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田中康夫知事の「脱・記者クラブ」宣言と「表現セ ンター」の意義

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田中康夫知事の「脱・記者クラブ」宣言と「表現セ ンター」の意義

著者 浅野 健一

雑誌名 評論・社会科学

号 70

ページ 31‑123

発行年 2003‑03‑20

権利 同志社大学人文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004411

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宣言と「表現センター」の意義

浅野 健一

は じ め に

《冷房のスイッチを切った会見場「表現センター」にはテレビカメラ約30台 が設置され,300人を超える報道陣・・・》。長野県議会の不信任決議を受け て2002年7月15日,「失職」を発表した田中康夫・長野県知事の記者会見の 模様を伝える7月16日付のスポーツニッポンの書き出しである。

はじめに

1 記者クラブ解体と抵抗勢力 1 なぜ不信任3会派は逃げるのか 2 犯罪的な報道管制

3 不信任騒動直前に

4 「脱・記者クラブ」宣言の革新性 5 表現者はみんな平等

6 他の自治体は記者クラブ擁護 7 違法な記者室占拠

8 ほかの団体なら強制排除 9 記者クラブが宣言に反対

10 県議と守旧派記者がつぶした「表現セン ター」

11 二度も否決された表現センター予算 12「根回しはしていない」NHKキャップ 2 記者クラブと御用学者

1 県政記者クラブの「検討」はウソ 2 「マスコミ用心棒」学者の迷走 3 クラブを広報機関と見る行政 4 長野の改革受けて協会,労連が動く

5 情けない県議たち

6 画期的な河野義行さん公安委員任命 7 記者クラブ問題を隠蔽するメディア 8 「記者クラブをもとに戻す」と花岡氏 9 県政記者クラブに質問

10 選挙中で総会を開けない 11 花岡氏が辞退

12 守旧派が公然支持

13 記者クラブ解体でジャーナリズム創造を 14 県議会多数派と「キシャクラブ」完敗 3 国際的に見た記者クラブ

1 韓国で記者クラブ改革進む 2 英国ではブレア英国首相会見に出席 3 EUが「記者クラブ」廃止要求 4 県政記者クラブが回答 4 記者クラブは最後の関税障壁

1 NHKの記者クラブの開放度 2 林立雄教授の提言 3 戦争煽る「記者クラブ」

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会見に同席した長野県政策秘書室秘書・報道担当企画員の池田秀幸氏による と,長野県庁5階にある仮設・表現センター(155・52平方メートル,当初は プレスセンター・表現道場などと呼んでいた)にエアコンは入っていたが,多 数の報道陣とカメラのライトでサウナのような状態になり,記者が一部の窓を 開けたため,冷房のスイッチを切ったと誤解したのだろうという。

田中氏の会見が行われたセンターは,知事が2001年5月15日,日本で初め て本格的な「脱・記者クラブ」宣言を発表し,同6月末,県庁内にあった3つ の「記者室」から「記者クラブ」メンバー全員を退去させた後,暫定的に使わ れている会見場だ。ここで開かれる会見には,大手のマスコミ以外の雑誌,ミ ニコミ,インターネットなどで情報を発信する「表現者」は誰でも自由に会見 に参加できる。「失職会見」にも,開かれた県政改革という理念から,約30人 の一般市民の表現者も参加し,知事に拍手を送った。

田中氏の宣言では,記者クラブが占有していた記者室の後に,すべての「表 現者」が利用できる「表現センター」を設置する予定だった。しかし,記者ク ラブと県議会が強固なスクラムを組んで反対したため,いまだに実現できてい ない。田中知事が2002年9月1日の出直し知事選で圧勝した後も同じであ る。本稿は田中知事の記者クラブ解体の革新性を検証する。

第1章 記者クラブ解体と抵抗勢力

1 なぜ不信任3会派は逃げるのか

田中康夫・前長野県知事が2001年5月15日,「脱・記者クラブ」宣言を発 表し,同6月末,県庁内にあった3つの「記者室」から「記者クラブ」メンバ ー全員を退去させてから間もなく2年である。知事は,「脱・記者クラブ」宣 言の3カ月前に出した「脱・ダム」宣言をめぐる混乱の中,長野県議会におい て県内最大会派で自民党など保守系の県政会,自民党系の政信会,民主・公明 系の県民クラブの3会派の共同提案による不信任案が可決されたのを受け,

2002年7月15日に失職,9月1日に県知事選が行われることになった。

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田中氏は7月24日に「県民とともに引き続き改革を行うため知事選に立候 補する」と再出馬を表明。長野市出身の前・産経新聞社論説副委員長の花岡信 昭氏も同日県庁内の表現センターで出馬表明を行った(告示日前日の8月14 日に突然辞退)。その後,石原慎太郎・東京都知事のブレーン的な活動もして いる同県南木曽町出身の経営コンサルタント市川周氏,元鹿島社員の中川暢三 氏,同県飯田市在住の弁護士長谷川敬子氏,青森県金木町のホテル社長の羽柴 秀吉氏が立候補を表明。8月15日夕方,弁護士の福井富男氏が新たに立候補 を届け出て,6人の争いとなった。全員が政党の公認,推薦を受けない無党 派,市民派を名乗るユニークな選挙となった。守旧派の県議,首長たちと記者 クラブの記者たちと連帯しての「反田中攻撃」が強まる中で,投票は9月1日 に行われ,即日開票された。

「知事としての資質」という言い方で田中氏の人格だけを問題にし,多数派 の権力を行使して不信任決議を強行した3会派が候補者を擁立しないのは全く おかしなことだった。推薦もしない。田中氏が県議会を解散せず失職を選んだ ことを激しく非難しながら,自分たちが辞職もしない。なぜ「反田中」の候補 者が全員「無党派」なのか,理解に苦しむ。長野県議会にある県政会,政信 会,県民クラブの3会派によって知事選挙になったのだから,3会派の県議た ちが「一市民」として特定候補を支援するというのは,知事が軽視したと何度 も批判した知事と県議会という「代行制度」そのものの否定ではないか。

田中氏に不信任を突きつけた県議たちは,「知事は人間性はもちろんない人 だけど,そのうえ頭の構造もおかしいんじゃないかと思う」(宮沢勇一県議会 議長,『週刊朝日』7月26日号)などと,差別用語を使って攻撃までした。ま た田中氏を批判する県議や文化人は田中知事を「理念は評価するが手法が乱 暴」などと,たいした根拠も示さず酷評した。感情的な反発だけで知事を追い 詰めたと私には思える。

2 犯罪的な報道管制

また,マスコミ企業は「脱・ダム」問題は詳しく報道するが,知事が1年1

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カ月前に全国に先駆けて実現した「脱・記者クラブ」宣言に基づく公的スペー スからの「記者クラブ追放」は黙殺されている。記者クラブ解体は知事の偉大 な業績であり,市民主権の政治姿勢を最もよく表していると私は確信する。

「反田中」の候補者も記者クラブ問題について積極的にはふれない。花岡氏 が出馬会見で質問されて,「脱・記者クラブ」宣言は間違っており,県庁内の 記者クラブをもとに戻すと発言。会見終了後に,記者クラブが存置されていれ ば会見に参加できなかった雑誌記者やフリーライターから「知事のつくった表 現センターで会見したから我々はここにいることができる」と反論され,「こ れはいい雰囲気の記者会見だ」という意味不明の回答をして失笑を買ったぐら いだ。

この間の不信任から知事選挙告示まで,マスメディア報道では,田中県政に 記者クラブ問題はなかったことになっている。地方紙が少しふれただけだ。こ れは守旧派県議とマスコミの共謀による悪質な情報管制(ブラックアウト)と 言っていい。日本にはまじめな意味でのジャーナリズムが,日本新聞協会に加 盟する大手マスコミ企業には存在しないことを明確にしたと言えよう。

3 不信任騒動直前に

私は在外研究から一時帰国中の2002年6月8日に長野市で田中氏に1時間 半にわたってインタビューした。《脱・記者クラブ宣言》から1年たった記者 クラブ問題を検証する記事を「週刊プレイボーイ」に書く企画だった。また,

7月14日にソウルで開かれた国際コミュニケーション学会(ICA)プレコンフ ァレンスのワークショップ「東アジアにおける民主主義とメディア」で,《調 査報道を衰退させる日本の「記者クラブ」》と題する発表の中で,長野のモデ ルを取り上げるためでもあった。このワークショップではソウルにあるヨンセ

(延世)大学のユン・ヨンチョル教授(新聞学博士)が韓国の「記者クラブ」

問題を発表し,日韓の記者クラブ比較を行った(1)

田中氏とはテレビの討論番組で一緒になったことがあるほか,文化放送の

「梶原しげるの本気でDON DON」のレギュラー・ゲストを務めていたとき

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に,神戸連続児童殺傷事件,和歌山カレー事件などでメディア問題を取り上げ たときに出演したことがある。久しぶりの再会だったが,「浅野さんは変わり ませんね」と声をかけてくれた。

私は田中氏が脱・記者クラブ宣言を発表した直後の昨年5月21日,田中氏 にメールを送った(2)。その中で,《記者時代から記者クラブはつぶすしかない と考えてきた。知事の宣言に全面的に賛同する。個人情報保護法案などメディ ア法規制に反対する人たちは,マスメディアのことには権力は介入するなと声 高に叫ぶのだが,彼らはどうして官庁の一室を占拠し,光熱費などを税金でま かなわれている「記者クラブ」を認めるのかと疑問だ》などと書いた。

その後も何度かメールを送り,2002年1月25日には《メールを嬉しく拝見 しました。下記の「K嬢の長野県政ウォッチング日記」(http : //www2.diary.ne.

jp/user/95992/)は30代の女性のサイトですが,プロフェッショナルを自任す

る連中よりも遙かに感性を感じさせます》などと書いた返事があった。K嬢 のサイトは参考になる。

インタビューの直後に,田中氏と県議会との「対立」が深刻化したため,

「週刊プレイボーイ」8月6日号(7月23日発売)に《独占インタビュー 9・

1知事選へ 脱・ダム 以上の大問題 脱・記者クラブ を語り尽くす!》

と題して掲載された。

ここでは,同誌の記事や「創」9月号ではふれることができなかった「表現 センター」設置問題などを中心に論じたい。

4 「脱・記者クラブ」宣言の革新性

「創」2002年3月号に《記者クラブはやはり「解体」するしかない》と題し て書いたように,私は通信社の記者をしているころから,全国の官庁,自治 体,大企業などにある「記者クラブ」を解体しない限り,日本にまともなジャ ーナリズムは望めないと確信し,公言してきた。

記者クラブの問題はマスコミや行政だけのものではない。そこに使われてい る金がすべて税金であることからして,我々とも大いに関係している。だから

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こそ「脱・記者クラブ」は大きな改革の意味を持つ。

田中氏はインタビューでこう切り出した。

《記者クラブという存在は日本に800以上あります。そのスペースは役所の 中にあるんですね。ですから,新聞社やテレビはそのスペースをただで借りて るわけです。光熱費もただ。世話を焼いてくれる事務職員の費用もただ。で も,本当はただではない。税金で払われているんですから。

その税金は,もちろん市民が払ってくださる。行政の仕事は市民が税金を払 ってくれて初めてできるし,働いている公務員の給料も市民が払ってくれてる んです。でも,世間一般の商売の場合は,よい商品を開発して,よい商品をよ い接客で販売して,初めてお客様がお金を払ってくれるんです。ところが,行 政は前もって税金を納めていただく,前払いなんです。しかも,それをどこに 使うか明らかになっていない。年度末に事務経費を全部使いきるためにボール ペンを1万本買ってるかもしれない(笑)。しかも,いくらで買っているか も,納税する市民の側は知らないわけです。税金というのは本来払っている人 たちによって使い道が決められなければならないのに,です。ですから,記者 クラブの費用を税金で払うことが市民のためになっているのか?端的に言う と,その部分をきちんと正しましょうということです》

《長野県の本庁舎には3つの記者クラブがありました。いちばん長い歴史が あったのが,テレビや全国紙を含む新聞が入っている県政記者クラブです。し かし,松本市を中心とする『市民タイムス』という地域紙の記者はそこに入る ことができませんでした。たとえば松本の市民が県の本庁舎にやってきて何か 要請をし,その後会見を開いたとします。従来は県政記者クラブで会見は行わ れていました。そこに『市民タイムス』の記者は同席できなかったんです。税 金でまかなわれているスペースにです。ですから松本の市民は,松本でもっと も読まれている『市民タイムス』に改めて会見をしなければならなかった。

そんな記者クラブに税金を使うことが市民のためになっていると言えるでし ょうか? 私は知事就任以来,繰り返し私の会見は『赤旗』や『聖教新聞』や その他,ウエブサイトをやっている人も入れるようにしましょうと言っていま

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した。それまで,知事の会見の主催権は3つの記者クラブが合同で持っていま した。スポーツ新聞の人は前日に記者クラブに言って了解を得なければ,私の 会見に出席できなかったわけです。『赤旗』や『聖教新聞』といった政党や宗 教団体の新聞は申請しても入室が認められていませんでした。しかし,しゃべ るのは私です。私は県民から選ばれた公人です。なぜ,公人の会見に出席でき ない人がいるのかということです。その点を私は記者クラブに対して,再三申 し上げてきましたが,検討するというばかりでした。ですから,私は「脱・記 者クラブ宣言」を出したというわけです》

5 表現者はみんな平等

作家や市民運動家としての活動で,田中氏は「記者クラブ」が公的情報の自 由な流れを妨害し,市民の知る権利を制約していることを熟知していた。2000 年10月に知事に就任したとき,長野県の本庁舎の中には,一番歴史の古い信 濃毎日新聞,全国紙,通信社,テレビが入っている「県政記者クラブ」のほ か,地元の業界紙などが入る「県政専門紙記者クラブ」,地域紙などの「県政 記者会」という3つの記者クラブがあった。知事の会見はこれら3つの記者ク ラブが共同で主催していた。県の部課長や各種団体の会見は県政記者クラブの 会見場で行われ,2つのクラブは排除されていた。松本市の市民が会見したと きに,松本市内で最もよく読まれている「市民タイムス」という新聞の記者が 会見に参加できず,同紙のために改めて会見しなければならなかった。

田中氏は知事就任後,スポーツ新聞や日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」や 創価学会機関紙「聖教新聞」やウエブサイトで表現活動をしている人も会見に 入れるようにしようと繰り返し提案していた。公人である知事の会見に出席で きない人がいるのはおかしいという考えだった。田中氏の再三にわたる呼び掛 けに対し,記者クラブ側は「検討する」と役人のような態度しか示さなかっ た。そこで,田中氏は「脱・記者クラブ」宣言を出したのだ。

宣言によると,長野県庁内の3つの記者クラブがあった記者室の総面積は

263・49平方メートルあり,これらの部屋だけでなく駐車場も含め無賃で占有

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してきた。電気,冷暖房,清掃,ガス,水道,下水道の管理経費,クラブに配 属されていた職員の賃金も県民の血税から支払われていた。推計での総額は年 間1500万円の税金が使われていた。

岩瀬達哉著『新聞が面白くない理由』(講談社文庫)によると,「記者クラ ブ」に対するそれぞれの役所の経済的な便宜供与は,全国紙一社当たりで約5 億3000万円に上ると推定されるという。

6 他の自治体は記者クラブ擁護

マスコミ記者は,彼や彼女自身が市民でもあり,市民の知る権利にこたえて 取材・報道の仕事をしているだけで,何の特権もないはずだ。だから民主主義 の時代に,記者クラブ解体は当然のことである。

しかし,大マスコミがこんなにおいしい特権を簡単に手放すわけがない。ま たクラブを使っている権力者もクラブを手放さない。だから宣言は広がらなか った。

同じ長野県内の市長たちはクラブの存続を表明。県外でも,「改革」を常に 唱える石原慎太郎・東京都知事は「(田中知事のような)乱暴なこと申しませ ん」とコメント。彼は記者クラブの本質を全く知らない。石原知事は田中氏の

「脱・記者クラブ」宣言の後,加盟社から部屋などの使用料を徴収すると思い つきで発言したが,すぐに撤回。ところが,東京都庁にある都庁記者クラブ加 盟の常駐社は都との協定に従い,2002年年10月から各社のブースの専有面積

(平均約30平方メートル)に応じて,光熱費,水道料金,清掃料などを支払っ ている。法令に基づく協定ではなく,新聞・通信,放送各社は個別に代表が都 知事と協定を結び,自発的に支払う形式をとっている。マスコミはこの支払い についてほとんど報じていない。

日本新聞協会は,記者室の設置は公的機関による行政の責務として公共目的 のために置くべきだと主張しており,記者室の占有使用にランニングコストを 払うというのは全く理解に苦しむ。一般の表現者とは違って公共性の強い特権 集団「ザ・プレス」を自称する報道機関の自殺行為ではないか。「脱・記者ク

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ラブ」宣言に刺激された試みだろうが,「記者クラブ」の矛盾を深めるだけで ある。

無党派でTBS出身の堂本暁子千葉県知事も,記者クラブの問題点について 詳しくなく,「『記者クラブ制度』も一種の情報公開」などと「記者クラブ」を ヨイショした。彼女はメディア問題を全く理解していない。

7 違法な記者室占拠

記者クラブを外国人に説明するときは,「キシャ・クラブ」(kisha−kurabu, kisha−club)と し か 表 現 し よ う が な い。日 本 新 聞 協 会 の 英 文 ホ ー ム ペ ー ジ

(http : //www.pressnet.or.jp/english/index.htm)も ‘kisha club’ と表現している。

外国にも「記者クラブ」があるという大ウソを言う学者やマスコミ人がいる が,特定の報道機関に属する記者たちだけで構成する記者集団が法手続きを経 ず,公共施設を独占使用し,その集団以外の記者を完全に排除している国は日 韓両国以外にない。韓国に記者クラブがあるのは,日本帝国主義による強制占 領のなごりで,いま解体のプロセスにある。キシャ・クラブは日本独特の制度 なのだ。

明治時代に生まれた「記者クラブ」は記者たちが権力に情報を開示させる連 帯の拠点だったが,戦時体制に入った1941年にクラブの自治が禁止された。

治安維持法下に現在の「記者クラブ」が定着し,戦後も米軍が「記者クラブ体 制」を日本統治の手段に使うため存続させて今日に至っている。

日本の「記者クラブ」は読売,朝日,毎日などの大新聞社とブロック・地方 紙,共同通信などの通信社,NHK,民放局などのマスコミ企業でつくる日本 新聞協会の加盟社,または,これに準ずる報道機関から派遣され,クラブに常 駐できる記者で構成される。「記者クラブ」のメンバーになれるかどうかはク ラブが決める。「これに準ずる」かどうかは新聞協会メンバーが決めるのだ。

「国民の『知る権利』にこたえる報道機関」(「ザ・プレス」と称している)に は記者クラブを使う特権があるというのだ。

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8 ほかの団体なら強制排除

「記者クラブ」はどんなものかをわかりやすいたとえ話にしてみよう。公立 図書館が完成した直後に,図書館によく出入りしている人たちが「読書クラ ブ」をつくって,図書館長とかけあって,図書館の中にある部屋を占有し「読 書クラブ」の看板を出して,「クラブ・メンバー以外は入れない」と宣言し,

実際にクラブ員以外の利用者には使わせない。冷暖房完備の「読書クラブ」室 の使用料はただ。クラブ員専用の机,イスが用意され,電話,ファクス,コピ ー機,冷蔵庫,休憩室なども完備していて,公務員である図書館員がクラブ員 の世話をするために1人派遣されている。

クラブに入会を希望できるのは,本を読むことによって社会に貢献する日本 読書協会の会員で,かつ週最低5回は図書館に顔を出す読書常習者であり,ク ラブ総会で承認されなければならない。

もっと簡単に言えば,組織暴力団に所属するやくざの人たちが,「任侠道」

を掲げて,勝手に公園や役所の建物の一部を占有して活動をしているというの と構造的には何も変わらない。日本のマスコミ企業に人権を侵害された人たち は,「日本の大新聞は暴力団以下だ」とよく言うが,暴力団だってこんな乱暴 なことはしない。和歌山毒入りカレー事件の被告人の女性の自宅を殺人の逮捕 の4カ月も前から包囲するような集団取材による暴力も同じだが,もし,「報 道」以外の団体なら,警察が出動して強制的に排除するだろう。

マスコミ企業の記者たちは,ほとんどがいわゆる有名大学を出ており,社会 的地位も高いので,暴力団とは違うと考える人もいるかもしれないが,「記者 クラブ」がやっていることを構造的に見ればそうなるのだ。

1996年に鎌倉市の竹内謙・前市長(元朝日新聞記者)が記者室を廃止して 広報メディアセンターを設置したが,センター利用者をマスコミに限ってお り,不十分だった。この点については『無責任なマスメディア』(山口正紀氏 との共編,現代人文社)の拙稿を参照してほしい。

田中氏の「脱・記者クラブ」宣言は,日本で初めての記者クラブ完全解体の 実行であり,快挙というほかない。宣言は,「須(すべから)く表現活動は,

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一人ひとりの個人に立脚すべきなのだ」とうたい,雑誌,ミニコミ,インター ネットなどで情報を発信する市民すべてを「表現者」とみなし,県庁内に「表 現者センター」を設けた。大マスコミに何の特権も認めないと言い切っている のがすばらしい。

マスコミ記者は,彼や彼女自身が市民でもあり,市民の知る権利にこたえて 取材・報道の仕事をしているだけで,何の特権もないはずだ。だから民主主義 の時代に,記者クラブ解体は当然のことである。

ニューヨーク・タイムズのハワード・フレンチ東京支局長は2002年2月4 日,新聞協会などの記者クラブ新見解を読んで,《日本のメディアにとって最 も深刻な問題の一つは,権力に対して挑戦したり,独立した立場で調査するこ とに緩慢であることだ。記者クラブはすべて廃止すべきだ。時代錯誤記者のク ラブは,よきジャーナリズムにとって存在理由が全くない。健全な競争とアグ レッシブな報道に有害である》と私に述べた。同感である。

9 記者クラブが宣言に反対

3つの記者クラブは,宣言について公式に態度を表明しなかった。宣言の中 には,記者クラブを記者室から2001年6月末に撤退させると明記されていた が,これについて反対するという姿勢も示さなかった。記者クラブが最もこだ わったのは,クラブでの会見の開催権の問題だった。記者クラブ側は県と,ク ラブの代わりにできる表現センターをどう整備するかについて話し合ってい た。県側は,開催権で調整ができれば,宣言を実現できると見ていた。

ところが,県政記者クラブは2001年6月21日に発表した《「『脱・記者クラ ブ』宣言」に対する見解》の中で,「報道の根幹かかわる問題を含んでいるに もかかわらず,何の意見交換もないまま,突然一方的に出された。日々の取材 活動に大きな支障をきたす恐れがあり,このまま受け入れることはできない」

と反対を表明した。

しかし,3つの記者クラブのメンバー全員は,同年6月末,それぞれの記者 クラブがあった記者室からおとなしく退去した。「記者クラブ」は「国民の知

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る権利」に応えるために不可欠と主張しながら,何の抵抗もせずに記者室を明 け渡したのである。宣言が不当と考えるなら,権力犯罪ということには,居座 って法廷闘争も辞さずに抵抗すべきではないか。鎌倉市が記者クラブを撤廃し たときは,記者クラブは新たに設置された広報メディアセンターへの登録を1 年前後にわたって拒否して抵抗した。

10 県議と守旧派記者がつぶした「表現センター」

田中氏の宣言では,県庁3階の県政記者クラブが占有していた記者室(194

・4平方メートル)の後に,情報を発信する市民すべてを「表現者」が利用で きる「表現センター」(当初はプレスセンター,表現道場,表現者センターな どと呼んでいた)を設置。また,1階にあった県政記者会の部屋(38.85平方 メートル)を執筆場所の「表現工房」(ワーキングルーム)にして,2階にあ った県政専門紙記者クラブが使っていた空間(30・24平方メートル)に荷物 置場の「表現倉庫」を開設する予定だった。

しかし,記者クラブと県議会の反対でいまだに実現できていない。このため 記者クラブ解体後に,県庁5階の会議室につくった仮設の表現センターが使わ れており,300人の表現者が参加した7月15日の田中氏の「失職会見」もそ こで行われた。東京の新聞,テレビ企業はほとんど報じていないが,《開かれ た県政改革という理念からこの日の会見には約30人の一般市民も参加し,知 事に拍手を送った》(スポーツニッポン)という。

長野県庁の「表現センター」がうまく運用すれば全国に波及するはずだっ た。だから「記者クラブ」守旧派の人たちは,表現センターの設置を妨害し た。その経緯を見てみよう。

田中知事の「脱・記者クラブ宣言」は,「須く表現活動は,一人ひとりの個 人に立脚すべきなのだ」とうたい,雑誌,ミニコミ,インターネットなどで情 報を発信する市民すべてを「表現者」とみなし,県庁内に「表現者センター」

を設け,そこで記者会見などを行っている。

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《「脱・記者クラブ宣言」によって,私の会見には誰でも出席できるようにな りました。春休みなどには小学生も来ます。高校生が来て質問することもあり ます。すべての人を私は表現者と呼んでいます。それに対して記者クラブに属 している人たちは,すべての人を表現者としてひとくくりにするのはおかしい と言い出しました。しかし,プロフェッショナルとアマチュアがいるとして,

プロフェッショナルが本当にアマチュアよりも優れていたんでしょうか?福田 官房長官の「非核三原則」をめぐる発言を報じた新聞やテレビは 政府首脳 という言い方をしました。政府首脳が懇談会の場でオフレコにしてくれと言っ たから政府首脳と書いたそうです。じゃあ仮に福田氏が「これはオフレコだ が,明後日,日本がアメリカに,あるいは中国に戦争をしかけるぞ」と言った 時にも報じないんですか?報じたとしても 政府首脳の発言 としてボカすの ですか?そもそも安倍官房副長官が早稲田での講演で「法理論と政策論は別だ が,核兵器の使用は憲法上,問題ない」と発言したのを報じたのは「サンデー 毎日」だけ,雑誌だけでした。日本が核武装可能だと言っているのにです。新 聞やテレビの番記者も付いて行ってたであろうに。一体,何しについて行った のかと。国会だろうが大学の講演だろうが,公人が吐く言葉はすべて公の言葉 です。その言葉が国民益,市民益にどう影響するのかという観点から報ずるべ きことを報じてこそ初めて意義があるのです。そんなことすらできなくて,何 がプロフェッショナルですか》

11 二度も否決された表現センター予算

田中知事は表現センターをつくるため,2001年6月の定例県議会の総務警 察委員会(10人)に改装費約3000万円を提案したが全員一致で予算案から削 除され,本会議でも共産党が知事提案に賛成しただけで修正案が可決された。

知事は9月の定例県議会にも約1800万円に減額して再提案したが,再び削 除され,結局表現センターは県庁五階の会議室に仮設でつくられたままとなっ ている。県側は表現センターの設置をあきらめ,記者室のあった3つの部屋 は,県庁の事務室として使われることになった。

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県議側は「無駄に他ならない」と指摘したほか,《「知事の「脱・記者クラ ブ」宣言に記者クラブ側がいまだに合意しておらず,適切なプロセスで進めら れたとは言い難い。記者クラブ側と十分に協議すべきだ》(01年7月7日の毎 日新聞,朝日新聞)などと反対の理由を説明している。

田中氏は表現センターの予算が二度否決されたことに関して,その際,NHK 長野放送局のN記者(県政担当キャップ)らが県議会議員に予算案に反対す るように要請したと田中氏は雑誌に書いており,私のインタビューでも強く批 判した。田中知事がN記者の言動についてさまざまな機会に非難したとこ ろ,それを知ったNHK長野放送局側が県庁に対し,「そういうことを言わな いでほしい」と言ってきたそうだ。NHK側は田中氏本人には何も言ってきて いないという。

共産党以外の会派の県議が全員,表現センターに反対したのはあまりにも不 自然だと思っていたが,大手メディアの記者たちが,反対するように働き掛け ていたとすれば大問題だ。

《浅野 県に3つあった記者クラブの場所を使って「表現センター」を作るこ とを提案しながらも,県議会が予算を認めず,いまだに実現していないことを どう思いますか。

田中氏 ブロードバンドで常時接続できるようにしてさしあげましょうと,無 料のお茶を飲む場所も作ってあげましょうと,テレビの回線コードも下に引い てあげましょうと僕は言った。本来ならばマスメディア側も喜んで,議員らに そのことを認めてくれと言いに行くのかと思っていた。ロビー活動のように。

ところが逆に,幾人かの記者たちは,このような予算を通さないでくれと言い に行ったらしいんです。驚きました。表現センターの充実を望んでいなかった のかと。利用者が望んでないんだったら,税金を使う必要はないんです。それ だけの話です。

浅野 個々の記者は表現センターができたほうがよかったと絶対思っている はずですし,実際に記者クラブがなくなって困ることは何もないし,足を使っ

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て取材するようになったと言っています。

田中氏 じゃあなぜ個々の記者が自発的に署名を集めないんですか?支局長 クラスが田中がけしからんと言ってるから集められない。そんな意気地なしで 記者を続けていちゃいけないよ。そんな意気地なしだったら,フリーターの子 たちのほうがよっぽどアルバイト先でも機転が利きますよ。意気地なしで,何 で表現者ですか。

浅野 全く同感です。NHKのN氏の言動について,調査します。》

田中氏は「SPA!」2001年7月18日号(7月11日発売)で,次のように書 いていた。

《「『脱・記者クラブ』宣言」に基づき会見場所の「表現道場」,執筆場所の

「表現工房」,荷物置場の「表現倉庫」を開設するべく提出の予算案も,同様に 葬り去られました。「無駄」に他ならぬ,との事由を以て。

慨嘆すべきは公共放送が身上のNHKを筆頭に,公平なる報道を社是に掲げ る複数の長野県政記者クラブ加盟社の人間が,予算案「否決」を求める「根回 し」を,共産党を除く県議らに行っていた事実です。併せて,中島史恵嬢との 午後8時過ぎからの県知事室での対談を,県政会所属現職県議会議員の令嬢,

との説明を敢えて省く報道振りも又。いやはや,県民不在の「神聖なる議場」

での紛議に相応しき「高邁なる報道」の営為と評すべきなのかな。

長野県政記者クラブ室跡に開設予定の「表現道場」予算案が県議会で否決さ れたのに伴い,仮設「表現道場」を5階に開設。原則週1回の1時間に亘る知 事会見。更には県民のみならず広く市民の方々も会見開催可能》

12 「根回しはしていない」とNHKキャップ

N記者は県政担当のキャップでデスククラスの記者だ。50歳代のようで,

長野勤務は2度目。県が提案した表現センターの改装予算案が2001年に長野 県議会総務警察委員会で二度否決された裏に,NHKの県政キャップが県議会 議員に予算案に反対するように要請したという事実があれば大問題だ。

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N記者は7月12日,私の電話取材に対して,「私を含め予算に反対するよ う議員に働き掛けるようなことはあり得ない。当時の政策秘書室長に抗議して いる」と述べ,田中知事の指摘を否定した。

《知事は2001年の6月定例議会が終わったあとに,連載している雑誌に,

「公共放送の県政担当記者が県議会議員たちに働き掛けて予算が通らなかった」

と書いた。

当時は記者クラブ問題,表現者道場の改装予算は一つの焦点だったので,も ちろん県議に取材はした。議員に表現道場の予算について質問されたことはあ る。県政記者クラブは6月21日に見解を発表していたので,そのことについ て県議に聞かれたこともある。しかし,私も含めクラブの記者が,予算を通さ ないようにとかの働きかけをすることは絶対ない。根回しなどするはずがな い。

県議の人たちも,誰かの働きかけがあって反対したわけではないと言ってい る。

この雑誌記事について,NHKとして正式に抗議することになり,首都圏セ ンターの上滝・担当部長と私が青山篤司政策秘書室長(現,総務部長)に会っ て,口頭で抗議した。

こういう話は泥仕合になる。言った言わないの世界に入り込むので,それ以 上の対応はしなかった。知事はもう一回雑誌に同じことを書いた。まだそうい うことを言っているのかと驚いている。

長野放送局幹部がパーティかなんかで知事に会った時に,「うちの記者はそ んなことを言っていませんよ」などと言ったことはあったかもしれないが,私 は知らない。いずれにせよ,そういうことがあったとしてもそれはフォーマル なものではないと思う。

NHKは中継用の放送機材などを置く場所がなくなったとして,県庁近くの 貸しビルを借りている。N記者は「表現センターでは,あるスペースを占有 使用することができないので,固定回線を入れることができない。センターは

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機材などを固定することを認めない。これでは災害などの時に困る」と話し た。NHKや地元民放局が中継用の機材を置く必要があれば,県に要求すれば いいと思う。県民が判断すると知事は言っていたのだから,報道機関の要望に 正当な理由があれば受け入れたはずだ。新聞協会加盟の報道機関だけが占有し ていることに問題があるのだから。

「記者クラブが反対しているから」という全くふざけた理由で予算を認めな かった県会議員は議員失格だ。知事は,記者クラブをなくそうと言っていたわ けで,記者クラブが反対したというのは理由にならない。

週刊プレイボーイの岩瀬朗・副編集長が6月下旬に電話で長野放送局に事実 確認を求めたところ,放送部の小林さんという人から,雑誌の校了寸前の7月 中旬,「そのような事実は一切ない」という連絡があったという。

私は原稿を書くに当たって,7月25日,NHK長野放送局に電話してNHK 広報局を通して聞くべきかどうか訪ねたところ,電話に出た放送部の細田修二 デスクに宛てて質問書を送るように言われたので,以下の8点について聞い た。必ずしも東京の広報を通す必要はなく,長野で答えられれば対応できると いうことだった。

この時点では,NHK長野放送局から岩瀬副編集長に回答があったことを知 らなかった。

《1 N氏がこうした言動をしたという事実はありますか。

2 田中知事(当時)が6月定例議会が終わったあと,雑誌に「公共放送の 県政担当記者が県議会議員たちに働き掛けて予算が通らなかった」などと書 き,また度々批判したことに対して,NHKとして正式に抗議することにな り,首都圏センターの上滝・担当部長と中村記者が青山篤司・政策秘書室長

(現,総務部長)に会って,口頭で抗議したという事実はありますか。

3 昨年6月21日の長野県政記者クラブの見解にNHKは今も賛成ですか。

4 表現センターの改装はしたほうがよかったと思いますか。

5 NHK長野放送局長が知事に,「うちの記者はそんなことを言っていませ

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んよ」などと言ったことはありますか。

6 昨年6月から10月ごろまでのNHK長野放送局長のフルネームを教えて ください。転勤されている場合は現職も教えてください。また,現在の長野放 送局長はどなたでしょうか。

7 NHKは記者クラブにあった中継用の放送機材などを県庁近くの貸しビル を借りて置いていると聞きました。その事務所の住所,家賃などを教えてくだ さい。

8 脱「記者クラブ」宣言について,いまどう考えていますか。

「創」9月号に書いていますので,明日26日午後5時までに回答ください。

以上,よろしくお願いします。》

細田デスクからは何の連絡もなく,NHK広報局経営広報部から26日午後4 時すぎ,次のような回答があった。長野放送局からから東京の広報に回ったよ うだ。

一枚目のNHKのロゴ入りの送信票の《担当》の右にある下線のところは空 欄になっていた。二枚目の回答者の末尾には「NHK広報局」とあるだけで,

役職,姓名はない。警察・検察などの一部役所のやり方である。

《NHK長野放送局あてにファックスをいただいた件についてお返事します。

まず,長野県の田中知事へのインタビューをめぐる,週刊プレイボーイの岩 瀬氏からの取材について,「NHKからの返事がなかったようだ」と記述されて いました。他の社との取材に関することなので,本来,申し上げる筋ではあり ませんが,岩瀬氏からの取材に対しては,電話で,NHKの担当記者が県議会 議員たちに予算案に反対するよう働きかけたことは一切ないと,はっきり回答 しています。

また,1から8までの質問についてですが,これまで,浅野さんからの取材 申し込みについて,誠意を持ってお答えしてまいりましたが,掲載された記事 等を拝見すると,残念ながら,必ずしも私どもの真意が伝えられないことが

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多々ありました。

したがって,今回の申し込みについては,回答いたしかねます。

NHK広報局》

私はすぐに次のような手書きのファックスを送った。

《fax拝受しました。手書きのfaxで失礼します。7月26日付のfaxでご回答 の担当者のところが空欄になっています。「NHK広報局」のどなたのご回答で しょうか。

他の報道機関は回答に,担当者などの姓名,役職が明記されています。

また「これまで,浅野さんからの取材申し込みについて,誠意を持ってお答 えしてまいりましたが,掲載された記事等を拝見すると,残念ながら,必ずし も私どもの真意が伝えられないことが多々ありました」という部分の根拠を具 体的にお示し下さい。私はNHKから,そのような指摘を受けたことがありま せん。

同志社大教授・NHK受信契約者 浅野健一》

田中氏の様々な政策には賛否両論があるだろうが,「記者クラブ解体」は税 金を納める市民にとって何の弊害もない。

私が長野放送局長の姓名を聞いたのは,電話に出たNHK職員(複数)が局 長の姓名を知らず,「それも今から送ってくれる質問書の中に書いてほしい」

と言ったからだ。公人中の公人たるNHK長野放送局長の姓名を「答えない」

というその体質に強い違和感を持つ。

NHK広報局は月刊「創」(創出版)での和歌山毒カレー事件での私の記述な どを理由に,「取材拒否」を一時行っていたが,「真意が伝えられない」という 説明はなかった。私の論評内容が気に入らないようだった。

長野放送局の姓名を私に回答すると,「真意が伝えられない」ことがあると 本気で思っているのだろうか。

NHK長野放送局長が田中氏にこの件で何かを言ったという事実はないよう

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だ。

N記者を含めNHK当局者は知事になぜ直接抗議しないのだろうか。雑誌の 責任者にも文書で抗議して反論の場を要求すべきだと思う。本誌68, 69号で 書いたように,NHKとNHKの元ジャカルタ支局長は私もかかわった「現代」

2000年10月号の記事をめぐり,講談社と「現代」編集長を相手に1億2000 万円を請求する名誉毀損訴訟を起こしているのだ。

NHK記者が表現センターの予算に反対するよう働き掛けたかどうかは,文 字通り,水掛け論で終わるだろうが,状況証拠はいっぱいある。県民にとって 何のマイナスもない予算が削られたのは,あまりにも不自然だ。

NHKも含め,県政記者クラブは2001年6月に出した見解を変えていない。

いまも「脱・記者クラブ」宣言と表現センター設置に反対ということのよう だ。「記者クラブが反対しているから反対」「記者たちとの合意がない」という 3会派に属する県議たちの言い分を黙認しているのだから,NHKをはじめと する報道機関が《表現センター予算案「否決」を求める「根回し」》を今もし ていることになる。県政記者クラブは同年6月末に記者室から全面撤退した後 も存在しており,信濃毎日新聞,日本経済新聞,信越放送,時事通信の4社が 4月から9月まで幹事社を務めている。県政記者クラブはただちに総会を開い て,「脱・記者クラブ」宣言と表現センターについての現在の見解をまとめる べきである。

第2章 記者クラブと御用学者

1 県政記者クラブの「検討」はウソ

共産党県議団団長の石坂千穂県議は「県政会の議員もマスコミ記者も,知事 の理念を理解していない。県議会を支配する県政会などの県議たちは,マスコ ミに自分たちの主張を取り上げてもらっているので,クラブと一体なのだと思 う。ある県議が『公共事業を見直すと,長野に来るべきお金が隣の新潟県に流 れてしまう』という子どもだましのようなことを言ったことがあるが,NHK

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はそれをテレビで紹介していた。NHKだけではないが,マスコミは保守系県 議側に偏った報道をしている。我々の言い分はほとんど出ない。ダム問題で も,地元経済への影響を強調している。民放テレビ局が住民の世論調査をした りして公平な報道に務めているのと対照的だ」と語っている。

石坂議員は「記者クラブの見解で,『加盟社以外の出席要請に可能なかぎり 応じてきた』というのはウソだ。共産党県委員会の記者クラブでの発表に『赤 旗』は入れない。何度も出席要請をしてきたが,クラブは検討も了承も一度も したことがない」と指摘した。そのうえで,「現在の表現センターは,県に届 けるだけで,誰でも会見を開ける。表現者は誰でも出られる。何の問題もなく 運営されている。当初,記者室そのものがなくなると誤解している市町村もあ ったが,廃止されたのは記者クラブだと分かってきた。パソコンの端末などを 用意する表現センターができなくなったのは実に残念だ」と述べている。

私が千葉県政記者会にいた1970年代後半でも,クラブでの会見に赤旗記者 を入れることぐらいはしていた。何という時代錯誤かと思う。

田中氏の知事就任以降,県庁で秘書課長・政策秘書室長・総務部長を務め,

報道関係者との対応を担当してきた青山総務部長によると,3つの記者クラブ は当初,記者クラブのあった部屋からの撤退について反対せず,宣言のいう表 現センターをどうするかに関心があった。青山氏は2001年6月上旬,政策秘 書室長として,3つの記者クラブに対し,表現センターに関する話し合いの場 を持つことを提案して,何度かクラブ側と協議している。記者クラブ側からは

「実際に記事を送るときに使う電話やファクスなどの機器の設置」や「災害な ど緊急時の連絡方法」など具体的な要望が出て,それらをもとにセンター整備 予算を組んだという。

青山氏は「宣言が突然出たという記者の方々の不満は理解できるが,クラブ から撤退することについては同意があったと県は理解していた。宣言の意味す ることはわかってくれ,表現センターをいいものにするための協議をしてい た。そこへ突然,6・21声明が出た。

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表現センターをつくるために旧クラブ側の意向を十分に入れて予算を提案し たのに,宣言に反対する立場になったのは残念だ。これで,県議の人たちが,

県政記者クラブの6・21声明をもとにして,『記者の皆さんとの合意がない』

ということなどを理由にセンター整備予算が通らなかった。記者の人たちか ら,宣言と宣言に基づいてつくる表現センターに関する意見を聞いた県議の人 もいると思う」と述べている。

青山氏は会見の開催権について,「表現センターでは誰でも届けさせすれば 会見できる。認可制ではない。届けてもらうのは,それなりの準備が必要で,

会見を制限するつもりは全くないし,実際の運用を見てもらえばわかる」と説 明した。

表現センターは公共の建物の中にあるのだから,利用者が届けるのは当然だ ろう。

また,NHKが災害時などのために放送機材を固定する必要があると述べて いる点については,「災害などのときにどうするかは,ある放送局がどうとい うことにとどまらず,県として放送メディアをはじめ報道機関も含め広報体制 を敷くかは重要な課題であり,対応している」と語った。

県側はNHKを含め大手マスコミ企業との調整を目指しているのであり,県 政記者クラブは,市民に見えるところで,正々堂々と要求を掲げて,「県との 合意」を目指すべきではないだろうか。

2 「マスコミ用心棒」学者の迷走

「宣言」に対し批判的な報道機関や学者たちがこだわるのも,それまで記者 クラブの主催であった知事の記者会見を県主催に変更した点だ。「会見を県が 主催するというのはとんでもない発想。権力者の自覚に欠けている」「会見を 県が主催するというのはとんでもない発想。宣言は国民の知る権利の妨害であ り,現場の記者がこれに断固反対しなければ,メディアはますます見くびられ る」(桂敬一・東京情報大学教授・2001年5月16日の産経新聞長野版)とま で述べる学者もいる。

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しかし,「記者クラブ」は市民の知る権利を制限し,表現者の取材を妨害し ているのだから,そんないかがわしい組織に開催権があったことのほうがおか しいのだ。

また,今までも記者クラブの主催だったと言っても,行政側が広報機関とと らえる記者クラブに対して会見してきたのだ。

長野県庁の建物の中には,長野県警本部も入っており,県警を取材する「長 野県司法記者会」がある。県警本部側の会見の主催権はすべて県警側にあって クラブにはないが,クラブがこれに抗議し,改善を求めたという話は聞かな い。司法記者会では,弁護士や市民活動家による県警を批判するような記者発 表はできない。

《知事会見は現在,長野県が主催しています。それに対して彼らは当初,県 が主催では言論の自由が守れないと言いました。そうではないということで す。長野県ではすべての人が,誰もがいつでもどこでも発言ができ行動ができ る県にしていくということを行っているわけです。行政が行うことのすべて は,市民によって判断されなければならないのです。仮にクラブが主催だとし て私がどうしても緊急に会見を開きたいと言った場合,クラブはそれを拒める わけですね。そしてクラブが拒んだら私は次ぎの定例会見まで喋れない。で も,そのクラブ側が拒んだ事実は誰も報じないということです。他方,長野県 では天変地異があったり,緊急会見の時は,事前にメールのアドレスとファク スを登録している個人,もしくは報道機関には自動的に連絡するシステムにし てあります。そして私の自宅は公開されていますし,私の携帯電話も公開され ています。私はいつでも夜討ち朝駆けを受けますし,ぶら下がり取材も常に受 けているわけです。であるならば,彼らが会見を開いて欲しいという場合,緊 急に要請してきたときに私がそれはぶら下がりで十分だと,あるいはペーパー を出すだけで十分だと,あるいは翌日定例の会見があるからそこで話せば十分 だと,私は判断します。それに対して彼らは,ペーパーやぶら下がりの10分 だけでは不十分だと思うのならそれを書けばいいんです。報ずればいいわけで

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す。それで,田中知事が会見を開かなかったことを横暴だととらえるか,ぶら 下がりで十分だったととらえるか,すべてを判断するのは市民なのです》

市民の知る権利を制限し,クラブ員以外の表現者による取材を妨害してきた のだから,記者クラブに会見の開催権があったことのほうがおかしいのだ。行 政側が会見を拒否したり,都合の悪い情報を隠したりすれば,表現者が団結し て当局者に抗議すればいい。結局は行政と表現者の力関係で決まるのだ。かつ て米国ではホワイトハウスの記者たちがレーガン大統領の会見を意味がないと ボイコットしたことがあった。表現者センターを使う市民(記者を含む)が知 事などの発表者と協議すればいいだけの話だ。事実,この1年,一般市民30 人が参加した失職会見も含め,何の支障もなく会見は行われている。

《『脱・記者クラブ宣言』から1年経って,新聞協会が(ここはテレビ各局も 入っている団体ですが)述べるようになった内容はほとんど私と同じです。そ して新聞労連は会見の主催権にも,こだわらない方向で模索すると言ってい る。脱・記者クラブ宣言の時にあれだけ騒いだ新聞社は1年経つと私と同じこ とを言ってるではありませんか。いずれにしてもリナックス的社会を目指す私 には,いつでも,どこでも,誰でもインタビューできるんだから。ぶら下がり でも,知事室の前で待ってりゃ話せるんだから,車に乗るまでの間,トイレに 行く間も,どこも閉ざされてないです》

山口正紀氏が「週刊金曜日」で, マスコミ用心棒学者 と呼んだ田島泰彦

・上智大教授は「メディアやジャーナリストと一般市民を『素朴な平等論』で 同じ扱いにしていいのか」と田中氏を批判。「いかがわしい雑誌社が入ってく るなどの混乱も予想される」(今田高俊・東工大教授)という「社会学者」も いた。表現者を差別して当然だというのだからあきれてしまう。田中氏はイン タビューで,田島教授を非常にきつい形容詞で批判した。

「知事が自分に都合のいい情報ばかりを出すことが心配される」と指摘し,

「長野県政の記者クラブはふんどしを締め直して田中知事と対峙してほしい」

(産経新聞)と記者クラブに檄を飛ばした桂敬一・東京情報大学教授の論理も

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破綻した。「ふんどし」とは記者クラブと同様に古くうさんくさい。若い記者 たちはそんな下着など見たこともないだろう。

また「革新」であるはずの新聞労連の元委員長である藤森研・朝日新聞論説 委員や新聞労連法規対策部長の山田健太氏(青山学院大学講師)らは,自分た ちを「ザ・プレス」と規定して,記者クラブには「記者室スペースを占有する 権利,優先取材の権利がある」とまで言うのであった。田中氏は藤森氏の論理 も別の形容詞を使って厳しく批判した。

両氏は田中知事の宣言の意味が全く分かっていない。マスコミ企業に属さな い表現者を差別して当然だというのは暴論であった。

長野の画期的な試みは県内外の役所には広がらなかった。なぜか。永田町と 霞ヶ関に象徴される政治家と官僚は記者クラブで大マスコミの記者たちと馴れ 合いの関係でいたほうが便利だからだ。

3 クラブを広報機関と見る行政

大手マスコミが排他的なクラブをつくるのは自由だ。しかし,特定のマスコ ミ企業だけが税金でつくられている官庁の一室を独占使用する権利は絶対にな い。「報道機関」と「全ての表現者」を同一視するのは間違いだというなら,

「報道機関」だけで官庁街に近い貸しビルの一室を借りて看板を掲げるべきで ある。

実際,東京外国特派員協会(JFCC)は東京・有楽町の駅前ビルの二つの階 を借りている。

「記者クラブ」は公的機関を監視しているというが,最近でも政治家の犯罪 や不祥事はほとんどクラブに属さない雑誌記者によって暴かれてきた。

また官庁は「記者クラブ」を広報機関とみなしている。京都市に住む住民が 京都市と京都府の記者クラブを訴えた裁判で,最高裁は「府は広報活動の一環 として提供しているのであり,行政財産の目的内使用」と認定した。

2001年7月24日の新聞協会報(日本新聞協会発行)によると,同編集部に よるアンケート結果では,「行政側は記者室の設置やそれに伴う諸経費を広報

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活動の一環としてクラブ側に便宜供与している」という。行政側は「広報活動 の一環として記者クラブを運営」「事務,事業の遂行のための目的内使用」(京 都府)「県政情報の適切な広報」(鳥取県)「広報・報道活動の一環として記者 室を設けている。記者室の維持管理にかかる経費は,行政上の経費に含まれ,

本来は便宜供与に当たらないと思われる」(大阪市)などと回答している。

記者クラブがなくなると権力の監視ができなくなるというのだが,行政は広 報活動の一環とみなしているのだ。

4 長野の改革受けて協会,労連が動く

日本新聞協会編集委員会は「記者クラブ」批判の高まりを受けて,2002年1 月17日,「記者クラブ」についての新たな見解をまとめた。4年ぶりの改定だ った。新見解は《記者クラブが主催して行うものの一つに,記者会見がありま す。公的機関が主催する会見を一律に否定するものではないが,運営などが公 的機関の一方的判断によって左右されてしまう危険性をはらんでいます。その 意味で,記者会見を記者クラブが主催するのは重要なことです》としている。

新聞協会の新見解は「記者クラブ」加盟の条件を緩和しているが,加盟条件 にしている新聞倫理綱領の順守などについて,誰がどういう手続きで審査する かは明らかにされていないし,フリーの記者が入会できる可能性はほとんどな いなど問題は多い。しかし,記者クラブの会見開催権にはこだわらないなど,

田中氏の宣言を受けて改革案を示している。新聞協会は元新聞協会職員の桂敬 一教授の見解を否定した。事実上,田中知事の主張を受け入れた形だ。

また,新聞労連も2002年2月8日,独自の記者クラブ改革案を発表した が,記者会見の開催権について,《取材者ならびに記者クラブは,公権力に対 して記者会見を要求できる。また,記者クラブは,市民の「知る権利」に応え るため,公権力に対し記者会見を開かせる役割を果たさなければならない》と 述べ,《国や自治体,政党などの公権力が主催する会見》を認めている。

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5 情けない県議たち

NHKの記者が表現センターの予算に反対するよう働き掛けたかどうかは,

文字通り,水掛け論で終わるだろうが,県政記者クラブのメンバーたちの影響 が大きいように思われる。

委員会の全員が予算に反対し,本会議でも共産党以外の会派はすべて反対し た。予算を通さないように,議員に頼むほうもひどいが,マスコミ記者に言わ れて予算に反対する議員は,もっと情けない。選挙のためには,マスコミにこ びなければならないのかと思う。

表現センターができれば日本における理想的なプレスセンターの誕生となっ たはずだ。

新聞協会や新聞労連は,「開かれた記者クラブ」を目指すと強調している が,記者クラブは排他的な組織だから「記者クラブ」たりえるのであり,「開 放された記者クラブ」はあり得ない。

問われているのは,記者室の「記者クラブ」以外の表現者の使用を拒んでい る現在の仕組みである。成り立ちそのものが不当な「記者クラブ」をいったん 解体して,公的機関を取材するジャーナリスト(表現者)集団の新秩序を作り 出すしかない。田中知事の宣言を全国化する以外に「記者クラブ」問題を解決 する方法はないのである。

長野の1年間の実践で,「記者クラブ」がなくても市民には何の不都合もな いことがはっきりした。「記者クラブがなくなってみんな自分で取材するよう になった。記者の原点に戻ったようでいいと思う」。長野で会った中堅記者は こう評した。

マスコミはマスコミの抱える問題を報道しない。だから市民はマスコミのひ どさを知ることができない。「記者クラブの犯罪」は世の中になかなか伝わら ない。

田中知事の記者クラブ解体は,日本のマスコミを生き返らせることにつなが ることは間違いない。逆に言えば,記者クラブがある限り,日本のマスコミは 権力の広報機関としての機能しか果たせず,インターネット時代に自壊するし

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かなくなるであろう。

表現センターがきれいにできて,表現者がうまく使えることがわかったら,

メディア企業用心棒学者や新聞労連などの「労働組合」(革新政党の影響下に ある)にとって都合が悪いのだと思う。

会見の「開催権」のこじつけも同じだが,長野の実践が成功すれば,永田町 や皇居の記者クラブも存在できなるので,困るのだろう。「キシャ・クラブ」

を解体するとメディア企業の既存の体制が壊れるから怖いのだと思う。解体す る以外に,生き残る道はないのに・・・。

6 画期的な河野義行さん公安委員任命

田中氏の知事としての最後の仕事は,松本サリン事件の被害者で当初,長野 県警による家宅捜索や事情聴取を受けたうえ,メディアによって犯人視報道さ れた会社員の河野義行さんの県公安委員任命式への出席だった。

田中氏が河野さんに公安委員就任を要請するというニュースは最初,ロンド ンで知った。ある報道機関の特派員を訪ねたとき,日本の新聞の衛星版を見せ て,「すばらしいことだ」と言って教えてくれた。

田中氏は「日本の黒い夏」の上映会で河野さんと出会っている。田中知事が 6月定例県議会に提案。一部の保守系県議は「名誉職にふさわしくない」とか

「サリン事件は裁判が続いており,係争中であり不適格」などと反対していた が,知事の不信任案が可決される直前に承認された。河野さんは被害者であ り,裁判が継続中であることは何の関係もない。いままでは名誉職で,警察機 構のモニターを真剣にしてこなかったことが問題なのだ。こういう県議こそ

「資質」に問題があると思う。

河野氏は知事の不信任騒動の最中,「県議会の動き次第では,幻の公安委員 になるかもしれない。でも指名されたということだけでも光栄だ」と私に語っ ていた。

公安委員就任後は,「警察官から流れる非公式情報が,今も堂々と新聞記事 になっている。内部告発など市民のために必要な場合は別だが,公務員が職務

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上知り得た情報を報道機関に漏洩するのは公務員法違反なので,どういう経路 で情報が漏れているかなどをチェックしたい」と抱負を語った。

長野県警の関一・本部長は,7月15日の任命式の前に本部長室を訪れた河 野氏に,「事件の捜査の過程で多大なご迷惑とご心労をおかけしましたことに つき,長野県警察として誠に申し訳なく思っております」と直接,謝罪した。

県警による河野氏への直接の謝罪は初めて。県警の謝罪の事実は,河野氏が19 日に県公安委員の初仕事に就いた際,報道陣に明らかにした。河野氏は「県警 が私に謝罪したことを公表することで,県警も救われるし,私もわだかまりを なくすことができた」と評価している。

河野氏は公安委員就任を機に2002年8月,会社を辞めて,妻澄子さんの介 護と講演・報道活動に専念している。長野県警は河野さんの公安委員就任を契 機に民主化をはかっている。河野氏は県警警察官の賃金の抑制に反対した。河 野氏は2003年1月末,「公安委員会は警察の上にある機構。生命を狙われる危 険性もある。今までと違って内部から警察をみるといろいろ勉強になる。これ からもしっかり警察のため,県民のため仕事をしたい」と語った。

放送界は1997年5月に「放送と人権等権利に関する委員会機構」(BRO)

を設立し,新聞・通信各社も2000年末から社内に,「第三者」委員を入れた苦 情対応機関を相次いでつくっているが,メディアを監視する市民=読者代表の 委員として一番いいのは河野さんだと思っていたが,どこの報道機関もやらな かった。政府の審議会や大相撲の横綱審議会のメンバーと同じような顔ぶれ だ。知事の卓越したアイデアで警察が一足先に自浄能力を示した。メディアは 猛省すべきだ。

田中氏は私の質問にこう答えた。

《浅野 昨年,宣言の直後に東京の外国特派員協会で講演されましたが,外 国の記者の考えはどうでしたか。

アメリカだって記者クラブ証というのはアメリカの政府が出してるわけだ。

だから僕の主催権がおかしいというのだったら,新聞やテレビはアメリカの大

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