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沖縄 国を追いつめる沖縄: 沖縄地域学リポジトリ

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Academic year: 2021

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Title

沖縄 国を追いつめる沖縄

Author(s)

仲地, 博

Citation

法学セミナー = the hogaku seminar, 41(8): 25-27

Issue Date

1996-08

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/10111

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勝市民

I

ための憲法学がはじまる

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-沖

国を追いつめる沖縄

⑩沖縄で何が起きているか

昨年一一月四日を皮切りに、今年六 月 一

O

日までの七カ月 の 聞に、総理大 臣と沖縄県知事 の会談が 、実に六回も ( 一 度は食事をとりつつの非公式の懇 談であったが﹀行われている。平均す るとほぼ月に一回のぺ

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スであり、ま さに前代未聞、今後もそうあることと 琉球大学教授

仲 地 博

-はとても思えない。国が、県知事を法 的にも政治的にも対等な交渉相手とし ている(あるいはせざるをえない)状 況なのであるが、このようなことはこ れまでの常識からすればありえないこ とだった。戦後の地方自治の歴史の中 で、革新自治体を中心に国の政策に叛 旗を翻した例は、多いとはいえなくと も、決して一、二にとどまるものでも なかった。しかし、総体としては、圧

倒的な国の権力の前で戦わずして屈し てきたのが自治の実態であり、憲法学 が﹁中央集権的﹂と形容してきた国

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自治体問の権力構造だったのである。 沖縄は、その関係に風穴を空ける錐の 役割を果たそうとしている。この穴を 吹き抜ける風は、人権・平和・自治と いう憲法の風であり、錐を回すのは主 権者である国民である。戦後 の 沖縄の 政治・社会の状況の中で、憲法の掲げ た人権・平和・自治等の理念は、住民 自らが価値として追求したも のであ り、ぞれゆえ憲法は沖縄の大衆運動に とって、あるときはその適用を求める 目的物となり、あるときはその要求を 理論的に支える武器となった。その実 態は、今も変わらないことを昨今の沖 縄は示している。まさに、県ぐるみで 憲法政治の実践過程にあるといえる。 さて、総理大臣が、一県の知事とし ばしばさしで会談しなければならない のはなぜか。国は、安保条約で、米国 に対して基地提供の義務を負ってい る。その基地の七五%は、沖縄に集中 している。いわば、沖縄の存在によっ て、国は米国への責任を果たしている のである。その基地用地の一部の使用 権原を国は今年(一九九六年 ) 四 月 一 日以降喪失したのである。ただの一 筆 、 量 的にいえば九牛の一毛の比喰に 等しい 、 が 、 質 的 に は 日 本 、 が 法 治 国 家 で あるかどうかの実質を問う秤になった のである。つまり、使用権原がなくな れば、土地を所有者に返還しなければ ならない。法に根拠なくして国民の財 産権を侵害することは憲法上許されな いからである 。しか し、返還をすれ ば、基地提供という米国への約束を履 行することができない 。 米国への政治 責任を重いものとし、基地として提供 し つ , つ けることにすると、法治国家と しての体をなさなくなる 。結果とし て、国は国民の権利より安保を選択し たことを示したのが今日の沖縄の状況 なのである 。 も とより国もこのような 状態を正常と判断しているわけはな い 。 第 一 に安保を支える圏内の法的基 盤が揺らいでいるのであるから、米国 に対しても体裁が悪いであろう。この 二律背反からの脱出の手掛かりを求め ての総理

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知事会談なのである。 8/1996 [No.500] ( 25)

@沖縄がプロテスト

をした理由

沖縄は国を窮地に追い込んだ。これ だけのことができたのは、契約を拒否 した地主やそれを支持した住民の力だ け で は な い 。 土地の強制使用手続に加 担しないという知事の政策があったの である。これほどの問題で、自治体が 法学セミナー

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固と事を構えるのは、これまではほと んど考えられないことであ っ た 。 国 に よる事後の報復、もろもろの札機への 心配は、自治体からすれば、見たこと のないモ ン スターを見たことがないが ゆえに恐れるようなものであ っ た。沖 縄県(知事)にと っ ては、清水の舞台 から飛び降りるほどの決断が必要であ っ たのである 。 その決断をさせたもの は何か。比屋根照夫教授の表現によれ ば、﹁飯島積した公債﹂であり、安保条 約の﹁一切の矛盾を沖縄に封印し、安 楽と安逸をむさぼる日本﹂に対する根 か ら の告発であ っ た の である 。 一 九五二年サ ン フ ラ ン シ スコ条約 の 発効により日本は独立を回復す る が 、 同条約により、沖縄はアメリカ の 直接 統治の下に置かれつづけることにな る。独立と沖縄占領継続はワンセット であった。言葉を換えれば、日本の独 立は沖縄を切り離すことを条件 に し た の で あ る 。 一 九七二年、ようや く に し て米国から返還され、沖縄県が復活し たが、基地の島という点では復帰以前 と同様 で あった。沖縄の復帰以後、沖 縄県以外の米軍基地 の 総面積の五八% が縮小されている。その間沖縄では一 五%しか縮小されていない。沖縄が基 地を引き受けることによ っ て本土の基 地縮小が可能になったと、沖縄では読 み 解 い て い る 。 在沖米軍基地は、沖縄本島の面積の 二O%を占め、中部地区では、フェン スを隔てて住民の生活の場が広が っ て い る 。 嘉手納町にいたっては町面積の 八三%が基地であり、基地の片隅に町 があるようなものである。文字どおり 基地と住民が混在して存在する状況で あり、基地を必要なも の として是認す る者にと っ ても、正常とは言いがた い、いわば欠陥基地なのである 。 復 帰 後に限定しても、米軍人軍属による刑 事事件が四八OO件 ( 殺人事件一 二 件 ﹀ 、飛行機事故 一 一 二 件という数字 を見れば、基地 の 弊害 の 一 端 を 理 解 す ることができよう 。 昨年 ( 一 九九五年 ) 九月、米兵によ る 暴行事件は、結果として沖縄戦後史 の エ ポ ッ ク と な っ た 。 よ く ある事件と して統計の数字をひと つ 増やしただけ で忘れ去られる、ということにな ら な か っ た の は、被害者が小学生であ っ た こと、加害者が三人組であったこと、 当 初か ら 女性への暴行を目的として、 レ ン タ カーを借りガムテ

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プを準備し 計画的であ っ たこと、住宅街から投致 したこと等の悪質性にあった。少女 の 恐怖と心の疲を我がも の とした沖縄の 否、全国の世論は、事件を﹁基地ある がゆえ﹂と捉えた の である。しばし ば、地下のマグマが噴出したと形容さ れたが、女性グループが先頭を切 っ た 抗議行動は波状に つ づき、ついに一O 月 二 一 目、党派を超えた八万五

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人の県民大会の開催にいたるのであ る。大会あいさつで、大田知事は、 ﹁(日米政府に対し)我々は、これまで どおりにはいかないとはっきり言 っ て きました﹂と断言した 。 知事の﹁代理 署名﹂拒否は、沖縄の歴史と現状か ら の プ ロ テ ス トであ っ た の で あ る 。

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被告の席にいるのか

﹁ 裁判所が、憲法、地方自治法の趣 旨を踏まえ、司法 の 独立の原則の上に 立ち、歴史 の 審判に耐えうる判決をお 願 い し ま す ﹂ 。 職務執行命令訴訟の第 一回口頭弁論での大間知事の陳述であ る 。 総理大臣が原告とな っ て知事を訴 えたのであ る が、総理大臣の代理人 が 、 ﹁ 被告の方としては﹂と口をすべ ら し、傍聴席から﹁そ う です、あなた たちが被告です﹂と の 野次がとんだこ とに象徴されるように、内容的には被 告である県知事が国の政策を告発する ものとなった 。 職務執行命令訴訟とは何か。なぜ、 知事が被告の座にいるのかを理解する ためには、沖縄の基地用地の使用権原 か ら 説明を始める必要がある 。 沖縄の 米軍基地は、他府県所在の基地と異な り、その三分の一が民有地、三分の一 が公有地 ( 県と市町村の所有地 ﹀ で あ り 、 固 有 地 は 残 り 三 分 の 一 に す ぎ な い 。 国は、民公有地を基地として米国に提 供するにあたり、それを使用する法的 根拠(主として賃借権)を取得しなけ ればな ら な い 。 沖縄には、戦前戦後の 体験から、自分の土地を基地として提 供することを拒否し、固と賃貸借契約 をしていない地主(沖縄では、たとえ 数坪の土地所有者でも﹁地主﹂と呼ん で い る ﹀ がおよそ百人いる ( 運動とし て土地を購入したいわゆる 一 坪反戦地 主 を含まない ) 。 こ れ ら の地主の土地 を、国は﹁米軍 土 地特措法﹂(昭和二 七年法律一四O号 ) と土地収用法によ り強制的に使用しているのである。 その法的手続 の 中に、知事による ① 立会・署名押印 ( 一 般 に は ﹁ 代理署 名﹂とい う 用語が使用されている﹀、 ② 公告・縦覧があるが、知事は、 ① 立 会・署名押印を拒否したのである。こ れらの事務(仕事 ) は、機関委任事務 と呼ばれている。機関委任事務とは何 か。自治体の長を、法律で国の機関 ( 手足)と位置づけたうえで、国の事 務を行わせる法のシステムのことであ る。そして、自治体の長が、国の指揮 法学セミナー ( 26 ) 8/1996[No.500)

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特集・市民のための憲法学がはじまる! どおりに機関委任事務を管理執行しな い場合に、大臣が原告となって知事に 職務の執行を命ずることを求める裁判 が、職務執行命令訴訟なのである(地 方自治法一五 一 条 の 二 ) 。 沖縄県知事に対して昨年 ( 一 九 九 五 年)一二月七日提訴された職務執行命 令訴訟は、①の立会・署名押印を求め る訴訟であり、今年三月一一日第四回 口頭弁論で結審し、三月二五日判決が 言い渡された。知事の敗訴である(知 事は最高裁に上告、第三小法廷から大 法廷に回付され、七月一

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日口頭弁論 が再開される予定)。判決の効果によ り立会・署名押印は総理大臣が代行し たが、強制使用手続を完了することが できず、前述した土地の不法占拠が始 まったのである。さらに、②の公告・ 縦覧も知事は拒否し、第二の職務執行 命令訴訟が、提起されることになった。

。沖絹が提起する課題

知事の機関委任事務の拒否は、国民 に対して二つの問題を提起した。ひと つは冷戦後の日本の平和保障のあり方 であり、他のひとつは、分権である。 前者は本特集に関係の別稿があり、こ こでは後者について述べる。 従来の固と自治体の関係において、 最大の問題点のひとつが機関委任事務 である。地方分権推進法によって設置 された地方分権推進委員会は、今年三 月、分権の基本的方向を示した中間報 告を発表している。中間報告は、機関 委任事務が固と自治体を主従の関係に おくものであるとその弊害を鋭く指摘 した。すなわち、機関委任事務におい ては、主務大臣が包括的かつ権力的な 指揮監督権を持つことにより、国と地 方公共団体とを上下・主従の関係にお いている。知事、市町村長に、地方公 共団体の代表者としての役割と国の地 方行政機関としての役割との二重の役 割を負わせていることから、地方公共 団体の代表者としての役割に徹しきれ な い 、 と 。 法的に対等であるべき固と地方公共 団体であるが、政治的のみならず法律 論的にも主従の関係においているのが 機関委任事務である。当然に合憲性が 問題になる。そもそも自治体の機関を 国の機関として位置づけるととは、憲 法九二条の地方自治の本旨の中身であ る団体自治に反する可能性が高いとい わざるをえない。機関委任事務は、府 県の事務の八割、市町村の事務の四割 を占めるといわれる。このような多量 の機関委任事務の存在は、少なくとも 違憲の状態ということができよう。 機関委任事務に対しては強い批判が あり、これまでも地方制度調査会や臨 時行政調査会等の政府機関においても その整理縮小が主張されてきた。地方 分権推進委員会は、その全廃を打ち出 し た 。 しかし、機関委任事務という概 念は国民にとってほとんどなじみがな い。ちなみに広辞苑にも載っていな い。いきおいその廃止を求める国民世 論も盛り上がらない。これに対して、 大田知事の機関委任事務の拒否は、自 治体と住民が望まない事務を長に強要 する機関委任事務の問題点を国民レベ ルで明確にする役割を果たした。多く の自治体首長が、大田知事支援のエー ルを送 っ ていることに見 ら れるよう に、機関委任事務の整理合理化論に 一 石を投じたのである。本稿の冒頭で、 沖縄を錐に例えた。沖縄は分権の風穴 をあけたが、その穴をどれだけ大きく することができるかは、国民の世論し だ い な の で あ る 。

@今後の展開

国が不法占拠をしている土地は、現 段階では一件であるが、来年五月一五 日には、およそ二五

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件 ( 一 坪 反 戦 地 主を含め三千人の地主﹀の使用期限が 切れる。これらの土地についても強制 使用の手続は進行中であるが、公告・ 縦覧を求める第二の職務執行命令訴 訟、さらに収用委員会での審理がある こ と か ら し て、期限切れにはとても間 に合わないであろう。不法占拠状態は さらに広がることになろう 。 国は、こ の状態を避けるため、特別法の準備に 入っていると報道されている。特別法 は、限時法にするという。全国的批判 を避けるため適用を沖縄に限定し、さ ら に沖縄の世論を緩らげるため限時法 にするわけである 。 ﹁ 米 軍 土 地 特 措 法 ﹂ は、もともと憲法に反する疑いの強い 法律である。今回準備されている法律 は、特別法の特別法となるが、違憲の 疑いはますます強いといわざるをえな 首しV 沖縄が、自治と平和について国民に 提起する課題は、特殊沖縄の問題では なく、憲法の普遍的な実現なのである 。 8/1996[No.500J ( 27) (参考文献)仲地寸憲法・沖縄・日本人 L ( 軍 縮問題資料 一 八三号﹀、仲地﹁沖縄が地位協定 見直しを求める理由 L ( 週 刊 金 曜 日 一 O 一 一 号 ) 仲地﹁軍用地強制使用臓務執行命令訴訟に つ いて L ( 法律時報六八巻四号)、仲地 ﹁ 地方分 権 と 沖 縄 基 地 問 題 ﹂ ( 憲 法理論研究会編 ﹃ 憲法 理論叢書 ﹄ 第四号、啓文堂一 O 月 一 日刊行予 定 ) 。 法学セミナー ( な か ち ・ ひ ろ し )

参照

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