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プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム―恒常的な企業活動とプロジェクトのMCSの整合的な連動―

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Ⅰ はじめに. エンジニアリング企業は,顧客の求めに応じ, プラントあるいは工場の設計,調達,制作,建設, 試運転などの全部または一部を提供することを もって業務とし,その業務の範囲は,顧客との 間の契約によって定められる(玉置,1997). いわゆる受注産業である. そして,顧客との契約は,それぞれにサービ スの範囲が異なるためオーダーメードとなり, プロジェクトの規模,期間,必要な技術や人員 数が個々にユニークとなる.そして,受注企業 は,プロジェクト組織や専属組織を組成し,契 約に定められた納期に納入することを目指し, 大規模プロジェクトの多くは数年をかけ契約の 履行にあたる.日本においては,プラント・エ ンジニアリング企業,重工業企業,造船企業な どが,その代表である. 本稿では,このようなプロジェクトが企業活 動の主要なビジネスを占める企業を「プロジェ クト型ビジネス」と定義する.また,「プロジェ クト型ビジネス」においては,個々のプロジェ クトが,それぞれにユニークな条件や目的をか かげる.そして,所期に定めた利益目標を維持 向上することを与件に,プロジェクトの遂行を 開始する.顧客との契約形態にもよるが,プロ ジェクトごとの予算は,その開始時に,プロ. ジェクト完了までに懸念される内外の影響要因 を可能な限り見据え作成される.言い換えれば, 場合によっては数年先のプロジェクト完了時ま でにかかるコストを予測し,個々のプロジェク トが生み出す最終的な利益をコミットする.こ のため,個々のプロジェクトにおいては,極端 にいえば,プロジェクト完了までのアクティビ ティーの最適化が適宜図られ,年単位での利益 よりは,むしろプロジェクトの完了時に所期の 利益を達成することに価値や目的を置く傾向が 強くなる. 当然であるが,このようなプロジェクト型ビ ジネスにおける企業経営おいても,他の業種と 同様に決算期ごとに複数のプロジェクトの損益 が集計され,経営計画との比較からステークホ ルダーにより評価される.それと同時に,次期 の経営計画を定めるといった経常的な企業活動 が行われる. プロジェクト型ビジネスでは,企業経営が要 請する全社視点での管理会計と個々のプロジェ クトにおける管理会計の双方のマネジメント・ コントロールが求められる.本稿では,双方に 重要視される異なる価値観や視点があることを 指摘する.例えば,企業経営の視点では,年次 の業績に価値の基準が置かれる.また,企業経 営の資源配分では,ステークホルダーにコミッ トした事業ポートフォリオに沿った最適な資源. プロジェクト型ビジネスにおける マネジメント・コントロール・システム. ──恒常的な企業活動とプロジェクトのMCSの整合的な連動──. 髙 市 豊 義. 84 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). 配分が考察される場合が多い.一方で,プロ ジェクトではその完了時の予定通りの業績が価 値判断の全てであることが多いなどである. また,この領域に関連する既存研究の代表例 として,櫻井(2015)の管理会計論があげられる. 本著においても経営計画と統制側面からのマネ ジメント・コントロールにおけるプロジェクト の位置づけをその第一章に取り上げ,経営にお けるマネジメント・コントロールとしてのプロ ジェクトの存在を明示しているが,プロジェク ト型ビジネスにおける,企業経営と個々のプロ ジェクトのマネジメント・コントロールの整合 性については言及されていない.櫻井(2015), 伊藤(2008)他にも,本稿の目的に関連し.着 目する先行研究はあるが,実務的にも適応する マネジメント・コントロール理論の補強が必要 であると考える. 筆者は,長年エンジニアリング会社に勤めた 実務家の経験から既存のプロジェクトの管理会 計と経常的な企業経営が要請する全社視点での 管理会計の整合的な連動はいかにあるべきかの 理論化には発展の余地があると考える.同時に, 既存理論においても,それぞれに最適化をする ための管理会計の理論は存在するものの,双方 が整合的に連動することに焦点をあて,かつ実 務面で実効性のある既存研究は,筆者が認識す る限りみあたらないことから,本領域の考察を 深める価値があると考えている. これらを踏まえ,プロジェクト型ビジネスに おけるマネジメント・コントロールの特性や課 題領域を明らかにすることを本稿の目的とす る. 具体的には「Ⅱ プロジェクト型ビジネス の生成とプロジェクトの特性」では,プロジェ クト型ビジネスの生成の過程を概観しプロジェ クトの特性を述べる.そして「Ⅲプロジェクト 型ビジネスにおけるコントロール・システムの 理論化の必要性」および「Ⅳ プロジェクトの 管理会計」にて,プロジェクト型ビジネスのマ ネジメント・コントロール・システムには,恒 常的な企業としての側面と個々のプロジェクト. の側面の両面があり,双方の相違と整合的な連 動の必要性から課題を考察する. なお,本稿での研究の対象を「企業の主要な 事業活動をプロジェクトが占める」と特定した 表現をした理由は,企業規模や事業領域の広範 な企業には,様々なマネジメント・コントロー ル・システムが混在するためである.例えば, 製品やサービスを提供する企業において「日々 類似した企業活動を行う傾向がある組織」をマ ネジメント・コントロール・システムに据えた 代表的な企業であっても,製品開発などプロ ジェクト型のビジネスを保有している企業はあ る. 一方で,建設業やエンジニアリング産業など において「プロジェクト」が束になり企業活動 の中心に据えられる企業であっても,製品や サービスの販売といった日々類似した企業活動 も少なからず存在するため,“主要” と定義し た.. Ⅱ �プロジェクト型ビジネスの生成とプロジェ クトの特性. 1 プロジェクト型ビジネスの生成 プ ロ ジェク ト と は, 特定使命(Project Mission)を受けて,資源,状況などの制約条 件(constraints)の も と で の,特定期間内 に 実施 す る 将来 に 向 け た 価値創造事業(Value Creation Undertake)であり,プロジェクトの 基本属性として,独自性,有期性,不確実性と いった特性を有する(日本プロジェクト・マネ ジメント協会,2008;以下 P2M(2008))であ り,プロジェクトを組成し遂行したであろうと 想像できる事業には,古代にはエジプトのピラ ミッド建設や中国の万里の長城の建設などが想 起される. 近年ではアポロ計画などがあてはまる.近代 では,テイラーの科学的管理手法に基づいた生 産性向上の実験などが行われてきたが,それは, 製造プロセスにおける試みであり,近代的なプ ロジェクト・マネジメントは,第二次世界大戦. (336). 85プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). 前になり顕在的に発展してきた.例えば,1930 年代の「テネシー河の開発計画」や 1940 年代 の「マンハッタン計画」での国家プロジェクト でのシステマティックなプロジェクト・マネジ メント手法がされた大規模な事業である.これ らは,いわゆる国家プロジェクトといえる. そして,近年,プロジェクト型ビジネスとし て産業レベルにまで発展した代表例として,エ ンジニアリング産業がある.エンジニアリング 産業のその生成過程を例として概観する. エンジニアリング産業は,1920 年代から, 欧米を中心に,大規模な建設工事や複雑な化学 工場の建設等を目的とし,必要な要素技術や知 識を集約したプロジェクト型ビジネスを主要な 企業形態とするエンジニアリング企業が起業し たものである.そして , 第二次世界大戦後,エ ンジニアリング企業が産業として認知され急速 に発展した.例として,国策として誕生した欧 州のエンジニアリング企業があげられる.例え ば,イタリアやフランスでは石油工業や天然ガ ス工業の育成を標ぼうしたエンジニアリング企 業が誕生したが , それらにはプラントの設計か ら建設までを一貫しておこなう能力を持つ企業 もあれば,国境を越えて各社の間で業務範囲を 分担し,または協業してプロジェクトを遂行す る企業群も現れている(玉置,1977, p. 154.). エンジニアリング企業の生成過程は,いくつ かの特徴的なパターンがみられる.石油化学企 業から分離独立した企業群や建設業から発展し た企業群等である(玉置,1977, pp. 147─153.). 生成時 に は,石油企業,化学企業,建設企業, 機器製作企業,造船企業などから,その一部が エンジニアリング企業として分化し,プラント のプロセスの開発,設計,建設を業務とする新 しい産業分野を形成した.そして,1970 年頃に は,分化とは逆に統合する動きが見られた.そ れは,①国際的な統合,②コングロマリットへ の吸収合併,③エンジニアリング企業の多角化 乃至は複合化という統合(Integration)の 2 つ の型があった(玉置,1977, pp. 154─155.)と指. 摘される. このような過程を経て,単一のプロジェクト の完成を目的とするのではなく,経常的な企業 活動として,恒常的に複数の大規模工事やプラ ントの建設を含むプロジェクトの遂行を目的と する,エンジニアリング企業は生成された.. 2 プロジェクトの特性 プロジェクト・マネジメントの知識体系と して実務家の間で広く利用されている「プロ ジェクト & プログラムマネジメント標準ガイ ドブック」(P2M, 2008)によれば,プロジェ ク ト は,「①立 ち 上 げ(initialize), ②計画. (planning),③実行 (executing), ④監視・コ ントロール(monitoring and control),⑤終了. (closing)」(P2M, 2008)の 5 段階のプロセス で実行される. さらに,それぞれのプロセスにおいて必要な 知識領域は「①統合管理,②スコープ管理,③ 時間管理,④コスト管理,⑤品質管理,⑥人的 資源管理,⑦コミュニケーション管理,⑧リス ク 管理,⑨調達管理」(P2M, 2008)に 分類 さ れるという(P2M, 2008). また,「プロジェクト(project) とは,特定使 命(Project Mission) を受けて,資源状況など の制約条件(constraints) のも とで,特定期間 内に実施する将来に向けた価値創造事業(Value Creation Undertaking) 」(P2M, 2008)で あ る との定義自体が,プロジェクトの特性を表現し ている.特定使命とは,プロジェクトごとに明 示化された期待される目的である.したがっ て,プロジェクトは制約条件と特定期間の中で 特定使命を果たすことが要請される存在である と言える.プロジェクトは,有期性をもち,非 反復的であり個別性があることから,プロジェ クトには個別性,差別性,革新性など多様な非 定型性が指摘される(P2M, 2008).言い換えれ ば,全く同一の環境下で,同一時期に,同一の 方法や組織で反復的に遂行される同一内容のプ ロジェクトは存在しないということである.. (337). 86 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). そして,プロジェクトは,非反復的であり特 殊な条件や状況を想定して実行される事業であ ることから,不確実性を伴う.この不確実性に よって,また,遂行期間に生じる想定外の事象 や予測不可能な環境変化などのさまざまなリス クにさらされる. つまり,プロジェクトは,特定使命をもつ価 値創造事業であり,そして,プロジェクトは, 個別性,有期性,不確実性の基本属性としての 特性をもつ(P2M, 2008)と要約される.. Ⅲ �プロジェクト型ビジネスにおけるコント ロール・システムの理論化の必要性. プロジェクト型ビジネスにおけるコントロー ル・シ ス テ ム に つ い て,マ ネ ジ メ ン ト・コ ントロール・システムの代表的な理論である Anthony and Govindarajan の著書「Management Control Systems」における,経常的な企業活動. (Ongoing operation)とプロジェクトにおけるマ ネジメント・コントロール・システムの相違点 の特徴を,森口(1995)の視点を通じ,実務面で の例を考察する(Anthony and Govindarajan , 2007, pp. 721─733;森口,1995). 第 1 に,プロジェクトの目的は通常一つであ るが,これに対して,経常的活動は多数の目的 をもつ(森口,1995). 経常的活動の組織における管理者が行う意思 決定は,無期限の将来にわたって活動に影響を 与える.これに対して,プロジェクトの管理者 もまた将来に影響を与える意思決定を行うが, その期限はプロジェクトの終了までの有期であ る.さらにプロジェクトの業績は,所期の最終 結果に基づいて判断することができるが,経常 的活動の業績は管理者が達成するすべての結果 によって判断されるため,その結果の一部は将 来の 1 年以上が経過するまでわからない場合が ある(森口,1995). また,プロジェクト型ビジネスにおける企業 経営者と,プロジェクトのマネジメント・コン トロールを担う責任者(一般的には,プロジェ. クト・マネジャー)の目的に相違が生じること は想像に難くないだろう.例えば,企業経営者 は,ある年次における経営計画における予算を 策定し,予算を遵守しようとする一方で,複数 年におよぶプロジェクトの予算をコントロール するプロジェクト・マネジャーは,会計年次に おける利益以上に,プロジェクトの完了時での 予算(ひいては利益)に意思決定の目的が定め られる傾向がみられるといった例があげられる と考える. 第 2 にプロジェクトの組織は経常的な企業活 動に内包され,そのマネジメント・コントロー ル・システムも同様に内包される.こうした組 織構造は,プロジェクトの組織と経常的活動の 職能別組織との間に満足すべき関係を確立しな ければならないという(森口,1995).経常的 活動の組織には存在しない問題を引き起こす. 具体的には,プロジェクトの組織のメンバーの 多くは,経常的活動の組織の管理者とプロジェ クトの管理者の両者に二重の責任をもつ.この ようないわゆるマトリックス組織が,さまざま な問題を生じさせるため,これらを解決しなく てはならない.そして,プロジェクトは,完全 に同一の条件を前提に遂行されるものはないた め,固有性がある.個々のプロジェクトに合致 する特殊なマネジメント・コントロール・シス テムをオーダーメードで設計しなければなら ず,さらにそれを,重要な点において経常的活 動の組織のシステムと整合させられなければな らない(森口,1995). 例えば,プロジェクトの設計段階,設計に基 づく調達段階,調達した機器資材の据え付けや 工事の段階において,必要とされる技能や技 術は変化する.また,プロジェクトの遂行段階 に必要な機能や経営資源は,恒常的な組織から 個々の複数のプロジェクトに割り当てられる. 仮に,同時期に同じ機能の経営資源を割り当て る必要性が生じた場合,優先順位が検討され, マトリクス組織が問題を生み出す. さらに,経常的な企業活動と個々のプロジェク. (338). 87プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). トのマネジメント・コントロール・システムは, 一様ではなく,個々のプロジェクトごとにオー ダーメードで整合を図る必要があると考える. 第 3 に,プロジェクトのコントロールがプロ ジェクトに定められた全期間に焦点をあてるのに 対して,経常的な企業活動のマネジメント・コン トロールは,特定の会計期間に焦点を当てる. また,プロジェクトの目的は,極端にいえば, 特定のプロジェクトが最適の原価で満足のある 製品を生産することにあるので,範囲(品質)・ スケジュール(納期)・原価の 3 つの統制側面 に焦点が当てられる(森口,1995).これに対 して,経常的な企業活動を行う組織における統 制は,特定の一部のプロジェクトのみならず, 一定の期間の活動と,その期間に作られたすべ ての製品とに焦点をあてる.そして,経常的活 動のマネジメント・コントロールの主な焦点は 原価にあり,品質と納期は例外基準に基づいて 処理される傾向がある(森口,1995). 第 4 に,プロジェクトは通常,範囲・納期・ 原価の間でのトレード・オフに関係している. すなわち,原価はプロジェクトの範囲を狭める ことで引き下げることが可能であり,納期は残 業代を負担することで縮めることが可能である といった関係にあるのである.同様のトレー ド・オフの関係が経常的活動の組織においても 生じるが,それらはそのような組織における 日常的な活動の典型的なものではない(森口, 1995). 第 5 に,業績測定面では,経常的な企業活動 の組織と比べて,プロジェクトにとっての業績 測定には信頼性が低い傾向がある.あるプロ ジェクトのスペックとプロジェクトを作り上げ る方法は,他のプロジェクトのものと類似して いるとしても,汎用性が乏しいため,その設計 は文字どおり一度だけしか用いられない.その ため,プロジェクトを遂行した結果得られる実 績もプロジェクトに固有のものとなる.反復的 な活動に対する基準は,過去の経験あるいは最 適な時間と原価の工学的分析から作成される.. これに対して,典型的なプロジェクトは歴史的 な情報がたいして役に立たないほど全く異なる ことから,その独特な特徴のための基準をつ くっておかなければならないと森口(1995)は 指摘する. これは,前述の通り個々のプロジェクトがユ ニークな特性をもつことから,プロジェクトの 業績(利益)を他のプロジェクトと比較して算 定する信頼性に乏しいということである. また,例えば,同一内容のプロジェクトを過 去に遂行した経験があっても実行される時期や プラントであれば建設地の違い,社会的な制約 条件の異なり,カントリーリスクの違いなど, 外部環境の違いから見込まれる業績の前提条件 も個々のプロジェクトによりユニークというこ とである.一般的に,時期が異なれば,物価の 上下,為替の変動,スキルをもった労働力動員 などから影響を受ける.また,天候の異なる地 域でのプロジェクト遂行,紛争の懸念のある地 域か否か,などによる社会的な制約やカント リーリスクが異なる.また,テロや天災の発生 などの偶発的な事象もプロジェクトに影響を与 える. 第 6 に,プロジェクトの遂行計画は,頻繁に そして大幅に変更される傾向がある.たとえば, 建設プロジェクトにおける予測不能な環境条件 や,コンサルティング契約期間中に発覚した予 期せぬ事実によって計画に変更がもたらされ る場合がある.また,ある研究・開発プロジェ クトにおける調査研究のある 1 つの段階の成果 が,それ以後の段階のために当初計画されてい た仕事を完全に変えてしまう場合もある.経常 的活動において,このような変更は頻繁には行 われない(森口,1995). 例えば,米国 9.11 テロや中東の緊張による スエズ運河の閉鎖懸念による輸送への影響,降 雨災害や地震天災などにより,予定のアクティ ビティーが阻害されることや,数年のプロジェ クトの遂行期間のある時点で,顧客による仕様 や設備の変更がなされるなどが近年の事例とし. (339). 88 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). てあげられる.本年の新型コロナによる国境を またぐ人や物品の移動制限は,それ以前に開始 されたプロジェクトの所与の想定には含まれな い外部環境の変化であろう. 第 7 に,プロジェクトの周期は経常的活動の 周期とは異なっている.ほとんどのプロジェク トは小さく始まり,次第に大きくなって活動の 最高点へと達し,それから完了間近になるにつ れて小さくなりやがて完了となる.経常的な組 織活動は同じレベルでの取り組みが長期にわた り続けられ,場合によっては,(経営方針の変 更等により)方向が変わる傾向がある(森口, 1995). 経常的な組織では,一定のレベルでの組織活 動が長期的に行われることが多いが,プロジェ クトでは,遂行期間のそれぞれの時点におい て,時期により投入される人員の量やアクティ ビティーの質量が変化するため,平準的なアク ティビティーは継続せず,加えて,経常的組織 の永続性とプロジェクトの有期性の違いによ り,活動の周期に違いが生じるのはないかと考 える. 第 8 に,プロジェクトは経常的活動の組織よ りも外部環境の影響を大きく受ける傾向があ る.生産活動は環境から守るために壁や屋根で 覆われた工場内で行われるのに対して,建設プ ロジェクトは屋外で行われ,気候やその他の地 理的な条件に影響を受けやすい(森口,1995). 第 9 に,多くのプロジェクトのための資源は プロジェクトが遂行される場所に運ばれる.生 産ラインの作業者たちは自分たちのところへ運 ばれてきた材料を用いるが,建設プロジェクト の作業者たちはプロジェクトの現場まで赴く. そして,工場などでの生産活動とは異なり,建 設プロジェクトに必要な,在庫品ではないユ ニークな資材を建設地に輸送しなければならな いことから生じる,ロジスティックスの問題を 抱える(森口,1995). この相違は,輸送船舶の運航遅延,大型機器 の輸送における輸送手段の手配により問題を生. じさせる可能性があり,最近でいえば,米国に よる中国品の輸入制限などもこの例にあてはま るであろう. 以上の 9 つの特徴について,森口(1995)は, Anthony の論における,経常的活動のマネジ メント・コントロールとプロジェクトのマネジ メント・コントロールの相違点について,また, プロジェクトのマネジメント・コントロールの 問題に関して,表 1 のとおりにまとめている. 森口(1995)は,これらの相違点について, 特に「目的の数」「組織関係」「統制の焦点」「ト レード・オフの必要性」「周期」などが,従来 の経常的活動のマネジメント・コントロールと プロジェクトを比較した場合に大きく異なると いう.そして , プロジェクトのマネジメント・ コントロールは,経常的活動のマネジメント・ コントロールとはその性質において異なった新 しいタイプのマネジメント・コントロールだと いえると総括している(森口,1995). 以上,Anthony and Govindarajan (2007, pp. 721─733)が示す,経常的な企業活動(Ongoing Operation)と,プロジェクトにおけるマネジ メント・コントロール・システムの相違点の特 徴を,森口(1995)の視点から確認した.相違 点の特徴のそれぞれが,実際に想定できると思 われる.特に第 1 の相違点にて指摘された,経 常的活動の組織における管理者が行う意思決定 が,無期限の将来にわたって活動に影響を与え る一方で,プロジェクトの管理者もまた将来に 影響を与える意思決定を行うもののその期限は プロジェクトの終了までであるとの点は,双方 のマネジメント・コントロールの本質的な相違 点を表していると筆者は考える. 一方,個々のプロジェクトの統制のための 様々な手法の面では,プロジェクト・マネジメ ントの手法の理論化,体系化が発達,進展(P2M, 2008 等,枚挙にいとまがない)しているものの, 複数のプロジェクトを事業活動の中心に据えた プロジェクト型ビジネスにおける経営管理につ いては,必ずしも理論化は進んでいないと筆者. (340). 89プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). は考える. 言い換えると,企業経営としての最適化や理 論よりも,個々のプロジェクトの最適化を実現 させるためのプロジェクト・マネジメントや工 程管理や予算管理といったプロジェクト・オペ レーションにおける,実践的な管理方法や手法 の高度化が図られてきた. 更に,Anthony のマネジメント・コントロー ル・システム論は,管理会計研究の代表的理論 として,隣接する戦略策定,戦略実行,組織論 等の経営理論と研究領域を重ね影響を与えてい る.その影響は,経常的な企業活動(Ongoing Operation)を基礎に置いた理論を展開している. そのような理論構成の中で,Anthony and Govindarajan「Management Control Systems」. (第 12 版,2007 年)においても,プロジェクト におけるマネジメント・コントロールと経常的 な企業活動におけるマネジメント・コントロー ルとの違いを示し,個々のプロジェクトにおけ るコントロール・システムやコントロール・プ ロセスの相違について論じているものの,あく まで「日々類似した企業活動を行う傾向がある 組織(以下,経常的 な 企業活動 を 行 う 組織)」 を中心に据えてマネジメント・コントロール・ システム論が展開されている.. そして,特定の目的を遂げるための「プロ ジェクト」におけるマネジメント・コントロー ル・システムについては,最終節にて取り上げ られているが,補足的に焦点をあてるにとどま り(Anthony and Govindarajan, 2007, pp. 730─ 749.),双方が整合的に連動した日常的な企業 経営のコントロール・システムについての言及 はない. また,Anthony and Govindarajan (2007)は, 所与としての戦略的計画を階層的にカスケード ダウンすることについて,戦略的ミッションの 違いやマネジメント・コントロール・システム を実効的に機能させるための組織論,予算制度 などの多角的な視点による比較や相違点を与え る.しかし,戦略的計画と個々のプロジェクト のマネジメント・コントロールとがどのように整 合的に連動するべきかについても取り上げられて いない(Anthony and Govindarajan, 2007).. Ⅳ プロジェクトの管理会計. 1 �プロジェクトの性質とプロジェクトの管理 会計. 以上のようなプロジェクトのマネジメント・ コントロールの特質をふまえると,プロジェク トの管理会計はどのように考えればよいのだろ. (341). 表 1 経常的活動とプロジェクトのマネジメント・コントロールとの相違点. 経常的活動 プロジェクト. 目的の数 多数 ただ一つ. 組織関係 それほど複雑ではない 複雑・困難. 統制の焦点 責任中心点 ある期間の仕事と原価. プロジェクト 範囲,スケジュール,原価. トレード・オフの必要性 典型的にない トレード・オフが必要. 業績標準の信頼性 より高い より低い. プランの変更 より少ない 頻繁かつ大幅. 経営・活動の周期 反復的 非反復的. 外部環境の影響 より少ない より大きい. ロジスティックスの問題 より少ない より大きい. (出所:森口(1995),p. 108 をもとに筆者加筆). 90 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). うか. 鈴木(2010)によれば,これまでの管理会計 は,プロジェクト,すなわち非定型的な有機的 業務とは対極をなす,定型的な継続業務を主要 な対象としてきた.そして,プロジェクトの「個 別性」「有期性」「不確実性」という 3 つの性質 が,プロジェクトの管理会計に次のような影響 を与えるという(鈴木,2010). (1) プロジェクトの個別性は,管理会計に大. きな影響を与える,言い換えれば,プロ ジェクトの個別性は,プロジェクトごと にオーダーメードもしくはカスタムメー ドした管理会計を求める.. (2) 有期性は,プロジェクトに始まりと終わ りがあるという性質を指し,表 2 のよう な影響を管理会計に及ぼす.. (3) 不確実性については,特殊な条件や状況 を想定して実行される事業であればある ほど高い不確実性にさらされる.不確実 性 は,未知 の 情報,未確定 な 技術,予 測不可能な環境等のリスクを生じさせ る(鈴木,2010).このリスクについて Anthony and Govindarajan(2007)は, プロジェクトのコスト見積もりの困難さ. の観点から,表 3 の 2 つのタイプの未知 (unknowns)に区分している.. これに関し,鈴木(2010)は,不確実性がプ ロジェクト所期の計画の確実な実行性を減少さ せ,計画と結果の信頼性を損ない,ひいては管 理会計への信頼が失わせかねないとする.その ような中プロジェクト・メンバーからリスクに 前向きなチーム活動を引き出すためには,ま ず,プロジェクトにおける計画が確実では無く, 頻繁に見直される特性があるということの認識 を共有しなくてはならないと指摘する(鈴木, 2010). 実務上,計画の頻繁に見直される特性を共有 することは重要であるが,実際的には所期の目 的と利益目標の達成のためには,不確実な状況 をいかに合理的に想定し,プロジェクトの計画 や予算化ができるかが試される.いわゆるコン ティンジェンシーや予備費といったコストをい かに合理的に予算に想定できるか,不確実性が もたらす経営資源の追加的投入などを,どの程 度所期の計画に織り込むか,その発生時期や発 生確率を「いつ」「どの程度」想定すべきかな どの正しいであろうと見込める予測的な能力が 必要となる.ひいては,これらの想定が,経常. (342). 表 3 2つのタイプの未知(unknown). 認知された未知 (the known unknowns). 起こることはわかっているが,実際にどうなるかについて 未知であるもの. 認知できない未知 (the unknown unknowns). 起きること自体がわからないこと. (出所:Anthony and Govindarajan (2007),鈴木(2010)より筆者作成). 表 2 プロジェクトの有期性の管理会計への影響. • ターゲットとなる期日までにアウトプットを出すために,管理会計の計画立案,結果評価,計画是正 というプロセスにおいて,スケジュール管理が強調される点. • プロジェクトの始まりに際してプロジェクトが何をするのかの計画立案とともに,プロジェクトの終 わりに際して最終的な結果を評価しなければならない点. • プロジェクトの開始は明確であるが,プロジェクトは何をもち完了とするのかを明確にし,そしてプ ロジェクトを “終わらせる” 管理が必要な点.. (出所:鈴木(2010)をもとに筆者作成). 91プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). 的な経営の視点における企業業績の予想や測定 に影響を与えると考える.. 2 プロジェクトの組織的特性 プロジェクトの組織の典型としてのマトリッ クス組織には,表 4 のような特性がある.その ため,恒常的な組織の業績や予算管理と同時に, プロジェクトの予算やパフォーマンスの管理, リソースのアロケーションが生じるコンフリク トを多元的に調整するための管理会計が必要に なると鈴木(2010)は指摘する. 鈴木(2010)のこの指摘は,コンフリクトを 多元的に調整する機能をいかに設計するかと筆 者は理解する.そして,プロジェクト型ビジネ スのマネジメント・コントロール・システムを 構築する主要な鍵のひとつであり,実務に実効 性のある理論との点において未発達の領域であ ると筆者は考えるが,本稿においては,この領 域に課題があることを述べるにとどめる.. 3 プロジェクトの管理会計の特徴 本項では,プロジェクトの管理会計の特徴を, 多くの企業において採用されている年次予算と 部門予算という 2 つの大きな仕組みとプロジェ クトの予算制度の面から考察する. 年次予算は企業の重要なステークホルダー. (利害関係者)である株主や債権者への説明責任 を果たすための制度である(芝尾 ,2009).すなわ ち,経常的活動における会計や業績管理が年次 決算を意識した組織の業績(Performance)の価 値基準になる.一方で,時に複数年にわたるプ ロジェクト通期(プロジェクトの開始から終了 まで)の損益はその遂行に携わる組織のその時々 の組織の業績への貢献の結果や外部環境の変化 に左右されるため,必ずしも年次決算を意識し た組織の業績とは連動しない(芝尾,2009). そして,予算は,組織という安定した構造へ の予算割り振りであるため,予算配分や管理自 体が容易であるとの性格をもつ(芝尾,2009). しかし,いったん割り振られた予算の管理責任 が組織に移るため,割り振られた予算を容易に 動かすことはできないという硬直性をもつ(芝 尾,2009). 年次予算システムは,部門予算と非常に相性 がよく,硬直性に対しては,組織予算の見直し のタイミングを設けることで緩和している.一 般的には,企業の決算サイクルと連動し,見直 されることで硬直化する部門(組織)の予算を 再配分する動きがとられる(芝尾,2009). また,部門別予算の枠を設定し,制約条件の なかで予算を管理する場合,各部門の行動の原 点は,与えられた予算の範囲で,予算消化の状. (343). 表 4 プロジェクト組織の典型であるマトリクス型組織と特性と管理会計との接点. プロジェクトの組織 特性. マトリクス型組織 • 企業内におけるプロジェクト運営組織の典型 • プロジェクト・メンバーはそれぞれに出身母体を持つ • 恒常的な機能組織に属しながら,需要に応じプロジェクト・メンバーとし. てプロジェクトに属する. • 人財や機能を供給する恒常的な社内部署あるいは企業と,その資源を需要. とするプロジェクトという組織の二つが併存する. • これら二つの組織間で資源を巡るコーディネーション(利害調整)が必要. になる. • 恒常的な組織の業績や予算管理とプロジェクトの予算やパフォーマンスの. 管理,人財・リソースのアロケーションが生じるコンフリクトを多元的に 調整するための管理会計が必要になる.. (出所:鈴木(2010)より筆者作成). 92 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). 況をみながらプロジェクトを取捨選択したり, プロジェクトを加速したり減速したりして,予 算の制約内でプロジェクトをコントロールする 特徴をもつ.その意味で,部門の予算消化をベー スとしたプロジェクト・コントロールであると 芝尾( 2009)は指摘する. 以下に,芝尾(2009)がいう,多くの企業に おいて代表的に採用されている予算制度として の年次予算(年次決算に対応した予算)とそれ をコントロールする部門予算制度によるマネジ メント・コントロールの仕組みの視点から,年 次決算に対応した管理会計とプロジェクト管理 会計の特徴的な違いをまとめる. (1)�年次予算制度とプロジェクトベースの管. 理会計 年次予算は,部門予算制度に代表される,各 セグメント(ライン組織)が年次予算として割 り振られた予算の枠組みの中で組織目標を達成 するよう活動させる方法である.それに対し, プロジェクト予算管理は,プロジェクト毎に, プロジェクトが完了するまでの複数年次の予算 を与えると同時に,その内訳としての年次目標 の予算も持たせ運用させる方法である. 予算をコントロールするという点から見れ ば,部門予算管理制度もプロジェクト管理制度 も大差は無いように見える(芝尾,2009).し かしながら,部門予算制度は,セグメント(ラ イン組織)をベースにした予算管理である.年 次決算に対応した管理会計における個々の部門 内における予算配分の見直しや活動内容の修正 は比較的柔軟であるものの,部門を超えた活動 に対しては,予算の配分は硬直的となる(芝尾 , 2009). これに対し,プロジェクト管理会計では,プ ロジェクトの目標達成に最適な活動をプロジェ クトの予算の範囲内で最適に実施することに価 値を定めるため,予算統制は部門を横断したプ ロジェクトの活動に対して柔軟になるが,プロ ジェクト実行のために確保した経営資源の再配 分に対しては比較的硬直的になる.. 具体的には,マネジメント・コントロールの 範囲は組織横断的となることから,目標達成を 最適化するために必要であれば,プロジェクト の実行計画を修正し,予算は部門の概念を超え て活動に対して柔軟に再配分される.予算の再 配分を含めた予算の修正は,場合により年次 を超えて行われる.その一方で,特定のプロジェ クトがその遂行実行のために確保した経営資源 は,その役割を終える前の他のプロジェクトな どへの再配分に対して,硬直性を示す傾向にあ ると筆者は考える.これは,特定のプロジェク トに配分された経営資源は,一定の役割を終了 するまでは余程の強いトップダウンの指示がな いと,他のプロジェクトで同様の資源が必要と なったとしても容易には譲り渡すことに抵抗を 示す.また,プロジェクトが必要と言っている 経営資源をトップも容易には引きはがして他に 移動させることには慎重になる傾向がある, 万一その判断の結果が,プロジェクトの不成功 の要因になる可能性が懸念されるからである. 以上を踏まえ,年次決算に対応した経営サイ クルを前提とした管理会計とプロジェクトの管 理会計の特徴的な違いを筆者が経験した実務的 な側面も含め,次の 10 項目に示す. 第 1 に,年次決算に対応した管理会計では, 主に責任単位を事業のセグメントに置くのに対 して,プロジェクトの管理会計では,個々のプ ロジェクトが責任単位となり活動結果に責任を 負う. 第 2 に,年次決算に対応した管理会計の価値 の測定基準の基礎は,セグメントの年次決算に おける目標の達成など,主に会計の期間損益計 算における貢献度におかれることが多い.これ に対してプロジェクト管理会計では,当該プロ ジェクトの開始から完了までが,年次決算の範 囲内であっても,複数年次に及ぶものであって も,プロジェクト全体として所期の目的を全体 の予算内に達成することが価値基準となる.こ の価値基準の違いは,目標達成までの時間軸の 違いを伴う.. (344). 93プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). 第 3 に,コントロールの中心は,年次決算に 対応した管理会計では比較的に財務指標が中心 になる.これに比べプロジェクトの管理会計で は,プロジェクトが予定通りに完了するための 非財務的なコントロール支援するスコープ管 理,スケジュール管理,リスク管理を比較的コ ントロールの中心に置く.同時に,プロジェク トを予算内に収めるための財務指標によるコン トロールが実施される特徴をもつ. 第 4 に,予算管理を含めた経営管理(PDCA) の時間軸は,年次決算に対応した管理会計では, 最長で年次となるのに比して,プロジェクト会 計では,場合によりプロジェクトの開始から終 了までの複数年度となる.これは,価値基準の 目標達成の時間軸の違いを生じさせる. 第 5 に,マネジメント・コントロールの枠組 みは,責任単位の違いを反映する場合が多く, 年次決算に対応した管理会計では,セグメント 毎のマネジメント・コントロールとなる.これ に対して,プロジェクト管理会計では,組織を 横断したプロジェクト組織によるマネジメン ト・コントロールになることが多い.プロジェ クトを遂行するために,経営資源を自己の組織 にとどまらず,社内を横断し,場合によっては 社外の組織からの調達も視野にいれる. 第 6 に,管理会計 の PDCA は,年次決算 に 対応した管理会計では継続的であるのに対し て,プロジェクトは,その目的の達成までを対 象とした有期であることが一般的である. 第 7,第 8,第 9 として示す 3 つの特徴は, それぞれ「組織のあり方と経営資源の調達」「経 営資源の再配分」「活動の境界」の違いである. いずれも目標達成のためのコントロールの枠組 みについて,組織論や経営資源の最適な配分と の観点から,年次決算に対応した管理会計とプ ロジェクト管理会計の違いがあることを示して いる. これは前述の責任単位の違いから生ずる,自 他組織間での資源の流動性や硬直性を示す特徴 である.特に指摘したいのは,一般に,組織の. 境界において,プロジェクトは,その目的の完 遂のために,自社の組織内に留まらず他社との 協業や提携を選択肢に加え柔軟に取り込む傾向 があると筆者は考える.これは,プロジェクト の有期性から,自社以外の経営資源の活用に対 して比較的肯定的な判断が生じるのではないか と考えられる. 第 10 に,予算の精度や年次業績への影響の 側面からの違いがある.年次決算に対応した管 理会計においては,当該年次中は予測による見 積もりを含むが,一部の例外を除き年次末には 見積もりを含まない実績がセグメントや部門の 年次の業績として集計される.これに対して, プロジェクトでは,完了までの活動を合理的な 見積もりをともない予測する必要がある.予測 の更新と見積もりの修正は適時に行われること が望ましいが,たとえプロジェクトの遂行期間 が年度をまたぐ場合においても,プロジェクト における予算には予測値が含まれる.その予測 値は年次決算として業績に集計される. 表 5 は,以上の特徴的な 10 項目の違いをま とめたものである. (2)�管理会計に影響を与えるセグメント(ラ. イン組織)とプロジェクトの関係 前述のように,プロジェクトの管理会計の設 計には,図 1 に示すように,セグメント(ライ ン組織)とプロジェクトとのマトリクス組織の 関係が複雑に絡み合う.そのため,プロジェク トが予算を持つ場合でも,ライン組織がリソー スを抱えプロジェクトに提供する形態では,プ ロジェクトとラインの関係を明らかにする必要 がある. 例えば,プロジェクトの予算を考えた場合, プロジェクトの予算は予算の性質からいくつか の管理項目に分かれることになる.その管理項 目によってラインが主体となって管理すべき予 算か,プロジェクトが主体となって管理すべき 予算かの別が決まる.どのように管理項目を分 けるかということについては,どのような目的 を持って管理項目を定義するかを明確にする必. (345). 94 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月)(346). (出所:芝尾 , 2009 をもとに筆者作成). 図 1 ライン組織(部門)とプロジェクト組織の関係. 表 5 年次決算に対応した管理会計とプロジェクト管理会計の違い. 年次決算に対応した管理会計 プロジェクト管理会計. ①責任単位 セグメント(ライン組織) プロジェクト組織(活動). ②価値基準 セグメントの年次決算に対応した目標達成 年次予算の遵守. プロジェクト全体として所期の目 的を達成 プロジェクト全体の予算の遵守. ③コントロールの中心 比較的に財務指標によるコントロールが中心 プロジェクトの非財務コントロー ルを担うスコープ管理,スケジュー ル管理,リスク管理を比較的中心に 置くと同時に,財務指標によるコン トロールを実施. ④ 予算管理を含めた経営管理(PDCA) の時間軸. 最長で年次(一年間) 場合により複数年次 (プロジェクトの開始から終了まで). ⑤マネジメント・コントロールの枠組み 多くの場合,セグメント毎のマネジメント・コ ントロール. 組織を横断したプロジェクト組織に よるマネジメント・コントロール. ⑥管理の継続性 継続的 有期. ⑦組織づくりと経営資源の調達 セグメント内では流動的 セグメント間では硬直的. セグメントを横断し流動的(場合に より他社との共業). ⑧経営資源の再配分 セグメント内では流動的 セグメント間では硬直的. 部門や他のプロジェクト再配分要 請に対し硬直的. ⑨活動の境界 セグメント 自社(場合により他社との共業). ⑩予算の精度,年次業績への影響 当該年次中は見積もりを含むが年次末には見積 もりを含まない,部門業績の集計. 複数年次に渡る場合は,プロジェク ト完了までの活動を予測した上で 合理的な見積もりを年次末におい ても含む,プロジェクトの年次業績 の集計. (出所:筆者作成). 図表 : 髙市豊義_プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム. 4. (出所:芝尾, 2009 をもとに筆者作成). 図1「ライン組織(部門)とプロジェクト組織の関係」. 部門A 部門B 部門C 部門D. 経営. プロジェクト1. プロジェクト3. プロジェクト2. 95プロジェクト型ビジネスにおけるマネジメント・コントロール・システム(髙市). 要があり,その定義の仕方が予算制度の管理方 法に大きく影響を与える(芝尾 , 2009).. Ⅴ むすび. 本稿では,プロジェクト型ビジネスがかかえ る,経常組織としての側面とプロジェクトの側 面の双方が異なる目的をもつことから生じるマ ネジメント・コントロール・システム上の問題 点を指摘し,双方の相違点を踏まえた上で,整 合的に連動させるためのマネジメント・コント ロール・システムの設計思想の必要性を指摘し た. まず,非定型的な有機的業務を実行するプロ ジェクトのマネジメント・コントロールには,. 「個別性」「有期性」「不確実性」と い う 3 つ の 性質およびプロジェクトを推進する典型的組織 形態であるマトリックス組織が影響を与えるこ とを指摘した. そして,プロジェクト型ビジネスを含む多く の企業においては,年次を期間とした予算制度 や業績測定の仕組みが構築され,年次決算と連 動する大きな仕組みによって動かされている. 年次予算は企業の重要なステークホルダー(利 害関係者)への説明責任を果たすための制度と して機能すると同時に,企業内部では,経常的 活動における会計や業績管理が年次決算を前提 として,典型的には事業部毎に測定がなされる のである. 一方,プロジェクト型ビジネスでは,一般的 に複数年にわたる複数のプロジェクトを内包す るそれら個々のプロジェクトの開始から終了ま でのプロジェクト通期の損益は,企業が保有す る組織力などの内部環境や外部環境の変化に左 右されることがあるため,個々のプロジェクト においては,年次に対応した管理会計が押さえ ておくべき変化よりも長期間の予測を求められ ることから,将来を見通す質量において違いが 生じると指摘した. 以上から,プロジェクト型ビジネスにおける マネジメント・コントロール・システムの設計. 思想は,①プロジェクトにおける複数年次にわ たる予算管理,②プロジェクトの特性である有 期性,③プロジェクトの遂行において要請され る経営資源の柔軟な配分,④事業環境の不安定 性を予算化する,といった特徴を踏まえなくて はならない. 同時に,年次の予算管理を行う経常的な企業 経営の立場からは,企業経営の永続性の観点や ステークホルダーに対する経営計画やその結果 としての業績の安定性求められることから,双 方を整合的に連動させるために,多元的に調整 する機能をいかに設計するかが,プロジェクト 型ビジネスのマネジメント・コントロール・シ ステムを構築する主要な鍵であり,実務に実効 性のある理論との点において未発達の領域であ ることを本論文では指摘した. これらの相違は,Anthony and Govindarajan. (2007)や森口(1995)においても,経常的な企 業活動の理論とは別立てに提示され意識されて はいる.しかし,伝統的な Anthony のマネジメ ント・コントロール・システム論や既存の理論 における全社経営とプロジェクトの関係だけで は,両者の整合的な連動がどのように行われる べきかについては,必ずしも判然としない.実 務的にもプロジェクト型ビジネスおける経常的 な企業経営と内包される個々のプロジェクトに 整合的に連動して経営資源の適正な配分がなさ れ,かつ,業績測定が企業全体として偏りがな く最適化したマネジメント・コントロール・シ ステムの設計思想が必要であると考える.この 点において,プロジェクト型ビジネスにおける マネジメント・コントロール理論には補完が必 要な領域があることを指摘したい. 残された今後の課題として,次のような点を 上げておきたい. 本稿では,プロジェクト型ビジネスのマネジ メント・コントロールにおける経常的側面とプ ロジェクト側面の両面が整合的に連動する必 要性を指摘したが,今回取り上げた Anthony. (2007)のマネジメント・コントロール・シス. (347). 96 横浜国際社会科学研究 第 25 巻第 4号(2021 年 2 月). テム論以外の既存理論の視角からさらに深耕す る必要があり,併せて,Anthony 以外の経営 理論の応用も検討する必要がある.加えて,プ ロジェクト型ビジネスの戦略策定から経営全般 に対して,経営課題を具体的な事例をもとに, 掘り下げる必要があり,これらを今後の課題と したい.. 参考文献. 英語文献 Anthony, R. N. (1965), Planning and Control. System─A Framework for Analysis, Boston: Harvard University, Division of Research.. Anthony, R. N., J. Dearden and R. F. Vancil (1965), Management Control Systems, Illinois: D. Irwin, Homewood.. Anthony, R. N. and V. Govindarajan (2001), Management Control Systems , New York: McGraw-Hill Irwin, 10th ed.. Anthony, R. N. and V. Govindarajan (2007), Management Control Systems , New York: McGraw-Hill Irwin, 12th ed.. 日本語文献 伊藤和憲(2008)「管理会計 の 40 年」『専修大学. 商学部会計学科創設 40 周年記念号』,専修商 学論集(88)pp. 13─23.. エンジニアリング協会(2019)「 2019 年度エンジ ニアリング産業の実態と動向」. 櫻井通晴(2015)『管理会計』同文舘出版 芝尾芳昭(2009)『プ ロ ジェク ト 管理会計入門』. 生産性出版 鈴木研一(2010)「第 11 章プロジェクト・マネジ. メントの管理会計」谷武幸・小林啓孝・小倉 昇編『業績管理会計』中央経済社,pp. 305─ 349.. 玉置明善(1997)『エンジニアリング産業論』東 洋経済新報社. 日本プロジェクト・マネジメント協会(2008), P2M プロジェクト & プログラムマネジメン ト標準ガイドブック』日本能率協会マネジメ ントセンター.. 森口毅彦(1995)「プロジェクトのマネジメント・ コントロールと戦略の実施」研究年報,経済 学,東北大学,Vol. 57─3. [たかいち とよのり 横浜国立大学大学院国際 社会科学府博士課程後期]. (348)

参照

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