Grepafloxacinの 胸 水 中 移 行 な ら び に 呼 吸 器 感 染 症 に 対 す る 臨 床 的 有 用 性 に 関 す る 研 究 宍 戸 春 美 ・林 孝 二 ・永 井 英 明 ・三 宅 修 司 ・川 上 健 司 ・倉 島 篤 行 ・佐 藤 紘 二 国立療 養所 東京病 院呼 吸器科' ニ ュ ー キ ノ ロ ン 薬grepafloxacin(GPFX)に つ い て,胸 水 貯 留 患 者 に お け る胸 水 中 移 行 を 検 討 す る と共 に,呼 吸 器 感 染 症 に対 す る 臨 床 的 有 用 性 を評 価 し,体 内 動 態 を含 め 呼 吸 器 感 染 症 に対 す る本 剤 の 適 応 を考 察 した 。 胸 水 貯 留 の認 め ら れ る患 者3例 に お け るGPFXのHPLC法 で の 胸 水 中 移 行 率(ピ ー ク血 中 濃 度 に対 す る 最 高 胸 水 中 濃 度 の 比)は,33.3∼50.5%(平 均43,5%)で あ っ た 。Bioassay法 で も同 様 の成 績 が 得 られ た。 呼 吸 器 感 染 症24例 を対 象 に,GPFXを 経 口投 与 して 本 剤 の 臨 床 的 有 用 性 を検 討 した 結 果,そ の有 効 以 上 の有 効 率 は95.7%と 優 れ て い た 。細 菌 学 的 効 果 はStaphylocom3aureu55株 中 の3株, Haemophilus inflmme3株 中 の3株,Klebsiella pneummiae1株 中 の1株,Pseusomomas aerugimsa 3株 中 の2株,Xanthomnas mltophilia1株 中 の1株,お よ びCorynebacterium sp,1株 中 の1株 な ど が 消 失 し た 。 全 体 で は,起 炎 菌 の 消 失 率 が84.2%(16/19)で あ っ た 。 全24例 中,副 作 用 が 認 め ら れ た症 例 は な か っ た 。 臨 床 検 査 値 異 常 と して は,1例 に 軽 度 のS-GOTお よ びS.GPTの 上 昇 が 認 め られ た。
GPFXは,呼 吸 器 感 染 症 に対 す る 臨 床 的 有 用 性 の 高 い ニ ュ ー キ ノ ロ ン薬 で あ る と結 論 され る。 Key words: grepafloxacin,ニ ュ ー キ ノ ロ ン,胸 水 中 移 行,呼 吸 器 感 染 症
Grepanoxacin(GPFX)は,新 し く 開 発 さ れ た ニ ュ ー キ ノロ ン 薬(nuoroquinolones)の ひ と つ で あ り,こ れ ま で 研 究 さ れ て い な か っ た キ ノ ロ ン 環 に 直 接 メ チ ル 基 を 導 入 す る こ と に 着 目 し て 開 発 さ れ た 化 合 物 で あ り,そ の5位 に メ チ ル 基,1位 に シ ク ロ プ ロ ピ ル 基,6位 に フ ッ 素 お よ び7位 に3一メ チ ル ピ ペ ラ ジ ニ ル 基 を 有 す る1)。
GPFXのinuitrび 抗 菌 力 は,Streptococcus pneumomiaeに 対 して は 既 存 の ニ ュ ー キ ノ ロ ン 薬 の 中 で 最 も 優 れ て い る tosufloxacin(TFLX)の 抗 菌 力 に 匹 敵 し2),Moraxella (Bramhamella) catamhalisとHaemophilus infzmnzaeで1ま, ciprofloxacin (CPFX)のinuitro抗 菌 力 と 同 程 度3,4)であ り, 本 剤 経 口 投 与 時 の 体 内 動 態 で 血 中 半 減 期 が10∼12時 間5) と長 い こ と を 考 慮 す る と,1日1回 投 与 で も 本 剤 の 呼 吸 器感 染 症 に対 す る 有 用 性 は 他 の ニ ュ ー キ ノ ロ ン 薬 よ り も 高 い と期 待 さ れ て い た 。 GPFXの ラ ッ トに お け る 肺 組 織 移 行6)は 他 の ニ ュ ー キ ノ ロ ン薬 に 比 較 し て 格 段 に 高 く,ヒ ト に お け る 肺 組 織 移 行 を検 討 す る前 段 階 と し て,今 回,胸 水 貯 留 患 者 に お け る胸 水 中移 行 を検 討 し,体 内 動 態 か ら も ,呼 吸 器 感 染 症 に対 す る本 剤 の 適 応 を 考 察 し た 。 1.材 料 お よ び 方 法 以 下 に 述 べ る 患 者 に 対 す る 臨 床 試 験 で は,試 験 に 先 立 ち患 者 本 人 に 当 該 試 験 の 説 明 を 行 い 同 意 を 得 た 上 で 実 施 した 。 1.胸 水 中 薬 剤 濃 度 測 定 各 種 胸 膜 疾 患 で胸 水 の貯 留 が 認 め られ る患 者3例 を対 象 に200mgを 単 回 で 経 口 的 に投 与 し,血 清 中 お よ び胸 水 中 濃 度 を測 定 した 。 血 液 は投 与 後2,3,4,8,24時 間 に,胸 水 は投 与 後 2,3,4,6,8,24時 問 後 に可 能 な 限 り採 取 した 。 検 体 中 のGPFX濃 度 は,HPLC法(最 小 測 定 可 能 濃 度: 0.001μg/ml)お よ びBacill粥suわtilisATCC6633を 検 定 菌 とす るbioassay法(最 小 測 定 可 能 濃 度:0,025μg/ml)に よ り測 定 した。 ま た,副 作 用 の 発 現 につ い て観 察 し,併 せ て 投 与 前 後 に血 液 お よ び尿 の 一 般 臨 床 検 査 を実 施 し本 剤 投 与 に よ る異 常 の 有 無 を確 認 した 。 2.臨 床 的有 用 性 の 評 価 1)対 象 症 例 1990年12月 か ら1991年11月 ま で の 期 間 に 国 立 療 養 所 東 京 病 院 呼 吸 器 科 の入 院 また は外 来 受 診 の 呼 吸 器 感 染 症 患 者24例(急 性 気 管 支 炎1例,慢 性 気 管 支 炎18例,気 管 支 拡 張 症2例,び まん 性 汎 細 気 管 支 炎3例)を 対 象 と し た 。 年 齢 は24歳 か ら79歳(平 均57.3歳)で あ っ た。 2)投 与 方 法,投 与 量 GPFXの 投 与 は,1回 量100mg,200mg,ま た は 300mgを,1日1回 ま た は2回,経 口 的 に 投 与 した 。1日1 *〒204東 京 都 清 瀬 市 竹 丘3-1-1
回 の 投 与 で は 朝 食 後 に,1日2回 で は 朝 食 後 お よ び 夕 食 後 に 内 服 した 。 そ の 内 訳 を1日 投 与 量 で 示 す と,200mg (分1)が17例,200mg(分2)が1例,お よ び300mg(分1) が6例 で あ っ た 。 投 与 期 間 は7日 間 か ら14日 間 で あ っ た 。 3)臨 床 効 果 判 定 基 準 起 炎 菌 の 消 長,自 覚 症 状,他 覚 所 見,臨 床 検 査 所 見 等 に基 づ き,著 効(excellent),有 効(good),や や 有 効(fair), 無 効(poor)の4段 階 で判 定 した 。 4)臨 床 的 安 全 性 の 検 討 臨 床 症 状 の 詳 細 な観 察 を行 う と と もに,血 液 学 的 検 査, 生 化 学 的 検 査 お よ び尿 検 査 を実 施 し,副 作 用 お よ び 臨 床 検 査 値 異 常 の 有 無 を検 討 した 。 五.成 績 1.胸 水 中 薬 剤 移 行 に 関 す る検 討 対 象 症 例 は,結 核 性 胸 膜 炎1例,肺 癌 に伴 う癌 性 胸 膜 炎2例,計3例 で あ っ た 。GPFXを200mg単 回 投 与 した3 例 に お け る 血 清 中 お よ び 胸 水 中 濃 度 を 測 定 し た 成 績 を Table1に 示 した 。HPLC法 で 測 定 した胸 水 中 濃 度 は 血 中 濃 度 に比 べ や や 遅 れ て緩 や か に上 昇 し投 与 後6時 間 に最 高 に 達 し,そ の 後24時 間 後 に は血 中 濃 度 とほ ぼ 同 等 の 値 と な っ た 。HPLC法 の 最 高 胸 水 中濃 度 と胸 水 中移 行 率 (ピ ー ク血 中濃 度 に 対 す る最 高 胸 水 濃 度 の 比)は,症 例1 で0.27μg/ml(33.3%),症 例2で0-36μg/ml(46、8%),症 例3で0.51μg/ml(50.5%)で あ り,胸 水 中 移 行 率 の 平 均 値43.5%で あ っ た 。Bioassay法 で も同 様 の 成 績 が 得 られ た 。 ま た,胸 水 中 薬 剤 移 行 に 関 す る 検 討 を行 っ た3例 につ い て,副 作 用 な らび に本 剤 に起 因 す る臨 床 検 査 値 の 異 常 は認 め られ なか っ た 。 2.臨 床 的 有 用 性 に 関 す る成 績 本 剤 を投 与 し,臨 床 的 有 用 性 を検 討 した24例 の 概 要 をTable2,疾 患 別 の 臨 床 効 果 をTable3,細 菌学 的効果 をTable4に,臨 床 検 査 成 績 をTable5に 示 す 。 な お,1例(症 例24)は 本 剤 投 与 中 に基 礎 疾 患 で ある気 管 支 喘 息 の 発 作 が 出現 し副 腎 皮 質 ス テ ロ イ ド剤 を併用 し た た め,有 効 性 の 評 価 が で き な か っ た の で,本 症例 を除 く23例 に て 臨 床 効 果 を検 討 し た。 1)臨 床 効 果 本 剤 の 臨 床 効 果 は23例 中 著 効5例,有 効17例,無 効1 例 で あ り,有 効 以 上 の 有 効 率 は95,7%で あ っ た。 2)細 菌 学 的 効 果 喀 痰 定 量 培 獲 法 に よ り23例 中17例 に お い て,起 炎菌 が 決 定 さ れ た 。17例 の 喀 痰 か ら分 離 され た19株 につい て の 本 剤 の 細 菌 学 的 効 果 は,グ ラ ム 陽 性 菌 で はStaphylo-coccus aureus 5株 中 の3株, Corynebacterium sp, の1株 が消
失 し た 。 グ ラ ム 陰 性 菌 で はHaemophilus inflmmaeの3株, Haemophilus parainfluenzae の3株, Klebsiella pneumoniae の1株, Pseudornonas aeruginosa 3株 中 の2株,お よ び Pseudomonas sp., Xanthomonas maltophilia, Flavobacter-imsp.の 各1株 が 消 失 し た 。 全 体 で は,起 炎 菌 の 消 失 率 が84,2%(16/19)で あ っ た 。 3)安 全 性 24例 中.全 例 に 副 作 用 は 認 め な か っ た 。 ま た,本 剤 に よ る 臨 床 検 査 値 の 異 常 は,1例 にS-GOTお よ びS-GPT の 軽 度 上 昇 が 認 め ら れ た が,投 与 終 了 後 の 追 跡 に て 正常 に 復 し て い る こ と を 確 認 し た 。 皿.考 察 Ohmoriら6)の 報 告 に よ れ ば,GPFXの ラ ッ トに お け る 肺 組 織 移 行 は 他 の ニ ュ ー キ ノ ロ ン 薬 よ り も 極 め て 高 か っ た 。GPFXの ピ ー ク 血 中 濃 度 に 対 す る 最 高 肺 組 織 濃 度 の 比 は6.86で あ っ た の に 比 し,同 時 に 検 討 し たnor且oxacin (NFLX)で は0.78,0FLXで は0.68,enoxacin(ENX)で は
1,14,CPFXで は1.06と 低 か っ た 。 ま た,ラ ッ ト に お け る気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 中 へ の 移 行 比 も,GPFXで0,89, NFLXで0.06,0FLXで0,18で あ り,GPFXの 移 行 性 が 優 れ て い た 。 動 物 実 験 の 成 績 に基 づ き,私 共 はGPFXの ヒ トにお け る肺 組 織 喀 疾,胸 水 中 へ の 移 行 性 が 優 れ て い る と の仮 説 を た て,呼 吸 器 疾 患 患 者 に お け る 本 剤 の 体 内
Table 2-2. Clinical summary of grepafloxacin treatment
Table 3. Clinical effect of grepafloxacin
Table 5. Laboratory findings in patients before and after administration of grepafloxacin
動 態 に関 す る研 究 を行 って きた 。 今 回 は,肺 組 織 移 行 を 検 討 す る前 段 階 と して,胸 水 貯 留 患 者 に お け る胸 水 中 移 行 を検 討 した 。Table1に 示 す 今 回 の 成 績 を,少 数 例 で の 報 告 で は あ る が,fleroxacin(FLRX)7)お よ びsparno-xacin(SPFX)8)と 比 較 す る と,必 ず し もGPFXの 胸 水 申 移 行 性 が 優 れ て い る とは い え な い 。この1つ の 原 因 と して, 次 の よ う に考 え られ る 。Tairaら9)の 報 告 で は,GPFXは ヒ ト好 中 球 内へ の 高 い 移 行 性 が 証 明 さ れ た 。 細 胞 外 濃 度 が5μg/mlの 実 験 で は,37℃,30分 間 培 養 後 に お け る生 細 胞 の 細 胞 内 濃 度/細 胞 外 濃 度 比(1/Eratio)は,GPFXが 66.2,0FLXが7.6,levofloxacin(LVFX)が7.9,DR-3354が5.8と な り,GPFXの 細 胞 内 移 行 性 は 高 か っ た 。 今 回胸 水 中移 行 を検 討 した 症 例 で は 胸 水 中 の 細 胞 成 分, 特 に好 中 球 が 少 な い た め,胸 水 中 移 行 が 低 か っ た もの と 考 え られ る 。 今 後,好 中球 成 分 の 豊 富 な胸 水 中へ の 移 行 を検 討 した 上 で,結 論 を 求 め た い 。 な お,現 在 私 共 は 同 一 呼 吸 器 疾 患 患 者 に お け るGPFXの 喀 疾 中 移 行 と肺 組 織 移 行 を検 討 中 で あ る。 今 回 臨 床 的 有 用 性 の 検 討 対 象 と した患 者 は,外 来 患 者 で は あ っ て も入 院 歴 の あ る 患 者 が 多 数 含 ま れ て い た た め,典 型 的 なcommunity-acquiredと 考 え られ る 呼 吸 器 感 染 症 の 起 炎 菌 は 少 な か っ た 。 特 に,今 回S.pneumoniaeを 起 炎 菌 とす る症 例 が な く,こ の 点 につ い て は 今 後 さ ら に 検 討 を加 え た い。 前 述 の患 者 背 景 に よ り,今 回 の 起 炎 菌 は,methicillin-resistant S. ameus(MRSA), Paemginosa,
Xmaltophi-liaな どの 院 内 感 染 と 関 連 す る 菌 種 も含 ま れ る結 果 と な っ た が,起 炎 菌 の 消 失 率 は,起 炎 菌 の 種 類 と患 者 背 景 を 考 慮 す れ ば,84.2%と 高 く,有 効 率 も95.7%と 極 め て 優 れ て い た 。 安 全 性 に も臨 床 上 全 く問 題 点 は な く,GPFX は,呼 吸 器 感 染 症 に対 す る 臨 床 的 有 用 性 の 高 い ニ ュ ー キ ノ ロ ン薬 で あ る と結 論 され る。 呼 吸 器 感 染 症 の 第1選 択 薬 で あ る か 否 か は,経 口 β一ラ ク タ ム 薬 との 厳 密 な比 較 試 験 を行 っ た 上 で結 論 す べ きで あ る。 文 献
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new developed fluoroquinolone, OPC-17116, by
human polymorphonuclear leukocytes. Antimicrob
Penetration
into
pleural
fluid
and
clinical
evaluation
of grepafloxacin
for
respiratory
tract
infections
Harumi Shishido, Koji Hayashi, Hideaki Nagai, Shuji Miyake, Kenji Kawakami,
Atsuyuki Kurashima and Koji Satoh
Department of Respiratory Diseases, Tokyo National Chest Hospital 3-1-1 Takeoka, Kiyose, Tokyo 204, Japan