◆ 論 文
連語ツーリズムを捉える「誘因+観光」枠組みの提案:
スポーツツーリズムを具体例として
1加藤 淳一
1.目的
本研究の目的は、次の2点である。第1点目の目的は、スポーツツーリズムを具体例と して、既存研究により提案されてきた枠組みから、本研究で観光関連連語と名付けた現象 をとらえる分析枠組みを提案することである。この本研究で提案する枠組みは、以下で
「誘因+観光」枠組み(Framework of Attractions plus Tourism)と呼ばれる。第2点目 の目的は、この「誘因+観光」枠組みを与件として、スポーツツーリズムの現場での調査 を想定した仮説の導出である。
工藤・野川(2002)は、先行研究のスポーツツーリズムの定義を整理した上で、先行研 究の共通部分として次の2点を示している
2。1つ目は、スポーツあるいはスポーツイベ ント
3への参加または観戦を主目的としていることである。2つ目は、日常生活圏を離れ 旅行することである。本研究は、スポーツツーリズムの定義を正面から取り扱う研究では ないので、こうした先行研究の定義を受け入れて議論を行う。
こうしたスポーツツーリズムが注目される背景の一つとして、スポーツツーリズムの主 催者はそのイベントを契機として、旅行客の増加と地域産業等の活性化を目指している
4。 そこで、スポーツツーリズムへの参加者の参加理由に目を向け、まず渡辺・塩月・丹野
(2013)のスポーツツーリズムへの参加理由についての調査結果とその解釈を紹介する。
次に、その調査結果と解釈を吟味することにより、本研究の枠組みの概略を示す。これを 本研究の出発点とする。
渡辺・塩月・丹野(2013)は、沖縄県における「ECOスピリットライドin南城市」とい うスポーツツーリズムへの参加者を対象にした質問紙調査により、このスポーツツーリズ ムへの参加理由の調査を行っている
5。このスポーツツーリズムは、自転車で聖地や遺跡 を回る「ライド部門」と、徒歩で巡る「ウォーク部門」の2つのタイプで構成されている
6。
渡辺・塩月・丹野(2013)の調査の結果、特にライド部門への参加者の多く(40%程
度)が観光資源(遺跡など)への興味よりも、スポーツ(自転車で走ること)への魅力で
スポーツツーリズムへ参加したことを明らかにしている
7。渡辺・塩月・丹野(2013)に
よると、この結果はスポーツツーリズムの主催者の事業目的の中でも重要な要素(スポー ツツーリズムへの参加者の観光資源)への関心の低いことを表しているとしている
8。
ここまでを整理する。スポーツツーリズムにおいてはスポーツと観光(ツーリズム)と いう2つの要因がある
9。そしてスポーツツーリズムの主催者は、2つの要因のうち地域 の観光資源を事業目的として重視している。他方で、参加者はスポーツへの興味関心が強 く観光資源への関心は薄い。渡辺・塩月・丹野(2013)は、この結果を主催者の意図に沿 わない結果として捉えている。このように整理できる。
さて、本研究の出発点は、この結果について渡辺・塩月・丹野(2013)と異なった捉え 方の可能性を提示するところに定められる。ここで異なった捉え方とは、これまで興味を 持たなかった沖縄の観光資源(例えば、遺跡など)へ関心を持ってもらう契機として、ス ポーツを利用するという視点である。スポーツにより多くの人々を惹き付け、集まった 人々の観光資源への関心を喚起する。
つまり、スポーツを誘因として割り切り、それにより集まった人々に観光資源への関心 を喚起する。このような考え方である。これを以下、「誘因+観光」枠組みと呼ぶ。本研 究は、この「誘因+観光」枠組みからスポーツツーリズムを理解することを主張していく。
ここで、この枠組みから、先ほどのスポーツへの関心により参加した参加者へ目を向け る。すると、彼/女らはスポーツツーリズムの主催者の意図に沿わない参加者ではなく、
これから観光資源への関心を持ってもらうために集まってくれた未来の顧客の候補と理解 できる。
本研究は、「誘因+観光」枠組みの視点から、スポーツツーリズムに関連した先行研 究をレビューし、スポーツツーリズムを具体的に想定しながら議論を展開する。しかし、
「誘因+観光」枠組みは、スポーツツーリズムに限定されていない。とりわけ、観光と直 接関連していない対象を観光とセットにすることにより新しい市場を開拓しようとする 人々にとって有効な枠組みだと思われる。この拡張可能性について、予め連語をキーワー ドとして触れておく。
2語が連なり1語と同等の働きをするものを「連語(collocation)」と呼ぶ。スポーツ ツーリズムは、スポーツとツーリズムの2語が連なり1語として働いているので連語と呼 べる。同様に、グリーンツーリズムはグリーンとツーリズムの連語だし、メディカルツー リズムはメディカルとツーリズムの連語、アニメツーリズムはアニメとツーリズムの連語 と呼べる。あるいは、MICEも会議とツーリズムとを1つのまとまりとして考えていると ころからすると、MICE自体は連語ではないものの、ここで連語として指摘した内容と重 なる。
こうしたツーリズム以外と見なされてきた(例えば、スポーツ、グリーン、メディカル、
あるいはアニメ、または会議)とツーリズムとの連語を、本研究では総称して観光関連連
語(Tourism Related Collocations)と呼ぶことにする。
すると、「誘因+観光」枠組みは、観光関連連語に対して拡張の可能性がある。本研究 で実際に拡張されるわけではない。しかし、本研究で示す「誘因+観光」枠組みが、ス ポーツツーリズム専用ではなく、可能性として拡張しうる。これは観光学研究者にとって 魅力的なはずである。
それでは、本研究が「誘因+観光」枠組みの詳細な提案へと向かう議論の構成を説明す る。まず、第2章では、本研究が「誘因+観光」枠組みを提示していく上で基礎とする既 存研究を紹介する。本研究はこの既存研究をもとにして「誘因+観光」枠組みの原型(以 下、基本モデルと呼ぶ)を作成する。
次に第3章では、第2章で紹介した既存研究をもとにして、「誘因+観光」枠組みの基 本モデルを作成する。この基本モデルは、将来的にスポーツツーリズムの現場に持ち込み、
現実とつきあわせることにより、詳細な検討をしなければならない。
というのも、基本モデルを現場に持ち込むことにより、基本モデルには存在しない、基 本モデルの構成要素や構成要素間の関係性が見直されうる。こうした見直しを通じて、基 本モデルはより良く現実を捉えられるようになると期待できる。
しかし、こうしたスポーツツーリズムの現場に基本モデルを持ち込み詳細な検討を行う 前に、予め仮説を作成しておくことで、よりスムーズに基本モデルの検討ができると思わ れる。そこで、本研究では基本モデルを示した上で、スポーツツーリズムの仮説をいくつ か列挙する。
そして最後に第4章では、本研究の目的に立ち返り、2点の目的への解答を改めて示す。
本研究の目的は、次の2点であった。第1点目の目的は、スポーツツーリズムを具体例と して、既存研究により提案されてきた枠組みから、本研究で観光関連連語と名付けた現象 をとらえる分析枠組みを提案することである。第2点目の目的は、この「誘因+観光」枠 組みを与件として、スポーツツーリズムの現場での調査を想定した仮説の導出である。加 えて、今後の研究に向けた方向性を整理して締めくくる。
2.文献レビュー:既存枠組みの整理
本章では、スポーツツーリズムに関連した既存の枠組みとして、⑴工藤・野川(2002)
のスポーツツーリズムの概念モデル、⑵小阪・椎塚(2011)の感性情報・購買行動3ス
テップモデル、そして⑶清水(1999)の個人の消費行動の概念図を取り上げる。小阪・椎
塚(2011)と清水(1999)はスポーツツーリズムのモデルではなく消費者行動論のモデル
だが、本研究の基本モデルを精緻にする上で重要な役割を果たすのでここで紹介する。
2.1 スポーツツーリズムの概念モデル
工藤・野川(2002)は、スポーツツーリズムの概念モデルを提示した研究である。工 藤・野川(2002)の提案したモデルは次の図1のようである。
この概念モデルの特徴は、スポーツツーリズムを日常生活圏とスポーツとの2つに分け、
それらをつないだ一連の流れとしているところにある
10。加えて、その流れは満足度評価 を伴っており、満足したか否かがその後の行き先やスポーツの選択に影響を及ぼすとして いる
11。
改めて図を詳しく見てみる。なお、工藤・野川(2002)の本文中に十分な説明がない部 分もあるので著者なりに図から解釈していく。まず、図1の最上部にスポーツがあり、図 1の最下部に日常生活圏がある。矢印がこれら2つの要素を結んでいる。図全体は、この ような構図になっていることが読み取れる。では、図の全体から部分へと目を向ける。
まず、最上部のスポーツに注目する。すると、スポーツ活動自体への満足度評価を「評 価D」と呼んでいる。次に、十分な説明は工藤・野川(2002)の論文中に見当たらないが、
施設、サービス、食事などを含めた滞在地でのホスピタリティへの満足度評価を「評価 B」と呼んでいると思われる。
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図1:スポーツツーリズムの概念モデル
出典:工藤・野川(2002)、190頁、図4を引用
そして、日常生活圏からスポーツへの移動のホスピタリティへの満足度評価を「評価 A」、逆向きにスポーツから日常生活圏への移動のホスピタリティへの満足度評価を「評 価C」と呼んでいる。最後に、これら評価の合計が、今後の行き先の選択やスポーツの選 択へと影響を及ぼす。このように読み解ける。
このモデルから本研究の提案する「誘因+観光」枠組みへ採用される考え方については 次章の基本モデルの構築で吟味する。引き続いて、小阪・椎塚(2011)による感性情報・
購買行動3ステップモデルの概要を説明する。
2.2 感性情報−購買行動3ステップモデル
小阪・椎塚(2011)は、消費者の行動へ五感を通じて影響を与える感性情報
12を想定し、
加えてその行動をステップ1から3までの3段階に分けて考えることで最終的な売り上げ へ至るプロセスをモデル化している。このモデルは、スポーツツーリズムに直接関わるモ デルではないものの3章で詳しく検討するように、「誘因+観光」枠組みに多段階に分け て考えるなどの重要な考え方を提供するモデルとなるのでここで取り上げる。
小阪・椎塚(2011)は、スーパーマーケットの店頭において消費者が行う非計画購買を 題材として、次の図2のような感性情報−購買行動3ステップモデルを提案している。非 計画購買はほぼ衝動購買と同義とされており、そのどちらもが何らかの刺激をきっかけに した購買行動とされる
13。その刺激の1つとして情報がある
14。小阪・椎塚(2011)は、と りわけ情報の中でも五感を通じて取得した情報を感性により情報処理した結果、買いたい などのポジティブな情動を生みうる感性情報
15に注目している
16。
図2の全体を見ると、ステップ1から3を経て売り上げに至る。各ステップは、ほぼ同 じ構成である。ここから各ステップの構成に目を向ける。まず、感性情報の円から出た矢 印が五感へと至る。つまり、感性情報を五感で受け取る。五感の四角から出た右向きの黒 色の矢印は何らかの行動へと至る。あるいは、下向きの黒色の矢印は、行動されないに至 る。つまり、感性情報が五感により認知され行動を決定すれば、右向きの何らかの行動
(ステップ1では情報の取得行動、ステップ2では売り場への立ち寄り行動、そしてス
テップ3では購入行動)
17となる。しかし、認知されないかあるいは行動しないと決定され
れば、下向きの矢印で行動されない結果となる
18。何らかの行動に移された場合には、次
のステップへと移る。これが3回(ステップ1から3まで)繰り返されることにより、売
り上げに至る。
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図2:感性情報−購買行動3ステップモデル
出典:小阪・椎塚(2011)、188頁、図2を引用
このモデルから本研究の提案する「誘因+観光」枠組みへ採用される考え方については 次章の基本モデルの構築で吟味する。引き続いて、清水(1999)による個人の消費行動の 概念図の概要を説明する。
2.3 個人の消費行動の概念図
清水(1999)は、既存研究の詳細な検討をもとにして、各消費者個人の意思決定につい てモデル化している。清水(1999)は、各消費者個人の意思決定プロセスは次の図3のよ うにモデル化している
19。以下、このモデルを「個人の消費行動の概念図」と呼ぶ。
まず、図3の全体を見る。図3の下端に示されているように、消費者はデモグラフィク ス要因やライフスタイル要因によりセグメンテーションされた準拠集団
20に所属する。そ の準拠集団が、消費者の意思決定に影響を与える。消費者の意思決定過程は図3の上端に ある。ニーズの喚起に始まり、情報処理、態度形成、そして選択へ至る。
次に、ニーズの喚起に始まり選択へ至る過程を、説明の都合で著者なりに以下の6点に 整理し説明する。第1に、ニーズの喚起である。特定の準拠集団に属する消費者は購買意 欲の有無で分けられる。もし購買意欲が有るとなれば、その消費行動を通じて解決したい 目標が設定される。
第2に、目標が設定されると、目標への関与
21水準が測定される。低関与なら主に周辺
的ルート
22により意思決定が行われる(図3の関与から出る右向きの矢印)。高関与なら、
事前知識
23の使用と外部情報の探索を行う(図3の関与から出る下向きの矢印)。
事前知識はカテゴリーとして保存されている。商品情報がそれと一致したならば、周辺 的ルートによる意思決定が行われる。他方で、適度な不一致ならば、中心的ルート
24の意 思決定が行われる(図3のカテゴリー一致度から出る2つの矢印)。
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図3:個人の消費行動の概念図
出典:清水(1999、145頁)図表5−9個人の消費行動の概念図を引用
第3に、この2つのルートからの情報に、主観的規範
25が影響を及ぼし、態度
26が決まる。
第4に、態度が形成されると、その態度をもとにして選択のための意図が形成され、選択 行動へと至る。第5に、選択行動が行われると、商品を消費し、その商品への満足度が決 まる。この満足度は、商品に対する事前の期待と成果との関数とされる。第6に、満足度 が高いと、次回の選択確率が高くなる(図3の消費者満足から事前知識への矢印)。以上 の6点に整理した過程を経て、消費者は意思決定をして選択行動に至る。
本章では、以上で3つのモデルを取り上げた。章を改めて、これら3つのモデルを基礎 にして本研究の「誘因+観光」枠組みの基本モデルの構築を行う。この基本モデルは、こ こまでで紹介した既存研究に根拠を持つモデルという意味で、既存研究成果に基礎づけら れたモデルといえる。
ただし、基本モデルは、現実とつきあわせて吟味を経ていないという点で不十分である。
そこで、3章では基本モデルの構築に引き続き、将来の経験研究に向けて仮説の導出を試
みる。本研究は、こうした将来の経験研究を経て、それぞれの現実をより良く捉える「誘 因+観光」枠組みへと至る。
3.枠組みの提示
3.1 本研究の基本モデルの構築
本節では、これまでに紹介してきた3つの既存研究を基礎にして、本研究の提案する
「誘因+観光」枠組みの基本モデルを構築する。そして、基本モデルからスポーツツーリ ズムのいくつかの仮説を導出する。この基本モデルから導出した仮説が、将来的に現場に 持ち込まれ、経験研究を通じてより洗練されていくことになる。
第1に、本研究は基本枠組みの構築の手がかりとして、工藤・野川(2002)のスポーツ ツーリズムの概念モデルに注目する。工藤・野川(2002)は、このモデルは仮説であり今 後の実証を必要とすると述べている。確かに、工藤・野川(2002)ではデータによる検証 は行われていない。ただ、このモデルは、本研究の立場からスポーツツーリズムを読み解 く上で手がかりを与えてくれる。その点にのみ注目して解釈を進める。
まず、日常生活圏とスポーツとを分離したことに注目する。これは本研究のようにス ポーツを誘因として捉えようとする立場と方向を同じくする。スポーツが日常であるのだ とすれば、誘因としての働きは期待できない。よって、本研究の「誘因+観光」枠組みに 日常生活圏とスポーツを分けるというアイデアを採用する。
次に、工藤・野川(2002)は評価AからDまでの満足度評価を想定し、その満足度の高 低が今後の意思決定へ与える影響を考慮に入れている。本研究でも、第1にスポーツが誘 因として魅力的かどうかの評価が考えられる。スポーツが十分に人々を惹き付けるだけ魅 力的でなければ、そもそも誘因としての働きを期待できない。
こうした誘因が誘因として働くのか否かを考える上で、満足度とその意思決定への影響 という考えは重要である。よって、本研究の「誘因+観光」枠組みにも誘因への満足度評 価や観光への満足度評価を考慮に入れ、その結果が将来の選択へ影響を及ぼすというモデ ルを構築する。以上が、工藤・野川(2002)から採用される。
第2に、小阪・椎塚(2011)の感性情報・購買行動3ステップモデルに注目する。この モデルは3つのステップに分けて考えている。この点は本研究が誘因とツーリズム(観 光)とを分けて考えるという方向と同じである。よって、このアイデアを採用する。ただ し、そのままでは採用できず、変更しつつ採用すべき部分もある。
具体的に次の部分を変更しつつ採用する。図2で、感性情報を五感で受け止め、その感
性情報を処理して、行動に結びつける。このように理解すると、本研究は感性情報を五感
で受け止めるところを誘因と読み替える。するとスポーツが誘因として評価されたか否か
の処理となる。
別言すれば、小阪・椎塚(2011)のモデルでは感性情報の処理のみを扱うステップは与 えられていない。だが、「誘因+観光」枠組みではスポーツ(誘因)の処理のみを扱う独 立したステップを準備する。このようにも表現できる。
第3に、ここまでで既存研究に依拠しつつ大枠を作成できた。しかし、小阪・椎塚
(2011)の3ステップモデルでは個人の意思決定プロセスについてモデル化されていな かった。そこで、清水(1999)による「個人の消費行動の概念図」として示された個人の 消費行動の意思決定プロセスを、「誘因+観光」枠組みのステップ1と2のそれぞれにあ てはめる。こうして構築された「誘因+観光」基本枠組みを図示すると次のようになる。
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図4:「誘因+観光」枠組みの基本モデル
このようにして作成した図4のステップ1からステップ2への移行に注目する。ステッ プ1は、誘因(スポーツイベント)へ参加するか否かの意思決定である。ここで、誘因
(スポーツイベント)へ参加すると決定した人が、スポーツイベントへの参加者となる。
スポーツイベント自体の評価は、ステップ1の清水(1999)の「個人の消費行動の概念 図」のプロセスの満足度評価として行われる。そのスポーツイベントへの参加者の評価を 踏まえて、スポーツイベントへの参加者の中の一部分がツーリズム(観光)をする。図4 の右向きの太い矢印は、このツーリズム(観光)をすると決めた意思決定を表している。
他方で、図4の下向きの太い矢印は、スポーツイベントに参加しないという意思決定を表 す。
なお、ここで想定されているスポーツイベントとツーリズム(観光)は分離して考えら
れるものである。より具体的には、スポーツイベントのみが行われ、そのスポーツイベン
トへの参加をきっかけとして、その開催地での観光に興味関心を持ち、後日機会を改めて
(スポーツイベント開催日とは別日に)開催地を観光目的で再度訪問する。このような状 況である。もちろんスポーツイベントとツーリズム(観光)が一体となっている場合もあ るので、その場合についても一つのパターンとして仮説の導出において考慮に入れる。
ツーリズム(観光)をすると意思決定した参加者が、図4のステップ2へと進む。イベ ント企画者から見ると、図4のステップ2でツーリズム(観光)すると決めた人だけが、
このスポーツツーリズムの目指していた最終目標を達成できた人となる。
このような枠組みを「誘因+観光」枠組みの基本モデルと呼ぶ。ここまでは先行研究に 依拠しながら、消費者の意思決定のプロセスを「誘因+観光」枠組みの基本モデルとして 描いてきた。この基本モデルは実際の現場に持ち込み現実とつきあわせて吟味することに より、より良く現実を説明できるモデルにできる。
そこで将来の研究では、こうした経験研究の実施が期待される。ただし、そうした経験 研究に入る前に、この基本モデルから予め仮説を導出することにより、更に容易に基本モ デルを現実につきあわせられると思われる。そこで節を改めて、ここで示した基本モデル から仮説の導出を試みる。
3.2 基本モデルからの仮説の導出
⑴ 一体型イベントにおけるツーリズム(観光)への参加に影響する要因に関する仮説 スポーツイベントとツーリズム(観光)の関係について基本モデルに基づいて考察する。
スポーツツーリズムでは、スポーツイベントとツーリズム(観光)が不可分に一体となっ たスポーツツーリズム(以下、一体型イベント)がある。また、スポーツイベントと独立 にツーリズム(観光)に再訪する場合(以下、分割型イベント)もある。
基本モデルは、分割型イベントを想定していた。だが、現実のスポーツツーリズムでは 一体型イベントも考えられる。すると、一体型イベントと分割型イベントでは、スポーツ ツーリズムでの意思決定に違いがあるのではないかと想定できる。とりわけ、ツーリズム
(観光)への参加の意思決定に、スポーツイベントへの満足評価以外に影響を与える別の 要因があるのではないかと想定できる。
より具体的には、図4の満足評価から出る太い右向きの矢印に注目する。すると、満足 評価だけではなく、他の要因が図4の右向きの矢印に影響を与える。こうした別の要因の 付加される可能性がある。ここから仮説1を導出する。
仮説1:スポーツイベントとツーリズム(観光)の関係が一体型イベントの場合、図4の
ステップ1の「消費者満足」以外の要因がツーリズム(観光)への参加に影響を及ぼす。
ところで、実際にどのような要因がツーリズム(観光)へ影響を及ぼすのか。これは現 場で調査なしに限定できない。確かに、ここでの仮説は、質問紙調査で獲得できる量的 データによる仮説検定を通じた実証研究のように、帰無仮説の容認か棄却かのような明確 な結果を想定した仮説ではない。むしろ、ここでの仮説は、多様な可能性を許容した仮説 である。
だが、こうした可能性を仮説としてもつ場合ともたない場合を考えてみる。すると、こ の仮説を手がかりとしながら現場で調査できるという意味で、仮説をもつかもたないかで その調査の容易さに違いがあると考えられる。ここに、本節で仮説を準備していく狙いが ある。では、引き続いて仮説を提示する。
⑵ 満足度の高低がもたらすツーリズム(観光)への参加以外の結果(再購買意図、他 者推奨、そしてリカバリーへの反応)に関する仮説
基本モデルは、スポーツイベントを誘因として用いつつツーリズム(観光)への参加者 を増やしていくという狙いで作成されている。したがって、スポーツツーリズムの満足度 評価が、ツーリズム(観光)への参加に関する意思決定に繋がっている。これは基本モデ ル作成の意図から当然である。また、別の結果に関連づけられていないのも、その基本モ デル作成の狙いから当然である。
だが、基本モデルがその主目的以外の周辺の状況も考慮に入れられると、より魅力的な 枠組みにできると思われる。そこで、満足評価から、ツーリズム(観光)への参加意思決 定以外の意思決定について考察する。まず考えられるのは、別のスポーツイベントへの参 加(ある種の、関連購買)や再度同じスポーツイベントへの参加(つまり、再購買)であ る。
スポーツイベントへの参加に満足した参加者は、その土地へ再訪してツーリズム(観 光)を楽しもうと考えるだけではない。そのスポーツイベントそれ自体に再度参加する。
あるいは、別のスポーツイベントへ参加しようと考えるかもしれない。ここから次のよう な仮説が考えられる。
仮説2−1:スポーツイベントに満足した参加者は、図4のステップ1の「消費者満足」
の評価が高まり、図4のステップ1の「事前知識」へ肯定的なスポーツイベントとして フィードバックされ、同じスポーツイベントへの再度の参加(再購買)や同種の別スポー ツイベントへの参加(関連購買)へポジティブな影響を及ぼす。
次に、スポーツイベントへの満足度評価が期待より高く満足であった場合、その帰結を
第三者に推奨する(他者推奨)の可能性もある。これも図4の「事前知識」への肯定的な
フィードバックが考えられる。だがそれだけではなく、その消費者が所属している人々へ の推奨から考えると、「準拠集団」へのポジティブな影響を想定できる。したがって、仮 説は次のようになる。
仮説2−2:スポーツイベントに満足した参加者は、図4のステップ1の「消費者満足」
の評価が高まり、ステップ1の「事前知識」へ肯定的なスポーツイベントとしてフィード バックされるだけでなく、そのスポーツイベントを自身の所属する集団への推奨(他者推 奨)によりステップ1の「準拠集団」へポジティブな影響を及ぼす。
⑶ 精緻化見込みモデル(関与の高・低、中心的態度形成と周辺的態度形成)
関与は、消費者が目標を達成しようと動機づけられている状態である。これをスポーツ イベントやツーリズム(観光)への参加に当てはめる。すると、消費者がスポーツイベン トやツーリズム(観光)への参加が大切と考えている状態と解釈できる。
まず、図4では「関与」の高と低との矢印は、消費者がスポーツイベントやツーリズム
(観光)への参加を大切と考えている(図4の「高」の矢印)か、大切だと考えていない
(図4の「低」の矢印)かを表している。
次に、消費者にとって関与が高い(大切)か低い(大切でない)かだけでなく、加えて 消費者がそのスポーツイベントやツーリズム(観光)について知識を持っているか否かを も含めて、図4の「中心的態度形成」と「周辺的態度形成」とについても考える。
すると、消費者にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加が大切で知 識のある場合、中心的態度形成(つまり、論理的な意思決定)を行う。これは図4の「関 与」の高の矢印が、「事前知識」を経て、「中心的態度形成」へと向いていることで表され る。
他方で、消費者自身にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加があま り大切ではなく知識もない場合、周辺的態度形成(つまり、直感的な意思決定)を行う。
これは、図4の「関与」の低の矢印が、「周辺的態度形成」へ向いていることで表されて いる。
以上から、次の2つの仮説を導く。
仮説3−1:消費者にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加が大切で 知識のある(図4の「関与」の高の矢印の)場合、図4の「事前知識」を経て、「中心的 態度形成」(つまり、論理的な意思決定)を行う。
仮説3−2:消費者にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加があまり
大切でなく知識もない(図4の「関与」の低の矢印の)場合、図4の「周辺的態度形成」
(つまり、直感的な意思決定)を行う。
以上が、基本モデルを与件としたときに導かれた仮説である。それでは本研究の最後に、
ここまでの議論のまとめと今後の課題を示す。
4.結論 4.1 まとめ
本研究の目的は、次の2点であった。第1点目の目的は、スポーツツーリズムを具体例 として、既存研究により提案されてきた枠組みから、本研究で観光関連連語と名付けた現 象をとらえる分析枠組みを提案することであった。第2点目の目的は、この「誘因+観 光」枠組みを与件として、スポーツツーリズムの現場での調査を想定した仮説の導出で あった。第1点目の目的に対して、本研究は既存研究から基本モデルを構築した。この 基本モデルは本文の図4として図示され、「誘因+観光」枠組みの基本モデルと呼ばれた。
次に、図4を再掲する。
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図4:「誘因+観光」枠組みの基本モデル
本研究の第2点目の目的は、この「誘因+観光」枠組みを与件として、スポーツツーリ ズムの現場での調査を想定した仮説の導出であった。そこで本研究は、この基本モデルを 与件として、そこから想定できる仮説を示した。仮説のみ繰り返すと、次のようであった。
仮説1:スポーツイベントとツーリズム(観光)の関係が一体型イベントの場合、図
4のステップ1の「消費者満足」以外の要因がツーリズム(観光)への参加に影響を 及ぼす。
仮説2−1:スポーツイベントに満足した参加者は、図4のステップ1の「消費者満 足」の評価が高まり、図4のステップ1の「事前知識」へ肯定的なスポーツイベント としてフィードバックされ、同じスポーツイベントへの再度の参加(再購買)や同種 の別スポーツイベントへの参加(関連購買)へポジティブな影響を及ぼす。
仮説2−2:スポーツイベントに満足した参加者は、図4のステップ1の「消費者満 足」の評価が高まり、ステップ1の「事前知識」へ肯定的なスポーツイベントとして フィードバックされるだけでなく、そのスポーツイベントを自身の所属する集団への 推奨(他者推奨)によりステップ1の「準拠集団」へポジティブな影響を及ぼす。
仮説3−1:消費者にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加が大 切で知識のある(図4の「関与」の高の矢印の)場合、図4の「事前知識」を経て、
「中心的態度形成」(つまり、論理的な意思決定)を行う。
仮説3−2:消費者にとって、スポーツイベントやツーリズム(観光)への参加があ まり大切でなく知識もない(図4の「関与」の低の矢印の)場合、図4の「周辺的態 度形成」(つまり、直感的な意思決定)を行う。
既に本文中でも指摘したように、こうした仮説は、質問紙調査で獲得できる量的データ による仮説検定を通じた実証研究のように、帰無仮説の容認か棄却かのような明確な結果 を想定していない。むしろ、ここでの仮説は、多様な可能性を許容した仮説である。こう した多様な可能性を許容することで、その結果は明確な結論を得られないという批判もあ り得るだろう。
だが、こうした可能性を仮説として想定して現場で調査を行う場合と、想定せずに現場 で調査を行う場合を考えてみる。すると、この仮説を手がかりとしながら現場で調査でき るという意味で、仮説は現場での調査をより容易にしてくれると期待できる。ここに、本 研究で仮説を準備していく狙いがあった。以上で、本研究の2つの目的に答えた。
それでは最後に、今後の研究に向けて方向性を整理する。
4.2 今後の研究に向けて
今後の研究に向けて、大きく2点を指摘する。第1点目は、現場での調査による仮説の
洗練である。本研究は、スポーツツーリズムを具体例としつつ、観光関連連語と呼んだ対
象について「誘因+観光」枠組みの基本モデルを提示した。さらに、そのモデルを基礎と
しつつ、仮説を導出した。今後の研究において、この仮説を参照しつつ現場での調査を行
い、この基本モデルの見直しを進める。これにより一層現場を理解できるモデルの構築が
期待できる。そのようにして構築された「誘因+観光」枠組みは、本研究により既存研究 に依拠しているという意味で学術的であり、加えて現実との突き合わせにより見直しが行 われたという意味で現実を捉えられる枠組みになっていると期待される。
第2点目は、既存研究の更なる吟味による仮説の改変である。将来の方向性として以下 に幾つかを例示してみる。予め断っておくと、これは例示であって網羅的ではない。1つ 目は、期待を巡る既存研究の吟味である。図4の「消費者満足」は、事前の期待と成果の 関数として規定される。ここで、事前の期待についてより正確に先行研究に基づいて整理 する必要がある。
例えば、森藤(2009)は、既存研究に依拠して期待について整理している。ここでは 以下に5点ほど例示してみる。第1に、既存研究に依拠して期待を4つ(⑴can beレベ ル、⑵will beレベル、⑶should beレベル、そして⑷must beレベル)に分類する
27。第2に、
既存研究に依拠して、それら⑴から⑷への階層を指摘している
28。第3に、既存研究に依 拠して、それら⑷以上を消費者が我慢できる許容範囲とされており、そして各レベルで同 じ評価へと結びつけられる無差別ゾーンのあることに言及している
29。
第4に、既存研究に依拠して、期待と結果の一致・不一致に影響を及ぼす効果として、
同化・対比理論を指摘している
30。同化により不一致を知覚しにくく、対比により不一致 を誇張して知覚する
31。第5に、期待をモノ・サービスそれ自体への期待と、モノ・サー ビスを提供されることにより自己の変化への期待を区別して、消費者満足の形成をそれら の合わさった全体との考え方もある
32。このように既存研究では、期待に関して詳細な議 論が重ねられている。
本研究で示した図4で、期待は消費者満足の形成に関連した結果との比較基準というだ けであった。しかし、例えば、森藤(2009)で整理されたように、既存研究では期待につ いて詳細な検討が行われている。図4でも消費者満足は、その後の行動の分岐の鍵を握る 概念である。よって、今後より詳細な検討を必要としている。
2つ目は、時間の経過を考慮に入れた既存研究の検討である。基本モデルで消費者満 足は、期待と成果の関数として規定されていた。だが、消費者満足は時間の経過という 観点からも分類できる。時間の経過の観点からの消費者満足の分類の一例として、佐野
(2014)は既存研究に依拠して取引特定的満足と累積的満足の2つを整理している
33。取 引特定的満足は、1回のスポーツイベントの参加により評価される消費者満足である。こ れに対して、何度かのスポーツイベントへの参加を通じて形成される満足が累積的満足と 呼ばれる。
消費者満足の2分類とは別の時間の経過の観点の例として、消費者満足とロイヤルティ
の関係性も考えられる。ロイヤルティには多様な捉え方があり、佐野(2014)は今後の研
究で消費者満足とロイヤルティの関係に影響を与える変数についても検討する必要性を指
摘している
34。更に、小野(2016)は、拡張型累積的顧客満足モデルを提案し、そのモデ ルをデータにより実証している。
小野(2016)の拡張型累積的顧客満足モデルは、顧客期待、消費者満足(本研究では顧 客満足も消費者満足で統一する)、そしてロイヤルティの関係を軸に、その他に知覚品質、
知覚価値、推奨意向、スイッチングコストの諸要因間の影響関係について先行研究に依拠 しつつ構築されている
35。モデルの実証は、利用頻度と顧客シェアの2つの基準により4 分割された顧客セグメントごとに、エアラインとホテルについてのデータにより行われて いる
36。
このように、取引特定的満足だけでなく、累積的満足も考慮する。これにより、時間の 経過を考慮に入れた、消費者満足に関連した既存研究を吟味できる。加えて、消費者満足 が次の購買へと結びついていくという意味での時間の経過を考慮に入れる。すると、消費 者満足とロイヤルティの関係のような既存研究も吟味して基本モデルの改変を試みる必要 がある。ただし、図4では事前知識へのフィードバックも考えられており、ロイヤルティ のある程度の部分は捉えられている。
最後の3つ目に、スポーツイベントが不満足なものであったときの、サービス・リカバ リーの評価について考察すべきである。不満足な顧客へのリカバリーの有効性が研究され ている。期待不一致モデルは、提供されたサービス・リカバリーが期待されたサービス・
リカバリーを超えていると、消費者満足が高まると考える
37。ただし、期待不一致モデル でサービス・リカバリーを捉えることには、高橋(2007)によると2点の限界が指摘され ている。1点目は、失敗以前に予め消費者がサービス・リカバリーへの期待を形成するこ とへの疑問である
38。2点目は、サービス・リカバリーへの消費者満足とその取引全体へ の消費者満足の区別が付くのかとの疑問である
39。
現在のサービス・リカバリー研究は、期待不一致モデルから公正理論へと中心的なモ デルが移り変わっている
40。小本(2013)は、先行研究から公正を3つの次元に分類整理 している。公正の3つの次元とは、⑴分配的公正(distributive justice)
41、⑵手続的公正
(procedural justice)
42、⑶相互作用的公正(interactional justice)
43である。なお、小本
(2013)によると衡平(あるいは公平)理論
44は、分配的公正から発展してきた理論とさ れる
45。
髙橋(2007)は、公正の3つの次元、消費者満足、そして顧客ロイヤリティの関係を次 の2つの仮説モデルの比較を通じて実証的に検討した。まず、1つ目の仮説モデルが、並 列型因果モデルである。このモデルは、公正の3つの次元が並列的に消費者満足へ影響し、
消費者満足が顧客ロイヤリティに影響する。次に、この並列型因果モデルとの比較モデル として、2つ目の仮説モデルを示した。2つ目の仮説モデルは、修正型因果モデルである。
この修正型因果モデルは、公正の3つの次元のうち相互作用的公正を起点として、残る2
つの分配的公正と手続的公正を関連付ける点で並列型因果モデルと異なる。
これら2つのモデルの比較により、次の2点を明らかにした。1点目は、修正型因果モ デルが並列型因果モデルよりデータへの高い適合度を示した。よって、公正の3つの次元 の間には、修正型因果モデルのような順序や相互の関連性がある。2点目は、この公正の 3つの次元の順序や相互関係について次の点を明らかにした。相互作用的公正は、消費者 満足への直接効果と(データの業種によっては)分配的公正とを経た間接効果を与える。
手続的公正は、消費者満足への直接効果をもたない。消費者満足は、顧客ロイヤリティに プラスの影響を与える。
小本(2013)は、髙橋(2007)について2点の課題を指摘している
46。1点目の課題と して、並列モデルは先行研究において公正の3つの次元の間に高い相関が確認されてきて いるにもかかわらず考慮に入れていない点を指摘している。2点目の課題として、因果モ デルは公正の3つの次元の間の因果関係の生じる理由を十分に説明できていない点に言及 している。
Orsingher et al.(2010)は、メタ分析により公正の3つの次元(⑴分配的公正、⑵手続 き的公正、⑶相互作用的公正)を苦情処理への消費者満足(satisfaction with complaint handling
47)の先行要因とし、口コミ、総合的満足そして再購買意図を消費者満足の結果 要因として、分析を行っている
48。その結果、次の2点が示されている。1点目に、公正 の3つの次元は全て有意に消費者満足にプラスの影響を与える
49。2点目に、消費者満足 は、口コミに有意にプラスの影響を与えるのだが、総合的満足と再購買意図に有意な影響 を与えない
50。
小本(2013)は、髙橋(2007)やOrsingher et al.(2010)を含めた先行研究を整理し た上で、今後の研究の方向性として、⑴公正感の細分化、⑵総合的公正感を用いた研 究、⑶公正という経験を重視したモデルの3点を示している。これら3点についてより詳 細に小本(2013)の主張を整理してみる。公正感の細分化とは、公正の3つの次元のう ち相互作用的公正を更に2つ(人間相互間の公正(interpersonal justice)と情報的公正
(informational justice))に分割して、全体で4つの次元に細分化したサービス・リカバ リー研究の方向性を指摘している
51。
総合的公正感を用いた研究とは、公正感の細分化と逆の方向性であり、公正の3つの次
元とは別の独自の要因として総合的公正を取り扱う重要性を主張している
52。公正という
経験を重視したモデルとは、公正の判断において認知と感情が共に影響を与えるという
サービス・リカバリー研究の方向性に言及している。これまでの研究は、公正に感情を取
り入れる研究において、第1に何らかの行為への認知的評価が行われ、第2にその認知的
評価に基づいた感情的反応が起こると理解されている
53。これに対して、感情が公正の判
断に関わるという研究の方向性である
54。これら3点の方向性が、小本(2013)により指
摘されている。
上元・瀬良(2018)は、先行研究に基づいてサービスの失敗とその後の顧客行動との関 係性に関する理論的な課題を3点に整理している。1点目は、顧客のサービス・リカバ リー経験機会に関する課題である。これは、サービス・リカバリーをいつ、どこで、だれ が、どのように、どの程度行うのか、そしてそのようなサービス・リカバリーの機会を 高めるのにどのような要因が作用しているのかを検討すべきとの課題である
55。2点目は、
サービス失敗からのリカバリーに貢献する主体の課題である。これは、サービス・リカバ リーに関係した主体は企業や従業員だけではなく、顧客自身や同伴者など他の主体も関 わっている
56。これらの行動の影響や、主体間の重要度の比較や因果関係の検証も行うべ きとの課題である
57。最後の3点目は、サービス・リカバリーの要求水準に関する課題で ある。これは、サービスの失敗とそれをリカバリーするための必要とされる要求水準の関 連を
58、とりわけ消費者と企業の関係性、消費者のネガティブな行動の諸側面、あるいは 業種やサービス失敗の状況要因などの観点から詳細な検討を必要とするという課題である
59。 上元・瀬良(2018)は、これらを今後検討すべき課題としている。
サービス・リカバリーは、サービスの失敗の解消が消費者満足に繋がると捉えている
60。 これを更に推し進めると、サービス・リカバリー・パラドックスと呼ばれる状況も考えら れる。サービス・リカバリー・パラドックスとは、サービスの失敗に対して効果的なリカ バリーをすると、サービスの失敗をしなかったときよりも、消費者満足が高まる状況を指 す
61。de Matos et al.(2007)は、サービス・リカバリー・パラドックスについてメタ分 析を行った。仮説モデルとして、サービスの失敗、サービス・リカバリー・パラドックス、
そして成果(消費者満足、再購買意図、口コミ、そして企業イメージ)へと至るプロセス を想定する
62。加えて、サービス・リカバリー・パラドックスから成果へと至る間に、方 法論的調整変数(moderators)を考慮している
63。
この仮説モデルから、大きく2つの仮説を検証している。第1の仮説は、サービス・リ カバリー・パラドックスが各成果(消費者満足、再購買意図、口コミ、そして企業イメー ジ)へ有意にプラスの影響をもつか否かで作成されている
64。第2の仮説は、メタ分析の対 象とした既存研究で採用された方法論の違い(方法は標本調査か実験か、デザインは横断 研究か縦断研究か、被験者は学生か学生以外か、研究対象としたサービス業種の違い)の 影響について作成されている
65。
これらの仮説が、メタ分析により検証されている。その検証の結果、第1に、サービ ス・リカバリー・パラドックスは、消費者満足に生じる
66。その一方で、購買意図、ポジ ティブな口コミ、あるいは企業イメージには生じないことを明らかにした
67。つまり、リ カバリーのプラスの効果は限られた側面のみで働いている。第2に、方法論の違いも、
サービス・リカバリーのパラドックの消費者満足への効果に影響する
68。これらが明らか
となった。
本研究の図4は、このようなサービス・リカバリーの研究蓄積を十分に反映させていな い。この点を今後反映させていく余地がある。これらが今後の課題である。ここで2点目 に指摘したように、既存研究の吟味を通じて基本モデルを再考していく必要がある。この ときに、1度だけの実証研究では無く、何度も繰り返し吟味されてきた知の蓄積を基本モ デルへ反映させることが適切と考えられる。こうした観点から、今後の研究では既存研究 としてメタ分析(Meta‑analysis)のレビューが有力な候補の1つとなると考えられる。
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1
本論文は、学会発表(加藤淳一(2018)、 「「誘因+観光」枠組みの提案に向けた予備的考察〜
スポーツツーリズムを想定して〜」、『第15回観光情報学会全国大会in九州』、2018年6月30日@近 畿大学産業理工学部福岡キャンパス、全2頁。)の内容を加筆修正して作成した。
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工藤・野川(2002、184頁)は、「これらの共通することは,『スポーツあるいはスポーツイベン トへの参加または観戦を主目的としていること』,さらに,『日常生活圏を離れ旅行すること』の 2点である.」と述べている。
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本文中で、スポーツあるいはスポーツイベントと一般的な表現を用いている。だが、二宮
(2009)は、スポーツツーリズムには具体的にどのような物を含むのかというスポーツツーリズ ムの領域について議論している。二宮(2009、17頁、図3)は、アトラクション、リゾート、ツ アー、イベント、そしてアドベンチャーの5点を示している。
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渡辺・塩月・丹野(2013、213‑214頁)は、「沖縄県は旅行客数の伸び悩みと観光消費単価の打 開策としてスポーツツーリズムの推進をはかり、新たな観光需要を作り出し旅行客の増加と県内 産業等の活性化を期待している。」と述べている。また、渡辺・塩月・丹野(2013、214頁)は、
「この事業を通して沖縄ならではのスポーツが他のしめる観光地としての価値を作り出す。一方、
スポーツを通して沖縄の魅力を伝えて国内外からの観光客を誘致することで、沖縄件の地域活性 化を目指している。」と言及している。
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渡辺・塩月・丹野(2013、216頁)は、「前回の調査に引き続き、今回の事前アンケートで最も注 目した項目はモチベーション、すなわち「参加理由」であった。」と述べている。
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渡辺・塩月・丹野(2013、214頁)は、「前年まで別々に行われていた「ECOスピリットライドin 南城市」と「東御廻り国際ジョイアスロンin南城市」の2大会が統合され、自転車で聖地や遺跡 を巡るライド部門は160㎞、80㎞、50㎞、30㎞の4コース、徒歩で巡るウォーク部門は20㎞、14
㎞、7㎞の3コース(同距離コースが設定されたノルディックを入れると計6コース)が設定さ れた。」と説明している。
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渡辺・塩月・丹野(2013、216頁)は、「ライド部門では「自転車で走ることに興味を持ったか ら」が約39%と最も多く、次いで「体力づくり」が約32%あった。」と言及している。また、渡 辺・塩月・丹野(2013、219頁)は、「ライド部門では、主に自転車で走ることに興味があるから 参加しており、沖縄の自然や歴史、文化的なものをあまり重要な参加理由としていない。」と指 摘している。
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