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新株予約権に関する検討 : 包括利益計算に関連づけて

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Academic year: 2021

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(1)新株予約権に関する検討 ──包括利益計算に関連づけて── 松 原 沙 織. ら,新株予約権の会計上の解釈に関しては,重. Ⅰ 問題の所在. 要な課題の 1 つとして残され,今日においても. 周知のごとく新株予約権は,取得者側の視点. なお明確に特徴づけられているとはいい難い2).. に立てば,これを有するものが,株式会社に対. 新株予約権の特徴に関する議論は,従来より. して行使することにより,当該株式会社の株式. 貸借対照表の負債あるいは資本の内のいずれの. の交付を受けることができる権利として(会社. 項目として含められるのかという視点より行. 法 第 2 条第 21 号) ,一方,発行者側 の 視点 に. われてきた3).例えば,制度として包括利益を. 立てば,権利行使に際して新株予約権者に対し. 導入している米国では4),新株予約権を株式と. て新株を発行し又はこれに代えて会社の有する. 同様に持分(equity)として処理し,行使ある. 自己の株式を移転する義務として位置づけられ. いは失効したとしても資本と利益の関係に影響. る.かかる新株予約権の性格については,今日. は生じさせない(SFAS No. 123, par. 30)5).一. 1). まで様々な議論が行われている .しかしなが . 1)例えば,以下の文献が挙げられる. Ohlson,J. A. and S. H. Penman,“Debt vs. Equity: Accounting for Claims Contigent on Firms’ Common Stock Performance with Particular Attention to Employee Compensation Option,” White Paper No.1 Center for Excellence in Accounting and Security Analysis,Columbia Businss School,2005. 池田幸典「負債・持分の定義と「負債・ 持分の区分」のあり方に関する検討」『会計プログ レ ス』第 8 号(2007 年),23─34 頁.池村恵一「ス トック・オプション会計の国際的課題─ストック・ オプションの区分問題を中心に─」『會計』第 170 巻 第 1 号(2006 年 7 月),67─79 頁.斎藤静樹「株 式購入オプションの会計基準とその争点」『會計』 第 170 巻 第 1 号(2006 年 7 月),1─14 頁.田 中 建 二「会計上の資本の内と外」『會計』第 169 巻 第 4 号(2006 年 4 月),1─12 頁.野口晃弘「純資産 の 部 と 新株予約権 の 会計問題」『JICPA ジャーナ ル』 第 606 号(2006 年 1 月),85─90 頁. 例えば,以下の文献では新株予約権について簿 記の視点より考察されている. 原俊雄「ストック・オプションの会計処理をめ ぐる諸問題」 『横浜経営研究』第 24 巻 第 1, 2 号(2003 年 9 月) ,91─98 頁.藤田昌也「ストック・オプショ ン会計の問題点─資本と負債の区分・資本と利益. . の区分─」 『熊本学園商学論集』第 13 巻 第 2 号(2006 年 12 月) ,33─41 頁. 2)新株予約権 に 関 す る 議論 は,ス トック・オ プションの費用性の認識とともに検討されること も多い.ただし,本稿では,新株予約権の貸方項 目としての本質に鑑みその特徴を検討することに 主眼を置く. 3)会計上の資本は,例えば,払込資本,持分, 純資産等さまざまな用語が用いられている.これ らのうちのいずれの用語を用いるかということは, 資本概念の捉まえ方にも関連することから,本来 厳密に区分して論じられるべきである.そこで, 本稿では,これらを総称する用語として 「資本」 と いう用語を用い,必要に応じて使い分けることと する.すなわち,米国の議論の際には米国の用語 (equity:持分)を用い,日本の議論の際には日本 の用語(net assets:純資産)を用いることとする. 4)1997 年 に 米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board:以下,FASB)より,米国 財 務 会 計 基 準 書 第 130 号「Reporting Comprehensive Income:包括利益の報告」が公表された. 5)1995 年 に FASB よ り,米国財務会計基準書 第 123 号「Accounting for Stock-Based Compensation: 株式報酬に関する会計」 (以下,SFAS No. 123)が 公表 さ れ た.SFAS No. 123 に よ れ ば 新株予約権 は,行使あるいは執行されたとしても,additional.

(2) 60. (434). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). 方,日本では 6),新株予約権について資本か利 益いずれか決まるまでは一種の仮勘定とする趣 旨で負債へ含めてきた(金融商品に係る会計基 7) 準 第六・一) .しかしながら,貸借対照表の. 純資産の部の表示の変更に伴い(貸借対照表の 8) 純資産の部の表示会計基準 , 第 22 項) ,現在,. 同趣旨でそれを純資産の部の株主資本とは区別 して表示し(ストック・オプション等会計基準 第 4 項) ,新株予約権が行使された際は払込資 本へ振り替え,失効された際は利益へ戻され る(ス トック・オ プ ション 等会計基準第 8 項 , 第 9 項).よって,新株予約権が行使あるいは 失効されるかにより資本と利益へ異なる影響 を与えることとなる. 米国および日本における取扱いの相違は,失 効部分が資本とされる際に利益を経由するか否 かにある.このことは,新株予約権に関する問 題が,資本と利益の区分という課題を提起して いることを含意する9),10).よって,米国および . paid-in capital(以下,追加的払込資本)と し て 計 上される. 6)2009(平成 21)年 6 月 30 日に企業会計基準 公開草案第 35 号「包括利益の表示に関する会計基 準(案)」が公表され,つづく 2010(平成 22)年 6 月 30 日に企業会計基準第 25 号 「包括利益の表示に 関する会計基準」(以下,包括利益の表示会計基準) が公表された. 7)1999(平成 11)年 1 月 22 日に「金融商品に 係 る 会計基準」(以下,金融商品 に 係 る 会計基準) が公表 さ れ た(企業会計基準第 10 号 「金融商品 に 関する会計基準」 に改訂). 8)2005(平成 17)年 7 月 9 日 に 企業会計基準 第 5 号 「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会 計基準」(以下,貸借対照表の純資産の部の表示会 計基準)が 公表 さ れ,貸借対照表 の 表示区分 が 資 本の部から純資産の部へ変更された.つづく 2005 (平成 17)年 12 月 27 日には,企業会計基準第 8 号 「ストック・オプション等に関する会計基準」(以 下,ス トック・オ プ ション 等会計基準)が 公表 さ れた. 9)斎藤静樹,前掲論文,2 頁参照. 10)企業会計原則では,一般原則として「資本 取引と損益取引とを明瞭に区分し,特に資本剰余 金と利益剰余金とを混同してはならない」と規定 している(第一 , 三).類似の表現として,米国財. 務 会 計 概 念 書 第 5 号 「Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enterprises:営 利 企業の財務諸表における認識および測定 」(以下, SFAC No. 5)で は,営利企業 の 財務諸表 は,貨 幣資本維持の概念に基づいていることを示した上 で,こうした資本維持の概念は,資本によっても たらされるリターンと資本自体の返還とを区別す る場合に必要条件であるとしている(SFAC No. 5, pars. 45─46,訳書,232 頁参照) . 資本と利益の区分に関する先行研究の整理およ び解説に関しては以下の文献を参照されたい. 嶌村剛雄『会計原則コメンタール [増補改訂版] 』 中央経済社,1985 年. 資本と利益の区分は,次のような 2 つの意味を 有する.第 1 の資本と利益の区分は,適正な期間 損益計算を保証するために,ストックとしての資 本とそれが生み出す利益を明確に区分することを 要請するものであり,第 1 の資本と利益の区分が 必要不可欠な原理であるということに異論はない. 飯野利夫『財務会計論[三訂版] 』同文舘,2006 年,10─34─10─35 頁参照. 斎藤静樹『企業会計 と ディス ク ロージャー[第 4 版] 』東京大学出版会,2010 年,161 頁参照. 大日方隆『企業会計 の 資本 と 利益』森山書店, 1994 年,2 頁参照 第 2 の資本と利益の区分は,資本の維持を達成 するために元手を表す払込資本と企業活動の結果 として生じた留保利益を区分することを要請する ものである. より具体的に述べるならば,払込資本は,資本 金と資本剰余金から構成され企業活動を営む上で 不可欠な元本として位置づけられ,一方,留保利 益すなわち利益剰余金は,元本の運用により得ら れた成果に他ならず,企業外部へ分配可能な項目 であると理解される.そして,この両者を区分す ることにより,前者の払込資本が企業内に維持拘 束され,資本の維持が達成される. 以下の文献では,払込資本と留保利益を区分す る必要性について,あくまでも配当規制に由来す るという解釈がなされている. 森川八洲男教授 は, 「利益剰余金 は 資本 の 運用 取引から生じたものであるから,本質的に分配可 能性を特質とするのに対して,資本剰余金は,資 本金とともに,企業活動の元手を表し,維持拘束 性を特質とするものである.したがって,この両 者を区分することによって,後者の資本剰余金が 企業内に維持拘束され,資本の維持が達成される ことになる. 」と述べられている. 森川八洲男「新会計基準における「資本の部」 の分類の特質 」『企業会計』第 54 巻 第 7 号(2002 年 7 月) ,19 頁. 斎藤静樹教授は, 「利益から資本を分けるのは 当然だが,留保されて維持すべき資本に加えられ.

(3) 新株予約権に関する検討(松原). (435). 61. 日本において新株予約権について異なる取扱い. れる.すなわち,新株予約権の取扱いの背景に. の背景にある思考を明らかにする必要がある.. ある思考のみならず,連結を行った際に,子会. 昨今,業績報告を巡る議論の影響を受け,包. 社の新株予約権を失効時に利益へ振り替える処. 括利益と少数株主持分との関わりが問題となっ. 理が,利益計算へ与える意味を明らかにする必. ている.上述のように新株予約権の特徴に関し. 要があるといえよう.よって,以下では,子会. ては,米国および日本において異なる思考が存. 社に新株予約権が存在することを前提に議論を. 在すると考えられる.このことは,連結財務諸. 進めていく.. 表を前提としても変わりがない.そして,子会. 以上を踏まえ本稿では,米国および日本にお. 社が有する新株予約権の失効時における処理方. いて新株予約権の異なる取扱いの背景にある思. 法の相違に鑑みれば,かかる処理方法の相違が. 考を導いた上で,連結財務諸表を前提に子会社. 利益計算へ与える影響を無視することはできな. の新株予約権を失効時に利益へ振り替える処理. い.より具体的に述べるならば,子会社の新株. 方法が,利益計算へ与える意味を明らかにする. 予約権を失効時に利益へ振り替える処理方法が. ことを目的とする.. 利益計算へ与える影響は,2 つの連結基礎概念 (親会社説 と 経済的単一体説)と 2 つ の 利益概. Ⅱ 新株予約権と包括利益. 念(純利益と包括利益) ,さらには概念フレー. 1 包括利益概念. ムワークにおける利益概念の位置づけを考慮す. 包括利益は,「出資者以外の源泉からの取引. ることにより,より一層明確にされると考えら. その他の事象および環境要因から生じる一期間. . たあとまでその区分が続くのは,株主有限責任制 のもとでの資本制度に深く関わるであろう.商法 ないし会社法では,定まった額の会社財産を資本 金や法定準備金として拘束し,株主への配当を原 則として留保利益に制限する.それは,有限責任 しか負わない企業所有者への分配が,負債の償還 と利払いリスクを高めて債権価値を希薄化させな い よ う に す る た め で あ る.そ う し た 配当規制 の 存在理由が留保利益を拠出資本から区別させてき た.」と述べられている. 斎藤静樹,前掲書,145 頁. 大日方隆,前掲書,207 頁参照. 配当規制以外に根拠を求める見解としては以下 の文献を参照されたい. 首藤昭信「債務契約における留保利益比率の意 義」須田一幸編著『会計制度 の 設計』白桃書房, 2008 年,275─297 頁参照. 田宮治雄「資本剰余金と利益剰余金を区分する 意義の再考察─受託者説明責任の視点から株主に 提供される情報として考える─」『企業会計』第 59 巻 第 2 号(2007 年 2 月),41─49 頁参照. 野口晃弘「払込資本と留保利益の区分─商法か ら の 資本会計 の 自立─」『企業 と 法創造』第 3 巻 (2004 年 11 月),130─131 頁参照. 万代勝信「新会社法 と 会計基準─資本 と 利益 の 区分 を 中心 と し て ─」『會計』第 171 巻 第 3 号 (2007 年 3 月),48─54 頁参照.. における営利企業からの持分の変動である.包 括利益は出資者による投資および出資者への分 配から生じるもの以外の一期間における持分の すべての変動を含む11)」(SFAC No. 6, par. 70, 訳書,320 頁参照.)と定義されている12). よって,資産と負債の定義に依拠させられ, 両者の差額として持分が定義されているため, . 11)FASB 概念 フ レーム ワーク プ ロ ジェク ト に お い て は じ め て 包括利益概念 が 定義 さ れ た の は,1980 年 に 公表 さ れ た 米国財務会計概念書第 3 号 「Elements of Financial Statements of Business Enterprises:営 利 企 業 の 財 務 諸 表 の 構 成 要 素」 (1985 年 に 米国財務会計概念書第 6 号 「Elements of Financial Statements:財務諸表 の 構成要素」 に 改訂 (以下,SFAC No. 6) )で あ る(以下,米国版概念 フレームワーク) . 12)2004(平成 16)年 7 月に財務会計基準機構 における基礎概念ワーキング・グループより討議 資料「財務会計の概念フレームワーク」が公表され, その後シンポジウムやカンファランスを受け修正 を行い,2006(平成 18)年 12 月にアップ・デート された(以下,日本版概念フレームワーク) .包括 利益は,日本版概念フレームワークにおいても同 様の概念として定義されている(第 3 章,第 8 項) ..

(4) 62. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (436). 持分の構成要素である包括利益は,直接的な資. 権(100)を発行し現金の払込みを受けた.なお,. 本取引を除く,一会計期間における資産および. 当該新株予約権の権利行使時における払込みを. 負債の純額としての増減額として位置づけられ. なすべき額の総額は 200 である.行使請求期間. る.さらに,包括利益を構成する持分は, 「負. は 2006 年 4 月 1 日 か ら 2007 年 3 月 31 日 ま で. 債を控除した後に残るある実体の資産に対する. とする.その後,2006 年 4 月 1 日に新株予約権. 残余請求権」 (SFAC No. 6, par. 49,訳書,308. の 80% について権利行使され,残りの 20% に. 頁参照. )として位置づけられているが,残余. ついては権利行使されないまま権利行使期限が. 請求権を有する者に関しては明確にされていな. 到来した.なお,新株予約権以外の取引は行わ. い.このことは同時に,包括利益の大きさを把. れていないものとする.会計期間は,2005 年 4. 握することはできるが,評価差額の集合である. 月 1 日から 2006 年 3 月 31 日とする.. ため,包括利益概念について明らかでないとい うことができる13).別の表現を用いるならば,. 期首純資産 = 資産(1,000)- 負債(700)=. 包括利益は,資産および負債の従属概念である. 300・・・①. ことから,資産および負債の評価に依存した数. 期末純資産 = 資産(1,100)- 負債(700)=. 値といえよう.. 400・・・②. 以上のような性格を有する概念として包括利. 期末純資産(400)-期首純資産(300)-新. 益を捉まえた場合,包括利益は資産と負債の評. 株予約権(100)= 0・・・③. 価に依存した差額概念であることから,概念よ り新株予約権が包括利益計算へ含められること. ③式は,2 通りの解釈が可能である.. は否定されない.換言すれば,包括利益概念を より一層厳密に位置づけるためには,利益計算. 資産(1,100)-(負債(700)+新株予約権(100) ). から排除される資本の範囲を確定することが必. -期首純資産(300)= 0・・・④. 14). 要条件となる .. 資産(1,100)-負債(700)- 期首純資産(300) -新株予約権(100)= 0・・・⑤. 2 新株予約権の取扱いが利益計算へ与える影 響. まず期首,期末の純資産の変動額は,①②式. 以下では,設例 1 に基づき新株予約権の取扱. のように計算される.包括利益を計算するため. いが,利益計算へ与える影響を明示する.. には,期首および期末の純資産の変動額を計算 し,出資者による投資および出資者への分配か. 設例 1 新株予約権の処理. ら生じる項目を控除しなければならない.よっ. A 社は,期首に資産 1,000,負債 700 保有して. て,③式が導かれる.さらに,③式は,貸借対. いる.2005 年 4 月 1 日に B 社に対して新株予約. 照表において新株予約権をいかなる項目として. . 13)以下の文献では,包括利益概念は差額概念 であるためその内実は明らかでない点が指摘され ている. 大日方隆「利益概念 と 情報価値  ⑵」斎藤静樹 編著『会計基準の基礎概念』中央経済社,2003 年, 389 頁参照. 14)同様の見解として以下の文献が挙げられる. 川村義則「負債 と 資本 の 区分問題 の 諸相」『金 融研究』第 23 巻 第 2 号(2004 年 6 月),80 頁参照.. 性格づけるのかにより,④式と⑤式が導かれる. ④式は,新株予約権を負債の構成要素とみな す立場にあり,⑤式は,新株予約権を負債以外 の構成要素(資本取引)とみなす立場である. ④式および⑤式から明らかなように,いずれの 立場に基づいたとしても包括利益の金額は変わ らない. ただし,④式は,新株予約権を負債として位.

(5) 新株予約権に関する検討(松原). (437). 63. Case 1 行使時および失効時にいずれの項目へも振り替えない場合 ―米国の処理方法を例として 新株予約権発行時 2005 年 4 月 1 日 (借) 現金預金. 100. (貸) 追加的払込資本. 100. (additional paid-in capital) 新株予約権行使時 2006 年 4 月 1 日 (借) 現金預金. 160※ 1. (貸) 追加的払込資本. 160. (additional paid-in capital) 権利行使期限到来時 2007 年 3 月 31 日 仕訳なし ※ 1 200 × 80%= 160. 置づけるため,純資産の変動額として包括利益 15). 予約権 の 取扱 い は,一般 に 権利発行,権利行. 計算へ反映される .一方,⑤式は,新株予約. 使,権利失効という一連の事象を伴う.具体的. 権を資本取引として位置づけるため,包括利益. には,新株予約権の発行時には,発行に伴う払. 計算から除かれる.. 込金額(100)をもって持分(より具体的には,. なお,新株予約権を資本取引として位置づけ. additional paid-in capital:追加的払込資本)へ. た場合,新株予約権が失効された際にいかなる. 計上するが,権利行使時および権利失効時に持. 項目として処理するのか,すなわち失効された. 分として計上された新株予約権を,いずれか. 際に新株予約権を利益へ振り替えるかあるいは. の項目へ振り替える処理は行われない.よっ. そのまま資本とするかにより,純利益と包括利. て,2006 年 4 月 1 日 に は,行使 に 伴 う 払込金. 益の金額へ異なる影響を与えることとなる.そ. 額(160)のみ持分として計上される.. こで以下では,上述の設例を用いてかかる点を. Case 2 は,日本 で の 処理方法 を 基 に,新株. 明示する.. 予約権を発行した際には純資産の部の株主資本. Case 1 は,米国 で の 処理方法 を 基 に,新株. 以外に区別して計上した上で,行使した際には. 予約権を発行した際には持分へ含め,行使ある. 資本金へ,失効した際には利益へ振り替える場. いは失効したとしてもいずれの項目へも振り. 合の処理方法を示している.具体的には,新株. 替えない場合の処理方法を示している.新株. 予約権の発行時には,発行に伴う払込金額(100) をもって貸借対照表の純資産の部の株主資本以. . 15)なお,本稿では,米国および日本における 新株予約権の取扱いの背景にある思考を導いた上 で,連結財務諸表 を 前提 に 子会社 の 新株予約権 を 失効時に利益へ振り替える処理方法が,利益計算 へ与える意味を明らかにすることを目的としてい ることから,新株予約権を負債として捉まえる考 え方については考慮しないこととする. 例えば以下の文献では,新株予約権を負債とし て性格づける点について検討されている. 池村恵一,前掲論文,67─79 頁. Ohlson, J. A. and S. H. Penman, op. cit.. 外へ計上される.そして,権利行使時には,新 株の発行に伴う払込金額のうち権利行使分が新 株の払込金額とみなされ,資本金へ振り替えら れる. 具体的には,新株予約権の行使価格総額(100) のうち,80% について権利行使されるため,当 該部金額(80)が資本金へ振り替えられると共 に,行使に伴う払込金額(160)が資本金とし て計上される.一方,権利が行使されずに権利.

(6) 64. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (438). Case 2 行使時に払込資本へ振り替え失効時に利益へ振り替える場合 ―日本の処理方法を例として 新株予約権発行時 2005 年 4 月 1 日 (借) 現金預金 100 新株予約権行使時 2006 年 4 月 1 日 (借) 新株予約権   80※ 1 現金預金 160※ 2 権利行使期限到来時 2007 年 3 月 31 日 (借) 新株予約権   20※ 3. (貸) 新株予約権. 100. (貸) 資本金. 240. (貸) 新株予約権戻入益.   20. ※ 1 100 × 80%= 80 ※ 2 200 × 80%= 160 ※ 3 100 × 20%= 20. 行使期限が到来した際には(失効時) ,新株予. 失効したとしてもいずれの項目へも振り替えな. 約権(20)を新株予約権戻入益(20)として利. い処理方法を用いるか,発行時に純資産の部の. 16). 益へ振り替えることとなる .. 株主資本以外の 1 構成要素として処理し,行使. Case 1 および Case2 から明らかなように新. 時に資本金へ振り替え,失効時に利益へ戻す処. 株予約権を負債でない項目として捉まえた場. 理方法を用いるかにより,純利益と包括利益の. 合,発行時に持分として処理し,行使あるいは. 金額へ異なる影響を与えることとなる.. . Ⅲ 新株予約権の特徴-米国の処理方法を例と. 16)野口晃弘教授 は,有価証券報告書 か ら 把握 で き た 新株引受権・新株予約権 の 戻入益計上企業 の 推移 を 示 し,戻入益 の 金額,税引前当期純利益 に対する比率とも重要性がないとは必ずしも言え ない水準にあり,中には戻入益の金額が税引前当 期純利益の金額を上回っていた企業,すなわち戻 入益の恩恵により赤字決算を回避することもでき た点を指摘されている. 野口晃弘「新株予約権の表示方法に内在する会 計問題」 『企業会計』第 58 巻 第 9 号(2006 年 9 月), 65 頁参照. 以下の文献では,新株予約権戻入益とそれを含 む会計利益が株式市場でどのように評価されてい るのか実証分析がなされている.実証分析の結果, 新株予約権戻入益を計上した企業における会計利 益の価値関連性は低下し,その傾向は新株予約権 戻入益の金額が大きくなればなるほど強くなるこ とが明らかにされている.よって,株式市場との 関連性 の 観点 か ら は,新株予約権戻入益 を 特別利 益へ計上する積極的な根拠は見受けられないこと が結論づけられている.換言すれば,新株予約権 の株主資本としての計上の可能性が示唆されてい る. 野口晃弘,乙政正太,須田一幸「新株予約権 の 失効 に 伴 う 会計処理」須田一幸編著『会計制度 の 設計』白桃書房,2008 年,397─414 頁参照.. して 上述のように米国では,新株予約権を株式と 同様に持分として処理し,行使あるいは失効し たとしても資本と利益の関係に影響は生じさせ ない.このことは,前述の Case 1 からも明ら かである. 以下では,上述の米国の処理方法を例にかか る取扱いの背景にある思考を明らかにする. 例えば,新株予約権を持分へ含める解釈は, 米国版概念フレームワークに基づけば以下のよ うに説明することができる. SFAC No. 6 では,負債を将来の経済的便益 の犠牲が生じるものと定義づけた上で(SFAC No. 6, par. 35,訳書,301 頁参照.),持分 に つ いて,負債を控除した後に残る残余請求権とし て位置づけている(SFAC No. 6, par. 49,訳書, 308 頁参照.).そして,新株予約権は,発行企 業より何らかの経済的便益が流出されることが ないため(SFAS No. 123, pars. 88, 149),差額.

(7) 新株予約権に関する検討(松原). (439). 65. 概念である持分へ含められることとなる.ただ. C は消滅するがゆえにそのまま A と B のもう. し,このような説明は,新株予約権が積極的に. けになると考えられる.このような背景には,. 持分ということではなく,あくまでも負債では. 権利行使あるいは失効される前の C は,厳密. なく,もちろん収益でもないため結果的に持分. な言い方をすればオプション保有者であり将来. 17). とされているにすぎない .. が分からない人,すなわち潜在的な株主として. 上述のように米国では,新株予約権を株式と. 位置づける考え方が存在する.. 同様に持分として処理し,行使あるいは失効し. それにもかかわらず,権利が失効され C が. たとしても資本と利益の関係に影響は生じさせ. 消滅した際も,新株予約権を持分のまま維持す. ない.それにもかかわらず,新株予約権が行使. る米国の処理方法は,どのように解釈すること. あるいは失効された際に,それが誰からなされ. ができるのだろうか.. た出資なのかということは明らかにされていな. 例えば,企業は,オプションを付与すること. い.よって,かかる処理方法の背景にある思考. に よ り,持分割合 が 減 る 可能性 が あ る.し た. について明らかにする必要がある.. がって,持分割合が減る可能性に関して A と. 以下では,問題点を明確にするために単純な. B が代金を出資したと考えることができる.こ. 例を挙げることとする.例えば,A と B が出. のような思考を踏まえれば,A と B が出資し. 資して設立した Z 社が存在し,そのZ社がC. たとみなすことも可能ではないだろうか.. から払込み金額を受け,C に新株予約権を付与. そこで以下では,上述の新株予約権の処理方. したと仮定する.. 法の特徴を科目および金額の確定の有無の視点. 上述の米国の処理方法に基づけば,新株予約. より検討する.. 権が行使された際には C から出資が行われた. 第 1 に,科目の確定の有無に関して,上述の. と考えて差し支えない.問題は,新株予約権が. 処理方法は,権利行使されるか否か明確でない. 失効された際に C からの払込金額をそのまま. 新株予約権と,すでに権利行使され株式となっ. 持分とする点である.. た新株予約権は,資本と利益の関係が異ならな. 本来,現在の株主である A と B の立場に立. いことを背景とする.より具体的に述べるなら. てば,C から得た金額は,権利行使されれば C. ば,企業は,新株予約権を付与した段階ですで. の出資となり,一方,権利行使されなければ,. に対価物(オプション)を与え終わったと考え るため,これを相手が使用するか否かは企業に. . 17)同様の見解として以下の文献が挙げられる. 斎藤静樹,前掲論文,7 頁. 米山正樹教授は,負債確定アプローチに基づき 判断する点について以下のように述べられている. 「「(厳密 に 定義 し た)負債 に 該当 し な い も の」 をすべて資本とみた場合,資本の側には,雑多な 項目が混在することになる.より具体的には,普 通株主 の み な ら ず,優先株主 や 新株予約権者(売 建自社株コール・オプションの保有者)らがすべ て資本主として一括されることとなる.会社に対 して有している権限や負担しているリスクが異な ることから,彼らの一部だけを資本主とみる立場 も想定しうるが,「負債確定アプローチ」 のもとで は,そのようなリスクを模索することができない.」 米山正樹『会計基準 の 整合性分析─実証研究 と の接点を求めて─』中央経済社,2008 年,222 頁 .. とって無関係となる.したがって,行使あるい は失効した部分に関しては,企業にとっての出 資とみなされ,いずれかの項目へ振り替える必 要はない18).かかる処理方法の背景には,新株 予約権を発行した段階で出資が行われたとみな . 18)野口晃弘教授は,米国における新株予約権 の処理方法について以下のように述べられている. 「法形式 は,あ る 金融商品 が 債務証券 か 持分証 券かを判断する上で重要な材料には違いないが, 決定的なものとは言えない.リスクとリターンの 見地からその保有者が株主と同じ立場に立ってい るか否かで債務証券か持分証券かを見極めるので なければ,金融商品の法形式を工夫することによっ.

(8) 66. (440). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). し,結果として科目が確定している項目として 捉まえる思考が存在する. 第 2 に,金額の確定の有無に関して,新株予 約権が発行された段階で企業にとっての出資が 行われたとみなすということは,すでに金額が 確定していることを意味する.このことは,新 株予約権に関する課税上の取扱いにも顕著に現 れている19). 以上を踏まえるならば,新株予約権の特徴を 科目および金額が確定している項目として解釈 することができよう20).. . て会計処理を操作する余地が残されてしまう.新 株予約権者は株主でないものの,株価の変動に対 して株主と同じようにリスクを負い,あるいはリ ターンを得る立場にあるので,新株予約権者から の払込みは株主からの払込みと同様,払込資本と して扱うと説明することは可能である.」 野口晃弘『条件付新株発行 の 会計』白桃書房, 2004 年,141,142 頁 . 一方,米山正樹教授 は,新株予約権 を 残余請求 権者あるいはそれに準じるものとみる立場につい て,新株予約権保有者に関わるリスクとリターン の観点より次のように述べられている. 「保有者が期待しうるリターンという観点に立 つ場合,普通株式と新株予約権との間に等質的な 側面がみられるのはたしかである.ただ,その事 実が直ちに資本と負債の区分を決めるのではない. 新株予約権者が残余請求権者と同様のリスクを負 担することなく,残余請求権者と等質的なリター ンを享受する立場に置かれている可能性もあるか らである.保有者にとってのリターンの等質性だ けを強調して,発行者側における資本と負債の区 分を一意的に決めるのは困難であろう.」 米山正樹『会計基準 の 整合性分析─実証研究 と の接点を求めて─』中央経済社,2008 年,232 頁 . 19)企業 は,新株予約権 を 付与 し た 段階 で は, 対価物を与え同等の価値の物を現金に交換したと 考えるため,プラスマイナスゼロとなり結果とし て課税されない(法 1032(a)). 20)例えば,新株予約権が条件付持分である点 を踏まえるならば,払込資本と留保利益の区分と いう視点より,新株予約権が付与された段階で持 分へ含め,行使あるいは失効したとしてもいずれ の項目へも振り替えない処理方法は,持分におい て払込資本と留保利益が区分されていないように. . 解釈することも可能であろう.より具体的に述べ るならば,かかる処理方法の背景には,米国にお ける配当制限に対する思考が存在すると考えられ る.すなわち米国では,配当制限が債務契約によ り縛られる形で存在し,債務契約の中で財産の分 配が行われるがゆえに,払込資本と留保利益が明 確に区分されていない.換言すれば,米国では, 制度上払込資本と留保利益を区分する意味が求め られていないといえよう. 米国における配当計算規制の史的展開について は,以下の文献を参照されたい. 伊藤邦雄『会計制度のダイナミズム』岩波書店, 1996 年. 米国において債務契約の中で財産の分配が行わ れている例を取上げた文献として,以下が挙げら れる. Leuz,Christian, Dominic Deller and Michael Stubenrath, “ An International Comparison of Accounting-Based Payout Restrictions in the United States,United Kingdom and Germany,” Accounting and Business Research, Vol. 28 No. 2, Spring 1988, pp. 111─129. 上述の内容については,以下の文献で取り上げ られている. 野口晃弘「払込資本と留保利益の区分─商法か ら の 資本会計 の 自立─」 『企業 と 法創造』第 3 巻 (2004 年 11 月) ,131─132 頁参照. 例えば,米国では,総額で定義される持分につ いて,それを厳選別に区分することに積極的では ない. このことについて,米国版概念フレームワーク では, 「このステートメントでは持分は総額でのみ 定義される.株式配当(資本金またはその他の拠 出資本への留保利益または未処分利益の振り替え を伴う企業自体の株式の比率的配分)および(通 常企業において自己資本取引と呼ばれている)所 有主権益の再取得および再発行のような取引およ び事象は,源泉を混同し,本質的に恣意的な分配 の使用を除いて源泉の後付けを不可能としている. それゆえ,投資資本もしくは拠出資本または稼得 資本と名づけられたカテゴリーは,企業の持分の 源泉を正確に反映することもあるし,反映しない こ と も あ る. 」 (SFAC No. 6, par. 214,訳書,384 頁参照 .)と述べられている. 上述の米国版概念フレームワークにおける持分 の定義づけについて,安藤英義教授は,米国では, 資本と利益の区分を軽視しているように解釈でき ると述べられている. 安藤英義「アメリカで揺らぐ資本概念(資本と 利益 の 区分) 」 『會計』第 153 巻 第 1 号(1998 年 1 月) ,1─13 頁参照..

(9) 新株予約権に関する検討(松原). Ⅳ 新株予約権の特徴-日本の処理方法を例と して. (441). 67. 保有者であり将来が分らない人,すなわち潜在 的な株主として位置づける考え方が存在する. 以下では,上述の新株予約権の処理方法の特. 上述のように日本では,新株予約権を貸借対. 徴を科目および金額の確定の有無の視点より検. 照表の純資産の部の株主資本と区別して表示. 討する.. し,新株予約権が行使された際は資本金へ振り. 第 1 に科目の確定の有無に関して23),上述の. 替え,失効された際は利益へ戻されるため,資. 処理方法は,権利行使されるかどうかわからな. 本と利益の関係に影響を生じさせる.このこと. い 新株予約権 と,す で に 権利行使 さ れ 株式 と. は,前述の Case 2 からも明らかである.. なった新株予約権とでは,資本と利益の関係が. 以下では,上述の日本の処理方法を例に,か. 異なることを背景とする.より具体的に述べる. かる取扱いの背景にある思考を明らかにする.. ならば,新株予約権(株式購入オプション)が,. 例えば,日本版概念フレームワークに基づけ. 権利行使あるいは失効とともに株主資本になる. ば,新株予約権が純資産へ含められる根拠は,. ことは間違いない.しかしながら,それが利益. 米国の説明と同様に積極的に純資産の部の株主. を経由するか否か,つまり留保利益としての株. 資本以外ということではなく,あくまでも負債. 主資本なのか,利益から除かれる払込資本なの. 21). ではなく ,もちろん収益でもないため結果的. かは,新株予約権が清算されるまで決めること. に純資産の部の株主資本以外とされているにす. ができない.. 22). ぎない .. 例えば,企業による新株予約権の発行は,将. そこで,問題点を明確にするために米国の場. 来における企業と所有主との関係性を大きく期. 合と同様に単純な例を挙げることとする.例え. 待させるものであるが,新株予約権の行使ある. ば,A と B が出資して設立した Z 社が存在し,. いは失効を待たずに,これらの可能性をもって. その Z 社が C から払込み金額を受け,C に新. 払込資本あるいは留保利益として位置づけるこ. 株予約権を付与したと仮定する.. とは,会計が予測や確率の問題に依存すること. 日本の処理方法に関しては,現在の株主であ. を意味する.現時点における株主からの払込み. る A と B の立場に立てば,C から得た金額は,. とその運用成果としての利益に関する情報を提. 権利行使されれば C の出資となり,一方,権利. 供するという点を重視するならば,払込資本あ. 行使されなければ,C は消滅するがゆえにその. るいは留保利益となるか明確でないにもかかわ. まま A と B のもうけになると考えられる.こ. らず,新株予約権を有する者の立場に立ち利益. のような背景には,権利行使あるいは失効され. 計算を行うことを,正しい処理方法として位置. る前の C は,厳密な言い方をすればオプション. づけることは難しいといえよう.. . 21)日 本 版 概 念 フ レーム ワーク で は,SFAC No. 6 と同様に,負債を「過去の取引または事象の 結果として,報告主体が支配している経済的資源 を放棄もしくは引き渡す義務,またはその同等物 を い う.」(第 3 章 , 第 5 項)と 定義 し,負債 の 本 質的特性を債務と踏まえた上で極めて限定的な形 で定義している.したがって,日本版概念フレー ムワークに基づけば新株予約権は負債に合致せず, 純資産が資産と負債の差額として定義されている ため(第 3 章 , 第 6 項),純資産へ区分される. 22)同様の見解として以下の文献が挙げられる. 斎藤静樹,前掲論文,7 頁.. 第 2 に金額の確定の有無に関して,新株予約 権は失効した際に新株予約権戻入益へ振り替え られるため,結果としてかかる利益に対して課 税されることとなる.このことは,新株予約権 が行使あるいは失効されるまで金額が確定しな いことを意味する. . 23)新株予約権を科目が確定している項目とし てみなさない第 1 の根拠は,主として以下の文献 を参照した. 斎藤静樹,前掲論文,1─16 頁参照..

(10) 68. (442). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). 例えば,日本における法人税は,法人擬制説を 24). 基礎としている.周知のように法人擬制説は , 法人または企業を営利機関と解釈する考え方で ある.換言すれば,法人は利潤追求とういう同. 定しない項目として解釈することができよう25). Ⅴ 連結基礎概念に基づく利益計算と新株予約 権の取扱い. 一の目的のもとに集まった個々人の集合体であ. 1 親会社説. り,すべての租税は,最終的に個人が負担する. 包括利益計算に鑑みれば,連結財務諸表を無. という点に基本的思考がある.そこで,かかる. 視することはできない.具体的には,連結を前. 法人擬制説に基づけば,新株予約権に関する税 務上の取扱いは,以下のように解釈することが できる. 新株予約権付与時点においては,将来株主と なる可能性を有する者が,営業取引に基づかな い形でお金を出した場合,公正な取引を考えれ ば,企業は対価物として権利を付与している. したがって,企業は,対価物を与えると共に同 等の価値のものを現金に交換したとみなすこと ができる.換言すれば,新株予約権を付与した 段階では,同等物と交換したと考えることがで きるためプラスマイナスゼロとなり,結果とし て課税されない.さらに,権利行使時点におい ては,株主にとっての資本が増加すると考えら れるため, 新株予約権は資本金へ振り替えられ, 結果として課税されない. 一方,失効時点 に お い て は,現在 の 株主 に とってのプラスの利益が増加すると考えられる ため,新株予約権を新株予約権戻入益へ振り替 え,結果として益金とみなされ課税される.こ のことは,新株予約権が権利行使あるいは失効 されるまで金額が確定しないことを意味する. よって,新株予約権は行使あるいは失効され て初めて払込資本となるかあるいは留保利益と なるか, さらには金額が確定する.換言すれば, 新株予約権は,行使あるいは失効されるまで科 目および金額が明確にならない項目として位置 づけられる. 以上を踏まえるならば,新株予約権の特徴を科 目(払込資本あるいは留保利益)および金額が確 . 24)小林威「租税論」大川政三編著『財政論』 有斐閣,1975 年,145 頁参照.. . 25)かかる新株予約権の性格を踏まえるならば, 日本における払込資本と留保利益の位置づけはど のように解釈することができるのだろうか.現行 制度に鑑みるならば,会計上剰余金区分が想定し ていた払込資本の維持機能は,制度的裏付けを失っ ている側面が見受けられる.具体的には.本来維 持 す べ き 払込資本 か ら の 剰余金 の 分配 が 可能 と なっている.例えば,資本剰余金のうち自己株式 処分差益 は,分配可能 な そ の 他資本剰余金 に 該当 する.しかしながら,払込資本維持の必要性に鑑 みれば,払込資本と留保利益の区分が必要不可欠 であるということに変わりはないと考えられる. 上述の新株予約権の処理方法に基づけば,新株 予約権付与時 は,新株予約権 と し て 貸借対照表 の 株主資本以外へ計上され,純資産へ含められたと しても,株主資本とは厳密に区分される(第 3 章, 第 7 項,脚注(7) ) .そ し て,新株予約権 が 行使 された際は払込資本へ振り替え,失効された際は, 利益へ戻される (ストック・オプション等会計基準, 第 9 項) .企業会計上,払込資本も留保利益も株主 資本のストックであるという点において違いはな い.それにもかかわらず,株主資本の中で払込資 本と留保利益の区分づけが重視されてきた事実は, 日本において払込資本と留保利益の区分が重視さ れている証左といえよう. かかる背景として,配当制限に関する会社法の 考え方が会計に強く反映されている点が指摘でき る.すなわち,払込資本と留保利益は配当制限に関 係しその拘束力に基づき区分されている.よって, 日本では,会社法の配当規制が会計と密接に関連す るため,純資産の中の株主資本において払込資本と 留保利益が明確に区分されていると解釈される. 払込資本の維持機能が制度的裏付けを失ってい る点を指摘した文献については,以下を参照され たい. 梅原秀継「資本概念 と 利益計算」石川鉄朗,北 村敬子編著『資本会計の課題 純資産の部の導入と 会計処理をめぐって』中央経済社,2008 年,12 頁 参照. 野口晃弘「払込資本と留保利益の区分─商法か ら の 資本会計 の 自立─」 『企業 と 法創造』第 3 巻 (2004 年 11 月) ,130 頁参照 ..

(11) 新株予約権に関する検討(松原). (443). 69. 提とした場合の新株予約権に関する問題とし. に立脚し,その親会社の指揮下にある企業集. て,親会社と連結する際の子会社の新株予約権. 団 の 財務諸表 と し て,連結財務諸表 を 作成 す. の取扱いが,利益計算へ与える影響について検. る考え方である.つまりこの説は,子会社に. 討する必要がある26).. 対 す る 親会社 の 持分 を,親会社独自 の 財務指. 上述のよう米国では,新株予約権を株式と同. 標の中にいかに反映させるのかに関心が向け. 様に持分として処理し,行使あるいは失効した. られている.よって,親会社説に基づくならば,. としても資本と利益の関係に影響を生じさせな. 連結財務諸表 は 親会社 の 財務諸表 と し て 位置. い.このことは,連結財務諸表を念頭に置いた. づけられる.. としても変わらない.. このような考え方を踏まえるならば,親会社. 一方,日本では,新株予約権を貸借対照表の. が子会社の株式を 100% 所有していない場合に. 純資産の部の株主資本とは区別して表示し,行. 生ずる少数株主は,企業集団への出資者という. 使された際は資本金へ振り替え,失効された際. よりもむしろ債権者と同様企業外部者として考. は利益へ戻される.そして,新株予約権が失効. えられるため,その本質を外部からの資金調達. され利益へ戻される際に,当該処理方法が利益. という意味での負債と考えることが妥当であ. 計算へ影響を与えることとなる.このことは,. る.よって,この説に基づく場合,連結利益(純. 子会社が有する新株予約権の失効時における連. 利益および包括利益)は親会社株主に帰属する. 結上の取扱い,さらにはそれに伴う利益計算を. 概念となる(以下,親会社説型純利益,親会社. 明示すことにより明らかになると考えられる.. 28) 説型包括利益) .. そこで,以下では行使された際は資本金へ振り. かかる親会社説に立脚するならば,子会社が. 替え,失効された際は利益へ戻される処理方法. 発行 し て い る 新株予約権 の 少数株主持分割合. を前提に議論を進めていく.. は,少数株主持分を通じ親会社の財務諸表へ計. 周知のように連結財務諸表を前提とした場. 上される.利益計算に着目するならば,子会社. 合,連結基礎概念である親会社説と経済的単一. の新株予約権が失効した際に生じる新株予約権. 体説いずれの立場に立つのかにより,求められ. 戻入益を,少数株主持分割合で按分した金額が,. る利益(純利益と包括利益)が異なる.よって. 少数株主持分損益として利益計算の際に考慮さ. 以下では,それぞれの思考に基づく利益概念,. れることとなる.. さらには子会社が有する新株予約権の失効時に. 設例 2 は,P 社が S 社を連結した際の連結上. おける連結上の取扱いと利益計算へ与える影響. の取扱いの一部を抜粋している.具体的には,. について明示する.. 子会社の新株予約権が失効された際に連結上利. 27). 親会社説 と は ,親会社 の 株主 の 立場 の み . 26)例えば,少数株主持分について検討された ものとして,以下の文献が挙げられる. 梅原秀継「会計主体 と 株主持分─一般理論 お よ び 連結基礎概念 の 適用 を め ぐって─」『會計』第 169 巻 第 4 号(2006 年 4 月),13─28 頁参照. 川本淳「少数株主持分 の 性質 と 測定 」『會計』 第 176 巻 第 2 号(2009 年 8 月),30─42 頁参照. 佐藤信彦「少数株主持分 の 性格─会計主体 と の 関連を中心として─」『企業会計』第 55 巻 第 7 号 (2003 年 7 月),48─54 頁. 27)親会社説の考え方については以下の文献を. 益計算へ与える影響を,親会社説の立場に基づ き明示している. . 参照した. 齋藤真哉「連結基礎概念」杉山学編著『連結会 計 の 基礎知識 第 4 版』中央経済社,2006 年,13 頁参照. 28)連結基礎概念に基づく純利益および包括利 益の位置づけについては,以下の文献を参照され たい. 松原沙織「包括利益概念の帰属問題に関する検 討」 『産 業 経 理』 第 65 巻 第 4 号(2006 年 1 月) , 125─134 頁参照..

(12) 70. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (444). 表 1 個別損益計算書の一部抜粋 P社. S社. 第1期. 第1期. 営業外収益. 4,000,000. (中略) 新株予約権戻入益. 600,000. (中略) 当期純利益. 4,000,000. 600,000. 表 2 親会社説に基づく連結損益計算書の一部抜粋 P社 営業外収益. S社. 合計. 少数株主損 益の認識. 修正合計. 4,000,000. 連結ベース 4,000,000. (中略) 新株予約権戻入益. 600,000. 600,000. 600,000. (中略) 少数株主持分損益. 120,000. 120,000. 120,000. 120,000. 120,000. 4,480,000. (中略) 親会社説型純利益. 4,000,000. 600,000. 4,600,000. (中略) 親会社説型包括利益. 設例 2 子会社 が 有 す る 新株予約権 の 失効時 に お ける連結損益計算書上での処理. 第 1 期(× 1 年 4 月 1 日 か ら × 2 年 3 月 31 日)の連結損益計算書の一部を作成する.ただ し,期中における取引は子会社が有する新株予 約権の失効のみとする. ⑴ P社は,第 0 期末(× 1 年 3 月 31 日)にS 社株式の 80% を取得し,S社を連結子会社とし た. ⑵ S社 は,新株予約権(600,000)を 保有 し ている.なお,第 1 期中に,保有する新株予約 権の 100% が失効した. [少数株主損益の認識]. 4,480,000. (借) 少数株主持分損益 120,000 (貸) 少数株主持分 120,000 表 1 は,P 社と S 社の個別損益計算書の一部 抜粋であり,表 2 は,設例 2 に基づき子会社の 新株予約権が失効された際に,連結上利益計算 へ与える影響を,親会社説の立場に基づき明示 している. 親会社説に立つならば,S 社の当期純利益に ついて,少数株主持分比率で按分した金額が, 少数株主持分損益として連結損益計算書で考慮 される.本設例における S 社の第 1 期の当期純 利益 の 金額 は,600,000 で あ る.よって,連結 ベースでは,当該金額に少数株主持分比率を乗 じ た 120,000(=600,000 × 20%)の 減額処理 を 行う.具体的には,子会社の純利益のうち少数.

(13) 新株予約権に関する検討(松原). (445). 71. 表 3 経済的単一体説に基づく連結損益計算書の一部抜粋 P社 営業外収益. S社. 少数株主 損益の認識. 合計. 修正合計. 4,000,000. 連結ベース 4,000,000. (中略) 新株予約権戻入益. 600,000. 600,000. 600,000. 600,000. 4,600,000. 4,600,000. (中略) 経済的単一体説型純利益. 4,000,000. (中略) 経済的単一体説型包括利益. 4,600,000. 株主に帰属する額(120,000)を,連結ベースの. に基づく場合,企業集団全ての利益を合算した. 純利益(4,600,000)から控除することにより親. 額に業績指標性を求めているがゆえに,連結利. 会社説型純利益(4,480,000)が求められる.なお,. 益(純利益および包括利益)は,親会社株主お. 上述の設例のようにその他の包括利益を変動さ. よび少数株主に帰属する概念となる(以下,経. せる要因がないと仮定した場合29),親会社説型. 済的単一体説型純利益,経済的単一体説型包括. 包括利益は親会社説型純利益と一致する.. 利益)31). かかる経済的単一体説に立脚するならば,少. 2 経済的単一体説. 数株主持分を他の資本提供者と区別すること自 30). 周知のように経済的単一対説とは ,その企. 体に意味がない.このことは,子会社が保有す. 業集団を構成する親会社の株主と子会社の株主. る新株予約権を少数株主持分割合で按分するか. の立場に立ち,親会社とは区別される企業集団. 否かという思考自体が生じないことを意味す. そのものの財務諸表として,連結財務諸表を作. る.よって,経済的単一体説に基づく場合,少. 成する考え方である. つまり経済的単一体説は,. 数株主持分 と い う 概念自体存在 し な い が ゆ え. 企業集団への出資者の立場に立ち,親会社とは. に,子会社 が 保有 す る 新株予約権 は,連結 グ. 区別される企業集団そのものの立場から,連結. ループの財務諸表へそのまま計上されることと. 財務諸表を作成しようとするものである.. なる.換言すれば,子会社の新株予約権は,按. このような考え方を踏まえるならば,親会社. 分せずにまとめて連結財務諸表へ含められるこ. が子会社の株主を 100% 所有していない場合に. ととなる.利益計算に着目するならば,子会社. 生ずる少数株主は,親会社株主と同様に資本提. の新株予約権が失効された際に計上される新株. 供者として考えることができるため,その本質. 予約権戻入益に関しても少数株主持分割合で按. を出資者の持分という意味での資本としてとら. 分せずに利益計算へ含められる.. えることが妥当である.同様に経済的単一体説. 表 3 は,設例 2 に基づき子会社の新株予約権. . 29)「そ の 他 の 包括利益」と は,包括利益 の う ち当期純利益および少数株主持分損益に含まれな い部分をいう(包括利益の表示会計基準,第 4 項). 30)経済的単一体説の考え方については以下の 文献を参照した . 齋藤真哉,前掲論文,13─14 頁参照 .. が失効された際に連結上利益計算へ与える影響 を,経済的単一体説の立場に基づき明示してい る.経済的単一体説に立つならば,子会社の純 利益のうち少数株主に帰属する額を連結ベース . 31)松原沙織,前掲論文,125─134 頁参照..

(14) 72. (446). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). の利益計算へ考慮する必要はない.よって,個. 日本版概念フレームワークでは,資産,負債. 別ベースに基づく親会社の純利益(4,000,000). に独立した定義を与えている.まず,資産は,. と 子会社 の 純利益(600,000)を 合算 す る こ と. 「過去の取引または事象の結果として,報告主. に よ り,経済的単一対説型純利益(4,600,000). 体が支配している経済的資源をいう」(第 3 章,. が求められる.なお,上述の設例のようにその. 第 4 項)と位置づけられている.次に,負債は,. 他の包括利益を変動させる要因がないと仮定し. 「過去の取引または事象の結果として,報告主. た場合,経済的単一体説型包括利益は経済的単. 体が支配している経済的資源を放棄もしくは引. 一体説型純利益と一致する.. き渡す義務,またはその同等物をいう」 (第 3 章,. Ⅵ 新株予約権の取扱いと利益計算 1 利益概念と少数株主持分の位置づけ-日本 版概念フレームワークを例として. 第 5 項)と定義され,負債の本質的特性を債務 と踏まえた上で極めて限定的な形で位置づけら れている. また,純資産は,「資産と負債の差額」(第 3. 上述のように新株予約権について行使された. 章,第 6 項)と し て,株主資本 は,「純資産 の. 際に資本金へ振り替え,失効された際に利益へ. うち報告主体の所有者である株主(連結財務諸. 戻す処理方法は,親会社説あるいは経済的単一. 表の場合には親会社株主)に帰属する部分」 (第. 体説を採るのかにより利益計算へ異なる影響を. 3 章,第 7 項)として定義されている.. 与える.ただし,この差は,純利益と包括利益. したがって,純資産は,報告主体の所有者で. の差という形では現れない.. ある株主(連結財務諸表の場合には親会社株主). より具体的に述べるならば,その他の包括利. に帰属する資本とその他の要素に分けられる.. 益を変動させる要因がないと仮定した場合,上. その他の要素には,報告主体の所有者以外に帰. 述のように子会社の新株予約権を失効時に利益. 属するものと,いずれにも帰属しないものが含. へ振り替える処理方法が,連結上利益計算へ与. まれる.その他の要素のうち,報告主体の所有. える影響は,親会社説型純利益と親会社説型包. 者である株主以外に帰属するものは,少数株主. 括利益,経済的単一体説型純利益と経済的単一. 持分などが含まれる.他方,いずれにも帰属し. 体説型包括利益についてそれぞれ同一である.. ないものには,リスクから解放されていない投. しかしながら,純利益と包括利益が,必ずし. 資の成果などが含まれる.. も 1 つの連結基礎概念に基づき定義される必然. つまり,資本を純資産概念と同義とすること. 性は存在しない.このことは,子会社の新株予. なく親会社株主に関連づけ厳密に定義してい. 約権を失効時に利益へ振り替える処理方法によ. る.純資産にこのような内訳項目を設けたのは,. る影響が,純利益と包括利益の差という形で現. 純利益に情報としての有用性が高いことを考慮. れる可能性を示唆している. そこで以下では,新株予約権について行使さ れた際に資本金へ振り替え,失効された際に利 益へ戻す処理方法を採用している日本を例に, 日本版概念フレームワークにおいていかなる利 益概念が前提とされているのか明らかにする32). . 32)概念フレームワークにおける利益概念の位 置づけについては,以下の文献を参照されたい. 松原沙織,前掲論文,125─134 頁参照.. . 33)徳賀芳弘教授 は,日本版概念 フ レーム ワー クにおける負債と資本の区分法の特徴として,日 本の伝統的な方法とは異なり,負債確定アプロー チを適用し,明確な負債とそれ以外の貸方項目(純 資産)を区分し,しかる後に当該純資産に対し資 本確定アプローチを適用し, 「資本」と「それ以外 の純資産」に区分している点を指摘されている. 徳賀芳弘「 『討議資料』の 特徴 と 論点─国内外 へ の メッセージ ─」斎藤静樹編著『討議資料 財務 会計の概念フレームワーク』中央経済社,2007 年, 199─200 頁参照..

(15) 新株予約権に関する検討(松原). (447). 73. し,純利益を生み出す投資の正味ストックを純. スクから解放された投資の成果」および「報告. 資産の中で区分するためである33).また,定義. 主体の所有主に帰属」が明記されている.. か ら 明 ら か な よ う に,資産-負債=純資産 と. よって,日本版概念フレームワークでは,利. いう資本等式に基づき各構成要素が導かれてい. 益の帰属に関していえば,資本を報告主体の所. る.. 有主に帰属する部分とした上で,純利益を資本. そして,包括利益は,「特定期間における純. と関連づけて定義している.このことは同時に. 資産 の 変動額 の うち,報告主体の所有者であ. 利益情報の主要な利用者ないし受益者を,報告. る 株主,子会社 の 少数株主,及 び 将来 そ れ ら. 主体の企業価値に関心をもつ当該報告主体の所. になり得るオプションの所有者との直接的な. 有者,すなわち連結財務諸表を前提とした場合. 取引によらない部分をいう.」 (第 3 章,第 8 項). の親会社株主に求めているといえる.換言すれ. と定義されている.つまり,資産および負債. ば,損益計算の側面から見れば,親会社説に基. を厳密に位置づけ,両者の差額概念として純. づく利益計算を行っていると言えよう.また,. 資産を捉まえた上で,包括利益を資本取引を. 日本版概念フレームワークでは,財務諸表の構. 除く特定期間の純資産の変動額として定義し. 成要素 を,資産,負債,純資産,収益,費用,. て い る34).よって,包括利益 は 親会社株主 に. 純利益,包括利益の 7 つに限定していることか. 加え少数株主に帰属する概念である.. ら(第 3 章,第 2 項),少数株主持分 の 中間的. 一方,純利益は, 「特定期間の期末までに生. な区分表示の可能性を完全に否定している.. じた純資産の変動額(報告主体の所有者である. 以上より,日本版概念フレームワークでは,. 株主,子会社の少数株主,及び前項(例えば,. 利益概念の定義において親会社説型純利益と経. 親会社の増資による親会社株主持分の増加,株. 済的単一体説型包括利益を併存させている点が. 主持分となるか不確定な新株予約権に関する項. 明らかにされた.このことは,米国においても. 目等…筆者挿入)にいうオプションの所有者と. 同様である35).. の直接的な取引による部分を除く)のうち,そ の期間中にリスクから解放された投資の成果で あって,報告主体の所有者に帰属する部分をい. 2 子会社の新株予約権の取扱いが利益計算へ 与える意味. う.純利益は,純資産のうちもっぱら資本だけ. 以下では,日本版概念フレームにおいて,親. を増減させる. 」 (第 3 章,第 9 項) )と定義さ. 会社説型純利益と経済的単一体説型包括利益を. れている.定義より,純利益の要件として「リ. 共存させていることを踏まえ,子会社の新株予. . 34)齋藤真哉教授は,このように包括利益を純 利益と独立した形で定義づけた根拠について以下 2 点を挙げられている.第 1 に,ストック概念で ある資産と負債を定義し,その差額として純資産 を導いているために,それらの期間変動を収容す る概念を用意することの必要性を認めたため.第 2 に,海外には,包括利益情報を作成し開示してい る国があり,国際的にそれを一義的に業績とみよ うとする考え方も存在していることを,さらには 今後の研究の進展いかんでは,包括利益が純利益 を超える意思決定有用性を持つに至る可能性があ ることをも考慮したため. 齋藤真哉「財務諸表 の 構成要素」『企業会計』 第 57 巻 第 1 号(2005 年 1 月),49 頁参照.. 約権を失効時に利益へ振り替える処理方法が, 2 つの利益にいかなる差をもたらすのか,さら に差が存在するとするならば,この差は,会計 上いかなる意味を有すると考えられるのか明ら かにする. 上述の親会社説型純利益を計算表示するため には,子会社の有する新株予約権が失効された 際に生じる新株予約権戻入益のうち,少数株主 持分割合を少数株主持分損益として利益計算へ 考慮する.一方,理念上経済的単一体説型包括 . 35)松原沙織,前掲論文,125─134 頁参照..

(16) 74. 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 4 号(2010 年 12 月). (448). 表 4 親会社説型純利益と経済的単一体説型包括利益を計算表示する場合の 連結損益計算書の一部抜粋. P社 営業外収益. S社. 合計. 少数株主損 益の認識. 修正合計. 連結ベース. 4,000,000. 4,000,000. (中略) 新株予約権戻入益. 600,000. 600,000. 600,000. (中略) 少数株主持分損益. 120,000. 120,000. 120,000. 120,000. 120,000. 4,480,000. (中略) 親会社説型純利益. 4,000,000. 600,000. 4,600,000. (中略) 少数株主持分損益. 120,000. 経済的単一体説型包括利益. 4,600,000. 利益を計算表示する場合,子会社の少数株主に. 利益へ振り替える処理方法が,2 つの利益(親. 帰属する損益を考慮する必要はない.. 会社説型純利益 と 経済的単一体説型包括利益). 具体的には,日本版概念フレームワークに基. に差をもたらすことを明示している.. づくならば,上述のように親会社説型純利益を. 具体的には,子会社の純利益のうち少数株主. 計算するにあたり,新株予約権戻入益の少数株. に 帰属 す る 額(120,000)を 連結 ベース の 純利. 主持分割合が考慮される.一方,当該少数株主. 益(4,600,000)から控除することにより親会社. 持分損益は,経済的単一体説型包括利益を計算. 説型純利益(4,480,000)が計算表示される.そ. するにあたり,親会社説型純利益へ再び加えら. して,その他の包括利益を変動させる要因がな. れなければならない.このことは,連結時にお. い と 仮定 し た 場合,上述 の 親会社説型純利益. いて子会社の新株予約権を失効時に利益へ振り. (4,480,000)に 少数株主持分損益(120,000)を. 替える処理方法が,親会社説型純利益と経済的. 加算することにより,経済的単一体説型包括利. 単一体説型包括利益へ異なる影響を与えること. 益(4,600,000)が計算表示される.. 36). を意味している .. 本来,包括利益 と 純利益 と の 関係 に つ い て. 表 4 は,設例 2 に基づき子会社の新株予約権. は,認識と帰属の視点から問題を指摘するこ. が失効した際に連結上利益計算へ与える影響. とができる37).一般的な表現を用いるならば,. を,親会社説型純利益および経済的単一体説型. 前者に関しては,実現38)あるいは未実現であ. 包括利益を計算表示する立場に基づき示してい. るかという点において両者(包括利益および. る.すなわち,子会社の新株予約権を失効時に . 36)なお,親会社が保有する新株予約権が失効 し た 場合,親会社説型純利益 と 経済的単一体説型 包括利益へ与える影響は異ならない.換言すれば, 親会社が保有する新株予約権について両社(純利 益と包括利益)の差は論じられない.. . 37)松原沙織,前掲論文参照. 38)実現 と は,一般 に,「 利益 の 確実性 」 お よ び 「 再投資の準備 」 を備えた概念として理解され る. 森田哲彌 「 企業会計原則 に お け る 収益(利益) 認識基準の検討─実現主義の観点から─ 」『企業会 計』第 42 巻 第 1 号(1990 年 1 月) ,18─24 頁参照,.

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