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〈論文〉海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響--我が国上場企業における定量分析

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(1)商経学叢 第62巻第1号 2015年7月 . 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響 我が国上場企業における定量分析☆. 中. 岡. 孝. 剛. 要旨 近年,先進諸国における企業の現金保有水準が上昇してきている。その要因の一つと して,海外事業活動を通じた節税動機が注目されており,いくつかの実証研究が米国を中心 に実施されているが,我が国を対象とした分析は依然として行われてない。そこで本研究は, 海外事業活動が現金保有水準に与える影響について,静学的な決定要因モデルと動学的な部 分調整モデル両方を用いて定量的な検証を行った。その結果,静学モデルでは海外事業活動 は現金保有水準に正の影響を与えていることが示された。しかし,部分調整モデルでは,節 税動機は調整スピードに影響を与えないことが示された。 キーワード 現金保有,海外事業活動,節税動機 原稿受理日 2015年5月30日. Abstract At last two decades, firms which in developed countries have been boosting their cash holdings. Studies in U.S. firms found that tax avoidance activities through the overseas subsidiaries have an economically positive influence on their cash holdings behavior. Despite the impact of tax avoidance on cash holdings which has received considerable attention, there is no empirical evidence of Japanese companies that investigated the causality between them. In this paper, I attempt to fill the gap by analyzing the static model for the determinants of cash holdings and the dynamic model for partial adjustment behavior on cash holdings for a sample of Japanese listed firms. The results reveal that firms’ tax motive has a positive impact on their cash holdings. It is consistent with previous studies in U.S. firms. But I find that no effect of the tax motive on adjustment speed toward the optimal cash holdings levels.. Key words Cash holdings, Foreign operations, Tax motive. ☆ 本研究は株式会社 SMBC 日興証券産業調査部との共同研究を加筆修正したものである。執筆 にあたり,SMBC 日興証券産業調査部の長掛良介氏には有益なコメントを頂いた。記して感謝申 し上げる。もちろん,残りうる誤りは全て筆者の責任である。. 95( ) 95 ─ ─ .

(2) 第62巻 第1号. 1. は じ め に. ビジネスの世界に“Cash is King”という格言がある。これは必要なときに必要な額だ け支払や投資などの資金源として機動的に利用できる現金の高い流動性に由来しており, 現金は他のいかなる資産よりも,潜在的に価値のある資産であるという含意を持っている。 学術的な観点からは,現金保有は取引で生じた支払に利用することができ,新たに資金を 調達する際に発生する取引コストを削減できる(Baumol(1 952),Tobin(1 956))。また, 現金保有は流動性ショックによる過小投資(有力な投資案件を断念するなど)を回避する ことができ,備えとしての機能を果たすと考えられる(Miller and Orr(1 966), Kim et al.(1 998))。 一方で,現金は収益を生まない資産である。したがって,収益を生む投資案件があるの にもかかわらず,実行せずに現金として保有することは,収益獲得の機会を逃すことを意 味する。これは現金保有によって生じる機会費用である。また,余剰現金の保有は,Jensen and Meckling(1 976)や Jensen(1986)が指摘したフリーキャッシュフローの問題を生 起させ,NPV(Net Present Value)が負の非効率な投資を通じて株主価値を毀損させる 。 可能性がある(Lang et al.(1991), Harford(1999)). これまでの現金保有に関する研究では, 上記の現金を保有することのメリットとデメ リットに対応して,取引的動機(Transaction Motive),予備的動機(Precautionary Motive) , エージェンシー動機(Agency Motive)の3つを現金保有の動機として挙げている。1990 年代から米国を中心に,これらの動機に基づいて現金保有の決定要因に関する実証研究が 多く蓄積されてきた。しかし,近年における現金保有水準の上昇をこれら3つの動機では 十分に説明できておらず(これを Cash holdings puzzle と呼ぶ),新たな現金保有の動機 の模索が試みられている。 その新たな現金保有の動機として最も有力視されているのが,節税を目的とした動機 (以下,節税動機)である。この節税動機(Tax Motive)は,多国籍企業の節税スキーム.  経営と所有が分離している企業形態では,経営者と所有者(株主である投資家)の間に利益相 反が生じる。また,両者の間には情報の非対称性が存在する場合には,いわゆるエージェンシー 問題が発生する。  現金保有の決定要因を行動ファイナンスのアプローチで解明を試みた研究もある。たとえば, Chen et al.(2011)は個人主義(Individualism)や不確実性回避(Uncertainty avoidance) の観点から,これらの強弱が現金保有に及ぼす影響をクロスカントリー分析で検証している。. 96( ) 96 ─ ─ .

(3) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). に着目しており,海外子会社で発生した利益を本国の本社へ送還する際に支払ういわゆる 送還税(Repatriation tax)が現金保有に影響するというものである。表1は米国の税対 策を監視する民間団体 Citizens for Tax Justice による2012年3月のレポート(以下, CTJ レポート)の結果を整理したものであり,2011年末から2012年末の海外現金保有残高 の増加額の上位10社を示している。IT 関連会社や製薬会社が多く,知的財産などの技術 の移転が容易な産業において利益の国外移転が進み,結果として海外の現金保有が増加し たと考えられる。. 表1 米国企業による海外現金保有残高―増加額が50億ドル以上の10社― Corporation(Industry Classification) Apple(Electronic computers) Microsoft(Prepackaged software) Pfizer(Pharmaceutical preparations) Merck(Pharmaceutical preparations) Google(Information retrieval services) Abbott Laboratories(Pharmaceutical preparations) Johnson & Johnson(Sanitary paper products) Citigroup(National commercial banks) International Business Machines(Computer related services) General Electric(Conglomerates). Headquarters California Washington New York New Jersey California Illinois New Jersey New York New York Connecticut. Total. end of 2011 end of 2012 2012 growth 54,300 44,800 63,000 44,300 24,800 31,900 41,600 35,900 37,900 102,000. 82,600 60,800 73,000 53,400 33,300 40,000 49,000 42,600 44,400 108,000. 28,300 16,000 10,000 9,100 8,500 8,100 7,400 6,700 6,500 6,000. 480,500. 587,100. 106,600. 注:CTJ レポートをもとに筆者が作成。業種分類は SIC に従っており,金額の単位は100万ドルである。. 現金保有行動における節税動機は,米国の上場企業を対象に実証研究が進んでおり,説 明力のある現金保有の動機として合意が形成されつつある(Foley et al.(2007), Pinkowitz et al.(2 013), Gao et al.(2 013))。 我が国においても同様の傾向がみられる。経済産業省の「海外事業活動基本調査」によ ると,2013年度の海外子会社の内部留保残高は約35兆円であり,無視できないほどのレベ ルに達している。また,過去の推移を見ても,海外子会社の内部留保残高は持続的に増加 しており,内部留保と現金保有が同じでないことに留意する必要があるが,我が国企業の 現金保有行動においても,節税動機が説明力を持つ可能性がある。しかし,筆者が知る限 り,我が国の上場企業を対象に節税動機による現金保有を検証した実証研究は存在してお.  CTJ レポートは,主要な米国企業の多くが法人税率の低い国で海外子会社を設立し,そこで得 た利益を本国に送金せずに現金として留保する節税スキームを採用することで課税を回避してい ると報告している。外国企業を誘致するために,各国が法人税率の引き下げ競争を行ったことも, このような節税スキームが浸透した要因と考えられる(Deverux et al.(2008))。また,同レポー トの4頁には,2011年末から2 012年末にかけての増加額が5億ドル以上の92社が掲載されている。 併せて参照されたい。. 97 ─ 97( ) ─ .

(4) 第62巻 第1号. らず,解明が進んでいないのが現状である。 そこで本稿では2000年から2012年までの上場企業を用いて,海外事業活動(海外売上高 比率を代理変数として使用)が現金保有水準に及ぼす影響について検証した。その結果, 海外事業活動が現金保有水準に正の影響を与えていることを発見しており,節税動機が説 明力のある決定要因であることがわかった。この結果は米国企業を対象として実施された 先行研究と整合的である。また,現金保有水準の調整過程を考慮した動学モデルを仮定し, 節税動機が最適な現金保有水準への調整スピードに与える影響についても検証を行った。 その結果,節税動機は調整スピードに影響を与えていないことがわかった。 しかし,海外売上高比率を代理変数とした分析では,現金保有水準の上昇が節税動機に よるものなのか海外事業参入によるリスク増加によるものなのかが識別できない。この問 題を解決するためには海外子会社の財務情報などのより詳細なデータが必要である。 本稿の構成は次のとおりである。第2節では現金保有の動機について説明する。特に, 節税動機については詳しく紹介し,本稿の検証仮説を設定する。第3節では分析に用いる サンプルと分析方法について説明を行い,第4節で分析結果の解釈を行う。そして第5節 では,本稿のまとめと今後の課題について述べる。. 2. 現金保有の動機. そもそも,Modgliani and Miller(1 956)が想定したような完全な資本市場(Perfect capital markets )の世界では,取引コスト,情報の非対称性,そして税金が存在しない ため現金を保有する動機は存在しない。たとえ現金を保有したとしても株主の価値は不変 であり,現金は単純に負の負債(Negative debt)だと解釈することができる。 しかし,現実世界の資本市場は完全でないことは言うまでもない。この資本市場の不完 全性によって金融取引に摩擦が生じ,現金は単純に企業の資本構成における負の負債では なく,何らかの便益を持つことになり,現金を保有する動機が生まれる。以下では伝統的 にこれまでの先行研究で提示されている取引的動機,予備的動機,そしてエージェンシー 動機を簡単に説明する。また,近年新たに登場した節税動機についても説明を行い,本稿 で検証を行う仮説を提示する。. 2.1 取引的動機,予備的動機,エージェンシー動機 取引的動機と予備的動機は,古くは Keynes(1936)によって指摘された流動性保有の 98 ─ 98( ) ─ .

(5) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). 動機である。取引的動機は,ビジネス上で生じた売上と支払いのミスマッチに基づく現金 の保有動機である。より具体的には,支払いに必要な資金を調達する際に発生する取引コ スト削減を目的とした現金保有動機といえる。取引動機によると,現金と代替的な資産 (たとえば,ネット運転資本やキャッシュフローなど)を多く保有している企業や,キャッ シュマネジメントシステムを採用しているような規模の大きい企業では現金保有水準が低 くなると予想される。これまでの研究ではこの予想と整合的な結果が得られている(Vogel and Maddala(1967),Mulligan(1997), Opler et al.(1999), Subramanian et al.(2011))。 また,現金を保有することで生じる機会費用も取引コストとみなして,取引的動機の一部 として分析している研究もある(Bate et al.(2009), Zhou(2009))。 一方,予備的動機は流動性ショックへの備えとして現金を保有する動機である。予備的 動機にしたがえば,キャッシュフローや利益のボラティリティが高い企業ほど,現金保有 を増やすことになる(Kim et al.(1 998), Bate et al.(2 009), McLean(2011))。また, 資本市場へのアクセスが困難な企業ほど,現金保有の動機が強いといえる(Almedia et al. (2004), Khurana et al.(2006))。成長過程にあり有益な投資プロジェクトをもつ企業は, 流動性ショックによって投資を断念する費用が高くなるため,予備的に現金を保有する動 機が強いといえる。 次にエージェンシー動機は,投資家と経営者との間に情報の非対称性が存在することに よる現金保有動機であり,さらに,フリーキャッシュフロー仮説とペッキングオーダー仮 説の2つに分類される。フリーキャッシュフロー仮説は,エントレンチメントされた経営 者(Entrenched Manager)が自身の保身を目的とした現金保有動機である。したがって, 経営者の持ち株比率が高い場合には現金保有水準が高くなると予想される。フリーキャッ シュフロー仮説のもとでは,負債による規律付けによって,過剰な現金保有を抑止できる と考えられる。 一方,ペッキングオーダー仮説は,資金調達の費用を最小化することを目的とした現金 保有である。情報の非対称性が深刻な企業は,外部からの資金調達にエージェンシコスト が発生し,資金調達コストが高くなるため,資金調達コストがかからない内部資金,すな わち現金を利用し,資金調達費用の最小化を行うというものである。したがって,このよ うな企業の資金調達行動を考えるならば,情報の非対称性が深刻な企業ほど現金保有を行 うと予想される。先行研究では,これらの予想と整合的な結果が得られている(Dittmar et al.(2 003), Ozkan and Ozkan(2004), Kuan et al.(2 011))。. 99 ─ 99( ) ─ .

(6) 第62巻 第1号. 2.2 節税動機 現金保有の節税動機は,多国籍企業における節税スキームの視点から,Foley et al.(2007) の研究によって近年に提唱された動機である。節税動機を検証した先行研究は数少なく, 海外子会社の財務データが必要になるため,分析があまり進んでいない。 Foley et al.(2 007)は,1982年から2004年まで米国に所在する企業(ただし,1984年時 点の総資産額が100万ドル以上の企業)のデータを対象に節税対策と現金保有の関係を検 証している。海外子会社の現金保有や財務情報(主にR&D投資や設備投資金額など)の データは BEA(Bureau of Economic Analysis)の米国海外直接投資調査のユニークデー タを利用している。定量分析は,Opler et al.(1999)や Bate et al.(2009)の分析フレー ムワークに従っている。 検証の結果,海外子会社で創出した利益を米国へ送還する税率(repatriation tax)が 高い企業ほど現金保有水準が高く,その現金は海外子会社で保有されていることが示され た。海外子会社の現金保有水準は,R&D投資の比重が高い技術指向型の企業で高いこと が示されており,前節で議論した CTJ レポートの結果と整合的である。また,当然の結 果であるが,海外利益の総資産比率が高い企業ほど,海外子会社の現金保有水準が高いこ とが報告されている。 この他にも,Pinkowitz et al.(2013)は,米国企業のデータを用いて金融危機前後の現 金保有行動を分析しており,多国籍企業(海外売上高比率が25%以上を基準)が金融危機 後有意に現金保有水準を高めていることを発見している。Pinkowitz et al.(2013)と同 様に,Gao et al.(2013)は海外売上高比率で多国籍企業を定義し(ただし,20%以上を 基準),米国における上場企業と非上場企業のデータを用いて分析している。分析の結果, 上場企業と非上場企業ともに多国籍企業であることが現金保有水準を高めていることを報 告している。 本稿では先行研究の結果から,検証仮説として以下の2つを設定する。. 仮説1:海外事業活動は節税動機によって,現金保有比率を上昇させ,最適な現金保有水 準への調整が遅くなる 仮説2:またその影響は技術指向型の企業でより強い  Pinkowitz et al.(2013)では,過去(金融危機以前)の現金保有の水準から説明できる現金保 有を“通常”な現金保有(Normal Cash Holdings)と呼び,説明できない現金保有を“異常” な現金保有(Abnormal Cash Holdings)と呼んでいる。ここでの多国籍企業に見られる現金保 有水準の上昇は,異常な現金保有の上昇を意味している。. 100 ─ 100( ) ─ .

(7) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). これらの仮説は伝統的な現金保有の動機, すなわち, 取引的動機, 予備的動機, そして エージェンシー動機による決定要因をコントロールした上で検証を行う。 以下の表2は各動機と代理変数,ならびに予想される影響を整理したものである。代理 変数の選択については先行研究に従っている。表2の動機の列で示しているように,一つ の現金保有の動機が複数の個別要因ならびに代理変数でカバーされており,またその逆の ケースも存在しているため,結果の解釈には注意が必要である。たとえば,R&D売上高比率 は情報の非対称性の代理変数として利用されることが多いが(Aboody and Lev(2 000)), R&D投資が多いということは投資機会が豊富であるとも解釈できる。したがって,R&D 売上高比率はエージェンシー動機と予備的動機を説明するための代理変数となる。また, エージェンシー動機はR&D売上高比率と負債比率,そして配当の有無の3つの代理変数 でカバーされている。. 表2 動機と予想される結果の整理 個 別 要 因. 代 理 変 数. 影響(予想). 動機. キャッシュマネジメントにおける規模の経済性 キャッシュフローの創出力 現金保有との代替性 投資機会の豊富さ 事業における情報の非対称性の強さ キャッシュフローのボラティリティ 負債による規律付け 資金調達の容易度 税負担:節税スキーム. 総資産の対数値 キャッシュフロー ネット運転資本総資産比率,キャッシュフロー 時価簿価比率,CAPEX 総資産比率,R&D売上高比率 R&D売上高比率 産業におけるキャッシュフローの標準偏差 負債比率 配当の有無 海外売上高率,技術指向型産業. - -,+ - + + + -,+ - +. T T,P T P P,A P A P,A X. 注1:先行研究をもとに筆者が作成。 注2:Tは Transaction Motive, Pは Precautionary Motive, Aは Agency Motive, Xは Tax Motive を示している。. 3. サンプルと分析手法. 本節では,仮説検証に用いるサンプルと定量分析のモデルを説明する。定量分析のモデ ルについては,静学的な現金保有の決定要因モデルと現金保有のトレードオフ理論に基づ いた動学的な部分調整モデルを採用する。部分調整モデルは資本構成や現金保有行動の分 析でよく用いられている手法である。. 3.1 分析サンプルと記述統計 検証に用いるサンプルは,我が国に上場する一般事業会社(金融保険業を除く)の2000 101 ─ 101( ) ─ .

(8) 第62巻 第1号. 年から2012年までの1 3年間のデータである。以下の表3は分析に用いる変数の記述統計 表である。各変数については異常値処理として上下05 . %を除去している。これらの企業以 外にも,決算月数が1 2ケ月未満の企業,総資産額のデータが欠損している企業についても サンプルから除去している。 サンプル期間における現金総資産比率(CASH)は平均値が1 6.67%,中央値が13.05%, さらに,事業用資産(総資産-非事業用金融資産)で現金保有額を除した現金ネット総資 産比率(CASH2)は平均値が24.76%,中央値が15.01%となっている。これらは右に歪ん だ分布をしており,正規分布に従っていない。そこで回帰分析ではこれらの変数について 対数変換を行ったものも利用する。 図1はサンプル期間である2 000年から2012年まで現金総資産比率の推移を示している。 2008年に生じた金融危機時に低下が見られるが,それ以降は急激に上昇しており,総じて 上昇傾向にあることが見て取れる。. 表3 記述統計表 平均値. 標準偏差 最小値. 25%. 中央値. 75%. 最大値. 7.30 7.88. 13.00 14.95. 21.90 28.04. 77.15 337.60. 被説明変数 CASH CASH2. 現金総資産比率 現金ネット総資産比率. (%) (%). 16.56 24.43. 13.04 31.60. 0.63 0.64. 説明変数 SIZE 総資産額 (百万円) 204,862 707,621 127 16,322 40,715 113,395 21,200,000 CF キャッシュ・フロー総資産比率 (%) 0.37 6.36 -71.22 -0.61 1.00 2.99 21.13 NWC ネット運転資金総資産比率 (%) 0.97 16.17 -65.71 -9.32 2.02 11.94 45.79 MB 時価簿価比率 (%) 114.30 67.60 42.17 83.09 97.78 119.74 793.98 CAPEX 設備投資総資産比率 (%) 3.89 3.86 0.00 1.16 2.83 5.38 25.89 R&D R&D投資売上高比率 (%) 1.53 2.64 0.00 0.00 0.39 2.02 21.78 CFVOL キャッシュフローのボラティリティ (%) 3.41 5.18 0.17 0.99 1.86 3.71 72.72 LEVERAGE 負債比率 (%) 21.53 18.83 0.00 4.53 18.01 34.21 91.31 DIV_DUMMY 配当有無ダミー (0,1) 0.83 0.38 0.00 1.00 1.00 1.00 1.00 FSALES 海外売上高比率 (%) 12.10 20.17 0.00 0.00 0.00 18.67 100.00 FSALES_DUMMY 海外売上高比率が25%以上ダミー (0,1) 0.20 0.40 0.00 0.00 0.00 0.00 1.00. 注1:それぞれの変数の定義は次のとおりである。CASH = (現預金及び現金同等物+有価証券)/ 総 資産×1 00,CASH2=現預金及び現金同等物+有価証券)/ (総資産-現預金及び現金同等物- 有価証券)×100,SIZE=総資産額(百万円) ,CF=税金等調整前利益+減価償却費-支払い利 息-法人税-配当)/ 総資産×100, NWC =(流動資産-流動負債-現預金及び現金同等物- 有価証券)/総資産×100,MB=時価総額/総資産×1 00,CAPEX=設備投資額/総資産×1 00, R&D=R&D投資額/売上高×1 00,CFVOL=CF の過去5年標準偏差,LEVERAGE=(短 期借借入金・社債+長期借入金・社債・転換社債)/ 総資産×100,DIV_DUMMY =配当の支 払いがある場合に1をとるダミー,FSALES=海外売上高/総売上高×1 00,FSALES_DUMMY =FSALES が2 5以上の場合に1をとるダミー。 注2:サンプル数は32,983である。また,異常値処理として,上下0.5%を除去している。.  金融保険業は日経業種中分類にもとづき,銀行,証券,保険,そしてその他金融(それぞれの 業種コードは47,49,51,そして52)に属する企業とした。. 102 ─ 102( ) ─ .

(9) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡) 図1 現金総資産比率の推移―2000年から2012年―. 注:実線は各年度の現金総資産比率の平均値を示しており,破線はその線形近似を示している。. 3.2 分析手法 本稿では,企業の現金保有行動についてトレードオフ理論を仮定する。トレードオフ理 論は現金保有の限界費用と限界便益のトレードオフによって最適な保有水準が決定される というものである。 ここでの現金を保有することの限界費用は,追加的に現金を保有す ることで生じる機会費用とエージェンシー費用であり,限界便益は,追加的に現金を保有 することで享受できる資金調達面での便益である。これらの限界費用と限界便益は各動機 と関連している。 トレードオフ理論によると,最適な現金保有水準が存在するため,企業はその最適水準 をターゲットして調整を行うことになる。 ここで,. を現金保有水準,. を最適. な現金保有水準とすると,調整過程は以下のように表現することができる。.  . . ただし,. は企業 の. 期から 期への現金保有水準の変化を表し,. は調整ス. ピードを表している。本稿では,最適な現金保有水準の決定要因として以下のモデルを想 定する。  現金保有行動には,ペッキングオーダー仮説にもとづいて,最適な水準は存在しないという資 金調達のヒエラルキー理論(Financing hierarchy theory)も存在する。しかし,これまでの 研究では明確に区別して定量分析が実施されているわけではなく,モデルの特定化においてダイ ナミックな調整過程を導入するか否かの違いだけである。. 103( ) 103 ─ ─ .

(10) 第62巻 第1号.  . . ここで,それぞれ. は取引的動機,. は予備的動機,. は節税動機の変数ベクトルである。また,. と. はエージェンシー動機,そして. はそれぞれ企業の固定効果と時間効果. である。式は静学的な現金保有水準の決定要因をモデル化しており、最適な現金保有水 準は,各動機の個別要因の変化と確率的な要因で決定され,その調整は瞬時に行われると 仮定している。また,式で得られた. の予測値を用いて,の部分調整モデルを直. 接推定することも可能である。さらに,節税動機に着目して,最適な現金保有水準への調 整スビードに影響を及ぼしているか否かを式を以下のように拡張することで検証する。.  . . ここで,. が負であれば,節税動機によって最適な現金保有水準への調整スピードが低下. していることを意味する。 本稿では,現金保有水準の静学的な決定要因モデルである式と,動学的な部分調整モ デルの式と式の両方を推定することによって,仮説の検証を行う。この他にも Ozkan and Ozkan(2004)で分析されているように,式に式を代入することで,ダイナミッ クパネルによる検証も可能である。本稿でもダイナミックパネルによる分析を試みたが, 推定上の制約をクリアできなかったため,メインの検証結果として掲載はしていない。ダ イナミックパネルによる検証結果は補論を参照していただきたい。. 4. 回帰分析の結果とその解釈. 以下の表4は式の静学モデルの推定結果を示している。パネルAは仮説1の検証結果 であり,推定は観察不可能な要因(企業の固定効果と時間効果)をコントロールするため, 2元配置固定効果モデルを用いている。結果を見てみると,取引的動機や予備的動機,そ してエージェンシー動機の変数は一部で予想と整合的でないものあるが,概ね予想と整合 的である。節税動機の変数である海外売上高比率(FSALES)は正で統計的に有意な係数 が得られており,仮説を支持する結果となっている。同様に,海外売上高比率が25%のダ 104( ) 104 ─ ─ .

(11) 表4 静学モデル(式)の推定結果 パネルA:仮説1の検証結果 Model 1 CASH Log(SIZE) CF. MB. 105( ) 105 ─ ─ . CAPEX R&D CFVOL LEVERAGE DIV_DUMMY FSALES. -0.066*** (0.021) 0.005*** (0.001) -0.012*** (0.001) 0.000*** (0.000) -0.013*** (0.001) 0.003 (0.005) 0.001 (0.001) -0.010*** (0.001) 0.013 (0.015) 0.004*** (0.001). FSALES_DUMMY 定数項 N R2. 33.272*** (3.937) 32,983 15.3%. 3.435*** (0.219) 32,983 10.8%. Model 3 CASH. Model 4 log(CASH). -1.206*** (0.368) 0.095*** (0.013) -0.246*** (0.013) 0.011*** (0.002) -0.240*** (0.020) 0.178** (0.080) 0.028 (0.027) -0.193*** (0.012) 0.224 (0.228). -0.062*** (0.021) 0.005*** (0.001) -0.012*** (0.001) 0.000*** (0.000) -0.013*** (0.001) 0.003 (0.005) 0.001 (0.001) -0.010*** (0.001) 0.013 (0.015). 0.531** (0.267) 33.101*** (3.936) 32,983 15.2%. 0.068*** (0.021) 3.409*** (0.219) 32,983 10.6%. 注1:*,**,そして***はそれぞれ統計的に1 0%,5%,そして1%有意を表している。 注2:( )内は企業クラスターの標準誤差を示している。. Model 5 CASH2 -2.561*** (0.980) 0.204*** (0.039) -0.561*** (0.035) 0.033*** (0.006) -0.577*** (0.055) 0.738*** (0.276) 0.073 (0.076) -0.424*** (0.032) -0.029 (0.694) 0.012 (0.026). 58.894*** (10.649) 32,983 10.7%. Model 6 log(CASH2) -0.084*** (0.025) 0.006*** (0.001) -0.016*** (0.001) 0.001*** (0.000) -0.016*** (0.001) 0.006 (0.006) 0.002 (0.002) -0.013*** (0.001) 0.015 (0.017) 0.004*** (0.001). 3.866*** (0.267) 32,983 12.2%. Model 7 CASH2. Model 8 log(CASH2). -2.560*** (0.976) 0.204*** (0.039) -0.561*** (0.035) 0.033*** (0.006) -0.577*** (0.055) 0.739*** (0.276) 0.074 (0.076) -0.424*** (0.032) -0.028 (0.694). -0.079*** (0.025) 0.006*** (0.001) -0.016*** (0.001) 0.001*** (0.000) -0.016*** (0.001) 0.006 (0.006) 0.002 (0.002) -0.013*** (0.001) 0.015 (0.017). 0.684 (0.610) 58.906*** (10.628) 32,983 10.7%. 0.074*** (0.024) 3.839*** (0.267) 32,983 12.1%. 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). NWC. -1.236*** (0.368) 0.094*** (0.013) -0.246*** (0.013) 0.011*** (0.002) -0.242*** (0.020) 0.177** (0.079) 0.027 (0.027) -0.193*** (0.012) 0.220 (0.228) 0.025** (0.010). Model 2 log(CASH).

(12) パネルB:仮説2の検証結果 Model 1 CASH Log(SIZE) CF NWC MB CAPEX R&D. LEVERAGE DIV_DUMMY FSALES×HIGHTECH_DUMMY  FSALES×NO_HIGHTECH_DUMMY . -0.066 *** (0.021) 0.005 *** (0.001) -0.012 *** (0.001) 0.0004 *** (0.000) -0.013 *** (0.001) 0.003 (0.005) 0.001 (0.001) -0.010 *** (0.001) 0.013 (0.015) 0.005 *** (0.001) 0.003 *** (0.001). FSALES_DUMMY×HIGHTECH_DUMMY  FSALES_DUMMY×NO_HIGHTECH_DUMMY  定数項 F statistics = F statistics = N R2. 33.269 *** (3.937) 0.000. 3.431 *** (0.219) 0.810. 32,983 15.2%. 32,983 10.8%. Model 3 CASH. Model 4 log(CASH). -1.205 *** (0.368) 0.095 *** (0.013) -0.246 *** (0.013) 0.011 *** (0.002) -0.241 *** (0.020) 0.178 ** (0.080) 0.028 (0.027) -0.193 *** (0.012) 0.222 (0.228). -0.061 *** (0.021) 0.005 *** (0.001) -0.012 *** (0.001) 0.0004 *** (0.000) -0.013 *** (0.001) 0.003 (0.005) 0.001 (0.001) -0.010 *** (0.001) 0.013 (0.015). 1.004 * (0.583) 0.417 (0.298) 33.076 *** (3.936). 0.123 ** (0.054) 0.055 ** (0.022) 3.406 *** (0.219). 0.810. 1.390. 32,983 15.2%. 32,983 10.6%. 注1:*,**,そして***はそれぞれ統計的に1 0%,5%,そして1%有意を表している。 注2:( )内は企業クラスターの標準誤差を示している。. Model 5 CASH2 -2.570 *** (0.980) 0.204 *** (0.039) -0.561 *** (0.035) 0.033 *** (0.006) -0.577 *** (0.055) 0.740 *** (0.276) 0.073 (0.076) -0.425 *** (0.032) -0.024 (0.694) -0.017 (0.054) 0.024 (0.030). Model 6 log(CASH2) -0.083 *** (0.025) 0.006 *** (0.001) -0.016 *** (0.001) 0.001 *** (0.000) -0.016 *** (0.001) 0.006 (0.006) 0.002 (0.002) -0.013 *** (0.001) 0.014 (0.017) 0.005 *** (0.002) 0.003 *** (0.001). 59.009 *** (10.644) 0.430. 3.862 *** (0.267) 0.530. 32,983 10.7%. 32,983 12.2%. Model 7 CASH2. Model 8 log(CASH2). -2.559 *** (0.976) 0.204 *** (0.039) -0.561 *** (0.035) 0.033 *** (0.006) -0.578 *** (0.055) 0.738 *** (0.276) 0.074 (0.076) -0.424 *** (0.032) -0.032 (0.694). -0.079 *** (0.025) 0.006 *** (0.001) -0.016 *** (0.001) 0.001 *** (0.000) -0.016 *** (0.001) 0.006 (0.006) 0.002 (0.002) -0.013 *** (0.001) 0.015 (0.017). 1.367 (1.276) 0.520 (0.688) 58.870 *** (10.628). 0.135 ** (0.060) 0.059 ** (0.025) 3.836 *** (0.267). 0.340. 1.350. 32,983 10.7%. 32,983 12.1%. 第62巻 第1号. 106( ) 106 ─ ─ . CFVOL. -1.236 *** (0.368) 0.094 *** (0.013) -0.246 *** (0.013) 0.011 *** (0.002) -0.242 *** (0.020) 0.177 ** (0.079) 0.027 (0.027) -0.193 *** (0.012) 0.220 (0.228) 0.026 (0.017) 0.025 ** (0.012). Model 2 log(CASH).

(13) 表5 動学モデル(式と式)の推定結果―部分調整モデル― Model2 ΔCASH. Model3 ΔCASH. Model4 ΔCASH2. Model5 ΔCASH2. Model6 ΔCASH2. 0.137*** (0.005). 0.139*** (0.005) -0.014 (0.014) 0.483*** (0.071). 0.139*** (0.005). 0.190*** (0.011). 0.194*** (0.011) -0.026 (0.040) 1.116*** (0.188). 0.193*** (0.011). (Cash t*-Cash t-1)×FSALES_DUMMY. 107( ) 107 ─ ─ . FSALES_DUMMY (Cash t*-Cash t-1)×FSALES_DUMMY×HIGHTECH_DUMMY FSALES_DUMMY×HIGHTECH_DUMMY 定数項. -0.019 (0.033) N 28,969 R2 8.4%. 注1:*,**,そして***はそれぞれ統計的に1 0%,5%,そして1%有意を表している。 注2:( )内は企業クラスターの標準誤差を示している。. -0.123*** (0.038) 28,969 8.6%. -0.001 (0.000) 0.014*** (0.003) -0.049 (0.033) 28,969 8.5%. -0.240*** (0.092) 28,969 12.8%. -0.482*** (0.110) 28,969 12.9%. -0.002*** (0.000) 0.027*** (0.006) -0.305*** (0.094) 28,969 12.9%. 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). (Cash t*-Cash t-1). Model1 ΔCASH.

(14) 第62巻 第1号. ミー(FSALES_DUMMY)についても正で統計的に有意であり,仮説を支持する結果と なっている。 一方,パネルBは仮説2の検証結果を示している。次に,表5は仮説2の検証結果を示 している。仮説2を検証するためには技術指向型の企業を特定化しなければならない。そ こで本稿では技術指向型企業を「日経業種中分類の精密機器,医薬,通信,そして電気機 器の業種に属しており,R&D投資売上高比率が5%以上」と定義し,ダミー変数 HIGH _TECH_DUMMY を作成して分析している。また,仮説2は係数の大きさの違いを検 証 す る こ と に な る が, 一 般 的 に 適 用 さ れ る 交 差 項(す な わ ち, FSALES × HIGH _TECH_DUMMY )を用いた分析では, 固定効果との多重共線性によって推定すること ができない。そこで,本稿では技術指向型の企業でないダミー NO_HIGH_TECH_DUMMY を作成し,FSALES×HIGH_TECH_DUMMY と FSALES×NO_HIGH_TECH_DUMMY の交差項の係数の大きさを比較することで検証を可能にしている。 FSALES_DUMMY についても同じである。 結果を見てみると,係数の比較の検定(F検定)は係数が同じであるという帰無仮説を 棄却できないことが示されている。したがって,仮説2は支持されず,技術指向型である ことが,節税動機による現金保有行動を強めているわけではないことがわかった。 表 5 は 部 分 調 整 モ デ ル の 推 定 結 果 で あ る。 仮 説 2 の 検 証 の た め, 式 で 示 し た FSALES_DUMMY の交差項に加えて,HIGH_TECH_DUMMY をさらに掛けあわせた 交差項についても分析している。結果は,これらの交差項が予想と整合的な負の係数を示 しているが,全体的な傾向として統計的に有意でない。唯一,Model6で FSALES_DUMMY ×NO_HIGH_TECH_DUMMY の交差項が統計的に有意である。したがって,調整スピー ドに節税動機が影響を与えるという仮説は支持されない。. 5. ま と め と 課 題. 本稿では海外事業活動を通じた節税動機が現金保有水準に与える影響を分析している。 節税動機による現金保有は,米国の研究を中心に近年注目を浴びており,これまでの現金 保有の決定要因(すなわち,取引的動機,予備的動機,そしてエージェンシー動機)では.  上記の定義に該当する技術指向型の企業は16 , 94社となっている。この他にも,R&D投資売上 高比率が75%点(17 . %)以上という条件でも分析を実施したが(この場合の該当企業は32 , 98社), 推定結果に大きな変化はみられなかった。. 108 ─ 108( ) ─ .

(15) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡). 説明できない現金保有行動を説明する要因として合意が形成されつつある。我が国におい ても,海外子会社の内部留保額が増加傾向にあり,節税動機による現金保有行動が説明力 を持つ可能性がある。しかし,依然として節税動機を検証した研究は存在しておらず,実 証研究の蓄積が必要な研究テーマである。 そこで,本稿では先行研究に従って,海外売上高比率を海外事業活動の代理変数として 利用し,静学モデルと動学モデルによって現金保有水準との関係を検証した。その結果, 静学モデルでは,海外売上高比率は現金保有水準に正の影響を与えていることを発見して いる。すなわち,我が国においても節税動機が現金保有の決定要因として説明力を持つこ とを示している。しかし,部分調整モデルでは調整スピードに節税動機が影響を与えると いった関係は発見できなかった。また,これまでの先行研究で示されているように,節税 動機が現金保有に与える影響が技術指向型の企業でより顕著であるかどうかについて追加 的な検証を行ったが,有意な結果は得られなかった。 最後に本研究の課題について述べておきたい。本稿では,海外事業活動を通じた節税動 機の代理変数として,海外売上高比率を用いているが、必ずしも節税動機の説明力を検証 できているわけではない。海外事業を展開することによる事業リスクの上昇が現金保有水 準を高めるといった因果関係も考えられる。すなわち,予備的動機による現金保有水準の 上昇である。したがって,海外売上高比率は節税動機の代理変数としては適切ではなく, 検証結果の正確性に課題が残る。 しかし,入手できる海外事業活動のデータは多くなく,節税動機と上記の意味での予備 的動機の識別を可能にできるような変数を見つけてくることは難しい。したがって,この 問題を根本的に解決するためには,Foley et al.(2007)の研究で使用されているような海 外子会社の属性や財務情報を用いることが考えられる。一つの可能性として,経済産業省 が実施している「海外事業活動基本調査」の個票データの利用を申請し,分析を実施する ことが考えられるが,利用できる財務情報に制限があるため,リサーチデザインを工夫し なければならない。この点については今後の課題として取り組んでいきたい。. 109 ─ 109( ) ─ .

(16) 第62巻 第1号. 補論 ダイナミックパネル分析による推定. 本論では,静学モデルの式の推定と動学モデルの部分調整モデルの式と式を直接 推定することで仮説の検証を行った。他のリサーチデザインとして,式に式を代入し て整理した以下のような動学モデルの推定式が考えられる。. . . ここで,. である。また,. の関数形は式と同様に線形を仮定する。. 式は被説明変数の1期ラグの項が説明変数に含まれており,ダイナミックパネルの構造に なっている。 この場合, 被説明変数のラグ項と誤差項が相関するため,推定されたパラ メータに一致性がない。そこで本稿では Arellano and Bond(1991)の方法を採用し, GMM による推定を行った。推定結果は以下の表Aである。 結果を見ると, 非説明変数のラグ項が正で統計的に有意な係数を示しており(調整ス ピードのパラメータ. は現金総資産比率のモデルで約05 . 3,現金ネット総資産比. 率のモデルで約05 . 6),最適な現金保有水準に向かって調整が行われていることが示された。 しかし,動学的な調整過程を考慮した場合には,節税動機に関する変数は統計的に有意で はなく,仮説1は支持されない。 Arellano and Bond(1991)のダイナミックパネルの推定において,操作変数が有効に 働き一致推定量が得られるためには,ARのオーダーで系列相関がないという制約を満 たさなければならない。そこで,Arellano Bond の検定を実施したところ,系列相関がな いという帰無仮説を棄却されないことがわかった。したがって,系列相関の制約はクリア している。しかし,Sargan の過剰識別制約の検定を実施したころ,すべてのモデルで棄 却されることが示された。これらの結果から,操作変数の選択に改善が必要であることが 示されている。そこで,Ozkan and Ozkan(2004)に従い,被説明変数のラグ項以外に も他の説明変数の2期ラグを操作変数として用いたが,Sargan の過剰識別制約の検定は 改善されなかった。そもそも,現金保有水準の決定要因の分析では,動学的な分析フレー ムワークがフィットしない可能性もあり,より進んだ推定モデルの模索を行う必要がある。  結果の掲載は割愛するが,静学モデルと同様に交差項を利用して仮説2の検証を行ったが,こ ちらも支持されなかった。. 110( ) 110 ─ ─ .

(17) 海外事業活動が現金保有水準に及ぼす影響(中岡) 表A ダイナミックパネル分析による検証結果. Lag dependent variable Log(SIZE) CF NWC MB CAPEX R&D CFVOL LEVERAGE DIV_DUMMY FSALES. Model1 CASH. Model2 CASH. Model3 CASH2. Model4 CASH2. 0.468*** (0.029) -0.879 (0.690) 0.050*** (0.015) -0.355*** (0.015) 0.000 (0.002) -0.323*** (0.019) 0.128 (0.086) 0.039 (0.034) -0.115*** (0.017) 0.187 (0.190) 0.012 (0.012). 0.467*** (0.029) -0.862 (0.688) 0.050*** (0.015) -0.355*** (0.015) 0.000 (0.002) -0.323*** (0.019) 0.128 (0.086) 0.040 (0.034) -0.116*** (0.017) 0.186 (0.190). 0.437*** (0.053) -0.328 (1.717) 0.068* (0.041) -0.696*** (0.041) 0.004 (0.007) -0.597*** (0.047) 0.324 (0.250) 0.009 (0.092) -0.261*** (0.041) 0.108 (0.453) 0.011 (0.032). 0.436*** (0.053) -0.325 (1.712) 0.068* (0.041) -0.696*** (0.041) 0.004 (0.007) -0.597*** (0.047) 0.321 (0.250) 0.009 (0.092) -0.261*** (0.041) 0.107 (0.453). FSALES_DUMMY 定数項 N AR AR Sargan test. 20.051*** (7.307) 25,333 -15.32*** 1.14 435.69***. 0.130 (0.251) 19.985*** (7.302) 25,333 -15.32*** 1.16 435.97***. 20.762 (18.085) 25,333 -6.74*** 0.36 316.31***. 0.307 (0.634) 20.800 (18.066) 25,333 -6.74*** 0.36 316.00***. 注1:*,**,そして***はそれぞれ統計的に1 0%,5%,そして1%有意を表している。 注2:( )内は企業クラスターの標準誤差を示している。. 参 考 文 献. Aboody, D., and Lev, B.,(2000)“Information Asymmetry, R&D, and Insider Gains,”The Journal of Finance, Vol.55, pp.27472766. Arellano, M., and Bond, S.,(1991)“Some tests of specification for panel data: Monte Carlo evidence and an application to employment equations,”The Review of Economics Studies, Vol.58, pp.277297. Almeida, H., Campello, M., and Weisbach,M.,(2004)“The cash flow sensitivity of cash,” The Journal of Finance, Vol.59, pp.17771804. Bate, T. W., Kahle, K. M., and Stulz, R. M.,(2009)“Why Do U.S. Firms Hold So Much More Cash than They Used To ?,”The Journal of Finance, Vol.64, pp.19852021. Baumol, W. J.,(1952) “The Transactions Demand for Cash: An Inventory Theoretic Approach,” The Quarterly Journal Economics, Vol.66, pp.545556. ChenY., Dou, P., Rhee, S. G., and Truong, C.,(2011)“National Culture and Cash Holdings Around the World,”Working Paper. Deverux, M. P., Lockwood, B., and Redoano, M.,(2008) “Do Countries Compete over Corporate. 111( ) 111 ─ ─ .

(18) 第62巻 第1号 Tax Rates ?,”Journal of Public Economics, Vol.92, pp.12101235. Dittmar, A., Mahrt-Smith, J., and Servaes, H.,(2003)“International Corporate Gorvernance and Corporate Cash Holidngs,”Journal of Financial and Quantatitive Analysis, Vol.38, pp.111 131. Gao, H., Harford, J., and Li, K.,(2013)“Determinants of corporate cash policy: Insights from private firms,”Journal of Financial Economics, Vol.109, pp.623639. Foley, C. F., Hartzell, J. C.,Titman, S., and Twite, G.,(2007)“Why do firms hold so much cash ? A tax-based explanation,”Journal of Financial Economics, Vol.86, pp.579607. Harford, J.,(1999)“ Corporate Cash Reserves and Acquisitions, ”The Journal of Finance, Vol.54, pp.19691997. Jensen, M. C.,(1986) “Agency Cost for Free Cash Flow, Corporate Finance, and the Takeovers,” American Economic Review, Vol.57, pp.283306. Jensen, M. C., Meckling, W. H.,(1976)“Theory of the firm: Managerial behavior, agency costs and ownership structure,”Journal of Financial Economics, Vol.3, pp.305360. Keynes, J. M.,(1936)“The General Theory of Employment, Interest and Money,”London: Macmillan and Co. Limited. Kim, C., Mauer, D., and Sherman, A.,(1 998)“The determinants of corporate liquidity: theory and evidence,”Journal of Financial and Quantatitive Analysis, Vol.33, pp.335359. Khurana, I., K., Martin, X., and Pereira, R.,(2006)“Financial Development and Cash Flow Sensitivity of Cash,”Journal of Financial and Quantatitive Analysis, Vol.41, pp.787807. Kuan, T., Li, C., and Chu, S.,(2011)“Cash holdings and corporate governance in familycontrolled firms,”Journal of Business Research, Vol.64, pp.757764. Lang, L. H. P., Stulz, R. M., and Walking, R. A.,(1991) “A Test of the Free Cash Flow Hypothesis,” Journal of Financial Economics, Vol.29, pp.3 1 5335. McLean, R. D.,(2011)“ Share issuance and cash savings, ”Journal of Financial Economics, Vol.99, pp.693715. Miller, M. H., and Orr, D.,(1966)“A Model of the Demand for Money by Firms,”The Quarterly Journal of Economics, Vol.80, pp.413435. Modigliani, F., and Miller, M.,(1958)“The cost of capital, corporate finance, and the theory of firm”, American Economic Review, Vol.48, pp.261297. Mulligan, C. B.,(1997)“Scale Economies, the Value of Time, and the Demand for Money: Longitudinal Evidence from Firms,”Journal of Political Economy, Vol.105, pp.10611079. Opler, T., Pinkowitz, L. F., Stulz, R. M., and Williamson, R.,(1999)“The Determinants and Implications of Corporate Cash Holdings,”Journal of Financial Economics, Vol.52, pp.346. Ozkan, A., and Ozkan, N.,(2004)“Corporate Cash Holdings: An Empirical Investigation of UK Companies,”Journal of Banking and Finance, Vol.28, pp.21032134. Pinkowitz, L. F., Stulz, R. M., and Williamson, R.,(2013)“Is There a U.S. High Cash Holdings Puzzle after the Financial Crisis ?,”Fisher College of Business Working Paper Series. Subramanian, V., Tang, T. T., Yue, H., and Zhou, X.,(2 011)“Firm structure and corporate cash holdings,”Journal of Corporate Finance, Vol.17, pp.759773. Tobin, J.,(1956) “The Interest-Elasticity of Transactions Demand for Cash,”Review of Economics and Statistics, Vol.38, pp.242247. Vogel, R. C., and Maddala, G. S.,(1967)“Cross Section Estimates of Liquid Asset Demand by Manufacturing Corporations,”The Journal of Finance, Vol.22, pp.557575. Zhou, J.,(2 009)“Increase in Cash Holdings: Pervasive or Sector-Specific ?,”In 2009 Northern Finance Association Meetings.. 112( ) 112 ─ ─ .

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