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2011年の米国の政治と政策見通し
─変化は起こるのか?─
ポケット・エディション・シリーズ ポケット・エディション・シリーズ 二 〇 一 一 年 の 米 国 は 次 期 大 統 領 選 に 向 け て 選 挙 キ ャ ン ペ ー ン が 始 ま る 重 要 な 時 期 で あ る が、 二 〇 一 〇 年 の 中 間 選 挙 で 共 和 党 が 躍 進 し た 結 果、 米 国 議 会 で は〝 ね じ れ 〟 が 生 じ て お り、 大 統 領 選 の 行 方 と 共 に、 政 策の行方が見通しづらい状況となっている。 そ こ で、 法 案 審 査 な ど を 通 じ て 米 国 の 政 治 状 況 や 議 会 ロ ビ ー 活 動 に 詳 し い ワ シ ン ト ン の 弁 護 士 事 務 所 か ら専門家を招き、二〇一一年の米国の政治と政策に変化は起こるのかを議論してもらった。 弁 護 士 か ら の 説 明 に よ れ ば、 オ バ マ 大 統 領 は 次 期 大 統 領 選 で 再 選 す る た め に は 共 和 党 だ け で な く 民 主 党 進 歩 派 か ら も 距 離 を 置 く 必 要 が あ り、 よ り 中 道 路 線 を 進 む 見 込 み で あ る、 と い う こ と で あ る。 一 方 で、 勢 力 を 盛 り 返 し た 共 和 党 も 内 部 の 統 一 が 図 ら れ ず 大 統 領 候 補 者 を 一 本 化 で き ず に お り、 そ の 間 に オ バ マ 政 権 は 一 時 の 失 速 感 か ら 体 勢 を 立 て 直 し た と の 意 見 も 出 た。 ま た 政 局 の 不 透 明 感 を 背 景 に、 米 国 で は 再 び ロ ビ ー活動が増加していく模様である。 本 稿 は、 ワ シ ン ト ン で 活 躍 す る 弁 護 士 に よ る 米 国 政 治 と 政 策 に 関 す る セ ミ ナ ー の 概 要 を 紹 介 す る も の で ある。 【スピーカー略歴】 (敬称略・順不同) ジョシュア P・ガルパー ( Joshua P. Galper ) オリック ・ ヘリントン・アンド・サトクリフLLP 公共政策および政府業務部門 共同リーダー オ リ ッ ク ・ ヘ リ ン ト ン ・ ア ン ド ・ サ ト ク リ フ L L P の ワ シ ン ト ン D . C . オ フ ィ ス 訴 訟 部 門 に 所 属 す る 、 同 法 律 事 務 所 の 公 共 政 策 お よ び 政 府 業 務 部 門 の 共 同 リ ー ダ ー 。 主 に 法 務 戦 略 、 公 共 政 策 問 題 、 政 界 と の 関 係 、 戦 略 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と 広 報 業 務 、 政 府 規 制 、 議 会 調 査 、 犯 罪 捜 査 な ど 、 ビ ジ ネ ス 、 政 府 、 法 律 、 メ デ ィ ア が 混 在 す る 多 様 な 案 件 に お い て 金 融 サ ー ビ ス 、 会 計 、 通 信 、 メ デ ィ ア 、 教 育 な ど の 分 野 の 企 業 に 助 言 を 行 う 。 大 統 領 、 州 、 議 会 、 地 方 自 治 な ど の 選 挙 戦 で 議 会 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 、 政 策 お よ び ス ピ ー チ ・ ラ イ テ ィ ン グ に お い て 幅 広 い 経 験 を 有 す る 。 二 〇 〇 四 年 か ら 二 〇 〇 八 年 の 米 国 民 主 党 全 国 党 大 会 で ラ イ タ ー 、 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン ・ コ ー チ を 務 め る と 共 に 、 オ バ マ 大 統 領 候 補 の 大 統 領 選 に も 従 事 。 一 九 九 四 年 に イ ェ ー ル 大 学 に て B . A . を 、 一 九 九 九 年 に イ ェ ー ル ・ ロ ー ス ク ー ル に て J . D . を 取 得 。
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二〇一一年の米国の政治と政策見通し
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変化は起こるのか?
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日 時 二〇一一年二月一七日(木) 一〇時 ~一一時三〇分 場 所 経団連会館 講演者 下記参照アダム W・ ゴールドバーグ ( Adam W. Goldberg ) オ リ ッ ク ・ ヘ リ ン ト ン・ ア ン ド・ サ ト ク リ フ L L P 公共政策および政府業務部門 共同リーダー オ リ ッ ク ・ ヘ リ ン ト ン ・ ア ン ド ・ サ ト ク リ フ L L P の ワ シ ン ト ン D . C . オ フ ィ ス 訴 訟 部 門 に 所 属 す る 、 同 法 律 事 務 所 の 公 共 政 策 お よ び 政 府 業 務 部 門 の 共 同 リ ー ダ ー 。 主 に 危 機 管 理 ( ク ラ イ シ ス ・ マ ネ ジ メ ン ト ) お よ び 予 防 と 対 策 、 公 共 政 策 問 題 、 政 界 と の 関 係 お よ び 広 報 活 動 キ ャ ン ペ ー ン 、 規 制 、 議 会 そ の 他 の 政 府 調 査 、 メ デ ィ ア ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 問 題 な ど に つ い て 、 企 業 に カ ウ ン セ リ ン グ お よ び 弁 護 を 行 う 。 一 九 九 一 年 に タ フ ツ 大 学 に て B . A . を 、 一 九 九 四 年 に ハ ー バ ー ド ・ ロ ー ス ク ー ル に て J . D . を 取 得 【コメンテーター略歴】 (敬称略) 中山 俊宏 (なかやま としひろ) 青山学院大学 国際政治経済学部 教授 サ ウ ス ダ コ タ 州 ウ ォ ー タ ー タ ウ ン 高 校 ( 一 九 八 四 年 )、 青 山 学 院 高 等 部 卒 業 ( 一 九 八 六 年 ) 後 、 青 山 学 院 大 学 国 際 政 治 経 済 学 部 卒 業 ( 一 九 九 〇 年 )、 同 大 学 大 学 院 国 際 政 治 経 済 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 ( 二 〇 〇 一 年 )。 ワ シ ン ト ン ポ ス ト 紙 極 東 総 局 記 者 ( 一 九 九 三 ─ 九 四 年 )、 日 本 政 府 国 連 代 表 部 専 門 調 査 員 ( 一 九 九 六 ─ 九 八 年 )、 日 本 国 際 問 題 研 究 所 研 究 員 ( 一 九 九 八 ─ 二 〇 〇 四 年 )、 日 本 国 際 問 題 研 究 所 主 任 研 究 員 ( 二 〇 〇 四 ─ 〇 六 年 )、 ブ ル ッ キ ン グ ス 研 究 所 招 聘 客 員 研 究 員 ( 二 〇 〇 五 ─ 〇 六 年 )、 津 田 塾 大 学 学 芸 学 部 国 際 関 係 学 科 准 教 授 ( 二 〇 〇 六 ─ 一 〇 年 ) を 経 て 二 〇 一 〇 年 四 月 よ り 現 職 。 専 門 は ア メ リ カ 政 治 外 交 、 ア メ リ カ 政 治 思 想 史 、 国 際 政 治 。 ●弁護士による講演 【アダム・ゴールドバーグ弁護士】 本日のタイトルは「変化は起こるのか?」だ が、 実は二〇一〇年一一月に既に変化は起きた。 共和党が下院で大勝利を収め、上院でも優位に 立った。企業に政策やコミュニケーションに関 す る 助 言 を 与 え る 立 場 の 弁 護 士 と し て、 政 治・ 経済的観点から、これらの問題に対する洞察を 共有したい。 【ジョシュア・ガルパー弁護士】 ワシントンでは二〇一〇年の中間選挙で大き な 地 殻 変 動 が 起 き た。 共 和 党 は 下 院 で 議 席 を 六 三 議 席 ま で 大 幅 に 伸 ば し て 多 数 派 を 形 成 し、 上院でも十分な議席を確保した。その結果、民 主党の力が弱まり、共和党は基本的に反対する 法案を否決できるようになった。従って、大統 領の政策遂行という観点では選挙以前とは全く 異なる状況となっている。上院では議員一人で も法案に反対することができるが、下院にはマ ジョリティールールがあり、多数派を形成する ことが絶対的な必要条件である。 各州の状況を見ても、共和党は知事や州の下 院だけでなく、州の司法機関でも勢力を拡大し た。州政府は、立法面では連邦議会が法案を可 決できなかったことや連邦議会が十分に対応で きなかったことについて追加的に必要な対応を する。また行政面では、各州に置かれる司法長 官 が 州 憲 法 に 関 す る 最 終 権 限 者 の 一 人 で あ り、 企業に対する大きな調査権を有し、法の執行や
ポケット・エディション・シリーズ 捜査活動を行う。州司法長官の権限は、多国籍 企業や通常は州外とみなされる企業活動にまで 及ぶ。これは元ニューヨーク州知事のエリオッ ト・スピッツァーが作った基準であり、ある領 域においては州外の企業活動であっても制限を 加 え る こ と が で き る よ う に な っ た 。 こ の よ う な 脅 威 が 機 会 と 同 時 に 存 在 す る こ と も 知 っ て お き た い 。 以上の状況を踏まえると、 次のことが言える。 ①オバマ政権が最初の二年間に出したような規 模の大きな法案は、少なくとも残り二年の任期 中に出てくることはない。 ②政府の行動に対する共和党主導の下院委員会 に よ る 見 直 し 行 為 が 増 え る こ と が 予 想 さ れ る (一部では既に実施されている) 。 加えて、オバマ大統領は自らをより中道派と 位置付けることになる。これは、オバマ大統領 が次期大統領選に再選するためには、法案に反 対する共和党だけでなく、民主党進歩派からも 距離を置く必要があるためである。 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 次 期 大 統 領 選 挙 を 二 〇 一 二 年に控えた現在、下院では共和党が優勢になっ たが、誰を大統領選候補に選ぶか共和党は院内 で大きく分裂しており、予備選挙へも影響が出 始めている。 共和党には伝統的に政策に大きな影響力を持 つ グ ル ー プ と し て 社 会 的 保 守 派 が あ る。 ま た、 社会的保守派より力は劣るが、政府や財政の規 模を小さくすることを極めて強く主張する茶会 ポケット・エディション・シリーズ 運動が二〇一〇年一一月の中間選挙の結果、力 を発揮するようになった。財政保守派、社会的 保守派以外に穏健派もいる。そのため、現時点 で 共 和 党 に は イ デ オ ロ ギ ー や 主 張 も 異 な る 約 一五人もの大統領選候補予備軍がいる。 なお社会的保守派とは中絶やゲイの結婚など の政策を焦点とするグループで、財政保守派と は財政負担の削減と政府による市場介入の排除 など、 小さな政府を求めるグループだ。例えば、 医療改革法案に関して言えば、法案の通過はオ バマ大統領の最大の政治的成果であったが、共 和党の躍進の結果、財政保守派は現在、この法 案を廃止するよう訴えている。 面白い点は、共和党は中間選挙以前には、雇 用問題を争点に選挙を戦ったが、選挙での勝利 の後、最初に争点にしたのは中絶予算の削減で あり、医療改革法案の撤廃であった。これは雇 用には関係ない問題であり、ここに社会・財政 保守派の勢力の強さが透けて見える。今後予算 関連法案の議論が深まれば、財政保守系の力が より強まるだろう。 大 統 領 選 挙 は 早 く も 二 〇 一 二 年 に 迫 っ て お り、今後、共和党は候補を正式に選ぶことにな る。有力候補としてはニュート ・ ギングリッチ、 サラ・ペイリンやミット・ロムニー、ミシシッ ピ州知事のヘイリー・バーバーなどの名前が挙 がっている。穏健派の有力候補はハンツマン駐 中国大使であるが、伝統的に保守的な候補を選 ぶ傾向の強い共和党において穏健派は不利であ ろう。従って、共和党においては社会的保守派
や財政保守派などが今後どの程度候補者選びで 一致できるかが焦点となる。 共和党の次期大統領選候補者は多くが自らの 政策を強く訴え、米国議会の政策策定に影響を 与えている。共和党大統領選候補者は、それぞ れ が ワ シ ン ト ン の 政 治 力 学 を 動 か し て い る た め、大統領と議会はますます共和党候補者が掲 げる政策課題にも耳を傾けなければならなくな る。そうなれば今後二年間の米国議会で有効な 政策、規制を策定するのが難しくなり、その傾 向は大統領選が近づくにつれ、ますます強まる だろう。 〈知財の侵害と特許改革〉 個別の問題として、知的財産権の問題を取り 上げたい。これには知財の侵害と特許改革の二 つの問題がある。 今、米国の政策立案者や企業の間で、知財の 侵害で議論になっているのは中国である。これ は実際には議論というよりも超党派による合意 形成に向けての努力と言えるものだ。 二〇一〇年、共和党財政委員会委員長のマッ クス ・ ボーカス上院議員と民主党のチャールズ ・ グラスリー上院議員が、米国の国際貿易委員会 に中国の知財侵害問題を調査するよう共同で命 じたことはいい例だ。同委員会による最初の報 告書では、中国には深刻な知財の侵害が存在す るとの評価であった。二〇一一年五月には、こ の問題が米国経済に与える影響について第二の 報告書が提出される見込みである。 これらの報告書が出たからといって、直ちに 中国に対する行動が起きる訳ではないが、大統 領の対中貿易に対する行動には一定の影響力を 持つだろう。また、議会による行動も始まるだ ろう。今後、ボーカス上院議員と下院の知財問 題司法小委員会のボブ・グッドラット委員長の もとで公聴会が開かれる見通しである。 特許改革においては、上院の司法委員会議長 の パ ッ ト・ レ ー ヒ 議 員 と 共 和 党 幹 部 の オ ー リ ン・ハッチ上院議員がさまざまな法案を提出し ているが、その主要なものは米国において先発 明主義を先願主義に変えることと、判事に損害 賠償に関するより大きな裁量権を与えることで ある。ただし、下院司法委員会が似たような特 許改革法案を導入しようとしており、こちらが 法制化される可能性が高くなっている。 【 ガ ル パ ー】 現 在 の オ バ マ 大 統 領 の 位 置 付 け に ついて補足すると、中間選挙直後の二〇一〇年 一 一 月 に は い く つ か の 法 案 で 民 主 党 の 敗 北 が あったが、その後すばやく立ち直り、大統領は 年末のレイムダック期間にもかかわらず、大き な 法 案 を 成 立 さ せ た。 ま ず “do not ask, do not tell „ ( 軍 の 応 募 者 に 性 の 嗜 好 を 聞 く こ と を 制 限する、一般的に使用される用語)法案を廃止 し、 ゲ イ で あ っ て も 堂 々 と 従 軍 で き る こ と に なった。また財政では、ブッシュ前大統領時代 に成立した減税の延長を決め、経済に良い刺激 をもたらした。ロシアとの新スタート(米ロ新 戦略核軍縮条約)交渉も始まった。これらは大 統領にとって大きな勝利であった。
ポケット・エディション・シリーズ 立法面では新年度予算案が上程されたばかり だが、これを通過させることが大統領にとって 非常に重要な課題になる。注目すべき一つの側 面は、大統領自身が予算法案を主導しているこ とである。就任当初の二年間では医療改革法案 や 金 融 改 革 法 案 に お い て は 議 会 が 主 導 し て い た が 、 今 は 大 統 領 自 身 が イ ニ シ ア テ ィ ブ を と っ て い る 。 その予算に関しては、二〇一一年三月に政府 省庁が閉鎖される危機があった。一九九〇年代 のクリントン政権で政府省庁が閉鎖された際に は、共和党を混乱させた。共和党はオバマ大統 領と対決するために、予算案に反対する覚悟は あるか、注目する点だ。 予算面でもう一つ注目する点は、オバマ大統 領が中道であるがゆえに、共和党からは予算削 減 の 要 求 が 強 ま り、 民 主 党 か ら も 反 対 が あ り、 このことが今後下院での大きな争点になり得る ということだ。民主党としては、米国民が本当 に共和党を支持するのかを見てからの判断にな るだろう。 〈プライバシー関連法案〉 個別の法案で注目されるのはプライバシー関 連法案である。行政面では、オンライン・プラ イ バ シ ー に 関 す る タ ス ク フ ォ ー ス が 設 立 さ れ た。いずれ商務省内で独立して、消費者の権利 に関する法案やプライバシー関連の法案作成を 担当することになるだろう。 米国には国家的にプライバシーを守る包括的 ポケット・エディション・シリーズ な憲法は存在しない。このため、政府はオンラ インでのプライバシーの悪用に対し、大きな枠 組みで対応しようと考えている。 一 方 で、 F T C ア ク ト( 連 邦 貿 易 委 員 会 法 ) 第五条に基づき、連邦通商委員会には強い権限 が与えられており、市場での企業の詐欺的な行 動や、権利の乱用などを取り締まることになっ た。最近のFTCの報告書によれば、企業に消 費者のデータを守ることを促しており、これは F T C に よ る 一 種 の 警 告 だ と 捉 え ら れ て い る。 企 業 は プ ラ イ バ シ ー を 守 る こ と は 当 然 と し て、 合理的な理由なくデータを収集・保持してはな らず、顧客データの扱いでは妥当な手続きを踏 まなければならない。加えてFTCはデータ収 集プロセスが合理的であることも求めている。 これとは別の法案として、法の執行において “Do Not Track „ ( ユ ー ザ ー ニ ー ズ の 把 握 の た め、 個 人 が 閲 覧 し た Web ペ ー ジ な ど を 追 跡 す る仕組みに対し、そういった個人情報の収集を 拒否する意思表示の仕組み)が強化されようと している。これは、企業が消費者から取得する 情報に関し、第三者であるデータブローカーな どとの間で何を何の目的でどのように利用する か、消費者が企業から完全に透明な情報を得ら れ る よ う に し な け れ ば な ら な い と い う も の だ。 この規制はデータブローカーと関係する企業に 対してすでに適用されている。 プライバシーに関して議会でいくつか提案さ れている法案のうち、注目すべきものとしては “Opt Out Standard „ が あ る。 こ れ は、 個 人 が
企業との情報共有を望まない場合、それを個人 が選択できる権利を提供するものである。 こ れ に 対 し て マ イ ク ロ ソ フ ト や モ ジ ー ラ な ど の 企 業 は、 自 己 規 制 で 対 応 で き る と 主 張 し、 ウェッブブラウザーの中に個人が自分の意思で 設定を変えられる仕組みを組み込むことを強制 する法律を避けようとしているが、このような 法律はいずれ成立し、最良慣行の基準は高まる だろう。 プライバシーについては、関心が高まると共 に監督行為が非常に強化されている。グーグル やフェースブックなどのソフトウェア会社に対 しても、ハードウェアメーカーに対しても監督 行為が増えている。二〇一〇年、司法委員会副 委員長のディック・ダーバン上院議員は、米国 企業だけでなく米国で活動する海外のハイテク 技術企業に対して、米国のプライバシー保護法 と同等の行為を中国などの国において実施して いるかを調査した。特にダーバン議員が懸念し ているのは、これらハイテク企業が、中国など の政府が市民をネット上でより簡単に監視した り、自由な表現を制約することにつながる製品 を 製 造 し て い る の で は な い か と い う 点 で あ り、 同議員は調査対象企業の数を増やしている。こ の点も非常に重要な問題だ。 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 エ ネ ル ギ ー 関 連 に つ い て、 オバマ大統領の就任初期に大きな枠組みの法案 が提出されたが成立しなかった。現在は、超党 派の支援を取り付けるために、法案の一部を取 り出したような小さな法律が出される見込みで あり、オバマ大統領にとって現在、クリーンエ ネルギーの予算を確保することが重要な課題と なっている。 気候変動問題は当初、環境問題と表裏一体で あったが、今は雇用問題と結び付けている。オ バマ大統領は年頭の一般教書演説で、米国は雇 用を失い、再生可能エネルギー技術のリーダー としての地位を失いつつあり、中国、日本、ド イツに負けていると述べた。そして二〇一二年 度に追加で八〇億ドルの予算を手当てして、ク リ ー ン エ ネ ル ギ ー に 投 資 す る 提 案 を 行 っ て い る。この予算は、石油、ガス会社などの化石燃 料産業に今後一〇年間にわたり与えられていた 四三〇億ドル相当の減税から、三〇億ドルを撤 回して手当てするものだ。これには、共和党が 非常に否定的な反応をしている。 この問題は党派間だけではなく地理的な問題 にもなっている。例えば、エネルギー省から削 減される六億ドルのうち四億ドルが化石燃料局 のものであるが、ウェストバージニア州のロッ クフェラー上院議員は、同州が石炭産出州であ りエネルギー関連企業寄りの立場であることか ら、大統領の提案に強く反対している。 過去数年、景気が下降する中で財務省は、民 間から投資を得られないクリーンエネルギープ ロ ジ ェ ク ト に、 現 金 で の 助 成 金 と い う 形 で 資 金 供 給 を 行 っ て き た。 ク リ ー ン エ ネ ル ギ ー プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 企 業 は、 プ ロ ジ ェ ク ト コ ス ト の 三 〇 % を 助 成 金 と し て 求 め る こ と が で き た。
ポケット・エディション・シリーズ 二〇一〇年末で三三のプロジェクトにこの助成 金が与えられたが、これが延長されるかどうか が注目されている。 環境規制はオバマ大統領が特に大きな課題と 認識している分野だ。米国の環境保護庁は温暖 化ガスの排出削減について、ここ数年来初めて 規制導入を積極的に図っているが、これも議論 になっている。共和党が下院のエネルギー監督 政府改革委員会の委員長の立場につき、民間の 事業の何が障害であるかについて業界団体に照 会したが、それに対する業界団体の答えは、環 境保護庁の化石燃料、温室効果ガスの排出規制 だということであった。 先週エネルギー商務委員会が監督委員会に環 境保護庁高官を呼び出したが、議論は数時間に も 及 ん だ。 現 在 議 会 の 監 督 権、 共 和 党 の 立 法、 温 室 効 果 ガ ス の 排 出 規 制 の 撤 廃 な ど を め ぐ り、 訴訟が活発に行われている。 この問題では、連邦規制以外に各州において も 規 制 の 動 き が 出 て い る。 最 も 進 歩 的 な カ リ フォルニア州でキャップ・アンド・トレード法 案が導入された。この規制の詳細は決定してい ないが、北東の州などでも追随するところがあ り、 独 自 の 規 制 を 始 め て い る。 こ れ は 注 視 す べ き だ。 従 っ て、 エ ネ ル ギ ー 規 制 の 観 点 で は、 オ バ マ 政 権 が 気 候 変 動 の 問 題 の 規 制 を 追 求 し 、 民 間 が そ れ に 抵 抗 す る と い う 構 図 に な っ て い る 。 地 理 的 要 因 と 共 和 党 の 歳 出 削 減 方 針 も 関 係 し て く る だ ろ う 。 ポケット・エディション・シリーズ 〈ロビー活動について〉 あらゆる法案は非常に複雑で、法案が提出さ れると多くのロビー活動や訴訟、法律を撤回す るための追加的なロビー活動が出てくる。米国 ではロビー活動に年間何十億ドルと使用されて いる。二〇一〇年に商工会議所は八一〇〇万ド ル、ICT企業は八九〇〇万ドルを支出した。 オ バ マ 政 権 の 成 立 時、 大 統 領 は ロ ビ ー 活 動 の 影 響 を 受 け な い と 主 張 し、 〝 ロ ビ イ ス ト 〟 と い う 言 葉 は 悪 い イ メ ー ジ を 持 っ た。 し か し、 二〇〇九年は医療法案採択で一時的に減少した ものの、企業のロビー活動支出は相変わらず継 続しており、今後再び上昇するだろう。 特に海外の企業が米国の政策に多くの関心を 持ってロビー活動をしている。金融市場改革で は、海外の銀行が自己資本の条件がどうなるか 関心を持ち、国際資本改革の中で活発にロビー 活動を行った。 ニュート・ギングリッチ議員が下院の議長時 代には、ロビー活動に相当な金額が使われてい た。現在ビジネス界寄りの共和党が過半数を占 めていることも、今後ロビー活動が増加する要 因となろう。 なお、オバマ大統領の就任後、ロビイストの 登録要件が厳しくなり、条件に合わない多数の ロビイストが登録できなくなったため、一見活 動費は減少しているように思われるが、実際の ロ ビ ー 活 動 費 は 公 表 さ れ て い る も の よ り 大 き い。また、この活動費は連邦政府に対するもの だけで、州政府に対する活動費は含まれていな
い。企業の不適切な活動に対する調査を州の司 法 長 官 に 求 め る 請 求 が 競 合 企 業 な ど か ら 多 く 持 ち 込 ま れ て お り 、 全 体 の ロ ビ ー 活 動 費 は 増 え て い る 。 【 ガ ル パ ー】 現 在 で は、 誰 が 何 の た め に ロ ビ ー 活動をしているか、ネット上に公表されるよう になった。企業によっては、それを好まないと ころもある。弁護士の中には、実際にはロビー 活動に携わっているが、ある特定の議案に対す る助言までにとどめ、ロビー活動そのものはし ないとする者もいる。 ●ディスカッション 【 中 山 俊 宏( コ メ ン テ ー タ ー) 】 米 国 は 選 挙 の 期 間 が 長 い た め、 ま だ 二 年 近 く あ る と は 言 え、 二〇一一年は二〇一二年の大統領選に直結する 年だ。 次期大統領選挙の動向を踏まえたうえで、 米国の政治状況がどのようになっているかを聴 く良い機会である。 二 〇 一 〇 年 の 中 間 選 挙 を 数 字 の 上 で 見 る と、 共和党は下院で六三議席、上院でも一〇〇議席 中 対 象 と な る 三 四 議 席 の う ち 六 議 席 を 獲 得 し、 共和党の歴史的な大勝利となった。これは確か に大きな変化であり、日本のメディアもその文 脈で伝えた。しかし、選挙直後の世論調査を見 ると、数字ほどは共和党への期待が高くなって おらず、議席の変化の意味がはっきりしない。 中間選挙で野党が議席を伸ばした九四年の共 和党革命と、二〇〇四年、二〇〇八年の民主党 の大躍進では、いずれの場合も野党への期待が 高くなった。しかし、今回は共和党への期待は 高まらず、むしろ低いままだ。従って、国民は 積極的に共和党を選択した訳ではない。ではオ バマ大統領の民主党を拒絶したかと言えば、全 体としてそういう雰囲気ではない。ギャラップ 社の調査では、二〇一〇年春から四〇%台で安 定 し て い た 支 持 率 は、 選 挙 後 に 五 〇 % 台 に 上 がっており、明らかに拒絶されていない。これ が数字上の議席の変化の意味がわからない理由 である。 この点に関し考えられることは、今回の中間 選挙に際し、米国民の多くは政治のモメンタム を一旦止めたいと考えたのではないか。米国の 政治にはいたるところに均衡の仕組み、思想が 埋め込まれている。行政、立法、司法の三権分 立は典型的だが、立法府でも日本のように衆院 が参院に優越することなく、上院と下院が均衡 している。米国には「地方自治」という概念す ら、おそらくないのだろう。日本ではこの言葉 が政治的言語として流通しているが、もともと 州政府の権力が強い米国では、この概念は必要 ない。外交 ・ 安全保障では、行政府内に国防省、 国務省とホワイトハウスがあり、そこに国家安 全保障委員会(NSC)も加わり、一つの方向 に行かないような均衡のメカニズムがある。 そ の よ う な 国 民 に と っ て、 二 〇 〇 八 年 以 来、 オバマ大統領がホワイトハウスの主となり、民 主党は上院で六〇議席、下院でも多数派を形成 している状態はバランスが悪く映る。日本では ね じ れ 国 会 が マ イ ナ ス に 受 け 止 め ら れ て い る
ポケット・エディション・シリーズ が、米国民は自覚的にねじれを選択し共和党を 応 援 し た の で は な い か。 そ の よ う に 考 え る と 二〇一〇年の中間選挙の意味が見えてくる。つ まり、不均衡の是正のために共和党を応援した という考え方だ。 し か し、 オ バ マ 政 権 は そ れ を 鋭 く 察 知 し て、 ブ ッ シ ュ 減 税 を 延 長 し、 人 事 で は 商 務 長 官 の ウィリアム・デイリー議員やジーン・スパーリ ング米財務長官顧問といったビジネス界に受け のいい人物をホワイトハウスに招き入れ、商工 会議所での演説では自分はプロ・ビジネスだと 訴えた。 選挙後にオバマ大統領の支持率が回復したの は、不均衡に不安を感じた国民が、いわば消極 的な理由で共和党を支持したのであって、自分 を拒絶したのではないということを察知して行 動したからだろう。しかも、この中道への移行 は非常に迅速であった。クリントン政権では中 道 路 線 に 明 確 に 移 行 す る の に 半 年 か か っ た が、 オバマ政権は反射的に対応できた。 米国社会にとって不幸な出来事であるツーソ ンでの銃撃事件の後、オバマ大統領は追悼集会 で演説をしたが、この時の雰囲気は二〇〇八年 の大統領選キャンペーンを思い起こさせるもの で、 「オバマらしさ」を回復していた。国民も、 大統領が形勢を立て直しているとの印象を持っ たはずだ。 対照的なのが共和党で、全く違う政策を追求 する候補者が乱立してしまっている。次期大統 領選まで二年を切って、米国では選挙は目前に ポケット・エディション・シリーズ 迫るイベントという感覚のはずだが、いつまで に候補を一本化できるか、なかなか先行きが見 えない。 共和党は、 レーガンやマケインの時のように、 前回の選挙でぎりぎり負けた人を次の選挙で選 択する傾向が強い。その点で、ビジネス・フレ ンドリーな人物と見なされ、大統領らしい風貌 のロムニー前マサチューセッツ州知事の名が筆 頭候補として挙がることが多い。しかし、信仰 上の背景とオバマケアに似た医療保険制度をマ サチューセッツ州で導入したことで批判が起き ている。一方で、茶会運動は中絶や同性婚に反 対する社会的保守派とは距離を置き、小さな政 府 、 財 政 均 衡 に 強 い こ だ わ り を 持 っ て 候 補 を 擁 立 し よ う と し て い る 。 こ の よ う に 、 今 後 の 展 開 が 読 め な い 中 、「 オ バ マ 再 選 危 う し 」 と の 認 識 が 一 気 に 失 速 し た 感 が あ る 。 【 ガ ル パ ー】 米 国 民 が 中 間 選 挙 で 何 の た め に 投 票したのか、九四年と何が違うのかを解きほぐ す必要がある。前回の中間選挙で共和党が争点 としたのは一つの政策ではなかった。当時はギ ングリッチ議員を軸に一本化した政策が出され ていたが、今回は候補も政策も一本化されてい ない。政策の内容は依然として重要であるはず であり、九四年に共和党が下院の議席を奪回し ようとしていた当時の状況とは異なる。 経済が停滞していることや大きな法案が通過 したことで、反動的な動きが出たことは指摘の 通りだ。一方で、統一した政府は持続しないと
いう考えもある。大統領にも、議会にもそれぞ れ の や り 方 が あ り、 大 統 領 の 行 動 が 評 価 さ れ、 支持率が上がることも、自党が議会で多数でな い時に勝利することや、反対に大統領の失政に も か か わ ら ず 再 選 を 果 た す こ と が あ っ た り す る。つまり、九四年と今回では状況が全く異な ると言える。 共 和 党 は あ ま り に も ば ら ば ら に な っ て お り、 それに対する懸念は強い。現時点で一五人近く も候補者がいることは、大統領がいかに盛り返 したかの反映であり、ワシントンではそのよう に見る向きが多い。このような環境で、共和党 の候補者は風向きが変わる時期を読んでいる状 態である。 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 大 統 領 は、 ビ ジ ネ ス 界 に 友 好的で、穏健派になったというイメージを作ろ うとしている。こういう認識の変化はわかりに くいもので、大統領自体が変わったのかどうか ははっきりしない。 オ バ マ 大 統 領 の 就 任 当 初 の 二 年 間 に お い て は、医療改革でも気候変動問題でも議会が政策 を主導していた。当初の二年間に大統領が政策 を主導することはなく、政策についての国民と の 対話 も 不足し て い た。 こ の結果、 大統領は共和 党に大統領のイメージを作らせることを許して しまい、 政策の悪い側面が強調されてしまった。 こ れ は 経 済 政 策 に も 当 て は ま り 、大 手 自 動 車 会 社 や 銀 行 を 救 済 し た こ と で、 大 統 領 は 民 主 党 進 歩派からも共和党からも大きな批判を浴びた。 このようにビジネス界寄りの政策を実施した にも関わらず批判されたのは、十分な意思疎通 をしなかったからである。大統領が当初二年間 で大統領執務室から国民に対してメッセージを 出したのは二回だけであった。本来このような 経 済 状 態 で あ れ ば、 毎 月 や っ て も よ い と こ ろ だ。BPのメキシコ湾の油濁事故でも三カ月後 に初めて、大統領執務室からメッセージを出し たのである。エネルギー法案についても大統領 はリーダーシップをとらなかった。 と こ ろ が 中 間 選 挙 後 は、 ス タ ー ト 条 約 で も、 ゲイの従軍問題でも、景気刺激策でも、迅速に 行 動 し、 大 統 領 が リ ー ダ ー シ ッ プ を 発 揮 し た。 このように、大統領自身の姿勢が当初の二年間 とは大きく変わった。 【 中 山 】 中 間 選 挙 で の 敗 北 を 受 け て、 オ バ マ 大 統領が本当にプロ・ビジネスになったのか、そ れ と も レ ト リ ッ ク だ け な の か、 判 然 と し な い。 最初の二年間、オバマ大統領は銀行家のことを 〝 フ ァ ッ ト キ ャ ッ ト 〟 と 呼 ん だ り し て い た。 そ のことに財界は当然のことながら強い不信感を 持っていた。先日の商工会議所での演説を見て も、オバマ大統領自身が一八〇度変わったとは 思えない。むしろ、自分がやってきたことはも ともとビジネス界寄りだったという説明に力点 が置かれていた。オバマのビジネスとの距離の 置き方の変化をどのように理解すればいいだろ うか。新たな人事がプロ・ビジネス的問題意識 を反映しているとの見方もある。 第二は、州議会の政治に注目すべきだという
ポケット・エディション・シリーズ 話に関連し、フロリダにおける高速鉄道の導入 について、新たに選出されたリック・スコット 州知事が財政的負担を理由に計画を拒絶したと 伝えられた。今後、財政均衡に強い関心を持つ 茶会運動など、財政均衡タカ派を中心に連邦政 府の補助金は必要ないという意見が強まり、大 規模な公共投資などは成立しづらくなるのか。 第三に、米国では知財や為替の問題で中国が 名指しされ、外交・安全保障関係の報告書や議 会証言でも中国の軍事的台頭に懸念が広がって いるが、全体的には中国を受け入れなければと いう空気が強いと感じる。冷戦時代にソ連を受 け入れることは決してなかったが、今の米国は 中国の台頭を受け容れ、相対的な衰退を甘受し ているようにも見える。胡錦濤主席の訪米での 対応にはそれが端的に現れていた。そのような 全体的な構図の中で、ホワイトハウスよりも対 中 政 策 に 関 し て 厳 し い 政 策 姿 勢 の 議 会 に 対 し、 中国が積極的にロビー活動を行っており、議会 にどう影響力を行使できるかを急速に学びつつ あるとの見方もある。このような傾向をどう評 価するか。 最 後 に、 財 政 赤 字 や 茶 会 運 動 が 拡 大 す る 中、 九二年の選挙で財政均衡が重要な議題となり大 統領選挙の行方を決定付けたように、今回も最 終的には雇用問題ではなく、財政均衡問題が決 定的な要因になるのか。オバマ大統領の予算教 書では財政問題への取り組みが十分ではないと の批判が出ているが、 どういう見方ができるか。 ポケット・エディション・シリーズ 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 中 国 の 問 題 に つ い て、 米 国 は中国の台頭を不可避的に受け入れていると言 わざるを得ない。イランのような対立国を除け ば、今、米国の政治家が非難する国は中国だけ である。人権問題を取り上げなくても、経済的 な 面 で 中 国 へ の 批 判 が 一 週 間 出 な い こ と は な い。 た だ し、 「 中 国 は 脅 威 で あ り、 米 国 は 中 国 との経済戦争に負けている」といったメッセー ジは政治家が利用しやすいものだ。 一方で、最近は人民元の問題で少し変化が出 ている。以前は議会と大統領は一致して、人民 元のレートは市場に任せるべきだと主張してい たが、議会は中国のインフレを認識し始め、今 までほど攻撃的ではなくなっている。 こ の 政 策 は 中 国 の 知 財 侵 害 の 問 題 と も 結 び つ い て い る。 中 国 の 通 信 機 器 大 手 で あ る 華 為 ( フ ァ ー フ ェ イ ) 技 術 が サ ン・ フ ラ ン シ ス コ の ITベンチャーである3リーフ・システムズの 知財権を買収しようとし、米国側は国家安全保 障の観点から撤回するように勧告した(米政府 対米投資委員会(CFIUS)が買収撤回勧告 を出し、後日、華為は受け入れた。華為の創業 者 は 人 民 軍 出 身 )。 こ の 勧 告 が 実 施 さ れ た の は 議会が動いたからであり、米国は中国に対する 技術供与については、中国が信頼できる措置を とらなければ、米国で様々な対応がとられるこ とになると警告した。 【 ガ ル パ ー】 中 国 の 政 治 的 影 響 と 世 論 に 対 す る 影響について、華為の案件ではCFIUSが監
督していた。このことから言えるのは、中国が 議会に対しても、世論に対しても影響力を発揮 し て い な か っ た と い う こ と だ。 あ る 調 査 で は、 中国からの米国投資について四五日間の投資審 査の対象となったのは、二〇〇六年の一件に対 し、現在では八件に増えている。 一方で、今後、中国企業が議会に支持者を増 やそうとすることは考えられる。胡錦濤主席が 来米した際に、中国政府はタイムズスクエアで 大規模な広告を出していて、中国の多くの有名 人が登場したが、これには中国を親しみやすく する効果があった。 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 大 統 領 の 姿 勢 が ビ ジ ネ ス 寄 りかそうではないかについて、商工会議所での 演説は効果的であったが、 綱渡り的でもあった。 一方ではウォールストリートを救済し、米国の 銀行回復に手を貸したが、反対にそのことで党 内進歩派からは非難された。一般市民の率直な 感想は、銀行は大儲けしているのに救済される のは良くなかったというものだ。政権は経済を 回復させるために必要な措置であることを十分 に説明しておらず、このような政策を実行した のは実業界の批判をかわすためだと一般には受 け止められている。 政治には歴史的に階級闘争というひずみがあ る。 ア ル・ ゴ ア が 大 統 領 選 に 出 馬 し た 際 に は、 国民対権力者という構図を持ち出し、二〇世紀 初頭に戻ったような大統領選挙となった。オバ マ大統領は当初、それを意識したのかもしれな いが、少なくとも外に向かっては、自分はビジ ネスを理解していると言っている。オバマ大統 領 は 現 実 的 な 発 想 を す る 性 格 で、 少 な く と も ウォールストリートがどのように機能するかは 理解しているのだろう。 ●質疑応答 【 質 問 】 ア ジ ア 系 米 国 人 の 米 国 政 治 に お け る 役 割を教えていただきたい。イノウエ上院議員が 最 近 日 米 協 議 会 を 設 立 し た と 聞 く。 こ れ は ロ ビー団体ではないが、日米関係に効果的な団体 がないとの認識から作ったと思われる。 危機管理コミュニケーションについて、米国 で活動する日本企業が難しい局面でメディアか ら厳しい質問をされた場合に、どう対応すべき かアドバイスしてほしい。 【 ガ ル パ ー】 ア ジ ア 系 米 国 人 の 役 割 が 政 治 の 上 でどうなっているか。少なくともこの一〇数年 間に、若い人の間では人種単位で政治に関わる 機運が高まっている。例えば、AAA(米国ア ジア会)という政治資金団体があるが、アジア 系候補者やアジア系米国人の利益を促進する政 治 家 へ の 支 援 を 行 っ て、 非 常 に 成 功 し て お り、 影響力を強めている。これは政治的に賢いやり 方である。次に必要となるのは候補者からの政 策提案である。これがあれば地域社会の関心も 高まる。今はオンライン活動もあり、全国的な 広がりがある。 【 ゴ ー ル ド バ ー グ 】 メ デ ィ ア 対 策 に つ い て は、 積極的に人間関係を築くことに限る。また、事