問 題 と 目 的 1 .中・高年期の発達課題であるジェネラティビ ティ Erikson(1950)は漸成発達理論の中で,主に中 年期の発達課題をジェネラティビティとし,「次の 世代を確立し,導くことへの関心」と定義した。そ の後,Erikson(1982)はジェネラティビティの定 義を拡張し,「自分自身のさらなる同一性の開発に かかわる一種の自己―生殖を含めて,新しい存在や 製作物や観念を生み出すことを表す」とした。ジェ ネラティビティは,当初はライフサイクルの7番目 の段階である中年期の心理社会的適応課題として設 定されたが,後に続く議論の中で,8番目の段階で ある高年期にかけてまで,その心理社会的機能が維 持されることが指摘されるようになった(小澤, 2013)。Erikson(1964)は,高年期の同調傾向とし て「自我統合(ego-identity)」を設定している。「自 我統合」とは,統合された経験を他(次世代)に伝 える努力,後世への遺物を遺すため,来るべき世代 の要求に応え,それを通じて統合性をもった自己を 確立し,目前に迫る死の恐怖を乗り越える営みであ るとされる。小澤(2012)は,このEriksonが想定 した高年期に課される自身の経験を次世代に伝える という役割を,中年期のジェネラティビティの高次 な焼き直しであると指摘した。これらのことから, ジェネラティビティの概念は,中・高年期を通して 問われる発達課題であると考えられる。 Erikson以降,ジェネラティビティの発生の動機 づけや発達に関する様々な検討が行われている。例 えばMcAdams & Aubin(1992)は,7つの心理 社会的要素を用いて概念モデルを示し,Erikson (1950,1982)のジェネラティビティ概念を実証的 研究から発展させた。この概念モデルによると,ジェ 原著
ジェネラティビティと心理的居場所感が職業的アイデンティティに及ぼす影響:
ジェネラティビティを媒介要因としたプロセスモデルの検証
高 橋 彩(公益財団法人 前川ヒトづくり財団)The Effects of Generativity and Sense of Psychological ‘Ibasho’ on Work identity: Examining the Mediating Role of Generativity
TAKAHASHI Aya
The purpose of this research was to examine the generativity of middle and old age from the sense of psychological ‘ibasho’ and a work identity in enterprise. A web-based questionnaire survey was administered to enterprise employees (N=450). The results of analysis indicated “generativity (positive)”was significantly higher in the 60s than in the 40s, while” generativity (negative)”was significantly higher in the 40s than in the 60s. And, we examined the process model that the sense of psychological ‘ibasho’ at work influences ”a work identity” through ”generativity (positive)” and ”generativity (negative)”. As a result, it was found that there was no difference in each age and it was a consistent model. In addition, it was suggested that by enhancing the sense of psychological ‘ibasho’ and reducing the ”generativity (negative)”, a work identity would be enhanced.
キーワード:ジェネラティビティ,心理的居場所感,職業的アイデンティティ,中・高年期,企業 Key words:generativity, sense of psychological ‘ibasho’, a work identity, middle and old age, enterprise
本論文の作成にあたり,多大なるご助言とご協力 をいただきました白百合女子大学の原健之様に,心 より感謝申し上げます。
ネラティビティの動機づけとして「内的欲求」と「文 化的要求」の2局面が存在するという。「内的欲求」 には,必要とされる喜びを発見する「共同性」と, 人生の有限性を考え最大限に自己を発揮したい「主 体性」という2つの側面があり,「文化的要求」は 次世代を導く者としての役割への社会的な期待を意 味している。概念モデルでは次のようなプロセスを 説明している。ジェネラティビティは「内的欲求」 と「文化的要求」の2局面に動機づけられて「ジェ ネラティビティの関心」が喚起し,この関心によっ て人間として受け継がれてきた規範としての「信念」 やジェネラティビティへの「積極的関与」に影響を 与え,「行動」へと導かれ,最終的には一連の流れ を内省して「物語ること」でジェネラティビティを 個人の中で位置づけ取り入れるという。さらに McAdams & Aubin(1992)は,ジェネラティビティ の「関心」と「行動」に着目した心理測定尺度も開 発した。日本では,丸島(2000)や丸島・有光(2007) によって日本語版が作成されたことで,我が国でも 多くのジェネラティビティ研究で使用されている。 2 .企業で働く人のジェネラティビティと心理的居 場所感 本研究では,特に企業における中・高年期のジェ ネラティビティに焦点を当てる。企業における40代 以降の中・高年期の社員は,組織の中枢に位置づけ られ,それまでの業績の維持・発展や後輩の育成な どの重要な役割を担っているといえる。中・高年期 社員に企業から求められる「価値ある人材」として 居続けてもらうため,これまで以上に企業側の十分 な育成投資が必要であるとの指摘もあり(高木, 2008),以前よりも企業における中・高年期への関 心が高まっていると考えられる。 本研究では,企業で働く中・高年期のジェネラ ティビティを考えるにあたり,心理的居場所感と職 業的アイデンティティの概念に着目することとし た。まず心理的居場所感の概念について,則定(2008) は「心の拠り所となる関係性,および,安心感があ り,ありのままの自分を受容される場」と定義し, 職業生活における心の健康の維持向上の上でも重要 な概念であるとされている(中村・岡田,2016)。ジェ ネラティビティと心理的居場所感が直接検討された 研究は見られないものの,ジェネラティビティと他 者との関係性について扱われた研究は比較的多く見 られる。例えば笠井(2008)は,ジェネラティビティ の発揮につながる親密性の影響の探索を目的とし, 企業内の中年期以降の人を対象に,職業人生を中心 としたライフストーリーインタビューを行った。そ の結果,ジェネラティビティの意識をもつ中年期以 降の人は,企業内において過去に親密な対人関係を 多く有していたことを明らかにしている。また高橋 (2017)は,40代から60代の企業就業者にインタ ビュー調査を行い,ジェネラティビティの発達要因 について質的検討を行った。その結果,ジェネラティ ビティが成熟している人の特徴として,仕事をする 中で他者から認められた経験があることと同時に, 他者を認める経験をしていることを示唆しており, 職場における他者との関係性が重要であることを示 し た。 こ の 点 に つ い て は,McAdams & Aubin (1992)が述べたジェネラティビティの動機づけの 一つである「内的欲求」の一側面の「共同性」とも 一致するものであると考えられる。 以上のようなジェネラティビティの先行研究か ら,企業におけるジェネラティビティには,他者か ら認められ他者を認めるという相互の関係性をもて ることや,自身がその場に受け入れられている存在 であると実感できているのかが重要であることが示 されてきた。これらの研究で示された「他者から受 け入れられる」という要因は,則定(2008)が示し た心理的居場所感との関連の可能性を示すと考えら れる。 3 .中・高年期の職業的アイデンティティとジェネ ラティビティ 一方職業的アイデンティティは,中西(1995)に よって「自分にとって仕事とは何なのか,社会の中 で仕事を通じて,自分はどのような存在であるのか, ありたいのかという個人の意識,あるいは職業を通 じて自分らしさを確かめ,自分らしさを育てていく 職業的姿勢である」と定義されている。高橋(2014) は,中・高年期にある企業就業者の職業的アイデン ティティ形成プロセスについて探索的に検討した結 果,部下や同僚の能力や存在を受け入れ認めること で,職業的アイデンティティを作り上げていくこと を明らかにした。また高橋・田島・原(2019)が中・ 高年期社員にインタビュー調査を行ったところ, 中・高年期社員は「部下や後輩を育てる」という役 割を担い,その役割を自身が納得し受け入れていく
ことが,職業的アイデンティティ形成の一要因であ ることを明らかにした。以上のような先行研究に よって,中・高年期の職業的アイデンティティと ジェネラティビティの関連性が示されている。 ところでErikson(1950)は,ジェネラティビティ の対立命題である「停滞」について,「自己に閉じ こもり,周囲への関心を持たず自己愛的に生きてい る状態」と定義し,この「停滞」の状態に陥ると周 囲の人たちとの関係や交渉を遮断すると述べた。職 場において中・高年期の人がこのような「停滞」の 状態に陥ると,周囲の人との関係性を築くことが困 難になり,孤立状態となることが予測される。この ような職場での孤立と同時に,中・高年期の職業的 アイデンティティには,このままの自分ではいられ ないという危機的感覚が伴うという(児玉・深田, 2005a)。高橋・田島・原(2019)は,中・高年期社 員では,他者,特に部下や後輩との関係を通して, 周囲が自身に求めていることと,自分が仕事に求め ることの間のズレを軌道修正することであることが 重要であるとし,このズレが大きくなってしまうと 職業的アイデンティティに揺らぎが生じると述べて いる。つまり,「停滞」の状態である他者との関係 の希薄さが,職業的アイデンティティに負の影響を 及ぼすことが推察されるが,この関連を検討した先 行研究はまだ見られない。ジェネラティビティの肯 定的側面だけではなく,否定的側面と職業的アイデ ンティティとの関連を明らかにすることは,中・高 年期社員の他世代社員との関わりの在り方を探索す るための重要な視点であると考えられる。 4 .職場における心理的居場所感と職業的アイデン ティティ 次に,心理的居場所感と職業的アイデンティティ の関連について,Erikson(1968)は,働く人の職 業的アイデンティティは集団同一性の一つであると 述べている。集団同一性とは,「同一性の概念を個 人のレベルから集団,民族,国家といったレベルに 抽象して使用されるもので,個人に対して集団が一 つの凝集性をもち,一つの目的をもって機能してい る場合,その集団の個性,集団の集団らしさを表す 用語」である。鑪・山本・宮下(1984)によると, 個人にとって集団同一性は,集団に対する内面的な 連帯感ないしは所属意識を意味するとしており,こ のことから,個人にとっての職業的アイデンティ ティは,職業集団の一員であるという感覚と捉える ことができるという(児玉・深田,2005b)。さらに, 心理的居場所感と職業的アイデンティティの関連に ついての実証的研究も行われている。例えば高橋・ 田島・原(2019)は,企業で働く中・高年期社員の 職業的アイデンティティについて探索的に検討した ところ,高年期社員では自身が下の世代に受け入れ られることを意識し,自身の仕事の仕方や他者との 関わり方を改めて考えるという特徴が見られた。ま た中年期社員では,チームや部署にとっての自分の 役割を意識し,他者との関係性を円滑にできるよう 意識しているといった特徴が示された。さらに中 村・岡田(2019)は,企業で働く人の心理的居場所 感の低下・喪失と上昇・獲得プロセスに着目して探 索的に検討を行ったところ,心理的居場所感の低 下・喪失を経験した後,自己を変容させたり,自身 の状況を変える対処をしたりという行動が見られた ことを明らかにしている。これらの先行研究の結果 から,心理的居場所感の状態が職業的アイデンティ ティに影響を及ぼし,働き方や働く意識を変容させ る要因であることが示されてきたといえよう。 5 .本研究の目的 本研究では,上記で示した心理的居場所感が及ぼ す職業的アイデンティティへの影響関係だけでは, 特に中・高年期が抱える発達的な背景を踏まえてお らず,実際に企業で対策を考えるための要素が不足 しているのではないかと考えた。そこで,中・高年 期の発達課題であるジェネラティビティを媒介要因 として位置づけることとした。これまで行われてき た先行研究によって,心理的居場所感がジェネラ ティビティを予測し(笠井,2008;高橋,2017),ジェ ネラティビティが職業的アイデンティティを予測す ることから(高橋,2014;高橋・田島・原,2019), 心理的居場所感がジェネラティビティを媒介し,職 業的アイデンティティに影響を及ぼすというプロセ スが予測される。しかしながら,これまでの先行研 究においては,3変数の関係は個別に検討されるに 留まっており,3変数を同時に扱った研究は見られ ない。3変数を同時に扱い,それぞれの関係を実証 的に示すことは,特に働く期間が今後さらに延長し ていくことが予想される我が国において,中・高年 期以降も企業に求められ,活躍できる人材であり続 けるには何が必要なのかを明らかにするための,重
要な鍵となると考えられる。 この因果関係を明らかにするため,本研究ではプ ロセスモデル(Fig.1.)を作成し検証することとした。 またこれにあたり,ジェネラティビティの否定的な 側面にも着目して検証を行う。 検証にあたって本研究では,串崎(2005)の多面 的ジェネラティビティ尺度を使用することで,検討 を行うこととした。串崎(2005)はジェネラティビ ティの特徴を踏まえて,肯定的側面と否定的側面を 含めた尺度を作成した。肯定的側面は①人やものを 生み出し育てることへの関心,②世代継承の感覚, ③他者から必要とされる要求,④ジェネラティビ ティの発揮とそれに対する社会的要請である。また 否定的側面は⑤自己―耽溺,⑥世話の拒否,⑦停滞 の感覚である。本研究では串崎(2005)が示した上 記の特徴から,ジェネラティビティの肯定的側面を 「ジェネラティビティ(ポジティブ)」,否定的側面 を「ジェネラティビティ(ネガティブ)」とした。 本研究では作成したプロセスモデルについて,以 下の仮説を検証する。 仮説1:「心理的居場所感」は「ジェネラティビティ (ポジティブ)」に正の影響を及ぼし,「ジェネラティ ビティ(ポジティブ)」は「職業的アイデンティティ」 に正の影響を及ぼすだろう。 仮説2:「心理的居場所感」は「ジェネラティビティ (ネガティブ)」に負の影響を及ぼし,「ジェネラティ ビティ(ネガティブ)」は「職業的アイデンティティ」 に負の影響を及ぼすだろう。 方 法 1 .手続きと調査対象者 インターネット調査会社であるクロス・マーケ ティングが保有するモニターを対象に,クローズ型 ウェブ調査を実施した。全国サンプリングを行い, 調査対象者を正規雇用者に限定した。対象者は,40 代150名(男性75名,女性75名),50代150名(男性 75名,女性75名),60代150名(男性75名,女性75名) の計450名(平均年齢=58.86歳,SD=7.80)であった。 2 .調査時期 2018年10月であった。 3 .調査内容 心理的居場所感 則定(2008)の「心理的居場所 感尺度」や,中村・岡田(2016)の「職業生活にお ける心理的居場所感尺度」を参考に作成した。「私 は職場に居場所があると感じている」「私は職場の みんなに認められている」「仲間とは腹を割って話 せる」「仲間と対立することがあっても,それが後 に影響を及ぼさない」の4項目から成る。「1.全 く当てはまらない,2.あまり当てはまらない,3. どちらともいえない,4.やや当てはまる,5.非 常によく当てはまる」の5件法による回答を求めた。 ジェネラティビティ 串崎(2005)により作成さ れたジェネラティビティ尺度,25項目を使用した。 ジェネラティビティ尺度は,「生み出し育てること ジェネラティビティ (ポジティブ) ジェネラティビティ (ネガティブ) 心理的 居場所感 職業的 アイデンティティ Fig. 1. 本研究で検証するプロセスモデル
への関心」8項目,「世代継承的感覚」4項目,「自 己成長・充実感」7項目,「脱自己本位的態度」6 項目から成る。「1.全く当てはまらない,2.あ まり当てはまらない,3.どちらともいえない,4. やや当てはまる,5.非常によく当てはまる」の5 件法による回答を求めた。 職業的アイデンティティ 児玉・深田(2005b) により作成された職業的アイデンティティ尺度,14 項目を使用した。職業的アイデンティティ尺度は, 「職業役割に関する自分らしさの感覚の獲得感」5 項目,「職業的な自分らしさの実現感」5項目,「職 業的自己の喪失感」4項目から成る。「1.全く当 てはまらない,2.あまり当てはまらない,3.ど ちらともいえない,4.やや当てはまる,5.非常 によく当てはまる」の5件法による回答を求めた。 基本的属性として年齢と性別を尋ねた。統計解析 に は,IBM SPSS Statistics26とAmos Version26を 用いた。 結 果 1 .尺度の基礎検討 心理的居場所感尺度 主成分分析を行った結果, 1因子構造が確認された。固有値は2.73,寄与率は 68.17%,α係数は.84と十分な内的整合性が確認され た。結果はTable 1.に示した通りである。 ジェネラティビティ尺度 最尤法による因子分析 (プロマックス回転)を行い,因子負荷量が.35以下 の項目を除外した結果,4因子にまとめられた。第 1因子は10項目から構成される「世代継承的感覚」 であり,α係数は.90であった。第2因子は6項目 から構成される「非自己成長・非充実感」であり, α係数は.85であった。第3因子は5項目から構成 される「自己本位的態度」であり,α係数は.78であっ た。第4因子は3項目から構成される「創造的行為」 であり,α係数は.86であった。結果はTable 2.に示 した通りである。累積寄与率は55.23%であった。 本研究では,項目内容から「世代継承的感覚」と「創 造的行為」の上位概念として「ジェネラティビティ (ポジティブ)」としてまとめた。α係数は.92であっ た。また,「非自己成長・非充実感」と「自己本位 的態度」の上位概念として「ジェネラティビティ(ネ ガティブ)」としてまとめた。α係数は.84であった。 なお,本研究で使用したジェネラティビティ尺度 は,「ジェネラティビティ(ネガティブ)」としてま とめるため,因子名をこれに合わせて変更する必要 があると考えた。これにより,串崎(2005)が実施 したとおりの逆転処理は行わず,因子名を変更する ことで対応することとした。この点に加え,他の因 子名の変更についても,尺度開発者に確認した上で 了承を得ている。 職業的アイデンティティ尺度 最尤法による因子 分析(プロマックス回転)を行い,2因子で高い因 子負荷量を示した1項目を削除した結果,3因子に まとめられた。第1因子は5項目から構成される「職 業役割に関する自分らしさの獲得感」であり,α係 数は.86であった。第2因子は4項目から構成され る「職業的な自分らしさの実現感」であり,α係数 は.82であった。第3因子は4項目から構成される 「職業的自己の確立感」であり,α係数は.74であっ た。なお,児玉・深田(2005b)で「職業的自己の 喪失感」とされている因子は,本研究では原本通り 逆転処理をして分析を行い,「職業的自己の確立感」 と命名した。因子分析の結果はTable 3.に示した通 りである。累積寄与率は55.15%であった。 Table 1. 心理的居場所感尺度の主成分分析の結果 質問項目 因子負荷量 M SD 私は職場に居場所があると感じている .88 3.42 0.86 私は職場のみんなに認められている .85 3.56 0.95 仲間とは腹を割って話せる .81 3.03 1.04 仲間と対立することがあっても,それが後に影響を及ぼさない .78 3.22 0.90 固有値 2.73 寄与率 68.17 α係数 .84
2 .年代別の平均値の各尺度得点 使用尺度の下位概念の平均得点に,3つの年代に よる有意差がみられるかについて検討するため,年 代を独立変数として一要因分散分析を行った。その 結果,すべての変数で主効果が有意であったため, 多重比較を行った(Bonfferoni法,p<.05)。結果は Table 4.に示した通りである。その結果,「心理的 居場所感」(F=16.26,df=2,447,p<.001)は,40 代よりも60代が有意に高く,50代よりも60代が有意 に高かった。また,「ジェネラティビティ(ポジティ ブ )」(F=5.11,df=2,447,p<.01) は,40代 よ り も60代が有意に高く,「ジェネラティビティ(ネガ ティブ )」(F=5.24,df=2,447,p<.01) は,60代 よりも40代が有意に高かった。「職業役割に関する 自分らしさの獲得感」(F=6.43,df=2,447,p<.01) は,40代よりも60代が有意に高かった。「職業的な 自分らしさの実現感」(F=7.38,df=2,447,p<.01) は,40代よりも50代,60代が有意に高かった。さら に「職業的自己の確立感」(F=8.08,df=2,447,p <.001)は,40代よりも60代が有意に高かった。 Table 2. ジェネラティビティ尺度の因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果 質問項目 F1 F2 F3 F4 F1 世代継承的感覚(α=.90) 未来の社会や子どもたちのために役立つことをしたい .85 .12 −.21 −.00 次の世代のために何ができるか考える .84 .13 −.19 .01 子どもは社会からの預かりものであると思う .76 .12 −.06 −.18 大人として社会に貢献する責任を感じている .70 .07 −.23 .16 自分より若い人のモデルになるよう心がけている .66 −.05 .12 .07 自分のやってきたことを引き継いで発展させてくれる人がいたら嬉しい .62 −.13 .31 .03 引退した後も自分がやってきたことを誰かに引き継いでほしい .62 −.18 .42 −.03 子どもは先祖から預かった命を子孫につなげてくれるものだと思う .62 .04 .02 −.06 他の人の成長を手助けしたい .56 .04 −.07 .25 若い人に自分の知識や技術・経験などを伝えている .47 −.21 .35 −.03 F2 非自己成長・非充実感(α=.85) 大人としてなすべきことを果たしていないような後ろめたさを感じる .21 .78 .10 −.03 今の自分に物足りなさを感じている .16 .70 −.03 .06 誰も自分のことを必要としていないように感じる −.15 .69 .17 .04 若い頃から成長していない気がする .00 .68 .05 −.20 本来の能力を発揮できていない気がする .13 .66 .08 .09 世の中のためになるようなことはほとんどしていない −.20 .62 .12 .03 F3 自己本位的態度(α=.78) 子どもや部下を自分の思い通りに動かしたい .14 .03 .69 .23 子どもや部下がいうことをきかないと恩知らずだと感じる −.08 .20 .60 .01 見返りがなければ,人のために骨を折りたくはない −.30 .14 .57 .10 縁の下の力持ちにはなりたくない −.16 .03 .57 −.01 自分のやり方を人に押しつけることがある .14 .12 .53 −.05 F4 創造的行為(α=.86) 私にしかできないような個性的な仕事や活動をしたい .03 .01 −.02 .91 独創的な仕事や活動がしたい .18 .02 .11 .63 新しい考えや計画,作品などを生み出そうと努力している .21 −.01 .01 .62 因子間相関 F1 −.20 .10 .66 F2 .18 −.04 F3 .12 注)削除項目 若い人たちがどう生きていこうが,私には関係がない
3 .変数の関連 各年代における各変数間の関連性を確認するため に,相関分析を行った。結果はTable 5.に示した通 りである。各年代で共通した多くの変数に有意な相 関関係が見られたものの,40代で「ジェネラティビ ティ(ポジティブ)」と「職業的自己の確立感」の 間で有意な相関(r=.32,p<.001)が見られたが, 50代と60代では関連が見られなかった。 4 .プロセスモデルの検証 「心理的居場所感」が「ジェネラティビティ(ポ ジティブ)」と「ジェネラティビティ(ネガティブ)」 を介して「職業的アイデンティティ」に影響を与え るというプロセスモデルを検証するため,まずは年 代別に多母集団同時分析を行った。母数推定には, 最尤法を用いた。なお,山本・小野寺(2002)は、 各因子において上位3項目を使用した分析方法を とっていることから,本研究も項目数の多いジェネ Table 3. 職業的アイデンティティ尺度の因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果 質問項目 F1 F2 F3 F1 職業役割に関する自分らしさの獲得感(α=.86) 私は,現在担当している仕事の担当者としての役割を自覚して行動している .86 −.04 −.02 私は,現在所属している会社の一員として自分で判断しなければならないことについては一 人で判断できる .83 −.02 −.03 私は,現在ついている仕事の担当者として求められる能力をもっていると思う .71 .02 .10 私は,自分の担当している仕事の目標・目的を達成するため,努力している .53 .26 .08 私は,自分のついている職級・役職に関して,うまくやっていけそうな感じがある .40 .25 .13 F2 職業的な自分らしさの実現感(α=.82) 私は,自分なりの職業的な生き方に関する目標・目的が実現してきていると感じる −.14 .94 −.07 私は,自分なりの職業的な生き方に関する目標・目的を達成するため,努力をしている .14 .68 −.02 私は,職業的な生き方に関する私の選択は,自分なりに正しかったと確信をもっている .10 .64 −.11 私は,職業面で役立つと思われる自分の能力が分かっている .34 .57 −.05 F3 職業的自己の確立感(α=.74) 私は,自分の現在ついている職級・役職に応じた目標・目的がよく分からない* .06 .06 .70 私は,自分なりの職業的な生き方に関する目標・目的がよく分からない* −.31 .33 .68 周囲と比較して,私は現在所属している会社の一員としてふさわしくないのではと感じる* .20 −.13 .65 私は,いつも周囲の目ばかり気にして職業的な生き方に関する選択をしている* .11 −.29 .59 因子間相関 F1 .53 .45 F2 .50 注1)*は逆転項目 注2)削除項目 私は,自分の職業的な生き方を自分の意志で決めてきたと思う Table 4. 各年代の,変数間の一要因分散分析の結果 40代 50代 60代 M SD M SD M SD F 多重比較 心理的居場所感 3.10 0.80 3.25 0.69 3.58 0.75 16.26*** 40代<60代,50代<60代 ジェネラティビティ(ポジティブ) 2.93 0.80 3.07 0.61 3.20 0.68 5.11** 40代<60代 ジェネラティビティ(ネガティブ) 2.87 0.57 2.77 0.56 2.66 0.58 5.24** 60代<40代 職業役割に関する自分らしさの獲得感 3.37 0.66 3.53 0.60 3.62 0.59 6.43** 40代<60代 職業的な自分らしさの実現感 3.03 0.67 3.22 0.64 3.33 070 7.38** 40代<50代,40代<60代 職業的自己の確立感 3.15 0.67 3.28 0.63 3.46 0.68 8.08*** 40代<60代 注1)df=2, 447。多重比較はBonferroni法,5%水準。 注2)*p<.05, **p<.01, ***p<.001
ラティビティ尺度と職業的アイデンティティ尺度で それに基づいた。検証の結果,モデル適合度はGFI =.836,AGFI=.780,CFI=.908,RMSEA=.038で あり,概ね満たされる値が得られたため,配置不変 が成り立つと考え,次に等値制約を設定して検証を 行った。因子負荷量に等値制約を課すモデル1,モ デル1に加えて潜在変数の因果関係を示すパスに等 値制約を課すモデル2,モデル2に加えて心理的居 場所感の共分散に等値制約を課すモデル3,モデル 3に加えて各潜在変数の誤差分散に等値制約を課す モデル4,モデル4に加えて各観測変数の誤差分散 に等値制約を課すモデル5を作成した。分析の結果, AICが最も小さいモデル2を採用した(Table 6.)。 この結果により,潜在変数間の因果関係は各年代で 違いがないことが考えられたため,すべての年代を 合わせた上でプロセスモデルの検証を行った。検証 の結果をFig. 2.に示す。「心理的居場所感」から「ジェ ネラティビティ(ポジティブ)」,「ジェネラティビ ティ(ポジティブ)」から「職業的アイデンティティ」 には有意な正のパスが示され,仮説1が支持された。 また,「心理的居場所感」から「ジェネラティビティ (ネガティブ)」,「ジェネラティビティ(ネガティブ)」 から「職業的アイデンティティ」には有意な負のパ スが示され,仮説2が支持された。モデル適合度は GFI=.916,AGFI=.888,CFI=.944,RMSEA=.051 であり,全年代を合わせた上でも十分な値が示され たことから,本研究で設定したプロセスモデルはす べての年代で一貫していることが確認された。 また,「心理的居場所感」から「職業的アイデンティ ティ」への総合効果は0.3922であり,「ジェネラティ ビティ(ポジティブ)」を介した場合の間接効果は 0.0646,「ジェネラティビティ(ネガティブ)」を介 Table 5. 各年代の,変数間の相関分析の結果 40代 50代 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1.心理的居場所感 ― ― 2.ジェネラティビティ(ポジティブ) .39*** ― .26** ― 3.ジェネラティビティ(ネガティブ)−.41***−.10 ― −.32*** .14 ― 4. 職業役割に関する自分らしさの感 覚の獲得感 .48*** .44*** −.32*** ― .36*** .21 * −.22 ** ― 5.職業的な自分らしさの実現感 .52*** .52*** −.28** .55*** ― .43*** .29***−.27 ** .51*** ― 6.職業的自己の確立感 −.49*** .32*** −51*** .52*** .55 *** ― .30*** .06 −59*** .34*** .20 * ― 60代 1 2 3 4 5 6 1.心理的居場所感 ― 2.ジェネラティビティ(ポジティブ) .36*** ― 3.ジェネラティビティ(ネガティブ)−.36***−.07 ― 4. 職業役割に関する自分らしさの感 覚の獲得感 .51*** .49*** −.33*** ― 5.職業的な自分らしさの実現感 .55*** .58*** −.23** .73*** ― 6.職業的自己の確立感 .29*** .11*** −.57*** .44*** .28*** ― 注1)*p<.05,**p<.01,***p<.001 Table 6.プロセスモデルのモデル適合度
X2 df GFI AGFI CFI RMSEA(90% CI) AIC BCC
モデル1 1289.66 779 .827 .783 .902 .038(.035―.042) 1681.66 1764.53 モデル2 1332.04 803 .822 .783 .899 .038(.035―.042) 1676.04 1748.76 モデル3 1338.03 805 .821 .783 .898 .038(.035―.042) 1678.03 1749.90 モデル4 1385.04 825 .815 .781 .893 .039(.035―.043) 1685.04 1748.45 モデル5 1551.37 893 .794 .775 .874 .041(.037―.044) 1715.37 1750.04
した場合の間接効果は0.3276であった。 考 察 1 .各変数の年代による平均値の差 本研究の目的は,40代から60代の中・高年期にあ る働く人のジェネラティビティについて,心理的居 場所感と職業的アイデンティティとの関連を踏まえ ながら明らかにすることであった。 まず,各変数の年代による平均値の差を検討した 結果,「心理的居場所感」は,40代と50代に比べて 60代が有意に高いことが示された。中村・岡田 (2016)は,職場における居場所役割感や居場所本 来感は年齢と共に高まることを明らかにしており, 本研究の結果からも,この先行研究と整合的側面が 認められた。さらに,「ジェネラティビティ(ポジティ ブ)」「職業役割に関する自分らしさの獲得感」「職 業的な自分らしさの実現感」「職業的自己の確立感」 では40代よりも60代が有意に高かった。これらの結 果から,60代はジェネラティビティをより明確に獲 得し,職業的アイデンティティが確立されているこ とを示唆するものであると考えられる。60代では下 の年代を育てるという組織から求められている役割 について自分自身が受容し,その職務を自らの仕事 として納得していることが示されたといえよう。こ れまでの先行研究でも,ジェネラティビティは年齢 が高くなるにつれて高まるという結果が示されてき た。例えば丸島(2000)は,ジェネラティビティの 発達を25歳から44歳の成人群,45歳から59歳の中年 群,60歳以上の高齢群の3群に分けて検討したとこ ろ,年齢が高まるにつれてジェネラティビティが高 まっていくことを明らかにしている。本研究の結果 においても,60代は下の世代との関わりがより増え ることから,40代よりも60代で「ジェネラティビティ (ポジティブ)」が高まったと考えられる。また,高 橋・田島・原(2019)は,中・高年期の職業的アイ デンティティ発達にとって時間的展望が重要である と述べた。過去や現在を受容し,未来を想定すると .89*** .19** −.63*** −.52*** .34*** 1.00 1.00 .43*** g1 g22 g23 g24 世代継承的感覚 非自己成長・ 非充実感 注1)*** <.001,**p<.01 注2)数値は,40代,50代,60代のすべての年代を合わせて検証した結果である。 注3)実線は正のパス,破線は負のパスを表す。また,本研究で設定したプロセスモデルの部分は太線で示した。 g11 g12 g13 g17 g18 g19 自己本位的 態度 ジェネラティビティ (ポジティブ) ジェネラティビティ (ネガティブ) 職業的 アイデンティティ i1 i2 i3 心理的 居場所感 s1 s2 s3 s4 創造的行為 g2 g3 Fig. 2. プロセスモデルの検証結果
いう時間的展望は働く個人を支えることになるた め,この時期の企業組織や社員間,家族からの心理 的サポートが重要であろう。企業側も,個人の時間 的展望に目を向け,働く上でありたい姿やあるべき 姿などの間に大きな相違が生まれないよう,工夫す ることが必要となるのではないだろうか。 2 .プロセスモデルの検証 次に,「心理的居場所感」が「ジェネラティビティ (ポジティブ)」と「ジェネラティビティ(ネガティ ブ)」を介して「職業的アイデンティティ」に影響 を与えるというプロセスモデルの検証を行った。そ の結果,このプロセスモデルは年代による違いが見 られず,一貫したものであることが示された。さら に,「心理的居場所感」から「ジェネラティビティ(ポ ジティブ)」と「ジェネラティビティ(ネガティブ)」 を介した「職業的アイデンティティ」への間接効果 の算出の結果から,「心理的居場所感」がある職場 において,「ジェネラティビティ(ポジティブ)」よ りも「ジェネラティビティ(ネガティブ)」を介す る方が,「職業的アイデンティティ」に影響を与え ることがわかった。この結果により,心理的に居場 所があると感じられる職場において,他者との関係 性を断ち組織の中で孤立してしまうという状況を避 けることが,中・高年期の職業的アイデンティティ により影響を与えることが示唆されたといえよう。 現在の中・高年期社員を対象とした企業で行う研修 では,いかに下の世代に興味関心をもち,指導や教 育についての意識を高めるかや,管理職としてのマ ネジメントの仕方などが主たる課題となっている。 しかしながら,本研究の結果から,職場における心 理的居場所感の重要性とともに,自己に閉じこもる 「停滞」の状態を避けるため,他者,特に他年代と の交流を行いながら仕事に取り組めるという環境の 必要性が明らかになったと考えられる。児玉・深田 (2005a)は,中・高年期の職業的アイデンティティ の危機について,年齢的・能力的な限界感が直面す る課題であると示唆していたが,このような限界感 を感じるとますます自己に閉じこもってしまうこと になることが考えられる。以上のような点を踏まえ, 企業組織では,現状のようなジェネラティビティの 要因を高める点のみを考えるのではなく,様々な年 代との活発な交流を行って共に作りあげる仕事をす るという点に着目して対応していく必要があるので はないだろうか。 3 .今後の課題 本研究で示されたプロセスモデルによって,中・ 高年期の人が働く上でジェネラティビティの獲得の 重要性が示唆された。しかしながら,本研究には以 下の課題があると考えられる。本研究では40代から 60代の企業就業者を対象として調査を行ったが,60 代では雇用延長で仕事を続けている場合や,定年退 職後再雇用として働いていたり,定年後に新たな職 に就いて働く人がいたりと,一様ではないと考えら れる。本研究ではその働き方の違いや職種の違いま で問うことができなかった。特に再就職という形を とっている場合は心理的居場所感やジェネラティビ ティに影響があると考えられるため,この点につい てはさらなる調査が必要であろう。 また,本研究で使用した「心理的居場所感」の項 目では,次世代との関係性について具体的に問うこ とができなかった。職場における心理的居場所感に は他者との関係性のみならず,自分の仕事の出来不 出来,他者からの評価や期待が重要な要因である(中 村・岡田,2016)との指摘もあり,さらに詳細な検 討が必要であると考えられる。これに加えて,心理 的居場所感を高め,孤立状態を軽減させるような職 場づくりのための,具体的な方法を明らかにする必 要があるだろう。そして,実際の現場に取り入れて いくためには,心理学的側面も含めた多様な分野の 知見と企業とのすり合わせが必要となると考えられ る。働く期間が今後も延長されていくことを踏まえ, 中・高年期社員の働き方についてはさらに議論と実 践を積み重ねていくことが重要であり,この点も今 後の課題としたい。 引 用 文 献
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