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アメリカ経済見通し

調査部

目   次 1.景気の現状 2.先行きを展望するうえでのポイント (1)個人消費の底堅さと「量」からみた雇用環境の回復 (2)緩やかに持ち直すも、下振れリスクが残る企業部門 (3)アメリカ経済の構造変化が賃金伸び悩みの一因に (4)金融政策の正常化は慎重なペースに 3.2016~2017年のアメリカ経済見通し 4.リスク要因

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1.アメリカ経済は、雇用環境の改善やガソリン価格の低下などを背景に家計部門が底堅さを増すなか、 総じて回復基調が続いている。もっとも、企業部門では、2014年半ば以降の急速なドル高の進行や原 油価格の下落、新興国景気の減速を背景に、輸出・エネルギー企業を中心に弱い動きがみられる。 2.先行きを展望すると、雇用環境の着実な改善が続くなか、ガソリン価格の低位安定や住宅市場の回 復も下支えとなり、個人消費は底堅く推移すると予想される。一方、企業部門も、国内需要の堅調さ や原油安・ドル高の影響一巡などから、徐々に持ち直しに転じるとみられるものの、依然として新興 国景気の先行きには不透明感が強く、輸出関連企業を中心に下振れリスクが根強く残る見込みである。 3.先行きも個人消費が景気の牽引役となるなか、その回復ペースを見通すうえでは、依然として伸び 悩みが続く賃金の行方がカギとなる。そこで、賃金伸び悩みの背景を整理すると、グレート・リセッ ションの後遺症として、①雇用の伸びの低賃金業種への偏り、②労働市場の流動性の低下、③パート タイム従事者の増加、④労働生産性の低迷、が指摘できる。加えて、①グローバル化、②IT化、③人 口動態の変化、といったアメリカ経済を取り巻く構造的な変化が、賃金の伸びを抑制している点も無 視できない。足許で構造的な変化を含め一部に改善の動きがみられており、賃金の伸びは徐々に拡大 していくと見込まれる。もっとも、グレート・リセッションの後遺症が根強く残るほか、構造的な変 化は引き続き賃金の伸びを抑制すると予想され、グレート・リセッション以前のような高い伸びには 達しない公算が大きい。 4.金融政策をめぐっては、FRBは2015年12月に利上げを行う見込みながら、当面、高水準のGDP ギャップが残るもとディスインフレ傾向が続くと予想され、極めて慎重に金融政策の正常化を進める と想定される。 5.以上を踏まえると、アメリカでは、個人消費の増勢が続くなか、緩やかながらも設備投資や輸出が 持ち直しに転じ、2016年末にかけて2%台後半の成長ペースが続く見込みである。もっとも、2017年 入り後は、賃金上昇ペースの加速が限定的にとどまる一方で、FRBの利上げによる景気抑制効果が増 すことから、成長ペースは2%台半ばに減速する見通しである。 6.上記メインシナリオに対するリスクとしては、新興国・資源国景気の一段の減速が想定される。新 興国・資源国景気の一段の減速は、アメリカの輸出や個人消費の腰折れを招くリスクがあるほか、ア メリカの物価を再び大きく下押しする恐れがある。

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1.景気の現状  アメリカ経済は、家計部門が底堅さを増すなか、総じて回復基調が続いている。  家計部門では、2014年末から2015年初めにか けて、寒波の影響などから個人消費が伸び悩ん だものの、雇用環境の改善やガソリン価格の低 下などを背景に、消費者マインドが2007年以来 の高水準で推移するなか、2015年春先以降、個 人消費は振れを伴いながらも底堅く推移してい る(図表1)。  また、住宅市場は、2013年半ば以降の踊り場 局面を脱し、回復基調が強まっている。2015年 春以降、住宅着工件数が均してみれば110万戸 を超える水準で推移しているほか、住宅建設業 者の景況感は、足許で約10年ぶりの高水準にま で上昇している(図表2)。  一方、企業部門では、2014年半ば以降の急速な ドル高の進行や原油価格の下落、新興国景気の減 速などを背景に、輸出・エネルギー関連企業を中 心に弱含んでいる。こうしたなか、企業の景況感 は、内需の堅調さを背景に底堅く推移する非製造 業や中小企業と、低迷が続く製造業のコントラス トが一段と鮮明になっている(図表3)。 ▲0.6 ▲0.4 ▲0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 2015 2014 2013 2012 50 60 70 80 90 100 110 (図表1)個人消費と消費者マインド

(資料)Bureau of Economic Analysis Consumer Spending 、The Conference Board Consumer Confidence survey (%) (1985年=100) (年/月) カンファレンスボード消費者信頼感指数 (総合指数、右目盛) 実質個人消費支出 (前月比、左目盛) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 集合住宅着工件数(左目盛) 一戸建て着工件数(左目盛) 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 0 10 20 30 40 50 60 70 NAHB住宅市場指数(右目盛) (図表2)住宅着工件数と住宅市場指数

(資料)U.S. Census Bureau、NAHB Housing Indexes

(注)NAHB住宅市場指数は、新築一戸建て住宅市場に対する建設業者の景況感を示す。 (万件) (ポイント) (年/月) 86 90 94 98 102 106 110 2015 2014 2013 2012 48 50 52 54 56 58 60 62 (図表3)企業マインド

(資料)ISM、NFIB Small Business Optimism Index (1986年=100) (ポイント) (年/月) NFIB中小企業楽観度指数 (左目盛) ISM非製造業景況指数(右目盛) ISM製造業景況指数(右目盛)

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2.先行きを展望するうえでのポイント  以上のように、アメリカの景気回復は個人消費 が牽引役となっているものの、今景気回復局面で は、賃金の伸び悩みが長期化しており、景気回復 が力強さを欠く大きな要因となっている(図表 4)。したがって、景気の先行きをみるうえでは、 個人消費の拡大ペースを左右する賃金の伸びの行 方がカギとなる。そこで本稿では、まず、家計部 門・雇用環境、および、企業部門の先行きを展望 したうえで、賃金伸び悩みの背景とその行方につ いて詳しく検討し、最後に金融政策の行方に言及 したい。 (1)個人消費の底堅さと「量」からみた雇用環境の回復 A.ガソリン価格の低位安定や住宅市場の持ち直しが個人消費を下支え  家計部門では、雇用環境の着実な改善を背景に、先行きも個人消費が底堅く推移する見込みである。 加えて、ガソリン価格の低位安定や住宅市場の持ち直しが、個人消費の下支えに寄与すると期待される。  原油価格は、2014年半ばに急落して以降、1バレル当たり40~60ドルの安値圏での推移が続いている。 先行き、アメリカのシェールオイル生産の減少などから緩やかに上昇していくとみられるものの、リビ アやイラク、イランなどOPEC加盟国の増産観測や、新興国景気の減速懸念の強まりなどが、上値を抑 制すると見込まれる(図表5)。結果として、アメリカ国内のガソリン価格が1ガロン当たり2ドル台 半ばを大きく超えて上昇する公算は小さく、ガソリン支出の負担減少が、引き続き家計の消費行動の追 い風になると期待される。  また、住宅市場をめぐっては、2014年末以降、世帯数の増勢が大きく加速しているほか、若年層の転 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 民間全体 生産従事者・サービス部門非管理職 2015 2010 2005 2000 95 1990 (図表4)時間当たり賃金(前年比)

(資料)Bureau of Labor Statistics Current Employment Statistics (注)シャドー部分は景気後退期。 (%) (年/月) 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 ガソリン価格(左目盛) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 WTI原油先物価格(右目盛) 2018 2016 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 (図表5)原油価格とガソリン価格 (資料)Bloomberg L.P.、EIA (注)原油価格見通しは、日本総合研究所予測(2015年12月8日時点)。 (ドル/ガロン) (ドル/バレル) 見通し (年/月) 0 40 80 120 160 200 240 24 26 28 30 32 34 36 38 2015 2014 2013 2012 先行き1年間の転居意向 (40歳未満、右目盛) 世帯数(前年差、左目盛) (図表6)世帯数と若年層の転居意向

(資料)U.S. Census Bureau、ニューヨーク連銀 Survey of Consumer Expectations

(注)転居意向は、2013年6月に調査開始。

(万世帯) (%)

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居意向が上昇傾向にある(図表6)。若年層や中低所得層を中心に依然として賃貸住宅選好が根強いも のの、持ち家比率がすでに1980~90年代半ばの水準を下回るなか、雇用・金融環境の改善を後押しに、 徐々に持家需要が高まっていくと予想される。新たな住宅の購入は、家具や住宅関連耐久消費財の購入 を伴うことが多く、個人消費の押し上げに寄与する見込みである。 B.労働市場の焦点は「量」から「質」へ  労働市場では、2014年春以降、非農業部門雇用者数の伸びが均して月20万人を超えるなど、「量」の 面での回復が着実に進んでいる。もっとも、完全雇用に近づくにつれて失業率の低下余地が縮小するな か、先行きも月20万人超の持続的な雇用の伸びを期待するのは過大となりつつある。(図表7)。実際、 FOMCメンバーの2016年末失業率見通しの達成に必要な就業者数増加幅を試算すると、労働参加率を 横ばいと想定した場合には月16万人の雇用増で失業率見通しの中央値である4.8%を達成できるなど、 総じて月20万人を下回る(図表8)。アメリカの労働市場は、「量」の面ではもはや月20万人を上回る雇 用の増加は必要ではなく、「質」の面での改善度合いの重要性が一段と増しているといえる。 (2)緩やかに持ち直すも、下振れリスクが残る企業部門  個人消費が引き続き底堅く推移すると見込まれる一方、企業部門では、製造業を中心に先行きに対す る懸念が強まっている。とりわけ、輸出関連企業を中心に下振れリスクが根強く残る公算が大きい。  まず、設備投資についてみると、2015年以降、鉱業関連が大きく減少し、設備投資の伸び鈍化の主因 となっている。もっとも、原油価格の大幅な下落が一服するなかで、原油リグ稼働数の急速な減少に歯 止めがかかり始めており、鉱業関連投資に対する下押し圧力は徐々に低減していく見込みである(図表 9)。また、これまで底堅く推移してきた鉱業を除く構築物投資は、先行指標である建設支出(除く住 宅)が堅調に推移しており、先行きも設備投資の下支えに寄与すると期待される(図表10)。一方、機 械投資については、先行指標となる資本財受注(除く国防・航空関連)が伸び悩んでいることから、当 面、足踏み状態が続く可能性がある。もっとも、国内需要の堅調さや原油安・ドル高の影響の一巡を背 ▲100 ▲80 ▲60 ▲40 ▲20 0 20 40 60 2014 2012 2008 2010 2006 2004 2002 2000 2 4 6 8 10 (図表7)失業率と非農業部門雇用者数

(資料)Bureau of Labor Statistics Current Employment Statistics 、 Current Population Survey 、FRB

(万人) (%) (年/月) 非農業部門雇用者数 (前月差、左目盛) FOMCメンバーの長期見通し (2015年9月FOMCの中心レンジ) 失業率(右目盛) (図表8)失業率別にみた就業者数の必要増加幅 (月平均前月差、万人) 2016年10~12月期の失業率 (FOMCメンバーの見通し) 4.5% (下限) 4.8% (中央値) 5.0% (上限) 労働 参加率 の想定 年0.4%低下 (過去1年と 同ペース) 12.5 8.6 5.9 横ばい (62.5%) 19.9 16.0 13.3 年0.1%上昇 22.0 18.0 15.3 (資料)Bureau of Labor Statistics “Current Population Survey”

を基に日本総合研究所作成

(注)労働参加率の0.1%上昇は、労働市場への復帰により、求職 意欲喪失者数がリーマン・ショック前の平均水準まで低下し た場合の労働参加率押し上げ幅を想定。

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景に、先行き企業業績の改善が見込まれていることから、2016年以降、機械投資も緩やかな持ち直しに 向かうと予想される(図表11)。  一方、輸出の先行きには、依然として不透明感が大きい。ISM製造業輸出受注指数は、好不調の判断 の分かれ目となる「50」を下回る推移が続いており、当面、輸出は伸び悩みが続く見込みである(前掲 図表10)。実質輸出を下押ししてきた急速なドル高に歯止めがかかり始めていることから、輸出は早晩 回復に転じると期待される(図表12)。もっとも、新興国を中心とした海外景気は減速が続いており、 先行きには依然として不透明感が強いことから、アメリカの輸出も下振れリスクを抱えた状態が長期化 する見通しである。 鉱業関連 知的財産 その他機械 その他構築物 (図表9)実質設備投資と原油リグ稼働数

(資料)Bureau of Economic Analysis “National Economic Accounts”、Baker Hughes (注)2015年10∼12月期のリグ稼働数は、12月4日までの実績。 (基) (年/期) (%) 0 500 1,000 1,500 ▲8 ▲4 0 4 8 12 実質設備投資(前期比年率、左目盛) 2015 2014 2013 2012 原油リグ稼働数(右目盛) (図表10)資本財受注、建設支出とISM製造業輸出受注指数

(資料)ISM、U.S. Census Bureau (2010年=100) (ポイント) (年/月) 80 100 120 140 160 2015 2014 2013 2012 2011 2010 45 50 55 60 65 ISM製造業輸出受注指数(右目盛) 資本財受注 (除く国防・航空関連、左目盛) 民間建設支出(除く住宅、左目盛) (図表11)業種別一株当たり利益見通し(前年比) (資料)Bloomberg L.P. (注)S&P500種構成企業。2015年12月7日時点。 (%) (%) (年/期) ▲80 ▲60 ▲40 ▲20 0 20 石油・ガス(左目盛) 2016 2015 2014 ▲10 ▲5 0 5 10 15 その他(右目盛) 素材・資本財(右目盛) 消費財・消費サービス(右目盛) 全企業 (右目盛) 企業 予想 (図表12)アメリカの実質輸出と世界輸入数量、 ドル実質実効レート(前年比)

(資料)U.S. Bureau of Economic Analysis “National Economic Accounts”、 CPB “World trade monitor”、FRB “Foreign Exchange Rates” (%) (年/期) ▲20 ▲15 ▲10 ▲5 0 5 10 15 20 25 アメリカの実質輸出 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 ドル実質実効レート(逆目盛) ドル高 世界輸入数量(除くアメリカ)

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(3)アメリカ経済の構造変化が賃金伸び悩みの 一因に  以上のように、企業部門の顕著な持ち直しが 期待し難いなか、アメリカの景気回復ペースは 家計部門の動向に大きく左右される見込みであ る。先にみたように、雇用環境の着実な改善や ガソリン価格の低位安定などから、個人消費は 底堅く推移すると予想されるものの、個人消費 の力強い拡大には、所得環境の一段の改善が不 可欠といえる。  もっとも、アメリカでは、失業率がFOMC メンバーの長期見通しレンジ(FOMCメンバ ーが実質的に完全雇用とみなす水準)内まで低 下し、求人件数が2001年の統計開始以来の高水 準まで増加するなど、労働需給の引き締まりが強く示唆されているにもかかわらず、依然として時間当 たり賃金は伸び悩みが続いている(図表13)。そこで以下では、賃金伸び悩みの背景を検討し、その先 行きを展望したい。 A.賃金伸び悩みの背景①:グレート・リセッションの後遺症  まず、賃金伸び悩みの背景として、以下4点のグレート・リセッションの後遺症が指摘できる。  第1に、雇用の伸びの低賃金業種への偏りである。業種別の雇用者数の増減を、リーマン・ショック 100 200 300 400 500 600 3 4 5 6 7 8 9 10 11 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 失業率(左目盛) 求人件数(右目盛) (図表13)失業率と求人件数

(資料)Bureau of Labor Statistics “Job Openings and Labor Turnover Survey”、“Current Population Survey”

(注)シャドー部分は景気後退期。 (%) (万人) (年/月) FOMCメンバーの 長期見通しレンジ(2015年9月) ▲300 ▲200 ▲100 0 100 200 300 雇用者数増減(2010年2月→2015年11月、右目盛) 雇用者数増減(2008年1月→2010年2月、右目盛) そ の 他 外 食 ・ レ ジ ャ ー ・ 宿 泊 小   売 事 務 管 理 ・ 人 材 サ ー ビ ス 運   輸 ヘ ル ス ケ ア ・ 教 育 製 造 業 建   設 卸   売 金 融 ・ 不 動 産 情 報 サ ー ビ ス 経 営 マ ネ ジ メ ン ト 専 門 ・ 技 術 サ ー ビ ス (図表14)業種別の時間当たり賃金と雇用者数増減

(資料)Bureau of Labor Statistics “Current Employment Statistics”

(注)雇用者数増減は、全雇用者数のリーマン・ショック前ピーク(2008年1月)からリーマン・ショック後ボト ム(2010年2月)まで、および、それ以降に分けて図示。 (ドル/時間) (万人) 10 20 30 40 時間当たり賃金(2015年11月、左目盛) 時間当たり賃金の全体平均

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前のピークからの減少局面とその後の増加局面に 分けてみると、派遣などを含む人材サービスや小 売、外食など相対的に賃金の低い業種では減少分 を上回る雇用の増加がみられる一方、住宅バブル の崩壊やリーマン・ショックで雇用情勢が大きく 悪化した建設や製造業、金融・不動産など中高賃 金職種の雇用の回復は依然として限定的にとどま っている(図表14)。  第2に、労働市場の流動性の低下である。新規 雇用者や自己都合による退職者の増加を背景に、 労働移動率は上昇傾向にあるものの、依然として 2000年代前半のボトムを下回る水準にあるほか、 雇用者の勤続年数は長期化傾向が鮮明となってい る(図表15)。雇用の純増を生み出す 設立1年未満の企業の割合が低下して いることを踏まえると、新規設立企業 の減少による新たな就業機会の減少や、 リーマン・ショック後の著しい雇用環 境の悪化を契機とした雇用者の職に対 する安定志向の強まりなどが、労働市 場の流動性の低下を招き、転職による 賃金増の機会が抑制されている公算が 大きい(図表16)。  第3に、パートタイム従事者の増加 である。アメリカの労働市場では、 2008~2009年にかけて、就業者に占めるパートタ イム従事者の割合が大きく上昇した(図表17)。 フルタイムの職を望みながらも経済情勢等を理由 にやむを得ずパートタイムに従事する人は減少傾 向にあるものの、依然として過去に比べ高水準に ある。この背景には、企業の人件費抑制姿勢の恒 常化が指摘できる。2000年以降、趨勢として低下 傾向にあった労働分配率は、リーマン・ショック 後の深刻な景気の落ち込みを契機に一段と低下し、 その後も底ばいの動きが長期化している(図表 18)。こうした状況下、先行き景気の回復が続く 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 労働移動率(左目盛) (図表15)労働移動率と勤続年数

(資料)Bureau of Labor Statistics “Employee tenure”、“Job Openings and Labor Turnover Survey”

(注1)労働移動率は、入職率+離職率。 (注2)シャドー部分は、景気後退期。 (%) (年) (年) 4.6 4.8 5.0 5.2 5.4 5.6 中位勤続年数(右目盛) 2015 2010 2005 2000 95 1990 ▲10 ▲8 ▲6 ▲4 ▲2 0 2 4 6 8 2010 2005 2000 95 1990 (図表16)新規設立企業の割合と雇用者数

(資料)U.S. Census Bureau “Business Dynamics Statistics”

(百万人) (%) (年) 設立1年以上の企業 設立1年未満の企業 <雇用純増(左目盛)> 6 8 10 12 設立1年未満の企業の割合(右目盛) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 (図表17)就業者に占めるパートタイム従事者の割合

(資料)Bureau of Labor Statistics“Current Population Survey” (%)

(年/月) 経済情勢を理由とした

パートタイム従事者

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なかでも、フルタイム従事者の採用の拡 大やパートタイム従事者の賃上げは、過 去の景気回復局面に比べ限定的にとどま る可能性がある。  第4に、労働生産性の低迷である。労 働生産性の伸びを要因分解すると、とり わけ、2010年以降、労働者一人当たりの 資本ストックを示す資本装備率の落ち込 みが著しい(図表19)。リーマン・ショ ック後の先行き不透明感の高まりを背景 に、供給能力の拡大につながる企業の純 投資が低迷し、資本ストックの積み増し が抑制されていることが示唆される。も っとも、足許で製造業の構築物投資が堅調に推移するなど、供給能力拡大に向けた姿勢に積極化の兆し がみられており、海外景気や資源価格に対する懸念が一段と高まらなければ、先行き資本装備率は上昇 に転じると見込まれる(図表20)。加えて、近年、企業の研究・開発投資の増勢が加速しており、今後 は技術革新や経営の効率化などを通じ、全要素生産性の伸びの拡大に寄与するものと期待される。 B.賃金伸び悩みの背景②:アメリカ経済の構造変化  アメリカの賃金の伸び悩みは、これまでにみてきたグレート・リセッションの後遺症による影響を強 く受けているとみられるものの、景気回復局面入り後も賃金の伸び悩みが長期化していることを踏まえ ると、そうした循環的な下押し圧力以外の影響も大きいことが示唆される。すなわち、①グローバル化、 ②IT化、③人口動態の変化、といったグレート・リセッション以前からのアメリカ経済を取り巻く構 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 2015 2010 2005 2000 95 90 85 1980 (図表18)労働分配率

(資料)Bureau of Economic Analysis“National Economic Accounts” (注1)労働分配率=雇用者報酬/法人企業総付加価値。 (注2)シャドー部分は景気後退期。 (%) (年/期) ▲2 ▲1 0 1 2 3 4 5 6 全要素生産性 労働の質 資本装備率 2010 2005 2000 95 1990 労働生産性 (図表19)労働生産性の要因分解 (民間非農業部門、前年比)

(資料)Bureau of Labor Statistics“Multifactor Productivity” (注)「労働の質」は、年齢や教育水準、性別など労働者の属性の 構成変化をもとに推計されたもの。 (%) (年) ▲6 ▲4 ▲2 0 2 4 6 8 10 12 14 研究・開発投資(左目盛) 2015 2010 2005 2000 95 1990 ▲60 ▲40 ▲20 0 20 40 60 80 100 120 140 構築物投資(製造業、右目盛) (図表20)構築物投資(製造業)と研究・開発投資 (実質ベース、前年比)

(資料)Bureau of Economic Analysis“National Economic Accounts”

(%) (%)

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造的な変化も、賃金の伸び悩みに作用している 可能性が高い。  まず、1970年代以降、アメリカ経済は急速に グローバル化が進んだ。1970年代初めに6%程 度であった輸出および輸入の対GDP比は、近年、 いずれも10%台半ばまで上昇している(図表 21)。こうしたなか、輸出面では、新興国によ る技術面でのキャッチアップが進んでいる。実 際、アメリカの機械輸出の製品別顕示比較指数 をみると、電気機械や一般機械で低下傾向をた どっており、同分野を中心にアメリカの輸出製 品の競争力が低下していることがうかがえる(図表22)。一方、輸入面では、賃金水準がアメリカと比 べ大幅に低い新興国からの輸入が増加し、アメリカ国内で安価な輸入品との競争が激化している(図表 23)。これらの結果、輸出向け・国内向けを問わず、アメリカ企業は競争力維持に向けたコスト削減圧 力の増大にさらされ、人件費の抑制を余儀なくされている公算が大きい。  次に、アメリカでは1990年代半ば以降、IT化が急速に進展した。2000年代初めのITバブル崩壊後、 IT投資は増勢が大きく鈍化したものの、GDPに占めるIT投資の割合は、その後も着実に上昇している (図表24)。一般に、IT投資の拡大は企業の生産性向上に寄与し、賃金の伸びの拡大につながると想定 される。もっとも、その結果余剰となった労働力が新たな分野で十分に活用されず、賃下げや低賃金の 職へのシフト・転職を余儀なくされれば、賃金の伸びの抑制要因となってしまう。とりわけ、リーマ ン・ショック以降は、雇用情勢が大きく悪化したほか、IT投資のなかでも使いこなすうえで相対的に 高度なスキルが求められるソフトウェア投資の伸びが目立っており、低スキル労働者に不利な状況とな 2 4 6 8 10 12 14 16 18 輸 入 輸 出 2010 2000 90 80 70 1960 (図表21)名目輸出入(対GDP比)

(資料)Bureau of Economic Analysis“National Economic Accounts” (%)

(年/期)

(図表23)主な新興国の雇用者報酬水準 (製造業、ドルベース)

(資料)Bureau of Labor Statistics、“International Labor Comparisons” (注)統計の制約上、中国は2002年と2009年、インドは2000年と 2010年。 (アメリカ=100) 0 10 20 30 2012年 2000年 インド 中 国 (都市部) メキシコ ブラジル (図表22)アメリカ機械輸出の製品別顕示比較優位指数 (資料)経済産業研究所「RIETI-TID2013」を基に日本総合研究 所作成 (注1)凡例の〈 〉内は2013年のアメリカ輸出内のシェア。 (注2)顕示比較優位指数=アメリカの世界への総輸出額に占める 財αの輸出額の割合╱世界の総輸出額に占める財αの輸出 額の割合。指数が大きいほど、競争力を有していることを 示す。 (年) (ポイント) 競争力低下 ▲20 0 20 40 60 80 100 120 精密機械〈3.3〉 輸送機械〈13.3〉 電気機械〈11.6〉 一般機械〈15.8〉 2010 2005 2000 95 90 85 1980

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っている。また、企業のコスト抑制姿勢が強まるなか、人材育成コストの減少傾向が続いており、業務 のIT化に伴い余剰となった労働者の新たなスキルの習得、あるいは、低スキル労働者のITスキルの向 上などが進みづらい状況にある(図表25)。総じてみると、現状では、IT投資の拡大が結果として賃金 の押し下げに作用していると推測される。  最後に、人口動態の変化も賃金伸び悩みの一因となっている。アメリカの人口構成を年齢層別にみる と、ベビーブーム世代の高年齢化に伴い、1980年代以降、35歳以上の割合が大きく上昇した(図表26)。 就業者についても、1980年から2010年にかけて、相対的に賃金水準の高い中高年齢層(35~64歳)の割 合が大きく上昇しており、同時期には就業者の高年齢化が平均賃金の押し上げに作用していた可能性が 高い(図表27)。もっとも、近年は、ベビーブーム世代の引退に伴い中高年齢層の急速なウエートの高 まりが一服するなか、就業者の高年齢化による賃金押し上げ圧力は剥落しているとみられる。  先行きを展望すると、引き続きベビーブーム世代の引退が進む一方、ミレニアル世代(1980年代から 2000年代初頭生まれで、2000年以降に成人を迎えた世代)が徐々に賃金水準の高い30代半ばに達するこ とから、今後、就業者に占める若年層(16~34歳)および中高年齢層(35~64歳)の割合に大きな変動 情報処理機器 ソフトウェア 0 1 2 3 4 2015 2010 2005 2000 95 90 85 1980 ▲5 0 5 10 15 20 25 30 前年比(左目盛) (図表24)民間IT投資(実質ベース)

(資料)Bureau of Economic Analysis National Economic Accounts (注)2015年は、1∼9月の実績ベース。 (%) (%) (年) GDP比(右目盛) (図表25)従業員一人当たりの人材育成コスト

(資料)Training Magazine “Training Industry Report” (ドル) (年) 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 2014 2012 2010 2008 2006 (図表26)年齢層別人口構成比

(資料)U.S. Census Bureau “Population Estimates”、“Population Projections” (注)構成比は、全人口に占める各年齢層の割合。 (年) (%) 将来推計 5 10 15 20 25 30 35 40 45 65歳以上 35∼64歳 15∼34歳 2030 2020 2010 2000 90 80 70 1960 0 5 10 15 20 25 30 就業者数構成比(年齢層毎に1980年・90年・ 2000年・2010年・2015年、左目盛) 65歳以上 55∼64歳 45∼54歳 35∼44歳 25∼34歳 16∼24歳 0 200 400 600 800 1,000 週当たり賃金(右目盛) (図表27)年齢層別の就業者数構成比と週当たり賃金

(資料)Bureau of Labor Statistics Current Population Survey (注1)週当たり賃金は、フルタイム従事者ベース。 (注2)2015年は7∼9月期までの実績。 (%) (ドル) 2000年 2010年 2015年

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は生じないと予想され、就業者の年齢構成の変化が賃金の伸びに与える影響は、上下両方向ともに限定 的となる見込みである。 C.構造的な変化は今後も賃金の伸びを抑制  これまでにみてきた賃金伸び悩みの背景を改めて整理すると、緩やかながらも景気の回復が続くなか、 グレート・リセッションの後遺症による下押し圧力は徐々に和らいでいくと見込まれる(図表28)。加 えて、急速なグローバル化の一服や、労働需給の逼迫を受けたIT化によるマイナス影響の緩和など、 構造的な要因にも一部で改善の兆しがみられており、足許では賃金の伸びが高まる兆しもみられている (図表29)。もっとも、グレート・リセッションの後遺症が根強く残るほか、構造的な変化は引き続き賃 金の伸びの抑制に作用する見込みである。  以上を踏まえると、先行き賃金の伸びは徐々に拡大していくと予想されるものの、グレート・リセッ ション以前のような前年比3%台後半から4%前後の水準には達しない公算が大きい。 (4)金融政策の正常化は慎重なペースに  以上のように、賃金の伸びの大幅な拡大は期待し難いものの、失業率の低下や「雇用の質」の着実な 改善とともに緩やかながらも賃金の伸びが拡大していくなかで、賃金面からの物価押し上げ圧力が徐々 に強まっていくと見込まれる。また、原油安やドル高による物価下押し圧力がピークアウトし、今後和 らぐ方向にあること、積極的な景気下支え策により懸念されていた中国景気の腰折れリスクが薄らいで いることなどから、FRBは2015年12月のFOMCで利上げを行う見込みである(図表30)。  もっとも、当面、高水準のGDPギャップが残るもと、ディスインフレ傾向が続くと予想される(図 表31)。こうしたなか、FRBは、労働市場のスラックの縮小や賃金の伸びの拡大、インフレ率の上昇な どを確認しながら、極めて慎重に金融政策の正常化を進めると想定され、利上げペースは緩やかにとど (図表28)賃金伸び悩みの背景と今後の展望 賃金伸び悩みの背景 今後の展望 グレート・リセッションの後遺症 雇用の伸びの低賃金 業種への偏り 回復傾向も、建設・製造業の回復ペースは 緩やかに 労働市場の流動性の 低下 回復傾向も、転職や起業に対する慎重姿勢 の払拭にはなお時間を要する見込み パートタイム従事者 の増加 回復傾向も、企業のパートタイム活用が構造化する恐れ 労働生産性の低迷 回復の兆し 米国経済の構造的な変化 グローバル化 急速なグローバル化は一服も、基調は変わらず IT化 企業部門の回復とともに、正の側面(生産 性向上)の顕在化に期待 人口動態の変化 就業者の年齢構成の変化が賃金の伸びに与える影響は限定的に (資料)日本総合研究所作成 (図表29)時間当たり賃金(前年比)

(資料)アトランタ連銀 Wage Growth Tracker 、Bureau of Labor Statistics Employment Cost Index 、 Employer Costs for Employee Compensation

(注)雇用コスト指数(ECI)は、業種・職種のウェートを基準時 点で固定して算出される。時間当たり賃金(中央値、家計調 査ベース)は、雇用統計をベースとしたアトランタ連銀によ る試算。 (年/期・月) (%) 0 1 2 3 4 5 6 時間当たり賃金(中央値、家計調査ベース) 雇用主コスト(ECEC、賃金・給与) 雇用コスト指数(ECI、賃金・給与) 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000

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まる見込みである。実際、FOMCメンバーのFF金利誘導目標の見通しは、過去の利上げ局面に比べて 緩やかな利上げペースが想定されている(図表32)。  また、FRBは利上げによる金融政策の正常化を優先させる姿勢を示唆しており、国債やMBSの再投 資の停止などのバランスシートの縮小は、利上げが景気や金融市場に与える影響を十分に見極めたうえ での実施となる可能性が高い。少なくとも2016年11月の大統領選が終了するまでは、現行のバランスシ ート規模が維持される見込みである。  なお、FRBの利上げペースが緩やかにとどまるとともに、日銀やECBが追加金融緩和を辞さない姿 勢を示すなど、先進国での超緩和的な金融環境が維持されるなか、当面、FRBの利上げが金融市場や 実体経済に及ぼす負の影響は軽微にとどまる見込みである(図表33)。ただし、累次の利上げにより長 ドル名目実効レート(左逆目盛) 20 15 10 5 0 ▲5 ドル名目実効レート(左逆目盛) 2016 2015 2014 2013 2012 (図表30)為替レート・原油価格とPCEデフレータ(前年比)

(資料)FRB “Foreign Exchange Rates”、Bloomberg L.P.、Bureau of Economic analysis “Consumer Spending”

(注)シミュレーションは、為替レート・原油価格が足許の水準で推移した 場合。 (%) (%) (%) (年/月) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 コアPCEデフレータ PCEデフレータ シミュレーション ▲80 ▲60 ▲40 ▲20 0 20 40 WTI原油価格(右目盛)  ドル高 ▲8 ▲6 ▲4 ▲2 0 2 4 GDPギャップ(左目盛) (図表31)アメリカのGDPギャップとインフレ率

(資料)Bureau of Economic Analysis “National Economic Accounts”、 CBO “Budget and Economic Outlook” (2015年8月) (注1)GDPギャップの見通しは、CBOの潜在GDP推計、日本総 合研究所のGDP見通しを基に算出。 (注2)シャドー部分は景気後退期。 (%) (%) (年/期) 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4 2.6 コアPCEデフレータ(前年比、右目盛) 2016 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 見通し (図表32)過去のFRBの利上げ局面におけるFF金利誘導目標の 引き上げペースと今局面のFOMCメンバー予想 (資料)FRBを基に日本総合研究所作成 (注)今局面の利上げ開始時期は、2015年12月と想定。FOMCメンバー の予想は、2015年9月FOMCで公表された政策金利見通しの中央 値。 (%) (経過月数) 0 1 2 3 4 5 6 7 今局面の FOMCメンバー予想 (2015年、2016年、2017年末) 2004年6月∼2006年6月 1999年6月∼2000年5月 1994年2月∼95年2月 28 26 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 日銀 ECB FRB (図表33)米欧日中央銀行のバランスシート規模 (資料)各中央銀行を基に日本総合研究所作成 (注)ECB、日銀のバランスシートは各月時点の為替レートでド ル換算。 (兆ドル) (年/月) 0 2 4 6 8 10 2017 2016 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007

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期金利(10年国債利回り)の3%台での推移が定着すると予想される2017年入り後は、企業・家計部門 の借り入れコストの上昇が徐々に景気抑制に作用し始める見通しである。 3.2016~2017年のアメリカ経済見通し  以上を踏まえ、2016~2017年のアメリカ経済を展望すると、当面、ガソリン価格の低位安定や賃金の 伸びの高まりを背景に、引き続き個人消費が堅調に推移し、景気を牽引すると見込まれる。一方、企業 部門では、原油価格の下落や急速なドル高の進行が一服するなか、設備投資や輸出が緩やかに持ち直し ていくとみられる。もっとも、新興国景気に対する先行き不透明感が根強いなか、回復ペースは緩やか にとどまると見込まれる。総じてみると、2016年末にかけては2%台後半の成長ペースが続く見通しで ある。  2017年入り後は、FRBの利上げに伴う金利の上昇による影響が増すなか、住宅投資や設備投資の伸 びがやや鈍化する公算が大きい。グレート・リセッション以前のような賃金の伸びの拡大が期待し難い なか、個人消費の増勢も徐々に鈍化すると見込まれる。この結果、成長ペースは2%台半ばに小幅減速 する見通しである(図表34)。  物価面では、個人消費を中心とした内需の回復や賃金の伸びの高まりが物価押し上げに作用するほか、 前年比でみた原油安やドル高の影響が徐々に剥落し、消費者物価指数は、2016年半ばに前年比2%を上 回る水準まで上昇すると予想される。その後、景気回復ペースの鈍化に伴い、2017年前半をピークに同 年末にかけて2.0%まで徐々に低下していくと見込まれる。 4.リスク要因  以上のメインシナリオに対し留意すべき景気の下振れリスクとして、新興国景気の一段の減速を指摘 しておきたい。 (図表34)アメリカ経済成長率・物価見通し (四半期は季調済前期比年率、%、%ポイント) 2015年 2016年 2017年 2014年 2015年 2016年 2017年 7~9 10~12 1~3 4~6 7~9 10~12 1~3 4~6 7~9 10~12 (実績)(予測) (実績)(予測) 実質GDP 2.1 2.7 2.6 2.8 2.7 2.7 2.4 2.5 2.5 2.4 2.4 2.5 2.7 2.5 個人消費 3.0 2.9 2.5 2.8 2.6 2.7 2.2 2.5 2.5 2.3 2.7 3.1 2.8 2.5 住宅投資 7.3 7.5 6.7 6.2 7.0 6.3 5.0 4.5 4.3 4.7 1.8 8.6 7.0 5.4 設備投資 2.4 4.7 5.2 5.4 5.2 4.9 4.7 4.5 4.6 4.5 6.2 3.3 4.7 4.8 在庫投資(寄与度) ▲0.6 0.2 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.2 0.0 0.1 政府支出 1.7 ▲0.1 0.2 0.2 0.1 ▲0.1 0.2 0.3 0.2 0.1 ▲0.6 0.7 0.5 0.1 純 輸 出(寄与度) ▲0.2 ▲0.3 ▲0.2 ▲0.2 ▲0.1 ▲0.1 ▲0.1 ▲0.0 ▲0.1 ▲0.1 ▲0.2 ▲0.6 ▲0.2 ▲0.1 輸 出 0.9 3.9 4.2 4.8 5.1 4.9 4.6 4.8 4.7 4.6 3.4 1.5 4.0 4.8 輸 入 2.1 5.2 4.9 5.1 4.9 4.5 4.1 4.0 4.2 4.0 3.8 5.3 4.5 4.3 実質最終需要 2.7 2.5 2.4 2.7 2.6 2.6 2.3 2.5 2.5 2.3 2.4 2.3 2.7 2.5 消費者物価 0.1 0.7 1.6 1.7 2.1 2.2 2.3 2.3 2.1 2.0 1.6 0.2 1.9 2.2 除く食料・エネルギー 1.8 1.8 1.9 2.0 2.1 2.1 2.2 2.2 2.1 2.1 1.7 1.8 2.0 2.2 (資料)Bureau of Economic Analysis “National Economic Accounts”、Bureau of Labor Statistics “Consumer Price Index”などを基に日本総合

研究所作成

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 中国やブラジルをはじめとした新興国・資源国 では、OECD景気先行指数が長期平均を下回る状 況が続くなど、景気の減速傾向が鮮明となってい る(図表35)。こうしたなか、FRBの利上げを契 機に新興国からの資金流出やそれを受けた新興国 の通貨安が想定以上に進めば、新興国景気が一段 と減速する恐れがある。また、中国経済がハード ランディングを余儀なくされれば、中国向け輸出 の落ち込みや資源安を通じ、新興国・資源国景気 の大きな下押し要因となる。  アメリカでは、2005年以降、中国や中南米向け 輸出のウエートが高まっており、新興国・資源国 景気の一段の減速は、アメリカの輸出に対する大 きな下振れリスクとなる(図表36)。また、新興 国・資源国景気の下振れを背景に世界的に株安が 進行すれば、逆資産効果や消費者マインドの悪化 を通じて個人消費が腰折れするリスクも無視でき ない。加えて、新興国景気の落ち込みは、資源価 格の一段の下落を招き、アメリカの物価を再び大 きく下押しする恐れがある。 副主任研究員 藤山 光雄 (2015. 12. 8) (図表35)主な新興国のOECD景気先行指数

(資料)OECD Composite Leading Indicators (年/月) (長期平均=100) 97 98 99 100 101 102 103 104 トルコ ロシア メキシコ インド 中 国 ブラジル 2015 2014 2013 2012 2011 (図表36)アメリカの輸出先の地域別シェア

(資料)U.S. Census Bureau

(注)2015年は10月までの実績ベース。 (%) (年) 0 5 10 15 20 25 その他 ASEAN・インド 日・韓・台 中 国 ユーロ圏 中南米 メキシコ カナダ 2015 2010 2005 2000 1995

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