1.はじめに:背景と問題意識 本稿は,2011年3月11日の地震と津波に端を発する東日本大震災2により発 生した,膨大な量の災害廃棄物(今回は「がれき」とよばれることが多いが,3 本稿では主にこの名称を用いる)の適正処理に関する実態と見通しを,現地で 見聞きしたことを踏まえて整理し論述する。 2011年8月18日に公布・施行された「東日本大震災により生じた災害廃棄物 1 西南学院大学経済学部経済学科教授。本稿は,西南学院大学2011(平成23)年度 後期公開講座「東日本大震災がもたらした課題−大規模災害対応への基礎力−」に おける,筆者が担当した第2回「災害廃棄物の処理体制−平時との違い−」(2011年10 月14日)の主旨をもとに執筆したものである。本稿を準備するための現地調査や資 料作成にあたって,平成23年度科学研究費補助金・基盤研究(C)「最終処分場の社 会的枯渇が廃棄物処理システムの環境・経済的効率性に及ぼす影響」(研究代表者: 九州大学工学研究院・中山裕文准教授)および科学研究助成事業(学術研究助成基 金助成金)・若手研究(B)「レアメタルの回収効率性に関する実態調査とモデル分 析」による支援を活用した。この場を借りて感謝申し上げる。 2 地震の発生日時は平成23年3月11日14時46分,震源は三陸沖の深さ24 km,モーメ ントマグニチュードは Mw9.0である。津波警報(大津波)が14時49分に発表され, 本稿の続編で取り上げる石巻市(鮎川)においては,最大波が8.6 m 以上(15時26分) に及んだ。人的被害については,死者15,841名,行方不明3,485名,負傷者5,890名, また建築物被害については,全壊126,348戸,半壊227,453戸,一部破損643,442戸であ る(出所:緊急災害対策本部「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本 大震災)について」,平成23年12月13日(17:00))。 3 島岡(2009)によると,廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)に おいて災害廃棄物の明確な定義づけはなく,自然災害に伴って発生した不要になっ たもの(=廃棄物)と考えられる。
宮城県における災害廃棄物処理(1):
概観と気仙沼市の状況
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1 −173−の処理に関する特別措置法」は,災害廃棄物を,「東日本大震災(平成二十三 年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の 事故による災害をいう。以下同じ。)により生じた廃棄物」と定義している。 環境省の発表によると,2011年12月13日時点で,岩手・宮城・福島3県の沿岸 市町村の災害廃棄物の推計量は2247万3千トン,そのうち宮城県1県の量で約 7割に及ぶ4。 これほど膨大な量の廃棄物を,市町村が平時と同様に自ら,しかも限られた 期間で処理・処分することは,技術的にも財政的にもとうてい不可能である。 したがって,他の全国の自治体にも協力してもらう「広域処理」を進めざるを えず,当初は多くの市町村が廃棄物の受け入れを表明していた5。しかし周知 のように,福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質による汚染の可能性 がにわかにクローズアップされ,受け入れ側の,特に住民の反発が収まらない 状況に陥っている。 そのため,2011年8月11日に策定された「災害廃棄物の広域処理の推進に係 るガイドライン」は,その後の調査と検討を踏まえて2度改定され(最新は11 月18日改定)6,広域処理の実現のためにより多くの情報と手段を提供し続けて いる。しかし,12月1日に佐賀県武雄市が「主に市外から」の抗議や脅迫を受 けて,廃棄物の受け入れを断念したように7,度を超えた拒否反応が全国的に 蔓延している状況にあまり変化は見られない。 言うまでもなく,災害廃棄物をなるべく早く撤去・処理しない限りは,その 被災地の復旧・復興につながりえない。世間では毎日,脱原発,自然エネル ギーへの大転換,「絆」の大切さなどの言論やニュースが溢れ返っているが, 廃棄物の処理の重要性と進捗については,放射性物質による汚染の恐れが注目 4 環境省「沿岸市町村の災害廃棄物処理の進捗状況(平成23年12月13日)」より。3 月27日時点の宮城県による推計値は,環境省の推計値より約16%多い(「宮城県災害 廃棄物処理実行計画」(第1次案),平成23年7月,8頁)。 5 例えば『日本経済新聞』2011年4月20日朝刊には,30都道府県の272市町村が処理 協力を表明しており,最大で東北3県の廃棄物量の約3割が受け入れ可能とされてい た。 6 http://www.env.go.jp/jishin/attach/memo20111118_shori.pdf 7 「震災がれき 武雄市受け入れ見送り 抗議1000件超 脅迫も」,『西日本新聞』2011 年12月1日夕刊。 −174− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
される以前からも,あまり注目されることはなかった。それどころか前述のよ うに,逆の意味で注目,というよりは不安視されるようになったのは,まこと に忍びない。 本稿の説明には,筆者が被災地で撮った写真を多く使用している。現地がど のような状況にあるのかを知るために,筆者も視察の前後に市販の写真集や映 像資料を何点か購入したが8,災害廃棄物の仮置き場や処理施設を撮ったもの はほとんど見当たらない。したがって,ここで対象としている写真は,ある意 味珍しい存在かもしれない。ただし,筆者の調査グループ9が被災地を訪れた のは8月24日から26日の3日間,それも宮城県の沿岸部(仙台市,気仙沼市, 南三陸町,石巻市など)と通過点の岩手県一関市に限られていることをあらか じめ断っておく。 本稿は連載の第一回として,宮城県における被災状況と災害廃棄物の処理状 況(執筆時点)を整理してから,同県北部の沿岸に位置する気仙沼市の2カ所 の一次仮置き場,および二次仮置き場の候補地の一つ(現時点においても決定 に至らず,3カ所が候補)を視察したときの状況に基づき,見解を述べる。 2.宮城県の被災および災害廃棄物処理の状況 図1は,2011年11月10日に公表された「宮城県震災復興計画」10に,巻末資 料として付された地図を抜粋したものである。沿岸部で少し濃く(原典では赤 で)示されている箇所が,津波の浸水範囲である。図を小さくするためにやむ 8 豊田直巳編(2011),第三書館編集部編(2011),イーネット・フロンティア(2011), ビデオプラザ神奈川(2011)など。 9 筆者および,筆者が運営代表を務める「福岡環境学際フォーラム」〈http://fukuoka-gakusai.seesaa.net/〉に参加している松田晋太郎氏(環境テクノス㈱企画開発部),阿 部新氏(山口大学教育学部)の計3名である。同調査においては,東北大学大学院環 境科学研究科の吉岡敏明教授および佐竹正夫教授,宮城県震災廃棄物処理チーム(環 境生活部廃棄物対策課)の宮城英徳氏,仙台市環境局震災廃棄物対策室の遠藤守也 総括主任および同室総務・経理班の松浦淳一郎氏のご協力を得ることができた。厚 く御礼申し上げる。なお,調査の概要は,福岡環境学際フォーラムの9月5日のブロ グ記事〈http://fukuokagakusai.seesaa.net/article/224314714.html〉として公開した。 10 http://www.pref.miyagi.jp/seisaku/sinsaihukkou/keikaku/index.htm 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −175−
を得ず割愛したが,宮城県内では,名取市以南の岩沼市,亘理町,山元町も浸 水被害を受けた地域である。 先の図中にも各自治体の被害等の状況が断片的に見られるが,あらためて宮 城県内の市町村別の状況を示したものが表1である。死者数と行方不明者数を 図1 宮城県の罹災概況図(抜粋) 出所:http://www.pref.miyagi.jp/seisaku/sinsaihukkou/keikaku/1_zentai20111020.pdf を筆者加工。 −176− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
表1 宮城県の被害等状況 市町村 人 的 被 害 避難状況(ピーク時) 人 口 (人) 死 者 (人) 行方不明者 (人) 避 難 所 数 (施設) 避 難 者 数 (人) 仙 台 市 704 26 328 96,710 1,046,902 石 巻 市 3,177 706 179 111,295 160,336 塩 竈 市 20 1 35 8,079 56,325 気 仙 沼 市 1,028 372 92 17,324 73,279 白 石 市 1 0 22 1,700 37,297 名 取 市 911 65 37 7,012 73,576 角 田 市 0 0 5 299 31,216 多 賀 城 市 188 1 41 10,902 62,881 岩 沼 市 182 1 − 5,700 44,138 登 米 市 0 4 49 6,261 83,737 栗 原 市 0 0 52 2,697 74,558 東 松 島 市 1,044 94 81 13,376 42,859 大 崎 市 5 0 21 2,700 134,919 蔵 王 町 0 0 10 284 12,857 七 ヶ 宿 町 0 0 4 49 1,665 大 河 原 町 0 0 14 1,116 23,487 村 田 町 0 0 6 173 11,953 柴 田 町 2 0 7 880 39,282 川 崎 町 0 0 5 138 9,934 丸 森 町 0 0 10 181 15,391 亘 理 町 257 13 7 6,169 34,773 山 元 町 671 19 18 4,191 16,633 松 島 町 2 0 14 1,900 15,017 七 ヶ 浜 町 70 5 32 3,871 20,377 利 府 町 46 0 11 1,331 34,249 大 和 町 0 0 12 1,513 25,318 大 郷 町 1 0 4 185 8,882 富 谷 町 0 0 27 3,000 47,408 大 衡 村 0 1 6 234 5,365 色 麻 町 0 0 1 14 7,397 加 美 町 0 0 6 250 25,443 涌 谷 町 1 2 17 512 17,418 美 里 町 0 1 19 2,019 25,081 女 川 町 572 382 − 1,160 9,965 南 三 陸 町 564 333 11 7,660 17,382 県 全 体 9,446 2,026 1,183 320,885 2,347,300 出所:http://www.pref.miyagi.jp/seisaku/sinsaihukkou/keikaku/1_zentai20111020.pdf。人的被害は2011年10 月20日時点,避難状況は同年3月14日(ピーク時)時点,人口は同年2月1日時点のもの。 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −177−
合わせた人的被害総数に関しては,石巻市の3,883人(人口の2.4%)が最も深 刻であり,人口の69%に当たる111,295人が一時避難していた。また,人口比 で見た場合,女川町が9.6%,南三陸町が5.2%,山元町が4.1%という,きわ めて大きな人的被害を被っている(県全体では0.5%)。 続いて表2は,宮城県の沿岸市町における災害廃棄物の処理状況を示してい る。環境省によると,推計量合計の約1,569万トンは,県内で排出される一般 廃棄物の約19年分に相当する11。人的被害が最も大きい石巻市においては,災 害廃棄物(表中ではがれきと表記)の発生量は616万3千トンとやはり膨大で ある(県全体の39%)。そのため,これまで同市の仮置き場へ搬入された廃棄 表2 宮城県沿岸部の災害廃棄物処理の進捗状況 市 町 がれき推計量 (千 t) 仮置き場への搬入状況 平成24年3月目標の達成状況 (=搬入済量/がれき推計量) 設置数 面 積(ha) 搬入済量(千 t) 仙 台 市 1,352 3 103.4 1,312 97.0% 石 巻 市 6,163 25 163.4 2,370 38.5% 塩 竈 市 251 3 5.0 240 95.6% 気仙沼市 1,367 21 43.3 1,152 84.3% 名 取 市 636 5 18.9 611 96.1% 多賀城市 550 15 20.2 251 45.6% 岩 沼 市 520 19 57.0 515 99.0% 東松島市 1,657 6 53.8 1,030 62.2% 亘 理 町 1,267 5 58.2 1,230 97.1% 山 元 町 533 24 69.2 447 83.9% 松 島 町 43 5 2.2 29 67.4% 七ヶ浜町 333 3 12.2 258 77.5% 利 府 町 15 4 1.4 9 60.0% 女 川 町 444 5 6.1 237 53.4% 南三陸町 560 28 15.9 322 57.5% 宮城県計 15,691 171 630.2 10,013 63.8% 出所:http://www.env.go.jp/jishin/shori111213.pdf(2011年12月13日更新)を筆者加工。このうち,単独 で処理している(宮城県に処理事務委託していない)のは,仙台市,松島町,利府町の3市 町のみ。 −178− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
物の割合は38.5%と,他の市町での進捗と比較する限り,廃棄物の撤去には長 い時間を要する見込みである。 3.国のマスタープラン 2011年5月16日に国(環境省)が発表した「東日本大震災に係る災害廃棄物 の処理指針(マスタープラン)」12において,県と市町村の役割分担および連携 に関して,以下のように規定している(筆者要約)。 【県】 ・仮置き場の設置や災害廃棄物の処理について,協議会等を通じ市町村等と の総合調整を行う。 ・具体的な処理方法を定めた災害廃棄物処理の実行計画を作成する。 ・実行計画の作成に当たっては,処理方法等に関して広くアイディア・プロ ポーザルを募る。 ・被災した市町村から事務委託を受けた場合は,市町村に代わり県が処理を 実施する。 【市町村】 ・県が作成した実行計画を踏まえ,災害廃棄物の処理を実施する。 また,「処理の考え方」として,以下のいくつかの点を挙げている(筆者要 約,「等」を省略)。 ・発生現場において,危険物,資源物を分けて集めるなど,可能な限り粗分 別を行った後に仮置き場へ搬入し,混合状態の廃棄物の量を少なくする。 11 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課「東日本大震災により生 じた災害廃棄物の広域処理の促進について」(事務連絡)平成23年11月2日〈http://www. env.go.jp/jishin/attach/memo20111102_shori.pdf〉。なお,岩手県の災害廃棄物の発生推 計量は,同県で排出される一般廃棄物の約11年分に当たる約476万トンである。 12 http://www.env.go.jp/jishin/attach/haiki_masterplan.pdf 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −179−
・仮置き場において混合状態の廃棄物を,重機や破砕・選別設備で可燃物, 不燃物,資源物,危険物(等)に分別し,それぞれの特性に応じた適切な 処理を行う。 ・再生利用が可能なものは,極力再生利用する。その促進のために,再生利 用が可能な廃棄物の種類や発生量を把握する。 ・コンクリートくずについては,復興の資材として被災地で活用する。 ・木くずについては,広域での活用も検討する。 ・リサイクルルートが確立している自動車や家電製品については,分別がで き,技術的に可能な限りリサイクルする。 ・仮置き場や運搬車両の選定,収集運搬に関する計画の策定において,交通 渋滞が発生しないように配慮する。 そして,処理の「スケジュール」について,原則として次のような期限の目 途を設けている(筆者要約と強調,年を西暦で表示)。 (1)仮置き場への移動 ・生活環境に支障が生じうる災害廃棄物…2011年8月末まで。 ・その他…2012年3月末まで。 (2)中間処理・最終処分 ・腐敗性等がある廃棄物…速やかに処分。 ・木くず,コンクリートくずで再生利用を予定しているもの…劣化,腐敗 等が生じない期間で再生利用の需要を踏まえつつ,適切な期間を設定。 ・その他…2014年3月末まで。 つまり,災害発生からおおむね1年以内に現場を片付け,そしておおむね3 年以内に適正処理を終えることが,実質的に自治体が順守すべき目標として打 ち出されたのである。 −180− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
4.宮城県の実行計画 前節で紹介した国のマスタープランを踏まえて,宮城県は2011年7月,「宮 城県災害廃棄物処理実行計画」(第1次案)を策定した。この実行計画では特 に,一次仮置き場への運搬以降の廃棄物処理を具体的に進めるための方法とス ケジュール等が定められている13。ただし,サブタイトルが「災害廃棄物処理 の基本的考え方」とされているように,その時点での県の考え方を示している にすぎず,状況の変化に応じて実際の政策対応も変遷している。 その一つが,地域ブロックの編成と二次仮置き場の設置に関してである。宮 城県は実行計画において当初,単独で処理を行う市町(仙台市と利府町)を除 いた13市町について,県が処理事務委託するとしていた。そして,県内を①気 仙沼ブロック,②石巻ブロック,③宮城東部ブロック,④亘理名取ブロックの 4つの地域ブロックに分けて,ブロックごとに二次仮置き場を1カ所,あるい は数カ所設置するとしていた14。 図2は,実行計画が公表された時点で想定されていた,4つのブロックと各 ブロックの二次仮置き場の配置である。宮城東部ブロックには当初松島町が含 まれていたが,現在は塩竈市,多賀城市,七ヶ浜町の3市町で構成されている。 また,亘理名取ブロックは一応一つのブロックとされているものの,各市町が 個別に二次仮置き場を設置する。 図3は,二次仮置き場のイメージである。二次仮置き場には,(可能な限り) 分別された災害廃棄物が搬入され,再生利用(リサイクル),焼却処理,埋立 処分および水処理が行われることとなる。廃棄物が片付くまでの期間限定とは いえ,焼却炉などのいわゆる「迷惑施設」が設置されるため,計画段階から慎 重を要する。 表3は,執筆時点において生活環境影響調査結果が縦覧されている,仮設焼 却施設の一覧である。当初の想定(図2参照)から,立地が微妙に変更された ところがいくつかあるが,いずれも海際での焼却処理を準備している。なお, 13 「宮城県災害廃棄物処理実行計画」1頁。 14 「宮城県災害廃棄物処理実行計画」12頁。 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −181−
焼却施設 家電製品 埋立処分物 排水溝 破砕施設 特定品目 処理後再生利用品 不燃物 (再生砕石,木くず等)(金属くず類) 水処理施設 排水 混合ゴミ (分別用ヤード) (焼却灰等) 可燃物 図2 地域ブロックおよび二次仮置き場の選定状況(2011年7月時点) 出所:http://www.pref.miyagi.jp/haitai/shinsai/pdf/20110804shorikeikaku-1.pdf(13頁) 図3 二次仮置き場のイメージ 出所:図2と同じ(22頁)。 −182− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
宮城東部ブロックについては,表中のブロックより遅れて,11月末に処理業務 受託候補者が決定したことから,追って同様の生活環境影響調査結果が公表さ れる見通しである。また,気仙沼ブロックの事情については,あらためて次節 でふれる。 5.二次仮置き場候補地の例 気仙沼市と南三陸町から成る気仙沼ブロックは,被害が甚大であったととも に,廃棄物処理の場所を確保するのに現在も苦労している。 図2に記載されているように,当初は気仙沼市本吉町の小泉地区に二次仮置 き場(約80ヘクタール)を設置することを考えていた。しかし,ここは私有地 が多く,地権者の反対に遭ったことに加えて,三陸沿岸道路の「歌津∼本吉間」 ルートがこの地区を通ることが8月末に決まったことにより15,用地が20∼30 ヘクタールしか使えなくなってしまった16。 15 国土交通省「三陸沿岸道路,東北横断自動車道釜石秋田線(花巻∼釜石間)及び 東北中央自動車道(霊山∼相馬間)のルートの決定について」2011年8月30日報道発 表資料〈http://www.mlit.go.jp/report/press/road 01_hh_000201.html〉。 16 この周辺の記述は,『日本経済新聞』2011年12月6日朝刊,「がれき処理,用地確保 難航 計画の変更余儀なく」を参照している。 表3 仮設焼却施設の設置予定 仮設焼却炉の 設置ブロック 設置場所 処理能力 石巻ブロック 石巻市潮見町地内 300t/日×5基 亘理名取ブロック (名取処理区) 名取市閖上字東須賀地内 (閖上漁港内) 95t/日×2基 亘理名取ブロック (岩沼処理区) 岩沼市押分字須加原外地内 50t/日×2基, 95t/日×1基 亘理名取ブロック (亘理処理区) 亘理町吉田字砂浜外地内 105t/日×5基 亘理名取ブロック (山元処理区) 山元町高瀬字浜砂外地内 200t/日×1基, 100t/日×1基 出所:http://www.pref.miyagi.jp/shinsaihaitai/assessment/index.htm (2011年12月16日更新)を筆者加工。 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −183−
宮城県は現在(執筆時点),この小泉地区に加えて,気仙沼市の階上地区と 南三陸町の戸倉地区の計3カ所に二次仮置き場を分散させる案を計画しており, 各地で地権者への説明会を行っているところである。ただし,階上地区におい ては,地権者約100人のうち約20人の居場所が依然わからず,このままでは全 面的に用地を確保できないおそれがある。 図4は気仙沼市本吉町小泉地区の地図,写真1から写真4はその風景であ る17。この地域一帯は猛烈な津波によって,地区を流れる津谷川に架かってい た小泉大橋,高架を走る JR 気仙沼線の線路や陸前小泉駅などの構造物が軒並 み破壊された。また,河口の本吉町下宿は完全に水没した状態となっており, 自動車が水面に取り残されていた。 陸前小泉駅があった場所は基礎がかろうじて残っている状況であり,太陽光 パネルが乗っている屋根部分が手前(写真3の左方向)に落ちていた。駅の周 辺と川沿いでは,数台の重機が災害廃棄物の分別および運搬の作業を粛々と 17 以下,写真はすべて,筆者が2011年8月25日に撮影したものである。 図4 気仙沼市本吉町小泉地区 出所:プロアトラス SV7 −184− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
行っていた。 このような荒涼とした中でも,流された小泉大橋のすぐ隣に,「仮橋」が着 工2カ月ほどで完成し,交通の動脈がいち早く確保されていた18。正直のとこ ろ,レンタカーで橋を通り過ぎて,徒歩で戻ってきてから,ようやくそれが「仮」 の橋だとわかった。立派なものである。わが国の道路復旧工事の驚異的なス ピードと完成度の高さは,海外でも絶賛されていることであるが19,思わぬ形 でその仕事ぶりを体感できた。 18 国土交通省仙台河川国道事務所「国道45号小泉大橋の仮橋が6月26日9時から通行 できるようになります」2011年6月22日記者発表資料〈http://www.thr.mlit.go.jp/bumon/ kisya/kisyah/images/35659_1.pdf〉,(社)日本道路協会「東日本大震災∼道路の災害復旧 記録∼」〈http://www.road.or.jp/news/pdf/110502.pdf〉。
19 例えば,“Road in Japan is fixed(for real this time)”〈http://www.reddit.com/r/pics/com-ments/gae4n〉,別冊宝島編集部編(2011)など。
写真1 流された小泉大橋 写真2 沈んだ本吉町下宿
写真3 陸前小泉駅の跡 写真4 いち早く仮橋が開通
ちなみに,前述の三陸沿岸道路「歌津∼本吉間」ルートは,津谷川のこの辺 りより上流,つまり写真1のもう少し奥の方を通る予定である。 6.気仙沼市の港町 表2によると,気仙沼市には現在,21カ所の(一次)仮置き場がある。筆者 の調査グループはそのうち,気仙沼漁港に近い潮見町と朝日町の2カ所に足を 止め,災害廃棄物の分別現場をしばらく視察した。ただしその前に,図5に示 したフェリー乗り場周辺の様子についてふれておく。 写真5から写真8はいずれも,町名でいえば南町海岸,魚町2丁目,南町3 丁目で撮ったものである。フェリー乗り場の桟橋は海に落ち,鉄柱は傾き,地 盤は崩れたが,2000年に設置された「港町ブルース」の歌碑は少し傾いた程度 で留まった20。 この港ふれあい公園の周辺を歩いたところ,基礎だけが残っている建物もあ 20 『朝日新聞』2011年10月22日,「森進一さん,気仙沼で熱唱 「港町ブルース」歌 碑前で」〈http://www.asahi.com/national/update/1022/TKY201110220264.html〉。 図5 気仙沼市南町海岸 出所:プロアトラス SV7 −186− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
れば,2階が重しのように1階を押し潰した状態の建物,漂流物が天井からぶ ら下がったままの建物,解体工事が行われている建物など,さまざまな光景を 目にした。漁船が流され,道路脇に転がっているところもある。筆者らがこの ときに眺めた海は実に穏やかであり,津波が押し寄せた壮絶な「あのとき」を 想うことがなかなか難しかった。 さて,港町の所々で片付けられている災害廃棄物は各種トラックに積み込ま れて,近くの一次仮置き場に運搬されていく。その車両の数がかなり多く,一 カ所に立って見ていると,1∼2分経ったかどうかの間隔で,同じ方向から次 のトラックがやってくる。 もともと道路が広くない上に,舗装が無くなり路肩も悪く,すれ違うのもやっ とのように見えるが,現場と仮置き場との最短距離であるため,頻繁に運搬車 両が往来する。撮影のために道路に立ってうっかりしていると,危ない思いを 写真5 港ふれあい公園 写真6 1階が押し潰された家屋 写真7 家屋解体中 写真8 狭い道を車両が往来 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −187−
しかねない。歩道が無くなっているところも多いので,実際正面から車両が来 たときに退避する方向に悩み,肝を冷やした。 7.気仙沼市の一次仮置き場(1):潮見町 災害廃棄物を積んだトラックは一路,図6に示す潮見町,あるいはその隣の 朝日町を目指す。潮見町は漁業関係の工場以外にも,商店や事務所,公共施設 などが立ち並んでいたようであるが,鉄骨造のため足場を組んで解体しなけれ ばならない建物を除き,多くが更地に近い状態になっていた。 写真9から写真12は,いずれも潮見町の仮置き場の状況を捉えたものである。 地図の上では,中央公民館や保育所があった,やや広い区域に違いない。ここ は特に囲いがあるわけではないので,ぬかるんでいる足元に注意しつつ,誰で も接近することができる。 まさに,「野積み」という表現しか思い浮かばない状況である。解体現場に 図6 気仙沼市潮見町・朝日町 出所:プロアトラス SV7 −188− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
おいてある程度分別はされているのであろうが,実際はさまざまなものが混じ り合っている。このような形で仮置き場に「捨て置かれた」ものを,重機の作 業員は延々と分別していかなければならない。作業自体が細かい上に処理しな ければならない量が膨大であるという,実にハードな仕事である。 木くずに見えるものであっても,海水の塩分も含めて,そうでないものも多 く混じっている。ある程度質が良ければ,脱塩した上で再生利用できるかもし れないが,ほとんどの木くずは破砕した上で焼却に持って行くこととなる。被 覆線についても,海水に浸かるなどの状態になってしまった以上は,使おうと 思っても使える部分がない。普段からよく顔を合わせる産業廃棄物業界の重鎮 の話では,今回発生した廃棄物のほとんどは結局,埋め立てるしかないとのこ とである。 写真9 野積みの状態 写真10 木くず 写真11 木くずの破砕 写真12 被覆線など 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −189−
8.気仙沼市の一次仮置き場(2):朝日町 潮見町から海沿いを少し進むと,もう一つの仮置き場である朝日町にたどり 着く。写真13は,その道中にあった自動車の「山」である。直前に訪れた潮見 町においても,あまりにも複雑に絡みすぎて何台あるのかわからない固まりを 見かけた。 宮城県の「被災自動車処理指針」(2011年5月)では,「被災自動車」を,「地 震,津波等により被災し,外形上から判断してその効用をなさない状態にある と認められる(冠水歴又は大規模な破損が認められるなど外形から判断して自 走不可能と考えられる)使用済自動車の再資源化等に関する法律第2条に規定 する自動車」と定義している21。 写真14から写真16は,朝日町の海岸沿いに設けられた,被災自動車の保管場 写真13 自動車の「山」 写真14 保管場所入口 写真15 海水に浸かった車 写真16 折れ曲がった車 −190− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
所の状況である。前述の処理指針には,「受け入れ時間内には危険防止のため 作業に無関係な者の立入を制限するために管理人を置く」とあるが,昼前なの に誰もいなかったので,車両の受け入れそのものが終わっていたのかもしれな い。破損が部分的でまだパーツが使えそうなものから,海水に浸かって錆つき 原形を失っているもの,さらには,どうやったらこれほどまでに変形するのか, といったものまで並べられていた。 保管されている被災自動車の所有者に連絡を取り,処分の意思を確認するた め,ナンバープレートや車台番号などのデータ一覧が Excel ファイルの形で公 開されている22。 さて,自動車の保管場所の隣を見ると,冷蔵工場があった敷地が仮置き場と して開放され,さまざまな災害廃棄物が分別されていた。写真17から写真20は, その一部である。再生利用が比較的容易にできそうなものから,まるでそうで なさそうな「大物」や雑多な混合物に至るまで,所狭しと積み上げられている。 9.小 括 前述のように,気仙沼ブロックの二次仮置き場の用地確保が難航している一 方,一次仮置き場のスペースにも限りがあり,受け入れが終わり閉鎖されたと ころもいくつかある。現在まさに正念場であるが,適正処理の促進のために, 良い方向に事が進むことを願ってやまない。 本稿の続編で取り上げる南三陸町と石巻市は,周知のように,津波による壊 滅的なダメージを被った。夏に現地を訪れ,言葉にし難い惨状を目の当たりに して以来,研究者として教育者として,自分ができることは果たして何なのか を探し続けている。 2011年3月11日の午後4時,筆者は,車にひかれ若くして亡くなった甥(享 年16)の葬儀のため,福岡から実家の新潟に飛んだ。余震がひっきりなしに 襲ってくる中で,翌日,彼をなんとか見送ることができた。筆者にとっても, 21 http://www.pref.miyagi.jp/haitai/shinsai/pdf/201105car.pdf 22 http://www.pref.miyagi.jp/sigen/jidoushya/hisaijidousya.html 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −191−
今回の大震災は一生忘れることができない出来事となった。 単に「がんばろう」を叫ぶのではなく(この言葉はもっと慎重に使われるべ きだと常々思っている),環境問題の研究に取り組み教育に注力する一人の人 間として,現場での努力を学び,周りの人にそれをわかりやすく伝えたい。も し誤解があるならば,それを改めるよう働きかけたい。そして,復旧・復興へ の道のりが少しでも短くなるように,福岡の地から願い続けたい。 【つづく】 引用した文献・映像資料 イーネット・フロンティア「3.11東日本大震災の真実∼未曾有の災害に立ち向かった自 衛官「戦い」の現場∼」(DVD,128分),2011年7月。 島岡隆行「地球温暖化に伴う異常気象と災害廃棄物」,廃棄物資源循環学会監修,島岡 隆行・山本耕平編『災害廃棄物』中央法規,2009年3月,第1章。 写真17 何かの巨大歯車 写真18 消防車 写真19 漁具関係 写真20 定義通りのがれき類 −192− 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況
第三書館編集部編『TSUNAMI 3・11 PART2−東日本大震災記録写真集−』,第三書館, 2011年9月。 豊田直巳編『TSUNAMI 3・11−東日本大震災記録写真集−』,第三書館,2011年6月。 ビデオプラザ神奈川「東日本大震災 宮城・石巻地方沿岸部の記録」(Blu-ray Disc,30 分),2011年5月。 別冊宝島編集部編『世界が驚嘆する日本人:海外メディアが報じた大震災後のニッポ ン』,宝島社新書,2011年6月。 参照した地図 『スーパーマップル東北道路地図』,昭文社,2011年3版。 『東日本大震災復興支援地図』,昭文社,2011年1版。 「プロアトラス SV7 全国版」(DVD-ROM),筆まめ,2011年7月。 宮城県における災害廃棄物処理(1):概観と気仙沼市の状況 −193−