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熊本大学教養部紀要外国語・外国文学編第28号:1-11(1993)
14世紀後半の散文の 0使役構文における不定詞標識について
松瀬憲司
0.Zeitlin(1908,ppl-12)SMustanoja(1960,p、526f、)によれば、不定詞付対格構文は印欧語に 広く分布し、古英語(以下○E)でもその非常に古い段階から、まず、明示的或は潜在的使役を表す 動詞と共に用いられ、次第に知覚動詞や思考動詞とも共起するという機能拡大を遂げてきた。不定 詞付対格構文の原初的用法と言える、この使役構文は○E期より、節を従える使役構文と競合しなが
1〉
ら発達し、中英語(ME)期には使役を表す一般的言し、回しとして定着する。現代英語(PE)にお いて、この構文で使用される使役動詞としては、make,let,cause等があるが、それらが従える不定
2)
詞の形態は特殊な場合を除いて、下例(1)のよう'二決定されている。
(1)a・Herjokesma虎eusallJaz4gh・
bFatherJetmed7juehiscar.
c、shecausedmeto7Qzmintothewall.
[Konishi(1988,s.v・malBe,jet,&cause)]
即ち、make,letは能動態では原形不定詞(ウーinf)と、causeはtoを伴う不定詞(to-inf)と共 起することが規則である。しかし、ME期には、このような規則がまだ完全には確立しておらず、
各使役動詞に支配される不定詞の不定詞標識}こは動揺が見られた。15世紀散文の使役構文における
3)
この不定詞形態を調査した杉山(1988)では、主な使役動詞(make,do,cause,gar)に依然とし て動揺が見られることが報告されている。また、これは韻文だが、Tajima(1968,ppl3-l7;1972, pp・'7-19)では、14世紀後半のPie7st/ZePZouwzq〃(B-text)やGamain詩群といった、小論では取
り上げていない南西部および西中部方言での作品においても使役動詞が従える不定詞の形態には動 揺がみられる。更に、松瀬(1987,pp、56-59)で提出したT1heCtz7zter6u7DmczZesの韻文部分の資料で
もやはり同じことが言える。
そこで小論は、14世紀後半の主な散文を対象にして使役構文における不定詞標識の調査を行った。
散文を調査対象にした理由は、韻文に特有な韻律上の制約をできるだけ減じるためである。なお、
ABoohq/Lo7zdo〃E>zgJZs/ZI384-I425とMz"deu〃sTmUeJsに関しては、それぞれKaartinenand Mustanoja(1958)及び、杉山(1988)の資料を援用している。以下、作品名、制作年代、方言分 類、略号等を示す。
DanMichael'sAye"6Zteq/hzuノyt,ed.R・Morris,rev・PamelaGordon,EETS23(1866;rev、1965)
and278(1979).1340.SE.[Ayelz6.]
EhgZZs/ZP7osez℃qtjsesq/、RZc/tamdRo化deHtzmpoJe,ed.G、G・Perry,EETS20(1886;rev、1921).
a1349.N.[RolleProse]
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松瀬憲司
MdJα"dP7・osePsaZtermheEMiestCOmpJeteEhgJZs/iPmsePsaJter,edK・DBiilbring,EETS97
(1891).a1350.EMid.[M涙PsaJtel]
T比TczZeq/MCJj6eeandT1/ZePU宙o",smczZefrommeCtz"ter6zLDmczZes,edL.D・Bensoninme Rjue7sjdeC/Zczucer,3rdedn.(Boston:HoughtonMifflin,1987).cl375-al400.EMid.
[ChaucerCTJ
Boece,ed・LD、BensoninZVZeRjueぶdeC/ZazLce7,3rdedn.(Boston:HoughtonMifflin,1987).
c1380.EMid.[ChaucerBo.]
''0ftheLeavenofPharisees,'inT1/ZeEhgJjs/ZWO晩sq/WjノcZiif,edF.D・Matthew,EETS74(1880;
rev、1902).Cl383.EMid.[WyclifLeaUe7z]
ThomasUsk,sZ1estame"tq/LoUe,ed.W、W・SkeatinZ7ZeCbmpZeteWmbsq/Geqノツ71eyC/mzLcen
Ⅶ:Chaucerza7za几cZOt/terPZeces(Oxford:ClarendonPress,1897).Cl385.EMid.
[UskTL.]
ADeatiseo〃t/ZeAstroJa6e,ed.L、D、BensoninT1heRZUe7BZdeC/ZazLcer,3rdedn.(Boston:
HoughtonMifflin,1987).1391.EMid.[ChaucerAst7.]
meaozL(Zq/U>zmouノing,ed・PhyllisHodgson,EETS218(1944;rpt、1973).?a1400.EMid.
[CJozLd]
ABooABq/Lolzdo〃E>zgJjs/ZI384-I425,eds.R、W・ChambersandM、Daunt(Oxford:Clarendon Press,1931).1384-1425.EMid.[BABLo"。.E・]
Mz"dどひ肱'sT}mノeZs,ed、PHamelius,EETS153(1919)andl54(1923).c1400.EMid.[Mzndeu.]
''○fPrelates,'inT1heEhgZjs/two流sq/WjノcJjl/,ed・FD・Matthew,EETS74(1880;rev,1902).
c1400.EMid.[WyclifP7℃Zates]
小論の構成は以下の通りである。まず、1節で、今回の調査から得られた数値を表にして提出し、
資料の全体像を把握する。2節では、make、,doon,causenについて分析し、それぞれの特徴を探
い
る。そして3節で全体の結果をまとめることIこする。1.次に示す表は、今回調査したテキストで見られた使役動詞make、,doon,causenがグーinfと(/b7)
to-inf(to-infの異形である/O7to-infとto-infを合わせた前置詞不定詞をこのように表記する。なお、
/brto-infの数値は括弧内に表示する)をどのような割合で従えているかを表している。この表での 数値は全て単不定詞の生起のみを取り扱っており、二不定詞以上が並置された場合の数値は除外し ている。これは第二不定詞以降の不定詞標識の出没が純粋に支配動詞との共起関係によるものか否 かの半l断がし難い力、らである。
5)
また、この構文において生起する不定詞の意味上の主語として機能する対格目的語が明示的には 現れない場合も少なくないが、その数値もこの表からは除外しており、可視的に不定詞付き対格構 文であるもののみの数値を提示している。この対格目的語が現れない型については2節の使役動詞 の各論で若干触れることにする。
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14世紀後半の散文の使役構文における不定詞標識について
この表と杉山(1988,p、46)の15世紀での表とを比較してみると次のことが理解できる。
6)
①14世紀後半においても15世紀と同じく使役動詞として最もよく使用されるのはmakenである。
②概ね15世紀後半から出現数が増すcausenは14世紀後半にはほとんど見られない。
③15世紀前半すぎまで勢力を持ち続けるdoonは、資料数は少ないが、14世紀後半全般に見ることが できる。
④14世紀後半には122対172と(/mto-infがリーinfの約1.5倍の使用率を示すが、この傾向は15世紀 に入ると、91対255と更にUMto-infの使用に拍車がかかる。
⑤/brto-infはわずかに9例と少なく、15世紀でも西中部方言の突出した使用率を示す--作品 (肌沸'sF1estiaJ[al415])を除いて13例とその使用頻度は全般的に低下している。
⑥maken,doonに関しては、東中部方言に限ってみると、(/b7)to-infの優勢が顕著になる。
2.この節では1節で示した表中の3動詞(make、,doon,cause、)についてそれぞれ分析してい く。
2.1.Make、[<OE:macian,‘:Qbr)to=2:3]
このmakenが使役の機能を獲得したのはOE期であると言われているが、実際には、使役動詞とし ての振舞いはOE期には稀れであったらしい。それは使役動詞の主流として既にdo、が存在していた からである。事実、OEDでは不定詞付対格構文をとるmake、の初出例はMEのLam6ethHbmZJies (cll75)としており、Visser(1973,§2068)でもOEのザリは僅か2例にすぎない。しかし、その後、
7)
今回の調査および杉山(1988)からわかるようにME後期から近代英語(ModE)初期にかけてこの makenが使役動詞として頻用されていることは明らかであり、PEでもletと並んで使用率の高い便
~忘三下百一1【聖旦と #(/Mto make、 ‘(/Mto doon #(/Mto
can】臼。、Aye7z6.
(1340) SE 2515(3) 216(0)
RolleProse
(al349)N l(1)
EMid. 78(O) l(0)
Ch2u1cerCT.
(cl375-al400)EMid 614(1) 1 ChaucerBo.
(cl380) EMid. 68(0) 12(1)
WyclifLeaueアz
(cl383) EMid. 15(O)
UskTYL.
(c1385) EMid. 2330(1) 23(0) 6(0)
ChamcerAstr.
(1391)EMid. 1(0)
CZozLd
(?a1400)EMid. 72(O) 1(0)
B虎.L072..回.
(1384-1425)EMid. 35(0) 11(O) 1(O)
ひ.
(cl400) EMid 1639(2) 1(O)
Wyclif
(cl400) P7℃Jates EMid. 312(O)
TOTAL 97140(8)
40%60%(3%) 2525(1)
50%50%(2%) 07(0)
0%100%(0%)
EMid.TOTAL 72124(4)
37%63%(2%) 419(1)
17%83%(4%)
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松瀬憲司
役動詞となっている。
そのmakenが従える不定詞の形態は14世紀後半の散文においてはp-infが40%に対し、(/mto- infは60%と、前置詞不定詞との共起率の方が上回っており、この傾向は15世紀では#-infが28%に 対し、(/mto-infは72%と更に前置詞不定詞との共起が促進されている。これはPEではi-infとの 共起が規則であるということとは正反対の事実である。ただ、前置詞不定詞が優勢とは言え、下例
(2c)のような/brto-infの例は少なく、8例を数えるのみである。
8)
(2)a、
b
C.
(〃涙PsaZte7,113.8)
(WyclifPMates,95/2-3)
(RollePmse,29/24-25)
Hi沖atmahe7zhem6elichtohem’
しeimabe〃lordistoe叩7iso7zemen ThoumabesPe/brtobysseHismouthe
この前置詞不定詞の優勢は、東中部方言だけに限ると、i-infが37%に対し、(/Mto-infは63%
となり、比率が高まるが、唯一αozJdにおいてi-infが優勢を示す。更には、南東部方言のAWD6・
では、ウーinfの方が優勢であることも注目に値する。このように、南東部方言や東中部方言のごく 一部においてはPEの状態へ移行する萌芽が見られる。
(3)a・hemiうtmqheamanJoんeinしer-ate,
b・[Peholygost]、αbeクmanJyemZordenelichePet…
(αCu。,103/11-12)
(Aye"6.151/29)
次に不定詞付対格構文でありながら、その対格目的語が明示されていない型を下例(4)に示す。
(4)a.[He]77zadesZee7zthesenetours;
b・しingしetmahe′tozLo7ソ杉"c/Ze.
(ChaucerBo・'1.,.6/4)
(Aye726.125/7-8)
Mustanoja(1960,p、527)によれば、当該対格が定動詞の主語と同一であるか、または、対格自体 が不特定なものを表すときに、この現象がしばしば観察されるという。(4)に示した例では不定詞 の意味上の主語は不特定な人間を指すと解される。また、不定詞の形態としては、(4a)のようなリー infは7例に対し、(4b)のような(/Mto-infは4例と、ヅーinfとの共起率の方が高い。
受動態不定詞もmakenに関しては、ヅーinfが6例、(/Mto-infが9例発見された。前置詞付迂言 的受動態不定詞の初出は、vanderGaaf(l928a,pllO)によれば、1303年のRobertMannyngof Brunne,sHmzdJylzgSymzeである。即ち、OEや初期MEにおいては、ウーinfによる迂言的受動態不 定詞が存在したのみであった。今回の結果では、両方の不定詞形態が見られ、わずかながら前置詞
9)
付の優勢力§見てとれる。
(5)a・anothershuldemabehimso6e肋Cuノe (UskTL・LX/23-24)
b・しisverreiknowlechyngeschal〃zahemento6e〃qpp7ouedofcristatしedome,
(WyclifLeQUe",22/4-5)
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14世紀後半の散文の使役構文における不定詞標識について
2.2.DOC、[<○E:(ge)don,#:(/Mto=l:l]
ACO"ciseAngJo-Smco7zDZctjo"α〃(s、v・do")には「(ge)donはしばしば受動の意味の不定詞 を従え、,tocause,を表す」とあり、その際共起する不定詞の形態はリーinfが規則であった。しかし、
ME期に入ると、(/mto-infとの共起も可能になった。事実、今回の調査では、両不定詞形態との 共起関係は全く拮抗している(25例対25例)。ただし、南東部方言のAye7z6、を除外し、東中部方言だ けを見てみると、ウーinfが17%に対し、(/mto-infは83%と、前置詞不定詞の優勢が浮かび上がつ
10)
てくる。逆に言えば、Aye7z6、においてdoonがヅーinfと共起しやすい状況にあったことになる。資 料数が少ないために、詳しいことはわからないが、方言による差異がある可能性もある。
ME期に使役動詞の主流となったこのdoonは、14世紀後半には、既にその勢力を失いつつあるこ とが前掲の表より理解できる。Mustanoja(1960)が引用するEllegAld(1953,pl62)は15世紀終
11)
わりから16世紀|こかけて「迂言的」doが急激に増加することを報告しているが、杉山(1988)の資 料とも照合してみると、14世紀後半から15世紀にかけて、使役動詞doonの使用頻度がmake、に比べ てかなり低下していることから、この頃既にdoonの「迂言用法」への移行が始まっていたと思われ る。と同時に、make、の使役動詞としての地位が確固たるものになりつつあったことが指摘できる だろう。
(6)a.[Thisheeste]doot/thymhate〃hissynne. (ChaucerCTL[Hz7s、121])
b、1)atdo〃ebarainmoderofchildertouノo"e〃inPehousioyand.(MPPsaJte7,112.8)
対格目的語が現れない型はAyelz6・にのみ3例発見され、内訳はi-infが2例、(/b力to-infが1 例である。Kerkhof(1982,p、93)はこの型に見られるi-infを受動の意味を持つ不定詞として記述
している。因にChaucerCTbの韻文部分には、ウーinfのみ11例が見られ、(/mto-infは使用されな い(松瀬(1987,p、40))。
(7)a・PetdeMooftecouaytiseineuelemaneres
b・Dowetouノo71ABegodesnebsseftinessrifteandinezalmes:
(Aye"6.40/31)
(Aye"6.265/20-22)
受動態不定詞をとるものはわずかに2例、Aye7z6.とChaucerBo・に見られた。
(8)a、Vorhede'echPingpmysyasehisisberi3teworし b、ye…doo7zyourname/b7to6e6omforth
(Aye'26.152/17-18)
(ChaucerBo・IIp、7/44-46)
(8a)のpraysyはこの場合、受動のウーinfとして機能しており、形態的には能動態と同じである。
(8b)に関しては、to-infではなく/b7to-infが生起している点が注目される。
2.3.cause、[<○F:causer,to-infonly]
MED(s、v・cause几)が掲載する初出例はOhaucerCTIの韻文部分からであり、允冗o-infを従え る点が興味深い。
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松瀬憲司
(9)Thisprisoncausedmenat/brtoc〃e、 (ChaucerCT・verse[K72.1095])
この他にCT、の韻文にはcausenの用例が2例あるが、それらはto-infである。Visser(1973,§2256)
によれば、下例(10a)のように、causenはi-infとも共起可能であったようだが、今回、i-infと の共起例は見られなかった。
(10)a・thayshuldcausehymcZy(Hmouノilzgq/HbZJ(Everymaned.)p、144[cl300])
bWhothatcausedworthyfolktouoydevyceandshame. (UskIL・LII/111)
なお、対格目的語を明示しなかったり、受動態不定詞と共起する用法は、このcause、には発見さ れなかった。
2.4.使役定動詞が受動態になる型はmakenにのみ見られ、P-infが2例、to-infが5例、そして /brto-infが2例であった。PEではこの場合、to-infが規則となっているが、14世紀後半においても 前置詞不定詞との共起の方が優勢である。グーinfが生起している理由は、当時の動揺の一部をなす
とも考えられるが、それだけの理由からかどうかは今のところ何とも言えない。
●●●
a1Dc
、U日〃〃勺’0一つ■■(。〃口ⅡⅢ、
(MPPsaZter,30.14)
(UskTL・'11.1V/167-168)
(Aye"6.85/23-24)
lchammade72pmceupallemynenemis,
[althinges6elz]malDedtoduノe此inpresentsight Petallessepしes6ye′ymadhimuortoserzJi
3.14世紀後半の散文における不定詞付対格構文を伴う使役動詞の主流はmakenである。また、そ れと共起する不定詞の形態に関しては、PEの用法とは異なり、#-mfが40%に対し、(/bかto‐
infは60%と、前置詞不定詞との共起率が高く、この状態は15世紀においても変わらない。従って、
PEでのmakeと原形不定詞との共起制限は、ME後期にはまだ確立していなかったと言える。
OE期から使役動詞として存在し、ME期にその主流となるdoonは、14世紀後半の散文では既にそ の座をmakenに譲っている。標本数はmake、のそれの4割に過ぎない。更に、伴う不定詞の形態は oE期には原形不定詞が規則であったが、前置詞不定詞との共起も見られる。このdoonに関しては、
方言で分類すると、東中部方言では前置詞不定詞との共起率が高く、逆に南東部方言では原形不定 詞との共起率が高いという興味深い結果を得た。
ME期に○Fから借入されたcausenは非常に少なく、今回の調査ではUskTL、に6例、Bh.Lo7zd.E,
にわずか1例しか発見できなかった。この7例は全て前置詞不定詞を伴う。杉山(1988)では、15 世紀後半からcauseの用例がかなり見られるようになることから、14世紀後半にはこのcause、の不定 詞付対格構文を伴う用法がまだ確立していなかったことを示している。
不定詞付対格構文でありながら、明示的対格目的語を伴わない構文がmakenとdoonに若干数発見 され、特にdoonの場合は、doonmakenのようにイディオム化され、頻用されるものもある。受動 態不定詞も原形と前置詞付の2種類がやはりmake、とdoonに見られるが、前置詞付の方がわずかな がら標本数が多い。しかし、全体数としては16例と非常に少なく、不定詞付対格使役構文では稀れ な不定詞形態と言える。また、使役定動詞が受動態になる例については、make、にのみ9例見られ、
更に少なくなる。この場合の不定詞形態も前置詞不定詞が7例と優位を見せており、これはPEでの
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14世紀後半の散文の使役構文における不定詞標識について
規則に近い様相を呈している。
ME期に隆盛を極めたんrto不定詞は既に用例数が9例と非常に少ない。機能領域的にも、Chaucer とWyclifを調査したQuirkandSvartvik(1970,p398),Warner(1975,p208)らは不定詞付対格構 文で使用されるん7to不定詞は少ないことを指摘している。この構文に限らず/brto不定詞の用例 数が少ない理由の一つとしては、散文では韻文のように韻律上の制約が少ないために、1音節付加 の必要性力§低下することが挙げられよう。
②
同じ使役動詞でもletenはOE期より今日まで原形不定詞との共起が規則であるのに対し、14世紀 後半から15世紀にかけて、使役動詞makenは前置詞不定詞との共起率が高い。そして、PEでは原形 不定詞との共起が規則になる。では、この傾向がこのあとのどの時代においてPEの規則に転換して いくのか、また、なぜそうなるのか。これ{よ非常に興味ある問題と言えるだろう。
1J
【註】
lManabe(1989,p、157)は、節と共起するCause-Allowタイプの動詞はMEにおいては実に僅か7.3%にす ぎないと報告している。
2擬古的な用法や韻文に使用された場合の韻律的制約がある時は、PEでも(1)以外の不定詞形態の生起もあ り得る。
3この動揺には不定詞自体の発達も関与していると思われる。OE期にはi-infが不定詞の主流であったが、to -infの機能拡大によりME期以降#-infはその機能範囲を著しく狭められていく。Fries(1940,pl30)が引 用するM,CallawayのT/ZeIn/mjtjuemA7zgJoSaェo几(Washington,DC.:Carnegielnstitution,1913)
によれば、i-infが74.7%に対し、to-infが25.3%と、OE期の状況を知ることができる。しかし、PEでは、
その比率に逆転が起きていることをFriesは指摘している。
但し、P-infの使用の範囲が狭められたとは言え、例えば、letに関しては、OE期からPEまで一貫してi- infとの共起が規則のようであり、このようにto-infの進出の場となり得なかった動詞も存在することは確 かである。よって、この不定詞選択の問題は、不定詞そのものの発達と動詞の選択制限の二つ要因が絡ん
でいると思われる。
4Letenに関しては上註3で述べたように、今回の調査でも概ねi-infと共起すると言える。加えて、このleten は様々な意味を持っており、lettenと形態的に区別し難い場合もある。従って、今回は表から除外している。
しかし、Obr)to-infとの共起も若干発見された。確実に使役のletenであるかどうかは疑問の余地があるが、
少なくともそう考えられる可能性を持つ例をKaartinenandMustanoja(1958,pl85)の例とともに幾つ か挙げておく。
(i)a・nawerkePatZettjsthaymtogyノツbPairehertetoGodd,
bwhoJetet/Zthewil/brtoelz/Za6w〃there,
c・PouneZetePinoフenewytzLorto6oリブetoPewyser dしisJohnofElyZateハhisofficeto/b7metowymmen
(RolleP7ose,11/18-19)
(ChaucerBo,Lp5/34-35)
(Aye7z6,253/4-5)
(B虎.LOM.E・PZeam、129/243)
上例からわかるように、ここで(/br)to-infが生起している理由は対格目的語が特別長いものであるから ではない。(ia)と同じ語数の介在要素を持つ次の例ではウーinfが生起している。
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(ii)thenewesheepherdesthatZete7zhirsheepwitynglygorennetothewolf
(ChaucerCTIPars、721])
従って、定動詞と不定詞間の介在要素のみで不定詞標識の出没を説明しようとするOhlander(1941-42)
ではこれらは説明できない。
また今回の調査で、純粋な使役動詞ではないが、前掲の使役動詞と同じように不定詞付対格構文をとる-
動詞が頻用されていた。それは、suffren(<AF:suffrir)である。この動詞は、ウーinfともVbr)to-inf とも共起可能であった(P:Vbr)to=18:33)。
OEDでsufferが不定詞付対格構文をとる例の初出はCl290年であり、to-infと共起している。今回その割 合は、ヅーinfが35%に対し、(/br)to-infは65%と、前置詞不定詞との共起率が高くなっている。しかし、
その中で(/bがo-infとの共起例は皆無であった。この結果はVisser(1973,§2075,s.v、sUノツbr)が言うよう に、MEやModEではsufferとウーinfとの共起が優勢であり、また、/brto-infともしばしば共起するという 説明とは逆のものである。ただし、ChaucerCT・の韻文資料ではり対Vbr)toが8対8と拮抗し、(iiic)
のように/brto-infの例も2例ほど発見された。
(WyclifPMates,56/22)
(ChaucerCT.[MCL2906])
(ChaucerCT、verse[CI1016])
(iii)atosUノツremennussoulisgotohelle
b・GodhathsU"γedyowto/Zauethistribulacioun c,Thatshewoldes功7ehymnothyng/brtopaye
また、このsuffrenは北方方言のRolleProseと南東部方言のAye7z6・には見られなかった。即ち、東中 部方言の作品にのみ現れるのだが、ChaucerAst爪にだけは発見されなかった。
不定詞付対格構文でありながら、対格目的語を明示しない構文はなかったが、受動態不定詞を伴う型は、
ChaucerBo・に1例、UskTL・に5例、そしてWyclifPreJqtesに1例見られた。そのP-inf対Vbr)
to-infの割合は2:5である。
(UskTL.Ⅱ.、/92-93)
(WyclifPMates,104/8-9)
(ChaucerBo.Ⅵp、6/267-268)
(iv)a・IshuldesU/倣thilkejewelinanypointe6elz6Zemiss/M b.&s功7e〃cristenesoulis6estra7zgMwiPwoluysofhelle c・otherfolkhes吻池htoMztraMJedwithhardethynges 受動態定動詞のsuffrenが現れる例は、Cloudに1例のみ、to-infを伴っている。
(CZozLd,36/17-18)
(v)&Peires6esユノツMZsolongetoa6jdevnreproued,
PEでは、不定詞付対格構文をとって、「~が~するのを認める」という意味を表すsufferは文語とされ、
その際の不定詞は必ずto-infである。
今回不定詞が2個以上接続詞によって連結される例は34例発見され、下表のようにまとめられる。
5
ノbr-to-inf
ヅーinf to-inf /br-to-inf 計
i-inf 14 4 0 18
to-inf 7 6 1 14
/b7to-inf 1 0 1 2
計 22 10 2 34
14世紀後半の散文の使役構文における不定詞標識について
今回最も類用された型は、P-inf+Conj+i-infで、次いで、to-inf+Conj+i-infとなっている。また、
別の見方をすれば、第1・第2要素とも同形態不定詞(即ち、#同士、to同士等)をとる型(21例)が異形 態不定詞並置(13例)よりも好まれるようだ。更に、興味深い点は、リーinf+Conj+to-infの型が4例も発
見されたことである。
(vi)a、to、α虎emend7edenotsynne,butsikirlytouノaJuノePer-inneashogges;
(WyclifPrelates,83/10-11)
b・beしingesしetbyeしpresenthede′hisondersto几deaMtoy-zy. (Aye7z6、152/22-23)
チョーサーの散文における不定詞の全機能でこの二不定詞並置を調査した、松瀬(1989,p24f.)では、
やはり同形態不定詞並置が主流であることを指摘した。Kenyon(1909,pp」49ff.)では、(/bl)to-inf+
Conj+グーinfの優勢を指摘しているが、これは、韻文・散文の混合資料のために、純粋に統語的に処理で きないところがある。また、上例(vi)に見られる型は僅か1例のみであった。このような型の並置が起こ るのは、Ohlander(1941-42)が言うように、支配定動詞と第2不定詞との間に、長い介在要素があるため に、不定詞標識が付与されるというのが一般的説明である。なるほど、(via)に関しては、その説明も納得 されるが、(vib)では最低限の要素が配列しているだけで、これを「長い」とは呼べないであろう。従って、
この問題は単なる長い介在要素の有無だけでは説明できないものがある。
Garについては、今回の調査では1例のみRolleProseに発見されたが、i-infを従えており、15世紀の資 料と同じ様相を呈する。
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(vii)andしouwaldemakeafyreしare-with,andgerit67yn (RolleP7ose32/25-26)
このOBの例では2例とも、PEと同じくグーinfが現れている点は注目に値する。
但し、doon(1例)、cause、(O例)に比べれば、高い共起率と言える。
Gorlach(1991,p、129)は、”AnothernewuseofinfinitivewastheimitationoftheLatin accusativeandinfinitiveconstruction,whichbecomecommonwithmoretypesofverbsin EarlyModernEnglishandfrequentlyoccurredinthepassive:,,(下線部は筆者)と述べている。
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このように、前置詞付迂言受動態不定詞は初期ModEで更に発達するようである。
Mustanoja(1950,p601)には,,InMEthecausativedoseemstobefavoredintheeasternpartsof thecountry,whilema々eandJetseemtoprevailmthewest.”とある。
T/ZeAzLgcjjjary,DC,,(Stockholm:Almqvist&Wiksell,1953).
CfBurnly(1983),p:l22f.
上註3で述べた視点で考えると、次のような仮説がたてられるかもしれない。使役動詞の主流がdoonから makenへ移行したのは、doonの機能拡大によるところが大であることは2.2.節で示した。それと相まって、
伴う不定詞形態も、doonはi-infとの共起が規則であったことからすれば、当然makenもi-infが規則に なるはずであった。しかし、実際は、ちょうど(/Mto-infの機能拡大の時期と重なったため、むしろ、(/M to-infとの共起が普通に感じられたのではないか。(Letenにはこのような「交替劇」は用意されていなかっ た。)Causenなどの0Fから借入された新しい動詞にVbr)to-infと共起するものが多いのはこのような事 情によるものと推測される。そしてこのmakenが再びi-infとの共起という「先祖返り」を果たすのは、
もっとも使役行為が強い使役動詞としての意味機能が対格と不定詞のあいだに、より緊密なつながりを要求 しているとは言えないだろうか。同じような構造を対格と不定詞に要求する「知覚動詞」のように。
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松瀬憲司
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11 14世紀後半の散文の使役構文における不定詞標識について
OntheMarkersofthelnfinitiveGovernedbyCausativeVerbs inProseoftheSecondHalfofthel4thCentury
KenjiMATSUSE
Abstract
Inthesecondhalfofthel4thcentnry,themostfrequentlyusedcausativeverbwhichtakesthe 'Accusativewithlnfinitive’constructionismahe"・Differentfromtheuseofmahetoday,it co-occurswithtwokindsofinfinitive:BareandPrepositionaLOfthesetwothelatteroccupies 60percentoftheexampleswehave・Thistendencyisstillseeninthel5thcentury・
Doolz,whichisanothercausativeverboftenusedintheMiddleEnglishperiod,had alreadybecomelesspopulartha、、α虎elzinthesecondhalfofthel4thcentury・InEastMidland dialectitislikelytoco-occurwithPrepositionalInfinitive,butinSouth-EastwithBareone・
Cbuse7z,whichwasborrowedfromOldFrench,isveryrare;onlysevenexampleswere foundwithPrepositionallnfinitive・Itcanbesaid,therefore,thatcause7zwiththe,Accusative withlnfinitive,constructionhadnotbeenfirmlyestablishedyetinthesecondhalfofthel4th century.
○fthetwokindsofPrepositionallnfinitive,/brto-infinitiveisrare;onlynine examplesweremetwith・AndBarelnfinitiveisnotsooftenusedasintheOldEnglishperiod・In otherwords,to-infinitivealmostexclusivelydominatesalltheinfinitivalfunctionsinthis period.