スノギ人工林の生長と林床植生との関係について
永 森 通 雄 (農学部 演習林研究室)
Study on the Relationship between Growth of Cryptomeria japonica
Planted Forest and Floor Plants in Singu District.
Michio Nagamori
hahorator:y of theKochiUnt、ersiりForests、FaculりofAgriculture
This study was carried out for the purpose of elucidating the relationship between growth oiCりptomeriaplantedforest and the composition of floor plants growing in the stand. The investigation was performed at the Cびが凹7お心planted forest in Singu district in Ehime
Prefecture. The investigation plots of 14 quadrates (20×20 m) were scatteringly set up on inner part of the plantation at every soil type. (Table 1)
The results obtained were as follows.
1) The more soil type changes from dry soil to humid soil, the more standing tree volume per ha and site index increases in the stand. (Fig. 1, 2)
2) The site index has a quite high corelation ratio with the thickness of A layer in the stand. (Fig. 3)
3) The more Soi[type changes from dry soil to humid soil, the more percentage of all tolerant plants against all floor plants increases in the stand. (Fig. 4)
4)・The site index has a quite high corelation ratio with the number of tolerant species (pteridophyte) in the stand. (Fig. 5)
5) It seemed that many or few of the number of tolerant pteridophyte indicate the quality of environmental conditions ax Cりptomeriaplantedforest in Singu district.
緒 言 植物は,その地域の気候,地形,土壌などの環境条件の違いに反応しながら群落を形成している が,一般的には,種段階での植物かそれぞれの環境条件の良否を指標するのか普通であるといわれ ている4)。 環境条件との関連で,植物の指標性が的確にとらえられ,区分されるならば,それによって大き くは気候区のような高いレベルの環境条件から,局所的な地形,土壌の変化までが手軽に,しか も,物理的,化学的な方法では測定しえない違いを総合的に判定し得るという利点があり,林業経 営上,極めて便利で,かつ,有用となるであろう。 このような観点から,本研究では,四国内で有数の林業地といわれる愛媛県新宮地方のスギ人工 林について,その生育状態の良否を造林地内の林床植生の生立状態から判定しようと試みた。 その結果,陰性の林床植生種数の占める割合か多ければ多いほど,その場所でのスギの生育も良 好であることか明らかとな力,さらに,これらの陰性林床植生のうち,とくにシダ類の分布状態が この地域での環境条件を指標しているようであった。 この研究の実施にあたり,有益なご教示を賜った和田豊洲先生,また,種々のご援助を賜った清 水産業株式会社ならびに同新宮事業所堅田大八所長に厚くお礼申し上げるとともに,多大のご協力 をいただいた東彪氏に感謝の意を表する。
96 高知大学学術研究搬告 第23巻 a 学 第9号 調査地の概況 調査地は,愛媛県宇摩郡新宮村にある清水産業株式会社所有のスギ人工林(林令41∼69年)で, 面積は約600 ha. 標高400∼900mに位置している。林地の大部分は北および北西斜面である。この 地域は,四国に分布する森林植物帯のうえからみると,暖帯中部∼上部に相当すると考えられ,林 内の下木は,主として,常緑広葉樹類によって構成されている・はずである。しかし,実際には落葉 広葉樹類がその主要な構成樹種となっている。これはスギか新植される以前,あるいはその直前に 人為的な破壊(火入れ,焼畑など)が行なわれた結果であろうと思われた。 調査は, Table 1 調 査 方 法 1970年7月∼8月に行ない,スギ人工林内に,20×20mの調査プロットを14ヵ所設定し
The soil type and stand age of experimental plots. plot N0. 1 2 3 4 5 6 7 0 0 C T * O ︱ 11 12 13 14 soil type - Bb Be // BD(d) /Z BD /Z χ/ χy E が か B が stand age 5 4 1 5 1 0 5 6 5 6 5 6 51 52 5 1 4 9 6 1 5 6 6 6 5 6 た。’調査プロットの設定に際しては,この地域 に出現する土壌型の各種類ごとに2個づつのプ ロットを設け,とくに,最も分布面積か広い BD型土壌では6個のプロットを設けた。(表− 1)これらの各プロットごとに,プロット内の 全槌物の種類ならびに胸高6cm以上のスギ個 体の樹高および胸高直径を測定した。なお,土 壌型については, 1966年に林業試験場四国支場 が,この地域で調査して作成した土壌図を基礎 にしたか,各プロット選定の際にも,それぞ れ,実際に土壌断面を調査して確認した。 土壌条件とスギの生長 スギの生長の良否は,多くの環境条件のなか でも,とくに,土壌条件と密接な関係があり, 土壌条件を総合的に判断する基準として類型化された土壌型と対応させて種々調べられてい る1・2・3・5・lo)。本研究における新宮地方のスギ人工林分について,出現した各土壌型とhaあたりのス ギ立木幹材積との関係は,図一1のようであった。 haあたりの立木幹材積は,各調査プロットでの 林令か互いに異なったため,それぞれの標準木を樹幹解析して,林令50年における値で比較した。 図一1からも明らかなように,この地域のスギ人工林分のhaあたりの立木幹材積は,それらか生 育している場所での土壌型が,号性土壌から湿性土碑へと移行するのにともなって大となる傾向を 示した。すなわち,haあたりの立木幹材積は,最も乾性な土壌であるBB型土壌で最も少なく, 乾性から弱乾性,適潤性へと次第に土壌が湿性化するにともなって大となり,最も湿潤なBE型土 壌で最も大であった。 また,各調査プロットでの林令40年における樹高,すなわち,それぞれの地位指数と土壌型との 関係も図一2のように,乾性土壌であるBB型土壌からBC,BD(d)型土壌へと,さらに, Bd, BE型土壌へと土壌か湿性化するのにともない,地位指数も高くなる傾向を示した。 このように,この地域でのスギ人工林分の生長は,それらが生育している森林土壌の土壌型と密 接な関係かあり,土壌が乾性土壌から湿性土壌へと移行するのにともなってその生長は良好とな り,最も湿性なBE型土壌で最も良いといえるようであった。
︵︱ スギ人工林の生長と林床植生との関係について (永森) 800 600 400 200 ○ VS 1 2 3 4 5 6 V V Be BWd) 7 8 9 10 11 12 → BD● 1 3 Vm1 4
Plotnumber and soil type
Fig. 1. Relation between standing tree volume per ha and soil type of Cryptomeriap\antedforest in Singu, Japan.
30 ● xapui ajjs 20 10 0 .1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 V V V → V Ba Be BD(d) Bd BE Plotnumber and soil type
Fig. 2. Relation between site index and soil type of Cryptomeria planted forest in Singu Japan.
98 高知大学学術研究報告 第23巻 農 学 第9号 さらに,同一土壌型でも,たとえば,同じBD型土壌であるプロットN0.10およびNo. 12の ような,その堆積様式か崩積土である方が,プロットNo. 7およびNo. 9のような残積土である よりも,スギの生長は良好であった。 BE型土壌であるプロットNo. 13およびNo. 14は,いず れも崩積土であり,これらの土壌はともにC層までの厚さ・が大で,とくにA層が厚いようであっ た。そこで,それぞれの調査プロットでの土壌のA層の厚さを測定し,これと地位指数との関係を 求めたところ,図一3に示したように,A層の深さか深くなるほど地位指数も高くなる傾向を示し た。このように,この地域でのスギ人工林分の生長は,土壌のA層が厚く有機物に。富み,かつ,土 壌水分の豊富な湿性土壌になるほど良好になると考えられた。 30 20 xapui 9)is 10 ○ 10 20 30 40● 50 60 Thickness of A layer (cm)
Fig. 3. Relation between site index and thickness of A layer ofCぴがomeria planted forest in Singu, Japan.
林床植生とスギの生長 このようなスギ人工林内に生立している林床植生は,コドラート調査の結果,各調査プロットご とにかなり異なった構成状態を示していた。とくに目立ったのは,土壌型が乾性土壌から湿性土壌 へと移行するのにともなって,陰性植生*の種数が多く・なる傾向を示したことであった。 いま,各調査プロット内に生立しているスギ以外の全林床植生種数のうち,陰性種数が全種数に 対して占める割合を土壌型別にプロットすると図一4のようになった。すなわち,この地域のスギ 人工林内に生立している林床植生は,造林地の土壌型が乾性土壌であるBb, Be型土壌から適潤性 土壌であるBD(d)へ,さらに湿性土壌であるBd. Be型土壌へ移行するのにともない,また,同 じ土壌型のなかでも,スギの林令が高くなるのにともない,全林床植生種数に対する陰性植生種数 の割合が明らかに増加していく傾向を示した。たとえば,BE型土壌であるプロットNo. 14やBd *林床植生について,陽性,陰性,中庸性K区別したか,これは和田豊洲:四国の植物分布とその生態 (1974)によった。
S J U B l d J O O I I H E } S U I B 3 B S J U B i d J U B J 3 1 0 } 一 I B l O 3 3 B J U 3 0 J 3 J スギ人工林の生長と林床植生との関係について (永森) 50 40 30 20 10 0 1 V 8 8 2 3 4 5 6 V V Be Bo(<i) 7 8 9 10 11 12 → BD ● / 13 114 ,V Be
Plot number and soil type・
Fig. 4. Relation between percentage of all torelant plants against all floor plants and soil type of Cワがり肖εΓiaplanted forest in Singu Japan. 99 型土壌であるプロットNo. 12内には,陰性植生であるイワガネゼンマイ,サカゲイノデ,ミソシ ダ,キョタキシダ,ヌスビトハギ,コバノハナイカ'ダなどが,かなり多く出現しているのに対し て,BB型土壌であるプロットNo. 2やBC型土壌であるプロットNo. 3内には,これらの陰性 植生は全く出現していなかった。 このように,この地域のスギ人工林分ではiその林内の全林床植生のうち,陰性の林床植生種数 の占める割合が多ければ多いほど,その場所の地位指数も高いとみなすことができ,スギの生育も 良好であると判断して差支えないと考えられた。 環境条件の判定に対する指標性の決定 新宮地方のスギ人工林分について,ある場所でのスギの生育状態かどの程度であるかを手取り早 く知りたい場合,全林床植生種数に対する陰性植生種数の占める割合を調べるのは,多少手間がか かり過ぎるきらいがあろう。そこで,全林床植生のうち,どのような場所にも普遍的に分布してい るシダ類をとりあげ,これらシダ類の分布と造林地内の環境条件との関連性について検討した。 図一5は,各調査プロット内に出現したシダ類のうち,陰性(弱陰性を含む)のシダ類種数と地
100 高知大学学術研究報告 第23巻 .農 学 第9号、 30 20 xapui ajis 10 0 10 20 Number of tolerant species (pteridophyte) in a plot(20χ20m)
Fig. 5. Relation between number of tolerant species (pteridophyte) in a plot and siteindex of Cryゆtomeriaplanted forest in SingQ, Japan一 位指数との関係について示したものである.この場合,出現したシダ類の陰,陽別,湿性,適潤性 別は和田の分類9’に従い,次のように区別した. ,陰 性.湿性種:イワガネゼンマイ,イワガネソウ,ホオノカワシダ,ミヤマシケシダ,ヤマ イヌワラビ 陰 性.適潤性種:タカサゴキジノオシダ,牛ジノオシダ,イノデ,サイゴクイノデ,サカゲイ ノデ,ツヤナシイノデ,ヤブソテツ,ベニシダ,キョスミヒメワラビ, ヨコ グラヒメワラビ,ミソシダ,オオヒメワラビ,シケシダ,キョタキシダ 弱陰性.適潤性種:クマワラビ,ヤワラシダ,タニイヌワラビ 弱陽性.適潤性種:ゲジゲジシダ,ハリガネワラビ,ヌリワラビ,シシガシラ 弱陽性.湿性種:ヒメワラビ 陽 性.適潤性種:ゼンマイ,ワラビ,オクマワラビ,イヌワ’ラビ 図一5からもわかるように,シダ類だけについても,斥のプ゜ツト内に出現する陰性なシダ類の 種数か多くなるほど,その場所の地位指数も高くなる傾向を示しており,シダ類の陰,陽性別とそ の種数が,環境条件の判定に対して指標性を有するといえよう. 以上のことから,この地域でのスギ人工林内の生育状態の良否を,林内の林床植生の生立状態か ら判定しようとする場合,具体的には,どの場所でも比較的多く分布しているシダ類を, (A) イノデ,サイゴクイノデ,サカゲイノデ,ヤブソテツ,ミソシダ,オオヒメワラビ,シ ケシダ,キョタキシダ,イワガネゼンマイ,ミヤマシケシダ,ヤマイヌワラビ ・(B) ゼンマイ,ワラビ,ヒメワラビ,シシガシラ の2群に分け,A群のシダ類種数がより多く認められるほど,スギの生育状態は良好であり,逆 に,B群のシダ類種数がより多く認められるほど,スギの生育状態は不良であるとみなし得ると考 えられた.
スギ人工林の生長と林床植生との関係について (永森) 101 前田,宮川3’らも,わが国の暖帯中部∼上部でのスギ人工林におけるシダ類の地位指標性につい て,イノデ,サカゲイノデ,ミソシダなどが地位級lを,ワラビ,シシガシラなどが地位級m∼Ⅳ を指標するとしている。 今後は,さらに多くの調査を行ない,とくに植生連続の立場をふまえつつ,より正確な指標植物 体系を確立する必要があろう。 摘 要 1)愛媛県新宮地方のスギ人工林分の生育状態の良否を,林地の土壌型と関連させて,林内の林 床植生の分布状態から判定できるかどうかについて検討した。 ` 2)林内に分布する各土壌型別に,14ヵ所(20×20m)の調査プロットを設け,毎木調査とコド ラート調査を行なった。 ’ 3)スギの生長は,乾性土壌から湿性土壌へと移行するにともない,また,A層の厚さが大きく なるほど良好であった。同一土壌型でも,その堆積様式が崩積土である方が残積土よりも,スギの 生長は良好であった。 4)林地の土壌型が,乾性土壌から湿性土壌へと移行するのにともなって,林内の林床植生のう ち陰性種数が,全種数に対して占める割合が大となる傾向を示した。 5)これらの林床植生のうち,シダ類の分布状態について検討した結果,陰性なシダ類の種数が 多くなるほど,スギの生育も良好となることが明らかとなり,シダ類の分布状態がこの地域におけ る環境条件の判定に対して指標性を有すると考えられた。 文 献 田 前田禎三,宮川清=伊豆地方造林地の林床植生−スギの生長および土壌条件との関連Rニついて 日林誌, Vol. 40, No. 2, 1958 。 ` (2)前田禎三,宮川清:スギ人工林の林床型および主な組成種について(I)一草本階(シダ類を除く)お よび植物 森林立地 Vol.Ⅲ, No. 2, 1962 (3)前田禎三,宮川清:スギ人工林の林床型および主な組成種について(n)−シダ類 森林立地 Vol. IV, No. 1> 1962 (4)前田禎三,宮川清:林床植生による造林適地の判定 林業研究 No. 40, 1969 (5)中村得太郎:千葉県演習林におけるスギ植栽林の生長過程と土壌の形態学的性質との関係東大演報. No. 32, 1943 (6)大井次三郎:日本植物誌, 1953 (7)林業試験場四国支場ご林地土埃生産力に関する研究成果報告書 1967 (8)上田弘一郎:森林植生型の造林学的研究 京大演報 No. 19, 1950 (9)和田豊洲:四国の植物分布とその生態 1974 圓 山谷孝一,山田耕太郎:青森県西南部のスギ天然林地帯における土壌と植生との関係 日林講 No. 67, 957