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論説 ≪
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二〇一七年の民法(債権関係)改正を踏まえて─ 日本民法における除斥期間の将来(一)
≫新井 敦志
一 はじめに二 改正民法における除斥期間の観察 ⑴除斥期間に関する一般規定について ⑵具体的な期間制限について(以上、本号)三 日本民法における除斥期間の将来 ⑴改正民法における除斥期間? ⑵消滅時効制度との関係
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期間制限における一般的な規制と特別な規制?四 おわりに一 はじめに
⑴ 問題関心既に知られているように、日本民法典の起草・制定当時から、消滅時効とは異なる期間制限としての除斥期間という概念は認識されていた。すなわち、起草者の説明によれば、「権利ノ特ニ速ニ行使セラレンコトヲ欲シテ」除斥期間を定めたものであり、この期間に中断や停止等を認めその期間が伸張し得ることになるとその立法目的を実現できなくなるため、この期間には時効の規定を適用できないものとしたということである。そして、そのうえで、ある期間が時効の趣旨である場合には条文に「時効」と明記し、「時効」と明記していない場合は除斥期間の趣旨であるとの説明がなされており、制定当時より、条文上、消滅時効と除斥期間(または、予定期間、失権期間)の区別はなされていたことになる )1
(。しかし、実際に、民法典のなかでは「除斥期間」という用語は使われていないこと、また、除斥期間に関する起草者の説明および消滅時効との区別の根拠が必ずしも明らかとはいえないこと、さらに、民法典制定後において、学説・判例により、除斥期間に関して、起草者の考えとは異なるものと考えられる解釈論(理論)が展開されたことなどから、改正前民法における除斥期間に関する議論は分かりにくいものになっていた。このような議論の状況にあった日本民法における除斥期間であるが、一八九六(明治二九)年の制定から一二一年ぶりに行われた二〇一七(平成二九)年の民法(債権関係)の改正では、除斥期間とも関係の深い消滅時効に関する規定や、改正前民法において一般に除斥期間を定めたものと理解されていた規定についてもさまざまな修正が
3 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
施された。そこで、本稿では、従来の除斥期間についての議論に関係するものと考えられる規定を中心に、この二〇一七
(平成二九)年改正の状況を観察・整理し、日本における除斥期間についての考察を進めたいと思う。
⑵ 検討の順序本稿では、まず、改正前民法における除斥期間に関する判例・学説の議論の状況を前提として、改正前民法において除斥期間に関する議論がなされていた期間制限、具体的には、①条文上、「時効」と明記されていない比較的短期の期間制限、②いわゆる「二重期間」の長期期間制限、③形成権についての期間制限について、改正民法において、それがどのように修正されたのか、されなかったのか、また、修正された部分については、どのような理由に基づくどのような修正がなされたのかを明らかにしたい(二)。そのうえで、改正民法において消滅時効とされたものと消滅時効とは異なる期間制限とされたものについての整理を行い(三-⑴)、それを踏まえて、消滅時効制度との関係にも留意しながら、日本民法における除斥期間の将来についての考察を行ってみたいと思う(三-⑵)。なお、以上の整理・考察を行うにあたっては、対象となる権利関係の特性と権利行使の期間制限との関係ということに留意したいと考えている。
二 改正民法における除斥期間の観察
⑴ 除斥期間に関する一般規定について前述したように、日本民法典の制定当時から、消滅時効とは異なる期間制限としての除斥期間という概念は認識されていた。そして、起草者は、「本法ニ於テハ時効ハ明カニ其時効ナルコトヲ示シ他ノ法定期間ハ皆予定期間ニシテ之ニ時効ノ規定ヲ適用スヘカラサルモノトセリ」と説明しており )2
(、少なくとも起草者においては、条文上も、両者の区別はなされていたことになる。しかし、条文のなかでは、除斥期間あるいは予定期間という用語は使われておらず、したがってまた、その概念内容および規制の内容については、条文上は明らかにされていなかった。また、中断や停止が認められない期間という起草者の説明などから、学説においては、除斥期間についての客観的画一的処理の要請ないし公益性を強調する見解もあった )3
(。このような改正前民法の状況のなかでなされた今般の改正においても、条文上、除斥期間という用語は使われておらず、また、その概念内容および規制の内容についても条文で明らかにされてはいない。その意味では、除斥期間に関する条文上の状況は改正前と基本的には変わっていないということができる )4
(。しかし、今般の改正は、改正前民法における除斥期間に関する従来の議論を十分に踏まえたうえでなされているということができるのであり、したがって、除斥期間に関する一般的な規定は置かれていないが、個別の期間について、消滅時効とするのか、除斥期間などの消滅時効以外の期間制限とするのかという点については、十分な検討に基づく判断がなされているものと考えることができる。
5 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
⑵ 具体的な期間制限について⒜ 条文上、「時効」と明記されていない比較的短期の期間制限先に見た起草者の区別の基準に従うならば、改正前民法五六六条三項、六〇〇条、六三七条一項等の一年の期間制限は、起草・立法段階においては、除斥期間の趣旨で定められたものということになる )5
(。そして、これらの期間を除斥期間とした理由(目的)については、先に見た起草者の説明 )(
(がそのまま当てはまることになるはずである。改正前民法のこれらの規定について、判例は、除斥期間と解したうえで )(
(、この期間内に裁判外で権利を行使すればその権利は保存されるとする見解を示していた )(
(。一方、学説においては、短期の消滅時効と解すべきとする見解と、除斥期間と解する見解の対立が見られた。また、除斥期間と解する見解の中でも、この期間内に裁判外での権利行使があれば権利は保存されるとする見解と、この期間内に訴えの提起まですることが必要であるとする見解とが対立していた )(
(。このような議論の状況にあった「条文上、『時効』と明記されていない比較的短期の期間制限」の問題についての改正民法の対応は、次のようなものとなった。ア 改正民法五六六条について前述したように、改正前民法五六六条三項について、判例は、これを除斥期間とし、「売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はない」としたうえで、より具体的に、「右損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。」としていたが )(1
(、このような判例の見解に対しては、買主にここまでの負担を課すことは重過ぎ
るのではないかとの指摘があった )((
(。また、瑕疵担保を理由とする権利に関しては、改正前民法五六六条三項の一年の期間制限に加えて、一般の債権と同様に、目的物の引渡しから一〇年の消滅時効の規定(改正前一六七条一項)の適用があるとするのが判例であった )(1
(。なお、今般の改正作業のなかでは、売買目的物の契約不適合の場合における買主の権利に関する期間制限については、短期期間制限を廃止し債権の消滅時効に関する一般原則に委ねるべきとする意見があった )(1
(。改正民法では、まず、引き渡された目的物が数量に関して契約内容に適合しない場合および移転した権利が契約内容に適合しない場合については、外見上、比較的容易に判別できるとの理由から特別な短期の期間制限の対象から除外し、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約内容に適合しない場合に限って特別の期間制限を設定した )(1
(。改正民法における目的物の種類・品質についての売主の契約不適合責任に基づく買主の権利の期間制限に関する前提認識は、①目的物の引渡しによって履行は完了したという売主の期待を保護する必要があること、②物に関する不適合の有無はその物の使用や時間の経過による劣化等によって比較的短期間で判断が困難となるため、短期の期間制限によって早期に法律関係を安定化させる必要があることなどである )(1
(。このような基本的な考え方および前提認識に基づき、また、改正前民法の規定に関する前記の指摘なども踏まえて、改正民法では、買主の負担軽減の観点から、「買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」とした(改正五六六条本文) )(1
(。そして、この「通知」については、引き渡した物の種類・品質に関する欠陥等は時の経過とともに不分明となるため、不適合を知った買主から早期にその事実を
( 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
売主に知らせ、売主にその存在を認識し把握する機会を与えることにあるので、細目にわたるまでの必要はないが、不適合の内容を把握することが可能な程度に、不適合の種類・範囲を伝えることが想定されている )(1
(。基本的には、改正前民法下における判例の考え方に従いつつ、買主から売主に対する通知の要件を緩和することにより、従来の判例の立場よりも買主の権利保護を容易にしたものといえる )(1
(。また、売主が引渡し時に引き渡した目的物の契約不適合を知りまたは重大な過失によって知らなかったときは、そのような売主を保護すべき理由はないことから、同条の但し書きで、この一年の期間制限の適用はない旨を定めている )(1
(。なお、改正民法五六六条における以上のような規制は、これらの権利関係について消滅時効の一般原則の適用を排除するものではなく、期間内の通知によって保存された買主の権利は債権に関する消滅時効の一般原則に従うものとされている。すなわち、引渡し時から一〇年の消滅時効の適用を受け、また、契約不適合を買主が知った時から一年以内に売主に通知をした場合には、買主が契約不適合を知った時から五年の消滅時効の適用を受けることになる(改正一六六条一項) )11
(。イ 改正民法六〇〇条、六二二条について前述したように、使用貸借における借主の用法違反による貸主の損害賠償請求権、および、借主が支出した費用の償還請求権の期間制限を定めた改正前民法六〇〇条の一年の期間(起算点は、貸主が返還を受けた時)について、判例は、これを除斥期間とし、この期間内に裁判外で権利を行使すればその権利は保存されるとする立場であった )1(
(。改正民法では、改正前民法六〇〇条について特に修正が加えられることはなく )11
(、したがって、従来の判例の立場が認められたものと考えられる。
また、改正前民法において、借主の用法違反による貸主の損害賠償請求権については、同条が定める除斥期間のほか、借主が用法違反をした時から起算される一〇年の消滅時効(改正前一六七条一項)にも服すると解されていたが、これに関しては、使用貸借期間が長期にわたるため、借主が用法違反をした時から一〇年以上を経過してもなお使用貸借が存続するなどした場合には、貸主が目的物の状況を把握できないうちに消滅時効が完成してしまい、目的物の返還を受けて損害賠償請求をしようとしても、請求権自体が時効により消滅してしまうという不合理な事態が生じかねないとの指摘があった。そこで、改正民法は、借主の用法違反による貸主の損害賠償請求権については、貸主が目的物の返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、消滅時効の完成を猶予する旨の規定を新設した(改正六〇〇条二項) )11
(。なお、改正前民法におけるのと同様、改正六〇〇条の規定は、賃貸借について準用される(改正六二二条) )11
(。ウ 改正民法六三七条について改正前民法では、仕事の目的物に瑕疵がある場合の請負人の担保責任の期間制限として、仕事の目的物の引渡し時(仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、仕事の終了時)から一年以内に、瑕疵の修補または損害賠償の請求および契約の解除をしなければならないとされていたが(改正前六三七条一項)、この期間制限についても、判例は、その期間内に裁判外の行使をすれば権利は保存されるとしていた )11
(。今般の改正作業のなかでは、この規定に関して、この期間制限は履行済みと考えている請負人の期待保護などの趣旨で設けられたものだが、注文者が瑕疵を知らない場合であっても、引渡し時または仕事の終了時から一年以内に、その権利行使までしなければならないとするのは注文者の負担が過重であるとの指摘があった。また、請負人の担保責任の存続期間については、消滅時効の一般原則に委ねれば足り、その特則を設ける必要はないとする意見
( 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
があった )11
(。改正民法では、注文者の負担を軽減する観点から、注文者は目的物の種類又は品質に関して仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しなければ、その権利(履行追完の請求、報酬減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除)を行使できないとした(改正六三七条一項) )11
(。また、売買の場合と同様、この期間制限とは別に消滅時効の規定(改正一六六条一項)の適用があるとされている )11
(。なお、売買の場合と同様、請負人が引渡し時または仕事の終了時に仕事の目的物が契約内容に適合しないことを知り、または重大な過失により知らなかった場合は、そのような請負人を保護するべき理由がないため、この期間制限は適用されないとした(改正六三七条二項) )11
(。このように、改正前民法における請負人の担保責任について、売主の契約不適合責任に合わせるかたちで請負人の契約不適合責任と構成された改正民法では、その期間制限も売主の契約不適合責任の期間制限の内容と実質的に揃えられたということができる )11
(。その他に、改正前民法では、土地の工作物の請負に関して、請負人の担保責任の存続期間の特則が置かれていたが(改正前六三八条。引渡し後五年または一〇年。さらにその特則として、土地工作物が瑕疵によって滅失または損傷した場合には、その滅失・損傷時から一年。)、改正民法においては、注文者が契約不適合の事実を知らないままに担保責任の存続期間が終了する事態は生じないため、土地工作物の場合について特に存続期間を長くする必要性は乏しいとされ、この規定は削除された )1(
(。また、改正前民法では、請負人の担保責任の存続期間を消滅時効の期間内に限り契約で伸張できる旨の規定が置かれていたが(改正前六三九条)、このような規定が置かれていない売主の瑕疵担保責任や使用貸借・賃貸借の費用償還請求権などについても同様に解されていたこと、また、存続期間の伸張の範囲
を消滅時効の期間内に限る旨の規定がなくても、別途、消滅時効の規定が適用されることで、存続期間が長期にわたることに伴う紛争を防止することはできること等の考慮に基づき、この規定も削除された )11
(。エ 改正民法六六四条の二について改正前民法では、寄託物の一部滅失または損傷があった場合の寄託者の損害賠償請求権や受寄者の費用償還請求権についての行使期間制限の規定はなかったが、これらの請求権については、一部滅失等が受寄者の保管中に生じたものか否か等についての争いを生じることがあるため、その行使期間制限を定める必要性が考えられた )11
(。そこで、改正民法では、利益状況が類似する使用貸借および賃貸借の規定(改正六〇〇条、六二二条)を参考にして )11
(、寄託物の一部滅失等による寄託者の損害賠償および受寄者の費用償還は、寄託者が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならないとする規定を新設した(改正六六四条の二第一項) )11
(。なお、寄託物の一部滅失の場合に限っているのは、全部滅失の場合には寄託物の返還自体が不能であり、受寄者の保管中に滅失したか否かについて争いが生ずる蓋然性が低いことが考慮されたものである )11
(。また、寄託物の一部滅失等による寄託者の損害賠償請求権についても消滅時効の規定が適用されるが、寄託の期間が長期間にわたる場合には、寄託者が寄託物の状況を把握できないうちに消滅時効が完成してしまい、寄託物の返還を受けて損害賠償を請求しようとしても請求権自体が時効消滅してしまうという不合理が生じかねないため、この損害賠償請求権の消滅時効については、寄託者が返還を受けた時から一年を経過するまでは時効の完成を猶予する旨の規定が置かれた(改正六六四条の二第二項) )11
(。
⒝ いわゆる「二重期間」の長期期間制限
11 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
ア 改正民法四二六条後段についてまず、詐害行為取消権については、その取消しを「裁判所に請求することができる。」と規定されているが(改 正前および改正四二四条一項)、債権者は、自己の名において、訴え(反訴を含む)を提起してこれを行使しなければならず、抗弁の方法によることは許されないとされる )11
(。そして、その理由としては、詐害行為取消権は、他人が行った法律行為を取り消すという重大な効果をもたらし、第三者の利害に大きな影響を及ぼすため、裁判所に要件充足の有無を判断させる必要があること )11
(、また、何が責任財産に戻ったのかを他の債権者に公示する必要があることなどが挙げられている )11
(。なお、訴えによってしか行使し得ないとされることについては、フランス法から旧民法に至る債権者取消権についての訴権的構成を受け継いだものであるとする見解もある )1(
(。この詐害行為取消権の期間制限を定める改正前民法四二六条については、条文の文言からも明らかなように、起草者は、その短期二年と長期二〇年のどちらについても消滅時効期間とする趣旨であった )11
(。この期間制限に関する改正前の判例は、短期二年についてはこれを消滅時効とし )11
(、長期二〇年の期間についてこれを除斥期間とするものはなかった )11
(。一方、学説における通説的見解は、短期の期間については消滅時効だが、長期の期間については、それが行為の時から起算され、中断がありえないことなどを理由として、除斥期間と解すべきであるとするものだった )11
(。このような議論の状況にあった改正前民法四二六条の期間制限については、中間試案の段階で、詐害行為取消権が民法一二〇条以下の取消権等の実体法的な形成権とは異なる点に着目し、二年の行使期間を、時効の中断等の時効障害に関する規定が適用されない除斥期間ないし出訴期間とする提案がなされていた )11
(。また、長期二〇年の期間制限については、これを除斥期間としたうえで、詐害行為取消権を行使するには詐害行為時から詐害行為取消権の
行使時(詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時)まで債務者の無資力状態が継続することを要するとされており、二〇年もの長期間にわたり債務者の行為や財産状態を放置したまま推移させた債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は乏しいとの理由から、一〇年に短縮する提案がなされていた )11
(。以上のような議論を経て、改正民法では、詐害行為取消権は、債務者の財産管理に対する介入であり、その行使は例外的なものであるのに、その期間制限を消滅時効期間だとすると、時効完成猶予や更新が可能となり、法律関係が早期に安定しない弊害を生ずるとの理由に基づき、長期の期間を一〇年に短縮したうえで、短期の期間と長期の期間ともに出訴期間とした )11
(。なお、この改正に伴い、民事再生法(改正一三九条)、会社更生法(改正九八条)および破産法(改正一七六条)上の否認権の行使期間の長期もそれぞれ一〇年に短縮された )11
(。なお、短期の期間の起算点について、改正前の規定では、「債権者が取消しの原因を知った時」とされていたが、判例に従い )11
(、「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」とし、起算点の明確化が図られた )1(
(。イ 改正民法七二四条について起草者の説明によれば、改正前民法七二四条後段の二〇年の期間は、「時効」という趣旨で定められたものであった )11
(。学説は、当初、この期間を時効と解していたが、その後、被害者の主観的認識に基づく起算点をもつ前段の三年の期間に対して、後段の長期二〇年の期間は、不法行為をめぐる権利関係の速やかな安定化という公益的な観点から、この権利関係を不法行為時から一定期間の経過後に画一的・絶対的に処理することを目的とするものであり、中断や援用などの時効に関するルールの適用を受けない除斥期間と解すべきとする見解が登場し、この期間を消滅
13 日本民法における除斥期間の将来(一)(新井敦志)
時効とする見解と対立する状況となった )11
(。一方、判例は、この二〇年の期間について、当初は消滅時効としていたが、その後、「被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当である」として、これを除斥期間とする立場を採るに至った )11
(。この期間を除斥期間と解する立場に対しては、それにより時効の中断や停止の規定が適用できなくなるため、期間経過による権利消滅を阻止できず、また、期間経過の主張に対して信義則違反や権利濫用に当たるとの理由による処理ができなくなることから、加害者に対する損害賠償請求を長期間にわたってしなかったことについて、被害者の側に真に止むを得ない事情があると認められる場合においても、被害者救済を図ることができないおそれがあるとの指摘があった )11
(。また、この期間を除斥期間とする判例の立場からも、時効の停止に関する改正前民法一五八条や一六〇条の法意を理由として、機械的・画一的な権利消滅の効果を制限することを認めるものが出ていた )11
(。このような議論の状況にあった二〇年の期間制限について、改正民法は、これを除斥期間ではなく消滅時効期間であると明らかにすることにより、この問題に対する立法的な解決を図った(改正七二四条) )11
(。なお、生命・身体という法益の重要性を考慮して、生命・身体侵害による損害賠償請求権については、その消滅時効期間を合理的な範囲内で長期化することとし、これが債務不履行に基づく場合には権利を行使することができる時から一〇年という時効期間を二〇年(改正一六七条)、不法行為に基づく場合には損害及び加害者を知った時から三年という時効期間を五年とした(改正七二四条の二) )11
(。
⒞ 形成権についての期間制限一般に形成権の一種とされる法律行為の取消権についての改正前民法一二六条の期間制限については、条文の文言から明らかなように、起草者は、これを消滅時効期間とする趣旨であった )11
(。また、改正前民法下の判例においては、取消権をはじめとする形成権の期間制限について、これを除斥期間と解すべきとする立場は示されていなかった。例えば、解除権について、判例は、「その行使により当事者間の契約関係の解消という法律効果を発生せしめる形成権であるから、その消滅時効については民法一六七条一項が適用」されるとする )11
(。また、判例は、形成権に関する二重期間の短期についてもこれを消滅時効としていた )1(
(。これに対して、改正前民法下における学説では、一方的な意思表示だけで権利変動を生じさせることのできる形成権という権利の性質、および、そのような権利の性質に基づく不安定な法的状態を長期化させない考慮の必要性から、取消権や解除権などの期間制限についてはこれを除斥期間と解すべきとする見解が多かった )11
(。このような議論の状況にあった形成権の期間制限の問題について、今般の民法の改正作業における当初の段階では、消滅時効とは異なる期間制限を定める方向での検討が提案されていたが )11
(、結局、そのような方向での議論が詰められ、条文化されることはなかった )11
(。なお、改正前民法一二六条については、前述した二重期間の長期期間の問題とも重なってくるが、今般の改正においては、同条が修正されることもなかった )11
(。
(
司法法制局調査部監修『日本近代立法資料叢書 Ausschlussfristdélai préfixpræclusive Befristung()、予定期間()、失権期間()が同義語として並列されている。法務大臣官房 () 梅謙次郎『訂正増補・民法要義・巻之一〔明治四四年版復刻版〕』(有斐閣、一九八四年)三七〇頁では、除斥期間
(・法典調査会・民法議事速記録一』(商事法務研究会、一九八三年)四〇九頁以