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大学の「学校化」問題と『平和論』

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Academic year: 2021

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(1)共同研究プロジェクト・シンポジウム・研究会報告. 大学の「学校化」問題と『平和論』 平田 雅己. 所 属 し た が、 部 員 同 士 で い が み 合. う こ と が 多 く、 気 の 合 う 仲 間 を な. か な か 見 つ け ら れ な い。 私 が 高 校. に 入 学 し た 時、 マ ー ク シ ー ト の 大. 学共通一次試験導入から数年が経. 過 し て い た。 以 前 は 存 在 し な か っ. た 言 葉 な の か は よ く わ か ら な い。. あるいは自分の心境を素直に綴っ. 況 を 客 観 的 に 見 つ め た 言 葉 な の か、. な い。 自 分 が 置 か れ て い る 社 会 状. 切実な定義はこれまで見たことが. ン 目 と な る 本 科 目 だ が、 こ れ ほ ど. 和 の 定 義 で あ る。 今 年 で 八 シ ー ズ. 今 年 の 後 期 教 養 科 目『 平 和 論 』 の 初 回 で、 あ る 一 年 生 が 記 し た 平. が あ る。 本 人 は 懸 命 に 声 を 出 し て. の学生がにわかに増えてきた実感. こ こ 数 年、 す ぐ そ ば で 話 を し て いても聞き取れないほどか細い声. ま う の は 気 の せ い だ ろ う か。. 本学に辿り着いた若者に見えてし. とか生き抜いてヘトヘトになって. 背中合わせの過酷な学校環境を何. と は な か っ た が、 絶 え ず 不 登 校 と. 葉を残した新入生は自殺を選ぶこ. う 数 字 を 念 頭 に お く と、 冒 頭 の 言. こ の 「五 九 九」 と 「四 四 万」 と い. な く と も 四 四 万 人 も い る と い う。. 校、 特 に 本 学 学 生 の 多 く と 同 様、. 学 校 生 活 を 送 っ て い た。 し か し 高. 凡 で、 ど ち ら か と い え ば 能 天 気 な. 小学校から中学校まで私は極々平. 学 校 と は 何 か。 こ の 問 い は 私 に と っ て 古 く て 新 し い も の で あ る。. ム ・ ス ク ー ル 育 ち で あ る。. ち に な る。 ち な み に ビ リ ー は ホ ー. し た ら、 誠 に い た た ま れ な い 気 持. で過ごしてきた学校にあるのだと. も っ ぱ ら の 原 因 が、 彼 ら が こ れ ま. じ ら れ な い。 こ う し た 若 者 を 産 む. 人 の 若 者 か ら は、 こ の 溌 剌 さ が 感. 世代で同じように声の小さい日本. 翻って私の目の前にいる彼女と同. て も な お、 私 の 内 面 に 残 っ て い た. さ り 断 っ て し ま っ た。 何 十 年 た っ. が 届 い た が、 私 は そ の 招 待 を あ っ. 卒業後初となる高校の同窓会通知. 会 い が あ っ た か ら だ ろ う。 数 年 前、. ることを教えてくれた音楽との出. 何より私の閉ざされた心の扉を開. し い 校 則 が な か っ た こ と、 そ し て. く こ と が で き た の は、 ひ と え に 厳. 選ぶことなく三年間何とか生き抜. い 場 所 と 思 い 込 ん で い た。 自 殺 を. う が、 学 校 は い か な け れ ば な ら な. 欲 が 減 退 し た。 嫌 だ ろ う が 何 だ ろ. 位 は な か な か 上 が ら ず、 学 び の 意. で 張 り 出 さ れ る よ う に な っ た。 順. た成績順位表が毎試験ごとに校内. い ず れ に せ よ、 現 代 を 生 き る 若 者. い る よ う だ が、 声 の 張 り も な い せ. い わ ゆ る 「進 学 校」 と い う 名 の 学. 名古屋市立大学大学院人間文化研究科 . の生活実感から湧き出た表現とし. い か と に か く 聞 こ え に く い。 海 の. 「明日も生きていたいと思える状況」. て、 私 の 心 に ず し り と 重 く 響 い た. 向こうにも驚くほどの小声で活躍. 学 校 も 含 め た 学 校 現 場 に お い て、. あ る。 さ ら に 上 記 二 つ の 学 校 に 小. の場合の学校とは中学校と高校で. 最 多 が 学 校 問 題 で あ る と い う。 こ. 上 最 悪 の 五 九 九 人 に 達 し、 原 因 の. 者 の 自 殺 者 数 が 二 〇 一 八 年 度、 史. れ て い た。 こ の 国 で 生 き る 未 成 年. 本 年 度 の 開 講 前、 私 は メ デ ィ ア 報道を通じてある二つの数字に触. い っ ぷ り は 実 に 溌 溂 と し て い る。. 例 え ば 彼 女 の 代 表 曲 Bad Guy の P V を 見 て も ら え ば わ か る が、 歌. な い ほ ど の 超 ウ ィ ス パ ー。 た だ し. きの私がこれまで耳にしたことが. ビ リ ー ・ ア イ リ ッ シ ュ だ。 洋 楽 好. 要四部門を史上最年少で制覇した. る。 本 年 度 の グ ラ ミ ー 賞 に て、 主. する十八歳のアーティストがい. な し の つ ぶ て。 無 理 や り 部 活 に も. き な い。 両 親 や 教 師 に 相 談 し て も. くさん友人ができたのになぜかで. れ ま で 何 の 苦 労 も な く、 自 然 に た. は 友 人 が で き な い こ と だ っ た。 そ. は あ る が、 当 時 抱 え た 最 大 の 悩 み. た。 今 か ら 振 り 返 る と ち っ ぽ け で. 人生初の闇を経験することになっ. 校 を 選 ん で し ま っ た こ と で、 私 は. がうっすらと気づいていた学校の. 京 創 元 社 刊) だ っ た。 そ こ に は 私. 最 も 腑 に お ち た の は イ ヴ ァ ン・ イ リ ッ チ の 『 脱 学 校 の 社 会 』( 東. よ う に な っ た。. な り、 学 校 関 係 の 書 籍 を 手 に 取 る. かを素朴に知りたいと思うように. く と 同 時 に、 そ の 源 は 一 体 何 な の. 母校に対する嫌悪感に私自身が驚. き、 無 限 の 世 界 が 自 分 の 内 側 に あ. こ と は 確 か だ。 . 不登校を選ぶ若者が日本全国で少. 73.

(2) の で あ り、 焦 点 は あ っ て い る が 活. 自治的で上からの統制をはばむも. 人々に出会いの場―その出会いは. 同 社 会 で あ っ た。 現 代 の 大 学 は. くだりである。かつての大学は「共. 大学人としての自分の立場に照 ら し て、 目 か ら 鱗 だ っ た の は 次 の. 取 り 除 か れ た よ う な 気 が し た。. の奥底で溜まっていた滓がすべて. こ の 一 文 を 目 に し た 瞬 間、 私 の 心. まれる」(一六八頁)。 イリッチの. を選ぶべきだという観念を教え込. にされた同年齢者の中から友だち. い う 環 境 の 中 で 「子 供 た ち は 一 緒. び 機 会 の 可 能 性 を 示 し た。 学 校 と. 「脱学校」の視点からあるべき学. と し て の 学 校 の 実 相 を 明 ら か に し、. 服従する人間を育てる近代の産物. 押しつけや教師が体現する権威に. イリッチは制度化された価値観の. 顕在化しているということであろ. さ し ず め 大 学 の 「学 校 化」 問 題 が. の 概 念 を 援 用 し て 表 現 す る な ら ば、. ら に 悪 化 の 一 途 に あ る。 イ リ ッ チ. 残念ながら日本の大学の実情はさ. 題 提 起 か ら 今 年 で ち ょ う ど 五 十 年。. 学 校 舎 を 占 拠 し た。 イ リ ッ チ の 問. 者 た ち は 「大 学 解 体」 を 叫 ん で 大. 潜在的に共有した当時の日本の若. という点でイリッチと問題意識を. 前述のイリッチの原著が刊行さ れ た の は 一 九 七 〇 年。 大 学 の 劣 化. な る。. し て 存 在 し て い た、 と い う こ と に. 大学全体がそういう性格の組織と. 解 に 即 し て い う な ら ば、 も と も と. 私が出会った先述のイリッチの見. い う ビ ジ ョ ン を 示 し た。 そ の 後 に. り 「授 業 の コ ミ ュ ニ テ ィ ー 化」 と. 係 性 を 疑 似 体 験 す る 空 間 」、 つ ま. 学 び な が ら、 柔 ら か く つ な が る 関. 等の立場で平和について語り合い. も つ ら く な り ま す。 一 部 の 人 が. 分の心の中を正直にかくととて. ん ど だ と 思 い ま す。 こ う し て 自. いと考える人が私を含めてほと. 「現状を変えることを面倒くさ. ど 満 た し て い な い。. としての現状はこの要件をほとん. れ て い る。 残 念 な が ら 本 学 の 組 織. を 確 保 す る」 と い う 小 目 標 が 含 ま. 的、 参 加 型 及 び 代 表 的 な 意 思 決 定. る レ ベ ル に お い て、 対 応 的、 包 摂. 公共機関を発展させる」、「あらゆ. 効で説明責任のある透明性の高い. は 「あ ら ゆ る レ ベ ル に お い て、 有. 人 に) を 重 視 し て い る。 そ の 中 に. 特 に 十 六 (平 和 と 公 正 を す べ て の. 開 発 目 標 十 七 の タ ー ゲ ッ ト の う ち、. 本学が支持する国連の持続可能な. す る も の で も あ る。『 平 和 論 』 は. の 問 題 は 『平 和 論』 の 理 念 に 直 結. 深 刻 な 構 造 要 因 と な っ て い る。 こ. 教育・研究・社会活動を阻害する. ことも困難になってしまうだろ. な い し、 こ の 社 会 を 持 続 さ せ る. やめてしまったら平和は実現し. れども怖いからといってそれを. れ な い。 そ れ は 確 か に 怖 い。 け. り、 傷 つ け ら れ た り す る か も し. 寄り添おうとしても拒絶された. 様々なリスクを持つことは分か. をやめて他人と関わることが. な が り が 薄 い。 壁 を つ く る こ と. 内 に こ も り が ち で、 他 人 と の つ. 可 能 だ。 だ が 今 を 生 き る 人 々 は. 「平和の実現は一人の力では不. 人 を 魅 了 す る こ と が あ る」. ワーはそれを目の当たりにした. も 感 じ た。 現 実 に 抗 い 続 け る パ. 圧倒され続けたが同時に美しさ. 人 が い て、 そ ん な 人 々 の 講 義 に. とを覚悟で過激な表現で訴える. を行っている人や批判されるこ. こ と で あ る。 何 十 年 も 同 じ 活 動. す人の意志はとても強いという. じたことは自分の考えを貫き通. の 前 で 見 る こ と が で き、 ま ず 感. 「授業で様々な人々の思いを目. 発で計画には縛られていないとい. う。 特 に 文 科 省 に よ る 露 骨 な 新 自. て) 苦しんでいることを分かっ. (米軍基地や原発の存在によっ. 結果的にそのことが教員の自由な. うものであった―を提供するチャ. 由 主 義 的 「大 学 改 革」 指 導 に 盲 従. 住 す る 大 学 生、 大 学 人、 市 民 が 対. ン ス を 放 棄 し、 そ の 代 わ り に い わ. する本学を含む日本の国公立大学. 本 質 が 見 事 に 言 語 化 さ れ て い た。. ゆる研究と教授を生み出す過程を. 力 的 な 言 葉 だ ろ う。 以 前、 本 誌 上. 大 学 は 「共 同 社 会」 で あ り 「出 会 い の 場 」。 な ん と パ ワ フ ル で 魅. な 行 政 負 担 を 強 い る こ と に な り、. く永久改革路線が所属教員に過重. 理体制強化と表層的な数値に基づ. の で あ る。 中 央 集 権 に よ る 縦 の 管. の大学像を真っ向から否定するも. の 現 状 は、 イ リ ッ チ が 描 い た 理 想. も よ か っ た で す」. いう自分に気づけたことがとて. ら で す。 こ の 授 業 を 通 じ て そ う. 化しようとする自分に気づくか. 分 に 気 づ き、 さ ら に そ れ を 正 当. ていながら何もできていない自. れ た 今 年 度 の 『平 和 論』 受 講 生 が. メーカーたちによる魂の語りに触. これらはこの地域で平和活動を 地道に続けてきた九名のピース. う」. る。 自 分 か ら 壁 を 越 え て 相 手 に. 管理することを選んだのである」. で 私 は 『平 和 論』 が 今 後 目 指 す べ. (七 五 ― 七 六 頁). き 方 向 性 と し て、「 こ の 地 域 に 居. 74.

(3) 遺 し た 感 想 文 の 一 部 で あ る。 こ の 授業の大きな目標は受講生を平和 の学びから平和の実践に導くこと で あ る が、 そ の 前 段 階 と し て 彼 ら が こ れ ま で 経 験 し て き た 学 校 体 験、 つまり成績や評価を基調とする恐 怖心による学びのシステムからま ず 彼 ら を 解 放 さ せ、 そ こ か ら 自 尊 意 識 の 向 上 を 促 す こ と、 つ ま り 受 講生一人一人の目線に立ったエン パワーメントの重要性を今年度再 確 認 し た 次 第 で あ る。 今年初登壇したセイブ・イラク チルドレン名古屋代表で弁護士の 小 野 万 里 子 さ ん が、 絶 望 的 な 状 況 に あ っ て も、 希 望 を 持 ち な が ら 自 分ができることをする大切さを受 講 生 に 説 い た。 大 学 の 「 学 校 化 」 傾 向 は、 す で に い ろ い ろ な も の を 過剰に背負わされてきた彼らの背 中にさらに重いものを背負わせる こ と を 意 味 す る。 学 校 に よ っ て 抑 圧されるリアルな感覚を共有する 大学教員と声の小さな大学生たち が、 大 学 環 境 に お け る 平 和 創 造 努 力 で 連 帯 を 形 成 す る。 こ の 二 年 間、 中 間 管 理 職 を 経 験 す る こ と で、 本 学の現状体質に直に触れ精神的に 追 い 詰 め ら れ た 私 の 微 か な「 希 望」 は そ こ に あ る の か も し れ な い。. 75.

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