1 本研究は世代間交流活動研究会(代表:駒沢勉(文部科学省 統計数理研究所名誉教授;メンバー:土屋隆裕(同研究所助 教授)、金藤ふゆ子(常盤大学助教授)、川原誠司(宇都宮大 学助教授)、筆者)が文部省生涯学習局(当時)から委嘱を受 けて実施した調査研究の一部である。
2 武蔵工業大学環境情報学部助教授
!山
緑2青少年と高齢者の世代間交流 プログラムに関する一考察
1研究論文 3-9
1.はじめに
近年、核家族化をはじめとする家族形態の変化や 社会生活の変化に伴って世代間の「隔絶」が問題視 されている。政府はこのような状況に対応し、異な る世代間の相互理解を深めるために高齢者と若い世 代との世代間交流を施策的に推し進めている。一方、
世代間交流は、単に世代間の相互理解を深めるだけ でなく、最近の子どもたちの人間関係の希薄さや、
子どもたちの社会参加活動の経験不足、家庭の教育 機能や地域の教育力の低下といった子どもたちをと りまく様々な問題に対処するための施策のひとつと しても期待が集まっている。また、今後ますます人 口の高齢化が本格化し、超高齢社会の到来が予測さ れ、75歳以上の後期高齢者も急速に増加する中で、
高齢者の社会参加を促し、孤独感の低減や、生きが いや有能感を感じることができる機会を提供するた めにも世代間交流活動は有効であろう。
このような様々な期待を背負い、世代間交流プロ グラムは日本各地で行われるようになってきた。し かし実は、世代間交流プログラムの参加主体となる 青少年や高齢者がどの程度、日常的に世代間交流を 行い、かつ今後、企画された世代間交流プログラム に参加する意思をもっているか、などの基礎的な検
討は十分されていない。さらに現在、地方自治体、
学校、民間団体等によって取り組まれている世代間 交流プログラムは企画者側の判断で立案されている ものが多く、必ずしもプログラムの参加主体である 青少年や高齢者たちの期待や希望したものが反映さ れているものばかりではないのが実情である。その ためせっかく企画しても参加者が少なかったり、参 加者の十分満足が得られなかったりするプログラム も存在する。
そこで今後より有効、かつ効果的な世代間プログ ラムを企画、実施するための基礎資料を得るために、
本稿では、小・中・高等学校の児童・生徒および高 齢者を対象に青少年と高齢者の方たちとの間で行わ れている日常での世代間交流経験や今後の希望、期 待される世代間交流プログラムなどを検討すること を目的とする。
2.リサーチ・クエスチョン
リサーチ・クエスチョンは以下の4点である。
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日常生活において青少年の高齢者との交流経験 と今後の交流に対する希望はどの程度あるの か?"
世代間交流することによって相互理解(他者理解や自己理解)は深まる可能性があるか?
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日常生活において高齢者の青少年との交流経験 と今後の交流に対する希望はどの程度あるの か?$
青少年と高齢者各々が希望する世代間交流プロ グラムとは何か?3.方法
世代間交流に関して青少年を対象にした意識調査 と高齢者を対象にした意識調査を実施した。
3.1 青少年に対する意識調査について
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調査対象者調査対象者は全国の小学4年生、小学6年生、中 学2年生、高校2年生である。調査対象者の抽出は 層別二段抽出により行った。まず、市区町村の人口
規模を層として、各学年ごとに125合計500の調査対 象校を確率比例系統抽出した。各層の調査対象校は 比例割当により定めた。次に、各学校の当該学年か ら抽出した1学級の児童・生徒全員を調査対象者と した。
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調査方法調査票は各学校経由で配布し、学校あるいは自宅 で記入を依頼した。
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有効回答数有効回答数は小学4年生3702名(119校)、小学6 年生3761名(117校)、中学2年生3803名(116名)、 高校2年生4431名(119校)、計15697名(471校)で あった。
3.2 高齢者に対する意識調査について
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調査対象者調査対象は全国の65歳以上の高齢者である。調査 対象者の抽出は社団法人中央調査社のマスターサン プルから、性別・年齢を層として層別二段無作為抽 出により行った。抽出した調査対象者は2500名で あった。
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調査方法調査は社団法人中央調査社に委託し、郵送法によ り行った。
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有効回答数有 効 回 答 数 は1644名(65−69歳675名;70−74歳 551名;75−79歳260名;80歳以上158名)であった。
4.結果
本稿では上述した2つの意識調査の結果から、Re- search Question に関連する分析結果を取り上げて 報告する。
4.1 日常生活における青少年の高齢者との交流経 験と今後の交流に対する希望はどの程度ある のか?(青少年調査)
図1は青少年に対して「あなたのおじいさん・お ばあさんやその年齢くらいの方と、この1年間に何 か一緒にしたことがありましたか」と問い、過去1
年間の高齢者との交流経験の有無を明らかにした結 果を示したものである。高齢者とともに何か一緒に したことが「あった」と回答したものは青少年全体 の約70%を占めていた。
図1 高齢者との交流経験の有無(学年別)
しかし、高齢者との交流経験の「あった」青少年 の割合を学年別にみてみると、学年があがるにつれ てその割合は減少する傾向が認められる。小学4年 生で交流経験のある児童は全体の80%を占めるのに 対して、高校2年生になると全体の50%弱にまで減 少し、過去1年間、交流経験のなかった者が過半数 を占めている。なお、交流経験のあった者の割合は 特に小学6年生から中学2年生の間に変化が著し く、約20ポイントの差があり、経験者率の落ち込み が激しい。
同様に、青少年に対して高齢者との今後の交流希 望を問うたところ、「してみたいと思う」者は全体 の約70%で、残りの30%は「してみたいと思わない」
と回答している。また、学年別にみてみると、学年 があがるにつれて、交流希望率が減少する傾向が示 された(図2参照)。
図2 高齢者との交流希望の有無(学年別)
図3、図4は、交流経験と今後の交流希望の関連 を学年別・性別ごとに示したものである。交流経験、
交流希望のいずれにおいても、総計の分析と各学年 別の分析の双方において、男子に比べて女子の方が より交流経験率、交流希望率ともに高い割合を示し ている。また、交流経験と交流希望を比較すると、
交流希望においてより男女差が顕著である。総計の 分析で比較すると、女子の交流希望率は男子より16 ポイント上回っている。また、学年別にみると、男 女の格差は学年があがるにつれて交流経験、交流希 望ともに拡大する傾向が認められる。
図3 高齢者との交流経験の有無(学年別・性別)
図4 高齢者との交流希望の有無(学年別・性別)
一方、居住形態(高齢者との同居/別居)や人口 規模(都市部/郡部)と高齢者との交流経験、交流 希望との関連はあるだろうか。
図5、図6は「高齢者との同居の有無」と交流経 験、交流希望の関連を分析した結果を示したもので ある。交流経験では、若干、高齢者と「同居してい る」青少年の方が「同居していない」青少年よりも 交流経験率が高い傾向を示しているが、交流希望に ついては、高齢者との同/別居による差はほとんど 認めなられない。
図5 高齢者との交流経験の有無
(学年別・高齢者との同別居別)
図6 高齢者との交流希望の有無
(学年別・高齢者との同別居別)
さらに図7、図8は青少年の居住する人口規模の 違いと高齢者との交流経験、交流希望との関連性を 分析した結果である。人口規模による差はほとんど 認められず、高齢者と交流経験の「あった」青少年 と、今後、交流「してみたいと思う」青少年の割合 は約70%で一定している。
図7 高齢者との交流経験の有無(居住地域の人口規模別)
図8 高齢者との交流希望の有無(居住地域の人口規模別)
4.2 世代間交流することによって相互理解は深ま るか?(青少年調査)
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交流経験と交流希望には関連性がある?(青少年調査)
図9は、高齢者との交流経験の有無と交流希望の 関連を分析した結果である。総計、学年別の分析結 果ともに、交流経験のある青少年は交流経験のない 青少年に比べて、高齢者との交流希望が約30〜40ポ イント高い。青少年が高齢者との交流経験をもつこ とは、その後の交流希望を高める可能性を示唆して いる。
図9 高齢者との交流希望の有無(学年別・交流経験の有無別)
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高齢者との交流頻度と高齢者イメージとは関連性がある? (青少年調査)
「元気がないときにはげましてくれる(あげる)」
「買い物や遊びにつきあってくれる(あげる)」「知 らないことを教えてくれる(あげる)」等といった 12項目を基に、青少年調査対象者を高齢者との交流 頻度に関して5段階に分類した結果と、「きちんと している」「生活の知恵をたくさん知っている」と いった8項目を基に、高齢者に対する肯定的なイ メージに関して5段階に分類した結果とのクロス集 計結果を示したのが、図10である。
高齢者との交流経験が多いほど、高齢者に対して 肯定的なイメージをもつ青少年が増えることがわか る。
図10 高齢者との交流経験と高齢者に対する肯定的イメージ
(青少年調査)
一方、高齢者との交流経験と、「人からしてもら うのを待っている」「自分のことしか考えていない」
など、高齢者に対する否定的なイメージとの関係を 調べたところ、交流経験が少ないほど、否定的なイ メージをもつ青少年がやや増える傾向が認められた
(図11参照)。
図11 高齢者との交流経験と高齢者に対する否定的イメージ
(青少年調査)
なお、調査対象者である青少年が祖父母と同居し ているか否かということと、高齢者に対する肯定的 なイメージはほとんど関係ない(図12参照)ことか ら、青少年が高齢者に対して肯定的イメージを持つ ためには、高齢者と単に空間を共有するだけでなく、
積極的に世代間交流を促す必要があることが示唆さ れる。
図12 祖父母との同居と高齢者に対する肯定的イメージ
(青少年調査)
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年齢が離れていても友達になれるか?(青少年 調査)「あなたは、年齢が離れていても、考えか方が合
えば友達になれると思いますか」との問いに対して 81%の青少年は「思う」と回答した。では、年齢差 があっても友人関係は成り立つとする考え方は、過 去の高齢者との交流経験の有無によっても異なるの だろうか。
図13は高齢者との交流経験の有無別・学年別に先 ほどの問いに対する回答結果を示したものである。
過去に高齢者との交流経験のある者は、それがない 者に比べていずれの学年でも、そのような考え方を 肯定する者の割合が高い。交流経験の有無の違いに よる割合の格差は、特に小中学生段階において大き く、12から13ポイントにのぼっている。青少年が高 齢者との交流経験をもつことは異世代の人とも友人 関係をもつ可能性(相互理解の可能性)を高めるこ とを示唆している。
図13 年齢が離れていても友達になれると思うか
(学年別・高齢者との交流経験の有無別)
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若者と交流することによって若者イメージは変 化するか?(高齢者調査)図14は青少年に対する15項目のイメージに対し て、自分の考えにあてはまると思うものを複数回答 で得た結果を、過去1年間「小・中・高校生」との 交流経験の有無別に示し、青少年のイメージに対す る回答結果を比較したものである。なおイメージ項 目は総計で回答が多かったものから示している。
選択率の高い項目は経験の有無に関わらず、青少 年に対する否定的なイメージに関するものであり、
青少年との交流経験による差はほとんど認められな かった。しかし、その一方で、青少年は「可能性を 秘めている」「感受性が豊かだ」「一生懸命がんばる ことができる」「病気や怪我をしてもすぐに元気に なる」「発想が柔軟である」等、青少年への肯定的
なイメージに関する項目は、全ての項目において交 流経験のある者の方が、無い者に比べて選択率が高 くなっている。高齢者の青少年との交流経験は、高 齢者の青少年に対する理解度を深め、肯定的な側面 を評価する傾向を高める可能性を示唆するものと言 えよう。
図14 青少年に対するイメージ(青少年との交流経験の有無別)
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若者と交流することによって高齢者の自己イメージは変化するか?(高齢者調査)
高齢期において有能感を感じられることは、人生 満足度や精神的健康にとって重要である。
図15は過去1年間における青少年との交流経験の 有無別に、高齢者が「日常生活の中で、『小・中・
高校生』に対して、実際に自分が役立っていると感 じることがありますか」という問いに対する回答結 果を示したものである。それによれば、交流経験の ある高齢者ほど、自分の力が役立っていると感じる ことが「よくある」「時々ある」と回答する割合が 高く、その割合は交流経験のない者の2〜3倍と なっている。この結果は、青少年との交流経験は高 齢者にとって青少年に対する役割の自覚や有能感を 高める可能性を示唆していると言えるだろう。
図15 自分の力が役立つと感じること
(年齢別・青少年との交流経験の有無別)
4.3 日常生活における高齢者の青少年との交流経 験と今後の交流に対する希望はどの程度ある のか? (高齢者調査)
図16は高齢者に「『小・中・高校生ぐらいのこど もたち』と、この1年間に何か一緒にしたことがあ りましたか。自分のお孫さんのことなども含めてお 答えください」という問いに対する回答結果を示し ている。
「あった」とする者は総計でみると約80%に上っ ていたが、一方残り20%のものは「なかった」と回 答している。
図16 青少年との交流経験の有無(年齢別)
高齢者は今後「小・中・高校生ぐらいの子どもた ち」と今まで以上に何かできる機会を増やしたいと 考えているのだろうか。図17は今後の希望結果につ いての回答結果を示したものである。子どもとの交 流を「増やしたい」というと考える者の割合は、総 計では約60%を占めている。またその割合は高齢者 の年齢層に関わらず、ほぼ60〜70%で一定している。
図17 青少年との交流希望の有無(年齢別)
図18はさらに過去の交流経験の有無別に、今後の 青少年との交流希望を分析した結果である。総計、
年齢群別ともに、交流経験の「あった」高齢者ほど、
青少年との交流を今後さらに「増やしたい」と希望 する割合が高いことが明らかになった。教育や学習 の機会を得る者ほど、さらなる教育や学習機会への 参加を希望するという成人教育学の知見と同様に、
高齢者の青少年との交流経験は交流経験のある者ほ どさらなる交流を希望する傾向があると言えよう。
図18 青少年との交流希望の有無
(年齢別・青少年との交流経験の有無別)
図19は上述の問いで、青少年と交流を増やしたい と回答した者に対して、さらに交流を希望する子ど もの学年を尋ねた結果である。総計をみると、「小 学生」との交流を希望する者が全体の約60%と最も 多く、ついで、「中学生」30%、「高校生」20%となっ ている。しかし、その割合は高齢者の年齢群によっ てかなり変化している。すなわち、高齢者の年齢が 上がるにつれて、より学年の高い子どもと交流する ことを希望する傾向が示された。
図19 交流を希望する青少年の学齢(年齢別)
4.4 青少年と高齢者各々が希望する世代間交流プ ログラムとは何か? (青少年調査・高齢者調 査)
青少年、高齢者は各々、どうような世代間交流プ ログラムなら参加したいと考えているのであろう か。
青少年調査、高齢者調査双方において、世代間プ ログラムとして取り上げた内容は以下の33項目であ る:旅行;ハイキングや登山;健康維持のための体操;
バーベキュー大会など屋外での食事;絵を描いたり、写真 を撮る;園芸・盆栽・ガーデニング;地域の伝統的な行事 や祭り;すごろくやとランプなどの室内ゲーム;清掃ボラ ンティア;田植えや野菜づくり;室内での料理教室や食 事;パソコンを一緒に学ぶ;音楽鑑賞;それぞれの世代に 対して意見や希望を述べ、討論する;囲碁・将棋;学習(語 学・科学・歴史など);観劇;野鳥観察;手芸や編み物;
各世代の体験発表;ゲートボールやグランドゴルフ;楽器 の演奏;募金活動やリサイクル運動;俳句や短歌を作る;
オリエンテーリングやウォークラリー;星座観察;自分の 特技を高齢者に教える;テレビゲームなど最近の子どもの 遊び;お茶やお華;歌・劇・踊り・ダンスなどの発表;子 どもの間の流行を教える。
ここでは、青少年調査と高齢者調査の双方でたず ねた参加を希望する世代間交流プログラムについて まず明らかにする。表1は青少年調査と高齢者調査 において、参加希望率の高い上位5位を示し、表2 には参加希望率の低い下位5位の世代間交流プログ ラムの内容を示した。
希望率の高い内容を比較すると、青少年と高齢者 ともに「旅行」が第1位であり、また「バーベキュー 大会など屋外での食事」も第4位に上げられ、共通
して人気の高い活動内容となっている。その他、上 位のプログラムについて青少年の場合についてみて みると、「すごろくやトランプなどの屋内ゲーム」「昔 のおもちゃづくり」「屋内での料理教室や食事」と いった屋内で実施される活動に対する希望率も高い のに対して、高齢者の場合は「ハイキングや登山」
「健康維持のための体操」「絵を描いたり、写真を撮 る」など、どちらかと言えば野外活動型のプログラ ムに対する希望率が高く、青少年調査との違いも認 められた。
絵を描いたり、写真を撮 室内での料理教室や食事 る
5位
バーベキュー大会など屋 外での食事
バーベキュー大会など屋 外での食事
4位
健康維持のための体操 昔の道具やおもちゃづく
3位 り
ハイキングや登山 すごろくやトランプなど
の室内ゲーム 2位
旅行 旅行
1位
高齢者調査 青少年調査
上位5位
表 1 青少年と高齢者の希望率の高い世代間交流プログラム
子供の特技をお年寄りに 清掃ボランティア 教える
5位
テレビゲームなどの最近 の子供の遊び
歌、劇、踊り、ダンスな 4位 どの発表
お茶やお華 俳句や短歌を作る
3位
歌、劇、踊り、ダンスな どの発表
それぞれの世代に対して の意見や希望を述べ、討 論する
2位
子供の間の流行を教える 各世代の体験発表
1位
高齢者調査 青少年調査
下位5位
表2 青少年と高齢者の希望率の低い世代間交流プログラム
次に、希望率の低い世代間交流プログラムを比較 してみると、「歌・劇・踊り・ダンスなどの発表」は 青少年、高齢者ともに希望率が低い内容となってい る。その他、青少年の希望率の低い内容としては、
「各世代の体験発表」や「討論」といったものが上 げられる。一方、高齢者の場合は、「子どもの流行 や特技を教えてもらう」「テレビゲームや最近のあ
そび」を教えてもらう、「子どもの間の流行を教え てもらう」という内容に対する希望率が低い。高齢 者は子どもから教えられる最近の流行の内容につい て、青少年とともにやることにはやや抵抗感がある ようである。
最後、年齢によって、選択率の変化する世代間交 流プログラムについて検討する。図20〜図23は、各 年代別に世代間交流プログラムの選択される割合を 算出するために、総回答数を分母として、各プログ ラムの選択数を分子として選択率を算出して、その 割合を基準変数、学年(あるいは年齢群)を説明変 数として回帰分析を行い、回帰係数の絶対値が大き く、学年(年齢)の説明力の高いプログラムを取り 上げ、それらが学年(年齢)とともに割合が上昇す るもの(図20、図22)と、反対に学年(年齢)とと もに割合の減少するもの(図21、図234)に大別し て、その選択率を示したものである。
青少年の場合、「旅行」「室内での料理教室や食事」
「地域の伝統的な行事や祭り」「手芸や編み物」「お 茶やお華」「音楽鑑賞」は、学年があがるとともに 選択率の割合が上昇するプログラムである。一方、
学年があがるとともに選択率の割合が低下するもの としては、「昔の道具やおもちゃづくり」「すごろく やトランプなどの室内ゲーム」「星座観察」「自分の 特技をおとしよりに教える」「テレビゲームなど最 近の子どもの遊び」「パソコンを一緒に学ぶ」など が挙げられた。
図20 選択率の増加する活動項目(青少年)
図21 選択率の減少する活動項目(青少年)
青少年の場合、高齢者から地域の伝統行事や高齢 者の有する技術・技能の習得に関するプログラムで は年齢とともに選択率が上昇する傾向が見られる。
このようなプログラムはある程度、学年が上の児童・
生徒を対象とするほうが、児童・生徒の関心も高ま り、望ましいプログラムといえよう。一方、ゲーム やおもちゃづくり、パソコンを学ぶといった内容は、
学年が低い児童・生徒には関心が高い内容であるが、
学年が上昇するにつれて関心の度合いが低下してい る。このような内容は学年の上の児童・生徒を対象 とする場合は、あまり参加率を期待できないプログ ラムと考えられる。
高齢者の場合も、同様の分析を行うと、年齢とと もに選択率が上昇するのは、「旅行」「絵を描いたり、
写真を撮る」「囲碁・将棋」「各世代に対して意見や 希望を述べる」「ゲートボールやグランドゴルフ」「俳 句や短歌を作る」が挙げられる。一方、年齢ととも に選択率の下降するプログラムとしては、「ハイキ ングや登山」「田植えや野菜づくり」「野鳥観察」「手 芸や編み物」「オリエンテーリングやウォー ク ラ リー」「テレビゲームなど最近の子どもの遊び」と なった。高齢者の場合、年齢とともに低下するプロ グラムは、ある程度、体力を要するものや、遠出を 必要とする内容が多く含まれている。一方、年齢と ともに上昇するものは、相対的にみてあまり体力を
必要としなかったり、屋内でできる内容が多く析出 されていると言えるだろう。
このように、学齢期にある青少年と高齢者を対象 にした調査を基に比較をしてみると、年齢によって 世代間交流プログラムに対する希望率もかなり異な ることが明らかになった。世代間交流プログラムと いっても、そこには多様な年齢層の参加が想定され る。今後の世代間交流事業の促進をはかるためには、
対象者の属性や特徴、期待を十分に把握した上で、
参加対象者を絞り込んだ世代間交流プログラムを企 画・実施していくことが求められだろう。
図22 選択率の増加する活動項目(高齢者)
図23 選択率の減少する活動項目(高齢者)
5.まとめ
本稿での分析結果をまとめる。
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青少年の約7割は過去1年間に高齢者との交流 経験があり、今後も交流したいと考えているが、これは学年が挙がるにつれて低下する傾向があ る。
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高齢者の約8割は過去1年間に青少年との交流経験があり、年齢に関わらず6割から7割の高 齢者は今後も交流したいと考えている。
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青少年が高齢者との交流経験をもつことにより、高齢者との交流希望を更に高めたり、青少 年の高齢者に対する肯定的イメージを高める可 能性がある。一方、高齢者も青少年と交流する ことで、青少年に対する肯定的イメージや自己 の有能感が高まる可能性がある。
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年齢・学年によって世代間交流プログラムに希 望するプログラム内容は異なる。今後の世代間 交流事業の促進をはかるためには、対象者の属 性や特徴、期待を十分に把握した上で、参加対 象者を絞り込んだ世代間交流プログラムを企 画・実施していくことが求められる。6.今後の方向性
今後は、実際に実施されている世代間交流プログ ラムの効果測定を行い、世代間交流プログラムが狙 い通りの効果を挙げているのか検討するとともに、
プログラムに参加する青少年や高齢者自身がより望 んでいる世代間交流プログラムを企画し実施してい くことが必要であろう。
参考文献
世代間交流活動研究会 1998 青少年教育施設等の 役割に関する調査研究報告書
世代間交流活動研究会 2000 青少年及び高齢者の 異世代に対する意識調査報告書
世代間交流活動研究会 2000 世代間交流に関する 意識調査報告書
総務庁 2001 平成13年度高齢社会白書
内閣府 2002 平成14年度高齢社会白書 内閣府 2003 平成15年度高齢社会白書
[付記]
本稿は「青少年及び高齢者の異世代に対する意識調 査報告書」(世代間交流活動研究会,2000)の一部 を加筆・修正したものです。