Bo x‑ Co x
変数変換 を含む多変量ARMA
モデル と その応用 について寺 坂 崇 宏
1.は じ め に
経済変数間の関係を,デー タを用いて実証的に検証する際 に,分析の対象 と なる変数に対 して,何 らかの変換 を施 して分析 を進めるとい う方法は,基本的 な方法 として知 られている。例 えば,変数に対 して平方根の変換 を適用 した り, あるいは対数変換 を施 した りしてか ら,分析 を進めるという方法は,頻繁・に用 い られる方法である。
このような,変数に変換 を施 して分析 を進める理由であるが,
1
つは統計学 的観点か ら,例 えば,Bo xa l l dCo x( 1 9 6 4 )
が指摘 しているように,変数の分 布 を正規分布 に近づ けること,あるいは,計量経済モデルや時系列モデル等の 誤差項部分の分布 を,で きるだけ正規分布 に近づ けることにある。 さらに,慕 差項が,独立で同一の分布 に従 うとい う仮定を満足 させ ることを目的に,施 さ れることも考 えられる。 これは,変換 が機能 した場合,正規分布 に基づ く簸計 的推測の理論,あるいは, よ り一般的な統計的推測の議論の適用の可能性が高 ま り,分析が よ り厳密かつ簡潔に進めることがで きるようになる。もう 1つは,経済学的観点か ら,経済学の分析 で用い られる対数の差分 によ る変化率 (成長率,増加率)の表現や,経済モデルに基づ く変数間の非線形の 関係 を表現す るために,変換 を施す ことがある。例 えば,経済モデルでよく用 い られ る コブ ‑ダグ ラス型生 産 関数や, それ を含んだ, よ り一般 の形状 の
CES
型生産関数は,明 らかに変数に対 して非線形であるが,Za l e mb k a( 1 9 7 0 )
の ように変数を変換 して推定 した り,
Ra ms e ya ndZa r e mb ka( 1 9 7 1 )
のよう〔 1 2
1〕に,変数変換 の代表的な ものである
Bo x ‑ Co x
変換 を用いて特定化することが で きる。本稿 では,
Te r a s a kaa ndHo s o ya( 2 0 0 8 )
,Ho s o yaa ndTe r a s a ka( 2 0 0 9 )
で検討 されている,修正
Bo x ‑ Co x
変換 と多変量ARMA
モデルを組み合 わせ た時系列モデルを利用 して, 日本の株価 (東証株価指数) と金利 (コール レー ト) との関係 を,2 0 0 6
年8
月か ら2 0 0 9
年8
月の月次デー タについて推定 し,検 討 をすることを目的とする。
特 に,変換 を施 して分析することによる,残差の 正規性 について検討 をすることを 目的 とする。一方,変換のパ ラメータの推計 値が,統計学的に有意であるかについての検定は, Ho s o y aa ndTe r a s a ka( 2 0 0 9 )
で,その方法 と意味について議論 しているが,計算費用の関係か ら本稿では, 検討 を加 えないことにする。修正
Bo x ‑ Co x
変換 は,検定の議論で関係 して くる。
よって実質的にはオ リジナルの
Bo x‑ Co x
変換 を用いた分析 となる。分析 に使 用 したモデルは,変換 したプロセスが定常プロセスに従 うとい う時系列モデル を想定 している。 よって変数 として レベルではな く,それぞれの系列について 前月比 を取った ものを推定 に使用 している。論文の構成 であ るが,
2
節でBo x‑ Co x
変換 お よびHo s oyaa ndTe r a s a ka ( 2 0 0 9 )
で提案 した修正 されたBo x‑ Co x
変換 を伴 う多変量ARMA
モデルに ついて簡単に紹介する。 3
節でこのモデルを用いた株価 と金利の分析の方法に ついて説明す る。4
節で分析結果について検討す る。最後に結論 を述べる。21Bo x ‑ Co x
変換およびBo x ‑ Co x
変換 を伴 うARMA
モデルについて変数変換の代表的な もの として,
Bo xa ndCo x
(1 9 6 4 )
が提案 したBo x ‑ Co 又
変換がある
O
この変換 は,変数yを変換のパ ラメータ)を用いて変数y
[ l ] ‑
̲ t ・ . ) I ‑ 1
) ( )≠0 )
l o g y (
i‑0 )
(1)
Bo x‑ Co x
変数変換を含む多変量ARMAモデルとその応用について 1 23
と定義 される。BoxとCoxは, この変換 の 目的について,推計 に使用するモ
デルの構造の単純化,つ ま り,モデルの関数形の線形化,誤差分散の均一化, 分布の正規化 を達成す ることであると述べている。Box‑Co x
変換 は,変換後 の変数の取 りうる範囲にbo und
が存在するとい う特性がある。つ ま り, もし メ,0
の ときは, ㌦ ]
の剛 うる範囲はッ[}],弓 ‑,‑O
のときは,ツ [ ^
コ<‑Ⅰ であるoこの場合,例 えば変数その もの分布に正規分布を仮定する場合や, あるいは,統計モデルにおける撹乱項 に正規分布 を仮定する場合,正規分布の 取 りうる範囲は ‑∞ か ら十∞ なので,この点 において厳密 には問題が生 じる
ことになる。
Bo xa ndCox ( 19 6 4)
は, この変換 を次のモデルy[ )] ‑
xj3 +E ( 2 )
対 して適用 して議論 している。
ここで3'[
巧まnx
lの従属変数ベ ク トル,X
は
n x k
の説明変数ベ ク トル,βはk Xl
のパ ラメータベ ク い レ,そ して Eはn x
lの同一分散で互いに独立な正風分布 に従 う撹乱項であるとするo
このモ デルは,従属変数をパ ラメータで変換することで,撹乱項部分の同一分散の正 規分布に従 うということを仮定 している。このモデルを推定する
1
つの方法 として,Boxa ndCox ( 1 9 6 4)
では,最尤 法 を議論 している。つ まり,( 2)
式の尤度関数i (
0,A)‑
(yl l ] ‑xo )
′b,[^Lxo) J
J(); y)P ( 3)
をパ ラメー タ0,吊 こついて最大化する
。
ここで,I(A;y)は変換のヤ コピア ンに対応する部分で,) i
I ( i ; 3 1 ) ≡ J . I = I 1 ( 4 )
である。ただ し,尤度関数の最大化 において,パ ラメー タ0,ノ‖こついて同時
に推 定す ることについては述べ られていない。その後,例 えば Da vi ds ona nd Ma cKi l l nO n ( 1 9 82) が議論 している ように ,( 3) 式 の最適化 では, 同時推 定す る ことが望 ま しい ことが明 らか になっている 。
Te r a s a ka ( 2005 ) では, Box ‑ Cox 変換 を多変量 ARMA モデルに適用 させた モデルを提案 してい る 。 さ らに, Te r a sa kaandHo so ya ( 2 0 08)及び Ho s o ya andTer a saka ( 2009) では Box ‑ Cox 変換 の bound を取 り払 った 1 つ の修正 Box‑ Co x 変換 を提案 し, この変換 を伴 う多変量 ARMA モデルを提示 して,そ の漸近的な特性お よび数値推定法,有 限標本にお ける数倍評価お よびその応用 例 を示 してい る。 この変換 を伴 う多変量 ARMA モデルは次のように書 ける。
( 7
b∑A
(j)yu]
(t弓 ) ‑j
l+ Tt十∑B( k )
E(卜k ) ( 5)
j ‑ O
A‑ O
ここで,原系 列 に対 して修正 Bo x‑ Cox 変換 を施 した系 列 b ' l j
](i), i∈Z) は トレン ド定常過程 に従 うプロセスで ,A ( 0) ‑B ( 0) ‑ Zm で
yl l ]( i )‑( yl [ ll ]
(i), ‥ . , 3 ' m[ ^ "
L](i)), , E( i ) ‑( E l(
t上. . . , Em(
i))′,AO' )
,B(k)は
m x m定 数行札 定 数項
/‖
ま1×mベ ク トル, トレン ド項 T は 1×
mベ ク トル とす る。 また, 特性 多項式 de t ( ∑, q = o A O
')
めと de t f ∑k b = ( , B( k ) 27 1 ) の根 は単位 円の外 にあ り, b J l ス ]( i ))は反転可能な Ga us s i a n プロセス とす る。 また,特性 多項式の根 には 共通の解 を有 さない もの とする。
( 5) 式 を特 定化す るには,モデルのパ ラメー タである 人 A O A ), B( k ) . p , I と, モデ ルの次数 ( a
,b)を推 定す る必要が あ る 。 これ らの推 定は, Hos oya andTe ra sa ka ( 2009 ) の方法 によ り行 った。 ご く簡単 に説 明す ると,次 数の 決定方法 については, Ha nna na ndRi s s a ne n
(1 9 82)の方法 を活用 した。次数 ( a
,b)が既知 で , y( 0)
‑・‑‑y( 十 a + 1 )‑0,E( 0)
‑・・・‑ E(‑
b十 1 )‑ 0 の下で
,(5)式 の対 数尤度関数ほ
1 0g ( LT) ‑ ‑ i ‑T
log(2‑i Tl o gd
et∑Bo x‑ Co x
変数変換を含む多変量ARMA
モデルとその応用について1 25
‑‡紳 [}]
( i , 十 善
AO・,yll](i‑jト ‑ k *( k , E ( i
‑k, 〕′ ×
・ 11
〔yll](i,・真Ab・,yl'](i‑jト p‑Ti
一差β ( k , E ( i ‑
k,
〕)T m
+
t ∑ ‑ 1 1 ∑ k ‑ 1 lb , I( i ) ,ll ) ( 6 )
と書 ける. ここで,kl(yl
( i)
,ll)は変数y (i)か らy[ }]
(i)へ の変換 のヤ コビ ア ンの 7番 目の要素である の対数 を指すOこの関数を ),A
O'),B ( A)
,p,T
について,同時 に最適化 を実施 して,最終的か てラメー タの推 定 値 を決定 した。3.
データ分析本稿 では,
Te r a s a ka ( 2 0 05 )
,Te r a s a kaa ndHo s o ya ( 2 0 0 8 )
と同様 に株価( TOPI X)
と金利 (コール レー ト) との関係 を,提案 したモデル( 5 )
式 を用 い て推定 した。分析 には月次 デー タを用いた。株価 のデー タは,東証株価指数の 毎月末のデー タを取 り,その対前月比のデー タを利用 した。 また,金利のデー タは, コール レー ト (無担保翌 日物)の毎月末のデー タを分析 に使用 した。東 証株価指数のデー タは,東京証券取引所発行の,東証統計月報 と東京証券取引 所 のホームページか ら, コール レー トのデー タは, 日本銀行のホームページか らそれぞれ入手 した。対前月比のデー タを利用 したのは,モデル(5)が変換 した プロセスが定常性 を満たす必要があるためであるが, これ らの原系列は,明 ら か に定常性 を満た さないと考えられるためである。
推定 した式であるが,次 の
2
種類の式 を推定 した。1
つは,変数変換 のパ ラ メー タに制約 を設けないで式 を推定 し, もう1
つ は,変数変換のパ ラメー タを0
に制約 して式 を推 定 した。後者の式 の意味 であ るが,Box‑ Cox
変換 では,変換 のパ ラメー タを 0とした ときは,変数は対数 に変換 される。対前期の比率 デー タに対 して対数変換 を施 した ものは,変数の変化率 を意味す る。つ ま り, 後者の式 は,変数の変化率 の動 きを推計 していることになる。す ると,
2
式の 推 定結果 を比較検討す ることで,変化率の動 きを推計 している式 よ りその残差 部分が, よ り正規性 を満たす ように,変数を変換 して式 を推定で きるのか を検 討す ることがで きる。推定期 間であるが,
2 0 0 6
年8
月か ら2 0 0 9
年8
月 に設定 したのは,本稿 の作成 時点で,出来 るだけ最近 の動 きについて分析す るため と,デー タ系列 を見 ると,2 0 0 5 年 1 0
月末 にコール レー トが0%
にな り,比率 デー タを求めると,2 0 05 年 1 1
月のデー タが異常値 になって しまい分析が困難 になることと, この後2 0 0 6
年7
月 まで, コール レー トの対前期比の動 きが非常 に大 きいため,分析結果 に問題 が生 じることが予想 されたためである。
この時期 は, 日本銀行 によ り金利が非 常 に低 く誘導 されていたために,金利 のわずかな変化で も,対前 月比では大 き な動 きになって しまうとい う特殊 な時期 であ り, この時期 を入れた長期 的な分 析 をす る場合 ,例 えばモデルに構造変化 を取 り入れる必要があろ う。
尚,計算 は東北大学情報 シナジーセ ンターの大規模計算 システムの
S X‑ a
で 実施 し,計算 のためのプログラムはFo r t r a n
で作成 した。4.
推 計 結 果推計結果 は以下の ようになった。 は じめに,変数変換 に制約 を設けて推 定 し た結果 を示す。推 定 された次数は
ARMA
(1 , 0 )
で,推定値 は,A
(l
)‑
∑ =
‑ 0 . 3 82 ‑ 0. 0 3 2 7
‑ 1 . 3 21 0. 1 46
〃=
3 . 0 7 × 1 0 3‑ 7 . 8 9 × 1 0 〜 4
‑ 7 . 8 9 × 1 0 h 42 . 7 9 × 1 0 2
‑ 0 .0 1 1 1
0.1 00
0. 0 0 1 6 7
‑ 0.0 0 5 7 8
対数尤度は
8. 5 4
であった。次 に,変数変換 に制約 を設けないで推定 した結果 をBo x‑ Co x
変数変換 を含 む多変量ARMAモデルとその応用について 1 27
示す。推定 された次数は
ARMA ( 1 , 0 )で,推定値は,
・
‑ ‑ l
i :5 7 8 7 )
,A ( I
)‑
lIS霊
去呂: 料
こ
‑ ∴ ‑ :
‑i‑ ̲ 二 : :
・ ‑ 〔 ‑ 3 7. . 0 8
79× × 1 10 0 L 3 ‑ 4 ‑ 2. 7. 8 7
99× × 1 1 0 0 N J 4 2
であった。対数尤度は9.
2 4
であ り,制約 を設けないで推定 したモデルの対数尤 度が,設けて推定 したモデルの対数尤度 よ り高いので,適切 な結果である。2
つの式 を推定 した際,次数の選択 は,Hannana ndRi s s a nen
(1 98 2)
に基 づ き,BI
Cを用いて実施 したが,その選択の状況は,次のようになった。表1
は,変換 に制約 を設けて推 定 した場合,未 2
は,変換 に制約 を設けないで推定した場合 の結果であ る。 どち らの場合 について も,ARMAの次数が (1,1) で選択 されていることがわかる。
表
1
次数 の選択 表2
次数の選釈(制約 を設けて推定 した場合) (制約 を設けず推定 した場合)
AR
次数MA
次数B I C AR
次数旭
次数BI C
1
0
0 1
1 1
0 2
2 0
‑7. 2 2 1
‑7. 1 6 2
‑7. 0 6 1
‑7. 0 5 3
‑7. 0 5 2
0 ‑7. 6 5 0 ‑7. 31 1 ‑7. 01 0 ‑6. 7 7 1 ‑6. 7 2
Door ni kandHans en ( 1 99 4)
による残差の正規性 の検定の統計量 を計算 し た ところ,変換のパ ラメー タに 0の制約 をおいたモデルが1 1. 6
で, これは残差 が正規分布であるという帰無仮説 を有意水準5%
で棄却 した。他方,制約 をおかないで推定 したモデルが1.73で, これは正規分布であるとい う帰無仮説 を有 意水準
5%
で棄却 しなかった。 よって,このケースでは,変数変換が正規性 に 改善 をもた らしていると考 えられ, これ らの系列では,統計学的な意味におい て,変化率のモデルよ り優 れた変換 のモデルが存 在することが示唆される。た だ し, 変換 のパ ラメー タの値 が 統 計 学 的 に有 意 で あ るか ど うか につ い て は,Ho s o yaa ndTe r a s a ka( 2 0 0 9 )
で議論 している,モ ンテカルロ法 によるワ ル ド検 定を利用 して検 定す る必要がある。 図1
はTOPI X
の対前月比の推移 とi 貢 . ‑ I
,E朋 ,̲.H m.J .図,.曲.. 価 . 臥̲, 同
u H u
耶 u 一日 叫O u
匿喜 璽 喜
≡詔residual2007 年 5 月 2007 年 11 月 2008 年 5 月 2008 年 11 月 2009 年 5 月
図 1 コールレー トの推移と残差
residual
2007 年 5 月 2007 年 11 月 2 008 年 5 月 2 008 年 11 月 2009 年 5 月
図
2 TOPI X
の推移と残差Bo xI Co x
変数変換を含む多変量ARMA
モデルとその応用について1 29
推 定 されたモデルの残差を,図2
はコール レー トの対前月比の推移 と,推定 されたモデルの残差 をそれぞれ示 している。
いずれの残差の系列において も,変換がある程度機能 していることが推察 さ れ る
。
ここで, いず れの 図 にお いて も2 0 0 7
年5
月か ら書 かれてい るのは,Ha nna n
法に基づ く推 定を実施する際,2 0 0 6
年8
月か ら2 0 0 7
年4
月 までの期 間を使用する必要があるためである
。
5.
結請
本稿 では,変換 を伴 う
ARMA
モデルを用いてTOPI X
とコール レー トの推 計 を実施 した。推計の結果,変換が機能 していることを示唆する結果が得 られ たが,変換 のパ ラメー タの推定値が統計学的に有意であるかの検討 までは実施 していないので;
この点については今後の課題である。 また,データの推定期 間については期間が短いので, この点 について も何 らかの改善が必要である。参 考 文 献