商標登録された「方言」

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1.目 的

近年、方言の価値が上昇している。方言は地域住民のコミュニケーションツールとし て用いられるだけでなく、その地域以外の人にも関心を持たれ、様々な分野で普及し始 めている。方言の商標登録もこの動きに該当すると想像される。例えば平昌五輪のカー リング女子日本代表の「LS北見」の選手が試合中に口にしたことで話題になり、流行語 大賞にノミネートまでされた方言の「そだねー」が、カーリングとは無関係な企業によ り商標登録申請され、波紋を呼んだことは記憶に新しい。田中ゆかり(2018)は「論点

「そだねー」方言萌えの時代」において、「「そだねー」に注目が集まり、五輪開幕後には 商標登録出願報道が相次いだことは、偶然ではない。」と述べており、方言に価値を見 出す一つの動向として、商標登録に注目している。これは方言が経済的な側面を持つと 捉えることが出来る。

商標登録されるということは経済的価値があるということだとすると、商標登録され た「方言」の数やその内容などをたどることによって、「方言」の経済的価値の推移を確 認できると考えた。本論では、そのような考えに基づき、商標登録された「方言」につ いて調査し、その種類や傾向を検討する。

2.調査概要

「Google」の検索エンジンにて「方言」「商標登録」のキーワードでアンド検索する中 で、「山本特許事務所」のブログ記事を発見した(「もしかしてあなたの故郷の方言が

…!?商標登録が生み出すブランド戦略のヒント」山本特許事務所、2013年1月24日、 最終閲覧日 2020年8月12日、http://yamamotopat.com/blog/brand-blog/dialect/)。そのブ ログ記事には方言の商標登録一覧があり、北海道から沖縄までの方言が掲載されてい た。当該ブログ記事は方言の商標登録について、一覧を用いてまとめられていたため、

今回の調査に有効であると考えた。

上述ブログ記事の裏付けと更なる詳細な分析を行うため、特許庁が推奨する商標検索 サイトである「特許情報プラットホーム」にて記事で商標登録が確認された「方言」につ

商標登録 された「 方言

益 子 有 紗

〈学生レポート〉

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商標登録 方言

いて追加調査をすることにした(特許情報プラットホーム、独立行政法人工業所有権情 報・研修館、最終閲覧日2020年8月12日、https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)。

なお、「山本特許事務所」のブログ記事は2013年に作成されたもので、2013年以降の ものが考慮されていないが、「特許情報プラットホーム」にて商品名や登録番号で検索 する方法以外は分からなかったため、今回は「山本特許事務所」ブログ記事の一覧に掲 載されているものを調査対象とした。

具体的には、ブログ記事で確認された28件の商標登録された「方言」と、それらを用 いた59件の商標登録事例を対象とした。

59件の商標登録事例について、「都道府県」「方言」「商標登録番号」「登録日」「権利者」

「権利者住所」6つの項目を「特許情報プラットホーム」で調査した。その上で、商標登 録された「方言」の意味を「意味①」として共通語にて記した。また「意味②」ではその

「方言」を如何なるときに用いるかという視点で28の「方言」を8つに分類した。分類は

「人物を表す名詞」「人称代名詞」「動詞」「形容詞」「程度副詞」「副詞・オノマトペ」「挨拶」

「フレーズ」とした。「商品」は「特許情報プラットホーム」にて詳細検索して出てきた商 品を大まかに分類した。

3.調査結果の報告

以下に「方言」の商標登録についての調査の報告をする。

まず、「山本特許事務所」のブログにて掲載されていた2013年1月24日の記事「もし かしてあなたの故郷の方言が…!?商標登録が生み出すブランド戦略のヒント」にある

「方言」の商標登録一覧をもとに、特許庁が推奨する商標検索サイトである「特許情報 プラットホーム」調査を加味した結果を表1に示す。表1の「都道府県」「方言」「意味①」

「商標登録番号」は、「山本特許事務所」のブログにて掲載されていた2013年1月24日の 記事のそれぞれ「地域」「方言」「意味」「商標登録番号」に対応し、「登録日」「権利者」「権 利者住所」は「商標登録番号」を手掛かりに実施した「特許情報プラットホーム」調査に より追加したものである。表1の「地域」「意味②」「商品」は、筆者が追加または分類の 上追加した。「なお、商標登録された「方言」は、フレーズや挨拶を除くとそのほとんど が共通語形と形式の異なる語彙である俚言だが、本稿内では区別せず「方言」と総称す る。

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  表1.「方言」商品登録事例59件の分類

地域 都道府県 ⽅⾔ 意味① 意味② 商標登録番号 登録⽇ 権利者 権利者住所 商品

登録第5102240号 2007年12⽉28⽇ 株式会社⼠幌町物産振興公社 北海道河東郡⼠幌町 ⾷品類 登録第5023811号 2007年2⽉9⽇ 前⽥ 裕治他 北海道河東郡⼠幌町 ⾐類 登録第1042071号 1973年11⽉8⽇ ⽩梅酒造株式会社 弘前市 酒類

登録第1200205号 1976年5⽉20⽇ 株式会社菊冨⼠ 弘前市 ⾷品類

登録第1804588号 1985年9⽉27⽇ 株式会社はとや製菓 ⻘森市 ⾷品類

⼭形県 初会/あ・あい こんにちは 挨拶 登録第4886857号 2005年8⽉12⽇ ⽶沢商⼯会議所 ⼭形県⽶沢市 酒類

関東 群⾺県 おったまげた 驚いた 動詞 登録第4924302号 2006年1⽉27⽇ ⼤⽟村商⼯会 福島県安達郡⼤⽟村 ⾷品類

登録第2201912号 1990年1⽉30⽇ 有限会社丸⻑商事 ⽯川県⽩⼭市 ⾷品類 登録第5204894号 2009年2⽉20⽇ 有限会社丸⻑商事 ⽯川県⽩⼭市 広告

⽯川県 あんやと ありがとう 挨拶 登録第5368801号 2010年11⽉19⽇ 有限会社美川タンパク ⽯川県⽩⼭市 ⾷品類

⻑野県 やくやく わざわざ オノマトペ・副詞 登録第5367399号 2010年11⽉12⽇ 株式会社フォーチュン 東京都中央区 広告 登録第4538973号 2002年1⽉25⽇ 株式会社⼤須ういろ 名古屋市 ⾷品類 登録第4565184号 2002年5⽉10⽇ はざま酒造株式会社 岐⾩県中津川市 酒類

登録第2385821号 1992年2⽉28⽇ 株式会社伴市 京都市 ⾐類

登録第2519385号 1993年3⽉31⽇ 宝ホールディングス株式会社 京都市 ⾷品類 登録第4338206号 1999年11⽉26⽇ ⼭野酒造株式会社 ⼤阪府交野市 酒類 登録第4368512号 2000年3⽉17⽇ ⼤阪府交野市 東京都中央区 肥料 登録第4416198号 2000年9⽉8⽇ 株式会社オデッセウス出版 東京都⽂京区 書籍 登録第4995211号 2006年10⽉13⽇ 株式会社アルファブランカ 京都市 ⽣活⽤品 登録第2446344号 1992年8⽉31⽇ 株式会社⽇清製粉グループ本社 東京都千代⽥区 ⾷品類

登録第4713104号 2003年9⽉26⽇ 福徳⻑酒類株式会社 東京都港区 酒類

登録第5132611号 2008年5⽉2⽇ ブリヂストンサイクル株式会社 埼⽟県上尾市 ⽣活⽤品

登録第4213653号 1998年11⽉20⽇ 株式会社ベル玩菓 ⼤阪府東⼤阪市 ⽣活⽤品

登録第4691596号 2003年7⽉11⽇ ⽇清⾷品ホールディングス株式会社 ⼤阪府⼤阪市 ⾷品類 登録第4793857号 2004年8⽉13⽇ 株式会社メディアコマース 東京都墨⽥区 ⾷品類

登録第1391500号 1979年9⽉28⽇ 合同酒精株式会社 松⼾市 ⾷品類

登録第2633096号 1994年3⽉31⽇ 株式会社ホタルクス 東京都港区 電⼦機器

登録第2657883号 1994年5⽉31⽇ 株式会社茶三代⼀ 出雲市 ⾷品類

登録第4360148号 2000年2⽉10⽇ ⻑島研醸有限会社 ⿅児島県出⽔郡⻑島町 酒類

登録第4790088号 2004年7⽉30⽇ 中村 忠正 ⼭⼝県阿武郡むつみ村 ⾷品類

登録第1344328号 1978年9⽉19⽇ 株式会社⾖⼦郎 ⼭⼝県⼭⼝市 ⾷品類

登録第4837386号 2005年2⽉4⽇ 株式会社本多屋 ⼭⼝県⼭⼝市 ⾷品類

登録第5069831号 2007年8⽉10⽇ 有限会社 スミヤ ⼭⼝県周南市 ⾷品類

登録第2200753号 1989年12⽉25⽇ 株式会社安永商会 熊本県熊本市 ⾷品類

登録第4450807号 2001年2⽉2⽇ 株式会社アド・スカットシステム 熊本県熊本市 電⼦機器 登録第3309443号 1997年5⽉23⽇ 宗政酒造株式会社 佐賀県⻄松浦郡有⽥町 酒類

登録第4196771号 1998年10⽉9⽇ 森永製菓株式会社 東京都港区 ⾷品類

佐賀県 がばい とても 程度副詞 登録第5036807号 2007年3⽉30⽇ 天⼭酒造株式会社 佐賀県⼩城郡⼩城町 酒類

登録第5235659号 2009年6⽉5⽇ 有限会社岩⾒商事 ⼤分県別府市 ⾐類

登録第5385636号 2011年1⽉21⽇ 株式会社アールズカンパニー 東京都練⾺区 ⾷品類

よだきい ⾯倒くさい 形容詞 登録第4502046号 2001年8⽉31⽇ 萱島酒造有限会社 ⼤分県国東市 酒類

てげてげ 適当に/ほどほどに 程度副詞 登録第4618210号 2002年11⽉1⽇ ⼩倉ホールディングス株式会社 東京都港区 酒類

⼤分県 いいちこ 良いですよ フレーズ 登録第1495849号 1982年1⽉29⽇ 三和酒類株式会社 ⼤分県宇佐市 酒類

登録第4740785号 2004年1⽉16⽇ ⿅児島パールライス株式会社 ⿅児島県⿅児島市 ⾷品類 登録第4824236号 2004年12⽉10⽇ 有限会社WECAN ⿅児島県⿅児島市 ⾷品類

登録第4922554号 2006年1⽉20⽇ 有限会社チャンプ ⿅児島県⿅児島市 酒類

なんくるないさ 何とかなるさ フレーズ 登録第5121865号 2008年3⽉21⽇ 有限会社ミルク情報グループ 沖縄県那覇市 ⽣活⽤品 登録第4474021号 2001年5⽉11⽇ 株式会社エヌエイチケイソフトウエア 東京都渋⾕区 ⾷品類 登録第4474022号 2001年5⽉11⽇ 株式会社エヌエイチケイソフトウエア 東京都渋⾕区 酒類 登録第4474023号 2001年5⽉11⽇ 株式会社エヌエイチケイソフトウエア 東京都渋⾕区 酒類

登録第2499673号 1993年1⽉29⽇ 南⾵堂株式会社 ⽷満市 ⾷品類

登録第4252312号 1999年3⽉19⽇ 有限会社沖縄⻑⽣薬草本社 沖縄県南城市 ⾷品類

登録第4579304号 2002年6⽉21⽇ 株式会社宮崎本店 三重県四⽇市市 酒類

登録第2480712号 1992年11⽉30⽇ 株式会社海⼈ 那覇市 書籍

登録第4479463号 2001年6⽉1⽇ 株式会社トリビー 東京都新宿区 電⼦機器

登録第4479486号 2001年6⽉1⽇ 株式会社梅信 ⽯川県河北郡内灘町 ⽣活⽤品

登録第5065337号 2007年7⽉27⽇ 有限会社ベル ⼤分県⼤分市 ⽣活⽤品

登録第5113976号 2008年2⽉29⽇ 新垣 篤志 沖縄県中頭郡読⾕村 ⾐類

登録第4921694号 2006年1⽉13⽇ 株式会社ユニバーサルエンターテインメント 東京都江東区 電⼦機器 北海道 なまら とても/すごく

⻘森県 じょっぱり 意地っ張り/頑固者

富⼭県 きときと 新鮮な

愛知県 やっとかめ 久しぶり

京都府

はんなり 落ち着いた華やかさを 持つ様

ほっこり いかにも暖かそうな様

⻑崎県 せからしか しつこい/うざったい

べっぴん 美⼈

島根県 だんだん ありがとう

⼭⼝県 おいでませ いらっしゃい

⼤阪府

おおきに ありがとう

なんでやねん どうして?/あり得な

熊本県

もっこす 意地っ張り/頑固者 とっとっと 取ってあるよ

宮崎県

⿅児島県 おいどん ⼀⼈称の⼈代名詞。わ がはい。

沖縄県

ちゅらさん 美⼈

めんそーれ いらっしゃい

海⼈ 漁師

ハイサイ こんにちは/元気にし てる?

程度副詞

⼈物を表す名詞

オノマトペ・副詞

挨拶

オノマトペ・副詞

オノマトペ・副詞

挨拶

挨拶 フレーズ

⼈物を表す名詞

挨拶

挨拶

⼈物を表す名詞 フレーズ

形容詞

⼈称代名詞

⼈物を表す名詞

挨拶

⼈物を表す名詞 九州

北海道

東北

中部

近畿

中国

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商標登録 方言

表1をもとに方言の商標登録について分析を行った結果を報告する。

まず、表1から読み取れる地域ごとの「方言」の商標登録の特性についてである。表1 の「地域」は各方言を地方区分で分類したものである。28件ある「方言」の商標登録の内、 13件が九州地方の方言であり、地方による大きな偏りがみられる。また近畿地方も九 州地方に続いて5件の方言が商標登録されており、九州地方と近畿地方を合わせて6割 以上を占めている。反対に北海道地方と関東地方はそれぞれ1件と少ない結果であった。

四国地方の方言の商標登録は今回の調査では0件であった。

また1973年〜2013年における方言の新規商標登録数の推移を地方区分とともに示し たものが図1である。5年ごとの推移を図にしたが、ブログ記事が2013年のものである ため、2010年から2013年は3年間のデータである。また、図中の数値は度数である。

1980年代までの新規登録「方言」は、1〜3件で推移するが、1990年代以降は5件を超 える。更に、2000年代に入ると新規登録件数が急増する。2000年から2004年にかけて 20件が登録、また2005年から2009年にかけて16件が登録されている。他の期間と比べ て以上の2つの期間は新規商標登録数の増加が著しい。しかし2010年〜2013年にかけ ての新規登録数は、他より期間が短いことを考慮しても、前期・前々期に比較して少な い。

1 2

1 1 1

1

1 2

1

2

1 4

2 5

2 1

1

2 2

1 1

2

3 11

7

1

0 5 10 15 20 25

年代

1973年~2013年における「方言」の新規商標登録数(地域内訳付)

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 九州

1970~1974 1975~1979 1980~1984 1985~1989 1990~1994 1995~1999 2000~2004 2005~2009 2010~2013

図11973年〜2013年における「方言」の新規商標登録数(地域内訳付)

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続いて、各年代における地方別の新規登録数に注目する(図1)。1980年代までに登録 された7件の内、3件が東北地方、2件が九州地方である。東北地方は全ての年代におけ る「方言」の商標登録件数の合計が4件であるが、その内3件がこの年代に集中してい る。1990年代に入ると、九州地方の他、近畿地方の登録数が伸びている。登録数が急増 した2000年代は、近畿地方と九州地方の登録数が目立つ。新規登録件数が最多である 2000年から2004年にかけて、北海道地方・東北地方・関東地方の3地方は登録がなさ れていない。

続いて商標登録された「方言」の「意味②」の内訳を図2にて示す。

28件の商標登録された方言の内、8件が「挨拶」に分類され、最多であった。また「人 物を表す名詞」が5件と2番目に多い。「動詞」と「人称代名詞」はそれぞれ1語のみと少 ない。

次に、商標登録された商品を分類した結果を示す(図3)。図3は、表1における59件 の商標登録された商品を分類したものであり、図中の数値は度数である。商品分類の観 点からは、食品類が圧倒的に多く全体の42%を占める。次いで酒類が多くその割合は 25%であった。食品類と酒類を合わせて全体の7割弱を占めており、「方言」の商標登録 商品は飲食系の商品名に採用される傾向が強いことが読み取れる。

挨拶, 8

人物を表す 名詞, 5

オノマトペ・副詞, 4 フレーズ, 4 程度副詞, 3 形容詞, 2

人称代名詞, 1

動詞, 1

商標登録された「方言」の意味②による分類(n=28

図2 商標登録された「方言」の「意味②」による分類(n=28)

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商標登録 方言

4.先行研究を踏まえた調査結果の解釈

田中ゆかり(2016)では、日本語社会における「方言」に対する関心の程度を、「方言」 をキーワードにする新聞の記事件数の推移を示した上で、以下のような解釈を示してい る。

多少の違いはありますが、「方言」を含む記事等の件数はどちらの社も似たよう な推移を示しています。九〇年代に少し件数が増え、中頃までは横ばい、九〇年代 後半から飛躍的に増加し、二〇〇六年から〇七年にピークを迎えます。ピーク期は 二〇〇五から〇六年にかけての「方言ブーム」を反映したものと解釈されます。

これによれば、新聞記事における「方言」記事件数のピーク期は2006年から2007年 にかけてである。しかし、「方言」の新規商標登録件数は、図1で示したように2000年 から2004年の期がピークとなっており、新聞記事よりやや早いピーク期を迎えている。

一方、1990年代後半から増加していること、参考データではあるが、2010年からの期に 減少へ転じていく様子は似ている。このことから、「方言」の新規商標登録件数は、「方

食品類, 25

酒類, 15 生活用品, 6

衣類, 4 電子機器, 4

広告, 2

書籍, 2 肥料, 1

「方言」の商標登録における商品内訳(n =59

図3 「方言」の商標登録における商品内訳(n=59)

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言」に対する関心の高まりが影響していると考えられる。これは、商標登録件数が「方言」 の経済的価値を測る指標の一つであることを示すものと解釈できる。

前述したように1973年〜2013年における「方言」の新規商標登録数のピーク期である 2000年〜2004年は、日本の8つの地方区分の内、4つの地方のみが商標登録を行っている。

4つの地方とは今回商標登録のデータが得られなかった四国を除いた、中部地方以西の 地方だ。しかし2005年〜2006年の「方言ブーム」や、2006年〜2007年の新聞記事にお ける「方言」記事件数のピーク期を含む、2005年〜2009年の「方言」の新規商標登録は、

登録数こそ前期に及ばないが、7つの地方が商標登録をしている。四国を除いた全ての 地方が商標登録を行っている。これは「方言」の経済的価値の高まりと共に、商標登録 を行う動きが全国区に拡大したと読み取れる。

また、図2の商標登録された「方言」の分類において最多であった「挨拶」の内訳をみ ると、「ありがとう」に相当することばが3つ、「いらっしゃい」に相当することばが2つ、

「こんにちは」に相当することばが2つ、「久しぶり」に相当することばが1つであった。

「挨拶」は、高頻度で用いる日常語と想像されるもので、かつ、他の地方の人にでも概 ね理解されると想像される「有名な語」という傾向がみられた。図2において2番目に多 く分類された「人物を表す名詞」では、「美人」と「頑固者」という意味がそれぞれ2つず つ該当した。これらは「挨拶」のように毎日使う日常語ではないが、他の地方の人でも 何となく聞いたことのあるようないわゆる「有名な方言」と想像される。

図3の「方言」の商品登録における商品内訳には食料品や酒類が多くみられることか ら、これらは地域の土産物や地酒に用いられていると推測できる。地域のアピールの場 として、「方言」が有効に使われているのである。特産物は他の地域でも作られること があるのに対し、「方言」はその地域独自の個性である。「方言」によって他との差異化 を図り、地域の人たちにとっては、より自分たちに馴染みのある商品に、また他の地域 の人たちにとってはご当地名産品としての価値を高めている。

しかし、表1の中にはある地域の「方言」をその地域以外の団体や個人が商標登録申 請したものが存在する。京都の「べっぴん」や大阪の「おおきに」、沖縄の「めんそーれ」

等がその例である。「べっぴん」に関しては東京の会社が電子機器での商標登録を得て いる。ここでの電子機器とはヘアアイロンなどの美容機器であった。製品を使用するこ とで京美人(べっぴん)になれるという誘い文句なのであろう。それらはいずれも「方 言」の認知度が高いという特徴がある。「方言」の価値の高まりに乗じて他県から申請が 出されるほど、その土地の「方言」には需要があることが想像される。

5.おわりに

ここまで、1973年から2013年までに商標登録された「方言」について新規登録された 年代や地域、意味や商品等の観点から分析を行った。意味の観点からは、挨拶のことば や人を表すことばが数多く商標登録され、商品の観点からは食べ物や酒などが多かっ

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商標登録 方言

た。また、新規登録の時期の観点からは2005年〜2006年の「方言ブーム」と同時期に、

「方言」の商標登録もピーク期を迎えており、日本語社会における「方言」への関心の高 まりに伴って商標登録件数が増加したことが確認された。今日においても「方言」を経 済的に利用する動きは、平昌五輪の例を見てもなお盛んであると考える。2013年以降の データは今回未調査であるため今後の課題となるが、2020年までのデータを見ることで より正確な推移と傾向をつかみ、近年の方言の新たな価値を見出すことが出来るだろ う。

[付記]

本稿は、2020年度前期開講の「現代日本語学1」(田中ゆかり担当)の最終課題として提出した ものに大幅な加筆・修正を加えたものである。

[文献一覧]

田中ゆかり(2016)『方言萌え!?―ヴァーチャル方言を読み解く』岩波書店

田中ゆかり(2018)「論点「そだねー」方言萌えの時代」読売新聞解説面(2018年5月25日)

(ましこ ありさ、本学国文学科2年生)

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