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2020年度日本神経回路学会学術賞受賞者のことば/論文賞の研究概要/最優秀研究賞の研究概要/優秀研究賞の研究概要/大会奨励賞の研究概要

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(1)40. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). 2020 年度日本神経回路学会学術賞受賞者のことば 日本神経回路学会学術賞の受賞にあたって 津田一郎 (中部大学創発学術院教授,北海道大学名誉教授). 東大の清水博さんが ERATO を行うことになり研究員 を探しておられました.その時私はノーベル賞受賞者 であった Illya Prigogine さんのところに留学が決まっ ていたのですが,Prigogine さんのところではカオス 研究を行うことを要請されており清水さんの ERATO. きました.とても名誉なことで,大変光栄に思います.. では脳研究をしてよいということになり,Prigogine さ んにはお断りの手紙を書き,1982 年 10 月に東京に出. 賞の価値はこれまでの受賞者を見ればわかるとよく言 われますが,日本神経回路学会学術賞は過去 3 回を見. てきました.あれだけ好きだったカオス研究をいった ん棚上げにすることにしたのです.しかし,実際その. るとそうそうたる顔ぶれであり,受賞の重みを感じて います.学会の授賞規定を見ると,推薦から確定まで. 後の経過を見ると私の場合はやはりカオスの引力が強. この度 2020 年度日本神経回路学会学術賞をいただ. 多くの方がかかわっておられることを知りました.学 会関係者の皆さんに敬意を表します.また今までの私 の研究を支えてくれた研究室の歴代院生はじめ事務補. く,複雑系カオス脳理論という方向で研究してきたよ うに思います.神経回路分野とともに脳神経科学へも 寄与できたとしたらこの部分なのかもしれません.. 2. 脳の解釈学から非平衡神経回路モデルへ. 助の方達,また共同研究者に感謝いたします.複雑系 科学を基盤とした脳神経回路ダイナミクス研究の将来. 東京では幸い,清水さんに伊藤正男さんや甘利俊一. を展望しつつ,これまで行ってきた研究内容の概略と 経緯を述べさせていただきます.. さんを紹介していただき,脳研究を数理理論をベースに して開始することができました.伊藤先生からは宮下. 1. 博士論文執筆による相転移:京都から東京へ 私は京都大学大学院で非平衡統計物理学の創始者の ひとりである富田和久先生に師事し,当時物理系や化 学系でその現象が発見されていたカオス現象に興味を 持ち,その数学的研究にのめり込みました.その背景 にあった散逸構造論や隷属原理,シナジェティクスを 学び,数学では非線形力学系,分岐理論を学び,これら を駆使してカオスの数理モデルを作りその解析を行い ました.実はこの時期,川人光男さんにはじめてお目 にかかりました.川人さんは私と同年であり,当時富 田研の助教授だった蔵本由紀さんが Arthur Winfree の生物時間の研究に心髄していたこともあり,Winfree を富田研に連れてきてくださったのでした.川人さん は当時鈴木良次さんとともに非線形振動子の同期現象 を位相反応曲線の概念によって理論化しており,我々 京都の人間にも知られる存在でした. 1982 年,博士論文を執筆する際,なぜカオスにのめ り込んだのかを自問しました.その結果,カオスには 特異な幾何学的および代数的構造に裏打ちされた情報 構造が隠されていること,計算不可能な性質を持つこ とを数学的に証明できることが私を引き付けたのだと 理解しました.すると急に認識の問題に興味が出てき て,哲学的考察を進めながら科学的に研究するには脳 の研究以外にないと考えるに至りました.おりしも,. 保司さんも紹介していただきました.甘利さんはちょ うどそのころ確率的神経場を包括的にとらえることが できる情報幾何学の成書を英語で出版されたばかりで, 「これが最近の成果です」と言って著書を見せてくださ いました. 脳の勉強を始めてみると,その数理的手法は神経回 路を基盤にしていることが分かり,先人の神経回路に 関する研究を勉強しました.特に日本は甘利さんや福 島邦彦さんに代表されるように神経回路研究では当時 においても世界をリードする存在でした.東京にいる 脳研究者,神経回路研究者の多くと親しくなりました. またそのころ川人さんが阪大のセミナーに呼んでくだ さり,鈴木良次さんや塚原仲晃さんの研究室の方たち とも親しくなる機会を与えてくださいました.塚原先 生には東京での何かの研究会の時に清水さんとともに お会いし,理論研究は大事だから頑張ってくれ,と励 ましていただきました. 神経生理学者と神経回路学者が一堂に会する科研費 の研究会が毎年開催されました.甘利さん,福島さん, 塚田稔さんらが交代で代表をされ,特に冬は蔵王でよ く遊び,よく学ぶ研究会が行われたことは印象的でし た.玉川大学や富士の裾野でも研究会が行われました. こういった研究会で神経回路研究,脳研究の先駆者た ちや,同年配や私より若い優秀な研究者と親しくなっ たのは貴重な財産になっています.私より若い人で,.

(2) 受. 賞. 概. 要. 41. 学問的なテイストが近かったのは銅谷賢治さん,大森. of Five と名付けたことで,世界的にも私たちの活動. 隆司さん,山口陽子さんでした.むろん清水研の人た ちとは清水さんはもとより,矢野雅文さんとはよく議. はより広く知られるようになりました.我々は活動を 国内にとどまらず,海外へも展開しました.2 年に 1. 論しました.清水研の人たちは私とは学問的テイスト が近いので,今日に至るまで親しくしていただいてい. 回海外にオーガナイザーを作り,塚田さんのご尽力で 玉川大学が資金援助をしてくださり Dynamic Brain. ます.一つの学問的ベースを作るのに清水研での日常 的な議論は大切なものでした.私は ERATO 研究員と. Forum を開催しました.これが基盤になり,後に中国 人の Rubin Wang と Fanji Gu が規模の大きな国際集 会,ICCN(International Conference on Cognitive Neurodynamics)を開催するようになりました.同時 に脳の認知活動のダイナミクス研究を扱う Cognitive Neurodynamics 誌が作られ,5 人組を含む多くの日本. いう新技術開発事業団(今日の JST)の期限付き職員 で小石川に研究室があったのですが,清水研に机を一 ついただいて居候をしていたのです. 脳研究にあたって,私はまず認識とは何か,脳は何 をしているのかを問いました.そこで, 「脳は外界を解. の研究者が関わっています.. 釈している」という作業仮説を立てて,いろいろと調 べてみると,David Marr が極めて解釈学的な脳の三. カオス研究をいったん棚上げにしたものの,やはりそ の魅力には勝てず,脳神経回路研究と並行して(実際は. 部作を発表していることを知りました.大脳の理論1) , 記憶の理論2) ,小脳の理論3) です.特に,大脳の理論と. 休日に) ,大学院で後輩だった松本健司さんとカオスの 情報理論を作り,三部作にまとめました6∼8) .Robert. 記憶の理論(これは海馬の神経回路を扱ったものです). Shaw と大野克嗣さんが導いたカオスにおける定常的. はニューロンやそのネットワークの機能に関するマー の解釈的な言明の集合体です.私はこれに触発され,. な情報流を拡張するために,KL ダイバージェンスから 出発して,リアプノフ指数の導出,また相互情報量と. 「脳の解釈学」という論文を書きました4) .脳の神経回 路のダイナミクスはカオス力学系によって表現される. の関係を明らかにして,カオスネットワークの中を流 れる情報流の揺らぎの概念を定式化しました.情報流. ようなものであり,その動的な情報構造によって外界 からの刺激を内部状態として埋め込みその状態を解釈. の揺らぎが大きなカオス(弱いカオス)のネットワー クは外部情報をネットワーク内にダイナミックに保持. することで行動決定を可能にする,という内容です.. し,任意の場所で取り出すことができるということも. こういう風に脳を動的な解釈装置として考えていた 私には先人の研究に対して一つだけ不満がありました.. 発見しました.さらに平行して(実際は夕方以降) ,私 は Prigogine の共同研究者であった Gregoire Nicolis. 当時,動物にこれこれのタスクをさせると脳のこれこ れの領域のニューロンが発火するといった研究がほと. のお兄さんの John Nicolis と(1983 年ミュンヘン郊 外の国際シンポで意気投合したことで)20 通ほどの手. んどでした.そして,そのようなニューロンが存在す るためにはこれこれの神経回路があるはずだという思. 紙のやり取りをして,カオスを使った短期記憶(7 プ ラスマイナス 2)のモデルの共同研究9) を行いました.. 考方法はシステム論的には正当なのですが,ニューロ. これらの研究は,後に神経回路のダイナミクスの情報. ンやその集合体のどのようなダイナミクスがどういっ た情報を表現し神経回路というシステムを機能的にし. 構造を明らかにするのに役立ちました. さて,私が最初に行った神経回路の研究は,脳の神. ているのか,といったダイナミクスに注目した研究は 私の知る限り日本では塚田稔さんの研究5) 以外にはあ. 経回路構造を洗い出し,大脳皮質の領野にほぼ依らず 存在するコラム内の神経回路構造を抜き出すことから. りませんでした.世界的にも,脳のダイナミクスに着 目した研究はごく少数で,Walter Freeman のグルー. 始まりました.解剖学の論文を読み漁り,Janos Szentagothai の論文10) にあった機能モジュール内のニュー. プ,Moshe Abeles とその周辺のイスラエルグループ, Christoph von der Malsburg など数えるくらいでし. ロンとその結合様式に行き当たりました.これをもと. た.詳しい事情は他に譲りますが,脳は動的に情報を. にして,神経回路を構成して,数理モデル11) を作りま した.この最初の数理モデルは錐体細胞の軸索側枝が. 処理しているはずだという信念から,脳の 5 人組が結 成されました.メンバーは歳の順に藤井宏さん,塚田. 他の錐体細胞とシナプス結合をする確率とシナプス素 量放出の確率性を導入した連想記憶回路です.数学的. 稔さん,奈良重俊さん,津田,合原一幸さんです.合原 さん,奈良さんとはカオス仲間でもあり,カオスの議論. には斜積変換の一種で,確率的切り替え写像系です. これに抑制性のニューロンがフィードバックして錐体. をしていればそれだけで幸せだという共通の特異性を 有しています.Malsburg が 5 人組を Japanese Gang. 細胞を抑制する効果も入れました.その結果,記憶が アトラクターにはならず,アトラクター痕跡12) (at-.

(3) 42. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). tractor ruin.この概念はカオス的遍歴を表現すると. の非平衡神経回路のダイナミクスを詳しく解析するこ. きに定義したものです)として存在するために連想が 動的になるということを発見しました.これを数学的. とで現象論的に得られたものですが,2018 年になって イタリアとブラジルの数学者グループがこの極小モデ. に抽象化,一般化したものが「カオス的遍歴(chaotic itinerancy)」12∼15) です. ちょうど同じ年に,Christine A. Skarda と Walter J. Freeman のにおい情報処理に関係する論文16) が出. ルがカオス的遍歴解を実際に持つことを数学的に厳密 に証明しました18) .この非平衡神経回路の動的連想記. 版されました.そこでは,嗅球神経回路のダイナミク. に留まることなく何年かしてようやく認知されるよう. スが嗅皮質からのフィードバック信号を受けてカオス 的になる,この時カオスは “私は知らない” という認. になりました.田中啓治さんからは物理の雑誌にばか り出さないで,ちゃんと脳研究者が見る場所で発表し. 知状態を表現するというように,脳の情報処理機構に カオスが明確に位置付けられていました.これを読ん. てくださいと,言われました.このアドバイスは 1992 年の論文につながっています.. で,Freeman が脳の情報処理に関してダイナミクスの 観点から研究していることを知ったのです.私は興奮. 3. カオス的脳観から複雑系脳理論へ,. して,Freeman に彼らの論文への質問とコメントを 20 ほど書き,私の論文とともに air mail で郵送しまし た.Freeman からはすぐに返事が来て,そこには私の 論文の観点は彼らと同じだという表明と私の質問とコ メントへの丁寧な回答が書かれていました.こうして,. Freeman とは急速に親しくなり,2016 年に亡くなる までおよそ 30 年間交友関係が続きました.. 憶の最初の研究成果は 1987 年に物理の雑誌に出版さ れましたので,脳科学者や神経回路研究者の多くの目. 日本神経回路学会設立とともに 東京でのプロジェクトが終わって,九州工業大学に 新たにできた情報工学部の助教授の職があり,清水さ ん,甘利さんの計らいでやっと常勤職に就くことがで きました.九工大ではカオス仲間の林初男さんや新た に知り合った多くの神経回路研究者と楽しく研究と教 育に打ち込むことができました.九工大ではファジイ. 上のように書くと,すぐにカオス的連想回路モデル ができたかのように思われるかもしれませんが,脳の. 制御の山川烈さんが国際会議を引っ張ってこられたり, その中で神経回路やカオス力学系のセッションを作っ. 神経回路構造を模したモデルに番号をつけて 2 年ほど. ていただいたり,新しい活動が活発に行われました. 経済的なバブルが崩壊する直前というきわどい時期で. かけてモデル 1 からモデル 108 まで作った(番号はと ころどころ飛んでいます)のですが,ほとんどは失敗 作でした.モデル 108 は “煩悩モデル” で,これが上 で述べたものです.やっと何とかまともな結果が得ら れたと感じました.今では当たり前になっていますが, 当時は抑制性ニューロンの重要性は,甘利さんの神経 回路の枠組みの中にはあっても,脳機能との関係にお いてはあまり注目されていませんでした.神経生理学 においても明確な機能を実験的に報告したものは運動 系以外にはなかったと記憶しています.運動系では抑 制性ニューロンは運動制御を安定にする役目を担いま すが,記憶系では逆に記憶状態を不安定化させる役目 を担います.私はモデル 108 によって,抑制性ニュー ロンは記憶の連想過程を記憶間の相関に依存した形で 動的に(しばしばカオス的に)するということを明確に することができました.これによって,カオス的連想 回路はエピソード記憶の表現を構成するという仮説を 提案することができました.この 1987 年のモデル 108. したが,神経回路研究自体はバブルではなく,着実に 進歩していきました.このきわどい時期に塚田稔さん が裏方に徹して神経回路学会が設立されたのです.こ の学会を世界的なものにするのに大きな寄与をしたの は,国際神経回路学会,ヨーロッパ神経回路学会とと もに三者合同で学術誌,Neural Networks が刊行され たことでした.これが可能だったのは,甘利さん,福 島さん,川人さんを代表とする多くの日本の神経回路 研究者の研究がすでに世界的に認められていたからで す.その結果,日本人が Editor に名を連ねることがで き,世界と肩を並べ,いやむしろ世界をリードできた のだと思います.私も長年,Action Editor の仕事を させていただきました. この時期,世界的に複雑系科学ブームが起こりまし た.私は東京時代に,Herman Haken さんに清水さん とともにシナジェティクスの国際シンポジウムに呼ん でいただいたことで,複雑系(Complex Systems)とい う言葉は遅くとも 1985 年には聞いていました.1989. をベースにして学習効果を調べると,カオス的遍歴状 態の時が学習効率が良いことが分かり,これらをまと. 年清水さんが主催した生命における複雑系の国際シン. めて 1992 年に Neural Networks に発表しました17) . この時私が発見したカオス的遍歴の極小モデルはこ. ポ19) が私の知る限りでは日本における複雑系研究会の 最初です.他方で,私は物理の金子邦彦さん,池上高.

(4) 受. 賞. 概. 要. 43. 志さんらと京都大学基礎物理学研究所で複雑系研究会. 依存して CA1 で縮小写像系が作用するとカオス時系. を始め,複雑系の原理,なぜ複雑系と呼んで研究しな ければならないかを若い物理学者たちと大いに議論し. 列はカントール集合として落とし込めることに気づい たのでした.数学的には特異連続でいたるところ微分. ました.結論めいたものが出たわけではありませんが, その後この三人がやっていることを見れば,複雑系が. 22) 不可能なアトラクター(SCND) という概念です.こ れをまずカオス研究の創始者のひとりである Otto E.. 生命を理解するためにはなくてはならない考え方だと いうことがはっきりしてきます.したがって,脳を理. R¨ ossler さんと明確にしました23) .合原さんのカオス ニューロンを使って,簡単な神経回路の数理モデル22). 解するためにも複雑系の考え方はベースになるはずだ. を作り神経回路で SCND が実現できることを山口明宏. と考えています.後に,金子さんたちとは複雑系の成 書20) を出版しました.またその英訳21) も 4 年後にシュ. さんと共に確認しました.このモデルにノイズを付加 し,抑制性ニューロンが存在すればカントール集合の. プリンガーから出版されました.私はそこで,脳神経 回路のダイナミクス研究を複雑系の視点で記述しまし. ような測度 0 の集合もノイズによって壊れることがほ とんどないことを確認しました.これも抑制性ニュー. た.脳は生命を創成,維持,発展,変革するシステム であるという観点です.この主題での論文も欧文誌に. ロンの重要な役割の一つです.私の数理モデルを合原 さんがすぐにアナログチップにしてノイズがあっても. いくつか出版しました.. カントール集合は壊れない24) ことを再確認してくれま した.チップ自体は堀尾喜彦さんが作成し,今でも私. 4. 記憶のカントールコーディング仮説,思考・推論, 実験の理論,幻覚研究から新しい自己組織化理論へ 次に取り組んだのは海馬の機能の一つであるエピソー ド記憶形成です.これは 1993 年北海道大学数学科の教. はこれを記念に持っています.詳細は別の機会に譲り ますが,これがエピソード記憶のカントールコーディ ング仮説25∼28) につながりました.研究室の大学院生た. 授になったのがきっかけです.数学科出身ではない人. ち,とくに黒田茂さん,山口裕さんと研究を開始しま した.CA3 と CA1 の詳細な神経回路モデルを作って. 間が数学科で数学を教えるには相当の努力が必要です. 私も最初の半年間は研究ができずひたすら講義ノート. シミュレーションすると,予想通り CA3 で生成された イベントの時系列が CA1 でカントール集合に畳み込. を作っては講義をしていました.たった週一コマとい う軽い教育デューティーでしたが,1 週間かけて準備. まれることが分かりました.このカントール集合を生. したものは一回の講義で使い切ってしまうというあり さまでした.もともと数学は好きでしたが,久しぶり に真剣に勉強しました.カオスを数学的に講義しよう とすると,微分同相写像などの力学系の基礎概念,群 作用,ルベーグ積分論と測度論,位相幾何学,多様体 論,非ユークリッド幾何学,確率論などは必須ですか ら,よく知るカオス力学系でさえ,復習は欠かせませ んでした.まして,他の数学科目は相当の勉強をせね ばなりませんでした.ちなみに,カオスには代数構造 が潜み,カオスの幾何学は Henri Poincar´ e の言を俟つ までもなく超越的で,それゆえ解析を寄せ付けず,し かしながら確率論的な振る舞いを示しエルゴード理論 とも深く関係するというように,カオスは数学的に多 面的な内容を持っています.そして,それゆえにカオ スは情報論的にも豊かな構造を持つことが分かってき ました.. 2,3 年して講義の準備をしていた時に,パイコネ変. 成するために,時系列パターンの種類に応じた数の反 復写像系が CA1 の神経回路の状態空間上に自己組織 されることも分かりました.さらに,パルス列による デコーディングも可能であることが分かりました.ま た,ハウスドルフ測度が時系列パターンに対して良い 計量を与えることも分かりました.これらの理論的予 測は,塚田稔さんが主導し福島康弘さん,黒田茂さん らが行った海馬スライスの実験29) でほぼ実証されたと いってよいと思います.ただし,スライス実験なので, 生きた動物やヒトの海馬でこのようなコーディングが 起こっているかどうかは未解決です.今後の課題の一 つです. 脳全体をとらえるような広範囲な神経回路モデルを 作りたくて,熱力学極限においては拡散方程式に移行す る有限サイズの神経回路としてギャップジャンクショ ン結合を考えました.結局,規模はそれほど大きなも のにはなりませんでしたが.拡散過程をギャップジャ ンクション結合で近似する研究はすでに川人さんたち. ました.しかもパイコネ変換は斜積変換の典型例だと. が発表していたので,それを参考にして,クラス I の 極小ニューロンモデルを新たに作りそれらをギャップ. 気づきました.それで海馬を斜積変換として捉えるう ちに,独立変数としてカオス時系列を生み出す CA3 に. ジャンクションで結合し,シミュレーションしました. 山口裕さん,田所智さん,安岡卓男さん,藤井宏さん. 換が海馬のダイナミクスそのものではないかと直感し.

(5) 44. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). とダイナミクス解析を行い,カオス的遍歴の典型的な. 上さんに聞くと,確かにそういうニューロンもあった. 現象30∼32) を得ました.これは,様々な種類の位相同期 をアトラクター痕跡としてそれらが構成する部分空間. が,数が少なかったので論文には載せなかったという ことでした.このことも契機となり,塚田さん,坂上. への出入りが大自由度カオスによって制御されるとい うダイナミクスを有しています.. さん,Xiaochuan Pan さんたちとサルの推論実験を行 い,単なる連想記憶ではなく三段論法的な推論をサル. ホジキン・ハクスレー型のニューロンモデルはクラ ス II と分類されており,ベクトル場のゆがみによって. は行っている証拠36, 37) を提示することができました. 次に,脳の五人組の一人,藤井宏さんが持ち込んだ課. パルス解を生成します.さらにホップ分岐が起こりま. 題がレビー小体型認知症患者が見る複合型視覚性幻覚. す.これによって例えば外部電流を変化させるとある きまった周波数を持った振動状態が出現します.それ. の神経機構の解明でした.この研究はアセチルコリン の欠乏による注意欠陥が幻覚を引き起こすという観点. に対してクラス I ニューロンはサドル・ノード分岐と ホップ分岐の混合を基本にするために,外部電流のわず. と,視覚野から前頭葉への直接的なローパス・フィル ター回路の一部欠損に起因して幻覚が生じるという観. かの変化で異なる周波数の振動状態が現れます.この ダイナミックレンジの広さは坂本一寛さんが KYS モ. 点の二つの観点から研究しました.この研究には大学 院生だった塚田啓道さんと藤堂真登さんが関わりまし. デルの挙動をもとに指摘している33) ように進化にとっ ても非常に重要なことだったと思われます.外部刺激. た.前者の研究38) はホジキン・ハクスレー型のニュー ロンモデルの 2–コンパートメントモデルの神経回路モ. のわずかな変化を敏感に察知し,異なる振動状態によ. デルで,文脈と視覚パタンとの対を学習させ,アセチ. る多様な内部表現に基づいて,文脈依存的な解釈過程 による応答が可能になるからです.このような多様な. ルコリン欠乏状態を導入すると文脈から連想される視 覚パタンとは異なるパタンが生成されました.これを. 応答が可能なニューロン素子のギャップジャンクショ ン結合はカオス的遍歴を誘発し,さらに複雑な判断,行. 幻覚の出現だと解釈しました.後者ではもう少しマク ロな自己組織現象を仮定し,長距離結合の一部欠損後. 動を可能にします.最近では,この私たちが μ モデル と呼んだクラス I ニューロンモデルのギャップジャン. の自己再組織化を考えました.自己再組織化によって 過剰に修復がなされることが幻覚の原因だという示唆. クション結合モデルは徳田慶太さんらによって,海馬. に富む結果39) を得ました.またこの分野の世界的権威. の θ リズムとそのほかのリズムの間の遷移現象のモデ ル34) に使われています.また徳田さんによって小脳の. でもある Daniel Collerton さんたちとも共著論文40) を書きましたが,実験事実が不足していて,モデルの. ゴルジ細胞ネットワークに使われ,小脳の運動学習に 対する運動パタン生成モデルとしても使われています.. 検証が十分に行えない状況です.このような病態モデ ルを検証できるようなホドロジー(道程)の計測方法. 塚田稔さんとは脳の五人組の活動を通して,また脳 の様々なプロジェクト研究の共同研究者としてずっと. の開発が待たれます.現在,レビー小体型認知症の複 合型視覚性幻覚に関するコンセンサス論文を書こうと. 密度の濃いお付き合いをしてきました.玉川大学近く. いうことになり,Collerton さんや Karl Friston さん,. のあるイタリアンレストランで議論をしていたとき私 が塚田さんに「サルとヒトの本質的な違いは何か?」と. 奈良さんらと論文を執筆中です. 北大時代は大きなプロジェクトの責任者にもなりま. 問うたことがきっかけになり,サルの推論の研究をし ようということになりました.これも詳しい経緯は他. した.もともとこういうことは苦手だという意識があ り逃げてきましたが,ある程度歳をとるとそうもいか. の機会に譲りますが,塚田さんが音頭をとって彦坂興 秀さん,坂上雅道さん,小林俊輔さん,斎藤秀昭さんた. ず,新学術領域研究の代表者として新しい領域研究を けん引する立場になりました.塚田さんの他に,発達. ちとサルの思考推論に関して議論する機会が設けられ. ロボティクスの研究で有名で脳科学にも造詣が深い浅. ました.私は実験課題を考えるために,坂上さんの過 去のサルの実験の論文の分析から始めました.つまり,. 田稔さんにもアドバイザーになっていただきました. 2009 年からスタートして 5 年間,当時の若手研究者. ある課題の実験が持つ構造を分析し,その実験から何が 言えるかを数学的に解析する計画を立てたのです.大. とともに二つの脳のコミュニケーション時に発生する 個々の脳のダイナミックな活動変化をヘテロ複雑系の. 学院生の畠山元彦さんがこれに呼応して素晴らしい発 見35) をしました.この “実験の理論” をもとにすると,. 視点から捉える研究41) を行いました.この時点で,海 外ではいくつかの研究グループがコミュニケーション. 当時坂上さんたちが見つけていなかったニューロンが 存在するはずだという結論になったのです.そこで坂. 時の脳活動を計測していましたが,その意味するとこ ろは必ずしも明確ではないように思われ,国内ではま.

(6) 受. 賞. 概. 要. 45. だ本格的な二体の脳の相互作用研究は行われていませ. 年度のノーベル化学賞を受賞しました.これらの理論. んでした.このプロジェクトを推進したことはとても 良かったと思っています.一つには数理理論主導での. は非平衡定常状態のパターン形成を記述するものです が,そのために境界条件は固定されます.それに対し. 脳研究の重要性を示すことができたことであり,実際 理論と実験の相互作用による多くの融合研究の成果が. て,胎児や幼児の脳の発達過程やコミュニケーション 時の脳の情報過程では一般に境界条件は変動していき. 得られました.第二には若手研究者が大いに力をつけ, それぞれが次のステップへと踏み出していき,そこで. ます.さらに,さまざまな階層のレベルで物理的,化 学的,生理学的,運動学的,情報論的な拘束条件が発生. また新しい核を形成していることです.第三にこのプ. し,それによってシステム内に機能部品が分化するこ. ロジェクト研究を通じて拘束条件付き自己組織化42) と いう新しい自己組織化の概念が明確になったことです.. とでシステム全体が機能的になる,という構造が見て 取れます.実はこのようなアイデアはすでに 1987 年. 生命における拘束条件の重要さは,私の東京時代にす でに清水博さんが毎日のように唱えていたことですが,. には得ていて,これこそが複雑系(生命系)の本質で あると主張してきたのですが,なかなか具体的な研究. その時は十分に理解したとは言い難い状態でした.そ れが,コミュニケーションにおける個々の脳活動の変. に発展させることができませんでした.ようやく機が 熟したという感じです.. 化を考えるうちに,拘束条件の意味するところが少し 分かったような気がしてきました.それで私なりにこ. この時働く拘束条件は境界条件とは異なる変分的な 条件です.上記の拘束条件の他,神経回路のダイナミ. れを理論化することを考え始めたのでした.. クスそのものも拘束条件と考えて変分問題を解くと,. これを実践する最初の場が運よく与えられました. 南部篤さんが領域代表になった新学術領域研究「オシ. バコノミック力学が得られます.この力学系は終状態 にも依存する非因果的な力学系で,拘束条件が作る多. ロロジー」です.ここで,拘束条件付き自己組織化理 論の構築を行うための必要な要素を考えながら,機能. 様体上の極値問題を解くことと等価です.この点にお いてバコノミック力学はフィードバック制御と異なり. 分化の数理モデルに着手しました.さらに複雑系の数 理理論の応用として医療応用を考える機会を得ました.. ます.後者では得られた極値集合から拘束条件に適し たものが選択されることによりプロセスは因果的に進. 実際,臨床の先生との共同研究を行いました.京大の. みます.それに対して,バコノミック力学は元の神経. 池田昭夫さんのグループ,九大の飛松省三さんのグルー プとそれぞれ,てんかん脳波の解析,視覚性錯視の脳. 回路の力学系にそれと同じ次元を持つラグランジュ未 定乗数に関する力学系が付け加わった力学系で,初期. 活動研究を行いました.てんかん脳波の解析では行木 孝夫さん,田所智さんらと大発作前のいくつかの時点. 条件が与えられていないラグランジュ未定乗数を変数 として含みます.一般にはラングランジュ未定乗数の. で脳波に隠された特徴的な数理構造を抜き出すことに 成功しました.カオス力学系の痕跡さえも見えてきた. 次元方向は不安定になります.これを安定化させるた めにはディスカウント付きの変分問題を解く必要があ. のでした43) .これらが発作のバイオマーカーになる可. りますが,幸いにも拘束条件を満たす終状態に到達す. 能性があるのです.. るような初期値集合を求めることができる場合44) があ. 5. 拘束条件付き自己組織化理論から 機能分化の問題へ 北海道大学を定年(63 歳)退職して,私学の中部大学 に創設された創発学術院にやってきました.人生で初 めて私学を経験しています.従来の自己組織化理論は. ることが分かってきました. このようにして拘束条件付き自己組織化を非因果的 な変分問題で定式化することが可能になり,これをも とにして機能分化の問題を考えました.詳細は文献に 譲りますが,金子さん,古澤さんの細胞分化のモデルに も触発されながら,山口裕さん,渡部大志さんらと機. ミクロな原子,分子の相互作用が平衡から遠く離れた非 平衡条件下ではマクロな時空パタンを生み出す仕組み. 能分化に関する数理モデルを構築してきました.まず, 私たちは力学系のネットワークに外部入力情報のネッ. を定式化したものです.これは非線形・非平衡統計物理 学の主題の一つで,I. Prigogine さん,H. Haken さんら. トワーク内への伝搬最大化という拘束条件を満たすよ うに進化アルゴリズムを力学系の分岐パラメーターに. がそれぞれ異なるアプローチで定式化しました.神経. 適用することで,要素力学系がパルス解を生み出す興 奮系へと分化していくことを発見45) しました.この研. 回路の自己組織化にも類似の数理構造があります.こ れは甘利さん,福島さん,Teuvo Kohonen らによって 定式化されました.Prigogine さんはこの功績で 1977. 究結果は,実際の生物進化でなぜニューロンのような 機能素子が進化してきたのかに対する数理的,情報論的.

(7) 46. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). 解答を与えているように思われます.ニューロンは単. 果しか見えていませんが,ニューロン融合による新機. に粗野な情報単位なのではなく,それが神経回路を構成 した時に外部環境の変動する情報を神経回路内部に動. 能創成の研究が進めばまた新しい創発原理が発見され る可能性があります.. 的に保持し続けることを可能にする機能単位として進 化したと考えられるのです.さらに,機能モジュール. さらに,最近グリア細胞の新しい機能50) に注目が集 まっています.グリア細胞の中でもアストロサイトは. が分化してくる様子も同様の手続きによって示すこと ができました.進化発展する神経回路のダイナミクス. ニューロンと同じ神経伝達物質を放出してシナプス結 合にブリッジをかける(三者結合)ことも見つかってお. 研究は今後の神経回路研究の重要な課題の一つになっ. り,また視交叉上核で見られるように抑制性ニューロ. ていくと思われます. 現在私たちは JST の CREST においてリザバー計. ンを活性化させる作用なども見つかっていることから, これらの効果を神経回路の学習に導入すると従来の学. 算機に進化ダイナミクスを導入した進化型リザバー計 算機を開発中で,エラー最小,情報量最大,コスト最小. 習理論を拡張する必要に迫られるでしょう.アストロ サイトは局所的に働きますが,神経細胞の活動とは時間. などの拘束条件によって,視覚ニューロン,聴覚ニュー ロンの分化46) や,モジュール分化47) など多くの機能分. スケールが異なっています.アストロサイトは血管系 とも相互作用しているために大域的な情報を担ってい. 化を実現することができています.現在,この進化型リ ザバー計算機をバイオマーカーの発見や特徴的な力学. る可能性があります.ニューロンは血液中の酸素を吸 収し活性化します.この相関を見ているのが fMRI の. 系の変化の予測器として進化発展させる研究48) を進め. データです.ニューロン活動が起こると K+ イオンが. ていて,将来の医療応用(特に,personalized medicine 個別医療)を目指しています.. 細胞外に溜まってきます.これを除去するためにアス トロサイトが K+ イオンをアストロサイト内に取り込. 機能分化は脳がまさに複雑系として働いていること の直接的な帰結です.複雑系とは要素還元的には理解. みます.これが引き金になってカルシウムの振動波が アストロサイト内に発生し,プロスタグランジンを放. しえない系であり,それゆえに構成論的に作って理解 することが必要になる系です20, 21) .脳は既成の機能部. 出することで血管拡張を引き起こします.これによっ て多くのニューロンに大域的に新たな酸素が供給され. 品のネットワークとして機能するのではなく,脳とい. ます.そうすると神経回路構造としては,学習項を除. うシステムにかかった拘束条件を満たすように機能部 品が自己組織的に分化することでシステム自体が機能. 13, 20, 21) けば,金子さんの大域結合写像(GCM) に似た 構造になります.そうであるならば,カオス的遍歴を. 的になるようなシステムです.これこそ要素還元が不 可能であるシステムの特徴なのです.私たちはまだ機. 含むきわめて多様なダイナミクスが生成されることが 期待され,脳の階層的な多重分散処理方式に新しい光. 能分化の神経機構解明の第一段階にいるにすぎません. 数理モデルのパラメーター,メタパラメーターを神経. が投げかけられる可能性があります.こういった脳の 新しい知見を取り入れて新しい神経回路研究が進み,. 生理学的な要素として意味づけていく作業が必要です.. 人工知能が進化することでヒトの脳も進化する原理の. 拘束条件が如何に創発してくるかという問題も未開拓 です.これは脳神経システムにおける階層を破る原理. 開拓に期待したいと思います.こういった脳神経系の 新しい研究の基盤には常に数学があります51) .これも. とは何かという問題でもあり,システムの自律性の獲 得原理の研究とつながっています.これらを考慮する. 含め私たちの新しい研究が日本神経回路学会のさらな る発展の一助になれば幸いです.. と,創造性,想像性,感性,無意識といったヒトの脳 で際立つ特異的な機能を,自ら拘束条件を作り出しダ. 参 考 文 献. イナミックに変化していく神経回路網の創発問題とし て実現できるかもしれません. 神経回路が離散的なニューロンの結合からなるとい うニューロン説は Santiago Ram´ on y Cajal によっ て唱えられ,他方 Camillo Golgi は神経網説を唱え,. Ram´ on y Cajal に軍配が上がったことは周知の事実で す.しかしながら,最近ニューロンの融合現象が発見 され,Golgi の神経回路網説に再び光が当たってきま した49) .論文では融合によって機能的には未だ負の効. 1) Marr, D., A theory for cerebral neocortex. Proceedings of The Royal Society of London, B, 176 (1970), 161–234. 2) Marr, D., Simple memory: A theory for archicortex. Philosophical Transactions of The Royal Society of London, 262 (1971), 23– 81. 3) Marr, D., A theory of cerebellar cortex. Journal of Physiology, 202 (1969), 437–470. 4) Tsuda, I., A hermeneutic process of the brain. Progress of Theoretical Physics, Supplement.

(8) 受. 賞. 79 (1984), 241–259. 5) 例えば,Tsukada, M., Ishii, N., Sato, R., Temporal pattern discrimination of impulse sequences in the computer-simulated nerve cells. Biological Cybernetics, 17 (1975), 19–28. 6) Matsumoto, K., Tsuda, I., Information theoretical approach to noisy dynamics. Journal of Physics A: Mathematical and General, 18 (1985), 3561–3566. 7) Matsumoto, K., Tsuda, I., Extended information in one-dimensional maps. Physica, 26D (1987), 347–357. 8) Matsumoto, K., Tsuda, I., Calculation of information flow rate from mutual information. Journal of Physics A: Mathematical and General, 21 (1988), 1405–1414. 9) Nicolis, J. S., Tsuda, I., Chaotic dynamics of information processing: The magic number seven plus-minus two revisited. Bulletin of Mathematical Biology, 47 (1985), 343–365. 10) 例えば,Szent´ agothai, J., The neuron network of the cerebral cortex: a functional interpretation. Proceedings of the Royal Society of London, B, 201 (1978), 219–248. 11) Tsuda, I., K¨ orner, E., Shimizu, H., Memory dynamics in asynchronous neural networks. Progress of Theoretical Physics, 78 (1987), 51–71. 12) Tsuda, I., Chaotic itinerancy as a dynamical basis of hermeneutics in brain and mind. World Futures, 32 (1991), 167–184. 13) Kaneko, K., Tsuda, I., Chaotic itinerancy. Chaos: Focus Issue on Chaotic Itinerancy, 13(2003), 926–936. 14) Tsuda, I., Chaotic itinerancy. Scholarpedia, 8(1): 4459 (2013), doi:10.4249/scholarpedia. 4459. 15) Tsuda, I., Chaotic itinerancy and its roles in cognitive neurodynamics. Current Opinion in Neurobiology, 31 (2015), 67–71. 16) Skarda, C. A., Freeman, W. J., How brains make chaos in order to make sense of the world. Behavioral and Brain Sciences, 10 (1987), 161–195. 17) Tsuda, I., Dynamic link of memory—chaotic memory map in nonequilibrium neural networks. Neural Networks, 5 (1992), 313–326; 5(1992), 857 (Errata). 18) Liberalquino, R. B., Monge, M., Galatolo, S., Marangio, L., Chaotic itinerancy in random dynamical system related to associative memory model. Mathematics, 6 (2018), 39; doi:10.3390/math6030039. 19) Shimizu, H., ed., Biological Complexity and Information—Proceedings of a Conference on. 概. 要. 47. the Amalgamation of the Eastern and the Western Ways of Thinking (April 21–24, 1989, Fuji-Susono, Japan). World Scientific, 1990. 20) 金子邦彦,津田一郎,複雑系のカオス的シナリオ, 朝倉書店,1996 年. 21) Kaneko, K., Tsuda, I., Complex Systems: Chaos and Beyond—A Constructive Approach with Applications in Life Sciences. SpringerVerlag Berlin, Heidelberg, New York, 2001. 22) Tsuda, I., Yamaguchi, A., Singularcontinuous nowhere-differentiable attractors. Neural Networks, 11 (1998), 927–937; 12 (1999), 203 (Errata). 23) R¨ ossler, O. E., Hudson, J. L., Knudsen, C., Tsuda, I., Nowhere-differentiable attractors. International Journal of Intelligent Systems, 10 (1995), 15–23. 24) Ryeu, J. K., Aihara, K., Tsuda, I., Fractal encoding in a chaotic neural network. Physical Review, E, 64 (2001), 046202: 1–6. 25) Tsuda, I., Toward an interpretation of dynamic neural activity in terms of chaotic dynamical systems. Behavioral and Brain Sciences, 24 (2001), 793–810; 829–847. 26) Tsuda, I., Kuroda, S., Cantor coding in the hippocampus. Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, 18 (2001), 249–258. 27) Kuroda, S., Fukushima, Y., Yamaguti, Y., Tsukada, M., Tsuda, I., Iterated function systems in the hippocampal CA1. Cognitive Neurodynamics, 3 (2009), 205–222. 28) Yamaguti, Y., Kuroda, S., Fukushima, Y., Tsukada, M., Tsuda, I., A mathematical model for Cantor coding in the hippocampus. Neural Networks, 24 (2011), 43–53. 29) Fukushima, Y., Tsukada, M., Tsuda, I., Yamaguti, Y., Kuroda, S., Spatial clustering property and its self-similarity in membrane potentials of hippocampal CA1 pyramidal neurons for a spatio-temporal input sequence. Cognitive Neurodynamics, 1 (2007), 305–316; Fukushima, Y. et al., Physiological properties of Cantor coding-like iterated function system in the hippocampal CA1 network. To appear in Cognitive Neurodynamics (2021). 30) Tsuda, I., Fujii, H., Tadokoro, S., Yasuoka, T., Yamaguti, Y., Chaotic itinerancy as a mechanism of irregular changes between desynchronization in a neural network. Journal of Integrative Neuroscience, 3 (2004), 159–182. 31) Fujii, H., Tsuda, I., Neocortical gap junctioncoupled interneuron systems may induce chaotic behavior itinerant among quasi-.

(9) 48. 32). 33) 34). 35). 36). 37). 38). 39). 40). 41). 42). 日本神経回路学会誌. attractors exhibiting transient synchrony. Neurocomputing, 58-60 (2004), 151–157. Tadokoro, S., Yamaguti, Y., Fujii, H., Tsuda, I., Transitory behaviors in diffusively coupled nonlinear oscillators. Cognitive Neurodynamics, 5 (2011), 1–12. 坂本一寛,創造性の脳科学—複雑系生命システム 論を超えて,東京大学出版会,2019 年. Tokuda, K., Katori, Y., Aihara, K., Chaotic dynamics as a mechanism of rapid transition of hippocampal local field activity between theta and non-theta states., Chaos, 29 (2019), 113115; doi:10.1063/1.5110327. Hatakeyama, M., Tsuda, I., Internal logic viewed from observation space: Theory and a case study. BioSystems, 90 (2007), 273–286. Pan, X., Sawa, K., Tsuda, I., Tsukada, M., Sakagami, M., Reward prediction based on stimulus categorization in primate lateral prefrontal cortex. Nature Neuroscience, 11 (2008), 703–712. Pan, X., Fan, H., Sawa, K., Tsuda, I., Tsukada, M., Sakagami, M., Reward inference by primate prefrontal and striatal neurons. The Journal of Neuroscience, 34 (2014), 1380–1396. Tsukada, H., Fujii, H., Aihara, K., Tsuda, I., Computational model of visual hallucination in dementia with Lewy bodies. Neural Networks, 62 (2015), 73–82. Todo, M., Towards the interpretation of complex visual hallucinations in terms of self-reorganization of neural networks. Neuroscience Research, 156 (2020), 147–158. Collerton, D., Taylor, J.-P., Tsuda, I., Fujii, H., Nara, S., Aihara, K., Katori, Y., How can we see things that are not there? Current insights into complex visual hallucinations. Journal of Consciousness Studies, 23 (2016), 195–227. Tsuda, I., Yamaguchi, Y., Hashimoto, T., Okuda, J., Kawasaki, M., Nagasaka, Y., Study of the neural dynamics for understanding communication in terms of complex hetero systems. Neuroscience Research, 90 (2014), 51–55. Tsuda, I., Yamaguti, Y., Watanabe, H.,. Vol. 28, No. 1(2021). 43). 44). 45). 46). Self-Organization with constraints—A mathematical model for functional differentiation. Entropy, 18 (2016), 74; doi:10.3390/e1803007. Namiki, T., Tsuda, I., Tadokoro, S., Kajikawa, S., Kunieda, T., Matsumoto, R., Matsuhashi, M., Ikeda, A., Mathematical structures for epilepsy: High-frequency oscillation and interictal epileptic slow (red slow). Neuroscience Research, 156 (2020), 178–187. Nakamura, F., Global accessibility and stabilization by infinite horizon optimal control with negative discounting (Preprint). Watanabe, H., Ito, T., Tsuda, I., A mathematical model for neuronal differentiation in terms of an evolved dynamical system. Neuroscience Research, 156 (2020), 206–216. Yamaguti, Y., Tsuda, I., Functional differentiations in evolutionary reservoir computing networks. arXiv:2006.11507v1 [nlin.AO] 20 Jun 2020; To appear in Chaos (2021).. 47) 河合祐司,小笹悠歩,朴志勲,浅田稔,結合コス ト最小化によるエコーステートネットワークの破 滅的忘却の回避,第 33 回人工知能学会全国大会, 3D4-OS-4b-02, 2019 年 6 月.なおこの研究の ベースになったのは,Yamaguti, Y., Tsuda, I.,. 48). 49). 50). 51). Mathematical Modeling for Evolution of Heterogeneous Modules in the Brain. Neural Networks, 62(2015), 3–10. 例えば以下の研究が基盤の一つになる.Seo, J.-H., Tsuda, I., Lee, Y. J., Ikeda, A., Matsuhashi, M., Matsumoto, R., Kikuchi, T., Kang, H., Pattern recognition in epileptic EEG signals via dynamic mode decomposition. Mathematics, 8 (2020), 481; doi:10.3390/ math8040481. Giordano-Santini, R., Kaulich, E., Galbraith, K. M., Ritchie, F. K., Wang, W., Li, Z., Hilliard, M. A., Fusogen-mediated neuron— neuron fusion disrupts neural circuit connectivity and alters animal behavior. Proceedings of the National Academy of Sciences, 117 (2020), 23054–23065. 例えば,Ransom, B., Behar, T., Nedergaard, M., New roles for astrocytes (stars at last). Trends in Neuroscience, 26 (2003), 520–522. 津田一郎,脳の中に数学を見る,共立出版,2016 年..

(10) 受. 賞. 概. 要. 49. 2020 年度日本神経回路学会論文賞の研究概要 論文題目: Saliency model based on a neural pop-. ulation for integrating figure direction and organizing Border Ownership 著 者 名: Nobuhiko Wagatsuma 掲 載 誌: Neural Networks, Vol. 110, pp. 33–46 (2019) 我妻伸彦(東邦大学). マップを構築するために,Russell らのモデルを拡張し ました.提案するモデルでは,モデル V2 細胞が検出 する BO を統合するモデル V4 細胞の集団を導入しま した.モデル V4 細胞集団を形成する 100 個のモデル 細胞には,それぞれに異なる形状に対する選択性を与 えました.これら 100 個のモデル V4 細胞の活動が協 働することで,視線位置を予測する最終的なサリエン シー・マップが形成されます.以前,執筆者は異なる選 択性を持つ V2 の BO 細胞集団の協働により物体領域. この度は,2020 年度日本神経回路学会論文賞という. 知覚が形成されるというモデル研究に取り組みました. 名誉ある賞に選出いただき,誠にありがとうございま す.ご推薦いただきました先生方や日本神経回路学会. (Wagatsuma et al., 2008, J. Vis.).細胞集団の協働 による視知覚の形成は,他の計算論的研究や電気生理学. の皆様に厚く御礼申し上げます.本論文は,ポスドク 卒業後,独立して初めて取り組んだ研究です.そのた. 的研究からも支持されています(Sakai et al., Neural Netw., 2012; Yamane et al., PLOS ONE, 2020) .本 研究は,このフレームワークを,BO を統合する V4 の. め,執筆者としても思い入れのある研究を評価してい ただき,大変嬉しく思います.. メカニズムへと適用し,注意選択領域決定の神経回路. 本研究は,ヒトが視野空間中のどこを見るかという 注意選択領域と視線位置を予測する網膜から大脳第 4. 構造へと拡張したモデルでもあります. シミュレーションにより,提案するサリエンシー・. 次視覚野 V4 までの視覚情報処理の計算モデルです.. マップモデルは比較的単純な画像に対するヒトの注意. ポスドク時代に少し参加させていただいた注意のモデ ルを研究するグループ内の議論中に, 「この注意のメカ. 選択特性と視線位置を定性的に再現できることを確認 しました.特に,主観的輪郭のような画像に対して,. ニズムに,学生時代に研究したモデルの構造を導入し たら面白いかも」 ,と思い付いたのがきっかけでした.. 提案モデルが示した予測とヒトの注意選択領域は良く 一致していました.これは,初期視覚系の応答により. 本研究の概要を以下に紹介させていただきます. 視野空間内のどこに注意を向けるか(注意選択領域) ,. 注意選択領域を決定する Itti モデルでは見られない特 性になります.また,近頃は自然画像とそれに対する. または視線を向けるか(視線位置)を予測するモデルが. ヒト視線注視のデータセットが公開されています(例,. サリエンシー・マップです.最初に実装されたサリエ ンシー・マップモデルは,網膜や大脳初期視覚野 V1 の. MIT データセット,Judd et al., 2009, ICCV).MIT. 活動に基づき,注意選択領域を予測していました(Itti & Koch, 2000, Vis. Res.) .近年では,大脳第 2 次視覚. て得られたサリエンシー・マップとヒト視線注視デー タを比較して,提案モデルの性能を定量的に評価しま. 野 V2 で符号化される境界所有(Border Ownership, BO)とこれを統合(グループ化)する大脳視覚野 V4. した.その結果,Itti モデルや Russell モデルと比較 して,本研究で提案するモデルが定量的にも最も高い. の神経活動を考慮したサリエンシー・マップモデルも. 注意選択予測精度を示しました.. 提案されています(Rusell et al., 2014, Vis. Res.). Russell らのサリエンシー・マップモデルは,Itti らが. 本研究から,単独の神経細胞よりも,神経細胞集団 の協働に基づく情報表現がヒトの知覚形成や注意選択. 提案したモデルよりも,高い精度でヒトの注意選択特 性や視線位置を再現できます.しかし,Russell らのサ. 決定に重要な役割を果たすことが示唆されました.ま た,V2 における BO 符号化と V4 によるその統合が注. リエンシー・マップモデルでは,正方形に良く反応す るモデル V4 細胞が単独で,注意選択領域を決定しま. 意選択の基盤となる可能性が示されたと考えています. 最近では,深層学習で構築したサリエンシー・マップ. す.複雑かつ多様な形状の物体を含む自然画像に対応 するためには,異なる選択性を持つ V4 細胞集団の協. モデルの情報表現とサル大脳視覚皮質の応答特性を比 較しました(Wagatsuma et al., 2020, eNeuro).こ. 働とこれらの相互作用が不可欠だと予測されます.. こで用いた解析方法を,本研究を含む様々なサリエン. 本研究では,自然画像により適応できるサリエンシー・. データセットから提供される自然画像をモデルに与え. シー・マップモデルに適用することで,サル大脳視覚.

(11) 50. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). 皮質と注意選択モデルの情報表現がどのように対応し. を記述する,クープマン作用素のスペクトル解析のた. ているかの研究を進めています. 様々なバックグラウンドを持つ方々と幅広い研究テー. めの数値アルゴリズムである動的モード分解(DMD) が注目されています.しかし,既存の DMD アルゴリ. マが集まる日本神経回路学会における発表と議論は, 大きな収穫が得られる(または自分の勉強不足を痛感. ズムは原理的にスカラー観測量の連結に基づいて定式 化されるため,例えばグラフ系列の形式を取る観測量. する)貴重な場所だと思っています.今後も,日本神 経回路学会にて発表や議論をさせて頂けますと幸いで. 間の依存構造を持つデータには直接適用できませんで した.本論文では,観測量間の構造を持つ非線形動的. す.最後になりましたが,本研究を進める上でご協力. システムのスペクトル解析を定式化し,この問題の推. いただいた皆様に感謝致します.. 定アルゴリズムを提案しました.この方法は,データ から動的システムの背後にある低次元の大域的ダイナ. 論文題目: Dynamic mode decomposition in vector-. ミクスを抽出し,観測量間の構造を視覚化できるため, 非線形動的システムの背後にあるダイナミクスを理解. valued reproducing kernel Hilbert spaces for extracting dynamical structure among observables 著 者 名: Keisuke Fujii, Yoshinobu Kawahara 掲 載 誌: Neural Networks, Vol. 117, pp. 94–103 (2019) 藤井慶輔(名古屋大学大学院情報学研究科). するのに役立ちます.この目的のもとに,最初にベク トル値再生核ヒルベルト空間で定義されたクープマン 作用素のスペクトルを推定する問題を定式化し,次に テンソルベースの DMD を再定式化することでこの問 題の推定手法を開発しました.この特殊な場合として, グラフ DMD という方法を提案しました.これは,隣 接行列の系列を使用する,グラフ力学系のスペクトル. この度は,2020 年度日本神経回路学会論文賞にご選. 解析のための数値アルゴリズムです.合成データ(魚 群のシミュレーションデータ)および実世界のデータ. 出頂き,誠にありがとうございます.ご推薦頂きまし た先生方,並びに日本神経回路学会の皆様に感謝申し. (自転車シェアリングデータ)を使用して,この方法の 実験的性能を調査しました.その結果,異なるタイプ. 上げます.本論文は,マルチエージェントシステムの. の魚群の振舞いに関してそれぞれ特徴的なダイナミク. ような,観測量間で構造を持つ非線形動的システムを 対象に,その観測量間(例えば個体間)の相互作用の. スの特徴を抽出し,自転車データにおいては,1 日お よび 1 週間の周期において自転車が使用される特徴的. 力学特性をデータから抽出するという方法を開発した 研究です.当時,私(藤井)が理化学研究所革新知能. な経路を発見することができました. 本論文は,観測量間の構造を持つデータにも作用素論. 統合研究センター(理研 AIP センター)の構造的学 習チームにおける研究員として在籍していた時に,同. 的データ解析が適用可能になったことにより,方法論的 および応用面における様々な発展の可能性が見えた,非. チームのチームリーダーである河原吉伸先生(現九州. 常に重要な位置づけになります.例えば私たちは,この. 大学)との共同研究として本論文を執筆しました. 私自身は,スポーツをはじめとした複雑で多自由度. 手法を基礎に,より複雑な集団スポーツの選手位置デー タに適用して攻撃・守備戦術を分類する方法を開発しま. な動きの計測データから,各要素の相互作用や時間発 展の特徴を抽出するための機械学習手法の構築に関す. した(Fujii et al. 2020, Scientific Reports).最後に なりましたが,本研究を進めるにあたり理論面における. る研究を行い,その有効性検証と知見獲得のための実 験的研究を行っています(現在の所属である名古屋大. 着想・定式化について多大な貢献をしてくださり,論文 執筆に懇切丁寧にお付き合い頂いた共著者の河原吉伸. 学でも継続しています) .そのような実世界の非線形動. 先生や,議論をしてくださった当時理研 AIP の武石直. 的システムを理解することは,その背後にある支配方 程式がしばしば不明な場合があるので,様々な工学お. 也さん,石川勲さん,池田正弘さんに感謝申し上げます. 本研究は,科研費 16K12995,16H01548,18K18116,. よび科学分野で挑戦的な問題になります.そのような 場合に効果的な手法の 1 つとして,明示的な事前知識. 18H03287,および AMED JP18dm0307009 における 助成に基づき行われましたので,関係者の皆様にも御. を必要とせずに非線形動的システムの大域的なモード. 礼申し上げます..

(12) 受. 賞. 概. 要. 51. 2020 年度日本神経回路学会最優秀研究賞の研究概要 論文題目: VGG モデルの視覚野的解釈における解析 の検討 著 者 名: 寺元陶冶,庄野 逸 学 会 名: NC2018-88(2019 年 3 月) 庄野 逸(電気通信大学). うかということと,どのような入力刺激を符号化して いるのかを調査することにしました.VGG モデルの ブロック構造は “畳み込み層(conv1) ” → 畳み込み層 (conv2)→ プーリング層(pool) ” であり,このブロッ ク構造を 4 個並べたものが標準的な構成です.そこで conv1 層が前ブロックの特徴を抽出する層,conv2 層 で統合する層と位置づけ,conv2 層における結合係数. この度は 2020 年度神経回路学会最優秀研究賞とい う名誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうござ. 重みでソートした順に conv1 層で抽出した特徴を並べ ることで何を符号化しようとしているのかを可視化し. いました.ご推薦いただきました方々や日本神経回路 学会会員の皆様にこの場を借りてまずは御礼申し上げ. ました.その結果として VGG の第一ブロックでは, 色に応答するような細胞と,明暗のエッジに応答する. ます.以下では本研究の概要を紹介したいと思います. 本研究のモチベーションは,“Fukushima によって提. ような細胞が存在すること,色応答する細胞では,同 系色を抽出する細胞が興奮性結合,反対色に応答する. 唱された Neocognitron を祖とする深層畳み込みニュー. 細胞が抑制成分を持つこと,エッジに対しては方位を. ラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network:DCNN)が,どのくらい脳の表現を獲得してい. 180 度回転させたエッジが抑制成分をもつことを見出 しました.ここで,興奮性結合でつながる細胞が近傍. るのか” を知りたいというところから始まりました. DCNN は近年の画像処理においては核心的な技術と. に配置され,抑制性結合でつながる細胞を離れた位置 に配置されるということを仮定して良いならば,VGG. して取り扱われており,様々な画像処理タスクで高い 性能を発揮しています.一方,脳における視覚入力の. モデルの特徴マップ間にある種の近傍状態が定義でき, それはカラムの連続性と関連があることが示唆されま. 表現としては,類似した刺激に反応する細胞が集まる. す.同様の解析を連続するブロックに対して行うと,. カラム構造とそのカラムが連続性をもって配置される マップ構造が初期視覚野に観察されることはご承知の. 第 2 ブロックでは反対色のエッジ構造を抽出する細胞 が,第 3 ブロックでは円状の形状を抽出し,逆の曲率. とおりです.Neocognitron は,同じような反応特性を もつ細胞のうち,異なる位置に受容野を持つ細胞を取. をもつ形状が抑制成分をもつなどの結果が得られまし た.VGG モデルでは画像識別タスクにおいて識別性. り出し 2 次元的に配置した構造(いわゆる “細胞面” も しくは特徴マップ)を作ると畳み込み演算となるとい. 能をあげるという要請しかしていないにも関わらず, このような特徴マップ間の連続性が見いだされること. う洞察から生まれたモデルです.しかしながら DCNN. は,脳のカラム構造の連続性も識別タスクに対して有. では上述の特徴マップの間には何の制約もなく学習を 行わせる為,カラムの連続性のようなものを考慮して. 効であることがうかがわれます. 最後になりましたが,本研究を執り行うにあたってお. はいません. 先行研究として,Suzuki らは Lin らの Network-in-. 世話になりました庄野研究室の皆様方に,心より御礼申 し上げたいと思います.また本研究は科学研究費新学術. Network で特徴抽出を担う畳み込み層の特徴マップ間 に単純パーセプトロン状の統合を行うと,識別タスク性. 研究 16H01542「Deep Learning を用いたスパーステ クスチャ画像解析手法の確立」 ,基盤研究 (A) 18H04106. 能が向上するとともに,結合係数上に,類似した特徴を 集めるような特性があることを見出しました.そこで. 「ディープラーニングのホワイトボックス化に関する研 究」のサポートを受けております.関係者の皆様方に. DCNN のうち比較的素直なリファレンスモデルである VGG モデルに関してもこのような特性があるのかど. 深くお礼申し上げます..

(13) 52. 日本神経回路学会誌. Vol. 28, No. 1(2021). 2020 年度日本神経回路学会優秀研究賞の研究概要 論文題目: マイクロ磁気刺激におけるコイル誘導電場 の数値解析と神経誘発応答に基づく評価. を示しました.さらに,本研究で提案した同心円型マ イクロコイルでは,先行研究で提案されていた V 字型. 著 者 名: 須貝俊介,西川 淳,舘野 高 学 会 名: NC2019-42(2019 年 12 月). のマイクロコイルよりも強い誘導電場空間微分強度を 誘発できることを示しました.最後に,直径 40 μm の. 西川 淳(北海道大学大学院情報科学研究院). 同心円型コイルでは V 字型コイルよりも半値幅が小さ くでき,高い空間局在性を期待できることも示しまし た.こうした一連の数値解析により,神経応答誘発に. この度は,2020 年度の日本神経回路学会優秀研究賞 にご選出頂きまして,誠にありがとうございます.ご. 適した同心円型マイクロコイルの構造を新規に提案す ることができました.. 推薦頂いた皆様,日本神経回路学会の先生方,学会運 営関係者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,. さらにその後,数値解析結果に基づき,新規に提案し たコイル形状を有する同心円型マイクロコイルデバイ. 北海道大学大学院情報科学研究科修士課程を修了した 須貝俊介さんが,修士課程在籍中に共同受賞者の舘野. スを微細加工技術により作製しました.その生理実験 による検証として,フラビンタンパク質蛍光イメージ. 高先生および小職の指導のもとで実施した研究です.. ング法を用いて,麻酔下のマウス聴覚皮質に刺入した. 以下,その概要について説明させて頂きます. 磁気により脳を刺激する方法は,脳を低侵襲的に刺. マイクロコイルに電圧信号を印加することにより,実際 に神経誘発応答を引き起こすことができることも示し. 激するアプローチとして期待され,世界中で精力的に 研究されています.特に経頭蓋磁気刺激法は,既に神. ました.今回受賞の対象となった研究に,この生理実 験による詳細な結果を成果として加えることで,2020. 経疾患治療等に広く臨床応用され,成果をあげていま す.一般に,電極を用いた電気刺激ではグリア痕跡の. 年 9 月には投稿論文として当該研究成果を出版するこ とができました(Sugai et al., IEEJ Trans. Electr.. 形成や電極のカプセル化等の問題が生じますが,磁気 刺激ではこうした問題を回避できるという強みがあり. Electron. Eng., 2020).. ます.しかし,脳深部刺激法等の電気刺激に比較して,. 上修一先生および佐藤和郎先生との共同研究をベース. 経頭蓋磁気刺激法の効果は数 cm の広い脳領域に及ぶ ために,局在性に劣るとも考えられていました.この. として実施されました.特に,両先生には,刺入型マイ クロコイルデバイスを作製するために必要な微細加工. ような背景から,近年,脳を局所的に磁気刺激する方 法として,微小磁気刺激法(micro magnetic stimu-. に関する各種装置の使用法や加工技術全般の知識を丁 寧にご指導頂いたことに深く感謝致します.筆頭著者. lation, μMS)が開発されました(Bonmassar et al., Nat. Commun., 2012; Lee et al., Sci. Adv., 2016).. である須貝俊介さんは既に企業へ就職しましたが,今 回の日本神経回路学会からの受賞は,彼が企業人とし. これは,脳内に埋め込み可能なマイクロサイズのコイ. て今後の業務に取り組んでいく上で大変な励みになる. ルを用いて脳組織に微小な渦電流を誘導し,コイル近 傍から数 10∼100 μm 程度の微小な範囲にある神経組. はずです.最後になりましたが,本研究の着想,共同 研究体制の確立,そして須貝俊介さんへの熱心なご指. 織を対称・非対称に刺激する方法です.しかし,どの ような誘導物理量が μMS による神経活動誘発に最も. 導を頂いた舘野高先生に深く御礼申し上げます.. 寄与しているかについては不明な部分が多く残されて います.. 論文題目: マダコの這行運動における規則性の解明 著 者 名: 池田美由希,西井 淳. 本研究では,神経細胞に対する μMS の物理的効果の 解明を目指して,先端形状の特徴が異なるマイクロサ イズのコイルにおける誘導電場強度および誘導電場空. 本研究は,長年に渡る大阪府立産業技術研究所の村. 学 会 名: NC2018-80(2019 年 3 月) 植松(池田)美由希(株式会社北川鉄工所). 間微分強度について,有限要素法を用いた数値解析を 実施しました.その結果,同心円型コイルの誘導電場. この度は 2020 年度日本神経回路学会優秀研究賞に. 強度は直径の増加に伴って増大するにも関わらず,そ の微分強度は必ずしも直径に比例して増大しないこと. 選出いただき,誠にありがとうございます.ご推薦い ただきました皆様に厚く御礼申し上げます.受賞対象.

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