原
著
III
睾 丸 マ ラ コプ ラ キア の二 手術 例 の
免 疫 組織 化 学 的 お よび 電顕 的検 索
肉 芽 腫 性 睾 丸 炎 との 関 連 に つ い て
長 沢
孝 明1),石
原
得 博1),横
田
忠 明1),
内 野
文 彌1),高
橋
睦 夫2),瀧
原
博 史3),
城 甲
啓 治3),酒
徳 治 三 郎3)
1) 山口大学 医学部病理学第一講座
2) 山口大学 医学部臨床検査医学講座
3) 山口大学 医学部泌尿器学講座
平成 元 年7月19日 受 付 平成 元 年9月26日 受 理)An immunohistochemical and ultrastructural observation in two cases of testicular malacoplakia-its relationship to granulomatous
orchitis-Takaaki Nagasawa1), Tokuhiro Ishihara1), Tadaaki Yokota1), Fumiya Uchino1), Mut-suo Takahashi2), Hiroshi Takihara3), Keiji Joko3) and Jisaburo Sakatoku3)
1) The First Department of Pathology, Yamaguchi University School of Medicine 2) Department of Clinical Laboratories, Yamaguchi University School of Medicine 3) Department of Urology, Yamaguchi University School of Medicine
We report histochemical and immunohistochemical studies of two cases of tes-ticular malacoplakia from 54-year-old (case 1) and 45-year-old (case 2) men and an ultrastructural study of case 1 with review of the literature. The testes were enlar-ged and the cut surface showed a neoplasma-like appearance. The testicular archi-tecture was destroyed due to replacing by granulomatous lesion consisting predomi-nantly of macrophages with abundant eosinophilic granular cytoplasm (so-called von Hansemann cell) in both cases. In the cytoplasm of von Hansemann cells, PAS-positive inclusion bodies were frequently observed. There was no histochemical evi-dence of iron or calcium deposition in the inclusion bodies. Immunohistochemically,
positive materials for anti-ƒ¿1-antitrypsin, anti-ƒ¿1-antichymotrypsin and anti-Escherichia coli (E. coli) antibodies were seen in the cytoplasm of von Hansemann cells in granulomatous lesion. Thus, we considered the inclusion body as Michaelis-Gutmann (M-G) body. Electron microscopically, various kinds of phagosomes, in-cluding M-G structures which do not seem to contain calcium, were observed in the cytoplasm of von Hansemann cells in case 1. Although, the pathogenesis of tes-ticular malacoplakia is still unclear, bacterial infection, especially E. coli infection,
88 日 本 網 内 系 学 会 会 誌
may be play an important role for the pathogenesis of testicular malacoplakia .
Key words: testis, malacoplakia, Michaelis-Gutmann body, E. coli, Immunohisto-chemistry 緒 言 マ ラ コ プ ラ キ ア(malacoplakia)は ま れ な 非 特 異 性 の 慢 性 肉 芽 腫 性 病 変 で,病 因 不 明 で あ り,そ の 大 部 分 は 泌 尿,生 殖 器 領 域,特 に 膀 胱 に 発 生 し て い る1)2)。 睾 丸 の マ ラ コ プ ラ キ ア は,我 々 の 知 る か ぎ りで は 世 界 で30数 例 が 報 告 さ れ て い る に す ぎ な い3)∼17)。 睾 丸 の マ ラ コ プ ラ キ ア の 初 期 病 変 と 肉芽 腫 性 睾 丸 炎 の 一 部 と の 鑑 別 は 困 難 で あ るが,我 々 は 肉芽 腫 性 睾 丸 炎 の 一 部 は睾 丸 の マ ラ コ プ ラキ ア の 初 期 病 変 で あ る と い う説 に従 っ た18)。 今 回,睾 丸 の マ ラ コ プ ラキ ア の 初 期 病 変 と考 え ら れ る 二 症 例 に つ い て 組 織 化 学 的,免 疫 組 織 化 学 的 お よ び,一 症 例 で は 電 顕 的 に も検 索 した の で,若 干 の 文 献 的 考 察 を加 え て 報 告 す る。 症 例 症 例1:54歳,男 性;1984年9月 初 旬 よ り,肉 眼 的 血 尿 お よ び,右 下 腹 部 に 不 快 感 が あ った が 放 置 し て い た 。 そ の後,高 熱 や 右 陰 嚢 内 容 物 の 有 痛 性 腫 大 を き た した た め に,泌 尿 器 科 を 受 診 し た 。 受 診 時, 右 睾 丸 が 手 挙 大 に 腫 大 し て い た 。 化 学 療 法 等 の 保 存 的 療 法 が 行 わ れ た が,軽 快 せ ず,9月20日,右 高 位 除 睾 術 を 行 い,そ の 後 は 経 過 は 良 好 で あ る。 な お 受 診 時 の 尿 培 養 でEscherichia coli (E. coli 105/ mm3)を 認 め て い る 。 症 例2:45歳,男 性;1985年10月4日 左 陰 嚢 痛 を 訴 え,抗 生 剤 投 与 を 受 け る も,左 陰 嚢 内 容 物 の 腫 脹 お よ び 圧 痛 は軽 快 し な か っ た 。10月17日 に 左 高 位 除 睾 術 お よ び 右 睾 丸 の 生 検 を 受 け た 。 左 睾 丸 の 一 部 の 組 織 か ら培 養 に てE. coliが 検 出 され た 。術 後 経 過 は 良 好 で あ る。 材 料 お よ び方 法 二 例 共 に 摘 出 睾 丸 の 一 部 を10%ホ ル マ リン 固 定 し,型 の 如 く,パ ラ フ ィ ン包 埋 を した 。 パ ラ フ ィン 包 埋,薄 切 切 片 に は ヘ マ トキ シ リン ・エ オ シ ン(H E),過 ヨ ー ド酸 シ ッ フ(PAS),ジ ア ス タ ー ゼ 消
化 後PAS van Gieson,ア ザ ン ・マ ロ リー,メ イ ・ ギ ム ザ,グ ラ ム,チ ー ル ・ニ ー ル セ ン,プ ル シ ア ン 青,von Kossaの 各 染 色 を 行 っ た 。 ま た, peroxidase-antiperoxidase complex (PAP)法 に よ
り,抗 リ ゾチ ー ム,抗 α1-ア ン チ ト リプ シ ン,抗 α 1-ア ン チ キ モ ト リプ シ ン お よ び 抗E. coliに 対 す る 抗 体 を 用 い て検 索 した 。E. coliの 抗 原 性 の 検 索 の 対 照 と して58歳 と47歳 男 性 の 剖 検 例 の 睾 丸 を 用 い た 。 電 顕 的 検 索 に は,10%ホ ル マ リン 固 定 切 片 を2% グ ル タ ー ル ア ル デ ヒ ドお よ び1%オ ス ミ ック 酸 で 再 固 定 後,脱 水 し エ ポ ン 包 埋 を 行 っ た 。 超 薄 切 片 は, 酢 酸 ウ ラ ニ ウ ム と ク エ ン酸 鉛 の 二 重 染 色 を 行 っ た 。 結 果 1. 肉 眼 的 所 見 症 例1:睾 丸 は,6×3×4cmで,重 量40gで, 白膜 は や や 肥 厚 して い た 。 硬 度 は 弾 性 硬 で,割 面 は 膨 隆 し,黄 白 色 髄 様 で,通 常 の 糸 を 引 く像 は 認 め ら れ ず,精 巣 上 皮 腫 の 外 観 を 呈 して い た 。(図1)副 睾 丸 は や や 浮 腫 状 で あ っ た 。 症 例2:睾 丸 の 大 き さ は5.5×4×4cm,重 量 は 30gで,硬 度 は 弾 性 硬 で あ った 。切 開 を 加 え る と腐 敗 臭 が した 。 割 面 は 灰 黄 色 髄 様 で 一 部 に 小 豆 大 の 膿 瘍 が 認 め ら れ た 。 2. 組 織 学 的 所 見 症 例1, 2共 に,睾 丸 の 正 常 の 構 造 は,ほ と ん ど 消 失 し,精 細 管 に一 致 し て 結 節 状 の 肉 芽 腫 が み られ た 。 肉 芽 腫 部 に は胞 体 内 に好 酸 性 の 微 細 顆 粒 を 有 す る大 型 の マ ク ロ フ ァ ー ジ(von Hansemann細 胞), 少 数 の リ ンパ 球 お よ び ご く少 数 の セ ル ト リー 細 胞 が 認 め られ た 。(図2, 3)大 部 分 のvon Hansemann 細 胞 の 胞 体 内 に,約1-10μ の 淡 塩 基 性 か ら淡 好 酸 性 の 円 形 の 封 入 体 が 認 め ら れ た(図4)。PAS染 色 で は 封 入 体 が よ り明 瞭 と な り(図5, 6),全 体 が 陽 性 を呈 す る も の や,陰 性 の 空 胞 を 含 む もの な ど種 々 の も の が 認 め られ,こ の 封 入 体 はPAS染 色 陽 性 で, ジ ア ス タ ー ゼ 消 化 に 抵 抗 性 で あ った 。 これ らの 封 入 体 は 鉄 染 色 お よ びvon Kossa染 色 共 に 陰 性 で あ っ た が,後 述 す る よ う にMichaelis-Gutmann(以 下
図1 腫 大 した睾 丸 の割 面 は黄 白色髄 様 で 腫瘍 様 外 観 を呈 して い る。(症 例1) 図2 睾 丸 の 正 常 構 造 は 殆 ど 消 失 し,精 細 管 に 一 致 して 結 節 状 の 肉 芽 腫 が み られ る 。 そ れ ら の 結 節 は 結 合 織 の 増 生 に よ り取 り囲 ま れ て い る 。(症 例1)ヘ マ トキ シ リ ン ・エ オ シ ン 染 色 ×40 M-Gと 略 す)小 体 と考 え た 。 結 節 状 の 肉 芽 腫 に は, リン パ 球,形 質 細 胞 を 主 体 と し た 炎 症 細 胞 浸 潤 に 結 合 織 の 増 生 を 伴 っ て い た 。 症 例2で は 精 子 形 成 能 の 認 め られ な い精 細 管 が 残 存 し て い た(図3)。 二 例 共 に ギ ム ザ,グ ラ ムお よび チ ー ル ・ニ ー ル セ ン染 色 で は 菌 は認 め られ な か った 。 二 例 共 に 副 睾 丸 に は 間 質
90 日 本 網 内 系 学 会 会 誌 図3 精 細 管 に 一 致 して 結 節 状 の 肉 芽 腫 が み られ る が,一 部 に 精 細 管 が 残 存 し て い る 。(症 例2)ヘ マ トキ シ リ ン ・エ オ シ ン 染 色 ×20 図4 肉 芽 腫 は 好 酸 性 の 封 入 体 を 有 し たvon Hansemann細 胞 よ りな る 。(症 例1)ヘ マ ト キ シ リ ン ・エ オ シ ン染 色 ×200 に 少 量 の 円 形 細 胞 浸 潤 と マ ク ロ フ ァ ー ジが み ら れ る の み で 肉 芽 腫 は 認 め られ な か っ た 。 症 例2の 右 睾 丸 の 生 検 標 本 に は 肉 芽 腫 は 認 め られ な か った 。 3. 免 疫 組 織 化 学 的 検 索
PAP法 に よ り肉 芽 腫 内 のvon Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に は 抗 α1-ア ン チ ト リプ シ ン(図7),
図5 von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 にPAS陽 性 の 小 球 状 のMichaelis-Gutmann (M-G) 小 体 が み ら れ る 。(症 例1)periodic acid-Schiff (PAS)染 色 ×200
図6 比 較 的 大 き なM-G小 体 がvon Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 認 め られ る 。(症 例2) periodic acid-Schiff (PAS)染 色 ×200
抗 リゾ チ ー ム,お よ び 抗 α1-ア ン チ キ モ ト リプ シ ン抗 体 に 対 す る顆 粒 状 の 反 応 産 物 が 認 め られ た 。 多 くのvon Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に は 抗E. coli
抗 体 に 反 応 す る大 小 の 物 質 が 多 数 み られ た(図8)。 これ ら の 物 質 はPAS陽 性 物 質 に 一 致 し て い た 。 対 照 例 の 睾 丸 に は 抗E. coli抗 体 に 反 応 す る 物 質 は 認
92 日 本 網 内 系 学 会 会 誌 図7 von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 抗 α1-ア ン チ ト リ プ シ ン 抗 体 に 反 応 す る物 質 が み ら れ る。(症 例1)peroxidase-antiperoxidase (PAP)法 ×80 め られ な か った 。 4. 電 顕 的 所 見 大 部 分 のvon Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に は, 種 々 の型 や 電 子 密 度 を も つ 大 小 不 同 の フ ァ ゴ ゾ ー ム が 多 数 み られ た(図9)。 フ ァ ゴ ゾ ー ム に は,中 等 度 の 電 子 密 度 を も つ 基 質 に,小 さ な膜 様 物 質 や 大 小 の 顆 粒 が混 在 し て い た 。 カ ル シ ウ ム の 沈 着 は 認 め られ な か っ た が,一 部 にM-G小 体 構 造 もみ られ た(図 10)。マ ク ロ フ ァー ジ の 間 に ラ イ ン ケ の結 晶 を 有 す る ラ イ デ ィ ッ ヒ細 胞 が 少 数 残 存 し て い た。 考 案 マ ラ コ プ ラ キ ア は,MichaelisとGutmann19)が, 最 初 に慢 性 膀 胱 炎 に 併 発 した 症 例 を 報 告 し,そ の 後 von Hansemann20)に よ り,慢 性 膀 胱 炎 に よ る非 特 異 性 の 肉 芽 腫 性 病 変 で マ ラ コ プ ラ キ ア と命 名 され た 。 尿 路 系 以 外 の マ ラ コ プ ラ キ ア の 報 告 は 睾 丸 に 発 生 し た 症 例 が 最 初 で,1958年 にHaukohlと Chinchinian3),ま た 翌 年BlackwellとFinlay-Jones4)に よ り記 載 され た 。 以 後,睾 丸 の マ ラ コ プ ラ キ ア は 欧 米 で は 約30数 例 の 報 告 例 を み る が,本 邦 で は,ご く少 数 報 告 さ れ て い る の み で あ る21∼23)。 睾 丸 の マ ラ コ プ ラ キ ア の 好 発 年 齢 と し てGon-zalezら13)は 彼 等 の 自験 例 と そ れ 以 前 の 報 告 例 の 計 20例 を 集 計 し て,本 二 症 例 と同 様 中 年 齢 層 に 好 発 す る こ とを 示 し て い る 。 臨 床 症 状 と し て は,睾 丸 の 腫 大,疼 痛,圧 痛,発 熱 な ど が み られ,本 二 症 例 の よ うに,急 性 睾 丸 炎 な い しは,副 睾 丸 炎 の 症 状 が 大 部 分 で あ る。 し か し,化 学 療 法 等 の保 存 的 治 療 に よ り 軽 快 しな い た め に,本 二 症 例 と同 様,除 睾 術 が 施 行 さ れ,組 織 学 的 検 索 に よ り診 断 され て い る。 睾 丸 マ ラ コ プ ラ キ ア の 肉 眼 像 は 本 二 症 例 とほ ぼ 同 様 で,黄 色 調 で,結 節 状 の 外 観 を 示 す こ とが 多 い 。 組 織 像 は 他 臓 器 の も の と 同 様 で,von Hansemann細 胞 と呼 ば れ る組 織 球 由 来 の 大 型 で 胞 体 に 好 酸 性 顆 粒 を 含 む 類 円 形 ∼ 多 角 形 の 明 る い 細 胞 が 集 簇 し て み られ る 。 そ の 周 囲 に,リ ン パ 球,形 質 細 胞 等 の 浸 潤 を伴 う肉 芽 腫 性 病 変 が 特 徴 的 で あ る 。von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に は,M-G小 体 と呼 ば れ る 円形 の 封 入 体 を 有 し,こ の 封 入 体 は マ ラ コ プ ラキ ア に 特 徴 的 な も の と され,診 断 の 手 が か り とな る 。 典 型 的 なM-G 小 体 は,ジ ア ス タ ー ゼ 消 化 後PAS染 色 陽 性 で,更 にvon Kossa染 色 お よ び 鉄 染 色 で 陽 性 を 示 す 。本 二 症 例 のvon Hansemann細 胞 の 胞 体 内 の 封 入 体 は, PAS染 色 陽 性,ジ ア ス タ ー ゼ 消 化 後PAS染 色 で も 陽 性 を 示 して い る が,von Kossa染 色 や 鉄 染 色 で
図8 von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 抗E. coli抗 体 に 反 応 す る 物 質 が み られ る 。(症 例 1)PAP法 ×80 図9 von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 多 数 の 大 小 不 同 の フ ァ ゴ ゾ ー ム が み ら れ る 。 × 4,200 陰 性 で あ っ た 。ShabaとBlack8)の 報 告 した 睾 丸 の マ ラ コ プ ラ キ ア 症 例 の 封 入 体 もPAS陽 性 で あ る が,カ ル シ ウ ム や 鉄 反 応 を 認 め て い な い 。 膀 胱 の マ ラ コ プ ラ キ ア で も,典 型 的 なM-G小 体 は 認 め られ な い場 合 もあ り,城 ら21)も泌 尿 ・生 殖 器 系 マ ラ コ プ ラ キ ア のM-G小 体 は 検 索 し た7例 す べ て で 典 型 的 な
94 日 本 網 内 系 学 会 会 誌 図10 von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 石 灰 沈 着 の み ら れ な い 類 円 形 の 電 子 密 度 の 高 い M-G小 体 構 造 が 認 め られ る 。 ×9 ,000 染 色 態 度 を示 さ な か っ た と報 告 し た 。 彼 等 は そ の7 例 全 例 のM-G小 体 はPAS陽 性 で,ジ ア ス タ ー ゼ 消 化 抵 抗 性 で あ っ た が,5例 に カ ル シ ウ ムが3例 に 鉄 反 応 が 陽 性 で あ っ た と述 べ て い る。Smith24)は,尿 路 系 の マ ラ コ プ ラ キ ア の 形 態 をearly phase(初 期),classic or granulomatous phase(肉 芽 期)お よ びfibrosing or healing phase(線 維 化 ま た は 治 癒 期)の3相 に 分 け て い る。 彼 等 は 診 断 の 手 掛 か り と し て は,こ のM-G小 体 を あ げ て い る が,初 期 や 線 維 化 また は 治 癒 期 に は 典 型 的 なM-G小 体 が 認 め ら れ な い こ とが 多 い と報 告 して い る。 本 二 症 例 共 に 臨 床 経 過 は2週 間 と短 く,病 変 と し て も初 期 と考 え ら れ る の でM-G小 体 に石 灰 沈 着 が 伴 わ な か っ た の で は な い か と思 わ れ る 。 McClure18)は 肉 芽 腫 性 睾 丸 炎 と マ ラ コ プ ラ キ ア は 同 一 病 因 に よ る 疾 患 で,時 期 の 相 違,即 ち 前 者 は 細 菌 感 染 の 初 期 ま た は 軽 度 例 で,後 者 は そ の 再 感 染 ま た は 重 症 感 染 に よ る と推 測 して い る。 Calleaら25)は,本 症 例 と同 様 に,免 疫 組 織 化 学 的 に 腎 や 膀 胱 の マ ラ コ プ ラ キ ア の マ ク ロ フ ァ ー ジ の 胞 体 内 に 抗 α1-ア ン チ ト リプ シ ン 抗 体 陽 性 物 質 を 認 め て い る。M-G小 体 の み られ な い 初 期 な い しは, み る こ との 少 な い 治 癒 期 の マ ク ロ フ ァ ー ジ の 胞 体 内 に も抗 α1-ア ン チ ト リプ シ ン 抗 体 陽 性 物 質 を 認 め,マ ラ コ プ ラ キ ア の 診 断(特 にM-G小 体 の は っ き り し な い 例)に 有 用 で あ る と述 べ て い る。 しか し な が ら,抗 α1-ア ン チ ト リプ シ ン抗 体 陽 性 物 質 は マ ラ コ プ ラ キ ア 以 外 の 症 例 の マ ク ロ フ ァ ー ジ に も認 め ら れ る こ と が あ り,マ ラ コ プ ラキ ア に 特 異 的 と は い え な い 。 電 顕 的 に も,Paul Dionneら10)や 出 口 ら26)の報 告 と同 様 マ ク ロ フ ァ ー ジ の胞 体 内 に 多 数 の 封 入 体 が み られ た 。 フ ァ ゴ ソ ー ム の 一 部 に はM-G小 体 類 似 の 構 造 も み ら れ た が,カ ル シ ウ ム を 含 む 典 型 的 な も の は 認 め ら れ な か っ た 。 以 上,二 症 例 共 に 典 型 的 なM-G小 体 は み られ な い が,組 織 学 的,免 疫 組 織 化 学 的 お よ び一 例 で は 電 顕 的 検 索 も加 え て,McClure18)の 肉芽 腫 性 睾 丸 炎 の 一 型 で マ ラ コ プ ラ キ ア の初 期 像 と診 断 した。 マ ラ コ プ ラ キ ア の病 因 は 不 明 で あ る が ,グ ラ ム 陰 性 桿 菌(特 にE. coli)感 染 が 高 率 に み られ る 。 出 口 ら26)は膀 胱 マ ラ コ プ ラ キ ア を 免 疫 組 織 化 学 的 に 検 索 し膀 胱 粘 膜 下 の 組 織 球 内,お よ び 間 質 に 大 腸 菌 抗 原 が あ る こ と か ら,病 因 と し て 大 腸 菌 感 染 を 示 唆 し た 。 最 近 で は マ ラ コ プ ラ キ ア は,一 般 に グ ラ ム 陰 性 桿 菌, 特 にE. coliあ る い は,Aerobactor Klebsiellaに よ
る慢 性 肉 芽 腫 性 炎 症 反 応 と し て あ らわ れ る と考 え ら れ て い る13)。本 症 例 で も,尿 培 養 で,E. coliを み と め て い る よ うに,こ れ まで の 報 告 例 の 中 で も,尿 路 系 で の,E. coli感 染 が 高 頻 度 に み られ て い る。ま た, 本 例 は,組 織 学 的 に は 菌 を 証 明 し て な い が,一 例 で は 睾 丸 組 織 の 培 養 で,E. coliを 証 明 し,二 例 共 にP AP法 で,von Hansemann細 胞 胞 体 内 にE. coliに 対 す る抗 原 性 が 証 明 され,E. coliの 感 染 が 肉 芽 腫 形 成 に な ん ら か の 関 連 性 を もつ こ と が 示 唆 さ れ た 。 城 ら21)も泌 尿 ・生 殖 器 系 マ ラ コ プ ラ キ ア7例 中6例 の von Hansemann細 胞 の 胞 体 内 に 多 発 性 小 球 状 のE. coliの 抗 原 性 を 証 明 して い る。 彼 等 はM-G小 体 の み られ な いvon Hansemann細 胞 の 多 い 症 例 を 診 断 す る の に 免 疫 組 織 化 学 的 手 法 が 役 立 つ と報 告 し て い る。 McClure18)は 睾 丸 の細 菌 感 染 の 経 路 は 尿 路 系 か ら の逆 行 性 感 染 で,そ の た め に精 細 管 に 一 致 し て 病 変 が 生 じ,次 に セ ル ト リー 細 胞 や マ ク ロ フ ァ ー ジ が 反 応 す る と報 告 して い る。 マ ラ コ プ ラ キ ア の 病 因 と して は,グ ラ ム陰 性 桿 菌 の 感 染 が 十 分 可 能 性 が あ る と考 え ら れ る が,更 に, 検 討 す る 必 要 が あ る 。 結 語 54歳 と45歳 の 男 性 で,組 織 学 的,免 疫 組 織 化 学 的 お よ び 一 例 で は 電 顕 的 検 索 を 加 え て 睾 丸 マ ラ コ プ ラ キ ア の 初 期 像 と診 断 さ れ た 二 手 術 例 を 経 験 し,過 去 の 報 告 例 と比 較 検 討 した 。
文
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