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熊 司 発 第   号

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熊 司 発 第226号

平成19年12月14日

会 員 各 位

熊本県司法書士会

会長 松 本 和 雄

直接移転取引に関する実務上の留意点について(お知らせ)

時下、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

さて、標記につきまして別添のとおり日司連より通知がありましたので

お知らせいたします。

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日司連発第1339号 平成19年12月12日 司法書士会会長 殿 日本司法書士会連合会 会長 佐 藤 純 通 直接移転取引に関する実務上の留意点について(お知らせ) 初冬の候、貴職におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。 さて、ご承知のとおり、規制改革・民間開放推進会議の「規制改革・民間開放の推進に関 する第3次答申」(平成18年12月25日)において、甲乙丙の三者が売買等に関与する 場合であっても、「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡」により、実体上、 所有権が「甲→丙」と直接移転し、中間者乙を経由しないときには「甲→丙」と直接移転登 記をすることが可能である旨、規制改革・民間開放推進会議と法務省との間で確認され、連 合会を含む関係機関に周知されました。 また、規制改革会議の「規制改革推進のための第1次答申」(平成19年5月30日)に おいて、「乙が他人物の所有権の移転を実質的に支配していることが客観的に明らかである 場合等、一定の類型に該当する場合にはこの規定の適用が除外されることが明確となるよう、 国土交通省令等の改正を含む適切な措置を講ずる必要がある。」との指摘がされました。 そこで、本年7月10日にはこれに対応するための省令(「宅地建物取引業法施行規則の 一部を改正する省令(国土交通省令第70号)」)が公布され同日施行されております。 以上の「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡契約」による直接移転取引は 必ずしも取引慣行として定着しておりませんので、司法書士に求められる調査・確認事項に ついても通常の売買取引等に関与する場合に比較して、より詳細なものになると思われます。 また、事前相談を受ける場合等には、登記手続そのもののほか、融資実行の可否等も含めた 検討が必要となります。 そこで、当連合会は、不動産登記法改正対策部において検討を進めた結果、別添のとおり 「直接移転取引について」として会員の実務上の留意点をまとめましたので、会員執務の参 考としてご活用くださるようお願いいたします。

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平成19年12月12日 日本司法書士会連合会 不動産登記法改正対策部

直接移転取引について

平成19年1月12日民2第52号により、甲・乙・丙三者が関与し、甲乙間 の契約と乙丙間の契約が関連する形態により現在の登記名義人甲から丙に対して 直接所有権が移転する取引の登記手続に関して、民事第2課長より通知がなされ ました。ここでは、その一連の取引形態を「直接移転取引」と呼ぶことにします。 上記通知では、「直接移転取引」として、第三者のためにする契約を利用するも の(以下、「第三者のためにする契約方式」といいます。)および買主の地位譲渡 契約を利用するもの(以下、「買主の地位譲渡契約方式」といいます。)の2つが 提示されておりますが、それは多数当事者が関与することが予想される形態であ り、必ずしも取引慣行として定着していませんので、通常の売買取引等と比較す ると、司法書士に求められる調査・確認事項において複雑になる可能性がありま す。 以下にこの「直接移転取引」における実務上の留意点をまとめましたので、会 員研修等の参考としてください。

Ⅰ.中間省略登記について

甲乙間の売買契約により乙に所有権が移転し、その後乙丙間の売買契約により 丙に所有権が移転するという実体関係(物権変動が2つ存在する)において、甲 から丙へ直接所有権移転登記を行うのが中間省略登記です。 売買契約1 所有権移転 甲 乙 売買契約2 登記 所有権移転 丙

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Ⅰ-1 実体と整合しない登記申請 上記の事実関係において、登記原因証明情報の内容を「甲丙間の売買契約に より甲から丙へ所有権が移転した」とし、登記原因を「年月日売買」として甲 から丙へ直接所有権移転登記を申請することは、登記原因証明情報に虚偽の事 実を記載し実体と整合しない登記原因により登記申請を行うことであり、この ような登記申請に司法書士が関与することは職責上認められません。 Ⅰ-2 判決による登記申請 甲→乙→丙と所有権が順次移転したことが裁判手続きの審理の過程で認定さ れた上で、甲から丙へ直接所有権移転登記を命じられた判決による登記申請は、 実務上受理されることとなっています。この場合は、通常乙丙間の売買の日付 が登記原因の日付となるため、公示上の問題点が指摘されています。 なお、判決による場合の他に、他の特別法で規定された場合にも中間省略登 記が認められていますが、これらは例外的な取扱いとされています。 ※【昭和40・9・21最高裁判決】 ※【昭和35・7・12民事甲第1580号】 ※【登記研究690号210頁「登記簿」】 ※【平成19・6・15東京地裁判決―登記情報549号30頁・登記研究713号195頁― 中間省略による登記申請を却下した登記官の適法性について】 Ⅰ-3 中間省略による登記申請 登記原因証明情報の内容を「甲→乙→丙と所有権が順次移転した。」として、 登記原因を「年月日甲乙売買・年月日乙丙売買」と併記する方法によって登記 申請を行うことが提案されていますが、現在の登記実務では認められていませ ん。 なお、この原因を併記する申請方法については、作成者(作成権限を有する 者)を誰とするか・その記載内容をどこまで求めるか・記名押印の方法(現状 のように必ずしも実印でなくてもよいとするか)等の登記原因証明情報制度の あり方を検討する必要があり、加えて公示制度等についても充分な検討が必要 であると思われます。

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Ⅱ.いわゆる一連の中間省略登記問題の経緯について

「第三者のためにする契約方式」による「直接移転取引」および「買主の地位 譲渡契約方式」による「直接移転取引」のいずれも、甲・乙・丙三者の関係にお いて物権変動は1つしかなく、物権変動が 2 回生じる中間省略登記とはその性質 を異にするものです。 Ⅱ-1 不動産登記法上の要請 不動産登記制度においては、物権変動の態様と過程を忠実に公示することが 要請されています。つまり「現在の所有者は誰か」ではなく、「誰から誰に何を 原因として所有権が移転したか」を登記に反映、公示させることが必要であり、 これは旧不動産登記法の下においても新不動産登記法の下においても変わらな い原理原則です。 Ⅱ-2 中間省略登記における誤解 旧不動産登記法の下では、甲→乙→丙と順次所有権が移転した場合でも、申 請書副本を提出して甲から丙への所有権移転登記が申請された場合は、登記官 の形式的審査のもとでは受理されていることもありましたが、新不動産登記法 施行により、登記官は必要的に添付される登記原因証明情報により所有権移転 の経過を把握することとなり、登記申請情報と登記原因が整合しない登記申請 は却下されることとなりました。 上記により、「旧法下では中間省略登記が認められていたが、新不動産登記 法施行により中間省略登記を認めないとする制度変更があった」との誤解が一 部生じた可能性があります。 ※【平成19年6月22日閣議決定52頁】 「平成16年の不動産登記法(平成16年法律第123号)の改正により、「甲(売主)→ 乙(転売者)→丙(買主)」という取引において、「甲→丙」と直接移転登記を申請する所謂「中 間省略登記」が行われなくなったが・・・・」 Ⅱ-3 民事局長通知について 平成19年1月12日民2第52号により、「第三者のためにする契約方式」 と「買主の地位譲渡契約方式」の2種類の登記原因証明情報のひな型が提示さ れるとともに、「直接移転取引」による登記申請が受理される旨の通知がされま した。 この通知の意味は、これらの契約形態は旧来から存在する(契約形態として 存 在 す る こ と と 、 実 務 界 に お い て 取 引 形 態 と し て 定 着 し て い る こ と と は 別 で す。)としたうえで、実体として甲から丙に対して直接所有権が移転するという 契約があった場合は何ら問題なく受理されるとの取扱いに変更がないことを改 めて確認したものです。

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上記民事局通知により、「法務省が、直接移転取引を新たな取引形態として 認めた」との誤解が生じた可能性があります。 ※【民間開放推進会議(現「規制改革会議」)第3次答申抜粋】 「・・・不動産登記法改正前と 実質的に同様の不動産登記の形態を実現し・・・第三者のた めにする売買契約・・・買主の地位を譲渡した場合における・・・の各申請の可否につき、具 体的な登記原因証明情報を明示した上で、いずれも可能である旨を確認した。・・・」 Ⅱ-4 その後の経緯 直接移転取引の当事者に宅地建物取引業者が含まれる場合、宅地建物取引業 法(以下、単に「宅建業法」といいます。)の適用が問題となりましたが、その 後省令(宅地建物取引業法施行規則)の改正が行われました。その詳細は後述 します。

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Ⅲ.第三者のためにする契約について

「直接移転取引」の一形態である「第三者のためにする契約方式」は、甲乙間 の契約及び乙丙間の契約の2つの契約が互いに密接に関連することによって成立 する取引形態ですが、ここではその甲乙間の契約について説明します。 Ⅲ-1 第三者のためにする契約 第三者のためにする契約 甲 乙 給付 丙(第三者) 第三者のためにする契約については、以下の民法上の規定あるいは解釈があ ります。ここでは、第三者のためにする契約を利用した直接移転取引ではなく、 第三者のためにする契約に関するものについてのみ触れます。 ※【民法第537条から539条】 ※【大正7・11・5大審院判決】 ⅰ)甲乙間において、甲が第三者丙に対してある給付をすることを約するこ と。 ⅱ)丙の権利は、丙が甲に対してその利益を受ける意思を表示(受益の意思 表示という)したときに発生する。 ⅲ)甲は、甲乙間の契約に基づく抗弁をもって丙に対抗することができる。 ⅳ)丙が取得する権利は債権であるのが通常であるが、物権を取得させる契 約も可能である。 ⅴ)第三者のためにする契約は「特約」として捉えられるため、売買契約の 特約(内容)として規定することが可能である。 ⅵ)第三者丙は、甲乙間で契約をした時点では特定されていなくても、特定 し得るものであればよい。 第三者のためにする契約は、あくまでも甲と乙の間でなされるもので あり、第三者たる丙は、この契約の当事者にはなりません。

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Ⅲ-2 第三者のためにする契約を用いた売買契約 ① 売買契約 ④ 代金支払い 売主 甲 乙 買主 ③ 受益意思 ② 指定 ⑤ 所有権移転 丙 第三者 前記第三者のためにする契約を利用して直接移転取引を行うには、第三者の ためにする契約を甲乙間の契約(売買契約)に応用することになります。 第三者のためにする契約(特約)を付加した甲乙間の売買契約により、甲か ら丙へ直接所有権を移転する場合の甲・乙間の契約行程は、以下の通りとなり ます。(乙が丙を指定する乙丙間契約については後述します。) ① 甲乙間において、下記の特約ないし条件を付した売買契約を締結する。 ア 乙が指定する第三者丙に対して直接所有権が移転すること。 イ 乙が丙を指定すること・丙が甲に対して受益の意思表示をすることおよ び乙が甲に対して売買代金を支払うことを条件として、所有権は甲から 丙に直接移転すること。 ウ 上記条件が成就するまでは、所有権は甲に留保されること。 ↓ ② 乙が丙を指定する。 ↓ ③ 丙が甲に対し甲から直接所有権を取得する旨の受益の意思を表示する。 ↓ ④ 乙が甲に対し甲乙間の売買契約に基づく売買代金を支払う。 ↓ ⑤ 甲から丙に対して直接所有権が移転する。 ②~④の行為が、同時に行われる場合もあれば、②の乙が丙を指定する前に ④の乙から甲への売買代金の支払いがなされることも少なくないと考えられ ます。後者の場合においても、②の乙が丙を指定すること及び③の丙が甲に対 して受益の意思を表示するという条件が成就されていないので、所有権は甲に 留保されています。 丙は、甲乙間契約における当事者ではなく、甲丙間で代金の授受はなされま せん。

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Ⅳ.乙丙間の契約について

甲乙間における第三者のためにする契約を前提として、乙が丙を指定する背景 には、実態上何らかの関係あるいは契約があり、それを対価関係といいます。こ れに対して甲乙間の関係を補償関係といい、甲は諾約者、乙は要約者、丙は受益 者と呼ばれます。 乙丙間の契約をどう捉えるかは、(1)理論上の問題、(2)宅建業法上の問題、 (3)司法書士執務上の問題、(4)登記法上の問題、(5)その他の問題に分け て考える必要があり、以下順に説明します。 (補償関係) (諾約者)甲 乙(要約者) 給付 (対価関係) 丙 第三者(受益者) Ⅳ-1 理論上の問題 乙丙間の関係(乙が丙を指定する契約関係)を「他人物売買契約」と捉える か、「無名契約」と捉えるかの問題があります。 ① 他人物売買契約とする考え方 乙丙間で売買契約を締結した場合、所有権は甲に留保されていますから乙 は他人の所有物を売買することになり、民法の規定からは乙は甲から所有権 を取得した後、丙に対して所有権を移転する義務を負うことになりますので、 甲→乙→丙と所有権が順次移転する(物権変動が2つある)ことになり、甲 から丙へ直接所有権は移転しないことになります。 ※【民法第560条】 ※【登記研究609号209頁】 ただし、民法第560条の解釈には、乙丙間で甲所有物について他人物売 買契約をしても、甲から丙へ直接所有権を移転させることが可能であるとす るものがあります。

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※【注釈民法旧版(14)132頁】 「必ずしも売主が一旦他人から権利を取得してこれを買主に移転する必要はない。或は売主 が権利者より処分権能を取得して買主に権利を譲渡し、或は権利者たる他人と契約して其の者 より直接に買主に権利を移転せしめることを妨げない」 ② 無名契約とする考え方 乙丙間の契約を、他人物売買契約ととらえる見解のほかに、契約のタイト ルに関わらず無名契約として捉えるという見解があります。 ※【登記研究691号213頁「カウンター相談」】 「本来、乙丙間では、他人物売買というよりも、乙が先に締結した甲乙間の第三者のために する契約を前提として、乙が丙からの金銭受領と引き替えに丙を甲乙間の契約の受益者として 指 定 す る 義 務 を 丙 に 対 し 負 担 す る 債 権 契 約 と で も 言 う べ き も の が 締 結 さ れ る の が 通 常 で あ っ て・・」 ※【登記研究708号148頁「平成19年1月12日法務省民2第52号民事第2課長通知・ 解説―法務省民事局付(当時)松田敦子」】 【登記研究710号96頁「上記修正」】 「・・・乙丙間の契約が、例えば「他人物売買契約」との表題が付された契約書で締結され ていたとしても、その実質は、甲乙間で締結された第三者のためにする契約の「第三者」を指 定するために締結された無名契約であると解するのが合理的な場合が多いと考えられ・・・」 ※【19年6月22日閣議決定53頁】 「・・・甲から丙への直接移転登記が可能な場合としては、「買主の地位の譲渡」を活用する 場合と「第三者のためにする契約」を活用して売主から当該第三者への直接の所有権の移転を する場合との二通りがあり、後者については乙丙間で他人物の売買契約(なお、所有権に関し て は 、 第 三 者 の た め に す る 契 約 の 効 力 に 基 づ き 甲 か ら 丙 へ 直 接 に 移 転 す る 旨 の 特 約 が 付 さ れ る。)を締結する場合と、無名契約を締結する場合とがあり得る。これらのうちどれを選択する かは、最終的に乙丙間の契約当事者の判断によるところである・・・」 Ⅳ-2 宅建業法上の問題 ① 他人物売買契約締結の制限 乙が宅建業者である場合、宅建業法により自己の所有に属しない不動産の 売買契約を締結することは禁じられています。但し、所有権の名義人である 甲との間で売買契約を締結している場合等 当該不動産を取得できることが明 らかな場合及びその他国土交通省令(宅地建物取引業法施行規則)で定める ものに該当するときは例外的に許されています。 ※【宅地建物取引業法33条の2】

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② 宅建業法施行規則の改正 ア 第三者のためにする契約方式は、甲乙間で売買契約が存在するとしても、 そもそも乙が所有権を取得しないことを内容としているので、宅建業法に 規定する「当該不動産を取得することが明らかな場合」とはならないため、 乙丙間で売買契約を締結することは宅建業法に抵触することになります。 従って、宅建業法施行規則を改正することが必要であるとされました。 ※【19年6月22日閣議決定53頁】 「・・・乙丙間の契約を他人物の売買契約とする場合、宅建業法第33条の2の規定に抵 触することとなるが、乙が他人物の所有権の移転を実質的に支配していることが客観的に明 らかである場合等、一定の類型に該当する場合にはこの規定の適用が除外されることが明確 となるよう、国土交通省令等の改正を含む適切な措置を講ずる。・・・」 イ 上記を受けて、平成19年7月10日宅地建物取引業法施行規則15条 の6が改正されました。これは、甲乙間において第三者のためにする契約 を特約とする売買契約が締結されている場合は、乙丙間で他人物売買契約 を締結しても宅建業法上問題がないとするものです。 ※【改正宅地建物取引業法施行規則第15条の6第4号】 第三者のためにする契約方式においては、乙が第三者丙を指定するとの特 約が付されますが、宅建業法の適用を受けるためには「他人物の所有権の移 転を実質的に支配していることが客観的に明らかである場合等」という要件 を満たすために、「乙は乙自らを指定することができる」旨の条項が含まれ ている必要があります。 第三者のためにする契約方式における他人物売買契約が宅建業法の適用 を受けるという意味は、乙が宅建業者であり丙が一般消費者である場合に、 一方で乙が丙との間で業として他人物売買契約締結することが許容された ことと、他方で乙に対して宅建業法上の義務が課されるということであるこ とに留意すべきです。 ③ 乙丙間契約が「他人物売買」である場合と「無名契約」である場合の違い 甲乙間契約に基づき直接所有権を取得する者として丙を指定する内容の契 約としては、「他人物売買契約」と「無名契約」の2種類が考えられることに なりますが、宅地建物取引業法の適用の関係において、以下の点が指摘され ています。 ⅰ)宅地建物取引業者たる乙と一般消費者たる丙が他人物売買契約を締結し た場合は、宅地建物取引業法が適用され、乙に対しては瑕疵担保責任や重 要事項説明義務等業法上の規制が課されます。 ⅱ)乙が宅地建物取引業者でない場合は、乙丙間契約が他人物売買契約また

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は無名契約であるかどうかに関わらず業法の適用はない、また乙が宅地建 物取引業者であっても乙丙間契約が無名契約である場合は、同様に業法の 適用がないとされています。 ⅲ)乙丙間契約において、宅建業法の適用がない場合は、特に消費者たる丙 の保護に配慮することが必要です。 ※【19年6月22日閣議決定53頁】 「・・・乙丙間の契約を無名契約とする場合は、乙が宅建業者であっても乙丙間の契約に は宅建業法の規律が及ばず、問題を生じた際に直接的に宅建業法違反の監督処分を行いえな いという法的効果の違いがある。・・・」 ※【19年6月22日閣議決定54頁】【宅建業法40条等】 「・・・乙丙間の契約を無名契約とする場合は、・・・乙が宅建業者であっても宅建業法 の規律を受けないこととなり、丙は消費者保護上不安定な地位にあるため、そのような契 約形式による場合には、宅建業者乙に宅建業法上の重要事項説明や瑕疵担保責任の特例等 の規制が及ばないことや、瑕疵担保責任については個別の合意に基づく特約によることな ど、丙が自らの法的地位を十分に理解したうえで無名契約として締結することはもとより 望ましいが、無名契約とする場合については、宅建業法で規律するものでない旨について も周知徹底をはかる。・・・」 ※【平成19年7月10日国土交通省総合政策局不動産業課長通知】 「甲(売主等)、乙(転売者等)、丙(買主等)の三者が・・・(略)・・・乙が宅地建物 取引業者で丙が一般消費者であるとき、契約形態の違いに応じ、宅地建物取引業法の適用 関係について次の点に留意すること。」 「・・・(略)・・・丙は、消費者保護上不安定な地位にあることから、そのような契約 形式(無名契約)による場合には、宅地建物取引業者乙に宅地建物取引業法上の重要事項 説明や瑕疵担保責任の特例等の規制が及ばないことや、瑕疵担保責任については個別の合 意に基づく特約によることなど、丙が自らの法的地位を十分に理解した上で行うことが前 提となる。このため、丙との間の契約当事者である乙は、そのような無名契約の前提につ いて、丙に対して十分な説明を行った上で、両当事者の意思の合致のもとで契約を締結す る必要があることに留意すること。」 Ⅳ-3 司法書士執務上の問題 ① 登記官の審査範囲 乙丙間の対価関係は、甲乙間の契約の成立に無関係であるとされているた め、登記原因証明情報の要件としては甲乙間契約の記載があればよく、乙丙 間の契約の内容は必ずしも記載されていなくてもよいとされています。この ことは、平成19年1月12日民2第52号通知における登記原因証明情報 のひな型に表れています。

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※【登記研究708号142頁「上記通知における登記原因証明情報ひな型」】 ※【登記研究708号148頁「上記通知解説」】 「・・・移転先の指定につきその原因行為となる乙丙間の契約の内容は、登記原因証明情 報の内容とすることを要しないので、この乙丙間の契約がどのようなものであるかは、登記 の申請の場面においては直接には関係がなく、報告型の登記原因証明情報であれば、そこに 乙丙間の契約内容を具体的に示す必要はない。」 ② 司法書士の職責の範囲 上記ひな型は、形式的審査権限しか持たない登記官の審査範囲の限界を示 したものであり、また登記が受理されるための最低限の基準を示したものと 捉えるべきです。実態上は甲乙間契約と乙丙間契約は密接に関連しています。 また、乙丙間の契約において、乙丙間の代金授受が所有権移転の条件となる 場合が通常とも言えます。 よって、司法書士の執務上は乙丙間契約の内容を確認することは当然の職 責といえます。 ③ 司法書士の職務上の規律 司法書士の職務については、以下の規定等があります。司法書士はその趣 旨を十分に理解して執務を行うべきです。 ⅰ)司法書士法による規定には以下のものがあります。 ・ 登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、も って国民の権利の保護に寄与することを目的(1条) ・ 司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通し て、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない(2条) ⅱ)司法書士倫理による規定には以下のものがあります。 ・ その使命が、国民の権利の擁護と公正な社会の実現にあることを自覚 し、その達成に努める(1条) ・ 信義に基づき、公正かつ誠実に職務を行わければならない(2条) ・ 違法もしくは不正な行為を助長してはならなない(15条) ・ 依頼の趣旨が、その目的又は手段もしくは方法において不正の疑いが ある場合には、事件を受任してはならない(25条) ・ 受任した事件に関し、相手方に代理人がないときは、その無知又は誤 解に乗じて不当に不利益に陥れてはならない(40条) ・ 登記手続を受任し又は相談に応じる場合は、当事者間の公平を確保す るように努めなければならない(53条) ・ 依頼の趣旨を実現するために、的確な法律判断に基づき、説明及び助 言をしなければならない(9条) ・ 依頼者の意思を尊重し、権利の保護を図るとともに、紛争の発生の防

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止に努めなければならない(52条) ・ 必要な情報を開示し、助言する等、後見的な役割を果たすように努め なければならない(53条) ⅲ)一般的義務として、委任契約上の善管注意義務が課されます。 一般人に求められる善管注意義務に比べて、専門家たる司法書士に求めら れる注意義務は当然厳しいものとなります。 Ⅳ-4 不動産登記法上の問題 ① 登記原因について 第三者のためにする契約方式においては、甲から丙へ直接所有権が移転し た日をもって「年月日売買」と登記され、登記情報からは乙の存在が見えな いという公示上の問題があります。 公示上ふさわしい登記原因を検討する必要があります。 ② 登記原因証明情報の閲覧制度について 単に甲丙間の売買として登記されている場合に、乙の存在及びその契約内 容等を確認するために、今後司法書士において登記原因証明情報の閲覧が重 要な執務として浮上する可能性があります。 登記原因証明情報の閲覧制度(附属書類閲覧制度)について、閲覧をする 場合に求められる利害関係の範囲を検討し、例えば司法書士の職務上閲覧請 求を認める等の制度改善がなされるべきと考えます。 Ⅳ-5 その他の問題 乙丙間契約における課税等税法上の問題も考慮する必要があります。

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Ⅴ.第三者のためにする契約方式における直接移転取引の要点

第三者のためにする契約方式を利用した直接移転取引において、甲乙間契約及 び乙丙間契約を通した形態の要点は、以下の通りとなります。 ① 甲乙間において、下記の特約ないし条件を付した売買契約を締結する。 ア 乙が指定する第三者丙に対して直接所有権が移転すること。 イ 乙が丙を指定すること・丙が甲に対して受益の意思表示をすることおよ び乙が甲に対して売買代金を支払うことを条件として、所有権は甲から 丙に直接移転すること。 ウ 上記条件が成就するまでは、所有権は甲に留保されること。 ↓ ② 乙丙間において、下記の特約を付した丙を指定するための契約(他人物売 買契約あるいは無名契約)を締結する。 ア 甲乙間の契約に基づき、丙が甲に対して受益の意思を表示することおよ び丙が乙に対して代金を支払うことを条件として丙に所有権が移転する。 イ 乙は、甲から丙に対して直接所有権を移転させることによってその義務 を履行する。 ↓ ③ 乙が甲に対して、丙を指定した旨通知する。 ↓ ④ 丙が甲に対して、甲から直接所有権を取得する旨の受益の意思を表示する。 ↓ ⑤ 乙丙間契約に基づき、丙が乙に対して代金を支払う。 ↓ ⑥ 甲乙間契約に基づき、乙が甲に対して代金を支払う。 ↓ ⑦ 甲から丙に対して直接所有権が移転する。 ④~⑥は通常同時に行なわれます。ただし、乙が丙を指定する前に乙から 甲への売買代金の支払いがなされることも少なくないことは、前述したとお りです。

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Ⅵ.第三者のためにする契約方式における実務上の留意点

Ⅵ-1 一般的留意点 甲乙間契約(売買契約)を第1契約とし、乙丙間契約(乙が丙を指定する契約) を第2契約として、第1契約および第2契約に関与する司法書士の実務上の留意 点のうち、ここではその一般的留意点に付き説明します。 ① 売買契約 ④ 代金支払い 売主 甲 乙 買主 ③ 受益意思 ② 指定 ⑤ 所有権移転 丙 第三者 ① 契約内容の確認について 第1契約及び第2契約ともにその契約書の提示を受けて内容を調査・確認 するべきであり、当事者の合意を得たうえでその写しを保管すべきです。 ② 登記原因証明情報の起案作成について 不動産の物権変動の態様と過程(物権が変動することとなった事実又は法 律行為)を具体的に記載するとの観点からは、第1契約および第2契約の双 方をその内容とする登記原因証明情報を起案作成するのが望ましいと考えま す。 ③ 本人確認について 登記義務者たる甲および登記権利者たる丙から登記委任を受けることから、 甲および丙の本人確認は当然必要であり、乙が両契約における当事者として 介在していることから、乙の本人確認も必要であると考えます。 ④ 確認記録について 調査・確認を行った事項は書面化して保存する必要があります。特に、近々 施行が予定されているゲートキーパー法においては、甲および丙の本人確認 記録及び事件記録の保存が義務付けられています。

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⑤ 説明・助言について 必要に応じて、説明・助言が必要となる場合があります。特に、直接移転 取引については、新しい取引形態であり、技巧的な契約形態であるともいえ ますから、当事者がその契約内容を充分認識した上で、本人の自由意思によ り契約を締結するために、司法書士として説明・助言が必要となる場合があ ります。 ⑥ 登記業務委任契約について 「直接移転取引」の当事者は、複雑な契約関係の理解が必要となり、「直接 移転取引」に関与する司法書士は通常業務に増して高度な説明責任が求めら れます。 登記原因証明情報の閲覧および第1契約の決済に関する登記関係書類の保管 その他登記委任以外の事前に委任を受ける必要のある業務がありますので、包括 的な業務委任契約を締結しておくことを検討すべきであると考えます。 第1契約の当事者は甲および乙であり、丙は当事者ではありません。第2契 約の当事者は乙および丙であり、甲は当事者ではありません。契約の当事者関 係にない甲丙間における受益の意思表示によって物権が変動し、結果登記義務 者としての甲および登記権利者としての丙から登記委任を受けることが当方式 における特殊性であるといえます。 本人確認は、原則本人と面談を通じて行うことが必要です。また、代理人に おいて取引がなされる場合は、代理人を確認することに加えて本人の確認も併 せて行うことが必要です。なお、その場合は本人から代理人に対して代理権の 授権があったことも確認しなければなりません。授権の事実は書面のみで確認 するのではなく原則本人に直接確認する必要があります。 Ⅵ-2 第1契約における実務上の留意点 甲乙間での第1契約締結後、乙が丙を指定する(乙丙間契約が締結される)前 に、第1契約の決済が行われる場合が少なくないと思われます。 ここでは、前記一般的留意点の他に、先に第1契約の決済が行われる場合の具 体的な実務上の留意点について説明します。 ① 特約の確認 第1契約における第三者のためにする契約条項の要件を充足しているかど うかを確認することが必要です。 ⅰ) 乙が指定する第三者丙(乙自らを指定する場合を含む)に対して直接 所有権が移転する。 ⅱ) 乙が丙を指定すること・丙が甲に対して受益の意思表示をすることお よび乙が甲に対して売買代金を支払うことを条件として、所有権は甲から

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丙に直接移転する。 ⅲ)上記条件が成就するまでは、所有権は甲に留保される。 「乙は乙自身を指定することができる」旨の特約が含まれていないと宅建 業法の他人物売買契約締結制限の適用除外を受けません。 乙が丙を指定する前に売買代金を支払ったとしても、他の条件が成就する までは所有権は移転しません。 ② 所有権留保について 乙が丙を指定する前に売買代金が乙から甲に対して支払われる場合は、当 該不動産の占有が乙へ移転(引渡)することが多いと考えられ、また乙が当 該不動産に対してリフォーム工事を施すこともあり得ますので、それらに関 する合意内容の確認が必要となる場合があります。 ⅰ) 固定資産税等の公租公課の清算に関する合意 ⅱ) 危険負担に関する合意 ⅲ) 第三者より工作物責任を追及された場合の、甲乙間内部における負担 の合意 ⅳ) 乙がリフォーム工事を施す場合の契約関係 乙から甲に対して売買代金全額が支払われ、かつ占有が乙に移転した場合 は、甲に所有権が留保されることについての充分な認識があるかどうかに注 意すべきです。 ③ 第1契約の決済での書類確認等について 乙が丙を指定する前に売買代金全額が乙から甲に対して支払われる場合は、 登記は伴わない場合であっても司法書士の立会を求められることが多いと考 えられます。この場合司法書士には、通常の決済類似またはそれ以上の執務 が必要となります。 ⅰ) 登記義務者たる甲に関する担保抹消登記及び所有権移転登記等関係書 類の確認が必要となります。 ⅱ) 上記登記関係書類の事前交付及び保管について確認が必要となります。 通常第1契約の決済に関与した司法書士にそれらの書類の保管が依頼され ることが多いと考えられますが、その際は書類の保管、返還方法等につい て充分な確認・説明を尽くしたうえで、これを行う必要があります。 ④ 受益意思表示を受ける権限の授権 第三者のためにする契約方式による「直接移転取引」においては、第三者 である丙が甲に対して受益の意思表示をする必要があります。 この場合、甲が、受益の意思表示を受ける権限を乙に委任することが考え

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られますが、その場合は、書面で授権の事実を確認することが必要と考えま す。 授権を証する書面がある場合は、その書面の提示を受けて確認し、書面が ない場合は司法書士が書面を作成するべきです。 ⑤ その他 ⅰ)報酬について 司法書士が第1契約の決済に関与する場合、登記申請代理業務を伴わない 場合でも、当該決済に立ち会い、書面の作成等の付随業務を行なうことによ って司法書士報酬が発生する場合があります。その場合は、当事者に対して 充分な説明を行い、理解と納得のもとにその報酬を受領するべきです。 ⅱ)登記識別情報について 第2契約に先行して第1契約の決済が行われる場合、その時点では所有権 移転登記を申請しないとしても、本人確認情報作成の準備等を勘案して、甲 の所持する登記識別情報の有効証明請求についても検討するべきです。 ⅲ)乙に対する説明 第2契約締結前に第1契約の売買代金全額が乙から甲に対して支払われる 場合は、乙の権利が不安定な状態に置かれますので、その権利関係について も乙に充分説明することが必要です。 ⅳ)甲の担保抹消登記について 担保抹消登記に関しては、登記原因は通常この決済の時点で発生すること となります。当該担保抹消登記申請を留保しておくことを依頼される可能性 がありますが、抹消登記義務の履行に関わることになるので、甲及び金融機 関に対して説明、確認をすることが必要です。 Ⅵ-3 第2契約における実務上の留意点 ここでは、前記一般的留意点の他に、第2契約の決済が行われる場合の具体的 な実務上の留意点について説明します。 なお、第2契約の決済については、先行して第1契約の決済が終わっている場 合と第1契約と第2契約の決済が同時に行われる場合とに分けて具体的執務を考 える必要があります。 ① 第1契約の確認 ⅰ) 第2契約は、第1契約と密接に関連し、かつ第1契約を前提として成

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立しています。よって、第2契約に関与した司法書士は、まず第1契約の 内容を確認する必要があります。 ⅱ) 第1契約と第2契約の同時決済に関与する司法書士は、その双方の契 約内容を確認することは当然であり、第2契約のみに関与する司法書士は、 第1契約の決済が他の司法書士の関与のもとに先行してなされていたとし ても、第1契約の内容を確認することが必要です。 ② 特約の確認 第2契約における以下の特約を確認することが必要です。 ⅰ) 甲乙間の契約に基づき、丙が甲に対して受益の意思を表示することお よび丙が乙に対して代金を支払うことを条件として甲から丙に所有権が移 転する。 ⅱ) 乙は、甲から丙に対して直接所有権を移転させることによってその義 務を履行する。 第2契約が他人物売買契約であるか無名契約であるかによって宅建業法上 の取扱いは異なることになりますが、丙の保護の観点からは司法書士の職責 は質的に変わるわけではなく、具体的な執務も変わらないと考えるべきです。 ③ 甲の抗弁について 丙が甲に対して請求権(受益の意思表示による所有権移転請求)を行使し た際に、第1契約につき無効・取消・解除原因等があった場合や第1契約の 売買代金支払いが完全に履行されていない場合等は、甲からその履行を拒ま れることになりますので、それら抗弁事由の存在しないことを甲に対して確 認する必要があります。 丙は第1契約の当事者ではなく、第1契約の履行状態を知る地位にありま せん。第2契約に関与する司法書士の最も重要な執務の一つとして、丙の保 護の観点から、第1契約において甲に抗弁事由がないことを確認することが 求められます。 第1契約と第2契約の決済が同時に行われる場合は、第1契約の内容とそ れに基づく代金の支払いを同時に確認することになります。 ④ 受益の意思表示について 甲から丙に対して直接所有権が移転するためには、丙から甲に対する受益 の意思表示が必要となります。 丙の受益の意思表示の前に甲が死亡していた場合は、甲について相続が発 生し、甲から丙に直接所有権が移転しないことに特に注意すべきです。

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甲が、受益の意思表示を受ける権限を乙に委任することも考えられますが、 その場合は甲から乙への授権につき確認する必要があります。 ⑤ 第2契約の決済について ア 第1契約と第2契約の決済を同時に行う場合の執務は以下の通りです。 ⅰ)第1契約の内容(特約含む)を確認する。 ⅱ)第2契約の内容(特約含む)を確認する。 ⅲ)乙から甲に対して、丙を指定した旨の通知があったことを確認する。 ⅳ)甲・乙・丙三者の本人確認を行う。 ⅴ)乙丙間の契約に基づく丙から乙への代金支払いを確認する。 ⅵ)甲乙間の契約に基づく乙から甲への代金支払いを確認する。 ⅶ)丙から甲に対する受益の意思表示を確認する。 ⅷ)甲および丙の登記意思を確認する。 ⅸ)登記申請書類を確認する(登記原因証明情報の起案作成を含む)。 イ 第2契約に先行して、第1契約の決済が終わっている場合の執務は以下 の通りです。 ⅰ)第1契約の内容(特約含む)を確認する。 ⅱ)第2契約の内容(特約含む)を確認する。 ⅲ)乙から甲に対して、丙を指定した旨の通知があったことを確認する。 ⅳ)甲・乙・丙三者の本人確認を行う。 ⅴ)乙丙間の契約に基づく丙から乙への代金支払いを確認する。 ⅵ)丙から甲に対する受益の意思表示を確認する。 ※ 甲が乙に対して受益の意思表示を受領する権限を委任している場 合は、その授権を確認する。 ⅶ)第1契約における抗弁事由がないこと(第1契約の決済に瑕疵がない こと)を確認する。 ⅷ)甲および丙の登記意思を確認する。 ⅸ)登記申請書類を確認する(登記原因証明情報の起案作成を含む)。 第1契約における代金決済は甲乙間、第2契約における代金決済は乙丙間 においてなされ、契約の当事者関係にない甲丙間において代金授受が発生す ることはありません。

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Ⅶ.第三者のためにする契約方式による登記原因証明情報について

平成19年1月12日民2第52号通知においては、その登記原因証明情報の ひな型には第1契約の記載があればよく、第2契約の内容は必ずしも記載されて いなくてもよいとされています。 しかし、司法書士の職責に照らした場合、第1契約および第2契約ともその内 容を確認すべきであり、確認された法律行為および事実関係等を忠実に反映する という観点から登記原因証明情報を起案作成することが望ましいと考えます。。 なお、司法書士が起案作成した登記原因証明情報には、司法書士法施行規則第 28条に則して司法書士が記名押印することに加え、確認事項および保管資料等 に関しても記載すべきです。 以下に、いくつかの場合に分けて登記原因証明情報の記載例を示しますが、こ れは実務の参考として提示するものですので、具体的な事件にあたっては、契約 内容および事実関係に応じて起案作成してください。 なお、第2契約の形態としては、他人物売買契約と無名契約が考えられますが、 実務上は他人物売買契約が締結されることが多いと考えられますので、ここでは 他人物売買契約を前提として記載例を示します。 第三者のためにする契約方式における登記原因証明情報においては、甲・ 乙・丙三者が記名押印すべきです。 ※ 【登記研究708号「平成19・1・12民2第52号通知解説」149頁】 「・・・登記権利者丙に対しても登記原因の内容の確認及び当該内容が記載されている書面 への記名押印を求める方が望ましい・・・」 「・・・乙については、・・・登記義務者に準じて扱うのが相当であると考えられる。したが って、乙も、登記原因の内容を確認した上で、当該内容が記載されている書面に記名押印を する必要があると解される。」 Ⅶ-1 第1契約決済および第2契約決済を同時に行う場合の登記原因証明情報 第1契約の決済と第2契約の決済が同時に行われる場合の登記原因証明情報 です。 決済終了時において甲・乙および丙が、 甲乙間の契約内容・甲乙間における 決済の事実および乙丙間の契約内容・乙丙間における決済の事実並びに甲乙丙 間における指定および受益意思表示の事実 について、1通の登記原因証明情報 を作成します。 登記原因証明情報 1 登記申請情報の要項 ① 登 記 の 目 的 所有権移転

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② 登 記 の 原 因 平成19年8月31日 売買 ③ 登 記 権 利 者 丙 ④ 登 記 義 務 者 甲 ⑤ 不動産の表示 【省略】 2 登記の原因となる事実又は法律行為 ①(売買契約) 甲および乙は、平成19年7月1日、本件不動産につき、甲を売主、乙を 買主とする売買契約を締結した。 ②(第三者のためにする契約、所有権移転時期の特約) 上記①の契約には、「甲は、本件不動産の所有権を乙の指定する者(以下「丙」 という。なお、乙が乙自身を指定する場合を含む。)に対し、乙の指定および 乙から甲への売買代金全額の支払を条件として直接移転することとする。」旨 の第三者のためにする契約および所有権の移転時期に関する特約が付されて いる。 ③(乙丙間の他人物売買契約) 乙および丙は、平成19年8月5日、甲所有にかかる本件不動産につき、 乙を売主、丙を買主とする売買契約を締結した。 ④(所有権移転時期および直接所有権移転の特約) 上記③の契約には、乙は、丙が乙に対し売買代金を支払いかつ丙が甲に対 し本件不動産の所有権の移転を受ける旨の意思を表示したときに、上記①の 契約に基づき、甲から丙に直接所有権を移転させる旨の特約がある。 ⑤(甲に対する丙の指定) 乙は、甲に対し平成19年8月31日、上記①の契約に基づき丙を指定し た旨通知した。 ⑥(乙丙間の代金支払いおよび受益の意思表示) 丙は、同日乙に対し③の契約に基づき売買代金全額を支払い、甲に対し所 有権の移転を受ける旨の意思表示をした。 ⑦(甲乙間の代金支払い) 乙は、同日甲に対し①の契約に基づき売買代金全額を支払い、甲はこれを 受領した。 ⑧(所有権の移転) よって、同日本件不動産の所有権は、甲から丙に移転した。 平成19年8月31日○○法務局○○出張所 御中 上記のとおり相違ない。 住 所 甲 署名 ㊞ 住 所 乙 署名 ㊞ 住 所 丙 署名 ㊞

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当職は、司法書士法に基づき、上記当事者の依頼を受け、不動産登記法所定の登記原因 証明情報を作成し、司法書士法施行規則第28条の規定により記名押印する。 住 所 司法書士 記 名 (登録番号) 〔職印〕 確認事項および保管資料 ①確認の日時 平成 年 月 日 場所 ②確認事項 □売買および特約の事実 □代金授受の事実 □引渡の事実 □その他 ③保管資料 □売買契約書写し □領収書写し Ⅶ-2 第1契約決済を先行し、後日第2契約の決済をする場合の登記原因証明 情報 乙が丙を指定する前に第1契約の決済が先行して行われた後、第2契約の決 済が行われる場合の登記原因証明情報です。 第1契約の決済終了時において甲および乙が 甲乙間の契約内容および甲乙間 における決済の事実について作成 する下記「登記原因証明情報3の1」と、第 2契約の終了時において乙および丙が 乙丙間の契約内容および乙丙間における 決済の事実について作成 する下記「登記原因証明情報3の2」および 乙が甲に 対して丙を指定した事実について作成 する「登記原因証明情報3の3」の3通 を併せて登記原因証明情報として提出する場合の例です。 ① 「第1契約の決済時に作成する登記原因証明情報」(1/3)

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登記原因証明情報3の1 (甲乙間の第三者のためにする特約付売買契約) 1 登記申請情報の要項 ① 登 記 の 目 的 所有権移転 ② 登 記 の 原 因 売買(原因日:下記2の②の条件が成就した日) ③ 登 記 権 利 者 乙が指定する者 ④ 登 記 義 務 者 甲 ⑤ 不動産の表示 【省略】 2 登記の原因となる事実又は法律行為 ①(売買契約) 甲および乙は、平成19年7月1日、本件不動産につき、甲を売主、乙を買 主とする売買契約を締結した。 ②(第三者のためにする契約、所有権移転時期の特約) 上記①の契約には、「甲は、本件不動産の所有権を乙の指定する者(なお、 乙が乙自身を指定する場合を含む。)に対し、乙の指定を条件として直接移転 すること並びに乙から甲への売買代金の支払いが完了した後も、その指定があ るまでは、本件不動産の所有権は甲に留保される。」旨の第三者のためにする 契約および所有権の移転時期に関する特約が付されている。 ③(買主の代金支払) 乙は、平成19年7月31日、上記①の契約に基づき、甲に対して売買代金 全額を支払い、甲はこれを受領した。 ④(受益の意思表示の受領権限の委任) 甲は、同日、乙に対し乙の指定する者が甲に対して行う本件不動産の所有権 の移転を受ける旨の意思表示を受領する権限を委任した。 平成19年7月31日○○法務局○○出張所 御中 上記のとおり相違ない。 住 所 甲 署名 ㊞ 住 所 乙 署名 ㊞ 【司法書士の記名押印部分省略】 ② 「第2契約の決済時に作成する登記原因証明情報」(2/3) 登記原因証明情報3の2 (甲乙間契約を前提とする乙丙間の契約) 1 登記申請情報の要項 ① 登 記 の 目 的 所有権移転

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② 登 記 の 原 因 平成19年8月31日 売買 ③ 登 記 権 利 者 丙 ④ 登 記 義 務 者 甲 ⑤ 不動産の表示 【省略】 2 登記の原因となる事実又は法律行為 ①(乙丙間の他人物売買契約) 乙および丙は、平成19年8月5日、甲所有にかかる本件不動産につき、乙 を売主、丙を買主とする売買契約を締結した。 ②(所有権移転時期および直接所有権移転の特約) 上記①の契約には、平成19年7月1日付甲乙間で締結した第三者のために する特約付売買契約に基づき、丙が甲に対し本件不動産の所有権の移転を受け る旨の意思を表示し、かつ丙が乙に対し売買代金を支払った時に、乙が本件不 動産の所有権を甲から丙に直接移転させる旨の特約がある。 ③(代金の支払) 丙は、乙に対し平成19年8月31日上記①の契約に基づき、売買代金全額 を支払い、乙はこれを受領した。 ④(受益の意思表示) 丙は、同日、甲代理人乙に対し、本件不動産の所有権の移転を受ける旨の意 思表示をした。 平成19年8月31日○○法務局○○出張所 御中 上記のとおり相違ない。 住 所 乙 署名 ㊞ 住 所 丙 署名 ㊞ 【司法書士の記名押印部分省略】 ③ 「第2契約締結からその決済時までに作成する登記原因証明情報」(3/3) 登記原因証明情報3の3 (乙の甲に対する丙の指定) 1 登記申請情報の要項 ① 登 記 の 目 的 所有権移転 ② 登 記 の 原 因 売買(原因日:下記2の条件が成就した日) ③ 登 記 権 利 者 丙 ④ 登 記 義 務 者 甲

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⑤ 不動産の表示 【省略】 2 登記の原因となる事実又は法律行為 (乙の甲に対する丙の指定) 乙は、本件不動産について、甲乙間で締結した平成19年7月1日付第三者 のためにする特約付売買契約(「甲は、本件不動産の所有権を乙の指定する者 (なお、乙が乙自身を指定する場合を含む。)に対し、乙の指定を条件として 直接移転すること並びに乙から甲への売買代金の支払いが完了した後も、その 指定があるまでは、本件不動産の所有権は甲に留保される。」旨の特約がある。) に基づき、平成19年8月20日、甲に対し丙を指定する旨通知した。 平成19年8月20日○○法務局○○出張所 御中 上記のとおり相違ない。 住 所 甲 署名 ㊞ 住 所 乙 署名 ㊞ 【司法書士の記名押印部分省略】 ※1 原因日付について(3の1、3の3) 登記原因証明情報3の1および3の3における(1登記申請情報の要項②登 記の原因)は、第1決済時から第2決済時の前においては原因が発生していな いので、「2登記の原因となる事実または法律行為②の条件が成就した日」とし て特定します。 ※2 丙の指定の記載について(3の3) ⅰ)第三者のためにする契約においては、契約締結時に第三者が特定してい なくても、特定し得るものであれば契約は成立するとされていますが、契 約当事者間においては、第三者が受益の意思表示をする時までにこの第三 者の特定がなされていなければなりません。第2契約に先行して第1契約 の決済をし、登記原因証明情報を分けて作成する場合、登記原因証明情報 3の1および3の2のみの記載では、第三者のためにする契約(第1契約) の当事者たる甲にはその給付の相手方たる丙の特定ができていないことに なりますので、指定の事実を記載した登記原因証明情報が必要であると考 えられます。 ⅱ)乙が甲に対し丙を指定するのは、第1契約の締結日である平成19年8 月5日から第2契約の決済日である8月31日までの間になされると思わ れます。また、第2契約の決済日である8月31日に、指定と受益意思表 示が同時になされることも考えられます。

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※3 受益の意思表示について(3の1、3の3) 甲が受益意思表示の受領権限を乙に委任していない場合は、3の1の④(受 益の意思表示の受領権限の委任)は記載しないことになります。 この場合、丙が甲に対し受益の意思表示をした事実を記載した登記原因証明 情報が必要となります。また、第2決済時に作成する3の2の④の文章を「甲 代理人乙」ではなく「甲」として、甲乙丙三者の連署とする方法もあります。 第 1 契 約の 決 済 と 第2 契 約 の 決済 が 別 の 日に 行 わ れ る場 合 に お いて も 、 甲・乙・丙三者が記名押印した登記原因証明情報を1通作成することは可能 ですが、その場合は、第2契約の決済時に甲・乙・丙三者が記名押印すべき であると考えます。 ※ 【登記情報546号「第三者のためにする契約に基づく所有権移転登記と司法書士執務 上の留意事項―山野目章夫早稲田大学法科大学院教授」11頁】 「・・・いわば登記原因証明情報の草案に当たるものを作成しておき、乙・丙間の決済の段 階で、同情報を完成させることになる。甲・乙・丙の電子署名または記名押印を得るのも、 原則として、この時点である。登記原因証明情報を書面で作成する場合には、その草案に当 たるもの(いわば一部が白地の登記原因証明情報)について、甲・乙の記名押印を得ておき、 乙・丙間の決済の機会に丙の記名押印を得て完成させるという手順も考えられないではない が、白地を補充するのが司法書士のYである場合は、その補充について関係者(特に甲)の 委任を得ておかなければならない。」 Ⅶ-3 甲乙間決済を先行し後日乙が乙自身を指定する場合の登記原因証明情報 乙が丙を指定する前に第1契約の決済が先行して行われた後、乙が所有権を 移転すべき者として、乙自らを指定した場合の登記原因証明情報です。 第1契約の決済終了時において甲および乙が 甲乙間の契約内容および甲乙間 における決済の事実について作成した前記「登記原因証明情報3の1」に加え、 乙が 乙自らを指定した事実 を記載した下記「登記原因証明情報」の2通を併せ て登記原因証明情報として提出する場合の文案です。 「乙が乙自らを指定した日に作成する登記原因証明情報」 登記原因証明情報(乙自らの指定) 1 登記申請情報の要項 ① 登記の目的 所有権移転 ② 登記の原因 平成19年8月31日 売買 ③ 登記権利者 乙 ④ 登記義務者 甲 ⑤ 物件の表示 後記のとおり 2 登記の原因となる事実又は法律行為 ① 乙自身の指定)

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乙は、平成19年8月31日、本件不動産に関する甲乙間で締結された平成 19年7月1日付第三者のためにする特約付売買契約(「甲は、本件不動産の 所有権を乙の指定する者(なお、乙が乙自身を指定する場合を含む。)に対し、 乙の指定を条件として直接移転すること並びに乙から甲への売買代金の支払 いが完了した後も、その指定があるまでは、本件不動産の所有権は甲に留保さ れる。」旨の特約がある。)に基づき、所有権を取得する者として乙自身を指定 した。 ②(所有権の移転) よって、同日本件不動産の所有権は、甲から乙に移転した。 平成19年8月31日○○法務局○○出張所 御中 上記のとおり相違ない。 住 所 甲 署名 ㊞ 住 所 乙 署名 ㊞ 【司法書士の記名押印部分省略】

Ⅷ.契約書式について

以下に、第1契約及び第2契約における特約の内容を例示しますが、これは実 務の参考として提示するものですので、具体的な事件にあたっては、事実関係に 応じて調査・確認してください。 Ⅷ-1 第1契約の特約について ① 第三者のためにする契約及び所有権の移転時期について 「売主および買主は、本契約が第三者のためにする特約を付した売買契約 として締結されるものであることを確認する。」 「買主は、売主に対し本物件の所有権の移転先となる者(買主本人を含む) を指定するものとし、本物件の所有権は、買主の指定及び売買代金全額 の支払を条件として売主から買主の指定する者に直接移転する。」 *「・・・平成○年○月○日までに指定する・・・」として、指定につい て期限を設けることも考えられる。 ② 所有権の留保について 「買主が売主に対して売買代金全額を支払った後であっても、買主が所有 権の移転先となる者(買主本人を含む)を指定しない限り、本物件の所

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有権は、売主に留保されるものとする。」 *指定につき期限を設けた場合は、「・・・移転先となる者の指定がないま ま平成○年○月○日の期日を経過したときは、その翌日をもって買主自 身が指定されたものとみなし、本物件の所有権は売主から買主に移転す るものとする。」との条項を付加する。 ③ 引渡し及び責任の区分について 「買主が売主に対して売買代金全額を支払った場合は、売主は買主に対し て本物件を引き渡す。」 「公租公課等の負担、危険負担、瑕疵担保責任については、本物件の引渡 し時をもって区分され、引渡しがあった後は、売主はそれらの負担を負 わないものとする。」 「本物件の引渡しがあった後は、甲が第三者に対して民法第717条に定 める所有者の工作物責任を負担した場合は、甲の負担に相当する分を乙 が甲に対して負うものとする。」 ④ 受益意思表示の受領権限の委任について 「売主は、所有権の移転先に指定された者が売主に対してする「本物件の 所有権の移転を受ける旨の意思表示」の受領権限を買主に委任する。」 ⑤ 買主の造作、修繕について 「売主は、買主が本物件の引渡しを受けた後、本物件について修繕、リフ ォーム等工事を施すことを予め承諾する。」 Ⅷ-2 第2契約の書式について ① 直接所有権移転について 「売主は、現所有権登記名義人(以下、「現所有者」という。)所有にかか る本物件を買主に売渡し、買主はこれを買受けた。」 「売主は、売主が現所有者との間で締結している平成○年○月○日付売買 契約(第三者のためにする特約付き)に基づき、現所有者から買主に対 し直接所有権を移転させることによりその義務を履行するものとする。」 ② 所有権移転時期について 「本物件の所有権は、買主が売買代金の全額を支払い、売主がこれを受領 し、かつ売主が現所有者との間で締結している平成○年○月○日付売買 契約(第三者のためにする特約付き)に基づき、買主が現所有者に対し て所有権移転を受ける旨の意思表示をしたときに、現所有者から買主に 移転する。」 ③ 現所有者の抗弁について 「売主は、売買代金残金受領のときまでに、売主が現所有者との間で締結 している平成○年○月○日付売買契約(第三者のためにする特約付き) による履行を完全に終え、現所有者の買主に対する抗弁事由を取り除く ものとする。」

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Ⅸ.買主の地位の譲渡契約方式について

「直接移転取引」の一形態である「買主の地位譲渡契約方式」について説明 します。 ① 売買契約 甲 乙 ② 地位の譲渡契約 ③対価支払い ④ 代金支払い ⑤ 所有権移転 丙 Ⅸ-1 買主の地位の譲渡契約方式における取引の要点について 第三者のためにする契約を用いた取引形態の基本構造は、以下の通りとな ります。 ① 甲乙間において売買契約を締結する。 ↓ ② 乙の買主の地位を丙に対して譲渡する契約を締結することにより、乙 は契約関係から離脱し甲丙間の売買契約となる。 ↓ ③ 丙が甲に対し売買代金を支払う。 ↓ ④ 甲から丙に対して所有権が移転する。 ②の譲渡契約は、甲・乙・丙三者間において締結される形態と、乙・丙間 でなされた合意に対して甲が承諾を与える形態があります。 乙丙間の地位譲渡には、通常対価を伴います。 Ⅸ-2 実務上の留意点について ① 契約内容の確認について

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甲乙間の売買契約の内容を売買契約書により確認することに加え、乙 から丙への地位の譲渡契約についても、甲乙丙三者により締結された契 約書または乙丙間で締結された契約書及び甲の承諾書等により、その内 容を確認する必要があります。 ② 丙の保護について 当方式については、特に丙の地位につき以下の点に留意する必要があ ります。 ア 丙は、乙から不動産を購入するのではなく、地位譲渡契約によって 甲を売主とする売買契約の当事者(買主)となること。 イ 丙は甲乙間で締結された売買契約の当事者となることから、乙から 買主の地位を譲り受けるに際しては、甲乙間の売買契約の内容を十分 理解する必要があること。 ウ 乙が宅地建物取引業者であっても、地位の譲渡契約には宅地建物取 引業法の適用がなく、瑕疵担保責任や重要事項説明義務等業法上の規 制が課されないとされているので、丙の保護に配慮すること。 ③ 決済について 買主の地位の譲渡契約方式では、甲丙間において代金決済がなされま すが、これは当初甲乙間で締結された売買契約に基づく売買代金の授受 です。 乙丙間で買主の地位の譲渡に関する対価の授受があると考えられますが、 上記売買代金とは別のものです。

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≪参 考≫

民法537条(第三者のためにする契約) 1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、 その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。 2項 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約 の利益を享受する意思を表示したときに発生する。 民法538条(第三者の権利の確定) 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、または消 滅させることができない。 民法539条(債務者の抗弁) 債務者は、第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける 第三者に対抗することができる。 民法560条(他人の権利の売買における売主の義務) 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する 義務を負う。 登記研究710―960頁 「修正」抜粋 「・・・甲乙間で第三者のためにする契約が締結されている場合において、これを前 提として締結された乙丙間の契約において乙が所有権を取得することが重要な要素と されていないときは、当該乙丙間の契約は、「第三者」を指定するためにされた契約と 解しうるものと考えられる。そのように解される場合には、甲乙間及び乙丙間の契約が いずれも売買契約として締結されていたとしても、甲から丙への直接の所有権の移転の 登記の申請は、することができる。・・・」 注釈民法旧版(14)132頁 「他人物売買に関する注釈」抜粋 「必ずしも売主が一旦他人から権利を取得してこれを買主に移転する必要はない。或 は売主が権利者より処分権能を取得して買主に権利を譲渡し、或は権利者たる他人と契 約して其の者より直接に買主に権利を移転せしめることを妨げないであろう」 宅地建物取引業法33条の2(自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制 限) 宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる 売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号の一に該当する場 合は、この限りでない。 一 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の 発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当 該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令で定めるとき。

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二(省略) 宅地建物取引業法施行規則第15条の6第4号 四 当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他 の契約であって当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定するもの( 当該宅地建物取引業者を含む場合に限る )に移転することを約するものを締結してい るとき。

参照

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