NII-Electronic Library Service 北 陸 大 学 紀 要 第
20
号 (1996) pp.
353 〜365
1〔
研
究
ノ ー
ト
〕
短
期 日
本
語
コー ス
初級
ク ラ
ス
参 加 (
非漢 字 圏 )学生
の
視 点 を も
と に
:
教 師
と し
て の
学 習
臼
杵
美 由紀
*Perspectives
ofthe
Students
for
the
Short
Japanese
Language
Course
:Learning
as aTeacher
Miyuki
Usuki
* Receivedo
(オobef・
29
,
1996
1
.
はじめ
に短
期 日本 語コー
ス に は,毎
年 姉 妹 校・
友 好 校か ら選 抜 さ れ た学生 が 日 本 語・
日本 文 化を学び に三週 間の 日本 滞 在 を 経 験 する。 今 回 も昨 年に引 き続 き, 筆 者は初 級 特 別ク ラス (非 漢 字 圏 学 習者)
を担 当し た。従来
の外
国 語 教 育の分 野で は,様
々 な教授法
が試
み ら れ その視点
も教師
側の教授
の仕方
にあ っ た。 しか し,
視 点は次 第に教 師 側か ら学 習 者 側に移っ て きてお り,
学 習 者 中 心の授 業や学 習 者 自律 につ い て の論 議 が 盛ん になっ て きてい る。 その論 議の 焦 点は,
学 習 者の学 習 を効 果 的に する に はど うし たらよい か,
そ し て,
教師の果た すべ き役
割は何か にある 。 学習者
の学習 を 考 える 上で,
実 際に学 習 者がその学 習 過 程におい て, どの ような問 題を か かえてい るのか とい う 学 習 者の声を反 映 し, その 視 点を もとに検 討 する とい うことが重 要であろ うと思われ るが , 現 在日本語
教 育 分野では,
こ うした研
究は ま だ数少
ない。
そこ で
,
本 稿のPartl
で は,
コー
ス の授 業 終 了 後,参
加 学生 ひ とりひ と りにイン タ ビュー
を 行 なっ た記 録 を もとに,
学 習 過 程にお ける学 習 者の視 点 を探る。
Part2
では,
こ う した学 習 者 の生の声か ら,
短 期日本語
コー
ス に お け る授業
のあ り方
や教 師の役
割 を検
討し,今後
の課題 に つ い て考 察を行 な う。 そ して さい ごに, 教 師と して学ん だこ とにつ い てもふ れたい 。2
. 先 行研
究
(1> 学 習モ デ ル効 果 的 な 学 習は, 学 習 者 が 自 己の 学 習の 認 知 過 程 (cognitive
process
) を 意 識 する とい うメ * 国 際 交 流セ ンター
International Ex(:hange Center
353
2
臼 杵 美 由 紀 タ学 習に関わ りを持
っ てい る。 メ タ学 習 と は, 学 習 者 が 学 習 活 動を通 して 自分 自 身 をモニ ター
(
monitor)
し,
自 分 がその 学習 か ら何
を欲 したい か を 思考
し てい くこと を意
味 する (Biggs
&Telfer,
1989
)。 そして, こ の メ タ学 習 を 行 な うこと は,
学習者 が 自 己 内 省 を も とに自律 学
習へ向
かう
こ と を導
くもので あ る。Biggs
&Telfer (
1989
)
は,
抽 象 的で 目に見え
ない 「学 習 」 をモ デル化 し, そのプロ セ スを 明 示 し た 。 こ の 学 習モ デ ル は,3P
モデ ル と呼
ば れ,
学 習前
段 階一
学 習 過 程一
学 習生 産(
presage −process −product )
の 三段 階に分 けら れ る (図1
)。 こ の 説に よ れ ば, 学 習の 質(
quality
oflearning
)は,
常に この 三つ の要素
が関 連 し合
っ て成り
立っ て おり
,特
に学
習動機
は
学
習過程
さ ら に は学
習結
果に深 く影
響 してい る とする。学 習 動 機には, 資 格や単 位 取 得, 学 業 成 績 な ど学習 目的 を外 的 要 因に置 く外 的
動機 (
extrinsicmotivation
)
と学
習者
の興味 ・
関心な ど内 的 要 因に基づ く内 的 動 機 (intrinsic motivation )がある こと は よ く知ら れてい る。 Gardner & Lambert (
1959
)は外国語 教 育の学習動機
に おい て,
さ ら に外的 な もの と して, 資
格
や学業
上の単位
な ど学 習 者の将 来に有 益なこ と を目的とする とい う意 味の道 具的
学
習動機 (
instrumental motivation )と, 内 的なもの とし て , 学 習 者の興 味や コ ミュ ニ ケー
シ ョ ン したい とい う要 求 などを持 ち 合わ せ た統 合 的 学 習 動 機 (integrative motiya 匸ion
)を提 示し た。
3P
モ デル で は, 学 習 動 機が外 的 な要因か ら成る場合,表
面的で暗
記 中心 の部 分的 細切れ学 習に終始
し,内
的要 因か ら 成 る場 合,
メ タ学 習を含み, 深 く全体を見 通 し た質の高い 学 習につな が る と して い る。
(図)
Presage ProceSS Product
The person factors
Personal
Characteristics
of LearnersSituational
andInstitutionalConstraints
照 し,NII-Electronic Library Service 〔研 究ノ
ー
ト〕短 期日本語コー
ス初 級ク ラス参 加 (非 漢字 圏 〉学 生の視 点 を も とに :教 師 と しての学習3
(2)学
習過程 と自律
へ の意識筆 者は
,
学 習 動 機 が 学 習 過 程の質
を 決 定 する とい うBiggs
& Telferの理論
につ い て次
の よう な疑 問を抱い てい る。ま ず,
自律学
習の実
践が学
習動機
を強化
し,
よ り内
的 動 機を高
め る (Dickinson
,1995
) とし て も, その逆 が 果た して成 立 するのかとい うこ とである。 内 的 学 習 動機
の強い 学 習者
が 自 律 学 習者
と イコー
ル であ
る とは限ら ない という
の が筆 者の 持 論である。た とえ 内 的動 機が強 くても,
それに自律に対 する意 識の 強ざ, 自律 性の高さ が加わ ら ない 限 り, その 学習者は真
に自律
学 習 を実行
しえ ない と思 わ れ るの で あ る(
臼杵,1996
,b
;Usukil996
)
。 もう一
点は , 学 習 者は 様々 な 学 習 動 機を同 時に持 ち 合わ せて お り,
単に程 度の 差で あっ て,
一
概に個々 の 学 習者
を 内 的動機
を持
つ,
あるい は,外的動機
を持
つ学
習 者という
位 置づ けが明確
には で きない という
こ とである (Brown,
1981
;Ellis,
1986
;臼 杵,1996
a,
b
)。以 上の こ と か ら
,
筆 者は, む しろ学 習 者 自身の 学 習 経 験 が 自 己の 学 習に対 する視 点や概 念を 変えてい くの では ない か と考
える。学
習経験
を通 して,
学 習 者は学 習 内 容は もち ろん,
学習の仕方
や学
習ス トラ テジー,
さ らに自
己 をどう
コ ン トロー
ル してい くか を学ぶ。 こう
し た経 験は 学 習 者の学 習 動 機に大 き く影 響 を与 え,
その 後の 学 習 過 程 をどうた どるかにつ な がっ て い くの ではない か と考 える。
上記の考 えをもとに本 稿は
,
学 習モ デル を念 頭に置き,、
短 期日本 語コー
ス に参 加 し た初 級 日 本 語 学 習 者 (非 漢 字 圏 学 習 者 )の視 点を探る。 そ して, 日本 滞 在 期 間 中の 学 習 経 験によっ て彼 らが 自らの 視 点 をどう変 え,
その 経 験が学習動 機に ど う影響
し てい る か を 知 る (1
’artl
)。 さ ら に,
学 習 者の 過 去の学 習 経 験をふ ま え,
新 しい 学 習 経 験 と して の短 期コー
ス授 業を考える上で の授
業の あ り方や担 当 教 師の役 割につ い て今 後の検
討 課題(
Part2
)を 述べ ,筆
者の 教師
とし ての 学 習にもふれ る。
Part
1
.
短期 日本 語
コー
ス参加 学 習者
の視 点
3
. ケ ー
ス・
スタデ
ィ学習過程
に お け る学習
経
験
対 象となっ たの は
,
成 人 学 生5
名である。
日本 語は選 択 科 目 と して2 〜
3
年 履修
を続けて い るが,
日本語
はい ずれ も初級レベ ル で あ る。6
月 末,
コー
ス 終 了 時,
個々 に英 語で の イン タ ビ ュー
を行っ た。 その インタ ビュー
を録 音 し,
文 字 化 した もの を さ らに本 稿の ため に 日本 語 訳 し た。 この イン タビュー
で は,
主に漢 字 学 習が中心の話題 にな っ た。学習
前
段 階 :教育機
閧/私 的 問題 (PRESAGE Institutional
/Personal
Constraints
)(
D
自
国に おける日本 語 学 習の 弊 害自 国の大 学で は, 専門科 目
(専門 は 日本
語
で はない)
の履修
が主であり,語学
関係
の科
目にはあ ま
り
重 きが置か れてい ない 。355
4 臼 杵 美 由紀 学生A 「
一
週間の うち 三 回,
一
時間の 日本語授 業がある。一
日の ス ケジュー
ル の中で 日本 語の勉 強のた めの時 間 を見つ け 出 すのは容 易で はない。
僕 達は本 当に時 間 が ない。
」 学生B 「自分の専 門科目が日本 語よ りずっ と大変だ。 だ か ら,
日本語の勉 強に時間 を 裂 くこ とがあ ま り でき ない。 ふ と気がつ くと,
自分の 気 持 ち が 自然に 日本 語 以外の科 目に向い て し まっ て い る。」上
記
の よ う な大 学の コー
スその もの の問 題 と並 行 して, 日本 語 を 学 習 するた めの環 境に もあ ま り恵 ま れてい ない こ と が学 習を よ り難しくしてい る。 :い つ も 日本語を使っ て話せ る 日本 人 がまわ
り
に はい ない 上, ラ ジ オで もテ レ ビで 日本 語 を耳
にする こ とも滅多
にない 。結
局, 彼 らの 学 習は, 教科書
の上だけの練
習が主にな る。事実,参加
した5
人のう
ち3
人の心にあっ た の は, 来 年 度はも う日本 語を選 択 するの をあ きら め る とい うこ と だっ た。新
しい先
生 に変
わっ た当時,
学生達は彼
らの レベ ルが実際
よ りずっ と高
い こ と を 期待
さ れ た。 A は, 自 分の努 力にもか か わ らず, その努 力が報い ら れず, 悪い テ ス トの結 果と な っ て繰 り返 しフ ィー
ドバ ッ ク さ れ, 学習へ の 意 欲 もな くし始めてい た。 学生A 「その頃は, 自 分が一
生懸 命 続けて き たの に, まっ た く何も そこか ら得る ものが ない ような気が し た。
毎回 返 さ れる テ ス トは ひどい ものだっ た。 ああ,
も うどうで もい い,
すべ て忘れ て し ま え。 どうせ,
僕 の 専門 は語 学では ない し,
自分が そうしたい と思 えばい つ だっ て やめ て もか まわない。
しば らくの 間,
日本 語にか か わ る こ と を避け て,
選 択を打 ち切る こ と ば か り考え てい た。」学生
B
もC
も, 同 様に 自分 達の 必修
で あ る専 門 科 目 に集
中す る ため,無
理 をし て 日本語
を 選 択 する こ と を断 念し ようと考えてい た。漢 字
学
習の 問 題非 漢 字 圏 学 習 者が 日本 語 学 習におい て興 味を持つ と同 時に
,
最大 の難 点の一
つ と し て漢
字学
習 を 訴 えるこ とが 多い 。 しか し, 実 際の授 業で は,
新しい 漢 字の紹 介 程 度に と ど まり, 学 習の 主な部 分は, 個々 の学 習者
の 授業外
での 自主学
習 に任さ れ てい る こと が ほ とん どの 場 合である と思わ れ る。彼
ら の 大 学 も同様
で ある。 漢 字学
習の ため の テ キ ス ト が教 科 書と は 別 にあ り, 漢 字だけを独 立さ せて 学ぶ とい う ど ちら か と言 うと機 械 的 な 練 習(
mechanical exercises ) が 中 心で あっ た ようだ。 学生 C 「先生 は,
大 半を僕 達 学生の 自 主 的な学 習に任せ た。 漢 字の練 習に授 業の時 間 をあま り か け る暇 は ない。
ま だ,
僕は簡単な 漢字を 見 分 け るこ とがで きる程 度だけ れど,
自分で書い て練 習 して い く しかない と思 う。」漢 字 学 習は自分でや っ て い く しか ない と は言 え, その問 題は 日本 語 学 習の継 続 を困 難にする 原 因の ひ とつ と も な る。 学生A は
各
々 の漢字
の 違い が容易
に見 えない 。NII-Electronic Library Service 〔研 究ノ
ー
ト〕 短期日本 語コー
ス初級ク ラ ス参加 (非 漢 字 圏 ) 学 生の視点をもとに ;教師と して の学 習 5 学生A 「漢 字 を 学 習 し始め た当 初 か ら現 在 まで,
あ ま り問 題は変わっ て い ない。 僕に はた くさ んの漢字 の違い があ ま りよくつ か めない。
み んな似てい る ように見 える。
今で も40
位 しか書 け ない と思 う し,
そ の40
の漢字ですら書き順な ん て覚えていない よ。」 学生D
は,
漢 字を記 憶 する こ とに困 難を示 す。 学生D 「漢 字は全 部 似てい る ように見 える。 漢 字 を その通 りの形に形 作るの が 難 しい 。 覚 えるの に た く さ んの時間 を費や して も,
と に かくたくさん あ りす ぎて しばらく使わ ない と忘れ て し まう。 本当 に大 変だ。」学生 A やD の指 摘 する ように, 初 期 段 階の学 習 者は, 漢 字を部 分 的に と ら え た り, 個々 の漢 字 を見 分け た りすることが容 易では ない と思 わ れ る。 学生C もA やD と同様の問 題を訴え る。 学 生C 「ま だまだ知っ てい る漢 字の 数が足 りない 。 見 分け るこ と も十 分 じゃ ない。 だ か ら
,
漢 字がある と読め ない 。 覚えて そ れ を書 くの も難しい。 少し位 書き順が違っ て も形がで きて いれ ばい い と 思 う。
で もその形全 体を覚 えら れ ない。
」 書 き順は,
単に漢 字の形を整え る だけで な く, その規 則 性 は漢 字を記 憶 するの を容 易にする とい うことに,c
はまだ気づい てい ない 。一
方
, 学生B
は書き順が 重要で あること を彼の過去の経1験か ら認 識して い た。 学生 B 「ほ と ん どの場 合,
その漢 字が何 画で あるか,
どの ように書 けば よいか を覚えるの が難し かっ た。
そこ で,
怠惰 な 方法 (lazineSS) を 思い つ い た。
漢 字 が そ れ ら し く見 え れ ばい い こ と に し,
書 き 順に つ い て,
もう気を 配るこ と を や め た。 そ して そ れ か ら は,
た だ漢 字 を そ れ ら し く描 く (drawing )こ とを始め た。 で も,
そ うい うや り方は,
ます ま す 漢 字 学 習 を 難 し く して しまっ た。 な ぜ な ら, 複雑な漢 字は,
た だそ れを見 て覚え るこ とが不可能だっ た か ら。 結局,
漢 字 学 習 を 完 全 にス トッ プする結 果 と なり,
どうし てい い かわか ら な くなっ た。 書 き順は重 要 なん だ とい うこ と が その時 初めて わ かっ た。」学 習過程
新
しい 経 験 (PROCESSNew Experiences )
(3)
新
しい気
づ き日本で の環 境の中で
,
彼 らは自分の問 題点 を 自覚
する反 面,新
しい気
づ きにも出会
っ てい る。A
は,
漢 字の問 題が漢 字のみの 問 題で は な く, ボ キャ ブラ リー
に関 連 すること を指 摘 する 。 学生A 「困難なの は,
漢 字を知らない とい うこ と だけでな く,
ボキャブ ラ リー
を 知 ら ない とい うこ とが 関 連 しあっ てい る とい う問題 だ。 漢字の読み方を 教 えて もらっ て も あ まり意味が ない 。 な ぜっ て,
僕は その 単 語その ものが わ か ら ない ん だ か ら。 ある時,
マ ンガ を手に とっ て み た。
漢 字の横に ひ357
N工 工一
Eleotronio Library6 臼 杵 美由 紀 ら が な が ふっ てあっ た。 だか ら読み進 もうと思っ た け れ ど
,
僕には どっ ちみち 単 語の 意 味が わ か ら ない ん だか ら, その ふ りが なは特 別 意 味がな かっ た。
」学
生 Eは 自分の学
習ス ト ラ テ ジー
につ い て語っ て くれた 。 学 生E 「とに か く繰 り返すこ と。
何度も何 度も 同 じ 漢字を書い て み るこ と。 僕は書いた ほ うが覚え やす い。 同 時に音を覚 える ようにする。一
つ の漢 字につ い て一
つ の読み方,
そ れ がで きた ら次の漢 字とい うように。 漢字が書け る か どうか よりも まず
,
その漢 字 を見て,
認 識 (recognize )で きる よ うに なる か どう か が 先 決だ と思 う。 書 き順 を覚えるの も 重 要だ と思 う け れ ど,
そ れは練習してい るうちに 正 しい パ ター
ンがわかっ てくる と思う。 正 しい 書き順で何 度も何 度 も練 習 して覚え る必 要 が ある。 で も例 えば, バ ス の りばで, その漢 字 を覚え な け ればな ら ない時 が あったんだ け ど,
そうい う時は漢字全体の形 を絵 (picrure)と し て覚え た。」
この コ
ー
ス の 授 業 を 通 じて学 生D
は,
漢 字 を記
憶 する ため に部 首
や偏
な どの 漢字
の部
分(
radicals)
がヒ ン トに な る こと に気
づ い た。 学 生D : 「部 首や偏 を示し ても ら う と容 易になる。 今ようやく漢字の部分が認 識で きる ように なっ た。 ま ず,
部 首や偏を 知ら な け ればな らない と思 う。」 (4 ) フ ラス トレー
ショ ン日
本滞在
は,学
生達
に自
分達
の本
来の 日本 語 レベ ルを改めて自
覚 さ せ, 彼らに とっ て今 後 何 が必 要か を認 識さ せ る結 果となっ た。学 生
A
は,
知っ てい るつ も りだっ たことが,
実際場 面で は 容 易に使
え なか っ たことに苛 立 ち を感
じた。 学生A 「たくさん の こ とを知っ て い るつ もり だっ た。
も うこ んなこ とは習っ た はずだ と,
そ れを必 死 に 思い おこそ う と し た。 知 っ てい るべ き はずの こ と なの に,
出て こない 。 完全 に 自分は失 格 者の よ うに感 じ た。
自 分で確か にわ かっ てい るべ きだ と自 覚で きる の に,
咄 嗟に思い だせ ない。
実 際に 日本 語 が 必 要 な 時にこ うい うこ と ば か り起こっ て しま うんだ。
自分 でも信じ ら れ ない ほど。
本 当に苛立っ た。」 学生C
はパー
テ ィや セ ミナー
で の状 況を思い 起こす。 学生C 「その場の話 題が どの ように流れて い る か を自分でつ か め た ら な あ と思っ た。 誰か が何か を言 う た びに, 何と言っ たの か通 訳 を求め続け な け れ ば な ら ない とい うの はい や だっ た 。 通訳 を通 じて お お よ その要 点は わ かっ て も , そ れ は自分が聞い て理解で き るの と は違 う。」 学生 D もA も, 書 く作 業で の フ ラ ス トレー
シ ョ ンを表わす 。NII-Electronic Library Service 〔研 究ノ
ー
ト〕短 期日本 語コー
ス初級ク ラ ス参 加 (非 漢 字 圏)学生の視 点を も とに :教 師と して の学 習 7 学 生D : 「言い たい こ とがた く さん ある の に,
い ざそ れ を日本 文に しようとする と書 き表せない。」 学生A : 「自分の頭に浮かんで くる英語の文章は,
単に言葉が持つ意味だけ で はな くそ れ以 上の もの を 含 む美 しい文 章だ。 そして , さ て考え が ま と まっ た, さ あ, 日本 語で書い て み よ う と す る。 い ざ文 章にす る と,
そ れ は 二 流 タ イ プの もの に しか な ら ない。
」一
方, 学生 Eは, 読む こ との問 題を挙 げる. 学生A : 「漢 字が出て くる と,
読み進め る こ と が で きな くなっ て し まう。 漢 字は ボ キ ャブ ラ リー
と関 連 し て お り,
まずボ キ ャブ ラ リー
を た くさ ん知 る必要が あると思 う。
これ か らは, 日本 語の新 しい 単 語 を学ぶ ときに は漢 字で どう書 くか も一
緒に知 りたい。 そ うすれば 同 時に新しい 単語 と漢 字が学 べ る。」 学 生 B とA は 日本 語 自体の持つ 難 し さ を 指 摘 する。 学生B : 「漢 字が一
番難 しい。 英語だっ た ら,
ア ルフ ァベ ッ ト26
文 字の み を使っ て,
そ れを並べ 替えて単 語 がで きるの だか ら。 漢 字は一
つ の文 字 が 本 当に複 雑で,
そ れ を一
つ一
つ記 憶 し な け ればな ら な い。」 学生A : 「漢 字は一
つ一
つ,
ある一
定の形 を一
定の 方 法で 形 作る。 ア ル フ ァ ベ ッ ト26
文 字にはそん な問 題 は ない。
」学 習 生 産 :視 点 変 化 (PRODUCT :Perspective Changes )
(5) 学習に対 する視 点 変 化
コ
ー
ス の終わ りに, こ の5
人の学生達は 日本 語 学 習に対 する新た な意
欲を表わ し た。 学生A : 「漢字 を学ぼう とする気 持ち が よ り強くなっ た。 日本に いて,
自分の知っ てい るこ とが,
い かに 少 ないか 知らされた。
少 な くとも街で見かけるサ インぐ らい は読め る ように な りたい 。」 学生D : 「ま だ ま だ,
こ れ か ら学ば なけれ ば な ら ない こ と が多い こ と を自 覚し た。 もっ と もっ と たくさ ん の漢 字が必要だ。
日本 語 学 習 を 終 えるこ とを考 えるに は程 遠い と思っ た。」 学生E : 「日本 人の 学生 から漢字の本 を もらっ た。
こ の本には約1000
字の 漢字が載っ て いる。
これ は, 日 本の小学 校で 六年生 まで に知 るべ き数だ と 思 う。
だ か ら,
僕は 自国に戻っ てこ の本 を 勉 強 す るつ も りだ。
」 学 生C : 「これ か ら本 気で 日本 語 を 勉 強 し よう と 自分で 決 意 がで きた。
日本に来る前は,
単に 日本 語の授 業を取っ て い たにす ぎ な かっ たの だ とい うこ と を自覚 し た。 もっ と もっ と学び たい と 思う。 勉 強359
N工 工一
Eleotronio Library8 臼 杵 美 由 紀 を 続 けて
,
今の 自分の レベ ル より上 達し よう と決めた。
」日本
滞在
は,学
習 意 欲 を強く した だ けで な く,
つ ける きっ かけになっ た よう
だ。 日本
語を どう
学ぶか という学
習の ヒ ン トも見 学生A 「フラッ シ ュ カー
ド を使っ て漢 字 を練 習 する方 法が過 去の やり方より効 果 的だ と気づい た。」 学 生E 「新 しい 単 語 を学ぶ時,
日本 人 学 生に漢 字 を 書い て も らっ て,
どうやっ て書 くか をよく見てい て,
そ れ か ら自分で練 習 する と覚え やすい 。」 学生 B 「最 近,
日本に来て か ら大きな漢字の辞書を買っ た。 その本は,
漢字の源や規 則につ い て教えて くれ る。 漢 字 学 習に対 して新 しい 視 点を見つ けた。 書 き順に注 意を向 け,
違 う漢 字で も同 じ音を 持つ ものなど,
心 に イメー
ジ し て み る。
音が 同 じで,
違 う漢 字 を使 う単語 な ど がは っ き り言 える よ うに,
漢 字に関する 理論も勉強してみ たい 。 ま た,
こ の本に は,
すべ て の部首や偏の リス トが 載っ て い る。
今,
漢 字 を 左 右二 つ の 部 分に分 けて学んで い る。
同 じ部 分 が 違 う漢 字に よく使われ てい る ことに気づい た。 そ し て,
そ の部分に注目 すると,
覚えやすい こ と も わ かっ た。 初 めの こ ろ は,
こ うした部 分が見 え なかっ た。 た だ,
線の集 ま りに しか見 えな かっ た。 それぞれの漢 字に 共 通 した 部 分 が あ るこ と を 知 ら な かっ た。 ま だ ま だ 難しい け れ ど.
今は前よりずっ と効 果 的に学 習で きるように なっ た し,
は や く覚え ら れ る ように なっ た と 思う。」これらの学 習 者はもともと強い 学 習 動 機を持っ て い た。 し かし
,
日本 滞 在か ら得た様々 な 学 習体験
は,真
の 意味
で彼
らに自律
学習 を 意 識づ け,
より
一
層
内 的学
習動機
を強めた と言 える。4
. 教 師
に求 め る
こと
日本 語 学 習におい て, 教師は学 習 者に何がで き るのか を聞い てみ た。 学 生A 「特に,
スペ イン語,
フラン ス 語,
英語な ど を母 国 語 とする者にとっ て,
日本 語は難 しい。
先 生 は日本 語と僕達の母 国 語との文 法的な違い を説 明するべ きだと思 う。 僕達は,
まず,
日本語 をひ ら が なや 力 タ カ ナを使わず,
ロー
マ字 を使っ て習っ た。 でも,
その た めに読み書 きの 日本 語に触 れ る の が お くれ て,
かえっ て問題を 大 き くし た ように 思 う。
初め か ら ひ ら が な や カ タ カ ナを使っ て読 む・
書 く・
話 す・
聴 く, すべ て を 同 時に ス ター
トさせ た方がい い と思 う。」 学生E 「た く さんの例を使っ て, 単 語や文 章が い ろ い ろ違っ た場 合に どの ように使わ れてい るのか を見 せ て 欲 しい。
とにか く,
よ り多くの例 が与え ら れ る とい うの は,
僕 に とっ て 役 に立つ とい うこ と が わ かっ た。 それか ら,
意 味が背 後に込め られ て い る ような説 明。 例えば,
漢 字が どの ように形 作ら れ たの かを 知ると,
覚えやすい し,
理解し やすい と思っ た。
繰 り返しも必 要だ と思 う。
た だ 情 報 を 与 え られる だけではな くて。 僕 達は セ ミ ナー
の た め に作 文 を書か な け ればな ら な か っ た け れ ど,
こ うい っ たこ と,
つ ま り,
自NII-Electronic Library Service 〔研 究ノ
ー
ト〕短 期日本 語コー
ス初 級ク ラス参 加 (非 漢 字 圏 ) 学生の視 点を も とに :教 師と し ての学 習9
分の レベ ル より もや や上の こ とに取 り組むこ と は とて もよ かっ た と思 う。 わ か ら ない単 語 を 調べ た り,
間 違っ てい る こと を正 し た り一
。 自分の間違い か ら多く を学ぶ こ と が で きた。 間違うこ と はい い。 上 達させ る た め に試 行 錯 誤 を続 けなけ ればな ら ない と思 う か ら。」 学生B ; 「僕が思うに は,
漢 字 学習に は学生が,
そ れ ぞ れ自分のペー
ス で学ん で い く状況が与え られな け れ ば な ら ない 。 そのこ と を先生に わ かっ て もらい たい。」 学生C 「漢 字は基 本 的には,
自分で学 習 しな けれ ばならない。
で も先生 が学 習の コ ツの よう な もの を教えて くれ た ら助け になると思う。 そ れ か ら
,
意 味の ある学 習 (meaningful learning )。 文 脈 (context )の 中で漢 字が どう使われて い るかとい うような 学び方 が 必 要だ。」日 本の生 活に浸るこ と は, 学 生の日本 語 学 習に対 する意 欲や姿 勢, そ して彼らの視 点 を 確か に
変
えた。 日本滞在
中,彼
らは 日本語
を使 う
ことへ の フ ラス トレー
シ ョ ン と楽し さの 両方
を 体験
した。 そ して,
こ の プラス・
マ イナ ス の経 験 を通 して , 日本 語 学 習者
と して の自
己を自覚
し,
ま た, どう 学 習 すべ きか とい う 学 習の 仕 方へ の ア イデ ィ ァも得た。 学生B「学 習者に とっ て最 も重要な こ と は
,
日本 その もの に浸る こ と (exposure )。 こ こ での 三週 間は,
正 直 言っ て,
僕に とっ て 自 国での一
年 間より もずっ と収 穫 が あっ た。 日本 人の 学 生 達とで きる だ け 積 極 的に話 をした。
日本の テ レ ビ番 組 も見た。 も ちろ ん,
全 部は 理解で き な かっ たけ れど,
ほ んの少し で も単 語 を理解 する こ と が で き た。」 こう した学 習 環 境 を 与 える こ とが 短 期コー
ス の 果たす 大 き な役 割で ある こ と は学 生 B の 言 葉 か らも言 う まで もない 。 し か し,
では,
授 業を担当する教 師は,
その短い 期 間の授業
に 当たっ て何を なすべ き なのか 。 そ こで,
Part2
で授 業, そして, それ を担 当 する教 師の果たすべ き役 割につ い て再 考 を行い たい 。Part
・2
.
短期
日本
語コー
ス の授 業
の あ り方
:教
師
と し て学
ん だ こ と と こ れ か ら の課
題5
. 授 業
のあ り方
に関 す
る考察 と課題
数ヵ月 後, 別の非 漢 字 圏か らの学 生に も同様の コ
ー
ス を行
なっ た。 し か し,
こ の学 生は前 記 の学生 と は か な り異なっ た反応 を示し た。 参 加 者は4
名で, 前 記の 学生 同 様, 日本 語は専 門で はな く選 択 科 目と して受 講 して い る。 前 記の学 生に比べ , 自 国で の 弊 害 を 強 く訴 える学 生はい な かっ た 。 経 験豊富な 日本人の先生方に恵ま れ, しっ か りと した コー
ス が 組ま れてい るこ と,
ま た, 近 くに滞 在し てい る日本人の 友 達 もい る とい うことで あっ た。 学習環 境の問題よ りも む しろ,彼
らの 母国語
と日本語
自体
の持
つ 違い その もの に困 難を感
じてい る ようであっ た。こ こで は
,
まず,
Part1
で扱
っ た学生(
以 下,「
Part1
の学生」とする)
の視点
をもと に授
業 へ の ヒ ン トと して のポ イン トを挙 げ,
次に,
こ の学 生4
名 (以下,
「Part2
の 学 生 」 とす る)361
N工 工一
Eleotronio Library10
臼 杵 美 由紀 を対象
とした授業
の 反省
点 を踏
ま えな が ら,短期
日本
語コー
ス の授業
に対
する課
題 につ い て考
察 を行 な う。 (1) 授 業 内外の関 連 性 を 持っ言 語 学 習の焦 点を 正確さ (accuracy )に置 くか, 流 暢 さ (
fluency
)に置 くか は現在
の言 語 教 育 分野 で盛ん に議論
が展
開さ れ てい る ポ イン トの一
つ であ る(
Ellis
,1994
)
。 し か し,筆者
は,
文 型 (form
) 理 解 と運 用 (function
) 能 力 養 成の連 結 が 不可欠で あ り, どち らか一
方に極 端に片寄
るのは危
険で あ ると考
える。 特に,
短期
コー
ス では,
授 業外
で得た もの をあら た め て 正確
に知 識 と して確
認 する とい う機 会の提 供が必 要で ある。 また その逆に, 授 業で得たこ とを実 際 に外
で 使 っ てみる という
学 習 者 側の 自律 的な練 習を励ますこと が 重要で ある と思われる。 ポイン ト :・
実 際の 生活 場 面 にす ぐ応 用で き る ように考 慮 し,
文 脈 (context )を伴っ た文 型を紹 介 し練習 する。 (input )
・
学 習 者 が 実 際の生活で出 会っ た単 語や表 現をク ラス に持 ち込 ませ, どこ で, また どのよ うな場
面で 目 や耳に したか確
認 する。 さら に, 様々な使
い方
の例 や文型的な 理論 付な ども合わせ て練習する。 (
form
+function
)・
機 械 的 なテキス ト上の作 業や練 習 (mechanical exercises )に と どまらず , 意 味の ある学 習(
meaningfullearning
)
を方向
づ け,授業
内容
を 充実
さ せ る。 特に,
自 国ではで きない が,
日本の環 境を利 用 し て で き る活 動に焦 点を当て る。 (output ) 課 題 :・授
業では, 文法
を中心 とした知識の取 り入 れ や確
認(
input>
に焦点
を 置 くべ きか, ト ピックを中 心 とした言 語 運 用 能 力 向上 のた めの体 験 的 学 習 活 動 (output )に焦 点を当てるべ き か。
Part
1
の学 生の場 合は, 授 業 内 外にお けるコ ミュ ニ ケー
シ ョ ン活 動に積 極 的で, そ う した体験 学
習に対
するチ ャ レ ン ジ精神
が 旺盛で あっ た。 だ が,
1’art2
の 学生の場 合,授業内
で は,文
法 的 知 識を得ること を求め, 実 際に行な わ れ た コ ミュ ニ ケー
シ ョ ン活 動には , む しろ否 定 的で さ え あっ た。前者
は,
授 業 外にも母国語
で ある英 語 を 避 け,
思 うように行 か ない 日本 語 を あ え て使う
こ と に よ る伝 達を試み てい た。一
方 , 後 者は,
授 業 内 外の区 別を保ち,
授 業外
での伝 達 に は,直
接理解
し やすい 英 語の使
用 を求
め た。教 室 外で は
,
目にする もの,
耳にする ものすべ て日本 語に取 り囲 まれ てい る こ と か ら言 え ば,
授業
は,滞在
中に教 室 外で得 た もの と 自 国で得て きた 知 識 とし ての 日本 語 と を結 びつ ける役 目 を果たすべ きであるのか もし れ ない 。 更には, コー
ス を行 な うにあたっ て , 学生達が自 国で学 習 し てきた内
容や方法
など,彼
らの 学 習 経験
を,受
け 入 れ る側の授
業担当者
が十分把
握 し てい るこ とが 重 要であることを実 感 して い る。 なぜ な らば, そ れ まで の学 習 経 験 が, 学 習 者の学 習NII-Electronic Library Service
〔研 究ノ
ー
ト〕 短 期日本 語コー
ス初 級ク ラス参 加 (非 漢 字 圏 ) 学 生の視 点 を もと に :教 師として の学 習11
ス タ イル や ビ リ
ー
フ を形
成し て お り,
そ れ に よっ て授業
に対
する期待
にもかな り影 響 して い ると思われるか らである。
学
習の 仕方
の ヒン ト を与 える収集
し た情
報 をい か に して短期
記憶 (
short−
term memory)
か ら長期記 憶 (
long −
termmemory )へ 蓄 積 するか
,
教 師は その ヒ ン トを 提 供 する と ともに,
学 習 者 自 ら試 行 錯 誤に よっ て効 果 的な学 習 方 法を導 くよう方 向づ けが な さ れ るべ きである。 ポ イン ト:・自
分の用い てい る学 習ス ト ラ テジー
を 自覚
さ せ,
ま た,様
々な学
習ス ト ラ テ ジー
にも目を 向 け させ る。・
学 習の仕 方(
learning
how
tolearn
)へ の ア イデ ィ アが得ら れ る よう
な方向
づ けをす る 。 課 題 :・
ス トラ テ ジー ・
トレー
ニ ング的 要 素を授 業に盛 り込むべ きか。Part
l
,Part
2
両 学生 に共 通 し てい る問 題は,
母 国語
との文法的 ・構
造 的違
い や単
語・
漢字
の記 憶の困 難 さで ある。Ellis&
Sinclair
(1989
)
は, 短 期 集 中コー
ス に トレー
ニ ン グ の 要 素を盛 り込む こと は長 期 コー
ス よ り も効果
的である とい う調 査結果
を 示してい る。
し か し,
時 間 的 制 約 か ら考
えると,
こ れ は授
業 内よ りも む し ろ授
業外
の時 間を使 用し,
教 師は学生 との対 話を試み る中で,自
分の使
用 してい る ス トラ テ ジー
を 自覚 させ,
よ り効 果 的 なス トラ テ ジー
に 目 を 向 け させ る必 要 が ある と思 われ る。 ]’art2
の学
生 達に対し て, 教師
側か らの こうした 学 生 との対
話の 試み が不 足で あ っ た た め,
コー
ス 終 了まで,
学生側 と教 師 側の意
図 する とこ ろ にずれ が 生 じ てい たこ とに気
づ か な か っ た。 (3)自律
学 習を促
す短 期コ
ー
ス中だけで はな く,
コー
ス終 了 後 も,
学 習 者 が 真の意 味で 自分の学 習に責 任 を持 ち, 積極
的に取 り組ん でい く よう 自律
へ の意 識 化 を促
す必要がある 。 ポイン ト:・
学 習 者の レベ ル より少し 上の教 材 内 容に焦 点を置 く 。・自
分のペー
ス で取 り組むこ との で き る よう
な機 会
を提供
する。・
間違い か ら学ぶ意
欲を もつ こ と がで きる よう,
ま た,
フ ラ ス ト レー
ショ ンや問 題 を プラ ス 志 向に持っ てい くことがで きる よ う勇 気づ ける。363
N工 工一
Eleotronio Library12
臼 杵 美 由 紀・
達 成 感 を 味わうこ とがで きる ような学 習 活 動を盛 り込む 。 課 題 :・
学 習 者 トレー
ニ ングの要 素を授 業に盛 り
込むべ きか。前に も述べ た ように, Part
1
の学 生とPart2
の学生の大 きな 違い は , コ ミュ ニ ケー
シ ョ ン に 対 する意
識の違い で あっ たよう
に思 われ る。前者
はコ ミュ ニ ケー
シ ョ ン意 欲が旺 盛で意 志の疎
通 を日本語
で行 な お うとする こ と に積 極 的であっ たの に対 し, 後 者は, 文 法 的 正 確 さに対 する意
識が強 く,
“
Affectivefilter
(情 緒 的フ ィル ター
)
”
(
Krashen ,1986
)
も高い よう
に 思 わ れ た。 これ は, Part2
の 学生の一
人が ,「
日本 滞 在に よっ て よ り一
層 母 国 語と 日本 語の文 法 的 構造
の 違い を認 識 し た」
とい う 自己の視
点 を 表 現 し た こ とに も表
わ さ れて い る。 この ように , Affectivefilter
の 高い 場 合, 無 理に 日本 語を使 っ て会 話 をする よう
に求め るこ と は逆 効 果で あ る こ と も授 業 にお ける 日本 人との会 話 練 習や,
実 際 場 面へ の応 用 的 学 習 活 動に否 定 的であっ た こと か ら も伺 える。 こう
し た学 習 者の意 識に対 する教 師 側の十分 な 理解が必 要であっ た。 しか し反 面, 学 習 者 自 身 がコ ミュ ニ ケー
ショ ン能 力 向上の妨 げに もな りえ る壁を 自ら作っ てい るこ とに も自覚
を促
す 必 要があっ た。つ ま り教師
が学
習者
の持
つ 内 的 学習動機
を十 分理解した 上で , さ らに ,自律
性 を高
め る方向
へ の意 識づ け が 必要で は な かっ たか と思わ れ るの で ある。
自律
・
自立学 習のた めの self−
access (自主学 習に役立つ 教 材・資
料を学生自身
が収 集 し活
用 する こ と) として,
Part1 ・
Part2
の 学 生は ともに , 日本で様々 な 教 材 を 目に し, 自 国へ 帰っ て か らの自
主 的 学 習に意 欲を示してい た。 こう
したself−
access に対
するア ドバ イス は教師 側か らも積 極 的に行な わ れ るべ きで , 学 生に とっ ては来 日の大 きな収 穫の一
つ と な るで あろ う。6
.
おわ
りに教師
と し
て学
んだ
こと
これ まで 述べ て きた ように , 学 習 者が どの ような学 習 経 験を持つ か は
,
学 習に対 する姿
勢や ビ リー
フ 形 成にもつ なが り,
学習 過程に大 き な 影 響 を及 ぼす。 そして教 師 も また, 学 習 者と同 様に学 習 者の学 習 過 程に目を向
け, そ こか ら学ぶ姿
勢が必 要で あ る。短 期 日本 語 コ
ー
ス の授 業 を 担 当 し, 筆 者は, 日本 にお ける 日本 語 教 育 (Japanese
as aSecond
Language )
と外
国に おける 日本
語 教育
Oapanese
as a Foreign Language)
の あ り方には違い が あ ることに改めて気づい た。 さ らに, コ
ー
ス の 目 的や対象者
に応 じた対
応の大
切さを 強 く感 じた。 短 期 日本 語コー
ス授 業は, 筆 者にとっ て 自 己の授 業にお ける ビ リー
フ を見 直 す 教 師と して の 学 習 経 験の機 会ともなっ た。こ の よう な 視 点 か ら考 える と, 教 師は学 習 者に とっ て支 援 者で ある だけで は な く, 学 習の
参
加 者で あ り,
教 師と し て学 習 する学 習 者であるべ きで あ る と言
える の ではない か(
臼杵
b
,
1996
;usuki ,
1996
)
。筆
者は,
自 らの教 師 経 験 を 振 り返 り,
常にその見 直 しを図っ て い く必 要 がある こ と を実 感 し てい る。今
後 更に様
々な学 習者
を対象
とした種
々 のコー
スを経験
し,
教師
とし て の 自 己 向 上に努
め たい 。 (注)本 稿は,
筆 者の教 師 実践記録 的要 素を含ん だ研 究ノー
トとして提 示 するもの である。NII-Electronic Library Service
〔研 究ノ
ー
ト〕短 期日本語コー
ス初級ク ラス参加 (非漢字圏〉学生 の視点を もと に :教師と し ての学 習13
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