小児のアレルギーと血清IgEに関する疫学的研究 : Goshiki Health Study
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(2) 〈目次〉. 第1章. 第2章. 序論. 第1節 緒言. 1. 第2節・研究の背景一Goshiki Health Study一. 3. 問題の設定. 第1節 アレルギーの概念. 5. 第2節 アレルギーの発現機序による分類とIgE. 6. I. 1型アレルギー II. II型アレルギー III. III型アレルギー. IV. IV型アレルギー. 第3節 アトピー性皮膚炎と喘息. 14. 1. アトピー性皮膚炎 II. 喘息. 第4節 問題の設定. 第3章. 19. Goshiki Health Studyにおける学齢期小児の. 血清IgEの分布の実態とアレルゲン 第1節 目的. 21. 第2節 対象および方法. 21. 1. 対象 II, 調査分析の方法. (1)健康調査.
(3) (2). 血清IgEおよびアレルゲン特異IgEの測定. (3). アレルギーの既往症. (4). 統計分析. 第3節. L. 結果. 24. 血清IgEの分布. II .. 血清IgEとアレルギー性疾患の既往. III .. 吸入性アレルゲン特異血清IgE. IV .. 食餌性アレルゲン特異血清IgE. V.. 血清IgEレベルと吸入性および 食餌性アレルゲン. VI .. 吸入性アレルゲンおよび食餌性アレルゲン とアレルギー性疾患. V皿.. 第4章. 血清IgEレベルと栄養. 考察. 第1節. 血清IgE分布. 31. 第2節. 血清IGEとアレルギー性疾患. 33. 第3節. 血清IgEと吸入性および. 35. 食餌性アレルゲンの分布. 第4節. アレルゲンとアレルギー性疾患. 37. 第5節. 血清IgEと栄養状態. 40. 第6節. アレルギーに関する健康管理と. 42. 健康教育. 結論. 46.
(4) 参考文献. 資料(表・図). 49. 1 ”“ 114.
(5) 第1章 序論. 第1節 緒言. 小児は大人を単に小さくしたものではないということは,小児あるいは小児 の疾患を調査していく上で,心に留めておかなければならない大切な点である. このことは当然,小児のアレルギーについても例外ではない.. 一つの生命がつくられ,この世に誕生し,成長していくとき,もって生まれ た素因と成長(加齢)にともなう具体的変化やさまざまな環境因子がアレルギ ーの状態に深く影響を与えるであろうことは,容易に想像されることである. アレルギー性疾患は,小児期のいかなる時期においてもみられるものであり,. 患児にもたらされる影響は決して小さくない.小児では,疾患によって発達段 階に応じて営まれるべき生活に支障が生ずる.学童生徒という年齢群における 生活は,学校という場において営まれる集団生活と家庭・社会生活とである. この生活に支障がみられることは,この年齢群小児にとって良好な状態である とはいえないことになる.アレルギー性疾患は,学童生徒にとって必要とされ. る集団生活をはじめとする発達段階に応じた生活が営めなくなる原因の1つと 考えられる.. アレルギーになりやすい人となりにくい人がいるが,アレルギーになる人は いわゆる「アレルギー体質」の人でこの素因は遺伝的に決まっている.とくに スギ花粉症については,多発家系の調査から関係する遺伝子の座位も明らかに されている1>.人には,体内に入ってきた異物(抗原)に対して特異的な抗体 をつくって応答する“免疫機構”が備わっており,通常は細菌やウイルスから. 体を守るはたらきをしている.ところがなかには過敏な人がいて,ある特定の. 一1一.
(6) 抗原,例えば花粉抗原やチリダニ抗原に対して過剰な防衛反応をおこして抗体 をつくりすぎてしまう.これがアレルギーの素地である.. アレルギー性疾患を既往歴にもつ人は,30年前の統計では,全人口の約10 %といわれていたが,最近では約20%といわれている2).ことに小児におい ては,アレルギー性の皮膚病は内科疾患に次いで多い.皮膚病は内科疾患と異 なり,肉眼でみえるので感受性の強い子どもは悩み,また,他人からは感染し ないかと疑いの眼でみられがちである.. 近年,学校現場で見聞され,学校教育上無視できない問題に,身体上の弱者 をターゲットに発生するいじめがある.アレルギー性疾患を有する小児は,こ のような身体的弱者としてその対象となる危険性が高い.アレルギー性疾患を もつ小児に対する医学的な立場からの指導や,このような間接的な影響から守 る方針を確立するためにも,その疾患を有する小児に対する正確な情報の収集 とそれにもとつく教育は欠くことができない.また,学校給食のソバに対する アレルギーが引き金となった死亡事故も報告されている.. アレルギー性疾患はアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結 膜炎,気管支喘息などの種々のアレルギー症状が小児期から成人期にかけて1 つの流れとして現れたり,消えたりする,いわゆるアレルギーマー一一チとして現. れることが特徴である(図1).アレルギーの素因を持つ者に対しては小児期 から生涯にわたって,適切な健康教育と健康管理が必要である.このためには, まずわが国のアレルギーの実態を疫学的に明らかにすることが必要である.し. かし,これまでのわが国のアレルギーに関する調査は発症者を対象とした臨床 面からのものが多く,地域全体を対象とした疫学的立場からの Population− based Surveyは少ない.. 兵庫県淡路島五色町では昭和59年(1984年)より児童・生徒の健康に関す る疫学調査 (Goshiki Health Study)を継続実施している.本研究でほ. 一2一.
(7) Goshiki Health Studyの一環として,血清IgEの分布とその抗原特異性につ いて分析し,地域と学校における生涯教育の視点から考察を加えた.. 第2節 研究の背景. 淡路島西岸に位置する兵庫県津名郡五色町(図2)は昭和31年に5ヶ町村 が合併して現在にいたる,人口が約10,500人の農業と漁業の町である.主な 産業は農業で,水稲以外に畜産や施設園芸などの複合経営を行っている農家が 多いが,農産物貿易自由化の波のなかで零細な農業基盤を長期的視野でどう再 構築していくかが課題であり,また漁業はノリ,ワカメなどの栽培や沿岸漁業 が中心であるが,今後とるだけの漁業から如何に育成,栽培し,計画性をもっ た漁業にしていくかが課題となっている.淡路島は今,明石海峡大橋の着工に より本州と結ばれようとし,「島」でなくなる日を迎えようとしている.淡路 島では比較的都市圏に近いという条件と相まり,各種リゾート化構想の進行や 企業誘致による工場の進出が見られ,五色町もその例外ではない.このような. 将来に予想される変化は五色町の伝統的な生活様式を変え,住民の健康にも影 響を与えると考えられる.したがって五色町では現在から将来にわたっての大 きな環境の変化に対応できるような,住民の将来の健康問題へどのように取り 組むかが重要な課題となっている.. 五色町では1969年から1974年にかけて脳出血,糖尿病による死亡率が高 く,その標準化死亡比(SMR:Standardized Mortality Ratio)はそれぞれ 全国平均の約’1.5倍,約2倍であった3).この対策として五色町では1982年 に「健康の町宣言」を行い,以後,行政・医療機関および教育機関が一体とな ったさまざまな事業が試みられている4)5).循環器疾患の多発地域として取り. 組みの始まった当町の事業も1991年には町立の特別養護老人ホームの完成な. 一3一.
(8) ど,拡大・発展の時期にある.またこれまでの取り組みの成果は寝たきり老人 の数が以前に比べて半減したこと,老入医療費が県下で最も低いことに現れて. おり6),1969年から1974年当時の状況とは大きく変わりっっある. Goshiki Health Studyはこれら一連の健康・福祉事業の一環として,1984 年を予備調査,1985・年を本調査初年度として始められた児童生徒の健康実態調 査である.この調査は成人病の第一次予防を目的としており,学齢期小児(10 −14歳)を対象に毎年継続的に行われている.内容は血液と尿の生化学検査なら びに食生活を中心としたライフスタイルの調査からなり,これまでの調査結果 にもとづいて学齢期小児の現時点での健康上の問題を指摘するとともに成人病 第一次予防の立場から循環器疾患のリスクファクターに関する疫学的分析を行. っている7)8).1985年から1992年における対象者,受診者数ならびに受診率 を表1−1,1−2,1−3に示した.. この調査は,調査そのものが児童・生徒や保護者に対する健康教育的意義を 持つものであり, 1990年からは町内の小学校や中学校の担任教師や養護教諭 ならびに学校医と町健康課による健康教育研修会が定期的に持たれている.そ こでは実態調査・研究によって指摘された問題について討議してその中から子 どもたちに教育していくべき内容を選択し,それを系統的に教材化する取り組 みが始められている. 1991年には文部省の健康教育推進地域の指定を受け, Goshiki Health Studyも拡大・発展の時期にある.. 一4一.
(9) 第2章 問題の設定. 第1節 アレルギーの概念. アレルギーという言葉は専門家,素人を問わず広く用いられている.しかし, その概念については,十人十色のうけとめ方があり,しばしば混乱があったが, 最近ようやくその本態が少し明らかになってきた.. 歴史的にみると,Pasteurはニワトリコレラ菌などの弱毒ワクチンによって 劇的な再感染予防効果を得ることができた.つまり“免疫”現象である.しか. し,PortierとRichetは同じようにしてイソギンチャクの毒素で前処理した 犬が2回目の毒素注射に抵抗するどころか,かえってショック死することを見. いだした.さらに,血清病やArthus現象が起こることも明らかになり,生体 に有利な筈の“免疫”現象がかえって生体に不利に働く場合のあることが示さ れた.Von Pirquet(1906)はこれらの現象を総括してアレルギーという概念を うちだした.. そもそもPirquetのAllergieとは「変化した反応能力」という意味で,今 日いう免疫の概念に近いものであった.その後,過敏症(Hypersensitivity) の方だけが強調されたため,生体に有利な“免疫”と,不利な“アレルギー” の関連やアレルギーの本態についての論議が絶えなかった9).. 最近の免疫学の進歩によって“免疫”は従来より広い視野で眺められるよう になり, “アレルギー”もこれに包括されるようになった.すなわち,アレル ギーとは免疫反応の一一一一側面で,ある抗原に対して特異的に起こる免疫反応であ. るが,複雑な種々の生体反応が加わってその個体の局所,または全身的に不利 な生体反応となることをいっている.その発現は単純な免疫反応のみでは説明. 一5一.
(10) しきれない.細胞レベル,物質レベルの調節機構の異常に,遺伝学的,内分泌. 学的,神経学的,生理学的あるいは精神医学的要因による“感受性”の充進が 加わって全体として過剰な防衛反応としてあらわれるのである.. 第2節 アレルギーの発現機序による分類とImmunoglobulin E(IgE). アレルギーの発現機序のうち,少なくとも引き金となる免疫反応については,. かなりのところまでわかってきた.この機序について提案されたCoombsと Gellの分類は明快で,概念の整理の上で便利である(表2).これらは生体防 御としての免疫の本来的な機序であるが,アレルギーではこれが増幅され,病 的に発現し,むしろ疾病として認識されるのである.. 発現に至るまでの時間的因子から,即時型アレルギーと遅延型アレルギーに 大別される.即時型は秒分の単位で起こり,1,II, III型アレルギーが属し,. 体液性抗体,すなわち免疫グロブリンの生物学的活性を中軸に種々の血球,血 漿成分,ならびに化学伝達物質が加わり反応を増幅する.化学伝達物質には標 的細胞あるいは標的臓器があるが,これらの反応性(感受性)もまた正常とは. 異なり,特徴的なアレルギー病像をつくる.遅延型には,IV型が属し,数時間 から日の単位で起こり,生きた細胞,すなわちリンパ球が主に関与するが,最 終的にはやはり化学伝達物質(サイトカインを含な)が関与する(図3).. CoombsとGellによる説明は,体内に残存する抗原との生体反応であるアレ ルギーの病変局所の病理組織学的な変化を合理的に理解させる.さらに蛍光抗 体法,酵素抗体法などの免疫組織学によって明らかにされる抗体,補体,抗原 の存在様式をも都合よく説明できる10》.. 実際のアレルギー性疾患では,これら4型の2つ以上の型のアレルギーが, 同一患者で起こることが多い.たとえば,薬剤アレルギーはショックやじんま. 一6一.
(11) しん(1,III型)とともに溶血性貧血(II型)を伴う.真菌による喘息では, 1,III型,ときにはIV型アレルギーが合併する.. 1.1型アレルギー. 古くから家族傾向を特徴とする過敏症が注目されアトピー(Atopy)と呼ばれ ていた.喘息,花粉症,鼻アレルギー,アトピー性皮膚炎などがこれに属する.. これらの疾患はやがてIgEに関連することが明らかにされ,1型アレルギー によることがわかってきた・したがって,その遺伝的素因とはIgEを産生し やすい素因ということができる.ただし,それのみでなく,産生される化学伝 達物質に対する局所的および個体としての感受性が病変を左右する11). a)アナフィラキシーーショック. もっとも激烈な反応でしばしば重篤で死に至る.大部分は直接医療行為につ ながって生じ,薬物による1型アレルギーが多い.とくにペニシリンによるも のが多い.. 主症状は数分∼数十分で急激に起こる循環虚脱と喉頭浮腫や気管支痙攣によ る気道狭窄で,前述の化学伝達物質の薬理作用で説明できる.アナフィラキシ. ーショックにはIgE抗体による1型が主役であるが, IgE抗体と抗原の複 合体によるIII型アレルギーにより補体C3a,Csa(アナフィラトキシン)が遊離 する機序もあり得る.アナフィラキシーショックは動物種により異なる. b)アレルギー性鼻炎 花粉,室内塵,真菌類,動物の皮膚,毛などが抗原となり得る.くしゃみ, 鼻汁,鼻閉を主徴とし強い浮腫と抗酸球浸潤を伴う.花粉症ではブタクサ,ス. ギ,ヨモギ,カナムグラ,イネなどの花粉が抗原としてあげられ,各々の患者. はその花粉の季節の後にIgE値上昇がある.このほか多くの抗原があげられ. 一7一.
(12) ている.. c)じんましん. じんましんとは痒みを伴う膨疹でヒスタミンなどの化学伝達物質による一過 性の血管透過性充進によると解される.原因は必ずしも免疫学的機序によると. は限らないが,急性じんましんにはIgE抗体が関与するものが多い.寒冷じ んましん,日光じんましんなどの物理的なものにはlgE抗体の関与がある. 補体の関与するものも多い.. d)気管支喘息 発作性に起こる気管支の攣縮,浮腫,腺分泌充進による気道狭窄,呼吸困難,. 喘鳴を症状とする.このような気道の変化は主に1型アレルギーにもとつく化 学伝達物質の作用によるもので,アレルゲンとしては室内塵,家ダニ,真菌, 動物の毛,花粉,食物(牛乳,卵,澱粉)などの多くのものがあげられている.. 職業的にはホヤ,コンニャクによるものもある.アレルゲンは必ずしも明かで. ないものが多い.血中のIgE抗体をRAST法などで検出することができる. 1型ばかりでなくIII, IV型の関与もあり得る.. 喘息の成因は,しかし,アレルギー反応のみですべてが説明できるわけでは ない.喘息患者ではヒスタミン,アセチルコリン,ロイコトリエンなどに対す る感受性が正常人よりはるかに高い12).すなわち,正常人の100∼五〇,000倍. 以下の薄い濃度で発作が起こり得る.これを気道過敏性という.気道過敏性の 原因としては,①βレセプター遮断説:交感神経β2アドレナリンレセプター. の機能低下のためcAMPの生成が阻害され,気管支拡張作用も低下し,常に 気道が収縮されやすい状態にある,②肺局所迷走神経過敏説:コリン受容体が. 過敏で,アセチルコリンによって,cGMPが生成され気道収縮が起こりやすく, 腺分泌も促進されやすい.迷走神経過敏により,その反射路を介して気道収縮 が起こりやすい.また迷走神経知覚末端の咳受容体が過敏である.. 一8一.
(13) 喘息は心因が重要な役割を持っているが,大脳辺縁部から視床下部,ついで 迷走神経刺激を介してコリン受容体刺激に働くためと思われる12》.. II. II型アレルギー. II型アレルギーに関係する疾患は,赤血球,白血球,血小板など血球に対す る抗体によるものが多い(表3). a)代表的なものには不適合輸血された血球が抗体で破壊されることによって 起こる副作用である. b)Rh不適合はRh(+)とくにD抗原(+)の胎児によって感作されたRh(一)の母親. に抗D抗体が産生される.この抗体はIgEで,容易に胎盤を通過して胎 児(第2児以降)の赤血球のD抗原と反応し溶血が起こる.これが胎児性 赤芽球症である. c)抗赤血球自己抗体によって自已免疫性溶血性貧血が起こる.. のII型の薬剤アレルギーは血球に対するものが主である.ペニシリンのよう な薬物はハプテンとして血球表面に吸着されて完全抗原となりこれに対する 抗体が産生される.抗体は血球表面において反応し,II型の機序で血球の破 壊が起こる.キニーネ,スチボフェンなどの薬物は抗体と薬物が複合体を作 り,補体を活性化し,これが赤血球に結合して血球を破壊すると考えられる. このようにして溶血性貧血,血小板減少,穎粒球減少などが起こる.. e)Goodpasture症候群は肺出血と腎炎という全く関係のなさそうな二つの臓 器の病変を特徴とする.これは基底膜に対する自己抗体が生じ,肺血管基底 膜,腎糸球体系蹄基底膜を共通に破壊するために程こると解される. f)男性不妊症は精子に対する自己抗体によるII型アレルギーと考えられる.. 9)橋本病,バセドウ病は共に甲状腺の自己免疫疾患であり,共にII型アレル. 一9一.
(14) ギーに属するがその発生機序は大きく異なる.. 橋本病では抗サイログロブリン抗体,抗マイクロソーム抗体,抗細胞膜抗体 など多種類の自己抗体が証明されるが,特徴ある甲状腺病変は抗体のみでは. できないと考えられている.病変部にはB細胞を主とするリンパ系細胞浸 潤と,芽中心を伴うリンパ濾胞形成があり,病変局所で抗体産生があると考 えられる.しかし,この抗体が補体を活性化して細胞融解を起こす可能性よ. りも,標的となる甲状腺細胞に結合した抗体のFc部分が, Fc受容体をも. ったエフェクター細胞と結合して標的細胞破壊を起こすADCC機序が有力 視されている.ただし病変の完成には,さらに後述する抗サイログロブリン 抗体によるIII型アレルギーが加わる可能性がある.. h)バセドウ病(Greves病)が患者血清中に,甲状腺刺激ホルモン(TSH). とは別な甲状腺刺激物質が発見されLATS(Long Acting Thyroid Stimulator)と名付けられた.やがてこれがIgEであり,甲状腺のTSH 受容体に対する一種の自己抗体であることが証明された.この抗体はTSH. 受容体に結合することによって,TSHの場合と同様に(TSHよりは緩徐 に)甲状腺細胞を刺激し,ホルモン分泌を促進する.この際刺激活性はFab. にあり補体を必要としない.このような抗体による細胞刺激作用をV型とし て独立させる場合もある.. i)インスリン抵抗性糖尿病は抗インスリンレセプター抗体によって起こる. はじめはレセプターの刺激によりインスリン分泌が充進ずるが,長時間作用 により細胞障害性に働き,インスリン分泌は低下する.. 一IO一.
(15) m.III型アレルギー. a)Arthus反応型疾患 実験的には抗体過剰の個体に,その抗原を局所に与えると,血管からの抗体. に遭遇し,基底膜で免疫複合体(IC)を形成する.前述の機序により組織破 壊,炎症が生じる.この現象は,Arthus現象として古くから知られている. 病理組織学的には出血,浮腫,好中球浸潤,組織の壊死,とくに血管壁のフ ィブリノイド壊死が認められる.ブイブリノイド壊死はアレルギー反応に特徴. 的な変化であるとされている.結合織,血管壁の均等無構造の壊死で,膠原繊 維,基質の崩壊があり,血漿成分,とくにフィブリンの沈着がありこの名があ. る。免疫グロブリン,補体,時には関係あると思われる抗原が証明され,IC の沈着によるIII型アレルギーにもとつく組織破壊で合理的に説明がっく. この型の疾患の例としては次がある.. ①内臓幼虫移行症:例としてアニサキス症がある.アニサキス幼虫によって 感作されている個体に幼虫が再感染し,胃腸管に刺入した際Ill型アレルギー反 応が起こると考えられる.. ②パイプカット(vasectomy)後睾丸炎:術後精子(アクロノーム)抗原が血 中に入り自己抗体を産生し,この抗体が精子抗原と精細管の基底膜で結合しIII 型アレルギー反応が起こる.. ③橋本甲状腺炎:II型アレルギー(前述)により組織障害を受けた甲状腺組. 織から洩れ出たサイログロブリンと流血抗体のICにより,さらに第2段階の 組織破壊が進行する.. ④薬物アレルギー:薬物によって予め感作された個体の皮膚にその薬物を適 用するとIII型アレルギー反応が起こる.血管炎,組織破壊が主体である.. b)血清病型疾患. 一11一.
(16) ジフテリア抗毒素血清,破傷風抗毒素血清などの血清療法では時に血清病が 発症し,発熱,発疹,間節痛,蛋白尿などが.あらわれる.これは抗原過剰域で. 可溶性免疫複合体が生じ,全身のとくに血管壁の基底膜に沈着してIII型アレル ギー反応により血管炎を起こしたためである. この型の疾患の例としては次がある.. ①III型アレルギーによる血管炎:血管内のIC形成の一方.血小板凝集破壊. が起こり,血管作動アミンが放出され,血管透過性が増しICは血管壁に沈着 しIII型アレルギー反応が起こる.. ②糸球体腎炎:多くの糸球体腎炎では蛍光抗体法によって,糸球体毛細血管 に沿った免疫グロブリン,補体の存在が証明される.抗原の証明は多くの場合. むずかしいが,糸球体係蹄基底膜にICが沈着して腎炎が生じたことを示して いる.. ③SLE(全身性ループスエリテマトーデス):SLEでは種々の自己抗体 が産生されるが,この自己抗体が作るICが病変を起こすと考えられる.とく に皮膚,腎糸球体をはじめ,全身毛細血管にICが沈着し, III型アレルギーを 起こして,それぞれ紅斑,ループス腎炎などの症状があらわれる.抗原は多く. の場合不明だが,核,DNAなどが証明されることが多い. LE細胞は抗核抗 体によって破壊された核がICを作り,これに補体が加わったものを好中球が 貧食した姿と考えられる.. ④リウマチ様関節炎:自己のIgEに対するIgE抗体(リウマチ因子)に よって作られるICが流血中のみならず関節腔に認められる.関節腔内ではこ のICが補体を活性化し,好中球を呼び寄せ,そのうイソソーム酵素の働きで 関節炎が起こる.一方,各種の免疫応答過程により浸潤した活性化マクロファ. ージはIL−1を産生し, I L−!は,滑膜細胞に作用してCollagenaseや PGE1産生を促進したり, Osteocrastによる骨破壊を起こしたり,線維芽細. 一12一.
(17) 胞増殖を促したりして慢性関節リウマチの病像を作ると考えられている.. ⑤デング熱DengUe HemOrrhagic FeVer:デング熱ウイルスの初感染から回. 復した患者は,そのウイルス株に対する高いlgG抗体価を有しているが,他 の株の感染を防御することはできない.他のデング熱ウイルス株の大量感染に. あうと,初感染の抗体はこれと弱く反応し血管内にICを作る.この結果,血 小板凝集破壊が起こって,血小板が減少し,出血素因が生ずる.補体が消費さ. れ,出血一方では血管内血液凝固(DIC)がおこりショックに陥る.これは 典型的なIII型アレルギーである.. IV. IV型アレルギー. 結核などの細菌,ウイルス,真菌などで感作されている個体の皮内に抗原を. 注射すると,約12時間後から発赤,腫脹がはじまり,24−48時間をピークと する反応があらわれる.反応が強いときは出血,壊死が起こる.1,II, III型. アレルギーとは異なり遅発性なので遅延型反応と呼ばれる.抗体免疫グロブリ. ンという物質が働く即時型反応とは異なり,T細胞という生きた細胞がエフェ クターとして働く免疫反応という意味から,細胞性免疫Cell−mediated Immun−. ityと名付けられた.これは正常の免疫応答として,感染防御反応,同種移植 拒絶反応,腫瘍免疫などに大きな役割を持つ一方,遅延型過敏症として組織障 害に働き,種々の感染症に伴う過敏症,薬剤アレルギー,自己免疫疾患などを ひきおこす.. a)結核,真菌,ウイルスなどの感染症 細胞内寄生性細菌(結核菌,サルモネラ菌,リステリア菌など)や真菌や,. 細胞の抗原性を変化させるようなウイルス(痘蒼,麻疹など)では液性免疫よ. 一13一.
(18) りもIV型アレルギーが関与して病像を左右する.炎症像,組織破壊像などは, 前述の細胞動態,サイトカイン作用を考えると合理的に説明がっく.. b)接触性皮膚炎. うるし,銀杏の果肉,塩化ヒクリル,DNCBなどの食物や薬剤は生体を感 作し,IV型アレルギーを惹起する.. c)自己免疫疾患のあるもの. 実験的アレルギー性能脊髄炎(EAE)や実験的アレルギー性甲状腺炎はIV 型アレルギーで,リンパ球の移入によって病変を移入することができる.IV型 アレルギーは多くの自己免疫疾患で実際に細胞組織の障害を起こし,病像を作 ると考えられる.. d)薬剤アレルギー. フロカイン,リドカインなどの局所麻酔薬,ネオマイシン,染髪剤などの多 くの薬剤が前述の接触性皮膚炎を起こし得る.サルファ剤,テトラサイクリン などが固定疹を作ることがある.. 以上のように薬剤アレルギーはアレルギーの各型をとり得るし,病変が複数 のアレルギーの混合で生ずることも多い.. 第3節 アトピー性皮膚炎と喘息. ここでは小児期におけるアレルギー性疾患のうち,代表的なアトピー性皮膚 炎と喘息についてこれまでの知見をまとめた.. 一14一.
(19) 1.アトピー一・一・性皮膚炎. 1923年アメリカのコカ(Coca)らは,遺伝的要素の強い過敏症の一つをアト ピーと呼び,気管支喘息や,アレルギー性鼻炎を,このような過敏症に属する. 疾患であろうと考えたが,今日いうアトピー性皮膚炎は,なおこの範疇には入. れられていなかった.ちなみに,アトピーとは,ギリシャ語で「奇妙な疾患 (astrange disease)」という意味である.. 一方,今日アトピー性皮膚炎と呼ばれている疾患は,以前より体質的要素の 強い湿疹と考えられ,体質性湿疹,神経皮膚炎,内因性湿疹などと呼ばれてい た.1933年にアメリカの皮膚科医であるザルツバーガー(Sulzberger)らは, この湿疹が気管支喘息やアレルギー性鼻炎と同様の機序によって起こる疾患と. 考えて,アトピー性皮膚炎と呼ぶことを提唱した.つまり,アトピーという概 念が最初に発表された時点では,気管支喘息とアレルギー性鼻炎のみがアトピ ー疾患と考えられたが,後に体質的要素の強い湿疹にもアトピーという言葉が 適用されるようになったのである.. 今日,気管支喘息やアレルギー性鼻炎では,血中のIgE抗体がその発生に 重要な役割を担っていると考えられているが,アトピー性皮膚炎に関しては,. IgE抗体がその発生に関与しているかどうかはなお明らかでなく,少なくと も直接的には関係がないという意見の方が強い.したがって「アトピー性」と. いう名称はついていても,気管支喘息やアレルギー性鼻炎とは,その発生機序 の上で本質的に異なる疾患である可能性も考えられる.. アトピー性皮膚炎は,病院の皮膚科外来患者のうち2∼8%を占める疾患で あり,もっとも多い疾患の一つである.全人口に占める$tJ合は,1%程度とさ. れているが,年齢によってその頻度は異なり,乳幼児がもっとも高くその後次 第に減少するが,思春期には,また小さな山があり,それ以後は半減する.乳. 一15一.
(20) 児では,アトピー性皮膚炎の乳児型と考えられる顔面,頭部の乳児湿疹が,三. 分の一から四分の一にみられる.小学校児では,その頻度は4∼5%であるが,. 年長になるほどその割合は低くなる.ただし,この4∼5%のうち,大部分は 軽症であり,医師による治療を要するものは,その三分の一の程度である.ち. なみに,学童期に多いアトピー性疾患の一つである気管支喘息の頻度は,小学 校児で約9%といわれる.. アトピー性皮膚炎は,近年増えているといわれる.同一人による同一地区で の調査がほとんどないので明確なことは言えないが,医療保障制度の改善に伴 う軽症患者の受診などの要因を差し引いても,本症は増加しているように思わ. れる.気管支喘息,アレルギー性鼻炎などを含むアトピー疾患を既往歴にもつ. 人は,約30年前の統計では,全人口の約10%と言われていたが,最近は約 20%といわれており2),素因(疾患ではなく,それが出やすい体質)の遺伝と, 環境因子の多様化が,それに大きく関わっていると思われる.. アトピー性皮膚炎の発生機序に関しては,これまで多くの論議がなされてき ているが,なお結論は出ていない.. 一つの考え方は,アトピー性皮膚炎は,気管支喘息やアレルギー性鼻炎と同 様,アトピー型アレルギーによるものとするもので,その根拠は,アトピー性. 皮膚炎の患者の血清IgE値が高いこと,これらアトピー性皮膚炎との合併率 が高いことによる.確かに,アトピー性皮膚患者では,正常人にくらべて,血. 清IgE値の高い人が多く,しかも,皮疹が重症なほど,その値も高いという. 傾向があるが,IgE値の高いアトピー性皮膚炎は全体の70%程度であり, 残りは,正常人と変わらず,皮疹が重症であっても,IgE値の正常な人もい るなど,IgEだけが病因とも考えにくいところがある.また,本人や家族に 気管支喘息やアレルギー性鼻炎をもっことが多いことは事実であるが,これら の合併症のない者も少なからずいる.. 一16一.
(21) 以上のような理由で,アトピー性皮膚炎の発症機序を気管支瑞息やアレルギ ー性鼻炎のようなアトピー疾患と同一とする考え方には,反対意見も強い.. 次に,アトピー性皮膚炎は,接触皮膚炎と同じくIV型アレルギーによるとす る考え方がある.IV型アレルギーとは,白血球の中に含まれるリンパ球が感作 されてアレルギー反応を起こすというもので,ウルシにかぶれる人では,リン パ球がウルシに感作さ九て,皮膚に付着したウルシとリンパ球が反応する結果,. 皮膚炎が起こる.アトピー性皮膚炎の場合も,何らかの抗原物質(皮膚の角質 成分,ダニ,真かびなどが考えられている)に対して,リンパ球が感作され, その結果皮膚炎を生じるのではないかとの考えがある.その根拠は,アトピー 性皮膚炎の個々の皮疹は,肉眼的にも,病理組織学的にも接触皮膚炎のそれと. 本質的に異なるとは思えないこと,また,皮膚の角質成分やダニ,ある種の真 菌などで,皮膚反応を行なうと陽性に出ることが多いことなどである.ただこ. のような陽性反応は60%∼70%の患者にしか認められず,100%でないこと が問題で,この説は,なお一一一一般に受け入れられるところまでは至っていない.. さらに最近は,以上二説を組み合わせた第三の説も提唱されてはいるが,結 局のところ,アトピー性皮膚炎の発生機序は,なお明かでないといってよく,. IgEを含めて,多くの要素が複雑にからみ合って,皮疹の発生に至っている と考えている.. アトピー性皮膚炎患者の家族内にアトピー性皮膚炎を有する人が多いことは よく知られた事実であり,その頻度は,調査人によって異なるが,20%∼30% とされている.そして,一卵性双生児の場合は,半数以上に同症が認められる という.アトピー性皮膚炎の遺伝形式については,浸透度の低い優勢遺伝とも. 劣性遺伝ともいわれ,なお明確な結論は出ていないが,本症が遺伝的素因に基 づいた疾患であることは間違いなさそうである.. アトピー性皮膚炎患者は,アトピー性皮膚炎のほか,家族内に気管支喘息や. 17 一.
(22) アレルギー性鼻炎を有する人が多いが,これら三疾患のいずれかを有する人の 割合は,50%∼70%といわ:れ,かなり高率である.しかし,これらの遺伝形式 もなお明らかでない.. II.喘息. 喘息に関しては, 第2節 1.1型アレルギーの項で概説したが, 最近. Searsらは気道反応性と血清IgEについて新しい知見を見いだした.この知 見は,血清IgEが喘息の予知因子として重要であることを示すものであるの で,ここではSearsらの論文について詳述する.. Searsらの研究はニュージランドの11歳の同じ年生まれの小児集団(コー ホート) 562入について調べたものである.この研究では,対象者の呼吸器系. 疾患の既往を問診法,気道過敏性をメサコリン噴霧テストで調査し血清IgE との関係が分析された.その結果 1.対象者のうち喘息の既往を持つ者は男. 子で多く,また男子では血清IgEの分布が広かったが,その幾何平均値は女. 子と有意差がなかった. 2.男子,女子ともにIgEレベルが高い者に喘息 出現率は高く,321U/ml以下のIgE低値者には喘息は1人もみられないが, 10001U/ml以上の高値者ではその36%が喘息の既往を示した. 3.メサコ リンに対する気道過敏性と血清IgEとは強い正の相関があり,特に注目され たのは喘息を含めたすべてのアレルギー性疾患に,過去に一度も罹患したこと のない者でもこの正の関連性は維持されたことであった.. このSearsらの知見は血清IgEレベルと喘息および喘息発作につながる気 道過敏性とが密接な関連を示し,過去にアレルギーの既往のない者でも血清. IgE高値の者は,将来喘息発作をおこす可能性があることを示唆するもので あり,アレルギー予防の指標としての血清IgEの意義を明らかにしたもので. 一18一.
(23) ある.. 第4節 問題の設定. アレルギー性疾患には,気管支喘息,皮膚炎,結膜炎,食物アレルギー,薬 物アレルギー等が知られており,乳幼児から老人まで年齢や性別にかかわりな く発症する慢性疾患であることが特徴である12).. さらに,近年アレルギー性疾患の急速な増加が各国で報告されており,わが 国でもこのままのペースで増加すれば,今世紀末には罹患者出現率は30∼40% にも達すると予測されている13}.このような短期間での急速な罹患の増加は,. 遺伝的素因の変化では説明できない.環境要因やライフスタイル要因の大きな 変化が関連すると考えねばならない.このような視点に立つとき,アレルギー 性疾患の予防は社会医学上,教育学上の急務である.アレルギーは環境要因や ライフスタイル要因の寄与が大きいと予想されることから,予防ならびに健康. 増進の効果が十分期待される疾患である.アレルギーの発症をEndpointとす ると,そこには多くの疾患が含まれ,それらを確実にとらえられる検査法はな い13》.しかもアレルギー性疾患は他の成人病と異なり,発症,寛解を繰り返し たり,完全治癒することも多く,症状の再現が正確にとらえられない危険があ. る.そこでアレルギー反応の主役であるIgE値を取り上げ,アレルギーの発 生との間の関連を調査し疫学的検討を行うこととした.IgE値とアレルギー の発生の間には強い関連があり,IgE値の上昇はアレルギー発症の最も重要 なリスクとなるうるからである.. 従来の研究は主として臨床面からアレルギーの小児のみを対象としたものが 多い.アレルギーに対してその具体的予防策を探るには,健常者を含めた地域. の学齢期の小児集団における血清IgEの分布とそれに影響を及ぼす要因やア. 一19一.
(24) レルギーの発症との関連についての疫学的研究(Population−based Study)が 必要である.. 増加するアレルギー性疾患に対して学校や地域における児童・生徒と教師,. 養護教諭ならびに医師などの専門職の人たち,そして保護者との連携は,これ からますます重要になってくる.そのためにも,地域をあげて総合的に対処し なければならないし,それぞれの人たちのより一層のアレルギーに対する研鎭 が大事であろう.本研究はまた,このような観点から学校および地域における アレルギーに関する健康教育のあり方を探ろうとするものである.. 一20一.
(25) 第3章 Goshiki Health Studyにおける学齢期小児の血清IgEの 分布の実態とアレルゲン. 第1節 目的. 本章では小児期における血清IgEの分布の実態を性,年齢別に明らかにす るとともに,アレルゲンに特異性をもつIgE抗体を検索し,これらの指標と 地域環境やアレルギーの既往との関係を分析し,明らかにすることを目的とし た.. 第2節 対象および方法. 1.対象. 本調査は,五色町における脳心血管系疾患や糖尿病などの成人病の早期予防. (第1次予防)対策の一環として昭和59年度から始められた五色町内の小・ 中学校児童・生徒の健康実態調査の第9年次にあたるものである.実施に先だ って教育委員会,医師会,学校長,保健担当教諭,健康課の合同会議を行い,. 次いで連合PTA役員会にはかって了承を得た.さらに町内の各地区において保 護者に対する説明会を開催して実施についての了解を得るとともに栄養調査記 入方法の説明を行った(図4).. 本研究では平成3年度,4年度の町内5小学校5・6年児童520名, 五 色中学校1,2,3年生781名中血清の得られた1284名を対象とした.なお, 吸入性および食餌性アレルゲンに対する特異IgE抗体は, 1991年度の中学. 一21一.
(26) 校1年生(12歳)を対象として調査し,1991年度に吸入性アレルゲン特異. IgE,1992年度に食餌性アレルゲン特異IgEを検索した.. II.方法. (1)健康調査. 健康調査は平成3年7月9日から12日(火曜日∼金曜日)までの4日 間,各校とも昭和60,61,62,63,平成元年および平成2年度と同じ方法で 午前8時から10時の間に実施した.すなわち,健康調査は一夜空腹状態で検 尿,身長・体重・皮脂厚(上腕および肩甲骨下部)・上腕囲の計測,血圧測定. (臥位30秒後および立位30秒後の2回測定),診察,採血の順で行った. 採血は安静仰臥位で行なった.また,早朝尿は健康診断当日朝の第1回排尿時 の尿をあらかじめ配布した採尿容器に各自採取したものを回収した(図5). 採取した血液は三分し,その一部について,赤血球,白血球,血色素および ヘマトクリットを当日中にSysmex K−1000(東亜医用電子)にて測定した.血. 液の一部には終濃度5mMのEDTA−2Kを添加し,冷却下直ちに遠心分離 (10,000rpm,1分間)して血漿を得た. 血液の残りの一部は,室温30分放 置し常法に従って血清を得た. 血漿・血清試料は一20。Cで保存し,2週間以内 に生化学項目を日立生化学自動分析装置(736型)で測定した.なお,HDL一コ. レステロールはヘパリンー Mn沈澱法でLDL+VLDL一コレステロールを分別し. たのち測定した.尿糖,蛋白質,ウロビリノーゲン,潜血およびpHは Pretest6A(和光純薬)を用い, Pretester RM405にて測定した.尿中ナトリ ウム,カリウムは炎光光度法(JASCO MF303)で測定し,クレアチニン補正値で 排泄量を表した.. 一22一.
(27) 栄養調査は小学校5年生と中学校2年生の2学年を対象とし,健康診断前 の土曜日∼月曜日の連続3日間の食事調査を行った.調査は3日間に摂取し た全食品の種類と量を記録(小学生は保護者,中学生は生徒が記録し,健診時 に栄養士が問診して確認した),一日あたりの栄養素摂取量,食品群別摂取量,. 脂肪酸・コレステロール・ビタミンE摂取量およびマグネシウム摂取量を算出 した.栄養計算は五色栄養調査システムにより計算した.なお,このシステム の食品成分は(1)四訂日本食品成分表:科学技術庁資源調査会編,1985,女子栄. 養大学出版部,(2)ひとめ目でわかる517食品表:ビタミンE,コレステロー ル,脂肪酸,P/S:資源協会食品成分調査研究所編,1989, 第一法規,(3) 寺岡久之他,栄養と食糧 34,221−239,1981にもとつくものである.さらに, 受診した児童・生徒全員に対して食生活アンケート調査を行なった.. 自覚的訴え,本入および家族の疾病既往歴はアンケート問診法で調査し,事. 後指導時に再度確認した.また身体計測値は4月,体力測定値は,4∼10月に 各学校ごとに計測された値を用いた.. (2)血清IgEおよびアレルゲン特異IgEの測定. 血清IgEはEIA (Enzyme Immunoassay)黒去によりEIAPhotometer (富士レビオEIMAX−241)を用いて測定し, IU/mlで表示した.. アレルゲン特異IgE抗体はアレルゲン特異IgE検出試薬 (富士レビオ Quidel Allergy Screen)を用い,ブタクサ,ハルガヤ,スギ,ヤケヒョウヒダ. ニ,コナヒョウヒダニ,ハウスダスト1およびハウスダスト2の7項目と,卵 白,ミルク,大豆,小麦,ネコ上皮の5項目のアレルゲンについて以下の方法. で測定した.すなわちスティック上に被検血清100μ1を塗布後,18時間反応 させる.反応終了後洗浄を行い,酵素標識抗体と30分反応させる.次いで2. 一23一.
(28) 回目の洗浄を行い,基質液と30分発色反応させ,反応終了後ベーパータオル 等で軽く拭き取る.判定はアレルゲンパッドの発色度合いを陰性コントロール を対照にリーダーまたは目視にて判定をした.. (3)アレルギーの既往症. アレルギーに関する既往はアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギ. ー性結膜炎,喘息およびそれら2っ以上の複数の既往について保護者に対する 問診法で調査した(表4).. (4)統計分析. 血清IgEは対数正規型分布をするので,代表値として幾何平均値を用いた.. 2群の差の検定は対数変換後 Studentのt検定を用い,出現率の比較はX2 検定によった. また,要因間の関連性は,各項目の数値を性・年齢別に PearsonのProduct Moment Correlation Coefficientを用いて検討した.. 第3節 結果. 1.血清IgEの分布. 表5に血清IgEの性・年齢別の平均値を示した.. また,図6−1から図. 6−12にその分布を示した.図6に明らかなように血清IgEは高値側に大きく 尾を引く対数正規型分布を示し,この分布は男子,女子の10∼14歳のすべて. の年齢で認められた. (図7−1から図7−26に対数変換後の血清IgEの分布. 一24一.
(29) を示した.従って,血清lgEの性・年齢別の代表値は平均値ではなく,表6 に示す幾何平均値で表すのが妥当である.各年齢の血清IgEレベルには性差 がみられ,男子が女子にくらべて高値を示し,10∼14歳全体では有意差が認め られた(P<0.05).なお,今回の調査での最大値は6,7171U/m1, 最小値. は91U/mlであった、表7に性・年齢別の血清lgEのPercentile値を示し, 図8−1,8−2,8−3にPercentile曲線を片対数グラフで示した.) 血清Ig. Eのレベルには男子,女子ともに10∼14歳の間では加齢変化はほとんどみら れなかったが,12歳で分布幅が狭くなる傾向がみられた.男子は女子にくらべ. て50,75および90Percentile値が高く,血清IgEが高値側に歪な傾向が みられた.. 五色町内の5地区の血清IgEレベルを比較すると男子では堺,鮎原地区が 高く,女子では都志地区が高い傾向があり,鳥飼地区は男子,女子とも他:地区. にくらべて低値を示した(図9).表7−1,7一一2および図の10は全対象者の. 血清IgEの対数変換後のMean+SDに相当する5001U/m1を基準値とし,地区 別に高値者出現率を求めたものである.堺地区の男子では37.1%(1991年),. 75.0%(1992年)と他にくらべて高い血清IgE値を持つ児童・生徒が多い.. II.血清IgEとアレルギー性疾患の既往. 五色町の児童・生徒(10∼14歳)のアレルギー性疾患の既往歴の出現頻度 を図11−1から図11−8,および表9に示した.全体ではアトピー性皮膚炎が最 も多く,ことに女子でその頻度が高い.男子では2っ以上の疾病を罹患した者 が多い.しかし,男子,女子ともに結膜炎,喘息の既往を持つものは少ない. 地区別にみると堺地区の児童・生徒,なかでも男子にアレルギー性疾患の既往 を持つ者が多い.. 一25一.
(30) 表10,図12にアレルギーの既往を持つ児童・生徒と既往をもたない児童・. 生徒の血清IgEレベルを比較して示した.アレルギー性疾患の既往を持つ者 は既往を持たない者にくらべて血清IgE値が高く(全体:p<0.05),こと に喘息,2っ以上の疾患に罹患した者,鼻炎の既往を持つ者の血清IgE値が 高い.アトピー性皮膚炎の既往をもつ者はアレルギー性疾患の既往をまったく. 持たない者にくらべると血清IgE値が高いが,そのレベルは他の疾患の既往 を持つ者にくらべて低い.. 次に,血清IgEレベル別にアレルギー性疾患の既往者の出現率を比較して. 図13に示した. ここでは血清IgE値を対数変換したのち,そのMean−SD (301U/mlに相応)未満をIgE低値群, Mean+SD (5001U/m1に相応)以上. を高値群,この三間を中位群とした.血清IgEレベルの上昇に伴って明らか にアレルギーの既往を持つ者の出現頻度は増加し,血清IgE高値群のアレル ギー出現率は低値群の約4倍であった.なお3群問のアレルギー出現率には男 子,女子ともに統計的有意差があった(表11−1から表11−4).さらに血清 IgE高値群,中位群のアレルギー発症の危険度(Risk)を低値群に対する相 対危険度(Relative Risk)で検討すると,男子では高値群,中位群の相対危険 度はそれぞれ6.17,2.73 (P<0.05),女子では高値群,中位群の相対危険 度はそれぞれ4.45,2.41(P<0.05)であった.. III.吸入性アレルゲン特異血清IgE. スギ,ハルガヤ,ブタクサの3種類の植物由来のアレルゲン,コナダニ,ヤ. ケダニ,ハウスダスト1,ハウスダスト2およびネコ上皮の5種類の動物由来. のアレルゲンの計8種類の吸入性アレルゲンに対する特異IgE抗体の出現率 を地区,性尉に図14−1から図14−10に示した.なおここでは,1991年調査. 一26一.
(31) 時に中学校1年生(12歳)であった者を対象とした.. 男子では女子に比べて吸入性アレルゲン特異IgEレベルが高く,また顕著 な地区差が認められた.すなわち,鮎原,広石,堺の海岸から離れた農村地区. では全体にアレルゲン特異IgEが高く,しかもハルガヤを中心としてスギ, ブタクサなど植物性のアレルゲンに対するIgE値が高い.これに対して都志, 鳥飼の海辺の地区では屋内性のコナヒョウヒダニ,ヤケヒョウヒダニなどのハ. ウスダストに由来するアレルゲンに対するIgEが高い傾向がみられた.ネコ. 上皮に対するIgEは鮎原,堺地区で多く検出され,植物およびダニ由来のア レルゲンに対するIgEとは異なったパターンを示した.. 一方女子では血清総IgEと同様,全体にアレルゲン特異IgEレベルが低 い.この傾向は各地区に共通してみられ,ことに堺地区の女子では血清IgE. が5001U/mlを越える高値者が15.0%いるにもかかわらず(図10),今回調. 査した8種類のアレルゲンに対する特異lgEは検出されなかった.. IV.食餌性アレルゲン特異血清IgE. 卵白,ミルク,大豆および小麦の食餌性アレルゲンに対する特異IgE抗体 の出現率を地区,性別に図15−1から図15−10に示した.ここではIIIの吸入性. アレルゲン特異IgE抗体に関する調査と同じ1991年度中学校1年生を対象 とし,1992年に調査した.. 食餌性アレルゲンについても吸入性アレルゲンと同じく男子が女子に比べて. アレルゲン特異IgE出現率が高い(図15).男子では広石地区に大豆,小麦 のアレルゲンに対するIgEが高く,女子では鮎原地区に大豆,小麦のアレル. ゲンに対するIgEが高い. また広石地区の女子では,血清IgE値が500 1U/mlを超える高値者が14.3%いるにもかかわらず(図16),食餌性のアレ. ー27一.
(32) ルゲンに対する特異IgEは検出されなかった.. V.血清IgEレベルと吸入性および食餌性アレルゲン. 表12−1から表12−4に血清IgEレベル別に吸入性および食餌性アレルゲ ン特異IgE抗体の出現頻度を示した.ここでは図13と同じ基準,すなわち. 対数変換後のIgE値の平均値と標準偏差をもとにIgE高値群,中位群,低 値群を分けた.まず吸入性アレルゲン特異抗体についてみると,男子では血清. IgEレベルの上昇にともなってスギ,ハルガヤ,ブタクサ,ハウスダスト1, ハウスダスト2,コナダニ,ヤケダニ,ネコ上皮に対する特異抗体の出現率が 段階的に増加した.吸入性アレルゲンのうちではハルガヤ(植物性)とコナダ. ニ(動物性)に対する抗体の出現率が高く,IgE 5001U/ml以上の高値群で. はそれぞれ70%,60%が陽性を示した.しかし,IgE301U/m1未満の低 回群では吸入性アレルゲン特異抗体は検出されなかった.. 一方,女子では男子にくらべて全体に吸入性アレルゲン特異抗体の出現率は. 低く血清IgE5001U/m1以上の高値群でもコナダニに対する特異抗体出現率 30.0%が最大であった.また高値群でもスギ,ハウスダスト1に対する特異抗 体は検出されなかった.低値群では男子と同様すべてのアレルゲン特異抗体が 陰性であった.. 次に食餌性アレルゲン特異抗体についてみると男子,女子ともに吸入性アレ ルゲン特異抗体にくらべるとその陽性率は低い.また吸入性アレルゲン特異抗. 体と異なり血清lgEレベルの上昇に対応した特異抗体出現率の増加は必ずし. もみられず,男子ではIgEが301U/ml未満の低値群でも大豆に対して15.4 %の陽性率がみられた.さらに,大豆,小麦に対しては男子よりもむしろ女子 でアレルゲン特異抗体の出現率が高かった.なおミルクに対しては男子,女子. 28 一.
(33) ともいずれのレベルのIgE値を持つ者にも陽性者はなかった.. VI.吸入性アレルゲンおよび食餌性アレルゲンとアレルギー性疾患. 吸入性および食餌性アレルゲンに対する特異抗体出現頻度を,アレルギーの. 既往別に表13−1から表13−4に示した.吸入性アレルゲン特異抗体について みるとアレルギー性疾患を既往に持つ者の約半数がコナダニ,ヤケダニ特異抗 体が陽性であり,特に喘息を既往に持つ者で陽性率が高かった.植物由来のア レルゲンのなかでは,アレルギー既往者全体にハルガヤに対する特異抗体の陽 性率が高かった.しかし,喘息の既往者にはハルガや特異抗体は検出されなか った.この傾向は男子,女子に共通してみられた.. 一方,食餌性アレルゲン特異抗体出現率とアレルギー既往との関連は,吸入 性アレルゲンに対する抗体出現率にくらべて著しく低い.食餌性アレルゲンの うちでは男子,女子とも大豆,小麦に対する植物性の特異抗体の陽性率が高く,. 卵白,ミルクに対する特異抗体はいずれのアレルギーの既往をもつ群でもほと んど検出されなかった.疾患別にみると,男子ではアレルギー性鼻炎,アレル ギー性結膜炎既往者に大豆,小麦特異抗体陽性率が高く,女子では喘息の既往 者でこれらの抗体陽性率が高い.. 冊.血清IgEレベルと栄養. 血清IgEと栄養の関係をみるため,血清IgEと栄養素摂取量,食品群別 摂取量との関連性を単相関係数を求めて検討した(表14−1から表14−4).な. おここでは血清IgEと栄養調査結果がともに得られた小学校5年生(10歳). と中学校2年生(13歳)を対象とした.. 29 一. 血清IgEは,男子13歳で穀.
(34) 類摂取量と負(r=一〇.336,p<0.05),女子10歳で砂糖摂取量と正(r=0.255,. P<0.05)のそれぞれ有意の相関を示したが,血清IgEと栄養摂取量の相関係 数は全体として小さく,また一連の関連性は認められなかった.. 次に,血清IgEと栄養状態の総台指標としての身体計測値との関連性を表 15−1,15−2に単相関係数で示した.男子,女子とも10∼13歳では血清IgE と身体計測値の間に有意の関連は認められない.しかし,14歳では男子の体重,. 胸囲,ローレル指数と,また女子のローレル指数と血清IgEはそれぞれ有意 の負の相関を示した. 14歳では血清lgEとローレル指数の間の負の相関は, 男子,女子に共通して認められた (男子r=一〇.325,p<O,Ol,女子r=一〇.351,. p<0.01).そこで中学校3年生(14歳)について男子,女子それぞれのロー レル指数の平均値と標準偏差から肥満傾向の者(ローレル指数≧Mean+SD)と. 非肥満の者(ローレル指数くMean+SD)の二群に分け,肥満と面清IgEの関 係を検討した.図17−1,17−2,17−3に示すように,肥満群では血清IgEレ ベルが有意に低く(男子p<0.05,女子p<0.01),また肥満群では血清IgE. ≧5001U/m1以上の高値者の出現率が低く,逆に血清IgE<301U/m1の低 値者出現率が高い. すなわち,14歳では男子,女子ともに肥満群で明らかに. 血清IgEが低い傾向がみられた.. 一30一.
(35) 第4章 考察. 本研究は生涯教育の視点に立ったア1ノルギー予防の基礎資料を得ることを目. 的としている.本研究では特に血清IgE値を分析の対象とした. 本章では Cross Sectional Studyで明らかににされた知見をもとに,学齢期の小児の血. 清IgEの分布とアレルギーの関連性について総合的に考察を加えた.. 第1節 血清IgE分布. アレルギー性疾患の患者では血清IgEレベルの上昇がみられることが多い ことから,IgEはアレルギー発症と強い関連を持つと考えられている16).し. かし,血清IgEの増加を示さない喘息患者がみられたり17},血清IgE高値 の者でもアレルギー症状のない者がみられ,アレルギー性疾患の予知因子とし. ての血清IgEの意義は定まっていない.アレルギーと血清IgEに関する従 来の研究は主として臨床面からアレルギー症状を発症した患者を対象として行 われたものが多く,健常者については患者の対照として少数例を分析したもの. が多い16).血清IgEのアレルギー性疾患予知因子としての意義を明らかにす るためには健常者,アレルギー既往者および現症を持つ者を含な集団を対象と する疫学的分析(Population−based Epidemiologic Study)が必要であり,最 近欧米ではこの立場からの報告がみられる18)19)20).しかし,わが国ではまだ この種の研究は少ない.. 血清IgEは男子,女子ともに10∼14歳の各年齢層で対数正規型分布し, 男子全体の幾何平均値は1401U/ml,95%分布輻8−25701U/ml,女子全体の 幾何平均値は1121U/ml,95%分布幅6−19501U/m1であった.本調査の結果. 一31一.
(36) は国内外でRIST法16》,PRIST法16)で測定された他の報告の成績とほ ぼ同じであり,ことにSears等の成績18)とよく一致した.従来の報告では血. 清lgEレベルに性差がないとするものが多いが,今回の成績では10∼14歳 の各年齢層で男子が女子より高値を示す傾向があり,全体では男子の血清. IgE値は女子より有意に高い値を示した.しかし,血清IgEと年齢の間に は顕著な関連はみられなかった.. 血清IgEの正常範囲について石井らは,内外の報告をまとめている16).し. かし,そこではIgE測定法が異なったり,正常範囲を求める際の分析例数が 少なかったりして統一化することが難しいため,各研究者の報告値がら列され. ているにすぎない.本研究では,EIA法によって血清IgEを測定した.こ の方法は放射性物質を使わず,通常範囲内で簡便に精度よく血清IgEを測定. できる利点を持つので,今後IgE測定にはEIA法が主流となると考えられ る. 本研究では,五色町に在住する10歳から14歳の児童・生徒のほぼ全. 員1284名(95.1%)を対象として,血清IgEの分布を調べた.対象者には 男子,女子がほぼ同数含まれる.またこの内にはアレルギーの既往を持つ者が. 含まれるが,アレルギーに関して長期入院治療を受けている者はなく,全員通 常の学校生活を送っている. また本研究は昭和59年より継続実施されている Goshiki Ilealth Studyの一環であり,対象の児童・生徒についてはその血圧,. 身体測定値,血液・尿生化学性状が調べられている.. このように本研究は,疫学的特性が明らかにされた地域の小児集団全体に. ついて血清IgEの分布を調べたことがその大きな特徴であり,わが国では 同種の調査はみら:れない.従って,表7,図8に示した血清IgEの性・年 齢別のPercentile値は現時点でわが国の10−14歳の小児に対する最も正確 なIgEのReference Value (参考値)である.もちろん地域差などを考慮 に入れわが国の他地域でも,同種の調査を行い,さらにReference Valueの. 一一. @32 一.
(37) 精度を高めていく必要があり,現在厚生省の研究班で共同作業が進められて いる.. 本研究では,全対象者の血清IgEの対数変換後の分布の平均値+標準偏 差,平均値一標準偏差に相当する5001U/ml,301U/mlを高値者,低値者を 区分する基準値とした.これらの値は,疫学的立場から血清IgE高値群,低 値群に分け,アレルギー予防の指標を探る目的から設定したものであり,臨床 的立場からアレルギー性疾患を病因論的に探ろうとする場合には,高値側基準. は,平均値+2×標準偏差(20001U/ml)が妥当と考えられる.疫学的立場か. らの本研究の基準値設定は後述のように,この基準による分析で,血清IgE とアレルギー性疾患が.良いDose−Response Relationship (量・反応の関係). を示すことから妥当なものと考えられる.. 五色町内の5つの小学校区で血清IgEレベル,高値者(≧5001U/ml)出 現率を比較すると堺地区の男子の血清IgEレベルが最も高く,高値者の出 現率も高かった.また,堺地区男子は他にくらべてアレルギー性疾患を持つ者 も多かった.堺地区は海岸に面しない内陸部の,主として農業を中心とする地 域であるが,今回の結果から同地域では今後住民のアレルギーに関する遺伝的 体質の集積の有無についての調査やアレルギー起因物質(アレルゲン)につい ての環境科学的調査が必要と者えられる.五色町における植物,動物および食 物由来のアレルゲンの分布に関する考察は第3節に述べる.. 第2節 血清IgEとアレルギー性疾患. 五色町の児童・生徒におけるアレルギー性疾患の既往の出現をみるとアトピ. ー性皮膚炎が最も多く,また2っ以上のアレルギー性疾患の既往を持つ者も多 い.. 一33一.
(38) わが国の統計では,現在人口の約20%アレルギー性疾患の既往を持つとされて いるが,本研究による五色町の児童・生徒の調査でもほぼ同様の結果が得られ た.. アレルギー性疾患の既往と血清IgEの関連をみると,アレルギーの既往を 持つ者はアレルギーの既往のない者にくらべて有意に血清IgE値が高く,こ とに喘息の既往を持つ者のIgE値が高い.アレルギー.性疾患のうちではアト. ピー性皮膚炎のIgEレベルが相対的に低いが,これはこの疾患の発症が幼児 期に多く,調査時との時間的間隔が大きいことによると考えられる.一方,血. 清lgEのレベル別にアレルギーの出現率を比較すると血清lgE値の上昇に 伴って明らかにアレルギー出現率が増加し,5001U/ml以上の血清工gE高値群. のアレルギー出現率は低値群(IgE<301U/ml)の約4倍であった.また, 相対危険度(Relative Risk)の検討から,血清IgE高値群は低値群にくらべ 男子では6.17倍,女子では4.45倍アレルギー発症の危険(Risk)が高いと 考えられる.これらの結果はニュージランドにおけるSearsらの調査報告とほ ぼ一致する.今回はアレルギーの既往は保護者に対する問診法で調査した.従 って医師の診断にもとつく確度の高いものではなく,またアレルギー性疾患発 症時期も不確定なものが多かった.しかし,これらの問診法による限界にもか. かわらず,本研究にみられた血清IgEとアレルギーの量・反応関係(Dose− response Relationship)は血清IgEとアレルギー性疾患の密接な関連を示し,. 血清IgEがアレルギー発症の予知因子として有用であることを示唆すると考 えられる.五色町では全住民を対象とした総合的な健康福祉政策が進められて おり,児童・生徒のアレルギーの既往,現症および家族歴についてもさらに詳 細な調査が行われる予定である.. 血清IgEレベルは6∼15歳でピークを示す20)のでSearsらはこの時期 は他の年齢層にくらべて血清IgEとアレルギーの関連がより明確に現れる19}. 一34一.
(39) と考察している.6∼15歳はわが国では小・中学校の義務教育の時期に相当す る.アレルギー性疾患はアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性 結膜炎,気管支喘息など種々のアレルギー状態が小児期から成人期,老人期に かけてひとつの流れとして現れたり,消えたりする,いわゆるアレルギーマー チとして現れることが特徴であり,アレルギーに対してはライフスパン全域を. 視野においた対応が必要である.従って,血清IgEとアレルギーの関連が顕. 在化しやすい6∼15歳の学齢期に血清IgEのスクリーニングによりアレルギ ー素因を早期に検出することがアレルギーに関する生涯教育の観点からも重要 と考えられる.. 第3節 血清IgEと吸入性および食餌性アレルゲンの分布. アレルギー性疾患発症者を対象とし,その治療を目的とした臨床研究では血. 清総IgE濃度よりも,IgEの上昇がどのアレルゲンに起因するかを調べる 病因論的立場から,アレルゲン特異IgEの検査が重視される.. しかし,. アレルゲン特異IgEの検出には,多数のアレルゲンに対してそれぞれの特異. IgE抗体を識別し,それに定量的に反応する試薬(EIA試薬)が必要であ り,その判定に要する費用は大きなものとなる.本研究のように,地域の全集 団を対象とするような調査ではCost−effectiveness (対費用効率)の観点か ら,その実施は不可能なことが多い.前節で明らかにしたように血清中の総. 19Eレベルとアレルギーの既往とはDose−response Relationship (量・反. 応関係)が認められるので,集団を対象とした場合には血清IgEレベルがア レルギー予知因子としてむしろ重要であると考えられる.. 本研究では,対象とした10−14歳のうち中間の12歳について8種類の吸入 性アレルゲンと4種類のアレルゲン特異IgE抗体の検索を行った.これは五. 一35一.
(40) 色町の児童・生徒の血清IgEレベルに,これらの外来性抗原がどのような影 響を与えているかを知るためのものである.. 吸入性アレルゲンの分布には,顕著な地区差と性差がみられた.すなわち吸 入性アレルゲン特異抗体出現率は,男子が女子にくらべて高い.また,鮎原,. 広石,堺の海岸から離れた農村地区では,全体にアレルゲン特異IgEが高く, しかもハルガヤを中心としてスギ,ブタクサなど植物性アレルゲンが高いこと が特徴的であった.一方,都志,鳥飼の海辺の地区では,屋内性のコナヒョウ. ヒダニ,ヤケヒョウヒダニなどのアレルゲンに対するIgEが高い.このよう. に五色町のように比較的狭い地域内でも,環境とアレルゲン特異IgEの分布 の間には密接な関連がみられた.なお,植物性アレルゲンのうちハルガヤに対 する抗体陽性率が最も高かったが,淡路島の植生分布ではハルガヤは生息しな いと言われている.植物アレルゲンとその特異抗体には,近縁種で交叉反応が あることが知られているので,ハルガや特異抗体検出試薬に対する陽性は,ハ ルガや近縁種で淡路島に多く分布するカモガヤがアレルゲンとして感作された. ものと考えられる.吸入性アレルゲンのうちでネコ上皮に対する特異IgE抗 体の分布は,他と異なり鮎原,堺地区で陽性率が高い.. 食餌性アレルゲン特異抗体陽性率は,吸入性アレルゲン特異抗体にくらべて. 著しく低く,また,地域間の差異も認められなかった.食餌性アレルゲン特異 抗体の分布にも男子でやや高い傾向がみられたが,性差は大きくなかった.. このように五色町生徒では,吸入性アレルゲン特異抗体陽性率が高く,食餌 性アレルゲン特異抗体陽性率は低い.吸入性アレルゲン特異抗体陽性率は男子 で高く,また地区別では堺地区で著しく高いことが注目される.. 血清総IgEレベルとアレルゲンの関係をさらに詳しく検討すると,血清 IgEレベルの上昇に対応して吸入性アレルゲン特異抗体陽性率が増加し,特 に植物性のハルガヤと動物性のコナヒョウヒダニに対する特異抗体陽性率が高. 一36一.
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