はじめに わが国においてマンモグラフィ(以下,MMG) 併用検診が導入されて久しいが,乳癌死は減るど ころか増加の一途をたどっている。その原因は, !乳癌検診の受診率が低い,"MMG の腫瘤描出 能が低い,の2点に集約されると考えられる。 受診率の低さは本学会でも大きな課題となって おり,未だその解決策は見出せていない。また, 日本人における MMG の腫瘤描出能の低さも周 知の事実であり,橋本1)の報告でも50歳未満の乳 癌の23.4%は MMG で異常を指摘できなかった としている。この欠点,すなわち腫瘤描出能の低 さを超音波が補うことができれば,乳癌死を減少 させることができるといえる。 1. わが国乳癌の現状 乳癌死を減らすためには何をすべきかを考察す るために,わが国の乳癌の現状を解析する。明確 に論じるため,すべて概算値を用いる。わが国に おける乳癌の年間罹患者数は約40,000人,年間死 亡者数は約10,000人である。そして,乳癌に占め る非浸潤癌を10%(近年では約13%),腫瘤径2cm 以下の乳癌の10年生存率を約90%と仮定する。す ると,非浸潤癌は40,000×0.1=4,000人であり, これらは理論的には全例が生存を約束されてい る。残る36,000人の浸潤癌が,仮にすべて2cm 以下で発見され適切な治療がされれば,乳癌死は 別冊請求先:〒354―0026 富士見市鶴瀬西2−23−6 株式会社ソノグラファーズ 佐久間 浩 E―mail address : sakuma@joy2.tvnet.ne.jp
超音波による乳癌検診は死亡率を減少させるか(4)
超音波検診で乳癌死を減らすために
ソノグラファーズ佐久間
浩
わが国の乳癌罹患者数を40,000人,その10%が非浸潤癌であると仮定すると,浸潤癌は 36,000人となる。これらがすべて腫瘤径2cm 以下で見つかり適切な治療がされれば,そ の10年生存率は90%であるから乳癌死は3,600人に止まるはずである。しかし現在乳癌死 は10,000人を超えている。この差を埋めるために,どのような点に注意して超音波検診を 行うべきかを考察する。 まず,浸潤癌はほぼ全例が腫瘤を形成する。そして超音波は腫瘤の描出を得意とする。 熟練者であれば径0.5cm の腫瘤が描出可能である。さらに径1cm の腫瘤となれば0.5cm の腫瘤の4倍の面積の像として描出される。したがって検診の現場においても,発見すべ き腫瘤径は2cm ではなく1cm に目標設定をしてもその達成は十分に期待できる。 また,超音波では浸潤癌のみならず非浸潤癌の発見も期待できる。非浸潤性乳管癌の約 35%は腫瘤(嚢胞内腫瘍,充実性腫瘤)を形成するので超音波による発見は可能である。そ れ以外では扁平低エコー像を呈するものが約40%と最も頻度が高い。よってこのパターン を見つける目を養うことが,非浸潤性乳管癌の発見能を飛躍的に向上させるカギとなる。 直径1cm の腫瘤像と扁平低エコー像の発見に努めれば,超音波検診で乳癌死を減らす ことは可能である。 Key words:乳癌検診,超音波検診,乳癌死 7436,000×0.1=3,600人に止まるはずである。すな わ ち 現 在 の 乳 癌 死10,000人 の う ち の10,000− 3,600=6,400人が救命される計算となる。いいか えれば乳癌死を約3分の1に減らすことが可能で ある。よって,乳癌の腫瘤を2cm 以下で確実に 見つけることが乳癌死の減少につながる,という 前提のもとに超音波検診のコツを考えてみる。 2. 救命効果のある超音波検診 1)浸潤癌の描出 浸潤癌は,ほぼ全例(浸潤性小葉癌の一部を除 く)が腫瘤を形成する。よって,これを直径2cm までに発見できればよいわけである。直径2cm の浸潤癌ともなれば,一般的な体表臓器用探触子 を使用し,一般的な条件設定の画像2)のもとで, 図 1 のように大きな腫瘤像として描出されてく る。一般的な教育を受けて,すでに検診に携わっ ている者がこれを見逃すとは考えにくい。しか し,この大きさの腫瘤の大半は自己触診によって も発見可能であろう。では超音波検診において は,どの程度小さな腫瘤の発見を目標とするべき であろうか? これは筆者のあくまでも経験に基 づく印象であるが,乳房超音波の熟練者であれば スクリーニング検査で径5mm の腫瘤(図 2)を描 出することはおそらく可能である。しかし,これ をすべての検診の現場に期待するのは困難と思わ れる。では目標値を径1cm(図 3)に設定し て み る。径5mm の腫瘤に比べて明らかに大きな印象 を受ける。なぜならば径10mm と5mm の相似形 を比較した場合,10mm のものは5mm のものの (10/5)2=4倍の面積を有するからである。よっ て,検診の現場において見逃してはいけない腫瘤 径の目標値は1cm に設定することを推奨する。 ここで誤解があってはいけないが,目標値1cm とは1cm 未満の腫瘤を見つけなくて良いという ことではない。微細な病変も見逃してはいけない という検者の精神的負担が大きくなるあまり,大 きな腫瘤を見逃すというミスを冒すくらいなら ば,1cm までに見つければ乳癌死の減少に貢献 できるわけであるから,そこを妥協点として,そ の責務を全うしてほしいということである。もち ろん経験をつんで精神的余裕のある者は,より小 さな腫瘤の発見を目指すべきである。ただし,現 在の装置のレベルでは5mm 未満の腫瘤の質的診 断は困難であり,これを拾い上げすぎると要精査 率を上げてしまうことになる。したがって,日本 乳腺甲状腺超音波診断会議の乳房超音波診断ガイ ドライン3)においても,halo や前方境界線の断裂 図 1. 腫瘤径2cm の乳癌 図 2. 腫瘤径5mm の乳癌 図 3. 腫瘤径1cm の乳癌 超音波検診で乳癌死を減らすために
を伴う明らかな癌以外の5mm 未満の腫瘤は拾い 上げなくともよいということが提唱されている。 2)非浸潤癌の描出 浸潤癌を発見できても,非浸潤癌を見逃して は,いずれ乳癌死につながる。世の中では,非浸 潤癌は石灰化によって発見されるものであるとい う誤解が未だに残っている。ここで超音波による 非浸潤性乳管癌(きわめて稀な非浸潤性小葉癌は 除く)の描出のポイントについて述べる。 筆者は非浸潤性乳管癌の超音波像を拡張乳管集 合型・扁平不整低エコー型・拡張乳管内隆起型・ 嚢胞内腫瘍型・充実性腫瘤型の5型(図 4)に分類 している4)。癌研究会附属病院で1999∼2000年の 2年間に経験した非浸潤性乳管癌125例のそれぞ れの頻度は,拡張乳管集合型5.6%(7/125),扁 平不整低エコー型41.6%(52/125),拡張乳管内隆 起 型8.8%(11/125),嚢 胞 内 腫 瘍 型13.6%(17/ 125),充実性腫瘤型20.8%(26/125)であった。そ れ以外の12例(9.6%)は,超音波では描出されず 図 4. 非浸潤性乳管癌の超音波像 a:拡張乳管集合型,b:扁平不整低エコー型 c:拡張乳管内隆起型,d:嚢胞内腫瘍型 e:充実性腫瘤型 c d e 76
MMG の石灰化によって発見された症例である。 ここで,それぞれの型の超音波検診における発見 の容易度(あえて難易度とは表現しない)について 述べる(図 5)。嚢胞内腫瘍型と充実性腫瘤型は, いずれも明瞭な腫瘤である。両者を合わせると 34.4%となる。非浸潤性乳管癌の約3分の1が腫 瘤によって発見されるということを再認識する必 要がある。また,拡張乳管内隆起型は全例が異常 乳頭分泌を伴うと考えてよい。よってこれらは異 常乳頭分泌を主訴として医療機関を受診すべきで あり,本来は検診で発見されるべきものではな い。拡張乳管集合型は乳腺症や乳管拡張症でも同 様の像を呈することがしばしばあるため,良悪性 の鑑別は困難であるが,頻度はきわめて低く,全 乳癌に対してはたった0.56%に過ぎない。超音波 検診では,最も頻度の高い扁平不整低エコー型を 確実に拾い上げることのほうが重要である。本パ ターンが非浸潤性乳管癌の特徴的画像であるとい う認識を持つことで,非浸潤性乳管癌の発見率は 飛躍的に向上するものと考えられる。近年は,腫 瘤像非形成病変と称して,腫瘤を形成しない非浸 潤性乳管癌がクローズアップされているが,頻度 の低い病変に過敏になり過ぎる必要はない。扁平 不整低エコー型をしっかり拾い上げることが先決 である。たしかに装置の進歩は石灰化のみの病変 (図 6)の描出も可能にしたが,それを検診で見つ けなくてはいけないという時代はもう少し先と考 える。 おわりに 救命効果の高い超音波検診を行うための着目点 について述べた。ポイントは,!腫瘤を1cm ま でに確実に見つける,"扁平不整低エコー型の非 浸潤性乳管癌を見つける目を養う,の2点に尽き る。ただし,今回の考察はエビデンスという観点 からいえばきわめて曖昧であると言わざるを得な い。しかし,MMG でさえも腫瘤の描出能の低さ という難題を残したまま,目覚しい普及を遂げ た。超音波も決してすべての乳癌を見つけようと せず,まずは今できることを確実に行うことが乳 癌死の減少につながる。すなわち「一部の乳癌は 見逃すこともある」ということを明確に記したう えで,上記の2点を優先させるべきである。そう すれば乳癌死を3分の1に減少させることも不可 能ではない。しかし,その根底には検診受診率を 上げるという最も大きな難題が存在していること を最後に付け加えておく。 【文 献】 1)橋本秀行:わが国における超音波による乳癌検 診.乳 房 超 音 波 実 践 マ ニ ュ ア ル,医 歯 薬 出 版,2005,pp.28―35 2)佐久間浩:乳房超音波 Q&A.ベクトル・コア, 2006,pp.10―13 3)日本乳腺甲状腺超音波診断会議編:乳房超音波 診断ガイドライン.南江堂,2004 4)佐久間浩:乳房超音波アトラス改訂版.ベクト ル・コア,2004,pp.178―179 図 5. 超音波検診における非浸潤性乳管癌の 発見の容易度 図 6. 非浸潤性乳管癌(微細石灰化のみを描出) 超音波検診で乳癌死を減らすために
Mortality
Hiroshi Sakuma
Sonographers, Co. Ltd.
Assuming that 40,000 women are affected by breast cancer annually in Japan, and approximately 10% of those cancers are noninvasive cancers, 36,000 women will have invasive cancers. If these invasive cancers are detected early when as small as 2cm or less and are properly treated, annual breast cancer mortality might be 3,600, since the ten−year survival rate is 90%. However, actual breast cancer death accounts for over 10,000 yearly. My plan for reducing breast cancer death by using ultrasonography screening is as follows :
1)Since almost all invasive breast cancers form a tumor, which is easily detected by ultrasonogra-phy, experienced sonographers can detect tumors as small as 0.5cm in the size. When a tumor is 1 cm in diameter, it occupies four times the area of a 0.5cm tumor. Therefore ultrasonography capable to detect much less than2cm, even in screening system, for example as small as1cm in diameter.
2)Ultrasonography is expected to detect noninvasive cancers as well. Approximately 35% of noninvasive ductal cancers form a tumor such as an intracystic tumor or a solid tumor. Such tumors are easily detected by ultrasonography. Other tumors form a flat hypoechoic image, and these are the commonest type, accounting for about 40% of all noninvasive cancers. Sonographers must be trained to recognize this type for increasing the detection rate of noninvasive ductal cancer dramatically.
In summary, effort toward detection of tumors of 1cm in diameter, and of flat hypoechoic image, by ultrasonography is the key to decreasing the rate of breast cancer death.
Key words : breast cancer screening, ultrasonography screening, breast cancer mortality