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岩本 綾

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Academic year: 2021

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59

高 校 交 換 留 学 の参 加 決 定 プロセス

―非 英 語 圏 の場 合 ―1 岩 本 綾 1. 背 景 2013 年 の「日 本 再 興 戦 略 」(閣 議 決 定 2013)で、2020 年 までに日 本 人 の海 外 留 学 者 数 を倍 増 (大 学 等 :6 万 人 から 12 万 人 、高 校 :3 万 人 から 6 万 人 )させることが 掲 げられた。背 景 には、日 本 がグローバル化 から取 り残 されかねないという危 機 感 の 広 がりと、それを受 けて「グローバル人 材 」育 成 が叫 ばれるようになったことがある。 「グローバル人 材 」育 成 に向 けて、グローバル人 材 育 成 推 進 会 議 (2012)が最 初 に 挙 げているのが、「英 語 教 育 の強 化 、高 校 留 学 の促 進 等 の初 等 中 等 教 育 の諸 課 題 」 である。2013 年 から展 開 されている留 学 促 進 キャンペーン「トビタテ!留 学 JAPAN」 (文 部 科 学 省 2014)は、高 校 生 の留 学2にも力 を入 れ、「今 の時 代 、留 学 しない方 が リスクかも?」(中 高 生 保 護 者 向 け)といったキャッチコピーを掲 げている。 しかし、こうした留 学 促 進 政 策 が十 分 な成 果 を上 げているとは言 い難 い。 例 えば、 「いつか外 国 へ留 学 したいと思 うか」という質 問 に対 して「留 学 したい」と答 えた 高 校 生 は、2011 年 度 調 査 で 42%、2013 年 度 調 査 で 44%、2015 年 度 調 査 で 40%であり(文 部 科 学 省 2013; 文 部 科 学 省 2015; 文 部 科 学 省 2017)、留 学 希 望 者 はむしろ減 少 傾 向 にある。 考 えてみれば、「グローバル人 材 」育 成 のために留 学 が必 要 だとする政 策 は、大 人 側 の論 理 によるものである。そこには、高 校 生 自 身 がなぜ、どのようにして留 学 を決 意 していくのか、という視 点 が欠 けている。高 校 生 の留 学 を促 進 するためには、まず、高 校 生 が留 学 を選 択 するプロセスを明 らかにし、その上 で、そのプロセスのどのあたりに、 誰 がどのような形 で働 きかけることができるのかを検 討 することが必 要 であろう 。 1 本 稿 は、筆 者 が2018 年 10 月 に慶 應 義 塾 大 学 政 策 ・メディア研 究 科 に提 出 した博 士 論 文 『社 会 的 「つながり」を形 成 する留 学 :社 会 関 係 資 本 から見 た高 校 交 換 留 学 体 験 とその支 援 』の一 部 を修 正 したものである。同 研 究 はJSPS 科 研 費 14J07255 の助 成 を受 けた。 2 一 般 に留 学 とは「国 境 を越 えて外 国 の教 育 機 関 で学 ぶこと」(小 林 1991:3)を指 すが、その具 体 的 な要 件 は統 一 されていない。例 えば、文 部 科 学 省 は高 校 生 の国 際 交 流 に関 する調 査 にお いて、3 か月 以 上 のものを「留 学 」、3 か月 未 満 のものを「研 修 旅 行 」と呼 んで区 別 している(文 部 科 学 省 2017)が、「トビタテ!留 学 JAPAN」では 14 日 間 以 上 の「留 学 」を支 援 している。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 2. 先 行 研 究 2.1 高 校 生 の留 学 の現 状 文 部 科 学 省 (2017)によれば、2015 年 度 に 3 か月 以 上 の留 学 をした高 校 生 は 4197 名 である。留 学 先 として最 も多 いのはアメリカで、アメリカ、ニュージーランド、カ ナダ3、オーストラリア、イギリスのいずれかに留 学 した者 が84%を占 める。ただし、近 年 では非 英 語 圏 への留 学 が漸 増 している。図 1 は、前 述 の英 語 圏 5 か国 と、それ以 外 の国 に留 学 する高 校 生 の割 合 の変 化 を示 している。2015 年 度 の英 語 圏 5 か国 以 外 の留 学 先 は、37 の国 ・地 域 に及 ぶ。こうした非 英 語 圏4への留 学 は、後 述 する「交 換 留 学 」を含 む、「斡 旋 団 体 等 」を主 催 者 とする留 学 で多 く見 られ、「斡 旋 団 体 等 」を主 催 者 とする留 学 に限 ると、その他 の国 へ留 学 した高 校 生 の割 合 は26%である。 図 1 高 校 留 学 生 数 の行 き先 別 割 合 の推 移 :英 語 圏 5 か国 とその他 の対 比 (文 部 科 学 省 2017 より筆 者 作 成 ) 高 校 生 の留 学 は、異 文 化 交 流 ・異 文 化 体 験 を目 的 とした期 間 限 定 の「交 換 留 学 」 3 ここではフランス語 圏 を別 に集 計 していないため、フランス語 圏 への留 学 生 数 も含 まれている。 4 ここにはフィリピン(10 名 )、シンガポール(9 名 )、インド(7 名 )なども含 まれる。これらの国 では英 語 が通 じやすいが、交 換 留 学 の場 合 、ホームステイ先 では英 語 以 外 の現 地 語 を使 用 することも少 なくない。そのため、英 語 圏 5 か国 とは状 況 が異 なるとして、ここでは非 英 語 圏 に含 めている。 92年 94年 96年 98年 00年 02年 04年 06年 08年 11年 13年 15年 その他(人) 270 296 437 476 444 451 498 461 420 532 628 682 英語圏5か国(人) 4217 3702 4044 3710 3914 3709 3943 3493 2788 2725 3269 3515 0% 20% 40% 60% 80% 100%

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 と、現 地 の高 校 卒 業 を目 標 とする「卒 業 目 的 留 学 」に大 別 される5(日 本 学 生 支 援 機 構 2017)。卒 業 目 的 留 学 は、国 ・地 域 、学 校 、滞 在 形 態 、期 間 等 が参 加 者 の選 択 に委 ねられ、費 用 も割 高 であるのに対 し、交 換 留 学 は交 流 団 体 と呼 ばれる学 校 外 の 団 体 が主 催 し、「1 年 間 を海 外 の無 償 のボランティアの受 入 家 庭 に家 族 の一 員 として 滞 在 し、その滞 在 地 域 で正 規 の高 校 と認 定 されている学 校 に授 業 料 免 除 で通 学 し、 現 地 の同 世 代 の青 少 年 や一 般 の人 とお互 いが異 なる文 化 的 背 景 を持 つ者 として理 解 しあおうと努 力 するプログラム」(全 国 高 校 生 留 学 ・交 流 団 体 連 絡 協 議 会 2011:8) と定 められている。交 換 留 学 生 数 についての統 計 はないが、下 川 (2005)によれば、 交 換 留 学 は高 校 留 学 の 6 割 を占 めるという。 2.2 交 換 留 学 の動 機 交 換 留 学 の動 機 については、交 流 団 体 による 調 査 がある。多 様 な国 々に高 校 生 を派 遣 しているエイ・エフ・エス日 本 協 会6(2002)は、英 語 圏 のみを希 望 する高 校 生 の増 加 という当 時 の傾 向 を受 けて、希 望 する留 学 先 別 に留 学 動 機 を調 査 している。 具 体 的 には、交 換 留 学 先 の決 定 した高 校 生 317 名 に対 して、留 学 の目 的 や留 学 希 望 国 の選 定 基 準 を尋 ねた。日 本 の AFS の交 換 留 学 では複 数 の留 学 希 望 国 を挙 げ て出 願 することができるため、対 象 者 を当 初 の希 望 別 に「英 語 圏 のみ希 望 」「欧 州 の み、および欧 州 と英 語 圏 を希 望 」「中 南 米 ・アジアも希 望 」の 3 グループに分 けて、そ の結 果 を検 討 したところ、次 のような結 果 が得 られた。留 学 目 的 を選 択 肢 の中 から順 位 をつけて 3 つ選 ばせたところ、どのグループも「異 文 化 を学 ぶ」「国 際 的 視 野 を身 に つける」「語 学 を習 得 する」が上 位3 つの目 的 であった。しかし目 的 の第 1 位 はグルー プによって異 なり、「英 語 圏 のみ希 望 」グループが「語 学 を習 得 する」であったのに対 して、「中 南 米 ・アジアも希 望 」グループは「異 文 化 を学 ぶ」であった7。また、留 学 希 望 国 の選 定 基 準 では、どのグループも「学 べる言 語 」と「文 化 の魅 力 」を重 視 していたが、 「中 南 米 ・アジアも希 望 」グループには「希 少 価 値 がある」ことを重 視 した人 も多 かった。 5 その他 に姉 妹 校 留 学 、姉 妹 都 市 等 の学 校 への留 学 、外 国 政 府 等 から招 かれる留 学 等 がある。 6 2011 年 に公 益 財 団 法 人 AFS 日 本 協 会 に名 称 変 更 。本 稿 では、文 献 に記 されている名 称 をそ のまま用 いる。 7 「英 語 圏 のみ希 望 」「中 南 米 ・アジアも希 望 」の第1 位 は第 2 位 との差 が大 きく、はっきりとした傾 向 を示 している。一 方 、「欧 州 のみ、および欧 州 と英 語 圏 を希 望 」グループでは「異 文 化 を学 ぶ」が 第1 位 だったが、第 2 位 および第 3 位 との差 はわずかで、傾 向 があまりはっきりしない。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59

日 本 以 外 では、交 流 団 体 YFU(Youth For Understanding)に長 く携 わっていたバク ナー(1997)が、アメリカからドイツ、ドイツからアメリカへの交 換 留 学 (一 部 短 期 留 学 ) の参 加 理 由 を調 査 し、分 類 している。 2.3 留 学 参 加 に至 るプロセス しかし、こうした動 機 の調 査 研 究 には、留 学 という 1 つの行 動 が、複 数 の動 機 ない し要 因 が絡 まり合 って形 成 されて. ....いく..、という継 時 的 な視 点 が欠 けている。これは高 校 生 の留 学 だけでなく、留 学 研 究 全 般 に言 えることである。例 えば、嶋 内 (2014)は、日 本 と韓 国 の大 学 ・大 学 院 の英 語 プログラムに正 規 留 学 した東 アジア出 身 者 について、 彼 らの留 学 の促 進 要 因 を「プッシュ・プル理 論 」の枠 組 みを用 いて類 型 化 している。し かし、個 人 に複 数 の要 因 が同 時 に内 在 するとしつつも、それらの関 係 性 の解 明 は課 題 としておらず、それだけでは、一 人 の留 学 生 がどのようにして留 学 参 加 に至 ったの かを理 解 できない。 さらに、留 学 を促 進 する諸 要 因 が、周 囲 の人 々や環 境 等 とのやりとりに基 づくもの であることにも注 意 を払 わなくてはならないだろう。アメリカでは、留 学 への参 加 を左 右 する構 造 的 要 因 が人 種 問 題 との関 連 で検 討 されており、例 えば、アフリカ系 の学 生 が相 応 の割 合 で留 学 していない理 由 として、教 員 ・スタッフからのサポートが欠 如 して いることや、家 族 によるサポートが限 定 的 で、ピア・ネットワークへのアクセスも欠 如 して いること等 が挙 げられている(Cole 1991)。それらの研 究 の蓄 積 が示 すのは、留 学 す るかどうかは個 人 の判 断 だが、それは真 空 状 態 で行 われるわけではなく、さまざまな 個 人 的 および共 通 の考 慮 すべき事 情 が相 互 作 用 して決 定 に至 る(Eidson 2015)、と いうことである。こうした、留 学 への参 加 が相 互 作 用 の結 果 であるとする視 点 は、日 本 の留 学 研 究 においてほとんど見 られない。 ブルーマー (1969=1991 )は、当 時 の典 型 的 な社 会 学 や心 理 学 において社 会 的 相 互 作 用 が軽 視 されていることを批 判 し、社 会 的 相 互 作 用 は、決 定 因 が行 動 を生 み 出 す た め の 媒 介 に す ぎ ない の で は なく 、「 人 間 行 動 を 形 成 す る. . ..過 程 」 ( ブルー マ ー 1969=1991:9、傍 点 は原 文 のまま)であると述 べて、シンボリック相 互 作 用 論 をまとめ た。この主 張 に拠 るならば、高 校 生 が留 学 という行 動 を形 成 するまでの過 程 を社 会 的 相 互 作 用 のプロセスとして捉 えることができる。一 連 の社 会 的 相 互 作 用 が明 らかにな れば、留 学 を促 進 するための働 きかけを探 る上 でも、大 きな助 けになると考 えられる。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 3. 研 究 課 題 ここまでの議 論 をまとめる。第1 に、高 校 生 の留 学 を促 進 するためには、まず、高 校 生 自 身 がどのように留 学 を決 意 していくのかを明 らかにし、その上 で留 学 を促 すような 働 きかけがどのように可 能 であるかを議 論 すべきであるのに、現 状 の留 学 促 進 政 策 は そうした手 順 を踏 んでいない。第2 に、これまでの留 学 動 機 および促 進 要 因 の解 明 に 関 する研 究 は、動 機 ・要 因 の類 型 化 にとどまっており、留 学 生 が留 学 参 加 をどのよう に決 めていくのかというプロセスを明 らかにしていない。留 学 参 加 という行 動 が社 会 的 相 互 作 用 の結 果 であると考 えてその過 程 を捉 えれば、留 学 促 進 のヒントが得 られる。 以 上 のことから、本 稿 では、高 校 生 が留 学 への参 加 を決 めるまでのプロセスを、特 に社 会 的 相 互 作 用 に注 目 して明 らかにすることを課 題 とする。その 目 的 は、高 校 生 の留 学 促 進 に効 果 的 な働 きかけのあり方 を探 索 的 に検 討 することにある。 本 稿 は、高 校 生 の留 学 の中 でも特 に「交 換 留 学 」に絞 って以 下 の議 論 を進 める。 その理 由 としては、多 様 な卒 業 目 的 留 学 に対 して、交 換 留 学 には前 述 のように定 義 があることが挙 げられる。留 学 の目 的 や期 間 によって、参 加 を決 めていくプロセスには 大 きな違 いがあることが予 想 され、留 学 を促 す働 きかけも異 なると考 えられるため、交 換 留 学 と卒 業 目 的 留 学 は分 けて検 討 する必 要 がある。その中 で交 換 留 学 を取 り上 げるのは、高 校 生 の留 学 を促 進 する上 で交 換 留 学 の充 実 が欠 かせないからである。 交 換 留 学 の費 用 は卒 業 目 的 留 学 よりも安 く、交 流 団 体 の中 には全 国 組 織 を持 つ団 体 もあることから、より多 くの高 校 生 にとって交 換 留 学 のほうがアクセスしやすい と考 え られる。 さらに、本 稿 では交 換 留 学 の中 でも特 に非 英 語 圏 に留 学 する高 校 生 のケースに 注 目 する。すでに述 べたように、先 行 研 究 は、希 望 する派 遣 先 によって留 学 目 的 や 希 望 国 の選 定 基 準 が異 なることを明 らかにしている。高 校 生 が英 語 圏 (アメリカ)への 交 換 留 学 を決 意 するプロセスは、岩 本 (2018)が解 明 しており、本 稿 では非 英 語 圏 へ の交 換 留 学 を決 意 するプロセスに絞 って検 討 していく。 4. 研 究 方 法 4.1 調 査 対 象 者 および筆 者 との関 係 調 査 対 象 者 は、高 校 時 代 に交 流 団 体 X の交 換 留 学 プログラムで非 英 語 圏 に留

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 学 し、調 査 時 に大 学 生 だった10 名 である(表 1、名 前 は仮 名 )。対 象 者 は、交 流 団 体 X からの紹 介 を中 心 に募 集 した。調 査 実 施 者 である筆 者 は、交 流 団 体 X に 2013 年 から調 査 協 力 を得 ており、本 調 査 以 前 にもパイロット的 なグループインタビューや、留 学 前 や帰 国 後 のオリエンテーションの見 学 を行 った。また、X の担 当 者 と面 談 を重 ね、 交 換 留 学 についての理 解 を深 めた 。本 調 査 対 象 者 と筆 者 の間 に事 前 の面 識 はなく、 事 前 のメールのやり取 りやインタビュー冒 頭 の時 間 を使 って 、信 頼 関 係 の構 築 に努 めた。インタビュー終 了 時 には感 想 や意 見 を求 め、筆 者 の意 図 に沿 った発 言 がなさ れていないかをチェックした。また、発 言 の趣 旨 が不 明 な点 や追 加 の質 問 などがあれ ば、後 日 対 象 者 にメールで問 い合 わせた 。これらのことから、情 動 面 も含 め、率 直 で 詳 細 なデータを収 集 することができたと考 えている。 表 1 調 査 対 象 者 一 覧 仮名 性別 留学先 留学先言語 出身地 留学時 学年 大学専攻 調査時 学年 高校留学以前の海外 滞在経験8 亜希子 女 コスタリカ スペイン語 関東 高1 国際 大4 なし 梅香 女 コスタリカ スペイン語 近畿 高1 外国語 大4 なし 恵里 女 コスタリカ スペイン語 中部 高2 外国語 大4 なし 夏帆 女 中国 中国語 近畿 高2 観光 大4 加中2 短期 希美 女 チリ スペイン語 関東 高1 リベラルアーツ 大4 英2-6 歳 康介 男 イタリア イタリア語 関東 高1 工学 大4 なし 涼香 女 ハンガリー ハンガリー語 関東 高2 外国語 大4 なし 晴子 女 カナダ フランス語 東北 高2 看護 大4 なし 月子 女 ベルギー オランダ語 関東 高3 美術 大4 豪高1 短期 尚之 男 チリ スペイン語 近畿 高2 経済学 大2 なし 4.2 データの収 集 方 法 上 記 の10 名 それぞれに対 して、2013 年 秋 から 2015 年 春 の間 に 1 回 ずつ、1 対 1 の半 構 造 化 インタビューを行 った。1 名 当 たりの平 均 所 要 時 間 は 113 分 であった。イ ンタビューは、筆 者 の「『高 校 交 換 留 学 経 験 が大 学 生 活 に与 える影 響 』に関 するイン タビュー調 査 」の一 環 として行 われ、留 学 の動 機 や留 学 先 を選 択 した理 由 、留 学 先 は希 望 通 りか、過 去 の海 外 滞 在 経 験 、留 学 前 の外 国 語 力 などについて話 してもらう 8 旅 行 を除 く。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 よう、適 宜 質 問 を加 えた。インタビューは許 可 を得 て録 音 し、逐 語 録 を作 成 した。 4.3 データの分 析 方 法 分 析 には修 正 版 グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用 いた。M-GTA を含 むGTA は、質 的 調 査 法 により収 集 された 1 次 データなどから、社 会 的 相 互 作 用 にかかわる人 間 行 動 の説 明 と予 測 を可 能 にする理 論 を、データに密 着 しながら帰 納 的 に生 成 するアプローチで(山 崎 2006)、シンボリック相 互 作 用 論 を反 映 させた研 究 技 法 である。また、GTA は、普 遍 性 を目 指 した誇 大 理 論 に対 して、現 場 に根 ざした領 域 密 着 型 理 論 をボトムアップで作 る目 的 で誕 生 しており、成 果 の実 践 への活 用 を重 視 している。本 稿 は、高 校 生 が留 学 を決 意 するのは、彼 らを取 り巻 く社 会 的 相 互 作 用 の結 果 として形 成 される行 動 であると考 え、そのプロセスを明 らかにするものであり、 さらにその目 的 は高 校 交 換 留 学 の促 進 という実 践 であるので、研 究 方 法 として GTA を選 択 することが適 切 と判 断 した。なお、M-GTA は GTA のバリエーションの 1 つで、 分 析 しやすいように木 下 康 仁 が修 正 を加 えたものである(木 下 2003 など)。 M-GTA における理 論 は、「概 念 」や「カテゴリー」を相 互 に関 連 づけることで構 成 さ れる。「概 念 」とは分 析 結 果 を構 成 する最 小 単 位 で、データに密 着 した分 析 から生 み 出 される。「カテゴリー」とは概 念 間 の関 係 を一 言 で表 したもので 、「概 念 」よりも抽 象 的 である。分 析 の手 順 としては、1)分 析 テーマを設 定 する、2)インタビューデータから 説 明 力 のある概 念 を生 成 する、3)各 概 念 間 の関 係 を検 討 し、必 要 に応 じてカテゴリ ー化 する、4)概 念 やカテゴリー間 の関 係 を図 とストーリーラインで表 す、であるが、実 際 には 1)〜4)の間 を行 きつ戻 りつしながら分 析 を深 めていく。本 研 究 の分 析 テーマ は、「高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 を決 めていくプロセス」とした。 1)〜4)の継 続 的 な分 析 作 業 は、理 論 的 飽 和 に至 った段 階 で終 了 させる。その判 断 は、①データの範 囲 、②分 析 の完 成 度 の 2 点 から行 う。本 研 究 では、①について、 分 析 が進 むにつれて概 念 がまとまり、10 人 目 のインタビューデータからは新 たな重 要 概 念 が生 成 されなかったので、「日 本 から非 英 語 圏 への 高 校 交 換 留 学 生 」という範 囲 では、留 学 決 意 プロセスを説 明 するための十 分 な具 体 例 を得 たと判 断 した。②に ついては、分 析 の過 程 で M-GTA 研 究 会9のスーパーバイザーに継 続 的 に意 見 を求 めるとともに、交 流 団 体 X の担 当 者 にも分 析 結 果 に対 する別 の視 点 を提 示 してもらう ことで、分 析 の完 成 度 を高 めた。これは、独 断 的 な解 釈 を防 ぐことにもつながった。 9 M-GTA を用 いて研 究 する人 々の会 。http://m-gta.jp

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 5. 結 果 と考 察 インタビューデータから、最 終 的 に9 概 念 、2 カテゴリーを生 成 し、概 念 間 、カテゴリ ー間 の関 係 を図 2 にまとめた。< >は概 念 、《 》はカテゴリーを表 す。また、[ ]は概 念 間 の関 係 を表 しつつカテゴリーの構 成 要 素 となるサブカテゴリーである。サブカテゴ リーは概 念 とカテゴリーの中 間 の大 きさで説 明 力 を持 つものである。 まず全 体 のプロ セスを説 明 し、続 いて、各 カテゴリーを構 成 する概 念 や概 念 間 の関 係 、およびカテゴ リー間 の関 係 を、インタビューデータを用 いながら説 明 する。 5.1 全 体 のプロセス 図 2 を説 明 する。高 校 生 が非 英 語 圏 に交 換 留 学 することを決 めていくプロセスは、 《高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ》ことから始 まる。高 校 生 は、高 校 交 換 留 学 をした親 戚 などから話 を聞 いて<私 も行 ってみたい>という思 いを抱 いており、そうした希 望 は、な んとなく悶 々とした高 校 生 活 の中 で、<現 状 脱 出 願 望 >の実 現 を後 押 しする。逆 に、< 現 状 脱 出 願 望>によって<私 も行 ってみたい>という関 心 が強 化 されることもある。この ような循 環 の中 で、交 換 留 学 への関 心 は高 まっていく。そこで高 校 生 は、交 換 留 学 の 説 明 会 に足 を運 んだり、パンフレットを閲 覧 したりする。そこでは多 くの体 験 談 を知 る ことになり、彼 らは<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつけられる>。それは、非 英 語 圏 への留 学 体 験 談 であり、想 像 もしなかったような現 地 の文 化 やそこでの生 活 に、彼 らは強 い好 奇 心 を抱 く。留 学 体 験 者 や親 との話 し合 いを通 して<英 語 はいつでも学 べると知 る>と ともに、高 校 交 換 留 学 を<他 言 語 習 得 機 会 と認 識 >した高 校 生 は、それまで半 ば無 意 識 に抱 いていた[「留 学 =英 語 」の転 換 ]を行 う。一 方 、<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつ けられる>のは、その体 験 がユニークかつチャレンジングで、大 きな成 長 の 機 会 となり そうだからでもある。高 校 生 は体 験 談 のように<チャレンジするための国 探 し>を始 める。 英 語 以 外 の言 語 の習 得 と、チャレンジに満 ちた生 活 体 験 により、<「人 とは違 う自 分 」 になれる確 信>を得 て、彼 らは《非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける》。具 体 的 な留 学 希 望 国 は、<ガイドブック的 憧 れ>で候 補 が絞 られることもあるが、最 終 的 には<治 安 優 先 の親 子 協 議>で決 められる。

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図 2 高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 を決 めていくプロセス 5.2 高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ 高 校 生 が 非 英 語 圏 に 交 換 留 学 す ることを 決 め て い くプ ロセ スは 、《高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ》ことから始 まる。例 えば、梅 香 (コスタリカ、国 名 は留 学 先 、以 下 同 様 ) には、「自 分 が留 学 するきっかけにもなったような英 語 の先 生 がいて」、「もともと英 語 と か は 好 きで 、海 外 に も興 味 が あっ た の で 、留 学 して み ようか な っ て い う思 い は あっ た」 (<私 も行 ってみたい>)という。一 方 で、彼 女 は幼 稚 園 から一 貫 校 に在 籍 していたこと から、自 分 の環 境 を「すごい狭 い世 界 」と感 じており、そこから抜 け出 すことも意 識 して いた(<現 状 脱 出 願 望 >)。留 学 はその契 機 として捉 えられており、彼 女 の場 合 は<私 も行 ってみたい>という思 いが<現 状 脱 出 願 望 >の実 現 を後 押 ししたと考 えられる。 逆 に、<現 状 脱 出 願 望 >によって、<私 も行 ってみたい>という思 いが生 まれたり、さ ら に 強 化 さ れ た り す る こ と も あ る 。<私 も行 ってみたい>と<現 状 脱 出 願 望 >のどちらが 先 行 するか、どちらに重 きがあるかは個 人 によって異 なるが、両 者 を行 き来 しながら高 > <> [ ] ] 『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 校 交 換 留 学 への関 心 を高 めていくという《高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ》プロセスは、 調 査 対 象 者 に共 通 して見 られるものであった。 この時 点 では、留 学 先 として非 英 語 圏 を選 ぶ意 図 はほとんど見 られない。むしろ、 梅 香 (コスタリカ)が当 初 「当 たり前 のようにアメリカとかオーストラリアとか考 えてた」と述 べたように、英 語 圏 を想 定 しているケースも少 なくない。また、希 美 (チリ)を除 いて、す でに英 語 を十 分 に習 得 しているという背 景 もなく、英 語 はできるから次 は別 の言 語 を 身 につけようと非 英 語 圏 への留 学 を決 意 する、というわけではないようである1 0。ここか ら、高 校 生 はどのように非 英 語 圏 への留 学 を決 めていくのだろうか。 5.3 非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける 高 校 交 換 留 学 に関 心 を強 めた高 校 生 は、交 流 団 体 の留 学 説 明 会 に足 を運 んだ り、体 験 談 の載 ったパンフレットを閲 覧 したりする。説 明 会 で体 験 談 を話 すのは、数 年 前 に交 換 留 学 を体 験 し、現 在 は大 学 生 である 留 学 体 験 者 (リターニー)などである。 体 験 談 に触 れた高 校 生 は、<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつけられる>。それは、非 英 語 圏 留 学 の体 験 談 であり、これまで想 像 もしなかったような文 化 や事 実 を知 って、彼 ら はその国 や地 域 に強 い好 奇 心 を抱 く。例 えば梅 香 (コスタリカ)は、「留 学 説 明 会 に 行 って、ラテンアメリカの帰 国 の人 の話 を聞 いて、ゆっくりした生 活 で、日 本 と全 然 違 う 文 化 で面 白 いなと」思 ったという。また晴 子 (カナダ)は、募 集 要 項 を見 て、カナダに 「フランス語 圏 があるんだと思 って、どういうことかなーって」と興 味 を募 らせた。募 集 要 項 は体 験 談 ではないが、情 報 収 集 の際 に想 定 外 の事 実 に惹 きつけられた点 で同 概 念 に含 めてよいだろう。 さらに高 校 生 は、留 学 体 験 者 や親 との話 し合 いを通 して、<英 語 はいつでも学 べる と知 る>。これは、体 験 談 やアドバイス等 によって、英 語 圏 に行 く機 会 や英 語 を学 ぶ機 会 はきっと今 後 もあると気 づかされ、今 英 語 圏 に留 学 する必 要 はないと考 えるようにな ることを指 す。例 えば恵 里 (コスタリカ)は、留 学 説 明 会 でコスタリカに留 学 した人 に会 い、その人 から「英 語 はずっとやってるし、今 からでも(筆 者 注 :留 学 を終 えてからでも) 1 0 希 美 は英 語 力 の面 でその他 の対 象 者 と異 な るため、対 象 者 に含 めるかどうか慎 重 に検 討 した。 希 美 は「サバイバルみたいな経 験」(希 美 )をすることを留 学 の目 的 としており、 留 学 先 が英 語 圏 で ないことは当 初 から重 要 だった。希 美 のプロセスには次 節 で述 べる[「留 学 =英 語 」の転 換 ]がない 点 で他 の対 象 者 と異 なるが、<チャレンジするための国 探 し>や、「人 とは違 う自 分 」になるための非 英 語 圏 留 学 というプロセス全 体 の流 れは他 の対 象 者 と共 通 するため、対 象 者 に含 めることにした。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 全 然 学 べる機 会 はある」ことを教 わったという。また、交 換 留 学 から帰 国 後 、アメリカの 大 学 に進 学 した月 子 (ベルギー)は、「その時 は大 学 で英 語 圏 に行 こうとか思 ってた わけではないんですけど。もし英 語 圏 だったら、行 こうと思 えば行 くこともあるのかなっ ていうのを、母 親 にも若 干 言 われてたし。確 かにそうだよなって」と、母 親 のアドバイス に納 得 したことを語 った。 それならば、と高 校 生 は交 換 留 学 を<他 言 語 習 得 機 会 と認 識 >する。これは、高 校 交 換 留 学 を英 語 以 外 の言 語 を身 につける機 会 として捉 えることだが、そこには 2 つの パターンがあるようである。1 つは、スペイン語 や中 国 語 など話 者 の多 い言 語 を身 につ ければ、将 来 的 にその言 語 を使 う機 会 もあるだろうから、自 分 のためになると考 えるケ ースである。恵 里 (コスタリカ)は、留 学 説 明 会 に来 ていたコスタリカへの留 学 体 験 者 から、「スペイン語 っていうのは他 の国 でもすごくしゃべられてるっていうのをそのときに 教 えて」もらい、「ちょっと違 う言 葉 にチャレンジしてみるチャンスだよっていうふうに言 われて」、そのアドバイスに従 った。もう1 つのパターンは、話 者 数 の多 寡 に関 わらず、 ユニークさの追 求 に関 心 を持 つケースである。涼 香 (ハンガリー)は、「どうせ 1 年 間 し か行 けないなら、中 途 半 端 に英 語 を身 につけるよりかは、全 然 知 らない言 語 を身 につ けられたらいいなと思 って」と非 英 語 圏 を希 望 することにした。 このように、高 校 生 は、<英 語 はいつでも学 べると知 る>とともに、交 換 留 学 を<他 言 語 習 得 機 会 と認 識>することによって、それまで半 ば無 意 識 に抱 いていた[「留 学 =英 語 」の転 換]を行 う。この転 換 は、英 語 圏 留 学 の希 望 が叶 わなかった際 にも起 きること がある。成 績 と奨 学 金 の関 係 で英 語 圏 の選 択 肢 がなかった夏 帆 (中 国 )は、「これか らは中 国 が伸 びてくるからっていうときだったので」と中 国 語 の習 得 に期 待 を寄 せ、中 国 を選 択 した。限 られた中 での選 択 ではあったが、交 換 留 学 を<他 言 語 習 得 機 会 と 認 識>して[「留 学 =英 語 」の転 換 ]が起 きた点 は、他 の調 査 対 象 者 と同 様 である。 一 方 、<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつけられる>のは、その体 験 がユニークかつチャレ ンジングで、大 きな成 長 の機 会 となりそうだからでもある。高 校 生 は、誰 も知 らないよう な国 に留 学 する方 が面 白 い、チャレンジに満 ちていて自 分 のためになると考 えて、そ ういった国 を留 学 先 として検 討 する、すなわち<チャレンジするための国 探 し>を始 め る。例 えば、月 子 (ベルギー)は、「日 本 人 だったら、まあいいとこで『あ、チョコレート?』 くらいのことしかみんな知 らなくて。そういうようなところに、1 年 間 行 ってみたらっていう のはすごく面 白 いのかなとか。面 白 いのかなまで思 えなくても、(中 略 )自 分 のために なるかなっていう感 じも結 構 あって」と、ベルギーを選 択 した理 由 を述 べた。同 様 に、 希 美 (チリ)は、「日 本 から1番 遠 くて、名 前 を聞 いて何 も浮 かばないような国」を探 し、

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 尚 之 (チリ)は「地 球 の裏 側」と南 米 に着 目 した。 このようにして、非 英 語 圏 への留 学 を、英 語 以 外 の言 語 の習 得 と、チャレンジに満 ちた生 活 体 験 のチャンスと捉 えるようになった高 校 生 は、非 英 語 圏 留 学 によって<「人 とは違 う自 分 」になれる確 信>、すなわち個 性 的 な自 分 に成 長 できるに違 いないとの 思 いを深 める。「人 とは違 う自 分 」が強 く意 識 されていることは、例 えば「人 とは違 う高 校 生 活 が送 りたくて」(涼 香 、ハンガリー)、「私 の性 格 上 、人 と同 じことやるの面 白 くな いなっていう、気 持 ちもあったので」(恵 里 、コスタリカ)、「本 当 に違 う文 化 の中 で、言 語 も違 って、他 の 日 本 人 の子 だったり、なん か他 の子 と違 う経 験 をしてみたかった」 (月 子 、ベルギー)といった発 言 から読 み取 れる。ここには、自 己 形 成 という、青 年 期 の大 きな課 題 の 1 つが留 学 動 機 と関 わっていることが示 されている。自 己 形 成 とは、 「自 己 を主 体 的 に、個 性 的 に形 作 る行 為 」(溝 上 2011:160)である。高 校 生 は留 学 をその好 機 と捉 え、個 性 的 な自 分 になろうと考 える。<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつけら れる>、[「留 学 =英 語 」の転 換 ]、<チャレンジするための国 探 し>も、高 校 生 が自 己 形 成 という課 題 にさらされているからこそ起 きる。つまり、自 己 形 成 促 進 の機 会 として高 校 交 換 留 学 を捉 えることが、非 英 語 圏 への交 換 留 学 に参 加 を決 める際 の決 め手 で あり、図 2 では<「人 とは違 う自 分 」になれる確 信 >を「コアとなる概 念 」として表 した。端 的 にいえば、「人 とは違 う自 分 」になるために非 英 語 圏 が選 ばれるのである。 なお、高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 を決 定 するプロセスをより現 実 に即 して理 解 するためには、この解 釈 と合 わない例 についても検 討 することが重 要 だと考 える。 康 介 (イタリア)は、姉 の高 校 留 学 が決 まっており、親 に勧 められて留 学 することになっ た。「チャレンジしてみたいとか、行 ってみたい国 があるとか、そういう理 由 は全 く」(康 介 )なかったという。さらに康 介 は留 学 応 募 時 に中 学 3 年 生 で、留 学 先 として選 べる 国 が非 常 に限 られていたため1 1、イタリアを選 んだのは「結 構 、偶 然」(康 介 )だったと 述 べている。M-GTA は、すべての対 象 者 の行 動 を説 明 することではなく、対 象 者 の 行 動 の具 体 的 な特 徴 を捉 えて、実 践 に役 立 つモデルを提 示 することを目 指 す。康 介 のような例 が複 数 あれば、受 け身 的 とも 言 える動 機 を概 念 化 し、プロセスに組 み込 む ことが必 要 だが、本 調 査 においては他 に類 似 例 がなかったので、ここではモデルに適 合 しない例 として言 及 するに留 める。 1 1 留 学 先 の国 がそれぞれ年 齢 制 限 を設 けていることによる。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 5.4 ガイドブック的 憧 れ・治 安 優 先 の親 子 協 議 高 校 生 は、前 節 のようなプロセスで《非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける》うちに、留 学 先 と していくつかの国 を候 補 として思 い浮 かべるようになる。最 後 に、<ガイドブック的 憧 れ >の影 響 も受 けつつ、<治 安 優 先 の親 子 協 議 >で具 体 的 な留 学 希 望 国 を決 定 する。 <ガイドブック的 憧 れ>は、本 や映 像 などを通 して得 たポジティブなイメージから、特 定 の国 や地 域 を留 学 先 として希 望 するようになることを指 す。例 えば涼 香 (ハンガリー) は、「漠 然 としたヨーロッパの街 並 みへの憧 れがあって」と述 べ、「なんかおしゃれそう だから」(涼 香 )と、オーストリアを第 1 希 望 とした。ハンガリーは第 2 希 望 だった。前 節 の解 釈 には当 てはまらなかった康 介 (イタリア)も、この部 分 は例 外 でなく、「本 当 はフ ランスに行 きたかったんですけども。フランスならカッコいいかなみたいな」と、<ガイドブ ック的 憧 れ>が留 学 先 の選 定 に影 響 したことを述 べている。 しかし、留 学 希 望 国 の決 定 にあたって最 も重 視 されるのは現 地 の治 安 である。治 安 等 に関 する懸 念 を払 拭 したり安 心 材 料 を見 つけたりする<治 安 優 先 の親 子 協 議 > を行 い、最 終 的 に留 学 希 望 国 を選 ぶ。 梅 香 (コスタリカ)は「比 較 的 治 安 もいい国 な ので、親 も、まあコスタリカならいいかな、みたいな感 じで言 ってくれたので」と、親 と話 し合 って留 学 先 が決 定 したことを述 べている。 6. 結 論 本 稿 は、高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 に参 加 することを決 定 していくプロセス を明 らかにした。高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 を決 めていくプロセスには、《高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ》と《非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける》、さらに留 学 先 の国 を決 定 する<治 安 優 先 の親 子 協 議 >という、3 つの段 階 があることがわかった。 その中 心 は、《非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける》プロセスである。なかでもコアとなる概 念 は<「人 とは違 う自 分 」になれる確 信 >で、高 校 生 は「人 とは違 う自 分 」になるために、 非 英 語 圏 への留 学 を選 ぶ、ということである。この結 果 は、 高 校 生 が「希 少 価 値 があ る」ことを基 準 に中 南 米 ・アジアを留 学 先 として選 ぶことを明 らかにしたエイ・エフ・エス 日 本 協 会 (2002)に近 いが、それが青 年 期 の自 己 形 成 という課 題 と関 連 することを示 した点 で、本 稿 は新 たな知 見 を加 えたと 言 える。彼 らは「希 少 価 値 がある」ことを、例 えば大 学 の推 薦 入 試 で有 利 になるなどの意 味 で捉 えているわけではない。

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『複言語・多言語教育研究』 日本外国語教育推進機構会誌 No.6 (2018) pp.43-59 さらに、より強 調 したい本 稿 の 新 規 性 は次 の点 についてである。高 校 生 はひとりで に、非 英 語 圏 留 学 は自 己 形 成 の機 会 である、「希 少 価 値 がある」と認 識 するわけでは ない。本 稿 がM-GTA を利 用 し、社 会 的 相 互 作 用 のプロセスとして留 学 の決 意 プロセ スを解 明 しようとしたのは、高 校 生 がそうした答 えに行 き着 く際 にどのようなやりとりが あ るのかを知 りたいと思 ったからである。先 行 研 究 で挙 げたように、アメリカのアフリカ系 の学 生 が留 学 に至 らない要 因 には、教 員 、家 族 、ピア・ネットワーク等 が関 係 している。 本 稿 は反 対 に留 学 を決 意 する過 程 について述 べているが、そこには同 様 に、人 との 関 わりが大 きく影 響 している。《非 英 語 圏 留 学 を価 値 づける》プロセスに限 って見 ても、 そのきっかけとなる<想 定 外 の体 験 談 に惹 きつけられる>において体 験 談 を話 すのは 主 に大 学 生 のリターニーであり、大 学 生 とのやりとりから、高 校 生 は非 英 語 圏 を留 学 先 の選 択 肢 に入 れるようになる。また、月 子 (ベルギー)に「英 語 はいつでも学 べる」と 気 づかせたのは母 親 だったし、尚 之 (チリ)は南 米 への留 学 を検 討 し始 めた際 に家 族 から「あ、なんかいいんじゃない。そういうのも」と言 われたと述 べている。このように、家 族 (主 に親 )自 身 が非 英 語 圏 留 学 に肯 定 的 であることは、高 校 生 の非 英 語 圏 留 学 へ の参 加 を大 いに促 す。一 方 で、アメリカ留 学 の決 意 プロセス(岩 本 2018)で言 及 され た、教 員 のサポートに関 する概 念 は、本 稿 の分 析 から は生 成 されなかった。つまり、 高 校 生 の非 英 語 圏 留 学 に関 して、教 員 の関 わりが希 薄 である可 能 性 がある。 こうした結 果 から、高 校 生 の非 英 語 圏 留 学 を促 進 する ためには、高 校 生 ・中 学 生 が大 学 生 等 の非 英 語 圏 留 学 体 験 者 から実 際 に話 を聞 く機 会 を設 ける、非 英 語 圏 留 学 に対 する家 族 の肯 定 的 な態 度 を促 すために情 報 提 供 する、といった対 応 が必 要 であると言 える。また、教 員 については、教 員 自 身 が非 英 語 圏 留 学 への関 心 を高 め、 高 校 生 をサポートする必 要 がある。非 英 語 圏 留 学 への関 心 や決 意 は、これらの人 々 とのやりとりの結 果 として形 成 されるということに、留 学 政 策 は留 意 するべきだろう。 (信 州 大 学 ) 参 考 文 献 岩 本 綾 (2018)「日 本 の高 校 生 の英 語 圏 交 換 留 学 参 加 決 定 プロセス アメリカの場 合 」 『KEIO SFC JOURNAL』第 17 巻 第 2 号 , pp.154-178. エイ・エフ・エス日 本 協 会 (2002)「高 校 生 留 学 の促 進 に関 する調 査 」http://www.afs.or

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The process by which Japanese high school students decide to

participate in an exchange program:

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This study aims to describe the process by which high school students make the decision to participate in an exchange program to a non-English-speaking country, focusing on the series of interactions between these students and those they come in contact wi th. The study found that students <<find value in an exchange program to a non -English-speaking country>> when they realized, with the help of returnees or their family, that the exchange experience would <make them/me different from everyone else>.

図 2  高 校 生 が非 英 語 圏 への交 換 留 学 を決 めていくプロセス  5.2  高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ  高 校 生 が 非 英 語 圏 に 交 換 留 学 す ることを 決 め て い くプ ロセ スは 、《高 校 交 換 留 学 に関 心 を持 つ》ことから始 まる。例 えば、梅 香 (コスタリカ、国 名 は留 学 先 、以 下 同 様 ) には、「自 分 が留 学 するきっかけにもなったような英 語 の先 生 がいて」、「もともと英 語 と か は 好 きで 、海

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