Advanced Analytical and Evaluation Techniques
あ ら ま し
Abstract
上田 修 (うえだ おさむ) 材料 技 術 研究 所 ナ ノ 電 子材料研究部 所属 現在,ナノレベルの分析・ 評 価 技 術 の 開 発 , ナ ノ 成 膜・制御技術の開発に従事。 本田耕一郎 (ほんだ こういちろう) 材料 技 術 研究 所 ナ ノ 電 子材料研究部 所属 現在,ナノレベルの構造解 析技術,とくに電子線ホロ グラフィの開発に従事。 小高康稔 (こたか やすとし) 材料技術研究所デバイ ス製造分析研究部 所属 現在,透過電子顕微鏡を 用いた原子レベル構造 解析技術の開発に従事。次世代のLSI,磁気ヘッドなどのデバイス開発においては,ますます微細化が進み,デバ
イスを構成する薄膜の膜厚,組成,微細構造などのナノレベルの制御が不可欠となる。これ
に伴い,薄膜のナノレベルでの分析・評価技術の開発も急務となってきている。
本稿では,まず,このようなデバイス開発における,現在から将来に向けての分析・評価
のニーズを展望し,開発すべき先端分析・評価技術について述べる。ついで,これらの先端
分析・評価技術のうち,現在著者らが取り組んでいる技術の現状について紹介する。はじめ
に,微細構造の解析技術として,FE-TEMによるナノレベルでの構造・組成解析,さらには
原子種まで特定可能な高分解能暗視野STEM法について述べる。ついで, 微量不純物の深
さ方向分布を1 nm以下の深さ分解能で評価できる低加速2次イオン質量分析法について述
べる。最後に,材料の微細構造に加えて,電気的・磁気的特性をナノレベルの分解能で可視
化できる新しい評価技術である電子線ホログラフィの開発状況についても概説する。
片岡祐治 (かたおか ゆうじ) 材料 技 術 研究 所 ナ ノ 電 子材料研究部 所属 現在,二次イオン質量分析 法を用いた高精度微量不純 物分析技術の開発に従事。The structure of devices such as next-generation LSIs and magnetic heads is becoming increasingly
fine and complicated, making it necessary to control the thickness, composition, and fine structure of
thin films for the devices at the nanometer level. Such control requires techniques for analyzing and
evaluating thin films at the nanometer level. In this paper, we assess the present and future needs
for analysis and evaluation techniques, suggest cutting-edge techniques that should be developed,
and introduce the current status of our work on developing such techniques. First, we describe
techniques for analyzing the structure and composition of fine structures at the nanometer level by
using high-angle annular dark-field (HAADF) STEM, which enables each element to be identified, as
well as field-emission (FE) type TEM. Next, we present details of low voltage secondary ion mass
spectrometry (LV-SIMS) for analyzing the depth profile of trace quantities of impurities with a depth
resolution of less than 1 nm. Finally, we introduce the current status of our development of electron
holography, which permits visualization of both the electrical and magnetic properties as well as fine
structure of materials with nanometer-level spatial resolution.
ま え が き
近年,LSIやGMRヘッドなどのデバイスにおいては, 素子の微細化に伴い,構成する材料の超薄膜化・多様化 が進んでいる。その一例として,CMOSのトランジス タの主要部であるゲート絶縁膜の膜厚およびHDD用 GMRヘッドを構成しているスピンバルブ積層膜のうち 最も薄い膜の膜厚の推移を図-1に示す。前者の場合には, 1 nm(10億分の1メートル)に到達しつつあり,後者に いたっては,すでに1 nmを切っている。このような状 況下において,デバイスの高性能化・高信頼化を図るた めには,薄膜の膜厚,組成,界面構造のナノメートルレ ベル(以下,ナノレベル)での制御が不可欠となってき ている。したがって,今後のデバイス開発に向けて,ナ ノレベルでの分析・評価技術の開発が急務となっている。 そこで,本稿では,まず,次世代デバイス開発におい て,不可欠となるナノレベルでの分析・評価技術につい て概説する。ついで,これらの分析・評価技術のうち, 著者らが,現在取り組んでいるいくつかの技術を取り上 げ,その現状と今後の展開について述べる。次世代デバイス開発に不可欠なナノレベル分析・評価技術
ここでは,次世代デバイスの開発のために不可欠とな る分析・評価の主要なニーズを5項目挙げ,それらに対 応可能なナノレベル分析・評価技術について述べる。 (1) 構造解析・組成分析 デバイスを構成する薄膜のナノレベル以下の空間分解 能での構造解析・組成分析は,現在,最も重要なニーズ の一つである。これに関しては,すでに,電界放射型透 過 電 子 顕 微 鏡 ( Field Emission Type Transmission Electron Microscope:FE-TEM)を用いた分析技術が 用いられている。その主な手法としては,膜構造・界面 や結晶欠陥の構造評価法として高分解能TEM法(HR-TEM ), ナ ノ 領 域 の 組 成 分 析 法 と し て 走 査 型 や結晶欠陥の構造評価法として高分解能TEM法(HR-TEM ( STEM ) / エ ネ ル ギ ー 分 散 型 X 線 分 光 法 ( Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)(1)などがある。また,原子レベルの構造解析・組成分析を同時評価でき る高角度暗視野走査型透過電子顕微鏡法(High Angle Anular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy:HAADF-STEM)が最近注目されてきて いる(2)。 (2) 状態(結合,化学状態)評価 CMOSの高信頼化には,高品質なゲート酸化膜が必 要とされる。この膜質は,膜中の微視的結合状態と密接 に結びついている。その評価には,エネルギー損失分光 法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)(3)が もっぱら用いられる。装置としては,(1)の場合と同 様にナノオーダの電子ビームが得られるFE-TEMを用 いる。試料中を透過する電子は種々の非弾性散乱過程に よりそのエネルギーを失う。本方法では,この失われた 透過電子強度の損失エネルギー依存性を測定することに より,物質の電子構造や結合状態を分析する。 (3) 微量(ppbレベル)不純物分析 Si-LSIでは,極薄ゲート絶縁膜や極浅チャネル中の不 純物分布の高深さ精度での分析ニーズが高い。これに対 しては,深さ精度向上のため表面荒れの少ない低加速電 圧のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)が用 いられる。一方,p,nチャネル領域が数十nmとなって きており,そのような微小領域の高精度の注入不純物 (B,As,Pなど)の2次元分布の評価が求められている。 そのためには,従来の2次イオン質量分析(SIMS)に おける面分解能の向上が不可欠で,収束イオンビームを 用いる方法(微小領域SIMS)が開発されつつある(4)。別 の 方 法 と し て , 原 子 間 力 顕 微 鏡 ( Atomic Force Microscope:AFM)をベースにした走査容量顕微鏡法 (Scanning Capacitance Microscopy:SCM)が開発さ れている(5)。この方法では,探針電極を半導体(Siなど) 試料上で走査させ,探針−試料間の容量をモニタするこ 0.1 1 10 100 0.1 1 10 100 年(西暦) MR GMR TMR CMR 94 96 98 00 02 04 06 ゲ ー ト 絶縁膜の 膜厚 (nm ) ヘ ッ ド用薄 膜の最小 膜厚 (nm ) 図-1 デバイスの主要部の膜厚の推移 Fig.1-Change of thicknesses of thin films in major parts
とにより,試料中の2次元不純物分布を10∼20 nmの空 間分解能でマッピングできる。 (4) 電気的現象の可視化 微細化に伴い,デバイスの微小領域の電気的特性の評 価が必須となってきている。そのための有力な方法とし て , 走 査 プ ロ ー ブ 顕 微 鏡 法 ( Scanning Probe Microscopy:SPM)(6)が挙げ られる。走査型マク ス
ウ ェ ル 応 力 顕 微 鏡 法 ( Scanning Maxwell Stress Microscopy:SMM)はその一つである。 この方法は,非接触モード電気力顕微鏡の一種で,探 針を非共振状態で振動させ,特定の周波数成分を抽出す ることにより,所望の領域の表面電位(仕事関数),電 荷分布,誘電率などの2次元可視化が可能である。別の 有力な方法として,FE-TEMを用いて,試料の内部電 位の変化による位相差を検出することにより,試料内の 電位分布を観察・評価する方法である電子線ホログラ フィがある。これについては,後述する。 (5) 磁気的現象の可視化 NiFe,Coなどの磁気ヘッド用磁性薄膜中の磁化分布 も電子線ホログラフィにより評価ができる。 また,それ以外の方法としては,スピン(偏極) STM法(Scanning Tunneling Microscopy)がある。こ れは,電子のスピンの向きに応じて探針−試料間の電流 が変化することを利用して,物質中のスピンの分布を可 視化する方法である。 これらの分析ニーズと対応する主な分析・評価技術を まとめて図-2に示す。
HR-TEM法とHAADF-STEM法
結晶の微細構造を原子レベルの分解能で観察できる方 法 と し て HR-TEM 法 お よ び 最 近 注 目 さ れ て い る HAADF-STEM法(1)について述べる。 ● HR-TEM法 HR-TEM法では,多波格子像法という技法を用いる。 これは,電子線を試料に垂直に入射させ(これを軸上照 射条件という),その結果得られる多くの電子波(多重 散乱を起こした電子波と透過した電子波)を用いて結像 させる方法である。ここで得られる像は,各基本波(シ リコン結晶では,220,111,400などの低指数の回折 波)に対応する周期コントラストの重合せとなり,対象 となる結晶の構造を反映したものとなる。この方法によ り得られる情報としては,多層薄膜界面の原子レベルで の構造,例えば格子整合状態や原子層ステップ,凹凸な ど,さらに界面やバルク結晶中の欠陥,例えば転位,双 晶,積層欠陥,析出物などの微細構造などである。シリ 分析ニーズ 分析技術 ナノレベルの磁気的現象の可視化 ナノレベルの電気的現象の可視化 ナノ領域の微量(ppbレベル)分析 ナノ領域の状態(結合,化学状態)評価 ナノ~サブナノ領域の構造解析・組成分析 スピンSTM 電子線ホログラフィー STEM-EELS 極微量化学分析 微小領域SIMS,SCM 走査プローブ顕微鏡法 FE-TEM/EDX HAADF-STEM 図-2 次世代デバイス開発に不可欠なナノ分析技術 Fig.2-Nano-meter lebel analytical techniques essential forthe development of next generation devices.
(b)(a)に対応するHR-TEM像 [001] [11 0] [001] [11 0] 0.136 nm Si(Z=14) (a)Si 結晶の(110)断面の原子配列 [001] [11 0] (c) (a)に対応するHAADF-STEM像 図-3 Si結晶の(110)断面の高分解能TEM観察
(a)Si結晶の(110)断面の原子配列;(b)(a)に対応するHR-TEM像;(c)(a)に対応するHAADF-STEM像 Fig.3-High resolution TEM observation of Si(110) cross-section.
(a) Atomic arrangement of Si crystal viewed from the (110) cross-section; (b) An HR-TEM image corresponding to (a) ; (c) An HAADF-STEM image corresponding to (a).
コン結晶の(110)断面の原子配列の模式図を図-3(a) に,それに対応するHR-TEM像を図-3(b)にそれぞれ 示す。この像では,001,110,111の三つの方向に沿っ て周期的なコントラストが現れている。この場合には, シリコン原子の位置は暗いコントラスト,空洞の部分が 明るいコントラストとして現れている(図の右上部分に, Si原子の位置を二つの小さな明るい点で示す)。このコ ントラストは,入射電子の加速電圧,ビームの開き角, 電子光学系の種々のパラメタ,対物レンズの焦点づれ量 により大きく変化する。したがって,個々の観察条件で の像の解釈には,上述の各パラメタの変化量に応じた像 のコンピュータシミュレーションを行い,観察像とシ ミュレーション像との比較検討が不可欠となる。 ● HAADF-STEM法 これに対して,HAADF-STEM法では,原子レベル の分解能での構造と化学組成の両方が同時に評価できる。 この方法では,図-4に示すように,試料表面に極めて細 い電子ビームを走査しつつ入射させ,試料中で高角度に 散乱した電子を環状検出器(annular detector)により 検出して結像する。この高角度散乱電子の強度は,原子 番号Zの二乗に比例するため,得られる像コントラスト から,異なる原子同士を互いに識別することができる。 このことから,この方法をZコントラスト法とも言う。 この方法では,高輝度で極めて収束性の高い電子ビーム 源(0.2 nm径)を備えたFE-TEMを用いているので, 原 子 レ ベ ル の 分 解 能 で 観 察 す る こ と が で き る 。 図-3(c)は,図-3(a)に対応するHAADF-STEM像で ある。この場合には,シリコン原子の位置が明るい点状 コントラストとして現れ,かつ「ダンベル構造」と呼ば れている2個の原子が明瞭に識別できている(図の右上 部にSi原子位置を示す)。一方,図-5(a)は,GaAs (110)断面の原子構造の模式図で,これに対応する HAADF-STEM像が図-5(b)である。この場合,原子 番号33のAsと31のGaが明瞭に識別できている。すなわ ち,Asの方がやや大きな輝点として現れている。した がって,この方法によれば,AlAs/GaAsなどの半導体 ヘテロ接合界面の原子構造,欠陥での原子配列,結晶中 の不純物の原子レベルでの偏析評価が可能となる。さら に,結晶構造が同じで,格子定数および原子散乱因子も 互 い に 近 い 材 料 , 例 え ば , GMR ヘ ッ ド 用 NiFe/Co/Cu/Co積層構造(HR-TEMでは識別が困難) 中の各層の識別も可能となるなど,本方法による材料の 原子レベルでの構造・組成評価が今後ますます進むもの TEM 試料 入射電子線 0.2 nmφ 高角散乱電子 図-4 HAADF-STEM法の原理図
Fig.4-Schematic diagram for a principle of HAADF-STEM.
0.141 nm [001] [11 0] Ga(Z=31) As(Z=33) (a) GaAs結晶の(110)断面の原子配列 [1 1 0 ] [001] (b) (a)に対応するHAADF-STEM像 図-5 GaAs結晶の(110)断面のHAADF-STEM観察 (a)GaAs結晶の(110)断面の原子配列;(b)(a)に対応するHAADF-STEM像 Fig.5-HAADF-STEM observation of GaAs(110) cross-section.
と思われる。
低加速SIMS分析技術
2次イオン質量分析法(SIMS)は,半導体デバイス 開発に不可欠な,微量不純物の深さ方向分布についての 情報を提供する分析法である。近年,デバイスの微細化 に伴い,例えば,CMOSプロセス開発においては,2.5 nm 以下のゲート絶縁膜中の微量不純物分布や40 nm以下の 接合形成を目的としてイオン注入されたB(ボロン)や As(砒素)などの不純物の深さ方向分布を1 nm以下の 深さ分解能で分析・評価することが不可欠となってきて いる。 SIMS分析では,試料表面にイオン(1次イオン)を 照射し,スパッタリング現象によって試料表面から放出 される粒子のうち,イオン化したもの(2次イオン)を 検出する(図-6)。しかし,照射するイオンビームに よって試料表面の原子は撹乱されるとともに凹凸(表面 荒れ)を生じ,これらが深さ方向の分解能を低下させる 主因子となる(7)。この原子撹乱と表面荒れを低減するため には,1次イオンの加速エネルギーをできるだけ小さく する(1 keV以下)とともに,試料の材質や結晶状態に 合わせて入射角度を最適化する必要がある(8)-(10)。 以下,ゲート絶縁膜の深さ方向分析について1次イオ ンの照射条件を最適化した例を示す(11)。試料には,厚さ約 5.0 nmの酸窒化膜を用い,膜中に存在する窒素の深さ 方向分析の高精度化を目的とした。測定に際しては,1 次イオンにCs+を0.5 keVの低加速エネルギーで用い,2 1次イオンの照射 質量分析 2次イオンの検出 図-6 2次イオン質量分析法(SIMS)の原理図 Fig.6-Schematic diagram for a priciple of secondary ionmass spectrometry (SIMS).
図
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 NCs+ 45° 55° 65° 75° 80° 深さ (nm) 二次 イオ ン 強 度 ( 任意 単位 ) 2 次 イ オ ン 強度 (任 意単 位 ) 図-7 酸窒化膜中の窒素の深さ方向分布Fig.7-Depth profile of nitrogen atoms in a silicon oxinitride film. (a)試料表面のSEM像(1次イオン入射角度75度) (b)試料表面のSEM像(1次イオン入射角度55度) 図-8 Cs+1次イオン照射後の試料表面のSEM像 (a)1次イオン入射角度75度;(b)1次イオン入射角度 55度
Fig.8-Scanning electron micrographs of surfaces of the samples after irradiation of Cs+ primary ions.
(a) Incident angle of primary ions: 75 degrees; (b) 55 degrees.
次イオンとしてNCs+(窒素とCs+1次イオンからなる分 子イオン)を検出した。 NCs+強度の1次イオン入射角度依存性を図-7に示す (試料法線方向を0度,垂直入射:0度)。同図において, NCs+強度は入射角度とともに増加することが分かるが, いずれの入射角度においても,わずか2∼3 nmの間に局 在する窒素の分布を的確に捉えている。1 keVを超える 1次イオンエネルギーではこうしたナノレベルの深さ方 向分析は不可能である。つぎに,Cs+1次イオン照射に 伴う,表面荒れの様子を示す。図-8(a),(b)は,それ ぞれ,入射角度を75度,55度として分析を行った後の 試 料 表 面 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 ( Scanning Electron Microscope:SEM)で観察した結果である。55度の入 射に比べ,75度の入射では,より明確に風紋状の表面 荒れが確認でき,表面荒れがより激しく起こっているこ とが分かる。したがって,入射角度を増加させると検出 感度が増加する反面,表面荒れが激しくなり,深さ方向 の分解能が低下する。図-7において75度,80度入射で 窒素濃度のピーク位置が表面方向にシフトしているのは 深さ方向の分解能の低下に起因している。これらの結果 から,精緻な深さ方向分布を得るためには,検出感度は 多少低いものの,表面荒れの小さい55度付近の入射角 度を用いる必要がある。Cs+イオンを用いた上述の分析 手法は,深さ方向の精度を特に重視したもので,その適 用には,10∼20μμμmの分析領域が必要である。より微μ 小な領域を分析するためには,収束性の高いGa収束イ オンビームを用いたSIMS技術の開発が急務と考えら れる。
電子線ホログラフィ
Pb(Ti,Zr)O3(PZT)をはじめとする強誘電体は新しい デバイス材料として脚光を浴びており,それをキャパシ タとして搭載したメモリデバイスは既にFRAMとして 発表されている(12)-(14) 。 強誘電体は分極方向が揃った強誘 電体分域構造を持つことが知られているが,この分域構 造は,通常のTEMによる結晶構造の解析では,双晶と して認識されるだけである。したがって,デバイスの キャパシタのようなミクロな領域での強誘電性評価では, 何らかの手段で電場を検知する必要がある。ここでは, その有力な評価方法である電子線ホログラフィを紹介 する。 ● 電子線ホログラフィの原理 電子線は,真空中から薄膜中や電場・磁場中を通過す ると,波長が変化する。電子線を二分割して,一方を媒Bi
Bi
Bi
Bi-
--
-prism
prism
prismの
prism
の
の役割
の
役割
役割
役割
収束レンズ 対物レンズ 試料 電子複プリズム 電子複プリズム 電子複プリズム 電子複プリズム (Bi (Bi (Bi (Bi----prism)prism)prism)prism) ホログラム スクリーン 電子銃 ホログラム 図-9 電子線ホログラフィの原理図
質(電磁場)中を通過させると,真空中を通過した電子 線との間に位相のずれを生じる。この位相のずれの大き さは電子が通過した電磁場の強さに比例する。したがっ て,位相の変化の空間的な分布は電子の位相に変化を与 える場の空間的な強度分布を表す(例えば電場の場合, 電子線の位相の変化が等しい領域は等電位面を表すこと になる)。本方法では,媒質中を通過した電子線の位相 のずれを,真空中を通過した電子線と干渉させて作られ るパターンによって表示し(ホログラムと呼ぶ),この ホログラムから位相を変化させる電磁場の強度分布を表 す像を得ることができる。従来,薄膜の高分解能の像や 磁性体の分域構造を得るための手段として応用されてき た(15)。外村は,トロイド型の磁石を用いて,円環の内部と 外部の磁場のベクトルポテンシャルによる電子線の位相 のずれを,この技法により見事に視覚化し,Arahanov-Bohm効果の実証を行って一躍有名となった(16)。強誘電体 は自発分極を持つため,試料内部では誘電体の分極方向 の相違による分域構造が,また試料の外部では双極子に よるクーロン場が形成されている。電子に対する作用は 磁場のようなベクトルポテンシャルほどには強くないが, いずれも透過する電子線に位相のシフトが生じるはずで ある(17)。したがって,強誘電体材料の評価方法として,電 子線ホログラフィが期待される。 ● 装置の構成 ホログラフィを実行する本質的に同等な方法は20種 類あると言われているが(18) ,ここでは最も一般的なoff-axis法を用いた。図-9はその構成模式図である(19)。ホログ ラフィにより電子線の位相像を得る手順の概略を以下に 述べる。 まず,本方法では,干渉性の良い電子線を得るために, 電界放射型電子銃(Field Emission Gun:FEG)が不 可欠である。 (1) FEGより放出された干渉性の良い電子線の一部分 は,試料内部もしくは試料近辺の電場を通過する。 ほかの部分は,試料から離れた空間(参照空間)を 通過する。 (2) これらの電子線は,bi-prismによって参照波と透 過波に分割されたのち,bi-prismに印加された電界 によって進行方向を偏向させられる。さらに互いに 干渉し合い,干渉波パターン(ホログラム)を形成 する。この干渉パターンを通常のTEMの場合と同様 にネガに焼き付ける。 (3) ホログラムを画像として読み込み,フーリエ変換 する。TEMの回折パターンに相当する変換像が得ら れる。 (4) アパーチャ(絞り)を用いて,フーリエ変換像の 位相部分を選択する。TEMにおいて暗視野像を得る 場合の,回折スポットを選択することに相当する。 (5) 選択した位相スポットを回折パターンの中心に移 動させ,その位相スポットのみを用いて逆フーリエ 変換する。これで電子線の位相の空間分布像が再生 できる。 100 nm (a)PZT膜および下部電極の断面TEM像 (b)(a)に対応する 電子線ホログラム (c)(b)に対応する位相像 図-10 強誘電体薄膜の電子線ホログラフィによる評価 (a)PZT膜および下部電極の断面TEM像;(b)(a)に対応するホログラム;(c)(b)に対応する位相像 Fig.10-Evaluation of ferroelectric film by electron holography.
(a) A cross sectional TEM image of the PZT film and the bottom electrode; (b) An electron hologram of correponding to (a); (c) A phase image correponding to (b).
● 強誘電体材料の評価例 FRAMキャパシタ用のPZT膜/下部電極試料の断面 TEM像とホログラフ像を図-10(a),(b),(c)に示す。 図-10(a)はTEM像,図-10(b)は図-10(a)の 電 子 線 ホ ロ グ ラ ム , 図-10(c)は,図-10(b)より 再生された位相像を表している。この試料では,図-10 (a)に示すように裏面に下部電極が残存している。 図-10(c)の再生位相像で強誘電体に接した空間部分 には,白黒のコントラストが等高線状に観察される。こ れは,強誘電体の自発分極によって空間に作りだされた 電界により,その場を通過する電子が受けた位相の変化 を表している。等高線は等電位面を示しており,空間で の電位分布が視覚化されたことになる。等電位面は強誘 電体に平行な領域では平行で,ここでは電界が比較的な だらかに変化している。また,強誘電体端では急激に変 化し,ここが双極子の一端であることを示している。以 上の結果から,このPZTキャパシタ膜には自発分極があ り,強誘電性を有することが分かる。一方,電極部分に 接した空間では,位相変化は見られない。これは,強誘 電体に接した電極の電荷は表面のみに分布して内部には 存在せず,この表面に誘起された電荷と電子線照射によ る電荷は,電極部がホルダと接続されているため,電極 部分に蓄積しないため,電界が形成されないことによる。 すなわち,残存した電極が強誘電体による電界を遮蔽し ていることが明らかになった。 以上述べたように,電子線ホログラフィでは,強誘電 体の外部で作り出された電場を視覚化することができる。 本方法では,装置上の制約や,試料作製が困難な点もあ るが,強誘電体薄膜の外部へ形成される電界そのものや 薄膜内部の誘電分域の視覚化により,実デバイスにおい ても強誘電性の有無のナノ領域での視覚化が可能であり, 強誘電体デバイス開発に強力なツールになると考えら れる。
む す び
ますます微細化が進むデバイス開発において,ナノレ ベルの分析・評価技術は,キーとなる技術の一つである。 本稿では,今後の分析ニーズを踏まえて,必要不可欠な 分析・評価技術を展望し,そのいくつかの技術に関する 著者らの取組みについて紹介した。今後,これらの要素 技術に加え,複合評価やその場評価,さらにはデバイス 動作時の評価など多様なニーズに応えていく必要がある。 参 考 文 献(1) J. J. Hren et al.:Introduction to Analytical Electron Microscopy.Prenum Press,New York,1979.
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