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新旧“パラロイドParaloid B-72”の比較分析

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(1)

新旧 パラロイドParaloid B‑72 の比較分析

著者 柘植 新, 園田 直子

雑誌名 国立民族学博物館調査報告

36

ページ 183‑194

発行年 2003‑02‑28

URL http://doi.org/10.15021/00001963

(2)

園田直子編『合成素材と博物館資料』

国立民族学博物館調査報告 36:183・194(2003)

新旧 パラロイドParaloid B−72 の比較分析

     柘植新*

 名古屋大学大学院工学研究科

    園田 直子

国立民族学博物館博物館民族学研究部

Comparative Analysis of O亘d and New Paraloid B・72,,

        Sh蓋n Tsuge and Naoko Sonoda

1分析の目的 2実験条件

2.1試料 2,2実験機器

3分析結果

3.1熱分解GC測定

3.2サイズ排除クロマトグラフィー測定 3.3熱重量測定

4 考察

1分析の目的

 メタクリル酸エチルを主成分とするアクリル共重合体であり,ローム・アンド・バース Rohm and Haas社から市販されているパラロイドParaloid B−72は,そのすぐれた透明 性,機械的強度,接着性および化学的安定性などからクリアーコーティングや金属用塗料

はもとより,美術・工芸品の修復や保存などの分野でも広く用いられている。

 しかしながら,同一メーカーから同一商品名で供給されたものでも,1975年頃を境と して樹脂の形状が変わり,使用上の特性に明らかな差異が認められることが指摘されてい る(De Witte et al.1978)。また,わが国で市販されているパラロイドB−72の形状は,

1990年代後半に再び変わっている。そこでここでは,購入時期の異なるパラロイドB72 樹脂を熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法(PyGC/MS),サイズ排除クロマトグ

ラフィー(SEC)および熱重量測定(TG)などの各種分析手法により解析し,使用特性 の差異に影響を与えている要因を検討した。

*平成14(2002)年4月より,名古屋大学名誉教授

183

(3)

2実験条件

2.1試料

 試料はパラロイドB−72(メタクリル酸エチルを主成分とするアクリル共重合体)ロー ム・アンド・バースRohm and Haas社製である。写真1は約25年前の製品,写真2は 1980年代後半の製品,そして写真3は1990年代後半の製品である。形状は異なるが,後 者2つの組成等は全く同等であることを確認したので,以下では試料Nとして一括して扱

う。

  試料0:約25年前の製品(写真1)

  試料N:最近の製品(写真2,3)

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写真1約25年前のパラロイドB・72:試料O

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写真21980年代後半のパラロイドB・72=試料N

写真31990年代後半のパラロイドB−72:試料N 184

(4)

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2.2実験機器 熱分解GC測定(PyGC)

  ガスクロマトグラフ   熱分解装置

  分離カラム

熱分解温度 キャリアガス スプリット比 昇温条件 試料量

HP6890

Frontier Lab PY−2020D

HP−PONA(固定相:Crosslinked Methyl Siloxane)

長さ50m×内径0.2mm×膜厚0.5μm 500℃

ヘリウム 50ml/min 50:1

50℃→5℃/min→280℃ (30 min)

100μ9

熱分解GClMS測定(PyGC/MS)

ガスクロマトグラフ 質量分析計 熱分解装置 イオン化法

HP589011

JEOL Automass system 150 Frontier Lab PY−2020D

EIモード (走査範囲 m/z=30−600)

CIモード (反応ガス:イソブタン,

     走査範囲 m/z譜100−600)

サイズ排除クロマトグラフィー測定(SEC)

SECシステム

カラム 検出器 移動相 カラム温度 試料濃度 試料注入量 校正用標準試料

日本分光880−PU Shodex K−803L 示差屈折計

クロロホルム1ml/min 40℃

2.O mg/m1

100μ1

単分散ポリスチレン

熱重量測定(TG)

  熱天秤   雰囲気   試料量   昇温条件

理学電機 Thermo Plus TG 8120 窒素雰囲気(100ml/min)

5mg

30℃→10℃/min→800℃

185

(5)

3分析結果

3.1熱分解GC測定

 図1に,熱分解温度500℃における試料Nのパイログラム,表1に熱分解GC/質量分 析計を用いて得られたパイログラム上のピークの帰属を示す。パイログラム上には,アク

リル酸メチル(ピーク4)およびメタクリル酸エチル(ピーク9)の各モノマーのピーク が,それぞれ保持時間6分および10分付近に主ピークとして観測されている。さらに,保 持時間10分から30分に各モノマーのダイマー群および混成ダイマー群,保持時間40分 付近にはアクリル酸メチルのトライマーおよび混成トライマー群も観測されている。この 結果から,パラロイドB72はアクリル酸メチルーメタクリル酸エチルのランダム共重合 体であることが分かった。

 次に,新旧試料のパイログラムを比較したところ,両者は極めてよく似かよっており,

一方にのみ観測されるピークはほとんど認められなかった。図2に両者のパイログラム上 の主なピークの相対強度を3回測定時の再現性を示すエラーバーと共に比較して示す。各 ピークの強度についても,両者にそれほど大きな差異は認められなかったが,微量成分で はあるがメタクリル酸ブチルと推定されるピーク15の強度については,試料N(0.2モル

%)の方が試料0(0.02モル%)よりもかなり大きくなっている。

 次に,表2にこのパイログラム上のピーク1〜32の各ピーク強度をモル感度補正した 値から求めた,試料Nおよび0の共重合組成を示す。また,文献値として,表3にド・

ヴィットら(De Witte et aU978)が20年あまり前に発表した論文中で報告されてい るパラロイドBr72の共重合組成を示す。表3中の試料(1978)は試料Nに,試料(1975)

は試料0にそれぞれ対応すると考えられる。なお,MAはアクリル酸メチル, EMAはメ タクリル酸エチルをさす。

 表2に示すように,試料Nと0の組成は,前者の方がMAの相対量がわずかに多いこ とが分かった。この結果は,ド・ヴィットらの結果とは逆の傾向を示しているが,これは ド・ヴィットらが使用した約20年前のNMRが比較的分解能および感度が低い90MHzの 装置であり,必ずしも信頼性が高くない可能性があり,PyGCによる測定結果の方がより 信頼性が大きいと考えている。NMR測定については,最近の高分解能かつ高感度な装置

を用いて再測定を検討している。

 一方,図2.2に示すように,MAトライマー(ピーク27)の相対ピーク強度は,試料0 の方が大きくなっており,ド・ヴィットらのPyGC測定においても,同様の傾向が観測さ れている。これは,試料0は相対的にMAの含有量は少ないが,若干ブロック性が高い ために,MAトライマーの生成量が多くなっているためであると考えられる。 EMAトラ イマー(ピーク33)についても,同様に試料0の方が相対強度は大きく,一方,混成ト ライマー(ピ』ク28−32)は試料Nの方が相対的に大きくなっており,いずれの試料も

186

(6)

柘植・園田 新旧 パラロイドParaloid B−72 の比較分析

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(9)
(10)

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表2パラロイドB−72の組成

組成(モル%)

試料 MA EMA

試料N  42.0(3.0)58。0(2.2)

試料0  38.7(2.2)61.3(1.4)

( )内.はCV値(%),n=3

表3パラロイドB−72の組成(文献値)*

組成 試料 MA  EMA

試料(1978)

試料(1975)

30 32

70 68

*1H−NMRによって求められた値

ランダム共重合体ではあるが,試料0の方がブロック性が若干高いことを示唆している。

3.2サイズ排除クロマトグラフィー測定

 図3にサイズ排除クロマトグラフィー測定により求められた,新旧試料の分子量分布曲 線を比較して示した。両者とも,見かけ上は二山の分子量分布を示しており,標準ポリス チレンを基準にした平均分子量の測定結果は,試料Nの方がやや高めではあるが,いずれ についても数平均分子量(Mn)で約3万,重量平均分子量(Mw)で6〜7万,また多分散度

(Mw/Mn)で約2であった。一方,分子量分布曲線は新旧試料間で明らかに異なっており,

試料0では低分子量成分の相対量がかなり多いが,試料Nでは,低分子量成分が相対的 に少なくなっていることが特徴的である。

3.3熱重量測定

 図4に試料Nおよび0の熱重量測定曲線を示す。いずれも,見かけ上単純な一段階の 分解曲線を示しているが,試料Nでは分解が300℃以下で始まり,比較的緩やかに進行

しているのに対して,試料0では350℃付近までは安定でほとんど分解が起こらず,そ の後急速に分解が進行していることが分かる。また,両試料とも400℃を少し超えたと ころで分解がほぼ完結するが,認められる分解残渣の量は,試料Nが約4.3%,0が7.4

%と後者の方がわずかに多かった。分解初期段階での両試料の挙動の違いは,前項の分子 量分布測定の結果とあわせて考えると,この樹脂の場合には高分子量フラクションよりも 低分子量フラクションの方が熱的に安定であることが示唆される。

191

(11)

  分子量分布曲線(Total)

1.16

1.00

0.80

   0,60 D,MWD

0.40

0.20

0.00

 2.27 3.0 4.0 5,0

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80

60

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1.50 1.40

1.20

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分子量分布曲線(Tota1)

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図3 サイズ排除クロマトグラフィーにより求めた新旧試料の分子量分布曲線

  SECシステム:日本分光880・PU他,カラム:Shodex K−803L,.検歯器:示差屈折計,移動相:ク    ロロホルム1m1/分,カラム温度:40℃,試料濃魔:2.O mg/ml,試料注入量:100μ1,校正用    標準試料:単分散ポリスチレン

(12)

柘植・園因 新1日 パラロイドParaloid B−72 の比較分析

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193

(13)

4考察

新旧パラロイドB−72樹脂(試料Nと試料0)の特性の相違点を列挙する。

1)

2)

3)

4)

5)

MAの相対量が, 試料Nの方が試料0よりもわずかに多い。

極微量成分ではあるがメタクリル酸ブチルが,試料Nの方に多く含まれている。

両試料とも基本的にはランダム共重合体ではあるが試料0の方がブロック性が若 干高いことが示唆される。

両試料の平均分子量は近い値を示すが,試料0では低分子量成分が相対的に多い。

両試料の全体的な熱分解挙動はよく似ているが,熱分解残渣は試料0の方が若干 多い。

文 献

E.de Witte, E., M. Grossens−Landrie, E. J. Goethals and R. Simonds

 1978 The Structure of old and new Paraloid B72。 In ICOM Committee for Conserva−

    tion,5th triennial Meeting,78/16/3.

194

参照

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