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「金融情報学:ファイナンスにおける人工知能応用」

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1.10 年目の節目を迎えて

「金融情報学:ファイナンスにおける人工知能応用」 は人工知能学会金融情報学研究会(SIG-FIN)の幹事 メンバが中心となって提案している企画セッションであ る.2008 年度の研究会設立と同時に本セッションも開 始し,本年度でちょうど 10 年目となる. 2017年度の全国大会ではそれまでの 10 件弱の倍近い 論文が集まった(図 1).聴講者も立ち見が出て会場に 入りきれないほど盛況だった. 今回これだけ人が集まった理由の一つは,開催地が名 古屋で実務に携わる方々が参加しやすかったということ がある.そして,やはりタイミングの要素も大きい.近 年の人工知能全般に対する世間の関心の高さと,金融 (finance)と情報技術(technology)の融合を意味するフィ ンテック(FinTech)のブームのお陰で,金融分野でも 人工知能技術を応用することが注目を集めている.この ままいって,人工知能技術を金融市場に応用することが 一般的なテーマになることを祈っている. 当セッションでは,機械学習・データマイニング・テ キストマイニングなどを用いた市場予測や,マルチエー ジェントを用いた人工市場・市場シミュレーション,知 識ベースシステム・意思決定支援システムなどを用いた 投資支援などを対象としている.本年度は企画セッショ ンへの発表希望が多数であったため,一般セッション「AI 応用:ファイナンス」にまわった発表も多数あった.そ れらも含めて,関連文献を紹介しつつ主要な分野を解説 する.

金融情報学:ファイナンスにおける

人工知能応用

Financial Informatics: AI Application in Finance

関  和広

甲南大学知能情報学部

Kazuhiro Seki Faculty of Intelligence and Informatics, Konan University. [email protected], http://www.konan-u.ac.jp/hp/seki

水田 孝信

スパークス・アセット・マネジメント株式会社

Takanobu Mizuta SPARX Asset Management Co., Ltd.

[email protected], http://www.mizutatakanobu.com/

八木  勲

神奈川工科大学情報学部

Isao Yagi Faculty of Information Technology, Kanagawa Institute of Technology. [email protected]

落合 友四郎

大妻女子大学社会情報学部

Tomoshiro Ochiai Faculty of Social Information Studies, Otsuma Women’s University. [email protected], http://newlabo.main.jp/

酒井 浩之

成蹊大学理工学部情報科学科

Hiroyuki Sakai Department of Computer and Information Science, Faculty of Science and Technology, Seikei University. [email protected], http://www.ci.seikei.ac.jp/sakai/

和泉  潔

東京大学大学院工学系研究科

Kiyoshi Izumi Graduate School of Engineering, the University of Tokyo.

[email protected], http://kinba.sakura.ne.jp

Keywords:

artificial market, financial data, text mining. OS-19

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2.人 工 市 場

2・1 期待される人工市場研究 人工市場とは株式や外国為替などの金融市場を対象と したマルチエージェントシステムで,人工市場研究は進 化経済学と呼ばれる比較的新しい経済理論の一分野を形 成している.人工市場では,投資家をエージェントとし てモデル化し,取引所をモデル化した価格発見メカニズ ムにエージェントの注文を集約,株価などの市場価格を 出力する.エージェントは当然,市場価格の推移によっ て次の注文を変える.つまり,ミクロプロセスであるエー ジェントの行動とマクロの結果である市場価格が相互作 用し,複雑系を形成している [和泉 12].これは進化経済 学の特徴の一つであるミクロ・マクロループに相当する. この相互作用は実際の金融市場においても,バブルや 金融危機で大きな役割を果たしていることが知られてい る.特に,投資家の買い(または売り)の行動がさらに 他の投資家の買い(または売り)の行動を引き出す,ポ ジティブフィードバック現象(経済学用語では“予言の 自己成就”という)が先のリーマンショックをはじめ, バブル・金融危機で重要なメカニズムとなっている.そ のメカニズムの解明や早期発見,およびそれを抑える有 効な規制などの議論は,二度とリーマンショックのよう な悲劇を繰り返さないために非常に重要である. 人工市場はこのような相互作用・ポジティブフィード バック現象を直接分析できるため,これらの議論に最適 な研究手法である.それにもかかわらず,伝統的な金融 の学術研究の世界ではまだ広く知られるには至っていな い.一方で,伝統的な手法では有効な議論が見えてこな い中,人工市場に活路を見いだす研究が出始めている. このような問題意識のもと昨年の「Science」の記事 [Battiston 16]では,人工市場を今後期待される分野で あると紹介している.また欧州においては,EU が資 金を出す金融政策研究のプロジェクト*1や中央銀行の 調査(例えば [Munzinger 16])においても人工市場が 用いられている.日本においても,日本銀行(例えば [Sakiyama 16])や東京証券取引所(後述),金融庁(例 えば [大井 13])の調査・研究で人工市場が用いられて いる.このように,学術界のみならず実務家の間でも人 工市場をもっと活用しようという動きがある. 2・2 より具体的な問題を議論する最近の研究 以前の人工市場の研究は,そもそもなぜバブルが起 きるのか,投資家はどのように市場価格を学習して投資 戦略を変更しているのかといった本質的な基礎研究が多 かった([和泉 12] に詳しい).これらの研究はその後の 応用研究の基礎となる非常に重要な役割を果たした.最 近はより具体的で今直面している具体的な問題を議論す る応用研究が増えてきた. 東京証券取引所の親会社である日本取引所グループ (JPX = Japan exchange group)は JPX ワーキング・

ペーパー*2を発行しており,実際のルール変更の議論の 参考になる人工市場研究が多数掲載されている.例えば, 2013年に行われた呼び値の刻み(入力できる注文価格 の刻み)を 1 円から 10 銭へ縮小することに関しても先 に人工市場研究が行われ,縮小が行われない場合の弊害 を指摘している [水田 13].また,高頻度取引者が市場 に与える影響 [草田 15] や,金融危機を防ぐためにグロー バルに策定されたバーゼル規制の副作用 [米納 16] など も報告されている.これらの研究の多くは当研究会でも 報告がされている.多くの人に共有されるルールのこと を進化経済学では「制度」と呼んでおり,上記の研究は まさにこの制度による影響を議論している.なお,制度 はミクロレベルとマクロレベルの中間に位置するため, メゾレベルと呼ばれている.よって,これらの研究は進 化経済学におけるミクロ・メゾ・マクロループという枠 組みの議論と位置付けることができる. 当研究会で報告されたその他の人工市場研究として, 証券取引所の昼休み短縮・廃止の議論 [三輪 16] や,株 式とデリバティブ(金融派生商品)の相互作用 [川久保 16],レバレッジド ETF が行うヘッジ取引の影響 [八木 17],銀行の連鎖倒産 [前野 14] などがある. 2・3 必要とされ始めたスーパコンピュータ 最近の金融市場では,多くの銘柄を同時に取引する投 資家の出現や多くのデリバティブが発明されたことによ り金融商品間が複雑に関連することとなった.このよう な複雑な関連性が金融市場で大きな問題になることも増 えてきた.人工市場でこれらを分析したいという要請が 高まっているが,そのための人工市場は必然的に多くの 金融市場をモデルに組み込んだ大規模計算が必要となる ため,スーパコンピュータが必要となる場合も出始めて いる [野田 13].今後ますます大規模計算技術が必要と なる人工市場研究が増えていくだろう. 2・4 今後も社会の安定に貢献する研究に期待 本研究会の人工市場研究は,実際の金融市場で議論と なっている具体的な事象に対するものが多い.金融市場 は細部の設計によって全体の安定性が大きく変わってし まう,まさに“神は細部に宿る” 存在である [McMilan 02].その細部をより良いものとし,より良い,より安 定した金融システムの構築に貢献する研究も出始めてい ると考えている.金融の安定は社会の安定に最も重要な *2 http://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/ working-paper/ *1 http://www.macfinrobods.eu/research/ workpackages/WP7/wp7.html

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ものの一つであることは間違いない.今後も社会の安定 に貢献する研究が出てくることに期待したい.

3.金融データ分析

3・1 金融データの性質 金融データには,株価や為替レート,金や原油などの 価格データ,会社の財務データ,国の GDP や金利など の経済データなどがある.これらの金融データはノイズ が少なく,比較的フォーマットが決まっているので,研 究者にとってはデータの加工の手間が小さく扱いやすい という利点がある. しかし一方,株価などを例にとってもわかるとおり, その価格などの変動要因は無数にあり,他分野と比べて も将来予測が簡単ではない.金融市場の価格データの将 来予測が難しい原因として,効率的市場仮説が知られて いる [Fama 77]. 効率的市場仮説とは,公開されている情報(過去の価 格情報,ニュースなど)はすべて現時点での価格に織り 込まれていて,市場で取引されている金融商品を有利な 価格で買うことはできないというものである.この効率 的市場仮説を信じるならば,市場価格の将来予測はでき ないということになるが,これについては賛否両論あり, 研究者,実務家の間でも意見は割れている. 3・2 金融データに対する分析手法 金融データに対する分析手法としては,主に統計学的 手法(経済物理),金融工学的手法,機械学習的手法が ある.特に金融データに対する機械学習の応用は最近の 深層学習研究の盛り上がりを受けて大きく注目されてい る.これらの三つの手法の概略を説明する. 統計的手法は,金融データからさまざまな統計量を計 算してデータの特徴を抽出するが,これには統計物理の 手法が用いられることも多い.このような研究は経済物 理とも呼ばれる [Mantenga 00]. 経済物理学では,一見ランダムに見える株や外国 為替レートなどの市場価格データに対して,いわゆる stylized factsとして次の四つの事実が発見されている [Mantenga 00]. まず一つ目は,価格データの対数収益率がべき乗則に 従うということである.二つ目は対数収益率の自己相関 がほぼゼロという事実である.これは,将来の価格予想 が難しいということを示している.三つ目は,volatility clusteringというもので,対数収益率の絶対値が自己相 関する.つまり,大きな変動があった後にはさらに続 いて大きな変動がある可能性が高いことを示している. 四つ目として,金融データはチェックデータから,1 分, 5分,1 時間,1 日などさまざまな時間間隔で変動率を 考えることができるが,時間間隔が大きくなるほど対数 収益率の分布のすそ野が厚いべき乗分布から,すそ野の 薄い分布に変わっていくことが知られている.また,過 去の最高値や最安値に価格が近づくと,最高値・最安値 を更新する頻度が期待されるより少なく,いったん最高 値や最安値を更新すると変動幅が大きくなるというア ノマリー的な値動きをすることが知られている [Nacher 12].一方,ボラティリティで制約を課した相関係数 (volatility-constrained correlation)で金融市場間の影 響伝播の方向性を推定する研究も行われている [Ochiai 14]. また,金融市場における株価などのさまざまな価格 の間の相関に関する研究も行われている.ランダム行列 理論により,株価の相関行列の固有値分布が,価格が完 全にランダムに動くと仮定したときから有意にずれて いることが発見され,その最大固有値の固有ベクトルが マーケットモードに対応することなどが知られている [Plerou 99]. 統計学的手法はモデルを用いないことが多いが,金融 工学的手法は主にモデルを仮定して研究を進める.使わ れるモデルは確率微分方程式で,根底にあるのは価格の 変動がブラウン運動に似た動きをするという考え方であ る.モデルに用いる確率微分方程式にはさまざまなタイ プがあるが,それらに含まれるパラメータは過去データ から決定される.これらのモデルは,金融派生商品やポー トフォリオのリスク管理などに応用されている [Black 73]. ここ数年,深層学習が注目を集めており,金融デー タ研究においても例外ではない.深層学習が盛り上がる 以前でも,さまざまな機械学習の技術が金融データに応 用されていた.例えば,株や為替などの金融市場の価格 データに対しては,ニューラルネットワークやサポート ベクタマシンなどを用いて価格の将来予測がされている [Krollner 10]. また,企業決算の財務情報に対しても,同様の機械学 習技術により粉飾決算のシグナルを発見する研究が行わ れている [Perols 11]. 3・3 金融データに対する深層学習研究への期待 深層学習がさまざまな分野で強力な手法であることが 知られるにつれて,金融データ解析の研究にも応用され はじめている.例えば今年の全国大会では,日本株 30 銘柄に対して,Convolutional Neural Network(CNN), Long Short-Term Memory(LSTM)などを応用して, 将来価格の予想に関する研究発表があった [宮崎 17]. 特にデータを CNN などに学習させる前に主成分分析を 用いて入力データを変換するなどの工夫がなされてい る.また,外国為替の過去データに対して CNN を応用 する研究も行われている [河合 17].過去の価格データ を数字としてではなく,いわゆる価格チャート画像を入 力データとして CNN を用いている.また,株取引の板 情報に対して CNN やロジスティック回帰を用いて,株

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価予測をする研究が行われている [中山 15]. 金融データに対する深層学習の研究はまだまだ始まっ たばかりである.市場データとして,株や為替などの市 場価格はミリ秒単位の高頻度データで莫大なデータ量が ある.また,世界中の企業の決算書の財務データもデー タとして大量に蓄えられている.また,前述のように, 金融データはノイズが少なく,フォーマットが決まって いるので扱いやすいという利点もある.金融データに対 して深層学習の応用研究がますます進むことが期待され る.

4.金融テキストマイニング

4・1 金融テキストからの情報抽出 「金融テキストマイニング」とは,一言でいえば,大 規模なテキストから投資に有用な情報を抽出することで ある.金融におけるテキストといえば,経済新聞記事, 企業が発行している決算短信,有価証券報告書,株主召 集通知,証券会社が発行しているアナリストレポート, 日銀が発行している金融経済月報などが該当し,それら を対象とした研究が発表されている [和泉 11, Sakai 08, 酒井 16, 高野 17].これらのテキストは膨大な量が発行 されており,例えば,決算短信は上場企業(2017 年 8 月 10 日現在,3 559 社)であれば,年 4 回ある決算発 表の度に発行されるため,「大規模なテキスト」と呼ぶ に十分な量が存在している.問題は,これらの大量の金 融テキストからどのような情報を抽出すれば投資家や証 券アナリストによって有用か,すなわち,投資に有用な 情報であるかということを見つけることであり,本学会 金融情報学研究会において,産学の研究者や実務で金融 に携わる技術者との交流を通じて,さまざまな研究テー マが生まれている. 例として,決算短信を対象とした情報抽出の研究を示 す.投資家にとって,企業の業績に関する情報を収集す ることは重要であるが,実際の業績に関する情報だけで なく,その業績要因も重要である.なぜなら,業績回復 の要因が,その企業の主力事業が好調であることであっ たならば株価への影響は大きいが,株式売却益の計上な どの特別利益の計上が要因であるならば株価への影響は 軽微であるからである.業績要因を分析するには決算短 信を読めばよいが,上場企業数は約 3 000 社と多く,一 つの決算短信の文量も多いため,多くの決算短信を読む ことは困難である.そのため,決算短信から例えば「半 導体製造装置の受注が好調でした.」といった業績要因 に関する情報を含む文 [酒井 15],「音楽制作が好調であ ることにより,分野全体の売上高は 10 月時点の想定を 上回る見込みです.」といった業績要因を含む今後の業 績予測を示す文を抽出している [北森 17].また,企業 業績を予測するためにも,例えば「猛暑」のときにどの ような商品が売れるのかといった情報が重要である.上 記の例では,原因「猛暑」のときに結果「冷房需要の盛 り上がり」といった原因・結果情報を決算短信から抽出 することで [坂地 15],猛暑の年には冷房に関する事業 を行っている企業の業績が好調に推移することが期待で きる. 4・2 極性辞書の構築・極性付与 金融テキストから抽出した情報に対して業績に関する 極性を付与したり,極性を付与するための極性辞書を構 築することで,抽出した情報を業績予測や AI による投 資にも活用できる情報源とすることができる.例として, 決算短信から抽出した業績要因に対する極性付与 [酒井 17],FOMC 議事録への極性付与 [伊藤 16],金融テキス トからの極性辞書の構築 [伊藤 17] といった研究が発表 されている.金融テキストからの極性辞書の構築では, 過去のニュース記事や株式掲示板などと金融指標の変動 との関係を利用して行う.株価や景気動向指数といった 金融指標を利用できることが金融テキストからの極性辞 書構築における特徴ではあるが,例えば「円安」でも肯 定的な企業と否定的な企業があり,同一の語でも銘柄に よっては極性が異なってしまう問題がある.そのような 問題に対処するため,銘柄固有の金融極性辞書の構築も 試みられている [関 17]. 4・3 金融変数の予測 金融変数の予測は,経済・金融分野における人工 知能技術の応用として長らく研究の対象となってきた [Kimoto 90, Lu 09, White 88].この問題に対する素直な アプローチとしては,予測の対象である変数の過去の値 から種々の回帰モデルを用いて将来の値を予測すること が考えられる.人が行う投資に当てはめると,過去の値 動きから将来の値を予測するテクニカル分析がこれにあ たる.しかしながら,このような過去の数値データを用 いた方法では,当然ながら企業の買収や不正,商品のリ コールに関する報道といった新規の情報を考慮した予測 を行うことはできない [松井 16].これに対して,ニュー ス速報や金融掲示板などのテキスト情報を解析すれば, 現在進行中の情報を加味して個別銘柄の株価などの将来 的な変動を予測できるものと期待される. このような背景から,テキストマイニングを用いた 金融市場の予測に関する研究が行われてきている [松井 16, Schumaker 09, 坪内 16].分析の対象となるテキス トは,掲示板の投稿やニュース,金融レポートなどさま ざまであるが,いずれの場合も,分析に先立って入力テ キストを何らかの方法で数値表現することが一般的であ る.従来の研究では,文書に現れる語の前後関係を無視 した Bag-of-Words(BoW)が利用されることが多かった. BoWでは,それぞれの単語を一つの次元(特徴量)に 対応させ,単語の頻度情報をもとに文書をベクトルで表 現する.なお,単語の選択や重み付けに,前節で述べた

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極性辞書が用いられることもある [前川 13].また,単語 ベクトルをそのまま文書表現に用いるのではなく,単語 頻度の時系列データに主成分分析を適用し,次元圧縮を 行うなどの方法も試みられている [和泉 11].文書表現が できれば,あとは(精度は別として)過去のデータから 回帰モデルや分類モデルを学習することは容易である. 一方,3 章で解説した金融データ分析と同様に,近年 は深層学習による予測モデルや感情分析モデルも多く取 り入れられるようになってきている [秋田 15, Ding 15]. BoWと比較して,Recurrent Neural Network(RNN) などのニューラルネットワークモデルは,語の前後関係 や距離を考慮できる点で言語を扱うのにより適切である と考えられ,自然言語処理のさまざまなタスクで現在研 究が進んでいる.また,金融変数の予測に関連したタス クとして,同様の背景から,RNN による感情分析モデ ルを用いた金融レポートの指数化に関する研究も進んで いる [山本 16, 余野 17].テキスト情報に基づく新たな投 資指標としても興味深い.

5.ま  と  め

本稿では,全国大会における企画セッション「金融情 報学:ファイナンスにおける人工知能応用」が対象とす る分野のうち,特に人工市場,金融データ分析,金融テ キストマイニングに焦点を当て,各分野の解説を試みた. また,関連研究へのポインタとして,過去の金融情報学 研究会および企画セッションを含め,多くの文献を適宜 引用するよう努めた.紙面の都合もあり,説明不足な点 もあるかと思うが,より詳細な情報については参考文献 をご覧いただきたい. 冒頭で述べたように,フィンテックブームにも牽引さ れ,ここ 1 ∼ 2 年で金融情報学への注目が急速に高まっ ている.特に,経済・金融分野においては,研究に利用 可能な数値およびテキストデータが豊富に存在し,深層 学習の進展とも相まって,今後ますますの発展が期待さ れる.また,人工市場におけるより大規模・精緻なシミュ レーションを可能にする計算科学的なアプローチについ ても,今後の進展が待たれる.これらのテーマを含め, 本解説記事を通して金融情報学の研究領域に興味をもっ ていただけたならば幸いである.

◇ 参 考 文 献 ◇

[秋田 15] 秋田 諒,吉原 輝,関 和広,上原邦昭:再帰的ニューラ ルネットワークによる感情分析モデルを用いた株価動向予測, 2015年度人工知能学会全国大会(第 29 回)(2015)

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[関 17] 関 和広,柴本昌彦:銘柄固有の金融極性辞書の構築,第 18 回人工知能学会金融情報学研究会,pp. 58-64(2017) [高野 17] 高野海斗,酒井浩之,坂地泰紀,和泉 潔,岡田奈奈,水 内利和:株主招集通知における議案別の開始ページの推定,第 18回人工知能学会金融情報学研究会,pp. 65-69(2017) [坪内 16] 坪内孝太,伊藤友貴,山下達雄,和泉 潔:ファイナンス 掲示板情報からの株価予測,2016 年度人工知能学会全国大会(第 30 回)(2016)

[White 88] White, H.: Economic prediction using neural networks: The case of IBM daily stock returns, Proc. IEEE

1988 Int. Conf. on Neural Networks, pp. 451-458(1988) [八木 17] 八木 勲,水田孝信:人工市場シミュレーションを用いた レバレッジド ETF が原資産価格変動に与える影響分析,第 18 回人工知能学会金融情報学研究会,pp. 9-15(2017) [山本 16] 山本裕樹,松尾 豊:景気ウォッチャー調査を学習データ に用いた金融レポートの指数化,2016 年度人工知能学会全国大 会(第 30 回)(2016) [米納 16] 米納弘渡,和泉 潔:人工市場を用いた自己資本比率規制 に基づく市場リスク管理が複数資産市場に与える影響の分析, JPX ワーキング・ペーパー,第 18 巻(2016) [余野 17] 余野京登,和泉 潔:金融レポート,およびマクロ経済指 数によるリアルタイム日銀センチメントの予測,2017 年度人工 知能学会全国大会(第 31 回)(2017)

著 者 紹 介

関  和広(正会員) 2002年図書館情報大学情報メディア研究科修士課程 修了.2006 年インディアナ大学図書館情報学研究科 博士課程修了.Ph.D. 神戸大学助教などを経て現在 甲南大学知能情報学部准教授.情報検索,自然言語 処理,データマイニングの研究に従事.情報処理学 会,自然言語処理学会,ACM SIGIR 各会員. 八木  勲(正会員) 1995年大阪大学基礎工学部情報工学科卒業.1997 年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士 前期課程修了.日立造船株式会社などを経て,2006 年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士 後期課程修了.博士(工学).2011 年より神奈川工 科大学情報学部准教授.金融経済分野をはじめとす る社会シミュレーションに興味をもつ.電子情報通 信学会,情報処理学会,IEEE 各会員. 酒井 浩之(正会員) 2005年豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期 課程電子・情報工学専攻修了.博士(工学).同年, 豊橋技術科学大学知識情報工学系助手.2012 年成蹊 大学理工学部情報科学科講師.2014 年同学科准教授. 自然言語処理,特に,テキストマイニング,テキス ト自動要約の研究に従事.言語処理学会,電子情報 通信学会,情報処理学会などの各会員. 水田 孝信(正会員) 2000年気象大学校卒業.2002 年東京大学大学院理 学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了.2004 年 同専攻博士課程中退.同年 4 月スパークス・アセット・ マネジメント株式会社入社.2010 年 5 月よりファ ンドマネージャー.2014 年 9 月東京大学大学院工 学系研究科システム創成学専攻博士課程修了.博士 (工学).2014 年度より東京大学公共政策大学院非常 勤講師.中小企業診断士.日本証券アナリスト協会検定会員.JAFEE(日 本金融・証券計量・工学学会)会員. 落合 友四郎(正会員) 1995年東京大学理学部数学科卒業.2001 年同大学 院理学系研究科博士課程修了.博士(理学).京都 大学化学研究所,富山県立大学などを経て,2010 年 より大妻女子大学社会情報学部准教授.金融データ などに対する人工知能研究や経済物理学に興味をも つ.日本物理学会,日本数学会各会員. 和泉  潔(正会員) 1993年 東 京 大 学 教 養 学 部 基 礎 科 学 科 第 二 卒 業. 1998年同大学院総合文化研究科博士課程修了.博士 (学術).同年より 2010 年まで,電子技術総合研究 所(現 産業技術総合研究所)勤務.2010 年より東 京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教 授.2015 年より同教授.マルチエージェントシミュ レーション,特に社会シミュレーションに興味があ る.IEEE,情報処理学会,電子情報通信学会各会員.

図 1 金融情報学企画セッションの招待講演を除く発表件数

参照

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