1
第7章 予防法(薬物療法)
1 2 薬物による VTE 予防には、致命的な PTE の原因となる DVT の発生そのものを予防する一 3 次予防と、すでに発生した DVT/PTE に対して再発を予防する二次予防がある。そして、用 4 いられる薬剤には、歴史的にその役目を終えたものから、現在開発中のものまで多くのも 5 のがある。この章では、その予防効果がエビデンスレベルの高い研究として報告された薬 6 剤を取り上げ記載した。したがって、海外で一般的に使用されている薬剤が、我が国では 7 保険適用となっていない薬剤も含めて掲載してある。 8 9デキストラン
10 静脈内投与で循環血液量を増加させる輸液製剤であり、手術時などの出血によるショ 11 ックに対する治療で使用されることがある。他の薬理作用として、赤血球表面の負電荷 12 を増強することで赤血球凝集解離作用を示すことがあり、血栓症の予防や治療に適用さ 13 れた。しかしながら架橋構造を有さないため、生体内で容易に分解されることから、血 14 栓症予防作用は尐ないと考えられている。また、1 日 10ml/kg 以下の静脈内投与が原則 15 であり、心負荷がかかる恐れがあることが問題点であり、現在では使用されることはほ 16 とんどない。 17 181. 骨折患者に対するデキストランのDVT予防効果は?
19 [Scientific statement] 20 大腿骨近位部骨折に対するデキストランの使用は、コントロール群と比較して DVT の発 21生率に有意な差はなかった。(EV level II)
22 <エビデンス> 23 大腿骨近位部骨折 87 例をデキストラン群 45 例:デキストラン 40 を術前毎日および手術 24 中 250ml 静脈内投与、術後 2 日目、4 日目に 500ml を投与。コントロール群 42 例:乳酸リ 25 ンゲルを同様に静脈内投与に分け、DVT の発生率を比較。DVT の診断は、両下肢の静脈造 26 影を入院時、術後 5,6 または 7 日目に施行。結果、デキストラン投与による出血、うっ血 27 性心不全等の問題は起きなかった。術後の DVT 発生率はデキストラン群 33.3%、コントロ 28
ール群 33.3%で有意な差はなかった。(EV level II)
29
<文献>
30
DVT00059:Hefley W, Nelson C, Puskarich C: Thromboembolic disease in patients with
31
fractures of the hip: Preoperative prevalence and effect of dextran prophylaxis.
32
Southern Medical Journal 1990 83,2s49-2s50
33 34
2. デキストランと低分子へパリンの予防効果比較
2
[Scientific statement]
36
1) 股関節骨折患者に対する予防法として、低分子ヘパリン(Fragmin)とデキストランを
37
比較しても DVT の発生率に有意な差はない。(EV level Ib)
38
2) 股関節骨折患者に対する予防法として、低分子へパリン(Sandoparin)はデキストラン
39
に比較して有意に DVT 発生率を減尐させる。(EV level Ib)
40 <エビデンス> 41 1) 220 例の股関節骨折を、低分子ヘパリン(Fragmin)投与群(5000IU 皮下注、術後 10 日 42 間)、デキストラン投与群(Dextran 70、入院日 500ml・術前 1 日 1000ml・術後 1,3,5 43 日に 1 日 500ml)の2群に分け DVT 発生率を比較した RCT。 VTE の診断は、術後 10~ 44
14 日に両下肢静脈造影と lung perfusion/ventilation scan を行い、静脈造影は 178
45
例に施行できた。 結果)Fragmin 群 97 例と Dextran 群 81 例では、DVT の発生率はそ
46
れぞれ 34%と 27%(p=0.33)、近位 DVT は 6.2%と 2.5%(p=0.29)であった。lung
47
perfusion/ventilation scan を施行できた Fragmin 群 103 例と Dextran 群 86 例では、
48
PTE の発生率は 8.7%と 3.5%(p=0.23)で有意差はなかった。出血量と輸血量はデキス
49
トランが有意に多く、出血合併症は Fragmin で 9 例とデキストランで 17 例(p=0.09)
50
であった。遅発性 VTE(術後 5-7 週)が Fragmin の 1 例に発症した。 (EV level Ib)
51
2) 股関節骨折患者を低分子ヘパリン群 103 例、デキストラン群 95 例に分け DVT 発生率を
52
比較検討した RCT。2 群間に年齢・性別・骨折型等に有意差はなかった。低分子ヘパリ
53
ン(sandoparin)は 3000 anti-Xa 単位を術前から 1 日 1 回皮下注し 10 日間継続。Dextran
54
70 は麻酔導入時より 500ml 静注内投与し、術後 8 時間と術後 24 時間にも再投与。すべ
55
ての患者は術直後より機械的予防法を施行した。DVT の評価は 125Iodine labelled
56
fibrinogen uptake test(FUT)でスクリーニングを行い、膝窩部や下腿部が陽性であっ
57 た場合は静脈造影で診断した。大腿骨近位や創部に陽性の場合は超音波検査を行い、疑 58 わしい場合のみ静脈造影を施行した。結果、膝窩や下腿部に FUT 陽性例は低分子ヘパリ 59 ン群 34/103 例(33.0%)、デキストラン群 46/95 例(48.4%)で静脈造影では各々16/103 例 60 (15.5%)と 31/95 例(32.6%)で有意差を認めた(P<0.005)。DVT は患側に多く 34/47 例 61 (72.3%)発生した。PE は低分子ヘパリン群で 2 例に発生し、1 例は致死的であった。デ 62 キストラン群は 2 例発生し、2 例とも致死的であった。両群ともに大きな出血合併症は 63 なかった。 64
(EV level Ib)
65
<文献>
66
1) DVT00454:Is low molecular weight heparin (LMWH) an effective antithrombotic
67
drug following hip fracture surgery? Results of a randomized study comparing
68
LMWH and dextran 70. Thrombosis & Haemostasis 73(6): 977-Abstract No 299, 1995
69
2) DVT00205: Oertli D, Hess P, Durig M, Laffer U, Fridrich R, Jaeger K, Kaufmann
70
R, Harder F Prevention of deep vein thrombosis in patients with hip fractures:
71
low molecular weight heparin versus dextran. World J. Surg. 16:980-985, 1992
72 73
3 74
アスピリン
75 抗血小板薬であるアスピリンは安価でモニタリングが不要であること、経口薬であるこ 76 とから、術後 VTE の一次予防への適用が検討されてきた。欧米ではある一定の効果がある 77 とする報告もみられるが、1日量が 600mgと日本人との体重差を考慮しても多い用量で 78 の研究もみられること、日本人での比較試験がないことから、その効果については明らか 79ではない。[Scottish Intercollegiate Guideline Network (SIGN) Prophylaxis of Venous
80
Thromboenbolism; A national clinical guideline] におけるアスピリンの位置づけは
81 grade A とし、禁忌でない限り股関節骨折患者全てに投与すべきとしている。但し、この 82 ガイドラインは 2002 年以降改訂されていない。 83 84
3. 骨折患者に対するアスピリンの VTE 予防効果は?
85 [解説] 86 アスピリンの VTE 予防効果については議論があり、現在でも推奨しているガイドライン 87 があるため、やや詳しく記載する。 88 大腿骨近位部骨折患者に対するアスピリンの VTE 予防効果を検討した唯一の無作為比較 89試験(RCT)の大規模研究である Pulmonary Embolism Prevention (PEP) trial の結果では
90 、アスピリンは症候性 VTE を有意に減尐させている。 91 しかし、この研究ではアスピリン服用者の 18%が未分画ヘパリン、26%が低分子ヘパリ 92 ンを併用し、また DVT、PTE ともに症候性もしくは疑いの強いもののみを画像診断している 93 ことから研究方法の欠陥が指摘され、多くのガイドラインではアスピリン単独での予防は 94 推奨されてはいない。また、PEP trial ではヘパリンの併用を除いたアスピリン単独使用 95 群を抽出し、サブグループ間での比較解析が行われアスピリン群に有意に VTE が減尐して 96
いる。しかし、PEP trial の研究当初のアウトカムは血管イベント(PTE、心筋梗塞、脳血
97 管障害)による死亡の予防効果を検討することになっているため、試験前に計画されてい 98 ないサブグループ解析は RCT 研究として認められず、エビデンスに乏しい研究となってい 99 る(表1参照)。 100 [Scientific statement] 101 1) 大腿骨近位部骨折において、低用量アスピリン(1 日 160mg)は症候性 DVT、症候性 102
PTE、症候性 VTE を減尐させる。(EV level IB)
103 2) 大腿骨近位部骨折および THA 患者(大腿骨近位部骨折が約 60%を占める)において、 104 アスピリン 600mg/日(1日 3 回食後)+未分画へパリン投与群とプラセボ群(未分 105 画へパリン投与)を比較するも、症候性 DVT、近位 DVT、症候性 PTE、致死的 PTE の 106 発生率には有意な差はなかった。しかし、出血合併症(ヘモグロビン低下と輸血量) 107 はアスピリン 600mg/日(1日 3 回食後)+未分画へパリン投与群に有意に多かった。 108
(EV level IB)
4 <エビデンス> 110 1) 股関節骨折患者に 1 日 160mg の腸溶コーティングアスピリン(6,679 例)またはプラ 111 セボ(6,677 例)を 35 日間投与し VTE 予防効果を調査した RCT 研究。主要評価項目は 112 死亡、DVT(静脈造影、または duplex 超音波法で確認されたもののみ)、PTE(肺動脈造 113 影、肺血流換気シンチで high-probability または intermittent-probability でかつ静 114 脈造影で DVT があるもの、または剖検で証明されたもの)、心筋梗塞、脳卒中および出 115 血症状。DVT や PTE を発見するための特別なスクリーニングテストは行わず、臨床症状 116 のある事象が記録、判定された。 117 症候性の DVT は静脈造影または超音波検査で証明されたもののみをカウントし、PTE 118 は肺血管造影での陽性例、high-probability の肺換気血流スキャンや静脈造影にて DVT 119 が証明された intermediate probability のスキャンまたは検死で肺塞栓症が証明され 120 たものをカウントした。 121
結果:アスピリンは DVT (95%CI 3 to 48; p=0.03) (aspirin 69/6679 , placebo
122
97/6677 )、近位 DVT(aspirin 26/6679, placebo 43/6677)、PTE (95%CI 18 to 60; p=0.002)
123
(aspirin 46/6679 , placebo 81/6677 )、そして致死的 PTE (95%CI 27 to 76; p=0.002)
124
(aspirin 18/6679 , placebo 43/6677 )全 VTE を減尐させた(95%CI 19 to 50;p=0.0003)
125 (aspirin 105/6679 , placebo 165/6677)。アスピリン群において出血合併症(ヘモグ 126 ロビン低下と輸血量)が有意に多かったが、死亡率についての有意差はなかった。 127 症候性 DVT と PTE の発生率のサブグループ解析(本来は前向きランダム比較試験にお 128 いて試験前に計画されていないサブグループ解析は認められていないことに注意)。未分 129 画ヘパリン併用群 (aspirin 19/1207 , placebo 36/1225 )において、アスピリン群はコ 130 ントロール群に比較して有意に減尐している。低分子ヘパリン併用群 (aspirin 24/1761 , 131 placebo 30/1663 )において、アスピリン群とコントロール群間に有意な減尐はみられな 132 い。 133 ヘパリン併用なし (aspirin 62/3711 , placebo 99/3789 )において、アスピリン群は 134 コントロール群に比較して有意に減尐している。 135 2) 受傷後 24 時間以内に入院し、入院後 24 時間以内に手術が施行された大腿骨近位部骨折 136 265 例と同時期に入院手術した THA 194 例の合計 459 例を、1)アスピリン 600mg/日(1 137 日 3 回食後)投与群、2)Trifusarin(抗血小板薬) 900mg(1 日 3 回食後)投与群、 138 3)プラセボ群の3群に分け DVT の予防効果について検討した二重盲検ランダム化試験。 139 ただし、全ての群の症例に対して、術前 2 時間に未分画ヘパリン 7500 単位皮下注し、 140 術後 12 時間毎に 10 日間投与した。DVT の診断は、Real-time B-mode US を術後 8 日目 141 に全ての症例に施行。US で陰性で DVT の臨床徴候があるときは、両側の静脈造影を施 142 行。結果:アスピリン群、Triflusal 群、プラセボ群において、DVT 発生率はそれぞれ 143 18%(近位 DVT 14 例、遠位 DVT 11 例)、12%(近位 DVT 13 例、遠位 DVT 7例)、17% 144 (近位 DVT 13 例、遠位 DVT 14 例)であり、PTE の発生率はそれぞれ 5%、2%、5%と 145 有意な差はみられなかった。輸血量はアスピリン群が有意に多く、Triflusal 群で有意 146 に嘔吐、嘔気が多かった。 147
5
<文献>
148
1)DVT00974:PTE prevention Trial Collaborative Group Prevention of pulmonary
149
embolism and deep vein thrombosis with low dose aspirin: Pulmonary Embolism
150
Prevention (PEP) trial. PTE
151
prevention Trial Collaborative GroupLancet. 2000 355:1295-302.
152
(EV level IB)
153
2)DVT00451:Monreal M, Lafoz E, Roca J, Granero X, Soler J, Salazar X, Olazabal
154
A, Bergqvist D.: Platelet count, antiplatelet therapy and pulmonary
155
embolism--a prospective study in patients with hip surgery. Thromb Haemost.
156
1995 Mar;73(3):380-5. (EV level IB)
157 158
4. 低分子へパリンとアスピリンのVTE予防効果比較
159 [解説] 160 低分子ヘパリンとアスピリンの VTE 予防効果についての比較検討であるが、低分子ヘパ 161 リノイドである Orgaran で検討されている。(ヘパリン類の種類と特徴については表 1 参照 162 のこと) 163 [Scientific statement] 164 1) 股関節骨折患者において、低分子ヘパリノイド(Orgaran:750 Xa 単位/2回/日) 165 皮下注はアスピリン 100mg 2 回/日経口投与に比較して有意に VTE 発生率を減尐させる 166が、出血合併症は同程度であった。(EV level IB)
167 <エビデンス> 168 1)股関節骨折手術における低分子ヘパリノイド(Orgaran)とアスピリンの相対的効率と 169 安全性を比較した RCT。251 例の患者を無作為に割り付け、Orgaran 群 125 例は 750 Xa 170 単位を 12 時間毎に皮下に投与、アスピリン群 126 例は 100mg を経口的に 1 日 2 回投与 171 した。Orgaran 群の予防投与開始は術後平均 18 時間以内、アスピリン群は平均 17 時間 172 以内に開始し、4 日間または退院まで続けられた。DVT の診断は I125-fibrinogen 下肢シ 173 ンチや impedance plethysmography で行われた。両下肢静脈造影がすべての患者の退院 174 前に行われ、患者の 80.9%に施行された。177 例の患者が評価可能な静脈造影であった 175 (Orgaran 90 例、アスピリン 87 例)。Orgaran 群の 25 例(27.8%)、アスピリン群の 39 176 例(44.3%)は DVT を発生し、Orgaran の相対リスク減尐は 37%であった(P=0.028)。出血合 177 併症は 10 例に発生し、Orgaran 群は 1 例の大出血と 1 例の小出血(1.6%)で、アスピリン 178 群は 4 例の大出血と 4 例の小出血であった(P=0.102)。術後開始する Orgaran はアスピリ 179 ンと比較して静脈血栓症の減尐に有意差を持って有効で、出血も尐なかった。(EV level 180 IB) 181 <文献> 182
1) DVT00280:Powers P, Gent M, Klimek M, Levine MN, Geerts W, Neemeh J, Turpie AGG,
183
Jay R, Leclerc J, Ginsberg J, Hirsh J, A randomized, double-blind trial
6
comparing a low-molecular weight heparinoid, Orgaran, with aspirin in the
185
prevention of venous thromboembolism following surgery for hip fracture.
186
Thrombosis & Haemostasis 69(6):1116, 1993
187 188
抗ビタミンK阻害薬(ワルファリン)
189 抗凝固薬のなかでは唯一経口投与可能であることから、現在でも米国を中心に術後 VTE 190 予防に使用されることが多い。ワーファリンは肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子で 191 ある第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の合成阻害を行い、強力な凝固作用を発揮する一方、出血合併 192 症も発生しやすい。また催奇形性があるため、妊娠中や妊娠疑いのある患者には禁忌であ 193 る。 194 一次予防として使用する場合、1日1~2mg を 1 回/日服用する低用量ワーファリン療 195 法があるが、ワーファリンは肝臓代謝の薬剤であり、その効果は食事や併用薬の影響を受 196 けやすく、投与量と抗凝固作用の発現に個人差が大きいのが特徴である。 197 骨折患者(股関節骨折手術時)におけるワーファリンの位置づけは、第8版 ACCP ガイド 198ラインで Grade 1B、Prevention and treatment of venous thromboembolism: international
199
Consensus Statement (Guidelines according to scientific evidence)では Grade A にラ
200 ンクされているが、いずれのガイドラインも PT-INR(プロトロンビン時間-国際標準化比) 201 2.0~3.0 を目標値に調節する用量調節ワーファリン療法である。本邦では出血合併症を考 202 慮し PT-INR 1.5~2.5 程度にコントロールされることが多い。 203
一方、NICE clinical guideline、Scottish Intercollegiate Guideline Network (SIGN)
204
Prophylaxix of Venous Thromboembolim; a national clinical guideline、そして A Practice
205
Management Guideline for the Management of Venous Thromboembolism in Trauma Patients.
206 として知られている EAST guideline では骨折患者に対する予防法としてワーファリンの記 207 載はない。 208 したがって、ワーファリンは骨折や外傷患者に対する VTE の一次予防として使用される 209 よりも、VTE 発症後の二次予防として使用されることが多いと考えられる。この場合、ワ 210 ーファリンは投与開始から治療域に達するまで数日間を要するため、初期にはヘパリンと 211 の併用を行う。 212 今回、渉猟した文献の中に骨折患者に対するワーファリンの予防効果についての、コン 213 トロール群と比較した研究報告を見つけることはできなかった。これは、ワーファリンに 214 関する研究は新しいものでも 1989 年発行であるため、今回の文献検索からは抽出されなか 215 ったためである。 216 217
1) ACCP155 Powers PJ, Gent M, Jay RM, et al. A randomized trial of less intense
218
postoperative warfarin or aspirin therapy in the prevention of venous
219
thromboembolism after surgery for fractured hip. Arch Intern Med 1989; 149:771–774
220
(原文確認)
7 222
5. ワーファリンの治療域コントロールに影響を与える因子は?
223 [Scientific statement] 224 1) 股関節手術患者に対してワーファリン治療域をコントロールする際、高齢患者(特に 225 80 歳以上)、そして股関節骨折患者は THA 患者に比較して尐ない投与量で治療域に達 226 し、体重増加患者(約 82 ㎏以上)、男性が女性に比較して多くの量が必要であった。 227(EV level III)
228 2) 股関節骨折患者に対してワーファリン治療域をコントロールする際、高齢患者は有意 229 に平均 1 日ワーファリン投与量が尐なく、自宅からの入院患者、男性、血液学専門医 230 による抗凝固療法施行例、DVT/PE の既往患者に平均ワーファリン投与量が多かった。 231
(EV level III)
232
<エビデンス>
233
1) VTE 予防として THA 204 例と股関節骨折 56 例に手術当日からワーファリンを PT-INR
234 1.8-2.2 を目標に投与開始し、コントロールに影響を与える因子について検討した。ワ 235 ーファリンのコントロールに拘わらず、PT.INR が入院中に 4.0 以上になったことを感 236 度亢進と定義し、PT.INR が入院中に 1.6 以上にならなかったことを感度低下と定義し 237 た。結果、ワーファリン感度亢進患者の割合は、80 歳以上が 80 歳未満と比較して有意 238 に高く(18.1%対 7.0%:P=0.008)、手術法では股関節骨折手術患者が THA 患者に比較 239 して感度亢進の患者の割合が有意に多かった(22.2%対 7.4%、P=0.002)。一方、ワー 240 ファリン感度低下患者の割合は、体重 180 ポンド以上の患者は 180 ポンド未満の患者と 241 比較して有意に多く(27.0%対 11.8%、P=0.001)、男性が女性に比較して有意に高か 242
った(29.2%対 9.9%、P=0.0001)。 (EV level III)
243 2) 股関節骨折手術を施行され、ワーファリンによる予防を受けた 55 歳以上の患者 215 例 244 (平均年齢は 78.9±9.5 歳)に後ろ向き cohort 研究を行い、術後 6 週間までの平均 1 245 日ワーファリン投与量、術後のヘモグロビン量減尐、出血合併症の出現頻度(大出血は 246 ヘモグロビン 20g/L 以上の減尐や 2 単位以上の輸血と定義)、コントロールされるまで 247 の日数との関連因子について評価された。ワーファリンは手術日の夜より PT.INR 248 2.0-3.0 を目標に開始された。結果、高齢患者は有意に平均 1 日ワーファリン投与量が 249 尐なかった (P<0.001)。自宅からの入院患者(P=0.008)、男性(P=0.006)、血液学専門医 250 による抗凝固療法施行例(P=0.004)、DVT/PE の既往患者(P=0.03)に平均ワーファリン投 251
与量が多かった。(EV level III)
252
<文献>
253
1) DVT00808:Messieh M, Huang Z, Johnson LJ, Jobin S Warfarin responses in total
254
joint and hip fracture patients J Arthroplasty 14(6):724-729, 1999
255
Case-Control Study
256
2) DVT00296 : Isaacs C, Paltiel O, Blake G, Beaudet M, Conochie L, Leclerc J :
257
Age-associated risks of prophylactic anticoagulation in the setting of hip
8
fracture. Am J Med 96(6):487-491. 1994。Retrospective cohort study
259 260
6. ビタミン K 拮抗薬(ワーファリン)の継続期間は?
261 [Scientific statement] 262 症候性VTE発症患者に対してビタミンK拮抗薬を(目標PT-INR 2.5にコントロール)投 263 与した結果では、長期投与は短期投与に比較してVTE再発率を減尐させるが、その至適投 264与期間に関しては明らかではない。(EV level Ia)
265 <エビデンス> 266 1) 症候性 VTE 発症患者に対してビタミン K 拮抗薬を目標 PT-INR 2.5 にコントロールし 267 た RCT の8研究(総患者数 2994 症例)での異なったビタミン K 拮抗薬治療期間(4 268 週と 3 ヶ月、6 週と 12 週、6 週と 6 ヶ月、3 ヶ月と 1 年、3 ヶ月と 27 ヶ月、6 ヶ月と 269
4 年)における再発性 VTE 発生率を比較検討した systematic review。結果)8 研究
270 中 4 研究で長期投与により VTE 合併症が統計学的に防止でき、他の 4 研究では明らか 271 な減尐傾向を示した。8 研究を統合すると短期間の投与では VTE 合併症は 1495 例中 272 116 例(8%)に対し、長期間投与では 1499 例中 14 例(1%)であり、長期投与で統 273 計学的有意差をもって血栓塞栓症イベントが減尐(OR 0.18, 95% CI 0.13 to 0.26)。 274 長期に治療継続した患者は再発の危険性が 5 分の 1 以下の低い再発率であった。(EV 275 level Ia) 276 <文献> 277
1) 00075320-100000000-00862:Duration of treatment with vitamin K Bantagonists
278
in symptomatic venous thromboembolism. Hutten, BA; Prins, MH Cochrane
279
Database of Systematic Reviews. 3, 2007.
280 281
7. ワーファリンの長期投与は出血合併症を増加させるか?
282 [Scientific statement] 283 症候性 VTE 発症患者に対してビタミン K 拮抗薬を(目標 PT-INR 2.5 にコントロール) 284 投与した結果では、長期投与は短期投与に比較して出血合併症を増加させる。(EV 285 level Ia) 286 <エビデンス> 287 1) 症候性 VTE 発症患者に対してビタミン K 拮抗薬を使用(目標 PT-INR 2.5 にコントロー 288 ル)した RCT の8研究(総患者数 2994 症例)の分析。8 研究で 7 種類の異なったビタ 289 ミン K 拮抗薬治療期間(4 週と 3 ヶ月、6 週と 12 週、6 週と 6 ヶ月、3 ヶ月と 1 年、3 290 ヶ月と 27 ヶ月、6 ヶ月と 4 年)において主要出血(major bleeding)頻度、死亡率が比 291 較検討された。結果)主要出血(major bleeding)頻度はビタミン K 拮抗薬長期投与では 292 1499 例中 36 例(2.4%)、短期投与では 1495 例中 13 例(0.9%)であり、統計学的有意 2939
に長期投与で出血合併症が増加した(OR 2.61, 95% CI 1.48 to 4.61)。また、長期投
294
与群は短期投与群に比較して死亡率の低下((5.3% VS 6.4% )がみられたが、統計学
295
的有意差はなかった(OR 0.80 ,95% CI 0.34 to 1.91)。(EV level Ia)
296
<文献>
297
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symptomatic venous thromboembolism. Hutten, BA; Prins, MH Cochrane
299
Database of Systematic Reviews. 3, 2007
300 301
8. ワーファリンの長期投与は骨折を増加させるか?
302 [Scientific statement] 303 症候性 VTE 発症患者に対してビタミン K 拮抗薬を(目標 PT-INR 2.5 にコントロール) 304 投与した結果では、服用期間が長くなるにつれ椎体骨折、肋骨骨折が増加する。(EV level 305 II) 306 <エビデンス> 307 1) 静脈血栓症を発症後、経口抗凝固薬(dicumarol と warfarin)を継続服用した 35 歳以 308 上の女性 572 名と一般住民の性・年齢別の骨折発症率(標準発生率 [SIR])から予測し 309 た骨折数を比較した後ろ向きコホート調査研究。椎体骨折の SIR は、3 ヶ月以内の服用 310 では 2.4(95%信頼区間[CI]、1.6-3.4)、3-12 ヶ月では 3.6(CI、2.5-4.9)、12 ヶ月以 311 上では 5.3(CI、3.4-8.0)であった。また肋骨骨折は、3 ヶ月以内の服用では 1.6(CI、 312 0.9-2.7)、3-12 ヶ月では 1.6(CI、0.9-2.6)、12 ヶ月以上では 3.4(CI、1.8-5.7)で 313 あった。他の骨折リスクの増加は明らかではなかった。経口抗凝固薬の 12 ヶ月以上の 314 服用は椎体骨折(p=0.009)、肋骨骨折(p=0.02)の独立した予測因子であった。(DVT00776) 315(EV level II)
316
<文献>
317
1) DVT00776:Caraballo PJ, Heit JA, Atkinson EJ, Silverstein MD, O'Fallon WM, Castro
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319
Arch Intern Med. Aug 9-23; 159(15): 1750-6, 1999
320 321
9. その他のワーファリンの合併症は?
322 [Scientific statement] 323 大腿骨転子部骨折術後に皮膚壊死が症例報告されている。(EV R-V)? 324 <エビデンス> 325 1) 転倒受傷した 69 歳女性の左大腿骨転子下骨折に対して受傷後 36 時間に手術施行。術後 326 1 日目からワーファリン 5mg 開始、二日目より 2.5mg 内服を開始した。術後 5 日目に下 327 腿の浮腫と紫斑を認め、ワーファリンを中止した。術後 7 日目に約 15cm 紫斑を認め、 32810 水疱を伴っていた。11 日目に自潰し、中心部分は壊死となった。37 日目にデブリドマ 329 ン後、皮膚移植を行い創は正常に治癒した。(EV R-V) 330 <文献> 331
1) DVT00271:LaPrade RF, Fowler BL, Ryan TG:Skin necrosis with minidose warfarin
332
used for prophylaxis against thromboembolic disease after hip surgery.
333 Orthopedics 1993 (16)703-704 334 335
へパリン
336 ヘパリン類は未分画ヘパリン、低分子へパリン、低分子ヘパリノイドの大きく 3 つに分 337 類される。抗凝固薬は、活性型第 X 因子(Xa)およびトロンビンの2つの活性型凝固因子 338 のうち、抗トロンビン作用が強い薬剤は出血リスクが高くなり、未分画へパリンの抗 Xa/ 339 トロンビン活性比は1:1とほぼ中間の位置にある。低分子へパリン、低分子ヘパリノイ 340 ドは抗 Xa 作用がより強い薬剤、すなわち出血リスクの低い薬剤として開発された薬剤であ 341 る。 342 ヘパリン類の種類、適応、特徴を表2に示す。後に述べるフォンダパリヌクスを含めた 343 抗凝固薬の作用点を図1、薬理作用機序を図2に示す。 344(1)
未分画ヘパリン (unfractionated heparin: UH)
345 未分画ヘパリンには、ヘパリンナトリウムとヘパリンカルシウムがある。皮下注用とし 346 ては、「カプロシン○R 皮下注用(20,000 単位/0.8ml/V)」がわが国では用いられる。 347 未分画ヘパリンの使用法は、体重などを考慮せず低用量のヘパリンを投与する「低用量 348
未分画ヘパリン(low dose UH: LDUH)」 と、目標値にコントロールしながら使用する「用
349 量調節型へパリン」の2つがある。出血合併症が出現しやすいことが注意点であるが、半 350 減期が 30~60 分と短いため、出血合併症が発症した際には、投与を中止することで効果を 351 減弱させやすい。本薬剤には中和薬として硫酸プロタミンが存在するため、重篤な合併症 352 の出現時には未分画ヘパリン 100 単位あたり硫酸プロタミン1mg を目安に投与する。ヘパ 353 リン投与後の合併症として、ヘパリン起因性血小板減尐症(HIT)があり、その頻度は 3~ 354 5%(欧米)程度と報告されている(表3)。 355 1) 低容量未分画ヘパリン 356 未分画ヘパリンを 8~12 時間おきに 2500~5000 単位を皮下注射する方法である。低用 357 量であり、用量調節の必要がないことが特徴である。一方でその抗凝固効果は比較的 358 弱く、安定しない傾向にある。 359 2) 用量調節未分画ヘパリン 360 未分画ヘパリン投与前に活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial 361
thromboplastin time : APTT)を測定し、それを基に正常値の上限となるようにヘパ
362
リン投与量をコントロールしていく方法である。低容量未分画ヘパリンと比較して VTE
363
予防効果が高い一方、頻回の採血検査によるコントロールが必要であるため煩雑であ
11
りあまり使用されていない。
365
(2)
低分子ヘパリン (low molecular weight heparin: LMWH)
366 欧米では 1990 年代より術後の VTE 予防として一般的に用いられており、多くの種類の薬 367 剤が販売されている。我が国で使用可能であるダルテパリン(商品名フラグミン)は、DIC 368 や体外循環時の血液凝固防止が保険適応となっており、海外とは異なり VTE 予防には承認 369 されていない。2008 年に承認・販売となったエノキサパリン 「クレキサン○R 皮下注キッ 370 ト 2,000IU/0.2ml/シリンジ」が VTE 予防として保険適応となっているが、本邦での適応は 371 現在のところ「下肢整形外科手術(股関節全置換術、膝関節全置換術、股関節骨折手術) 372 施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」となっている。 373 欧米での用量設定は 4000 単位/1 回/日皮下注射(主に欧州)もしくは 3000 単位/2 回/ 374 日(主に米国)であるが、日本では平均体重が欧米人の約 2/3 であることより 2000 単位/2 375 回/日の使用となっている。 376 血中半減期は2~4時間で、体内動態が安定していることより採血などによるコントロ 377 ールが不要であることが利点である。また、ヘパリン依存性血小板減尐症(HIT)や長期間 378 使用による骨粗鬆症といった合併症もみられにくい。プロタミンの低分子へパリンに対す 379 る中和作用は不十分で、60%程度とされている。 380 (3)
低分子ヘパリノイド
381 ダナパロイドナトリウム(danaparoid sodium:商品名オルガラン)はオランダで開発され 382 たヘパリン硫酸を主成分とする分子量 5,500 の低分子ヘパリノイドである。欧米では DVT 383 予防薬として一般的に使用されているが、日本では DIC の治療薬としての保険適応しか承 384 認されていない。 385 抗 Xa/トロンビン活性が未分画ヘパリンの 22 倍と高く、血中半減期が約 20 時間と長い 386 ことが特徴である。他のヘパリン類と同様、腎臓代謝であるため、腎機能低下症例では用 387 量を減ずる必要がある。 388 38910. ヘパリンは骨折患者の術後 VTE を減尐させるか?
390 <解説> 391 骨折患者に対するヘパリンの VTE 予防効果についてのエビデンスレベルの高い報告は、 392 大腿骨近位部骨折を対象としたものであり、欧米での骨折患者に対する予防法は大腿骨近 393 位部骨折患者および THA、TKA におけるエビデンスが基になっている。我が国におけるヘパ 394 リン類の予防効果に関するエビデンスはほとんどない。 395 [Scientific statement] 396 1) 大腿骨近位部骨折術後において、未分画ヘパリン、低分子へパリンは共に DVT を減尐 397させるが、PTE に関しては十分なデータがなく明らかではない。(EV level Ia)
398
2) 大腿骨近位部骨折患者に対する低分子ヘパリン(enoxaparin)1 日 60mg 術前分割投
12
与(朝 20mg、晩 40mg)による血栓症予防は安全で、VTE 予防に有用である。(EV level
400 Ib) 401 3) 大腿骨近位部骨折に対する低分子へパリン(fraxiparin)の投与は、コントロール群 402 と比較して、DVT 発生率に差はみられなかった。(EV level ?) 403 4) 大腿骨近位部骨折に対する術前からの低分子ヘパリン(enoxaparin)40mg、1 回/日 404 投与群は生理食塩水を投与したプラセボ群と比較して、DVT 発生率に差はみられなか 405
った。(EV level Ib)
406
5) 大腿骨近位部骨折に対する低分子ヘパリン(nadroparin)投与群は非投与群と比較し
407
て、遠位、近位 DVT ともに有意に減尐した。(EV level Ib)
408
6) 大腿骨近位部骨折に対する低分子ヘパリン群(fragmin)はプラセボ群に比較して、DVT
409
発生率が有意に減尐し、術中出血やドレーンの出血には差はなかった。(EV level Ib)
410 7) 大腿骨近位部骨折に対する低分子ヘパリン投与群はプラセボ群に比較して、DVT 発生 411 率が有意に減尐し、術中出血やドレーンの出血には差はなかった。(EV level ?) 412 8) 大腿骨近位部骨折に対する低分子へパリン投与群はプラセボ群に比較して、DVT 発生 413
率が有意に減尐した。(EV level Ia)
414
9) 股関節骨折患者に対してエノキサパリン 20 ㎎を術後 24~36 時間に皮下注し、その後
415
1 日2回 14 日間の投与後の DVT の発生率は 14.0%で、症候性 PTE はなく VTE 予防に
416
有用で安全であった。(EV level II?)
417 <エビデンス> 418 1) 未分画ヘパリン群対コントロール群(10 の RCT における 826 例)の検討の結果、未分 419 画ヘパリンは未使用群に比較して有意に DVT を減尐させる。また 420 低分子ヘパリン群対コントロール群(5 つの RCT における 373 例)の検討の結果、低分 421 子へパリンは股関節骨折術後の DVT を減尐させる。しかし、PTE に関しては両薬剤共に 422
十分なデータがなく明らかではない。(EV level Ia)
423 2) 大腿骨近位部骨折 897 例の低分子ヘパリン(enoxaparin)の予防効果に関する 424 前向きコホート研究。大腿骨近位部骨折 897 例に対して、DHS:296 例、Gamma Locking 425 Nail:252 例、人工骨頭置換術:251 例、THR:74 例、その他:24 例を行った。予防法 426 は、当日手術施行された場合は術後の夜に 40mg 投与、待機手術の場合は手術日まで 427 enoxaparin 朝 20mg、晩 40mg 投与し、手術当日の朝は中止した。術後 5 日間は enoxaparin 428 20mg、40mg を投与し、その後、夜のみ 40mg へとし、術後 5 週間継続した。手術は入院 429 後 12 時間以内に行われた患者は 42%、24 時間以内に行われた患者は 54%、36 時間以 430 内は 64%であった。DVT の臨床所見は 37 例(4.2%)に見られ、全例静脈造影が実施さ 431 れ 5 例(0.6%)に DVT が確認された。これらの症例に PE は認められなかった。PE の 432 臨床所見を呈した症例は 4 例(0.4%)であり、2 例(0.2%)が CT で確定診断された。 433 PE による死亡例はなかった。大出血は 42 例(4.7%)に発症し、脳内出血による死亡 434 が 1 例あった。Ⅱ型の HIT(ヘパリン起因性血小板減尐症)はみられなかった。結論、 435 大腿骨近位部骨折患者に対する Enoxaparin 1 日 60mg 術前分割投与(朝 20mg、晩 40mg) 436
による血栓症予防は安全で、VTE 予防に有用である。DVT01114(EV level II)
13 3) 大腿骨近位部骨折 78 例(男性 11 例、女性 67 例)のうち、23 例に低分子へパリン 438 (Fraxiparin、dose 記載なし)を予防的に投与、55 例をコントロールとした。結果、 439 DVT は 29 例(37%)に発生した。低分子へパリン群では、患側 DVT22%、健側 4%、両側 440 8%、全体で 35%に発生。コントロール群では、患側 DVT22%、健側 5%、両側 11%、全体で 441 38%に発生し、2 群間に有意差はなかった。有意差があったのは、患側と健側の間のみ 442 であった。 443
DVT00777(EV level II or III)
444 4) 大腿骨近位部骨折を、術前から低分子ヘパリン(エノキサパリン)40mg 投与 445 群と生理食塩水を投与したプラセボ群に分け、DVT 発生率を比較検討した二重盲検 RCT。 446 手術までの期間は低分子ヘパリン群平均 23 時間(16-38 時間)、プラセボ群平均 25 時 447 間 (17-36 時間)で、術後は両群とも 40mg のエノキサパリン1日1回投与。DVT の診断 448 は術後 6-13 日に両下肢静脈造影施行。症状出現時、肺血流換気シンチを施行。結果、 449 DVT 発生率は低分子ヘパリン群9例(12%)、プラセボ群15例(21%)であり有 450 意差はなく、risk ratio は 0.58 (95%信頼区間 0.27-1.25) p=0.15(カイ二乗テスト) 451 であった。 452
DVT00691(EV level Ib)
453
5) 大腿骨転子部骨折 88 例、大腿骨骨頭下骨折 62 例に低分子ヘパリン(Nadroparin)を投
454
与群と非投与群に分け、DVT の発生率について比較検討した double blind study。対象
455 群を大腿骨転子部骨折では投与群 44 例(A 群)と非投与群 44 例(B 群)、大腿骨骨頭下 456 骨折では投与群 28 例(C 群)と非投与群 34 例(D 群)の4群に分けた。投与方法は、 457 入院から Nadroparin 0.3ml を1日1回投与開始し、術後 0.6ml を1日1回投与し、12 458 日まで継続後、患側の静脈造影を施行し DVT の発生率について比較検討した。DVT の発 459 生率は、近位(膝上)血栓は A 群 0 例、B 群 6 例、C 群 2 例、D 群 13 例であり、遠位(膝 460 下)血栓は A 群 13 例、B 群 21 例。C 群 9 例、D 群 16 例であり、低分子ヘパリン群で有 461
意に減尐がみられた。DVT00439(EV level Ib)
462 6) 40 歳以上の股関節骨折手術患者 68 例(低分子ヘパリン群(Fragmin)は 30 例、プラセボ 463 群は 38 例)の DVT 発生頻度と合併症を比較した前向き無作為 double-blind 調査。低分 464 子ヘパリンは手術 2 時間前に 2500 単位、手術後 12 時間に 2500 単位、以降は 1 日 1 回 465
朝に腹部皮下に投与された。DVT の診断は、125-I-fibrinogen uptake test (RFUT)で
466 陽性時に静脈造影施行。結果、DVT 発生頻度は低分子ヘパリン群 9/30 例(30%)はプラ 467 セボ群 22/38 (58%)に比較して有意に(P<0.03)減尐。DVT の発生は患側 23/31(74.2%) 468 は健側 8/31(25.6%)に比較して有意に(P<0.03 高かった。術中出血、ドレーンの出 469
血に有意差はなかった。DVT00160(EV level Ib)
470
7) 股関節骨折患者を低分子ヘパリン群 30 例、プラセボ群 38 例に分け、125-I-fibrinogen
471
uptake test (RFUT)を用いて、術前、術後 1 日目、3 日目、5 日目、7 日目、9 日目に
472
DVT の有無を評価し、陽性の時は技術的に可能であれば上行性静脈造影で確認された。
473
DVT 発生頻度は低分子ヘパリンで有意に減尐(50%)し、術中出血やドレーンの出血には
474
コントロール群と有意差はなかった。DVT00160(EV level II)前向きか?
14 8) 大 腿 骨 近 位 部骨 折 に対 す る 低 分 子へ パ リン の 予 防 効 果を プ ラセ ボ 群 と 比 較し た 476 Meta-Analysis。2つの文献の症例数は 175 (107 + 68)。DVT の診断はアイソトープ法 477 によるスクリーニングおよび静脈造影法。結果、それぞれの報告による DVT 発生数は低 478 分子へパリン群 14/53 VS プラセボ群 23/54(Odds Ratio 0.46)。低分子へパリン群 9/30 479 VS プラセボ群 22/38(Odds Ratio 0.33)、95%信頼区間 0.42 ( 0.23- 0.77) であり、 480
低分子へパリンは有意に予防に有効であった。DVT00121(EV level Ia)
481 9) 骨折後 10 日以内に手術を受けた股関節骨折患者 54 例(頚部骨折 24 例、転子部骨折 19 482 例、転子下骨折 3 例)に対してエノキサパリン 20 ㎎を術後 24~36 時間に皮下注し、そ 483 の後 1 日2回 14 日間投与した。このうち術後下肢静脈造影を行い判読可能であった 43 484 例の DVT および症候性 PTE 発生率を検討した。結果、男性 8 例、女性 35 例で平均年齢 485 は 76.6 歳であった。DVT の発生率は 14.0%で全例無症候性であり、PTE が疑われたも 486 のはなかった。出血事象は3例(7.0%)であり、大出血1例、小出血2例であった。 487
(EV level II?)
488
<文献>
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11. 未分画へパリンと低分子へパリンの VTE 予防効果比較
524 <解説> 525 未分画ヘパリンと低分子へパリンの予防効果について比較されたエビデンスレベルの 526 高い報告は、大腿骨近位部骨折を対象としたものであり、低分子へパリンの有用性が示 527 されている。しかし、全ての研究の方法論に欠陥がみられることや、その中でも相対的 528 にエビデンスレベルの高い研究における両薬剤の比較では有効性に差はみられないこと 529 から、低分子へパリンの有意性を積極的に支持するエビデンスは不十分とされている。 530 <Scientific statement> 531 1) 股関節骨折術後の VTE 発症に関する低分子へパリンと未分画へパリンを比較した研究 532 では、低分子へパリン群に有意に DVT を減尐させる結果が得られた。しかし全ての研究 533 の方法論に欠陥がみられることから、低分子へパリンの有意性を示すエビデンスは不十 534分である。(EV level Ia)
535
2) 大腿骨近位部骨折に対する低分子ヘパリン(enoxaparin)(40mg 1 日 1 回投与、術前は
536
20mg 1 日 2 回投与)と未分画ヘパリン(5000 単位 1 日 2 回)を比較した研究では、術
537
後 DVT 発生率に有意差はなかった。(EV level II)
538 3) 股関節骨折患者に対する低分子ヘパリン(sandoparin)1日 1 回投薬群と未分画ヘパリ 539 ン 5000 単位 3 回投薬群を比較した研究では、術後 DVT 発生率に有意差はなかった。 (EV 540 level Ib) 541 4) 大腿骨近位部骨折に対する低分子へパリン(sandoparin)と低容量未分画ヘパリンと比 542 較した研究では、術後 DVT 発生率に統計学的有意差はなかった 543
(EV level Ia)
544 <エビデンス> 545 1) 股関節骨折術後の VTE 発症に関する低分子へパリンと未分画へパリンを比較した 5 つの 546 RCT(644 名の患者)の systematic review からは、低分子ヘパリンが未分画ヘパリン 547 に比較して DVT を減尐させる結果が得られた。しかし、研究の方法論的スコアが 16 以 548 上とエビデンスレベルの高い 3 研究では差はみられず、また全ての研究の方法論に欠陥 549 がみられることから、低分子へパリンの有意性を示すエビデンスは不十分。 (EV level 550
16 Ia) 551 2) 331 例の連続した 18 歳以上の急性の大腿骨頚部骨折または大腿骨近位 1/3 骨折に対す 552 る open で前向きな比較研究である。この研究では患者は無作為に低分子ヘパリン 553 (enoxaparin)(40mg 1 日 1 回投与、術前は 20mg 1 日 2 回投与)139 例または未分画ヘ 554 パリン(5000 単位 1 日 2 回)120 例による血栓予防を受けるように割り付けられた。最 555 初の注射投与はこの研究に参加してすぐに始められ、術後 7±2 日または完全に動ける 556 ようになるまで続けられた。術後の DVT は術後 7±2 日の両下肢静脈造影で診断され、 557 静脈造影図は無作為割り付けを知らない 3 名の放射線医師によって評価された。 558 enoxaparin 群 30 例と未分画ヘパリン群 35 例の術後 DVT 発生頻度に有意差はなかった。 559
3 ヵ月以内の死亡が enoxaparin 群よりも未分画ヘパリン群に有意に多かった。(EV level
560 II) 561 3) 股関節骨折患者を未分画ヘパリン群(33 例)、低分子ヘパリン群(35 例)に分け予防効 562 果 を 比 較 し た RCT 。低 分 子 ヘ パ リ ン (Sandoparin) は 1 回 投薬 、 未 分 画 ヘ パ リ ン 563 (Liquemin:3×5000 単位) 3 回投薬した。低分子ヘパリンの最初の投薬は未分画ヘパリ 564 ンと同様に術前に救急病棟で行われた。術後 4-6 日目に DVT のスクリーニングとして臨 565
床検査、Liquid Crystal Contact Thermography(LCCT)、カラー超音波検査、静脈造影
566
が施行された。DVT 発生頻度は未分画ヘパリン群で 10/33 例(10%)、低分子ヘパリン群
567
で 6/35 例(17%)で有意差はなく、両群共に 60 例ないと統計学的有意差はでない。
568
(EV level Ib)
569 4) 大腿骨近位部骨折に対する低分子へパリンの予防効果を低容量未分画ヘパリン(1 日 2 570 回または 3 回投与)と比較した Meta-Analysis。4つの文献の症例数 378 (69 + 62 + 107 571 + 140)。その結果、低分子へパリンが有益な傾向を示したが、1 回投薬の低分子ヘパリ 572 ン(Sandoparin)と 3 回投薬の未分画ヘパリン(Liquemin:3×5000 単位)では、症例数が 573 尐ないが DVT 発生率に統計学的有意差はなかった。また安全性についての言及はみられ 574 なかった。 575 576 血栓同定 LMWH 3/35: LDH 7/33 Odds Ratio 0.37 577 LMWH 14/32: LDH 6/30 Odds Ratio 2.91 578 LMWH 14/53: LDH 23/54 Odds Ratio 0.49 579 LMWH 5/70: LDH 7/70 Odds Ratio 0.70 580 95%信頼区間 0.77 ( 0.46-1.29 ) 581
DVT00121(EV level Ia)
582
<文献>
583
1) Heparin, low molecular weight heparin and physical methods for preventing deep
584
vein thrombosis and pulmonary embolism following surgery for hip fractures.
585
Handoll HH, Farrar MJ, McBirnie J, Tytherleigh-Strong G, Milne AA, Gillespie WJ.
586
Cochrane Database Syst Rev. 2002;(4):CD000305. Systematic Review
587
2) DVT00453:Borris LC, Lassen MR, Poulsen KA, Jensen HP,
17
Thromboembolic complications after hip fracture — prophylaxis with low molecular
589
weight heparin(enoxaparin) versus unfractionated heparin.
590
Thrombosis & Haemostasis 73(6):1104, 1995
591
3) DVT01873: EV lebvel IB?症例がが尐ない): Platz A, Hoffmann R, Kohler A, Bischof
592
T, Trentz O, Prevention of thromboembolism in hip fracture: unfractionated
593
heparin versus low molecular weight heparin(a prospective, randomized study)
594
Zeitschrift fur Unfallchirurgie und Versicherungsmedizin 86(3):184-188, 1993.
595
4) DVT00121:Lassen MR, Borris LC, Christiansen HM, Schott P, Olsen AD, Sorensen JV,
596
Rahr H, Jensen HP: Clinical trials with low molecular weight heparins in the
597
prevention of postoperative thromboembolic complications: a meta-analysis.
598
Semin Thromb Hemost 1991, 17 Suppl 284-290.
599 600
12. 未分画ヘパリン(UFH)と低分子量ヘパリン(LMWH)の出血合併症比較
601 <解説> 602 未分画ヘパリンと低分子へパリンの安全性比較についてのエビデンスレベルの高い研究 603 報告は、大腿骨近位部骨折を対象としたものであるが、研究報告における症例数が尐なく 604 検証には不十分である。他の研究報告は、人工関節手術など骨折以外の整形手術も含まれ 605 た分析や種々の予防法が混在した分析であり、研究の方法論に欠陥がみられ信頼性に乏し 606 い結果となっている。 607 <Scientific statement> 608 1) 股関節骨折手術における低分子へパリンと未分画ヘパリンにおける出血合併症につい 609ての比較は創部血腫のみが評価可能であり、両群間に有意差はない。(EV level Ia)
610 2) 整形外科大手術では、低分子へパリンが未分画ヘパリンに比較して安全性が良好である 611 傾向が認められる。 612 3) 股関節骨折患者に種々の予防法を行った結果、小出血、大出血(出血死、口腔内出血、 613 再手術必要な出血)、3 単位以上の輸血の発生頻度は、予防なし群(1.9%、1.9%、13.2%)、 614 enoxaparin 術後 12 時間以内投与群(5.7%、0.8%、12.6%)、enoxaparin 術後 12-24 時 615 間投与群(2.9%、1.2%、10.9%)、未分画ヘパリン群(10%、10%、20%)であった。(EV level 616 III) 617 <エビデンス> 618
1) 股関節骨折手術における 3 つの RCT (Hoffmann 1996, Monreal 1989, Pini 1989)の
619 systematic review では、出血合併症については創部血腫のみが評価可能であり、低分 620 子へパリンでは 136 例中 4 例、未分画ヘパリンでは 113 例中 6 例であり有意差はなかっ 621 た。 P=0.4 Relative Risk 0.60[99% CI 0.19, 1.88]しかし、それぞれの研究報告の 622
18
症例数が尐ないため断定するには至らない結果となっている。低分子へパリンと未分画
623
ヘパリンの症例数は Hoffmann 1996(67 vs 45)、 Monreal 1989(44 vs 42)、 Pini 1989
624
(25 vs 24)。(EV level Ia) Handoll HH
625 2) 文献の原データに基づくメタアナリシスを実施し、大手術後の血栓症予防における低分 626 子量ヘパリン(LMWH)と未分画ヘパリン(UFH)の有効性と安全性について比較を行っ 627 た。有効性の主要評価項目として、すべての位置の DVT を用い、安全性の主要評価項目 628 には創傷血腫を用いた。一般外科では、有効性の面で LMWH と UFH の間に意味のある差 629 は認められない;安全性の結果は、用量に強く依存する:UFH 使用時と比較して、低用 630 量 LMWH 使用時には創傷血腫のリスクが有意に低く、高用量 LMWH 使用時にはそのリスク 631 が有意に高い。整形外科では、LMWH の方が、有効性および安全性が良好である傾向が 632 認められる。さらに、整形外科では、近位 DVT および肺塞栓症に関しても、LMWH が UFH 633 より優れている。近位 DVT および肺塞栓症の発生率は、それぞれ UFH 使用時よりも LMWH 634 使用時の方が一貫して尐ないが、遠位 DVT の発生率は UFH 使用時の方が若干尐ない。(EV 635
level Ia)。meta-analysis
636 3) 股関節骨折患者 939 例の VTE 予防に弾性ストッキング(大多数)、間欠的空気圧迫装置 637 (IPC、約半数)を使用した予防薬合併症についての後ろ向き研究。薬剤予防なし群 53 例、 638 アスピリン群 387 例、ワーファリン群(術後 12 時間以内に投与開始)17 例、enoxaparin 639 12 時間群(術後 12 時間以内に投与開始、30mg 2 回/日 or 40mg 1 回/日)245 例、enoxaparin 640 12-24 時間群 174 例、未分画ヘパリン群(5000 単位 3 回/日)10 例、その他 53 例であっ 641
た。DVT は Doppler 超音波検査で、PE は肺血流換気シンチで診断。HIT 発症例なし。小
642 出血、大出血(出血死、口腔内出血、再手術必要な出血)、3 単位以上の輸血の発生頻度 643 は予防なし群(1.9%、1.9%、13.2%)、アスピリン群(3.1%、0%、4.7%)、ワーファリン群 644 (0%、0%、17.6%)、enoxaparin 12 時間群(5.7%、0.8%、12.6%)、enoxaparin 12-24 時 645 間群(2.9%、1.2%、10.9%)、未分画ヘパリン群(10%、10%、20%)であった。アスピリン群 646 で 1 例の遠位型 DVT、1 例の致死的 PE 発生。Enoxaparin 群で 2 例の近位型 DVT 発生。(EV 647 level III) 648 <文献> 649
1) Handoll HH, Farrar MJ, McBirnie J, Tytherleigh-Strong G, Milne AA, Gillespie WJ:
650
Heparin, low molecular weight heparin and physical methods for preventing deep
651
vein thrombosis and pulmonary embolism following surgery for hip fractures.
652
Cochrane Database The Cochrane Library 2004, Issue 2
653
2) DVT 00125498-100000000-04283:Armin Koch, Sandra Ziegler, Heike Breitschwerdt and
654
Norbert Victor : Low molecular weight heparin and unfractionated heparin in
655
thrombosis prophylaxis: meta-analysis based on original patient data , Database
656
of Abstracts of Reviews of Effects. Issue 3, 2007. meta-analysis
657
(Thrombosis research 102 (2001) 295-309 がオリジナル)
658
3) DVT01508 : Ennis RS: Postoperative deep vein thrombosis prophylaxis: a
659
retrospective analysis in 1000 consecutive hip fracture patients treated in a
19
community hospital setting. J South Orthop Assoc 12(1):10-17, 2003
661 662
13. ヘパリノイドのVTE予防効果は?
663 <Scientific statement> 664 1) 低分子へパリノイド(ダナパロイド:商品名オルガラン)はアスピリンに比較して、大 665 腿骨近位部骨折手術後の DVT 発生率を有意に減尐させ、出血性合併症に関して有意差は 666 なかった。 667 2) 低分子へパリノイド(ダナパロイド+IPC)は未分画ヘパリン+IPC 群に比較して、大腿 668 骨近位部骨折術後の DVT/PTE 発生率に差はみられなかった。 669 <エビデンス> 670 1) 大 腿 骨 近 位 部 骨 折251 例 を 、 Orgaran (低 分 子 Heparinoid )投 与 群 ( 125 例 ): 750 671 anti-Factor Xa units ( 0.9mL ) 皮下注12時間毎、アスピリン投与群(126例):100mg 672 を1日2回退院まで、または14日間連続投与し、DVTの予防効果を比較検討したRCT。 673 結果、DVT全体の発生率は、Orgaran群25例(27.8%)はアスピリン群39例(44.3%)に比 674 較して有意に減尐し、相対危険度減尐(P=.028;95%信頼区間、3.7%〜59.7%)は37%であ 675 った。近位DVTまたはPTEの発生率は、Orgaran 6例(6.8%)はアスピリン群12例(14.3%) 676 に比較して有意に減尐し、相対危険度減尐(P= 0.137; 95%信頼区間、-30.7%〜84.6%) 677 は52%であった。出血合併症についてはOrgaran群2例(1.6%)、アスピリン群8例(6.4%) 678 (P=0.10)と有意差はみられなかった。DVT00490, FF03099 679 2) 大腿骨近位部骨折で手術をおこなった患者 171 例を、コントロール群(IPC 使用)71 例、 680 ヘパリン群(IPC+未分画ヘパリン:術翌日から術後 7 日目まで 5000 単位を 12 時間ごと 681 に皮下投与)44 例、ダナパロイド群(IPC+ダナパロイド:術翌日から術後 7 日目まで 682 1250 抗 Xa 因子活性単位を 1 日 1 回静脈投与)56 例の 3 群に分け DVT 発生率を比較検討 683 した。結果:各群の手術までの期間はコントロール群 6.7±2.9 日、ヘパリン群 6.8±2.5 684 日、ダナパロイド群;6.3±2.6 日と有意差はなく、DVT 発生率はコントロール群 71 例中 685 22 例(31.0%)、ヘパリン群 44 例中 4 例(9.1%)、ダナパロイド群 56 例中 3 例(5.4%) 686 で、薬物予防を行った 2 群で DVT 所見陽性率の有意な低下を認めたが、未分画ヘパリン 687 群とダナパロイド群では有意差は認められなかった。PTE の発生率はコントロール群 71 688 例中 4 例(5.6%)、ヘパリン群 44 例中 2 例(4.5%)、ダナパロイド群 56 例中 1 例(1.8%) 689 で有意差はなかった。年齢、受傷から手術までの期間、肺血栓塞栓症(PTE)所見陽性例、 690 術前から術後 7 日目までのヘモグロビン減尐率、術後出血量で有意差は見られなかった。 691 合併症として、ヘパリン群では原因不明の消化管出血 1 例と皮下血腫 5 例を認め、ダナ 692 パロイド群では高度肝硬変による創の遷延治癒が 1 例であった。2006285300 693 <文献> 6941) DVT00490, FF03099:Gent M, Hirsh J, Ginsberg JS, Powers PJ, Levine MN, Geerts
695
WH, Jay RM, Leclerc J, Neemeh JA, Turpie AG: Low-molecular-weight heparinoid
696
orgaran is more effective than aspirin in the prevention of venous
20
thromboembolism after surgery for hip fracture. Circulation 1996, 1 :80-84
698 2) 2006285300:大腿骨近位部骨折術後の静脈血栓塞栓症に対する薬物的予防法 中瀬順 699 介(高岡病院(厚生連) 整形外科), 毛利良彦, 鳥畠康充, 関宏恭 整形・災害外科 700 49(8): 937-941,2006 701 702
14. 種々の低分子へパリンで DVT 予防効果に差はあるか?
703 <解説> 704 低分子ヘパリンであるエノキサパリン(商品名:クレキサン)、ダルテパリン(商品名:フ 705 ラグミン)及び低分子へパリノイドであるダナパロイド(商品名:オルガラン)における 706 DVT 予防効果についての比較研究である。それぞれの薬剤の特徴については前述した。 707 <Scientific statement> 708 1) 低分子ヘパリノイド(danaparoid)、低分子へパリン(enoxaparin 、 dalteparin)の、 709 それぞれの薬剤の DVT 予防効果、出血性合併症については差がない。 710 2) 低分子ヘパリノイド(オルガラン)、低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)の、そ 711れぞれの薬剤の DVT 予防効果については差がない。(EV level Ib)
712 <エビデンス> 713 1) 受傷後 24 時間以内の患者で 48 時間以内に手術が施行された 162 例の股関節骨折患者を、 714 ダナパロイド群(53 例:術前 750 抗 Xa 単位 X2 回 術後:750 抗 Xa 単位 X 2 回/日)、 715 エノキサパリン群(52 例:術前 20mg、術後:40mg X 1 回/日)、ダルテパリン群(57 例: 716 術前 2500 単位、術後:5000 単位 X 1 回/日)の3つに分け、9~11 日間投与後に静脈造 717 影を行って DVT 発生率を比較検討した。結果)DVT の発生はダナパロイド(3/53 例)、エ 718 ノキサパリン(8/52 例)、ダルテパリン(5/57 例)であった。このうち近位部血栓は、そ 719 れぞれ2例、2例、3例であった。症候性 DVT、PE はいずれも認めなかった。合併症は 720 4 例に認め、ダルテパリンで大出血 1 例、エノキサパリンで脳梗塞が 1 例、血小板減尐 721
を 2 例に認めた。術中出血には有意差を認めなかった。DVT00797 (EV level II)
722 2) 24 時間以内に骨折した股関節骨折患者を対象にダナパロイド(オルガラン)65 例、低 723 分子ヘパリンのフラグミン 66 例、クレキサン 66 例の DVT 抑制効果を比較した。術前 724 予防投与は手術前日まで施行し、術後は 10 日まで継続した。すべての患者は静脈造影 725 を施行した。PE が症候性に疑われた場合に肺血流シンチを評価し、安全性は出血と周 726 術期の出血を評価した。結果)16 例に DVT が認められ、オルガラン 3/53 例(5.7%)、 727 フラグミン 5/57 例(8.8%)、クレキサン 8/52 例(15.4%)に認められた。近位血栓 728 はオルガラン2例、フラグミン3例、clexane2例であった。症候性肺塞栓は無かった。 729
DVT00283 (EV level Ib)
730
<文献>
731
1) DVT00797:Thromboprophylaxis in hip fracture surgery: a pilot study comparing
732
danaparoid, enoxaparin and dalteparin. The TIFDED Study Group Anonymous :
733
Haemostasis:1999(29) 310-7
21
2) DVT00283:Roise O, Nurmohamed M, Reijnders P, Touzard R, Stiekema J, Bachmann F:
735
A multicentre, randomised, assessor-blind, pilot study comparing the efficacy in
736
the prophylaxis of DVT and the safety of Orgaran (Org 10172), Fragmin,
737
Clexane/Lovenox in patients undergoing surgery for a fractured hip [Abstract]
738
Thrombosis and Haemostasis <研究デザイン>RCT
739 740
15. 低分子へパリン予防下での症候性VTE発生率は?
741 <解説> 742 予防を行ったとしても、VTE 発生率を0にはできない。海外での報告で症例数がもっと 743 も多い大腿骨近位部骨折に対する低分子ヘパリン予防下における発生率について示した。 744 これらの報告の受傷から手術までの待機期間は 24 時間以内であるため、我が国のように待 745 機期間が長い場合は発生率が高まる可能性がある。 746 <SS> 747 1) 股関節骨折患者に対する DVT 予防として低分子へパリンを使用した場合の、術後 3 ヶ月 748以内の症候性 VTE の発生率は 1.34%、症候性 PE の発生率は 0.25%である。 (EV level
749
II)
750
2) 大腿骨近位部骨折に対する DVT 予防として低分子へパリンを使用した場合の、術後 5 週
751
間までの DVT の発生率は 0.6%、PE と確定診断されたものは 0.2%であった。(EV level
752 II) 753 <エビデンス> 754 1) 低分子ヘパリンを用いて予防を行った 6,860 名の股関節部骨折手術患者(年齢の中央 755 値 82 歳)の症候性 VTE の発生率(術後3ヶ月まで)と死亡率(術後6ヶ月まで)に 756 ついて前向きに検討した多施設共同研究(531 施設で2ヶ月間)。入院から手術まで 757 の期間は平均 1.0 日(0-56 日)で 79.1%が 24 時間以内に手術施行された。手術法は骨 758 接合 57.0%、人工骨頭 35.2%、人工関節 7.8%であった。低分子ヘパリンの投与期 759 間は、尐なくとも 1 週間投与されたものが 97.4%、2 週間投与が 69.5%、4週間投 760 与が 56.3%であった。DVT の診断は超音波法または静脈造影で確認され、PE は肺シ 761 ンチで疑われ肺動脈造影またはヘリカル CT により確認された。結果、術後3ヶ月ま 762 での症候性 VTE の発生率は 1.34%であり(95%CI:1.04 1.64)、このうち症候性 PE 763 の発生率は 0.25%であった。術後6ヶ月までの死亡率は 14.7%であり、その原因は 764
心血管疾患が最も多く(26.8%)、致死的 PE の発生率は 3.9%であった。(EV level II)
765
16102107:Rosencher N. Vielpeau C. Emmerich J. Fagnani F. Samama CM. the
766
ESCORTE group. Venous thromboembolism and mortality after hip fracture surgery:
767
the ESCORTE study.
768
Journal of Thrombosis & Haemostasis. 3(9):2006-14, 2005 Sep.
769 770
2) 大 腿 骨 近 位 部 骨 折 897 例 に 対 し て 、 Dynamic Hip Screw, Gamma Locking Nail,
22
Hemiarthroplasty, Total hip replacement 等の手術を施行。術前から Enoxaparin
772 60mg を開始し術後5日間投与し、DVT や PE の予防効果について前向きに検討した。 773 術後 5 日間は Enoxaparin 20mg、40mg を皮下投与し、その後 40mg へ減量し、術後尐 774 なくとも 5 週間継続した。結果、DVT の発生頻度は 0.6%、PE と確定診断されたもの 775 は 0.2%であったが、死亡例はなかった。 (DVT01114, EV level II) 776
DVT01114:Thaler HW, Roller RE, Greiner N, Sim E, Korninger C.Thromboprophylaxis
777
with 60 mg enoxaparin is safe in hip trauma surgery. J Trauma.; 51(3): 518-21.
778 2001, Cohort study(前向き)II 779 780
16. 低分子ヘパリンの合併症
781 <解説> 782 低分子へパリンの合併症として出血、ヘパリン起因性血小板減尐(HIT)、術後の感染な 783 どが報告されている。大腿骨近位部骨折患者において、低分子へパリンの出血合併症の頻 784 度は 2%程度であり、major bleeding はクレアチニンクリアランスが 30mL 以下の場合に発 785 生しやすく、極めて稀ではあるがヘパリン起因性血小板減尐(HIT)症候群の一部として皮 786 膚壊死が報告されている。また機械的予防法と比較した場合、術後感染率が高いとする報 787 告がみられる。 788 <Scientific statement> 789 1) 股関節骨折手術患者(6,860 名)における低分子へパリン使用の際の出血合併症の頻度は 7902.2%であり、minor bleeding は1%、術後 6 ヶ月までにみられた major bleeding は
791 1.2%であり、0.2%が致死性出血であった。major bleeding の危険因子としては、ク 792 レアチニンクリアランスが 30mL より低値であった。ヘパリン起因性血小板減尐(HIT) 793 の発生頻度は 0.17%であったが、確定診断されていない。EV level II 794 2) 大腿骨近位部骨折手術患者(897 例)における低分子へパリン使用の際の major bleeding 795 は 4.7%であり、脳内出血による死亡が 1 例あった。Ⅱ型の HIT(ヘパリン起因性血小 796 板減尐症)はみられなかった。EV level II 797 3) 大腿骨近位部骨折手術における低分子へパリン使用群と機械的予防法施行群(弾性スト 798 ッキングと術後1日目からの早期運動)の合併症について比較検討した結果、感染率 799 (19% VS 8%)、重症感染症発生率(8% VS 1%)であり、低分子ヘパリン投与群に 800
有意に多かった。EV level III
801 4) 極めて稀ではあるが、低分子ヘパリン起因性皮膚壊死の報告がある。 802 <エビデンス> 803 1) 低分子ヘパリンを用いて予防を行った 6,860 名の股関節部骨折手術患者(年齢の中央値 804 82 歳)の症候性 VTE の発生率(術後3ヶ月まで)と死亡率(術後6ヶ月まで)につい 805 て前向きに検討した多施設共同研究(531 施設)。入院から手術までの期間は平均 1.0 806 日(0-56 日)で 79.1%が 24 時間以内に手術施行された。手術法は骨接合 57.0%、人工 807 骨頭 35.2%、人工関節 7.8%であった。低分子ヘパリンの投与期間は、尐なくとも 1 週 808