日本 のHIV/AIDSの
動 向 とそ の対 策 の方 向性
市
川
誠
一
要 約 HIV感 染 の予 防 は個 人 の 意 識 と行 動 に依 存 す る。 しか し、 予 防 の必 要 性 を 認 識 し、 自身 の問 題 と して 意 識 化 し、 予 防行 動 を決 定 す る に は、 そ れ らを 支 援 す る環 境 が 必 要 で あ る。 わ が 国 のHIV/AIDSの 現 状 は、 同 性 愛 者 や 滞 日外 国 人 に対 して、HIV/性 感 染 症 の予 防 や 医療 に 関 す る啓 発 を 促 進 し、 情 報 の 入 手 や 行 動 変 容 を起 こ しや す い環 境 の構 築 、HIV感 染 リス クや そ れ に伴 う不 安 等 に対 す る相 談 、 検 査 、 医 療 な どの 支 援 環 境 の構 築 が 必 要 で あ る こ とを 示 して い る。 キ ー ワー ド:HIV、AIDS、 予 防、HIV検 査 1.日 本 のHIV/AIDSの 発 生 概 況 HIV、AIDS診 断 例 に つ い て は 「感 染 症 の 予 防 及 び 感 染 症 の 患 者 に 対 す る 医 療 に 関 す る 法 律 」 に 基 づ い て 初 回 の み の 報 告 が 行 わ れ て い る 。 厚 生 労 働 省 エ イ ズ 発 生 動 向 年 報1)に よ る と 、 わ が 国 の 未 発 症HIV感 染 者(以 下 、 HIV)お よ びAIDS患 者(以 下 、AIDS)の 発 生 報 告 数 は1996年 以 降 増 加 が 続 い て い る。2007年 の 年 間 報 告 数 は 、 HIVが1,082件 、AIDSが418件 、 合 計(HIV/AIDS)が1,500件 と な っ た(表1)。1985年 に 全 国 サ ー ベ イ ラ ン ス が 開 始 さ れ て か ら 、 血 液 凝 固 因 子 製 剤 に よ る感 染 例 を 除 い た 報 告 累 計 はHIVが9,426件 、AIDSが4,468件 で 、 HIV/AIDSは13,894件 と な っ た 。 最 近5年 間 の 報 告 数
はHIVが4,286件 でHIV累 計 の45.4%、AIDSが1,912 件 でAIDS累 計 の42.8%と 、 そ れ ぞ れ が22年 間 の 報 告 総 数 の40%以 上 を 占 め て い る 。 わ が 国 のHIV感 染 症 は 近 年 に な っ て 著 し く増 加 し て い る こ と が 伺 え る 。 エ イ ズ 病 原 体 感 染 者 報 告 票(症 状 に 変 化 を 生 じ た 事 項 に 関 す る 報 告)は 厚 生 省(現 厚 生 労 働 省)エ イ ズ 疾 病 対 策 課 長 通 知(平 成11年3月19日)に よ り医 師 の 任 意 で 報 告 さ れ て い る。AIDSか ら病 変 死 亡 した 報 告 例(以 下 、 病 変 死 亡 例)の 年 次 推 移 を み る と、 病 変 死 亡 例 は1996年 116件 を ピ ー ク に 減 少 し 、 こ の 数 年 は20件 以 下 と な っ て い る 。 こ れ は 複 数 の 抗HIV薬 を 用 い る 治 療 法(Highly Active Anti-retroviral Therapy、 以 下HAART)が 導 入 さ れ た こ と に よ る 効 果 で あ り、HIV感 染 症 はAIDS
を発 症 して死 亡 す る こと を避 け られ る時 代 に な った こ と を示 唆 して い る。 しか し、 わ が 国 で は、HAARTが 導 入 さ れ て10年 以 上 を経 過 した に もか か わ らず、AIDS報 告 数 は未 だ に増 加 傾 向 に あ る。 これ はHIV検 査 に よ る 早 期 発 見 ・早 期 治 療 の体 制 が 充 分 に活 用 され て いな い こ とを 示 して い る。 わ が 国 の エ イ ズ 施 策 と して は、HIV 感 染 予 防 の た めの 啓 発 と共 に、 感 染 リス クの 高 い層 に向 け た 自発 的HIV検 査 の普 及 、 性 感 染 症 罹 患 者 へ のHIV 検 査 の 推 奨 、 そ して告 知 時 ・告 知 後 の 陽 性 者 へ のHIV 診 療 受 診 や 生 活 支 援 に関 す る相 談 体 制 を 促 進 す る こ とが 必 要 で あ る と考 え る。 2007年 の 年 間HIV報 告 数 の う ち 日本 国 籍 例 は89.6% (969件)を 占 め 、 そ の96.1%(931件)を 男 性 が 占 め て い る1)。感 染 経 路 別 に み る と、 日本 国 籍 男 性 で は 同性 間 の 性 的 接 触 に よ る感 染(以 下 、 同 性 間 感 染)が74.1% (690件)を 占 め、 次 い で 異 性 間 の 性 的 接 触 に よ る感 染 (以下 、 異 性 間 感 染)が16.8%(156件)で あ る。 日本 国 籍 女 性 の報 告 例 は38件 と男性 に 比 べ て 少 な く、 感 染経 路 別 で は異 性 間 感 染 が68.4%(26件)を 占 め、 同性 間感 染 が2件 報 告 され て い る。 外 国 国 籍例 で は、 男 性 は76件 の う ち 同 性 間感 染 が48.7%(37件)、 異 性 間 感 染 が19.7% (15件)と 男 性 同性 間 感 染 が多 い 。 女 性 は37件 の うち異 性 間 感 染 が64.9%(24件)で あ る。 な お、HIV報 告 例 の う ち静 注 薬物 濫 用 例 は3件 、 母 子 感 染 例0件 で あ る。 2007年 の 年 間AIDS報 告 数 の うち 日本 国籍 例 は87.3% (365件)を 占 め 、 そ の343件(94.0%)を 男 性 が 占 め て い る1)。AIDSを 感 染 経 路 別 にみ る と、 日本 国 籍 男 性 で は同 性 間 感 染44.3%(152件)を 占 め異 性 間 感 染31.2% (107件)よ り多 い。 この傾 向 は2004年 か ら続 い て お り、 同性 間感 染 の割 合 は増 しつ つ あ る。 外 国 国籍 例 は53例 で 、 この うち 男性 が34件 、 女 性 が19件 で あ る。 男 女 共 に異 性 間 感 染 が16件(男 性47.1%、 女 性84.2%)と 多 く、 男 性 同 性 間 感 染 は5件(14.7%)で あ る。 ま た、 静 注 薬 物 濫 用(3件)と 母 子 感 染(0件)に よ る感 染 例 はHIVと 同 様 に少 な い。 2007年 の報 告 か ら、 わ が 国 のHIV/AIDSの 発 生 は 日 本 国 籍 男性 に お け る感 染 が大 半 を 占め、 そ の 中心 は 同性 間 感 染 で あ る こ とが示 され て い る。 な お 男性 同性 間感 染 に よ るHIV、AIDS報 告 例 の 感 染 地 域 は大 半 が 日本 国 内 で あ る。 2.男 性 同性 間 のHIV感 染 症 の動 向 厚 生 労 働 省 エ イ ズ 発 生 動 向 年 報 に よれ ば1)、HIVは 1996年 以 降 日本 国籍 男 性 を 中心 に増 加 が続 い て い る。 日 本 国 籍HIVで は、 異 性 間 感 染 は2001年 以 降130一180件 で増 減 を繰 り返 して推 移 して い る一 方 、 男 性 同性 間感 染 は増 加 が続 き、2000年 か らは報 告 数 の過 半 数 を 占 め(図 1)、2007年 に は74.1%を 占 め る状 況 とな って い る。 ま たAIDSに お いて も、異 性 間感 染 は1999年 以 降100一130 件 で 増 減 を 繰 り返 し、 男 性 同 性 間 感 染 は増 加 が 続 き、 2001年 か ら1/3を 占 め 、2004年 に は異 性 間 感 染 の 報 告 数 を超 え 、2007年 に は年 次 報 告 数 の44.3%を 占 め る状 況 とな って い る(図2)。 日本 国 籍HIVを 年 齢 階 級 別 に 感 染 経 路 内訳 を見 る と、15-24歳 及 び25-34歳 の年 齢 層 で は男 性 同性 間 感 染 の割 合 は高 く、近 年 で は年 次 報 告 の 80%を 占 め る状 況 に あ る(図3)。 地 域 別 に 男 性 同 性 間感 染 の 動 向 を 見 る と、 東 京 で は 1996年 ごろ か ら増 加 に転 じ、大 阪 を 中心 と した近 畿 地 域 で は1999年 ごろ、 愛 知 を 中心 と した東 海 地 域 で は2001年 ごろ か ら増 加 に転 じて い る。 東 京 を 除 く関 東 ・甲信 越 地 域 で は2002年 ま で横 ば い で あ った が、 そ の後 は増 加 に転 じて い る(図4)。 ま た、 九 州 地 域 で は福 岡、 沖 縄 で 増 加 の兆 しに あ り、 東 北 地 域 で も同様 の兆 しに あ る。 九 州 や東 北 地 域 の年 次 報 告 数 は近 畿 お よ び東 海 地 域 が増 加 に 転 じた 頃 の報 告 数 に達 して い る。 今 後 は大 都 市 部 を抱 え る東 京 、 大 阪 、 愛 知 に加 え、 地 方 都 市 に お い て も男 性 同 性 間感 染 が増 加 す る もの と思 わ れ、 男 性 同性 愛 者 を対 象
と した エ イ ズ対 策 は東 京 や大 阪 の都 市 部 の み な らず 全 国 的 な取 り組 みが 必 要 に な る。
厚 生 労 働 省 エ イ ズ対 策 研 究 事 業 に よ る研 究 班 報 告 に よ れ ば、HIV抗 体 検 査 を受 検 したMSM(Men who have sex with men、 男 性 と セ ッ ク ス を す る男 性)のHIV 抗 体 陽 性 割 合 は、 東 京 、 大 阪 、 名 古 屋 地 域 で2-5%、 梅 毒 抗 体 陽 性 割 合 は15-20%で あ る2-4)。 こ れ らの こ と は、 男 性 同 性 愛 者 等 を 対 象 と した 予 防啓 発 お よ び早 期 検 査 ・早 期 医 療 に 関 す る取 り組 み が わ が 国 の エ イ ズ施 策 と して 重要 で あ る こ とを 示 して い る。 3.男 性 同 性 間 のHIV感 染 対 策 わ が国 の エ イ ズ に関 す る啓 発 は、1980年 代 後 半 に な っ てパ ンフ レッ ト等 を介 して広 く国 民 に行 わ れ るよ うにな っ た。 しか し、 啓 発 資 材 に記 載 され る情 報 は異 性 愛 者 を対 象 に した ものが 殆 どで 同 性 間 の感 染 予 防 に関 す る情 報 等 は乏 しい状 況 に あ っ た。 セ ク シュ アル ・マ イ ノ リテ ィに 対 す る社 会 の 偏 見 と差 別 は、 同 性 愛 者 が 同 性 愛 者 と して 生 活 す る こ とを 困 難 に し、 同 性 愛 者 の 存 在 を 不 可 視 化 し て い る。 無 防 備 な アナ ル セ ッ クス が 男 性 同 性 間 の 性 的 接 触 に よ るHIV感 染 の リス ク要 因 で は あ る が 、 男 性 同 性 間 でHIV感 染 が 増 加 して い る背 景 と して、 性 的 指 向 に 関 す る こ とや 同性 間 の セ ック ス と性 感 染 症 予 防 に 関 す る こ と の情 報 提 供 が 同性 愛 者 の生 育 過 程 に そ って行 わ れ て い な い こ と、 自 己 の性 的 指 向 につ い て の悩 み、 不 安 な ど を相 談 す る社 会 的 環 境 が 十 分 で な い こ と も関 連 して い る と思 わ れ る。HIV感 染 予 防 は個 人 の 予 防 行 動 に依 存 す る と こ ろで あ るが 、 この 予 防 行 動 を 行 いや す く して い く 社 会 環 境 の 構 築 が 重 要 で あ る。 財 団 法 人 。エ イ ズ予 防 財 団 は 「男 性 同 性 間 のHIV/ STI感 染 予 防 に 関 す る啓 発 事 業 」 と して、 コ ミュニ テ ィ
セ ン ター 「akta」(東 京都 新 宿 区2丁 目)お よ び 「dista」 (大 阪市 北 区 堂 山 町)を2003年 に開 設 した 。 これ は厚 生 労 働 省 エ イ ズ対 策 研究 事業 で 取 り組 ん で き た当 事 者 に よ るNGOの 啓 発 活 動 に一 定 の 成 果 が 見 られ た こ とか ら、 男 性 同 性愛 者 等 に訴 求 性 の あ る啓 発 を 促 進 す る ため に国 が 事 業 と して 予 算 化 した もの で あ る。 東 京 で はNGO・ Rainbow Ringが 、 大 阪 で はNGO・MASH大 阪 が そ れ ぞ れ の コ ミュ ニ テ ィセ ン ター を 運 営 し、MSMを 対 象 と した 予 防 啓 発 プ ロ グ ラ ムの 開 発 と普 及 に取 り組 ん で い る。 な お 、 現 在 は名 古 屋 地 域 、 福 岡 市 博 多 地 域 に も同 様 の コ ミュ ニ テ ィセ ンタ ーが 開設 され て い る。 男 性 同 性 間 のHIV感 染 症 が 拡 大 して い る 今 日、 コ ミュ ニ テ ィセ ン タ ー は男 性 同 性 愛者 等 が利 用 す る商 業 施 設 と連 携 して 啓 発 普 及 を 促 進 す る役 割 を果 た して い る。 大 阪 のHIV感 染 者 報 告 数 は男 性 同性 間 感 染 が1999年 以 降 著 しい 増 加 を示 して い る。MASH大 阪 が1999年 か ら毎 年 実 施 して き たMSM対 象 の 質 問 紙 調 査 に よ れ ば、 過 去1年 のHIV検 査 受 検 率 は1999年 の19%か ら2004年 に は36%に 達 して い る5)。名 古 屋 地 域 に お い て は、2000 年 か らゲ イNGOに よ る啓 発 活 動 が 始 ま り、2001年 か ら はMSMを 対 象 と したHIV抗 体 検 査 会 が 経 年 的 に 実 施 され て い る。 こ の検 査 会 は毎 年6月 に実 施 され 、 採 血 し た翌 日 に は確 認 検 査 の結 果 を報 告 し、 陽 性 者 に は エ イ ズ 拠 点 病 院 を紹 介 して い る。MSMの 受 検 者 数 は年 々 増 加 し2007年 に は500人 を 超 え る状 況 と な って い る。 名 古 屋 地 域 で のHIV感 染 者 の報 告 数 も近 年 に な つて 増 加 が 著 しいが 、 こ う した 啓 発 活 動 がHIV検 査 受 検 行 動 を 向 上 させ た こ と に よ る も の と思 わ れ る。 こ の よ う な受 検 行 動 の 促 進 が 続 け ば、 同性 間 感 染 に よ るAIDS発 生 は抑 え られ 、 や が て 滅 少 に向 か う こ とが 期 待 され る。 しか し、 大 阪 土 曜 日常 設HIV抗 体 検 査 のMSM受 検 者 中 のHIV 陽 性 者 割 合 は この数 年 お よ そ5%で 推 移 して い る6)。 こ の こ と はMSMに お け るHIV感 染 が 必 ず し も楽 観 視 で き る状 況 で は な い こ と を示 して お り、 検 査 環 境 の み な ら ずHIV陽 性 者 へ の 医 療 環 境 の 整 備 も重 要 と考 え る。 ま た 、 エ イ ズ 発 生 動 向 に お け るHIV感 染 者 の 増 加 や MSMのHIV検 査 受 検 行 動 の 上 昇 が 過 去 に 感 染 した 例 を と らえ て い るの か 、最 近 に感 染 した例 を捉 え て い るの か は明 らか で は な い。 4.滞 日外 国 人 のHIV感 染 症 の 動 向 外 国 国 籍 のHIV/AIDS報 告 数 は1992年 に332件 を 数 え ピー ク と な り、1993年 に はお よそ半 数 に著 し く減 少 し た(図5)1)。 そ の 後 は149∼209件 の範 囲 で 増 減 を繰 り 返 し、200σ年 以 降 の年 次 推移 は ほ ぼ横 ば い の状 況 で あ る。 HIV/AIDS報 告 数 の上 位10位 の 都 府 県 は、 東 京 、 大 阪、・ 愛 知 な ど の大 都 市 地 域 と その 周 辺 地 域、 お よ び茨 城 、 長 野 、 静 岡 、 栃 木 な どの 地 域 とな って い る。 法務 省 入 国 管 理 局 の外 国 人 登 録 者 数 は、 都 道 府 県 別 で は、 東 京(総 人 口 に 占 め る比 率2.8%、2003年)、 大 阪(同2.4%)、 愛 知 (同2.3%)が 上 位 を 占 め 、 他 のHIV/AIDS報 告 数 が 多 い地 域 も2%前 後 の 人 口比 率 を 占め 、 外 国 国 籍者 が 多 い 地 域 で あ る。 外 国 国 籍 の 感 染 例 で 、HIV/AIDSに 占め るAIDSの 割 合 は40%前 後 か ら最 近 は31%と 改 善 が 見 られ るが 、 日本 国 籍例 の そ れ よ り も高 い状 況 に あ る。 こ の こ と は滞 日外 国 人 に と っ て、HIV検 査 を受 け る環 境 が 未 だ 充 分 で な い こ とを 示 して い る。 な お、1990年 代 初 期 の報 告 例 で は感 染 地 を 外 国 とす る者 が 多 か っ たが 、 近 年 で は国 内 感 染 例 が 多 くな って きて お り、外 国 国 籍 者 へ の予 防 啓 発 や 医 療 の支 援 が 益 々重要 な 状 況 に あ る と思 わ れ る。 5.無 料 ・匿 名HIV検 査 及 び 相 談 に つ い て 保 健 ・医 療 機 関 でHIV抗 体 検 査 を経 験 した男 性 同 性 愛 者 か らは、 「保 健 ・医 療 職 者 は受 検 者(受 療 者)が す べ て 異 性 愛 者 で あ る と思 い込 ん だ対 応 を して い る た め同 性 間 に関 す る相 談 が しづ らい」、 「男性 同性 愛 者 は異 常 な 性 行 動 を と って い る こ とを前 提 に対 応 して い る保 健 ・医 療 職 者 が い る」 な どの意 見 を 聞 くこ とが あ る。 そ の一 方 で 、 「受 検 者 本 位 の 対 応 で、 同 性 間 の性 行 為 につ い て も 安 心 して 相 談 で きた 」 と い った こ と も聞 か れ る 。HIV 検 査 受 検 者 は、 感染 リス ク行 動 に対 す る不 安 と悩 み の期 間 を経 て、 受 検 す る こ とを 決 断 し、 初 めてHIV検 査 と い う医療 行 為 を受 け、 そ の後 検 査 結 果 に対 す る不 安 に悩 み 、 告 知 に向 か う とい う一 連 の作 業 が生 ず る。 さ らに 同 性 愛 者 の 中 に は、 「性 行 動 に つ いて どん な こ とを 言 わ れ る のか 」 「差 別 的 な 対 応 を さ れ るの で は な い か 」 とい っ た不 安 を抱 え て受 検 して い る人 も少 な くな い。 受 検 者 の 殆 ど は検 査 に は素 人 で あ り、 持 って い る知 識 もイ ン ター ネ ッ ト等 で得 た程 度 の情 報 で あ る。 こ う した受 検 者 に対 して どの よ うな検 査 を提 供 す るか は、 受 検 者 の そ の後 の
行 動(予 防 行 動 、 受 検 行 動 、 受 療 行動 等)に 大 き く影 響 す る もの と思 わ れ る。 大 阪 及 び名 古 屋 で は啓 発 イ ベ ン トと一 緒 に 、MSMを 対 象 に したHIV、HBV、 梅 毒 の無 料 ・匿 名 検 査 を、 翌 日結 果 告知 と い う方 法 で実 施 した(名 古 屋 で は現 在 も毎 年 継 続 して い る)。 受 検 者 に 対 して ど の よ うな 検 査 を提 供 す るか につ いて 、 医 療 者 、NGO、 研 究 者 らで 検 討 し、 検 査 が提 供 さ れ る対 象 はMSMで あ る ため 、 大 阪 で は MSMに 効 果 的 に 届 く広 報(ゲ イ メ デ ィア や商 業 施 設 等 を活 用 す るな ど)を 実 施 し、 検 査 場 に お い て は受 検 者 に 検 査 の 流 れ やHIV/性 感 染 症 の 基 礎 的 情 報 を提 供 す る オ リエ ンテ ー シ ョン用 ガ イ ダ ンス(紙 芝 居 形 式)や ビデ オ を 作成 し、 陽性 者 の 医療 機 関紹 介 と受 診 の手 引 きな ど を考 案 して実 施 した。 米 国CDC(疾 病 管 理 セ ン ター)は 自発 的 なHIV抗 体 検 査(VCTR)に つ い て ガ イ ドライ ンを策 定 し、 公 表 し て い る7)。 そ の 中 で 自発 的HIV抗 体 検 査 ・相 談 の 目標 につ いて以 下 の よ うに示 して い る。 ・HIV感 染 者 とHIV感 染 リス クが 高 い 環 境 に あ る人 々 の た め に以 下 の事 を確 実 に行 う。 -HIV感 染 状 況 を 早 く知 る こ と が で き る よ う、 HIV検 査 を利 用 で き るよ う にす る こ と -HIVに 感 染 した り さ せ た りす る リス ク を軽 減 す る た め に、 質 の 高 いHIV予 防 カ ウ ンセ リ ングが 受 け られ る こ と -最 適 の医 療 、 予 防 、 そ して 心 理 社 会 的 サ ポ ー ト ・ サ ー ビス の利 用 が で き る こ と ・HIV検 査 を 通 してHIV感 染 状 況 を早 く知 る こ とを 推 奨 し、HIV検 査 を 受 け よ う と して い る全 て の 人 々 に 対 し、 感 染 の し くみ、 予 防 、 そ してHIV検 査 結 果 の 意 味 に関 す る情報 提 供 を 確 実 に行 う。 さ ら に 自発 的HIV抗 体 検 査 ・相 談 の 原 則 に つ いて は 以 下 の よ うに 示 して い る。 ・自発 的HIV抗 体 検 査 ・相 談 サ ー ビス を薦 め られ た、 ま た は 同 サ ー ビス受 け る ク ライ ア ン トの個 人 情 報 を保 護 す る。 個 人 情 報 は、 ク ライ ア ン トの 同意 な しで他 者 へ漏 洩 して は な らな い。 ・HIV検 査 は強 制 で は な く、 自発的 な もので な くて は な らな い。RIV検 査 前 の イ ン フ ォ 一 ム ド ・コ ンセ ン トは不 可 欠 で あ る。 同 意 に関 す る情 報 提 供 は、 口頭 も し くは書 面 で 行 わ れ るが 、 これ は ク ラ イ ア ン トが 理 解 で き る言 語 で 行 わ れ な けれ ば な らな い。 検 査 を 受 け る か 否 か が 、 提 供 され る ケ アの 質 に不 利 益 な 結 果 を 招 く こ とが あ って はな らな い。 ・ア ノ ニ マ ス検 査(ク ライ ア ン ト個 人 を 特 定 す る情 報 が 検 査 や 医 療 記 録 と関 連 付 け られ る こ とな く、 同意 を得 た上 で 実 施 され る 自発 的 検 査)は 、 広 く効 果 的 に用 い られ、 医 療 ケ ア の早 期 利 用 を 促 す た め、 個 人 や 社 会 の 健 康 に貢 献 して い る。 他 は利 用 で き な くて も、 ア ノ ニ マ スで あ れ ば検 査 を受 け、HIV感 染 を 知 る こ とが で きる個 人 もい る。 ク ラ イ ア ン トが ア ノ ニ マ ス検 査 を 望 む場 合 、 提 供 者 は ク ラ イ ア ン トの検 査 結 果 を氏 名 に よ つて ク ラ イ ア ン トと照 合 す る こ とが で き な い こ とを 事 前 に伝 え て お く必 要 が あ る。 ・予 防 カ ウ ン セ リ ン グ の提 供 の 有 無 に関 らず 、HIV検 査 を 薦 め られ た 者 、 受 け る者 全 て に対 し、HIV感 染 の し くみ の説 明 、 検 査 結 果 を 受 け取 る こ との 重 要 性 、 そ してHIV検 査 結 果 の意 味 の 情 報 を 提 供 す る。 ・検 査 提 供 者 は、 サ ー ビスの 利 用 を 困 難 に して い る障 壁 を無 く し、 個 人 や コ ミュ ニ テ ィの 二 一 ズ に適 したサ ー ビス を展 開 で き る よ う取 り組 ま な けれ ば な らな い。 ・ク ライ ア ン トの 文 化 、 言 語 、 性 別 、性的指向、年齢、 そ して 発 達 レベル に適 したサ 一 ビスを 提 供 す る。 ・ク ライ ア ン トや コ ミュ ニ テ ィの ニ ー ズ に適 した 質 の 高 い サ ー ビスを 提 供 す るた め 、 提 供 者 は、 検 査 の プ ロ ト コ ール 文 書 と、 質 の 保 証 や 評 価 方 法 につ い て の 文 書 を 作 成 し、 そ れ を 利 用 しな けれ ば な らな い 。 わ が 国 にお い て は、 保 健 所 等 のHIV検 査 機 関 でHIV 即 日検 査 を 実施 す るに あ た り、 検 査 体制 や受 検 者 へ の対 応 に関 す るガ イ ドライ ンを、 厚生 労働 科学 研 究 費補 助金 エ イ ズ対 策 研 究 事 業 に よ るHIV検 査 体 制 の 構 築 に 関 す る研 究 班 が 示 して い る。 無 料 ・匿 名 でHIV検 査 を実 施 す る こと は、早 期 検 査 ・早 期 治 療 に向 け て有 効 で あ るが 、 検 査 は受 検 者 の視 点 に た って、 広 報 や検 査 環 境 の整 備 を 行 う こ とが必 要 で あ る。HIV検 査 に限 っ た こ とで は な .いが、 検査 の結 果 を返 す だ けで な く、 予 防 に必 要 な情 報 、 社 会 に あ る電 話 相 談 や そ の他 の リソ ー ス を用 意 して、 受 検 者 に提 供 す る こ と な ど の準 備 が 望 ま れ る。 6.ま と め HIV感 染 の予 防 は個 人 の 意 識 と行 動 に 依 存 す る。 し か し、 予 防 の 必 要 性 を 認 識 し、 自身 の 問 題 と して 意 識 化 し、 予 防 行 動 を 決 定 す る に は、 そ れ らを 支 援 す る環 境 が 必 要 で あ る。 わ が 国 のHIV/AIDSの 現 状 は、 同性 愛 者 や 滞 日外 国 人 に対 して、HIV/性 感 染 症 の予 防 や 医療 に 関 す る啓 発 を促 進 し、 情 報 の入 手 や行 動 変 容 を起 こ しや す い環 境 の 構 築 、HIV感 染 リス ク や そ れ に伴 う不 安 等 に対 す る相 談 、 検 査 、 医療 な ど の支 援 環 境 の構 築 が必 要 で あ る こ と を 示 して い る。これ らのHIV感 染 症 対 策 に は、 当事 者 性 の あ る啓 発 資 材 ・啓 発 手 法 の 開発 が重 要 で、 行 政 の理 解 と支 援 が 必 要 で あ る。 男 性 同性 愛 者 や滞 日外 国人 の ボ ラ ンテ ィア と行 政 が 、 目標 を共 有 し、 それ ぞ れ の専 門 性 に よ る役 割 を 果 た して い く こ とがHIV感 染 症
対 策 を推 進 す る もの と考 え る。
〔参 考 文 献 〕
1)厚 生 労 働 省 エ イ ズ動 向委 員 会:平 成19年 エイ ズ発 生 動 向 年 報 、 平 成20年5月25日.
2)市 川 誠 一:MSM(Men who have sex with men)に お け るHIV感 染 予 防 介 入 一 プ ロ ジ ェ ク トMASH大 阪 に つ い て 、 日本 エ イ ズ学 会 誌 、5 巻 、174-181、2003年 3)市 川 誠 一 、 市 居 誠 、 井 戸 田一 郎 、 他:男 性 同 性 間 のHIV感 染 の動 向 と予 防 介 入 に 関 す る研 究 、 平 成14年 度 厚 生 科 学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ対 策 研 究 事 業 「HIV感 染 症 の動 向 と予 防 介 入 に関 す る社 会 疫 学 的研 究 」 研 究 報 告 書 、107-129、 平 成15年 3月. 4)内 海 眞 、 石 田敏 彦:名 古 屋 地 区 に お け る同 性 間 のHIV/STI感 染 予 防 啓 発 の普 及 促 進 に 関 す る研 究 、 平 成17年 度 厚 生 科 学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ対 策 研 究 事 業 「男 性 同性 間 のHIV感 染 対 策 とそ の 評 価 に関 す る研 究 」 総括 ・分 担 研 究報 告 書 、42-62、 平 成18年3月. 5)市 川 誠 一:男 性 同 性 間 のHIV感 染 対 策 に関 す る ガ イ ドライ ン ー 地 方 自治 体 に お け る男 性 同性 間 のHIV感 染 対 策 へ の 対 応 と コ ミュニ テ ィセ ン ター の 役 割 と機 能 一 、 平 成18年3月. 6)市 川 誠 一:「 男 性 同 性 間 のHIV感 染 対 策 と そ の 評 価 に 関 す る研 究 」、 平 成19年 度 厚 生 科 学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ対 策 研 究 事 業 ・平 成17-19年 度総 合 研 究 報 告 書 、 平 成20年3月. 7)Centers for Disease Control and Prevention Revised Guidelines for HIV Counseling, Testing, and Referral, MMWR 2001;50(No. RR-19)
8)今 井 光 信:保 健 所 に お け るHIV即 日検 査 の ガ イ ドライ ン、 第2版 、 平 成17年3月.
(受 稿 平 成20年10月28日) (受 理 平 成20年12月10日)
HIV
Surveillance
Trends
and
the
Direction
of
HIV
prevention
policy
in Japan
Seiichi Ichikawa
Abstract
Prevention of HIV infection is dependent on individuals' knowledge and application of HIV preventive behaviors. However, in order to facilitate individual behavior changes , the development of an environ-ment which supports information seeking and behavior changes is required . Japan HIV/AIDS surveil-lance data indicates the need to implement effective measures to deal with increasing infection rates among male homosexuals and foreigners. Measures needed include: the building of supportive environ -ments to promote knowledge about HIV and Sexually Transmissible Infections , increasing the support for programs which encourage safer sex behavioral changes , improvement of the HIV counseling and testing systems to more effectively deal with the uneasiness accompanying HIV infection risk , and im-provement of HIV related medical care, particularly for foreigners and homosexual men.