Bull. Equine Res. Inst. No. 17, 1-7 (1980)
競 走 馬 の 管 骨 縦 骨 折 と 軟 膏 下 骨 硬 化-管
骨 縦 骨 折2例
の 管 骨 の 検
索-兼 子 樹 広*・ 桐 生 啓 治*・ 及川 正 明*・ 索-兼 丸 卓 美*§
山本
剛**§・佐藤 博***
Longitudinal Cannon-Bone Fracture and Su bchond ral Osteoscierosis in the Racehorse An Examination of the Cannon-Bones of Two Cases with
the
Fracture-Mikihiro KANEKO,* Keiji KIRYU,* Masa-aki OIKAWA,* Takumi KANEMARU,*•˜ Takeshi YAMAMOTO,**•˜ and Hiroshi SAToH***
In 2 racehorses spontaneously affected with longitudinal fracture of the cannon bone, each of the distal articular portions of both third metacarpus (four Mc ‡V) and metatarsus
these portions of Mc ‡V and Mt ‡V, there existed focal lesions consisting of cartilage concave and ulcer on the articular surface, and osteosclerosis and osteosis in the subchon doral cancellous bone. The fracture line of the cannon bone appeared to run through
such focal lesion in both animals.
馬 の管 骨 縦 骨 折 の病 理 形 態 学 に関 す る報 告 は これ ま で に殆 ど見 られ な い.そ れ 故,球 節 部 疾 患 に 関す る研 究 の一 つ の足 掛 り とす る た め に,病 理 材 料 と して は不 完 全 で は あ るが,管 骨 縦 骨 折2例 に つ い て病 理 組 織 学 的 検 索 を行 な って み た. 検 索 材 料 な らび に方 法 症 例1(EHL-605) サ ラ ブ レッ ド種 牡, 4歳7カ 月 齢.競 走 歴 は22 カ月 間, 31回 の 出走.競 走 中 に左 側 の第 皿 中 手 骨 (Mc皿)遠 位 部 の縦 骨 折 を起 した. 症 例2(EHL-604) サ ラ ブ レッ ド種 牝, 4歳8カ 月 齢 競 走 歴 は24カ 月 間, 22回 の出 走 。 競 走 中 に右 側 の第 Ⅲ 中足 骨 (MtⅢ)遠 位 部 縦 骨折 を起 した.既 往 に右 側McⅢ 遠 位 部 縦 骨 折 が あ った. これ らの2例 は骨 折 直 後 に サ ク シ ン静注-電 殺 され, 後 約2日 間,-4℃ に保 存 され,剖 検 に附 され た.
昭 和55年5月15日 受 付 Received for publication May 15, 1980. * 日本 中央 競 馬会 競 走 馬 総 合 研 究 所 〒154東 京 都 世 田 谷 区 弦 巻5丁 目 27番7号
Equine Research Institute, Japan Racing Association. 27-7, Tsurumaki 5 chome, Setagaya-ku, Tokyo 154 JAPAN.
** 日本 中 央 競馬 会 東 京 競 馬 場
Tokyo Racecourse, Japan Racing Association. *** 北 海 道 大 学 獣 医 学 部 比 較 病 理 学 教 室
Department of Comparative Pathology, Faculty of Veterinary Medicine, Hokkaido University.
§ 現 勤 務 地 日本 中央 競 馬 会 美 浦 トレ ー ニ ン グ ・セ ン タ ー Present address: Miho Training Center, Japan Racing Association. 本 研 究 は昭 和49年 度 日本 臨 床 獣 医 学 会(東 京)に おい て発 表 し た.
This paper was read before the Meeting (Tokyo Regional Divi-sion) of the Association of Japanese Clinical Veterinarians in Tokyo, 1974.
-1-(by means of Fuji Softex Film FG 45cm, 40kVp 180mAs). In all the instances of
(fourMtIII),
includingthefractured feet,rwas.studiedpathologically andradiographically管 骨 の検 索方 法 症 例1な らび に2の 計8肢 のMcⅢ 及 びMtⅢ 遠 位 端 部 は 約3-5mmの 厚 さに矢 状 あ るい は 横断(水 平)に 鋸 断 され た.鋸 断 切片 は 中性 ホ ル マ リ ン液 に 固定 後,軟 X線 発生 装 置(Softex-CMB型,ソ フ テ ッ クス株 式 会 社 製)で40kVp, 3mA, 45cm, 1分 の条 件 下 で撮 影 さ
れ た.用 い た フ ィ ル ム はFuji Softex film FGで あ っ た.
組 織 学 的 検 索 の た め に 鋸 断 切 片 をR. D. O.脱 灰 液 (Du page Kinetic Laboratories, Inc.,)で 脱 灰 後,パ ラ フ ィ ン包 埋 し, 5-7μmで 薄 切 した.染 色 に は エ ー ル リ ッ ヒ ヘ マ トキ シ リ ン ・エ オ ジ ン,ワ ン ギ ー ソ ン な ら び に マ ッ ソ ン の ト リ ク ロ ー ム 染 色 を 用 い た.
Fig.
1. Distal
end of third metacarpal bone (Mclll)
with longitudinal
fracture
Frontal
section
3mm in thickness
includes
a fracture
line
which seems to run through a focal
lesion
(dark).
Areas surrounding the lesio
nappear to be osteosclerotic,
The same lesion
as this is
located
on the other side (arrow).
Case No, 1.
Fig.
2. Radiogram of Fig.
1
-2-成 績 管 骨 遠 位端 の 肉眼 な らび に軟X線 像 1) 骨 折 症 例1:左 側 のMcⅢ 遠 位部 完 全 縦 骨 折,近 位 種 子 骨 複骨 折,な らび に 中手 指 節 関節 脱 臼. McⅢ 骨 折 の骨 折線 は長 さ約8cmで,遠 位 関 節 面 外側 滑 車 の 縦稜 に近 い 中 間部 か ら斜 め矢 状 面 をつ く りMcⅢ の 近位 に 向い 外側 緻 密 質 に達 して いた.骨 折線 上 の関 節軟 骨 部 分 は 軟骨 欠 損 を して いた((Figs. 1, 2), 症 例2:右 側MtⅢ 遠 位 部 完 全縦 骨 折,基 節骨 複 骨 折,な らび に 中足 趾 節 関節 脱 臼. MtⅢ 骨 折 の骨 折線 お よび 関 節軟 骨 部 分 は 症例1 とほ ぼ 同様 所 見 で あ った(Figs. 3, 4).
Fig. 3. Distal end of right third metatarsal bone (Mt ‡V) with longitudinal fracture
Frontal section (3mm thick) shows a fracture line similar to one of Fig. 1. Case No , 2. Fig. 4. Radiogram of Fig. 3
-3-2) 関 節 軟 骨 McⅢ お よびMtⅢ の滑車 掌側 部 に お け る軟 骨表 面 に径0.3-0.5×0.7-1.5cm,限 界 や や 明瞭,灰 白色 調 あ るい は灰 黄 褐 色調 の,軽 度 に粗 糧 な領域 が散 在 し て いた.こ の よ うな軟 骨 病 巣 は 時折 軟 骨 の 陥 凹 を伴 っ て いた.軟 骨 陥 凹 巣 は 深 さ0.3cmに 達 して い た(Fig. 5).骨 折 線 上 の軟 骨 欠 損 部分 に も上述 した 軟 骨 病巣 が 存 在 して い た よ うに 見 受 け られ た. 3) 関節 軟 骨 下 海綿 質
Fig. 5 Distal end of right Mc ‡V without fracture
Frontal section (3mm thick) shows a concave and ulcer (arrow) of articular cartilage surrounded by osteosclerotic bone tissue (double arrow). Case No. 2.
Fig. 6. Radiogram of sagittal section (3mm thick) of distal end of right Mc ‡V
It shows a focal lesion with fissure formation in the tissue beneath articular cartilage. Case No. 1.
症 例1のMcⅢ お よびMtⅢ の全 内外 側 滑車 部,
-4-な らびに 症例2の 両 側McⅢ お よびMtⅢ の外 側 滑 車 部 に次 の よ うな病 巣 が観 察 され た.そ れ は 関節 軟 骨 下 海 綿 質 に お け る軟X線 透 過 度 減退 を示 す 広 範 な緻 密 化 であ った.緻 密 化領 域 は1.1-2,2×2.0-2.6cm,限 界不 明瞭 で 概 ね類 円形 あ るい は半 円形 を呈 して い た. 緻 密 化 の 程 度 は 関節 軟 骨 に近 づ くにつれ 大 で,内 側 滑 車 よ り外 側 滑車 に おい て 大 で あ った. 上 述 の 関 節軟 骨 病 巣 に接 す る部 分 で は骨 緻 密 化 の程 度 は弱 くな り,軟x線 透 過 度 も増大 して い た(Fig. 6). こ の よ うな 部分 は限 界 不 明瞭 で,半 円形 あ るい は 円形, 径0.5-1.6×1.0-1.7cm,汚 な い黄褐 色調 あ るい は黒 褐 色調 の病 巣 と して観 察 され た. 症 例2のMcⅢ 外 側滑 車 には 縦骨 折 治 癒線 が あ っ た,そ の 存在 位 置 は上 述 症 例1のMcⅢ にお け る も の と殆 ど同 じで あ った, 管 骨 遠位 端 の病 理 組 織 像 全8肢 のMcⅢ な らび にMtⅢ の各 内外 滑 車部 の 全 ては 関 節軟 骨 下 海 綿 質 が種 々 の程度 に骨 硬 化 を表 わ し,緻 密 質 に類 似 した組 織 構 造 を 呈 して い た(Fig. 7).
Fig. 7. Subchondral osteosclerosis of distal end of right Mt ‡V
The structure of substantia spongiosa looks like that of substantia compacta. Case No. 1. Hematoxylin and eosin (HE) staining,•~21.5
Fig. 8. Area corresponding to the focal lesion in Fig. 5
The lesion reveals clefts in articular cartilage and subchondral bone tissue. The cartilage is proliferative and degenerative. The substantia spongiosa surrounding clefts is affected with osteosis and
osteo-sclerosis, Case No. 1. HE staining,•~20.7.
肉眼 的 に 見 られ た陥 凹 を伴 う関 節軟 骨 病 巣 部 の軟 骨 組 織 は,軟 骨 細胞 の消 失,細 胞 質 の 強 い エオ ジ ン染 色 性 お よび 軟 骨 基質 の水 腫 か ら成 る変性 変 化 を示 して い た,ま た 軟 骨組 織 には 菲薄 化 お よび 亀裂 形 成 が あ った. この陥 凹 は 明 らか に海 綿 質 に及 んで いた(Fig. 8).陥
-5-凹 のみ られなか った病巣 においては,し ば しば関節軟 骨 の限局性肥厚 あ るいは菲薄 化がみ られ,軟 骨組織 に は質的 に陥凹部 と同様 な変化(変 性)が 見 出 され た. この ような軟骨病 巣 に接す る軟骨下海綿 質病巣 は骨組 織 の壊死 を含 んで いた(Figs. 9, 10),壊 死部分 の骨組 織 は硝子様,均 質,な らび に無構造 とな り,時 に黄褐 色 色素 の沈 着を伴 っていた.壊 死部分 は時折周 囲に線 維芽細胞性反 応 を伴 っていた.
Fig. 9. Area corresponding to the focal lesion in Fig. 6
Fissure, including debris, is surrounded by osteosclerotic tissue. Case No, 1, HE staining,•~20.7. Fig. 10. Area corresponding to the fracture line in Fig. I
Although the fracture line is fresh, the changes of osteosclerosis and osteosis seem to be along the fracture line, Case No. 1. HE staining,•~20.7.
その他の病理組織 像 全8肢 の指 ・趾動 脈分枝 において,内 膜 の水腫性粗 鬆化,あ るい は内膜 の線 維性肥厚 が観察 された. 全8肢 の指 ・趾神 経にお いて,し ば しば神経線 維 の 巣状脱 落が観察 された,脱 落 巣の変化 は多 くは比較 的 陳 旧であ った. 考察 とま とめ 左 側McⅢ(症 例1)と 右側MtⅢ(症 例2)の 各 遠位 部縦骨折 の2例 の管 骨全8肢 の遠位端関節軟 骨下 海綿 質に骨硬 化 と巣壊死 が観察 され た.巣 壊死 は関節 軟 骨の病巣 に接 して存在 していた.骨 折線 はこの病巣 を通 って い るようにみえた. 今回の2例 の管骨遠位 端 につ いての検索 は管 骨縦骨 折に関 してい くつ かの間題 を提起 してい る.す なわ ち (1)骨 端 海綿 質 の骨硬 化 ならび に巣壊死 お よび関節軟 骨 における深 くかつ大 きい陥 凹病巣 は,こ の骨折 にと って素 因的条件 とな るな らば,骨 硬化 な らびに骨壊死 病巣 の生 前 における臨床診 断法の確立 が必 要で ある. (2)一 般 にこの管骨縦骨 折は遠位部 の内側滑 車 よ りも
-6-む しろ外 側 滑 車 に起 る. 1-4)2例 に お い て,外 側 滑車 の 骨 緻 密 化 の程 度 は 内側 滑 車 の それ に比 較 して大 で あ る 傾 向 を示 して い た.し か し,こ れ は馬 の管 骨 に お け る 生 物 力 学 的 解 釈 で 説 明2-5)さ れ 得 るか 否 か疑 問 を残 し て い る.ち な み にRooneyに よれ ば骨 硬 化 部 位 は力 学 的 に 勢 断 力 に 対 して 脆 弱 で あ る とい う.6)ま た,馬 の 手 根 骨 骨折,6)人 の腓 骨,第1・ 第 Ⅲ 中足 骨 骨 折,7)お よ び馬 の 管骨 の 実験 的 負 荷 試 験8)の な か で 論 ぜ られ て い る疲 労性 骨 折 あ る い は ス トレス骨 折(fatigue fracture or stress fracture)は 骨 硬 化 部 に発 生 し易 い とも い われ て い る. (3)今 後,更 に軟 骨 下 骨 組 織 の骨 硬 化 お よび 骨 壊 死 病 変 の相 互 間 の 関係,お よ び そ れ らの形 態病 理 発 生 に つ い て解 明 して い く必 要 が あ る. この論文作成 にあた り,御 懇切 なる御校閲 を賜 わった東京 大学農学部畜産獣医学科 臼井和哉教授,竹 内 啓助教授 に 深謝 します.ま た標本作製 にあた り,協 力頂 いた競走馬総合 研究所病理研究室 吉原豊彦主査,小 林国男主査,長 谷川充 弘氏,富 岡義雄氏,高 屋政夫氏,渡 辺知香子嬢 に感謝す る.
引
用
文
献
1) Adams, O. R. 1976. Lameness, p. 215-217. In
Lameness in Horses. 3rd ed. Lea and Febiger,
Philadelphia.
2) Alexander, J. T. and J. R. Rooney. 1972. The
biomechanics, surgery and prognosis of equine
fractures. 1961-1971. Proc. 18th Annu. Conn. Amer.
Ass. Equine Practnrs 219-236.
3) Rooney, J. R. 1974. Distal condylar fractures
of the cannon bone in the horse. Mod. Vet. Pract.
2, 113-114.
4)
Meagher, D. M. 1976. Lateral condylar fractures
of the metacarpus
and metatarsus
in horses.
Proc. 22nd Annu. Conn. Amer. Ass. Equine Proctors
147-154.
5) 農 林 省 畜 産 局 競馬 部. 1953.運 動 器 の故 障 .
119-125頁,馬 の 運動 器 の機 構 と故 障.農 林 省 畜 産 局,
東 京.
