ツリー・モデル
著者 久保 徳次郎
雑誌名 經濟學論叢
巻 65
号 4
ページ 685‑716
発行年 2014‑03‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/00027425
マルチ資産オプションの数値計算法
―多次元 2 項ツリー・モデル―
久 保 徳 次 郎
1 は じ め に
周知のように,Black-Sholes(以下ではBSと略す)モデルはさまざまな形で 拡張されてきたが,本稿では,とくにBSモデルのマルチ資産モデルへの拡 張に焦点を当てて考察を行うことにする1).
マルチ資産の場合のBSモデルの数値計算法としては,Boyle (1977)に始ま るモンテカルロ法がよく知られており,この計算法はエキゾチック・オプショ ンのヨーロピアン型の価格評価を行う際には極めて強力である.しかしなが ら,アメリカン型のエキゾチック・オプションに関しては,その適用が非常 に困難な場合が多いと言える.例えば,モンテカルロ法の代表的な研究とし てLongstaff and Schwartz (2001)が挙げられるが,この計算法は最小2乗法を 使うため資産価格の間に相関がある場合には適用することができない2). 他方,Cox, Ross and Rubinstein (1979)の2項ツリー・モデルを2資産の場 合に拡張した代表的な研究としては,Boyle, Evnine and Gibbs (1989)(以下で はBEGと略す.),Kamrad and Ritchken (1991)(以下ではKRと略す.),Rubinstein
(1994)の3つを挙げることができる.2資産の場合,2つの資産価格をS1と
S2,資産価格の上昇の場合をu,下落の場合をdとそれぞれ表すと,BEG法 とRubinstein法では,任意の結節点(node)からの分枝がuu,ud,du,dd
1) 資産が多数の場合の一般的なBSモデルに関しては,例えばCheyette (1990),Kwok (1998)な どを参照.
2) モンテカルロ法によるオプション価格評価に関するプログラム例に関しては,例えばWebber
(2011), Wilmott (2006)などを参照.
の4つのパターンをとる4ジャンプ・ツリー・モデルが用いられている(例えば,
udはS1の上昇とS2の下落の組合せを,duはS1の下落とS2の上昇の組合せをそれ ぞれ表す.)3).これに対して,KR法では,価格の変動がない場合をmと表すと,
2資産ともに価格変動がない場合のmmを加えたuu,ud,du,dd,mmの 5ジャンプ・ツリー・モデルが用いられており,4ジャンプ・ツリー・モデル よりも滑らかに連続モデルの解へと収束することが示されている.
2資産の場合の数値計算に関しては,これら3つの2項ツリー・モデルに はそれぞれ長所と短所があり優劣を付けがたい面があるが,3資産以上に拡 張する場合は,プログラム作成上の観点からは,比較的容易な拡張性をもっ たBEG法が優れていると言える.そこで本稿では,このBEG法を3資産 以上に拡張した多次元2項ツリー・モデルについて考察を行い,Visual Basic 2012によるプログラム例を提示することにする.
本稿の構成は次の通りである.まず第2節では,BSモデルをマルチ資産モ デルに拡張する場合の理論的な考察を行う.第3節では,解析解のえられな いアメリカン型のマルチ資産オプションを数値計算するために,BEG法を3 資産以上の場合へと拡張し,そのアルゴリズムについて検討を加える.ただし,
本稿では,マルチ資産オプションの例として,「複数の資産の中で最大または 最小の価格を付けた資産を権利行使の対象とするオプション」を取り挙げる ことにする4).そして第4節では,本稿のまとめを簡単に行うことにする.
2 マルチ資産の場合のヨーロピアン型派生証券
2. 1 マルチ資産の場合のBS方程式
原資産の数をnとする派生証券を考える.派生証券の任意の原資産iの価 格をSi (i=1, 2, ・・・, n)とし,その原資産価格のn次元ベクトルSを
3) 2項ツリー・モデルによる2資産の場合の数値計算プログラムに関しては,BEG法はLevy (2004)で,Rubinstein法はHaug (2007)でそれぞれ紹介されている.
4) 英語では,options on the maximum or the minimum of several assetsなどと呼ばれている代表 的なエキゾチック・オプションの1種である.
S=^S S1, 2,g,SnhT$0
とする.ただし,0はn次元ゼロ・ベクトルである.また,任意の時点をt, 満期時点をTとそれぞれ表し,時間範囲を次のように定める.
0# #t T
任意の資産価格Siの変化率に関しては,次のような確率過程に従うものとす る.
dS Si i=^hi-q dtih +vidwi, i=1 2, ,g,n (1)
ここで,hiは資産iの期待価格変化率(ドリフト),viは資産iのボラティリティ でそれぞれ一定と仮定する.qiは資産iの配当率で,資産価格Siに対して一 定率qiで連続的に配当が支払われるものと仮定する.また,dwiはウィナー 過程で,dwiとdwjの間の相関係数tij(一定と仮定)は,
E dw dw6 i j@=tijdt, i j, =1 2, ,g,n
と計算することができる.ただし,tii=1,tij=tjiである.これは任意の2 つの資産の価格変化率間の相関係数とみなすことができる.
マルチ資産の場合の派生証券価格関数を,
F(S, t)
と表せるものと仮定すると,伊藤の補題より,派生証券価格の変化は次式の ようになる.
F u
u
u u
u u dF F dtt SF dS 21 S S S S dt
i i n
i ij i j i j
j n
i n
i j
1 1 1
2
t v v
= + +
= = =
/ / /
u F uu
u u
u u dF F dtt SF dS 21 S S S S dt
i i n
i ij i j i j
j n
i n
i j
1 1 1
2
t v v
= + +
= = =
/ / /
u (2)また,資産数がnの場合に一般化されたBS方程式は,周知のように,無
リスクとなるようにヘッジされたポートフォリオの作成と無裁定条件とより 次のように求めることができる.
u u
u u
u u u t
F r q Si i SF 21 S S S SF rF 0
i ij i j i j
j n
i n
i n
i j
1 1 1
2
t v v
+ - + - =
=
=
=
^ h
/ /
/
u u
u u
u u u t
F r q Si i SF 21 S S S SF rF 0
i ij i j i j
j n
i n
i n
i j
1 1 1
2
t v v
+ - + - =
=
=
=
^ h
/ /
/
(3)上式より,様々な派生証券価格を求めることができる.以下では,この派 生証券をヨーロピアン型で考えることにしよう.満期時点Tにおけるそのペ イオフ関数をFT(S)と表すと,(3)は,
F^S,Th=FT^Sh (4)
を終期条件(終端条件)とする問題として解くことができる.
2. 2 n次元熱方程式への変換5)
(3),(4)の問題に関しては,(3)をn次元熱方程式に変換して解くことがで きる.以下では,この解法について詳細にみていくことにしよう.まず,
F^S,th=e-r T t] -gf^S,th (5)
を満たす関数f(S, t)を考えると,F(S, t)に関する偏導関数は,
u u
u u t
F rF e t
r T t f
= + - ] -g
u u
u u
SF e S
f
i
r T t i
= - ] -g
u u u
u u u S SF e S S
f
i j
r T t
i j
2
= - ]-g
5) 以下の説明に関しては,Kwok (1998),Zhu et al. (2013) などを参照.
と表すことができ,またt=T時点では,
F^S,Th=f^S,Th
となる.かくして,(3)と(4)のオリジナルの問題は次のように書き換えるこ とができる.
u u
u u
u u u t
f r q S S
f S S S S
f 2
1 0
i i i i
n
ij i j i j j
n
i j
i n
1 1
2
1
t v v
+ - + =
= = =
^ h
/ / /
u u
u u
u u u t
f r q S S
f S S S S
f 2
1 0
i i i i
n
ij i j i j j
n
i j
i n
1 1
2
1
t v v
+ - + =
= = =
^ h
/ / /
(6)f^S,Th=FT^Sh (7)
ここで,次のような変数変換を行うことにしよう.
T t x= -
, , , , ln
xi=# Si+ - -_r qi v2i 2ix-21 2 vi i=1 2 gn , , ,
x=^x x1 2 gxnhT
すると,f(x, x)に関する偏導関数は,
u u
u u
u u t
f f
r q x
2 2 f
i i i
i i n
2 1 2
x 1 v v
=- - - -
=
_ i
/
u u
u u S
f
S x 2 f
i i i i
1 2
=v
u u
u u
u u S
f
S x f
S x
2 2 f
i2 i i i i i i
2
2 1 2
2 2 2
2
v v
=- +
u u , u
u u u S S
f
S S x x
f i j
2
i j i j i j i j
2 2
v v !
=
となる.また,t=Tのとき,x=0,Si=evixiとなり,
, ,
x S
f^ 0 =h f^ Th S FT
= ^ h
, , , F eT 1x1 e 2x2 ge nxn
= ^ v v v h
という関係がえられるので,満期時点のペイオフ関数をF-T(x)とすると,
FrT^xh=F eT_ v1x1 2,ev2x2 2,g,evnxn 2i (8)
と表すことができる.
以上のことから,(6)と(7)の問題は次のように書き換えることができる.
x, x, u
u
u u f u
x x f 2
1
ij i j
j n
i
n 2
1
x 1
x t x
=
=
=
^ h
/ /
^ h (9)f^x,0h=FrT^xh (10)
さらに,(9)を熱方程式へと変形するために,まず次のような相関係数行列 Lを定義する.
(11)
L
1 1
n n 1
n n 21
1 12
2
1 2
h h g g j g
h t
t t
t
t
=
f
tp
この相関係数行列は対称行列なので,直交行列を用いた対角化が可能である.
したがって,Lの固有値をm1, m2, ・・・, mn,そしてこれらの固有値を対角成分 とする対角行列をK=diag(m1, m2, ・・・, mn)とそれぞれ表すと,Lに対しては次 式を満たすような直交行列Aが存在することになる.
K=A-1LA=A LAT
上式より,Lは次のように表すことができる.
L=A AK T
また,資産の価格変化率の分散・共分散行列は正定値行列と通常仮定できる ので,相関係数行列Lも正定値行列となりその固有値はすべて正となる.し たがって,
K=K1 2K1 2
と表されるので,Lとその逆行列は次のように表すことができる.
L=AK1 2K1 2AT L-1=AK-1 2K-1 2AT ここで,記号の簡略化のために,
G
g g
g g g
g
g g
n n g
n n
nn 11
21
1 12 22
2
1 2
h h g g j g
=
f
hp
として,
G=K-1 2AT (12)
とおくと,
GT=AK-1 2 となるので,
L-1=G GT
と表すことができる.L-1L=Iなので,上式よりGTGL=Iとなり,さらにこ れを(GT)-1GTGLGT=(GT)-1IGTとすると,次のような関係をえることがで きる.
GLGT=I (13)
上式の左辺GLGTはn×nの正方行列である.ここで,GLGTの成分をg-ijと おくと,
gij gik ijgjl, i j, 1 2, , ,n
l n
k n
1 1
g
= t =
=
=
r
/ /
(14)と表すことができる.
さらに,次のような変数の線形変換を行うことにする.
y=Gx (15)
ただし,
y=^y y1, 2,g,ynhT
である.(9)の偏微分方程式は,この線形変換された変数を使うと次のように 書き換えることができる.
y, y,
u u
u u f u
g g
y y f 2
1
ki ij lj
k l l
n
k n
j n
i
n 2
1 1 1
x 1
x t x
=
=
=
=
=
^ h
/ /
e/ /
^ ho (16)変数の添え字に関しては,(14)より,
gkl gki klglj, k l, 1 2, , ,n
j n
i n
1 1
g
= t =
=
=
r
/ /
と変更できるので,これを使って(16)を書き換えると,
y, y, u
u
u u f u
g y y f 2
1
kl l
n
k l k
n
1 2
x 1
x x
=
=
=
^ h
/ /
r ^ hとなる.かくして,上式に対して(13)を考慮すると,
y, y, u
u
u f u
y f 2
1
k k n
2 2
x 1
x x
=
=
^ h
/
^ h (17)という結果をえることができる.上式はn次元熱方程式であり,BS方程式が
n次元の場合でも熱方程式に変換可能であるという結論をえる.
また,満期時点のペイオフ関数は,(15)を考慮すると,
f^x,0h=FrT^xh=FrT^G-1yh
と表されるので,F-T(G-1y)を次のようにおくことにする.
FrrT^yh=FrT^G-1yh (18)
ゆえに,(9)と(10)の問題は,(17)と次式を終期条件とする問題に書き換える ことができる.
f^y,0h=FrrT^yh (19)
次に,(17)と(19)の問題を具体的に解いてみることにしよう.x=0(t=T) におけるyをy0と表し,
y0=^y10,y20,g,yn0hT とすると,n次元グリーン関数は,
z y y; , e 4
1 y y y y
0 n 2
T 4
0 0
x = rx - - - x
^ h ^ h ] g] g] g (20)
となる.(20)に関しては,次式が成立することが確かめられる.
f y,x = g z y y0; ,x dy dy10 20gdyn0=1
3 3 3 3 3 3
- - -
^ h
# # #
^ hlimz y y0; ,x =
"3
x ^ h 3, (y=y0のとき)
0, (y!y0のとき)
周知のように,(20)は(17)の基本解となるので,かくして,(17)と(19)の問 題に対する解は次のようになる.
f y,x = g FT y0 z y y0; ,x dy dy10 20gdyn0
3 3 3 3 3 3
- - -
^ h
# # #
rr ^ h ^ h (21)また,(5)より,上式は,
, ; ,
S y y y
F t =e r T t g FT 0 z 0 x dy dy10 20gdyn0
3 3 3 3 3 - - 3
- - -
^ h ] g
# # #
rr ^ h ^ h, ; ,
S y y y
F t =e r T t g FT 0 z 0 x dy dy10 20gdyn0
3 3 3 3 3 - - 3
- - -
^ h ] g
# # #
rr ^ h ^ h; , S y y
e e r T t FT T z by x bx S dSTdST dSnT
0 0
0 1 2
0 0 0 0 T
g x g
= -] -g
#
3#
3#
3 ^ h ^ hS y y; ,
e e r T t F z by x bx S dS dS dS
T T T T nT
0 0
0 1 2
0 0 0 0 T
g x g
= - ]-g
#
3#
3#
3 ^ h ^ hと書き換えることができる6).ただし,
, , , , , , u
b u x x x
y y y
y x n
n
10 20 0
10 20 0
0 0 g
= g
^^
hh , , , , , u
b uS S S
x x x
xS
T T nT
n
1 2
10 20 0
T
0 g
= ^^ g hh
, , , x0=^x10 x20 gxn0hT
, , , ST=^S1T S2T gSnThT
である.ここで,x0はx=0におけるx,STはt=TにおけるSをそれぞれ 表している.また,
G det by x0 0= ^ h
det L 1 2
=" ^ h,-
b 2S
x S i i iT
n 1 2
1
T
0 = v
%
=y=Gx L-1=G GT
ln
xi=# Si+ - -_r qi v2i 2ix-21 2 vi , , , S
FT^ h=F eT_ v1x1 2 ev2x2 2 gevnxn 2i
6) 定積分の下限が-3から0になっているのは,例えばオプションの場合,権利行使による利
益がマイナスとなるとき,その権利はすべて放棄されるので,ペイオフ関数の値もすべて0と なってしまうからある.
なので,ゆえに,これらを考慮しながら上式を整理すると,(3)と(4)のオリ ジナルの問題に対する解は,次のように求めることができる.
FS,t e r T t FT ST H S ST; ,t dS1TdS2T dSnT
0 0
0 g g
= - - 3 3 3
^ h ] g
# # #
^ h ^ h, ; ,
S S S S
F t e r T t FT T H T t dS1TdS2T dSnT
0 0 0
g g
= - - 3 3 3
^ h ] g
# # #
^ h ^ h (22)ただし,
; , ; ,
S S y y
H T t z 0 by x bx S
T
0 0 0
= x
^ h ^ h
L det
e S
4
1 2
n
y y y y
i iT i
n 2
4 1 2 1 2
1
T
0 0
rx v
= - - - x -
^ h ] g] g] g" ^ h,
%
=L
det S e
2
1 x x G G x x
n i i iT
2 1 2 n
1
T T 4
0 0
rx v
= x
=
- - -
^ h " ^ h, `
%
j ] g ] g] gdetL S e
2
1 w L w
n
i iT i
2 1 2 n
1
2
T 1
rx v
=
=
- -
^ h " ^ h, `
%
j, , , w=^w w1 2 gwnhT
, , , , ln ln
w S S r q
i n
2 1 2
i
i
iT i i i2
v x g
v x
= - + - -
_ i =
# -
である.
BS方程式(3)は,終期条件(4),すなわち満期時点におけるペイオフ関数 をどのように特定化するかによって,さまざまなヨーロピアン型のデリバティ ブに適用することができる.しかしながら,ヨーロピアン型と違ってアメリ カン型のデリバティブに関しては,(22)を使って解析解をえることができな いため,具体的に数値計算しながら解を求めなければならない.次節では,
この点に関して,オプションを例に挙げながら,多次元2項ツリー・モデル を使った数値計算法を考察することにする.
3 多次元2項ツリー・モデル 3. 1 BEG法の拡張
n資産の場合の多次元2項ツリー・モデルは,n+1次元2項ツリー・モデ ルと呼ばれている7).これを使って,BSモデルを具体的に数値計算する場合 を考えてみよう.任意の資産iの価格Siに関して,
ln^S ti^+Dthh=ln^S ti^hh+ei, ^i=1 2, ,g,nh (23)
ei`N7iiDt, v2iDtA, ^i=1 2, ,g,nh
とする.ここで,eiは平均がiiDt=(r-qi-vi2/2)Dt,分散がvi2Dtの正規確 率変数とする.
説明の便宜上,3資産の場合で,すなわち4次元2項ツリー・モデルで考 えてみよう.BEG法におけるツリーの分枝は,uuu,uud,udu,duu,udd, dud,ddu,dddの8つのパターンであり,8ジャンプ・ツリー・モデルとな る.これに対して,KR法の場合は,この8つのパターンに加えて3資産の価 格がともに変動しない場合のmmmを分枝に付け加えて,9ジャンプ・ツリー・
モデルとなる.かくして,n資産の場合は,BEG法では2nジャンプ・ツリー・
モデル,KR法では2n+1ジャンプ・ツリー・モデルとなることが分かる.た だし,後に見るように,多次元への拡張を考えるとき,たとえ1つであって もプログラムの「配列」を増やすことは,メモリ消費的なツリー・モデルに よる計算に対して大きな負荷を加えてしまう.したがって,少なくとも3資 産以上の場合はBEG法が望ましいと言える.
以下では,BEG法を3資産に拡張した8ジャンプ・ツリー・モデルで 考えることにする.そこで,この8つの分枝に対する推移確率をPuuu, Puud,Pudu,Pduu,Pudd,Pdud,Pddu,Pdddと そ れ ぞ れ 表 し,こ
7) 厳密に「次元」で考えれば,n資産の場合,「時間」を加えてn+1次元となるので,この場
合の2項ツリー・モデルは「n+1次元2項ツリー・モデル」と呼ばれる.
れらを求めることにしよう.まず,ln(Si(t))のジャンプの大きさ,すなわち vi=ln(Si(t+Dt))-ln(Si(t))を一定とし,
vi=avi Dt, ^i=1 2 3, , h (24)
とする.ここで,aは安定条件を満たす範囲内で自由に決定できるパラメー タで,伸縮パラメータ(stretch parameter)とも呼ばれている.viの平均は,(23)
より,次のようになる.
E6 @e1=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ + - + - - - h 1=i1Dt E6 @e1=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ + - + - - - h 1=i1Dt (25a)
E6 @e2 =^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ - + - + - - h 2=i2Dt E6 @e2=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ - + - + - - h 2=i2Dt (25b)
E6 @e3 =^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v- + + - - + - h 3=i3Dt E6 @e3=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v- + + - - + - h 3=i3Dt (25c)
ただし,ジャンプの大きさに関しては上昇と下落の絶対値は等しいものとす る.また,共分散と分散は次のようになる.
E6e e1 2@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v+ - - - - + + h 1 2 E6e e1 2@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v+ - - - - + + h 1 2
12 1 2 t t v v D
= (26a)
E6e e1 3@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v- + - - + - + h 1 3 E6e e1 3@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v- + - - + - + h 1 3
13 1 3 t t v v D
= (26b)
E6e e2 3@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v- - + + - + + h 2 3 E6e e2 3@=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v v- - + + - + + h 2 3
23 2 3 t t v v D
= (26c)
Var6 @ei =^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ + + + + + + h i2 Var6 @ei=^Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd v+ + + + + + + h i2
, , , t i 1 2 3
i
v2D
==v2iDt,^^=i=1 2 3, ,hh (27)
上記の(24)〜(27)より,次のような関係をえることができる.
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
1 1
i D ^av h= + + - + - - -
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
1 1
i D ^av h= + + - + - - -
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
2 2
i D ^av h= + - + - + - -
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
2 2
i D ^av h= + - + - + - -
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
3 3
i D ^av h= - + + - - + -
t Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
3 3
i D ^av h= - + + - - + -
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
12 2
t a = + - - - - + +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
12 2
t a = + - - - - + +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
13 2
t a = - + - - + - +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
13 2
t a = - + - - + - +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
23 2
t a = - - + + - + +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
23 2
t a = - - + + - + +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
1 a2= + + + + + + +
Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd
1 a2= + + + + + + +
まず,上記7式の最後の式と
1 =Puuu Puud Pudu Pduu Pudd Pdud Pddu Pddd+ + + + + + + とより,a=1と決定することができる.そして,上記7式より,8つの推移 確率について解くために,推移確率Puuuに対して,
Puuu= +#1 _i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt+t12+t13+t23- 8 Puuu= +#1 _i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt+t12+t13+t23- 8 (28a)
と与えて,これを上記7式に代入して他の7つの推移確率について解くと,
次のような結果をえることができる8).
Puud= +#1 _i1 v1+i2 v2-i3 v3i Dt+t12-t13-t23- 8 Puud= +#1 _i1 v1+i2 v2-i3 v3i Dt+t12-t13-t23- 8 (28b)
Pudu= +#1 _i1 v1-i2 v2+i3 v3i Dt-t12+t13-t23- 8 Pudu= +#1 _i1 v1-i2 v2+i3 v3i Dt-t12+t13-t23- 8 (28c)
Pduu= + -#1 _ i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt-t12-t13+t23- 8 Pduu= + -#1 _ i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt-t12-t13+t23- 8 (28d)
Pudd= +#1 _i1 v1-i2 v2-i3 v3i Dt-t12-t13+t23- 8 Pudd= +#1 _i1 v1-i2 v2-i3 v3i Dt-t12-t13+t23- 8 (28e)
Pdud= + -#1 _ i1 v1+i2 v2-i3 v3i Dt-t12+t13-t23- 8 Pdud= + -#1 _ i1 v1+i2 v2-i3 v3i Dt-t12+t13-t23- 8 (28f)
Pddu= + -#1 _ i1 v1-i2 v2+i3 v3i Dt+t12-t13-t23- 8 Pddu= + -#1 _ i1 v1-i2 v2+i3 v3i Dt+t12-t13-t23- 8 (28g)
Puuu= -#1 _i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt+t12+t13+t23- 8 Puuu= -#1 _i1 v1+i2 v2+i3 v3i Dt+t12+t13+t23- 8 (28h)
さらに,4資産以上の多次元2項ツリー・モデルの推移確率の導出につい ても,同様の手続きで求めていけばよい.したがって,n資産の場合の2nジャ ンプ・ツリー・モデルの推移確率は,結果だけを大雑把に表せば次のように なる.
Pu uuug = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1+in vni Dt+t12g+tn-1n-1+tn-1n- 2n Pu uuug = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1+in vni Dt+t12g+tn-1n-1+tn-1n- 2n
Pu uudg = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1-in vni Dt+t12g+t1n-1-t1n+t21g+tn-1n-2-tn-1n- 2n Pu uudg = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1-in vni Dt+t12g+t1n-1-t1n+t21g+tn-1n-2-tn-1n- 2n
8) 3資産の場合のKR法における推移確率の導出については,付録 1を参照のこと.
Pu udug = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-2-in-1 vn-1+in vni Dt+^t12g+t1n-2-t1n-1+t1ng+tn-1n-2-tn-1nh m2- 2n
Pu udu 1 n n n n n n t n n n n n n n 2n
1 1 2 2 1 1 12 1 2 1 1 1 1 2 1 2
g = +# _i v g+i- v - -i - v - +i v i D +^t g+t - -t - +t g+t - --t - h m -
…
Pu uddg = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-1-in-1 vn-1-in vni Dt m+t12g+t1n-2-t1n-1+t1ng+tn-1n-2-tn-1n- 2n Pu uddg = +#1 _i1 v1g+in-2 vn-1-in-1 vn-1-in vni Dt m+t12g+t1n-2-t1n-1+t1ng+tn-1n-2-tn-1n- 2n
……
Pd dddg = -#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1+in vni Dt+t12g+tn-1n-2+tn-1n- 2n Pd dddg = -#1 _i1 v1g+in-2 vn-2+in-1 vn-1+in vni Dt+t12g+tn-1n-2+tn-1n- 2n
これは,BEG法をn+1次元2項ツリー・モデルに一般化した場合の推移確 率のパターンである.以上のように,BEG法は3以上の資産の場合にスムー ズに拡張でき,数値計算プログラムも容易に作成できるというメリットがあ る.
3. 2 多次元2項ツリー・モデルによる数値計算
ペイオフ関数の特定化によってさまざまなマルチ資産オプションを作成す ることができるが,本稿ではその代表的な例として,「複数の資産の中で最大 または最小の価格を付けた資産を権利行使の対象とするオプション」を取り 挙げることにする9).以下では,このオプションを便宜上「最大値オプション」,
「最小値オプション」とそれぞれ分けて呼ぶことにする.この最大値(最小値)
オプションの実行価格をKと表すと,コール・オプションのペイオフ関数は,
, ,
S max maxS Cmax^ Th= 6 ^ h-K 0@
, ,
S max min S Cmin^ Th= 6 ^ h-K 0@ と,またプット・オプションのペイオフ関数は,
9) このオプションの詳細に関しては,Stulz (1982),Johnson (1987),Zhu et al. (2013)などを参照.