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N N N 12 N N N toit 13 8 A PROGRAM A/B/C NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO 11

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10 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016

Charles Dutoit

 シャルル・デュトワは、瑞々しさを絶やさな い。外見的にもさることながら、音楽がいつ も精緻かつ生気にあふれ、艶と色香を湛え ている。キャリアに即した円熟味と、フレッシュ さや潤いを共生させている点において、彼は 稀有の存在だといえるだろう。  2008年以来、NHK交響楽団の12月の定 期公演への登場が恒例化し、ここ5年のおも な公演だけでも、2011年のマーラー《一千 人の交響曲》、2012年のレスピーギ《ローマ 三部作》、ストラヴィンスキー《歌劇「夜鳴きう ぐいす」》とラヴェル《歌劇「こどもと魔法」》、 2014年のドビュッシー《歌劇「ペレアスとメ リザンド」》、2015年のR.シュトラウス《楽劇 「サロメ」》、マーラー《交響曲第3番》など、 「最も心に残ったN響コンサート」(本誌のア ンケート企画)で上位を獲得した名演奏の連 続。大作や難曲を明晰に表現し、鮮烈な感 銘をもたらしてきたこれらの公演をみると、年 を重ねるにつれて集中力や覇気を増してい る感さえも抱かせる。  2003年に名誉音楽監督となって13年、音 楽監督時代よりも長期間良き関係を維持し、 毎年のように記念碑的な成果をあげている のは、まさに驚異的。これは、彼自身もオーケ ストラもファンも「デュトワ&N響」のコラボに 今なお新鮮な刺激を見出していることを意味 してもいる。「12月のデュトワ」は、その年の定 期の、期待に満ちた締めくくりなのだ。

Charles Dutoit

シャルル・デュトワ

12

N響名誉音楽監督

を堪能

今月のマエストロ

© Prisk a K etterer

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Charles Dutoit

シャルル・デュトワ

 今年は、デュトワがN響を初めて指揮し て以来30年目にあたる。この間──特に 1996年から2003年の常任指揮者および音 楽監督の時代──彼が、ドイツ・オーストリア 系の名匠に育まれたN響のサウンドに、フラ ンス近現代を主軸としたレパートリーを通じ て、新たな色彩感や洗練味を付与してきた のは、周知の通りだ。昨年12月にデュトワを 取材した際、彼自身もこう語っていた。  「私は、サウンドと音色をとりわけ大事にし、 それぞれの作曲家や楽曲に適した音を作り 出すことに腐心してきました。N響に初めて 客演したときは、昔のドイツ的な音だと感じま したが、長年指揮して色味を足していくうち に、どんどんカラフルな音色になっていきまし た。最近のN響は熱心な若手奏者が増えて いますし、私にとってすばらしいコンサートが ずっと続いています。何より毎年振りに来てい ることが、ひとつの答えだといえるでしょう」。  それにN響を振る12月が、一年で一番落 ち着くという。  「 私はこの5か月(2015年12月現 在)に地 球を4周しましたし、芸術監督を務めるロイ ヤル・フィルハーモニー管弦楽団でも常にツ アーをしています。その点東京には毎回3週 間半ほど滞在しますので、私にとってはある 意味ホームといえますね」。  また、近年目立つ演奏会形式のオペラに ついては、こう語る。  「私自身、最近オペラを指揮する機会が多 く、例えばこの13か月間に、《エレクトラ》《ト ロイ人》など8つのオペラを指揮しました。こ れらはいずれも演奏会形式です。この形は、 歌い手とオーケストラと聴衆の密な関係を作 りやすいのが魅力。歌手は歌に集中できま すし、聴衆との距離も近いので、細かいとこ ろまで聴いてもらえます。それにピットに入ら ない大編成のオーケストラを使える点も大き いですね」。  今回もAプロはオペラ。しかもかの有名な ビゼーの《カルメン》だ。スペイン情趣あふれ る本作は、デュトワが持ち前の色彩感や艶 やかさを発揮するのに最適な演目。彼自身も 「フランスで成功したスペイン系の作品は、 基本が舞踊音楽なので、内容が具体的に 伝わります。《カルメン》はその代表例であり、 オーケストレーションも音色もパーフェクト」と 語る。世界の著名歌劇場でカルメンを歌って いる、声も容姿も妖艶なケイト・アルドリッチを はじめ、歌手陣も豪華。ちなみに、彼女とミ カエラ役のシルヴィア・シュヴァルツは、今夏 ドイツ的だったN響サウンドに 新たな色彩感を与えたデュトワ 恒例となった演奏会形式、 今回はビゼーの《カルメン》

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12 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 のヴェルビエ音楽祭におけるデュトワ指揮の 本作でも同役を歌っている。  Bプロは前後半の対照が妙味。前半は デュトワ十八番のロシアとフランスの近代作 品、しかも物語に基づく音楽が並ぶ。プロコ フィエフの《組曲「3つのオレンジへの恋」》は 寓話劇の機知とユーモア、ラヴェルの《バレ エ音楽「マ・メール・ロワ」》は童話を題材にし た夢幻性や洗練味が聴きどころ。特に後者 は、2004年に取り上げた組曲版より長いバ レエ版のN響での初披露が注目点となる。 後半は15年ぶりにN響で指揮するベートー ヴェンの《交響曲第5番「運命」》。さまざまな 指揮者の同曲に対応してきたN響と共に聴 かせるこの名作で、彼の今の音楽観と熟成 度が窺い知れる。  Cプロはデュトワの履歴書ともいえる内 容。ブリテンは、イギリスのロイヤル・フィル ハーモニー管弦楽団の芸術監督たる今の 立場、ロシアのプロコフィエフとフランスのラ ヴェルは、モントリオール交響楽団の音楽監 督時代に代表される彼の中核、オネゲルは 出身国スイスを、それぞれ象徴している。中 でもCDでの迫真の名演が光るオネゲルの 《交響曲第2番》は、日本での生演奏が少 ないだけに貴重な一曲。ヴァディム・レーピン がソロを弾く2曲では、2012年のシベリウス の協奏曲等で絶賛された世界屈指の名手 とのコラボが、むろん楽しみだ。  今年も「12月のデュトワ」への興味は尽き ない。 [しばたかつひこ/音楽評論家]  世界中のあらゆる主要オーケストラを長年指揮してきた、今日最も人気の高い指揮者のひとり。スイスの ローザンヌに生まれ、ジュネーヴ音楽院等で学ぶ。1960年代からさまざまなポストを歴任。中でも、1977年か ら2002年に至るモントリオール交響楽団の音楽監督時代には、色彩感あふれる高精度の演奏で、世界に 名を轟かせた。またフィラデルフィア管弦楽団とも30年以上に亘って親密な関係を継続。2008年から首席 指揮者を務め、2012年には桂冠指揮者の称号が贈られた。さらに1991∼2001年にはフランス国立管弦 楽団の音楽監督を務め、現在はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼首席指揮者の任にある。  英国ロイヤル・オペラやメトロポリタン歌劇場をはじめ、オペラの第一線でも活躍し、2009年にはヴェルビ エ音楽祭の音楽監督にも就任。録音したCDは200点以上にのぼる。  N響とは1987年に初共演。1996年から常任指揮者、1998年から音楽監督を務め、2003年の勇退後 も名誉音楽監督として定期的に客演を続けている。[柴田克彦] プロフィール N響ホームページでは、デュトワが12月定期の魅力を語るインタビュー動画をご覧いただけます。

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指揮]シャルル・デュトワカルメン]ケイト・アルドリッチ [ドン・ホセ]マルセロ・プエンテエスカミーリョ]イルデブランド・ダルカンジェロミカエラ]シルヴィア・シュヴァルツスニーガ]長谷川モラーレス]与那城ダンカイロ]町英和レメンダード]高橋フラスキータ]平井香織メルセデス]山下牧子合唱]新国立劇場合唱団(合唱指揮/冨平恭平児童合唱NHK東京児童合唱団 (合唱指揮/金田典子コンサートマスター]篠崎史紀

[conductor]Charles Dutoit

[Carmen]Kate Aldrich

[Don José]Marcelo Puente

[EscamilloIldebrando D Arcangelo

[Micaëla]Sylvia Schwartz

[Zuniga]Akira Hasegawa

[Moralès]Kei Yonashiro

[Le Dancaïro]Hidekazu Machi

[Le Remendado]Jun Takahashi

[Frasquita]Kaori Hirai

[Mercédès]Makiko Yamashita

[chorus]New National Theatre Chorus

[chorus](Kyohei Tomihira, chorus master)

[children chorus]NHK Tokyo Children

[children chorus]Chorus

[children chorus](Noriko Kaneda, chorus master)

[concertmasterFuminori Maro Shinozaki

PROGRAM

A

第1851回

NHKホール

12/9

6:00pm

12/11

3:00pm

NHK Hall

Concert No.1851

December

9

(

Fri

)

6:00pm

11

(

Sun

)

3:00pm

(5)

14 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 ・・・・ intermisson (20min) ・・・・ ・・・・ intermisson (20min) ・・・・ ・・・・ 休憩(20分)・・・・ ・・・・ 休憩(20分)・・・・ N響創立90周年記念 ビゼー 歌劇「カルメン」 (全4幕・演奏会形式・字幕つき)[

170

′] 第1幕 第2幕 第3幕 第4幕 字幕:和田ひでき 字幕操作:イヤホンガイド/G・マーク 後援:在日フランス大使館/ 後援:アンスティチュ・フランセ日本 N響創立90周年記念

Georges Bizet (

1838–1875

)

Carmen

, opéra en 4 actes

(

concert style

)

Acte Ⅰ Acte Ⅱ Acte Ⅲ Acte Ⅳ Japanese Supertitle:

Hideki Wada / Earphone Guide Co,. Ltd Sous le parrainage de:

Ambassade de France / Institut français du Japon

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Program A

|SOLOISTS

 いま欧米で、カルメン歌手として人気になっているケイト・アルドリッチ。ア メリカのメイン州に生まれ、2000年にヴェローナ野外劇場で《運命の力》 のプレチオシルラを歌い、オペラ・デビューを果たした。カルメン役を初めて 歌ったのは2006年サンフランシスコ歌劇場で、この時「新時代のカルメン 歌い」と注目を集めた。翌年には来日し、新国立劇場で行われたマスネ《ド ン・キホーテ》にドゥルシネア役で出演、2009年にはリヨン歌劇場管弦楽 団の来日公演《ウェルテル》(演奏会形式)でシャルロッテを歌った。舞台映えする美しい容姿と体当たり の演技力が評判になり、世界各地でカルメンを歌っており、2010年にはメトロポリタン歌劇場でヨナス・ カウフマンと共演して大成功を収めた。2015年、南仏オランジュ音楽祭でもカウフマンと共演。良く透 る美しい声と演技で、洗練された現代的なカルメンを演じ、聴衆から大喝采を受けた。ほかには《ノルマ》 アダルジーザ、《ばらの騎士》オクタヴィアン、《シンデレラ》題名役などを得意としており、いま旬のメゾ・ ソプラノとして人気が高い。 [石戸谷結子/音楽評論家]

カルメン|ケイト・アルドリッチ(

メゾ・ソプラノ

 マルセロ・プエンテは2014年にシュトゥットガルト歌劇場に初出演、 2017年には英国ロイヤル・オペラへの出演が決まるなど、表舞台での活 躍が急速に目立つようになっている。アルゼンチン、コルドバの音楽院 で学んだ後、ブエノスアイレスのコロン劇場でレナート・サソーラに師事し た。2001年デビュー、2003年ドイツの音楽青年コンクールで優勝。ブ エノスアイレスでは《ムツェンスクのマクベス夫人》セルゲイも歌っている が、プエンテの現在の主要なレパートリーは《カルメン》ドン・ホセ、《ドン・カルロ》題名役、そして《トス カ》カヴァラドッシなどプッチーニのオペラの主要なテノール役だ。《蝶々夫人》ピンカートンは、2015 年にライプツィヒ、2016年にエーテボリで歌った後、2017年にはハンブルクでも歌うことが決まって いる。 [堀内 修/音楽評論家]

ドン・ホセ|マルセロ・プエンテ(

テノール

© F ad il B erish a

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16 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016

Program A

|SOLOISTS

 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》題名役やレポレルロとして、ヴェルディ 《アッティラ》題名役として、もちろんビゼー《カルメン》のエスカミーリョと しても、イルデブランド・ダルカンジェロは、世界の一流歌劇場の上演に欠 かせない存在となっている。1969年、イタリアのペスカーラに生まれ、ペ スカーラの音楽学校でマリア・ヴィットリア・ロマーノに師事した後、ボロー ニャでパリーデ・ヴェントゥーリに学んでいる。トーティ・ダル・モンテのコン クールで1989年と1991年に優勝して、各地の歌劇場に出演するようになった。これまでウィーン国 立歌劇場、ミラノ・スカラ座、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場そしてザルツブルク音楽祭など、世界 の主要歌劇場・音楽祭に出演している。共演した指揮者も、クラウディオ・アバド、リッカルド・ムーティ、 ニコラウス・アーノンクール、小澤征爾など数多い。日本でも2015年の英国ロイヤル・オペラ公演《ド ン・ジョヴァンニ》題名役などで高い評価を得ている。 [堀内 修/音楽評論家]

エスカミーリョ|イルデブランド・ダルカンジェロ(

バス

 いま頭角を現しつつあるのがスペイン系のソプラノ、シルヴィア・シュヴァ ルツだ。1983年ロンドンに生まれ、マドリードの音楽学校で学んだ後、ベ ルリンのハンス・アイスラー音楽大学に入り、トーマス・クヴァストホフ、ヴォ ルフラム・リーガー、ユリア・ヴァラディに師事している。現在はベルリン国 立歌劇場で、《フィガロの結婚》スザンナなどを歌っているが、2006年に は《ドン・ジョヴァンニ》ツェルリーナでミラノ・スカラ座にデビューしている。 ウィーン国立歌劇場には2010年に《愛の妙薬》アディーナを歌ってデビューした後、《ばらの騎士》 ゾフィーなど、いくつもの役で成功を重ねている。さらにマドリードのレアル劇場、モスクワのボリショイ 劇場など主要歌劇場に出演するほか、コンサートの歌手としても、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽 団など一流オーケストラと共演してきた。ダニエル・バレンボイムら一流指揮者からも認められている。 [堀内 修/音楽評論家]

ミカエラ|シルヴィア・シュヴァルツ(

ソプラノ

© U w e A re ns / D G

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Program A

|SOLOISTS

スニーガ 長谷川 顯(バス)  国立音楽大学卒業 後、二期会合唱団に在 籍。1996年 の 二 期 会 公演《ワルキューレ》フンディングに抜擢され頭角 をあらわすと、2001年から2004年の新国立劇場 《ニーベルングの指環》では全4作に連続出演し、 その存在感を示した。N響との共演は、2003年、 2004年の公演以来3度目。二期会会員。 モラーレス 与那城 敬(バリトン)  桐朋学園大学ピアノ 専 攻 卒 業 後に声 楽へ 転向、同大学研究科声 楽専攻修了。2006年の東京二期会《コシ・ファ ン・トゥッテ》グリエルモで注目を集め、2016年も 宮本亜門演出の《フィガロの結婚》に出演する など、確かな実力とスター性を発揮している。第 16回マリオ・デル・モナコ国際声楽コンクール第 3位。二期会会員。 ダンカイロ 町 英和(バリトン)  国立音楽大学大学 院を首席で修了した後、 ボローニャ、ミュンヘンに 留学。2009年には新国立劇場の《メリー・ウィ ドー》、2010年のサイトウ・キネン・フェスティバル 《サロメ》、2013年に《セビリアの理髪師》バル トロ、2014年《コシ・ファン・トゥッテ》ドン・アルフォ ンソに出演。以後も主要公演への出演を重ね、 聴衆を魅了している。 レメンダード 高橋 淳(テノール)  東京音楽大学および 同大学院修了。二期会 による2006年の《皇帝 ティトゥスの慈悲》題名役などで高い評価を得る ほか、同年ゲルト・アルブレヒト指揮《午後の曳 航》でザルツブルグ音楽祭に登場し、国際的評 価を高めた。コンサートのソリストとしても活動の 場を広げている。N響とは2012年に続き2度目 の共演。二期会会員。 フラスキータ 平井香織(ソプラノ)  国立音楽大学および 同大学院修了。《奥様 になった小間使い》セ ルピーナでオペラ・デビュー。以降、新国立劇場 をはじめ多くのオペラ公演に出演するほか、コン サートのソリストとしても活躍。これまでに小澤征 爾、大野和士、ダン・エッティンガーなどの指揮者 と共演。N響との共演は2003年、2004年に 続き3度目。二期会会員。 メルセデス 山下牧子(メゾ・ソプラノ)  広島大学教育学部を 経て東京藝術大学大学 院に学ぶ。第1回東京 音楽コンクール声楽部門第1位。東京二期会、 新国立劇場、日生劇場など多くのオペラ公演で活 躍するほか、コンサートのソリストとしても国内主要 オーケストラと多数共演。N響との共演は2013 年、2014年に続き2年ぶり3度目。二期会会員。 © K ei Ue su gi

(9)

18 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016  新国立劇場は、オペラ、バレエ、ダンス、演劇という現代舞台 芸術のためのわが国唯一の国立の劇場として、1997年10月 に開場した。新国立劇場合唱団も、劇場で行われる数多くのオ ペラ公演の核を担う合唱団として同時に活動を開始。団員は 高水準の歌唱力と優れた演技力をもち、高いアンサンブル能力 と豊かな声量は、共演する出演者、指揮者、演出家、国内外の メディアからも高い評価を得ている。  近年は、新国立劇場以外の公演にも多数出演。N響とは2004年新国立劇場公演《神々のたそが れ》で初共演した。定期公演は、2011年マーラー《交響曲第3番》、2012年デュリュフレ《レクイエム》、 2013年4月ヴェルディ《レクイエム》、同年12月プーランク《グロリア》およびベルリオーズ《テ・デウム》に 出演。2016年9月にはN響90周年記念特別演奏会(マーラー《一千人の交響曲》)で、パーヴォ・ヤルヴィ 指揮のもと3年ぶりに共演した。 [柴辻純子/音楽評論家]  1952年3月、「少年少女に豊かな心を」という願いから、 NHKの教育番組と子ども番組の充実を目的として創立された NHK東京児童合唱団(旧称・東京放送児童合唱団)は、NHK の放送出演はもとより、海外の合唱団との交流や国内の主要 オーケストラと共演を重ねている。また邦人作曲家への合唱作 品の委嘱など、多くの作品を国内外に紹介している。  「コダーイ・ゾルタン生誕100年記念国際合唱コンクール」青少年部門第1位・総合部門グランプリなど 国内外の多数のコンクールに入賞。2009年N響とともに「天皇・皇后両陛下ご成婚50周年ご即位20 周年記念コンサート」に出演した。新国立劇場などオペラへの出演も多数。2012年には創立60周年を 迎えた。シャルル・デュトワ指揮のN響とは、2010年から4年連続、2015年に続いての共演となる。 [柴辻純子/音楽評論家] © Fra nck P iz zo fer ra to © Fra nck P iz zo fer ra to

Program A

|CHORUS

新国立劇場合唱団(

合唱

Program A

|CHILDREN CHORUS

(10)

 《カルメン》は今日、世界で最も人気のあるオペラのひとつになっている。しかし1875年 にパリのオペラ・コミック座で初演されたときには、聴衆に理解されず、公演は無残な失敗 に終わった。気の毒なことに作曲者ビゼー(1838∼1875)はこのオペラの後の成功を知ら ず、初演の3か月後に36歳の若さで急逝している。  ジョルジュ・ビゼーは9歳でパリ音楽院に入学し、19歳でローマ大賞を獲得するような秀 才だった。ローマ留学から戻ってずっとオペラ界での成功を夢見ていたが、最後に《カル メン》を書くまで、名声を確立するような作品を生み出すことができなかった。オペラを書 いても、劇場の経営悪化や火事による初演中止など不運が重なり、苦労は報われなかっ た。生活費はアルバイトのピアノ演奏や編曲で稼いだ。リリック座で初演された《真珠採り》 (1863年)のような佳作もあるが、彼のめざすオペラが合唱を多用し、管弦楽を縦横に活 躍させるなどあまりに独創的だったことも、当時の聴衆に受け入れられない要因となった。  1873年の春にオペラ・コミック座より新作依頼を受ける前から、ビゼーはフランスの作家 プロスペル・メリメの小説『カルメン』のオペラ化を考えていたようだ。小説は作者がスペイ ンを旅行中にお尋ね者の盗賊ドン・ホセに会い、彼から情婦カルメンを殺したいきさつを 聞くという形式をとっている。未知の国スペインの物語は当時ヨーロッパで流行していた異 国趣味と軌を一にするもので、おそらくビゼーはこの内容にロマン主義的な空想を刺激さ れたのだろう。  ハッピーエンドの楽しいオペラを望んでいたコミック座はビゼーの提案に難色を示した が、台本作者のリュドヴィク・アレヴィとアンリ・メイヤックは賛成し、これを可能な限り娯楽オ ペラのかたちに近づけた。売春婦で泥棒のカルメンは自由を求める女になり、対照的な役 として清純可憐なミカエラが創作された。エスカミーリョは聴衆を興奮させる完璧な花形闘 牛士になった。すぐれた台本を得て、ビゼーがそれまでに試してきたさまざまな手法がつい に見事な花を咲かせる。踊りのリズムや管弦楽の濃厚な色彩が際立つロマたちの世界、コ ミック座の伝統を感じさせる叙情性に満ちたミカエラの歌、落ちぶれたホセの激情など人 間の赤裸々な感情を表現するリアルな歌唱表現……性格の異なるそれらの音楽は、ドラマ と密接に結びつきながら渾然一体となって見事な効果を上げている。  しかしパリの聴衆にはそれでも刺激が強すぎたようだ。コミック座の支配人はスキャンダ

Program A

ビゼー

歌劇「カルメン」

演奏会形式

(11)

20 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 ルを予想して直前に辞任。果たして1875年3月3日の初演では、第1幕はともかく、幕が進 むにつれ客席は静まり、第3幕のミカエラのソロは拍手されたものの、第4幕は氷のような 冷淡さで迎えられたという。カルメン役を演唱したガリ・マリエの「下品な演技」にも聴衆や 評論家は拒絶反応を示した。ビゼーが急死した後も上演は続き、そのシーズンに48回を 記録した。作品の「不道徳性」にひかれて多少聴衆が増えたとしても、当時のパリではこれ はあまりにも少ない公演数だった。  オペラ《カルメン》の価値を正しく評価したのは外国だった。パリ初演から7か月後、台詞 の部分をエルネスト・ギローがレチタティーヴォに編曲した「グランド・オペラ版」がウィーンで 上演され(主役はパリ初演と同じガリ・マリエ)、大成功を収めた。この成功をきっかけに《カル メン》は世界各地で上演されるようになり、その人気は急速に高まっていった。今回の上演 はこのギロー版に基づく。  全体は4幕、30の楽曲からなる。ただし各幕をつなぐ「間奏曲」は番号をもたない。  第1幕 セビリアの町の広場 竜騎兵の伍長ドン・ホセは母と婚約者ミカエラを田舎に 残してセビリアに赴任している。広場の衛兵詰所をミカエラが訪ねるが、ホセは次の交替で 来ると言われ、一度姿を消す。衛兵が交替し、ホセが勤務につく。広場に面した煙草工場 が休憩時間になり、女工たちが出てくる。群がる男たちのお目当てはカルメンだ。カルメンは 色気たっぷりに「私が好きになったらご用心」と歌い、自分に関心を示さない実直なホセに 花を投げつけて去る。ホセはミカエラに会い、しばし郷里の母を思う。煙草工場でけんか が始まり、命じられて工場に入ったホセはカルメンを引っ立ててくる。上官スニーガは何を聞 いても鼻歌ではぐらかすカルメンを監獄に入れると決め、ホセに護送を命じる。しかしカルメ ンは色仕掛けでホセに迫り、誘惑に屈したホセは縄をゆるめて彼女を逃がしてしまう。  聴きどころは、衛兵が交替する行進曲と子どもたちの合唱(第3曲)、カルメンが登場で歌 うハバネラ〈恋は野の鳥〉(第5曲)、ミカエラとホセの二重唱〈母のたよりを聞かせてよ〉(第 7曲)、カルメンがホセを誘惑する〈セギディーリャ〉と二重唱〈まるで酔っぱらったようだ〉(第 10曲)など。  第2幕 リーリャス・パスティーアの酒場 密輸業者たちが集まる酒場でロマ女たちが踊 る。人気闘牛士エスカミーリョがカルメンに言い寄るが、彼女は相手にしない。彼女は自 分を逃がして営倉送りになっていたドン・ホセに恋していた。閉店後、釈放されたばかりの ホセがカルメンに会いに来る。喜んだカルメンは踊りを披露するが、帰営ラッパを聞いて帰 ろうとするホセに腹を立て、愛していないとなじる。そこへカルメン目当てに上官スニーガが 入ってきてホセを愚弄するので、興奮したホセは剣を抜く。スニーガは密輸業者たちに取り 押さえられ、ホセはやむなく彼らの仲間に加わることにする。  聴きどころは、幕開きの異国情緒豊かな〈ロマの歌〉(第12曲)、エスカミーリョの勇まし い〈闘牛士の歌〉(第14曲)、密輸業者とカルメンたちのコミカルな五重唱〈うまい話がある〉 (第15曲)、カルメンがホセを誘惑する二重唱〈あなたのために踊りましょう〉(ホセの情熱的

(12)

作曲年代 1873年∼1874年 初演 1875年3月3日、パリ、オペラ・コミック座 楽器編成 フルート2(ピッコロ2)、オーボエ2(イングリッシュ・ホルン1)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、 コルネット[バンダ]2、トロンボーン3(トロンボーン[バンダ]3)、ティンパニ1、トライアングル、大太鼓、シ ンバル、小太鼓、タンブリン、カスタネット、鐘、ハープ1、弦楽 な〈花の歌〉を含む)(第17曲)など。  第3幕 山間の荒れ地 険しい山中で密輸団が休憩する。ホセへの情熱が冷めたカル メンはカード占いで自分の死を予感する。ミカエラが現れ、見張り役をしているホセを見つ けるが、彼が発砲するので隠れる。ホセが狙ったのは別の人間で、それはカルメンに恋心 を抱くエスカミーリョだった。ふたりは互いに恋敵と知って決闘になるが、密輸業者たちが ふたりを引き離す。闘牛士が去ると、隠れていたミカエラが発見される。彼女は母親の危 篤を告げ、郷里に戻るようホセに嘆願する。ホセはカルメンに執心しながらも、一度下山す ることを決意する。  聴きどころは、ロマ女たちのカルタ占いの三重唱〈混ぜて、切って〉(カルメンの劇的なソロ 〈カルタの歌〉を含む)(第20曲)、決意を歌うミカエラのアリア〈なんの恐れることがありましょ う〉(第22曲)など。  第4幕 セビリアの闘牛場の前 闘牛が行われる日。群衆の歓呼に迎えられ、エスカ ミーリョとカルメンが到着する。友人たちはホセが隠れているから用心するようカルメンに 警告する。カルメンが闘牛場の入り口で待っているとホセが近づいて復縁を迫る。しかしカ ルメンは拒絶し、今はエスカミーリョを愛しているのだと言い捨て、歓声が響く闘牛場へ入 ろうとする。彼女は追いすがるホセに、彼からもらった指輪を投げ返す。怒りに駆られたホ セはカルメンを刺し殺し、泣きながら遺体を抱きしめる。  聴きどころは、華やかな闘牛士の登場を描く行進曲と合唱〈来たぞ、来たぞ〉(第26曲)、 カルメンとホセが対決する二重唱〈あなたね。おれだ〉(第27曲)など。 [小畑恒夫]

(13)

22 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 [指揮]シャルル・デュトワ

ゲスト・コンサートマスター]ダンカン・リデル

[conductor]Charles Dutoit

[guest concertmaster]Duncan Riddell

プロコフィエフ 組曲「

3

つのオレンジへの恋」作品

33bis

16

′] Ⅰ おどけもの Ⅱ 地獄の場面 Ⅲ 行進曲 Ⅳ スケルツォ Ⅴ 王子と王女 Ⅵ 逃亡

Sergei Prokofiev (

1891–1953

)

The Love for Three Oranges

,

suite op.33bis

Ⅰ Les ridicules

Ⅱ Scène infernale (waltz-scherzo)

Ⅲ Marche Ⅳ Scherzo Ⅴ Le prince et la princesse Ⅵ La fuite ラヴェル バレエ音楽「マ・メール・ロワ」[

30

′] 前奏曲 Ⅰ 紡ぎ車の踊りと情景 Ⅱ 眠りの森の美女のパヴァーヌ Ⅲ 美女と野獣の対話 Ⅳ 一寸法師 Ⅴ パゴダの女王レドロネット 終曲:妖精の園

Maurice Ravel (

1875–1937

)

Ma mère l

Oye

, ballet

Prélude

Ⅰ Danse du rouet et scène

Ⅱ Pavane de la belle au bois dormant

Ⅲ Les entretiens de la belle

Ⅲ et de la bête

Ⅳ Petit Poucet

Ⅴ Laideronette, impératrice

Ⅲ des pagodes

Apothéose: Le jardin féerique

PROGRAM

B

第1850回

サントリーホール

11/30

7:00pm

12/1

7:00pm

November 30

(

Wed

)

7:00pm

December 1

(

Thu

)

7:00pm

Suntory Hall

Concert No.1850

(14)

・・・・ intermission ・・・・ ・・・・ 休憩 ・・・・ ベートーヴェン 交響曲

5

番ハ短調作品

67

「運命」

31

′] Ⅰ アレグロ・コン・ブリオ Ⅱ アンダンテ・コン・モート Ⅲ アレグロ Ⅳ アレグロ

Ludwig van Beethoven (

1770–1827

)

Symphony No.5 c minor op.67

Ⅰ Allegro con brio

Ⅱ Andante con moto

Ⅲ Allegro

Ⅳ Allegro

♦ダンカン・リデル:ロンドンのトリニティ音楽院卒業。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のアシスタント・コンサートマスター、ボー ンマス交響楽団のコンサートマスターなどを経て、現在はロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務め る。N響には2011年12月、2012年11月に引き続き、3度目の登場。

(15)

24 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016  このオペラの原作である18世紀イタリアの風刺作家カルロ・ゴッツィの戯曲をプロコフィ エフ(1891∼1953)に紹介したのは、ロシア・アヴァンギャルドを代表する演出家メイエルホ リドである。彼は、イタリアの民衆演劇コメディア・デラルテの形式で書かれた原作をもとに、 オペラやメロドラマの様式を大胆にパロディ化する作品を構想し、その夢をプロコフィエフに 託した。辛辣な風刺や奇抜な場面展開に満ちた筋は、モダニズム時代のプロコフィエフの 作風と抜群の相性を示し、20世紀オペラの傑作が誕生したのである。  オペラは劇中劇の形式をとる。プロローグでは、進行役である喜劇派、悲劇派、快楽派、 叙情派の信奉者たちが小競り合いをしているが、やがて新しい劇の開幕が告げられる(1 曲〈おどけもの〉)。王国の守護神チェリオと、意地悪な魔女ファタ・モルガーナがトランプ・ゲー ムをするが、3回ともチェリオが負けてしまうので、劇を見守る観客たちはがっかりする(2 曲〈地獄の場面〉)。憂鬱症にかかった王子を救うため、家臣たちによって余興が催されるが3曲〈行進曲〉)、全く効果がない。ところがファタ・モルガーナの転ぶ姿が、王子の笑いを 呼び、怒った彼女は、地の果てまで3つのオレンジを探すように呪いをかける。王子一行は はるか彼方へ嵐で飛ばされる(4曲〈スケルツォ〉)。3つの巨大なオレンジには王女が隠さ れていたが、最初の2人は死んでしまい、3人目の王女が王子と恋に落ちる(5曲〈王子と王 女〉)。謀略が暴露された悪役たちは処刑されそうになるが、ファタ・モルガーナの落とし穴 から逃亡する(6曲〈逃亡〉)。締まりのない幕切れに観客は怒り出す。 [千葉潤]

Program B

プロコフィエフ

組曲「

3

つのオレンジへの恋」作品

33bis

作曲年代 1919年(オペラ)、1919∼1924年(組曲) 初演 1921年12月30日、シカゴ、作曲者の指揮(オペラ)。1925年11月29日、パリ、セルゲイ・クーセヴィツ キーの指揮(組曲) 楽器編成 フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン1、クラリネット2、バス・クラリネット1、ファゴット 3(コントラファゴット1)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ1、グロッケンシュ ピール、シロフォン、シンバル、サスペンデッド・シンバル、タムタム、トライアングル、大太鼓、小太鼓、 タンブリン、ハープ2、弦楽

(16)

 《マ・メール・ロワ》はラヴェル(1875∼1937)のバレエ第1作である。原曲は子供のための ピアノ連弾作品であり、ラヴェルは友人のゴデブスキ夫妻の子供たち、ミミとジャンのために この作品を作曲した。ミミ・ゴデブスカはラヴェルがいつもひざの上に自分を乗せて、物語 を語ってくれたと回想している。原曲は5曲からなり、それぞれが音楽によるおとぎ話となっ ている。タイトルはシャルル・ペローの童話集『マ・メール・ロワ(マザー・グース)の物語』から借 用し、この童話集の中からは、眠りの森の美女と一寸法師の2つのお話がとりあげられて いる。そのほか、マリー・カトリーヌ・ドーノワのおとぎ話『緑の蛇』より「パゴダの女王レドロネッ ト」、ジャンヌ・マリー・ルプランス・ボーモンの物語集から「美女と野獣」が選ばれた。5曲の 最後を飾る〈妖精の園〉は、眠りの森の美女が眠りから目覚めた場面を描いている。  テアトル・デ・ザールの支配人、ジャック・ルーシェにこの連弾作品のバレエ化を依頼され たラヴェルは、全体をつなげるひとつのストーリーを脚本として書き、〈前奏曲〉と紡ぎ車の 踊りの場面、そして各場面をつなぐ間奏を新たに加えた。連弾版で4曲目であった〈美女と 野獣の対話〉は眠りの森の美女の次の場面へと繰り上げられた。こうしてできあがったス トーリーは、次のようなものである。妖精の園でフロリーヌ王女が遊んでいるとき、ある老女 の紡ぎ車の紡錘で指を突いてしまう(第1場〈紡ぎ車の踊りと情景〉)。フロリーヌは永遠の眠り につく。そこで衣を脱いだ老女は、実は美しい妖精ベニーニュであった(第2場〈眠りの森の 美女のパヴァーヌ〉)。ベニーニュは2人の黒人の子供に王女の世話を託し、物語を語らせる。 これが王女の夢の中の物語となって、第3場〈美女と野獣の対話〉、第4場〈一寸法師〉、第 5場〈パゴダの女王レドロネット〉と続く。この中間の3つの場面には、スコアにそれぞれの 童話から引用した文章が掲載されている。終曲〈妖精の園〉ではキューピッドに連れられた 王子が現れる。王女は目覚め、全登場人物がふたりの周りに集まり、祝福する。  今日のディズニー映画をも思わせる御伽の世界の音響は、子供の純真な心を保ったま まのラヴェルにしか実現できない音色である。〈前奏曲〉は終曲と対になり、ハープとチェ レスタが妖精の園を演出する。オペラの序曲のように、後に続く各場面から重要な旋律が 引用されている。弦楽器の細かい動きや倍音の響きの中で木管楽器によって表現される 鳥の声の本物らしさは、メシアンの鳥の声の採譜をすでに予告している。〈眠りの森の美 女のパヴァーヌ〉〈一寸法師〉〈美女と野獣の対話〉の旋律断片が順番に独奏で奏でられ

Program B

ラヴェル

バレエ音楽「マ・メール・ロワ」

(17)

26 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 作曲年代 ピアノ連弾版は1908∼1910年。管弦楽版およびバレエ版は1911年 初演 ピアノ連弾版は1910年4月20日、パリ、サル・ガヴォー(独立音楽協会)。バレエ版は1912年1月28日、 パリ、テアトル・デ・ザール。ガブリエル・グロヴレーズ指揮 楽器編成 フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2(イングリッシュ・ホルン1)、クラリネット2、ファゴット2(コントラファゴット1)、 ホルン2、ティンパニ1、トライアングル、サスペンデッド・シンバル、シンバル、大太鼓、タムタム、シロフォ ン、太鼓、ジュ・ドゥ・タンブル、チェレスタ1、ハープ1、弦楽 た後、ホルンの呼び声に再び鳥の声が応答し、ハープのグリッサンドからそのまま幕開けと なる。第1場〈紡ぎ車の踊りと情景〉ではスタッカートの軽快な動きにのって紡ぎ車がくるく ると回る様子が描写される。フルートから始まる主要主題は、独特の音程配列で下行して は上行する、旋回するような動きで踊りを伴奏する。弦楽器のピチカート下行とハープのグ リッサンドを合図に、王女は眠りに入る。第2場〈眠りの森の美女のパヴァーヌ〉は、ラヴェ ルお気に入りの「パヴァーヌ(宮廷舞踏)」仕立てでゆったりとした4拍子である。フルート、ク ラリネット、ヴァイオリンが交替で優雅な旋律を担当する。間奏を挟み、第3場〈美女と野獣 の対話〉では、クラリネットの奏でる「美女」とコントラファゴットの奏でる「野獣」が対話する。 全休止で王女が野獣の愛を受け入れると、ハープのグリッサンドに続いてヴァイオリン独奏 が高音で繊細な旋律を奏で、野獣が王子へと変身する。第4場〈一寸法師〉のスコア冒頭 に引用されたペローの文章では、道しるべのために蒔いたパンを鳥たちがみんな食べてし まったことが書かれている。変拍子が特徴的で途中に鳥の声が再現される。新たに加え られた間奏部ではハープ、チェレスタ、フルートのカデンツァが夢の世界をつないでいく。第 5場〈パゴダの女王レドロネット〉では中国製の首ふり人形たちがクルミやアーモンドの殻で できた楽器を奏でる。機械的な動きが木管楽器やチェレスタで楽しく表現される。東洋的 な旋律も効果的である。間奏部では前奏曲と共通する素材が用いられ、さらに美女と野 獣の主題の再現によって、物語の中の王子が現実に現われることが暗示される。終曲〈妖 精の園〉で王女が夢から覚めると(ヴァイオリンとヴィオラの独奏)、それこそが本当の夢の世界 の始まりである。弱音の弦楽合奏から次第に楽器と音量が増していき、最後はハープとチェ レスタのグリッサンドが加わって、夢の世界は華やかに幕を閉じる。 [安川智子]

(18)

 ベートーヴェン(1770∼1827)の《交響曲第5番》は、アントン・シンドラーの著したベー トーヴェン評伝にある、作曲家が作品冒頭のモチーフについて「運命が扉を叩く」と表現し たという信憑性の低いエピソードから「運命」という標題が広まり、その結果この作品は作 曲者の意図とは別の解釈が行われるようになった。第1楽章冒頭の同音連打の動機は宿 命の過酷さを象徴し、第4楽章のハ長調の堂々とした楽想は、運命を克服した意志の勝利 を表すという解説は多くの人々を惹きつけ、第1楽章の冒頭は運命の過酷さを強調するか のように、休符をたっぷり長くとって荘重かつ厳粛に、ハ長調の第4楽章は意志の勝利を 讃えるかのように壮麗に演奏される傾向があった。《第5番》の演奏史を考えるときに、「運 命」という標題のレトリックに左右され、その物語に感動した聴衆も多かったのではないだ ろうか。とくに戦前までの日本では、「運命」は「英雄」を待望する気持ちと一体となり、「過 酷な運命とそれを克服する意志の勝利」というコンテクストに倫理的、国家主義的な解釈 が込められた。  たしかに、作品解釈はそれぞれの時代と社会の関心の投影であるために、何が唯一の 正しい作品理解であるかを問うのは難しい。しかし、今日この「運命」像が見直されて、宿 命の雷から解放された爽快な《第5番》が盛んに演奏されるなかで、それでも今なお私たち はどこか「運命」に呪縛されているように思われる。  この作品の最初のスケッチは《交響曲第3番》完成後の1804年頃に るが、本格的な 作曲に取り組むのは1807年頃からで、1808年に完成をみた。ベートーヴェンはこの作品 で、特定の動機を徹底的に発展させて、作品全体を精緻かつきわめて立体的に構成した。 この《第5番》の中心をなす同音連打の動機は、ベートーヴェンの初期の《ピアノ・ソナタ第1 番》(作品2-1)にすでに先駆的に見られ、さらに《ピアノ・ソナタ第23番「熱情」》(作品57)で は重要な表現要素となっている。そして《ピアノ協奏曲第4番》や《ヴァイオリン協奏曲》にも 共通して用いられ、彼はこの同音連打の動機にきわめて構築的な意味を見出していた。そ の後、手がけられた《交響曲第5番》は動機労作に基づくソナタ形式の創作の総括といえる。  ベートーヴェンの創作において、この作品が初演された1808年12月22日の演奏会は 記念すべき重要な意味を持った。この日は、《交響曲第5番》と《第6番》、《合唱幻想曲》の 初演に加えて、《ピアノ協奏曲第4番》が公開初演され、《ミサ曲ハ長調》も演奏されるという

Program B

ベートーヴェン

交響曲

5

ハ短調

作品

67

「運命」

(19)

28 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 作曲年代 1807年∼1808年 初演 1808年12月22日、ウィーン、アン・デア・ウィーン劇場、作曲者の指揮による。フランツ・ヨーゼフ・フォ ン・ロプコヴィッツ侯爵およびアンドレアス・ラズモフスキー伯爵に献呈 楽器編成 フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン2、トランペッ ト2、トロンボーン3、ティンパニ1、弦楽 盛りだくさんのプログラムであった。この演奏会によって彼は自身の創作のいわば過去と現 在と未来を示したといえる。《ミサ曲ハ長調》によってフックス以来のウィーンのミサ曲の伝 統をしっかりと継承し、《交響曲第5番》において古典派のソナタ形式を徹底的に究め、そし て5楽章からなる標題交響曲の《第6番》ではその後のロマン派の交響曲の先駆けをなし、 《合唱幻想曲》は《交響曲第9番》の第4楽章「歓喜の合唱」を準備した。  第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ、ハ短調、2/4拍子。いわゆる「運命」の動機で始まる。 このリズム動機と3度音程の動機がこの楽章のみならず、他の楽章においても繰り返し用 いられて、作品全体に強い緊張感と統一感を与える。この楽章はソナタ形式で構成され、 第1主題の後、ホルンの響きに導かれておおらかな第2主題が登場する。楽章はこの対照 的な2つの主題によってゆるぎなく組み立てられている。  第2楽章 アンダンテ・コン・モート、変イ長調、3/8拍子。第1楽章における宿命的な印 象を与える「運命」の動機とは対照的なゆったりと落ち着いた楽想である。この楽章は「変 奏曲」で、この主題をもとに全部で3つの変奏が行われる。  第3楽章 アレグロ、ハ短調、3/4拍子。この楽章は一種、表現主義的な不気味さをもつ。 チェロとコントラバスが低い音域から忍び寄るように弱音で主題を演奏し、この楽章がはじ まる。この楽章は第1楽章と密接な関係をもっている。とくにホルンが強い音で、「運命」の 動機を提示して、第1楽章の主題を想起させる。  第4楽章 アレグロ、ハ長調、4/4拍子。不気味な第3楽章の薄暗い世界から、一転して 明るく力強い世界に移る。フォルティッシモによるトゥッティで奏される主題は明朗である。こ の楽章で登場する「運命」の動機には第1楽章におけるような威圧的な感じはなく、潑剌と した印象を与える。 [西原稔]

(20)

指揮]シャルル・デュトワヴァイオリン]ヴァディム・レーピン*トランペット]菊本和昭

コンサートマスター]伊藤亮太郎

[conductor]Charles Dutoit

[violin]Vadim Repin*

[trumpet]Kazuaki Kikumoto♦

[concertmaster]Ryotaro Ito

ブリテン 歌劇「ピーター・グライムズ」

4

つの海の間奏曲作品

33a

17

′] Ⅰ 夜明け Ⅱ 日曜の朝 Ⅲ 月の光 Ⅳ 嵐

Benjamin Britten (

1913–1976

)

Peter Grimes

, opera–Four Sea

Interludes op. 33a

Ⅰ Dawn Ⅱ Sunday Morning Ⅲ Moonlight Ⅳ Storm プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第

1

番ニ長調 作品

19

*

23

′] Ⅰ アンダンティーノ Ⅱ スケルツォ:ヴィヴァチッシモ Ⅲ モデラート

Sergei Prokofiev (

1891–1953

)

Violin Concerto No.1 D major

op.19

*

Ⅰ Andantino Ⅱ Scherzo: Vívacissimo Ⅲ Moderato ラヴェル チガーヌ

*

10

′]

Maurice Ravel (

1875–1937

)

Tzigane

*

PROGRAM

C

第1852回

NHKホール

12/16

7:00pm

12/17

3:00pm

December

16

(

Fri

)

7:00pm

17

(

Sat

)

3:00pm ・・・・ intermission ・・・・

NHK Hall

Concert No.1852 ・・・・ 休憩 ・・・・

(21)

30 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 オネゲル 交響曲第

2

25

Ⅰ モルト・モデラート─アレグロ Ⅱ アダージョ・メスト Ⅲ ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ─プレスト

Arthur Honegger (

1892–1955

)

Symphony No.2

♦ Ⅰ Molto moderato–Allegro Ⅱ Adagio mesto

Ⅲ Vívace non troppo–Presto

ラヴェル

(22)

 1971年、シベリア生まれ。5歳でヴァイオリンを始め、少年時代に名教 師ザハール・ブロンに師事する。17歳のとき史上最年少でエリーザベト王 妃国際コンクールにおいて優勝を果たし、国際的な注目を浴びた。  以来、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、シカゴ交響楽団、ニューヨー ク・フィルハーモニックをはじめ、トップレベルのオーケストラと共演を続けて いる。リサイタルも世界各地でニコライ・ルガンスキー、イタマール・ゴランら と定期的に行っており、室内楽ではマルタ・アルゲリッチ、エフゲーニ・キーシン、ミッシャ・マイスキーらを パートナーとする。  2014年からは芸術監督として故郷ノヴォシビルスクにてトランス・シベリア芸術祭を開催している。  レコーディング活動も非常に活発で、近年はリッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦 楽団との共演によるベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》が話題を呼んだ。  N響とは1992年以来たびたび共演を重ね、2013年にはシャルル・デュトワ指揮によるヨーロッパ 公演のソリストに招かれている。  使用楽器は1733年作のストラディヴァリウス「ロード」。 [飯尾洋一/音楽ジャーナリスト]

Program C

|SOLOIST

ヴァディム・レーピン(

ヴァイオリン

© G ela M eg rel id ze

(23)

32 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016  ある土地の風景と切り離せない音楽というのはあるように思う。ベンジャミン・ブリテン (1913∼1976)の《4つの海の間奏曲》はそうした作品のひとつで、彼の愛した英国東部サ フォーク州の海辺の風景と密接に結びついている。彼の生まれ故郷のローストフトも、作曲 家として成功を収めてから移り住んだオールドバラもサフォーク州の北海沿いの町であった。  本曲は、ブリテンの初期の傑作オペラ、《ピーター・グライムズ》(1945年初演)の中で奏さ れる間奏曲を演奏会用に編曲したものである。オペラは北海沿いのとある漁村を舞台に、 粗野で一匹狼の漁師ピーター・グライムズと狭量な村人たちとの軋轢を描いた悲劇で、プロ ローグと3幕(各幕2場ずつ)から成る。各場面の間には北海のさまざまな表情を色彩豊か に捉えたオーケストラの間奏曲が置かれているが、ブリテンはそれら6曲のうち4曲を選び、 タイトルを付け、独立した管弦楽曲として出版した。  第1曲〈夜明け〉 オペラではプロローグと第1幕の間に演奏される。「日常の灰色の海 の風景」とブリテンは台本に書き込んでおり、カモメの舞う夜明けの海が目に浮かぶ。  第2曲〈日曜の朝〉 第2幕に先立つ間奏曲は、オペラにおけるつかの間の希望を表し ており、やわらかな陽光の中で海も輝いている。ホルン4本による和音進行と木管楽器群 による鋭い音型が巧みに組み合わされる。  第3曲〈月の光〉 夏の夜の海の風景。波が静かに打ち寄せる様子は低弦のゆるやか なシンコペーション、月の光はフルートとハープが象徴している。  第4曲〈嵐〉 激しく荒れ狂う北海を鮮明に描くこの曲は、本来第1幕第2場の酒場での 場面の前に奏される。この嵐の主題はオペラの中で繰り返し現れ、窮地に追い込まれるグ ライムズの心のうちを暗示しているかのようだ。 [後藤菜穂子]

Program C

ブリテン

歌劇「ピーター・グライムズ」─

4

つの海の間奏曲

作品

33a

作曲年代 1945年 初演 1945年6月13日、チェルトナム、作曲者自身の指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 楽器編成 フルート2(ピッコロ2)、オーボエ2、クラリネット2(Esクラリネット1)、ファゴット2、コントラファゴット1、ホ ルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ1、小太鼓、大太鼓、シンバル、サスペン デッド・シンバル、ゴング、シロフォン、テューブラー・ベル、タンブリン、ハープ1、弦楽

(24)

作曲年代 1916∼1917年(1楽章冒頭部分のスケッチは1915年初演 1923年10月18日、パリにて。マルセル・ダリューの独奏、クーセヴィツキー指揮、パリ・オペラ座管弦 楽団 楽器編成 フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、テューバ1、ティ ンパニ1、小太鼓、タンブリン、ハープ1、弦楽、ヴァイオリン・ソロ  不思議な偶然ではあるが、20世紀前半に書かれたヴァイオリン協奏曲には、作曲家の 恋愛体験が関連している。バルトークの《第1番》は、作曲家が恋した女性ヴァイオリン奏者 の肖像であり、ベルクの協奏曲には、作曲家の若き頃の過ちと関連した民謡の引用がある。 プロコフィエフ(1891∼1953)初のヴァイオリン協奏曲も例外にあらず、その主要主題の着想 は彼の大恋愛と関連している。お相手はペテルブルクの裕福な家の娘ニーナ・メシチェルス カヤ。ふたりは結婚を考えるが、折悪しく第一次世界大戦が勃発。将来のためにロシア・バ レエ団の興行主ディアギレフとの関係を強めたいプロコフィエフは、ニーナを「略奪」してヨー ロッパへの逃避行を計画するが、彼女の両親の妨害によって挫折し、その後、ふたりの関 係は急速に冷めていった。  新たな作曲のきっかけを与えたのはペテルブルク音楽院の新任ヴァイオリン教師コハンス キで、作曲の際に具体的な奏法上のアドヴァイスを与えている。ところが、彼を独奏に予定 していた初演は革命の勃発により中止、モダニズム最盛期のパリで行われた初演(1923 年)では、この曲の純粋な叙情性があだとなって好評は得られなかった。  第1楽章 アンダンティーノ、ニ長調、6/8拍子。「夢見るように」と指示された第1主題と、 プロコフィエフ好みのメカニックな動きによる第2主題によるソナタ形式。  第2楽章 スケルツォ:ヴィヴァチッシモ、ホ短調、4/4拍子。プロコフィエフ自身が「スケル ツォの中のスケルツォ」と豪語した楽章。ヴァイオリンの超絶技巧が目まぐるしく駆使される。  第3楽章 モデラート、ト短調、4/4拍子。ラプソディックな主要主題とより律動的な副主 題が交互に発展するが、最後は第1楽章主題が再現され、夢幻のなかに消えていく。 [千葉潤]

Program C

プロコフィエフ

ヴァイオリン協奏曲

1

ニ長調

作品

19

(25)

34 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016

Program C

ラヴェル

チガーヌ

 1922年7月、ラヴェル(1875∼1937)は演奏旅行先のロンドンでハンガリーのヴァイオリン 奏者イェリー・ダラーニと出会い、彼女のために演奏会用狂詩曲《チガーヌ》の作曲を構想し た。実際作曲に取りかかったのは2年後のことで、奇才パガニーニによる《24の奇想曲》の 超絶技巧をも凌駕すべく、ヴァイオリンの技巧を探求した。作品が完成したのは初演のわず か数日前であったが、これを活き活きと弾きこなしたダラーニの演奏は聴衆を熱狂させた。  本作には3つの伴奏版があり、いずれもラヴェル自身の手による。最初に発表されたの はピアノ伴奏版だが、当初構想していたのはリュテアル版(弦の部分に複数の音色を生み出す 装置をつけたピアノ)で、ツィンバロン(ハンガリーの民族楽器)のような響きが際立つ。オーケス トラ伴奏版も、ハープや弦楽器によるツィンバロン風の軽く渇いた響きが特徴的だ。  チガーヌとはフランス語でロマ(ジプシー)を意味する。ラヴェルがロマ風の音楽として選ん だのはハンガリーのチャールダーシュの形式で、テンポの遅い部分と速い部分の自在な交代 と、即興風の変奏が高揚感をもたらす。カデンツァ風の序奏では、唸るような冒頭部分に続 き、主要主題が予示される。さらに即興風のパッセージが展開されたのち、ヴァイオリンの4 度音程にハープのアルペジオが重なりミステリアスな雰囲気を醸す。主部の前半、独奏ヴァイ オリンが提示した主要主題は、ハーモニクス、ピチカート、重音、トリルなどの奏法が駆使さ れ、オーケストラと絡み合い変奏される。後半はいったんテンポをゆるめ、あらたに壮麗な 旋律がヴァイオリン独奏、オーケストラの順に奏でられると、一転して軽快な旋律がめまぐるし く変奏されて勢いを増してゆき、主要主題の再現とともに最高潮に達して終結する。 [成田麗奈] 作曲年代 1924年 初演 [ピアノ伴奏版]1924年4月26日、エオリアン・ホール、ロンドン、J.ダラーニ(ヴァイオリン)、H.ジル・マル シェックス(ピアノ)[リュテアル伴奏版]1924年10月15日、ガヴォー・ホール、パリ、S.ドゥシュキン(ヴァ イオリン)、B.ウェブスター(リュテアル) [オーケストラ伴奏版]1924年11月30日、シャトレ座、パリ、J.ダ ラーニ(ヴァイオリン独奏)、G.ピエルネ(指揮)、コロンヌ管弦楽団 楽器編成 フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット1、トライアングル、タンブ ル(グロッケンシュピールで代用)、サスペンデッド・シンバル、チェレスタ1、ハープ1、弦楽、ヴァイオリン・ソロ

(26)

Program C

オネゲル

交響曲

2

 第一次世界大戦終結後の混乱と熱狂が渦巻く1920年代、いわゆる「狂乱の時代」(レ・ ザネ・フォル)のパリの音楽界をたちどころに席巻した若手の作曲家集団「フランス六人組」。 それぞれに多様な音楽的個性をもつ彼らの中でもひときわ異彩を放つ存在だったのが、 スイス国籍をもつオネゲル(1892∼1955)である。フランスのル・アーヴルに生まれ、スイスの チューリヒ音楽院で学んだオネゲルは、10代の頃からJ.S.バッハを敬愛し、ベートーヴェン やワーグナーらの音楽に傾倒した。オネゲル自身によれば、パリに戻ってきてから親しんだ ドビュッシーらのフランス音楽は、それまで培ってきた自らの古典派やロマン派への好みに 対して「ちょうど良いバランス」を形成してくれたという。詩人ジャン・コクトーが「六人組」の 美学として宣布した「反ワーグナー、反ドビュッシー、サティー賛美」のうち、実際にオネゲル の共感を呼んだものはほとんどなかった。フランス的な多面性を備えながらもドイツの伝統 的な古典音楽への帰依を隠さなかったオネゲルが、20世紀初頭の「前衛」の風潮にも背を 向けるかのように、「六人組」の誰よりも交響曲というジャンルへ関心を示すことになったの はある意味で必然といえる。  とはいえオネゲルが本格的に交響曲に着手したのは遅かった。すでに40歳が目前に 迫った1930年に《第1番》が完成され、《第2番》はそれからおよそ10年の時を経て作曲さ れた。1950年までに書かれた5曲の交響曲のうち、標題をもたない《第1番》と《第2番》は、 タイトルの面でも完全な純粋音楽に属する。しかしこの《第2番》は、作曲時期が第二次世 界大戦と重なったことから、オネゲルの一連の交響曲の中でも特異な性格を備えることに なった。オネゲルはスイスの指揮者パウル・ザッハーからの依頼で《第2番》を書き始めたが、 作曲の筆を思うように進められないまま月日を重ね、そのうちに時代は第二次世界大戦へ と突入した。1940年にドイツ軍がパリに侵攻すると、フランスの作曲家たちも苦難の日々を 強いられることになる。「六人組」の友人ミヨーが国外へ脱出する中、オネゲルはパリの自 宅に閉じこもり《第2番》を書き続けた。この《第2番》を支配する重々しく悲観的な響き、言 いようのない不安、内省的でペシミスティックな様相、それらを打ち破るような激情のほとば しりは、オネゲルの最も人間的な心の内を赤裸々に明かしているかのようである。  《第2番》はザッハーが率いる室内管弦楽団のために書かれたが、楽器の可能性を最大 限に引き出すようなオネゲルの大胆かつ力強い表現力は、室内オーケストラの枠を超える。

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36 NHK SYMPHONY ORCHESTRA, TOKYO PHILHARMONY | DECEMBER 2016 弦楽合奏と任意のトランペット1本という珍しい編成上、ほぼ全体が弦のみの響きによりな がらも非常に表情的な色合いが追究されており、またそれによって(オネゲル自身は「旋律の ための単なる支え」と述べているものの)フィナーレでのトランペットの色彩的な効果が際立た せられている点に、オネゲルの楽器法の熟達した手練が認められる。  全体は急―緩―急の3楽章構成。オネゲルの独創的で豊かな音楽の実体が、簡潔かつ 堅固な構造の中に鋳造されている。  第1楽章(モルト・モデラート─アレグロ)はソナタ形式。暗鬱した導入部に始まり、「ニ」を中心音 とする無調的な和音に続いて、ヴィオラが「変ロ― ハ」を中心とする2度のゆれをオスティナート 風に奏する。憂鬱なオスティナート風の旋律は第3楽章の最後のトランペットによる朗々とした コラールと対照をなす。アレグロの提示部では第1主題が低弦で力強くリズミックに奏され、一 気に緊張を高める。不安げに哀願するようなヴァイオリンの第2主題が続き、冒頭のオスティナー ト風の旋律も回帰しつつ2つの主題が展開される。再現部は第2主題の再現から始まる が、展開部を中央に挟む提示部と再現部で第1主題と第2主題を対称的に配置することで、 オネゲルは古典的な繰り返しを避けると同時に全体の均衡を図っている。  第2楽章(アダージョ・メスト)は3部形式。「ため息」を思わせる下行2度のオスティナート音 型が、第1楽章から続く絶望と諦めの様相をさらに悲劇的にする。チェロによる嘆きの歌に、 哀切をたたえたヴァイオリンの旋律が重ねられ、対位法的に絡み合う。中間部では冒頭の オスティナートがリズム的に収縮し、呻くようなバスの旋律とともに不穏な表情を帯びる。  第3楽章(ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ─プレスト)はソナタ形式。前楽章までの息詰まるよう な重苦しさをついに脱し、多調とポリリズムによる二重のオスティナートで動的に始まる。激 しいプレストを経てコーダに至り、トランペットとヴァイオリンによる輝かしい勝利に彩られた コラールがニ長調で鳴り響く。最後は4度の連続的な下行でニ長調の主和音に到達し、決 然と終わる。 [関野さとみ] 作曲年代 1940∼1941年 初演 1942年5月18日、チューリヒ、パウル・ザッハー指揮、チューリヒ・コレギウム・ムジクム(パリ初演は同年 6月25日、シャルル・ミュンシュ指揮、パリ音楽院管弦楽団) 楽器編成 トランペット1、弦楽

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 この作品は、モーリス・ラヴェル(1875∼1937)がバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の主宰者 セルゲイ・ディアギレフの依頼によって作曲したもので、「オーケストラのための舞踏詩」という 副題をもつ。このほかに、ラヴェル自身によって作られたピアノ独奏版と2台ピアノ版がある。  ラヴェルは、1906年の段階で「大ワルツ」を書こうと計画したことがあり、その後、「ウィー ン」と題する交響詩にとりかかったものの、第一次世界大戦のために中断していた。ディア ギレフから話があったのは、ラヴェルが戦争と母との死別によって心身共に消耗していた 時期だったが、彼はこの依頼に創作意欲をかきたてられ、作曲に没頭した。  ところが、完成した作品を聴いたディアギレフは、傑作だがバレエではない、と拒否したた め、この作品は管弦楽曲として初演されることになった。ちなみに、バレエとしての初演はディ アギレフの死後、パリ・オペラ座において1929年イダ・ルビンシテイン一座によって行われた。  スコアには、以下の説明がある。「うずまく雲の切れ間から、ワルツを踊るカップルの姿が ときおり垣間見える。雲は少しずつ晴れてくる。スコア番号Aのところで、輪を描きながら 踊る人々であふれかえる広間が見える。光景はますます明るくなってくる。シャンデリアの光 はスコア番号Bのフォルティッシモのところで燦然と輝く。1855年ごろの皇帝の宮廷」。  ラヴェルはこの作品を「幻想的で破滅的な回転の印象」と交じり合った「ウィンナ・ワルツ への一種の賛歌」であると説明している。作品は序奏に続いて7つのワルツが奏され、8つ めのワルツでそれらが再現し、展開されて終わる。曲は全体的にみると、大きなクレッシェン ドのなかに組み込まれている。このクレッシェンドは頂点の前でいったん中断されるが、も う一度精力的に登りつめていき、突然断ち切られる。 [井上さつき]

Program C

ラヴェル

バレエ音楽「ラ・ヴァルス」

作曲年代 1919∼1920年 初演 1920年12月12日、パリ、カミーユ・シュヴィヤール指揮、ラムルー管弦楽団 楽器編成 フルート3(ピッコロ1)、オーボエ3(イングリッシュ・ホルン1)、クラリネット2、バス・クラリネット1、ファゴット2、 コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ1、トライアングル、 タンブリン、小太鼓、大太鼓、シンバル、サスペンデッド・シンバル、カスタネット、タムタム、タンブル(グ ロッケンシュピールで代用)、アンティーク・シンバル、ハープ2、弦楽

参照

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