行 は,男 女 を とわ ぬ 全 子 に,父 な らび に母 の財 産 お よび父 母 共 同 の 財 産 に た い す る平 等 な権 利

394

(21)

関本  二者関係 と経済取 引

を認 めて い る。'した が って 結 果 的 に は均 分 相 続 がお こな わ れ る こ とにな り,水 田 に も この 方 式 が 原理 上 等 し く適 用 され る。 した が って,複 数 の子 の うち特 定 の 一 人 な い し 数 人 だ けが 親 か ら水 田 を借 りて い る場合,か れ らは借 入 した水 田 を その ま ま将 来 相 続 で き る と は限 らな い。

  D集 落 の 所 有非 経 営世 帯 の場 合,全 相 続 予定 者 が親 の 水 田を分 割 して 借 入 して い る 例 はな く,3例 で は子 の うち1人 だ け が 借入 して い る。 他 の1例 で は5人 の 子 の う ち3人 が.親 の水 田0.5haを 面 積 比2:1:1に わ けて 借入,も う1例 で は親 の水 田 0.25haを,8人 の 子 の うち6人 で 借 入 して い る。 この場 合,水 田を6等 分 はせ ず,

2等 分 して各 人 が3収 穫 期 ご とに1回 交 替 で 経 営 す る。 いず れ の場 合 も,将 来 相 続 時 に は水 田 を い か に分 割 す るか が,改 めて 問 題 にな るの で あ る。

  前 章 で,親 か ら子 へ の水 田 貸 出 しを規 定 す る主 た る条 件 が親 の生 計 の維 持 に あ り, lncorporatlon内 部 の 共 同 行為 で は な い こと を論 じた。 他 方, i親の死 亡 に よ って現 実 化 す る相 続 は,相 続 権 者 た る子 ど もた ち それ ぞ れ の 生 計維 持 の た め相 互 間 で お こな わ れ る取 引で あ り,原 理 上 親 が 関与 す る 問題 で はな い。 実 際。D集 落 の水 田所有 者 た ち に,将 来 水 田 を ど の よ うに相 続 させ る か を問 う と,「先 の な りゆ き しだ いだ」,「子 ど も た ちが き め る こ とだ」,「政 府(具 体 的 に は村 役 場,郡 役 所 の こ と)が き め る こ と だ」

と い う答 が 多 数 に の ぼ る。

  伝 統 的 社会 か ら近 代 社 会 へ の 発 展 を 論 じる社 会 科 学 上 の 古 い パ ラダ イ ムで は,伝 統 的=集 団 的,近 代 的=個 人 的 と い う図 式 が常 套 的 に もち い ら」 れ る。 一この 図式 の もとで は伝統 的相 続 制 度 分 析 の 強 調点 が,集 団 と して の共 有 財,集 団 と して の生 業 行 為 の一 貫 性 に 向 け られ る。 た と えばCoulangesは 古 代 ギ リシ アの相 続 原 理 を 「財 産 は不 動 で あ り移 り行 くの は人 間 で あ る」 とい う点 に求 め る[1967=118]。 人 は つ ぎつ ぎ に生 ま れ死 んで い くが,家 族 集 団 とその 財 産 は,祖 先祠 へ の礼 拝 と と もに,な ん ら時 間 の 変 化 に影 響 さ れず 持 続 す る とい うわ けで あ る。 川 本 彰 は,同 様 の 観 念 が 「 生 き か は り死 に か は り して 打 つ 田 かな 」 の一 句 に よ り 簡 潔 に 表 現 され て い る と 指摘 し て い る [1978:51]。 だが ジ ャ ワ人 社会 で は,都 市 の 富 裕 な 伝統 的 商 人 層 もふ くめ,単 系 大 家 族 や 直 系 家族 の連 鎖 に よ る超 世代 的親 族 集 団 は形 成 され な い。 富 裕 な 家族 の場 合,す べ ての 子 が 親 の死 後 それ ぞ れ 生 計 を維 持 で き る よ うに,財 産 を うま く分 割 しやす い よ

うに と親 が 心 を配 る こ とは あ るが,・相 続 は端 的 に親 子 間,き ょ うだ い間 の パ ー ソナ ル な行 為 で あ って,個 人 的 関係 を 超 越 して イ デ オ ロギ ー化 され た家 産 ・家 業 の継 承 ・維 持 の 問題 で はな い。

  した が って 現 実 の プ ロセ ス を見 る と,相 続 とい う相 互行 為 は,き ょ うだ い間 の 取 引

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URL http://doi.org/10.20561/00041066.. も,並行市場プレミアムの高さが目立つ (注3) 。

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