楕円曲線の岩澤理論について
シュプルング フローリアン
(Florian Sprung)
∗東大数理
美しい城崎での素晴らしい環境を提供してくださった運営委員と参加者のみなさんに感謝いたします。1
序
岩澤理論は遠く離れているはずの(p進)解析的対象と代数的な数論的対象との間を深く結びつける不思議な 理論である。§2ではまず復素解析の世界からp進解析の世界へ入ります*1。19世紀の初等的な数学なので、誰 でも理解できるでしょう。 そして、§3では古典的な岩澤理論について説明します。岩澤先生はそこでp進ζ関数とイデアル類群の関係 を定式化なされた(岩澤主予想)。この予想は、MazurとWilesによって証明されました。 §4では「御縁のある」楕円曲線という対象について簡単に説明します。 それをもとに,§5と§6では「通常」な素数における楕円曲線の岩澤理論、そして「超特異」な素数における 岩澤理論について説明しようと思います。(ある昔話とのたとえはここに含む。) 城崎での講演で扱った部分は§2の特性イデアルの話と§3後半から§5までです。講演とこの報告集は主に 加藤和也先生の2006年の国際数学者会議での講演をもとにしました。実際,この講演をオンラインで見ました(http://www.icm2006.org/video/での“eighth session”をクリック)。後、同じ辻教室で研究されてる原さんの
素晴らしい原稿[原](去年の第五回城崎新人セミナーの講義ノート)やCoates先生の講義ノート[Coates]等を 参考にしました。
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歴史
1735年、Eulerが ∑ n≥1 1 n2 = ∏ p素数 p2 p2− 1 = π2 6 であることを証明し、このような式をヒントに、1859年にRiemannが無限級数 ζ(s) =∑ n≥1 1 ns = ∏ p素数 1 1− p−s を定義した。ここでsは複素数であるが、ζ(s)の収束域は<(s) > 1である。そこでRiemannは当時の数学の 最先端に含まれていた解析接続の理論を使用し、ζ(s)の定義域を復素平面全体に拡張したのである。それで例 えば発散すべき値ζ(−1) = 1 + 2 + 3 + 4 + ...に意味を持たせたのである。*2「ζ(s)の値を計算することによっ ∗[email protected] *1全体講演のある講演者の方に p 進解析⊂ 代数であると指摘されましたが、まさにその通りです。p 進解析のみを研究されてる人は余 り聞きません。通常,p 進解析は代数や数論の世界と結ばれるために作られたように感じますけど、それでもこの結びつけは不思議 です。 *2実は ζ(−奇数) の値はもう別の方法で Euler により正しく計算されていたが。て素数の情報が入る」と考えたRiemannは見事に「もしIm(s) > 0でのζ(s)の零点sが<(s) = 12 を満たす のであれば、素数がどの「割合」で含まれているかを述べれる」ことに気づいた(Riemann予想[Riemann])。 しかしこういう問題はあまりにも複雑なので、まず ζ(s)の値を直接調べてみるほうがいい。例えば上 のζ(2) = π62 を使えば、簡単に素数が無限個存在することが証明できる*3。19世紀の半ばにKummerが s = 1− 2n, n ∈ Nでの値を調べた: ζ(1− 2) = − 1 22.3, ζ(1− 4) = 1 23.3.5, ζ(1− 6) = − 1 22.32.7 ζ(1− 8) = 1 24.3.5, ζ(1− 10) = − 1 22.3.11, ζ(1− 12) = 691 23.32.5.7.13 ここで不思議なのは分子に突然691という「大きい」素数が現れることである。 Kummerはζ(1− 2n)に潜んでいる「解析的情報」をある代数的対象と結びつけた: 定理 2.1. (Kummerの判定法)ζ(1− 2), ζ(1 − 4), ..., ζ(1 − (p − 3))の内で分子がpで割り切れるものが在る ⇐⇒ pがQ(ζp)の類数を割り切る。(ζp6= 1はxp− 1 = 0の根) ここで「類数」というのは類群*4の大きさのことである。ある代数体Kが与えられたら、類群Kは、 Cl(K) =Kの分数イデアルの乗法群 O× Kの元の乗法群 で 定 義 さ れ る 。こ こ で は OK は K の 代 数 的 整 数 環 で あ る 。た と え ば 、K = Q(ζp) の 場 合 ,OQζp = Z[ζp] である。Cl(K) は、OK がどれほど単項イデアル整域からはなれているか伝えてくれるのである。 Cl(K) = 自明群 の時、OK は単項イデアル整域である。Cl(K)は有限群であることは知られているが、 その大きさを具体的に計算するのは難しい のである。例えば伊東さんの稿をみればそれが味わえるだろう。 1847年、Lam´e氏はFermat予想(すなわち,奇数pに対してxp+ yp= zpが自然数の解を持たないこと)を 解決したと信じたが,証明の中で密かにQ(ζp)が単項イデアル整域である、いいかえれば#Cl(Q(ζp)) = 1で あることを使用していた。上のKummerの判定法によってLam´eのアイデアが(例えばp = 691の時に)だめ になる訳だが、KummerはpがQ(ζp)を割らない場合にLam´eのアイデアが適用できることを示した。例えば 上でのべたζ(1− 2n), 1 ≤ n ≤ 6の値を見れば 系2.2. p = 3, 7, 11, 13に対してFermat予想は正しいということになる。 つまり、ζ(1− 2n)の値を知ることにより、Fermat予想がどんどん(実は無限個の素数に対して[Kummer]) 解かれていくのであった。そこで、ζ(1− 2n)の値のパターンを発見したい訳だが、ここでもKummerが活躍 した。 定理2.3. (Kummerの合同定理)nを(p− 1)で割れない自然数、m≡ n (mod (p − 1)pa)とすると、 (1− pm−1)ζ(1− m) ≡ (1 − pn−1)ζ(1− n) (mod pa+1) が成立する。 この定理はかなり技術的なものだが、p進数を使うと分かりやすくなる。p進数はHenselによって1897年に 導入されたが,当時の数学者によりほとんど無意味な現象として見なされたのである。作り方は次のようであ る。すなわち,自然な全射の系列πk:Z/pk+1Z → Z/pkZの射影極限を見るのである。 Zp := lim←− k Z/pkZ *3もし有限個しか存在しなければ,Euler 積 Y p 素数 p2 p2− 1が有理数である。しかし、 π2 6 は無理数なので,これは矛盾になる。 *4イデアル類群とも呼ばれる。
さらに具体的に書くと、“p進法は十進法を逆にしたもの”である。例えば,十進法では 3, 3.1, 3.14, 3.141, 3.1415, 3.14159, 3.141592, ... の列はある数3× 100+ 1× 10−1+ 4× 10−2+ 1× 10−3+ 5× 10−4+ ...に収束するが、同様にZ pの元は ... + a4p4+ a3p3+ a2p2+ a1p1+ a0p0 のように右からどんどん左に書かれた列の収束先なのである: ... → Z/p4Z → Z/p3Z → Z/p2Z → Z/pZ → 0 ... 7→ a3p3+ a2p2+ a1p1+ a0p0 7→ a2p2+ a1p1+ a0p0 7→ a1p1+ a0p0 7→ a0p0 ここで“収束”という言葉を使ってしまったが、以下のノルムを使うと本当に収束する: a∈ Qに対しa = peb cとする。ここで整数b, cをpがbcを割り切れないようにとる。 このとき,p進ノルムを |a|p= 1 pe で定める。例えば、53の5進ノルムは 1 53 であり,5進的な数として「小さい」のである。一般に、 二つの数n, mの差n− mが高いpベキで割り切れるのならば、nとmはp進的に近いのである。 Qを通常のノルムで完備化したら実数環Rができるように、p進ノルムで完備化した環Qpを考えることがで きる。Rの代数閉包はR = Cであり、Qpの代数閉包をQpで表す*5。このアイデアをさらに生かし「実解析」、 「復素解析」のp進版も知られている。 さて、Kummerの合同定理をp進ノルムの言葉で言い直すと、大雑把に nとmがp進的に近ければ、(1− pm−1)ζ(1− m)と(1− pn−1)ζ(1− n)もp進的に近い と言う形になる。しかし、「二つの近い点」を「二つの近い値」にうつす関数は何か?それは連続関数である。 Riemannのζ関数の背景にp進的に連続な関数があるのだ!それが岩澤理論への入り口である。
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岩澤理論とは
1964年、久保田とLeopoldtがKummerの合同定理からp進ζ関数を構成した。 定理3.1. [久L] p− 1で割れきれる自然数rに対して ζp進(1− r) = (1 − pr−1)ζ(1− r) を満たすp進的連続関数ζp進:Zp→ Qpが一意に存在する。 久保田とLeopoldtは「強引」に通常のRiemannのζ関数の無限個の点での値をとってζp進を構成した。一 般に無限個の点での値で自動的にp進的連続関数が決まってしまうことをその関数が無限個の点での値で 「p進的に補間 される( is p-adically interpolated)」 という。久保田とLeopoldtはζp進(s)がs∈ Zp, s6= 1に対してp進的に解析関数であること(つまりテイラー 展開を持つこと)、s = 1ではRiemannのζ関数と同様に一位の極を持つことを証明した。 解析の話をこれぐらいにして、代数的対象であるCl(Q(ζp))等の話をしよう。ここで八年さかのぼるが、1956 年、岩澤健吉はSeattleで行われたアメリカ数学会の夏季研究集会に招待され、そこで次のようなアイデアにつ いて講演した。 *5この環はC と違って,完備ではない。しかし Qpを p 進的に完備した環Cp(p 進復素平面)は代数的閉体である。FをQの有限次拡大とする。F∞がFのGalois拡大でΓ = Gal(F∞/F )がZpと同型であるとする。Galois 理論によりZpの部分群pnZpと同型であるΓの部分群Γp n に対して中間体Fn= FΓ pn ∞ がある*6。このFnを それぞれ調べるのは難しいが、体の塔(拡大列) F = F0⊂ F1⊂ F2⊂ ... ⊂ Fn⊂ ... を見ると,いろいろ調べやすくなる。岩澤先生はΓをCl(Fn)へ作用させ,次の定理を得た 定理 3.2. (岩澤)#Cl(Fn)をちょうど割り切るpベキをpenとする。そのとき、適当な整数λ, µ, ν をとれば 十分大きなnに対してen= λn + µpn+ νとなる。 岩澤先生はこの定理を1959年に雑誌に載せた[岩澤59]。岩澤先生は1960年代後半までF∞/F の形の拡大 をΓ拡大(Γ-extensions)と呼んだが、現在はZp拡大と呼ばれてる。 例3.3. 円分Zp拡大 pを奇素数、F :=Q(ζp)とおく。ζpnを1の原始pn乗根とする。そのとき、上のような拡大列はFn:= F (ζpn) と定義できる。F∞= ∪ n≥1 F (ζpn) = ∪ n≥1 Q(ζpn) =:Q(ζp∞)となる。F∞をFの円分Zp拡大という。 例 3.4. もう一つの円分Zp拡大 pを奇素数、今度はQ0:=Qとする。上と同様に単にpベキ乗根を付け加えたら、Zp拡大を得ない。なぜな らば、 Gal(Q(ζpn)/Q) ∼= (Z/pnZ)×∼= ∆× Z/pn−1Zなので Gal(Q(ζp∞)/Q) ∼= ∆× lim←− n Z/pn−1Z ∼ = ∆× Zp Zp だからである。ここで∆ = Gal(Q(ζp)/Q0) ∼=Z/(p − 1)Zである。そこでQnたちをQ(ζpn+1)の∆で不変な 拡大列として定義する。 Q(ζp∞) ∆ R R R R R R R R R R R R R R Q(ζpn) Q∞:=Q(ζp∞)∆ Q(ζp) Γ Γ(n−1) ∆ O O O O O O O O O O O O Qn−1:=Q(ζpn)∆ Γ(n−1) ∆ SSSSSSSSSSSSSS S Q0:=Q = Q(ζp)∆ Γ ここでΓ(n) :=Gal(Qn/Q) ∼=Zp/pnZp∼=Z/pnZである。
Q∞/Q0を岩澤の円分Zp拡大(Iwasawa’s cyclotomic Zp-extension)と呼ぶ。
例3.5. F∞0 :=Q(ζ∞)∩ R. 例3.3の拡大列をただRで交わるだけでまたまた新しいZp拡大ができる。
1959年、Jean-Pierre Serreは岩澤の結果についてBourbakiセミナー[Serre]を行った。そこでΓの作用を
直接調べるかわりにΛ加群の概念を導入した。ここでΛ =Zp[[X]]であり、岩澤代数(Iwasawa algebra)と呼 ばれる。Serreのアイデアは次のようなものだった。 Gal(Qn/Q) = Γ(n)はQnに作用するので、その類群Cl(Qn)にも作用する。前に述べたようにCl(Qn)は 有限アーベル群なのでp-Sylow部分群Cl(Qn)[p]と位数がpと粗な部分群の直和と同型になる。しかしΓ(n) *6正確には無限次拡大の Galois 理論を使っている。部分群 Γpnは閉部分群であるので中間体 F nとの対応がある。
はp群なので、その作用は位数がpと粗な群には自明になってしまう。よって、Γ(n)はCl(Qn)[p]のみに作用 する。つまりCl(Qn)[p]はΓ(n)の作用付きのZ加群になる。群環の言葉で言い直すとCl(Qn)[p]はZ[Γ(n)] 加群である。しかし、Cl(Qn)[p]は有限p群なので、ある自然数eに対してZ/peZ加群にもなる。ZpはZ/peZ の情報を全部含んでいるので、Cl(Qn)[p]はZp加群として見なすことができる。よって、 Cl(Qn)[p]はZp[Γ(n)]加群である。 極限をとることによって、 lim ←−n Cl(Qn)[p]は lim←− n Zp[Γ(n)]加群である。 そこで、Λ(Γ) :=Zp[[Γ]] := lim←− n Zp[Γ(n)]と定義するのである。1∈ Z ⊂ Zpであるが、1のZpでの像をγと名 付ける。実はZはZpの中で稠密であるのでγを位相的生成元(topological generator)という。γを1 + Xに 送ることにより,同型 Zp[[Γ]] ∼=Zp[[X]] ができるのである。これで、代数的対象lim←− n Cl(Qn)[p]は形式的ベキ級数環上の加群になるので,扱いやすく なる。 そして1964年、岩澤先生はこのΛ加群の視点をもとに岩澤主予想として知られる予想を立てた[岩澤64]。 M が有限生成ねじれΛ加群であれば、特性イデアルと呼ばれるイデアルChar(M )C Λが存在する。これを理 解するためにはまずM が有限生成ねじれZ加群であると考えよう。有限アーベル群の最も大切な不変量はその 位数#Mである。もし、 Z/(a1)⊕ ... ⊕ Z/(ak) ∼= M であれば、位数はZのイデアルとして(#M ) = ( k ∏ i=1 ai)C Z である。同様に、有限生成ねじれΛ加群Mには余核が有限になるような単射 Λ/(a1)⊕ ... ⊕ Λ/(ak) ,→ M が存在する。このとき,aiがai+1を割り切るようにとることができるのである。この条件でaiは一意的には 定まらないが、イデアル( k ∏ i=1 ai)C Λは一意的に定まる。このイデアルが特性イデアルChar(M )なのである。 岩澤健吉はX := Hom(lim←− n Cl(Qn)[p],Qp/Zp)がΛ加群として有限生成ねじれであることを証明し,その特 性イデアルが前のζp進と深く関係あることに気がついた。非常におおざっぱに言うと、主予想は Char(X )“ = ”(ζp進) である。左の対象は代数的、右の対象は解析的なので異界を結ぶ不思議な予想である。急いでいる読者はこの章 の残りを飛ばして楕円曲線の章へ直接進んでも構わない。 これから例3.5の仮定の下で主予想を正確に述べよう。 まずは代数側の対象を微妙に変える。数論には「類体論」という理論があり,その中の定理の一つは、代数体 Kの類群Cl(K)は実はK上のある拡大H のGalois群Gal(H/K)と同型であるということである*7。そこ で、Cl(F∞0 )と対応する拡大M∞0 を見よう。M∞0 := (pの外では分岐しないような最大のpro-pアーベル拡大) と置く。 次に解析側の対象を作る。ここで登場するのは疑測度である。まずはG := Gal(F∞0 /Q) ∼= ∆0× Γとす る。ここではpが奇素数の場合、#∆0 = p−12 の有限群になる。すると,今度は岩澤代数は微妙に変化し、 Λ ∼=Zp[∆0][[X]]となるのである。 *7Riemann 面等の位相空間の普遍被覆の被覆変換群が底空間の基本群と同型であるという定理の類似。実はこれは単の類似だけでは ない([SGA1])。
定義 3.6. Λを 非零因子 で局所化した環の元ξが疑測度(pseudo-measure)であるとは すべてのσ∈ Gに対 し(σ− 1)ξ ∈ Λであることである。
これは、「s = 1で1位の極までが許される関数ξ(s)」と考えてもよいだろう。
定義 3.7. 円分指標ψ : Gal(Q(ζp∞)/Q) → Z×p を円分体のGalois理論から定まる同型*8Gal(Q(ζpn)/Q) ∼=
(Z/pnZ)× の射影極限で定義する。 定義3.8. ξがG上の疑測度、λ : G→ Q×p が= 1でないとする。その時, ∫ G λdξ :=λ ((g− 1)ξ) λ(g)− 1 (ただしλ(g)6= 1と仮定する) 岩澤先生は現代の言葉で言い返すと次のような定理を発見した。 定理3.9. (岩澤)次のような性質を満たすG上の疑測度ξpが唯一存在する: kが2以上の偶数の時, ∫ G ψkdξp:= (1− pk−1)ζ(1− k) 岩澤先生によるこの「解析的ゼータ」はより良くRiemannのζ関数に近いのである。実は岩澤先生はこれか ら久保田-Leopoldtのζp進等を導くこともできたのだが[岩澤69]、技術的なので省略する([Washington, 15.4] を参照)。 定義3.10. I := ker(Λ→ Zp)。(ここでの写像は1で値をとるという準同型f → f(1)である。) 定理3.11. (岩澤主予想)Char(Gal(M∞0 /F∞0 )) = IξpC Λ つまり、Galois群の特性イデアルが岩澤先生の 疑測度ξpによりイデアルIの中で生成されることである。 この定理は1984年、MazurとWilesにより証明された[MW]。彼らの証明方法は保型形式の性質を使用し
た。しかしその数年後,KolyvaginとRubinが(それぞれ)円単数と呼ばれる単数からEuler系を構成し,こ
れを用いて主予想を証明した[Rubin]。詳しくは大下さんの稿を参照するとよいだろう。
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楕円曲線とは
y = x + 2等、y = (xの1次式) の方程式で定まるものは直線(line)である。 それを少しだけ一般化すると y = x2+ 1等、y = (xの2次式) で定まるのは放物線(parabola)である。 これを再度一般化したら y2= x2+ 1、y2=−2x2+ 2等、y2= (xの2次式) で定まるのは通常、双曲線(hyperbola)、または楕円(ellipse)である。 これをさらに一般化してみよう。 y2= x3− x等、y2= (xの3次式で、重根を持たないもの) *8Gal(Q(ζpn)/Q) の中の ζpn7→ ζa pnの自己準同型を a∈ (Z/pnZ)×に写すことによってできるもの。の形の方程式で定まる曲線を楕円曲線(elliptic curve)という。これからQ上の楕円曲線を考える。Q上とい うのは、xの3次式の係数がQに含まれてることである。 ある楕円曲線E : y2= x3+ ax + bと体Kが与えられたら、EのK有理点E(K)、つまりy2= x3+ ax + b のKにおける解を調べたいのである。*9 ここで有限体の場合K =Fpを考えよう。x∈ Fpを選ぶには選択はp通りある。x3+ ax + b∈ Fpであるが、 Fpの半分の元には平方根があるので、12 の確率でy2 = x3+ ax + bとなるようなy∈ Fpが見つけることがで きるのである。しかし、(−y)もx3+ ax + bの平方根なので、結局E(Fp)の数は約p×12× 2 = p個になる。 実はこの推理はさほど間違っていない: 定理4.1. (Hasse) E : y2= x3+ ax + bをQ上の楕円曲線とする。その時、上の推理の「ずれ」である ap= p− #E(Fp) は小さいのである: | ap|≤ 2√p 例 4.2. EをQ上の楕円曲線,p = 1999とする。そのとき、1910≤ #E(F1999)≤ 2088。 この定理をもとに、Riemannのζ関数の類似を定義できるのである: 定義4.3. Q上の楕円曲線E : y2= x3+ ax + bのL関数はs∈ Cに対して L(E, s) = ∏ p良い素数 1 1− app−s+ p1−2s × (有限) で定義される。ここで「良い素数」というのは、Fp上でもx3+ ax + bが重根を持たないような素数pである。 有限個しか無い「悪い素数」での因子は1または1± p−sになるが、それらの因子の積を(有限)という記号で 表した。Hasseの定理のおかげでこの積は(<(s) > 3 2)で収束することが知られ、実は谷山志村予想の解決によ りC上で正則であることが知られている。L関数の理論は非常に豊かである。例えば青木さんの稿を参照する とよいだろう。 定義4.4. Q上の楕円曲線Eをとり、pが良い素数とする。そのとき、apを割る素数とそうでない素数がある。 { p- apの時、pを通常(ordinary)と呼ぶ。 p| apの時、pを超特異(supersingular)と呼ぶ。 「超特異」には「非常に特別な現象」という意味が含まれている。この場合は非常に稀であると信じられていた が、1987年、次のような定理がつくられた。 定理4.5. [Elkies] *10EをQ上の楕円曲線とする。そのとき、超特異な素数は無限個存在する。 楕円曲線論については[Silverman]や非常に入門的である[ST](これは和訳されてる)などの良書がある。
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楕円曲線の岩澤理論:通常な素数の場合
1970年代に入るとMazurは楕円曲線Eに対し、Zp拡大の拡大列での有理点E(F0), E(F1), ..., E(F∞)を見
れば何かできるのでは?というアイデアから新しい理論を生み出した。古典的な岩澤理論の類似として、「解析
的対象=代数的対象」という主予想が中心なので楕円曲線の岩澤理論と呼ばれている。*11
*9正確には E(K) の中には一個の無限点 (O) があるが、ここではそれを無視した。{E(K), (O)} をアーベル群として見なすことがで
きる([ST],[Silverman] を参照)。
*10この論文は短くて非常に質がいいのでおすすめである。
解析側:ここで登場するのはあるp進L関数 Lp(E, X)∈ Λ である。*12 ζp進の時と同様に、L(E, s)の整数の値でp進的に補間された関数を作りたいが、L(E,−s) = 0, ∀s ∈ Nな のでそれは無理である。そこでMazurは通常のL関数L(E, s) =∑ n≥1 an ns と表し、s = 1での値をDirichlet指 標(群準同型) χ : (Z/pmZ)× → C×でひねり、L(E, s, χ) =∑ n≥1 anχ(n) ns について考えた。ここでs = 1をと ることによって、 L(E, 1, χ) Ωχ(−1) が代数的整数になるような実数Ω+(実N´eron周期)または純虚数Ω−(虚N´eron周期)を定めることができる のである。χ(−1) = ±1の符号によって周期の選択が変わるが、Ω±そのものはχには依存しない。 そして、pが通常である*13仮定のもとで、この代数的数値をp進的に補間して新しいp進L関数L p(E, X)∈ Λ を定義した。[Mazur1] 代数側:ここで登場するのはSelmer群という加群のp部分である。詳しい定義はながいので省略するが、代
数体K上の楕円曲線Eに対してのSelmer群Sel(E/K)とTate-ˇSafareviˇc群 山(E/K)はCl(K)の類似であ ることだけを述べよう。次のような完全列がある。
0→ E(K) ⊗ Qp/Zp→ Sel(E/K)[p] →山(E/K)[p]→ 0
つまり、Sel(E/K)は楕円曲線EのK有理点の情報を含んでいるのである。一方,山(E/K)はそのずれを 計っているのであるが,#山(E/K) <∞と予想されてる。 XE(Q∞) := Hom(SelE(Q∞),Qp/Zp) と お こ う 。こ こ で 加 藤 和 也 先 生 が XE(Q∞) が 有 限 ね じ れ Λ 加 群 で あ る こ と を 証 明 し た 。そ こ で Char(XE(Q∞))を定義することができる。 予想 5.1. (通常な素数における楕円曲線の岩澤主予想)[Mazur2] Char(XE(Q∞)) = (Lp(E, X))C Λ 加藤先生は2004年、この予想の半分を証明された[加藤]。 定理 5.2. (加藤) Char(XE(Q∞))⊃ (Lp(E, X))C Λ 加藤先生はこれについて2006年の国際数学者会議で講演されたのであるが、証明の方針はEuler系を使うこ とであった。これを分かりやすく説明するために「鶴の恩返し」について解説した。 証明(方針)あるコホモロジー群H1の中にすむゼータ元z∈ H1を構成し、これを岩澤代数Λに写したらp
進L関数になる。しかし、zの性質(Euler系の性質)により、上で述べたChar(XE(Q∞))⊃ (Lp(E, X))を
得る。
(昔話を使った方針*14)zはゼータの故郷から来た鶴であり、ひとまず罠の多い雪国H1で止まってる。恩返
しである織物Char(XE(Q∞))⊃ (Lp(E, X))を織るために鶴zはわざわざ娘Lp(E, X)に化けて人間の世界Λ *12ここで Λ =Zp[[X]] とおく。つまり例 3.4 の仮定の下で話を続ける。
*13これは apが p 進的な単位元であることと同様である。Mazur は「単位元」という性質を使ったのである。
*14著者が理解する限りまとめておいたが加藤先生がこのたとえで本当は何を言いたいのか、何を目指したいのかはまだ理解できません。
に入るのである。ここで注意すべきことはpが通常なので娘はそのまま人間の世界に入ることができることで ある:Lp(E, X)∈ Λ. この予想は近年,SkinnerとUrbanにより証明されたようだ。彼らは「保型形式の方法」を使ったようであ る。この方法に対応する昔話(浦島太郎?)はまだ現在見つかっていない。 主予想の応用としては次のような岩澤先生の定理の類似がでる。 定理 5.3. (Mazur) #山(Qn)をちょうど割り切るpベキをpenとする。そのとき、適当な整数λ, µ, νをとれ ば十分大きなnに対してen= λn + µpn+ νとなる。
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楕円曲線の岩澤理論:超特異な素数の場合
Q上の楕円曲線Eの超特異な素数pに対しては,通常な素数pと同じ主予想は成り立たない。解析側での問題:ここで1970年代のViˇsik, Manin, Amice-V´eluや1986年のMazur, Tate, Teitelbaum の仕事によりT2− a
pT + pの根α, αに対してp進L関数Lp(E, α, X)とLp(E, α, X)が二つ構成された [Viˇsik],[AV],[MTT]。しかしLp(E, α, X), Lp(E, α, X) /∈ Λである。実際、この関数たちはQp[[X]]の元である
が、この環は「大きすぎる」のである。
昔話で言い換えると,pが超特異であるとき,鶴は化けたが、トラブルがおきて人間の世界Λに入れなかった
のである。
これと対応する代数側での問題が起きてる:Hom(SelE(Q∞),Qp/Zp)は有限ねじれΛ加群ではないので
ある。
よって、主予想はこのまま定式化できないのであった。Perrin-Riouは1990年代、Bloch-加藤-logarithmsに
よるあるGaloisコホモロジーの群の像を具体的に調べることによりハイレベルな主予想をみつけたが、通常な
場合/古典的な場合の類似が無いのは悲しかった。
ここで次の事実に注意する。ap= 0だとpは超特異な素数だが、その逆もほとんど言えるのである。
注意6.1. p≥ 5が超特異であると仮定する。つまり、p| apとする。そのとき、ap= 0である。
証明 Hasseの定理|ap| ≤ 2√pを使うと明らか。
2003年、Mazurの学生であるPollackは次の定理を証明した[Pollack]:
定理6.2. (Pollack) ap= 0とする。Lp(E, α, X)でMazur,Tate,Teitelbaumのp進L関数を表す。そのとき、
Lp(E, α, X) = log+p(1 + X)L+p(E, X) + log−p(1 + X)L−p(E, X)α, pが奇素数の時
L2(E, α, X) = log−2(1 + X)L + 2(E, X) + 1 2log−2(1 + X)L−2(E, X)α. と表せる。ここでL±p(E, X)∈ Λであり、log±p(1 + X)は初等的な関数である。例えば, log+p(1 + X) =1 p ∏ m≥1 Φ2m(1 + X) p , Φn(X) = p−1 ∑ i=0 Xpn−1iはn次円分多項式
ap= 0のとき,α =−αなので、上の定理を認めると、Lp(E, α, X)+Lp(E, α, X) = log+p(1+X)L+p(E, X)と
なることが分かる。Φn(1+X)の根はちょうどζpn−1なので、Lp(E, α, X)+Lp(E, α, X)はX = ζp2m−1, m ≥
1で= 0になることがわかる。これらを自明な零点と呼ぼう。PollackはLp(E, α, X) + Lp(E, α, X)の自明な
零点を取ったら新しい関数L+p(E, X)ができることを発見したのだ。
著者はこの定理をすべての超特異な素数(つまりp = 2, p = 3の場合を含む)に一般化した。
定理6.3. [S]任意の超特異な素数pに対し、
Lp(E, α, X) = logϑα(1 + X)Lϑp(E, X) + log υ
と表せる。Lϑ/υp (E, X)∈ Λであり、logϑ/υp (1 + X)は初等的な関数である。
こ こ で も う 一 回 ,昔 話 の た と え を 使 わ せ て も ら お う 。p が 超 特 異 な 素 数 な の で 、鶴 が 二 つ の 娘
Lp(E, α, X), Lp(E, α, X) に 化 け て し ま っ た 。し か し 、Pollack は こ の 娘 た ち は 縄 log±p(1 + X) で 縛 ら
れてるのを発見し、ほどいたら双子の娘の正体であるL±p(E, X)がでたのである。自由になった双子たちは人 間の世界に入ることができた(L±p(E, X)∈ Λ)。 しかし、定理6.3の証明では他の方法を使った。それは、鶴の化け方をかえて、はじめから双子の正体である Lϑ/υp (E, X)に化けさせたのである。この証明方法は2003年、ap = 0の場合に小林真一によって発見された [小林]。 定理6.4. (小林)pを奇素数、ap= 0とする。そのとき、次のような写像Col±が存在する。 H1 Col ± // Λ z  // ∈ L±p(E, X) ∈
Col±は加藤のゼータ元zをPollackのL関数L±p(E, X)に写すのである。小林先生は、ker Col±を調べ,そ こから新しいセルマー群Sel±を構成した。そして、X± = Hom(Sel±,Qp/Zp)と定義して, 予想6.5. (ap= 0、pが奇素数の場合の超特異な素数における主予想) (L±p(E, X)) = Char(X±)C Λ をのべた。また,加藤先生の結果を引用し、(L±p(E, X))⊂ Char(X±)を証明した。 これを次のように一般化することができる。 定理6.6. [S]任意の超特異な素数pに対して次のような写像ColϑとColυが存在する。 H1 Colϑ/υ // Λ z  // ∈ Lϑ/υp (E, X) ∈
ここでまた、ker Colϑ/υを調べることによって,pが奇素数の場合,新しいセルマー群Selϑ/υが定義できる。
予想6.7. (pが超特異な奇素数における主予想)
(Lϑ/υp (E, X)) = Char(Xϑ/υ)C Λ
また,加藤先生の結果を使うことによってやはり、(Lϑ/υp (E, X))⊂ Char(Xϑ/υ)を証明することができた。
7
おわりに
楕円曲線の岩澤理論には、不思議な現象がまだ沢山残ってます。BertoliniとDarmon[BD]による非円分岩
澤理論,Coates、深谷、加藤、Sujatha、Venjakob[C深加SV]による(楕円曲線の)非可換岩澤理論等には触
れませんでした。あと、楕円曲線(言い換えればweight = 2の保型形式)を越えた(weight > 2の)保型形
式*15の岩澤理論は通常な素数の場合、定式化されてるが、超特異な場合はまだ未知の世界である。今年の4月
に李(Lei)さんによりap = 0の場合が発見されました[Lei]。ap 6= 0の場合について李さんと議論した結果、 *15保型形式は上田先生の稿で紹介されてます。とても面白い講義でした。
かなり困難であれども面白そうなので、いくつかの論文が出来上がるかもしれません。興味/アイデア/手伝い たいという意志がある方は是非とも連絡をください。 最後に、第六回城崎新人セミナーに参加する機会をいただき誠にありがとうございました。運営委員、つたや 旅館晴嵐亭の皆様、参加者の皆様に感謝します。講演を聴いてくださり,さまざまな突っ込みと質問をされた方 等にも感謝します。
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