大学の「学校化」問題と『平和論』
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(2) の で あ り、 焦 点 は あ っ て い る が 活. 自治的で上からの統制をはばむも. 人々に出会いの場―その出会いは. 同 社 会 で あ っ た。 現 代 の 大 学 は. くだりである。かつての大学は「共. 大学人としての自分の立場に照 ら し て、 目 か ら 鱗 だ っ た の は 次 の. 取 り 除 か れ た よ う な 気 が し た。. の奥底で溜まっていた滓がすべて. こ の 一 文 を 目 に し た 瞬 間、 私 の 心. まれる」(一六八頁)。 イリッチの. を選ぶべきだという観念を教え込. にされた同年齢者の中から友だち. い う 環 境 の 中 で 「子 供 た ち は 一 緒. び 機 会 の 可 能 性 を 示 し た。 学 校 と. 「脱学校」の視点からあるべき学. と し て の 学 校 の 実 相 を 明 ら か に し、. 服従する人間を育てる近代の産物. 押しつけや教師が体現する権威に. イリッチは制度化された価値観の. 顕在化しているということであろ. さ し ず め 大 学 の 「学 校 化」 問 題 が. の 概 念 を 援 用 し て 表 現 す る な ら ば、. ら に 悪 化 の 一 途 に あ る。 イ リ ッ チ. 残念ながら日本の大学の実情はさ. 題 提 起 か ら 今 年 で ち ょ う ど 五 十 年。. 学 校 舎 を 占 拠 し た。 イ リ ッ チ の 問. 者 た ち は 「大 学 解 体」 を 叫 ん で 大. 潜在的に共有した当時の日本の若. という点でイリッチと問題意識を. 前述のイリッチの原著が刊行さ れ た の は 一 九 七 〇 年。 大 学 の 劣 化. な る。. し て 存 在 し て い た、 と い う こ と に. 大学全体がそういう性格の組織と. 解 に 即 し て い う な ら ば、 も と も と. 私が出会った先述のイリッチの見. い う ビ ジ ョ ン を 示 し た。 そ の 後 に. り 「授 業 の コ ミ ュ ニ テ ィ ー 化」 と. 係 性 を 疑 似 体 験 す る 空 間 」、 つ ま. 学 び な が ら、 柔 ら か く つ な が る 関. 等の立場で平和について語り合い. も つ ら く な り ま す。 一 部 の 人 が. 分の心の中を正直にかくととて. ん ど だ と 思 い ま す。 こ う し て 自. いと考える人が私を含めてほと. 「現状を変えることを面倒くさ. ど 満 た し て い な い。. としての現状はこの要件をほとん. れ て い る。 残 念 な が ら 本 学 の 組 織. を 確 保 す る」 と い う 小 目 標 が 含 ま. 的、 参 加 型 及 び 代 表 的 な 意 思 決 定. る レ ベ ル に お い て、 対 応 的、 包 摂. 公共機関を発展させる」、「あらゆ. 効で説明責任のある透明性の高い. は 「あ ら ゆ る レ ベ ル に お い て、 有. 人 に) を 重 視 し て い る。 そ の 中 に. 特 に 十 六 (平 和 と 公 正 を す べ て の. 開 発 目 標 十 七 の タ ー ゲ ッ ト の う ち、. 本学が支持する国連の持続可能な. す る も の で も あ る。『 平 和 論 』 は. の 問 題 は 『平 和 論』 の 理 念 に 直 結. 深 刻 な 構 造 要 因 と な っ て い る。 こ. 教育・研究・社会活動を阻害する. ことも困難になってしまうだろ. な い し、 こ の 社 会 を 持 続 さ せ る. やめてしまったら平和は実現し. れども怖いからといってそれを. れ な い。 そ れ は 確 か に 怖 い。 け. り、 傷 つ け ら れ た り す る か も し. 寄り添おうとしても拒絶された. 様々なリスクを持つことは分か. をやめて他人と関わることが. な が り が 薄 い。 壁 を つ く る こ と. 内 に こ も り が ち で、 他 人 と の つ. 可 能 だ。 だ が 今 を 生 き る 人 々 は. 「平和の実現は一人の力では不. 人 を 魅 了 す る こ と が あ る」. ワーはそれを目の当たりにした. も 感 じ た。 現 実 に 抗 い 続 け る パ. 圧倒され続けたが同時に美しさ. 人 が い て、 そ ん な 人 々 の 講 義 に. とを覚悟で過激な表現で訴える. を行っている人や批判されるこ. こ と で あ る。 何 十 年 も 同 じ 活 動. す人の意志はとても強いという. じたことは自分の考えを貫き通. の 前 で 見 る こ と が で き、 ま ず 感. 「授業で様々な人々の思いを目. 発で計画には縛られていないとい. う。 特 に 文 科 省 に よ る 露 骨 な 新 自. て) 苦しんでいることを分かっ. (米軍基地や原発の存在によっ. 結果的にそのことが教員の自由な. うものであった―を提供するチャ. 由 主 義 的 「大 学 改 革」 指 導 に 盲 従. 住 す る 大 学 生、 大 学 人、 市 民 が 対. ン ス を 放 棄 し、 そ の 代 わ り に い わ. する本学を含む日本の国公立大学. 本 質 が 見 事 に 言 語 化 さ れ て い た。. ゆる研究と教授を生み出す過程を. 力 的 な 言 葉 だ ろ う。 以 前、 本 誌 上. 大 学 は 「共 同 社 会」 で あ り 「出 会 い の 場 」。 な ん と パ ワ フ ル で 魅. な 行 政 負 担 を 強 い る こ と に な り、. く永久改革路線が所属教員に過重. 理体制強化と表層的な数値に基づ. の で あ る。 中 央 集 権 に よ る 縦 の 管. の大学像を真っ向から否定するも. の 現 状 は、 イ リ ッ チ が 描 い た 理 想. も よ か っ た で す」. いう自分に気づけたことがとて. ら で す。 こ の 授 業 を 通 じ て そ う. 化しようとする自分に気づくか. 分 に 気 づ き、 さ ら に そ れ を 正 当. ていながら何もできていない自. れ た 今 年 度 の 『平 和 論』 受 講 生 が. メーカーたちによる魂の語りに触. これらはこの地域で平和活動を 地道に続けてきた九名のピース. う」. る。 自 分 か ら 壁 を 越 え て 相 手 に. 管理することを選んだのである」. で 私 は 『平 和 論』 が 今 後 目 指 す べ. (七 五 ― 七 六 頁). き 方 向 性 と し て、「 こ の 地 域 に 居. 74.
(3) 遺 し た 感 想 文 の 一 部 で あ る。 こ の 授業の大きな目標は受講生を平和 の学びから平和の実践に導くこと で あ る が、 そ の 前 段 階 と し て 彼 ら が こ れ ま で 経 験 し て き た 学 校 体 験、 つまり成績や評価を基調とする恐 怖心による学びのシステムからま ず 彼 ら を 解 放 さ せ、 そ こ か ら 自 尊 意 識 の 向 上 を 促 す こ と、 つ ま り 受 講生一人一人の目線に立ったエン パワーメントの重要性を今年度再 確 認 し た 次 第 で あ る。 今年初登壇したセイブ・イラク チルドレン名古屋代表で弁護士の 小 野 万 里 子 さ ん が、 絶 望 的 な 状 況 に あ っ て も、 希 望 を 持 ち な が ら 自 分ができることをする大切さを受 講 生 に 説 い た。 大 学 の 「 学 校 化 」 傾 向 は、 す で に い ろ い ろ な も の を 過剰に背負わされてきた彼らの背 中にさらに重いものを背負わせる こ と を 意 味 す る。 学 校 に よ っ て 抑 圧されるリアルな感覚を共有する 大学教員と声の小さな大学生たち が、 大 学 環 境 に お け る 平 和 創 造 努 力 で 連 帯 を 形 成 す る。 こ の 二 年 間、 中 間 管 理 職 を 経 験 す る こ と で、 本 学の現状体質に直に触れ精神的に 追 い 詰 め ら れ た 私 の 微 か な「 希 望」 は そ こ に あ る の か も し れ な い。. 75.
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