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ブラックホール天体 Cyg X-1 の
MAXI 観測データの解析
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2 目次 要旨 1 はじめに 1.1 Cyg X-1 とは 1.2 ブラックホール天体とは 1.3 連星とは 1.4 降着円盤とは 2 Cyg X-1 におけるハイ状態とロー状態 2.1 ハイ状態(ソフト状態)とロー状態(ハード状態) 3 MAXI による CygX-1 の観測データとその解析 3.1 全天 X 線監視装置 MAXI とは 3.2 MAXI による Cyg X-1 の観測データ 3.3 ゴミデータの除去 3.4 全データの図示 3.5 ハイ状態とロー状態の期間の識別 3.6 ハイ状態とロー状態の特徴の図示 4 考察 5 まとめ 6 参考文献
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要旨
国際宇宙ステーションに搭載された全天X 線監視装置 MAXI による、ブラッ
クホール天体Cyg X-1 の観測データを解析し、その主な特徴の 1 つであるハイ
状態とロー状態についての特徴を調べた。
MAXI RIKEN(http://maxi.riken.jp/top/)からダウンロードした Cyg X-1
の day データをエクセルで処理し、ゴミデータを除去して解析をした。ハイ状 態とロー状態の識別をする図を作成し、その図の上に境界線を引くことで、ハ イ状態とロー状態の識別を行った。 最後に、ハイ状態とロー状態のそれぞれについて、2-4keV の X 線強度(L)と 4-10keV の X 線強度(M)とそれらの比(M/L)についておよそ 200 日間の変化を図 示し、2 つの状態にどのような違いがあるのかを見た。 それらより、これまでの観測と矛盾のない結果が得られていることが確認で きた。
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1 はじめに
1.1 Cyg X-1 とは
・太陽系から約6,000 光年の距離にある、強力な X 線源である。 ・(周期) 5.6 日の近接連星である。 ・X 線で明るいブラックホール天体である。 ・ハイ状態とロー状態の2 つ状態になることが知られている。 図1:Cyg X-1 の方向の可視光像1.2 ブラックホール天体とは
ブラックホール天体とは、星が極めて小さく高密度に収縮し、自分自身の強 い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができなくなった天体。 光が出てこないので直接見ることはできない。しかし、ブラックホールに物 質が落ち込むことがあると、渦を巻いて落ち込んでいき、その途中重力エネル ギーが解放されて高温となり光るのが見える。ブラックホールのすぐそばにも う一つの星があり、お互いの近くを互いに回りあっている時、相手の星から放 出されたガスがブラックホールに落ち込むことが起こり、強い X 線やガンマ線 を出し、これが観測されることがある。5
1.3 連星とは
2 つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動している時、それらを連星と言う。 望遠鏡による観測によって分離できる実視連星と、分離はできなくともスペ クトルの特徴が周期的に変化することで 2 星以上からなることがわかる分光連 星に分類される。 連星のうち、互いの星が接触するくらい近くを回っているようなものを近接 連星と言う。そのような特殊な状況にある連星系では、片方の星のガスが一方 の星の表面に降り積もるという現象が起きる。白色矮星を含む近接連星では、 白色矮星に降り積もって高温になったガスが核爆発を起こす新星爆発などの特 殊な天体現象を引き起こすこともある。1.4 降着円盤とは
ブラックホールや中性子星と言った高密度星が普通の星と近接連星をなし、 隣の星の表面大気が高密度星の重力圏に流れ込むことが起こる。高密度天体の 周辺に流れ込んだガスは、高密度星胃の重力に引かれて落ち込んでいく(降着)。 一般に降着するガスは角運動量を持っているので、高密度天体の周りを回転し、 遠心力と重力がつり合いながらゆっくりと落ちていく。このような回転ガスが つくる円盤を降着円盤という。 図2:近接連星において相手の星から高密度星へ流れ込む降着流の想像図6
2 Cyg X-1 におけるハイ状態とロー状態
2.1 ハイ状態(ソフト状態)とロー状態(ハイ状態)
Cyg X-1 は、数か月程度の時間スケールで、X 線強度が強いハイ状態と呼ば れる状態と、X 線強度の弱いロー状態と呼ばれる状態の間を行ったり来たり することが知られている。それら 2 つの状態の特徴は次のようにまとめられ る。 ハイ状態 ・(X 線強度) 強い ・(スペクトルの硬さ) 軟らかい(エネルギーの低いX 線が相対的に多い) ロー状態 ・(X 線強度) 弱い ・(スペクトルの硬さ) 硬い(エネルギーの高い X 線が相対的に多い)ハイ状態
ロー状態
X 線の強度
強い
弱い
スペクトルの硬さ
軟らかい
硬い
7 なお、図3 には過去の観測によるハイ状態とロー状態の時の X 線スペクトル が、それぞれ赤色と青色で示してある。横軸は X 線のエネルギー、縦軸はそれ ぞれのX 線エネルギーの幅ごとの X 線強度が示されている。 ・ハイ状態では、エネルギーの低いX 線量が相対的に多い。 ・ロー状態では、エネルギーの高いX 線量が相対的に多い。 ことが見て取れる。 図3:ハイ状態とロー状態の X 線スペクトル これら2 つの状態は、ブラックホールに落ち込む物質がつくる降着円盤の次の 2 つの状態に対応すると考えられている。 ハイ状態 ・降着円盤が標準降着円盤と呼ばれる状態になる。 (特徴) ・幾何学的に薄い円盤となる。 ・円盤中のガスは、中心天体の周りをゆっくりと 中心天体に向かって落ちていく。 ・重力エネルギーは、効率よく放射エネルギーに転化される。 ・黒体放射をする。 ロー状態 ・降着円盤が移流優勢降着円盤と呼ばれる状態になる。 (特徴) ・幾何学的に厚い円盤となる。 ・速い落下運動になる。 ・重力エネルギーが放射エネルギーに変換される効率が低い。 ・高温降着になる。 ・べき型と呼ばれる放射をする。
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3 MAXI による CygX-1 の観測データとその解析
3.1 全天 X 線監視装置 MAXI
今回の解析で用いたデータは、全天X 線監視装置(Monitor of All-sky X-ray Image= MAXI)によって得られたものである。 MAXI は 2009 年に国際宇宙ステーション「きぼう」実験棟船外実験プラット フォームに取り付けられ X 線観測装置である。宇宙ステーションが地球を周回 するのを利用して、全天を観測することができる。 MAXI は約 90 分で地球を一周する国際宇宙ステーションに取り付けられてい るため、ある天体を約90 分に一回の頻度で観測することができる。これによっ て、未知のX 線変光天体を発見したり、ガンマ線バーストや X 線新星の出現直 後の観測を行ったりすることができる。 宇宙航空研究開発機構、理化学研究所、大阪大学、東京工業大学、青山学院 大学、日本大学および京都大学等の協力により開発された。 MAXI は 2012 年に引退した米国の RXTE-ASM の観測を引きついで、全天の X 線天体の監視をし、新天体の発見と変動する X 線天体の継続的な監視を行っ ている。 図4:全天 X 線監視装置 MAXI の画像
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3.2 MAXI による Cyg X-1 の観測データ
MAXI の観測データは、2-4keV、4-10keV、10-20keV のエネルギー領域ごと のX 線強度と、それらを足し合わせた 2-20keV のエネルギー領域の X 線強度を、 1 軌道ごと(約 90 分)と、1 日ごとに平均し、それぞれ orbit データと day デ ータとして、打ち上げ(2009 年 7 月)から最近までのおよそ 2200 日にわたる データとして公開されている。こ こ で は 、 そ の 中 の 、Cyg X-1 の day デ ー タ を MAXI RIKEN (http://maxi.riken.jp/top/)からダウンロードしてきて、以下のような解析を 行った。 ・ゴミデータの除去 ・全データの図示 ・ハイ状態とロー状態の期間の識別 ・ハイ状態とロー状態の特徴の図示
3.3 ゴミデータの除去
観測データは、必ず誤差を伴い、中には、データ点として扱うには不適切な もの(ここでは、ゴミデータと称する)も混入する。ダウンロードしてきたデ ータの処理のはじめに、そのようなゴミデータの除去を行った。 まず、エクセルを用い、全エネルギー領域(2-20keV)の X 線強度(以下、その 量を A で表す)と、その観測誤差(以下、その量を Ae で表す)の相関図を作 成した。それが図5(次ページ)である。 なお、これらX 線強度や誤差の単位は、(X 線カウント数/㎠/秒)である。以下、 数値を述べるときは、単位を省略する。10 図5:ダウンロードしてきたデータから作った、2-20keV の X 強度(横軸:A)と その観測誤差(縦軸:Ae)の相関図 図5 を見ると、ほとんどのデータ点は A の数値が 0.5~4.5、Ae の数値が 0~0.1 程度の範囲に集中しているが、それらの集団から大きく離れている点も散見さ れる。これら基本的なデータ点集団から外れている点として、第一にA~0 付近 のA が小さすぎる点をまず除去した。 次に、A と Ae は基本的には Ae∝A1/2の関係を持つと考えられるので、その 基本的な比例関係を読み取り、それから大きく外れている点を除去した。それ らゴミデータを除去したのちのA-Ae 関係を図示したものが図 6 である。基本的 な関係から大きく外れたデータ点がなくなったことが分かる。 図6:ゴミデータを除去後の A(=2-20keV 強度)と Ae(=A の誤差)の相関図
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3.4 全データの図
MAXI が観測した Cyg X-1 のデータからゴミデータを除去したのち、 2-20keV、2-4keV、4-10keV、10-20keV のエネルギー領域ごとの X 線強度を、 観測日の時間軸に並べて図示した。それが図7(次ページ)である。縦軸は、そ れぞれのエネルギー領域ごとの、1 日ごとに平均した X 線強度、横軸は、その X 線強度が得られた観測日が修正ユリウス日で示してある。12
図7:MAXI により観測された Cyg X-1 の、2-20keV(1 番上)、2-4keV(2 番目)、 4-10keV(3 番目)、10-20keV(4 番目)のエネルギー領域の 1 日ごとに平均した X
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3.5 ハイ状態とロー状態の期間の識別
次に、図7 に示した X 線強度の時間変化の図のなかで、いつがハイ状態でい つがロー状態だったのかの識別を行った。 ハイ状態とロー状態の識別は、先行研究(杉本ら、2015)により、次の方法 により行った。 まず、各データごとの L:=2-4keV のエネルギー領域の X 線強度 M:=4-10keV のエネルギー領域の X 線強度 より、 M+L=X 線の強度(横) M/L=スペクトルの硬さ(縦) を計算し、ハイ状態、ロー状態の識別の指標とする。図7 にある全データ点に ついて、(M+L)と M/L の関係を図示したものが図 8 である。14 ここで、先行研究に従って、M/L=0.45 に境界線(赤線)を引いてみると、 M/L が 0.45 より大きい領域(図 8 の上側)では、X 線強度が相対的に低く、エ ネルギーの高いX 線が相対的に多い(M の方が L よりも相対的に多い)状態に あり、M/L が 0.45 より小さい領域(図 8 の下側)では、その逆になっているこ とが分かる。これにより、 M/L が 0.45 より上の範囲をロー状態 M/L が 0.45 より下の範囲をハイ状態 とすれば、$2 で示した 2 つの状態の違いを再現できていることが分かる。 次に、この識別法を用いて、図7 における全観測期間のうちどこがハイ状態 でどこがロー状態だったのか識別を行った。識別は、各1 日ごとの平均強度の M と L の X 線強度より、M/L を計算し、識別子として、 (M/L-0.45)/ABS(M/L-0.45) を計算した(ABS はカッコ内の絶対値をとる演算子)。 この識別子が+1 であればロー状態、-1 であればハイ状態になる。図 7 の全デ ータに対してその識別子の計算をした結果を図9(次ページ)に示す。数 10 日 から数100 日間の時間間隔で、ロー状態とハイ状態を行ったり来たりしている ことが見て取れる。
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図9:Cyg X-1 の 1 日ごとの強度と動きとハイ状態とロー状態の期間。
上の図は2-20keV の X 線強度の日の変化。下の図は、ハイ状態とロー状態の識
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3.6 ハイ状態とロー状態の特徴の比較
最後に、図9 で識別したハイ状態の期間とロー状態の期間から、それぞれお よそ200 日間のデータを抜出し、時間軸を拡大して見ることで、2 つの状態の 特徴の違いを見た。ハイ状態におけるおよそ200 日間の、4-10keV 領域の X 線 強度(M)、2-4keV 領域の X 線強度(L)、それぞれの比(M/L)の時間変化の代表例 を図10 に、ロー状態におけるそれらを図 11 に示した。 図10 と図 11 を見比べると、まず、次の 2 つのことが言える。 ・全体に、ハイ状態の方がロー状態に比べてX 線強度が大きい。それは、特 にL で顕著である。 ・M/L の数値は、ロー状態の時の方がハイ状態の時に比べ 3 倍ほど大きい。 これらは、$2 で見た従来の観測から知られていたハイ状態とロー状態の特徴 の違いに合致する。 これに加えて、次のような特徴も見て取れる。 ・1 日ごとの X 線強度のばらつきが、M においても L においても、ハイ状態 時の方が大きいように見える。 ・ロー状態においては、M/L の数値も大きくは変動しておらず、M と L が同 期して変動していると考えられる。 ・一方、ハイ状態ではM/L の数値も大きくばらついており、M や L の変動と 似た大きさの変動をしているように見える。このことより、M と L の変動 にはそれぞれ独立に動いている割合が大きいことが示唆される。17
図10:Cyg X-1 のハイ状態の、およそ 200 日間、4-10keV 領域の X 線強度(M:
上の図)、2-4keV 領域の X 線強度(L:真ん中の図)、両者の比(M/L:下の図)の
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図11:Cyg X-1 のロー状態の、およそ 200 日間、4-10keV 領域の X 線強度(M:
上の図)、2-4keV 領域の X 線強度(L:真ん中の図)、両者の比(M/L:下の図)の
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4 考察
MAXI による Cyg X-1 の観測データを用いて、2-10keV 領域の X 線強度(M+L)
と、4-10keV 領域の X 線強度の 2-4keV 領域の X 線強度に対する比(M/L)の相関 図を作り、ハイ状態とロー状態の識別を行った。従来から知られていた両状態 の特徴と照らし合わせた結果、ハイ状態とロー状態の識別の確認をすることが できた。 Cyg X-1 の長期にわたる 1 日ごとの強度変動のデータから、ハイ状態と、ロ ー状態の時期を識別した。数10 日から数 100 日の時間間隔点でハイ状態と、ロ ー状態の間を行ったり来たりしていることが分かった。 Cyg X-1 のハイ状態とロー状態での M、L、M/L の時間変化を比較し、ロー状 態のときには、M/L の変動が小さく M と L が連動して変化しているとみられる のに対し、ハイ状態の時はM/L にも大きな変動が見られ、M と L が別々に変動 する傾向が強いことが見て取れた。 以上、MAXI データを適切に処理して、ハイ・ロー状態の識別を正しく行い、 ハイ状態とロー状態にいた時期の選別をすることができた。そして、それぞれ の時期の X 線強度変化の様子を比べることにより、2 つの状態の特徴の違いを 正しく捉えることができたと考える。
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5 まとめ
今回の卒業研究を進めるにあたって、ブラックホール天体の特徴を学んだ。 そこから降着円盤や連星などブラックホール天体をしるうえで、理解しておく べき点を理解することができた。 Cyg X-1 は、現在ブラックホールの最有力候補と考えられている天体であるこ とも分かった。 Cyg X-1 というブラックホール天体は、ハイ状態とロー状態という 2 つの状態 があり、それらがどのような状態であるのか、それぞれの特徴は何かなども調 べ理解した。今回の研究ではMAXI のデータを使用したが、MAXI はどのよう なものなのかということも調べ、MAXI(全天 X 線監視装置)が打ち上げられ てから、最近までのおよそ2200 日にわたるデータを公開していることも今回の 研究で初めて知った。エクセルでの処理がうまくいかず、また結果が理解しに くいこともあったが、MAXI による Cyg X-1 の観測データを処理して、ハイ状 態とロー状態の識別を行い、X 線の強度やスペクトルの硬さなどの特徴を解析 し理解することができた。21
6 参考文献
・MAXI RIKEN http://maxi.riken.jp/top/
・シリーズ 現代の天文学「ブラックホールと高エネルギー現象」 小山 勝二・嶺重 慎 ・杉本ら プリント、2015 ・図1 http://stars.astro.illinois.edu/sow/cygx1-t.html ・図2 http://apod.nasa.gov/apod/ap080811.html ・図3 井上 一先生の臨時講義の資料(パワーポイント)より ・図4 http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/maxi.html