米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題 : 第2次大戦後約5年間にわたるリース金融の利用と会計に焦点をあてて
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(2) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). 大規模に小売店舗網を有する有名なチェーン店業者に係る不動産セール・リースバック 取引がアメリカで認知されたのは 1936 年(Safeway Stores, Inc.)であった 1)。この不動 産のセール・リースバックが、企業にとって資金調達の手段として(また同時に、租税回 避の手段として)有効であることが広く知られるようになり、一般に巨額の資金を必要と していた企業と、余剰資金の新しい投資先を探していた生命保険会社等の機関投資家とが 結びついて大きく普及したのは、第二次大戦後である 2)。戦後における企業の資金調達手段 としてのセール・リースバックの人気は、モーゲージ金融等の伝統的な資金調達手段の方 が一層適切であると考えられるときでさえも過熱したものであったともいわれる。 セール・リースバックは、法形式的には売買行為とリース(賃貸借)行為という二つの . . . . 独立した行為から成立しているが、経済実質的には、資金調達を目的とした一つの金融行 為と解される可能性が極めて高い。このことからチェーン・ストア業界を中心とするセー ル・リースバック取引の増大に伴って、当時の法形式的に認識を行う伝統的な会計処理方 法、すなわち、セール・リースバック取引を売買取引とリース取引に分離しておのおの会 計処理する方法、すなわち売却損益が生じることに対して、税務当局、監査を担う公認会 計士や学界から疑問が提起されるようになってきた。そこで、資金調達手段ないし資産の 取得手段としてのセール・リースバックの実態や会計監査等の諸問題を扱った論文が法律 専門ジャーナル誌上に最初に現われたのは 1947 年 3)であり、さらに長期リースの会計問 題を指摘した本格的な論文が会計専門ジャーナル誌上に最初に現われたのは 1948 年にお いてであった 4)。そして、これらのリース取引についての伝統的会計処理法に対する多くの 問題提起や修正を求める声の高まりは、結局のところ、アメリカ会計士協会(AIA)の公表 する会計調査公報第 38 号(ARB38) 「レシーの貸借対照表における長期リースの開示」を 結実させることになった。 本論文では、基本的にセール・リースバックに関する先行研究の限定的な分析に対して 包括的で深い検討を行うものである。第 1 に、リース会計に関する先行研究においてセー ル・リースバック取引が第 2 次大戦直後から数年間にわたり急激に拡大したと論述してい るが、実際のところ、不動産を中心としたセール・リースバック取引の原初的な仕組みは すでに戦前に存在しており、また大学等の教育機関がレシーとなるセール・リースバック 取引が行なわれていた点を指摘する。第 2 に、リースバック取引の具体的なスキーム例を 検討して、リース契約の複雑な仕組みを分析して、当時の法律に基づく会計慣行に対して、 租税上のドクトリンたる「経済的実質」 (economic substance)という考え方がリース会計. ― 54 ―.
(3) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. に極めて明確に反映された実相を明らかにする。第 3 に、セール・リースバックの「経済 的実質」を考察する前提として、売却者―レシーがその仕組みを採用する動機、目的、お よびその仕組みがもたらす経済的側面、および法律上の側面について分析する。第 4 に、 その事実や分析を踏まえた上で、セール・リースバック取引がもたらす事実や会計的含意 についての最初の公式的な指摘は、1947 年 10 月のジャーナル・オブ・アカンウンタンシー 誌の「現在会計問題」にあったことを指摘する(因みに、先行研究書の嶺[1986]には、 その指摘はない) 。第 5 に、やはり会計的側面について、1948 年発表のリース会計に関す る代表的な文献を順次取り上げて検討して、リースバックに含まれる固有の問題点を指摘 する。最終的には、1949 年における証券取引委員会(SEC)のリースに係る公表物、およ び米国会計士協会(AIA)が公表した会計調査公報第 38 号(Accounting Research Bulletin No.38 : ARB38) 「リース使用者の財務諸表における長期リースの公開」の見解、SEC の意 見書、財務省規則 S-X、Carman G. Blough の解説、および当時の有力な会計文献について 吟味して、ARB38 が実施された直後の 1950 年度頃のアメリカにおけるリース会計におけ る規制主および実務の実態を分析する。 なお、セール・リースバックに係る税務上の取扱い、および租税回避スキームの検討は 極めて重要であり会計問題と深い関連性を有する点で十分に論じる必要性があるが、ここ では最小限の指摘に止めて、その十分な分析については『米国におけるセール・リースバッ クをめぐる所得税問題』という論題による他の論文に譲ることとしたい。. 2.第 2 次大戦前後における不動産セール・リースバック (1)はじめに 不動産リースは小売業や百貨店において 19 世紀より使われていたわけであるが、アメ リカにおいてセール・リースバック取引が爆発的に使われ出したのは第二次大戦が終了し て、戦争経済から平和経済への転換が行われた直後から、大規模チェーン・ストアを中心 とする不動産開発および店舗施設購入に関してであった。この時機、アメリカの小売業界 は激しい競争下にあり、スーパーマーケット、ディスカウント・ストアという新たな小売 方式の出現を契機として、まずチェーン・ストアが店舗網拡大のために、通常のモーゲー ジ金融の代替手段としてセール・リースバックを多用した。また、リース金融方式を選択 する際、売却者―レシーが全額出資の不動産子会社を新たに創設してその新子会社に自社 のほとんどの財産を売却してしまうスキームを採ることが生じた 5)。この場合には、子会社. ― 55 ―.
(4) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). が異業種という点で非連結対象となり、企業集団全体としての資産負債が不明となる結果 を招いた点で、連結財務会計の新たな問題も提起された。 いずれにせよ、種々の税務、金融、および会計等に関する利点から、戦後数年間にわたっ てセール・リースバック取引は、チェーン・ストア業界での利用に加えて、製造業におい ても同種案件の大幅な積み上げが進み、このリース技法が戦後、不動産および設備調達の ための金融メニューの一角を占めるようになっていった。. (2)大規模小売業の不動産セール・リースバック ①嚆矢的取引 米国では、第二次大戦前において根源的な農地リース、都会地リースのほか不動産リー スは種々行なわれてきた。20 世紀に入り、合衆国憲法が 1913 年 2 月に改正され、修正第 16 条により連邦所得税が課せられるようになった以降、大きな課題として石油・ガス等の 鉱物資源に係るリースに関する減耗償却(depletion)のほか、レシーに関する減価償却の 損金算入、資本改善(capital improvement)の取扱い等、種々の課税に対する議論が活発 に行われていた 6)。一方、会計上の問題としては、1934 年以降に証券取引委員会(SEC) が設立されたが、法形式を重視した慣習的会計が行われており、公開会社がセール・リー スバック取引を行っていたとしても、戦前ではセール・リースバック取引に対する特別な 表記を SEC が公開会社に義務づけることはなかった 7)。 Cohen[1954]によれば、1936 年に、当時チェーン・ストア業界の代表のひとつであっ た Safeway Stores, Inc. が金融手段として、モーゲージではなくてセール・リースバックを 行うスキームの活用を考案して実践している 8)。Safeway の当時の社長であった L. A. Warren は、Safeway の経営上の要求に合致する店舗用地を購入し、それを開発することを 計画し、各地域の個人投資家に当該場所を売却して同社に長期間にわたりリースバックす ることを実行した 9)。Safeway プログラムは最初の段階から、 「建設―売却―リース」とい うパッケージ金融技法によって、資本市場から資金を引き出す一手段として資金需要側か ら考案されたものである。 一方、1940 年代に入り第 2 次大戦下、大学等の寄付基金を有する多くの教育機関が運営 予算に対して基金収入の低迷に直面していたことを背景として、免税機関(tax-exempt entity)の地位を活用して、この新規の金融手法に参加する最初の投資家(すなわち、レサー) として登場した。教育機関は、自ら所有する財産に関する州税を免除され、またリース料. ― 56 ―.
(5) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 収入に関して連邦所得税も免除されていた 10)。このような税恩典を活用(一種の「売却」) することによって、レサーとして通常要求するリース料水準よりも低いリース料率を要求 することができたために、教育機関は多数のセール・リースバック・スキームにレサーと して参加することになった。 第 2 次大戦中の 1943 年には、すでに当時の有力な百貨店のひとつであった Gimbel’s (ニューヨーク州に本部)が、フィラデルフィアで Cornell University, Yale University, Rochester University の大学の免税機関を参加させて、自社店舗に関するセール・リース バック取引を行っている 11)。また、Lore[1951]によれば、ある事業会社が 1943 年 12 月 に実行したセール・リースバック取引例が記述されている 12)。この事例は、連邦所得税の 申告者たる Century Electric Company が行った自社鋳造所の売却損に係る損金算入を否 認した最高裁判例(1950 年)であった。本事例は、William Jewell College という免税機 関をトラスティーとして参加させる 95 年の長期リース契約が締結されていたが、スキー ム全体として「類似資産の交換」 (exchange of like property)が行われたと判定され大い に注目された税務判例であった。 したがって、セール・リースバック取引は、第 2 次大戦後にまずチェーン・ストアの店 舗確保要求により財産の所有権への拘りを棄てて急激に利用が拡大していったことは確か であるが、大学等の免税機関を組み込む基本的なスキーム(購入―建設―売却―リース計 画)については、すでに第 2 次大戦前において小売業者や製造業者の資金調達や運用の必 要性から既に開発されており、また第 2 次大戦中に大学等の免税機関を参加させたセー ル・リースバック・スキームもまたすでに実践されていたと位置づけなければならない。 この点がこれまでの我が国のリース会計研究では見逃されていたと指摘されよう。. ②大戦末期のセール・リースバック―免税機関を組み込むリース― William A. Cary は、1948 年 11 月、 「企業財産のセール・アンド・リースバックを通じ ての企業ファイナンス」という論文をハーバード・ロー・レビュー誌に公表して、セール・ リースバック取引に関する投資家および企業の観点から、事業、法律、税務、会計等の種々 の側面から包括的な分析を行なっている。Cary[1948]では、生命保険会社 Prudential Life Insurance Co. が推進した、大手チェーン・ストア会社 Allied Stores Corporation と New York 州 , Schenentady に所在する教育機関 Union College との間で 1945 年中に実行さ れた取引事例を戦後のセール・リースバックの典型例 13)として説明している。この取引例. ― 57 ―.
(6) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). は様々な具体的特徴を検討しているので、本論文はこの Cary[1948], Cannon[1948], お よび Cohen[1954]を主に参照して、まずセール・リースバックの基本スキームおよび財 務的な結果等を分析する。 Cary は、セール・リースバックを 6 つ構成部分に分割する。最初の 4 つの部分は、多か れ少なかれ典型的な要素と考えられる 14)。ほとんどの事例は、2 者―すなわち、資本を求め る会社(売却者―レシー)と投資家―に関係する。当時のこのスキームには、生命保険会 社、教育(免税)機関、または民間企業または市民投資家として含まれることが通例であっ た。. (ⅰ)免税機関への売却 Allied Store Corp. は、6 都市に所在する法人により占有される建物敷地における不動産 および機械設備、並びにボストンにある財産を所有する 2 つの不動産会社の普通株式など を所有していた。1945 年 5 月 29 日の特別株主総会の決議を経て、同社は 6 月 1 日、上記 の財産および株式を Union College の全額出資不動産会社である Real Property Corp. に 対して、$16,150,000(うち、土地の鑑定価額は $11,000,000 であった)で売却した。こ れにより、財産および株式の所有権は Allied の子会社より Real Property Corp. に移転さ れた。1945 年 1 月 1 日の段階では、上記の資産は Allied の連結財務諸表上、減価償却後の 簿価で約 $16,000,000 を示していたのであるが、この取引により子会社を含めた Allied の不動産に設定されていたモーゲージ金融は売却後すべて完済され―資産負債のオフバラ ンス化―、その結果、Allied の手元現金残高は $8,000,000 超となった。 (ⅱ)資産売却後の税損金 Allied Store Corp. の事例では、資産の税務簿価が企業会計上の簿価とほとんど同額で あった。税務上では、資産の売却取引に関する諸費用およびモーゲージの償還プレミアム 控除後、約 $340,000 の損失が生じた。同社は、連邦所得税、および当時の戦時課税であっ た超過利潤税(excess-profits taxes)の算定に際して、当該損失額を損金算入した。 (ⅲ)リースバック 固定資産を購入した後直ちに、Union College の子会社である Real Property Corp. は、 Allied グループに買取ったすべての財産をリースバックした。各リース契約は、実質的に同 じ条項を含むが、現地の法律、すなわち州法が技術的な差異を有する場合には、それに合 わせる調整を施している。リース契約の当初リース期間はすべて 30 年で、1945 年 6 月 1. ― 58 ―.
(7) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 日に開始され、1975 年 5 月 31 日に終了する。当初リース期間中、リースは解約不能であ る。リース料の支払額は総計 $26,015,875 であり、年次逓減方式としている。この支払額 は購入価格の完済分に約 3 1/2%の正味収益率の金額を加算したものである 15)。加えて、 リース契約は「ネット・リース」 (net lease)または「ケアフリー」 (carefree)投資として、 通常の一連の条項、すなわち財産に係る維持修繕、保険、税金等に関するレシーの負担義 務の規定が存在する。 (ⅳ)更新オプション Union College は、当初リース期間に加えて、リース終了時での 30 年の更新オプション (renewal option)をレシーたる Allied に付与する。この延長期間でのリース料は、延長時 の直近の土地の時価の 2%とすることが規定され、その時価はオプション行使前に独立し た第三者の鑑定士による鑑定額とされる。建物の価値は考慮されない。ただし、リース締 結時点の土地の時価であった $11,000,000 に 2%を幾分超えた $240,000 を、この更新期 間での最低リース料と規定する。 なお、他のセール・リースバック取引においては、リース終了日においてレシーの物件 の取得義務、または名目的な価格、有利な価格での購入オプション(purchase option)が 付される場合がある。また、当時の店舗財産に関するセール・リースバック取引では、中 途解約を行う場合に未返済残額に相当するペナルティ(損害金)を支払う旨の解約条項が 記載されているのが通例である。 (ⅴ)レサーの物件購入のための金融 Union College の物件購入に係る金融については、同大学が 5 年間の返済スケジュール をもって、Guaranty Trust Co. から $4,000,000 の無担保ローンを受入れた。ローンの利 子率は当初の期間は 2 1/2%であり、その後 2%に変更される。受取リース料からこのロー ンの元利返済が行われた。 加えて、Union College は第 1 抵当権付債券 $12,000,000 を発行する。社債の利子率は 1950 年までの 5 年間は 3 1/2%、それ以降 1965 年 6 月 1 日までの満期日までは、3 3/4% の条件とする 20 年間の償還期間を有する。債券は、平価で Prudential Life Insurance に私 募債として売却された 16)。同社の担保は、リースの譲渡および Allied(親会社)の保証で ある。Prudential Life Insurance が保有する債券の元本返済は、Guaranty Trust Co. が供 与する 5 年ローンが返済された以降、債券の満期日すなわち 1965 年まで、リース料のなか から行われ、その時点(20 年後)での残存債務額は $4,000,000(バルーン)となる。. ― 59 ―.
(8) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). (ⅵ)免税機関に対する利益 購入者―レサーたる Union College は、財産の売買金額に比して極めて小さな金額 $150,000(1%未満)を投資する。この組織は、 (a)リース料支払額とリース契約との間 の若干のマージン―銀行と保険会社とに支払う元本と利息―および(b)30 年間にわたる ローンの元本返済後の財産の完全な取得、あるいは更新オプション付のリースを提供する。 ただし、Union College は、少なくとも当初 20 年間にわたりリース料収入を自由に使うこ とはできない。当初リース期間中にこの大学が受け取る受領額は、Guaranty Trust Co. か らのローン、および Prudential Life Insurance 引受の私募債の元本を返済し利息を支払う ために使われる。Union College は、20 年経過以降、リース期間において受領するリース 料収入から直接に便益を受けると同時に、リース残存期間の 10 年間にわたりローンの元 利返済を行うか、または Prudential Life Insurance から新たにローン残高に対するリファ イナンス(再融資)を受けるかの立場になる。 要約すると、大学等の免税機関がレサーとしてスキームに入る場合、生命保険会社が購 入価額の大部分の金額についてレサーに融資を行うことから、レサーはレシーからのリー ス料収入のうち、入金時に直ちに債務元本と利息を支払って、残額部分を実質上の収益と して享受する。したがって、この種金融スキームにおいては、レバレッジド・リース(leveraged lease)形式となるため、レサーとして参加する大学等の免税機関が得る投資収益率は 一般に極めて高いものとなる 17)。 Allied Store のストラクチャーは、1945 年当時における法制度上の規定や諸要素を上手 く使って、所得税での恩典などを得るために金融上の関係当事者―教育機関および保険会 社の両者―を組み込むリース・スキームであって、当時の有力な新規金融手法、および会 社の財務構造のイノベーションを生み出すものであった。そのため、このリースバック取 引は税務、会計・監査に関する新たな問題を提起することになった(後述される)。 Allied Store は、1945 年度年次報告書において、このセール・リースバック取引の実施 によって、Allied Store は、会社の財務構造を劇的に変化させ、固定資産に張り付いた資金 の流動化をはかると同時に、既存の借入金の返済をなしえた結果、負債比率を大幅に良化 させ信用力(信用格付)を改善した 18)、と自らは優れた先端的財務政策を実施していると 主張している。 1945 年の段階では、機関投資家たる Prudential life Insurance Co. が法人登記している ニュージャージー州の保険法の規制緩和(改正)も行われていなかったために、同社自ら. ― 60 ―.
(9) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. は直接的に不動産の所有者の地位には就かずに、私募債の引受金融機関としての地位を担 いそれにより金融収益をあげ、内国歳入法第 101 条に該当する免税機関―第 101 条法人 (Section 101 corporations)―たる大学をレシー―第 3 者の納税仲介者(tax-paying intermediary)―として組み込むスキームを構築したと解されるのである 19)。. ③大戦直後のセール・リースバックの大展開―生命保険会社の事業用資産に対する直接的 所有スキームの出現と普及― 戦後直ちに、生命保険会社の資金量の増加に対する適切な投資対象の必要性から、リー ス用の不動産を含む、追加的な事業用資産への投資を許容する州の保険法の改正、すなわ ち規制緩和が全米規模で順次行われていった。Cohen[1954]によれば、それまで生命保 険会社は、ヴァージニア州を除いて、非住居用不動産物件への投資の購入および所有が禁 止されていた 20)。 最初の保険法改正の事例は、戦前の 1942 年におけるリースホールドとしての不動産投 資を明確に適格性があるとしたヴァージニア州でのそれであり、その後他州における法改 正が相次いで行われて、非常に多くの生命保険会社が所在するすべての州において一定の 制限が課されたが直接的投資が許可された 21)。ニューヨーク州内で事業活動を営む生命保 険会社が業界のなかで圧倒的な影響力をもっている点で、様々な州法のなかで、ニューヨー ク州の保険法の改正による規制緩和が最も重要である。ニューヨーク州では、1946 年にお いて、非住居用不動産物件への投資の購入および所有を禁止していた保険法を、事業用不 動産への直接所有投資は認定資産の 3%の包括的制限に従属し、具体的には各財産のコス トは生命保険会社の認定資産が $250,000,000 以下の場合にはその 0.5%を超えない、認 定資産が $250,000,000 を超える場合にはその 0.25%を超えないという規定に改正され た 22)。その他の州では、 (コネチカット州型の規制として、)生命保険会社が、特定の授権 がない資産の種類における認定資産の一定の率まで投資することを認定する「裁量的」権 限が規定された。Cary[1948]によれば、コネチカット州では、1945 年に生命保険会社 の総認定資産額の 5%まで直接的投資を認めるとする州規則を制定している 23)。 そのために、当時、準免税法人(quasi-tax-exempt corporation)24)であった、有力な生 命保険会社の資金運用ポートフォリオの一部に制限が付されるが、リース物件の直接的所 有が認められたことから、1946 年以降数年間にわたり、生命保険会社直接所有型のセー ル・リースバックス取引が活発化することになったわけである。この事実については、Can-. ― 61 ―.
(10) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). non[1948]に、1946 年度、1947 年度での大きな公開会社、例えば、Sears, Montgomery Ward, Gimbel Bros., W. Filene’s & Sons. などの行った大規模なセール・リースバック取 引例が具体的に示されている 25)。 とはいえ、先に詳述してきた Allied Store-Union College-Prudential 型(教育機関等の免 税機関を巻き込む型)のセール・リースバック取引については、有利な金利条件の提示と いう観点から、戦後しばらくの間、各州の保険法の改正が進んだ後も引き続き実行される ことになる 26)。しかし、教育機関等のこの種(「収益事業」)の所得に関する全面的な免税 恩典の利用は、当時「免税権の濫用」であるとして、全米規模での非難が湧き上がり、結 果として内国歳入法の 1950 年度の改正によって、1950 年度所得税申告から大学等の教育 機関の収益事業に係る免税恩典は別扱いとされて、剥奪されることになった 27)。. (3)事業会社に対するリース金融 有名な判例のひとつになった Century Electric Company などの一部製造業者の工場 セール・リースバックは大戦中にあったが、Cohen[1954]等が指摘するように、戦後直ぐ の段階では、生命保険会社の直接的投資の対象が主に小売業店舗という不動産にほぼ限定 されていたが、次第に製造業の事業用資産にその重点が移るのには時間を要しなかった 28)。 例えば、New York Life Insurance Company は、1946 年末に Continental Can Company との間に約 $12,000,000 のコストであった 4 つの新工場建設の資金調達を行う目 的で、$10,000,000 のセール・リースバック契約を締結した。1947 年において、Equitable Life Insurance Society は、長期リースの下で継続的に使用する取引において、Westinghouse Electric および Fruehauf Trailer Company から財産を購入した。その他、Kircher [1948]によれば、Bamberger, Newark, Bonwit Teller, Bullock’s L. A., Forey, Houston, Koppers Co., Liquid Carbonic などの大企業が、1946 年および 1947 年においてセール・ リースバックを実行していることを指摘している 29)。 さらに Cohen[1954]によれば、1950 年にはカリフォルニアでは、George W. Carter というパッケージ金融開発業者が、事務所、店舗、倉庫、および工場設備を拡張するのに 必要な、自らが「ワン・コントロール・パッケージ」と呼ぶものを考案している 30)。Carter の金融パッケージは、セール・リースバック・スキームを若干修正したものであると指摘 される 31)。Carter は、顧客(企業)の依頼で指定の土地を購入し、どのような形のストラ クチャーを要求されたとしても、ファイナンス・スキームを設計し造成・建設し、 (必要で. ― 62 ―.
(11) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. あれば)繋ぎ金融を調整する。プロジェクトが完成すれば、Carter の顧客(企業)に長期 にわたりリースすることに合意する投資家に売却する。Carter がこのスキームの下で完成 させたプロジェクトのなかには、電信電話会社 Pacific Telephone and Telegraph Company の事務所、建築資材会社 United States Gypsum Company の販売事務所、および計算器製 造会社 Burroughs Adding Machine Company のサービス・センター建物などがある 32)。. (4)連邦所得税における問題 連邦所得税が 1913 年にはじまって以来、戦後の 1940 年代に到るまで、セール・リース バックに関連して再取得義務が含まれるリース契約、名目価格での購入オプションが含ま れるリース契約等に対しては、租税上のドクトリンたる経済的実質から「実質割賦購入」 または「擬制リース」 (fictitious lease)と判定された判例は既に相当に累積されていた 33)。 セール・リースバックの取引動機のひとつとして、所得税務上の大きな恩典の享受、す なわち租税回避(tax avoidance)が存在する。取引スキームにおいて生じる売却損および リース料の損金算入の恩典であり、さらに通常は減価償却できない土地部分の損金算入、 売却価格の操作性などが指摘できる。所得税の問題は、会計処理や財務諸表の表示の問題 に直接的に繋がるという点で深く考察する必要性があるが、詳細な考察については他の論 文で執筆する計画であるため、本論文では、CPA ジャーナル誌に「セルおよびリース取引」 (Sell and Lease Transactions)という論文を CPA ジャーナル誌に公表した Greenberg [1949]34)および Cary[1948]に基づいて、ここでは 1940 年後半期における連邦所得税 の主要な税務ポイントのみ指摘するに止めることとしたい。 「セール・リースバック」は時として、独立した公正取引ではなく、また法形式として「売 買」や「リース」契約と名称されていても、種々の条項が付いている点で複雑性を有して いるため、まず取引全体としての当事者間の経済的動機やレシーの意図を考察することが 必要となる。すなわち、所得税には、そもそもドクトリンとしての「実質優先主義」 (substance over form)という考え方が基底に横たわる。どのような契約内容であっても、売買 契約とリース契約とを関連づけて「売買が真正なものか」を検討することが要諦となる 35)。 以下、この取引スキームを 3 つの重要な要点、すなわち売買契約、再取得義務(repurchase obligation)または購入オプション、および更新オプションに分けて、この取引スキー ムが 2 取引(法形式どおり、 「真正な売買」 (true sales)と認められ、その売却損益および リース料の損金算入を認める)または 1 取引(取引の「経済的実質」に応じる税解釈とし. ― 63 ―.
(12) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). て、売買は否認される)かを判定する要点を述べる。 ①売買契約に関して生じた損益について (ⅰ)「売却損失」を生じる場合 売却損失(capital loss)は、販売年度に損金算入(reduction)できるか、あるいはリー ス期間にわたり年次リース料に対して損金算入できるか。 (ⅱ) 「売却利得」が生じる場合 売却利得(capital gain)は、販売年度に課税所得となるのか、あるいはリース期間に わたり年次リース料を益金算入処理できるか。 売却損益に関しては、真正な売買と認められる(すなわち、リースと一体となってモー ゲージ担保金融取引と認定されない)場合、取引実行年次に全額損金(益金)算入され る。売買が否認される場合、売却はなかったとして、契約に基づく支払額に関して年度 毎に利息相当額のみに対する損金算入が認められるにすぎない。. ②再取得義務または購入オプションについて リースにはリース期間終了時での再取得義務または購入オプションが付されている場 合、年次リース料は費用として全額損金算入できるか、あるいは再取得価格に対してリー ス料のすべてまたは一部を充当できるのか。 上記と同様に、真正な売買と認められる(リースと一体となってモーゲージ金融取引と 認定されない)ならば、実行年度に全額損金算入される。損金算入が否認される場合、売 却はなかったとして、契約に基づく支払額に関して年度毎に利息相当額のみに関する損金 算入が認められる。財産の再取得が義務づけられている場合、または購入オプションが割 安な場合には、および中途解約の際に債務残高に近い金額のペナルティの支払いが規定さ れている場合には、購入される蓋然性が高いとして、税務上、売買およびリースは同時に 否認される。 ただし、種々の判例の判示内容からみると、リース終了時に公正市場価値(fair market value)での購入オプションが付されている場合には、おそらく法形式通り真正な売買およ びリースとして認定され、売却損失および支払リース料は全額損金算入が認められる。. ③更新オプションについて リースには当初リース期間終了時に更新オプションが付されているのか。. ― 64 ―.
(13) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 更新オプションが付されている場合、リースの当初期間中に支払った大きなリース料金 額は、支払年度に損金算入できるか、またはこれらリース料の一部はリースの更新期間に まで繰り延べられるか。 リースには更新オプションが付される場合が多いが、名目的なリース料での更新オプ ションが付されている場合には、更新が想定される理由で、真正な売買とは認められず、 モーゲージ金融取引として認定される。 なお、売買契約およびリース契約に含まれるその他の条項については、真正売買の判定 材料のひとつになるかもしれないが、論文の主たる課題ではないので、ここではさらなる 検討を省略する。. (5)スキームの特質 では、なぜ戦前・戦後にチェーン・ストアあるいは製造企業がどのような観点から、セー ル・リースバック取引を多数実行したのであろうか、またこのスキームに大学等の教育機 関等の免税機関が参加するスキームが多数用いられたのか、あるいは生命保険会社が直接 的所有によるスキームが採られ継続的に用いられたのか、等が明らかにされなければなら ないだろう。ここでは、主に Cary[1948]を参考 36)とし、また筆者のこれまでの実務経 験や研究蓄積を基礎として本スキームに参加する各当事者の動機や利点を以下分析した上 でスキーム全体の特質を総括する。 ①利用企業(チェーン・ストア、製造業者等) まず、ビジネスの側面からは、第 1 に、借入能力や与信枠の温存や増加があげられる。 特に戦後の復興期・拡大期に際しては、民間の企業活動が急激に活発化するわけで大きな 固定資産投資が必要とされた。そのとき、銀行与信枠の利用、債券の発行などが通例行わ れることになるが、モーゲージ・ローンや債券の発行には限度額(掛目融資の問題)が生 じるかもしれないし、運転資金枠の温存も必要となる。そこで、リースバック金融は売却 額(投資額)の 100%受信を実現できるし、通常の金融の代替手段としてセール・リースバッ クを利用した。第 2 に、金融コストの観点で、リースバック金融は実質上安価な調達手段 となり得る。表面上の資金調達コストは伝統的金融手段の方が一般に安価であろうが、税 金コストおよびモーゲージ登記コスト等を考慮に入れると、リースバック方式の方がコス ト負担がより低くなる場合がある。第 3 に、信用格付への良い影響が想定される。セール・ リースバックを実施すると、固定資産および固定負債の「オフバランス効果」が生れて、. ― 65 ―.
(14) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). 表面上、財務比率の維持・良化が示現される。結果として、利用企業の立場としては同種 企業との相対的比較において優位となり、信用格付の維持・良化がなされる可能性がある。 しかしながら、この財務諸表効果は、一般的な投資家の立場としては、その経済的意思決 定に重大な懸念を惹起させるかもしれない。 次に法律の側面からは、第 1 に、銀行借入枠や優先株式の発行に対する法律的な制限を 企業が回避できる点が有利である。モーゲージ・ローンや債券等の発行の際には通例、従 来の約定において制限条項―足枷―があり、一定の負債比率の維持や配当制限、追加担保 が企業の義務として課される。資金需要が大きい場合、企業はそのような法律上の制限に 抵触しないように、セール・リースバック取引を実行して、自社の資金調達力を維持・拡 大するかもしれない。第 2 に、州の会社法に関連する問題として、通常、取引が実質上、 会社財産のほとんどすべての売買にあたる場合、慎重な手続、株主総会の特別議決および 不同意者への権利の確認を行わなければならない。この点については、Allied Store の場合 は会社の判断で特別決議を経て実行しているが、当時本手続を経る必要があるかの法律的 解釈は特になかったのであると解されていた。第 3 に、会社が清算手続に入った場合、当 時の法規制の下では、1 年間のリース料のみがその債権の対象とされ、また連邦倒産法上の チャプター X 倒産の下での会社更生と認定されるとき、当時は 3 年間のリース料のみがそ の債権債務の対象となるので、 リース債権・債務は未履行契約と位置づけられるためにモー ゲージ等と比較して軽い法的扱いとなっている。 さらに、すでに一部は本論文で指摘してきたが、リースバックは重要な考慮点である所 得税(コストとしての税金)の取扱いの側面がある。既に述べたように、このリースバッ ク・スキームが内国歳入庁から 1 取引と判定される(2 取引は否認される)リスクを有する わけであるが、法形式どおり認定されれば、第 1 に、セールの局面で生じる売却損の損金 算入が大きな利点となる。第 2 に、毎期支払うリース料の全額損金算入が利点となる。こ の 2 つの損金算入、特に大きな売却損の計上およびリース期間の短縮によって生じる早期 損金算入によって大きな税恩典が得られるかもしれない。また、土地を含む財産のセール・ リースバックであれば、 「リース料」の支払いを通じて、土地を実質上減価償却できる効果 を生み出す。これらの損金算入によって、モーゲージ・ローン等と比較して大きな租税回 避が成しえる(社会全体から見れば、免税権の濫用が起こる)ことになる。 総じて、セール・リースバックは、利用企業に対して上述するような種々のメリットを 与える点で爆発的な普及がなされたと結論づけられる。. ― 66 ―.
(15) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. ②購入者―レサー(教育機関等の免税機関) 購入者―レサーのうち、教育機関等の免税機関が仲介者として参加するスキームの場合 のメリットとしては、本論文の 2(2)の箇所で述べたように、免税機関の有する「免税恩 典の売却」であり、 (信用力のある大企業がレシーであれば、与信リスクがほとんどなく) 何ら努力することなしに小さな資金で大きな収益を獲得し得ることである。リース条件に よっては、リース終了後、当該資産の所有者となることが可能である。. ③購入者―レサー(生命保険会社) 教育機関等の免税機関が仲介者として参加するスキームの場合、生命保険会社のメリッ トとしては、通常の金融業としてのローンの提供や社債の引受による資金の運用収益や幹 事手数料等の獲得である。次いで、生命保険会社が直接的に財産を所有してリースバック を行うスキームの場合には、生命保険会社のメリットとしては、ローンの提供や自らの準 免税機関を利用しての社債の引受のほかにエクイティ(レサー)としての大きな運用収益 が加えて獲得できることである。その場合、教育機関等と同様に、準免税機関の有する免 税恩典の売却であり、 (信用力のある大企業がレシーであれば)何ら努力することなしに小 さな資金で大きな収益を獲得し、リース条件によっては、リース終了後に当該資産の所有 者となることが可能となる。. ④スキーム全体の特質 総括すると、セール・リースバック取引は、種々のメリット―運転資金調達、与信枠の 維持、多くの損金算入・所得税の軽減や回避、社債やローン契約に含まれる制限条項の回 避、信用格付の維持など―から、伝統的なファイナンス手法である銀行借入や社債発行が 可能であるときでさえ、得られる所得税恩典等を勘案して企業からの要望が金融機関に寄 せられていたことが確認されている。判例は後追いであり、また基本的に州裁判では法形 式を重視してなかなか 2 取引の否認が遅々として進まなかったが、経済的実質の観点から みて、税務上(あるいは会計上) 、取引全体を 1 取引としてみる考え方に反する取引はそも そも少数であったものと考えられる。利用企業や生命保険会社等のプロモーターが、税務 上・会計上、2 取引の否認を回避する技術的工夫に精力を投入する一方、当局側、すなわち 内国歳入庁・SEC がそれに対する税務上・会計上の措置を模索する起点が、この戦前戦後 のセール・リースバックにあったといっても過言ではない。. ― 67 ―.
(16) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). すでに述べた通り、生命保険会社自らは、1945 年や 1946 年にほぼ直接の不動産購入者、 かつレサーのポジションをとるスキームを採用できるようになり、セール・リースバック 取引の深化がはかられた。1950 年に至り戦後のインフレの影響や免税機関に対する税恩 典の制限が課されるようになって若干取引が沈静化するも、その後、依然として税務上の 恩典や会計上の抜け道(loophole)をめぐって、この時点のセール・リースバック取引の 亜種―例えば、1960 年代以降の航空機レバレッジド・リースや 1990 年代のシンセティッ ク・リース(synthetic leases)―が考案されることになると言っても過言ではない。. (6)小括 これまでの議論により、米国における第 2 次世界大戦後における不動産および機械設備 に係るセール・リースバック横行の背景、経済的動機、スキーム、具体的当事者、契約内 容等に関してできるだけ具体的に論じてきた。そこで、リース契約の多様性や当事者の意 図によって、セール・リースバック取引が時として法形式には囚われない「経済実質主義」 に基づいて 1 つの取引―モーゲージ金融―、あるいは法形式どおり 2 つの別個の取引とし て会計処理され税務処理されてきたことが明らかとなった。 そこで、ここでは主に Greenberg[1949]を参考として、多様性を有するセール・リー スバックの契約内容(条項)に係る税務上および会計上の重要なポイントを再度確認した い 37)。筆者によれば、当該セール・リースバック取引について、1 取引か 2 取引かを判定 するポイントは、以下の通りとなるであろう。 (ⅰ)売買価格の簿価または市価との関係、すなわち簿価よりも売買価格が高いか、売買 価格は市価よりも高いのか、(ⅱ)売買価格は当初リース期間中の固定リース料で十分カ バーされるのか、すなわちレサーは、年次リース料が合理的な収益率をもつマージンを差 し引いて、レサーの当初投資額を回収する金額なのか、 (ⅲ)購入(再取得)がレシーに義 務づけられるのか、または購入(再取得)オプションが付される場合、その価格は固定価 格なのか、 (ⅳ)再取得される場合の価格に関しては、 (a)当初売買日での実際の財産の価 値に比べて、独自の売買価格なのか、 (b)リースの終了時での実際の財産の時価(調整後) と比べて、低いのか、 (ⅴ)長期間にわたる固定リース料の支払後、名目的なリース料での リース更新オプションが付いているか、等。 その他、関連する財産は、セール・リースバック契約締結前の一定時においてレシーに 帰属しているかもしれないし、またレシーは、財産に対し大きなエクイティをもっている. ― 68 ―.
(17) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. かもしれない。多くの場合、その財産は、レシーの責任、またはレシーが使用収益するた めに新規に取得される、または建設されるもので、所有権はその財産の取得または完成の 時点に直ちにレサーに移転される。そのような、セール・リースバック取引は、実質上、 全体として、金融取引とみなすことが出来る。 また通例、当該リース契約は「ネット・リース」であり、リース対象物件に係るすべて のコスト、例えば税金、保険料、維持管理費等の所有に伴って生じる諸費用をレシーが負 担するものである。また、当初リース期間満了時に、リースの更新や購入オプションが付 いていることもあり、場合によっては、一定の買戻し義務が約定されているかもしれない (譲渡担保と同様となる) 。さらに、計算されるリース料は、物件の売却価額にリース期間 (融資の回収期間)に関する金利コスト等を勘案して計算され、通常、月次等の定額払方式 とされる。 そして、この長期金融の手法は、当時、追加的な資本源泉に対するコストやニーズを上 積みさせ、ある種、企業の病気に効く「万能薬」のように使用されたこと 38)から、Greenberg [1949]は、 「独立会計士は、そのような取引スキームに精通し、実行された理由を正確に 分析できることが必要となった 39)」と指摘する。そして「例えば、その取引は、売上高の 伸長、追加的な運転資本の獲得、新しい製品ラインの増設、あるいは一般的な事業目的の ために、資金調達する目的で締結されている。独立会計士(監査人)は、監査対象会社の リースバック取引の実行によって、会社の財務諸表に計上されていた資産・負債が消えて しまい、その財政状態を適正に表示しないかもしれないことを知らねばならない 40)」と示 唆する。さらに、セール・リースバックはその企業の基幹的な資産に係る長期解約不能契 約(long-term noncancellable contract)であるために、固定的な支払義務が長期にわたり 存在しており、その金額が極めて大きい場合には、長期不況下の際に倒産の危機に即座に 結びつくという点において、1947 年以降、元 SEC の主任会計士や会計士等によってリース 債務(およびリース資産)のオフバランス化について警鐘が鳴らされ始めたのであった 41)。. 3.オフバランス問題への警鐘 (1)問題提起 セール・リースバックという新金融技法は、1947 年年頭の Business Week の記事 42)や 種々の論文により、産業界において大きな話題のひとつとなった。会計界においては 1947 年 10 月、ジャーナル・オブ・アカウンタンシー誌上の「現代会計問題」の箇所で、Carman. ― 69 ―.
(18) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). G. Blough がセール・リースバックの実態とそれに伴う会計問題の所在を初めて指摘し た 43)。次いで、1948 年に至り、Arthur M. Cannon 等の会計学者の論文により大企業によ るリース利用による自社資産および負債のオフバランス化への指摘がなされ、その財務諸 表の歪曲や将来の過大な債務負担に関する警鐘が打ち鳴らされた。 そこで、最初にかつて証券当局 SEC の主任会計士であり、当時米国会計士協会の調査部 長であった Blough[1947]の記述を見たうえで、アカウンティング・レビュー等の会計専 門誌を中心としたセール・リースバック取引により生じる会計に関する問題提起の実態を 分析して、主要な問題点、会計理論および対応案に対して検討を行う。. ①セール・リースバックに関する指摘と注記開示の提案 1947 年 10 月、Carman G. Blough は、ジャーナル・オブ・アカウンタンシー誌上の「会 計時事問題」の箇所で「リースに従属する固定資産」という題目で、当時の生命保険会社 によるセール・リースバック取引を指摘し、これに対する注記開示の必要性、リースホー ルドの別個の科目の必要性、および総固定資産に対するリース資産の比率の重要性をはじ めて主張した 44)。Blough[1947]は当時の会計実務界を指導する立場にいたという点で、 どのような事実を指摘し分析し意見を述べたかはセール・リースバックを考察する上で重 要であるといえる。 Blough[1947]によれば、ある製造企業(Continental Can Company)は、1946 年度 の年次報告書における株主への社長の説明の箇所で、戦後の工場設備の修復、新規投資お よび拡充計画の策定並びにその遂行に必要な資金調達を、ある生命保険会社との間でセー ル・リースバックを利用することを決め実行した旨を記述している 45)。次いで、伝統的な 会計慣行に基づくと、売却者―レシーはセール・リースバック取引による前払金等の取得 コストのみ自らの貸借対照表に認識することになるという事実を説明している 46)。また、 レシーにより支出されたリースホールドおよび改善(improvement)のみが別個の科目で 計上されるが、それらの償却については耐用年数またはリース期間のうち、いずれか短い 期間に基づいて実施される会計慣行を指摘して、その一定の合理性を述べる一方で、セー ル・リースバックによる企業の資金調達に占める大きな比率を前提とすると、総固定資産 のうちでリース調達の比率が明示されない点で、財務諸表利用者のために監査人は、当該 企業にその旨の注記開示を勧告し、また関連する金額に対する監査意見を付すことが必要 であるという Blough の個人的見解を示している 47)。. ― 70 ―.
(19) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 筆者としては、Blough[1947]は、1946 年度の年次報告書を踏まえて、この時点でセー ル・リースバックの基本的な問題点を指摘しあるべき会計処理や財務諸表表示の方向性に ついて、AIA 調査部長として公的にはじめて警鐘を鳴らしたものと評価できる。. ②リースバックの実態と効果 1948 年 4 月、当時ワシントン大学の助教授で、公認会計士でもあった Arthur M. Cannon は、 「『ネット・リース』金融に関しての会計士に対する危険信号」という論文をジャー ナル・オブ・アカウンタンシー誌に公表して、チェーン小売業者によって広く利用されて いた不動産のセール・リースバックの実態を分析して、企業の保有する資産・負債が消失 して財務諸表の適正な表示を歪めてしまうことの警鐘を鳴らしている 48)。この調査研究は 当時の米国経済に旋風を巻き起こしたセール・リースバック取引の実態や影響度を克明に 記述・分析している点で意義深く、ここで分析資料等を引用して筆者の考察もさらに加え てみよう。 チェーン小売業者は、大戦前より土地を購入し、そこに店舗・倉庫を建設し、これを一 括して売却し、直ちに当該不動産を長期間リースするという「購入・建設・売却・リース」 (buy-build-sell-lease)計画に基づいて、店舗数を急速に増加させていた。このリース・ス キームは、リース財産の所有に伴なう危険や税金、保険料および保守費用等をレシーが支払 う解約不能の長期「ネット・リース」であり、レシーあるいはレサーに融資をしている保険会 社等の金融機関の第一義的な担保は、リース物件ではなく、レシー企業全体としての長期的 な信用力であり、またしばしばレシーのリース料譲渡や親会社などの保証を取得する 49)。 Cannon[1948]は、当時有名な全米規模の四つの主要なチェーン会社、Allied, J. C. Penney, Safeway および Montgomery Ward の財務資料等を用いてリースバック効果を分析 している。彼はチェーン小売業がどの程度、長期のネット・リースを使用しているかを明 らかにするために、4 社の最近 10 年間(1937 年∼1946 年)の固定資産の推移を示して、 それが売上高、利益および総資産などの推移に逆行(すなわち、相対的に減少)するとい う奇妙な現象を指摘している。チェーン・ストアの主要な固定資産は店舗用の土地・建物 である。その原因はセール・リースバックの活用にあると分析する 50)。 まず Cannon[1948]は、Moody 社のマニュアルにおける資料(表 1)から、米国の主 要なチェーン・ストアの店舗での 1946 年度でのリース利用状況を検討して、平均 97%程 度の店舗がリースでの調達であることを指摘する。. ― 71 ―.
(20) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). 表 1 主要なチェーン・ストア 4 社の店舗数に占めるリース物件の割合 ストア名. 店舗数合計. Allied Stores Corporation J. C. Penney Company Safeway Stores Inc.. リース物件総数. リース比率. 69. 66. 96%. 1,601. 1,554. 97%. 2,428. *. 99%*. 600 *. 94%*. Montgomery Ward & Co., Inc.. 2,400. 641. *. 概数 (出所)Cannon, Arthur M., “Danger Signals to Accountants In ‘Net Leases’ Financing,” .
(21)
(22) April 1948. 次に、Cannon[1948]は、Moody 社の資料を使って、選択された各企業の固定資産の トレンド(表 2)および変化率(表 3)を分析している 51)。 表 2 および表 3 によって各企業の 10 年間(1937 年∼1946 年)の金額および変化率の推 移をみると、特に、売上高、利益、および総資産の金額の大幅な増加に対して、固定資産 が減少しており、変化率も固定資産だけマイナスである(単純平均で計算すると、△ 27%)。 さらに、筆者の分析を加えて、総資産に占める固定資産の割合の変化をみると、表 4 のよ うになり、総資産に占める固定資産の比率が、ほとんど 10%以下となっている。これは、 正に簿外の固定資産や固定負債が存在していることを十分推定させるといえる。. 表 2 固定資産のトレンド(単位:百万 US$) Allied 項目. 1937 年. Penney. 1946 年. 1937 年. Safeway. 1946 年. 1937 年. Ward. 1946 年. 1937 年. 1946 年. 売上高. 108. 362. 275. 677. 381. 847. 414. 974. 利益. 2.9. 18.4. 16.6. 35.5. 3.1. 11.4. 19.2. 52.3. 正味運転資金. 27. 65. 54. 96. 35. 73. 125. 333. 総資産. 64. 125. 81. 202. 72. 143. 213. 442. 自己資本. 35. 86. 68. 116. 47. 72. 184. 357. 固定資産. 28. 19. 15. 16. 24. 9. 47. 39. (出所)同上. 表 3 変化率 項目. Allied. Penney. Safeway. Ward. 売上高. +236%. +146%. +122%. +136%. 利益. +535%. +114%. +268%. +174%. 正味運転資金. +140%. +78%. +108%. +166%. ― 72 ―.
(23) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 総資産. +96%. +150%. +99%. +108%. 自己資本. +146%. +71%. +53%. +94%. 固定資産. △ 32%. +7%. △ 63%. △ 17%. (出所)同上. 表 4 固定資産対総資産 Allied. Penney. Safeway. Ward. 1937 年. 1946 年. 1937 年. 1946 年. 1937 年. 1946 年. 1937 年. 1946 年. 43.75%. 15.2%. 18.52%. 7.92%. 33.33%. 6.29%. 22.07%. 8.82%. (出所)上記 Cannon の資料に基づいて、筆者が作成. 次いで、1948 年 8 月、公認会計士でシカゴ大学の会計学担当講師であった Paul Kircher は、 「コントローラー」 (The Controller)誌に「長期リースと貸借対照表」という論文を発 表し、Cannon 同様に、セール・リースバックに係る貸借対照表表示の問題を採り上げ た 52)。Kircher[1948]によれば、企業分析をおこなう企業アナリストからの大規模なリー ス金融に関する情報開示要求を指摘した後、その当時(1946 年∼1947 年)のセール・リー スバックの代表例(会社名および金額)を表形式にて示している。その表には、Allied Stores ($16 百万)のほか、Bullock’s, L. A.($10 百万)、Continental Can($10 百万)、Foley, Houston($13.6 百万) 、Koppers Co.($6 百万)、Western Union($12.5 百万)など計 16 社が行った当該取引が記載されており、全米にわたるこの金融手法の広範な利用や影響度 が示されている 53)。. (2)リース会計問題へのアプローチ Cannon[1948]等を引用することにより第 2 次世界大戦後から 1948 年までの米国にお けるリース・セールバックの激烈な利用実態が明らかとなった。次に、そのような実態や 企業財務開示に対して当時の会計論文が主張していた会計理論のアプローチがどのような ものであったかについて検討する。 1948 年には、すでに論じた Blough、Cannon、Kircher のほか、Myers の 4 人がリース 会計に対する問題提起を行っており、またその会計上のあるべき対応に係る意見が有力な 会計誌上に公表された。その 4 人の論者のうち、Myers[1948]が会計理論上当時点で最 も透徹したものと考えられるために、次の(3)において別途検討する。さらに 1949 年に 入って会計士(監査人)としての立場から、当面の公開会社に係る監査証明や具体的な開. ― 73 ―.
(24) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). 示に関するフォームを提案する Greenberg[1949]の意見を(4)において検討する。 Cannon[1948]は、上述したように、Moody’s などの信用調査会社の鉄道アナリスト が行なっている推定資本化 54)のような手段によって、貸借対照表上、リースホールド (leasehold)を償却固定資産、リース料義務を固定負債として表示することを示唆した 55)。 筆者のこれまでの研究によれば、このような Cannon の分析手法は、1912 年に John Moody が公表した『鉄道報告書の分析方法』56)などにあると指摘する。ただし、Cannon [1948]はリースの資本化に関する割引計算等の具体的な技法や、資本化による計上後の会 計処理についての論述は全くない。総括すると、当面のところ、財務諸表の適正な表示の 観点から、最低限、貸借対照表上の固定資産や調達負債に関係がない固定債務があるとい う事実を注記に開示すべきであることを示唆するにとどまった 57)。 また Kircher は、コントローラー誌に「長期リースと貸借対照表」において、法的に財産 の占有および使用という対価によって支えられているリース料を支払うという契約ないし 条項には、拘束力があり、財産使用権が生じると主張する 58)。Kircher[1948]によれば、 Myers の意見と同様に、社債に基づく将来の支払利息が割引現在価値で負債として貸借対 照表に表示されているのであるから、それに類似するリース料についても、その割引現在 価値で貸借対照表に表示されるべきであると主張する 59)。一方、資産側については、法的 観点からすれば、所有と長期リースとは多くの細かい差異があるが、レシーが自由に財産 を使用でき、その使用上の一切の費用、すべての資本的支出、すなわち事実上、全費用を 引受け続けるときには、レシーに帰属する重要な財産権(使用権)があり、レシーは必要 な財産権を取得できるからこそ、セール・リースバック取引を行なうのである。そのよう な財産権は、長期間財産を支配し使用できる権利を意味する。しかし、この財産権は、レ シーがリース期間中、財産を占有し使用しつづけなければならない義務でもあるために、 当該リース資産は非常時に自由に処分できる所有資産よりも固定的な資産であると指摘し ている 60)。 総括すれば、Kircher[1948]では、企業のコントローラーは会社が締結したセール・リー スバック契約を吟味して、貸借対照表に表示されるべき明確な義務を負っていると確信し たならば、社債との類似性(bond analogy)を根拠として、将来支払うべきリース料を資 本化して貸借対照表本体に表示すべきである(売買契約があれば、その売買価格を参照し て価額を決める) 。 多くの場合、 リース料支払義務が注記に記載されるだけでは、リースバッ ク取引の影響が余りにも大きすぎる場合が多いというのが kircher の結論的意見である。. ― 74 ―.
(25) 石井 明:米国におけるセール・リースバックをめぐる会計問題. 1948 年 9 月、Carman G. Blough は、セール・リースバック取引が、実質上長期金融のー 形態であって、関連資産・負債がオフバランスとなる点で財務諸表の表示が適正性を欠く ことから、リース会計慣習の修正(この時点では、特殊な会計処理)を必要とすることを 示唆した 61)。セール・リースバック取引の年次リース料が金額的に重要であるときには、 当該リースの存在、満期日、年次リース料の額、関連して引受けた義務に関する情報を、 取引が行なわれた年度のみならず、その後のリース期間中の年度においても、財務諸表に 開示すべきであると主張した 62)。 Blough[1948]によれば、セール・リースバックが行なわれるレシー側の理由は、 「即 座に資金が必要であるためか、あるいは、会社の将来の財務的要求の立場から借入枠維持 や信用力保全を望むためのどちらかである 63)」といえるとまず指摘する。いずれにしても、 現在ないし将来の金融的理由からリースバックが利用されるとする。 通常のリースの場合、リースに関する情報は必ずしも常に開示する必要はないと慣習的 に考えられてきたが、長期金融のー形態であると認識されるセール・リースバック取引に ついては、従来とは異なった処理を正当化する程異例なものである 64)と指摘する。かかる 場合には、 「リースの存在、満期日、年次リース料の金額、およびその取引に関連して引受 けたその他の義務の範囲に関する情報は、財務諸表の利用者、特に投資家および債権者に とって不可欠であるということは明らかである 65)」という。そして、 「財産を売却し、かつ その財産の長期リースを獲得することによって、会社が融資を受けるという実務は非常に 新しい技法なので、それに関する会計手続は未だ具体化されてきていないように思われ る 66)」が、セール・リースバック取引の年次リース料が金額的に重要であるときには、前 述したような情報を、取引が行なわれた年度のみならず、その後のリース期間中の年度に おいても、財務諸表の本文かまたはその脚注において表示すべきであると主張する。 以上が Blough[1948]での「長期リース」に関する解説および見解であるが、これは当 時の AIA が非公式ながらも、セール・リースバック取引に関する情報を財務諸表本体また は注記に表示すべきことを表明したものとして意義があるが、 「特殊な会計処理」が必要で あると言及したにもかかわらず、会計上の認識・測定あるいは表示方法について具体的な 手続や理論が示されていない点がもの足りないといえるだろう。. (3)Myers の資本化理論 ワシントン大学の助教授で、公認会計士でもあった John H. Myers は、1948 年 7 月、 「貸. ― 75 ―.
(26) 上武大学ビジネス情報学部紀要 第 11 巻第 2 号(2012 年 12 月). 借対照表における長期リース負債の表示」という論文を公表しており、長期リース契約に よって生じる財産使用権を資産、リース料支払義務を負債として計上すべきことを論証し ている。 Myers[1948]の論文は、Cannon[1948]および Blough[1948]が総じてリースに係 る伝統的会計慣行の問題点を指摘した後、あるべき会計処理の検討の必要性を指摘してい るのに止まっているのに対して、その時点での伝統的会計慣行と比較を行ない Kircher [1948]とほぼ同根拠でのリース資本化(lease capitalization)の妥当性を示している点で、 現在のリース資本化の理論や技術的測定方法にも通じる透徹した論理を展開している 67)。 Myers[1948]は、1946 年末に Continental Can Company と New York Insurance Company との間での土地・建物(10 百万ドル)のリース契約を例にあげて、レシーたる Continental Can が会計期間のリース料のみ損益計算書に計上し貸借対照表には当該資産 や関連負債が全く計上されておらず、また監査人はそのような財務諸表を現行の会計慣行 や会計原則を満たすものとして適正意見を表明したことをまず指摘している 68)。次に、公 表された貸借対照表と当該資産と関連負債を加えて書き換えた貸借対照表を比較して、 Continental Can の固定資産回転率、自己資本比率等の財務比率が悪化することを指摘し ている 69)。良く訓練された財務アナリストであれば、財務諸表の注記等をも読み込んで的 確な企業の財務分析を行うことができるであろうが、利用者が素人や財務分析の技能を もっていても時間のない投資家であった場合、そのような状況を理解できず見過ごすこと になる 70)。監査人の最終目標は適切な情報や適正な財務諸表の提示であることから、新し い資本によってファイナンスされた設備の取得によって生じた負債は、所有権の有無にか かわらず統一的に貸借対照表に計上されるべきである 71)。 次に、伝統的な長期借入金によって資産を購入するという方法に代わって、長期リース の利用によって設備を調達する方法は、同じ経済的実質をもつことを、具体例(設備:10 百万ドル、耐用年数:10 年、残存価額:ゼロ)をもって証明する 72)。伝統的な長期借入金 とリースとは、法的事項は相違するも、リース期間終了時に設備がレサーに引き渡される 点を除けば、すべての経済的事実は同じである。レサーに引渡される、10 年後の設備の残 存価値がゼロであるとすれば、両者の差異は重要ではない 73)。両者はともに同じ支払義務 が存在し、同じ設備使用権が存在する。法的差異(財産権のうち、リースは処分権がない 点で、絶対的財産権である所有権とは相違する)は開示されるべきであるが、借入金での 場合では貸借対照表上に資産および負債を表示するのに、リースの場合ではそれを無視す. ― 76 ―.
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