高 分 子●●●
展望
特集◇食 と高分子食 品製造 にお ける高分子膜の利用
精 密 ろ過,限 外 ろ 過,お よ び逆 浸 透 と い っ た 膜 分 離 技 術 は,加 熱 を 伴 わ な い省 エ ネ ル ギ ー 的 な 分 離 法 で あ る 。 ま た,最 近 で は,限 外 ろ過 と逆 浸 透 との 中 間 的 な性 能 を有 す る ナ ノ ろ過 技 術 も 開 発 さ れ,注 目 され て い る。 本報 で は,ナ ノ ろ過 法 を 含 め た膜 分離 技 術 の特 徴 を 概 説 す る と と も に,食 品産 業 にお け る応 用 の 現 状 と 今後 の展開の可能性 を紹介する。鍋 谷 浩 志 ・ 〓 原 昌 司
Utilization of Membrane Separation Technology in Food Industry Hiroshi NABETANI and Shoji HAGIWARA
National Food Research Institute, NARO E-mail: [email protected]
Abstract: Membrane separation technologies such as microfiltration, ultrafiltration, and reverse osmosis have many advantages over other separation technologies because they require less energy and no heat treatment. Their application to food industries has grown successfully. Recently, nanofiltration which is a new category of membrane technology placed between reverse osmosis and ultrafiltration is. attracting a great deal of attention. In this paper, characteristics of membrane separation technologies including nanofiltration will be presented, and their application in food industry will be introduced. Innovative research on utilization of membrane technology in food industry will also be mentioned.
Keywords: Membrane/Microfiltration/Ultrafiltration/Reverse Osmosis/Nanofiltration
1.は じ め に 農 林 水 産 省 は,2005年 の3月 に,「 農 林 水 産 研 究 基 本 計 画 」 を 策 定 し,今 後10年 間 に取 り組 む べ き農 林 水 産 試 験 研 究 の重 点 目標 を 示 した。 これ は,民 間 企 業 や 大 学 を 含 め た オ ー ル ジ ャパ ンで取 り組 むべ き目標 と位 置 づ け られ る も ので あ る。この 中 の食 品関 連 分 野 で は,「食 を 通 じた 健 康 の 維 持 ・増 進 」,「食 の安 全 ・信 頼 の確 保 」,「食 料 に 係 る資 源 の有 効 利 用 に基 づ く循 環 型 社 会 の構 築 」 な どへ の貢 献 が, 重 要 な研 究 課 題 と して示 され て い る。 こ う した 分 野 に お いて,高 分 子 を 活 用 した 膜 分 離 技 術 は,す で に大 きな貢 献 を果 た して い るが,後 述 す る膜 分 離 技 術 の もっ 特 徴 か らす る と,本 技 術 に 対 す る期 待 は これ ま で 以 上 に 高 ま る もの と考 え られ る。 た とえ ば,本 格 的 な少 子 高 齢 化 社 会 を迎 え る なか,食 を 通 じた健 康 の 維持 ・増 進 に対 す る期待 が高 ま って い る。 食 を 通 じた 健康 の維 持 ・増 進 を 目指 した機 能 性 食 品素 材 の活 用 に 関 して は,そ の 機 能 性評 価 に 関す る研 究 が 進 展 して い るが,食 品 成 分 の 機 能性 を実 際 に活 用 して い くた め に は, 着 目成 分 の機 能 性 を 高 く維 持 した ま ま分 離 ・精 製 す る こ と が必 要 と な る と想 定 され る。 さ らに,食 品 素 材 で あ る と い う こ とを考 慮 した場 合 に は,低 コス トで 省 エ ネル ギ ー的 に 分 離 ・精 製 す る こ とが要 求 され る。 そ の際 に は,ま さに加 熱 を伴 わ な い分 離 ・精 製 技 術 で あ る膜 分 離 技 術 の 特 徴 が 大 き く発 揮 され る。 ま た,食 の安 全 ・信 頼 の確 保 の ため の 技 術 と い う観 点 か ら も,膜 分 離技 術 に対 す る期 待 は,ま す ます 大 き くな る も の と考 え られ る。 食 の安 全 や 信 頼 に対 す る国 民 の 関心 が ま す ます 高 ま るな か,非 加 熱 技 術 で あ る とい う特 徴 を活 か し て,食 品 の 品質 を高 く維 持 した ま ま菌 体 な どの危 害 要 因 を 除 去 で き る膜 分 離 技 術 の ポテ ンシ ャル は,こ れ ま で以 上 に 高 くな るで あ ろ う。 さ らに,最 近 話 題 とな って い るバ イ オ マ ス の総 合 的有 効 利 用 を考 え た場 合,生 物 資 源 の す べ て の部 分 か ら価 値 あ る *(左) (独)農 研 機 構 食 品 総 合 研 究 所(305-8642つ くば 市 観 音 台2-1-12)・ 反 応 分 離 工 学 ユ ニ ッ ト 長,博 士(工 学).1984年 東 京 大 学 農学 部 農 業 工 学 科 農 業 機 械学 専 修.専 門 は 食 品工 学,膜 分 離 工 学. **(右) 同 上 ・反 応 分離 工 学 ユ ニ ッ ト主 任研 究 員,博 士(農 学).1994年 宇 都 宮 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 農 業 開 発 工 学 専 攻 修 了.専 門 は食 品 工 学,計 測工 学,反 応 工 学. 970高 分 子57巻12月 号(2008年)
もの を生 み 出 し,そ れ ぞ れ を有 効 に活 用 して い くこ とが重 要 と な る。 す な わ ち,副 産 物 を余 す と ころ な く有 効 利 用 で き る技 術 を 開発 す る こ とが 必要 とな る。 そ の た め に は,生 物 資 源 に含 ま れ る成 分 を 省 エ ネ ル ギ ー 的 に しか も本 来 の特 性 を 維 持 した ま ま分 離 ・濃 縮 す る操 作 が,強 く求 め られ る。 この 場面 に お いて も,膜 分 離 技 術 が,そ の特 徴 を発 揮 す る もの と期待 され る。 本 稿 に お い て は,上 記 の よ うな期 待 が もたれ る膜 分 離 技 術 の うち精 密 ろ過(MF)法,限 外 ろ過(UF)法,お よ び逆 浸 透(RO)法 に関 して,そ の原 理 を概 説 す る と と もに,食 品 製 造 に応 用 した際 の 特徴 を述 べ る。 さ らに,食 品 製 造 にお け る癒 用例 を紹 介 す る と と もに,最 近 の 研 究 に基 づ き今 後 の 展 開 の可 能 性 につ い て述 べ る。 2.膜 分 離 技 術 の 原 理 と 特 徴 RO法 お よ びUF法 は,単 純 に は,そ れ ぞ れ イ オ ン レベ ル あ る い は分 子 レベ ル の大 き さの 細孔 を有 す る膜 によ るろ 過 で あ る といえ る。RO法 は,溶 質 は透 過 で きな い が 溶媒 で あ る水 分 子 は透過 で き る膜(半 透膜)を 用 い た ろ過 技 術 で あ り,海 水 の 淡水 化 技 術 と して提 案 さ れ た。UF法 は,溶 解 して い る分 子 を そ の大 き さに よ りふ る い分 け るろ過 技 術 で あ る。RO膜 お よ びUF膜 を用 いて ろ過 を 行 う際 に加 え る操 作 圧 力 は,そ れ ぞれ1∼7MPa,0.1∼1MPa程 度 で あ る。 ま た,MF法 は,0,1μmか ら数 μm程 度 の細 孔 径 を有 す る膜 を用 いた ろ過 で あ り,通 常 の ろ過 圧 力 は,UF法 と 同 等 あ る い はそ れ以 下 で あ る。 これ らの膜 を作 製 す る際 の 素 材 は,一 般 的 に は,ポ リア ミ ド,ポ リス ル ホ ン,ポ リア ク リロ ニ トリル,ポ リビニ ル ア ル コー ル な ど の高 分 子 で あ る。 膜 分 離 技 術 を食 晶 製 造 に応 用 した場 合,以 下 の特 徴 を有 す る。 a.品 質 の 向上 が 可 能 RO法 を 用 い た食 晶 の濃 縮 は加 熱 を必 要 と しな いの で, ① ク ッキ ン グ フ レーバ ー が生 じな い,② 色 素 の 分 解 や 褐 変 が 起 こ らな い,③ 栄 養価 の損 失 が な い な どの 利 点 を 有 し, 食 品 の 品質 向上 を図 る こ とが で き る。 さ らに,RO法 を 用 い た 食 品 の 濃縮 にお い て は,熱 に よ る香気 成 分(揮 発 成 分) の損 失 を 防止 す る こ とがで き,良 好 な 香 りを 保 持 す る こ と が で き る。 b.工 程 の 簡 略 化が 可 能 膜 技 術 を用 い る こ とに よ り,ろ 過 を 行 うだ けで,溶 質 成 分 の分 離 ・濃 縮 を行 う ことが で き る。 この た め,従 来,複 数 の工 程 が必 要 で あ った処 理 を 一 っ の 工 程 に 簡 略 化 す る こ と も可能 で あ る。 c。 エネ ル ギ ー コス トの 低 減が 可 能 RO法 やUF法 を用 い た分 離 ・濃 縮 は相 変 化 を伴 わ な い た め に,蒸 発 法 や凍 結 濃 縮 法 とい った他 の方 法 と比較 して 消費 エネ ル ギ ーが 少 な く,エ ネル ギ ー コス トの低 減 を 図 る こ とが で き る。 d.操 作 が 単 純 RO法 やUF法 の装 置 は,基 本 的 に は,加 圧 ポ ンプ,膜 モ ジ ュー ル,調 圧 弁,お よ び これ らを っ な ぐ配 管 だ けで 構 成 され て お り,必 要 な 操 作 は,加 圧,移 送,リ サ イ ク ル のみ で,非 常 に簡 単 で あ る。 3.食 品 製 造 に お け る 高 分 子 膜 の 応 用 例 食 品 産 業 に お け るRO法 お よ びUF法 の実 用 化 例 を表1 に示 した。 そ の応 用 は,乳 工 業,飲 料 工 業,精 糖工 業,加 工 デ ンプ ン工業,醸 造 工 業,水 産 工 業,畜 産工 業 な ど きわ めて 多 岐 に わ た って い る。 紙 面 の都 合 上,詳 しく触 れ る こ と はで きな い が,多 くの 成書D,総 説2)∼4)があ るの で 参 照 し て いた だ きた い◎ 育 児 用 ミル ク は,牛 乳 を主 原 料 と して 調製 され る が,牛 乳 と母 乳 の成 分 組 成 に は大 き な違 いが あ る。 灰 分 含 量 とカ ゼイ ン タ ンパ ク質 につ いて み る と,牛 乳 は母 乳 の3.5倍,5 倍 とそ れ ぞれ 極 端 に高 い翻 合 とな って い る。 灰 分 に関 して は,膜 分 離 法 の一 種 で あ る電 気 透 析 法 によ り脱 塩 を行 う こ とに よ り濃 度 を調 整 して い る。 また,チ ー ズ ホ エ ー に含 ま れ る乳清 タ ンパ ク質 をUF法 に よ り回収 し,こ れ を牛 乳 に 加 え る こ とに よ り相 対 的 に カ ゼ イ ン タ ンパ ク質 の濃 度 を 低 下 させ,母 乳 の 成 分 組 成 に近 い育 児 用 ミル クが 製 造 され て い る2)。 最 近,ハ チ ミツを 含 む 飲 料 が 数 多 く販 売 され て い るが, ハ チ ミッを そ の ま ま果 汁 や アル コー ル飲 料 に加 え る と沈 殿 が生 じ製 品 の 晶 質 が 著 しく低 下 す る。 そ こで,ハ チ ミッ に 含 ま れ る タ ンパ ク質 や酵 素 を 除去 しな くて は な らな い。 従 来 は,活 性 炭 や イ オ ン交 換 樹 脂 を用 い て脱 色,脱 臭,脱 イ オ ンを 行 った 後,珪 藻 土 ろ過 を 行 う方 法 が と られ て き た が,こ れ らの 工程 は複 雑 で あ る上 に,ハ チ ミツ特有 の風 味 や色 調 が 失 わ れ て しま う。 そ こで,現 在 で は,こ れ らの精 表1食 品産業 にお ける膜分離技術 の実用化例 高分子57巻12月 号(2008年)971
製 工 程 をUF法 に よ り行 って い る。UFを 利 用 す る こ と に よ り,風 味,色 調 を残 した ま ま,タ ンパ ク質 や酵 素 を 除 去 す る こ とが で き,し か も,ハ チ ミツの利 用 で と くに問 題 と な る ボ ツ リヌ ス胞 子 も取 り除 くこ とが で きる。 この ため, 前 述 の飲 料 に加 え て も混 濁 や 沈 殿 を生 じな い製 晶 を開 発 す る こ とが可 能 と な っ た。 こ の方 法 の 開発 に よ り,こ れ まで あ ま り利 用 価 値 の高 くなか った ソバ や ク リのハ チ ミツの 用 途 が 著 し く広 が っ た3>。 生 ビー ル,生 酒 の製 造 に も膜 分 離 技 術 が 利 用 さ れ て い る。醗 酵 直 後 の ビール か ら酵 母 をMF法 で除 去 す る こ とに よ り,シ ェ ル フ ラ イ フの 長 い生 ビー ルが 製 造 され るよ うに な り,家 庭 で も手 軽 に生 ビール が楽 しめ る よ うにな った。 ま た,搾 りたて の清 酒 に は,酵 母 や酵 素(グ ル コ ア ミラー ゼ や酸 性 カル ボ キ シペ プチ ダー ゼ)が 含 まれ る。 適 当 な分 離 性 能 を もっUF膜 を 利用 す る こ とに よ り酵母 や 火落 菌 を 完 全 に除 去 し,酵 素 を80%程 度 除 去 す れ ば,搾 りた て の風 味 を保 持 した シ ェル フ ライ フの長 い生 酒 を製 造 で き る3)。 RO法 に よ り濃 縮 した ブ ドウ果 汁 が ワ イ ン製 造 に一 部 利 用 さ れて い る。 国 産 の ブ ドウ果 汁 の糖 度 は一 般 に低 く,甲 州 種 の場 合15∼16%程 度 で あ る。 ア ル コ ー ル 濃 度10∼ 12%の ワイ ンを得 る に は,糖 濃 度 を20∼24%程 度 にす る 必 要 が あ る ため,通 常 は,ブ ドウ糖 を補 うが,こ れ で は味 に コ クが で な い。 しか し,RO濃 縮 した ブ ドウ果 汁 を用 い る こと に よ り,補 糖 せ ず に醗 酵 を行 うこ とが で き,品 質 の 良 い ワ イ ンが 製造 で き るよ うに な った。 また,褐 変 の原 因 とな る ポ リフ ェ ノー ル や,タ ンニ ンさ らにペ クチ ンを あ ら か じあUF法 で取 り除 く こと に よ り,品 質 の良 い ワイ ンを 製 造 で き る3)。 4食 品 製 造 に お け る 高 分 子 膜 利 用 の 新 た な 展 開 a.ナ ノろ過 法 一 段 操 作 で の海 水 の淡 水 化 を 目指 したRO膜 の高 阻 止 率 化 と と も に,塩 照 止 率 が95%以 下 の 低 阻 止 率 化 も進 行 し て い る。 ち ょ う どROとUFの 中 間 の性 能 を得 る ことを 目 的 と して お り,ナ ノ ろ過(NF)膜 と呼 ば れ る。 通 常1MPa 以 下 の 圧 力 で使 用 され る。 食 品 にお いて は,う ま味 の 因 子 で あ る ア ミノ酸 や 核 酸 物 質,甘 味 の 因子 で あ る単 糖 類 や 二 糖 類 さ らに色 合 い を決 定 す る着色 物 質 な ど の分 子 量 が, NF膜 で 阻 止 で き る範 囲 に あ る た め,NF膜 の 応 用 が 注 目 され て い る。す で に,牛 乳 お よ び ホ エ ーの脱 塩5)∼7),アミノ 酸 調 味 液 の脱 色8>,醤 油 の脱 色9),果 汁 の高 濃 度 濃 縮 シス テ ム10>,オ リゴ糖 の精 製1)∼玉3),機能 性 ペ プ チ ドの精 製4)な ど へ の応 用 が 試 み られ て い る。 以 下,食 品製 造 で のNF膜 の 利 用 に 関す る検 討 状 況 を 紹 介 す る。 牛乳 お よ びホ エ ー の 脱 塩:牛 乳 をNF膜 で 濃 縮 した 濃縮 牛 乳 は,飲 料 用 だ けで はな く高 級 ア イ ス ク リー ムな どの乳 加 工 製 品 の 原 料 と して も注 目 さ れて い る。NF膜 を用 い て 牛 乳 を 濃縮 す る と,イ オ ン化 して い る ミネ ラル な ど の低 分 子 量 の 乳 成 分 の一 部 を水 と と も に分離 す る こ とが可 能 に な り,従 来 の 濃縮 牛 乳 との 風 味 の 違 い を 強調 す る こ とがで き る。RO膜 で は ほ とん どの ミネ ラル と乳 糖 が 阻 止 され,UF で は大半 の成 分 が 透 過 す る。 それ に対 し,NF膜 で は塩 素 や ナ ト リウム,灰 分,カ リウ ムな ど多 す ぎ る と不 快 に な る 成分 が あ る程 度 透 過 す る。一 例 を あ げ れ ば,タ ンパ ク質 濃 度 を上 げ て も塩 味 を 柳 え る こ とが で きる。 ま た,脱 脂 粉 乳 を 濃縮 しなが ら低 分 子 量 の雑 味成 分 を分 離 し,う ま味 を 増 した無 脂 肪 牛 乳 も製 造 され て い る6>。ほか に も,乳 糖 お よ び乳 糖 関連 物 質 製 造 の た め のUF膜 透 過 画 分 の 前 処 理 や, 酸 性 ホ エ ー を部 分 的 に 脱塩 ・濃縮 して,低 塩 化 物 濃 度 の甘 性 ホ エ ー類 似 品 に変 換 す る可 能 性,各 種 チ ー ズ ホ エ ーの処 理 な どがNFの 応 用例 と して 紹 介 され て い るη。 ア ミ ノ酸 調 味 液 の 脱 色8>:脱 脂 大 豆 な ど植 物 由来 の タ ン パ ク質 を酸 で 加 水 分 解 して得 られ る ア ミノ酸 調 味 液 は,わ が 国 に お いて 漬 物 ・佃 煮 ・即 席 麺 を は じめ と して 広 く利 用 され て い る。 近 年 の食 晶 の高 級 化,高 品 質 化 に 伴 い,こ れ まで の ア ミノ酸 調 味 液 も素 材 の味 を十 分 に活 か す こ とが求 め られ て い る。 そ の た め,調 味 料 に対 す る市 場 の要 求 も, 素 材 の もっ 香 りを損 な わ な い よ うにな るべ く無 臭 で,色 調 も淡 く,マ イル ドで ソフ トな味 を もち,加 熱 に対 して も安 定 で あ る こ とが 求 め られ て い る。 脱 色 にNF膜 の適 用 を試 み た結 果,ア ミノ酸 な ど の低 分 子 量 の 呈 味 成分 と食 塩 のバ ラ ンスを 維 持 しな が ら,脱 色 が 可 能 で あ る こ とが 明 らか に な っ た。 膜 脱色 法 を従 来 の吸 着 剤 を 用 い た脱 色 法 と官 能 評 価 で 比 較 す る と,従 来 品 よ り品 質 が大 き く向上 して い た。 ま た,加 熱 に よ る褐 変 も大 幅 に低 減 され て い た。 醤 油 の 脱 色:醤 油 は 日本 古 来 の調 味料 と して た いへ ん 重 要 な 地 位 を 占め て い るが,加 工 食 品 に 使用 す る場 合 に は, 前 述 の ア ミノ酸 調 味液 と同 様 に うま 味 を残 した ま まで,色 調 の 淡 い 醤 油 が望 まれ る よ う にな った 。 そ こで,NF膜 を 用 いた 脱 色 が試 み られ て い る9>。そ の結 果,非 常 に色 が 薄 く添 加 物 の な い醤 油 風 調 味 料 と して製 品化 され て い る。 ま た,NF処 理 に よ り得 られ る濃 縮 液 も全 窒素 分 の 多 い濃 厚 醤 袖 と して別 途 出荷 され て い る。 高 濃 度 濃縮 シス テム1通 常 の濃 縮 果 汁 は45∼50Brix程 度 まで 真 空 濃 縮 さ れ て お り,そ の と きの 浸 透 圧 は10∼15 MPaで あ る。RO法 のi操作圧 力 は膜 モ ジュ ール や 装 置 の 酎 圧 性 の制 限 か ら6∼7MPaと され るの で,果 汁 の濃 縮 限 界 は25∼30Brixと な る。 この濃 縮 限 界 の 問題 に 対 して,図 110)に示 した よ うに,通 常 の高 阻 止率 型RO膜 とNF膜 を 組 み合 わ せ る方 法 が 提 案 され て い る。 溶 質 を一 部 透 過 液 傭 に透 過 させ,濃 縮 液 と透 過 液 の浸 透 圧 差 を小 さ く保 ちな が ら高 濃度 ま で濃 縮 を行 う シス テ ム で あ る。 オ リゴ糖 の 精 製:適 当 なNF膜 を選 定 し操 作 条 件 の設 定 を行 う こと に よ り単糖 や二 糖 とさ らに高 分 子 の 三 糖 以上 の オ リゴ糖 と の分 離 が 可 能 とな る。 この こと を利 用 して,大 972高 分 子57巻12月 号(2008年)
図1ナ ノ ろ過(NF)膜 を用 い た高 濃 度 濃 縮 シス テ ムの 原 理 豆 オ リ ゴ糖m,チ コ リオ リ ゴ糖12)およ び ヤ ー コ ンオ リゴ 糖3)の 精 製 にNF膜 を利 用 しその 付 加 価 値 を高 め る試 み が な され て い る。 機 能 性 ペ プ チ ド精 製M):採 卵 鶏 の廃 鶏 屠 体 は産 業廃 棄物 と して 処 理 され る場 合 が あ るが,屠 体 は良 質 の ス ー プ とな る チ キ ンエ キ スの 原 料 で もあ る。 しか もチ キ ンエ キ ス に は 主 要 な 成 分 と して 洛 ア ラニ ン と ヒス チ ジ ンか ら構 成 さ れ る抗 酸 化 性 ジペ プ チ ド(ア ンセ リ ンお よ び カ ル ノ シ ン)が 含 まれ て い る。 これ らの抗 酸 化 成 分 は人 間 の老 化 や 各 種 疾 病 の 直 接 的 原 因 とな る活 性 酸 素 を 体 内 で消 去 す る効 果 が 期 待 され る こ とか ら,生 活 習 慣 病 の予 防 に有 効 で あ る と いわ れ て い る。そ こで,廃 鶏屠 体 の利 用 促 進 の た め に,NF膜 を 用 い る こ と に よ り,廃 鶏 に含 まれ る抗 酸 化 性 ジペ プチ ドを 任意 の純 度 で 大量 生 産 で き る製 造 法 が 開 発 され て い る◎ b.有 機 溶 媒 系 で の膜 分 離 食 品産 業 に お け る膜 分 離 技術 の応 用 は,果 汁,チ ー ズ ホ エ ー な ど に代 表 され る よ うに,お もに水 溶 液 系 を 対 象 に 発 展 して き た が,最 近 で は,膜 材 質 の 多 様 化,高 機 能 化 に 伴 って膜 の適 用範 囲が 有機 溶剤 系 に も及 ぶ よ う にな り,油 脂 精 製 や廃 食 油 処 理 な どの水 溶 液 系 以 外 へ の 応 用 も試 み ら れ る よ うに な って き た15NI6)。Subramanianら15)は,シ リ コ ンを活 性 層 とす る膜 を 用 い て,ラ ッカセ イ お よ び ヒマ ワ リの圧 搾 油 を ろ過 し,ろ 過 に よ る晶 質 の 変 化 を 評 価 して い る。 ろ 過 に よ り リ ン脂 質 濃 度 は360mg/kg以 下 に 低 下 し,色 素 成 分 も効 率 よ く除去 され て い る。 また,酸 化 生 成 物 も25∼40%程 度 阻 止 され る。 一 方,ト コ フ ェ ロー ル は 選 択 的 に 膜 を 透 過 し,透 過 側 で30∼70%程 度 濃 度 が 高 ま る傾 向 に あ った。 この こ とか ら,一 段 の 工 程 で 晶質 の高 い 精 製 油 を 与 え る操 作 と して膜 分 離 法 が 高 い可 能 性 を有 す る こ とが 示 され て い る。 また,宮 城 ら16)は,同 様 の膜 を 用 い て 使 用 済 み の 廃 食 用 油 の ろ 過 を 行 った 結 果 を 報 告 して い る◎ ろ過 に よ り,廃 食 用 油 の 色 お よ び粘 性 は新 油 と 同等 程 度 に まで 改 善 され る と して い る。 ま た,総 極 性 物 質 や酸 化 生 成 物 も効 率 よ く除去 され るた め,廃 食 用油 の 品質 の総 合 的 な 改善 に 膜 分離 が有 効 な手 段 とな る こ とを示 して い る◎ た だ し,本 技 術 を工 業 的 に利 用 す るた め に は,透 過 流 束 を 改善 す る必 要 が あ る。 5.お わ り に 以 上,食 品製 造 に お け る膜 分 離 技 術 の 利 用 の 動 向 お よ び 今 後 の 展 開 の可 能 性 にっ いて 概 説 した。 21世 紀 は,水 を め ぐって紛 争 が 起 きる時 代 といわ れ る。 その 理 由 の一 つ は,人 口増 加 に対 応 した 食料 増 産 が必 要 で あ り,そ の た め に は 大 量 の 水 資 源 が 必 要 と な る こ と に あ る。 一方 で,化 石 資 源 の 保 護 お よ び地 球 温 暖化 防止 を背 景 と して バ イ オ マ ス エ ネル ギ ーの利 用 が推 進 され て い る が, そ の 結 果 と して,農 産 物 の エネ ル ギ ー と して の利 用 が 食 料 と して の利 用 と競 合 し,大 きな 問題 とな って い る。 この よ うに,水 問題 食 料 問題 そ して エ ネ ル ギ ー 問題 が 複 雑 に か らみ合 って い るの が,現 在 の世 界 の情 勢 で あ り,こ の ま ま の状 態 が 続 けば,短 期 間 で破 局 を迎 え る可 能 性 もあ るの で はな いか と懸 念 され る。 本 稿 で 述 べ た膜 分 離 技 術 の 特 徴 か らす る と,当 該 技 術 が,水 ・食 料 ・エネ ル ギ ー問 題 の解 決 に少 なか らず 貢 献 す る可 能 性 を有 して い る もの と考 え る。 今 後,新 たな 膜 素 材 お よ び装 置 の 開 発 な らび に 新 規 な 応 用 分 野 の 開 拓 を通 じ て,膜 分 離 技 術 が 食 品製 造 分 野 にお いて ます ます 発 展 す る と と もに,現 代 社会 の抱 え る問 題 の 解 決 に幅 広 く貢 献 す る こ とを期 待 す る。 文 献 1)野 村 男 次,大 矢 晴 彦 編:「 食 品 工 業 と膜 利 用 」,幸 書 房,1983 2)渡 辺 敦 夫,中 嶋 光 敏:日 本 の 科 学 と 技 術,26(235),64(1985) 3)中 嶋 光 敏,渡 辺 敦 夫:月 刊 フ ー ドケ ミカ ル,1991年4月 号, pp.66-72(1991) 4)渡 辺 敦 夫,鍋 谷 浩 志:膜32,190(2007) 5)田 村 吉 隆:食 品 と 開 発,29(10),14(1994) 6)共 同 乳 業:MRCNews.No.14.p.14(1995)
7) P. M. Kelly, et al.: IDF Special Issue, 9201, 130 (1992)
8)川 喜 田 哲 哉:食 品 と 開 発29(10),17(1994) 9)西 田 祐 二 ほ か:日 東 技 報,31,11(1993) 10)鍋 谷 浩 志:膜,21,102(1996)
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