特別支援学校のセンター的機能における地域支援
―I県を中心として―
檜山 幸恵*・松村 多美恵**
(2009 年 11 月 30 日 受理)
Community Support Relating to the Function of Special Schools as Local Special Education Centers
Sachie HIYAMA* and Tamie MATSUMURA**
(Received November 30, 2009)
問題の所存および目的
平成15年3月,文部科学省が調査研究会に委嘱して実施された「通常の学級に在籍する特別な教育 的支援を必要とする児童生徒の全国実態調査」の結果から,LD,ADHD,高機能自閉症を含む特別な 教育的支援を必要とする児童生徒は,約6%の割合で通常の学級に在籍している可能性があることが 示されている。また,1974年の「障害児保育対策事業実施要綱」以来,障害のある幼児と障害のな い幼児を一緒に保育する統合保育が幼稚園や保育所で実施されており,近年では健常児とされてい る子どもの中にも「気になる」子どもとして困難を抱えている子どもも多数存在している。 このよ うな状況の中で,特別支援学校のセンター的機能として,特別支援学校の教師がその専門性を活か し,地域の保育所・幼稚園,小中高等学校へ出向き相談等の支援活動を行うことは,非常に重要な 役割であると考えられる。
特別支援学校の特別支援教育におけるセンター的機能が充実するにつれて,相談等の業務内容も,
相談者が特別支援学校を訪れる「来所型教育相談」だけでなく,地域の小・中学校のニーズに合わ せて特別支援学校の教師が相談に出向く「巡回型教育相談」が増えている。そうした全国的な状況
の中,I件の巡回型教育相談を中心とした地域支援の実態がどのようになっているのかについて分析
することを本研究の目的とした。具体的には,①担当教師の教育歴等の特徴,②地域支援の件数や 内容,③課題,および④研修について調べることとした。なお,本論文内での「地域支援」とは,
地域に出向いて行う相談,研修会の講師,および事例検討会への参加を指すこととする。
* 茨城県日立市学校法人公土園大久保幼稚園(〒316-0012 日立市大久保町 4-10-7)
** 茨城大学教育学部障害児教育講座(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1)
方法
1.調査対象
調査を依頼したのは,I県内の県立知的障害特別支援学校11校であった。11校の特別支援学校 において,2008年度,特別支援学校のセンター的機能において,地域の保育所・幼稚園,小学校,
中学校,高等学校に出向き,支援活動を行っている教師を調査対象とした。そのうち,協力を得ら れたのは 47 名であった。協力を得られた教師の中で,2007 年度も支援活動を行っていた教師17 人には,2007年度の様子も聞くこととした。
2.調査方法・期間
調査は,アンケート調査によって実施した。前期は2008年の7月後半から8月にかけて5校に 聞き取りを中心として実施し,後期は同年の10月から11月後半にかけて6校に手渡し,もしくは 郵送,またはメールを中心として実施した。
3.アンケートの内容 (1)各教師について
1)教師の特徴
①性別,②年齢,③教師歴,④特別支援学校の免許状の有無,⑤巡回相談(校外支援)歴,⑥ コーディネーターであるか否か,⑦校内での役職,⑧クラス担任か,また担当学部はどこか,
⑨昨年度も巡回相談(校外支援)をしていたか。
2)地域支援の課題
①巡回相談員に求められていること,②巡回相談員に必要な力,③巡回相談の活動に対する課 題・悩み,④より良い巡回相談を実現するために必要と感じること。
3)研修
①教育相談にかかわる研修に何回くらい参加したか,②研修に参加したいが,参加できなかっ た経験はあるか,③参加できなかった理由は何か,④参加した研修会の内容はどのようなもの か,⑤これからどのような研修を受けたいか。
(2)校外支援の内容について(2008年4月から現在まで)
1)校外支援の内容
①校外支援として行った活動はどのようなものか。
2)研修会の講師および事例検討会について
①何箇所に行ったか,②どのような内容の研修会,事例検討会だったか。
3)個別の事例相談について
①何箇所に行き,平均何回か,②相談内容と支援内容はどのようなものか。
また,各学校のチーフの教師には,以下の2項目についても聞き取りを行った。
・各教師が支援活動を行い,特別支援学校に帰ってきた後,地域支援に携わっている教師同士 で,反省会のような機会を設けていますか。
・貴校において,地域に出向き支援をする活動を何と呼んでいますか。
結果および考察 1.教師の特徴について
(1)性別
地域支援に携わる教師数は2人~9人と各学校で差があった。全体でみると女性は約7割,男性 は約3割であり,女性教師の占める割合が非常に多いことがわかる。地域別でみると,男女比は 県北・県央地域で約1:9,県西・県南・鹿行地域で約3:2である。
図1は,アンケートに答えた教師のうち2008年度地域支援に携わっている教師の性別の割合 を学校ごとに示したものである。2008年度地域支援に携わっている教師全員ではなく,あくまで もアンケートに協力した教師の人数である。学校ごとに協力した人数も違うので一概に比べるこ とはできないが,各学校の地域支援に携わる教師の男女比は様々であることが示唆される。
図1 各学校における担当教師の性別割合
(2)年齢
図2は,担当教師の年齢の分布を示したものである。41~45歳,46~50歳の割合が高く,46
~50歳をピークにして山形の分布となった。地域支援に出向く教師は,経験を積んだベテランの 教師が多いようである。
図2 担当教師の年齢分布 0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
A B C D E F G H I J K
校
人 女性
男性
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
31~35 36~40 41~45 46~50 51~55 56~60 歳
人
(3)教師歴
図 3 は,担当教師の教師歴の分布を示したものである。20~24 年をピークに山形の分布とな った。教師歴6~10年と31~35年の教師は2人ずつと少ない。年齢の分布と同様,ベテランの 教師が多い。
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
6~10 11~15 16~20 21~25 26~30 31~35
年
人
図3 担当教師の教師歴の分布
(4)教師歴の内訳
アンケートに協力した 47 名の教師のうち,特別支援学校のみの経験者は半数であった。小学 校を経験したことのある教師は35%であったが,中学校や高等学校を経験したことがある教師は 10%ずつと少なかった。
(5)特別支援学校の免許状の有無
アンケートに協力した教師のうち特別支援学校の免許状(養,聾,盲)所有者は43 名であり,全
体の91%であった。
(6)巡回相談(地域支援)歴
図4は各教師の巡回相談歴を示したものである。断続的に巡回相談をしている場合,総年数で
0 5 10 15 20 25
1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 それ以上
人
図4 担当教師の巡回相談歴
答えてもらった。また,「県から指名を受けての巡回相談」と「学校から指名を受け地域に出向い て行う相談」を区別せずに回答してもらった。1年目の教師は 20 人(約 48%)であり,一番多か った。2 年目以降,長くなるにつれて対象の教師は少なくなり,5 年以上地域に出向いて支援活 動を行っている教師は2人(5%)と少なかった。1番巡回相談(地域支援)歴が長い教師は8年とい うことであった。
(7)コーディネーターであるか
47名のうち,コーディネーターでもあると回答した教師は38人(81%)であった。ほとんどの教 師はコーディネーターでもあり,地域支援に携わっている教師でもあるということが読みとれる。
(8)担任をしているか
担任であると回答した教師は7人(15%)であり,副担任であると回答した教師は13人(28%)で あった。担任または副担任をしている教師は,小学部,中学部,高等部のどの学部にも人数的に 大きな偏りはなく配置されていた。その他,学年主任であると回答した教師も多かった。一方,
チーフとなっている教師は担任や副担任,あるいは主任には就かず,専任であるというケースが 多いようであった。
(9)昨年度も地域支援に携わっていたか
昨年度は携わっていなかった教師と,昨年度も携わっていた教師の割合は半々という結果であ った。ほぼ半数の教師は,地域に出向いて支援する役職を継続することがないということが読み 取れる。昨年度も地域支援に携わっていたと回答した教師 20 人のうち,今年と同じ学校で地域 支援に携わっていたと回答した教師が18人(9割)と多かった。
2.相談の件数や相談内容および支援内容
出向いた件数は,前期が21人で78件(1人平均3.7件),後期が26人で129件(1人平均5件),
2007年度が17人で240件(1人平均14件)であった。出向いた先の半数は小学校であった。出向い た件数は専任である教師(チーフ)がそれ以外の教師より多かった。保育所・幼稚園と小学校に関し ては,1 年を通してみると継続性のある支援が行われるケースが複数みられたが,ほとんどのケー スは単発で終わっていた。継続した支援活動を望んでいる教師は非常に多く,小中学校教師の評価 も支援頻度が多いほど高いことが指摘されており (秋元・落合2008),今後の課題であるといえる。
相談依頼者は担任が多く,続いて保護者が多かった。相談内容については図5に示す。なお図5の 件数は,あくまでもアンケートに協力した教師のデータであり,全体数ではない。相談内容は「行 動上の問題に関する相談」と「能力・学習面」が多い。学校種別でみると,保育所・幼稚園と小学 校では「行動上の問題に関する相談」が1番多く,中学校では「不登校・登校しぶり」や「友人関 係について」の相談が多かった。また,高等学校では「就学・進学」に関する相談が多かった。
0 10 20 30 40 50 60 70 80
保・幼 小 中 高 保・幼 小 中 高 保・幼 小 中 高
前期 後期 昨年度
件数
その他
不登校・登校しぶり 緘黙児への支援 就学・進路 保護者対応 能力・学習面 行動上の問題
図5 各期における学校種別相談内容
アンケートの中で具体的に述べられていた相談内容別に支援内容を以下に示す。
ァ)「他児への暴力・暴言」「怒りっぽい」「騒ぐ」
本人が認められるような環境づくり。本人の思いを適切な言葉で表現する支援。約束を通して 教師との信頼関係を築く。言葉の理解や状況の理解に関する能力を知り,言葉や状況の意味につ いて繰り返し伝えていく。家庭での状況を知る。本人がイライラする原因を取り除くため,医療 機関を勧めた。「ふりかえり表」にシールを貼り,自己評価するようにする。書くことが苦手な ので,最初は教師が話で聞き出してから生徒が文章にする。そして,徐々に1人でも文章で反省 できるようにする。
ィ)「故意に怒られることをする」
注意を受けることで関わりがもてるという負の学習から,適切な行動に対して声かけや賞賛を 行っていく。
ゥ)「勝手な行動」
自分自身の行動面を振り返るようなチェック表で意識させる。
ェ)「多動(離席・落ち着かない・飛び出し)」
時間を区切って参加させる。医療機関へつなぐ。発達検査の実施。教室から飛び出すときは,
どこに行くのか言ってからと約束させる。別室で落ち着かせる。見通しが持てるような視覚的な 情報を利用する。家庭と連携して指導にあたっていく。約束をいくつかしぼって決め,守らせる ようにする。今やるべきことを具体的に分かりやすく話す。音,暑さ,寒さなどの環境にも配慮 する。児童が問題となる行動を起こした時,前後の観察をする。生活リズムを整える(食事を3 食とる)。親子の関わりをもつ(ひざの上で絵本を一冊読んでもらって母親も児童も日記を書くよ うな宿題や,一緒にお風呂に入り日記を書くような宿題にしてみる)。
ォ)「無断で外出する」
分単位のスケジュールで埋め尽くされているストレスがあるかもしれないので,自分の希望や
判断が優先される時間を設定してみる。
ヵ)特定の女子にちょっかいを出す」
考える習慣,判断する機会を増やすために,会話は質問型を多くしてみる。
キ)「集中できない」
学習の予定,流れなどを知らせ,見通しをもたせる。集中して活動できる時間を調査し,時間 を区切って活動を組み立てる。
ク)「集団に入れない」
一対一で付き合いながら集団の中に入れるように促す。自閉症の場合は視覚に訴える。視覚的 な情報が有効だと考えられた場合,取り入れていくようにする。
ケ)「集団の学習についていけない」
終わりが見えるような授業を行う。保護者と話し合いをもち,支援学級の活用を促す。学級集 団の何が原因となっているのかを探る(音,光,温度,人間関係,学習内容など)。絵や写真を使 って理解できるように工夫する。目標を立てた指導を行う。気分をリフレッシュできるような場 所,時間を確保する。作品が差にならないように,どこまでできるのかを見極める。教材選びを よく考える。どこまでなら集団に参加できるのかを見極める。自尊心を傷つけないような個別の 支援を行う。
コ)「課題に乗れない」
個別の支援計画を担任と一緒に作る。特別支援学校から教材を持って行く。無理せず取り組め る課題にする。分かりやすい授業を心がける(クラス全体の学力アップにもつながるので)。意欲 を引き出し,自己肯定感をもてるようにする。やさしい課題を最後にやって自信をもたせる。
サ)「学習態度が悪い」
きちんとしなさい,姿勢を良くしなさいではわからないので,もっと具体的に指示するように する(足は床に付ける。手はひざの上。背中はピンとしてなど)。点数や数にこだわりがある子だ ったので,授業の最初に目標を立てて,ポイントカードにポイントを貯めるようにした。
シ)「就学に関する支援」
小学校で必要な力,特別支援学校での見通しなどの情報提供。
ス)「特別支援学級への支援」
協力学級との連携を密にする(学習内容について,特別支援学級と協力学級の教師が進度の確 認をするなど)。
セ)「言葉の指導について」
自然に声の出るような遊びについて。授業中の教師の立ち位置。発声を促せるような発問の抑 え方について。
ソ)「日常生活の指導について」
本人の気持ちが切り替わるような言葉かけ,場面設定をする。経験不足や母子関係からくる問 題もあるので,様々な経験を増やすことと,家庭に働きかけて協力を得る。
タ)「偏食」
家庭と連携して少しずつ改善していく。虐待のことも頭に入れておく。
チ)「不登校への対応」
自分の特徴を自分で理解するようにし,それに応じて対応を工夫できるようにする。自分をコ ントロールできるような術を身につけられるような支援を行う。発達障害かもしれないので,就 学前の情報も把握する。コーディネーターの教師や進路指導の教師とも連携する。社会自立を見 据えた取り組みをする。
ツ)「保護者への対応」
幼稚園児は成長過程にあるので,親が認められないケースがある。他機関に伝えてもらう。体 験学習,学校見学を勧める(特別支援学校への抵抗感を減らしてもらえるように)。園での様子を こまめに伝えて,本時の集団の中での様子を知らせていく。親から園での様子と家庭での様子の 差を聞く。親の話を良く聞く。
テ)「緘黙児への支援」
得意なことで自信をもたせる。成功体験を増やす。文字ボードの利用。発語を強要しない。
ト)「自閉症児への支援」
写真カードを教師が操作するのではなく,本人が操作するようにすることで,コミュニケーシ ョン能力を高める。写真カードを使わなくてもできるように,文字を入れたものに徐々にレベル アップさせていく。
支援内容に関しては,同じような問題行動であっても,子どもの年齢や周りの環境,さらに原因 と考えられる要因によって異なっており,個にあった支援が行われていることがうかがえた。幼児 ではまだ発達の過程であるからと現実を受け入れられない保護者が多いということであった。また,
中学校や高等学校など学年が上がるにつれて,支援をする際のキーワードとして「自尊心」という 言葉が多く聞かれた。同じ「多動」でも,人間関係からきているのか,学習内容からきているのか,
障害からきているものが大きいのか,教室環境からきているのか,ただのわがままなのかによって 支援方法は異なってくる。適切な支援(アドバイス)をするには,困っている本人を良く知り,周り の環境をきちんと把握しなければならないことが示唆された。
3.研修会の講師や事例検討会への参加の件数およびその内容
出向いた件数は,前期が21人で7件(1人平均0.3件),後期が26人で43件(1人平均1.7件),
2007 昨年度が5人で14件(1人平均2.8件)であった。特に,小学校に関しては専任の教師(チーフ) の出向く件数が他の教師に比べて多かった。前期より後期のほうが件数が多くなっているが,これ は夏休みに研修の講師に出向くことが多いためではないかと考えられる。また,学校以外からの研 修会の講演依頼を受けている教師も多数おり,それらも含めると研修会の講師および事例検討会に 出向いた件数はさらに増加することが予想される。
図6は,後期のアンケートにおける各校種ごとの依頼内容を,研修会の講師と事例検討会に分け て示したものである。なお,研修会と事例検討会を両方行うケースについてはそれぞれに分けて分 類した。小学校,高等学校からの依頼が多く,各校種とも研修会での講演と事例検討会への参加は 半々くらいの割合であった。
図6 研修会・事例検討会に参加(講演)した件数
学校種別に研修会の講演内容や事例検討会の内容を以下に示す。
(1) 保育所・幼稚園
・保護者との関係づくりについて
・特別支援を必要とする子についての理解と対応
多動,注意力散漫,離席行動,噛みつく,他者に乱暴行為,水遊びがやめられない(固執行 動)という相談に対し,園内支援体制の見直し,個に応じた指導の徹底,低年齢でもあるの で興味関心が他にあり離席行動はある程度仕方がない,段階的指導を,模倣運動や協応動作 等(音楽リズム)が苦手なためにその授業は出たくない(面白くない)かも知れない,少しでもで きたら賞讃を,日課表の工夫(絵,写真添付)活動が分かり易いよう配慮を,時間に対する意 識を持たせるためキッチンタイマーの活用を,開始,終了時の合図を明確に, 善悪の判断は 説明だけでなく○×カードや色カード等で補足する(特に危険行為には赤カード),噛みつく 代わりにタオルを握りしめる等の代替行動の教育を。
(2) 小学校
・インクルージョンについて
・特別支援教育について
・個別の教育支援計画の作成について
・コーディネーターや校内支援体制等の説明
・特別支援を必要とする子の理解と対応
教職員に対して発達障害児童の理解啓発を促す。校内支援体制の見直し。個に応じた指導 の徹底。ユニバーサルデザインの授業づくり(見易い答案,資料等の作成,教科書中心では なく教材教具の工夫)。片付けられない児童には片付けの良い見本を提示する。例えばロッ カーの整頓例を写真で貼っておく(写真を見ながらの片付け)。応用行動分析による行動の捉 え方。問題行動のチェック。不適応行動の減少・消去方法。
(3)中学校
・田中ビネー知能検査の実施 0
5 10 15 20 25
保・幼 小 中 高
件 事例検討会
研修会の講師
・周辺の生徒への周知・対応
・個別の指導計画の作成について
・特別支援を必要とする生徒の理解と対応
アスペルガー障害や ADHD 傾向のある生徒への主な支援のポイント。虐待を受けた経験 のある生徒への注意と具体的な対応のしかた
(4)高等学校
・特別支援教育について
・特別支援を必要とする生徒の理解と対応
不適応行動(不安,不眠:神経症に似た症状),非社会的行動,コミュニケーション障害,
状況把握の欠如等への対応,社会性の獲得についての支援方法,校内支援体制の見直しにつ いて(例えば時間毎の教師の動静について支援体制の確立等),個に応じた指導の徹底,ST
(ソーシャルスキルトレーニング)の活用
・進路指導について
発達障害生徒の支援団体の紹介,医療,福祉機関との連携方法(就労,職業訓練,ジョブコ ーチ等の活用について),障害者認定の在り方について
その他,ある教師は以下のような支援方法を研修会での講演テーマの基本としており,講演する 学校種に応じて講話の内容をアレンジしているということであった。
①聴覚的短期記憶の弱い子について
指示は短く端的に行う。説明は短くする。一時一時の指示を心がける。
②視覚的短期記憶の弱い子について
全員に指示し,作業を始めたら,その子のところへ行って,書き方や書くところを教える。
赤鉛筆で薄く書いてなぞらせる。複雑なものはノートに貼り付ける。
③自分の興味のあることに集中してしまう子について
黒板等の周りに余計なものは貼らない。授業の展開に必要のないものは黒板等から取り外す。
④視覚的な機能の弱さがある子について
視力が良くても前にする。見てもよい学級づくりをする。
⑤9歳の壁を乗り越えられない子について
クラスの中で写す活動を中心に行い,授業の後半は自分でできる学習を行う。(発達年齢に合 った自分でできる教材を用意する)。授業の中で,ここだけはできる,写せるという部分を書 いて先生に見せ,丸をもらう場面を作る。所属意識と自己満足感の両方を満たすようにする。
4.研修について
(1)研修への参加度と参加できない理由 1)研修に参加した回数
図7は,後期のアンケートにおける,研修への参加回数を示したものである。
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
1 2 3 4 5 6
人
図7 研修に参加した回数
2)研修に参加できなかった経験の有無
後期のアンケートにおいて教育相談に関わる研修に参加したいが,参加できなかったことがあ るかについて聞いたところ,参加したいが,参加できなかったことがあると回答した教師は3人,
そのようなことはなかったと回答した教師は5人という結果であった。なお,前期のアンケート の中でも研修に参加したいが,参加できなかったことがあるとの意見が多数聞かれた。意欲はあ るが何らかの制約のため,研修に参加できなかった経験をもつ教師は少なくないことが示唆され る。
3)参加できなかった理由
教育相談に関わる研修に参加したいが,参加できなかったことがあると回答した教師があげた 参加できなかった理由は以下のようなことであった。
・参加希望者が多く,定員オーバーだったため。
・校務や私用の調整ができなかったため。
・学校を休むわけにはいかないため。
なお,前期のアンケートに回答した女性教師の中には,「研修会に参加したいという意欲はある が,子育てをしていると,興味のある内容でも参加できないことが多い」という回答もみられた。
また,「人気のあるものは抽選なのでいつも落ちてしまい参加できない」という意見や,「徐々に レベルアップしていく内容の研修では,1番下のレベルをクリアしないと次の研修に進めない。
しかし,下のレベルの研修は参加希望者も多いため,いつも抽選に落ちてしまい上のレベルの研 修内容に興味があっても進むことができない」などの声も聞かれた。
(2)参加した研修会の内容
図 8 は参加したことのある研修会の内容を示したものである。「障害の理解と対応」や「教育相 談」に関する内容の研修会に参加した教師が多かった。「障害の理解と対応」の内容としては,「発 達障害や自閉症について」という回答が多かった。これは,巡回相談の活動に対する課題・悩みで 述べた,「高機能自閉症,LD,ADHDの子どもについての相談が多いが,特別支援学校にはあまり
在籍していないため知識が足りない」という悩みに対応しているのではないかと考えられる。
「検査」の内容としては,「知能検査や心理検査について」という回答がみられた。これは,後述す る「地域支援に携わる教師に必要な力」について「臨床心理的なことに関する知識と技術」があげ られたことに関わりがあるのではないかと思われる。また,実際に教育相談の場で,「検査結果を分 析し,分かりやすく説明することを求められることがある」,「検査を実施して欲しいという依頼が くることがある」ため,検査に関する関心が高いのではないかと考えられる。
(3)これから受けてみたい研修内容
これから受けてみたい研修内容としては,「教育相談」,「障害の理解と対応」,「事例」,「検査」,
「保護者対応」,「関係機関との連携」等が挙げられた。ここで「事例」があがってきたのは,後述 の「巡回相談の活動に対する課題・悩み」において,「経験不足」と感じている教師が多かったこと,
「良い巡回相談を実現するために必要と感じること」において「他の教師が行った事例を共有化す ることがより良い巡回相談につながる」と考えている教師がいたことに関係があると思われる。
0 5 10 15 20 25 30
教育相談 検査 コーディネーター 障害の理解と対応 保護者への対応 関係機関との連携 その他
人
図8 参加した研修会の内容
「関係機関との連携」については,「実際のところどう連携したらよいのかよく分からないため研 修を受けてみたい」,「意外に他の特別支援学校の様子が分からなかったりするので,もっと連携で きたらいいと思う」などの意見がみられた。「障害の理解と対応」に関する研修では,やはり特別支 援学校ではあまり接することの少ないLDやADHD,高機能自閉症の子どもの理解や支援方法につ いての話を聞きたいという意見が多かった。その他の内容としては,「自立支援法についての話を聞 きたい」などの意見があった。また,「実技研修として,知能検査や心理検査をしてみたい」という 意見や,「言語指導について(カ行が出ない子にどう指導すれば出るようになるかなど具体的なもの に参加してみたい)」という意見があった。また,「ただ単に講師から事例を聞くのではなく,この ような生徒がいたらどのような支援が考えられるかと他の教師と話しあいながら実際に考えてみた
い」という意見,「巡回相談員・講師・保護者が参加し,懇談会形式で,保護者の相談に対して教師 が実際に支援方法を考え,それに対して講師からアドバイスをいただくような研修会をしてみたい」
などの意見が聞かれた。「小・中・高校の教師と意見交換ができるような場があるとうれしい」など の意見もあった。
4.地域支援の課題について
(1)地域支援に携わる教師に必要な力
図9は,地域支援に携わる教師が今どのような力が必要だと感じているかを示したものである。
「支援方法」と回答した教師が全体の3分の1を占めている。続いて「人間性の向上」と「知識」,
「実態把握力」が挙げられた。「支援方法」についての回答が多かったことは,「相手校から子ど もに対してすぐに使える支援方法やより具体的な支援方法を求められている」と感じている教師 が多かったことに対応していると考えられる。相手校からの要求に対応できる力が必要であると 感じているため,「具体的・多面的なアドバイスができる力」や,「ニーズに応じた教材を開発で きる力」などの回答が多く聞かれた。他の回答としては,実際に現場の先生ができる支援方法,
小学校等における学習支援の方法などがあげられた。「知識」については,障害に関する知識や特 別支援教育に関する専門的な知識といった一般的な回答だけでなく,具体的に学校種の違いや教 師のニーズに応じた支援を要求されているため,通常学級にいる発達障害児に関する知識・理解 を高めることや臨床心理的なことに関する知識と技術が必要であると答えた回答もみられた。「伝 える力」では,教師や保護者に支援方法を適切に伝える力,言いにくいことを教師や保護者に伝 えるときの言い方などがあげられた。また,人間関係の調整力が必要であるとの回答もあった。
「経験」に関しては,「相談員としての経験を増やしたい」などの回答がみられた。また,「自 分がかかわった相談以外にも,事例にたくさん触れることで様々なケースに対応できるようにな りたい」という意見が多く聞かれた。「その他」の意見としては,「継続したアドバイスができる こと」,「高等学校の教員と連携し,卒業後に目を向けて視野の拡大をしていくこと」,「コンサル テーションの自己チェック」,「特殊教育の対象外とされていたが,特別支援教育の対象となった 児童生徒に対する実践力」,「相談に対して適切な支援ができるよう研修をすること」などがあげ られた。
02 46 108 1214 1618 20
実態把握力 支援方法 伝える力 人間性の向上 経験 知識 専門性 その他
人
図9 地域支援に携わる教師に必要な力
(2)巡回相談の活動に対する課題・悩み
図10は巡回相談の活動に対する課題や悩みを示したものである。「自分自身の問題」として答 えた教師は全体の54%に及んだ。ここでの自分自身の問題とは,個人的要因による課題・悩みと,
所属する特別支援学校の要因による悩み・課題を含んでいる。個人的要因による悩み・課題とし て,「巡回相談の経験が不足している」,「ニーズにあった支援ができていたか不安である」,「児童 生徒の実態把握にかけられる時間が短いので,少ない情報の中で適切な支援方法を見つけること」,
「参考意見が得られるような人的ネットワークの拡大」などが挙げられた。また,「高機能自閉症,
LD,ADHDの子どもに対する相談が多いが,特別支援学校にはあまり在籍していないため知識
0 5 10 15 20 25 30 35
自分自身の問題 相手校との問題 保護者との問題 その他
人
図10 巡回相談の活動に対する課題・悩み
が足りない」,「特別支援教育の経験はあるが小中学校等の経験がないので通常学級の様子が把握 しきれず,教師が一人でもできる支援方法を提案するのが難しいと感じることがある」,「特別支 援学校では複数の教師が少人数を指導するが,通常学級では一人の教師が多数を指導しているた
め」といった回答も多かった。これらの結果は,特別支援学校のみの経験しかない教師が回答者
全体の50%と高かったことと関連があると考えられる。また,専任となった教師(チーフ)の意見
として「担任をもっている巡回相談員に依頼を割り振って頼んでも,忙しいと断られてしまうこ とがある。その場合,自分(チーフ)が行くしかない。今後,どのように支援体制,役割分担をし ていくかが課題である」という回答もあった。所属する特別支援学校の要因による課題・悩みと しては,「相談事例内容について,訪問する前に相手校からの情報が入らないので,システムを構 築する必要がある」,「担任をもっているとあまり巡回相談を行うことができないので,チーフの 負担を増やしてしまい申し訳ない」,「クラス担任との両立は負担が大きい」などの意見が聞かれ た。この両立に関する課題・悩みでは,「仕事なので辛いという姿勢ではなく,与えられたことは やるしかないという姿勢で臨んでいる」,「両立するのが辛いというような弱音はあまり話したく ないので・・・」という回答もあった。また。「校内での情報交換の持ち方が課題である」という回 答もみられた。
「相手校との問題」については,「学校事情により校内支援体制がうまく構築できないケースが ある」,「学校種による教師の意識の違いを感じる」,「訪問(巡回)先での理解度や受容」,「支援が 単発になってしまい,なかなか継続した支援につながらない」,「支援依頼があった学校をフォロ ーするためにはこちらから電話をかけなければならない」,「支援内容が適切であったのかを把握 するためにも,支援後の児童生徒の変化や様子についての情報が欲しい」,などの回答があった。
また,「すぐに解決できるような問題まで相談を受けることがあるが,相手校内で 1 度検討会を 行い,それでも解決できないことは相談するという体制ができれば,特別支援学校の教師の負担 が少し減るのではないか」,という意見もあった。
「保護者との問題」では,「親の理解を得られなかった場合どうするか」や,「相談員の思いを うまく伝えるということが課題・悩みである」との回答がみられた。また,「相手校よりの依頼が 多いが,保護者を巻き込んでいないことが多い」という回答もあった。
「その他」の意見としては「地域によっては有益な放課後支援が受けられないことがある」と いう地域格差に関する回答があった。また,「巡回教育相談の予算がある程度決まっており,支援 の回数を大幅に増やすことができない。すべての相談を受け入れられないケースもある」という 回答や,「市町村の財政(制度)的な事情により,通常学級在籍で障害をもつ児童生徒に,補助員や 支援員を十分につけることはできない」などといった,行政の制度や財政に関する回答があった。
また,「相談内容やケースの多様化」という意見もみられた。
(3)より良い巡回相談を実現するために必要と感じること
図 11 は,巡回相談を今よりもっと良いものとするために必要だと感じる回答内容を示したも のである。「自分でできること」,「特別支援学校内でできること」,「相手校とできること」等に分 類した。「自分でできること」としては,「相談の質を上げること」,「巡回相談の経験を増やすこ と」,「通常学級への理解を深めること」,「周り(教員,地域の人々,関係機関の職員等)とつなが る力をもつこと」,「話を聞く力を高めること」,「一人ひとりの状況や将来を見据えたマクロな視 点をもつこと」,「多面的な(障害者問題や教育に偏らない)情報と知識をもつこと」,「評価および 改善を行うこと」などの回答が聞かれた。「特別支援学校内でできること」としては,「連携・協
力を密にすること」,「複数で相談にのること」,「コーディネーターの人数を増やして分担するこ と」,「巡回相談をシステム化すること」,「他の相談員が行った事例を共有化すること」,などが挙 げられた。「相手校とできること」としては,「担当者と細やかな情報交換をすること」,「継続し て支援にあたること」,「近隣の幼,保・小・中・高等学校のコーディネーターや特別支援学級担 任との情報交換会をもつこと」などがあげられた。また,「巡回相談は相手校からの依頼がないと 行えないため,一度支援を行った学校には電話をし,定期的に情報交換をすることで,さらなる 支援につなげていけるようにしたい」という回答もあった。「関係機関との連携」については,「ケ ースによってはスーパーバイザー(大学の先生)に相談し,助言をいただく」や,「日ごろから医療 関係者や福祉機関関係者との情報交換を行い,十分な連携を図っておく」などの回答があった。
「その他」の回答としては,「研修する時間が欲しい」,「特別支援学校だけでなく,小・中・高等 学校にもすばらしいコーディネーターの先生方がいらっしゃるので,学校間で(高等学校なら高等 学校間で)巡回相談ができる連携が欲しい」などの回答があった。
地域に出向き支援する活動(個別の事例相談や研修会の講師および事例検討会への参加)の名称 については,「出向教育相談」,「訪問相談」,「訪問」,「巡回相談」,「出向き支援」,「出校教育相談」
という回答が得られた。県の事業としての「巡回相談」と区別して,独自の名称で呼んでいる学校 が多かった。大沼・吉利(2007)は,センター的機能を担当する組織として考えられる3つの形態の うち,全国の58%の特別支援学校が「特別支援部として独立した部として活動する形態」であると しているが,各校の学校要覧を分析した結果,I 県においてもこの形態が最も多かった。そして,
地域支援を担う部の中で,チーフの負担が大きい学校が多いように思われた。しかし,中にはチー フを気にかけている教師も多数みられ,今後はますます教師が協力し合い,仕事の分担と情報の共 有を進めていくことがより良い支援につながっていくと思われる。
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特別支援学校内 自分 相手校 関係機関 保護者 その他
人
図11 より良い巡回相談を実現するために必要なこと
多数の教師からあがった「経験不足」に関しては,事例を多く扱って増やすのは現実的には難し いと考えられるため,学校内で扱った事例を地域支援に携わる教師が積極的に共有していくことが 有効であると考えられる。後期におこなった「支援活動後に反省会を設けているか」という問いに
関しては,6校中全員参加して行っている学校は1校であり,中心となっている教師が少人数で反 省会のような機会を設け,難しいケースなどについては担当した教師も含めて話し合いを行うとい う学校が4校であった。また,1校では,教師同士ペアで個別の事例相談に出向き,反省会もその ペアで自分たちがした支援を自分たちでふり返っているということであった。しかし,まだまだ十 分な反省会には至っていないという現状から,今後の反省会・事例の共有のあり方は課題であると 考えられる。また,県内の特別支援学校同士で情報を共有できるようなシステムが確立されること が望ましいと思われるが,個別の事例相談は個人情報であることや教師の多忙さから,実現するに は何らかの対応が必要であると考えられる。