Japan Advanced Institute of Science and Technology
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認識のダイナミズムを考慮した多主体意思決定システ
ム
Author(s)
佐々木, 康朗
Citation
科学研究費助成事業研究成果報告書: 1-4
Issue Date
2019-06-03
Type
Research Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/10119/16023
Rights
Description
若手研究(B), 研究期間:2015∼2018, 課題番号
:15K16292, 研究者番号:70743772, 研究分野: 意思
決定論
北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科・講師
科学研究費助成事業 研究成果報告書
様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通) 機関番号: 研究種目: 課題番号: 研究課題名(和文) 研究代表者 研究課題名(英文) 交付決定額(研究期間全体):(直接経費) 13302 若手研究(B) 2018 ∼ 2015 認識のダイナミズムを考慮した多主体意思決定システムMulti-agent decision system with cognitive dynamism
70743772 研究者番号: 佐々木 康朗(Sasaki, Yasuo) 研究期間: 15K16292 年 月 日現在 元 6 3 円 2,400,000 研究成果の概要(和文):本研究は、既存のゲーム理論的枠組みの拡張により、意思決定と認識の相互フィード バックを考慮した多主体意思決定システムモデルの構築を目指すものである。主要な成果として、気付きの非対 称性を含むゲームにおいて従来提唱されている均衡概念である一般化ナッシュ均衡は、長期的な安定状態として は一般には解釈できないことを指摘し、これを克服した均衡概念として、認知的安定性を満たす一般化ナッシュ 均衡を新たに提唱し、その数理的性質を分析した。
研究成果の概要(英文):The aim of this research is to establish a multi-agent decision system model including mutual feedbacks between decision-making and perceptions of agents (decision makers) by extending existing game theoretical frameworks. The main achievement is to point out the limitation of an existing equilibrium concept of games with unawareness called generalized Nash equilibria as it cannot be interpreted as a steady-state of the game, and, in order to overcome the problem, to propose a new concept called cognitively stable generalized Nash equilibria.
研究分野: 意思決定論 キーワード: 意思決定 ゲーム理論 システム 1版 令和 研究成果の学術的意義や社会的意義 従来のゲーム理論のモデルは、意思決定主体のゲーム構造に関する認識の多様性を考慮しないか、考慮したとし ても所与の認識のもと各主体がどのように振る舞うかを分析するにとどまっていた。本研究の成果により、意思 決定と認識の相互フィードバックを考慮した際の社会的な安定状態を議論することが可能となる。このことによ って、より現実的な多くの相互意思決定の状況を記述、分析できるようになった。
様 式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通) 1.研究開始当初の背景 ゲーム理論は、相互意思決定を数理的に記述する枠組みとして最も発達しており、経済学や 経営学など、社会科学の諸分野で幅広く応用されている。しかしながら、通常のゲーム理論は、 基本的に意思決定主体(以下、主体という)間でのゲームの構造に関する知識の共有を仮定し ており、認識の多様性への関心は不十分である。これに対して、本研究の理論的中核をなすハ イパーゲーム理論あるいは気付きの非対称性を考慮したゲーム理論[1, 2]は、主体の主観性に 焦点を当ててゲーム理論を拡張したもので、各主体が相互意思決定状況(ゲーム)に関して異 なる認識を持つことを許容し、それぞれの認識をもとに意思決定を行うと仮定した枠組みであ る。このことによって、より現実的な社会状況の記述、分析が可能となる。 これらのモデルに関する従来の研究では、主体の認識を所与として、得られるゲームの結果 を分析することに関心が置かれていた。一方で、こうした主体間の認識の差異を想定すると、 各主体のゲームに関する予測と実際の結果との間に不整合が生じ得る。そのような場合には、 主体がいわば認知的不協和を抱えることになり、ゲーム構造に関する認識を修正する動機を持 つと考えるのが自然である。こうして、一旦、認識が改められると、それは次回以降のゲーム における意思決定に反映されることになり、その主体の選択はそれまでと異なるものとなるか もしれない。 研究者の関心が一度限り行われるゲームの分析にある場合には、従来の研究が提供する枠組 みで十分であるが、多くの社会科学研究の関心である社会における安定状態を議論するために は、このような認識のダイナミズムを考慮したうえで、ゲームが複数回繰り返される際の安定 状態(均衡)を捉える必要がある。 (引用文献)
[1] P. G. Bennett (1977). Toward a theory of hypergames, Omega, 5:749–751.
[2] B. C. Schipper (2014). Unawareness: A gentle introduction to both the literature and the special issue. Mathematical Social Sciences, 70, 1–9.
2.研究の目的 本研究の目的は、既存のゲーム理論モデルをいわば動的に拡張し、認識のダイナミズムを考 慮した多主体意思決定システムモデルを構築することである。より具体的には、ゲーム理論が 想定するような状況において、認識の多様性を許容した場合に、意思決定の結果の主体の認識 へのフィードバックを明示的に扱い(これはさらに次期のゲームにおける意思決定に影響する)、 そのうえで安定な状態を議論できる理論的枠組みを整備する。そのような意味でのゲームの「均 衡」を定義したうえで、その諸性質について解析を行う。 さらに、応用研究として、多主体意思決定においてこのような認識と意思決定の相互フィー ドバックを考慮した場合の長期的なゲームの帰結に関する示唆について、主体の行動様式の観 点から検討する。すなわち、主体のどのような振る舞いが長い目で見てより望ましい結果を導 くことができるかについて、理論、実証の双方から分析を行う。このような問題は、概念的に は、システム科学分野におけるシステム知性[3]において議論されており、本研究は、そのゲー ム理論的枠組みとの接続を目指すものと見なすこともできる。システム知性とは、いわゆるシ ステム思考的な考えを内在化した振る舞い、態度を裏打ちする類の知性(インテリジェンス) であるとされる。システム思考が想定するような複雑な因果関係に、上述のような相互意思決 定における認識のダイナミズムの作用が明確に関わっている。本研究では、システム知性の主 要なターゲットである、企業経営における価値共創や知識共創の促進といった経営学的課題に 適用し、共創促進のための示唆を得る。 (引用文献)
[3] R. P. Hämäläinen and E. Saarinen (2006). Systems Intelligence: Discovering a Hidden Competence in Human Action and Organizational Life, Helsinki University of Technology, Espoo. 3.研究の方法 ゲーム理論モデルの拡張に関しては、数理解析的な研究を行う。気付きの非対称性を考慮し たゲーム理論においては、その解概念として、通常のナッシュ均衡を拡張した一般化ナッシュ 均衡が提唱されている[4]。しかしながら、一般化ナッシュ均衡がプレイされた場合でも、上述 のような主体の予測と実際の結果との不整合が起こり得る。(これは、標準的ゲーム理論におい ては、その中心的解概念であるナッシュ均衡において、このような不整合が起こり得ないこと と対照的である。)そこで、どのような「均衡」であれば、認識と意思決定の相互フィードバッ クを考慮したうえでも安定状態と解釈できるのかを、各主体の認知構造をふまえて注意深く検
討していく。 応用研究に関しては、ハイパーゲーム理論を用いたシステム知性のゲーム理論的解釈に関す る研究代表者の過去の研究[5]を念頭に置きつつ、特に本研究課題が関連する経営学の領域とし てナレッジマネジメント分野への適用を行う。システム知性が想定するような振る舞いが、上 記のような認識のダイナミズムを通じて、組織的知識創造[6]に有効に作用するメカニズムにつ いて考察する。さらには、アンケート調査と統計的分析により、この仮説的メカニズムを実証 的に検証する。 (引用文献)
[4] J. Y. Halpern and L. C. Rêgo (2014). Extensive games with possibly unaware players. Mathematical Social Sciences, 70, 42–58.
[5] Y. Sasaki, R. P. Hämäläinen and E. Saarinen, Modeling Systems of Holding Back as Hypergames and their Connections with Systems Intelligence, Systems Research and Behavioral Science, 32(6):593-602, 2015.
[6] I. Nonaka and H. Takeuchi (1995), The Knowledge-creating Company, Oxford University Press. 4.研究成果 まず、本研究の理論的意義を明確にするため、気付きの非対称性ゲームと、標準的なゲーム 理論において情報の非対称性を扱う不完備情報ゲームモデルとの関係を理論的に整備した。両 モデルでそれぞれ定義されるナッシュ均衡は、数理的には同値であることを示した。そのうえ で、本研究で採用する前者のモデルの独自性を明らかにするため、その他の均衡概念では必ず しも対応する概念が不完備情報ゲームにはないことなどを議論した。 次に、気付きの非対称性ゲームにおいて従来提唱されている一般化ナッシュ均衡は、長期的 な安定状態としては一般には解釈できないことを指摘し、これを克服した均衡概念として、認 知的安定性を満たす一般化ナッシュ均衡を定義した。これは、名称が示す通り、従来の一般化 ナッシュ均衡のサブクラスである。認識的ゲーム理論における信念階層の概念を導入し、一般 化ナッシュ均衡において、実際にプレイされる結果が、各主体が予測するものであり、さらに 各主体は他の各主体が予測するものと認識しており・・・という場合を、認知的安定性を満た すと定義した。一般には、一般化ナッシュ均衡でも、この性質が満たされないこともあるが、 その場合には、主体はゲームの構造に関する認識を更新する動機を持ち得る。その場合、次期 のゲームにおいて、同じ結果が達成される保証はなく、このため、安定状態と解釈することは できない。このようなケースを除外したのが、認知的安定な一般化ナッシュ均衡である。この 概念を特定したことは、本研究の最も主要な成果であり、上記の研究目的で述べたような、認 識のダイナミズムを考慮した際の多主体意思決定状況の安定状態を扱う理論的枠組みの確立の ための大きな貢献と言える。 応用研究としては、システム知性にもとづく振る舞いが、組織メンバーの認識の変化を通じ て、組織的知識創造に貢献し得る概念的なメカニズムを提唱した。さらに、これはいわば仮説 的なメカニズムであるため、現実のデータによりその実証を試みた。具体的には、国内の企業 等勤務者を対象としたアンケート調査にもとづき、統計的な実証分析を行った。その結果、シ ステム知性にもとづく振る舞い、あるいは態度や考え方が、特定の組織的知識創造のプロセス に有意に影響を及ぼしていることが明らかになった。このアンケートでは、システム知性およ び組織的知識創造プロセスへの貢献の程度については、既存研究で確立されている尺度をそれ ぞれ用いた。 また、この他に本研究課題に関連するテーマとして、以下の成果を得た。 ・主体が複数の意思決定基準を持つ多属性ゲームにおいて、気付きの非対称性を導入し、拡張 モデルにおける均衡概念を提案した。また、その存在性など、数理的性質を分析した。 ・制御工学分野で近年提唱されている情報スーパーバイザ制御のメカニズムをゲーム理論的に モデル化した。すなわち、スーパーバイザが制御目的を達成するためにどのような情報提供を 行えばよいかを、 対象となる意思決定者の情報構造とその変化を明示して、包括的に分析可能 なフレームワークを提示した。 以上の成果は、次節に示す通り、ゲーム理論やオペレーションズ・リサーチ、システム科学 関連の国際的に著名な論文誌や国際会議にて報告した。 5.主な発表論文等 〔雑誌論文〕(計4件)
1. Yasuo Sasaki, “A Note on Systems Intelligence in Knowledge Management,” The Learning Organization, 24(4):236-244, 2017. 査読あり
2. Yasuo Sasaki, “Generalized Nash Equilibrium with Stable Belief Hierarchies in Static Games with Unawareness,” Annals of Operations Research, 256(2):271-284, 2017. 査
読あり
3. Yasuo Sasaki, “An Equivalence Result on the Reduction of Games with Unawareness,” International Game Theory Review, 18(3):1650009 (27 pages), 2016. 査読あり
4. Yasuo Sasaki and Kyoichi Kijima, “Hierarchical Hypergames and Bayesian Games: A Generalization of the Theoretical Comparison of Hypergames and Bayesian Games Considering Hierarchy of Perceptions,” Journal of Systems Science and Complexity, 29(1):187-201, 2016. 査読あり
〔学会発表〕(計6件)
1. Yasuo Sasaki, Jader Zelaya and Naoshi Uchihira, “Systems Intelligence in Organizational Knowledge Creation,” Proceedings of PICMET 2018, Honolulu, USA, 2018. 2. Yasuo Sasaki, “Rationalizability in Multicriteria Games,” 29th European Conference
on Operational Research, Valencia, Spain, 2018.
3. Yasuo Sasaki and Naoshi Uchihira, “Game Theoretical Modeling of Information Supervisory Control,” Proceedings of 2017 IEEE International Conference on Systems, Man, and Cybernetics, Banff, Canada, 2285-2290, 2017.
4. Yasuo Sasaki, “Unawareness of Decision Criteria in Multicriteria Games,” GAMES 2016, the 5th World Congress of the Game Theory Society, Maastricht, The Netherlands, 2016. 5. Yasuo Sasaki, “Cognitively Stable Generalized Nash Equilibrium in Static Games with Unawareness,” Proceedings of the 4th International Symposium on Integrated Uncertainty in Knowledge Modelling and Decision Making, Nha Trang, Vietnam, Lecture Notes in Computer Science, 9376:54-64, 2015.
6. Yasuo Sasaki, “Knowledge Transfer as a Rational Choice: A Decision Theoretic Characterization,” Proceedings of the 59th Annual Meeting of the International Society for the Systems Sciences, Berlin, Germany, 2015.
6.研究組織
研究代表者が個人で遂行したため該当なし。
※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等に ついては、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。