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三重県で有害捕獲されたカワウPhalacrocorax carboの胃内容物
著者 鳥居 春己, 高野 彩子
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 54
号 2
ページ 57‑60
発行年 2005‑10‑31
その他のタイトル Stomach contents analysis of the Great cormorants, Phalacrocorax carbo, killed as pest in Mie Prefecture
URL http://hdl.handle.net/10105/120
1.はじめに
カワウPhalacrocorax carboはペリカン目に属し,沿 岸や河川に集団で営巣する魚食性の大型の鳥である(佐 藤,
1993
).また,集団でも採食することなどから,個 体数の増加に伴い,養殖や放流魚類の採食が問題となり,全国各地で有害捕獲され,駆除個体数が1998年には全 国で8,000個体を越えている(福田他,2002).
琵 琶 湖 ( 幸 田 他 ,
1994
) や 岡 山 県 の 河 川 ( 丸 山 ,2003
)などで捕獲されたカワウの胃内容物分析におい てアユの捕食が確認されている.関東・東海地域のカワ ウの食性分析をまとめた亀田他(2002)によると,カ ワウはアユを含み32
科8種の魚類を採食し,アメリカ ザリガニや巻き貝など多岐に渡る分類群を採食していた.しかしながら,カワウがアユをどれくらい捕食し,
放流個体にどの程度の影響を与えているかなどの実態調 査は進んでいない(福田,1993:須川1996).
三重県には6,500から8,500個体のカワウが棲息し,放 流魚類の食害のために有害捕獲が実施されている.しか し,繁殖コロニーにおける吐き戻し魚の分析や捕獲個体 の胃内容物分析でもアユは捕食されてはいるものの,餌 の一部に過ぎないことが報告されている(木村・木村,
1995
).そのため,広範な地域や時期におけるカワウの 食性や餌の選択性の分析などが課題となっている.これらを背景に,三重県において2002年に全県的に カワウの棲息状況や食性調査,被害防除試験などを実施 するのに先立ち,
2000
年と2001
年5月に海山町など一 部地域において,捕獲個体の胃内容物分析などが試行的三重県で有害捕獲されたカワウ Phalacrocorax carbo の胃内容物
鳥 居 春 己 ・ 高 野 彩 子 *
奈良教育大学附属自然環境教育センター
(平成
17
年5月6日受理)Stomach contents analysis of the Great cormorants, Phalacrocorax carbo, killed as pest in Mie Prefecture
Harumi TORII and Ayako TAKANO *
(Center for Natural Environment Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan) (Received May 6, 2005)
Abstract
The stomach contents of 27 Great cormorants, Phalacrocor carbo, that were killed as pest of the fishery, mainly ayu, Plecoglossus altivelis, at May 2001 and 2002 in Mie Prefecture were ana- lyzed. From the contents of the stomachs of 15 bird fifty-four individual fish of six species were recognized. Ayu was the dominant species of these contents. As empty stomachs decreased in the afternoon, we consider that capturing the bird in the afternoon is suitable for stomach con- tents analysis.
*
奈良教育大学大学院修了Key Words : Great cormorants, food habit, Mie prefecture
キーワード: カワウ,食性,三重県
に実施された.それらの胃内容物分析を実施する機会を 得たことから,その結果について報告する
本論文をまとめるにあたり分析の機会を与えていただ いた鈴木義久氏ら三重県庁環境課,三重県と市町村の関 係者,魚類調査に協力いただいた大山田村教育委員会職 員の皆様,カワウ捕獲を担当された猟友会の皆様にお礼 申し上げる.なお,本論文では合併前の旧市町村名を用 いた.
2.試料と分析方法
分析に用いたカワウは,2001年5月に海山町で捕獲 された
17
個体(海山町船津8個体,同便ノ山6個体,同木津3個体),尾鷲町クチスボダムの4個体,紀和町 西原の2個体の計23個体と,2002年5月に大山田村み どろ池とみどろ橋で捕獲された4個体の合計27個体で ある.それぞれの捕獲地点は図−1に示した.それらの 個体は地元猟友会員により,銃によって射殺され,捕獲 後に一旦冷凍され,奈良教育大に届けられたが,一部は その場で解剖され胃だけが冷凍され届けられた.その際 に,捕獲の日時,場所などが記載された調査票が添付さ れている.捕獲個体は外部計測後に解剖し,性別を確認 してから内容物ごと胃を10%ホルマリン溶液に保存し た.その後,胃から内容物を取り出し可能な限り同定し た.胃内容物はすべてが魚類であったが,消化が進み一 部の個体では脊椎骨の一部や骨片しか残っていなかっ た.それら外観から種の同定ができない個体は分析対象 から除いた.
図−1 三重県におけるカワウ捕獲地
3.結果と考察
捕獲されたカワウの捕獲地,性別などを表−1に示し た.性不明個体は捕獲後猟友会員により解剖され,胃だ けが送られた個体で性別判定されていないためである.
27個体の内訳は雄8個体,雌11個体,不明8個体であっ
た.性不明個体を除いた性比は雄雌同数とみなされた
(χ2=
0.474
,p>0.05
).有害捕獲においては,飛翔中のカ ワウは猟銃を用いて捕獲することと,外観からは性が識 別できないことから,無作為に捕獲されていると考える.そのため,捕獲個体の性比は野生状態のカワウのそれを 示すとみられ,カワウの性比は雄雌同数と考えられる.
27個体のうち,12個体の胃は空あるいは同定不能で
あったことから,15個体が分析対象となった.特に,紀和町の2個体はともに空胃であった.
15
個体から検出されたのは表−2に示したようにすべ て魚類で,淡水域を主な棲息地とする種であった.ウグ イLeuciscus hakonensis
7個体(13.0%),カワムツZacco temminckii
7個体(13.0
%),オイカワZ. platy- pus
1個体(1.9
%),アユPlecoglossus altivelis 36
個体(66.7%),ヨシノボリ
Rhinogobius sp.
1個体(1.9%)ドンコ
Odontobutis obscura
2個体(3.7%),の6種が 検出された.括弧内は検出した総個体数に占める比率を 示している.なお,ヨシノボリは色彩などでいくつかの 型に分類されているが(川那部・水野,1990),体の一 部が消化されていることから型の分類はしなかった.アユは
15
個体のうち9個体から出現し,カワウ1個 体あたり最大11
個体のアユが出現している.アユが出 現した9個体のうちの6個体はアユのみの捕食で,アユ が検出された個体はすべて海山町で捕獲された.ドンコ など他の5種はカワウ6個体から出現し,その出現した 魚類の個体数は1〜2個体であった.一方,アユを捕食 せず,それ以外の魚種のみを捕食していたカワウは3個 体のみであった.以上のように,アユは最も多く検出さ れ,総個体数の2/3
を占めていた.今回の分析でアユが検出されたのは海山町のみであっ た.それ以外の市町村で捕獲されたカワウからアユが検 出されなかった理由は不明である.また,カワウの胃内 容物としては魚類だけでなく,巻き貝やエビ類が知られ ているが(亀田他,
2002
),それらは出現していない.琵琶湖において5月中に捕獲されたカワウの胃内容物 分析では,エビspが1個体確認されたが,その他はす 鳥 居 春 己 ・ 高 野 彩 子
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表−1 分析個体の捕獲地・性
べて魚類で,種不明個体を除くとアユは個体数では
86.2%,重量では41.5%を占めていた(幸田他,1994)
. 主に魚類を採食し,アユの多いことは今回の結果と同じ 傾向であった.しかし,琵琶湖竹生島における4月から 6月のコロニーでの吐き戻し魚の分析では,ブラックバ スやアユなど14種66個体が確認され,アユは個体数で は31.8
%であった(水谷,1996
).同様に須川(1993
) も吐き戻し魚では,ブラックバスやズナガニゴイなどの 多いことを報告している.これらのことは,調査法によ りカワウの食性に違いがでている可能性を示唆する.図−2に捕獲票に時刻が記載されていなかった1個体 を除いた26個体の捕獲時刻と胃内容物の残存状況との 関係を示した.捕獲された時刻は早朝の5時が最も早く,
15
時半が最も遅いものであった.ここで,「空」は胃内 に魚類が全く検出されなかったこと,「残査」は外観か らは種の同定はできないが,骨格など未消化部分が確認 できたこと,「内容物あり」は外観から種の同定ができ る魚類が確認できたことを示している.図−2より,す べての時間帯で「内容物あり」が認められるが,「空」は7時から13時まで,「残査」は5時から15時までに認 められた.カワウは昼行性であることから,少なくとも
5時から7時の間に捕獲された個体の「残査」は前日の 捕食個体であろうが,それ以降の時間帯の「残査」が5 時以降の捕食によるものの「残査」であるかは不明であ る.しかし,7時から
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時に「空」が認められること は捕獲当日の昼間に捕食できていない個体があると理解 できる.これらのことから,胃内容物分析のためのカワ ウの捕獲であれば,午後からの作業で充分なことを示唆 している.琵琶湖において5時から10時の間に捕獲された51個 体のうち,胃内容物が認められたのは28個体,54.9%
で,早い時間帯での捕獲個体では空胃の多いことを示し
図−2 カワウの捕獲時刻と胃内容物の残存状況 表−2 三重県産カワウの胃内容物
ている(幸田他,
1994
).また,雄の胃には空が多い例も報告されており(幸田 他,1994),食性分析には捕獲を担当する猟友会会員に よる性の判定技術の確立などが課題となった.
4.まとめ
以上のように,標本数は少ないものの5月のアユの放 流時期に三重県において,カワウはアユを採食していた.
しかし,カワウがアユを採食することが直接的に駆除に 結びつくものではない.漁業権が設定されている河川に おけるカワウによるアユの捕食は,遊釣客の減少など実 質的な経済的損失が生じて被害と認識されるべきものと 考える.また,食性分析のためにカワウを捕獲する場合,
捕食された魚類の消化が進んでいない午後の捕獲が適当 であることが示唆された.
カワウの胃内容物は標高,水深,魚類相や捕獲時刻,
コロニーと採食場,捕獲場所の位置などに影響されるもの と考えられ,カワウの食性,ひいては放流アユに対する影 響を明確にするためには捕獲地域や検体数を増やす必要が ある.また,カワウによるアユの選択性は,河川管理や河 川の生物多様性の視点からも重要な課題と言える.
引用文献
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51: 12- 28
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