• 検索結果がありません。

企業との連携を取り入れた短期日本語研修

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "企業との連携を取り入れた短期日本語研修"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

企業との連携を取り入れた短期日本語研修

― 母語話者との共学・協働によるプロジェクト型研修の取り組み ― 幸松 英恵

【キーワード】・ 短期日本語研修、企業との連携、母語話者との共学・協働

1. はじめに

 ・「グローバル・キャンパス・アジア東京」(以下「GCA 東京」)は、学習院大学に おいて、夏と冬に実施される短期の日本語・日本文化研修である。筆者は前職在 任中の 2013 年から 2017 年までの 5 年間、この研修のコーディネーターを務めて きた1

 GCA 東京では、毎回のプログラムにおいて、午前中に日本語研修を行い、午 後に「課題探求型現地研修」と名付けているアクティブ・ラーニング型の活動を 行なっている。その全ての授業・活動に、日本語母語話者である学習院生2を加 えて「共学・協働3」型の研修を行なうのが GCA 東京の特徴である。毎回の研修 には、100 名を超える日本側参加者が参加してきた。これだけの人数の日本側参 加者を集めてきたという実績は、しばしば他校の担当者の方々に驚かれるところ である。日本側参加者を集めるには、それなりにコツが必要であり、非母語話者 と母語話者という、立場の違う“学習者”双方の学びに繋がるプログラム策定に 当たっては工夫が必要である。

 こうした共学・協働型の研修の枠組みは、今後の大学における学びの形として 有益であると思われ、これまでの経験の中には、短期研修だけではなく、学期中 の授業においても応用できるアイデアがあると感じたので、前任校での取り組み ではあるが、ここに報告しようとするものである。全てのプログラムを紹介する

東京外国語大学

留学生日本語教育センター論集 45:299~315,2019

1・「学習院大学グローバル・キャンパス・アジア東京」は学習院大学国際センター(前身は「学 習院大学学長付国際研究交流オフィス〈2013 ~ 2014 年〉」、その後、「学習院大学国際研究 教育機構〈2014 ~ 2017 年〉」を経て、2018 年から現在の「国際センター」に改組された)の 主催による。筆者はここで PD 研究員として勤務していた。

2・ 学習院大学の学生、および学習院女子大学の学生を総称してこのように呼ぶ。

3・ ここでは「協働」を、「あるグループが目的・目標を共有し、それを達成するために協力し て行う活動」という程度の意味で用いている。

(2)

ことはできないので、このうち、10 回目の開催となる 2017 年夏に行った研修に 絞って、特に筆者が担任を務めたクラスの取り組みの様子を中心に、日本語授業 の実施内容やその効果について報告する。紙面の都合で、午後の活動については 割愛する4

2.研修の概要と参加者

2.1 プログラム概要と日本語授業

 「GCA 東京 2017 夏」は、2017 年 7 月 19 日から 8 月 6 日にかけて実施された、

約 3 週間のプログラムである。協定校を中心に、海外の大学に在籍している日本 語学習者に公募をする際、活動重視型の研修ということから、学習歴で言えば 2 年以上、JLPT で N3 以上の日本語能力を持つことを参加条件とした。参加者は、

フランス・タイ・香港・中国・韓国・台湾の大学からの 33 名であった。過去に 行われた研修の参加者は最大で 54 名、平均で 40 名前後であるので、この回は参 加人数としては少ない方である。

 日本語授業は、50 分の授業を午前中に 3 コマ、計 33 コマ実施した。授業は レベル別に ABC の 3 つのクラスに分けて行われた。クラス分けは、学習歴や JLPT の結果、それに加えて研修初日に実施されるプレースメントテストの結果 を考慮して決定した。授業で用いるテキストはコーディネーターである筆者が作 成した。レベルが低いクラスではテキストの語彙をコントロールしたり、活動に 時間をかけたり、活動のゴールの難易度を低くする等の調整を加えたが、授業内 容は各クラス共通としている。クラス担任制で、筆者は上級者の多い A クラス を担当した。

2.2 参加動機

 GCA 東京では、海外からの参加者を「研修生」と呼び、このプログラムで共に 学び、活動する学習院生を「日本側参加者」と呼ぶ。研修生については、来日時 プレースメントテストの一環として、「なぜ参加したのか」「プログラムに何を期 待するのか」を聞き取り調査した。当然、「日本語能力の向上を目指して参加した」

という回答が最も多い。その一方、GCA 東京が日本側参加者との共学・協働に

4・ 午後も同様に研修生と日本側参加者が多国籍グループを作って活動を行う。午前に実施 される日本語授業とは異なり、グループメンバーで課題を設定し、そのテーマに沿った 調査活動を学生が主体的に行う。

(3)

より行われることは過去に参加した先輩や友人から聞いているケースが多く、「日 本人と活動できると聞いたから」「特別な研修だと思って来た」といった答えも多 い。10 回目の研修となることから、毎年参加者を派遣している大学では、GCA 東京の特殊性がある程度認知されていることがわかった。

 日本側参加者は、研修前の 3 ヶ月ほど前から全学的に募集を始める。条件は特 になく、学部、学科、学年も問わない。立看板、大学 HP、ニュースレターなど で宣伝をし、説明会も 4 回開催した5。こうした宣伝活動の結果、122 名の応募 があり、全員を manaba(学習者用ポートフォリオシステム)に登録した。

 日本側参加者には、manaba でのレポートで参加動機を調査した。「国際交流に 興味がある」「海外の友人が欲しい」「日本語教育に関心がある」など、その動機は 様々である。GCA 東京は日本語レベルが中級以上の学習者がメインであるので、

媒介語を使う必要がない(使わないことを推奨している)ため、「英語や中国語な ど、自分が学習している言語を使ってみたい」という動機は、このプログラムの 趣旨に合わないと説明会などでアナウンスしている。また、「おもてなしをしたい」

「日本語を教えてあげたい」「日本を知ってもらいたい」といった「ホスト」感覚で 参加するのではなく、「共に学ぶ」姿勢が重要であることも説明会その他で強調し ている。

 日本側参加者には、参加可能日程を調査し、参加日が多い学生から研修生との プロジェクトワークに参加できるものとしている。日数が少ない学生、参加日が 飛び飛びの学生は、単発で参加できる授業やアクティビティに配置する等の工夫 をした。これも参加者を集める仕掛けの一つである。学生の予定に合わせて柔軟 に対応し、参加する際の敷居を低くする。はじめは自身の予定を優先させていた 学生の中には「意外に面白かった」「次はもっと多く参加したい」といって参加度 を高めていくケースが見られる。

5・ ここでは詳述しないが、説明会は学習院生が行っている。これも工夫の一つである。説 明を担当する学生団体は、GCA 東京のボランティアをする学生サークル(「GCA 東京学 生部」)である。2015 年度に熱心な日本側参加者の数名が自主的に組成したサークルで、

20 名程度の部員により構成されており、現在 4 年目である。2017 年度まで幸松が顧問を 務めていた。学生部所属の学生が、新規に参加を希望する学生に対して「活動の内容」や

「面白さ」を語り、気軽に質問にも答えるため、学生にとって参加への敷居が低く感じら れるらしく、説明会に参加した学生のほとんどが参加を決定している。

(4)

2.3 研修の目標

 研修の目標は、以下の通りである。

・・・1)・日本語授業と課題探求型現地研修を通して日本語能力を高める

・・・2)・多国籍チームでのグループ活動を通して「協働力」を身につける

・・・3)・現地調査や取材活動を通して「探求力」、「調査力」を高める

 1)は研修生に対する目標であるが、2)と 3)は、日本側参加者にも共通するも のである。これらの力は、大学時代だけでなく、卒業後の人生においても重要な スキルであるが、大学の授業だけで十分に伸ばせるかというと、そうは言い切れ ない。まして多国籍チームで何らかの研修を行える機会はそれほど多くはないと 思われる。

 日本側参加者を集めるための工夫は、ここにもある。外国人と触れ合う機会が 珍しくなくなった昨今において、「カンバセーションパートナーになれます」とい うだけでは、そこまでプログラムの魅力を打ち出すことはできないのではない か。しかし、「ある一定期間に渡って、外国人とチームを組んで、共学・協働し て、何らかの成果を出す経験ができます」というメリットを前面に出し、その内 容を興味深いものにすれば、自身の学びにも繋がって、(内容によっては)就職活 動においてアピールポイントになる等の付加価値がつく。この回も、プログラム の半分は試験期間と重なっていたにもかかわらず 100 名を超える応募が見られた のは、そのような効果があったのではないかと思われる。

3.日本語授業の内容

3.1 授業のテーマ決定と企業との連携

 前述の通り、GCA 東京の最大の特徴は、多国籍チームでの共学・協働である。

そこでは、何らかのテーマについて共に読み、聴き、考え、ディスカッションを し、そこで話し合った内容をグループでプレゼンテーションをしたりする。この 回はさらに、企業と連携し、生産現場を見学したり、専門家へインタビューをし たり、それをもとに学生で企画した内容を専門家の目から評価してもらう、とい うプロジェクトワークを行うこととした。

 授業・プロジェクトワークのテーマは、筆者の判断で「手帳」を選んだ。日本 はデジタル先進国としては珍しく、いまだに紙の手帳が愛好される。スマホやタ

(5)

ブレットなどのデジタル手帳を使わず、紙の手帳でこまめにスケジュール管理を する、独特な「手帳文化」について取り上げることは、日本人や日本文化を知る 一つの手がかりになるのではないかと思ったためである。また、日本の文房具は 世界でも人気だという話を聞くが、日本の手帳はバラエティに富んでおり、品質 も素晴らしい。その製造過程を間近で見、どのような工夫があるのかを知ること は所謂「メイドインジャパン」のものづくり精神に触れる良い機会だと思われた。

 さらに、学習院大学には存在しないが、現在、多くの大学において「学生手帳」

が作られ、学生に配布(もしくは販売)されていることがわかった。一度は廃止 した大学もその価値を見直し、作成しているという。筆者は各大学の HP で公表 されている学生手帳の中身を調査したり、様々な大学の手帳を入手したりして、

それぞれ学生手帳にはどのような特色があるのかを調べた。その結果、月間予定 表に学年暦や主要行事が書き込んであったり、付録にキャンパス案内や各種連絡 先の情報を載せるという基本的な役割のほか、「手帳を携帯させることで時間管 理の大切さを教える」「就職に関する様々な情報を知らせる」「社会人としてのマ ナーを教える」「震災時の動き方や、防災のための情報を伝える」といったコンテ ンツがあることを知った。国士舘大学や秋田大学では、留学生対象の「留学生手帳」

があることもわかった。ビザや奨学金の情報のほか、留学生として知っておくべ き情報、特に防災関係の知識について、しっかり周知させるために携帯できる手 帳を渡しているということであった。大学によっては、学生からデザインを募集 したりして、大学生協その他で販売しているケースがあることも知った。

 このようなことを調べているうち、・“仮に学習院大学でも手帳を作るとしたら、

どのようなものが望ましいだろうか”と考えるに至り、それを研修生と日本側参 加者が共に考えて企画するという内容を日本語授業のプロジェクトワークの内容 とすることに決めた。

 授業にあたっては、板橋区に本社と工場を持つ「株式会社新寿堂」にご協力い ただいた。新寿堂は 70 年以上の歴史を持つ手帳制作会社であり、「能率手帳(現 在は「NOLTY」とブランド名を変更)」の生産の殆どを請け負っている。青山学院 大学や共立女子大学などをはじめ、様々な大学の学生手帳製作も手がけており、

“大学手帳企画”へご協力頂く企業としては、これ以上ない連携先であった。

 授業の内容と流れは、以下のように組み立てた。

(6)

・・・1)・日本の手帳文化について、手帳製作についての資料を読む(リーディング)

・・・2)・「学習院手帳」を作るとしたら、どのような手帳を企画するか、グループご とに考える。(ディスカッション)

・・・3)・新寿堂本社を訪問。社員の方(社長、工場長、営業部長)に取材を行う。学 生手帳の企画に当たって必要な情報を知る。(インタビュー)

・・・4)・新寿堂の工場を訪問、工場製作工程を見学する。(情報の聞き取り)

・・・5)・取材、見学してきたことを受けて、手帳企画についてディスカッションを深 める。(ディスカッション)

・・・6)・企画発表会を行う。当日は新寿堂から、社長、営業部長、広報担当の 3 名を お迎えし、それぞれの方から企画についてコメントをいただく。(発表)

3.2 参加者による学び、活動、発表

 筆者が担当した A クラスの研修生の人数は 12 名。それを 3 グループに分けた。

そこに日本側参加者が常に 2 - 3 名入り、7 ~ 8 名の多国籍チームで活動を行なっ た。学習院大学の期末試験終了後は授業参加希望者が一気に増えたが、研修生と 同数までとし、日本人の数が上回らないようにした。

① リーディング

 日本の手帳に関する新聞記事や、新寿堂から受け取った資料などを元に筆者が 作成した読み物を用いて、読解を行った。紙の手帳に求められているものや、手 帳を作る上で注意していることなど、手帳全般についての知識を得ることを目的 とした。

 

② 導入とブレーンストーミング

 プロジェクトワークとして、「学習院手帳を企画しよう」というテーマで活動を 行うことを説明し、様々な大学の学生手帳の内容を紹介した上で、コンテンツ、

デザインについて考えることを伝えた。まず、グループごとに「その手帳を使う ことで、学生にどのような変化を促したいのか、学生にどのようなメリットがあ るのか」を考えることからスタートした。グループごとに、発信したいテーマが 決まったら、そのテーマに沿った特色を持つ手帳の内容やデザインを考える活動 をした。

(7)

③ マーケティング調査

 グループでのディスカッションと並行して、学習院大学の学生は学生手帳にど のような内容を望むのかを知るために、マーケティング調査を行った。質問事項 はグループで考え、それを全体で共有して一つの調査用紙を作成した。この活動 に参加している学習院大学の学生 110 名を対象に、manaba でのレポート機能を 用いて調査を行った。主な調査内容は以下の通りである。

 

 1.現在、紙の手帳を使っていますか (Y/N)

   ―(No の場合)使っていない理由は何ですか。(記述)

   ―(Yes の場合)手帳の用途は何ですか。(記述)

 2.学生手帳は必要だと思いますか。(Y/N・/ どちらとも言えない)

 3.持つとしたらどのサイズが良いと思いますか

   (小型〈iphone サイズ〉/ 中型〈文庫本サイズ〉/ 大型〈A5 以上〉)

 4.学生手帳に欲しい内容は。

   (必要項目を選択。複数回答可+それ以外の記述)

 その日のうちに、72 名からの有効回答を得た。結果は以下の通りである。

紙の手帳を使っているか はい:86 %/いいえ:14 %

使っていない理由 アプリを使っているから/スケジュール管理の必要がない から/必要はあるが手帳で管理するのは挫折 等

手帳の用途

・授業、アルバイト、サークル、遊びなどの予定記入

・使ったお金の金額を書いている

・日記として使っている

・写真やチケットを貼っている 等

学生手帳は必要か はい:52 %/どちらとも言えない:18 %/いいえ:30 % 持つとしたらどのサイズ 中型:81 %/大型:11 %/小型:8 %

学生手帳に欲しい内容

(選択。複数回答あり)

・学年暦 (64 名)

・図書館の利用時間や規定(58 名)

・主要イベント(55 名)

・キャンパス周辺案内(47 名)

・履修案内(39 名)

(8)

学生手帳に欲しい内容

(選択。複数回答あり)

・就職情報(36 名)

・語学試験情報(22 名)

・留学情報(17 名)

・大学の特色や歴史(13 名)

・サークル内容と一覧(12 名)

・奨学金情報(11 名)

・学長の言葉(7 名) 等

学生手帳に欲しい内容

(上記以外)

・キャンパス内の施設、機関などの説明

・Wi-Fi が届く場所、コピー機・印刷機の場所

・大学周辺のイベントや目白駅周辺情報

・目白駅を中心とした路線図

・自分の履修を書き込める表

・何も書いていないノートのページ

・学習院大学内の歴史的建造物や文化財紹介 等

④ 取材準備

 手帳製作の専門家に取材したい項目を考えた。取材内容を考えながら、専門家 へのインタビューをする際に必要な知識、表現、相手の言葉が聞き取れなかった 時の聞き返しストラテジーなどを学んだ。質問は研修生が行うこととし、質問の 発音練習なども事前に行った。

⑤ 取材

 当日は、新寿堂本社を訪問、会社の紹介 VTR を見て、会社説明を聞いた後、社長、

営業部長、工場長の 3 方にご協力いただき、インタビューを行なった。学生が用 意していた質問とそれに対する答えの一部を紹介する。

Q:すべての手帳に共通する要素は何ですか

A:難しい質問だが、手帳は「時間管理のためのツールである」ということ。

仕事の生産性を向上させる、ということが基本にある。/作る立場からいうと、

1 年間の使用に耐えうるものにしなければならない。/デザインから言うと、

空欄が多いことである。

Q:能率手帳には、昔から変えていないところはありますか。その理由は何で すか。

(9)

A:変えていないものは、紙である。書き味を変えないようにしている。ただ、

昔はペン先にボールが入ったボールペンで書いていたが、現在は柔らかいイ ンクが主流である。それに合わせて紙の質も少し変えている。あとは、紙の 色がクリーム色であり、ラインがオリーブ色のものが典型的である。

Q:どんな機能のついた手帳がありますか、その中で一番人気のタイプは何で すか。

A:インデックスがついているものに人気がある。それ以外は、しおりがつい ているもの、シール、ポケット(名刺入れ)があるもの。後からポケットがつ けられる付属品もある。

Q:新寿堂で作った手帳で、よかったデザイン、逆に、採用されなかったデザ インは何ですか。

A:良かったものは、共立女子大と作ったもの。初めて学生手帳でインデック スをつけた。学校の規則や時間割など、探したいところがすぐにわかる。/

採用されなかったものは、ほとんど予算・コストの面で折り合いがつかなかっ たものである。

Q:学生手帳を作るときの値段はどのように決めますか。その理由も教えてい ただけますか。

A:各学校との交渉である。学校側は安くしたい、我々は高く売りたい。学校 手帳には 2 種類があり、市販されるものと、配るものである。配るものは大 学の授業料収入が財源になっている。

Q:(安い値段で)高級感を出すためにどうすればいいですか

A:表紙で高級感を感じさせるのがコツ。表紙にステッチを入れる。小口に金 を貼る。

Q:一番売れている手帳の値段はどれくらいですか

A:月間表示だけある、薄いもの、価格帯では 800-1000 円くらいが最もよく 売れる。

 初めての会社訪問、初めての取材という学生も多く、緊張感はただならぬもの があったが、社員の方々は丁寧に、誠実に、多岐にわたる質問に答えてくださっ た。研修生はグループで連携して、質問する役、録音する役、メモをとる役など

(10)

の役割分担をしていたので、その場で聞き取れなかった情報は、大学に帰った後 文字起こしをして確認した。

 この日は、様々な会社、団体、大学に納入した手帳を並べて展示しておいてく ださっていたので、学生たちはその内容、デザインを、自分の手にとって調査す ることもでき、非常に実りの多い訪問になった。

⑥ 工場見学

 読解授業の中で、新寿堂ではどのような工程で手帳を製作しているのかを学ん だ。工程ごとの写真を用意し、正しい順番に並べ替えるというアクティビティな ども行った。その結果、工程を正しく理解し、それぞれで何をしているのか学生 一人ずつが説明できるようになった上で工場見学の日を迎えた(取材日と同日)。

 当日は、小グループごとに社員の方が説明について下さった。学生たちは、イ ンボイスから聞こえる社員の方の説明に熱心に耳を傾けながら工程を見て回っ た。専門用語も多く、難しい内容が含まれていたが、読み物で読んでいた工程で あったので、概ね理解できたとのことであった。社員の方たちも、学生が工程を 理解していることに驚き、喜んで下さっていたので、準備の重要さを再認識した。

 新寿堂では、高級手帳についてはいまだに手作業での表紙糊付け作業を行って いる。この時は特別に、その工程を体験させてもらった(学生たちは、自分で表 紙を貼った手帳をお土産に頂いた)。

⑦ 企画発表会準備

 取材したこと、調査したことをまとめ、グループごとに自分たちのテーマに沿っ た手帳の企画案をまとめ、発表スクリプトや・PPT を作り、時間を計っての発表 練習、発音練習を行った。

⑧ 企画発表会

 発表会当日は、新寿堂より、社長、営業部長、広報担当のお三方にお越しいた だき、学習院大学内の「国際会議場」にて企画発表会を行った。筆者が担当した クラスからは、3 つのグループがそれぞれ企画した手帳の案について発表した。

詳細は割愛し、内容とデザインの特徴に関する概要のみ、以下に紹介する。

(11)

・チーム①「学習院の伝統を感じられる手帳」を企画

 学年暦や主要イベント、キャンパス案内といった基本的なコンテンツの他に、

月間予定表や週間予定表のページに学習院の歴史や学習院大学が保有する文化財 や歴史的遺産、それらが見られる展示場所についての紹介を少しずつ載せる。大 学への理解を深め、愛校心を育てることを狙う。

 デザインの特徴、販売の工夫:学習院の校色である「ロイヤルブルー」の表紙 に金地のロゴを入れ、高級感を出す。幼稚園や初・中・高等科のショップにも置 き、学習院大学への入学を目指す生徒の父母などにも買ってもらえるようにする。

・チーム②:「学習院をグローバル化するための手帳」を企画

 基本的なコンテンツの他、協定校情報、留学情報、語学試験情報、学習院内で 体験できる国際交流イベントなどの情報を網羅する。学習院大学では、協定留学 を利用する学生が少ないこと、国際交流イベントを知らない学生が多いこと、こ うしたイベントの主催が様々な機関や部局に分散しているので、情報を一括して 見せることで、参加しやすくし、学生の目を外に向けさせることを狙う。

 デザインの特徴:情報ごとに QR コードなどを示しておき、手帳から大学 HP や外部 HP の情報に飛べるようにする。

・チーム③:「学生がとことん大学生活を楽しめる手帳」を企画

 基本的なコンテンツの他、昼食の穴場スポット、大学周辺の商店の紹介、学園 祭などの主要イベントの楽しみ方、学習院大学や周辺の名所の紹介、フォトジェ ニックポイントの紹介などを盛り込む。

 デザインの特徴:周辺の商店や飲食店に協賛してもらい、利用ごとにポイント が貯まるカードを学生手帳につける。サービスが受けられるアプリと連携する。

学習院のゆるキャラのシールをつけて、デザインも可愛いものにする。

 チーム内でディスカッションをした結果、3 チームで異なるテーマが選ばれ、

それぞれ特色のある企画となった。新寿堂の方からは、各チームの発表に対し一 つ一つ丁寧な講評をいただいた。工夫が感じられるところ、良いと思ったところ を褒めていただいたり、よく理解できなかった部分は質問を受けたりした。

 企業との連携においては、学習者側と企業側の双方にとって利益があることが 重要であるが、新寿堂の社長、村上覚氏が最後の挨拶で述べておられたのは、“こ

(12)

れまで大学に納入する学生手帳を製作してきたが、話をする相手は常に大学の職 員であり、エンドユーザーである学生がどのような手帳を求めているのか知る術 がなかった。また、能率手帳はビジネスユーザーが多く、若者向け市場を開拓し たかったところ、今回の活動を通して若い学生の話を直に聞けて参考になった。

また海外進出も念頭に入れているので外国人の手帳使用状況も聞けて良かった”

とのことであった。社員の皆さんは真剣にメモを取り、学生に様々な質問をし、

学生たちも緊張しつつ真剣に答えるという発表会であった。学生にとっては、自 分たちが企画した内容を専門家に評価してもらうことができ、企業側にとっては、

普段聞けない若者の声や外国人の声を聞くことができた。相互利益が見られる活 動になっていたと思う。

4.学生の反応と学習効果など 4.1 研修生の反応とその理由

 以上、日本語授業とプロジェクトワークの実施内容について述べてきた。以下 では日本語学習者である研修生の反応や学習効果について述べる。

 研修生にとって、「学習院手帳」という、自分たちに直接関わりのない製品の企 画であり、彼らがモチベーションを保って授業に参加できるのか、日本側参加者 が優越しないのか…といった危惧はあった。しかし実際の活動において、研修生 は非常に積極的であり、大きなやりがいを持って活動していた。そこにはいくつ かの理由があったようだ。

 まず一つ目に、手帳自体はユニバーサルなものだという点である。手帳につい てのプロジェクトワークを行うことを事前連絡していたことで、本国の大学の学 生手帳を持参した学生や、リサーチをしてきた学生もいた。学習院の特徴は日本 側参加者から引き出さなければならないが、それぞれの国の手帳の特徴などを話 し合い、そこから参考になることを取り入れていった。例えば、手帳に QR コー ドを載せたり、アプリと連携させるなどの発案は、研修生によってなされている。

日本人のみでの活動では、なかなか思いつかないアイデアが研修生によって提示 されることもあり、これぞ多国籍での活動の醍醐味、という様子が見られた。

 二つ目は、学生の目標や関心と活動内容がある程度一致していた点である。中 級以上の学生、特に日本語専攻の学生の中には、日本での就職や日系企業への就 職を目指している学生が少なくない。仮にその希望が叶ったときは日本人との協 働が日常になり、日本人向けの商品を企画・販売したり、日本人向けのサービス

(13)

を考えたり実施することになる。そのための経験として取り組んでみよう、とい う導入を行なった結果、学生の姿勢が俄然変わってきたように思う。

 それ以外にも、留学生の中には日本の「ものづくり」の現場を見ることに関心 を持つ学生が多いこと、日本の文房具ファンも一定数いて、本国でもメイドイン ジャパンの手帳を使っている学生もいたこと…等も、今回のプロジェクトに関心 を持って参加できた理由に挙げられる。

 日本側参加者は、学事日程や自身の都合上、毎日参加するというわけにもいか ないため、終始、議論をひっぱり、発表まで持っていったのは、研修生の力によ るものが大きい。

4.2 研修生に対するアンケート結果から見る達成度・満足度

 プログラム終了時に日本語授業の難易度や手帳プロジェクトワークに関してア ンケート調査を行なった。ここでは担当した A クラス以外の結果も示す。

1. 日本語の授業は難しかったですか、簡単でしたか。

選択肢 A B C

難しすぎる。もう少し簡単な方がいい 1 0 0

やや難しいがこのままで良い 3 5 4

ちょうどいい 7 5 3

簡単だったが、このままでいい 1 2 2

簡単すぎる。もっと難しいほうがいい 0 0 0

合計 12 12 9

2.「手帳プロジェクトワーク」の授業は、どうでしたか。

選択肢 A B C

良かった(面白かった、役に立った、勉強になった) 10 8 6

普通だった 2 2 2

良くなかった(面白くなかった、勉強にならなかった) 0 2 1

合計 12 12 9

(14)

 ここからは、学生の自由記述による回答を紹介する。まずは高評価だった学生 の声である6

・・「授業でずっと手帳についての物事を聞きました。見学したとき、実際の操作 を見て、授業で聞いたことが理解できます。楽しかったです。」

・・「たくさんの固有名詞を勉強できて良かったです。」

・・「手帳への理解を通して手帳の背景にある日本人の生活習慣を理解することが できた。とても良い練習、体験の場になった。」

・・「グループで討論して発想して、という新鮮な授業だ。言語力の練習だけでは なく思想の訓練にもなっている。やりがいのある授業だ。」

・・「手帳をどうやって作るかを考えながら日本の学生と討論して発表できたこと は興味深かったし、やった甲斐があった。」

・・「ゼロから、みなと作りたい手帳を考えるのは新鮮で面白い体験だった。もう 少し時間が欲しい。そうすればもっと完璧なプレゼンができたと思う。」

・・「私が考えた学生手帳が実際に販売できたら…と考えて一生懸命準備した。」

 以上の評価からは、言語能力の向上に留まらず、日本文化への理解が進んだこ と、日本人と共に「手帳を企画する」という活動ができたことへの満足感を得た 学生が多いことが伺える。次に、低い評価をつけた学生の声を紹介する。

・・「製作過程が難しすぎてちょっとつまらない。」

・・「マーケティングは難しい。学習院生ではないので、どのような手帳が学習院 生の役に立つかはあまり感じられない。」

 日本語レベルが低い学生、また、日本人向けの製品を企画することに関心を抱 けなかった学生にとっては、評価の低い授業になってしまった。失望感を与える ことを避けるためには、公募段階から、授業の内容やその意義を、より明らかに しておく必要があると思わされた。

 次に、企業との連携に関する学生の評価を見る。新寿堂での工場見学やインタ ビュー取材に対しての満足度と自由記述による感想である。

6・ このアンケートは母語での回答を可としている。その場合は日本語翻訳を載せる。

(15)

3.「手帳工場の見学・取材」は、どうでしたか。

選択肢 A B C

良かった(面白かった、勉強になった等) 12 10 6

普通だった 0 2 2

良くなかった(面白くなかった、勉強にならなかった) 0 0 1

合計 12 12 9

・・「手帳の生産過程や新寿堂の発展・変革についても理解できました。日本人が 手帳を重視することや商品へそそぐ情熱を理解することができました。これは 非常に感動的でした。」

・・「初めての工場見学が、日本の、このようなすごい手帳工場ということで、本 当に驚きでした。私たち外国人の質問に答えていただいた新寿堂の社長と重役 の方に感謝いたします。はじめは私たちの質問は簡単すぎて困惑させてしまう のではないかと心配していましたが、・親切な新寿堂では杞憂だったようです。」

・・「私自身も日本の手帳を使っているので実際に工場に行けるのは大切な勉強だ と思います。工場内の仕事ルールが書いてあったり、きちんと仕事が分けられ ていたり温度や湿度の管理をすることまで、しみじみ日本の職人精神を感じま した。」

 工場見学や取材については、総じて高評価であった。日本の「ものづくり」へ の情熱に感心した、日本の企業文化が理解できた等の肯定的な内容を書いた学生 がほとんどであった。

5.終わりに

 研修生(留学生)と日本側参加者(日本人学生)の双方を惹きつける、魅力のあ るプログラムづくりを目指した結果、「新しい体験」「(就職活動等に役立つ)将来 につながる体験」「アカデミックな能力を伸ばせる体験」などが学生にアピールす るということを再確認した。外部との連携、とりわけ今回のような企業との連携 もその工夫の一つだと言える。コーディネーターの側からは、「企業に協力を要 請する」というとハードルが高くも感じられるが、企業側にも利益がもたらされ るように活動内容を考えれば、その限りではないことがわかった。企業側にも、

社会貢献や地域連携といった社会的なアピールの必要性のほか、実利的な面でも、

(16)

大学(生)と連携することに何らかのメリットがある場合もあるだろう。学生に とっては、自分の学びや活動が社会と直接繋がっていくという実感を得ることが 大きなモチベーションになる7

 日本語を長期的に学んでいる学習者の中には、日本への正規留学を目指す学生、

将来、日本での就職を念頭において勉強している学生も相当数いる。そのような 学生にとって、学生時代に日本人学生と共に日本社会の一端を体験することは貴 重な経験になるだろう。同時に、グローバル化が進む社会にこれから出て行こう とする日本人学生にとっても、多国籍チームで課題に取り組み、問題を乗り越え ながら、何らかの成果物を作り上げるという経験は、今後ますます重要になると 思われる。

 多国籍チームで行うことで相乗効果が期待できるプログラム、協働力や調査能 力を高められるプログラムを作り上げるためには、どのような形の成果物を求め るのか、そのためにどのような活動をするのか、様々な可能性がある。ここで得 た経験を元にして、立場の違う学習者にとって魅力あるプログラムの企画にはど のようなものがあり得るのか、今後も様々な取り組みに挑戦したいと考えている。

7・ この「学習院手帳」企画も、諸事情により学生の企画そのままとはいかなかったが、プロ グラム終了後 2017 年度末には実際に商品化され、大学の購買部で発売されるに至った。

(17)

A Report on the University-Company Collaboration for the Short-term Japanese Language Program:

Project Based Learning Program for International and Japanese Students YUKIMATSU Hanae

Key Words: Short-term Japanese language program, collaboration with companies, collaborative class and activity for International students and Japanese students

The author was the coordinator of “Global Campus Asia Tokyo” (GCA Tokyo), a Short-term Japanese Language Program at Gakushuin University. At “GCA Tokyo”, international and Japanese students study and carry out various activities together. At the 2017 summer “GCA Tokyo”, 33 international students were joined by approximately 120 Japanese students. This year’s program focused on “The Creation of a Gakushuin Student’s Daily Planner” and involved collaboration with “Shinjudo Co. Ltd.”, a notebook manufacturer. Students were divided into multi-national teams to learn about notebooks so as to create a plan for the ideal Gakushuin Student’s Daily Planner. This included a visit to the manufacturing site and access to interview employees about notebook design and its contents. On the day of the project presentation, the company’s employees were also present to provide their evaluation and feedback. As a result, the students were able to not only improve their Japanese skills but also their collaborative and research capabilities through the use of multi-national team activities. Additionally, the manufacturer benefited from gaining deeper insight into the needs and desires of end users.

参照

関連したドキュメント

Comparing the present participants to the English native speakers advanced-level Japanese-language learners in Uzawa’s study 2000, the Chinese students’ knowledge of kanji was not

A tendency toward dependence was seen in 15.9% of the total population of students, and was higher for 2nd and 3rd grade junior high school students and among girls. Children with

【Details of the study】Surveys were conducted for a wide range of interviewees, including doctors, Japanese students, foreign students studying abroad in Japan, stakeholders of

  The number of international students at Kanazawa University is increasing every year, and the necessity of improving the international students' Japanese writing skills,

It is assumed that the reader is familiar with the standard symbols and fundamental results of Nevanlinna theory, as found in [5] and [15].. Rubel and C.C. Zheng and S.P. Wang [18],

Taking the opportunity of leadership training, we set three project goals: (1) students learn about Japan beyond the realm of textbooks, (2) teachers and students work in

The proof uses a set up of Seiberg Witten theory that replaces generic metrics by the construction of a localised Euler class of an infinite dimensional bundle with a Fredholm

We also show that the Euler class of C ∞ diffeomorphisms of the plane is an unbounded class, and that any closed surface group of genus > 1 admits a C ∞ action with arbitrary