日本認知・行動療法学会 第44回大会 85
-関係フレーム理論によるセルフ・コントロールに対する新たな理解
○上村 碧1)、大月 友2)、嶋田 洋徳2) 1 )早稲田大学人間総合研究センター、 2 )早稲田大学人間科学学術院 本講演においては、セルフ・コントロールのメカニ ズムについて、言語や認知に対する行動分析学的説明 を提供する関係フレーム理論(relational frame theory: 以下、RFT)の観点から新たな理解を試み、 実験的に検討した一連の研究について発表する。 <従来のセルフ・コントロール研究の限界点と本研究 の目的> セルフ・コントロールのメカニズムの理解および支 援技法の提案は、臨床心理学における重要な課題であ る。心理臨床場面においては、セルフ・コントロール の支援技法として、これまで行動随伴性を記述した 「言語」と「行動」の一致を強化する「言行一致訓練」 が広く実施されている。しかしながら、その言行一致 訓練が効果的になされる条件や維持および般化する条 件に関しては、知見が十分であるとは言いがたい現状 が あ る こ と も 指 摘 さ れ て い る(Bevil-Davis et al.,2004)。こうした限界点が指摘される理由として、 従来のセルフ・コントロールの支援技法である言行一 致訓練は、特定の文脈における特定の言語に依拠した 訓練手続きであるため、その効果が示される者と示さ れない者が混在している可能性があると考えられる。 そこで、言行一致訓練が効果的になされる条件を整 理するにあたって、言行一致という状態を、随伴性を 特定する段階とそれが行動に機能する段階として分け てとらえ、その成立条件を明らかにすることは有用で あると考えられる。近年、RFTによって、人間の言語 や認知のプロセスを、複数の刺激同士を関係性に応じ て結びつける「関係反応」といった般化オペラント行 動として記述することによって、人間特有の高次な行 動や精神病理に対する精緻な分析が提供されている (Hayes et al., 2001)。その理論的前提に基づけば、 セルフ・コントロールに含まれる言行一致のプロセス を関係反応の観点から分析し、その成立条件を明らか にすることが可能であると考えられる。言い換える と、「関係反応」といった単位によってセルフ・コン トロールのメカニズムに対する新たな記述を行うこと によって、それらの「関係反応」の訓練が、言行一致 訓練では意図的な訓練ができていなかった言語の「生 成」(随伴性の特定)とその「機能獲得」に対する直 接的な訓練を可能にすることが示唆される。 その一方で、これまで( 1 )関係反応とセルフ・コ ントロールの関連や、( 2 )関係反応と言行一致訓練 を併せた手続きがセルフ・コントロールに及ぼす効果 については検討がされていない。そこで、言語やセル フ・コントロールの発達過程にある児童を対象に、こ れらの点について実験的に解決することを目的とした 一連の研究を実施した。 <関係反応とセルフ・コントロールの関連> 内山記念賞を受賞した論文「児童におけるセルフコ ントロールに対する関係フレーム理論からの理解」 (上村・大月・嶋田, 2016)では、小学 1 年生から 6 年生の児童33名を対象に、実験的に測定された「関係 反応の成立」と「随伴性の特定」、および質問紙によっ て測定された「セルフ・コントロール」との関連を検 討した。質問紙は、児童本人に対する「遅延価値割引 質問紙」と、保護者を対象とする「自己統制尺度」を 用いた。その結果、関係反応が成立した者は、不成立 の者よりも高い随伴性の特定を示した。一方で、価値 割引率や保護者評価においては、関係反応とセルフ・ コントロールの間に関連性が示されなかった。しかし ながら、この研究においては課題の限界点やサンプリ ングの問題があったため、それらを改良の上で両者の 関連の再検討が求められた。 次の研究では、課題の改良とセルフ・コントロール の測定にDelay Taskを追加し、仮説の再検討を行っ た。研究参加者は、小学 1 年生から 3 年生28名であっ た。Delay Taskは、即時小強化と遅延大強化間で選択 を求めるボタン押し課題であり、課題によって集めた コインの枚数をセルフ・コントロールの行動指標とし た。その結果、先行研究と同様に、関係反応の成立と 随伴性の特定との間に関連が示された。また、Delay Taskのコイン総数と価値割引率の双方において、関係 反応が成立した者は、不成立の者よりも高いセルフ・ コントロールを示したが、効果量はDelay Taskのみに おいて大きな値を示し、価値割引率においては中程度 に留まっていた。さらに、保護者評価は天井効果が示 され、関連性の検討ができなかった。 そこで、セルフ・コントロールに困難を抱えると想 定される、通級指導教室に通う児童38名を対象に、両 者の関連性を再検討した。その結果、関係反応の成立 は、随伴性の特定やDelay Taskのコイン総数、および 価値割引率といった、実験課題上におけるセルフ・コ ントロールと関連が示され、効果量も大きな値を示し た。一方で、保護者尺度においては関連性が示されな 内山記念賞日本認知・行動療法学会 第44回大会 86 -かった。 以上の結果から、関係反応の成立と課題場面におけ るセルフ・コントロールに関連性が示されたと言え る。その一方で、児童のセルフ・コントロールに対す る保護者評価とは一貫して関連性が示されなかった。 <関係反応の訓練が言行一致訓練の効果に及ぼす影 響> 先述した研究によって、関係反応の成立とセルフ・ コントロールの間に関連性が示された。このことか ら、次に、関係反応を促進する「関係訓練」の併用が、 言行一致訓練のセルフ・コントロールに対する訓練効 果を補完するかどうかを検討した。研究参加者は、こ れまでの研究に参加し、関係反応の成立が示されな かった児童 6 名(実験群 3 名,統制群 3 名)を対象と した。実験材料はこれまでと同様であり、プレ期、介 入期、ポスト期、フォローアップ期( 1 ヶ月後)にお いて、随伴性の特定とセルフ・コントロールを測定し た。ただし、プレ期は、これまでに参加した研究の値 を用いた。介入期においては、実験群の 3 名は、関係 訓練(複数の範例による訓練)によって関係反応の確 立を行い、統制群の 3 名は待機させた。ただし、ポス ト期におけるDelay Taskは、遅延大強化の随伴性に対 する自己教示を求める言行一致手続きを用いた。その 結果、随伴性の特定に関しては、統制群と比べて実験 群の参加者により大きな得点の向上が示された。ま た、Delay Taskのコイン総数と価値割引率に関して は、統制群の参加者においても、ポスト期にセルフ・ コントロールが向上し、さらにフォローアップ期にか けて維持する者が存在した。しかしながら、双方の課 題において、全ての選択試行において遅延大強化の選 択が示されたのは、実験群の参加者のみであった。そ の一方で、実験群の 1 名において、フォローアップ期 に遅延大強化の選択率が低下し、訓練効果の維持が示 されない者がいた。さらに、保護者尺度においては, 訓練前後による変化を明らかにできなかった。 これらの結果から、関係訓練は、言行一致訓練の効 果を補完する可能性が示唆された。一方で、訓練効果 の維持や般化に関しては、明らかにすることができな かった。 <考察と今後の課題> これらの一連の研究によって、( 1 )関係反応はセ ルフ・コントロールと関連すること、( 2 )関係反応 の訓練は言行一致訓練のセルフ・コントロールに対す る訓練効果を補完する可能性が示唆された。その一方 で、関係反応と日常生活場面におけるセルフ・コント ロールとの関連や、訓練効果の維持や般化については 示されなかった。 関係反応といった般化オペラント行動の観点からセ ルフ・コントロールに対する精緻な分析を行うこと は、より有効な支援方法を提案することを可能にする と考えられる。しかしながら、日常生活場面における セルフ・コントロールの成立や維持や般化と関連する 他の要因の同定も求められる。講演においては、これ らの点について総括し、今後の課題について述べる。 内山記念賞