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フィリピンの高等学校における経済教育の現状と課題

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Academic year: 2021

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26 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告

Ⅰ.はじめに

 フィリピンでは海外へ出稼ぎに行く労働者の数が約 1000 万人いる。海外出稼ぎ労働者(OverseaFilipino Worker:OFW)が同国内の家族へ送金した額は名目 GDP の 10%を超え,2012 年の送金総額は 213 億 9100 万アメリカドルであった。正確に海外からの送金額を 把握できず,実際はこの金額を大きく上回っていると 言われている。専門職につく OFW は医師や看護師, エンジニアとしてアメリカやカナダで働く。両国から フィリピンへの送金額は海外からの送金総額の多くを 占める。このため,GDP と GNP の差は大きくなる。 また,フィリピン人の貯蓄意識が低いことから OFW の送金は国内消費を拡大させ,消費は GDP の約 8 割 を占める。消費が経済成長をけん引し,2013 年の同 国の経済成長率は 7.2%と好調であった。  OFW の増加の背景には,フィリピン国民の英語運 用能力が高いことと,国内の雇用情勢の悪化している ことと,外貨獲得を目的とする国策としての海外就労 制度がある。加えて,社会,経済,文化の急速なグ ローバル化も相俟って同国の海外出稼ぎ労働者数は近 年上昇傾向にある。  OFW は外貨で所得を得て,自分の家族の生計を支 えている。フィリピン人の多くは家族を大切にし,そ の絆が強いことから,一家の大黒柱となった OFW は 必ず自分の家族へ送金を欠かすことない。このような 経済社会環境の下では,人々は国内経済事情に加えて, 世界経済の動向や為替レートの変動へより強い関心を 寄せる。そのため,経済を読み解く基礎的素養の習得 は必要不可欠となる。本研究ではラグナ州内の公立高 等学校における経済教育の現状を調査することを通じ て,学習内容を吟味し,その特徴と課題を明らかにす ることに努めたい。

Ⅱ.学習内容について

 フィリピンの高等学校では,社会科の科目として, 経済学,フィリピン史,アジア史,世界史を開設して いる。小学校では,社会科,生活・技術,道徳,芸術, 体育等を包括した科目としてマカバヤン(Makabay-an)が配当されている。経済学の教科書はタガログ 語で書かれており,授業も主としてタガログ語を使用 する。高校生は経済学を 1 年間学習する。経済学の授 業時間数について,同一の生徒が午前 7:30 から午後 4:30 まで学習できる通常校では 1 コマ 60 分週 4 回,深 刻な教室不足の為に 1 日に生徒が入れ替る二部制の実 施校では 1 コマ 45 分週 5 回,それぞれ経済学の授業が 行われている。人口増加と財政難のため,教室数の不 足が常態化しており,二部制実施校数は多い。今回調 査させて頂いた高等学校も二部制であり,1 クラスの 生徒数は 50 〜 60 名前後であった。  表 1 では経済学の学習項目と配当時間を示している。 同国の学校年度は 6 月に新学期が始まり,翌年 3 月末 頃に修了する。4月と5月は休暇期間である。1年間を 四つの期間にわけて授業が行われ,教員は各期に試験 を実施することで生徒の学習到達度を確認する。四半 期ごとに経済学の学習項目を説明する。  1 期(FirstQuarter)は 6 月第 2 週から 8 月第 2 週 までである。Chapter1 では,経済学の社会科学とし ての位置づけ,経済学の守備範囲,フィリピン国内経 済状況と経済学の重要性,Chapter2 では植民地時代 前,スペイン植民地時代,アメリカ統治時代,第二次 世界大戦の各期間の経済状況,Chapter3 では国内の 天然資源と人的資源,人口構造,労働力,環境保全, Chapter4 では経済学の根本の問題である希少性, Chapter5 ではニーズ(Needs)とウォンツ(Wants) の違い,Chapter6 では消費者行動を学習する。  2 期(SecondQuarter)は 8 月第 3 週から 10 月第 3

フィリピンの高等学校における

経済教育の現状と課題

The Journal of Economic Education No.33, September, 2014

The Current Situation and Problems of Economic Education in Philippine High Schools

Sasaki, Kenichi

佐々木 謙一(北海道教育大学)

The Japan Society for Economic Education

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経済教育33号  27 週までである。Chapter7 では配分,Chapter8 では 生産と生産要素,Chapter9 では需要と供給の法則, 需要と供給の変化,価格弾力性等のミクロ経済学の基 礎を学習する。  3 期(ThirdQuarter)は 11 月第 1 週から翌年 1 月 第 1 週までである。Chapter10 では国民所得勘定,物 価,財政・金融政策等のマクロ経済学の基礎,Chap-ter11 ではインフォーマル部門,Chapter12 では農業, 鉱業,漁業,林業,Chapter13 では工業等を学習す る。  4 期(FourthQuarter)は 1 月第 2 週から翌年 3 月 第 3 週までである。Chapter14 では公共部門,Chap-ter15 で は 国 際 貿 易,Chapter16 で は 経 済 成 長, Chapter17 では経済開発の応用分野について学習す る。なお,表 1 の右側で記載した配当時間数は,二部 制実施校のものである。

Ⅲ.K-12 と経済教育

 2011 年まで大学入学前教育を小学校の 6 年間と高校 の4年間で構成される10年制で実施していた。国際標 準は 12 年制であるので,他国に比べてフィリピンの 大学入学前教育年数は二年足りない。このことが同国 の高等学校を卒業して外国の大学に入る際の弊害に なっていた。しかし,2012 年から K-12(K-12Basic EducationProgram)と呼ばれる新しい教育制度が導 入され,同国政府は小学校 6 年間(Grade1 〜 Grade6) と高校 6 年間(Grade7 〜 Grade12)からなる 12 年制 を採用した。新たに 2 年間の就学を追加した高校にお いて,Grade7 から Grade10 までの低学年をジュニア ハイスクール,Grade11 と Grade12 の高学年をシニア ハイスクールと,それぞれ位置付けた。K-12 の K は Kindergarten の頭文字で,K-12 は就学前教育の義務 化を含む教育制度である。  現在は旧制度から K-12 導入への移行期にあたり, 旧制度の下で入学した児童・生徒が卒業を迎えるまで の数年間は 16 歳の卒業生を高校から送り出すことに なる。その後,K-12 で就学した高校卒業時の年齢は 18 歳となるため,諸外国との教育制度の違いにより 生じた弊害はじきに解決されるであろう。労働力輸出 大国と呼ばれる同国における K-12 の実施は,大学入 学資格の問題を解決するだけでなく,海外での就労の 可能性を高める。さらなる海外出稼ぎ労働者数の増加 は同国の人々にとって,経済教育の重要性を益々意識 せざるを得ない。高等学校の就学期間を 2 年追加する ことで,授業内容の充実を図ることができる。K-12 の実施に伴い就学する児童・生徒の数が以前よりも増 加し,教室数の不足等の課題の深刻化は懸念されるが, K-12 の下でより多くの生徒が経済学の基礎的素養を 習得することが期待される。 表 1 フィリピンの高等学校(二部制)における経済学の学習内容 学期 学習項目 時間 1 期

Chapter 1  Principles of Economics 15 Chapter 2  Economic History of the Philippines 12 Chapter 3  Philippines Resources 10

Chapter 4  Scarcity 4

Chapter 5  Needs and Wants 4 Chapter 6  Consumption 8 2 期 Chapter 7  Allocation 9 Chapter 8  Production 11 Chapter 9  Microeconomics 30 3 期 Chapter 10 Macroeconomics 27 Chapter 11 Informal Sector of the Economy 4 Chapter 12 Agriculture, Mining, Fishery and Forestry 19 Chapter 13 Industry and Trading 17 4 期

Chapter 14 Public Sector 3 Chapter 15 International Trading 27 Chapter 16 Changes Towards Economic Growth and Development 10 Chapter 17 Local and International Issues on Economic Development 4 出典:聞き取り調査結果に基づいて作成

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28 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告

Ⅳ.おわりに

 フィリピンの高等学校における経済学の学習内容に は 2 つの特徴がある。第一に,フィリピンの高等学校 における経済学の学習内容には,経済史,産業,人口 が盛り込まれていることである。これらの学習内容は 日本においては地理分野や歴史分野に該当する。フィ リピンの社会科の科目設置において地理分野はないこ とから経済学の教科書に当該学習内容が含まれている ことが推測される。  第二に,アメリカの高校経済学よりも経済理論分野 の記述が若干詳細に記載されている。フィリピンの高 等学校におけるミクロ経済学の基礎では価格弾力性, マクロ経済学の基礎では 45 度線分析がそれぞれ含ま れる。ゲイリー E. クレイトン(2005 年)著『アメリ カの高校生が学ぶ経済学』では前者の記述はあるが, 後者の記述はない。  K-12 導入により,中学・高校における学習期間を 新に 2 年追加することになった。今後,社会科も含め て大学入学前教育における学習・指導内容を充実させ ていくことが期待される。今後も増え続けていくこと が予想される OFW と海外からフィリピンへの送金額 を考慮すると,経済活動のグローバル化を軸とした高 等学校における経済学の学習内容の充実が求められる。 参考文献 [1] 伊藤元重『入門経済学 第 3 版』日本評論社,2009 年 [2] 教育出版『中学社会 地理 地域にまなぶ』2013 年 [3] 教育出版『中学社会 歴史 未来をひらく』2013 年 [4] 教育出版『中学社会 公民 ともに生きる』2013 年 [5] クルーグマン P., ウェルス R.『クルーグマン ミクロ経 済学』東洋経済新報社,2007 年 [6] クルーグマン P., ウェルス R.『クルーグマン マクロ経 済学』東洋経済新報社,2009 年 [7] Cruz,N.B.,RilloJ.D.,Lim,A.L.,andViloriaE.M.“Eko-nomiks:ManwalngGuroparasaIkaapatnaTaon”,SD Publication,Inc.,2000 年 [8] ク レ イ ト ン G.E.『 ア メ リ カ の 高 校 生 が 学 ぶ 経 済 学 』 WAVE 出版,2005 年 [9] 経済学系教育基準検討委員会『経済学教育に関する基準』 財団法人大学基準協会,2004 年 [10]Sasaki,K.andDiaz,N.T.“WhatShouldTeachersTeachin theSubjectEconomicsforHighSchoolundertheK-12 EducationalPrograminthePhilippines?”,4thPacific-Rim ConferenceonEducation,BusanNationalUniversityof Education,SOUTHKOREA,2013 年 [11]DepEd“BrieferontheEnhancedKto12BasicEducation Program”,TheOfficialGazette-online,http://www.gov. ph/2010/11/02/briefer-on-the-enhanced-k12-basic-educ ation-program/,2010 年 [12]西澤正純「好調なフィリピン経済をけん引する海外出稼 ぎ労働者の送金事情」海外情報レポート,日本商工会議 所 http://www.jcci.or.jp/news/trend-box/2013/101011 0405.html,2013 年 [13]二村泰弘「フィリピンの海外労働者─「出稼ぎ」と貧困 のジレンマ」『「貧困概念」基礎研究 調査研究報告書』 第 7 章,ジェトロ・アジア経済研究所,2005 年 [14]槙太一「OFW,海外送金とフィリピンの経済発展」『京 都学園大学経済学部論集』19 巻 1 号,2009 年,p.79-p.96 [15]根岸てるみ「にわかに盛り上がるフィリピン,その実態 は─フィリピン経済の専門家に聞く」『マネーライフ』 2010 年,http://money.fanet.biz/study/learning/fund/sel ection/159.html

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参照

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