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一    共同研究開発契約についての一試論

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(1)

一    共同研究開発契約についての一試論

︑   清水 真希子

一、

ヘじめに      ︐      ︑  ・

 私は渋谷教授の後任として都立大学に職を得︑未熟ながら︑渋谷教授が長年にわたり担当してこられた商法三部

︵商取引法︶の講義を引継がせて頂いた︒渋谷教授の退官記念号に投稿するにあたり︑この商取引法と︑渋谷教授が

研究の中心にしてこられた知的財産︵残念ながら知的財産﹁法﹂について論文を執筆する能力はないが︶とにかかわ゜

る問題として︑共同研究開発契約をとりあげることとしたい︒

二︑本稿の目的      ・      ︑

1.共同研究開発契約を位置づける前提として︑まず研究開発とはどのようなものか︑それから共伺研究開発とは

何かを見ておこう︒      −         ︑        ︐

 研究開発の定義および分類にはいろいろありうるが︑さしあたりOECDによるものを紹介する︒OECDの定義

   共同研究開発契約についての一試論         ︵都法四+甲三二四七

(2)

       二四八

によれば︑研究開発は︑その性質によって︑基礎研究・応用研究・開発研究に分類される︒﹁基礎研究﹂とは︑ある

現象や観察可能な事実の基礎に関する新しい知識の獲得を主眼として行われる︑実験的または理論的作業であって︑

特定の応用や用途を考慮することなく行われるものである︒﹁応用研究﹂も同様に新しい知識を獲得するために行わ

れる創造的な研究であるが︑主として特定の実際的な目標にむけて行われる︒﹁開発研究﹂は︑研究や実際的経験か

ら得た知識を利用して行われる体系的な作業であって︑新しい素材・製品・装置の製造︑新しい工程・システム・サー        ︵1︶ ビスの導入︑または既に製造・導入されたこれらのものの実質的な改良に向けて行われるものである︒

 そして共同研究開発とは︑以上のような研究開発を複数当事者が共同で行う場合をいう︒共同化の態様としては︑

①参加者が研究開発を分担して行うもの︑②一方の参加者が研究開発を行い︑他方の参加者が資金を提供するもの︑

③研究開発を行う組織︵会社・組合︶を参加者が共同で設立して研究開発を行うもの︑④研究開発を事業者団体で行      ︵2︶ うもの︑がある︒

2. このような共同研究開発はどのような実態をもつのだろうか︒

 公正取引委員会は︑企業間の業務提携が競争促進効果・競争制限効果を持ちうることから︑企業間の業務提携の現       ヨ  状を把握するたあの調査を行っており︑業務提携の一類型として共同研究開発を取り上げている︒

 本調査では︑他の企業等と協力して一定の業務を遂行するもの︵一方的な生産委託契約︑売買契約︑特約店・代理

店契約︑技術ライセンス契約は除く︶であって︑法人企業等︵外国会社︑研究機関を含む︶の間において契約書を作

成しているものを﹁業務提携﹂とし︑﹁生産提携﹂︑﹁販売提携﹂︑﹁購入提携﹂︑﹁物流提携﹂︑﹁研究開発提携﹂︑﹁技術        ︵4︶ 提携﹂︑﹁標準化提携﹂︑﹁包括提携﹂という八つの類型に分類している︒

(3)

 本調査によると︑八割の企業が業務提携を実施しており︑研究開発提携は︑製造業において一社平均の業務提携件

数のうち過半数を占めている︒業務提携件数は︑業務提携全体でみても︑研究開発提携についてみても︑増加傾向に

ある︒  研究開発提携は︑自社に不足する知識・技術の補完や︑新規事業に要する時間の短縮等を目的として行われる︒

︵なお中島・前掲書・七頁は︑共同研究開発の目的として︑このほか︑研究開発に関するリスクやコストの分散を挙

げる︒︶       ・        −

 一契約あたりの相手先は一社であることが多いが︑二社以上が参加する場合もある︒

 研究開発提携の実施形態として︑八二・三パーセントが契約のみとなっており︑九・ニパーセントが共同出資会社

設立︑六・五パーセントが相手先の株式所有となっている︒

 研究開発提携の契約期間は︑二年以内ないし二年超五年以内とするものが多い︒契約期間満了時の取扱として︑研

究開発提携は︑更新または見直しの上継続される場合が多いものの︑他の類型の業務提携と比較すると期間満了によ

り解消される傾向も強い︒その理由として︑一定期間あれば提携の目的とした知識・技術が得られるかどうか見極あ

がつく︑研究開発提携は研究期間短縮のために行うものであり︑成果が出れば短期間でも終了する︑というものが挙

げられている︒

3.以上からわかるとおり︑共同研究開発は︑自社に不足する知識・技術の補完︑新規事業に要する時間の短縮︑

研究開発に関するリスク・コストの分散等を目的として︑複数の当事者︵多くは二当事者︶が技術・資金といった資        源を出し合って研究開発を行うものであり︑実際に多くの企業で実施されている︒実施の態様には︑共同研究開発契

   土ハ同研究開発契約についての一試論         ・       ︵都法四十四ー二︶︑二四九

(4)

      二五〇       ︵6︶ 約を締結する場合と︑会社等の組織を設立して実施する場合があり︑前者が多く利用されている︒共同研究開発は必

然的に継続的な性質をもつが︑契約期間満了時に提携が解消される傾向が比較的強い︒

4・共同研究開発を︑契約を締結して行うか一定の組織を設立して行うかは︑参加当事者の選択の問題である︒共

同研究開発はどちらの法的な形態によってもなしうるが︑どちらを選択するかによって︑共同研究開発に伴って生じ

る法的問題処理のあり方が変わってくる︒すなわち︑契約法上の問題として処理されるか︑一義的には組織法上の問

題として処理されるかである︒

 ここでは商取引法の関心から︑共同研究開発が契約によってなされる場合について焦点をあてる︒共同研究開発契

約について書かれた文献は少なく︑本稿でも多くのことを述べることはできないが︑手始めの作業として︑過去の裁

判例を整理して争点を洗出し︵三︶︑共同研究開発契約の構造を検討することによって︑こうした争点のうち少なく

とも一部について︑合理的な契約解釈が可能となる道筋をつけたいと思う︵四︶︒

三︑過去の裁判例の整理

 以下では︑共同研究開発契約に関し生じうる紛争を︑争点ごとに整理する︒ここでは厳密には共同研究開発契約に        く7︶ 関するとは言えない事案でも︑争点を整理するのに役立つと思われるものを広くとりあげることにした︒

1.契約の成立

 中島.前掲書は︑医薬・農薬等の共同研究開発契約について述べたものであるが︑同書一七頁以下によれば︑共同

(5)

研究開発契約が締結されるまでには︑秘密保持契約を締結して技術情報を相手方に開示し︑フィージビリティ・スタ

ディ契約を締結して︑当該技術の可能性を確かめるテストを行う︑といった過程が踏まれる︒︑

 裁判となった事案の中には︑契約締結の前段階から契約締結に至るまでの過程に明確な区切りがなく︑そもそも契         約が成立したのかどうかが争われたものがある︒      

           ︹1︺ 東京地裁平成一〇年一二月二一日判決 判例時報一六八一号=二頁

    事実

     Xは鉄道車両の車体改造等を目的とする会社︑Yは業務用アミューズメント機器の製造・販売を目的とする会社で

    ある︒      .

     Xは道交法改正により自動車運転免許取得のための教習の一環として運転シュミレータの実用化が図られることを

︑ ︑ 知り︑コンピューター・グラフィックス︵CG︶の技術さえあれば︑これまでの鉄道車両に関する訓練機器のノウハ

    ウを生かして高品質の製品を作れるものと考え︑他社製品より高水準のCG技術を有するYと技術提携することにし

    た︒

     XYは秘密保持契約を締結して検討を進め︑①Yがソフトウェアおよび映像用ハードウェアをそのリスク負担で開

    発し︑ロイヤリティベースでXに供給し︑関東地区以外の地域の販売を担当する︑②Xが筐体およびメカニズム部分

    をそのリスク負担で開発し︑Yからソフトウェア︑ハードウェアの供給を受けて製品とし︑X名義で製品の認可を受

    け︑関東地区の販売を担当する旨合意した︒そして︑.XYは︑警察庁の仕様に基づいた双方の開発範囲︑情報交換.   ︑

    随時協議義務︑製品の発売期限︑費用負担等について定めた協定︵以下﹁本協定﹂という︶を交わした︒本協定には︑

       共同研究開発契約についての一試論       ︵都法四十四い二︶ 二五一

(6)

二五二

﹁本協定書は︑本契約締結までの双方の申し合わせ事項とする︒﹂旨記載されていた︒

 その後Xは自分の担当分野の開発を完成させたが︑Yの作業は遅れ気味となり︑最終的に警察庁の仕様を満足する

ハードウェアおよびソフトウェアを完成することができなかった︒Xは本協定を解除し︑債務不履行に基づく損害賠

償︵予備的には︑契約締結上の過失による損害賠償︶︐を請求した︒

判旨  ﹁本件において︑本協定書に基づく﹃本契約﹄が締結されるに至らなかったことは︑当事者に争いがない︒その意

味では︑運転シュミレータの共同開発契約は結局のところ当事者間に成立しなかったと言える︒﹂

 ﹁しかしながら・⁝XY間には遅くとも平成六年三月三一日以降本協定がXにより解除されるまでの平成七年九月

五日までの間︑前叙のような交渉が行われ︑右共同開発契約の締結をめざして︑同年五月一日には秘密保持契約が︑

同年八月一二日には本協定がそれぞれ締結され︑本協定書に基づき︑同年九月には︑同年一二月の販売を前提とした

営業活動が︑同年=月一五日には販売価額の交渉が行われ︑Xは︑平成七年一月には︑ほぼ本協定書によりXの担

当とされた分野の開発を完了したこと︑Yも︑秘密保持契約締結の翌日である五月二日には警察庁の仕様について説

明を受け︑六月二九日には先発商品・⁝を実際に見学した上で︑前記のような開発完了のタイムリミットを設けた本

協定書に調印したこと︑本件共同開発の目的は︑既に先行商品が販売されていることから︑品質性能においてこれを

上回り︑価格はこれよりも安い商品を開発するという店で明確であり︑だからこそ︑Yも︑品質面において優位を保

つために︑平成六年三月三一日の時点で︑Xに対し︑テクスチャーマッピングの採用を申し入れたこと︑しかるに︑

Yは︑開発完了期限である一二月二七日に至り︑ソフトウェアの開発が遅れている旨を書面で詫び︑平成七年四月二

(7)

八日の時点においても警察庁の仕様を満足するハードウェアを開発することができず︑ついには同年六月一二日︑ハー

ドウェアの選定ミスがあったことを認め︑Xに対して開発の中止を申し入れたことが明らかであり︑以上のような本

件の事実経過にかんがみれば︑Yは︑Xに対し︑本契約が成立するであろうという信頼を与えておきながら︑結局こ

れを裏切ったと言わざるを得ない︒そうだとすると︑Yは︑信義則に基づき︑Xが本契約の成立を信用して投下した

開発費用を賠償する責任がある︒﹂

       ︹2︺ 東京高裁平成三年一一月二八日判決 判例時報一四〇九号六二頁

    ︵原審 東京地裁平成元年二月七日判決 判例時報=二一四号七四頁︶

事実 ︑XYともに︑医薬品等の製造パ販売.輸出入を目的とする会社である︒フエンチアザクは訴外Aが発明した医薬品

であり︑Aが日本において特許権を取得していた︒AおよびXはBという企業グループに属していた︒

 Aは訴外Cとフエンチアザクについてライセンス契約を締結し︑CはYとの間で︑Yが日本においてフエンチアザ

ク製剤を製造.販売するためフエンチアザクを使用できるとするサZブイセンス契約を締結した○右サブライセンス

契約においては︑YとBグループの一員であるXが日本においてフエンチアザク製剤を共同開発し︑かつ共同で医薬

品の製造承認申請を行うことが予定されていた︒具体的には︑Yがフエンチアザク製剤の開発事業の大部分を分担す

る代わりに︑日本における右製剤の独占的再実施権.︵Xを除く︶を取得するものとし︑他方︑XはYから製品開発に

関する情報提供を受けることにより︑日本において右製剤に関する医薬品の製造承認を受ける利益を取得するという

のが︑その趣旨であった︒       ︑

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四ー二︶二五三

(8)

      二五四

 その後︑XY間で第一回会合が開かれ︑フエンチアザク製剤の販売経路等について交渉がなされた︒続いて︑XY

およびその他関係者が参加して第二回会合が開かれ︑XYはフエンチアザク製剤の製造承認を得る共同開発の試験計

画およびその実施について協力し︑薬事法上X自身が実施することを要する最低限の試験以外の試験はYが分担し︑

その試験結果および資料をXに提供すること等が取決められた︒

 その後︑XYはそれぞれフエアチアザク製剤の製造承認を取得し︑販売を開始したが︑Yが試験データを捏造して

いたことが発覚し︑Yの製剤の製造承認が取消されるとともに︑Yと同一の試験データを利用して製造承認を取得し

ていたXの製剤についても︑厚生省より回収・製造販売停止・再試験の指示がなされた︒

 XはYに対し債務不履行を理由に損害賠償を請求した︒Yは︑通常作成されるはずの契約書の作成はないし︑Yが

負担する資料提供義務と対価関係に立つXの債務は存在しないとして︑共同研究開発契約の成立を争った︒

判旨  ﹁右会合︵第二回会合⁝筆者注︶においては︑YとXとの間に︑YがB側からフエンチアザクの再実施権を与えら

れたことの対償として︑Yが実施した試験資料を提供することを含あてフエンチアザク製剤の製造承認を申請してこ

れを取得できるようにYがXに協力︑援助すべき義務を負担する旨の法的拘束を有する本件共同開発の合意が成立し

たものと認めるのが相当である︒右共同開発の合意について書面が作成されていないことは右認定を妨げるものでは

ないし︑また︑右合意について︑当事者双方の担当者に契約締結の意思又は権限がなかったと認めるに足りる証拠は

ない︒﹂

(9)

2.債務不履行の認定

 共同研究開発契約においては︑債務不履行の認定が大きな論点となりうる︒これには二つの側面がある︒第一に︑

共同研究開発契約においては︑各当事者がそれぞれどのような対価に対してどのような債務を負担するのか必ずしも

明らかではなく︑通常の双務契約と同じように考えるど︑各当事者の債務をうまく位置づけられないからである︒こ

れは契約の成立についての理解にもかかわる問題である︒第二に︑研究開発されるべき技術の範囲およびその程度を︑

当事者が契約上明確に記述しないか︑︐あるいはできないためである︒したがって︑当事者の間で十分な債務の履行が      

なされたか︑不十分であったかの評価が分かれ︑紛争になる︒

 第二の側面について︑たとえば︵株︶NTTデータの近山英哉は以下のように述べる︒

 ﹁ソフトウェア開発の成果の不具合は︑業界では﹃仕様との不一致﹄であると言われている︒精度の低い︑解釈に

幅のある仕様を外部委託先に提示した場合︑発注者の意識では﹃不具合﹄であっても︑外部委託先の意識としては

﹃不具合﹄ではなく︑仕様通り納入物を完成させたとの反論を招く余地書がゑユ    .

 これはソフトウェア開発の外部発注に関して述べられたものだが︑共同研究開発契約においても同様の問題が生じ

うる︒

共 ッ研鋪発契約に関し霧不履行の認定が主たる争占⁝と三た事案は見当た・りない︒そこで単なる研究開発委託

契約であるが︑この論点が主たる争点となった事案を挙げる・いずれも第二の側面が問題となった事案で艶・

︹3︺ 大阪高裁昭和六三年四月二七日判決 判例タイムズ六八五号二四一頁

特定のコンピューターの使用目的に合致したソフトウェアを作成交付するどいう債務につき︑判旨は﹁本件におい

  共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四ー二︶ 二五五

(10)

      二五六

ては︑Xが﹃工事別原価計算﹄ソフトを明示して注文したと認めがたい・⁝︒また︑⁝Φ会計上原価の概念は多様で︑

いわゆる間接費等については期間原価も一定の意義を有するものであって︑その目的にもよるが︑期間原価を営業上

の二ーズに合致しないと一概に断定することも困難である︒そうすると︑Yにつき右の点の債務不履行を認めること

はできない︒﹂とした︒      ︑

      ︵14︶ ︹4︺東京地裁平成九年二月一八日判決判例タイムズ九六四号一七二頁

 コンピューター・プログラムの開発委託契約に関しvコンピューター・システム稼動上の不具合の存否︑および︑

不具合が存在する場合にそれがプログラムの欠陥といえるかどうかが争われた事案で︑判旨は﹁本件システムの内容︑

プログラムの全体規模︑プログラムが右システムのためのオーダーメイドされたソフトウェアであり︑多数の顧客が

実際に運用することによりテスト済みの既成のソフトウェアを利用したものでないことに照らせば︑本件システムの

プログラムに右のようなバグが生ずることは避けることができないものであるということができ︑その補修は︑プロ

グラム製作者と本件システムの利用者との共同作業によってなされるほかないものといえる︒・⁝コンピューターシ

ステムの構築後検収を終え︑本稼動態勢となった後に︑プログラムにいわゆるバグがあることが発見された場合にお

いても︑プログラム納入者が不具合発生の指摘を受けた後︑遅滞なく補修を終え︑又はユーザーと協議の上相当と認

める代替措置を講じたときは︑右バグの存在をもってプログラムの欠陥︵暇疵︶と評価することはできないものとい

うべきである︒これに対して︑バグといえども︑システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上︑遅滞なく

補修することができないものであり︑又はその数が著しく多く︑しかも順次発現してシステムの稼動に支障が生じる

ような場合には︑プログラムに欠陥︵暇疵︶があるものといわなければならない︒﹂と述べ︑一定の不具合は存する

(11)

が︑これらはプログラムの欠陥にあたらないとして受託者の債務不履行責任を否定した︒

3.追加費用の負担       ︑   ・

 中島.前掲書.四一頁によれば︑共同研究開発にかかる費用の分担方法として︑①費用の清算を行わない方法︵研

究開発活動およびその他の関連業務に要した費用はそれを行った当事者それぞれが負担する︶︑②特定の費用につい

てのみ清算を行う方法︵各当事者が行う研究開発活動およびその他の関連業務の費用についてはそれぞれの当事者が

負担し︑第三者に依頼して行う研究開発活動およびその他の関連業務の費用については当事者間で清算の対象とする︶︑

③すべての費用について清算を行う方法︵共同研究開発に要するすべての費用を当事者間の清算の対象とする︶︑が

ある︒  共同研究開発においては︑研究開発の進展に従って予想以上の費用がかかり︑その追加費用の分配をめぐって紛争

が生じうる︒次の事案では︑共同著作物性︑独占販売権の有無︑ライセンス料支払義務の有無等︑各種の争点が噴出

しているが︑なかでも︑追加費用支払義務に関する判断が重要である︒

︹5︺ 大阪地裁平成一四年八月二九日判決 平成一︐一年︵ワ︶九六五号・=二一九三号・判例集未搭載

事実  訴外A︵Xの前身︶は︑土木事業者が公共事業受注の際に提出する正確な見積・各種計算書を自動作成するソフト

ウェア︵以下﹁本件ソフトウェア﹂という︶を開発して自社パッケージソァトとして販売することを計画し︑▽と本

件ソフトウェアの開発委託について交渉を開始した︒AとYは基本要件設計契約を締結し︑▽はその成果物として基

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四ー二︶ 二五七

(12)

      二五八

本機能設計書を納付した︒その後両者は交渉を継続し︑AがYに対し開発費用二四〇〇万円︑完成したソフトウェア

一本につきライセンス料一〇万円を支払う旨合意し︑納期を定めて開発委託契約︵以下﹁本件開発委託契約﹂という︶

を締結した︒

 本件開発委託契約締結後︑Aの担当者が週に一度はYと打合せをするなどして作業を進め︑一部仕様の変更に伴い

追加変更契約が締結された︒その間にXが設立され︑Aの契約上の地位はXに承継された︒

 本件ソフトウェアの開発は予定通りには進まず︑YはXに対し納期の延期を通知するとともに︑追加の開発費用の

支払いを要求した︒Xはこれを拒絶し︑支払期日にある開発費用の支払いもしなかった︒Xは当初予定していた機能

の一部が未完成のまま︑本件ソフトウェアの販売を始めた︒

 XとYは交渉の過程で︑本件ソフトウェアの著作権を九対一の持分割合でXYの共有とする旨合意した︒その後も︑

YはXに対し︑追加開発費の調整等の交渉を申入れたが︑合意に至らなかった︒XはYに対し︑本件開発委託契約の

成果物である﹁基本要件設計書﹂﹁ソフトウェア仕様書﹂﹁プログラム仕様書﹂の引渡を請求したが︑Yは開発費の支

払いが先であるとして︑これに応じなかった︒

 Yは︑Xがなおも請求に応じなかったため︑Yを通じて本件ソフトウェアの販売を開始した︒そこでXが︑共同著

作権︵または予備的に独占的販売権︶に基づく本件ソフトウェアの複製・販売等の差止めおよび著作権法=四条二

項に基づく損害賠償を求めて本訴を提起し︑Yが開発費用残債務・ライセンス料・追加開発費用等の支払を求めて反

訴を提起した︒       °

判旨  ︵追加費用支払義務に関し︶

(13)

 .

uソフトウエア開発は︹1︺要件定義︑︹2︺外部設計︑︹3︺内部設計︑︹4︺ソースプログラムの作成︵プログ

ラム設計︑コーディング︶︑︹5︺各種試験︵単体試験︑組合せ試験︑システム試験︶の開発工程を経て進められると

ころ︑本件開発委託契約では:・ザ︑契約に先立ち基本要件設計作業︵前掲︹1︺﹂︹5︺のうち︑︹1︺要件定義及

び︹2︺外部設計に当たる︒︶が完了し︑成果物として基本機能設計書が提出されているので︑本件開発委託契約に

基づきYが完了すべき業務の内容は︑基本機能設計書で確定された当初仕様︵処理手順︑操作画面の種類・相互関係︑

機能の表示・配置︑入出力項目︑画面表示︑階層関係等︶を内部設計以降の作業によって実現することであり︑これ

が本件開発委託契約に基づく報酬請求権と対価関係に立つ業務の範囲であると解される︒﹂

− ﹁仕様変更の申出は︑法的には︑委託者による当初の契約に基づく業務範囲を超える新たな業務委託契約の申込み

と解され︑これに対して受託者が追加工事代金額を提示せず︑追加代金額の合意がないまま追加委託に係る業務を完

了した場合には︑委託者と受託者の間で代金額の定めのない新たな請負契約が成立したものとして︑相当の追加開発

費支払義務が生じると解するのが相当である︒﹂    ︑      −

 ﹁もっとも︑ソフトウエア開発においてはへその性質上︑外部設計の段階で画面に文字を表示する書体やボタンの

配置などの詳細までが決定されるものではなく︑詳細については︑仕様確定後でも︑当事者間の打合せによりある程

度修正が加えられるのが通常であることに鑑みると︑このような仕様の詳細化の要求までも仕様変更とすることは相

当でないというべきである︒﹂      ︑        ・

4.成果物の利用

共同研究開発の結果完成した成果物を当事者が利用ずる方法として︑・特許権・著作権等を共有とする︑一方が特許

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四−二︶ 二五九

(14)

      二六〇

権等を取得し他方にライセンスする︑第三者にライセンスする︑製品化して製品販売により収益を得る︑といったも       ︵15︶ のが考えられる︒

 共同研究開発契約において︑成果物をそれぞれの当事者がどのような形で利用できるかは重要な問題である︒裁判

例としては著作権等の帰属が問題となったものがある︒また共同研究開発が途中で頓挫した場合も︑それまでに完成        ︵16︶ した中間成果物の帰属が問題となりうる︒

       ︵17︶ ︹6︺ 東京地裁平成七年一〇月三〇日判決判例時報一五六〇号二四頁

 Yの依頼に基づきXが製品︵微生物に関する測定機器等でプログラムが組込まれたもの︶を開発し︑Yがこれを買

受けて顧客に販売するという取引を行ってきたが︑何らかの経緯でXY間の取引が断絶し︵その経緯は不明である︶︑

Yが他社に当該製品のコピーを製造させたため︑Xがプログラムの著作権確認︑複製・翻案の差止等を請求したとい

う事案である︒Xの著作権確認の請求に対し︑判決は︑YはXに顧客が希望する機能を伝達し︑他社の類似機種に関

する資料を提供し︑専門家同士の意見交換の機会を作る等したが︑プログラムはXの取締役がその創意工夫によって

作成したものであると認定して︑法人著作物として著作権がXに帰属するとした︒

︹7︺ 東京地裁平成一四年一二月一八日判決 平成=二年︵ワ︶二=八二号・判例集未搭載

 ゲーム・ソフトの開発に関し︑Xが開発資金を提供してYがソフトウェアを開発し︑Xが著作権等を譲受けて製品

を販売することで概ね合意したが︑著作権譲渡の対価の支払時期等の条件で折合いがつかずに結局正式契約に至らず︑

Xがそれまでに完成していた基本シナリオ︵当該シミュレーション・ゲームの作品の特徴︑ストーリー展開︑主要登

(15)

場人物の性格や身体的特徴その他の人物設定が文章により既述されたもの︶の著作権の帰属を争ったという事案であ    ︑

る︒判決は︑費用の支出元や実際に本件基本シナリオを作成した者とXYとの関係から︑Yの著作物であるとしてX

の請求を棄却した︒

5.製品化後の製品販売

 共同研究開発の結果生まれた製品の販売は︑共同研究開発契約にとって︑先に述べた成果物の帰属と同様の重要性

をもつ場合がある︒       /

   ︹8︺ 東京地裁平成一二年八月二八日判決 判例時報一七三七号四一頁

  事実

   Xは医薬品等の製造・販売・輸出入等を業とする会社︑Yは医薬品等の製造・販売を業とする会社︑YはYの一〇

  ︐○パーセント子会社で医薬品等の製造等を業とする会社である︒

c.

@      .      

   Yは新物質である﹁結晶性﹂ーカルノシン亜鉛錯体およびその製造法﹂につき特許を出願し︑これを受けてXとY

  は﹁開発および販売に関する契約﹂︵以下﹁元契約﹂という︶を締結した︒元契約において︑XはYに一億円を支払

  うほか︑特許実施料を薬価の三パーセント︑原体供給価格を薬価の一〇パーセントとする旨定められた︒その後︑前

  臨床試験をXとYが︑臨床試験をXがそれぞれ担当し︑Xが医薬品製造承認を︑Yにおいては一〇〇パーセント子会

  社であるYが原末の製造承認を得た︒XYの製造承認取得を受けて︑XとYYは︑Yが本原末を製造してXのみに継

  続的に供給すること︑YがYの右債務を代行すること︑Xは本原末をYのみから購入することを合意した︵以下﹁本

     共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四ー二︶ 二六一

(16)

      二六二

件原体供給契約﹂という︶︒本件原体供給契約において︑本原末の価格は薬価の一〇パーセント相当額︑実施料はX

が販売した本製剤につき薬価の三パーセント相当額とされ︑著しい経済情勢の変化等の場合にXY協議のうえ対価を

変更できるものとされた︒

 薬価が年々切り下げられる傾向にあったため︑YはXに対し再三契約改訂の申入れを行ったが︑Yが希望する契約

条件の合意には達せず︑結局Yは契約解除の意思表示をして供給を停止した︒そこでXがYの供給停止が債務不履行

にあたるとして損害賠償を請求するとともに︑契約上の地位の確認および注文どおりの本原末の供給を求め︵本訴請

求︶︑YがXとの間に契約関係が存在しないとの確認を求めて︵反訴請求︶争った︒

判旨  ﹁本件基本契約のような継続的供給契約において︑当事者の一方が他方に対して契約を一方的に解除するには︑信

義則上︑取引関係を継続しがたいような不信行為等のやむを得ない事情が必要であると解するのが相当である︒﹂

 ﹁右のような経緯を経て締結された本件基本契約においては︑その当時の状況を踏まえて本原末及び実施料の価格

が定められていることが明らかであり︑その趣旨に照らせば︑平成一二年三月時点での薬価の変更程度では︑未だ取

引を継続しがたい事情が発生しているとは認められない︒﹂

四︑共同研究開発契約の構造

1.過去の裁判例の整理を通じて︑網羅的とは言えないにせよ︑共同研究開発契約をめぐる紛争でどのような争点

が問題となるかが明らかになった︒同時に︑これらの争点につき法的判断をする前提としてわからなければならない

(17)

ことも︑明らかとなったように思われる︒それを整理すると以下のようになる︒

ω何をもって契約が成立したと評価できるか

②各当事者はどのような債務を負担するか

  ①各当事者はそれぞれどのような対価に対してどのような債務を負担するのか︵対価関係︶

  ②研究開発されるべき技術の範囲および程度

③追加費用の負担は当事者間でどのように分配されるか

ω共同研究開発の成果物を各当事者はどのように利用できるか

⑤製品化後の製品販売のリスクは当事者間でどのように分配されるか

 右のうち︑ωと②①は密接に関連する︒ωと⑤も密接に関連する︒また︑②①の問いに対する答えは︑共同研究開

発契約と単なる研究開発委託契約との区別を考慮に入れたものでなければならない︒       ︵18︶  従来の学説には︑これらの点の一つひとつについては手がかりを与えるものであるにせよ︑共同研究開発契約の全

体を視野に入れで個々の問題を位置づけるものはなかった︒そこで以下では︑共同研究開発契約の構造を検討し︑そ        ︵19︶ のうえで一つひとつの問題についての見通しを述べたいと思う︒

2.一一でまとめたとおり︑共同研究開発は︑当事者それぞれが技術・資金等を出し合って研究開発を行うものであ

り︑その目的は︑自社に不足する知識・技術の補完︑新規事業に要する時間の短縮︑研究開発に関するリスク・コス

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四⊥一︶ 二六三

(18)

二六四

トの分散等である︒

 これと区別されるべき研究開発委託は︑請負契約︵または委任契約︶と評価されるもので︑委託に応じて受託者が

研究開発を行い︑その対価として報酬を得るというものである︒

 一方当事者が資金を拠出し他方当事者が研究開発を行うタイプの共同研究開発と︑研究開発委託は︑一見似ている

が︑当事者の目的が異なっている︒すなわち︑研究開発委託では︑受託者は報酬を得ることを目的として委託者の委

託に応じて研究開発を行うのであり︑研究開発の成果物の利用そのものには関心がない︒これに対し︑一方当事者が

資金を拠出し他方当事者が研究開発を行うタイプの共同研究開発では︑両当事者とも︑研究開発の成果物を利用する

ことによって自社に不足する知識・技術を補完するなどしようとするのであり︑それぞれ研究開発の成果物に対して

関心がある︒

3.以上の考察を前提として︑現時点では︑以下のように結論付けておきたいと思う︒共同研究開発契約とはすな

わち︑研究開発により得られる成果物を各々または共同で利用することを目的として︑各契約当事者が一定の技術・

資金・人的資源・物的資源の拠出または研究開発活動の分担を約する契約である︒

 この概念設定は︑共同研究開発契約の構造に関する二つの理解に基づいている︒第一に︑共同研究開発は︑共同研

究開発により得られる成果物を︑契約当事者が各々または共同で利用することを目的として行われるということであ

る︒つまり各当事者は︑共同研究開発の成果物をその後の更なる研究開発に利用したり︑製品化して製品販売によっ

て収益を得たりすることを目的として行うのである︒成果物の利用という目的は共同研究開発契約にとって本質的な

ものであり︑その構造から捨象されるべきではない︒もっとも︑研究開発の成果物を利用することを目的とするといっ

(19)

ても︑ここでいう﹁目的﹂とは︑通常の意味での契約の目的とは異なる意味合いをもつ︒共同研究開発の結果︑目指  −

していた技術が完成するか否かは︑当該技術の難易度や当事者の能力等に依存し︑必ず達成できるものとは限らない︒

また製品化後の製品販売による収益も当事者の販売能力や市場動向に左右され︑不確定なものである︒このように︑

共同研究開発の﹁目的﹂である成果物の利用は︑不確実性︵リスク︶を伴うものである︒このようなリスクは︑成果

物の利用方法の合意︑開発費用の分担︑研究開発の完成義務の負担なぜを通じて各当事者に割り振られる︒つまりか

かるリスクが各契約当事者にどのように割振られるかは︑契約締結の際の当事者の合意によって定まる問題であり︑

当該契約が共同研究開発契約であることから演繹的に導かれるものではない︒

 第二に︑共同研究開発契約は︑上記成果物の利用を目的として︑各契約当事者が一定の資源の拠出や研究開発活動

の分担を約する契約だということである︒共同研究開発契約は︑研究開発委託契約のように一方が研究開発を行い他

方がこれに対し報酬を支払うというような︑通常の双務契約的な関係にあるものではない︒共同研究開発契約は︑各

当事者が必要な資源を分担して拠出し︑研究開発活動を分担して行い︵ただし一方が資金のみを提供する共同研究開

発の場合には当該当事者は研究開発活動を分担しない︶︑それにより得らるるべき成果物の利用を期待するという構

造を有するものである︒当事者の負担する債務は︑分担した資源の拠出や研究開発活動の履行である︒相手方が負担

する同様の債務と︑将来における成果物の利用の可能性とが︑これと広い意味での対価性をなす︒共同研究開発契約

の本質をこのような特殊な構造に求めるとへ共同研究開発の対象には必ずしも新規性は必要ない︒したがって︑土ハ同

研究開発契約の対象となる研究開発は︑二で紹介したOECDの定義に含まれる研究開発よりも広くてよい︒

4.共同研究開発契約を︑研究開発により得られる成果物を各々または共同で利用することを目的として︑各契約

︑ 共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四−二︶ 二六五

(20)

         ゜      二六六

当事者が一定の技術・資金・人的資源・物的資源の拠出または研究開発活動の分担を約する契約であると捉えると︑

先に掲げたωから⑤の問題について以下のような見通しをたてることができる︒

ω何をもって契約が成立したと評価できるか

 共同研究開発契約の構造をどのように理解するかは︑契約の成立の認定に大きな影響を与える︒共同研究開発契約

の構造を私見のように理解するならば︑成果物の利用を念頭においた上で︑各当事者が拠出資源や研究開発活動の分

担について合意をした時点で︑共同研究開発契約が成立したとすべきだろう︒

 したがって︑︹1︺事件の共同研究開発契約が成立しなかったとの判示には疑問がある︒本件においてXYは完成

後の製品販売から得られるべき収益の分配について合意し︑開発におけるそれぞれの担当部分を合意している︒警察

庁の仕様があるなどのため︑それぞれの分担した範囲は相当明確である︒XYはそれぞれ開発活動を行い︑相互にそ

れを認識している︒結果としてYは開発期限を過ぎても分担した開発に成功しなかったのである︒この段階に至って

もなお契約が成立しなかったとするよりは︑より直裁に︑開発された製品販売によりXYがそれぞれ収益を得るとい

う前提のもと︑XYそれぞれが拠出すべき資源と開発範囲の分担が定まったところで共同研究開発契約の成立を認め

たほうが︑当事者の認識に合致じていたのではないかと思われる︒

 これに対し︹2︺ 事件の判断は︑私見に近い考え方を採用しているものと思われる︒ただ判旨は︑XY間に﹁共

同開発の合意﹂が成立しているとしているが︑これはむしろ︑Bグループの各企業とYとの間に共同開発契約が成立

し︵その厳密な法律関係は判決に現れた事実だけからは判断できない︶︑その一環としてYがXに対し︑自己が分担

することになった試験を実施してその資料を提供する義務を負ったと理解するべきである︒

(21)

②各当事者はどのような債務を負担するか

①各当事者はそれぞれどのような対価に対してどのような債務を負担するのか︵対価関係︶

 この点についてはすでに述べたように︑それぞれ分担を約した資源の拠出や研究開発活動の履行が︑各当事者の債

務とされるべきである︒その対価は通常の対価関係にある双務契約ほど明確ではないが︵むしろ組合契約に類似する︶︑

将来における研究開発の成果物の利用の可能性と︑相手方が分担する資源拠出や研究開発活動である︒

②研究開発されるべき技術の範囲および程度

 三2でみたとおり︑これは共同研究開発契約固有の問題ではない︒共同研究開発契約の構造の特殊性に起因するの

ではなく︑債務の対象が技術であって︑その範囲および程度を明確に記述できない︵しない︶ことに起因する問題で

あり︑研究開発委託契約等にも共通する︒裁判例としてコンピューター・プログラムに関する開発委託契約を紹介し

たが︑経済実態として近時重要性を増してきていることもあり︑更なる研究が必要である︒

⑧追加費用の負担は当事者間でどのように分配されるか

 共同研究開発に要する費用の分担方法には三3に述べたような方法があるが︑いったん当事者間で分担を合意した

ものに関しては︑その費用が当初予想を上回ったとしてもその当事者が負担すべきである︒共同研究開発契約の構造

を前述のように解すると︑当該当事者が契約上引受けたリスクといえるからである︒たとえば︑一方がある技術の完

成義務を負い︑その研究開発に要する費用は当該当事者が負担するという合意があれば︑その技術の完成に予想外の

費用がかかったとしてもその費用は当該当事者が負担すべきことになるだろう︒       ︑

 しかし︑契約締結時の合意の対象になっていなかった費用が生じることとなったときは問題である︒研究開発委託

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四ー二︶ 二六七

(22)

      二六八

契約の場合であれば︑追加費用をかけてまで作業を継続するか否か︑委託者︵または委任者︶の判断に当然委ねるこ

とができる︒︹5︺事件は︑本件契約を開発委託契約であるとした上で︑Yが負担した債務の範囲を認定し︑その範

囲外の作業につき代金額の定めのない新たな請負契約が成立したとして︑Xに相当の追加開発費支払義務があると

︵20︶

する︒しかし︑共同研究開発契約においては一方当事者が当然そのような判断をする権限を有するものではなく︑最

終的には双方が新たな合意をなすよりほかはあるまい︒この問題については︑本稿で述べる共同研究開発契約の構造

からは答えを出すことができない︒

ω共同研究開発の成果物を各当事者はどのように利用できるか

 本稿の考え方によれば︑各当事者が成果物を利用するという目的は︑共同研究開発契約の本質的な要素である︒こ

れがあるために共同研究開発契約は通常の双務契約とは異なる構造を有することになり︑また単なる研究開発委託契

約と区別される︒契約成立にあたって成果物の利用方法につき詳細な合意がなされている必要はないが︑少なくとも

研究開発が成功したら各当事者とも成果物を利用することが前提とされていることが必要である︒

 成果物を当事者が利用する方法として︑特許権等を共有とする︑一方が特許権等を取得し他方にライセンスする︑

第三者にライセンスする︑製品化して製品販売により収益を得る︑といったものが考えられることはすでに述べた︒

 特許権や著作権等が問題となる場合︑その帰属は︑原則として知的財産法上のルールに従うものと解してよいもの       ︵21︶ と思われる︒︹6︺事件でも︑︹7︺事件でも正面から知的財産法の解釈が問題とされている︒

 製品化後の製品販売の収益を分け合う場合には︑特許権などのように実定法上のルールがあるわけではないから︑

個々の契約の解釈によることになるが︑これまで述べてきた共同研究開発契約の構造から︑契約締結時を基準に判断

(23)

される成果物の利用の可能性と各当事者が負担する債務が︑バランスが取れているかどうかを︑解釈の際の基準とす

るべきである︒

⑤製品化後の製品販売のリスクは当事者間でどのように分配ざれるか      .

、、 サ・花後の製︒叩販売は︑研究開発により得られる結果の利用形態のひとつであり︑成果物の利用の問題と合わせて

考える必要がある︒先に述べたとおり︑個々の契約解釈に委ねられる問題である︒

  ︹1︺事件や︹2︺事件のように製品販売につき合意がある場合は︑合意の時点でリズクを配分したものといえ︑

たとえ製品販売が思惑通りに収益を上げなかったとしても︑覆されるべきではない︒︹8︺事件では︑.共同研究開発

が終了し両当事者がそれぞれ製造承認を取得した段階で︑問題となった供給契約が締結されているので︑正確には︑

共同研究開発契約の解釈の問題ではない︒しかし︑共同研究開発契約の当初からこのような製品供給のA呈思があった

場合だったとしても︵判決に表れた事実にはそのような痕跡がないではないが︶︑結論は支持される︒      ︐

       

5.最後に本稿で述べたことをまとめておこう︒

 本稿の考え方によれば︑共同研究開発契約とは︑研究開発により得られる成果物を各々または共同で利用すること

を目的として︑各契約当事者が一定の技術・資金・人的資源・物的資源の拠出または研究開発活動の分担を約する契

約である︒

 共同研究開発契約は通常の意味における双務契約ではない︒成果物の利用という目的は︑不確実性を伴うものでは

あるが︑共同研究開発契約にとって本質的な要素である︒各当事者の負担する債務は︑自己が分担する資源の拠出や

   共同研究開発契約についての一試論      ︵都法四十四⊥一︶ 二六九

(24)

      二七〇

研究開発活動の履行であり︑将来における成果物の利用の可能性とともに広い意味の対価性をなし︑契約解釈におけ

る基準となる︒

 共同研究開発契約は︑将来における成果物の利用を念頭においた上で︑各当事者の分担︵債務︶が定まった時点で

成立する︒共同研究開発契約に伴うリスクは契約締結時に当事者に配分され︑原則としてその後の事情の変更の影響

を受けない︒

6.いずれにしても︑共同研究開発契約については今までほとんど研究がなされておらず︑本稿の主張も材料が少

ない中での試論であるにすぎない︒皆様からのご指導ご鞭燵をお願いする次第である︒

 なお︑すべてではないにせよ共同研究開発契約の一部には民法の組合契約の規定の適用可能性が問題となるはずだ

が︑本稿ではそこまで検討することはできなかった︒また︑本稿では契約当事者として主として営利企業を念頭にお

いているが︑大学等の研究機関が他の研究機関または営利企業と共同研究開発を行う場合にも本稿の考え方が及ぶか

については十分検討できなかった︵大学等が︑常に︑将来における成果物の利用を目的として共同研究開発を行うも

のかどうか不明である︶︒今後の課題としたい︒

︵1︶ ○団OP㌔︑e8&鯉§§ミ㌔き6黙魯さ︑c︒ミ9㌃§知DS︑合§亀㎏砦ミ㏄S§言NOOgNo∀ミ§幹︵︑肉ミ句ロミ↑

 ﹂ミ§§N︑︶晦8ふc・村↓↓詰フラスカーティ・マニュアルは︑もともとOECD加盟国間で比較可能な統計をとるために作

 成されたもので︑初版は一九六〇年代に公表されている︒本マニュアルによれば︑研究開発とその他の活動を区別する基準

  は︑新規性の有無︑および科学的・技術的不確実性に解決を与えるものであるか否かである︵三四頁︶︒また︑研究開発には

 本文に述べたような三類型があるが︑これらは実際上は連続的なものであり必ずしも明確に分類できるものではない︵七九

 頁︶︒

(25)

︵2︶ 中島憲三﹃共同研究.開発の契約と実務﹄︵民事法研究会・一九九九年︶一頁︑公正取引委員会﹁共同研究開発に関する

  独占禁止法上の指針﹂︵平成五年四月二〇日︶︵以下﹁指針﹂という︶︒      

   なお本文①の場合であっても︑作業そのものを共同で行う場合に限られるわけではない︒得意分野に応じて一方当事者が

  Aという研究開発を行い︑他方当事者がBという研究開発を行い︑AとBがそれぞれ目標となる技術Cに寄与するような場

  合︑研究開発活動自体は可分である︒たとえば︑︹1︺事件参照︒

︵3︶ 公正取引委員会事務総局﹁業務提携と企業間競争に関する実態調査報告書﹂︵平成一四年二月︶︵以下﹁本調査﹂という︶︒

  本調査は︑東証一部に上場している製造業︑卸・小売業を対象に︑・アンケート調査およびヒアリングを行ったものである︒

︵4︶ 本文に挙げた八類型の内容は以下のようになっている︒  ︐

   生産提携::生産業務を共同化するもののほか︑生産品種の分担︑製品の相互OEM供給等

   販売提携::販売業務を共同化するもののほか︑販売地域︑販売商品の相互補完や︑宣伝︑広告の制作︑景品提供等の販

         売促進活動の共同実施等

   購入提携・:・物品︑資材の共同購入等

   物流提携::物流施設の共同利用︑工場から販売先への共同配送等

   研究開発提携::基礎研究︑応用研究または開発研究活動の共同実施

   技術提携⁝.クロスライセンス︵発明︑ノウハウ等の技術の複数の所有者が︑それぞれの所有する技術について相互に許

         諾するもの︶︑パテント・プール︵複数の技術の所有者が︑それぞれ所有する技術又は技術の許諾権を一定の

        組織体に集中し︑当該組織体を通じて参加企業が必要な技術の許諾を受けるもの︶等︑参加企業がそれぞれ

        所有している技術を参加企業間で相互に供与するもの

   標準化提携:商品や部品等の種類︑︐品質︑規格等について︑参加企業間で標準化するもの

   包括提携..°..生産︑︑販売等の個別の業務に限定せず︑提携対象事業の業務全般において幅広く提携関係にあるもの︵一部

  一     の業務についての提携であっても︑残る業務についての提携も視野に入れており︑将来的には業務全般にお

         ける幅広い提携に発展する可能性が強いものを含む︒︶

︵5︶ 指針や中島.前掲書は述べないが︑拠出される資源の中に︑技術者等の人的資源︑工場・機械等の物的資源をも含めるべ

  きであろう︒これらは人件費や施設設置・運営費として最終的には﹁資金﹂の中に含まれるとも考えられるが︑特別な能力

共同研究開発契約についての一試論       ︵都法四十四ー二︶ 二七一

(26)

二七二

  がある技術者や施設等を一方当事者が有しているがゆえに︑関係当事者が研究開発提携関係に入る場合には︑﹁技術﹂と同

  様の重要性があるといえるからである︒

︵6︶ 本調査では用語の定義が明確ではなく︑厳密には︑本調査における﹁契約﹂には本稿が扱う﹁共同研究開発契約﹂以外の

  ものが含まれている可能性がある︒

︵7︶ 本稿で判例集未搭載となっているものは︑︵株︶TKCが提供する判例データベース﹁﹂EX/DBインターネット﹂から

  採取したものである︒

︵8︶ コンピューター・ゲーム業界では正式に契約書を交わす前︑あるいは契約が成立したといえる前から︑開発に着手するこ   とがあるようである︒後掲︹7︺事件では︑XY間に︑①XYが正式契約締結の意思を有することを確認する︑②Yが契約

  締結に先立ち開発を開始する︑③Yが企画書を提出してから一ヶ月以内にXが正式回答しなければ︑Yは覚書を解除してそ

  の時点までに要した開発費用のうち妥当な金額をXに請求でき︑中間成果物はYに帰属する︑とする覚書がある︒

   また︑共同研究開発契約ではなくコンピューター・ゲームのキャラクター・デザイン請負契約に関する事案であるが︑

  ︹i︺名古屋高裁平成一三年=月二八日判決︵平成一〇年︵ネ︶七六六号・判例集未搭載︶参照︒この事案では︑契約成

  立と評価できる明確な区切りがないまま作業が進行していたが︑裁判所は﹁打ち入りし︵アニメーション業界において作業

  を正式に始める前に行われる会合︶が行われたことなどをもとに契約の成立を認定した︒

︵9︶ 本件に関する評釈として︑藤田寿夫・知財管理五〇巻六号八二七頁︵二〇〇〇年︶︑飯島紀昭・判例評論四九三号三一頁

  ︵二〇〇〇年︶がある︒

︵10︶ 本件に関する評釈として︑栗田哲男・判例タイムズ七八九号五八頁︵一九九二年︶がある︒原審に関する評釈等として︑

  潮見佳男・判例評論三七一号二二頁︵一九九〇年︶︑鎌田薫ほか・﹂&T一巻三号四三頁︵一九八九年︶がある︒

︵11︶ 近山英哉﹁プロジェクトマネジメントと契約上のリスクヘッジについてー外部委託先との契約の留意点についてー﹂プロ

  ジェクトマネジメント学会誌四巻二号一五頁︵二〇〇二年︶︒同様の指摘をするものとして︑寺本振透﹁ソフトウェアのア

  ウトソーシング﹂上 NBL四九六号八頁︵一九九二年︶︒

︵12︶ 共同研究開発契約と単なる研究開発委託契約の区別については後述する︒

︵13︶ ここに属する裁判例はコンピューター・プログラムの開発に関するものが多い︒本文で掲げたもののほか︑︹且︺東京地

  裁平成三年二月二二日判決判例タイムズ七七〇号二一八頁︵結果的に開発不能に陥ったコンピューター・プログラムの開発

(27)

         委託契約に関し︑請負人の完成義務が認定され︑請負人の開発費用の請求が認められなかった事例︶︒︹⁝皿︺東京地裁平成二

         年三月三〇日判決判例時報ニニ七二号一〇一頁︵コンピューター・プログラムの改造委託契約で︑作業が完成に至らなかっ

         た原因は請負人の能力不足にあるとして︑請負人の債務不履行が認められた事例︶︒

      なお︑前掲︹i︺事件では︑コンピューター・ゲームのキャラクター・デザインの請負人に債務不履行があるとされたが︑

         一部の損害につき︑業界の取引慣行では︑見込みがないとして企画が打ち切られた場合にはそれまでに各当事者が出掛した

         費用はそれぞれの負担となるとして︑発注者の損倍賠償請求が認められなかった︒

       ︵14︶ 本件においては︑原告側・被告側協力の上︑裁判所外で大規模な検収実験を行うという異例の手続がとられた︒

       ︵15︶ 医薬品を対象とした共同研究開発の成果の利用方法の例について︑中島・前掲書・八七頁以下を参照︒

       ︵16︶ 本文に掲げたもののほか︑︹°W︺東京高裁平成一四年三月二九日判決︵平成=二年︵ネ︶二八七六号・判例集未搭載︒原

         審は東京地裁平成=二年四月二六日判決・平成=年︵ワ︶一〇三〇六号・判例集未搭載︶は︑XYが共同である発明をな

         して特許出願したが︑のちにその発明を改良したものをYが単独で特許出願し︑Xが特許を受ける権利の共有持分の確認を

         求めた事案である︒判決は︑Yが単独で特許出願した発明が︑XYの共同発明にあたらないとしてXの請求を退けた︒

       ︵17︶ 本件に関する評釈として︑布井要太郎・知財管理四七巻四号五三九頁︵一九九七年︶︑牧野利秋・著作権判例百選︵第三

         版︶二〇八頁︵二〇〇一年︶がある︒本件においては︑著作権の確認請求︑複製・翻案の差止請求のほか︑損害賠償請求︑

         Yが製造する装置の領布・展示の差止請求︑廃棄請求︑謝罪広告など︑多くの争点がある︒

       ︵18︶ 注で紹介した評釈等を参照︒

       ︵19︶ このような問題設定に対しては︑果たして﹁共同研究開発契約﹂概念を立てる必要性があるのかという批判がありうるも

         のと思われる︒これはさらに分解すると︑第一に︑共同研究開発契約にはひとつの概念を形成するほどの十分な独自性がな

         いのではないかという批判であり︑第二に︑当事者は自己の望む内容の契約を締結すればよく︑あとは個々の契約解釈の問

         題にすぎないのではないかという批判である︒

      第一の批判に対しては︑後述のように共同研究開発契約には構造上の特殊性があり︑°それゆえにひとつの概念を形成する .        意義があると述べておきたい︒

      第二の批判に対しては︑以下のように答えておきたい︒確かに︑契約に自己が望む内容を盛り込んでおけば紛争になる恐

         れは少ないし︑仮に紛争となったとしても自己に有利に解決を図ることができる︒また︑個々の事案の紛争解決は具体的な

共同研究開発契約についての一試論       .  ︵都法四十四ー二︶ 二七三

(28)

二七四

  契約に即してなされるべきであるのは当然である︒しかし︑既に見てきた裁判例のうちいくつかが示しているように︑当事

  者が必要十分に明確な契約を締結する能力に欠ける場合もあるし︑また取引にあたり明確な合意をなさない業界の慣行があ

  る場合もある︒そのような場合であっても︑いったん当事者間に紛争が生じて解決が求められれば︑何らかの判断を行わな

  ければならず︑その際︑一定の類型性と独自性を有する取引については︑契約法の︐一般論を一足飛びに適用するのが必ずし

  も妥当とはいえないと思われるのである︒

︵20︶ ︹5︺事件における契約は︑たしかに開発委託契約に非常に近い類型のものではあるが︑本稿の考え方によれば共同研究

  開発契約と評価できるものと思われる︒

︵21︶ ︹6︺事件は著作権の帰属をめぐって争点が整理されているため︑厳密には︑認定された事実だけからは本稿でいう共同

  研究開発契約の事案かどうかはわからない︒

*本稿は︑︵財︶医療科学研究所の助成を受けた研究成果の一部である︒

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