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生物多様性評価に向けた土地利用類型と

「さとやま指数」でみた日本の国土

吉岡 明良

1,

*・角谷 拓

2

・今井 淳一

3

・鷲谷 いづみ

1

1東京大学大学院 農学生命科学研究科 保全生態学研究室・2国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 3四国旅客鉄道株式会社

Overview of land-use patterns in the Japanese Archipelago using biodiversity-conscious land-use classifications and a Satoyama index

Akira Yoshioka1,*, Taku Kadoya2, Junichi Imai3 and Izumi Washitani1

1Laboratory of Conservation Ecology, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo, 2Center for Environmental Biology and Ecosystem Studies, National Institute for Environmental Studies,

3Shikoku Railway Company

要旨:里地里山(以下、「さとやま」)は、我が国の生物多様性の保全と多様な生態系サービスの持続可能な利用に とって重要な空間である。その保全・再生に関わる政策の立案・モニタリング・評価のためには、さとやまの特性 を土地利用面から抽出して地図化できる指標の開発が求められている。本研究では 50 m メッシュの高解像度土地利 用データを用いて国土の土地利用を「原生的土地利用」、「農業−さとやま的土地利用」、「人工林」、「都市的土地利用」 に類型化した。さらに、農業−さとやま的土地利用内において、農業的土地利用の比率で重みづけた 6 km 四方の土 地利用の多様度として「改良さとやま指数 M-SI(以下さとやま指数)」を地図化し、さとやまの視点からの国土の 特性を概観した。その上で、各都道府県、既存の国立・国定公園、および世界自然遺産地域ならびにその候補地が、 さとやま的土地利用をどの程度含んでいるかを集計した。その結果、国土面積の 6 割が農業−さとやま的土地利用 類型に分類された。さとやま指数は広島県や岡山県などの中国山地で特に高い傾向が認められた。一方、紀伊半島、 四国、九州の、その植物相が襲速紀要素で特徴づけられる地域は人工林によって占められる率が高いことが示された。 また、国立・国定公園は、原生的土地利用カテゴリーの土地の相当部分を含んでいるのみならず、国土に占める面 積比率から期待されるよりも有意に高い比率でさとやま指数が特に高い(0.5 以上)土地を含んでいることが示され た。一方、三陸復興国立公園への再編成が検討されている地域の国立・国定公園は概して人工林の比率が高いこと が示された。既存の世界自然遺産地域は、小笠原諸島を除いてさとやま指数の高い土地の面積比率は低かった。一方、 琉球諸島とともに世界自然遺産の候補地の暫定リストに掲載される奄美群島、特に奄美大島にはさとやま指数が高 い土地が広がっていることが示された。土地利用類型とさとやま指数からみる限り、国立公園はさとやまの保全に 重要な役割を果たす可能性があることが示された。今後、自然公園の管理において、さとやまを意識した保全管理 が実践されれば、国土のさとやまの生物多様性保全に広く寄与しうるだろう。   キーワード:国立公園、里地里山、世界自然遺産、評価指標、モザイク性

Abstract: To overview Satoyama biodiversity in Japan, we classified and mapped national land use into the categories “wilderness land use,” “rural land use,” “plantation,” and “urban land use” using a high-resolution (50-m grid) land-use map. We also mapped the modified Satoyama index (M-SI), defined as the Simpson’s diversity index of land-use types within a 6-km square weighted by the proportion of agricultural land use, for every rural land-use cell. National and quasi-national parks were

* 〒 113-8657 東京都文京区弥生 1-1-1 東京大学大学院農学生命科学研究科 保全生態学研究室

Laboratory of Conservation Ecology, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo 1-1-1 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8657, Japan

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はじめに

 伝統的な自然資源の採集と持続可能な農業の営みの場 を含むモザイク状の複合生態系としての里地里山(以下、 「さとやま」(鷲谷 2011))は、我が国の生物多様性の保 全と多様な生態系サービスの持続可能な利用にとって重 要な空間である。その保全・再生は、日本の自然環境に か か わ る 重 要 な 課 題 の 一 つ と し て 認 識 さ れ て い る (Washitani 2001;環境省自然環境局生物多様性センター

2010;Kadoya and Washitani 2011)。そのための政策の立 案やモニタリング、評価には、土地利用面からさとやま の 特 性 を 抽 出 で き る 指 標 の 開 発 が 求 め ら れ て い る (Kadoya and Washitani 2011;今井ほか 2013)。

 また、さとやまの保全につながる可能性のある近年の 社会的な動きとして、2010 年に名古屋において開催さ れた生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)では、 愛知目標を含む新たな戦略計画のほか、SATOYAMA イ ニシアチブに関する提案が採択された(J リポート 2011)。この新しい戦略計画を受けて改訂された日本の 生物多様性国家戦略(環境省 2012)では、生物多様性 の保全と持続可能な利用に寄与する保護区の拡充が課題 としてあげられた。特に、東日本大震災からの復興・再 生にも寄与する国立公園・国定公園の再編による復興国 立公園の拡充(佐々木 2012)や、日本政府が奄美群島 を琉球とともに世界自然遺産の候補の暫定リストに掲載 したことに伴う奄美国立公園の新設などは、すでに 環境省によって具体的な計画が検討されている(「世 界遺産暫定一覧表記載のための提出文書(仮訳)(環 境 省・ 林 野 庁 )」http://www.env.go.jp/press/file_view. php?serial=21450&hou_id=16268、2013 年 2 月 13 日確認)。  平成 14 年の自然公園法の改正において、国立・国定 公園などの自然公園に生物多様性の確保に寄与する保護 区としての役割がその設置や管理の目的に含められた。 「優れた自然の風景地の保護」を主な目的として設定さ れた既存の国立・国定公園は、脊梁山脈や大規模山地等 の自然度の高い生態系を比較的広く包含している(環境 庁自然保護局 1997)。したがって、国立・国定公園が原 生的な自然に特徴的な動植物の保全に果たす役割はある 程度期待できる。しかし、生物多様性保全上の重要性が 高いと考えられるさとやま地域の保全に自然公園がどの 程度寄与しうるかの評価は、これまでになされたことが ない。  さとやまに代表される、農業ランドスケープにおける 高い生態系のモザイク性(本研究では土地利用・土地被 覆の多様度によって相対的に指標される値を「生態系の モザイク性」とみなす)が動植物の種多様性に正の効果 をもたらしていることは、今日では、日本のみならず、 ヨーロッパにおいても、広く認識されている(Robinson and Sutherland 2002; 楠 本 ほ か 2006;Hendrickx et al. 2007;Billeter et al. 2008;Firbank et al. 2008;Kadoya and Washitani 2011;今井ほか 2013)。そのような分析・評価 に資する指標として、Kadoya and Wasnitai(2011)によ って「さとやま指数」(Satoyama Index)が提案された。 さとやま指数は、少なくとも一部に農地を含む単位空間 内の土地利用多様度と非農業的土地利用の割合を反映さ せた指数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また 農地の占有率が低いほど高い値をとる。

 Kadoya and Washitani(2011)は、生物の移動分散や人 間の日常的な資源利用の空間範囲を考慮して、3′× 3′(約 6 km)四方を単位空間として、そこに含まれる 30″(約 1 km)四方のセル毎の土地被覆からさとやま指数を算出 し、日本全国のさとやま指数とさとやまに典型的な種群 (サシバ、イトトンボ類および両生類)の分布または種 の豊かさとの間に有意な正の相関がみられることを示し た。さらに、今井ほか(2013)は、日本のさとやまに適 した指数計算の空間単位のスケール(単位空間)および 解像度(セル)の検討をそれぞれ 2 km 四方∼ 10 km 四方、 50 m ∼ 1000 m 四方の範囲で行い、福井県の水辺の動物 shown to include not only higher proportions of wilderness land-use cells than areas outside parks but also significantly more rural land-use cells with high M-SI (≥0.5) than expected. However, parks along the Sanriku shoreline, which were affected by the Tohoku catastrophe and are planned for inclusion in national parks, were shown to be occupied by high numbers of plantations. Current world natural heritage sites in Japan, except for the Ogasawara Islands, were shown to include relatively few rural land-use cells, although cells with high M-SI were widely distributed in the Amami Islands, one of the candidate areas for new world natural heritage sites. From these results, we concluded that Satoyama conservation management in national parks can contribute greatly to biodiversity conservation in Japan.

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種分布の説明モデルとしては、6 km 四方の空間単位と 解像度 50 m 四方のセルを用いた場合が最も種の分布を よく説明すること、すなわち生態学的に適切で統計的に 有意なさとやま指数との関係を検出しうることを明らか にした。高い解像度でのあてはまりのよさは、日本特有 の地質・地形の複雑さに応じたきめ細かい土地利用 (Washitani 2001;環境省自然環境局生物多様性センター 2010)を反映していることによっており、この解像度で の分析は日本全国におけるさとやま指数の地図化におい ても有効であると考えられる。  生物多様性の保全・再生に資する土地利用を評価し、 計画に反映するにあたっては、農地を含まない原生的な 生態系が卓越する空間や、都市的な土地利用の場所や広 がりにも目を向ける必要がある。さらに、日本のやや特 殊な事情として、国土に広く分布する拡大造林でつくら れた植林地「人工林」の扱いも問題となる(環境省 2010)。人工林に被われた場所は、必ずしも生物多様性 保全上価値の高いさとやまとはいえない(例えば 村井・ 樋口 1988)。そのため、生物多様性評価の観点からは、 さとやま指数の計算から除外するとともに、「人工林」 として、「農業−さとやま的土地利用」とは別の土地利 用類型を設けることが望ましい。  本研究では、さとやまに配慮した空間計画や生物多様 性保全管理の計画立案に資する資料とするため、Kadoya and Washitani(2011)によって提案され、今井ほか(2013) によって日本特有のきめ細かい土地利用に合致するよう に調整されたさとやま指数にさらに改良を加え、さとや ま保全の視点から見た「土地利用」を概観するための地 図化を試みた。すなわち、50 m × 50 m の区画セルに分 けた国土を「原生的土地利用」、「農業−さとやま的土地 利用」「人工林」「都市的土地利用」の 4 類型に分類し、 農業−さとやま的土地利用に分類された区域について は、さとやま指数を計算して地図化した。それに基づき、 都道府県別、自然公園(国立・国定公園)別の集計を行 った。さらに、世界自然遺産候補となったために自然公 園の拡充が検討される可能性のある奄美群島・琉球諸島 についても集計を行ってその特徴を把握した。また、比 較のため、既存の世界自然遺産についても集計を行った。

材料と方法

土地利用データ  本研究の土地類型分類とさとやま指数算出に用いる土 地利用データは、全国で標準化された区分がなされてお り、50 m セル別の土地利用が抽出できる精度の高いも のである必要がある。本研究では、1979 年から 1998 年 に環境庁によって実施された自然環境保全基礎調査の 50000 分の 1 植生図(「植生調査情報提供(環境省)」、 http://www.vegetation.jp/chosa/index.html、2013 年 8 月 26 日確認)を、全国レベルでの生物の分布推定・予測を目 的として電子土地利用図を作成した小川ほか(2013)と 同様の方法で植生を再分類して土地利用図に変換したも のを用いた。小川ほか(2013)の土地利用図では、生態 学的な分布予測モデル作成に説明変数として寄与すると いう観点から、相観(草原、森林、湿地、水辺・海辺、 特殊基質、耕作地等、住宅地、開放水域、および不明の 9 区分)と植生自然度(自然性が高いもの、二次的、人 為的に作られたもの、およびその他の 4 区分)の情報に 基づいて、元の 50000 分の 1 植生図の 905 の植生凡例を 統合・再分類している。なお、ここでは気候と植生(土 地利用)との間に相関が生じないように、植生帯(ヤブ ツバキクラス、ブナクラス等)の情報は用いていない。 その結果、「中分類」として自然林、二次林、人工林等 の 17 の土地利用区分(表 1)がなされており、本研究 で用いる土地利用類型(原生的土地利用、農業−さとや ま的土地利用、人工林、都市的土地利用)の抽出および さとやま指数の算出が可能である。なお、小川ほか(2013) にもとづいた全国土地利用データは、国立環境研究所の 下記の URL から公開されている(http://www.nies.go.jp/ biology/kiban/lu/index.html)。  さとやま指数の計算には解像度 50m の土地利用図を 用いたが、それは、50000 分の 1 植生図の位置精度から 得られる最も精密な解像度であった。各セルの土地利用 区分は、地理情報システム(ArcGIS 10.0 ESRI Inc.)を 用いて植生図(ベクターデータ)を小川ほか(2013)の 方法に基づいて再分類した後に、50 m 四方の単位区画 セルに区切り(ラスターデータ化)、各セルに含まれる 土地利用区分のうち面積比率が最大のものをもって代表 させた。 土地利用の類型  生物多様性への寄与を考慮した土地利用の類型化とし て、本研究では上記のラスターデータ化された土地利用 図の陸域(陸水を含む)セルを「原生的土地利用」、「農 業−さとやま的土地利用」、「人工林」、「都市的土地利用」 の 4 カテゴリーに分類した。まず、人工林は人工林セル に、緑の多い住宅地等、市街地、人工裸地は都市的土地 利用にそれぞれ分類した(図 1)。

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 それらを除くセルについては、そのセルを中心とする 6 km 四方のユニット空間を想定し、そのユニット空間 中に一つでも農業的土地利用と考えらえる土地利用区分 (人工草地、水田、畑地、路傍、茶畑、果樹・桑・その他) のセルが含まれていた場合には、その中心セルを農業− さとやま土地利用セルに分類し、農業的土地利用と考え られる土地利用区分が全く含まれていない場合は、その 中心セルを原生的土地利用に分類した。 改良さとやま指数の算出  農業−さとやま的土地利用に分類されたセルに関して は、そのセルを中心とするユニット空間の農地ランドス ケープのモザイク性(改良さとやま指数)を今井ほか (2013)に従い、以下のようにして算出した(図 1)。まず、 各セルを中心とする 6 km 四方のユニット空間に含まれ る土地利用セル(ただし、表 1 のうち、都市的土地利用 に属するものは除外)のシンプソンの多様度指数(SDI) を計算した。   piは、ユニット空間の面積に占める土地利用 i の面積比 率である。先行研究(Kadoya and Wasnitai 2011;今井ほ か 2013)に基づき、自然・半自然性の高い土地は一般 的に農地に比べて動植物のハビタットとしての寄与が大 きいこと(Billeter et al. 2008;Daily 2001;Hietala-Koivu et al. 2004;McNeely and Scherr 2002;Schulze et al. 2004) を指数に反映させるため、ユニット空間に含まれる土地 利用のうち農業的土地利用(人工草地、水田、畑地、路 傍、茶畑、果樹・桑・その他)以外の土地利用の占有率 (以下、自然・半自然性)を乗じ、本研究で用いる改良

さとやま指数 M-SI とした。  M-SI = SDI ×(1 − pagriculture

pagricultureは、ユニット空間の面積に占める農業的土地利 用の面積比率である。これによって、M-SI は (0, 1) の間 の値をとり、周辺 6km 四方の土地利用の多様度が高く、 かつ自然・半自然性の高い土地利用の比率が高いセルほ ど高い値を示す。  M-SI では、全国レベルで二次林と二次草地の分布を 適切に反映した小川ほか(2013)の土地利用分類を用い たことで地域間の気候及び植生帯の違いが指数に及ぼす 影響が軽減された。また、人工林セルを区別して計算対 象外としたことによって、Kadoya and Washitani(2011) 及び今井ほか(2013)と比べ、伝統的な土地利用の多様 性を全国レベルでより高く評価することができるように 改良された。

 M-SI の 計 算 は、 プ ロ グ ラ ミ ン グ 言 語 Ruby(see Flanagan and Matsumoto 2008)によって記述されたスク リプトを用いて行った。 各土地利用類型及び M-SI の地域別集計  日本全国および都道府県毎に 4 カテゴリーの土地利用 類型(「原生的土地利用」、「農業−さとやま的土地利用」、 「人工林」、「都市的土地利用」)の割合と、M-SI の農業 −さとやま的土地利用に対する平均値(以降 M-SI 農業 −さとやまセル平均値)M-SI の農業−さとやま的土地 利用以外のセルの M-SI 値を 0 とみなした全セルにおけ る平均値(以降 M-SI 全セル平均値)を以下の式で算出 した。  M-SI 農業−さとやまセル平均 = ( )/ns 表 1.小川ほか(2013)による土地利用区分と改良さとやま指 数 M-SI における計算対象。 Value 土地利用区分 計算対象 農業的土地利用 101 自然林 ○ 102 二次林 ○ 103 人工林 104 その他 ○ 201 自然草地 ○ 202 二次草地 ○ 203 人工草地 ○ ○ 204 その他 ○ 301 水田 ○ ○ 302 畑地 ○ ○ 303 路傍 ○ ○ 304 茶畑 ○ ○ 305 果樹・桑・その他 ○ ○ 401 緑の多い住宅地等 402 市街地 403 人工裸地 501 自然草原(塩沼) ○ 502 湿地草原 ○ 601 水草(淡水) ○ 603 マングローブ ○ 701 自然裸地 ○ 702 石灰岩植生 ○ 703 火山荒原・硫気孔原 ○ 704 崖 ○ 801 開放水域 ○

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 M-SI 全セル平均 = ( )/nall ただし、i は対象地域内の農業−里山セルの番号、ns対象地域内の全農業−さとやまセル数、nallは対象地域 内の全セル数とする。M-SI 全セル平均値は、対象地域 に含まれる「農業 - さとやま的土地利用」の比率が高い ほど、M-SI 農地平均値に比べて高い値をとる。また、 全国の国立・国定公園、世界自然遺産登録地域、世界自 然遺産の登録候補として挙げられている奄美群島・沖縄 諸島、三陸復興国立公園への再編成が検討されている県 立自然公園についても同様に各土地利用類型の割合と M-SI の平均値の算出を行った。  集計にあたって、都道府県及び国立・国定公園、県立 自然公園、政界自然遺産登録地域、奄美群島の空間的な 境界は「国土数値情報ダウンロードサービス(国土交通 省)」(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/、2013 年 1 月 29 日確認) より入手できる GIS データによった(琉球諸島は沖縄 県と同一とみなした)。M-SI の集計は地理情報システム (ArcGIS 10.0 ESRI Inc.)を用いて行った。

統計解析  国立・国定公園の原生自然およびさとやまの保全にお ける寄与を土地利用面から評価するため、二項検定によ って、国立・国定公園内の原生的土地利用セルおよび M-SI が高い(0.5 以上)農業−さとやま的土地利用セル の比率が、各土地利用セルの全国における比率(母比率) 図 1.土地利用図1の各セルの類型化及び改良さとやま指数(M-SI)算出のフローチャート。 1小川ほか(2013)より得られたラスターデータ、2小川ほか(2013)における人工草地、水田、畑地、路傍、 茶畑、果樹・桑・その他、3小川ほか(2013)に基づく(ただし都市的土地利用区分セルは除く)

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と比べて有意に高いかどうかを検討した。また、M-SI の農業−さとやまセル平均値、全セル平均値が国立・国 定公園内外で異なるかどうかについても検定を行うこと にした。なお、農業−さとやまセルのみのデータ(下記 の方法で無作為抽出されたもの)はリリーフォース検定 (Lilliefors 1967)による正規性は確認されなかったが、F 検定によって等分散性は棄却されなかったため、ウィル コクソンの順位和検定で国立・国定公園内外の比較を行 った。一方、農業−さとやまセル以外のセルにも M-SI = 0 とみなして解析対象に含めたデータ(下記の方法で 無作為抽出されたもの)は正規性、等分散性ともに認め られなかったため、フィッシャーの正確確率に基づく中 央値検定(Siegel and Castellan 1988)によって国立・国 定公園の内外の比較を行った。  なお、M-SI はその計算法から、6 km 四方内の周辺セ ル間の相関が高いため、厳密には各セルは独立なサンプ ルといえない。そこで、国立・国定公園の内外の全セル からそれぞれ 14,400(6 km × 6 km の空間ユニット内の セル数に相当)分の 1 のセルを無作為抽出して、検定の ためのサンプルとした。なお、M-SI の農業−さとやま セルの差を検定する際、農業−さとやまセル以外のサン プルは解析対象としなかった。サンプルの無作為抽出は 地理情報システム(ArcGIS 10.0 ESRI Inc.)を用いて、 それ以降の統計解析は R 2.15.1(R Development Core Team 2012)を用いて行った。

結 果

土地利用類型と M-SI で概観した国土と地域の特徴  4 つの土地利用類型、および農業−さとやま的土地利 用に関しては M-SI の高低をグラディエントで示した地 図を図 2, 3, 4 に示した。陸水を含む日本の陸上の国土の 全 セ ル 149,888,815 セ ル 中 11,589,958 セ ル(7.7 %)、 91,131,185 セ ル(60.8 %)、37,429,154 セ ル(25.0 %)、 9,738,518 セル(6.5%)、がそれぞれ原生的土地利用、農 業−さとやま的土地利用、人工林、都市的土地利用に分 類された。  都道府県毎の各土地利用類型の割合と、M-SI の平均 値を表 2 に記した。原生的土地利用セルは、図 2 や北海 道及び新潟県、長野県の集計値から読み取れるように、 東日本に偏って分布しており、北海道と東北地方から中 部地方にかけての脊梁山脈帯に集中していた。これに対 して、西日本では原生的土地利用が集中するのは屋久島 など、ごく限られた場所に限られていた。  農業−さとやま的土地利用は全国に分布しているが、 その比率が県土の 3/4 近いかそれを超えているのは、東 日本では福島県のみ、西日本では滋賀県、広島県、山口 県、香川県、沖縄県であった。なお、農業−さとやま土 地利用セルの絶対数がもっとも多いのが福島県であった。  M-SI の全国の農業−さとやまセル平均値は 0.32 ± 0.159(n = 91,131,185)、全セル平均値は 0.19 ± 0.199(n = 149,888,815)であった。高い M-SI を示す地域が連続 しているのは、広島県や岡山県などの中国山地であった。 この 2 つの県は、農業−さとやまセルの比率が高く、全 セル M-SI 平均値がそれぞれ 0.36、0.32 と高いのが特徴 である。農業−さとやま的土地利用セルの中での M-SI 平均値は、東京都がもっとも高く 0.45 であった。東京 都は都市的土地利用の割合が 0.46 と高く、農業−さと やま的土地利用セルの割合は 0.35 と低いが、小笠原な ど島しょ部には農業的な土地利用が広がり、高いさとや ま度で特徴づけられた。  農業−さとやま的土地利用セル M-SI 平均値が東京都 に次いで高く、0.4 を超えている地域は、山梨県(0.43)、 宮崎県(0.42)、広島県(0.41)、福島県(0.40)である。 なお、福島県は県土全体の M-SI の平均値も 0.30 で全国 3 位であった。  関東平野をはじめ平野部では、概して低い値のセルが 多く見られた。M-SI の農業−さとやま的土地利用セル における平均値がもっとも低かったのは、茨城県(0.14) であり、佐賀県(0.18)、愛知県(0.20)がそれに次いだ。 これらの県は県土全体の平均でも M-SI が低かった。  人工林セルの占める割合が高い県は、奈良県(0.52)、 和歌山県(0.50)、高知県(0.48)、愛媛県(0.47)、大分 県(0.46)、宮崎県(0.46)であり、これらの県では県土 のおよそ半分が人工林セルで占められていた。一方、都 市的土地利用は、東京を中心とする首都圏、名古屋を中 心とする中部圏、大阪を中心とする近畿圏に特に顕著に 集中していた。 土地利用類型と M-SI でみた国立・国定公園および遺産 地域  既存の国立・国定公園の土地利用および M-SI の集計 結果を表 3 に示した。国立・国定公園は全国の原生的土 地利用セルの面積(セル数)から期待される比率(7.7%) よりもはるかに高い比率(13,909,280 セル中 4,599,436 セル、33.1%)で原生的土地利用カテゴリーを含んでお り、 国 立・ 国 定 公 園 内 か ら 無 作 為 抽 出 さ れ た 965 (≒ 13,909,280/14,400)セルを対象とした二項検定によ

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っても有意な差が見られた(原生的土地利用の比率 33.0%,p < 0.01)。  また、国立・国定公園についても、国土全体の傾向と 同様に、東日本に比して西日本では原生的土地利用セル の割合が低い一方で、人工林の割合が高い自然公園が多 くみられた(表 3、図 5)。もっとも原生的土地利用セル の割合が高いのは南アルプス国立公園(0.95)であり、 日高山脈襟裳国定公園(0.88)、尾瀬(0.86)および知床 (0.84)国立公園がそれに続く。一方で、原生的な土地 利用セルをほとんど含まない国立・国定公園も全体の半 数近くを占めていた(図 5)。  国立・国定公園は、面積では国土の 9.3%、農業−さ とやま土地利用セルの 7.3%を含むに過ぎないが、さと やま指数の高いセル(M-SI 0.5 以上)の比率は 16.5% 図 2.日本国土(奄美群島以東)の土地利用類型(4 カテゴリー)および農業−さとやま的土地利用におけ る改良さとやま指数 M-SI の分布。

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(13,909,280 セル中 2,294,173 セル)であった。M-SI が 0.5 以上の農業−さとやま土地利用セルの全国における 比率 8.4%(149,888,815 セル中 12,568,708 セル)と比べて、 国立・国定公園内から無作為抽出された 965 セル中の M-SI が 0.5 以上のセルの比率(16.6%)も統計的に有意 に高い値であった(二項検定 p < 0.01)。  また、国立・国定公園内の M-SI の農業−さとやまセ ル平均値及び全セル平均値と標準偏差はそれぞれ 0.42 ± 0.158(n = 6,638,441)、0.20 ± 0.235(n = 13,909,280)で あった。公園内の M-SI の農業−さとやまセル平均値は 図 3.琉球列島の土地利用類型(4 カテゴリー)及び農業−さとやま的土地利用における改良さとやま指数 M-SI の分布。 図 4.小笠原諸島の土地利用類型(4 カテゴリー)及び農業−さとやま的土地利用における改良さとやま指 数 M-SI の分布。

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原生土地利用の頻度とは異なり、地域間であまり顕著な 差はなかった(図 6)。一方、国立・国定公園外の農業 −さとやまセル平均と全セル平均はそれぞれ 0.31 ± 0.156(n = 84,468,156)、0.19 ± 0.195(n = 135,951,908) であった。無作為抽出されたデータを用いてウィルコク ソンの順位和検定を行ったところ、農業 - さとやまセル 平均値は公園内で有意に高いことが示された(n公園内 = 454,n公園外 = 6504,W = 943882,p < 0.01)。一方、無 作為抽出されたセルすべて(農業−さとやまセル以外の セルには 0 の値を与えた)の値を中央値検定で比較した 所、サンプル全体の中央値より値が大きいセルの比率は 公園外で有意に高いことが示された(n公園内 = 965, n公 園外 = 10408,p < 0.01)。  農業−さとやまセルを特に高い割合で含む国立・国定 公園は、釧路湿原国立公園(89.2%)、奄美群島国定公 園(95.4%)などであった。特に農業−さとやまセル平 均値が高いのは、大沼国定公園(0.63)であり、越後三 山只見国定公園(0.61)、小笠原(0.56)、富士箱根伊豆 表 2.都道府県別の土地利用類型と改良さとやま指数 M-SI。 都道府県 農業−さとや ま的土地利用 セル割合 原生的土地利 用セル割合 人工林セル 割合 都市的土地利 用セル割合 M-SI 農業− さとやまセル 平均 標準偏差 順位 n M-SI 全セル 平均 標準偏差 順位 n 北海道 0.625 0.180 0.174 0.021 0.309 0.163 24 19588736 0.193 0.197 23 31364123 青森県 0.579 0.086 0.287 0.049 0.349 0.175 13 2228834 0.202 0.218 17 3851582 岩手県 0.592 0.039 0.350 0.019 0.349 0.149 12 3616885 0.207 0.206 15 6104884 宮城県 0.636 0.024 0.265 0.074 0.273 0.154 37 1851931 0.174 0.180 28 2910122 秋田県 0.556 0.087 0.320 0.037 0.352 0.168 10 2588076 0.196 0.215 21 4651813 山形県 0.657 0.126 0.171 0.046 0.349 0.167 11 2448532 0.229 0.214 8 3728051 福島県 0.736 0.065 0.154 0.045 0.402 0.161 5 4055411 0.296 0.225 3 5506864 茨城県 0.587 0.000 0.264 0.150 0.141 0.131 47 1429308 0.083 0.122 47 2436647 栃木県 0.635 0.059 0.217 0.090 0.275 0.152 36 1625503 0.175 0.179 27 2561347 群馬県 0.495 0.117 0.317 0.071 0.250 0.160 41 1259604 0.124 0.168 41 2544889 埼玉県 0.636 0.014 0.134 0.215 0.199 0.176 44 966211 0.127 0.170 39 1518088 千葉県 0.639 0.000 0.166 0.195 0.203 0.133 43 1316491 0.129 0.144 38 2060812 東京都 0.353 0.025 0.166 0.455 0.446 0.145 1 307641 0.157 0.230 33 871763 神奈川県 0.459 0.024 0.140 0.378 0.370 0.164 9 442594 0.170 0.215 30 964884 新潟県 0.669 0.147 0.117 0.067 0.305 0.172 27 3367400 0.204 0.201 16 5030700 富山県 0.563 0.254 0.118 0.066 0.318 0.208 21 959543 0.179 0.222 26 1704388 石川県 0.673 0.093 0.155 0.079 0.314 0.121 23 1129516 0.211 0.178 14 1677962 福井県 0.682 0.030 0.228 0.059 0.287 0.135 33 1147495 0.196 0.174 20 1681369 山梨県 0.565 0.099 0.287 0.049 0.432 0.159 2 1011420 0.244 0.245 4 1788629 長野県 0.578 0.129 0.249 0.044 0.377 0.150 8 3136528 0.218 0.218 11 5426781 岐阜県 0.583 0.081 0.271 0.064 0.383 0.156 6 2484697 0.224 0.223 10 4258644 静岡県 0.449 0.091 0.376 0.084 0.330 0.182 17 1397122 0.148 0.204 34 3110918 愛知県 0.475 0.001 0.303 0.221 0.197 0.139 45 982959 0.093 0.137 46 2069894 三重県 0.442 0.022 0.452 0.085 0.273 0.156 38 1024426 0.121 0.171 42 2317311 滋賀県 0.733 0.077 0.103 0.087 0.317 0.131 22 1182581 0.232 0.180 7 1613242 京都府 0.703 0.002 0.208 0.088 0.278 0.092 35 1301420 0.195 0.149 22 1851954 大阪府 0.472 0.007 0.094 0.428 0.262 0.105 40 359983 0.124 0.149 40 762781 兵庫県 0.693 0.001 0.211 0.095 0.290 0.074 31 2342897 0.201 0.147 19 3382033 奈良県 0.324 0.088 0.523 0.065 0.308 0.190 26 480890 0.100 0.180 45 1483370 和歌山県 0.439 0.014 0.498 0.049 0.308 0.108 25 833992 0.135 0.169 37 1899208 鳥取県 0.534 0.002 0.417 0.047 0.325 0.149 19 756432 0.174 0.195 29 1416167 島根県 0.703 0.001 0.260 0.035 0.319 0.084 20 1912278 0.224 0.162 9 2719514 岡山県 0.827 0.000 0.117 0.056 0.381 0.104 7 2373880 0.315 0.172 2 2870823 広島県 0.896 0.003 0.058 0.043 0.405 0.069 4 3076619 0.363 0.140 1 3434095 山口県 0.755 0.001 0.171 0.074 0.284 0.090 34 1878052 0.214 0.145 12 2486560 徳島県 0.551 0.010 0.406 0.033 0.345 0.112 14 920794 0.190 0.191 25 1671132 香川県 0.808 0.000 0.064 0.128 0.300 0.114 28 611138 0.242 0.156 6 756371 愛媛県 0.481 0.009 0.469 0.041 0.292 0.114 30 1104940 0.140 0.166 35 2298598 高知県 0.496 0.006 0.481 0.017 0.331 0.117 16 1425561 0.164 0.185 31 2873676 福岡県 0.490 0.001 0.315 0.193 0.230 0.160 42 998603 0.113 0.160 43 2035968 佐賀県 0.572 0 0.340 0.088 0.184 0.145 46 571212 0.105 0.143 44 998464 長崎県 0.722 0.002 0.197 0.079 0.294 0.121 29 1211733 0.212 0.167 13 1678079 熊本県 0.532 0.015 0.396 0.057 0.262 0.151 39 1610478 0.139 0.171 36 3027269 大分県 0.491 0.002 0.455 0.053 0.335 0.156 15 1266802 0.164 0.200 32 2582176 宮崎県 0.479 0.017 0.462 0.042 0.421 0.192 3 1509841 0.201 0.248 18 3153678 鹿児島県 0.584 0.025 0.322 0.069 0.327 0.175 18 2190066 0.191 0.209 24 3751341 沖縄県 0.843 0.044 0.017 0.096 0.289 0.143 32 799570 0.244 0.168 5 948550 平均 0.310 0.065 47 0.185 0.057 47

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表 3.国立・国定公園における土地利用類型と改良さとやま指数 M-SI。 農業−さとや ま的土地利用 セル割合 原生的土地利 用セル割合 人工林セル 割合 都市的土地利 用セル割合 M-SI 農業− さとやまセル 平均 標準偏差 n M-SI 全セル 平均 標準偏差 順位 n 国立公園 利尻礼文サロベツ 0.887 0.095 0.016 0.002 0.506 0.113 86439 0.449 0.192 1 97453 知床 0.162 0.836 0.002 0.000 0.436 0.061 24990 0.071 0.163 26 153907 阿寒 0.360 0.495 0.142 0.002 0.431 0.139 135199 0.155 0.223 21 375228 釧路湿原 0.892 0.068 0.039 0.000 0.470 0.108 94188 0.420 0.178 2 105550 大雪山 0.195 0.761 0.041 0.003 0.255 0.164 175800 0.050 0.124 27 903321 支笏洞爺 0.420 0.421 0.154 0.005 0.296 0.151 167898 0.124 0.176 23 399485 十和田八幡平 0.523 0.414 0.060 0.002 0.442 0.137 179923 0.232 0.242 19 343705 陸中海岸 0.705 0.015 0.275 0.005 0.499 0.113 36925 0.352 0.246 4 52342 磐梯朝日 0.416 0.510 0.070 0.003 0.526 0.158 313045 0.219 0.279 20 751895 日光 0.581 0.240 0.165 0.014 0.454 0.133 269181 0.264 0.246 14 463456 尾瀬 0.104 0.856 0.039 0.001 0.314 0.144 15495 0.033 0.106 28 148979 上信越高原 0.489 0.341 0.161 0.008 0.504 0.154 368987 0.246 0.274 17 754520 秩父多摩甲斐 0.505 0.136 0.346 0.013 0.486 0.106 253647 0.245 0.254 18 502384 小笠原 0.648 0.211 0.140 0.001 0.560 0.072 17311 0.363 0.274 3 26698 富士箱根伊豆 0.616 0.081 0.270 0.033 0.535 0.106 300288 0.329 0.273 7 487461 中部山岳 0.138 0.842 0.019 0.001 0.529 0.109 95950 0.073 0.187 25 694460 白山 0.220 0.732 0.046 0.001 0.527 0.091 41975 0.116 0.223 24 190418 南アルプス 0.007 0.948 0.045 0.000 0.403 0.172 1026 0.003 0.037 29 141607 伊勢志摩 0.674 0.001 0.262 0.062 0.389 0.084 149893 0.262 0.195 15 222399 吉野熊野 0.276 0.256 0.462 0.006 0.463 0.137 65699 0.128 0.219 22 238012 山陰海岸 0.866 0 0.100 0.034 0.366 0.088 34294 0.317 0.149 8 39593 瀬戸内海 0.870 0.011 0.069 0.050 0.346 0.125 245827 0.301 0.165 9 282490 大山隠岐 0.678 0.012 0.300 0.010 0.505 0.116 94721 0.342 0.255 6 139799 足摺宇和海 0.841 0.032 0.121 0.006 0.415 0.090 38802 0.349 0.173 5 46162 西海 0.800 0.008 0.177 0.015 0.365 0.102 78317 0.292 0.172 10 97900 雲仙天草 0.678 0.000 0.308 0.014 0.413 0.125 80861 0.280 0.219 11 119277 阿蘇くじゅう 0.691 0.003 0.274 0.031 0.400 0.170 206596 0.276 0.232 12 298886 霧島屋久 0.516 0.266 0.208 0.011 0.486 0.141 128249 0.251 0.263 16 248612 西表石垣 0.761 0.234 0 0.005 0.349 0.126 67565 0.266 0.185 13 88795 平均 0.437 0.079 29 0.235 0.118 29 国定公園 暑寒別天売焼尻 0.373 0.617 0.005 0.004 0.196 0.111 65050 0.073 0.117 55 174354 網走 0.815 0.129 0.044 0.012 0.372 0.135 119398 0.303 0.189 16 146484 ニセコ積丹小樽海岸 0.781 0.188 0.021 0.010 0.378 0.114 60090 0.295 0.186 17 76913 日高山脈襟裳 0.104 0.884 0.010 0.003 0.277 0.122 43080 0.029 0.093 56 415454 大沼 0.805 0.050 0.137 0.008 0.627 0.063 30195 0.505 0.255 1 37494 下北半島 0.465 0.381 0.141 0.013 0.511 0.061 34898 0.238 0.258 23 75099 津軽 0.630 0.168 0.190 0.012 0.506 0.106 65720 0.319 0.259 10 104334 早池峰 0.580 0.413 0.007 0.000 0.523 0.069 12602 0.304 0.263 15 21712 栗駒 0.409 0.451 0.138 0.002 0.310 0.166 128138 0.127 0.186 52 313319 南三陸金華山 0.526 0.001 0.462 0.012 0.425 0.106 30606 0.223 0.226 30 58223 蔵王 0.740 0.083 0.169 0.007 0.428 0.126 115762 0.317 0.216 11 156338 男鹿 0.677 0 0.300 0.023 0.533 0.094 22674 0.361 0.261 5 33509 鳥海 0.445 0.297 0.248 0.010 0.532 0.129 50978 0.236 0.278 25 114636 越後三山只見 0.202 0.772 0.025 0.001 0.605 0.115 70722 0.122 0.248 53 350910 水郷筑波 0.736 0 0.240 0.024 0.263 0.089 103296 0.194 0.139 37 140371 妙義荒船佐久高原 0.611 0.010 0.369 0.010 0.264 0.129 34695 0.161 0.164 42 56795 南房総 0.585 0.001 0.309 0.105 0.362 0.084 13662 0.212 0.190 34 23362 明治の森高尾 0.294 0 0.697 0.009 0.497 0.013 911 0.146 0.226 46 3099 丹沢大山(国定公園) 0.532 0.204 0.240 0.024 0.440 0.112 58687 0.234 0.234 26 110337 佐渡弥彦米山 0.798 0.016 0.161 0.025 0.273 0.133 96608 0.217 0.162 32 121101 能登半島 0.815 0.008 0.122 0.055 0.376 0.078 30332 0.307 0.162 14 37218 越前加賀海岸 0.747 0 0.212 0.041 0.374 0.108 27777 0.279 0.188 20 37200 若狭湾 0.946 0.000 0.024 0.029 0.371 0.107 58862 0.351 0.133 6 62196 八ケ岳中信高原 0.551 0.114 0.315 0.020 0.505 0.117 87888 0.278 0.266 21 159527 天竜奥三河 0.437 0.010 0.543 0.010 0.355 0.142 45378 0.155 0.199 44 103882 揖斐関ケ原養老 0.672 0.001 0.302 0.025 0.298 0.105 53017 0.200 0.164 36 78889 飛騨木曽川 0.653 0 0.286 0.061 0.327 0.065 47695 0.214 0.164 33 73032 愛知高原 0.418 0 0.562 0.019 0.339 0.089 38290 0.142 0.177 47 91559 三河湾 0.506 0 0.432 0.063 0.252 0.108 19094 0.127 0.148 51 37744 鈴鹿 0.490 0.238 0.266 0.005 0.484 0.089 58840 0.237 0.250 24 120002 室生赤目青山 0.323 0.022 0.649 0.007 0.420 0.094 32331 0.136 0.203 48 100171

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(0.54)、中部山岳(0.53)の各国立公園、男鹿国定公園 (0.53)、鳥海国定公園(0.53)がそれに次いだ。全セル 平均値がもっとも高い公園は、利尻礼文サロベツ国立公 園(0.45)、大沼国定公園(0.51)だった。  三陸海岸沿いに位置する国立・国定公園である陸中海 岸国立公園、南三陸金華山国定公園は原生的土地利用セ ルの割合が低いとともに M-SI 農業−さとやまセル平均 値がそれぞれ 0.50、0.43 であり、自然公園の平均よりも 高かった(表 3)。なお、三陸復興国立公園への再編成 が決定、あるいは考慮されている県立自然公園である種 差海岸階上岳、松島、気仙沼、硯上山万石浦(佐々木 2012)の各土地利用類型の割合及び M-SI の平均値を表 4 に示した。松島公園は人工林の割合が比較的低く、か つ M-SI の平均値が高い。  また、2013 年 1 月現在の世界遺産登録地域および暫 定リスト掲載地域に関する集計値を表 5 に示した。すで に登録されている世界遺産地域の原生的土地利用セルの 割 合 は、 小 笠 原 諸 島 を 除 い て 大 き い 値 を 示 し た ( > 80%)。農業−さとやま的土地利用セルの割合は低 いが、M-SI 農業−さとやまセル平均値が高い値を示す のもこれらの地域の特徴である。  暫定リストに掲載された奄美・琉球諸島については、 原生的土地利用セルの割合は奄美群島、琉球諸島ともに 低い( < 5%)一方で、農業−さとやま土地利用セルの 割合が大きい。奄美群島は概してそれらのセルにおける M-SI の値が高く、人工林の割合も無視することができ る程度に小さかった。また、奄美群島の全セル平均値は 小笠原諸島を凌ぐほど大きな値であった(表 5)。

考 察

土地利用とさとやま指数によって概観した国土  本研究では生物多様性の保全と関わりの深いと考えら れる土地利用類型および農業−さとやま地域の土地利用 のモザイク性の指標として改良さとやま指数 M-SI を用 いて日本の国土を概観するとともに、自然(国立・国定) 公園や世界遺産地域および候補地の土地利用面からの特 徴を数値によって比較した。特に、小川ほか(2013)の 土地利用図を基にし、50 m × 50 m の高解像度で計算し たことで、1 km × 1 km の解像度ではモザイク性が評価 できなかった山地等(Kadoya and Washitani 2011)につ いても、人工林と二次林を区別した評価が可能となった。  これらカテゴリーによる土地利用特性は、東日本と西 日本で大きく異なるほか、いくつもの地域的特性が認め られた。自然度が高い土地利用は、主に東日本、特に北 海道や長野県、新潟県に偏って存在していることが示さ 農業−さとや ま的土地利用 セル割合 原生的土地利 用セル割合 人工林セル割合 都市的土地利用セル割合 M-SI 農業− さとやまセル 平均 標準偏差 n M-SI 全セル 平均 標準偏差 順位 n 琵琶湖 0.721 0.216 0.053 0.010 0.307 0.162 279287 0.221 0.195 31 387579 丹後天橋立大江山 0.832 0 0.154 0.014 0.251 0.091 65002 0.209 0.125 35 78149 明治の森箕面 0.382 0 0.602 0.016 0.335 0.074 1437 0.128 0.169 50 3765 金剛生駒紀泉 0.470 0 0.491 0.038 0.284 0.082 43438 0.133 0.152 49 92399 氷ノ山後山那岐山 0.536 0.009 0.453 0.002 0.458 0.125 105356 0.245 0.246 22 196695 大和青垣 0.603 0 0.360 0.037 0.299 0.092 14631 0.180 0.163 40 24267 高野龍神 0.174 0.054 0.759 0.013 0.474 0.152 13342 0.082 0.191 54 76735 比婆道後帝釈 0.765 0 0.234 0.001 0.482 0.072 26009 0.368 0.214 4 34001 西中国山地 0.686 0.077 0.234 0.003 0.452 0.155 80933 0.310 0.246 13 117919 北長門海岸 0.908 0.001 0.058 0.033 0.342 0.106 43314 0.310 0.141 12 47686 秋吉台 0.682 0 0.290 0.028 0.484 0.055 12613 0.330 0.230 8 18494 剣山 0.510 0.106 0.383 0.001 0.454 0.128 42776 0.232 0.245 27 83885 室戸阿南海岸 0.883 0.027 0.063 0.027 0.423 0.107 23833 0.373 0.169 3 26983 石鎚 0.342 0.298 0.359 0.000 0.470 0.111 15045 0.161 0.232 43 43959 北九州 0.594 0 0.399 0.006 0.478 0.080 19444 0.284 0.243 19 32729 玄海 0.694 0 0.254 0.052 0.328 0.113 29632 0.228 0.178 28 42704 耶馬日田英彦山 0.394 0 0.588 0.018 0.382 0.092 136329 0.151 0.196 45 346155 壱岐対馬 0.872 0.005 0.107 0.017 0.221 0.088 44638 0.193 0.111 38 51195 九州中央山地 0.379 0.276 0.344 0.001 0.486 0.126 41662 0.184 0.248 39 109984 日豊海岸 0.751 0.009 0.216 0.024 0.522 0.093 26081 0.392 0.240 2 34729 祖母傾(国定公園) 0.584 0.080 0.333 0.003 0.504 0.083 61638 0.294 0.256 18 105596 日南海岸 0.496 0.004 0.424 0.076 0.452 0.201 9742 0.224 0.267 29 19638 奄美群島 0.954 0.003 0.013 0.030 0.357 0.147 28585 0.341 0.161 7 29951 沖縄海岸 0.857 0.039 0.044 0.060 0.377 0.151 35198 0.323 0.193 9 41081 沖縄戦跡 0.935 0 0 0.065 0.173 0.044 12109 0.162 0.060 41 12944 平均 0.397 0.104 91 0.234 0.092 91 表 3(続き)

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れた。北海道以外では県境地域に原生的な土地利用が偏 在しているが、いずれも高標高地に限られている。それ らの高標高地は耕作・造林に不適な自然条件のもと、農 地開発がなされず、人工林化からも免れた場所であると 推測される。西日本でわずかにみられる原生的な土地利 用も高標高地に限られている。  農地−さとやま土地利用のなされているセルでは、山 地や地形の複雑な地域において、土地利用のモザイク性 を反映した高い指数で特徴づけられ、低地や平坦地が広 がる農業の近代化が進んだ地域では、さとやま指数が低 い傾向を示唆するパターンが得られた。ただし、それが 実際に地形やその複雑性などの自然条件にどれほど依存 するかは、今後の検討が必要である。  中国地方において農地−さとやま土地利用セルにおけ るさとやま指数が概して高いことは、これらの地域が古 い時代から開発が行われていた地域であること(岸田 1999)を考えると特筆に値するであろう。今後、自然的 な条件の制約と文化的な側面の両方からその理由を考え ていく必要がある。この地域には、自然公園(環境省自 然環境局生物多様性センター 2010)や法定自然再生事 業対象地域(日本生態学会 2010)はあまりない。さと やまの生物多様性の保全がどのような枠組みでどの程度 進められているかについても検討が必要である。  東京都では、農業−さとやま的土地利用の比率は低い が、さとやま指数はきわだって高かった。これは小笠原 諸島が東京都に含まれていること、さとやま指数が低く なりがちな農業地域の平坦地が、すでに都市的土地利用 がなされている市街地に置き換わっていることもその理 由の一つだろう。一方で、本土部のさとやま度の高い農 業−さとやま地域は、近隣県の同様な地域とあわせて、 首都圏の都市にすむ住民がさとやま自然とふれあう場所 として重要な役割をはたす空間でもある。首都圏を含む 大都市圏は、その大きな人口を反映して市民ボランティ アのさとやま保全活動が比較的活発な地域でもある(日 本自然保護協会 2002;「里地里山保全活動の推進効果に 関するアンケート結果(環境省)」http://www.env.go.jp/ nature/satoyama/conf_pu/kekkasankou.pdf、2013 年 2 月 2 日確認)。そのような都市住民による管理と利用に生物 多様性の視点を根付かせることが、さとやま指数の高い 首都圏のさとやま地域における課題といえるだろう。  紀伊半島や四国、九州の太平洋側に人工林の割合が高 い空間がベルト状に続く。この人工林帯は、植物地理学 における襲速紀要素分布帯(村田・小山 1976)とよく 符合する。襲速紀要素とは西南日本の植物区系を構成す る植物地理学的要素の一つであり、九州、四国、近畿を つらねる中央構造線以南の山地を主とした地域に特徴的 な植物種群(イヌトウキ Angelica shikokiana Makino、シ コ ク カ ッ コ ソ ウ Primula kisoana Miq. var. shikokiana

表 4.三陸復興国立公園の創設にあたって再編成が検討されている県立自然公園における土地利用類型と改良さとやま指数 M-SI。 農業−さとやま 的土地利用セル 割合 原生的土地利用 セル割合 人工林セル 割合 都市的土地利 用セル割合 M-SI 農業− さとやまセル 平均 標準偏差 n M-SI 全セル 平均 標準偏差 n 種差海岸階上岳 0.423 0 0.550 0.017 0.372 0.048 4115 0.160 0.186 9717 松島 0.750 0 0.156 0.094 0.439 0.085 12352 0.329 0.204 16471 気仙沼 0.301 0 0.682 0.018 0.307 0.125 25115 0.092 0.156 83451 硯上山万石浦 0.489 0 0.506 0.006 0.369 0.131 19512 0.180 0.206 39934 平均 0.372 0.054 4 0.190 0.100 4 表 5.世界自然遺産及び自然遺産候補地の土地利用類型と改良さとやま指数 M-SI。 農業−さとやま 的土地利用セル 割合 原生的土地利用 セル割合 人工林セル割合 都市的土地利用セル割合 M-SI 農業− さとやまセル 平均 標準偏差 n M-SI 全セル平均 標準偏差 n 自然遺産 知床 0.147 0.851 0.002 0.001 0.429 0.064 28590 0.063 0.154 195100 白神 0.006 0.989 0.005 0 0.451 0.093 396 0.003 0.035 67538 屋久島 0.186 0.808 0.005 0.001 0.505 0.076 8325 0.094 0.199 44812 小笠原 0.602 0.277 0.120 0.000 0.561 0.074 14765 0.338 0.280 24516 平均 0.486 0.059 4 0.124 0.147 4 自然遺産候補 奄美群島 0.940 0.013 0.003 0.044 0.371 0.137 469228 0.349 0.160 499371 琉球諸島 0.843 0.044 0.017 0.096 0.289 0.143 799570 0.244 0.168 948550 平均 0.330 0.058 2 0.296 0.074 2

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Makino、タマカラマツ Thalictrum watanabei Yatabe など) をさす(村田・小山 1976)。これらは日本列島が現在の ような形をとる前からの遺存種とも考えられている。  この人工林帯は、主に拡大造林によって比較的最近に なって明瞭なゾーンをなすようになったものと考えられ る。もともと存在していた二次林を含む照葉樹林等が人 工林に転換されるにあたって、襲速紀要素が蒙った影響 が大きかったであろうことは、これらの要素のうちシコ クカッコソウ(絶滅危惧 II 類)、タマカラマツ(絶滅危 惧 II 類)、などの多くの種が国および県のレッドリスト (「環境省第四次レッドリスト(環境省)」http://www.env. go.jp/press/file_view.php?serial=20557&hou_id=15619、 2013 年 2 月 2 日確認)に掲載されていることからも示 唆される。 自然公園・世界自然遺産内のさとやま指数  風景地の保護を目的として設置された自然公園の中に は、原生的土地利用地域を広く含むものもあれば、全く 含まないものもあることが明らかになった。国立・国定 公園におけるその比率も国土全体における傾向をよく反 映しており、概して東日本の自然公園における原生的土 地利用の比率が高いことが示された。  国立・国定公園は、国土面積の 9.3%を占めるに過ぎ ないにもかかわらず、国内の原生的土地利用セルの 39.7%を含んでいた。さらに、さとやま指数が 0.5 以上 のセルの 18.3%も含んでいるという事実と、国立・国定 図 5.(a)国立公園、(b)国定公園の原生的土地利用セルの割合−順位の散布図。■:北海道、▲:本州東部(東 北∼東海)、×:本州西部、*:四国、●:九州、◆南西諸島。順位は高い順に(a)1:南アルプス、2:尾 瀬、3:中部山岳、4:知床、5:大雪山、6:白山、7:磐梯朝日、8:阿寒、9:支笏洞爺、10:十和田八幡平、 11:上信越高原、12:霧島屋久、13:吉野熊野、14:日光、15:西表石垣、16:小笠原、17:秩父多摩甲斐、 18:利尻礼文サロベツ、19:富士箱根伊豆、20:釧路湿原、21:足摺宇和海、22:陸中海岸、23:大山隠岐、 24:瀬戸内海、25:西海、26:阿蘇くじゅう、27:伊勢志摩、28:雲仙天草、29:山陰海岸、(b)1:日高 山脈襟裳、2:越後三山只見、3:暑寒別天売焼尻、4:栗駒、5:早池峰、6:下北半島、7:石鎚、8:鳥海、 9:九州中央山地、10:鈴鹿、11:琵琶湖、12:丹沢大山(国定公園)、13:ニセコ積丹小樽海岸、14:津軽、 15:網走、16:八ケ岳中信高原、17:剣山、18:蔵王、19:祖母傾(国定公園)、20:西中国山地、21:高野 龍神、22:大沼、23:沖縄海岸、24:室戸阿南海岸、25:室生赤目青山、26:佐渡弥彦米山、27:妙義荒船 佐久高原、28:天竜奥三河、29:日豊海岸、30:氷ノ山後山那岐山、31:能登半島、32:壱岐対馬、33:日 南海岸、34:奄美群島、35:北長門海岸、36:揖斐関ケ原養老、37:南三陸金華山、38:南房総、39:若狭湾、 40:男鹿、41:水郷筑波、42:明治の森高尾、43:越前加賀海岸、44:飛騨木曽川、45:愛知高原、46:三 河湾、47:丹後天橋立大江山、48:明治の森箕面、49:金剛生駒紀泉、50:大和青垣、51:比婆道後帝釈、 52:秋吉台、53:北九州、54:玄海、55:耶馬日田英彦山、56:沖縄戦跡。

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公園のさとやま指数の農業−さとやま土地利用における 平均も非自然公園地域に比べて高い(統計的にも有意差 あり)という事実は、自然公園が日本のさとやまの保全 において重要な空間をある程度包含していることを意味 している。なお、中央値検定によって、全セルを対象と した場合に公園内で比較的値が低いセルが多いことが示 されたのは、公園内に少なからず原生的自然(セルの値 は 0 となる)が含まれていることによると考えられる。 また、原生的な自然の分布には偏りがあるのと比べて、 いずれの地方の公園にも比較的さとやま指数が高い空間 が見られることも確認された。これまであまり議論され ることがなかった自然公園内、特に国が管理主体である 国立公園内における、地域と連携した「さとやま保全」 の取組は、今後、日本の戦略的な生物多様性保全にとっ ての重要な課題の一つとなるだろう。  三陸復興国立公園の再編成の要となると考えられる国 立・国定公園である陸中海岸国立公園、南三陸金華山国 定公園は、モザイク性の高い農地ランドスケープをある 程度は含んでいるものの、その比率は低く、むしろ人工 林の比率が高い。モザイク性の高い農地ランドスケープ を広く含んでいるのは松島公園のみである。単に公園に 編入するだけでなく、今後、人工林をどのように扱うか についての検討が求められるだろう。  既に世界自然遺産に登録されている 4 地域のうち小笠 図 6.(a)国立公園、(b)国定公園の改良さとやま指数 M-SI 農業−さとやまセル平均値−順位の散布図。■:北海道、 ▲:本州東部(東北∼東海)、×:本州西部、*:四国、●:九州、◆南西諸島。順位は高い順に(a)1:小笠原、 2:富士箱根伊豆、3:中部山岳、4:白山、5:磐梯朝日、6:利尻礼文サロベツ、7:大山隠岐、8:上信越高原、 9:陸中海岸、10:霧島屋久、11:秩父多摩甲斐、12:釧路湿原、13:吉野熊野、14:日光、15:十和田八幡平、 16:知床、17:阿寒、18:足摺宇和海、19:雲仙天草、20:南アルプス、21:阿蘇くじゅう、22:伊勢志摩、 23:山陰海岸、24:西海、25:西表石垣、26:瀬戸内海、27:尾瀬、28:支笏洞爺、29:大雪山、(b)1:大沼、 2:越後三山只見、3:男鹿、4:鳥海、5:早池峰、6:日豊海岸、7:下北半島、8:津軽、9:八ケ岳中信高原、 10:祖母傾(国定公園)、11:明治の森高尾、12:九州中央山地、13:秋吉台、14:鈴鹿、15:比婆道後帝釈、 16:北九州、17:高野龍神、18:石鎚、19:氷ノ山後山那岐山、20:剣山、21:西中国山地、22:日南海岸、 23:丹沢大山(国定公園)、24:蔵王、25:南三陸金華山、26:室戸阿南海岸、27:室生赤目青山、28:耶馬 日田英彦山、29:ニセコ積丹小樽海岸、30:沖縄海岸、31:能登半島、32:越前加賀海岸、33:網走、34: 若狭湾、35:南房総、36:奄美群島、37:天竜奥三河、38:北長門海岸、39:愛知高原、40:明治の森箕面、 41:玄海、42:飛騨木曽川、43:栗駒、44:琵琶湖、45:大和青垣、46:揖斐関ケ原養老、47:金剛生駒紀泉、 48:日高山脈襟裳、49:佐渡弥彦米山、50:妙義荒船佐久高原、51:水郷筑波、52:三河湾、53:丹後天橋 立大江山、54:壱岐対馬、55:暑寒別天売焼尻、56:沖縄戦跡。

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原以外は、モザイク性の高いランドスケープが含まれて はいるが、その比率は低く、むしろ人為的影響が少ない、 自然度が高い土地利用で特徴づけられる。小笠原は、農 業−さとやま的土地利用の割合が大きくさとやま指数も 高い点で他の 3 地域とは土地利用面において性格を大き く異にする。  世界自然遺産への登録が目指されている奄美群島・琉 球諸島は自然度が高い土地利用の割合は低く、むしろ農 地を含むさとやま度の高いランドスケープがその特徴と なっている。特に奄美群島はさとやま指数が高い場所が 広く分布しており、それが自然と比較的よく調和した人 間活動を反映している可能性がある。さとやま指数が高 い小笠原諸島は、前近代の人的利用の歴史がほとんどな い(Chiba and Roy 2011)。したがって、その高いランド スケープのモザイク性は、伝統的な人間の営みの持続可 能性とは別の成因によるものである。一方、奄美群島は、 旧石器時代までさかのぼる長い人間活動の歴史があり (新里 2011)、持続的なさとやま的土地利用の歴史もし くはその名残をある程度反映したモザイク性、すなわち、 自然と人間との共生を指標するモザイク性を表している ことが示唆される。 今後の展望  本研究で 50 m 四方のセルごとに計数した単位空間 6 km 四方の M-SI のデータは、国立環境研究所の下記 URL において公開が予定されている(http://www.nies. go.jp/biology/kiban/SI/index.html)。今後、本研究が対象 としなかった地域区分(自然再生対象地や市町村等)の さとやま度の評価等に広く用いられることを期待した い。  生物多様性条約第 10 回締約国会議で日本が提案した SATOYAMA イニシアチブが採択されたことで、さとや まを面的に定量的に評価する必要性は国際的にも高まっ ている。本研究のように詳細な解像度で人工的な環境、 二次的自然、原生自然を峻別しながら土地利用の多様度 によってさとやまを評価するという視点は、国外のさと やまの保全・再生に向けた評価にとっても有用性が高い と思われる。土地利用・土地被覆がきめ細かい伝統的な 農地ランドスケープは旧世界に広く存在しているからで ある(e.g. Kadoya and Washitani 2011)。

 ただし、小笠原諸島における値からもわかる通り、 M-SI が指標する農地ランドスケープのモザイク性は、 必ずしも伝統的、持続的な農地利用を意味するわけでは ない。過去から現在までの人間活動とそれぞれの土地の 自然環境との相互作用を反映した指標としてこれを扱 い、この指数自体に影響を与える自然的、文化的、社会 経済的要因を歴史的なタイムスケールで検討していくこ とも課題となるだろう。一方で、現在も新しく整備され つつある生物の分布データとの関係を検討することなど によって、M-SI と生物多様性の関係を精査していくこ とも今後の重要な課題と考えられる。

謝 辞

 本研究を進めるにあたって、東京農工大学の赤坂宗光 博士には土地利用地図データの整理・集計において助力 して頂いた。匿名の査読者 2 名には貴重なご意見を頂い た。ここに記し、感謝の意を表します。なお、本研究は、 文部科学省大学発グリーンイノベーション創出事業「グ リーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)」 プロジェクト環境情報分野の資金援助を受けて行われ た。また、角谷拓は環境省環境研究総合推進費 S9 アジ ア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的 研究から資金援助を受けた。

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参照

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