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担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)

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Academic year: 2021

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(1)

ダムによる水質・流況変化が水生生物の生息に与える影響に関する研究

研究予算:運営費交付金(一般勘定)

研究期間:平

23~平27

担当チーム:水環境研究グループ(河川生態)

研究担当者:萱場祐一、増本みどり

【要旨】

ダムによる水質および流況の変化が、ダム下流の水生生物に与える影響を評価する技術を確立するためには、

個別ダムにおけるケース・スタディだけでなく、広域データから求められる一般的な影響について解明すること が必要である。そこで、平成

24

年度は、ダム上流とダム下流の調査地間における水質および底生動物の生息密 度の違いについて、広域データに基づいた分析を行った。その結果、いずれの水質項目も、春夏秋冬いずれかの 季節でダムの上下流間で有意な差が見られ、ダムの影響が示唆されるものであった。また、ダム上下流の底生動 物の生息密度については、夏秋期よりも冬春期にダム下流で低くなる傾向にあることがわかった。

キーワード:ダム、水質、底生動物、上下流差

1.はじめに

ダムの貯水・放流による水質・流況の変化により、ダ ム下流域における水生生物の分布に影響を与えることが 懸念されている。しかし、これまでの研究では主に個別 の対象生物への影響に主眼が置かれ、個別ダムで生じる 現象に注目されることが多く、河川生態系全体に対する 一般的な影響に関しては不明な点が多く、評価技術が確 立されていないのが現状である。

ダムによる環境の変化を把握する際に、従来のような スナップショット的な短期データを用いると、環境測定 時の瞬間的な環境の変化を反映した値になることが懸念 される。また、ある特定のダムを対象とした研究では、

その地域特有の環境変化を反映した値になることが懸念 され、汎用性のある指標の設定には不十分である。これ らのことから、長期的な複数のダムのデータを用いた評 価が必要となるが、日本国内においてそのようなデータ に基づいて解析を行った例は極めて少ない。

そこで本年度の研究では、ダムが水質および底生動物 に及ぼす影響を明らかにするため、長期・広域データを 活用した解析を行った。具体的には、水質および底生動 物の生息密度がダムの上下流間でどのように、どの程度 変化するのかを調査した。

2.長期・広域データに基づいた河川の水質に対するダ ムの影響

2.1 方法

本調査では、日本全国の主要なダムのうち、ダムの上 下流で 10 年以上継続的に水質データが観測されている ダムを対象に、ダム上流および下流で測定された水温、

濁度、全窒素(T-N) 、全リン(T-P) 、クロロフィル a 量

(Chl.a)に関するデータを収集した。国土交通省および 水資源機構が管轄する各ダム管理所の定期採水データを 収集、整理した結果、約 100 基のダムが対象として含ま れた。ダム湖の水質は、水温躍層の形成等により季節変 動すると考えられるため、4 つの季節(春:3 月~5 月、

夏:6 月~8 月、秋:9 月~11 月、冬:12 月~2 月)に分 け、季節ごとに解析を行った。ダム上流と下流とでどの 程度水質が異なるかを評価するため、ダム上流地点と下 流地点の値の差(以後、ダム上下流差)を算出した。こ の値は正であれば、ダム上流の方が大きな値を示すこと を意味し、負であればダム下流の方が大きな値を示すこ とを意味する。そして、絶対値が大きいほどダム上下流 間の水質の違いが大きいことを示している。また、ダム の上流と下流間で各水質項目に差異があるかについては、

対応のある

t

検定を用いて検討した(有意水準は5%とし

た) 。

(2)

ダムによる水質・流況変化が水生生物の生息に与える影響に関する研究

2

2.2 結果と考察

t

検定の結果、水温、Chl.a は全ての季節において上下 流間で有意な違いが見られた(表 1) 。ダム下流の水温は、

上流に比べて春に低く、それ以外の季節では高くなる傾 向にあった(図 2) 。また、Chl.a はすべての季節におい てダム下流で高くなる傾向にあった(表 1) 。一方、T-N、

T-P および濁度については、一部の季節でのみ上下流間 に有意な違いが見られ(表 1) 、水温、Chl.a に比べると ダム上下流の差異は比較的小さかった(図 2) 。

水温がダム下流で春に低くなった理由として、冬季の 冷水が循環することによる水温の低下が考えられる

1)

。 一方、他の季節で高くなったのは、ダム湖による熱エネ ルギーの蓄積によるものと思われる

2)

。また、Chl.a は いずれの季節においてもダム下流で高い値を示した。こ れは、ダム湖で発生した植物プランクトンがダム下流へ 流下しているためであると考えられ、過去の知見

3)

と一 致する結果となった。以上より、ダム上下流間には水質 の変化が見られることが長期・広域データの解析により 明らかとなった。

表1 ダム上流と下流間の水質の差異(t 検定の結果、ダ ム下流の方が有意に低い場合を「低」 、高い場合を「高」

と示した。 「- 」は有意差なし)

3.長期・広域データに基づいた底生動物群集に対する ダムの影響

3.1 方法

底生動物データは、河川水辺の国勢調査のデータを用 いた。河川水辺の国勢調査には定性調査と定量調査があ るが、本研究では定量調査のデータのみを対象とした。

対象期間は 2001 年度から 2005 年度までで、対象とする 地域は沖縄地方を除く日本全域とした。収集したデータ

の内、 (1)ダムの上流地点と下流地点の両方のデータが存 在し、 (2)いずれの調査地も主ダムや副ダムの湛水域に含 まれず、 (3)ダムとダム下流の調査地点の間に大きな支流 の流入がないという 3 つの条件を満たすダムを本研究の 解析対象とした。各地点の位置をダム堤体からの距離と 標高のデータを基に 1/25000 地形図上で割り出し、各地 点のダムとの位置関係を確認した。この結果、合計で 57 基のダムが対象に含まれた。なお、ダム上流(流入河川)

の調査地については、候補となる調査地点群の中から、

本川の地点(本川に調査地がない場合は、最も大きい支 流の地点)を選択した。ダム下流(下流河川)の調査地 についても、2 地点以上存在する場合はダムに最も近い 地点を選択した。

底生動物の分類については、河川水辺の国勢調査のデ ータの分類群名を統一し、属レベルでデータを再整理し た。個体数の値は採集面積で除して生息密度(個体数/m

2

) に換算した。各地点について、一般に底生動物現存量が 多い冬春期(12~5 月、北海道は 12~6 月)と少ない夏 秋期(6~11 月、北海道は 7~11 月)の 2 期に分けて、

底生動物の総生息密度の平均値を算出した。さらに、主 要分類群であるカゲロウ属、カワゲラ属、トビケラ属の 生息密度の平均値も算出した。

データ解析では、各ダムにおける底生動物の生息密度 がダム上下流でどれだけ差があるかを算出した。生息密 度 は 指 数 的 に 変 化 す る 値 と 仮 定 し 、 対 数 変 換

(Log10(x+1))の後にダム上下流差を算出した。したが って、 ダム上下流差において 1 と 2 という数値は 10 倍と 100 倍の違いがあることを示している。

3.2 結果と考察

全底生動物生息密度のダム上下流差は-1.3~3 となり、

ダム上流に対するダム下流の生息密度は 1/1000~20 倍 であった(図 3) 。ダム下流の生息密度の方が低くなるダ ムは、冬春期は全ダムの 52%であった。一方、夏秋期に おいては全ダムの 33%に低下した。主要分類群であるカ ゲロウ属、カワゲラ属、トビケラ属の生息密度の上下流 差は図 4~6 に示す頻度分布となった。 カゲロウ属および カワゲラ属については、冬春期、夏秋期共にダム上流で 生息密度が高くなる傾向にあった。一方、トビケラ属の 生息密度はダム下流が高くなる場合が多く、 カゲロウ属、

カワゲラ属とは異なる傾向が見られた。これは、カゲロ ウ属、カワゲラ属に比べて、トビケラ属の方がダム湖か ら供給される植物プランクトンを餌資源とする種群が多 く含まれているためと考えられる。

項目 春

3-5月)

6-8月)

(9-11月)

12-2月)

水温 低 高 高 高

濁度 低 - - -

T-N - -

T-P 低 低 - -

Chl.a 高 高 高 高

(3)

4.まとめ

本研究によって、長期的に見るとダム下流では、特に 水温、Chl.a といった水質項目が影響を受けることが明 らかとなった。また、ダム下流域ではカゲロウ属やカワ ゲラ属といった特定の分類群が減少する一方、逆にトビ

図2 各水質項目のダム上下流差の頻度分布

(数値はダム上流の数値から下流の数値を引いたもの)

ラ属のようにダム下流で生息密度が高くなる分類群もい ることが明らかとなった。これらの結果から、ダムによ る水質の改変が底生動物の生息量の変化に影響を及ぼし ている可能性は十分に考えられる。しかし、今回評価し た水質同様に他の物理環境要因(たとえば、流況など)

水温 濁度

T-N T-P

Chl.a

(4)

ダムによる水質・流況変化が水生生物の生息に与える影響に関する研究

4

もダム上下流で変化していることが予想されることから、

今後はこれらの複数の要因の変化の内、どういった要因 が底生動物のダム上下流間の生息量の変化にもっとも影 響を及ぼしているのかを多変量解析などを用いて抽出し ていく必要があると考えられる。

5.今後の展望

底生動物は付着藻類や落葉を餌資源とし、多くの河川 性魚類の餌資源として利用されるため、生食連鎖および 腐食連鎖をつなぐ役割を有している。そのため、本研究 で明らかとなったダム下流での底生動物の増減は、水中 での生活を送る幼虫期には昆虫食性の魚類に、一方、陸 上での生活を送る成虫期には同じく昆虫食性のクモ類に 影響を及ぼす可能性が示唆される(図 7) 。今後、より河 川生態系全体に対するダムの影響を明らかにするために、

底生動物を介した食物網全体に対する波及効果までを含 めて検証していく必要があると考えられる。 このように、

個別の生物に限定せず、河川生態系全体を俯瞰して影響 を評価することで、より確度の高いダムの影響評価技術 を確立できるものと考えられる。

7

食物網を介したダムの波及効果に関する概念図

参考文献

1)

谷田一三、村上哲生(編) (2010) :ダム湖・ダム河川 の生態系と管理. 名古屋大学出版会

2)

村上哲生、林裕美子、奥田節夫、西条八束(監訳)

(2004) :ダム湖の陸水学. 生物研究社

3)

大森浩二、一柳英隆(編) (2011) :ダムと環境の科学

Ⅱ ダム湖生態系と流域環境保全. 京都大学学術出 版会

0 5 10 15 20 25

<-2 <-1 <-0.5 <-0 >0 >0.5 >1 >2 冬春 夏秋

ダム上流に多い ダム下流に多い

ダム 数

4

カゲロウ属生息密度のダム上下流差

個体数の差

log10(個体数密度ダム上流/個体数密度ダム下流

0 5 10 15 20 25

<-2 <-1 <-0.5 <-0 >0 >0.5 >1 >2 冬春 夏秋

ダム上流に多い ダム下流に多い

ダム 数

5

カワゲラ属生息密度のダム上下流差

個体数の差

log10(個体数密度ダム上流/個体数密度ダム下流

0 5 10 15 20 25

<-2 <-1 <-0.5 <-0 >0 >0.5 >1 >2 冬春 夏秋 ダム

6

トビケラ属生息密度のダム上下流差

個体数の差

log10(個体数密度ダム上流/個体数密度ダム下流 ダム上流に多い ダム下流に多い

ダム 数

0 5 10 15 20 25

<-2 <-1 <-0.5 <-0 >0 >0.5 >1 >2 冬春 夏秋

3

全底生動物生息密度のダム上下流差

個体数の差

log10(個体数密度ダム上流/個体数密度ダム下流 ダム上流に多い ダム下流に多い

(5)

EFFECTS OF THE CHANGES IN WATER QUALITY AND HYDROLOGIC CONDITION BY DAMS ON RIVER BIOTA

Budged:Grants for operating expenses General account

Research Period:FY2011-2015

Research Team:Water Environment Research Group(River Restoration)

Author:Yuichi Kayaba, Midori Masumoto,

Abstract

:Assessing the effects of the changes in water quality and hydrologic condition by dams on river biota is

important. For this assessment, not only the analysis of one dam but also the analysis of several dams in Japan is needed. In this year, the generality of differences in water quality or benthic invertebrate community between up- and downstream reaches of dam was examined by using national census long-term data. Annual water temperature of upstream was different from those of downstream. Turbidity, T-N, T-P, and chl.a of upstream were also different. It suggests that water quality of downstream is affected by dams. Dams, where benthic invertebrate density of downstream was higher than that of upstream, was lower in spring and winter than in summer and autumn.

Key words : dam, water quality, benthic invertebrate, up- and downstream difference

参照

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